JP2006221142A - 光学素子、レンズ鏡筒、撮像装置及び電子機器 - Google Patents

光学素子、レンズ鏡筒、撮像装置及び電子機器 Download PDF

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Abstract

【課題】帯電防止効果と多層光学効果を併せ持ち、接地処理が不要な光学素子を提案すること。
【解決手段】透明基体2と、該透明基体2の表面に成膜された多層構造の誘電体膜3と、多層構造の誘電体膜3の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜4とから構成される多層膜から光学素子を形成する。このとき、透明導電性薄膜4を多層構造の誘電体膜3の最外層に形成し、その膜厚を5〜20nmとする。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えばカメラレンズや光学フィルタ等に適用して好適な光学素子、その光学素子を保持するレンズ鏡筒、光学素子を搭載する撮像装置及び電子機器に関する。
従来、カメラに用いられるレンズや光学フィルタ、CCD(Charge Coupled Devices)撮像素子等において、その表面に付着するゴミや埃などは実際に画として出力されることがあり、製品の製造工程において歩留まりを悪化させる要因として大きな割合を占めている。そのため、ゴミや埃の付着を防止することは歩留まりを向上させる上で大きな課題となっている。
この課題に対する対策としては、部品を超音波洗浄した後、ゴミや埃を十分排除したクリーンルーム内で各部品を組み立てる方法が一般的であった。しかし、そのために超音波洗浄機及びクリーンルームを準備することは多大なコストがかかり、製造コストの増大、ひいては製品のコストが高くなってしまうという問題があった。
そこで、超音波洗浄機及びクリーンルームを必要としない方法として、レンズ等の表面に反射防止としての機能を持たせたまま帯電防止の効果を持たせることにより、静電気に起因するゴミや埃の付着を防止する方法が考えられている。このような反射防止の効果を持たせたまま帯電防止の効果を併せ持たせる手法については、透明導電性薄膜を使った数多くの報告がなされている。例えば、各種コンピュータのディスプレイや、テレビジョン受像機のブラウン管などの表面パネルに発生する静電気を除去することを目的とした透明誘電体膜及び透明導電性薄膜からなる積層皮膜が、特許文献1に提案されている。
特開平2−94296号公報
しかしながら、上述した技術は、いずれも透明導電性薄膜を接地することによって帯電防止の効果を得ることを特徴としているため、専用の電極を設け、接地処理する必要があった。そのため、光学素子例えばカメラのレンズに上記構成を適用しようとした場合、焦点を調整するための移動部分を考慮して配線し接地する必要があり、配線が非常に困難であった。さらに、透明導電性薄膜を接地させるための電極を取り出す必要があるので、積層皮膜形成後にエッチング処理を行う、もしくは成膜工程中に電極部をマスキングする必要があるなど、製造工程が煩雑となる問題があった。
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、帯電防止効果と光学多層効果を併せ持ち、帯電防止のための接地処理が不要な光学素子、この光学素子を搭載した撮像装置及び電子機器を提案することを目的とする。
特に、帯電防止効果のレベルとして、テレビのブラウン管などの表面パネルに発生するような、強い静電気よりも、自然空間にただようゴミや埃を自然に引き寄せてしまうような、弱い静電気を除去することを主目的としている。
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の光学素子は、透明基体と、その透明基体の表面に成膜された多層構造の誘電体膜と、多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜からなることを特徴とするものである。
上述の構成によれば、多層膜中での透明導電性薄膜の位置及び各膜の膜厚を考慮して成膜することにより、接地処理が不要であり、帯電防止効果と光学多層効果を併せ持つ光学素子が得られる。
また本発明の光学素子の一側面は、上記構成の光学素子において、上記透明導電性薄膜が上記多層構造の誘電体膜の最外層に形成されていることを特徴とする。
上述の構成によれば、透明導電性薄膜が最外層にない場合と比較して、より大きなゴミ付着改善効果(帯電防止効果)が得られる。
また本発明の光学素子の一側面は、上記構成の光学素子において、上記透明導電性薄膜より更に外層側に薄膜を形成し、この薄膜の膜厚を150nm以下とする、又はその薄膜の比誘電率膜厚を20以下とする、あるいはその両方の条件を満たすことを特徴とするものである。
上述の構成によれば、上記透明導電性薄膜より外層側に、上記条件を満たす材料からなる薄膜を形成することで、より確実に帯電防止効果と光学多層効果を併せ持つ光学素子が得られる。
本発明のレンズ鏡筒は、鏡筒に光学素子が保持されたレンズ鏡筒であって、この光学素子は、透明基体と、その透明基体の表面に成膜された多層構造の誘電体膜と、この多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜からなることを特徴とする。
上述の構成によれば、鏡筒に保持された光学素子が、接地処理が不要でありかつ帯電防止効果と光学多層効果を併せ持つので、撮像装置等に対して着脱可能であるとともに着脱時のゴミや埃の付着が防止される。
本発明の撮像装置は、光学素子及び撮像素子が光路上に配置された撮像装置であって、この光学素子は、透明基体と、その透明基体の表面に成膜された多層構造の誘電体膜と、この多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜が形成されてなることを特徴とする。
上述の構成によれば、光学素子の接地処理が不要であるので、一例として撮像装置の沈胴式レンズ鏡筒などの可動部に配置することができる。また、光学素子が帯電防止効果と光学多層効果を併せ持つので、光学素子表面のゴミや埃の付着を防止でき、ゴミや埃の影響の少ない画像が撮像される。
本発明の電子機器は、機器内部で生成した光を光路上に配置された光学素子を透過させて情報を表示する電子機器であって、この光学素子は、透明基体と、その透明基体の表面に成膜された多層構造の誘電体膜と、この多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜が形成されてなることを特徴とする。
上述の構成によれば、光学素子が帯電防止効果と光学多層効果を併せ持つので、光路上に配置された光学素子表面のゴミや埃の付着を防止でき、ゴミや埃の影響の少ない画像が表示される。
本発明によれば、光学素子にコーティングする多層膜中での透明導電性薄膜の位置及び前記透明導電性薄膜の外層側に配置した誘電体膜の誘電率を考慮することにより、接地処理をしなくても、ゴミや埃の付着を低減する帯電防止効果と、多層構造による光学効果を併せ持つ、高機能の光学素子が得られる。
したがって、本発明を、例えばレンズや赤外線カットフィルタなどの光学素子に応用すれば、ゴミや埃が付きにくくなるため、レンズ鏡筒などの製造現場においてレンズを洗浄するための超音波洗浄機や、それらを組み立てるためのクリーンルームを用意する必要が無くなるので、製造コストを大幅に改善することができるという効果がある。
また、帯電防止のための接地処理を必要としないので、例えば焦点調節機能付きカメラレンズのような、可動部分においても本発明の光学素子を用いることができるという効果がある。
また、本発明の光学素子を、レンズ交換式カメラ等の撮像装置やプロジェクタ等の電子機器に適用した場合、レンズや赤外カットフィルタ、固体撮像素子上のゴミや埃の付着が防止されるので、ゴミや埃の影響の少ない高品質な画像が得られる。
以下、本発明による光学素子の一実施の形態の例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の光学素子が適用されたスチルカメラ(撮像装置)の例である。図1において、カメラレンズである光学素子1が、カメラ100のレンズ鏡筒としても機能する沈動型の可動部101に搭載されている。光学素子1は可動部101の鏡筒に保持されている。
図2は、本発明による光学素子の一実施の形態の構成を示す概略断面図である。本実施の形態の光学素子1は、ガラス又はプラスチック等の透明基体2上に、反射防止を目的とした屈折率の異なる第1〜第3誘電体膜3a〜3cからなる透明な誘電体層3と、透明導電性薄膜4から構成された多層膜(反射防止膜)を有する。本例においては、3層の誘電体膜を積層して誘電体層3を形成しているが、所望の反射防止効果を得られればよく、誘電体層3を形成する層の数はこの例に限るものではない。また、図2は各層の位置関係を示すものであって、各層を構成する膜厚の関係を示すものではない。
上記光学素子1において、誘電体層3を構成し透明基体2上面に成膜される第1誘電体膜3aは、例えば酸化アルミニウム等、中間屈折率を持つ膜厚λ/4(λ:光の波長)の誘電体である。また、第1誘電体膜3aの上面に成膜される第2誘電体膜3bは、Ta等、高屈折率材料からなる膜厚2/4λの誘電体である。そして、第3誘電体膜3cは、フッ化マグネシウム等、低屈折率材料を使用した膜厚λ/4の誘電体である。低屈折率材料としては、フッ化マグネシウムの他、酸化ケイ素、又はフッ素を成分として含む無機物又は有機物、あるいはケイ素を成分として含む無機物又は有機物、あるいは少なくともこれらの材料のうちいずれかを含む混合材料を用いることができる。これら第1〜第3誘電体膜の積層被膜の各膜厚は、透明導電性薄膜4の屈折率や膜厚などに応じて、外光の反射を有効に防止しうる最適な値が設定される。
さらに、光学素子1の最外層となる透明導電性薄膜4の材料としては、ITO(Indium-doped tin oxide:インジウムをドープした酸化錫)、FTO(Fluorine-doped tin oxide:フッ素をドープした酸化錫)、ATO(Antimony-doped tin oxide:アンチモンをドープした酸化錫)、In、SnO、ZnOなどの酸化物薄膜の他、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属薄膜が適用できる。あるいは、これらの組み合わせでもよい。本例では透明導電性薄膜4にITOを用いている。
反射防止膜を構成するこれらの材料を成膜する方法としては、真空蒸着法やイオンプレーティング法、スパッタリング法などの手法が用いられる。本例においては、例えば誘電体層3について真空蒸着法による成膜方法を用い、圧力を8.0e−4(Pa)程度まで下げた真空チャンバー内で、抵抗加熱もしくは電子ビーム加熱などにより第1〜第3誘電体膜3a〜3cの材料を順に、加熱、蒸発させることによって透明基体2へ成膜する。
同様に、透明導電性薄膜4は、例えば真空蒸着法による成膜方法を用い、圧力を一度8.0e−4(Pa)程度まで下げた真空チャンバー内に、酸素をその圧力が2.5e−4(Pa)程度になるように導入しながら電子ビーム加熱などにより加熱、蒸発することによって成膜する。その結果成膜される透明導電性薄膜4のフィルム抵抗値(表面抵抗値)は、およそ10〜3000Ω/□(Ω・□、あるいはsqとも表示される。)の範囲となっていることが望ましい。フィルム抵抗は、その値が低いほど帯電防止効果が得られる。
次に、本発明による光学素子の他の実施の形態の例について説明する。
本発明による光学素子の他の実施の形態例の構成を示す概略断面図を、図3に示す。本例の光学素子10は、図2に示した光学素子1の透明導電性薄膜4のさらに外層に、誘電体膜5を成膜した構成としている。この誘電体膜5としては、フッ化マグネシウム等の低屈折率の材料を用いることが好ましく、上述したような光学素子1の反射防止膜の成膜方法として列挙された方法を用いて成膜される。なお、この例において、透明導電性薄膜4上面の誘電体膜5は単層としてあるが、多層構造の誘電体層とすることもできる。
続いて、本発明による光学素子の帯電防止効果を検証するために、光学素子上に人工的に付着させたゴミの低減量を調べ、ゴミ付着改善量を測定した。この測定方法について、図4を参照して説明する。
まず、円形状の透明基体2上の左半面に図2に示した誘電体層3を形成し、残りの右半面には誘電体層3と透明導電性薄膜4からなる反射防止膜をコーティングしたサンプルを準備する(図4左側参照)。つまり、サンプルの半分は誘電体層3のみ、もう半分には光学素子1と同じ構成の反射防止膜をコーティングする。次いでレンズペーパーを棒ヤスリ等で繊維状に加工したゴミを用意しておき、作製したサンプル上にこのゴミを振り掛け、その後、ゴミが載った光学素子1を上下反転させる(図4右側参照)。そして、軽く衝撃を加えた後にどの程度のゴミが残っているかを比較する方法で検証を行った。この方法については、光学素子上に人工的にゴミや埃を付着させ、衝撃を与えるなどした後に残ったゴミや埃の量を測定する過程を有するものであれば、この例に限らない。
図3に示す光学素子10についても、サンプルの左半面に誘電体層3のみ、残りの右半面に誘電体層3、透明導電性薄膜4及び誘電体膜5からなる反射防止膜をコーティングしたサンプルを作成し、同様に測定を行う。なお、光学素子10については、透明導電性薄膜4上の誘電体膜5の膜厚を変化させてそれぞれについてゴミ付着改善量を測定した。
上述の測定結果について、図5を参照して説明する。図5において、横軸は透明導電性薄膜上に形成された誘電体膜の膜厚(nm)、縦軸は光学素子と同構成としたサンプル半面のゴミ付着改善量(%)を表し、ゴミ付着改善量が100%のときゴミが除去されて全く付着していない状態とする。図5から分かるとおり、ゴミ付着改善量は、透明導電性薄膜4上に誘電体膜が無い状態(透明導電性薄膜上の膜厚:0nm)、すなわち反射防止膜の最外層に透明導電性薄膜4が形成されている構成としたときが最も良好であり、このとき、およそ90%のゴミ付着防止効果が得られた。
一方、透明導電性薄膜4上に誘電体膜5を積層した場合、すなわち光学薄膜10(図3を参照)の構成の場合、透明導電性薄膜4上に積層した誘電体膜5の膜厚が厚くなるほど、ゴミ付着改善量が減少し、ゴミ付着改善効果が低下することが読み取れる。最終的には、誘電体膜の膜厚が150nmを越えるとゴミ付着改善効果が得られなかった。これについては、誘電体層3、透明導電性薄膜4及び誘電体膜5を形成する材料の種類を、ほぼ同じ誘電率の材料と変えた場合、おおよそ同様の傾向が得られた。
さらに、透明導電性薄膜4上の誘電体膜5の材料を変更、すなわち誘電率を変更して同様の実験を実施した結果について説明する。図6において、横軸は透明導電性薄膜上に形成された誘電体膜の膜厚(nm)、縦軸は光学素子と同構成としたサンプル半面のゴミ付着改善量(%)を表す。実験は、真空の誘電率との比誘電率εが4.5、5.5、7.0、12、20の5種類の材料を用いて行った。なお、図5の測定結果は、比誘電率ε=4.5のときのものである。
光学薄膜10の構成の場合、透明導電性薄膜4上に積層した誘電体膜5の比誘電率が高くなるほど、ゴミ付着改善量が減少し、ゴミ付着改善効果が低下することが読み取れる。これは、誘電体膜5の誘電率が高くなるにつれて、誘電体膜5の静電容量が増加し、誘電体膜5の外層側に電荷がより蓄積され、ゴミを吸着しやすくなるためと考えられる。この結果から分かるように、比誘電率を約20以下とすることで、ゴミ吸着の効果を維持することができる。
上述したように、誘電体膜5は低屈折率材料であって、フッ化マグネシウムの他、酸化ケイ素等、フッ素を成分として含む無機物又は有機物、あるいはケイ素を成分として含む無機物又は有機物、あるいは少なくとも上記材料のうちいずれかを含む混合材料が用いられるが、それらの材料の比誘電率は20以下である。
例えば、フッ化カルシウム(CaF2)の比誘電率は6.76、フッ化マグネシウム(MgF2)の比誘電率は4.87(5.45)、ニ酸化ケイ素(SiO2)の比誘電率は4.55(4.49)である。比誘電率の値が2つ記載されているのは、その物質の異性体の値である。
また、フッ素を成分として含む有機物(F系有機物)の例として、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂(ETFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)などが挙げられる。この中では、FEPの比誘電率が最も小さく2.0程度、PVDFのそれが最も大きく6.0程度である。
また、ケイ素を成分として含む有機物(Si系有機物)の例として、メチルポリシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどが挙げられる。これらの比誘電率は、2.17〜2.88である。各材料と比誘電率との関係を下記にまとめる。
Figure 2006221142
光学素子10の最外層を構成する誘電体膜5に、フッ素を成分に含む物質又はケイ素を成分に含む物質を用いた場合、光学素子表面において撥水効果が期待できる。
ここで、光学素子の透明導電性薄膜の膜厚について検討する。図1に示した光学素子1と同形態における透明導電性薄膜の膜厚と反射率特性の一例を、図7に示す。
図7において、横軸は光学素子に入射する光の波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。図中、“ITO”は透明導電性薄膜4を、“3層AR”は誘電体層3を表している。線A(ITO無し(3層ARのみ))と線C(3層AR+ITO(膜厚30nm))を比較すると、線Cの方では反射率が大きくなる。このことから、誘電体層3上に透明導電性薄膜4を成膜した構成(図1参照)とした場合、反射防止効果が低下するということが読み取れる。
これに対する処置として、誘電体層3上に透明導電性薄膜4を成膜した構成(透明導電性薄膜上の誘電体膜が0nm)の場合、すなわち図1に示す光学素子1の形態の膜構成の場合は、透明導電性薄膜4をできるだけ薄膜化することで改善が可能である。図7に示す線B(3層AR+ITO(膜厚20nm))と線C(3層AR+ITO(膜厚30nm))の比較からも分かるように、透明導電性薄膜4の膜厚を20nm以下とすることにより、可視光線が含まれるおよそ400〜750nmの波長範囲において、2.0%以下の反射率特性を得ることができる。この透明導電性薄膜4の膜厚は薄いほど良いが、薄すぎると導電性を良好に保てない。したがって、透明導電性薄膜4の膜厚はおおよそ5〜20nmが好ましい。
一般に、より高品質が求められる光学素子では、所望の波長範囲(例えば可視光線域)において反射率特性の値は0.5%以下が好ましいとされている。そこで、上述の反射率特性より更に良好な反射防止性能が要求されるような場合について検討する。ここでは、透明導電性薄膜4の上に、さらにフッ化マグネシウム(MgF)などの低屈折率の誘電体膜5を形成することにより、反射率特性を改善することが可能であることについて説明する。
光学素子10の透明導電性薄膜4上に成膜する誘電体膜5の一例として、MgFを用いて成膜した場合の反射率特性の例を、図8に示す。図8において、横軸は光学素子に入射する光の波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。図中、線Dは、膜厚20nmの透明導電性薄膜4の上面に、さらに誘電体膜5として膜厚80nmのMgFを形成した場合の反射率特性を示す。この膜構成例では、透明導電性薄膜4を膜厚20nmで形成しているにもかかわらず、透明導電性薄膜4を成膜していない状態(線A)とほぼ同等の反射率特性まで改善することができている。
ここで用いられる低屈折率の材料としては、図3の説明において言及したのと同様のものが適用でき、フッ化マグネシウムの他、酸化ケイ素等、フッ素を成分として含む無機物又は有機物、あるいはケイ素を成分として含む無機物又は有機物、あるいは少なくともこれらの材料のうちいずれかを含む混合材料を用いることができる。
したがって、図5〜図8の測定結果より、ゴミ付着改善効果を最優先する場合は、透明導電性薄膜4が積層膜中の最外層となるように構成すればよい。一方、一定のゴミ付着改善効果を得ながら反射率特性を改善したい場合には、透明導電性薄膜4の外層側にMgFなどの低屈折率の誘電体膜5を物理膜厚で150nm以下に限定して形成することで、ゴミ付着改善効果と反射防止効果を併せ持たせることが可能であることが導かれる。また誘電体膜5の比誘電率を20以下としても、ゴミ付着改善効果が得られる。
このように、本発明の光学素子は、帯電防止効果と、反射防止効果等の光学多層効果を併せ持ち、かつ帯電防止のための接地処理が不要である。これにより、一般的なレンズのみならず、光学フィルタなどの一定の光学多層効果を奏する光学素子に適用した場合にも、個々の光学素子の機能を保持しつつ帯電防止効果が得られる。かつ接地処理が不要であることから光学素子を種々の場所に配置することができる。
また、上記光学素子は高い帯電防止効果を有するので、ビデオカメラやスチルカメラ等の撮像装置に適用すると、ゴミや埃の影響の少ないきれいな高品質の画像を撮像できる。
なお、透明導電性薄膜4より更に外層側にMgF等、誘電体膜5を成膜するように説明したが、低屈折率の材料であればよく、誘電体には限られない。
次に、本発明の光学素子の更に他の実施の形態の例について説明する。
図9は、本発明の更に他の実施の形態の光学素子の概略斜視図である。この図9に示す光学素子30の膜構成は、図2と同様であり、最外層に透明導電性薄膜4が形成された形態である。光学素子30の最外層の一部に、例えば撮像装置の有効口径31と同じ径の透明導電性薄膜4を成膜し、その外周側の領域32には透明導電性薄膜4を成膜していない。
図10は、図9に示した光学素子30の説明に供する図である。図10に示すように、カメラに取り付けられた光学素子30には、光軸を中心とする平行光線束が入射する。このとき、絞り34の絞り径35を通過する光線束のレンズ全面における径が重要で、この直径が有効口径31である。確実にゴミ付着改善効果を得るには、少なくともこの径の範囲内を、誘電体層3及び透明導電性薄膜4からなる多層膜構造とすることが必須である。この多層膜の径は、カメラのズーム、マクロ機能等を考慮し、有効口径が最大となる値に合わせて成膜することが望まれる。
このように、本発明の効果を持つ多層膜を、光学素子30を透過する光線束の光路の一部の領域(有効口径と重なる領域)に形成し、かつ光線が通過しない領域32に形成されないように配置することにより、これまで有効口径内に付着していたゴミや埃が、矢印36に示すようにその外周側の領域32により多く引き付けられ、光路内、特に有効口径内にゴミや埃が付着する割合を低減することができる。
図9及び図10の例では、透明導電性薄膜4のみ所定の径を満足するように形成したが、誘電体層3についても所定径に形成してもよい。このように構成した場合、本発明の多層膜を必要な領域にのみ構成するので、材料の節約とともにコスト削減が期待できる。なお、図9及び図10の例は、図3に示した膜構成の光学素子10にも適用されることは勿論である。
次に、本発明による多層膜が両面に形成された光学素子を撮像装置のレンズに適用した例について説明する。本例では、撮像装置の一例としてカメラを例に挙げる。
図11は、本発明による光学素子を焦点調節可能なカメラに適用した例を示した模式図である。カメラ120は、レンズ鏡筒として機能するとともに焦点距離を調節するための沈動型構造を持つ可動部122を有しており、この可動部122の鏡筒にマウントされたレンズに本発明の光学素子を適用する。本発明の光学素子は、接地処理をしなくとも帯電防止効果が得られるので、光学素子の設置自由度が高く、このような可動部にも搭載することができる。
本例における光学素子40は、図2に示す形態による光学素子1の透明基体2の両面に反射防止膜をコーティングした構成としている。すなわち、透明基体2の誘電体層3と透明導電性薄膜4が積層された面の反対面に、更に誘電体層3と透明導電性薄膜4をそれぞれ成膜した構成である。
仮に光学素子40片側、すなわち光学素子1のように空気側だけに反射防止膜のコーティングが施されている場合、焦点を調節しようとして可動部122を移動させると対流が発生し、透明基体2のカメラ本体121側の図1に示す形態による光学素子1のコーティングがされていない面に、対流によるゴミや埃が付着してしまい、可動部122(レンズ鏡筒)を取り外して付着したゴミや埃を拭き取るという手間が発生していた。
しかし、光学素子40のように、可動部22に搭載したレンズの両面に本発明による反射防止膜を施した構成とすることにより、可動部122を動かして光学素子40を移動させた場合、空気側及びカメラ本体121側において、対流によるゴミや埃の付着を抑制することができる。これにより、光学素子40の空気側及びカメラ本体121側の両面について、ゴミや埃を拭き取る手間が発生しないので、例えば光学素子40を外してゴミや埃を拭き取るといったような、ゴミ及び埃に対する管理が簡素化され、その煩わしさから開放される。また、撮像装置はレンズ交換のためにレンズ鏡筒が脱着されることがあるが、その場合にもレンズ鏡筒のレンズ表面にゴミや埃が付きにくい。
なお、図11では、図2に示す形態の光学素子1に形成された反射防止膜を透明基体2の両面に形成した光学素子40について述べたが、その他、図3に示す形態の光学素子10による反射防止膜を透明基体2の両面に形成した構成としてもよい。あるいは、透明基体2の両面で、光学素子1と光学素子10の異なる膜構成を組み合わせて適用することもできる。
次に、本発明による光学素子を電子機器のレンズに適用した例について説明する。本例では、電子機器の一例としてプロジェクタ(投射型表示装置)を例に挙げる。
本発明の光学素子が適用されたプロジェクタの例を、図12に示す。プロジェクタは、三管プロジェクタ、液晶プロジェクタなどがあるが、いずれもプロジェクタ装置内部で画像情報を持つ光を生成し、その光を投射レンズを透過させてスクリーンに投影する。図12に示したプロジェクタ200の投射レンズ201に本発明の光学素子が用いられている。
プロジェクタ200内部は、放熱のためのファンが設けられていることが多く、ファンによる対流が発生する。したがって、投射レンズ201に、図11に示したようなレンズの両面に帯電防止構造が施された光学素子を適用した場合、投射レンズ201の外部に面した側だけでなく内部側の両面について、ゴミや埃の付着を防止できる。なお、片面のみに帯電防止膜が生成された光学素子を用いてもよいことは勿論である。
以上述べたように、上述構成の多層膜を光学素子へ施すことにより、接地処理をしなくても、ゴミや埃の付着を低減する効果(帯電防止効果)と光学多層効果を併せ持つ、高機能光学素子を得ることができる。
例えば、本発明に基づく透明導電性薄膜を有する積層皮膜をレンズなどの光学素子に応用すれば、ゴミや埃が付きにくくなるため、レンズ鏡筒などの製造現場においてレンズを洗浄するための超音波洗浄機や、それらを組み立てるためのクリーンルーム等を用意する必要が無くなるため、製造コストを大幅に改善することができる。また光学素子やレンズ鏡筒、さらにはこれらが搭載された撮像装置や電子機器について、流通過程でのゴミや埃の付着を防止できる。
上述した実施の形態の例では、本発明の光学素子を撮像装置(例えば、カメラ)及び電子機器(例えば、プロジェクタ)に用いた例を、図1,図11,図12に示したが、これらの機器ではそれぞれ像を形成する素子とゴミや埃との大きさの比が異なる。例えばカメラにおけるCCDやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子と、液晶プロジェクタにおける液晶パネルを比較すると、カメラの撮像素子の方がより小さいので、ゴミ及び埃の影響が相対的に大きくなり、カメラの方がそれらの影響を受けやすい。また、像を形成する素子と、その素子の前後に配置される光学素子(例えば、光学ローバスフィルタなど)との距離が、プロジェクタではある程度離れて配置されているのに対し、カメラでは近接しているため、同様に影響を受けやすい。したがって、カメラ等の撮像装置は、プロジェクタ等の電子機器と比較して、本発明のゴミ付着改善効果(帯電防止効果)による、画像の品質の向上がより顕著である。
なお、本発明は上述した実施の形態の例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した実施の形態の例では、光学素子をカメラレンズに適用した例について述べたが、その他、赤外カットフィルタ、屈曲プリズム、光学ローパスフィルタ、撮像素子のオンチップレンズ等、種々の光学素子に適用することができる。また、本発明は例えば、眼鏡のガラスレンズやプラスティックレンズ、テレビジョン受像機のブラウン管、携帯オーディオプレーヤの表示部等、種々の透明基体に適用することができる。
また、本発明の光学素子をカメラ等の撮像装置やプロジェクタ等の電子機器に搭載する場合、搭載する光学素子の個数(枚数)は複数でもよく、機種に応じて適宜用いることができる。
本発明による光学素子が搭載されたカメラの例(1)である。 本発明の一実施の形態に係る光学素子の構成を示す概略断面図である。 本発明の他の実施の形態に係る光学素子の構成を示す概略断面図である。 本発明に係るゴミ付着改善量の測定方法の説明に供する図である。 本発明に係るゴミ付着改善量の測定結果(1)を示す線図である。 本発明に係るゴミ付着改善量の測定結果(2)を示す線図である。 本発明による透明導電性薄膜の膜厚と反射率特性を示す線図である。 本発明による透明導電性薄膜上にMgF2を成膜した場合の反射率特性を示す線図である。 本発明の更に他の実施の形態に係る光学素子の概略斜視図である。 図9の光学素子の説明に供する図である。 本発明による光学素子が搭載されたカメラの例(2)である。 本発明による光学素子が搭載されたプロジェクタの例である。
符号の説明
1,10,30,40…光学素子、2…透明基体、3…誘電体層、3a…第1誘電体膜、3b…第2誘電体膜、3c…第3誘電体膜、4…透明導電性薄膜、5…誘電体膜、31…有効口径、32…その他の領域、35…絞り径、100,120…カメラ、101,122…可動部、121…カメラ本体、200…プロジェクタ、201…投写レンズ

Claims (18)

  1. 透明基体と、
    該透明基体の表面に成膜された多層構造の誘電体膜と、前記多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜からなる
    ことを特徴とする光学素子。
  2. 前記透明導電性薄膜が前記多層構造の誘電体膜の最外層に形成されている
    ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
  3. 前記透明導電性薄膜より更に外層側に薄膜が形成され、
    前記薄膜の膜厚が150nm以下である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
  4. 前記透明導電性薄膜より更に外層側に薄膜が形成され、
    前記薄膜の比誘電率が20以下である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
  5. 前記透明導電性薄膜より更に外層側に薄膜が形成され、
    前記薄膜の膜厚が150nm以下であり、かつ前記薄膜の比誘電率が20以下である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
  6. 前記透明導電性薄膜より外層側に形成された薄膜が、フッ素を成分として含む物質、又はケイ素を成分として含む物質、あるいは少なくともこれらの物質のいずれかを含む混合材料からなる
    ことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の光学素子。
  7. 前記透明導電性薄膜より外層側に形成された薄膜が、酸化ケイ素、又はフッ化マグネシウム、又はフッ化カルシウム、あるいは少なくともこれらのうちいずれかを含む混合材料からなる
    ことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の光学素子。
  8. 前記透明導電性薄膜より更に外層側に形成された薄膜が、単層又は複数層からなる
    ことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の光学素子。
  9. 前記透明導電性薄膜の膜厚が5〜20nmである
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
  10. 前記透明導電性薄膜が、ITO、FTO、ATO、あるいは金、銀、銅、アルミニウム、あるいは少なくともこれらの材料のうちいずれかを含む混合材料からなる
    ことを特徴とする請求項9に記載の光学素子。
  11. 前記多層膜は、少なくとも前記光学素子が搭載される装置の有効口径内に形成されてなる
    ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
  12. 更に前記透明基体の他の面に、多層構造の誘電体膜と、前記多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜が形成されてなる
    ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
  13. 鏡筒に光学素子が保持されたレンズ鏡筒であって、
    前記光学素子は、透明基体と、該透明基体の表面に成膜された多層構造の誘電体膜と、前記多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜からなる
    ことを特徴とするレンズ鏡筒。
  14. 光学素子及び撮像素子が光路上に配置された撮像装置であって、
    前記光学素子は、透明基体と、該透明基体の表面に成膜された多層構造の誘電体膜と、前記多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜が形成されてなる
    ことを特徴とする撮像装置。
  15. 前記光学素子は、前記撮像装置の可動部に取り付けられている
    ことを特徴とする請求項14に記載の撮像装置。
  16. 前記可動部は、前記光学素子を光軸方向に移動させる沈胴型構造である
    ことを特徴とする請求項15に記載の撮像装置。
  17. 機器内部で生成した光を光路上に配置された光学素子を透過させて情報を表示する電子機器であって、
    前記光学素子は、透明基体と、該透明基体の表面に成膜された多層構造の誘電体膜と、前記多層構造の誘電体膜の一部の層に成膜された所定膜厚の透明導電性薄膜とから構成される多層膜が形成されてなる
    ことを特徴とする電子機器。
  18. 前記電子機器内部で生成した光を、前記光学素子を透過させてスクリーンに投影する
    ことを特徴とする請求項17に記載の電子機器。
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