JP2006216685A - 単結晶強誘電体薄膜並びにこれを用いた液体噴射ヘッド及び液体噴射装置 - Google Patents
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【課題】 小さな駆動電圧で大きな歪みを得ることができる単結晶強誘電体薄膜並びにこれを用いた液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】 結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板10の一面側に、結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層101と、酸化セリウム層102と、イットリウム−バリウム−銅−酸素系材料からなるYBCO層103と、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)層60とを順次積層した基板上に、エピタキシャル成長によるチタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム及びチタン酸ジルコン酸鉛から選択される何れか一種からなる結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜であって、該単結晶強誘電体薄膜がイオン注入による点欠陥を有することにより、巨大電歪効果を示す単結晶強誘電体薄膜70とする。
【選択図】 図3
【解決手段】 結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板10の一面側に、結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層101と、酸化セリウム層102と、イットリウム−バリウム−銅−酸素系材料からなるYBCO層103と、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)層60とを順次積層した基板上に、エピタキシャル成長によるチタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム及びチタン酸ジルコン酸鉛から選択される何れか一種からなる結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜であって、該単結晶強誘電体薄膜がイオン注入による点欠陥を有することにより、巨大電歪効果を示す単結晶強誘電体薄膜70とする。
【選択図】 図3
Description
本発明は、巨大電歪効果を有する単結晶強誘電体薄膜並びにこれを用いた液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバと、各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズルと連通した圧力発生室内のインクに吐出エネルギを印加してノズル開口からインク滴を吐出させる。
このようなインクジェット式記録ヘッドには、前述したように圧力発生室として圧力発生室内に駆動信号によりジュール熱を発生する抵抗線等の発熱素子を設け、この発熱素子の発生するバブルによってノズル開口からインク滴を吐出させるものと、圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させてノズル開口からインク滴を吐出させる圧電振動式の2種類のものに大別される。
また、圧電振動式のインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子を軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている。
これによれば圧電素子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電素子を高密度に作り付けることができるばかりでなく、圧電素子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
ここで、圧電素子は、例えば、シリコン単結晶基板の一方面側に下電極、圧電体層及び上電極を順々に積層することによって形成されている。また、圧電体層は、一般的に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる多結晶薄膜であり、各結晶間の界面、すなわち、粒界が数多く存在した柱状の結晶構造を有している。
そして、上述したインクジェット式記録ヘッドでは、例えば、圧電体層をサンドイッチ状に挟んだ下電極及び上電極に外部配線等から駆動電圧を印加し、圧電体層に所定の駆動電界を発生させて圧電素子及び振動板等をたわみ変形させることにより、圧力発生室の内部圧力が実質的に高められてノズル開口からインク滴が吐出するようになっている。
このような従来のインクジェット式記録ヘッドは、特に超高密度化を図ろうとした場合、圧電素子の変位量を所定値にすることができないという問題があり、小さな駆動電圧でも大きな変形を得ることができる圧電素子が要望されている。
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに限って発生するものではなく、勿論、他の液体噴射ヘッドにおいても同様に発生する。
そこで、本出願人は、PZTを用いた圧電素子の圧電特性を略均一にして最大出力で液体吐出を行うことができるインクジェット記録ヘッド及びインクジェットプリンタを先に提案した(特許文献1)。
しかしながら、この技術は、従来のPZTの圧電特性の改善であるため、劇的な変化を望めるものではない。
一方、巨大電歪効果を有するチタン酸バリウムからなる高性能圧電材料が報告されている(非特許文献1)。
しかしながら、この材料はこのままではインクジェット式記録ヘッドなどの圧電素子に応用できるものではない。
本発明は、このような事情に鑑み、小さな駆動電圧で大きな歪みを得ることができる単結晶強誘電体薄膜並びにこれを用いた液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板の一方面側に形成された結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層と、該酸化ジルコニウム層上に形成された結晶面方位が(100)配向の酸化セリウム層と、該酸化セリウム層上に形成されたイットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる結晶面方位が(100)配向のYBCO層と、該YBCO層上に形成された結晶面方位が(100)配向のルテニウム酸ストロンチウム(SRO)層とを具備する基板上に形成され、前記SRO層上にエピタキシャル成長により形成されたチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba,Sr)TiO3)及びチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)から選択される何れか一種からなる結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜であって、該単結晶強誘電体薄膜がイオン注入による点欠陥を有して巨大電歪効果を示すことを特徴とする単結晶強誘電体薄膜にある。
かかる第1の態様では、結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜とし、これにイオン注入という比較的簡便な方法により、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を得ることができる。
かかる第1の態様では、結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜とし、これにイオン注入という比較的簡便な方法により、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を得ることができる。
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記点欠陥が、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンから選択される少なくとも一種のイオンをイオン注入することにより形成されたことを特徴とする単結晶強誘電体薄膜にある。
かかる第2の態様では、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンから選択される少なくとも一種のイオンをイオン注入することにより、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を得ることができる。
かかる第2の態様では、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンから選択される少なくとも一種のイオンをイオン注入することにより、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を得ることができる。
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記点欠陥が、Arイオンをイオン注入することにより形成されたことを特徴とする単結晶強誘電体薄膜にある。
かかる第3の態様では、Arイオンをイオン注入することにより、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を得ることができる。
かかる第3の態様では、Arイオンをイオン注入することにより、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を得ることができる。
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記酸化ジルコニウム層の下には前記シリコン単結晶基板を熱酸化してなる酸化シリコン層を有することを特徴とする単結晶強誘電体薄膜にある。
かかる第4の態様では、結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板の一方面側に酸化シリコン層を介して結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層を有する基板上に巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を得ることができる。
かかる第4の態様では、結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板の一方面側に酸化シリコン層を介して結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層を有する基板上に巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を得ることができる。
本発明の第5の態様は、結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板からなり、該シリコン単結晶基板上の一方面側に形成された結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層と、該酸化ジルコニウム層上に形成された結晶面方位が(100)配向の酸化セリウム層と、該酸化セリウム層上に形成されたイットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる結晶面方位が(100)配向のYBCO層と、該YBCO層上に形成された結晶面方位が(100)配向のルテニウム酸ストロンチウム(SRO)層と、該SRO層上にエピタキシャル成長により形成されたチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba,Sr)TiO3)及びチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)から選択される何れか一種からなる結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜であって、該単結晶強誘電体薄膜がイオン注入による点欠陥を有して巨大電歪効果を示す単結晶強誘電体薄膜と、該単結晶強誘電体薄膜上に形成された導電体層とを具備し、前記シリコン単結晶基板が、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板として機能すると共に、該流路形成基板上に、前記SRO層からなる下電極と、前記単結晶強誘電体薄膜からなる圧電体層と、前記導電体層からなる上電極とを有する圧電素子が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第5の態様では、結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜とし、これにイオン注入という比較的簡便な方法により得た、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができ、高密度化に容易に対応できる。
かかる第5の態様では、結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜とし、これにイオン注入という比較的簡便な方法により得た、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができ、高密度化に容易に対応できる。
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記点欠陥が、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンから選択される少なくとも一種のイオンをイオン注入することにより形成されたことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第6の態様では、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンから選択される少なくとも一種のイオンをイオン注入することにより得た、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができる。
かかる第6の態様では、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンから選択される少なくとも一種のイオンをイオン注入することにより得た、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができる。
本発明の第7の態様は、第5又は6の態様において、前記点欠陥が、Arイオンをイオン注入することにより形成されたことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第7の態様では、Arイオンをイオン注入することにより得た、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができる。
かかる第7の態様では、Arイオンをイオン注入することにより得た、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができる。
本発明の第8の態様は、第5〜7の何れかの態様において、前記酸化ジルコニウム層の下には前記シリコン単結晶基板を熱酸化してなる酸化シリコン層を有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第8の態様では、結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板の一方面側に酸化シリコン層を介して結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層を有する流路形成基板上に巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができる。
かかる第8の態様では、結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板の一方面側に酸化シリコン層を介して結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層を有する流路形成基板上に巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができる。
本発明の第9の態様は、第5〜8の何れかの態様において、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板にドライエッチングにより形成され、前記圧電素子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第9の態様では、成膜及びリソグラフィ法により、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができる。
かかる第9の態様では、成膜及びリソグラフィ法により、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを得ることができる。
本発明の第10の態様は、第5〜9の何れかの態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる第10の態様では、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置を提供することができる。
かかる第10の態様では、巨大電歪を有する単結晶強誘電体薄膜を具備する液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置を提供することができる。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A′断面図である。また、図3は、図2(a)のB−B′断面図である。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A′断面図である。また、図3は、図2(a)のB−B′断面図である。
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では結晶面方位が(100)であるシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した酸化シリコン(SiO2)からなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
この流路形成基板10には、シリコン単結晶基板をその一方面側からドライエッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が幅方向に並設されている。このような圧力発生室12の長手方向は、後述する圧電体層の結晶面方位(100)に含まれる(100)方向と同一又は45°の方向であることが好ましい。本実施形態では、圧力発生室12の長手方向を圧電体層の(100)方向と同一方向とした。
また、圧力発生室12の長手方向外側には、後述する封止基板30のリザーバ部31と連通される連通部13が形成されている。また、この連通部13は、各圧力発生室12の長手方向一端部でそれぞれ液体供給路14を介して連通されている。なお、このような液体供給路14の幅は、本実施形態では、圧力発生室12の幅よりも小さくなっている。
さらに、圧力発生室12等が形成される流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択することが好ましい。例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度と比較的高密度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
なお、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12の液体供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50上には、図3に示すように、酸化ジルコニウム層101と、酸化セリウム層102と、イットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)層103とが順々に積層形成され、これら3層の全体の厚さは、例えば、約10nmである。具体的には、酸化ジルコニウム層101=5nm、酸化セリウム層102=3nm、YBCO層103=2nmで構成され、各層を薄膜で形成しているため、各層の結晶の格子変形が大きくなり、上下間の層同士を格子整合させることができる。
酸化ジルコニウム層101は、フルオライト(CF3)構造を有しており、弾性膜50上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、弾性膜50は、アモルファスの酸化シリコン層であるが、この上に形成された酸化ジルコニウム層101の結晶性は、流路形成基板10と同じ配向性、すなわち、結晶面方位が(100)に配向している。なお、酸化ジルコニウム層101を形成する材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やジルコニア(ZrO2)等を挙げることができ、本実施形態では、YSZを用いた。
また、酸化セリウム層102は、酸化ジルコニウム層101と同様に、フルオライト(CF3)構造を有しており、酸化ジルコニウム層101上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、この酸化セリウム層102の結晶性も酸化ジルコニウム層101と同様に、下地である酸化ジルコニウム層101と同じ配向性、すなわち、結晶面方位が(100)に配向している。酸化セリウム層102は、酸化ジルコニウム層101とYBCO層103の両者との相性が良い物質であるので密着性の向上や結晶の円滑な転換が行われる。
さらに、YBCO層103は、ペロブスカイト構造に類似した結晶構造を有しており、酸化セリウム層102上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、このYBCO層103の結晶性も酸化セリウム層102と同様に、下地である酸化セリウム層102と同じ配向性、すなわち、結晶面方位が(100)に配向している。なお、YBCO層103を形成する材料としては、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化バリウム(BaO)、酸化銅(II)(CuO)からなる複合酸化物が挙げられる。
また、このような結晶面方位が(100)配向したYBCO層103上には、厚さが例えば、約100nmの下電極膜60と、厚さが例えば、0.2〜5μmの圧電体層70と、厚さが例えば、50〜100nmの上電極膜80とが順々に積層形成され、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。そして、振動板は、本実施形態では、弾性膜50、下電極膜60、酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及びYBCO層103から構成されている。
なお、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極85がそれぞれ接続されている。そして、このようなリード電極85は、後述する駆動ICと電気的に接続されている。
ここで、圧電体層70の下地である下電極膜60は、本実施形態では、上述した酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及びYBCO層103の3層と同様に、YBCO層103上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、この下電極膜60は、下地であるYBCO層103と同じ配向性、すなわち、結晶面方位(100)に配向している。なお、このような下電極膜60は、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)からなる酸化物導電体(SRO)であり、ペロブスカイト構造を有している。
また、このような下電極膜60上に形成される圧電体層70は、下電極膜60上にエピタキシャル成長により形成された薄膜であり、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba,Sr)TiO3)及びチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)から選択される何れか一種からなる単結晶強誘電体薄膜である。そして、圧電体層70の結晶性は、下地である下電極膜60と同じ配向性、すなわち、結晶面方位(100)に配向している。
このような圧電体層70の結晶面方位(100)に含まれる(100)方向は、上述した圧力発生室12の長手方向と同一又は45°の方向であることが好ましい。本実施形態では、圧電体層70の(100)方向を圧力発生室12の長手方向と同一方向とした。これにより、圧電体層70の圧電特性を高めることができる。
なお、このような圧電体層70は、例えば、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、更に高温で焼成する、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成される。具体的には、下電極膜60の結晶面方位と同じ配向で結晶が成長した圧電体層70が形成される。勿論、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタ法やMOD法等で形成してもよい。
また、本実施形態のように、圧電体層70等を下地と同じ配向にエピタキシャル成長させるためには、例えば、その層を下地の結晶構造及び格子面間隔と類似するように所定の条件で形成することが好ましい。また、下地の表面との間に静電相互作用による反発力のない結晶構造となるように形成することが好ましい。なお、本実施形態では、上述したペロブスカイト構造とフルオライト構造とは構造的に類似しているので、圧電体層70等の各層をエピタキシャル成長させることができる。
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ上述したように、圧電体層70は、結晶が菱面体晶に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。
上述したように、本実施形態では、弾性膜50(流路形成基板10)上に酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及びYBCO層103を順々にエピタキシャル成長させて形成するようにしたので、下電極膜60の結晶面方位を(100)配向とすることができる。
また、本実施形態では、このように下電極膜60の結晶面方位を(100)配向にするようにしたので、圧電体層70の結晶面方位を(100)配向にすることができる。
ここで、圧電体層70は、イオン注入による点欠陥を有している。すなわち、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンなどのVIIIB属から選択される少なくとも一種のイオン、又はArイオンをイオン注入することにより形成された点欠陥を有する。
かかる圧電体層70は、イオン注入による点欠陥を有するので、巨大電歪効果を示し、小さな駆動電圧で大きな歪みを得ることができる。
このように本発明では、結晶面方位を(100)配向とした単結晶強誘電体薄膜としたので、イオン注入という比較的簡便な方法により点欠陥を比較的容易に形成することができ、これにより巨大電歪を有する圧電体層70とすることができる。
イオン注入による点欠陥の形成方法は、特に限定されないが、例えば、Fe、Co、Ni及びCrなどのVIIIB属の元素をイオン源でイオン化してイオンとし、これに荷電粒子加速器を用いてエネルギを与えて圧電体層70の表面をスパッタリングして行う。これにより、注入効果により、イオンが圧電体層70内に侵入し、内部の原子と衝突してエネルギを失って静止し、ドープされ、点欠陥を形成する。なお、Arイオンのイオン注入ではイオン注入により空孔が形成されることにより点欠陥となり、Arイオンは他の部分に含まれることになる。なお、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンなどのVIIIB属から選択される少なくとも一種のイオンと、Arイオンとを併せてイオン注入してもよい。また、イオン注入されるイオン量は、点欠陥を形成して巨大電歪を得ることができる量であれば、特に限定されず、多すぎると結晶系が変化してしまうので、例えば、0.1%以下と微量な量を注入するのがよい。また、イオン注入は、荷電粒子加速器の駆動を制御することにより、圧電体層70の全体に、すなわち、面方向及び厚さ方向に均一に注入するのが好ましい。
また、点欠陥を安定な位置に拡散させるためには、圧電体層70に時効処理を施すのが好ましい。ここで、時効とは、圧電体層70を一定温度に保持することをいう。
このように、本実施形態では、結晶面方位が(100)配向したシリコン単結晶基板からなる流路形成基板10(弾性膜50)上に、酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及びYBCO層103を順々に積層し、さらに、YBCO層103上に、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を積層するようにしたので、圧電体層70の結晶面方位を(100)配向とした単結晶構造の薄膜とすることができ、さらに、圧電体層70はイオン注入による点欠陥を有しているので、従来と比較して小さな駆動電界を発生させることにより、圧電素子300に大きな変位を行わせることができる。したがって、圧電素子300の変位量を所定値にすることができ、圧電素子300の圧電特性を優れたものにすることができる。また、実質的に最大出力での液体吐出量が大きくなり、逆に、高密度化を図っても必要な液体吐出量を得ることができる。
このような圧電素子300が設けられた側の流路形成基板10上には、図1〜図3に示すように、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した圧電素子保持部32を有する封止基板30が接合され、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に形成されている。
また、封止基板30には、各圧力発生室12の共通の液体室となるリザーバ90の少なくとも一部を構成するリザーバ部31が設けられ、このリザーバ部31は、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通の液体室となるリザーバ90を構成している。
さらに、封止基板30の圧電素子保持部32とリザーバ部31との間、すなわち液体供給路14に対応する領域には、この封止基板30を厚さ方向に貫通する接続孔33が設けられている。また、封止基板30の圧電素子保持部32側とは反対側の表面には外部配線34が設けられている。さらに、この外部配線34上には、各圧電素子300を駆動するための駆動IC35が実装されている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極85は、この接続孔33まで延設されており、例えば、ワイヤボンディング等により外部配線34と接続される。
封止基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなる。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ90に対向する領域には、厚さ方向に完全に除去された開口部43が形成され、リザーバ90の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
なお、このような液体噴射ヘッドは、図示しない外部液体供給手段から液体を取り込み、リザーバ90からノズル開口21に至るまで内部を液体で満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線34を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50,酸化ジルコニウム層101,酸化セリウム層102,YBCO層103,下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21から液滴が吐出する。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。
例えば、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型の液体噴射ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の液体噴射ヘッドにも本発明を採用することができる。
また、このような本発明の液体噴射ヘッドは、液体カートリッジ等と連通する液体流路を具備する噴射ヘッドユニットの一部を構成して、液体噴射装置に搭載される。図4は、その液体噴射装置の一例を示す概略図である。
図4に示すように、液体噴射ヘッドを有する噴射ヘッドユニット1A及び1Bは、液体供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この噴射ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この噴射ヘッドユニット1A及び1Bは、液体として、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、噴射ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上に搬送されるようになっている。
ここで、上述した実施形態においては、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド等の各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。勿論、このような液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置も特に限定されるものではない。
10 流路形成基板、12 圧力発生室、13 連通部、14 液体供給路、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 封止基板、31 リザーバ部、32 圧電素子保持部、33 接続孔、34 外部配線、40 コンプライアンス基板、50 弾性膜、60 下電極膜、70 圧電体層、80 上電極膜、90 リザーバ、101 酸化ジルコニウム層、102 酸化セリウム層、103 YBCO層
Claims (10)
- 結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板の一方面側に形成された結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層と、該酸化ジルコニウム層上に形成された結晶面方位が(100)配向の酸化セリウム層と、該酸化セリウム層上に形成されたイットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる結晶面方位が(100)配向のYBCO層と、該YBCO層上に形成された結晶面方位が(100)配向のルテニウム酸ストロンチウム(SRO)層とを具備する基板上に形成され、前記SRO層上にエピタキシャル成長により形成されたチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba,Sr)TiO3)及びチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)から選択される何れか一種からなる結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜であって、該単結晶強誘電体薄膜がイオン注入による点欠陥を有して巨大電歪効果を示すことを特徴とする単結晶強誘電体薄膜。
- 請求項1において、前記点欠陥が、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンから選択される少なくとも一種のイオンをイオン注入することにより形成されたことを特徴とする単結晶強誘電体薄膜。
- 請求項1又は2において、前記点欠陥が、Arイオンをイオン注入することにより形成されたことを特徴とする単結晶強誘電体薄膜。
- 請求項1〜3の何れかにおいて、前記酸化ジルコニウム層の下には前記シリコン単結晶基板を熱酸化してなる酸化シリコン層を有することを特徴とする単結晶強誘電体薄膜。
- 結晶面方位が(100)配向のシリコン単結晶基板からなり、該シリコン単結晶基板上の一方面側に形成された結晶面方位が(100)配向の酸化ジルコニウム層と、該酸化ジルコニウム層上に形成された結晶面方位が(100)配向の酸化セリウム層と、該酸化セリウム層上に形成されたイットリウム−バリウム−銅−酸素系材料(YBCO)からなる結晶面方位が(100)配向のYBCO層と、該YBCO層上に形成された結晶面方位が(100)配向のルテニウム酸ストロンチウム(SRO)層と、該SRO層上にエピタキシャル成長により形成されたチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba,Sr)TiO3)及びチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)から選択される何れか一種からなる結晶面方位が(100)配向の単結晶強誘電体薄膜であって、該単結晶強誘電体薄膜がイオン注入による点欠陥を有して巨大電歪効果を示す単結晶強誘電体薄膜と、該単結晶強誘電体薄膜上に形成された導電体層とを具備し、
前記シリコン単結晶基板が、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板として機能すると共に、該流路形成基板上に、前記SRO層からなる下電極と、前記単結晶強誘電体薄膜からなる圧電体層と、前記導電体層からなる上電極とを有する圧電素子が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。 - 請求項5において、前記点欠陥が、Feイオン、Coイオン、Niイオン、及びCrイオンから選択される少なくとも一種のイオンをイオン注入することにより形成されたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項5又は6において、前記点欠陥が、Arイオンをイオン注入することにより形成されたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項5〜7の何れかにおいて、前記酸化ジルコニウム層の下には前記シリコン単結晶基板を熱酸化してなる酸化シリコン層を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項5〜8の何れかにおいて、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板にドライエッチングにより形成され、前記圧電素子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項5〜9の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
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JP2009033148A (ja) * | 2007-07-05 | 2009-02-12 | Seiko Epson Corp | アクチュエータ装置及びその製造方法並びに液体噴射ヘッド |
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