JP2006206947A - 固体高分子型燃料電池システム用ステンレス鋼製接水部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 加湿タンク15,17,加湿タンク17,排水タンク18,冷媒19循環系統及び配管を、Ni,Cu,Mn等を低減したフェライト系ステンレス鋼で作製し、タンクや配管からの有害な金属イオンの溶出を抑制する。
【効果】 金属イオンの溶出が抑制されているので、燃料電池のイオン交換膜や触媒電極層の劣化が防止され、長期にわたり電池出力が高位に維持される。
【選択図】 図1
Description
固体高分子型燃料電池は、イオン交換膜11の両面に触媒電極層(カソード)12,触媒電極層(アノード)13を形成し、ガス拡散層で挟んだ膜-電極接合体を基本単位とし、実用に供せられる電力が取り出せるようにセパレータ14を介して複数の膜-電極接合体をスタックしている。固体高分子型燃料電池を用いた発電システムでは、純水,冷却水を流すため多数の配管,タンクが付設される。(図1)
高圧水素ボンベ等に貯蔵した水素をそのまま燃料に使用することもあるが、改質器16で天然ガスから得られた水素を使用することもある。天然ガスを改質する場合、燃料電池から排出された純水を加湿タンク17に回収し、加湿タンク17から改質器16に水蒸気を送り込んでいる。
燃料電池は、発電反応による発熱で昇温するが、発電性能,耐熱性を確保するため冷却を要する。燃料電池の冷却には、純水,純水・エチレングリコールの混合液を冷媒19としてセパレータ18の背面から送り込んで循環させる方式が採用されている。
金属イオンの溶出が少ないステンレス鋼が提供されると、ステンレス鋼本来の優れた加工性,耐食性を活用して設計自由度を高めた固体高分子型燃料電池システムの構築が可能になる。
〔C:0.020質量%以下,N:0.020質量%以下,C+N≦0.035質量%〕
C,Nは、フェライト系ステンレス鋼の加工性,溶接部の耐食性,耐溶出性を低下させる成分であり、可能な限り低減することが好ましいので個々の上限を0.020質量%に、合計量(C+N)の上限を0.035質量%に規定した。なかでも、高レベルの加工性,低温靭性が要求される場合には、(C+N)の上限を0.025質量%に設定する。
Siはフェライト系ステンレス鋼を硬質化し、Mnは耐食性,耐溶出性を劣化させるので、何れも低い含有量ほど好ましく共に上限を1.00質量%に規定した。
〔P:0.040質量%以下〕
P含有量の増加に伴いフェライト系ステンレス鋼が硬質化して加工性が劣化するので、上限を0.040質量%に規定した。
純水に溶出しやすい非金属介在物を形成する成分であり、ステンレス鋼の耐食性,耐溶出性にも悪影響を及ぼす。したがって、可能な限り低いS含有量ほど好ましく、本発明ではS含有量の上限を0.005質量%(好ましくは、0.002質量%)に規定した。
優先して純水や冷却水に溶出しやすい成分であり、Niの増量に応じてステンレス鋼表面に生成している不動態皮膜が粗くなり耐溶出性が低下する。Niイオンが溶出すると、燃料電池のイオン交換膜の劣化が促進される。したがって、Ni含有量を極力低減する必要がある。Ni含有量の増加に伴い不動態皮膜の溶出抑制機能が著しく低下し、素地からの金属溶出が多くなるので、Ni含有量の上限を0.60質量%(好ましくは、0.20質量%)に規定した。
Ni,Cuの含有量を個別に規制しても、合計含有量が多くなると耐溶出性が著しく低下するのでNi+Cu≦0.80質量%(好ましくは、Ni+Cu≦0.50質量%)を満足させる必要がある。合計含有量の増加に伴う耐溶出性の低下は、比較的多量のNi,Cuが共存することにより不動態皮膜が構造変化することに原因があると推察される。
純水環境における耐溶出性の向上に有効な成分であり、11質量%以上でCr添加の効果がみられ、20質量%以上で耐溶出性が著しく向上する。逆にCr含有量が11質量%を下回ると、不動態皮膜のCr濃度,緻密度が低下して溶出抑制作用が弱くなる。その結果、素材自体の溶出量が著しく増加し、イオン交換膜の分解に最も有害といわれているFeの溶出も非常に多くなる。耐溶出性はCr含有量の増加に応じて向上するが、過剰量のCr含有は加工性,低温脆性の劣化を招くので上限を40質量%に規定した。
Crと同様に不動態皮膜を緻密化し耐溶出性,耐食性の改善に有効な成分であり、Mo含有量の増加に伴って耐溶出性が向上する。しかし、過剰量のMo含有はフェライト系ステンレス鋼を硬質化して加工性を低下させるので、上限を2.5質量%に規定した。
〔Nb:0.80質量%以下,Ti:0.80質量%以下〕
何れも溶接部の耐溶出性,耐食性の改善に有効な合金成分であり、共に0.03質量%以上でNb,Tiの添加効果がみられる。しかし、過剰添加は加工性,低温靭性,表面性状の劣化を招くので、それぞれ上限をNb:0.80質量%,Ti:0.80質量%に規定した。
Nを固定し溶接部耐食性を改善する成分であり、溶接時の酸化スケールを抑制することによって溶接部の耐溶出性を向上させる作用も呈し、0.04質量%以上でAlの添加効果がみられる。しかし、Alを過剰添加すると低温靭性の確保が困難になるので、Al含有量の上限を0.50質量%に規定した。
〔V:0.03〜1.00質量%〕
必要に応じて添加される合金成分であり、不動態皮膜を強化し、耐溶出性,耐食性を改善する作用を呈する。Vの添加効果は0.03質量%以上でみられるが、1.00質量%を超える過剰添加は低温靭性,製造性に悪影響を及ぼす。
耐溶出性,加工性の改善に有効な成分であり、0.0002質量%以上でBの添加効果がみられる。しかし、過剰添加すると加工性,熱間加工性が却って低下するので、上限を0.040質量%に規定した。
前掲の成分以外に関しては特段の規制はないが、製造コスト,耐溶出性を大きく阻害しない範囲で適宜の成分を必要に応じて添加できる。この種の成分としては、たとえば溶接部耐食性の改善に有効な炭窒化物生成元素や硫化物生成元素が挙げられる。具体的には、Ta,Zr,Hfの一種又は二種以上を0.10〜0.25質量%の範囲で、Mg,Ca,Yの一種又は二種以上を0.1質量%以下の範囲で添加できる。耐食性の改善に有効なW,Co,Snの一種又は二種以上を0.50質量%以下の範囲で添加しても良い。
表2の分析結果にみられるように、本発明に従った組成をもつ試験片では溶出イオン量が少なかったのに対し、本発明で規定した範囲を外れる組成の試験片では溶出イオン量が三倍以上に増加していた。
固体高分子型燃料電池のカソード12側に水素,アノード13側に空気を送り込み、0.5A/cm2の定電流で5000時間連続運転した。なお、加湿タンク15の温度を90℃に設定し、カソード12側に送り込まれる水素だけを加湿した。
また、運転開始から2500時間経過した時点で固体高分子型燃料電池内の純水を全て取り替え、純水に含まれている溶出金属イオンをIPC−MASS法で定量分析し、Fe,Cr,Ni,Cu,Mn五元素の総和として金属イオンの溶出量を求めた。
他方、本発明で規定した成分条件を満足しないフェライト系ステンレス鋼から作製された配管、タンクを組み込んだ固体高分子型燃料電池システムでは、連続運転の時間経過に伴い出力低下がみられ、連続運転が長くなるほど電池出力が大幅に低下した。配管、タンクに溶出した金属イオンも、本発明例と比較すると一桁程度大きな溶出量であった。
この対比から明らかなように、本発明に従って成分・組成が規制されたフェライト系ステンレス鋼から作製された配管,タンク等を組み込むことによって、イオン交換膜や触媒電極層に悪影響を及ぼす金属イオンの溶出が少なくなり、長期にわたって高い電池出力を維持できることが判る。
Claims (3)
- 固体高分子型燃料電池に供給され又は固体高分子型燃料電池から排出される純水又は冷却水と接触する部材であり、C:0.020質量%以下,Si:1.00質量%以下,Mn:1.00質量%以下,P:0.040質量%以下,S:0.005質量%以下,Ni:0.60質量%以下,Cu:0.50質量%以下,Cr:11〜40質量%,Mo:2.5質量%以下,N:0.020質量%以下及びNb:0.80質量%以下,Ti:0.80質量%以下,Al:0.50質量%以下の一種又は二種以上を含み、Ni+Cu≦0.80質量%,C+N≦0.035質量%を満足する組成をもつフェライト系ステンレス鋼から作製されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池システム用ステンレス鋼製接水部材。
- 請求項1記載のフェライト系ステンレス鋼が更にV:0.03〜1.00質量%,B:0.0002〜0.0040質量%の一種又は二種を含む固体高分子型燃料電池システム用ステンレス鋼製接水部材。
- 純水又は冷却水と接触する部材が配管又はタンクである請求項1記載の固体高分子型燃料電池システム用ステンレス鋼製接水部材。
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