以下、図面を参照して、本発明に係るドラムブレーキ装置の実施の形態を説明する。
本実施の形態では、本発明に係るドラムブレーキ装置を、5つのブレーキシュー及び6つのホイールシリンダを備えるドラムブレーキ装置に適用する。本実施の形態に係るドラムブレーキ装置は、通常ブレーキ時(トルク変動が発生していない場合)には1つのホイールシリンダをマスタシリンダと連通させ、制御ブレーキ時(トルク変動が発生している場合)には所定角度間隔で配置された2つのホイールシリンダをマスタシリンダと連通させる。本実施の形態には、3つの形態があり、第1の実施の形態が基本的な構成であり、第2の実施の形態が通常ブレーキ時と制御ブレーキ時の油量変化対策を追加した構成であり、第3の実施の形態が連通系統切り換え時の油圧ライン断絶対策を追加した構成である。
ドラムブレーキ装置について具体的に説明する前に、ブレーキ振動の要因となるトルク変動の回転成分について説明しておく。トルク変動の主要因と考えられるのは、制動中のブレーキドラムとブレーキシュー(ライニング)との間の面圧の変化であり、局部の面圧が大きくなることによって局部の発生トルクが大きくなるならである。この面圧の変化が油圧の脈動となって現れる。そこで、ドラムブレーキ装置では、トルク変動が発生している場合、面圧の高いところと低いところを2つの連通するホイールシリンダで同時に押圧することによって、面圧の高い位置のホイールシリンダから面圧の低い位置のホイールシリンダに油圧を移動させることによってトルク変動を打ち消す。
トルク変動の回転成分は、主なものとして、回転1次成分、回転2次成分、変形2次成分、回転3次成分、変形3次成分、回転4次成分、変形4次成分、回転5次成分、回転6次成分がある。これらの回転成分は、油圧ラインにおける油圧の脈動から判る。油圧の脈動おける1周期において(車輪1回転当たりに)脈動が所定角度毎に規則正しく現れる場合が回転であり、油圧の脈動おける1周期において脈動が1つなど不規則に現れる場合が変形であり、脈動おける山(高い油圧)と谷(低い油圧)の間隔(ライニングの面圧の高いところと低いところの間隔)によって次数が決まる。
回転1次成分の場合、図5に示すように、面圧の高いところと低いところの間隔が180度であり、この間隔でライニングの面圧が周期的に変化する。このトルク変動は、図6に示すように、ブレーキドラムの芯触れによって発生すると推測でき、ブレーキドラムが中心に近づく側が面圧が高くなり、中心から遠ざかる側が面圧が低くなる。図6の破線で示す円が真のブレーキドラムの位置であり、実線で示す円のブレーキドラムが中心からずれている。そこで、回転1次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な180度間隔で配置された2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
回転2次成分の場合、面圧の高いところと低いところの間隔が90度であり、この間隔でライニングの面圧が周期的に変化する。そこで、回転2次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な90度間隔で配置させた2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
変形2次成分の場合も、面圧の高いところと低いところの間隔が90度であり、1周期中に1回だけこの間隔でライニングの面圧が変化する。このトルク変動は、図7に示すように、ブレーキドラムの歪みによって発生すると推測でき、ブレーキドラムが短径となった位置で面圧が高くなり、長径となった位置で面圧が低くなる。図7の破線で示すブレーキドラムが真円であり、実線で示すブレーキドラムが楕円である。そこで、変形2次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な90度間隔で配置させた2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
回転3次成分の場合、図8に示すように、面圧の高いところと低いところの間隔が180度であり、この間隔でライニングの面圧が周期的に変化する。そこで、回転3次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な180度間隔で配置させた2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
変形3次成分の場合、図9に示すように、面圧の高いところと低いところの間隔が60度であり、1周期中で1回だけこの間隔でライニングの面圧が変化する。そこで、変形3次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な60度間隔で配置させた2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
回転4次成分の場合、面圧の高いところと低いところの間隔が135度であり、135度間隔でライニングの面圧が周期的に変化する。そこで、回転4次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な135度間隔で配置させた2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
変形4次成分の場合、面圧の高いところと低いところの間隔が45度であり、1周期中で1回だけこの間隔でライニングの面圧が変化する。そこで、変形4次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な45度間隔で配置させた2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
回転5次成分の場合、面圧の高いところと低いところの間隔が180度であり、この間隔でライニングの面圧が周期的に変化する。そこで、回転5次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な180度間隔で配置させた2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
回転6次成分の場合、面圧の高いところと低いところの間隔が90度であり、この間隔でライニングの面圧が周期的に変化する。そこで、回転6次成分のトルク変動の場合、油圧が移動自在な90度間隔で配置させた2つのホイールシリンダでブレーキシューを押圧することによって、トルク変動を解消できる。
図1〜図3を参照して、第1の実施の形態に係るドラムブレーキ装置1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係るドラムブレーキ装置の油圧系及び制御系の構成図である。図2は、本実施の形態に係るドラムブレーキの構成図である。図3は、本実施の形態に係る電磁多方向弁であり、(a)が側断面図であり、(b)が平断面図である。
ドラムブレーキ装置1は、車輪と共に回転するブレーキドラムを備え、ブレーキドラムにブレーキシューを押し付けることによって制動力を発生させる。特に、ドラムブレーキ装置1では、トルク変動が発生している場合、ブレーキ振動を低減することができる。そのために、ドラムブレーキ装置1は、ドラムブレーキ2、マスタシリンダ3、電磁多方向弁4、油圧センサ5、振動センサ6、車速センサ7、ブレーキECU[Electronic Control Unit]8などを備えている。各ドラムブレーキ2は、ブレーキドラム10、バッキングプレート11、第1ブレーキシュー12A、第2ブレーキシュー12B、第3ブレーキシュー12C、第4ブレーキシュー12D、第5ブレーキシュー12E、5つのアンカ13,13,13,13,13、第1ホイールシリンダ14A、第2ホイールシリンダ14B、第3ホイールシリンダ14C、第4ホイールシリンダ14D、第5ホイールシリンダ14E、第6ホイールシリンダ14Fなどから構成される。
なお、第1の実施の形態では、電磁多方向弁4が特許請求の範囲に記載する多方向連通手段(特に、回転体)に相当し、ブレーキECU8が特許請求の範囲に記載する制御手段に相当する。
ブレーキドラム10は、ホイールハブ(図示せず)に取り付けられ、車輪と共に回転する。ブレーキドラム10の内側には、ブレーキシュー12A〜12E、アンカ13,・・・、ホイールシリンダ14A〜14Fが配置される。
ブレーキシュー12A〜12Eは、ブレーキドラム10の内周に沿った円弧状の部材である。ブレーキシュー12A、12B,12Cは、通常ブレーキ時及び制御ブレーキ時に使用され、周方向に沿った4分割タイプであり、ブレーキドラム10の内周面を4分の1より若干狭い部分を押圧する大きさを有している。ブレーキシュー12A,12B,12Cは、90度間隔で配置される。ブレーキシュー12D,12Eは、制御ブレーキ時だけに使用され、周方向に沿った8分割タイプであり、ブレーキドラム10の内周面を8分の1より若干狭い部分を押圧する大きさを有している。ブレーキシュー12D,12Eは、第1ブレーキシュー12Aと第3ブレーキシュー12Cとの間に配置され、45度間隔で配置される。ブレーキシュー12A〜12Eの外周面には、ライニング(摩擦材)がそれぞれ取り付けられている。
アンカ13,13,13,13,13は、ブレーキシュー12A〜12Eの間にはそれぞれ配置され、バッキングプレート11に固定される。アンカ13,13,13,13,13は、ブレーキシュー12A〜12Eがブレーキドラム10に押し付けられているときに、そのブレーキシュー12A〜12Eの力を受ける部材である。
第1ホイールシリンダ14Aは、第1ブレーキシュー12Aの中央部を押圧する位置に設けられる。第2ホイールシリンダ14Bは、第2ブレーキシュー12Bを押圧する位置かつ第1ホイールシリンダ14Aと60度間隔をあけた位置に設けられる。第3ホイールシリンダ14Cは、第2ブレーキシュー12Bの中央部を押圧する位置に設けられる。第4ホイールシリンダ14Dは、第3ブレーキシュー12Cの中央部を押圧する位置に設けられる。したがって、第4ホイールシリンダ14Dは、第1ホイールシリンダ14Aと180度間隔あけた位置に配置され、第3ホイールシリンダ14Cと90度間隔あけた位置に配置される。第6ホイールシリンダ14Fは、第5ブレーキシュー12Eを押圧する位置かつ第2ホイールシリンダ14Bと135度間隔をあけた位置に設けられる。第5ホイールシリンダ14Eは、第4ブレーキシュー12Dを押圧する位置かつ第6ホイールシリンダ14Fと45度間隔をあけた位置に設けられる。ホイールシリンダ14A〜14Fは、ピストン14aがブレーキシュー12A〜12Eの内側を押圧可能な位置にバッキングプレート11に固定される。
ホイールシリンダ14A〜14Fでは、マスタシリンダ3からの油圧を受けるとピストン14aをそれぞれ押し出し、対応するブレーキシュー12A〜12Eを外側にそれぞれ押圧する。また、ホイールシリンダ14A〜14Fでは、マスタシリンダ3からの油圧がなくなると、対向するブレーキシュー間に設けられたリターンスプリング(図示せず)によってピストン14aが戻される。なお、ホイールシリンダ14B,14E,14Fは、他のホイールシリンダ14A,14C,14Dのようにブレーキシューの中央部を押圧しないので、ピストン径などによって発生軸力を考慮する必要がある。
通常ブレーキ時には、第1ホイールシリンダ14A、第3ホイールシリンダ14C、第4ホイールシリンダ14Dのうちのいずれかの1つのホイールシリンダがマスタシリンダ3に連通される。制御ブレーキ時には、180度間隔の第1ホイールシリンダ14Aと第4ホイールシリンダ14D、135度間隔の第2ホイールシリンダ14Bと第6ホイールシリンダ14F、90度間隔の第3ホイールシリンダ14Cと第4ホイールシリンダ14D、60度間隔の第1ホイールシリンダ14Aと第2ホイールシリンダ14B、45度間隔の第5ホイールシリンダ14Eと第6ホイールシリンダ14Fのうちのいずれか1組のホイールシリンダがマスタシリンダ3に連通され、この1組のホイールシリンダも互いに連通される。
電磁多方向弁4は、周方向に沿って配置されたホイールシリンダ14A〜14Fの内側に配置される。電磁多方向弁4には、中央部に回転部4aが設けられており、回転部4aが車幅方向に沿って配置されている。回転部4aは、凸形状を有しており、円板部4bの中央に円柱部4cが立設されている。円柱部4cの外周部には、モータ4dが設けられている。モータ4dは、内周側にコイル4eを備え、回転部4aを回転させる。モータ4dは、ブレーキECU8に接続され、ブレーキECU8から制御信号CSが送信される。そして、モータ4dは、制御信号CSに示される方向かつ制御信号CSに示される回転角度分、回転部4aを回転させる。また、電磁多方向弁4には、円板部4bを覆うように固定部4fが設けられており、固定部4fがバッキングプレート11に固定される。固定部4fは、円板部4bと嵌合する凹形状であり、凹形状の底部には円柱部4cが嵌め込まれる孔部が形成されている。
固定部4fの外周部には、ホイールシリンダ14A〜14Fの内周端部にそれぞれ接続するように接続端4g,4h,4i,4j,4k,4lが設けられている。接続端4gは第1ホイールシリンダ14Aに接続する位置に配置され、接続端4hは第2ホイールシリンダ14Bに接続する位置に配置され、接続端4iは第3ホイールシリンダ14Cに接続する位置に配置され、接続端4jは第4ホイールシリンダ14Dに接続する位置に配置され、接続端4kは第5ホイールシリンダ14Eに接続する位置に配置され、接続端4lは第6ホイールシリンダ14Fに接続する位置に配置される。接続端4g〜4lの内部には、各ホイールシリンダ14A〜14Fに油を流すための接続路が形成されている。固定部4fには、接続端4g〜4lの各接続路に繋がり、回転部4aまで油を流すための接続路4mがそれぞれ形成されている。
円柱部4cの中央には、マスタシリンダ3と連通するメイン連通路4nが設けられている。メイン連通路4nは、円柱部4cを貫通し、円板部4bの中程まで延びる。円板部4bには、メイン連通路4nから外周端までそれぞれ延びる11本のサブ連通路4o,4p,4q,4r,4s,4t,4u,4v,4w,4x,4yが形成されている。
サブ連通路4oは、通常ブレーキ時に使用され、第1ホイールシリンダ14A、第3ホイールシリンダ14C、第4ホイールシリンダ14Dのうちのいずれかの1つのホイールシリンダとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、通常ブレーキ時には、電磁多方向弁4では、サブ連通路4oが接続端4g、接続端4i、接続端4jのいずれかに繋がるように、回転部4aが回転する。
サブ連通路4pとサブ連通路4uは、180度間隔をあけて配置され、制御ブレーキ時に第1ホイールシリンダ14A及び第4ホイールシリンダ14Dとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁4では、接続端4gと接続端4jとの間にサブ連通路4p及びサブ連通路4uが繋がるように、回転部4aが回転する。
サブ連通路4rとサブ連通路4yは、135度間隔をあけて配置され、第2ホイールシリンダ14B及び第6ホイールシリンダ14Fとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁4では、接続端4hと接続端4lとの間にサブ連通路4r及びサブ連通路4yが繋がるように、回転部4aが回転する。
サブ連通路4qとサブ連通路4sは、90度間隔をあけて配置され、第3ホイールシリンダ14C及び第4ホイールシリンダ14Dとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁4では、接続端4iと接続端4jとの間にサブ連通路4q及びサブ連通路4sが繋がるように、回転部4aが回転する。
サブ連通路4wとサブ連通路4yは、60度間隔をあけて配置され、第1ホイールシリンダ14A及び第2ホイールシリンダ14Bとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁4では、接続端4gと接続端4hとの間にサブ連通路4w及びサブ連通路4yが繋がるように、回転部4aが回転する。
サブ連通路4tとサブ連通路4vは、45度間隔をあけて配置され、第5ホイールシリンダ14E及び第6ホイールシリンダ14Fとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁4では、接続端4kと接続端4lとの間にサブ連通路4t及びサブ連通路4vが繋がるように、回転部4aが回転する。
このように、ホイールシリンダ14A〜14Fのうちの1つまたは2つのホイールシリンダは、電磁多方向弁4をよって油圧系統が互いに繋がり、繋がって1本になった油圧系統がマスタシリンダ3に繋がっている。したがって、2つのホイールシリンダを連通させた場合、常時、その2つのホイールシリンダ間で同じ油圧になるように作用する。
電磁多方向弁としては、図4に示すようなタイプも考えられる。この電磁多方向弁9は、回転タイプではなく、軸方向移動タイプである。電磁多方向弁9も、周方向に沿って配置されたホイールシリンダ14A〜14Fの内側に配置される。電磁多方向弁9には、中央部に軸方向移動部9aが設けられており、軸方向移動部9aが車幅方向に沿って配置されている。軸方向移動部9aは、円柱形状を有している。電磁多方向弁9には、軸方向移動部9aを軸方向に沿って移動させるためのモータ(図示せず)が設けられている。モータでは、制御信号CSに示される方向かつ制御信号CSに示される移動量、軸方向移動部9aを移動させる。また、電磁多方向弁9には、軸方向移動部9aの外周を覆うように固定部9fが設けられており、固定部9fがバッキングプレート11に固定される。固定部9fは、軸方向移動部9aと嵌合する筒形状である。
固定部9fの外周部には、電磁多方向弁4と同様に、ホイールシリンダ14A〜14Fの内周端部にそれぞれ接続するように接続端9g,9h,9i,9j,9k,9lが設けられている。接続端9g〜9lの内部には各ホイールシリンダ14A〜14Fに油を流すための接続路が形成され、固定部9fには接続端9g〜9lの各接続路に繋がり、軸方向移動部9aまで油を流すための接続路9mがそれぞれ形成されている。
軸方向移動部9aの中央には、マスタシリンダ3と連通するメイン連通路9nが設けられている。メイン連通路9nは、軸方向移動部9aのマスタシリンダ3側の端面に開口し、軸方向移動部9aの他端面側の近くまで延びる。軸方向移動部9aには、メイン連通路9nから外周端までそれぞれ貫通する6本のサブ連通路9o,9p,9q,9r,9s,9tが形成されている。
サブ連通路9oは、接続端4gに繋がる位置に配置される。サブ連通路9oは、通常ブレーキ時に使用され、第1ホイールシリンダ14Aとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、通常ブレーキ時には、電磁多方向弁9では、サブ連通路9oが接続端9gに繋がるように、軸方向移動部9aが移動する。
サブ連通路9pは、サブ連通路9oよりマスタシリンダ3側に、接続端4gと接続端4jとの間に繋がる位置に配置される。サブ連通路9pは、制御ブレーキ時に第1ホイールシリンダ14A及び第4ホイールシリンダ14Dとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁9では、接続端4gと接続端4jとの間にサブ連通路4pが繋がるように、軸方向移動部9aが移動する。
サブ連通路9qは、サブ連通路9pよりマスタシリンダ3側に、接続端4hと接続端4lとの間に繋がる位置に配置される。サブ連通路9qは、第2ホイールシリンダ14B及び第6ホイールシリンダ14Fとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁9では、接続端4hと接続端4lとの間にサブ連通路4qが繋がるように、軸方向移動部9aが移動する。
サブ連通路9rは、サブ連通路9oよりマスタシリンダ3とは反対側に、接続端4iと接続端4jとの間に繋がる位置に配置される。サブ連通路9rは、第3ホイールシリンダ14C及び第4ホイールシリンダ14Dとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、電磁多方向弁9では、接続端4iと接続端4jとの間にサブ連通路4rが繋がるように、軸方向移動部9aが移動する。
サブ連通路9sは、サブ連通路9qよりマスタシリンダ3側に、接続端4gと接続端4hとの間に繋がる位置に配置される。サブ連通路9sは、第1ホイールシリンダ14A及び第2ホイールシリンダ14Bとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁9では、接続端4gと接続端4hとの間にサブ連通路4sが繋がるように、軸方向移動部9aが移動する。
サブ連通路9tは、サブ連通路9rよりマスタシリンダ3とは反対側に、接続端4kと接続端4lとの間に繋がる位置に配置される。サブ連通路9tは、第5ホイールシリンダ14E及び第6ホイールシリンダ14Fとマスタシリンダ3とを連通するための連通路である。したがって、制御ブレーキ時には、電磁多方向弁9では、接続端4kと接続端4lとの間にサブ連通路4tが繋がるように、軸方向移動部9aが移動する。
油圧センサ5は、マスタシリンダ3から電磁多方向弁4にいたる油圧ラインのいずれかの箇所に設けられ、油圧を検出するセンサである。油圧センサ5では、その検出値を油圧信号OSとしてブレーキECU8に送信している。振動センサ6は、バッキングプレート11に設けられ、振動を検出するセンサである。振動センサ6では、その検出値を振動信号VSとしてブレーキECU8に送信している。車速センサ7は、4輪に各々設けられ、各車輪の回転速度を検出するセンサである。車速センサ7は、その検出値を示す車速信号SSをブレーキECU8に送信している。
ブレーキECU8は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなる電子制御ユニットであり、ドラムブレーキ装置1の制御装置として機能する。ブレーキECU8では、各センサ5,6,7からの各信号OS,VS,SSを取り入れ、これら信号OS,VS,SSに基づいて電磁多方向弁4のモータ4dを制御する。
ブレーキECU8では、車速信号SSを受信する毎に、各輪の回転速度から車速を演算する。さらに、ブレーキECU8では、車速を演算する毎に走行距離を演算し、車両が使用開始されたときからの累積走行距離を演算する。なお、累積走行距離については、メータ装置から取り入れる構成としてもよい。
ブレーキECU8では、油圧信号OSによる油圧から油圧の脈動を検出する。そして、ブレーキECU8では、この油圧の脈動からトルク変動が発生しているか否かを判定する。脈動が無く、フラット場合にはトルク変動がなく、脈動がある場合にはトルク変動がある。
トルク変動が発生していると判定した場合、ブレーキECU8では、FFTを利用して、車速と油圧の脈動を解析し、トルク変動の回転成分を判定する。そして、ブレーキECU8では、回転成分と回転部4aの回転角度と回転方向との関係を示したマップを用いて、判定した回転成分を基づいて回転角度と回転方向とを決定する。さらに、ブレーキECU8では、その回転角度と回転方向を示した制御信号CSを生成し、その制御信号CSを電磁多方向弁4のモータ4dに送信する。回転成分と回転部4aの回転角度と回転方向との関係を示したマップは、電磁多方向弁4のサブ連通路4o〜4yの配置及び接続端4g〜4lの配置などを考慮して予め求められたものであり、ブレーキECU8のROMに保持されている。
具体的には、回転1次成分、回転3次成分、回転5次成分と判定した場合、第1ホイールシリンダ14A及び第4ホイールシリンダ14Dを連通させるために、ブレーキECU8では、接続端4gと接続端4jとの間にサブ連通路4p及びサブ連通路4uが繋がるための回転角度と回転方向を制御信号CSに設定する。回転2次成分、変形2次成分、回転6次成分と判定した場合、第3ホイールシリンダ14C及び第4ホイールシリンダ14Dを連通させるために、ブレーキECU8では、接続端4iと接続端4jとの間にサブ連通路4q及びサブ連通路4sが繋がるための回転角度と回転方向を制御信号CSに設定する。変形3次成分と判定した場合、第1ホイールシリンダ14A及び第2ホイールシリンダ14Bを連通させるために、ブレーキECU8では、接続端4gと接続端4hとの間にサブ連通路4w及びサブ連通路4yが繋がるための回転角度と回転方向を制御信号CSに設定する。回転4次成分と判定した場合、第2ホイールシリンダ14B及び第6ホイールシリンダ14Fを連通させるために、ブレーキECU8では、接続端4hと接続端4lとの間にサブ連通路4r及びサブ連通路4yが繋がるための回転角度と回転方向を制御信号CSに設定する。変形4次成分と判定した場合、第5ホイールシリンダ14E及び第6ホイールシリンダ14Fを連通させるために、ブレーキECU8では、接続端4kと接続端4lとの間にサブ連通路4t及びサブ連通路4vが繋がるための回転角度と回転方向を制御信号CSに設定する。
トルクが変動していない判定した場合、ブレーキECU8では、累積走行距離に基づいて、現在通常ブレーキとして使用しているブレーキシューに切り換えてからの走行距離が一定距離(例えば、1万km)以上になったか否かを判定する。一定距離以上の場合、ブレーキシューを切り換えるために、ブレーキECU9では、次に通常ブレーキとして使用するブレーキシューとホイールシリンダを選択する。そして、ブレーキECU8では、回転成分と回転部4aの回転角度と回転方向との関係を示したマップを用いて、選択したホイールシリンダとマスタシリンダ3とが連通するように回転角度と回転方向とを決定する。さらに、ブレーキECU8では、その回転角度と回転方向を示した制御信号CSを生成し、その制御信号CSを電磁多方向弁4のモータ4dに送信する。なお、通常ブレーキとして使用するのは、第1ブレーキシュー12A、第2ブレーキシュー12B、第3ブレーキシュー12Cとこのブレーキシュー12A〜12Cにそれぞれ対応する第1ホイールシリンダ14A、第3ホイールシリンダ14C、第4ホイールシリンダ14Dである。
一定距離未満の場合、ブレーキECU8では、振動信号VSによる振動から振動波形を解析し、低周波鳴きが発生しているか否かを判定する。ブレーキECU8では、この振動波形を解析する際に、ROMに保持している予め実験などによって求められた低周波鳴きを発生する場合の標準の振動波形を用いる。低周波鳴きが発生していると判定した場合、ブレーキECU8では、次に通常ブレーキとして使用するブレーキシューとホイールシリンダを選択し、上記と同様に、選択したホイールシリンダとマスタシリンダ3とが連通するように回転角度と回転方向とを決定し、その回転角度と回転方向を示した制御信号CSを電磁多方向弁4のモータ4dに送信する。
図1〜図3を参照して、ドラムブレーキ装置1の動作について説明する。特に、ブレーキECU8における制御については、図10のフローチャートに沿って説明する。図10は、図10は、第1の実施の形態に係るブレーキECUにおける制御の流れを示すフローチャートである。
運転者がブレーキペダルを踏むと、その踏み込み力に応じてマスタシリンダ3に油圧が発生する。油圧センサ5では、その油圧を検出し、ブレーキECU8に油圧信号OSを送信している。また、振動センサ6では、制動時の振動を検出し、ブレーキECU8に振動信号VSを送信している。また、車速センサ7では、各輪の回転速度を各々検出し、ブレーキECU8に車速信号SSを各々送信している。
電磁多方向弁4では、サブ連通路4oが接続端4g,4i,4jのうちのいずれかと繋がっている。そのため、ホイールシリンダ14A,14C,14Dのうちの1つのホイールシリンダがマスタシリンダ3と連通している。したがって、マスタシリンダ3で発生した油圧は、その1つのホイールシリンダに伝わる。このホイールシリンダでは、油圧を受けるとピストン14aを押し出し、対応するブレーキシューをそれぞれ押圧する。そのブレーキシューのライニングがブレーキドラム10に押し付けられることによって、ブレーキトルクが発生し、車両に制動力が作用している。
ブレーキECU8では、車速信号SSを受信し、車速を演算し、さらに、累積走行距離を演算する(S1)。また、ブレーキECU8では、振動信号VSを受信し、一定時間毎の振動を取得する(S2)。また、ブレーキECU8では、油圧信号OSを受信し、一定時間毎の油圧を取得する(S3)。
そして、ブレーキECU8では、この取得した油圧から脈動を検出する(S4)。さらに、ブレーキECU8では、油圧の脈動により、トルク変動が発生しているか否かを判定する(S5)。
S5にてトルク変動が発生していると判定した場合、ブレーキECU8では、車速と油圧の脈動を用いてFFTによる解析により、トルク変動の回転成分を判定する(S6)。そして、ブレーキECU8では、制御ブレーキ用のホイールシリンダに切り換えるために、マップを用いて回転成分に応じて回転角度と回転方向を求め、その回転角度と回転方向を示した制御信号CSを電磁多方向弁4のモータ4dに送信する(S7)。この制御信号CSを受信すると、電磁多方向弁4では、モータ4dが回転部4aを制御信号CSに示される方向に、制御信号CSに示される回転角度分回転させる。すると、電磁多方向弁4では、回転成分に応じて、サブ連通路4p〜4yのうちの2つのサブ連通路が接続端4g〜4lのいずれかの接続端に繋がる。これによって、回転成分に応じて、ホイールシリンダ14A〜14Fのうちの2つのホイールシリンダがマスタシリンダ3と連通する。したがって、マスタシリンダ3で発生した油圧は、その2つのホイールシリンダに伝わる。2つのホイールシリンダでは、油圧を受けるとそれぞれピストン14aを押し出し、対応するブレーキシューをそれぞれ押圧する。そのブレーキシューのライニングがそれぞれブレーキドラム10に押し付けられることによって、ブレーキトルクが発生し、車両に制動力が作用する。
この際、2つのホイールシリンダの角度間隔はライニングの面圧の高いところと低いところの間隔と一致しているので、面圧の高いところを一方のホイールシリンダが押圧した場合には他方のホイールシリンダは面圧を低いところを押圧することになる。この2つのホイールシリンダは電磁多方向弁4によって互いに連通しているので、面圧の高いところをお押圧している一方のホイールシリンダから面圧の低いところ押圧しているホイールシリンダに油圧が移動する。その結果、面圧の高低差が抑制あるいは無くなり、トルク変動が抑制あるいは無くなる。
S5にてトルク変動が発生していないと判定した場合、ブレーキECU8では、累積走行距離に基づいて、現在使用しているブレーキシューを切り換えたときから一定距離以上走行したか否かを判定する(S8)。S8にて一定距離以上走行したと判定した場合、ブレーキECU8では、通常ブレーキ用として現在使用しているホイールシリンダ(ひいては、ブレーキシュー)を次のホイールシリンダに切り換えるために、マップを用いて回転角度と回転方向を求め、その回転角度と回転方向を示した制御信号CSを電磁多方向弁4のモータ4dに送信する(S10)。この制御信号CSを受信すると、電磁多方向弁4では、モータ4dが回転部4aを制御信号CSに示される方向に、制御信号CSに示される回転角度分回転させる。すると、電磁多方向弁4では、サブ連通路4oが接続端4g,4i,4jのいずれかの接続端に繋がる。これによって、ホイールシリンダ14A,14C,14Dのうちの1つのホイールシリンダがマスタシリンダ3と連通する。したがって、マスタシリンダ3で発生した油圧は、その1つのホイールシリンダに伝わる。そのホイールシリンダでは、油圧を受けるとピストン14aを押し出し、対応するブレーキシューを押圧する。このブレーキシューのライニングがブレーキドラム10に押し付けられることによって、ブレーキトルクが発生し、車両に制動力が作用する。このように、一定走行距離毎に通常ブレーキ用のブレーキシュー12A,12B,12Cが切り換わるので、ライニングの摩耗が3つのブレーキシューで均一化が図られ、1つのブレーキシューが偏摩耗することがなくなる。
S8にて一定距離以上走行していないと判定した場合、ブレーキECU8では、振動信号VSによる振動の波形から低周波鳴きが発生しているか否かを判定する(S9)。S9にて低周波鳴きが発生したと判定した場合、ブレーキECU8では、上記と同様に、通常ブレーキ用として現在使用しているホイールシリンダを次のホイールシリンダに切り換えるために、制御信号CSを電磁多方向弁4のモータ4dに送信する(S10)。この制御信号CSを受信すると、電磁多方向弁4では、モータ4dが回転部4aを回転させ、サブ連通路4oが接続端4g,4i,4jのいずれかの接続端に繋がる。これによって、ホイールシリンダ14A,14C,14Dのうちの1つのホイールシリンダがマスタシリンダ3と連通し、上記と同様に、その1つのホイールシリンダが作動し、ブレーキシュー12A,12B,12Cが切り換わる。このように、低周波鳴きが発生した場合には通常ブレーキ用のブレーキシュー12A,12B,12Cが切り換わるので、構造的に摩擦状況が安定したことによる低周波鳴き頻度の増加を、ライニングを換えることによって低周波鳴きを低減できる。
このドラムブレーキ装置1によれば、様々な回転成分のトルク変動を抑制することができるので、ブレーキドラム10の振動状態を変化させ、ブレーキ振動を低減することができる。また、ドラムブレーキ装置1では、通常ブレーキに使用するブレーキシュー(ライニング)を一定距離毎に切り換えるので、ライニングの摩耗寿命を向上させることができる。さらに、ドラムブレーキ装置1では、低周波鳴きが発生した場合には通常ブレーキに使用するブレーキシュー(ライニング)を切り換えるので、低周波鳴きを低減することができる。また、ドラムブレーキ装置1では、回転タイプの電磁多方向弁4を用いているので、連通系統の切り換えをコンパクトな構造で行うことができる。
図2、図3、図11及び図12を参照して、第2の実施の形態に係るドラムブレーキ装置21について説明する。図11は、第2の実施の形態に係るドラムブレーキ装置の油圧系及び制御系の構成図である。図12は、図11における電磁多方向弁と保持用配管、保持用導通弁及び逆流防止弁との配管図である。なお、ドラムブレーキ装置21では、第1の実施の形態に係るドラムブレーキ装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
ドラムブレーキ装置21は、ドラムブレーキ装置1に対して、通常ブレーキ時と制御ブレーキ時の油量の差を解消するための構成を有している。そのために、ドラムブレーキ装置21は、ドラムブレーキ2、マスタシリンダ3、電磁多方向弁4、油圧センサ5、振動センサ6、車速センサ7、保持用配管22、保持用導通弁23,24、逆流防止弁25、ブレーキECU28などを備えている。
なお、第2の実施の形態では、保持用配管22、保持用導通弁23,24が特許請求の範囲に記載する保持手段に相当し、ブレーキECU28が特許請求の範囲に記載する制御手段に相当する。
制御ブレーキ時には2のホイールシリンダを使用し、通常ブレーキ時には1つのホイールシリンダを使用する。そのため、制御ブレーキ時は、通常ブレーキ時に比べて、使用するホイールシリンダの数が増え、消費する油量も増加する。そこで、この油量の差を解消するために、ドラムブレーキ装置21では、通常ブレーキ時にはその油量を保持し、制御ブレーキ時には保持している油量を開放する構成を採っている。なお、マスタシリンダ3では、制御ブレーキ時に十分な油圧を供給するために、2つのホイールシリンダにとって十分な油圧を発生させている。
保持用配管22は、保持用導通弁23と保持用導通弁24との間に配管される。保持用配管22は、通常ブレーキ時と制御ブレーキ時との油量の差を保持するために、ゴム製のブレーキホースであり、膨張性に富んでいる。
保持用導通弁23は、電磁多方向弁4の上流側(マスタシリンダ3側)と保持用配管22の一方側との間に設けられる。保持用導通弁23では、ブレーキECU28からの第1開閉信号HS1を受信し、第1開閉信号HS1が開信号の場合には弁を開き、第1開閉信号HS1が閉信号の場合には弁を閉じる。
保持用導通弁24は、逆流防止弁25と保持用配管22の他方側との間に設けられる。保持用導通弁24では、ブレーキECU28からの第2開閉信号HS2を受信し、第2開閉信号HS2が開信号の場合には弁を開き、第2開閉信号HS2が閉信号の場合には弁を閉じる。
逆流防止弁25は、保持用導通弁24と電磁多方向弁4の上流側(マスタシリンダ3側)との間に設けられる。逆流防止弁25は、保持用導通弁24への方向の油の流れを防止し、保持用導通弁24から電磁多方向弁4への油の流れだけを許容する。
ブレーキECU28は、CPU、ROM、RAMなどからなる電子制御ユニットであり、ドラムブレーキ装置21の制御装置として機能する。ブレーキECU28では、第1の実施の形態に係るブレーキECU8と同様に、各センサ5,6,7からの各信号OS,VS,SSに基づいて電磁多方向弁4のモータ4dを制御する。さらに、ブレーキECU28では、保持用導通弁23,24の開閉を制御する。ここでは、この開閉制御についてのみ説明する。
ブレーキECU28では、通常ブレーキの場合、保持用導通弁23を開くために第1開閉信号HS1に開信号を設定し、保持用導通弁23に送信するとともに、保持用導通弁24を閉じるために第2開閉信号HS2に閉信号を設定し、保持用導通弁24に送信する。つまり、保持用配管22にマスタシリンダ3からの油が流れる状態かつ油を保持できる状態にする。
ブレーキECU28では、通常ブレーキから制御ブレーキに切り換える場合(トルク変動と判定した場合)、まず、保持用導通弁23を閉じために第1開閉信号HS1に閉信号を設定し、保持用導通弁23に送信し、次に、保持用導通弁24を開くために第2開閉信号HS2に開信号を設定し、保持用導通弁24に送信する。つまり、保持用配管22から電磁多方向弁4の上流側に油が流れる状態にする。
図11及び図12を参照して、ドラムブレーキ装置21の動作について説明する。ここでは、通常ブレーキに切り換わるとき及び通常ブレーキから制御ブレーキに切り換わるときの保持用導通弁23、24の開閉動作についてのみ説明する。
トルク変動がなくなったと判定した時や走行開始時(通常ブレーキに切り換わるとき)、ブレーキECU8では、第1開閉信号HS1に開信号を設定し、その第1開閉信号HS1を保持用導通弁23に送信する。この第1開閉信号HS1を受信すると、保持用導通弁23では、弁を開く。そのため、マスタシリンダ3と保持用配管22の一方側とが連通する。また、ブレーキECU8では、第2開閉信号HS2に閉信号を設定し、その第2開閉信号を保持用導通弁24に送信する。この第2開閉信号HS2を受信すると、保持用導通弁24では、弁を閉じる。そのため、保持用配管22の他方側が閉じる。
この場合、運転者がブレーキペダルを踏み、その踏み込み力に応じてマスタシリンダ3に油圧が発生すると、通常ブレーキ用として作動している1つのホイールシリンダに油が流れ込む。マスタシリンダ3で発生している油圧をその1つのホイールシリンダでは消費できないので、余った油が保持用配管22に流れ込む。保持用配管22は、膨張性に富んでいるので、流れ込んだ油を受運に蓄えることができる。
トルク変動があると判定した時(通常ブレーキから制御ブレーキに切り換わるとき)、ブレーキECU8では、第1開閉信号HS1に閉信号を設定し、その第1開閉信号HS1を保持用導通弁23に送信する。この第1開閉信号HS1を受信すると、保持用導通弁23では、弁を閉じる。そのため、マスタシリンダ3と保持用配管22の一方側とが遮断する。次に、ブレーキECU8では、第2開閉信号HS2に開信号を設定し、その第2開閉信号を保持用導通弁24に送信する。この第2開閉信号HS2を受信すると、保持用導通弁24では、弁を開く。そのため、保持用配管22の他方側と電磁多方向弁4の上流側との間が逆流防止弁25を介して連通する。
この場合、運転者がブレーキペダルを踏み、その踏み込み力に応じてマスタシリンダ3に油圧が発生すると、制御ブレーキ用として作動している2つのホイールシリンダに油が流れ込む。そのため、マスタシリンダ3で発生している油圧をその2つのホイールシリンダで十分に消費できる。また、保持用配管22に蓄えられている油が、ゴムの弾性力によって逆流防止弁25を介して電磁多方向弁4の上流側に流れ込む。
このドラムブレーキ装置21によれば、ドラムブレーキ装置1と同様の効果を有する上に、通常ブレーキ時と制御ブレーキ時との油量の差によるギクシャク感を抑制でき、制動中に乗員に違和感を与えない。
図2、図3、図13及び図14を参照して、第3の実施の形態に係るドラムブレーキ装置31について説明する。図13は、第3の実施の形態に係るドラムブレーキ装置の油圧系及び制御系の構成図である。図14は、図13における電磁多方向弁と導通弁との配管図である。なお、ドラムブレーキ装置31では、第1の実施の形態に係るドラムブレーキ装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
ドラムブレーキ装置31は、ドラムブレーキ装置1に対して、連通系統切り換え時の油圧ラインの断絶を無くすための構成を有している。そのために、ドラムブレーキ装置31は、ドラムブレーキ2、マスタシリンダ3、電磁多方向弁4、油圧センサ5、振動センサ6、車速センサ7、連通管32、第1連通管33、第3連通管34、第4連通管35、第1導通弁36、第3導通弁37、第4導通弁39、ブレーキECU38などを備えている。
なお、第3の実施の形態では、連通管32、第1連通管33、第3連通管34、第4連通管35が特許請求の範囲に記載する連通管に相当し、ブレーキECU38が特許請求の範囲に記載する制御手段に相当する。
通常ブレーキから制御ブレーキに切り換える場合や制御ブレーキから通常ブレーキに切り換える場合には、電磁多方向弁4において、回転部4aが回転中であり、いずれのサブ連通路4o〜4yも接続端4g〜4lと繋がっていない。そのため、マスタシリンダ3といずれのホイールシリンダ14A〜14Fとも連通できなくなり、油圧ラインが断絶する。そこで、ドラムブレーキ装置31では、通常ブレーキ用のホイールシリンダ14A,14C,14Dのいずれか1つのホイールシリンダとマスタシリンダ3とを強制的に連通状態とする。
連通管32は、電磁多方向弁4の上流側と第1導通弁36,第3導通弁37、第4導通弁39の一方側との間に配管される。第1連通管33は、第1導通弁36の他方側と第1ホイールシリンダ14Aとの間に配管される。第3連通管34は、第3導通弁37の他方側と第3ホイールシリンダ14Cとの間に配管される。第4連通管35は、第4導通弁39の他方側と第4ホイールシリンダ14Dとの間に配管される。
第1導通弁36は、連通管32と第1連通管33との間に設けられる。第1導通弁36では、ブレーキECU38からの第1開閉信号RS1を受信し、第1開閉信号RS1が開信号の場合には弁を開き、第1開閉信号RS1が閉信号の場合には弁を閉じる。
第3導通弁37は、連通管32と第3連通管34との間に設けられる。第3導通弁37では、ブレーキECU38からの第3開閉信号RS3を受信し、第3開閉信号RS3が開信号の場合には弁を開き、第3開閉信号RS3が閉信号の場合には弁を閉じる。
第4導通弁39は、連通管32と第4連通管35との間に設けられる。第4導通弁39では、ブレーキECU38からの第4開閉信号RS4を受信し、第4開閉信号RS4が開信号の場合には弁を開き、第4開閉信号RS4が閉信号の場合には弁を閉じる。
ブレーキECU38は、CPU、ROM、RAMなどからなる電子制御ユニットであり、ドラムブレーキ装置31の制御装置として機能する。ブレーキECU38では、第1の実施の形態に係るブレーキECU8と同様に、各センサ5,6,7からの各信号OS,VS,SSに基づいて電磁多方向弁4のモータ4dを制御する。さらに、ブレーキECU38では、電磁多方向弁4における連通状態を切り換える時に導通弁36,37,39の開閉を制御する。ここでは、この開閉制御についてのみ説明する。
ブレーキECU38では、通常、全ての開閉信号RS1,RS3,RS4に閉信号を設定し、各導通弁36,37,39に送信している。
電磁多方向弁4における連通状態を切り換える場合、ブレーキECU38では、電磁多方向弁4のモータ4dに制御信号CSを送信する前に、現在通常ブレーキとして使用しているホイールシリンダを選択し、導通弁36,37,39の中から選択したホイールシリンダに対応する導通弁を抽出する。そして、ブレーキECU38では、その抽出した導通弁の開閉信号に開信号を設定し、その導通弁に送信する。電磁多方向弁4における連通状態の切り換えが終了した場合、ブレーキECU38では、開信号を送信した導通弁の開閉信号に閉信号を設定し、その導通弁に送信する。つまり、電磁多方向弁4における連通状態を切り換えている間、マスタシリンダ3とホイールシリンダ14A,14C,14Dのいずれか1つのホイールシリンダとを連通状態とする。
図13及び図14を参照して、ドラムブレーキ装置31の動作について説明する。ここでは、電磁多方向弁4における連通状態を切り換えるときの導通弁36,37,39の開閉動作についてのみ説明する。
通常、ブレーキECU8では、全ての開閉信号RS1,RS3,RS4に閉信号を設定し、各導通弁36,37,39に送信している。したがって、導通弁36,37,39は全て閉じており、連通管32を介してマスタシリンダ3の油圧がホイールシリンダ14A,14C,14Dに伝わることはない。
電磁多方向弁4の連通状態を切り換える場合、制御信号CSを電磁多方向弁4のモータ4dに送信する前に、ブレーキECU38では、現在通常ブレーキとして使用しているホイールシリンダに対応する導通弁の開閉信号に開信号を設定し、その導通弁に送信する。すると、この開閉信号を受信した導通弁が、弁を開く。そのため、連通管32と連通管33,34,35のうちのいずれか1つの連通路とが連通し、マスタシリンダ3とホイールシリンダ14A,14C,14Dのうちのいずれか1つのホイールシリンダとが連通する。そのため、マスタシリンダ3で発生した油圧は、その連通したホイールシリンダに伝わる。そのホイールシリンダでは、油圧を受けるとピストン14aを押し出し、対応するブレーキシューを押圧する。そのブレーキシューのライニングがブレーキドラム10に押し付けられることによって、ブレーキトルクが発生し、車両に制動力が作用する。このとき、他のホイールシリンダは、電磁多方向弁4の連通状態を切り換え中のため、マスタシリンダ3と連通できない。
電磁多方向弁4における連通状態の切り換えが終了した場合、ブレーキECU38では、開信号を送信した導通弁の開閉信号に閉信号を設定し、その導通弁に送信する。この開閉信号を受信した導通弁が、弁を閉じる。そのため、連通管32と全ての連通管33,34,35とが遮断し、連通管32を介してマスタシリンダ3と全てのホイールシリンダ14A,14C,14Dとは連通しない。このとき、ホイールシリンダ14A〜14Fのうちの1つ又は2つのホイールシリンダは電磁多方向弁4を介してマスタシリンダ3と連通しており、このホイールシリンダの作動によって車両に制動力が作用する。
このドラムブレーキ装置31によれば、ドラムブレーキ装置1と同様の効果を有する上に、電磁多方向弁4で連通状態を切り換え中でも油圧ラインが断絶しないので、制動力を発生させることができる。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態では5つのブレーキシュー及び6つのホイールシリンダを備えるドラムブレーキ装置に適用したが、5つ以外の複数のブレーキシュー及び6つ以外の複数のホイールシリンダを備えるドラムブレーキ装置にも適用可能である。
また、本実施の形態では油量変化対策を備える構成と連通系統切り換え時の油圧ライン断絶対策を備える構成を別々の形態で構成したが、2つの構成を基本構成に共に備える構成としてもよい。
また、本実施の形態では多方向連通手段として回転タイプと軸方向移動タイプの2つの電磁多方向弁を適用したが、他の構成の多方向連通手段を適用してもよい。
また、本実施の形態では通常ブレーキ時には1つのブレーキシューと1つのホイールシリンダを使用する構成としたが、複数のブレーキシューとホイールシリンダを使用する構成としてもよい。
また、本実施の形態では制御ブレーキ時には2つのホイールシリンダを連通させる構成としたが、トルク変動を抑制できるように、3つ以上のホイールシリンダを連通させる構成としてもよい。
1,21,31…ドラムブレーキ装置、2…ドラムブレーキ、3…マスタシリンダ、4,9…電磁多方向弁、4a…回転部、4b…円板部、4c…円柱部、4d…モータ、4e…コイル、4f,9f…固定部、4g〜4l、9g〜9l…接続端、4m,9m…接続路、4n,9n…メイン連通路、4o〜4y,9o〜9t…サブ連通路、9a…軸方向移動部、5…油圧センサ、6…振動センサ、7…車速センサ、8,28,38…ブレーキECU、10…ブレーキドラム、11…バッキングプレート、12A…第1ブレーキシュー、12B…第2ブレーキシュー、12C…第3ブレーキシュー、12D…第4ブレーキシュー、12E…第5ブレーキシュー、13…アンカ、14A…第1ホイールシリンダ、14B…第2ホイールシリンダ、14C…第3ホイールシリンダ、14D…第4ホイールシリンダ、14E…第5ホイールシリンダ、14F…第6ホイールシリンダ、14a…ピストン、22…保持用配管、23,24…保持用導通弁、25…逆流防止弁、32…連通管、33…第1連通管、34…第3連通管、35…第4連通管、36…第1導通弁、37…第3導通弁、39…第4導通弁