図1は、本発明が適用された車両に備えられた車両用駆動装置(以下、駆動装置)6の構成を説明する骨子図である。駆動装置6は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12内において、共通の軸心上に、第1電動機としての第1モータジェネレータMG1、エンジン8と自動変速機10との間に専ら設けられてそれらの間の機械的な連結を断接する直結クラッチCi、第2電動機としての第2モータジェネレータMG2、および変速機としての有段式の自動変速機10が順次配設されている。この自動変速機10は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8のクランク軸9に専ら直結クラッチCiを介して機械的に連結された入力軸16、第1遊星歯車装置18を主体として構成されている第1変速部20、第2遊星歯車装置22と第3遊星歯車装置24とを主体として構成されている第2変速部26、および出力軸28が順次配設され、入力軸16の回転を変速して出力軸28から出力する。上記入力軸16は直結クラッチCiの出力側回転部材として機能するものであると同時に、自動変速機10の入力回転部材としても機能するものである。また、出力軸28は自動変速機10の出力回転部材に相当するものであり、例えば図4に示すように差動歯車装置(終減速機)30や一対の車軸31等を順次介して左右の駆動輪32を回転駆動する。また、第1モータジェネレータMG1は、エンジン8(クランク軸9)に直接作動的に連結され、第2モータジェネレータMG2は入力軸16に直接作動的に連結されている。
上述したように、本実施例の駆動装置6においてはクランク軸9と入力軸16とは直結クラッチCiを介して機械的に連結すなわち直接的に連結(以下、直結)され得る。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介する連結はこの直結に含まれる。なお、駆動装置6はその軸心に対して対称的に構成されているため、第1図の骨子図においてはその下側が省略されている。
上記第1遊星歯車装置18はダブルピニオン型の遊星歯車装置であり、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリヤCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備えている。キャリヤCA1は入力軸16に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能にトランスミッションケース12に一体的に固定されている。リングギヤR1は中間出力部材として機能し、入力軸16に対して減速回転させられて、回転を第2変速部26へ伝達する。本実施例では、入力軸16の回転をそのままの速度で第2変速部26へ伝達する経路が、予め定められた一定の変速比(=1.0)で回転を伝達する第1中間出力経路PA1であり、第1中間出力経路PA1には、入力軸16から第1遊星歯車装置18を経ることなく第2変速部26へ回転を伝達する直結経路PA1aと、入力軸16から第1遊星歯車装置18のキャリヤCA1を経て第2変速部26へ回転を伝達する間接経路PA1bとがある。また、入力軸16からキャリヤCA1、そのキャリヤCA1に配設されたピニオンギヤP1、およびリングギヤR1を経て第2変速部26へ伝達する経路が、第1中間出力経路PA1よりも大きい変速比(>1.0)で入力軸16の回転を変速(減速)して伝達する第2中間出力経路PA2である。
前記第2遊星歯車装置22はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリヤCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。前記第3遊星歯車装置24はダブルピニオン型の遊星歯車装置であり、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するキャリヤCA3、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
第2遊星歯車装置22および第3遊星歯車装置24では、ピニオンギヤP2を回転可能に支持するキャリヤCA2およびCA3、リングギヤR2およびR3は相互に共用されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。すなわち、第2遊星歯車装置22のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置22のキャリヤCA2および第3遊星歯車装置のキャリヤCA3が互いに一体的に連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置22のリングギヤR2および第3遊星歯車装置24のリングギヤR3が互いに一体的に連結されて第3回転要素RM3が構成され、第3遊星歯車装置24のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。
第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してトランスミッションケース12に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置18のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置18のキャリヤCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されている。第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してトランスミッションケース12に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して入力軸16(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されている。第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸28に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されている。なお、直結クラッチCi、ブレーキB1、B2、およびクラッチC1〜C4は、何れも油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)によって摩擦係合させられる多板式等の油圧式摩擦係合装置である。
図2は、上記第1変速部20および第2変速部26の各回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図であり、下の横線が回転速度「0」を示し、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸16と同じ回転速度を示している。また、第1変速部20の各縦線は、左側から順番にサンギヤS1、リングギヤR1、キャリヤCA1を表しており、それ等の間隔は第1遊星歯車装置18のギヤ比ρ1(=サンギヤS1の歯数/リングギヤR1の歯数)に応じて定められる。図2は、例えばギヤ比ρ1=0.463の場合である。第2変速部26の4本の縦線は、左側から順番に第1回転要素RM1(サンギヤS2)、第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびキャリヤCA3)、第3回転要素RM3(リングギヤR2およびリングギヤR3)、第4回転要素RM4(サンギヤS3)を表しており、それ等の間隔は第2遊星歯車装置22のギヤ比ρ2および第3遊星歯車装置24のギヤ比ρ3に応じて定められる。図2は、例えばギヤ比ρ2=0.463、ρ3=0.415の場合である。
そして、この共線図から明らかなように、第1クラッチC1および第2ブレーキB2が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部20を介して入力軸16に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられると、出力軸28に連結された第3回転要素RM3は「1st」で示す回転速度で回転させられ、最も大きい変速比(=入力軸16の回転速度/出力軸28の回転速度)の第1変速段「1st」が成立させられる。
第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部20を介して入力軸16に対して減速回転させられるとともに、第1回転要素RM1が回転停止させられると、第3回転要素RM3は「2nd」で示す回転速度で回転させられ、第1変速段「1st」よりも変速比が小さい第2変速段「2nd」が成立させられる。
第1クラッチC1および第3クラッチC3が係合させられて、第4回転要素RM4および第1回転要素RM1が第1変速部20を介して入力軸16に対して減速回転させられて第2変速部26が一体回転させられると、第3回転要素RM3は「3rd」で示す回転速度で回転させられ、第2変速段「2nd」よりも変速比が小さい第3変速段「3rd」が成立させられる。
第1クラッチC1および第4クラッチC4が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部20を介して入力軸16に対して減速回転させられるとともに、第1回転要素RM1が入力軸16と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「4th」で示す回転速度で回転させられ、第3変速段「3rd」よりも変速比が小さい第4変速段「4th」が成立させられる。
第1クラッチC1および第2クラッチC2係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部20を介して入力軸16に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が入力軸16と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「5th」で示す回転速度で回転させられ、第4変速段「4th」よりも変速比が小さい第5変速段「5th」が成立させられる。
第2クラッチC2および第4クラッチC4が係合させられて、第2変速部26が入力軸16と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「6th」で示す回転速度すなわち入力軸16と同じ回転速度で回転させられ、第5変速段「5th」よりも変速比が小さい第6変速段「6th」が成立させられる。この第6変速段「6th」の変速比は1である。
第2クラッチC2および第3クラッチC3が係合させられて、第1回転要素RM1が第1変速部20を介して入力軸16に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が入力軸16と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「7th」で示す回転速度で回転させられ、第6変速段「6th」よりも変速比が小さい第7変速段「7th」が成立させられる。
第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合させられて、第2回転要素RM2が入力軸16と一体回転させられるとともに、第1回転要素RM1が回転停止させられると、第3回転要素RM3は「8th」で示す回転速度で回転させられ、第7変速段「7th」よりも変速比が小さい第8変速段「8th」が成立させられる。
また、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が係合させられると、第1回転要素RM1が第1変速部20を介して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられて、第3回転要素RM3は「Rev1」で示す回転速度で逆回転させられ、逆回転方向で変速比が最も大きい第1後進変速段「Rev1」が成立させられる。第4クラッチC4および第2ブレーキB2が係合させられると、第1回転要素RM1が入力軸16と一体回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられ、第3回転要素RM3は「Rev2」で示す回転速度で逆回転させられ、第1後進変速段「Rev1」よりも変速比が小さい第2後進変速段「Rev2」が成立させられる。第1後進変速段「Rev1」、第2後進変速段「Rev2」は、それぞれ逆回転方向の第1変速段、第2変速段に相当する。
図3は、上記各変速段を成立させる際の係合要素および変速比を説明する作動表であり、「○」は係合状態を表しており、空欄は解放である。各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置18、第2遊星歯車装置22、第3遊星歯車装置24の各ギヤ比ρ1〜ρ3によって適宜定められ、例えばρ1=0.463、ρ2=0.463、ρ3=0.415とすれば、変速比ステップ(各変速段間の変速比の比)の値が略適切であるとともにトータルの変速比幅(=4.495/0.683)も6.578程度と大きく、後進変速段「Rev1」、「Rev2」の変速比も適当で、全体として適切な変速比特性が得られる。
このように本実施例の自動変速機10は、変速比が異なる2つの中間出力経路PA1、PA2を有する第1変速部20および2組の遊星歯車装置22、24を有する第2変速部26により、4つのクラッチC1〜C4および2つのブレーキB1、B2の係合切換えで前進8速の変速ギヤ段が達成されるため、小型に構成され、車両への搭載性が向上する。図3から明らかなように、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の何れか2つを掴み替えるだけで各変速段の変速を行うことができる。また、図3に示されるように、本実施例の自動変速機10は、変速比幅を大きくとることができ且つ変速比ステップも適切となっている。
図4は、図1に示した駆動装置6などの概略構成を説明する図であると共に、その駆動装置6などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。この電子制御装置90は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、基本的には例えばエンジン8の出力制御、自動変速機10のギヤ段を自動的に切り換える変速制御、直結クラッチCiの係合、解放、或いはスリップを実行する直結クラッチ制御などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用などに分けて構成される。
図4において、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。エンジン8の吸気配管53には、スロットルアクチュエータ54によって開き角(開度)θTHが制御される電子スロットル弁56が設けられている。
また、エンジン8の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン8の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットル弁開度センサ62、車速V(出力軸28の回転速度NOUTに対応)を検出するための車速センサ64、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1(=エンジン回転速度NE)を検出するためのMG1回転速度センサ66、第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2(=入力軸回転速度NIN)を検出するためのMG2回転速度センサ68、ブレーキペダル69が操作されたことを検出するためのフットブレーキスイッチ70、シフト操作装置71に備えられたシフトレバー72の操作ポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、モータジェネレータMG1、MG2に接続された蓄電装置76の蓄電量(残容量、充電量)SOCを検出するためのSOCセンサ78、エンジン8の冷却水温IWを検出するためのエンジン水温センサ80、自動変速機10の作動油温度TOILを検出するための油温センサ82、排気ガスを浄化する触媒TREの温度を検出するための触媒温度センサ84、車両の加速度Gを検出するための加速度センサ86などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、スロットル弁開度θTH、車速V、第1モータジェネレータ回転速度NMG1、第2モータジェネレータ回転速度NMG2、フットブレーキの操作の有無すなわちブレーキペダル69の操作を表す信号BON、シフトレバー72の操作ポジションPSH、残容量SOC、冷却水温IW、油温TOIL、触媒温度TRE、車両の加速度Gなどを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
また、上記電子制御装置90からは、エンジン出力を制御するための制御信号例えば電子スロットル弁56の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ54への駆動信号や燃料噴射装置92によるエンジン8への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置94によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、第1モータジェネレータMG1や第2モータジェネレータMG2の力行制御、回生制御などのためにMG1コントローラ102やMG2コントローラ104によりインバータ106を制御させるための制御信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、自動変速機10の前記クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の油圧アクチュエータを作動させるために油圧制御回路98内のATシフトソレノイド99例えばリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁などを制御するためのバルブ指令信号、直結クラッチCiの油圧アクチュエータを作動させるために油圧制御回路98内の直結クラッチ制御弁96の励磁、非励磁などを制御するためのバルブ指令信号、上記油圧制御回路98の油圧源である図示しない電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号への制御信号などがそれぞれ出力される。
上記クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2、および直結クラッチCiの図示しない各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)には、図示しない油圧供給装置から出力されたライン油圧PLを元圧として、それぞれ油圧制御回路98内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6、直結クラッチ制御弁96により調圧された油圧が供給されるようになっている。その油圧供給装置は、上記電動油圧ポンプおよび/またはエンジン8に機械的に連結されてエンジン8により直接回転駆動される図示しない機械式オイルポンプ、その電動油圧ポンプおよび/または機械式オイルポンプから発生する油圧を元圧としてライン油圧PLを調圧するレギュレータバルブ等を備えており、エンジン負荷等に応じてライン油圧PLを制御するようになっている。このライン油圧PLは、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2、および直結クラッチCiを係合するために用いられる最大係合圧となるものである。
図5は、図4に示したホイールブレーキ装置34を詳しく説明するための図であって、(a)は上記ホイールブレーキ装置34の構成を概略説明する図であり、(b)はホイールブレーキ装置34による実際の前後輪制動力配分を示すものである。図5(a)において、ホイールブレーキ装置34は、ブレーキペダル69の操作などに関連して、車輪ブレーキに設けられたホイールシリンダWCへ制動油圧を供給する。このホイールブレーキ装置34では、通常は、マスタシリンダ36において発生させられるブレーキペダル69の踏力に対応した大きさの制動油圧がホイールシリンダWCへ直接供給されるが、例えばABS制御、トラクション制御、VSC制御、或いはヒルホールド制御時には、低μ路での車両の制動、発進、旋回走行や、或いは坂路途中の車両停止の保持或いは維持のために上記踏力に対応しない制動液圧がホイールシリンダWCへ供給されるようになっている。
また、ホイールブレーキ装置34には、前後輪の制動力配分を理想配分に近づけ且つ後輪32Rのホイールロックを防止するために、例えばマスタシリンダ液圧が所定の作動開始点以上の液圧を超えると以降のリヤホイールシリンダ液圧をマスタシリンダ液圧(フロントホイールシリンダ液圧)に対して一定の比で減じるプロポーショニングバルブ(Pバルブ)38が後輪32R側の配管途中に設けられている。図5(b)に示すように上記Pバルブ38により作動開始点以降の前輪32Fと後輪32Rとの制動力比が制御される。
図6は、前記シフト操作装置71の一例であって、例えば運転席近傍のフロア部分、具体的には運転席の左側のセンターコンソール部分に配設されている。また、前記シフトレバー72は図6に示すシフトパターンすなわちシフト操作装置71が備えるシフトポジションPSHとしての「P(パーキング)」、「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、および「M(マニュアル)」の各操作ポジションに従って移動操作されるようになっている。
上記「P」ポジションは駐車位置で、例えばシフトレバー72の移動操作に従って油圧制御回路98内のマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、自動変速機10はクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の全部が解放されて動力伝達遮断状態とされるとともに、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってパーキングロック機構などにより機械的に出力軸28、すなわち駆動輪が回転不能に固定される。上記「R」ポジションは後進走行を行なう後進走行位置で、例えばシフトレバー72の移動操作に従って上記マニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより後進ギヤ段を成立させることが可能とされ、図3の係合作動表に従って前記後進ギヤ段「Rev1」または「Rev2」が電気的に成立させられる。上記「N」ポジションは動力伝達遮断位置で、例えば「P」ポジションと同様に、自動変速機10はクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の全部が解放されて動力伝達遮断状態とされる。
前記「D」ポジションは、自動変速機10の前進ギヤ段を自動的に切り換えて前進走行する前進走行位置すなわち前進走行ポジションで、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、総ての前進ギヤ段「1st」〜「8th」を成立させることが可能とされ、図3の係合作動表に従って前記前進ギヤ段「1st」〜「8th」が電気的に成立させられる。すなわち、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されると、前進ギヤ段「1st」〜「8th」を用いて自動的に変速するDレンジ(フルレンジ自動変速モード)が成立させられる。
前記「M」ポジションは、自動変速機10の前進ギヤ段の変速範囲或いはギヤ段を人為的操作で切り換えて前進走行する手動変速モードを成立させる前進手動変速走行位置すなわち前進手動変速走行ポジションで、例えばシフトレバー72が「M」ポジションへ操作されると手動変速モードが成立させられる。「M」ポジションに備えられた「+」ポジションは、その手動変速モードにおいて操作毎に変速範囲或いはギヤ段をアップ側にシフトさせるための操作位置である。同様に、「−」ポジションは、その手動変速モードにおいて操作毎に変速範囲或いはギヤ段をダウン側にシフトさせるための操作位置である。
図7は、前記電子制御装置90が備えている制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、エンジン出力制御手段110は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置92による燃料噴射量を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置94による点火時期を制御するなどしてエンジン8の出力制御を実行する。例えば、エンジン出力制御手段110は、図8に示す予め記憶された関係から実際のアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータ54を駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにして上記スロットル制御を実行する。
また、上記エンジン出力制御手段110は、アクセル操作量Accが略零(全閉)の車両停止時や減速時等には、アイドル回転速度NIDLを目標値に一致するように上記スロットル制御を実行する。例えば、エンジン出力制御手段110は、予め記憶された関係からエンジン水温信号TWや触媒温度信号に基づいて、暖機促進のために低温であるほど暖機後の通常のアイドル回転速度NIDLに比較して高くなるように設定された目標値すなわちファーストアイドル回転速度NIDLFとなるように、またその暖機後の通常のアイドル回転速度NIDLとなるように、スロットル開度や燃料噴射量を制御する。また、エンジン出力制御手段110は、エアコンの作動を示すエアコン信号等の補機負荷からのアイドルアップ要求信号等に基づいて、予め定められたアイドルアップ回転速度NIDLUとなるようにスロットル制御を実行する。
変速制御手段112は、例えば図9に示す車速Vおよびスロットル弁開度θTHをパラメータとして予め記憶された関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびスロットル弁開度θTHに基づいて自動変速機10の切り換えるべき変速段(ギヤ段)を判断し、その判断した変速段が得られるように例えば図3の係合作動表に基づいて油圧制御回路98に変速指令(変速出力)を出力して自動変速機16の変速段を自動的に切り換える変速制御を実行する。
上記油圧制御回路98は、変速制御手段112による変速指令に従って、リニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁や電流制御を実行し、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2クラッチの係合、解放状態を切り換えて第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の何れかの前進変速段、或いは「Rev1」、「Rev2」の何れかの後進ギヤ段を成立させると共に、変速過程の過渡油圧などを制御する。例えば、図3の係合作動表に示すように4速→5速のアップシフトでは、クラッチC4が解放されると共にクラッチC2が係合されるようにクラッチC4の解放過渡油圧とクラッチC2の係合過渡油圧とが制御される。なお、アクセル開度Accや吸入空気量Q、路面勾配などに基づいて変速制御を行うなど、種々の態様が可能である。
上記図9の変速線図における変速線は、例えば、実際のスロットル弁開度θTH(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、上記値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されている。例えば、車速Vが大きくなったりスロットル弁開度θTHが小さくなったりするに従って変速比が小さい高速側の変速段が成立させられる。尚、この図9の変速線図においては、破線に示す1←2ダウン変速線以外のダウン変速線は省略されている。また、スロットル弁開度θTH(%)に替えてアクセル操作量Acc(%)が用いられてもよい。
ハイブリッド制御手段114は、車両の走行状態に応じた、モータ走行、エンジン走行、モータ及びエンジン走行等のエンジン8やモータジェネレータMG1、MG2の作動状態が異なる複数の運転モードでの走行を行うために、直結クラッチCiの開閉制御、第1モータジェネレータMG1や第2モータジェネレータMG2の力行制御、回生制御等を実行する。図10は、その運転モードの一例である。
図10において、専らエンジン8を走行用の駆動力源として車両走行が行われるエンジン走行モードでは、例えば蓄電装置77の充電残量SOCが少なくなったような場合でも走行したり或いはモータ走行に比較してより大きな駆動力が必要とされる走行のために、ハイブリッド制御手段114は、前記直結クラッチ制御弁96により直結クラッチCiが係合されるように油圧制御回路98に指令を出力してエンジン8の出力を自動変速機10の入力軸16に直接伝達させると共に、そのエンジン8により必要な駆動力を発生させて走行するようにエンジン出力制御手段112に指令を出力する。また、蓄電装置77の残容量SOCが少ない場合などでは、必要に応じて第1モータジェネレータMG1が発電(回生)状態とされ、その発電エネルギEDが蓄電装置77に蓄電されるようにMG1コントローラ102に指令を出力する。
また、専ら第2モータジェネレータMG2を走行用の駆動力源として車両走行(発進)が行われるモータ走行モードでは、例えば静粛な車両発進や走行のために、ハイブリッド制御手段114は、直結クラッチ制御弁96により直結クラッチCiが解放されるように油圧制御回路98に指令を出力してエンジン8と自動変速機10との間の動力伝達経路を遮断状態とさせると共に、インバータ106から駆動電流を供給して第2モータジェネレータMG2が力行状態とされ、第2モータジェネレータMG2により必要な駆動力を発生させて走行するようにMG2コントローラ104に指令を出力する。エンジン8と自動変速機10との間の動力伝達経路が遮断状態とされることで、作動していないエンジン8の引き摺りによる燃費の低下が抑制される。また、蓄電装置77の残容量SOCが少ない場合などでは、必要に応じてエンジン8を作動させるようにエンジン出力制御手段112に指令を出力すると共に、第1モータジェネレータMG1が発電(回生)状態とされ、その発電エネルギEDが蓄電装置77に蓄電されるようにMG1コントローラ102に指令を出力する。
また、エンジン8および第2モータジェネレータMG2を走行用の駆動力源として車両走行が行われるエンジン+モータ走行モードでは、例えば加速走行のために、ハイブリッド制御手段114は、直結クラッチ制御弁96により直結クラッチCiが係合されるように油圧制御回路98に指令を出力してエンジン8の出力を自動変速機10の入力軸16に直接伝達させると共に、そのエンジン8により必要な駆動力を発生させて走行するようにエンジン出力制御手段112に指令を出力し、且つインバータ106から駆動電流を供給して第2モータジェネレータMG2が力行状態とされ、第2モータジェネレータMG2により必要な駆動力を発生させて走行するようにMG2コントローラ104に指令を出力する。さらに、インバータ106から駆動電流を供給して第1モータジェネレータMG1が力行状態とされ、第1モータジェネレータMG1により駆動力を発生させて走行するようにMG1コントローラ102に指令を出力してもよい。
ところで、本実施例の駆動装置6のように、エンジン8と自動変速機10(入力軸16)とが直結クラッチCiを介して直接機械的に連結されている場合には、トルクコンバータのような流体伝動装置が動力伝達経路に介在させられて例えばクランク軸9と入力軸16とが相対回転可能に連結され得る場合と異なり、直結クラッチCiが係合されるとエンジン回転速度NEは車速Vに拘束される。そうすると、車両停止中や低速走行中に直結クラッチCiが係合されている場合には、エンジン8が自律回転可能なエンジン回転速度NE例えばアイドル回転速度NIDLよりも低下して安定した作動が維持されない可能性がある。
そこで、直結クラッチ制御手段116は、アクセル開度Accが零である車両停止中や低速減速走行中には、エンジン回転速度NEが例えばアイドル回転速度NIDL以上に維持されるように、直結クラッチ制御弁96により直結クラッチCiがエンジン8の作動が維持されるように予め実験的に求められた所定のスリップ量でスリップ係合(半係合)されるように、或いは直結クラッチ制御弁96により直結クラッチCiが解放されるように、油圧制御回路98に指令を出力してクランク軸9と入力軸16とを相対回転可能に連結する。
例えば、直結クラッチ制御手段116は、第1速ギヤ段においてエンジン8の作動が維持可能な車速V例えば所定車速VSP以上の場合には直結クラッチCiを完全係合する係合制御を実行し、或いは第1速ギヤ段においてエンジン8の作動が維持できない程の車速V例えば所定車速VK以上所定車速VSP未満の場合には直結クラッチCiを所定のスリップ量でスリップ係合する所謂スリップ制御を実行し、或いは車速Vが例えば所定車速VK未満の場合には直結クラッチCiを解放する解放制御を実行するような、通常の直結クラッチ制御、すなわち通常の直結クラッチCiのトルク容量を制御するトルク容量通常制御、を実施する。このとき、直結クラッチCiの完全係合時には最大トルク容量に応じたエンジン8の出力トルク(以下、エンジントルク)TEが、或いは直結クラッチCiのスリップ係合時には所定のスリップ量だけ低減されたトルク容量に応じたエンジントルクTEが、駆動輪32へ伝達されて駆動輪トルクTWが発生する。また、アイドル回転速度NIDLが前記ファーストアイドル回転速度NIDLFやアイドルアップ回転速度NIDLUに制御されてエンジン回転速度NEが高くなる程エンジン8の出力が大きくされ、それに伴って上記駆動輪トルクTWも大きくなる。
特に、自動変速機10において加速性能と燃費性能との両立の為に多段化や変速比のワイドレンジ化が進められ、その変速比のワイドレンジ化に伴って最低速側変速比としての最低速側ギヤ段(すなわち第1速ギヤ段)の変速比が相対的に大きく(ローギヤ化)される場合には、その最低速側ギヤ段での走行においては前記駆動輪トルクTWが相対的に大きくなる。そうすると、例えば最低速側ギヤ段での走行が想定される低速減速走行中における制動時には、車両を所望の制動状態で減速・停止させるためにその大きくされた駆動輪トルクTWに対してホイールブレーキ装置34による制動トルクを相対的に大きくする必要が生じる。
しかしながら、前述したように、ホイールブレーキ装置34による制動トルクはPバルブにより前後輪制動力配分が制御されており、特に、低μ路において、駆動輪32となる後輪32Rのみ制動力を大きくすると制動バランスの制御が複雑になったり、或いは前後輪配分比を保ったまま全車輪の制動力を大きくすると従動輪となる前輪32Fでは制動力が大きくなり制動バランスの制御が複雑になる可能性があった。
そこで、本実施例では、自動変速機10において多段化や変速比のワイドレンジ化に伴って特に最低速側ギヤ段の変速比が大きくなる場合であっても、ホイールブレーキ装置34による制動トルクを大きくすることなく、すなわち複雑な前後輪の制動操作バランスの制御を行わずとも従来通りのホイールブレーキ装置34による制動トルクで、車両低速減速走行の際の制動時に制動ショックの発生が避けられるように、前記直結クラッチ制御手段116は、前記通常実施する直結クラッチCiのスリップ制御に加えて、別のスリップ制御を実行し、駆動輪32へ伝達されるエンジントルクTEを通常より減少させて上記駆動トルクTWを抑制する。以下に、その制御作動を説明する。
フットブレーキ操作判定手段118は、フットブレーキが踏込操作中であるか否かを、例えばフットブレーキスイッチ70により検出されたブレーキペダル69の操作を表す信号BONが出力されているか否かで判定する。
低速減速走行判定手段120は、車両低速減速走行時であるか否か、すなわち車両が低車速すなわち第1速ギヤ段走行で且つ減速走行時であるか否かを、例えば車速Vが所定車速V’以下とされ且つアクセル操作量Accが略零とされてアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かで判定する。上記所定車速V’は前記変速制御手段112により例えば図9の変速線に基づいて自動変速機10が最低速側ギヤ段すなわち第1速ギヤ段に変速制御されるような低車速として予め実験的に定められている値である。また、この所定車速V’は、直結クラッチ制御手段116により直結クラッチCiが解放される車速Vである前記所定車速VKよりも高い値である。
駆動力判定手段122は、車両低速減速走行の際の制動時には、すなわち前記低速減速走行判定手段120により車両低速減速走行時であると判定され且つ前記フットブレーキ操作判定手段118によりフットブレーキが踏込操作中であると判定されたときには、駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えるか否かを判定する。例えば、所定駆動輪トルクTW’を超える程のエンジントルクTEが生じる所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’や所定アイドルアップ回転速度NIDLU’となるように、前記エンジン出力制御手段110によりアイドル回転速度NIDLが目標値制御されているか否かに基づいて、駆動力判定手段122は駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えるか否かを実質的に判定する。
上記所定駆動輪トルクTW’は、本実施例では、ホイールブレーキ装置34による駆動輪32における制動トルク(制動力)に対し駆動輪トルクTW(駆動力)が所定値以下となるように、直結クラッチ制御手段116により通常実施とは別の直結クラッチCiのスリップ制御を実行させるか否かを判断するための理論上の判定値である。所定駆動輪トルクTW’は、ホイールブレーキ装置34をその制動トルクが大きくなるように構成することなく車両低速減速走行の際の制動時に制動ショックの発生が避けられる上限の駆動輪トルクTWであり、上記所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’や所定アイドルアップ回転速度NIDLU’は車両低速減速走行の際の制動時に制動ショックの発生が避けられる上限のエンジン回転速度NEとして予め実験的に求められている一定値である。
低減量設定手段124は、前記低速減速走行判定手段120により車両が低車速で且つ減速走行時であると判定される車両低速減速走行時であって、前記フットブレーキ操作判定手段118によりフットブレーキが踏込操作中でないと判定された場合或いは前記駆動力判定手段122により駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’未満となると判定された場合には、前記直結クラッチ制御手段116によるトルク容量通常制御のために、直結クラッチCiのトルク容量を予め実験的に求めて定められた通常の目標トルク容量CF *に設定する。言い換えれば、低減量設定手段124は、直結クラッチCiのスリップ量を予め実験的に求めて定められた通常の目標スリップ量SF *に設定する。
前記直結クラッチ制御手段116は、前記低速減速走行判定手段120により車両が低車速で且つ減速走行時であると判定される車両低速減速走行時であって、前記フットブレーキ操作判定手段118によりフットブレーキが踏込操作中でないと判定された場合或いは前記駆動力判定手段122により駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’未満となると判定された場合には、直結クラッチCiのトルク容量が上記低減量設定手段124により設定された通常の目標トルク容量CF *となるように直結クラッチCiの油圧を制御する指令を油圧制御回路98に出力して、前記トルク容量通常制御(通常の直結クラッチ制御)を実施する。
また、前記低減量設定手段124は、車両低速減速走行の際の制動時に前記駆動力判定手段122により駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’以上となると判定された場合には、駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えないように、直結クラッチCiのトルク容量を予め実験的に求めて前記通常の目標トルク容量CF *よりも小さな値に定められた目標トルク容量CD *に設定する。例えば、低減量設定手段124は、駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えないように、直結クラッチCiの通常の目標トルク容量CF *からの低減量D、すなわち直結クラッチ制御手段116による前記トルク容量通常制御時の直結クラッチCiの通常のトルク容量に対する低減量Dを設定する。言い換えれば、低減量設定手段124は、駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えないように、直結クラッチCiの前記通常の目標スリップ量SF *に対して増加させる増加スリップ量SDを設定する。
例えば、図11は、ホイールブレーキ装置34による駆動輪32における制動トルク(制動力)に対し実際の駆動輪トルクTW(駆動力)が前記所定駆動輪トルクTW’以下となるように、エンジン回転速度NEと直結クラッチCiの通常の目標トルク容量CF *からの低減量Dとが予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)であり、エンジン回転速度NEが高くなる程その低減量Dが増加するように設定されている。上記低減量設定手段124は、図11に示す関係からエンジン回転速度NEに基づいてその低減量Dを決定する。また、図11からも明らかなように、この低減量Dはエンジン回転速度NEが前記所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’或いは所定アイドルアップ回転速度NIDLU’を超えるまでは零とされる。すなわちエンジン回転速度NEがその所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’或いは所定アイドルアップ回転速度NIDLU’を超えるまでは、直結クラッチ制御手段116により直結クラッチCiのトルク容量が通常の目標トルク容量CF *から低減さず、前記直結クラッチ制御手段116により前記トルク容量通常制御(通常の直結クラッチ制御)が実施される。
前記直結クラッチ制御手段116は、車両低速減速走行の際の制動時に前記駆動力判定手段122により駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’以上となると判定された場合には、駆動輪32における制動トルク(制動力)に対し駆動輪トルクTW(駆動力)が所定値以下となるように、直結クラッチCiのトルク容量を前記通常の目標トルク容量CF *よりも低減して駆動輪32へ伝達されるエンジントルクTEを抑制する。例えば、直結クラッチ制御手段116は、前記低減量設定手段124により設定された前記低減量Dが得られるように、直結クラッチCiのトルク容量を前記通常の目標トルク容量CF *よりも低減するトルク容量低減制御を実行する。言い換えれば、直結クラッチ制御手段116は、前記低減量設定手段124により設定された増加スリップ量SDが得られるように、直結クラッチCiのスリップ量を前記通常の目標スリップ量SF *よりも増加するスリップ量増加制御を実行する。
具体的には、直結クラッチ制御手段116は、直結クラッチCiのトルク容量がその低減量Dだけ低減された直結クラッチCiのトルク容量すなわち目標トルク容量CD *となるように、直結クラッチCiの油圧を制御する指令を油圧制御回路98に出力して、前記トルク容量低減制御を実施する。これにより、直結クラッチCiのトルク容量の低減量Dに応じて駆動輪32へ伝達されるエンジントルクTEが前記トルク容量通常制御時に比較して抑制され、ホイールブレーキ装置34による駆動輪32における制動トルク(制動力)に対し駆動輪トルクTW(駆動力)が所定駆動輪トルクTW’以下となるように制御される。言い換えれば、直結クラッチCiのスリップ量が前記トルク容量通常制御時に比較して増加することで駆動輪32へ流れるエンジントルクTEが低下させられてより少ないホイールブレーキ装置34による駆動輪32における制動トルク(制動力)でも制動ショックの発生が避けられる。
図12は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわち車両低速減速走行の際の制動時に制動ショックの発生が避けられるようにする制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図13は、図12のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであり、自動変速機10のギヤ段が第1速ギヤ段とされているときの車両低速減速走行の際の制動時にエンジン回転速度NEが所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’や所定アイドルアップ回転速度NIDLU’を超えるようなアイドルアップ時に前記トルク容量低減制御が実行された場合の例である。
先ず、前記低速減速走行判定手段120に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、車両が低車速すなわち第1速ギヤ段走行で且つ減速走行時であるか否かが、車速Vが所定車速V’以下とされ且つアクセル操作量Accが略零とされてアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かで判定される。このS1の判断が否定される場合はS8において、制動操作時の制御作動以外の通常の制御作動が実行されるか、或いは現在の車両走行状態が維持されて本ルーチンが終了させられる。
上記S1の判断が肯定される場合は前記フットブレーキ操作判定手段118に対応するS2において、フットブレーキが踏込操作中であるか否かが、フットブレーキスイッチ70により検出されたブレーキペダル69の操作を表す信号BONが出力されているか否かで判定される。図13のt1時点は、車両低速減速走行の際にブレーキペダル69が踏込操作されたことを示している。
上記S2の判断が肯定される場合は前記駆動力判定手段122に対応するS3において、駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えるか否かが、自動変速機10が第1速ギヤ段とされている状態において駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超える程のエンジントルクTEが生じる所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’や所定アイドルアップ回転速度NIDLU’となるように、前記エンジン出力制御手段110によりアイドル回転速度NIDLが目標値制御されているか否かで判定される。図13のt2時点は、エンジン回転速度NEが通常のアイドル回転速度NIDL(図13の二点鎖線)より高い所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’や所定アイドルアップ回転速度NIDLU’を超えるようなアイドルアップ時の回転速度(図13の実線)に目標値制御されていることを示している。
前記S2の判断が否定されるか、或いは前記S3の判断が否定される場合は前記低減量設定手段124に対応するS6において、トルク容量通常制御のために、直結クラッチCiのトルク容量が前記通常の目標トルク容量CF *に設定される。続く、前記直結クラッチ制御手段116に対応するS7において、このS6にて設定された通常の目標トルク容量CF *となるように直結クラッチCiの油圧を制御する指令が油圧制御回路98に出力されて、前記トルク容量通常制御(通常の直結クラッチ制御)が実施される。
上記S3の判断が肯定される場合は前記低減量設定手段124に対応するS4において、駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えないように、直結クラッチCiのトルク容量が前記通常の目標トルク容量CF *よりも小さな値に定められた前記目標トルク容量CD *に設定される。例えば、前記トルク容量通常制御時の直結クラッチCiの通常のトルク容量に対する低減量Dが、前記図11に示すようにエンジン回転速度NEが高くなる程低減量Dが増加するように予め実験的に求めて記憶された関係からエンジン回転速度NEに基づいて設定される。続く、前記直結クラッチ制御手段116に対応するS5において、このS4にて設定された低減量Dが得られるように、直結クラッチCiの油圧を制御する指令が油圧制御回路98に出力されて、前記トルク容量低減制御が実施される。
図13のt3時点乃至t5時点は、直結クラッチCiの油圧が、二点鎖線に示すトルク容量通常制御時に比較して実線に示すように低下されてスリップ量が増加させられるトルク容量低減制御(スリップ量増加制御)が実施されたことを示している。図13に示した制動トルクの実線は、そのトルク容量低減制御が実行された場合の特性であり、例えば暖機後の通常のアイドル回転速度NIDL等の場合に必要とされる制動トルクに相当する。
また、エンジン回転速度NEがアイドルアップ時の回転速度(図13の実線)とされたときに、油圧系の機能低下等の理由でスリップ量が増加させられない場合には、スリップ量が増加させられる場合より多少制動バランスが制御し難くなるが、この図13の破線に示すように制動トルクを上記実線に比較して増加させても良い。この場合は、例えばトラクション制御、VSC制御時などと同様に、踏力に対応しない制動液圧がホイールシリンダWCへ供給される。
また、油圧系の機能低下等の理由でスリップ量が増加させられない場合には、アイドル回転速度NIDLを例えば所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’や所定アイドルアップ回転速度NIDLU’より低下させてもよい。例えば、直結クラッチ制御手段116によりトルク容量低減制御が実行され得ないときには、前記エンジン出力制御手段110によるアイドルアップが実行されないようにしても良い。
上述のように、本実施例によれば、車両の低速減速走行時且つホイールブレーキ装置34による車両制動操作時に、ホイールブレーキ装置34による駆動輪32における制動トルク(制動力)に対して駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’以下となるように、直結クラッチ制御手段116により直結クラッチCiのトルク容量が低減される。これにより、直結クラッチCiのトルク容量の低減量Dに応じて駆動輪32へ伝達されるエンジントルクTEが前記トルク容量通常制御時に比較して抑制されるので、例えば自動変速機10の第1速ギヤ段の変速比が従来より大きくされてもその第1速ギヤ段における低速減速走行時の駆動輪32に発生する駆動力が抑制されて従来通りのホイールブレーキ装置34による制動力で制動ショックの発生が避けられる。例えば、路面摩擦力が得られない低μ路のように実質的に前輪制動力が充分に得られないときに、制動ショックの発生が避けられる。
また、本実施例によれば、低減量設定手段124によりエンジン回転速度NEに応じて設定された低減量Dが得られるように、直結クラッチ制御手段116により前記トルク容量低減制御が実行されるので、エンジン回転速度NEが暖機後の通常のアイドル回転速度NIDLより高い回転速度で制御されてエンジン出力が大きくされても駆動輪32に発生する駆動力が抑制されて従来通りのホイールブレーキ装置34による制動力で制動ショックの発生が避けられる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、自動変速機10が第1速ギヤ段とされているときに直結クラッチ制御手段116によるトルク容量低減制御が実行されたが、自動変速機10が第1速ギヤ段とされていなくともホイールブレーキ装置34による駆動輪32における制動トルクに対して駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えるような場合には、直結クラッチ制御手段116によりトルク容量低減制御が実行されてもよい。
また、前述の実施例では、エンジン出力制御手段110によるアイドルアップ時に直結クラッチ制御手段116によるトルク容量低減制御が実行されたが、暖機後の通常のアイドル回転速度NIDL等のアイドルアップ時でなくともホイールブレーキ装置34による駆動輪32における制動トルクに対して駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えるような場合には、直結クラッチ制御手段116によりトルク容量低減制御が実行されてもよい。
また、前述の実施例では、駆動力判定手段122は、駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えるか否かを、駆動輪トルクTWが所定駆動輪トルクTW’を超えるエンジントルクTEとなる所定ファーストアイドル回転速度NIDLF’や所定アイドルアップ回転速度NIDLU’となるように前記エンジン出力制御手段110によりアイドル回転速度NIDLが目標値制御されているか否かに基づいて実質的に判定したが、実際に求められた駆動輪トルクTW(=エンジントルクTE×自動変速機10の変速比γ×終減速装置の減速比i)が予め設定された上記所定駆動輪トルクTW’を超えたか否かで判定しても良い。
また、前述の実施例では、ホイールブレーキ装置34には、前後輪の制動力配分を制御するための液圧制御バルブとしてプロポーショニングバルブ(Pバルブ)38が後輪32R側の配管途中に設けられていたが、そのPバルブに替えて所謂リミティング(L)バルブやGバルブなどの他の液圧制御バルブが用いられても良い。
また、前述の実施例では、直結クラッチCiは、クランク軸9と入力軸16とを連結するように設けられていたが、例えば自動変速機10と駆動輪との間に設けられるように、エンジン8から駆動輪32への動力伝達経路の何れかに且つその動力伝達経路を断接可能に設けられればよい。
また、前述の実施例の駆動装置6は、専ら直結クラッチCiを介してクランク軸9と入力軸16とが連結されていたが、その直結クラッチCiに加えて流体伝動装置が備えられ、その流体伝動装置を介してエンジン8の出力が駆動輪32へ伝達されてもよい。上記流体伝動装置として、例えばロックアップクラッチ付トルクコンバータ、ロックアップクラッチが備えられていないトルクコンバータ、或いはトルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などが用いられる。
また、前述の実施例では、第2モータジェネレータMG2は、入力軸16に連結されていたが、出力軸28に連結されていたり、自動変速機10内の回転部材に連結されていてもよいし、必ずしも備えられなくても良い。
また、前述の実施例の直結クラッチCi、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。