半導体素子や液晶パネルの製造工程に於いて、清浄度の管理は製造歩留りを左右する重要な課題である。特に、部材表面のパーティクル汚染は、配線間の短絡、パターン欠陥、層間絶縁膜の絶縁不良などの原因となる為、厳格な清浄度管理が求められている。
パーティクル汚染に依るデバイス特性の劣化、製造歩留りの低下を回避する為、各工程間には洗浄工程が導入され、部材の表面を極めて清浄な状態に保ちながら製造工程が進められる。
半導体素子の製造工程を例に採って説明すると、従来、シリコン基板表面の洗浄は、主として、濃アンモニア水か濃塩酸と、過酸化水素水と、超純水とを混合して調製した溶液を一定温度に加熱し、この溶液にシリコン基板を一定時間浸漬した後、超純水で濯ぐという、いわゆる、RCA洗浄法(1970年、Radio Corporation of Americaに依って発表。)を基本とする方法に依って行われてきた。
RCA洗浄法は、シリコン基板表面に付着した有機物、金属、パーティクルの除去に極めて優れた効果を発揮する洗浄法であって、今日に至るまで種々の改良を加えられながら広く用いられている。特に、SC1(Standard Clean 1)と呼ばれる濃アンモニア水と過酸化水素水を混合したアルカリ性溶液は、シリコン基板の表面を酸化しながら同時に表面近傍を溶解し、付着したパーティクルを表面から脱離(リフトオフ)させる。また、液性がアルカリ性であることから、基板表面とパーティクルとの間に働く静電的反発作用に依って、再付着を抑止する機能をもっているので、シリコン基板表面のパーティクル汚染を効果的に除去することができる。
前記したように、RCA洗浄法は、有効な洗浄法であるが、高濃度で、しかも、高純度(高品質)の酸、アルカリや過酸化水素などの薬液を多量に必要とすると共に薬液処理後に基板を濯ぐ為の超純水も大量に使用する。また、洗浄後の廃液中に前記各薬液が排出される為、排水処理に於いて中和や沈殿処理などに大きな負担がかかり、多量の汚泥も派生させる。
従って、RCA洗浄法を実施するには、シリコン基板表面の清浄度を確保する為、薬液や超純水、そして、廃液処理などに多大な費用が必要である。
また、半導体素子の製造工程に於ける洗浄工程に限らず、製造業全体の一般的な問題として、自然環境保護の観点から、化学物質やエネルギーを大量に使用する製造手法から、より環境負荷が小さい代替手段への切り替えを推進すべきである旨の問題意識が産業界に急速に高まりつつある。
この為、RCA洗浄法に比較し、洗浄力を低下させることなく、薬液使用量を低減することができる新たな洗浄方法が模索されている。
このような状況下にあって、近年、注目を集めている洗浄方法として、超純水に特定のガスを溶解させた水(以下、「ガス溶解水」と呼ぶこととする。)を用いる洗浄方法が知られている。ガス溶解水は、溶解させたガスの種類に応じて特定の「機能」を発揮することから、「ガス溶解型機能水」、或いは、単に「機能水」とも呼ばれている。
一部のガス溶解水に、物体の表面を清浄にする効果、即ち、洗浄効果があることは1990年頃から注目され始め、その効果や洗浄メカニズムについてだけでなく、ガス溶解水の製造装置やガス溶解水を用いた洗浄装置についても様々な研究がなされている。
例えば、被洗浄物を入れた洗浄槽にガス溶解水を供給し、これに超音波を印加して被洗浄物を洗浄する超音波洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
また、パーティクル除去の効果が高いガス種として水素ガスに注目し、予めガス透過膜を介して超純水を真空脱気しておき、この脱気水にガス透過膜を介して水素ガスを溶解させ、この水素溶解水の中で超音波を照射して被洗浄物を洗浄する方法及び装置が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
更にまた、脱気水に水素ガスを溶解させて生成した水素溶解水にアルカリを溶解させてpHを調整した水素溶解水の中で超音波を照射して被洗浄物を洗浄する方法及び装置が知られている(例えば、特許文献3を参照。)。
これ等の公知文献は、ガス溶解水を用いた洗浄について最も基本となる技術要素を開示したものであるが、これ等を応用、発展させた様々な洗浄装置、或いは、洗浄方法が発明されている。
被洗浄物の表面からパーティクルを除去する効果を備えたガス溶解水として、超純水に水素ガスを溶解させた水素溶解水が利用されている。以下、水素溶解水を「水素水」と呼ぶことにする。
図7は水素水を用いる超音波洗浄装置の一例を表す要部ブロック図であり、この図を用いて水素水を用いた洗浄のメカニズムについて説明する。
超純水製造装置101で製造した非常に不純物が少ない超純水は、脱気装置102へ送られる。脱気装置102では、ガス透過膜103を介して超純水と接する雰囲気を真空ポンプ104を用いて減圧することに依り、超純水中に溶存しているガスを除去する。脱気された超純水は、ガス溶解装置105へと送られる。
水素ガス発生装置106に於いては、純水の電気分解に依って水素ガスを生成し、ガス溶解装置105に供給する。ガス溶解装置105では、ガス透過膜107を介して脱気された超純水と水素ガスが接していて、水素ガスは、脱気された超純水中に溶解する。脱気装置102で予め超純水を脱気しておくことに依り、ガス溶解装置105での水素ガスの溶解が容易になる。超純水の流量と水素ガスの供給量を調節することに依り、生成される水素水中の溶存水素濃度を制御することができる。パーティクルの除去を目的とした洗浄では、超純水中の溶存水素濃度は、1ppm前後で充分な効果が得られる。
このようにして生成した水素水に対し、薬液タンク108内のアンモニアがポンプ109の働きで極微量ずつ送られて混合される。アンモニアは、後に説明するが、パーティクルが被洗浄物113の表面に再付着するのを防止する目的で、水素水のpHをアルカリ側に調整する為に添加する。水素水に添加するアルカリは、必ずしもアンモニアである必要はなく、被洗浄物への影響などを考慮して、他のアルカリを添加しても良い。
水素水中のアンモニア濃度は、例えば水素水の電気伝導率を測定することに依って把握し、制御することができる。水素水は、洗浄槽110の下部から洗浄槽110の内部に送り込まれ、洗浄槽110の上部開口部から洗浄槽110の外へと溢出する(オーバーフロー)。従って、洗浄槽110の内部では、次々に供給される水素水が下から上に向かって絶えることなく流れていて、滞留することはない。
洗浄槽110の底面には、超音波振動子111が設置されている。発振器112で生成された信号が超音波振動子111に印加された場合、超音波振動子111が振動して、洗浄槽110内に満たされた水素水中を超音波が伝播する。尚、脱気装置102に於ける超純水の脱気方法、ガス溶解装置105に於ける水素ガスの溶解方法、水素ガス発生装置106に於ける水素ガスの生成方法は、ここで説明した方法と異なる場合もある。
洗浄槽110の内部に満たされた水素水に超音波が印加された場合、一部の水分子が分解してHラジカルとOHラジカルに分裂する。これ等のラジカルは非常に反応性が高く、発生後、速やかに両者が結び付いて安定な水分子に戻る反応が最も優勢と考えられる。
然しながら、一部のOHラジカルは、水素水中の溶存水素と反応して水分子となる為、水素水中では相対的にHラジカルが余っている状態になる。このようにして生じた反応性が極めて高い余剰Hラジカルは、水素水に浸漬された被洗浄物113や、被洗浄物113の表面に付着しているパーティクルの表面の最末端部との反応を生ずる。例えば、活性な最表面ダングリングボンドに結合して不活性化したり、或いは、末端原子との置換を起こしたりする。その結果、被洗浄物113の表面からのパーティクル脱離が促進される。
このような余剰Hラジカルの効果だけでなく、被洗浄物113とパーティクルの界面に於けるマイクロバブル(気泡)の発生に依る物理的な剥離効果や、超音波洗浄本来の振動加速度の効果が加わって、水素水中では、極めて効果的に被洗浄物113の表面からパーティクルが除去される。水素水洗浄のメカニズムについては、既に、詳細な報告がなされている(例えば、非特許文献1を参照。)。
ところで、種々の材料の表面のゼータ電位の値は、その表面が接している溶液のpHに依存する。水素水に微量のアンモニアを添加して水素水のpHをアルカリ側に変化させることに依り、多くの被洗浄物113とパーティクルの材料の組み合わせに於いて、両者の表面のゼータ電位を同極性にすることができる。
その結果、両者の間に静電的な反発力が発生し、被洗浄物113へのパーティクルの再付着を防止する効果が得られる。僅か1ppmのアンモニアの添加に依って水素水のpHは9.4に変化するが、この液性に於いて、多くの材料の組み合わせに対して再付着を防止する効果が得られる。また、材料の組み合わせに依っては、アンモニアを添加しなくても、水素水だけで充分な洗浄効果が得られる場合もある。
前記説明したように、水素水洗浄は、超純水に1ppm前後の濃度の水素ガスを溶解させ、必要あれば、僅か1ppm前後のアンモニアを添加するだけで、優れたパーティクル除去の効果を発揮する。
水素水洗浄と濃アンモニア水及び過酸化水素水を混合したSC1に依る洗浄とを比較した場合、水素水洗浄は、高濃度の薬液の使用量を殆ど0にすることができると共に濯ぎの為の超純水の使用量も圧倒的に少なくすることができ、また、廃液処理の負担も極めて小さくできるので、費用の面、及び、環境負荷の面での優位性が非常に高い技術であると言うことができる。
ここで、SC1に代表される薬液洗浄と水素水洗浄とについて、パーティクル除去のメカニズムを更に詳細に比較説明する。
薬液洗浄では、被洗浄物の表面近傍、更に場合に依っては、付着しているパーティクルの表面近傍を薬液で溶解(エッチング)することに依り、パーティクルを被洗浄物の表面から脱離(リフトオフ)させる。この為、薬液洗浄では、パーティクルが被洗浄物の表面にどのような付着の仕方をしているかに拘わらず、パーティクルを脱離させることが可能である。
これに対し、水素水洗浄では、超音波の印加に依って水素水中に発生した非常に活性な水素ラジカルがダングリングボンドと結合して不活性化したり、界面の末端部の原子と置き換わるなどの化学反応を起こし、界面でのマイクロバブル(気泡)の発生に依る剥離効果、そして、超音波洗浄本来の振動加速度の効果と共にパーティクルを離脱させる。
従って、水素水洗浄は、パーティクルが被洗浄物の表面にファンデルワールス力のような静電的な引力に依って吸着している場合には効果が大きいが、パーティクルと被洗浄物との間に化学結合が生じていたり、両者が機械的に固着しているような場合には、パーティクルの脱離が困難となる。
例えば、半導体ウェーハの表面を平坦にする為の化学機械研磨(chemical mechanical polishing:CMP)の終了後に半導体ウェーハを洗浄する工程について説明する。
一般に、CMPでは、研磨用組成物(スラリー)を用いて研磨を行う。スラリーは、ダイヤモンドやシリカなどを材料とする砥粒、及び、それを分散させる液状成分からなる。液状成分には、酸化剤、還元剤、エッチング剤、腐食防止剤などの薬液が目的に応じて添加されている。
CMPを実施するには、研磨パッドと半導体ウェーハとを接触させ、その界面にスラリーを供給しつつ両者に摩擦運動をさせる。その運動に依って、スラリー中の砥粒に依り、半導体ウェーハ表面が機械的に研磨され、また、スラリー中の液状成分に含まれる薬液に依り、半導体ウェーハ表面が化学的に変換されたり、或いは、研磨されることで平坦化される。
CMP工程が完了した後、ウェーハ表面を洗浄し付着していたスラリーを除去する必要がある。然しながら、研磨中に一定の圧力で砥粒がウェーハ表面に押し付けられること、そして、砥粒とウェーハ表面との界面にスラリーに含まれる薬液が介在することに依り、スラリー中の砥粒はウェーハ表面に強固に付着している。従って、CMP後のウェーハに対して、そのまま水素水洗浄を行っても、ウェーハ表面に付着した砥粒は簡単には除去することができない。
然しながら、砥粒に物理的な力の作用を与え、砥粒とウェーハ表面の間の強固な固着を切り離してやることで、水素水洗浄が本来備えているパーティクル除去の機能を顕現させて大きな洗浄効果を得ることができる。
その方法の一例について、水素水を用いたブラシ洗浄の説明図である図8を参照しつつ説明する。被洗浄物であるウェーハ201は、何らかの方法で支持されて回転するようになっている。ウェーハ201の両面にはブラシ202を接触させる。ブラシ202は、例えば軟らかいポリビニルアルコール(PVA)製のスポンジで作製された円筒形のローラーになっていて、軸を中心に回転可能になっている。更に、ウェーハ201の表裏両面はノズル203(裏面用は省略)からの水素水で噴射されるようになっている。尚、ノズル203は、噴射する液体に超音波を印加できるようになっていて、噴射された液体中を超音波が伝播してウェーハ201に達する。
ここで用いる水素水は、図7について説明した方法で生成したものであって良く、必要に応じ、アンモニアを添加しても良い。ウェーハ201及びブラシ202をそれぞれ回転させながらノズル203から超音波を印加した水素水を噴射する。これに依り、ウェーハ201の表面に強固に固着した砥粒にブラシ202との摩擦で生じる力が作用し、砥粒はウェーハ201の表面から解放される。ウェーハ201の表面への強固な固着がなくなった砥粒に対し、前記説明した水素水の効果が充分に発揮され、砥粒は効率良くウェーハ201の表面から除去される。
ブラシに依るウェーハ表面の摩擦は、水素水を用いたブラシ洗浄の別の説明図である図9で説明される方法に依っても実現される。図8の例と同様、例えばPVAスポンジからなるブラシ302は、回転するウェーハ301の表面と接触しながら軸を中心に回転し、ウェーハ301の表面との間に摩擦を発生させる。この状態を維持しながら、ブラシ302はウェーハ301上を移動し、ウェーハ301の全面を摩擦する。ウェーハ301の表面には、図8の例と同様、噴射する液体に超音波を印加できるノズル303から水素水が供給され、ブラシ302に依る摩擦力の作用に助けられて、ウェーハ301の表面から砥粒が除去される。
このような洗浄方法、即ち、超音波を印加しながら水素水とブラシに依り基板を洗浄する方法は既知である(例えば、特許文献4を参照。)。
さて、図8或いは図9について説明した方法を採って、ブラシとの摩擦を利用して砥粒を除去しようとした場合、砥粒、ウェーハ表面、ブラシの材料の組み合わせ如何に依り、ウェーハ表面にスクラッチ痕を発生させてしまう旨の問題がある。
また、CMP後のスラリーの洗浄に限られず、一般的な問題として、被洗浄物の表面に強固に固着したパーティクルを水素水洗浄に依って除去するに際し、前記したようなブラシとの動的な摩擦を利用した場合、被洗浄物の表面にスクラッチ痕を発生させるだけでなく、被洗浄物の表面にパターンなどの微細な構造物が形成されている場合には、これ等の構造物をブラシとの摩擦に依って損傷させてしまう旨の問題もある。
特許第2821887号明細書
特許第3521393号明細書
特許第3296405号明細書
特開2004−96055号公報
H.Morita,et al,"Particle Removal Mechanism of Hydrogenated Ultrapure Water with Megasonic Irradiation,"5th International Symposium on Ultra Clean Processing of Silicon Surfaces(UCPSS)2000,Oostende,Belgium(2000).
図2は本発明の一実施例を説明する為のウェーハ洗浄装置の要部切断側面図であり、以下、図を参照しつつ説明するが、ここでは、溶存水素濃度が管理された水素水が既存の手段に依って製造され、洗浄装置に供給されるものとする。また、この水素水には、必要な場合、pHを調節する目的でアンモニア等のアルカリが添加され、その濃度も適切に管理されているものとする。水素水、或いは、アンモニアを添加した水素水が製造され、洗浄装置へ供給される場合の具体的構成については、図7について説明した構成が参考となろう。
本発明の本質的な要素は、水素水洗浄の効果を生じさせる部分と、被洗浄物の表面に殆ど接線応力或いは剪断応力のみ、従って、法線応力は極めて微細である物理的な力の作用を与える部分とに分けることができる。まず、水素水洗浄の効果を生じさせる為の機構について説明する。
被洗浄物であるウェーハ501は、石英洗浄槽502の内部を満たした水素水503に浸漬して洗浄する。水素水製造装置で製造された水素水503は、給水管504に依って石英洗浄槽502の底部に導入され、給水管504に形成された複数の穴505から石英洗浄槽502の内部へと噴出する。
水素水503は、石英洗浄槽502の下部から上部へと流れ、石英洗浄槽502の上面に在る開口部から外へ溢出する(オーバーフロー)。このようにすることで、石英洗浄槽502の内部に於ける水素水503は常に新しく供給されるものと置き換わり続け、石英洗浄槽502内に滞留することはない。
石英洗浄槽502は、ステンレス製の外槽506に設けられた支柱507に依って支持されている。外槽506の底面には超音波振動子508が設置され、外部の発振器509で生成された高周波信号が印加されて振動することで超音波を発生する。
外槽506の内部には常に水510が満たされていて、超音波振動子508で発生した超音波は水510を伝播し、更に、石英洗浄槽502の底面を通過し、石英洗浄槽502の内部の水素水503へと伝播する。
超音波振動子508で水素水503に超音波を印加する目的は、通常の超音波洗浄の効果と共に水素水503の内部で余剰水素ラジカルを発生させ、先に説明した水素水洗浄効果を得ることにある。そして、超音波の周波数が20kHz〜30kHz以上であれば、余剰水素ラジカルを発生させる効果があるとされている。
然しながら、超音波の周波数が20kHz〜30kHzから100kHz程度の範囲では、超音波が引き起こすキャビテーション(空洞)の生成と消滅とに依って局所的に発生する衝撃波の影響が強く、ウェーハ501に与える損傷が大きい。この為、超音波振動子508で発生させる超音波の周波数としては、ウェーハ501に与える損傷が小さくなるメガソニックと呼ばれる500kHzから2MHz〜3MHzの範囲が好ましい。
次に、本実施例に於ける被洗浄物であるウェーハ501の表面に物理的な力の作用を与える機構について説明する。
本実施例では、ウェーハ501及びウェーハ501の全面と一度で接触できるだけの広さの平面部分をもったブラシ511を接触させ、ブラシ511を振動させることで、ウェーハ501の表面に物理的な力の作用を与える。ブラシ511は、振動発生装置512の振動板513上に固定されていて、振動発生装置512を動作させると、振動板513が振動し、それに伴ってブラシ511の全体が振動する。
振動発生装置512に於ける振動板513の振動は、例えば、信号発生器514で発生させた任意の波形信号をアンプ515に依って増幅してから振動発生装置512に伝えて制御する。ウェーハ501は、ウェーハ501を保持するツメ517を備えたウェーハホルダ516に保持されている。
ウェーハホルダ516と振動発生装置512は、ウェーハ501とブラシ511とが対向して平行となるようにアーム518に依って往復運動機構519に固定されている。往復運動機構519は、ウェーハ501とブラシ511の向きを平行に維持したまま、両者の相対距離が変化するようにアーム518を自由に運動させることができる。
アーム518の運動は、コンピュータを備えた制御装置520に依って制御する。例えば、往復運動機構519はウェーハ501とブラシ511の両者を周期的に接近、離間させ、両者が最も接近したときにブラシ511の平面部分をウェーハ501の全面に均一に接触させることができる。
制御装置520に依って、振動発生装置512を駆動している信号発生器514或いはアンプ515の動作も制御してやれば、振動板513の動作をアーム518の動作と連携させることができる。例えば、ブラシ511がウェーハ501に接触しているときだけ、振動板513を振動させるような運転が可能となる。
ブラシ511の材料としては、本実施例ではPVAスポンジを使用したが、PVAスポンジに限られず、多孔質のスポンジ状のものであれば良い。要は、ウェーハ501の表面を損傷させないことにあるので、樹脂製の軟らかい材料が好ましく、例えば、発泡ポリウレタンなどであって良い。
図3は図2に見られる振動発生装置512の詳細な構造を表す要部説明図である。図に於いて、ウェーハと接触するブラシ601は、振動板602に固定されている。また、振動板602には支持棒603が取り付けられていて、ブラシ601がウェーハと接触したときに振動板602を支え、振動板602が筐体604中に陥没するのを防止している。支持棒603の先端は、筐体604の内側壁面に固定されることなく、壁面に沿って自由に運動することができ、従って、振動板602の振動には何らの妨げにもならない。
振動板602の振動の動力は、コイル605と磁気回路606の間に働く磁力に依って発生させる。コイル605は振動板602に、そして、磁気回路606は筐体604にそれぞれ固定されている。永久磁石である磁気回路606は、円筒状に捲回されたコイル605の空洞内に挿入されている。コイル605は、ケーブル607に依って、外部の信号源(例えば、図2に見られる信号発生器514やアンプ515など。)に接続される。外部の信号源からコイル605に時間的に変動する信号電流が送られた場合、コイル605では時間的に変動する磁場が発生し、この磁場と磁気回路606が発生させる磁場との相互作用で、コイル605は振動運動し、その振動に伴って振動板602が振動する。
本実施例では、ブラシ601が図3に於ける横方向の運動成分をもつ振動をすることが必要である為、コイル605と磁気回路606の組みは、図3に見られる向きに設置している。また、コイル605と磁気回路606の組みを異なった方向に複数組設置することで、振動板602の振動は一方向のみの単純な振動ではなく、複数の方向の成分をもった振動となり、更に好ましいものとなる。
本実施例に於いて、振動発生装置(図2及び図3を参照。)は水没させた状態で動作させる。この為、振動板602と筐体604との間に生ずる隙間には支持シート608を貼付し、筐体604と振動板602との位置関係を固定すると共に外部からの水の侵入を防止する。支持シート608は、波板状に成型したフッ素樹脂のシートなどを用いて振動板602が図3の横方向に振動できる構造とする。
ブラシ601の振動の周波数については、実験の結果、例えば、超音波振動子が発生させる振動のような小さい振幅で高い周波数の振動はPVAスポンジ等の軟らかい材料で吸収されてしまい、ウェーハ表面のパーティクルに対して効果的な作用を与えられないことが明らかとなり、そして、本発明の目的を達成する為には、高くても100Hz程度までの周波数の振動で充分な効果が得られることが判った。そこで、例えば音響機器として用いられているスピーカーに於けるボイスコイル、振動板、磁気回路からなる構造を採用して振動を発生させたところ、極めて良好にパーティクルの除去を実現することができた。然しながら、ブラシ601に適切な大きさの振動を与えることができれば、図示説明した手段に限定されるものではない。
図4は図2に見られる往復運動機構519の詳細な構造を表す要部説明図であり、2つの枠701が、2本の平行なシャフト702で連結され、シャフト702には、雄ネジが切られたネジ棒703が平行に設置されている。ネジ棒703は、枠701に於いて、ベアリングを介して支持され、自由に回転できる構成になっている。ネジ棒703の一端はモーター704に連結されていて、モーター704がネジ棒703を回転させる。
二つの枠701の間には可動台座705が設置され、可動台座705には、2つのガイド穴706が形成され、シャフト702が貫通している。また、可動台座705には、雌ネジを切ったネジ穴707が形成され、ネジ棒703が挿入されている。モーター704を回転させると、可動台座705は、シャフト702に沿って自由に移動する。モーター704は、ケーブル708に依って外部の制御装置(例えば図2に見られる制御装置520)と接続されている。制御装置に依ってモーター704の回転量、回転速度を制御することに依り、可動台座705の位置、移動速度を精密に制御することができる。
例えば、図2に見られるアーム518の何れか一方を図4に見られる枠701に、他方を可動台座705に固定することで、図4について説明した機構に依って、図2について説明したウェーハ501とブラシ511との接近、離間を実現することができる。
再び図2を参照しつつ、本実施例に於いて実施した洗浄実験を説明しながら本発明に依る洗浄作業の実際について説明する。
直径約20cm(8インチ)のシリコンウェーハを基板とし、最表面に厚さ2μmのCu膜を電気メッキに依って成膜する。このCu膜の面を、溶融石英から成る平均粒径0.15μmの砥粒を含むスラリーを用い、CMP法を適用して研磨する。尚、電気メッキ及びCMPは通常の技法を適用して良い。
前記CMPを実施した直後に於けるCu膜の面に付着している砥粒を洗浄除去する実験を行った。
この場合の装置構成並びに設定について説明する。先ず、容積15リットルの石英洗浄槽502に溶存水素濃度1.5ppmの水素水503を10リットル/分の流量で供給した。水素水503は、石英洗浄槽502の上部開口部から槽外にオーバーフローさせた。この石英洗浄槽502の下方に設置した超音波振動子508を振動させ、水素水503にメガソニックを印加した。その周波数は750kHz、出力600Wであった。
振動発生装置512は、2方向の振動成分を発生させるコイルと磁気回路の組み合わせを備えている。信号発生器514に依って50Hzで変動する正弦波の電流を発生させ、アンプ515に依って振幅を適度に増幅し、振動発生装置512のコイルに通電させた。振動発生装置512の振動板513上には、ブラシ511として、水中で軟化させた状態での厚さが15mm、直径が約22cm(8.5インチ)の円板状のPVAスポンジを固定した。
被洗浄物であるウェーハ501をウェーハホルダ516に設置して、往復運動機構519に依り、ブラシ511を振動させながらウェーハ501に接近させ、接触させ、離間するという動作を水素水503中でなされるようにした。ウェーハ501の中心とブラシ511の中心は同一直線上に置かれ、ブラシ511はウェーハ501の全面に均一に接触するようになっている。
図5はウェーハ501とブラシ511の相対的な位置関係を説明する為の要部説明図である。本実施例では、ウェーハ801の位置は固定であって、振動板803だけが往復運動するようになっている。(a)は、ウェーハ801の表面と振動板803とが最も離間した状態を示し、その距離L1は33mmに設定されている。このとき、ウェーハ801の表面とPVAスポンジの表面との距離L2は18mmであり、両者の間は水素水で満たされている。(b)は、振動板803が最もウェーハ801の表面に接近した状態を示していて、その距離L3は13mmに設定してある。この状態で、PVAスポンジ802の表面はウェーハ801の表面に接触し、更に、PVAスポンジ802の厚さが2mm縮む分だけ押し込まれる。振動板803は往復運動機構の動作に依って振幅20mmの往復運動を行い、図5の(a)及び(b)の状態の間を往復する。
図6は往復運動機構の往復運動の様子を表す線図であり、横軸には時間(秒)を、縦軸にはウェーハ801の表面と振動板803との相対距離の値(mm)をそれぞれ採ってある。振動板803は、20mm/秒の速さで運動するように設定されている。また、図5の(a)及び(b)の状態で、振動板803は、それぞれ1秒間の静止をするように設定されている。
以上、記述したような装置構成の下で、CMP直後のCu膜の面に付着している砥粒を洗浄除去する実験を行った。この場合の評価は、洗浄の前後に於けるCu膜の面に付着している砥粒の数を計測し、比較することで実施し、砥粒の数の計測は、ウェーハ表面検査装置で行った。
まず、振動するブラシ511をウェーハ501に接触させることなく、超音波振動子508に依って印加されるメガソニックのみを用いて1分間の水素水洗浄を行った。その結果、砥粒は20%程度しか除去できなかった。砥粒はCu膜表面に強固に固着していると推定された。
次に、振動板513がウェーハ501に最も接近してブラシ511がウェーハ501に接触した状態、即ち、図5の(b)の状態とし、振動発生装置512で50Hzの振動を加えながら1分間の水素水洗浄を行った。その結果、砥粒は僅か8%程度が除去された。アンプ515に於ける増幅率を変えて振動板513の振幅を変化させても、そして、信号発生器514で発生させる正弦波の周波数を50Hzから上下させても、除去率は殆ど変化しなかった。ブラシ511が接触したままでは、洗浄効果は全く得られないことが判った。
そこで、往復運動機構519を用い、ブラシ511を50Hzで振動させたまま、図6の線図に見られるような往復運動を行いながら水素水洗浄を1分間実施した。その結果、砥粒は95%を除去することができた。これは、Cu膜の表面と砥粒との間の固着をブラシ511の振動に依って解放し、更に、水素水洗浄の効果に依って砥粒をCu膜の表面から除去する旨の効果が発揮されたものと認識される。
然しながら、この条件での洗浄の結果、洗浄後のCu膜の表面に微小なスクラッチ痕が多数発生していることが判明した。詳しく分析を行ったところ、ブラシ511の表面がウェーハ501の表面に接触する瞬間、及び、逆に離間する瞬間に両者の間に激しい動的な摩擦が発生し、この摩擦が原因でスクラッチ痕が発生することが判った。また、ブラシ511がウェーハ501の表面と充分に接触した状態では、振動板513を振動させてもブラシ511とウェーハ501の表面は密着したままで、両者の接触界面では摩擦は発生せず、周期的に変化する静的な応力だけがウェーハ501の表面に作用していることも判った。
そこで、制御装置520のコンピュータを用い、振動板513がウェーハ501に最も接近して、ブラシ511がウェーハ501の表面に充分に接触した状態、即ち、図5に於ける(b)の状態のときだけ、振動発生装置を動作させてブラシ511を振動させ、他の時間はブラシ511の振動を停止するように制御した。即ち、図6に於いて、横軸に太線で表した区間だけ、ブラシ511を振動させることにした。この設定の下で、1分間の水素水洗浄を行ったところ、略96%という砥粒の除去率を記録しながら、スクラッチ痕は皆無であった。
更に、信号発生器514で発生させる正弦波信号の周波数を50Hzに固定し、アンプ515での増幅率を変えて、ブラシ511の振幅を変化させて水素水洗浄を行った。その結果、振幅が小さい領域では、殆ど砥粒を除去できないのに対し、振幅が一定の大きさを越えると急速に砥粒の除去率が上昇し、上記条件で96%に達し、しかも、100%に近い除去率にまで上昇した。然しながら、更に振幅を大きくした場合、ブラシ511とウェーハ501との界面で動的な摩擦が発生し始め、洗浄後のCu膜の表面に微小なスクラッチ痕が発生した。このように、本実施例に於いては、ブラシ511の振動の振幅と周波数の最適化を行うことに依って、ブラシ511とウェーハ501との界面に於いて、動的な摩擦を発生させることなく、100%近い砥粒の除去率が得られた。
また、信号発生器514で発生させる正弦波信号の周波数を検討した結果、周波数が高くなると共に振動板513の振動がブラシ511の内部で吸収される傾向が強くなり、充分な応力をウェーハ501の表面に加えられない状態となり、水素水に依る洗浄効果が得られないことも判った。ブラシ511の材料、即ち、ここではPVAスポンジは、弾性体としての性質と、ブラシ511の外形寸法、特に厚さに依っても変化するが、振動板513の振動周波数の上限は、高くても1kHzが限界である。勿論、各々の周波数の設定に於いて、先に説明したような水素水に依る洗浄効果を効率良く得られるような振動の振幅の最適化が必要である。
本実施例では、前記したように、制御装置520のコンピュータを用い、ブラシ511がウェーハ501の表面に充分に接触した状態のときだけ、振動発生装置512を動作させてブラシ511を振動させ、他の時間はブラシ511を振動させないように制御した。この制御は、ブラシ511とウェーハ501の相対的な位置関係に合わせて振動発生装置512に対してオンオフの指令を出して行っても良い。また、往復運動機構519などにブラシ511とウェーハ501が接触することで両者の間に発生する応力(圧力)を感知するセンサーを設け、両者が充分に接触し、両者の間に作用する応力が一定の値を上回っている時間だけ、振動発生装置512を動作させるような制御の仕方を行ってもよい。
尚、ここで説明した洗浄装置及び洗浄方法は、水素水を用いた洗浄だけでなく、従来の薬液などの洗浄液を使用した場合に於いても、その洗浄効果を充分に発揮することができる。
本発明に於いては、前記説明した実施例を含め、多くの形態で実施することができ、以下、それを付記として例示する。
(付記1)
被洗浄物が収容された洗浄槽内に洗浄液を供給し、洗浄液に超音波を印加して被洗浄物を洗浄する洗浄装置に於いて、 被洗浄物に接触した状態で振動するブラシを設けたこと
を特徴とする洗浄装置。
(付記2)
ブラシが弾性体からなること
を特徴とする(付記1)記載の洗浄装置。
(付記3)
弾性体が樹脂を材料とし且つ多孔質のスポンジ状を成すこと
を特徴とする(付記2)記載の洗浄装置。
(付記4)
ブラシの振動周波数が1kHz以下であること
を特徴とする(付記1)乃至(付記3)の何れか1記載の洗浄装置。
(付記5)
洗浄槽に供給する洗浄液が特定種類のガスを溶解させた超純水であるガス溶解水或いは特定のアルカリを溶解してpHを調整したガス溶解水であること
を特徴とする(付記1)乃至(付記4)の何れか1記載の洗浄装置。
(付記6)
被洗浄物とブラシとが一定時間に亙って接触してブラシが振動する工程及び一定時間に亙って接触しない工程を交互に繰り返す為の機構
を備えてなることを特徴とする(付記1)乃至(付記5)の何れか1記載の洗浄装置。
(付記7)
ブラシが振動する時間はブラシが被洗浄物に接触する工程の開始直後に始まり、該工程の終了直前に終わるように時間を限定する機構
を備えてなることを特徴とする(付記6)記載の洗浄装置。
(付記8)
被洗浄物が収容された洗浄槽内に洗浄液を供給し、洗浄液に超音波を印加して被洗浄物を洗浄する洗浄方法に於いて、 被洗浄物に振動するブラシを接触した状態で洗浄を行うこと
を特徴とする洗浄方法。
(付記9)
洗浄槽に供給する洗浄液が特定種類のガスを溶解させた超純水であるガス溶解水或いは特定のアルカリを溶解してpHを調整したガス溶解水であること
を特徴とする(付記8)記載の洗浄方法。
(付記10)
被洗浄物とブラシとが一定時間に亙って接触してブラシが振動する工程及び一定時間に亙って接触しない工程を交互に繰り返すこと
を特徴とする(付記8)或いは(付記9)記載の洗浄方法。
(付記11)
ブラシが振動する時間はブラシが被洗浄物に接触する工程の開始直後に始まり、該工程の終了直前に終わるように時間を限定すること
を特徴とする(付記10)記載の洗浄方法。
(付記12)
ブラシが被洗浄物に接触し且つ振動している間に於いて、ブラシと被洗浄物の接触界面に動的な摩擦を発生させることなく洗浄を行うこと
を特徴とする(付記11)記載の洗浄方法。
(付記13)
洗浄槽内に供給する洗浄液であるガス溶解水が超純水に水素ガスを溶解させたものであること
を特徴とする(付記8)乃至(付記12)の何れか1記載の洗浄方法。