しかしながら、上記した従来の技術では、プロセス速度(定着処理の速度)を速くしていくと、画像欠陥が生じるという問題がある。
実際に、本願発明の発明者らが、上記したような複数の定着ニップ部を有する定着装置を用いて定着実験を行ったところ、いずれの定着装置においても、プロセス速度を速くしていくと、特にトナー像が100%印字されたソリッド画像部(所謂、ベタ画像部)において、ミクロな濃淡むらによる画像欠陥が発生した。
また、この画像欠陥を詳細に分析したところ、画像欠陥は、記録紙上で部分的に発生するトナー像の位置ずれ(画像ずれ)に起因していることがわかった。また、この位置ずれがひどい場合、トナー像がずれた部分では下地の記録紙が露出してしまうことから、濃度低下を生じてしまう場合もある(以降の説明では、これらの画像欠陥を画像ずれと記す。)。
また、上記した従来の技術では、上記複数の定着ニップ部同士の間隔を広くすると、高温オフセットによる画像欠陥(高温オフセットのような画像欠陥)が生じるという問題がある。すなわち、加熱部材と第1の押圧部材(加圧部材)とによって最も入紙側に形成される定着ニップ部(第1ニップ部)と、この第1ニップ部よりも用紙搬送方向の下流側に加熱部材と第2の押圧部材とによって形成される定着ニップ部(第2ニップ部)との間における、押圧部材が当接していない部分(仮想ニップ部)の用紙搬送方向の幅を広くしていくと、高温オフセットによる画像欠陥が生じてしまう。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、複数の定着ニップ部を有する定着装置において、画像ずれや高温オフセットによる画像欠陥を生じることなく、高速化が可能な定着方法および定着装置を提供することにある。
本発明の定着装置は、上記の課題を解決するために、所定の温度に加熱される定着部材と、未定着トナー像が形成された記録紙に上記定着部材方向への押圧力を付与する複数の押圧部材とを備え、上記定着部材と上記各押圧部材との間に形成される各定着ニップ部に上記記録紙を通過させることにより、上記未定着トナー像の定着を行う定着装置において、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度と、上記各定着ニップ部のうち記録紙搬送方向の最上流側に位置する定着ニップ部である第1ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1ニップ通過時間とを、上記未定着トナー像が低温オフセットを生じない温度まで加熱される条件に設定したことを特徴としている。なお、上記記録紙は、紙からなるものに限定されるものではなく、トナー像が形成されるシート状の印刷媒体全般を意味するものであり、例えばOHP用シートなども含む。
定着部材と複数の押圧部材とによって複数の定着ニップ部が形成される場合、記録紙の通紙方向から見て、最上流側に位置する第1の押圧部材により形成される第1ニップ部と、その下流側に形成される定着ニップ部との間は、定着ニップ部が形成されないかもしくは、見かけ上定着ニップ部が形成されていても、ほとんど定着圧力がかかっていない状態のニップ部(仮想ニップ部)が形成されることになる。ここで、第1ニップ部では押圧部材により定着部材、トナー、記録紙のそれぞれが密着しているが、第1ニップ部通過後、その下流側のニップ部に至るまでの領域(仮想ニップ部)では、押圧部材が存在しないために、定着部材と記録紙との間で若干の隙間が生じる。この時、第1ニップ部でのトナーの溶融状態が不十分であると、トナー像の一部は定着部材側に付着していわゆる低温オフセット現象を生じ、第1ニップ部を通過後、次のニップ部に至るまでの領域(仮想ニップ部)で定着部材と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合、次のニップ部で定着部材と記録紙とが再度密着すると、画像ずれが生じてしまう。
これに対して、上記の構成によれば、定着部材の定着温度と、第1ニップ部のニップ通過時間(第1ニップ通過時間)とが、未定着トナー像を低温オフセットが生じない温度まで加熱する条件に設定されている。これにより、第1ニップ部通過後の低温オフセット、すなわち、未定着トナーが第1ニップ部通過後に定着部材に付着してしまうことを防止できる。したがって、例えばプロセス速度を高速化させた場合でも、画像ずれが生じることを確実に防止することができる。
また、上記定着温度と上記第1ニップ通過時間とが、上記未定着トナー像における最も上記記録紙側の温度が、上記第1ニップ部の出口において、上記未定着トナー像のトナー流出開始温度以上となるように設定されていてもよい。ここで、トナー流出開始温度とは、熱溶融特性測定装置、例えばフローテスター(株式会社島津製作所製CFT−500)を用いて、トナー粉末を装置にセットし、ダイ孔径:径1mm高さ1mm、荷重20kgf/cm2、6℃/分で等速昇温させて測定したときに、トナーの溶融が始まり、トナーに荷重をかけるピストンが降下し始める値と定義する。また同様の測定で、ピストンが4mm降下したときの温度を4mm降下温度と定義する。
上記の構成によれば、未定着トナー像が第1ニップ部においてトナー流出開始温度以上の温度まで加熱される。このため、第1ニップ通過後に低温オフセットが生じることを確実に防止できる。したがって、画像ずれの発生を防止することができる。
また、上記定着温度と上記第1ニップ通過時間とが、上記第1ニップ通過時間をtn1(秒)、上記トナー流出開始温度をTi(℃)、上記定着温度をTとした場合に、tn1≧0.0006Ti−0.00024T+0.0015を満たすように設定されていてもよい。
上記の構成によれば、未定着トナー像を第1ニップ部においてトナー流出開始温度以上の温度まで加熱することができる。このため、第1ニップ通過後に低温オフセットが生じることを防止できるので、画像ずれの発生を防止することができる。また、上記の数式を用いて未定着トナー像がトナー流出開始温度以上となる定着温度および第1ニップ通過時間を設定することにより、定着温度および第1ニップ通過時間を実験や解析で求めることなく、画像ずれを適切に防止することができる。
また、上記定着部材および上記押圧部材が、上記記録紙の搬送方向に略垂直な方向を回転軸として回転するローラであってもよい。
このように、定着部材および押圧部材をローラで構成することにより、簡易な構成で、複数のニップ部を有する定着装置を実現することができる。
また、上記第1ニップ部を形成する押圧部材は、芯金上に弾性層が被覆され、上記記録紙の搬送方向に略垂直な方向を回転軸として回転する弾性ローラであってもよい。
上記の構成によれば、第1ニップ部を形成する押圧部材を弾性ローラとすることで、第1ニップ部のニップ幅を十分広く設定することができる。このため、第1ニップ部で要求される定着条件(ニップ通過時間)を容易に実現することができる。
また、上記記録紙の搬送方向に略垂直な方向を回転軸として回転する複数の支持ローラと、上記支持ローラに懸架されたベルトとを備え、上記各押圧部材が上記ベルトを上記定着部材に押し付けることにより、上記ベルトと上記定着部材との間に上記各定着ニップが形成される構成としてもよい。
上記の構成によれば、第1ニップ部から排出された記録紙は、ベルトと定着部材との間に挟みこまれて搬送されるので、搬送不良が生じることを防止できる。つまり、ベルトがない場合には、第1ニップ部と、その下流側に位置する押圧部材によって形成されるニップ部との間には、記録紙の搬送方向を規制するものがない。このため、記録紙が第1ニップ部を通過した後、その下流側に位置する押圧部材によって形成されるニップ部に突入するまでに、搬送方向が変わってしまい、搬送不良を生じる可能性がある。しかしながら、上記のようなベルトを設けることで、第1ニップ部から排出された記録紙は、ベルトと定着部材との間に挟みこまれて搬送されるので、搬送不良が生じることを防止できる。
また、上記複数の押圧部材の少なくとも1つが、非回転部材であってもよい。押圧部材を非回転部材、すなわち加圧パッドとすることにより、その押圧部材によって形成される定着ニップ部の通紙方向の幅であるニップ幅を、定着装置の大型化を行うことなく、より広くすることができる。
また、上記非回転部材が、上記第1ニップ部を形成していてもよい。これにより、第1ニップ部のニップ幅(第1ニップ幅)を広くし、上記第1ニップ通過時間を長くすることができる。このため、例えばプロセス速度が速い場合でも、第1ニップ通過時間および定着温度を、上記未定着トナー像が低温オフセットを生じない温度まで加熱される条件に設定することが容易になる。
また、上記第1ニップ部を形成する押圧部材は、記録紙搬送方向に略垂直な方向を回転軸として回転するローラであり、上記非回転部材からなる押圧部材によって形成される定着ニップである非回転ニップ部が、上記第1ニップ部の記録紙搬送方向下流側に形成されており、上記第1ニップ部の記録紙搬送方向下流側の端部と、上記非回転ニップ部の記録紙搬送方向上流側の端部との距離が、3mm以下であってもよい。
上記の構成によれば、上記第1ニップ部と非回転ニップ部とが連続あるいは近接した状態となるので、実質上、上記第1ニップ部と上記非回転ニップ部とが連続した一体のニップ部として作用する。このため、画像ずれを効果的に防止することができる。
また、上記第1ニップ部を形成する押圧部材と、当該押圧部材に対して上記記録紙の搬送方向下流側に配置される押圧部材との間に、上記記録紙の搬送方向を規制するガイド部材を備えてもよい。
上記の構成によれば、第1ニップ部から排出された記録紙は、上記ガイド部材によって搬送方向を規制されながら次のニップ部に搬送されるので、搬送不良が生じることを防止できる。
本発明の他の定着装置は、上記の課題を解決するために、所定の温度に加熱される定着部材と、未定着トナー像が形成された記録紙に上記定着部材方向への押圧力を付与する複数の押圧部材とを備え、上記定着部材と上記各押圧部材との間に形成される各定着ニップ部に上記記録紙を通過させることにより、上記未定着トナー像の定着を行う定着装置において、上記各定着ニップ部のうち記録紙搬送方向の最上流側に位置する定着ニップ部である第1ニップ部と、上記第1ニップ部よりも記録紙搬送方向の下流側に位置する第2ニップ部と、上記第1ニップ部と第2ニップ部との間の領域である仮想ニップ部とを備え、上記第1ニップ部および仮想ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1・仮想ニップ通過時間と、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度とが、上記未定着トナー像が高温オフセットを生じない条件に設定されていることを特徴としている。
あるいは、上記したいずれかの定着装置において、上記第1ニップ部よりも記録紙搬送方向の下流側に位置する第2ニップ部と、上記第1ニップ部と第2ニップ部との間の領域である仮想ニップ部とを備え、上記第1ニップ部および仮想ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1・仮想ニップ通過時間と、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度とが、上記未定着トナー像が高温オフセットを生じない条件に設定されている構成としてもよい。
定着部材と複数の押圧部材とによって複数の定着ニップ部が形成される場合、記録紙の通紙方向から見て、最上流側に位置する第1の押圧部材により形成される第1ニップ部と、その下流側に形成される定着ニップ部である第2ニップ部との間には、定着ニップ部が形成されないか、もしくは、見かけ上は定着ニップ部が形成されていても、ほとんど定着圧力がかかっていない状態のニップ部(仮想ニップ部)が形成されることになる。
このような仮想ニップ部では、定着部材の回転速度(周方向速度)と記録紙の搬送速度との速度差が生じる場合がある。このとき、未定着トナー像のトナーが必要以上に加熱されていると、必要以上に加熱されたトナーは粘度が低下しているので、トナー表面が分断してしまい、高温オフセットによる画像欠陥が生じてしまう。つまり、仮想ニップ部でトナーが必要以上に加熱されると、トナーは高温オフセットが発生する温度まで溶融してしまい粘度が低下するので、定着部材と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合に、トナーが分断し、高温オフセットによる画像欠陥(高温オフセットのような画像欠陥)が生じる。
これに対して、上記の構成によれば、上記第1ニップ部および仮想ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1・仮想ニップ通過時間と、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度とが、上記未定着トナー像が高温オフセットを生じない条件に設定されている。この場合、記録紙上の未定着トナー像は、第1ニップ部および仮想ニップ部を通過する間に、高温オフセットが生じない程度に加熱される。これにより、定着部材と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合でも、トナーの分断が起こることを防止することができるので、高温オフセットによる画像欠陥を防止することができる。
この場合、上記定着温度と上記第1・仮想ニップ通過時間とを、上記未定着トナー像における最も上記定着部材側の温度が、上記仮想ニップ部の出口において、上記未定着トナー像におけるトナーの4mm降下温度以下となるように設定してもよい。ここで、トナーの4mm降下温度は、熱溶融特性測定装置を用いて、トナー粉末を装置にセットし、ダイ孔径:径1mm高さ1mm、荷重20kgf/cm2、6℃/分で等速昇温させて測定したときに、トナーの溶融が始まり、トナーに荷重をかけるピストンが4mm降下するときの温度である。
上記の構成によれば、未定着トナー像の温度が第1ニップ部および仮想ニップ部において、トナーの4mm降下温度を上回らない程度に加熱される。このため、仮想ニップ部において高温オフセットが生じることを確実に防止できる。したがって、高温オフセットによる画像欠陥の発生を防止することができる。
また、上記定着温度と上記第1・仮想ニップ通過時間とが、上記第1・仮想ニップ通過時間をtn2(秒)、上記トナーの4mm降下温度をT4mm(℃)、上記定着温度をTとした場合に、tn2≦0.0023T4mm−0.002T+0.2078を満たすように設定されていてもよい。
上記の構成によれば、未定着トナー像は、第1ニップ部および仮想ニップ部において、トナーの4mm降下温度を上回らない程度に加熱される。このため、仮想ニップ部において高温オフセットが生じることを防止できるので、高温オフセットによる画像欠陥の発生を防止することができる。また、上記の数式を用いて、仮想ニップ部出口における未定着トナー像の温度がトナーの4mm降下温度以下となる定着温度および第1・仮想ニップ通過時間を設定することにより、定着温度および第1・仮想ニップ通過時間を実験や解析で求めることなく、高温オフセットによる画像欠陥を適切に防止することができる。
本発明の定着方法は、上記の課題を解決するために、所定の温度に加熱される定着部材と、未定着トナー像が形成された記録紙に上記定着部材方向への押圧力を付与する複数の押圧部材との間に形成される各定着ニップ部に上記記録紙を通過させることにより、上記未定着トナー像の定着を行う定着方法であって、上記未定着トナー像を、上記各定着ニップ部のうち記録紙搬送方向の最上流側に位置する定着ニップ部である第1ニップ部において、低温オフセットを生じない温度まで加熱することを特徴としている。
上記の方法によれば、上記未定着トナー像を、上記第1ニップ部において、低温オフセットを生じない温度まで加熱する。これにより、画像ずれが生じることを確実に防止することができる。
また、上記未定着トナー像を、上記第1ニップ部において、トナー流出開始温度以上まで加熱するようにしてもよい。
上記の方法によれば、上記未定着トナー像が、上記第1ニップ部において、トナー流出開始温度以上まで加熱されるので、第1ニップ通過後に低温オフセットが生じることを防止できる。したがって、画像ずれの発生を防止することができる。
また、上記未定着トナー像における最も上記記録紙側の温度を、上記第1ニップ部において、トナー流出開始温度以上まで加熱するための、上記定着部材における上記記録紙との接触面の温度である定着温度と上記第1ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1ニップ通過時間とを、上記定着部材および上記未定着トナー像を解析モデルとする理論計算によって算出してもよい。
上記の方法によれば、未定着トナー像における最も上記記録紙側の温度(トナー最下層温度)を、第1ニップ部において、トナー流出開始温度以上まで加熱するための定着温度および第1ニップ通過時間を、上記定着部材および上記未定着トナー像を解析モデルとする理論計算によって算出する。これにより、画像ずれを抑えるための定着温度および第1ニップ通過時間を容易かつ適切に設定することができる。また、第1ニップ部出口におけるトナー最下層温度を実測することが困難な場合でも、上記定着部材および上記未定着トナー像をモデルとした理論計算(例えば1次元の伝熱解析)によって、第1ニップ部出口におけるトナー最下層温度を算出することができる。
また、上記定着部材における上記記録紙との接触面の温度である定着温度と上記第1ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1ニップ通過時間とを、上記第1ニップ通過時間をtn1(秒)、上記トナー流出開始温度をTi(℃)、上記定着温度をTとした場合に、tn1≧0.0006Ti−0.00024T+0.0015を満たすように設定してもよい。
上記の方法によれば、未定着トナー像を第1ニップ部においてトナー流出開始温度以上の温度まで加熱するための定着温度および第1ニップ通過時間を、実験や解析で求めることなく、容易かつ適切に算出することができる。このため、第1ニップ通過後に低温オフセットが生じることを防止できるので、画像ずれの発生を防止することができる。
本発明の他の定着方法は、上記の課題を解決するために、所定の温度に加熱される定着部材と、未定着トナー像が形成された記録紙に上記定着部材方向への押圧力を付与する複数の押圧部材とを備え、上記定着部材と上記各押圧部材との間に形成される各定着ニップ部に上記記録紙を通過させることにより、上記未定着トナー像の定着を行う定着装置において、上記各定着ニップ部のうち記録紙搬送方向の最上流側に位置する定着ニップ部を第1ニップ部とし、上記第1ニップ部よりも記録紙搬送方向の下流側に位置する定着ニップ部を第2ニップ部とし、上記第1ニップ部と第2ニップ部との間の領域を仮想ニップ部としたときに、上記第1ニップ部および仮想ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1・仮想ニップ通過時間と、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度とを、上記未定着トナー像が高温オフセットを生じない条件に設定することを特徴としている。
あるいは、上記したいずれかの定着方法において、上記第1ニップ部よりも記録紙搬送方向の下流側に位置する定着ニップ部を第2ニップ部とし、上記第1ニップ部と第2ニップ部との間の領域を仮想ニップ部としたときに、上記第1ニップ部および仮想ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1・仮想ニップ通過時間と、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度とを、上記未定着トナー像が高温オフセットを生じない条件に設定してもよい。
上記の方法によれば、上記第1ニップ部および仮想ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1・仮想ニップ通過時間と、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度とを、上記未定着トナー像が高温オフセットを生じない条件に設定する。この場合、記録紙上の未定着トナー像は、第1ニップ部および仮想ニップ部を通過する間に、高温オフセットが生じない程度に加熱される。これにより、定着部材と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合でも、トナーの分断が起こることを防止することができるので、高温オフセットによる画像欠陥を防止することができる。
また、上記定着温度と上記第1・仮想ニップ通過時間とを、上記未定着トナー像における最も上記定着部材側の温度が、上記仮想ニップ部の出口において、上記未定着トナー像におけるトナーの4mm降下温度以下となるように設定してもよい。
この場合、未定着トナー像の温度が第1ニップ部および仮想ニップ部において、トナーの4mm降下温度を上回らない程度に加熱される。このため、仮想ニップ部において高温オフセットが生じることを確実に防止できる。したがって、高温オフセットによる画像欠陥の発生を防止することができる。
また、上記未定着トナー像における最も上記定着部材側の温度が、上記仮想ニップ部の出口において、上記未定着トナー像におけるトナーの4mm降下温度以下となるようにするための、上記定着温度と上記第1・仮想ニップ通過時間とを、上記定着部材および上記未定着トナー像を解析モデルとする理論計算によって算出してもよい。
上記の方法によれば、高温オフセットによる画像欠陥を防止するための定着温度および第1・仮想ニップ通過時間を、容易かつ適切に設定することができる。また、仮想ニップ部出口におけるトナー最上層温度を実測することが困難な場合でも、上記定着部材および上記未定着トナー像をモデルとした理論計算(例えば1次元の伝熱解析)によって、仮想ニップ部出口におけるトナー最上層温度を算出することができる。
また、上記定着温度と上記第1・仮想ニップ通過時間とを、上記第1・仮想ニップ通過時間をtn2(秒)、上記トナーの4mm降下温度をT4mm(℃)、上記定着温度をTとした場合に、tn2≦0.0023T4mm−0.002T+0.2078を満たすように設定してもよい。
上記の方法によれば、未定着トナー像を第1ニップ部および仮想ニップ部においてトナーの4mm降下温度以下となる範囲で加熱するための定着温度および第1・仮想ニップ通過時間を、実験や解析で求めることなく、容易かつ適切に算出することができる。このため、第1ニップ部および仮想ニップ部において高温オフセットが生じることを防止できるので、高温オフセットによる画像欠陥の発生を防止することができる。
本発明の画像形成装置は、上記したいずれかの定着装置を備えている。このため、画像ずれの発生を確実に防止することができる。
本発明の定着装置は、以上のように、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度と、上記各定着ニップ部のうち記録紙搬送方向の最上流側に位置する定着ニップ部である第1ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間であるニップ通過時間とを、上記未定着トナー像が低温オフセットを生じない温度まで加熱される条件に設定している。
それゆえ、第1ニップ部通過後の低温オフセット、すなわち、未定着トナーが第1ニップ部通過後に定着部材に付着してしまうことを防止できるので、画像ずれが生じることを確実に防止することができる。
本発明の他の定着装置は、上記各定着ニップ部のうち記録紙搬送方向の最上流側に位置する定着ニップ部である第1ニップ部と、上記第1ニップ部よりも記録紙搬送方向の下流側に位置する第2ニップ部と、上記第1ニップ部と第2ニップ部との間の領域である仮想ニップ部とを備え、上記第1ニップ部および仮想ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1・仮想ニップ通過時間と、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度とが、上記未定着トナー像が高温オフセットを生じない条件に設定されている。
それゆえ、記録紙上の未定着トナー像は、第1ニップ部および仮想ニップ部を通過する間に、高温オフセットが生じない程度に加熱される。これにより、定着部材と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合でも、トナーの分断が起こることを防止することができるので、高温オフセットによる画像欠陥を防止することができる。
本発明の定着方法は、上記未定着トナー像を、上記各定着ニップ部のうち記録紙搬送方向の最上流側に位置する定着ニップ部である第1ニップ部において、低温オフセットを生じない温度まで加熱する。
それゆえ、第1ニップ部通過後の低温オフセット、すなわち、未定着トナーが第1ニップ部通過後に定着部材に付着してしまうことを防止できるので、画像ずれが生じることを確実に防止することができる。
本発明の他の定着方法は、上記各定着ニップ部のうち記録紙搬送方向の最上流側に位置する定着ニップ部を第1ニップ部とし、上記第1ニップ部よりも記録紙搬送方向の下流側に位置する定着ニップ部を第2ニップ部とし、上記第1ニップ部と第2ニップ部との間の領域を仮想ニップ部としたときに、上記第1ニップ部および仮想ニップ部を上記未定着トナー像が通過する時間である第1・仮想ニップ通過時間と、上記定着部材における上記記録紙との対向面の温度である定着温度とを、上記未定着トナー像が高温オフセットを生じない条件に設定する。
それゆえ、記録紙上の未定着トナー像は、第1ニップ部および仮想ニップ部を通過する間に、高温オフセットが生じない程度に加熱される。これにより、定着部材と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合でも、トナーの分断が起こることを防止することができるので、高温オフセットによる画像欠陥を防止することができる。
本発明の画像形成装置は、上記したいずれかの定着装置を備えている。このため、画像ずれの発生を確実に防止することができる。
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について図に基づいて説明する。
(画像形成装置)
図2は、本実施形態にかかる定着装置が備えられる画像形成装置の内部構造を示す断面図である。この画像形成装置は、乾式電子写真方式のカラー画像形成装置であり、例えばネットワークを介して接続される端末装置から送信された画像データ等に基づいて、所定の記録紙に対して多色または単色の画像を形成するようになっている。
図2に示すように、この画像形成装置は、可視像形成ユニット10、記録紙搬送手段30、定着装置(加熱装置)40、供給トレイ20を備えている。
可視像形成ユニット10には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の各色に対応して、4つの可視像形成ユニット10Y・10M・10C・10Bが並設されている。つまり、可視像形成ユニット10は4つの可視像形成ユニット10Y・10M・10C・10Bからなり、可視像形成ユニット10Yはイエロー(Y)のトナーを用いて画像形成を行い、可視像形成ユニット10Mはマゼンダ(M)のトナーを用いて画像形成を行い、可視像形成ユニット10Cはシアン(C)のトナーを用いて画像形成を行い、可視像形成ユニット10Bはブラック(B)のトナーを用いて画像形成を行う。具体的な配置としては、記録紙を給紙する供給トレイ20と定着装置40とを繋ぐ記録紙の搬送路に沿って、4組の可視像形成ユニット10Y・10M・10C・10Bを配設した、所謂、タンデム式である。
可視像形成ユニット10Y・10M・10C・10Bは、それぞれ実質的に同一の構成を有する。すなわち、それぞれに、感光体ドラム11、帯電器12、レーザ光照射手段13、現像器14、転写ローラ15、クリーナユニット16が設けられており、搬送される記録紙に各色のトナーを多重転写する。
帯電器12は、感光体ドラム11の表面を所定の電位に均一に帯電させるものである。レーザ光照射手段13は、画像形成装置に入力された画像データに応じて、帯電器12によって帯電した感光体ドラム11の表面を露光し、感光体ドラム11の表面に静電潜像を形成するものである。現像器14は、感光体ドラム11の表面に形成された静電潜像を、各色のトナーによって顕像化するものである。転写ローラ15は、トナーとは逆極性のバイアス電圧を印加されており、感光体ドラム11に形成されたトナー像を、記録紙搬送手段30により搬送された記録紙に転写させる。クリーナユニット16は、現像器14での現像処理、および、転写ローラ15による転写処理の後に、感光体ドラム11の表面に残留したトナーを、除去・回収する。感光体ドラム11は、帯電器12によって表面を帯電され、帯電された表面にレーザ光照射手段13によって静電潜像を形成され、形成された静電潜像を現像器14によって現像され、現像されたトナー像を転写ローラ15によって記録紙に転写され、転写後に表面に残ったトナー像をクリーナユニット16によって除去回収される。
そして、このような、記録紙に対するトナー像の転写は、各色の可視像形成ユニットにおいて行われる。すなわち、上記4色について記録紙に対するトナー像の転写が行われるので、同様の処理が4回繰り返されることになる。
記録紙搬送手段30は、駆動ローラ31、アイドリングローラ32、搬送ベルト33からなり、記録紙に可視像形成ユニット10にてトナー像が形成されるように、記録紙を搬送するものである。駆動ローラ31およびアイドリングローラ32は、無端状の搬送ベルト33を架張するものであり、駆動ローラ31が所定の周速度に制御されて回転することで、無端状の搬送ベルト33を回転させている。搬送ベルト33は、外側表面に静電気を発生させており、記録紙を静電吸着させながら、記録紙を搬送する。
記録紙は、このようにして、搬送ベルト33に搬送されながらトナー像(未定着トナー像)を転写されたあと、駆動ローラ31の曲率により搬送ベルト33から剥離され、定着装置40に搬送される。定着装置40は、記録紙に適度な熱と圧力とを与えて、記録紙上に転写されたトナーを溶解して記録紙に固定することで、記録紙上に堅牢な画像を形成する。
(定着装置)
次に、定着装置40について、図3を用いて説明する。図3は、定着装置40の概略構成を示す断面図である。
この図に示すように、定着装置40は、定着ローラ41と複数の押圧部材(加圧ローラ42および剥離ローラ43)とベルト44とからなる。
定着ローラ41は、芯金41a上に弾性層41b、離型層41cがこの順で形成されており、また、芯金の内部には、加熱源(加熱手段)としてハロゲンランプ(図示せず)が設置されている。
芯金41aは、外径47mmの中空のアルミニウムからなる。ただし、芯金41aの素材は、これに限るものでもなく、例えば鉄製の金属からなるものでもよい。また、芯金41aのサイズについても特に限定されるものではない。
弾性層41bは、厚さ1.5mmの耐熱性を有するシリコンゴムからなる。離型層41cは、厚さ約30μmのPFA(テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)チューブからなる。離型層41cの材料としては、耐熱性、耐久性に優れ、トナーとの離型性が優れるものであればよく、PFAに限らず、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の他のフッ素系材料を使用してもよい。なお、本実施形態にかかる定着ローラ41は、外径約50mm、表面硬度75°(アスカーC硬度)である。
加圧ローラ42は、芯金42aに弾性層42bおよび離型層42cを積層したものである。また、加圧ローラ42は、図示していない弾性部材(バネ等)によって、ベルト44に定着ローラ41方向への押圧力を加えることにより、ベルト44を定着ローラ(加熱ローラ)41に圧接させて、定着ローラ41との間にベルト44を介して定着ニップ部(第1ニップ部)を形成している。これにより、第1ニップ部に記録紙が通紙された場合に、記録紙を定着ローラ41に押し付け、記録紙上のトナーに良好に熱が伝わるようにするという役割を果たしている。
加圧ローラ42の芯金42aは、ここでは鉄製で外径が13mmのものを用いているが、材料や大きさはこれに限られるものではなく、例えば、ステンレスやアルミニウム等からなるものであってもよい。
加圧ローラ42の弾性層42bは、記録紙を均等に加圧し、定着ローラ41の熱を記録紙に十分に伝達させて記録紙上のトナーを溶融させるためのものであり、ここでは、厚さ8.5mmの耐熱性のシリコンスポンジゴムを用いている。しかし、このような機能を果たすものであれば、材料や厚さは特に限定されるものではない。
加圧ローラ42の離型層42cは、定着ローラ41の離型層41cと同様、トナーの付着を防止する目的で設けられるものであり、例えばPFAやPTFEなどからなる。なお、離型層42cは必ずしも備えられなくてもよい。
加圧ローラ42の各層は強固に密着されており、加圧ローラ42の外径は30.0mmとなっている。また、加圧ローラ42の押圧力によってベルト44を定着ローラ41に圧接させることにより形成される第1ニップ部のニップ幅(記録紙の搬送方向の長さ)は、弾性部材の荷重を変化させることで調整することができる。
剥離ローラ43は、第1ニップ部で加熱昇温された記録紙上のトナー像を、ベルト44を介して再度定着ローラ41に押圧させることで、トナー像を更に加熱昇温して、十分な定着強度を確保すると同時に、記録紙を定着ローラ41の表面から剥離させるためのものであり、ステンレス製の芯金に離型層を被覆したものである。なお、離型層は、必ずしも備えられなくても良い。また、剥離ローラ43は加圧ローラ42と同様、図示しない弾性部材(バネ)によってベルト44に定着ローラ41方向への押圧力を加えることで、ベルト44を定着ローラ41に圧接させ、定着ローラ41とベルト44との間に定着ニップ部(第2ニップ部)を形成している。
本実施形態では、剥離ローラ43として外径15mmのものを用いている。また、芯金と離型層のあいだに弾性層を設けてもよい。なお、剥離ローラの表面硬度は、定着ローラ41の弾性層41bの表面硬度より高い方がよい。なぜなら、定着ローラ41とベルト44とを圧接させて形成した第2ニップ部におけるニップ形状を下向きにさせることができるので、カラー画像を定着する際に、自己剥離(剥離爪などの強制剥離補助手段を必要とせず紙のこしで剥離)がしやすくなり、剥離爪などに極力頼らず剥離することができるからである。一方、定着ローラ41の弾性層41bの表面硬度より、剥離ローラ43の表面硬度が低いと、第2ニップ部のニップ形状が上向きになるため、第2ニップ部から排出された紙は、定着ローラ41表面に沿って排出される。このため、十分な自己剥離性能が得られない。
ベルト44は、ベルト基材と離型層とからなり(ともに図示せず)、加圧ローラ42および剥離ローラ43に懸架(張架)されている。ベルト44の離型層は、定着ローラ41の離型層41cと同様、トナーの付着を防止する目的で設けられるものであり、例えばPFAやPTFEなどからなる。また、ベルト基材の材質は特に限定されるものではないが、例えばPI(ポリイミド)などからなる。なお、ベルト44の表面硬度は、剥離ローラ43と同様、定着ローラ41の弾性層41bの表面硬度より高い方がよい。
加圧ローラ42および剥離ローラ43は、図示しないバネ加圧手段により、ベルト44を定着ローラ41の表面に圧接させている。これにより、図1に示すように、定着ローラ41とベルト44とが当接(圧接)する第1ニップ部(定着ニップ部)、定着ローラ41とベルト44とが当接(圧接)する第2ニップ部(定着ニップ部)、第1ニップ部と第2ニップ部との間における特に圧接手段(押圧部材)が備えられていない領域である仮想ニップ部(定着ニップ部)が形成されている。なお、第1ニップ部の先端から第2ニップ部の後端までの領域をトータルニップ部とする。また、第1ニップ部は、入紙側から最初に形成される定着ニップ部であり、第2ニップ部は第1ニップ部よりも排紙側に形成されるものとする。
なお、本実施形態にかかる定着装置40では、加圧ローラ42およびベルト44と定着ローラ41とで形成される第1ニップ部のニップ幅が7.3mm、また剥離ローラ43およびベルト44と定着ローラ41とで形成される第2ニップ部のニップ幅が3mm、第1ニップ部と第2ニップ部との間に形成される仮想ニップ部のニップ幅が9mmとなっている。したがって、トータルニップ幅は、19.3mmである。
また、仮想ニップ部では、定着ローラ41とベルト44とが接触している。このため、記録紙の搬送不良を防止することができる。また、仮想ニップ部には押圧部材がないものの、定着ローラ41とベルト44とが接触していることにより、定着ローラ41の熱を記録紙に適度に伝熱することができるので、定着性を向上させることができる。
定着装置40では、上記各定着ニップ部、すなわち、図示しない加熱手段によって一定温度に加熱された定着ローラ41と押圧部材(加圧ローラ42および剥離ローラ43)とによって挟まれる領域に、表面に未定着のトナーが付着した記録紙(被加熱材)Pを通紙することで、トナーを溶融させて記録紙に押し付け、記録紙に画像を定着させる。なお、定着後には、記録紙にトナーが溶着された状態となり、光沢が出る。
(実験例1;画像ずれの評価実験例)
上記の定着装置40を用いて、トナーの種類、定着温度、ニップ通過時間等の定着条件を変化させ、その他の条件は一定にして、未定着画像を載せた記録紙(未定着画像サンプル)を通紙し、定着後のサンプルの画像ずれを評価する実験を行った。
未定着画像サンプルとして、熱特性の異なる2種類のカラー用オイルレストナー(トナーA:ポリエステル樹脂、トナーB:スチレンアクリル樹脂)を用いて記録紙上に形成した未定着画像を使用した。
トナーの熱特性をフローテスター(流動性評価装置)にて測定した結果、トナーAの流出開始温度Ti=99℃、4mm降下温度T4mm=120℃であった。トナーBの流出開始温度Ti=91℃、4mm降下温度T4mm=115℃であった。
トナーの粒径は、トナーA,Bともに、6.5μmであり、両トナーの記録紙に対する単位面積毎の付着量は0.5mg/cm2である。記録紙としては、65gの普通紙を使用した。また、プロセス速度は350mm/sとした。
まず、定着ローラ41の加圧ローラ42との対向面における表面温度(定着温度)と第1ニップ部のニップ幅(第1ニップ幅)をパラメータとし、トナーA、トナーBの各々における画像ずれ評価実験を行った。より詳細には、トナーA,Bのそれぞれについて、第1ニップ幅を5.6mm、6.4mm、7.3mmの3段階に変化させ、各第1ニップ幅の場合について定着温度を160℃、170℃、180℃に変化させて評価試験を行った。なお、定着温度は、定着ローラ41の表面に設けた温度センサ(図示せず)によって測定した。また、第2ニップ部のニップ幅(第2ニップ幅)は、トナーA,Bのいずれの場合についても3mmで一定とした。また、プロセス速度は350mm/sで一定とした。
トナーAにおける画像ずれ評価実験の結果を下記表1、トナーBにおける画像ずれ評価実験の結果を下記表2に示す。なお、画像ずれの評価は、未定着画像サンプルを定着装置40に通紙して定着させた後のサンプルの濃度測定、および主観による画質評価によって行った。より詳細には、従来から用いられているローラ対方式の定着装置で定着したサンプルを比較例(標準サンプル)として用意し、この標準サンプルに対する相対評価を行った。なお、表1および表2では、画像濃度、画質ともに問題なければ「○」、画像濃度は問題ないが、画質がやや劣るもの(製品上問題ないが、拡大して観察すると比較例に対して濃淡むらが存在するもの)を「△」、画像濃度が低下し、かつ、画質が劣るレベルのもの(比較例に対して画像ずれが明らかに目立つもの)を[×]とした。
表1に示したように、トナーAでは、第1ニップ幅を5.6mmとした場合、定着温度160℃および170℃では「×」、定着温度180℃では「△」の評価であった。また、第1ニップ幅を6.4mmとした場合、定着温度160℃では「×」、定着温度170℃では「△」、定着温度180℃で「○」の評価であった。また、第1ニップ幅を7.3mmとした場合、定着温度160℃では「△」、定着温度170℃および180℃で「○」の評価であった。
一方、トナーBでは、表2に示したように、第1ニップ幅を5.6mmとした場合、定着温度160℃で「△」、定着温度170℃および180℃で「○」の評価であった。また、第1ニップ幅が6.4mmの場合および7.3mmの場合には、定着温度160℃〜180℃のいずれの場合にも「○」の評価であった。
この結果より、トナーAの方がトナーBに比べて画像ずれが発生しやすいことがわかる。また、定着温度が高く、第1ニップ幅が広いほど画像ずれが改善されることがわかる。
次に、第1ニップ幅を5.6mmに固定し、代わりに第2ニップ幅をパラメータとして、画像ずれが発生しやすいトナーAについて上記と同様の実験を行った。すなわち、下記表3に示すように、第2ニップ幅を3mm、3.8mm、4.6mmの3段階に変化させ、各第2ニップ幅の場合に定着温度を160℃、170℃、180℃の3段階に変化させた。その結果を表3に示す。なお、この表における「○」,「△」,「×」は、表1および表2と同様の評価基準を用いた評価結果を表している。
この表に示すように、第2ニップ幅が3mm、3.8mm、4.6mmのいずれの場合にも、定着温度160℃および170℃では「×」の評価であり、定着温度180℃で「△」の評価であった。
この結果より、第2ニップ幅を広くしても画像ずれはあまり改善されないことがわかる。表1の結果も併せて考えると、画像ずれの主な発生原因は第2ニップ部とはあまり関係なく、第1ニップ部と密接に関係していることが推察される。
そこで、この画像ずれの原因をさらに詳しく検討するため、図3に示した定着装置40から剥離ローラ43およびベルト44を取り外して従来のローラ対方式の定着装置と同様の構成(モデル)とし、第1ニップ部通過後の定着画像について調査した。より詳細には、定着装置40から剥離ローラ43およびベルト44を取り外し、プロセス速度350mm/sの条件下で、定着温度を160℃、170℃、180℃、第1ニップ幅を5.6mm、6.4mm、7.3mmと各々3段階に変化させて未定着画像サンプルを通紙し、折り曲げ試験による定着性評価を行った。なお、この構成では、自己剥離性が確保できないため、定着ローラ41の表面にオイル塗布し、自己剥離性を確保した。
定着性の評価方法としては、定着したサンプルを印字面が内側になるように軽く折り曲げた後、折り曲げ部に所定の荷重を加え、折り目部分に生じるトナー脱落部分の幅を測定し、その大小に基づいて評価した。
評価結果を表4に示す。なお、この表では、低温オフセットが全体に発生した場合には「×」、部分的に低温オフセットが発生した場合には「△」、低温オフセットが発生しなかった場合には「○」とした。また、定着強度が不十分な場合には「N.G」、定着強度が十分な場合には「O.K」とした。
表4に示したように、低温オフセットについては、第1ニップ幅を5.6mmとした場合、定着温度160℃および170℃では「×」、定着温度180℃では「△」の評価であった。また、第1ニップ幅を6.4mmとした場合、定着温度160℃では「×」、定着温度170℃では「△」、定着温度180℃で「○」の評価であった。また、第1ニップ幅を7.3mmとした場合、定着温度160℃では「△」、定着温度170℃および180℃で「○」の評価であった。また、定着強度については、測定したいずれの場合についても、不十分(N.G)であった。
この結果から、定着温度が低く、第1ニップ幅が狭い条件では低温オフセットが発生するものの、定着温度を高くしたり、第1ニップ幅を広くしたりすることで低温オフセットが改善されることがわかる。また、低温オフセットが発生しない条件下においても、定着強度としては不十分(N.G)であることがわかる。さらに、表1および表4の結果を比較すると、画像ずれが発生する条件と低温オフセットが発生する条件とが完全に一致することがわかる。
以上の結果から、画像ずれの発生原因としては、以下のように説明できる。すなわち、定着部材(ここでは定着ローラ41)に複数の押圧部材(ここでは加圧ローラ42および剥離ローラ43)によって複数の定着ニップ部(ここでは第1ニップ部および第2ニップ部)が形成される定着装置の場合、第1ニップ部と第2ニップ部との間にはほとんど定着圧力がかかっていない状態のニップ部(仮想ニップ部)が形成されることになる。つまり、ベルト44を備えない場合には定着圧力を付与する手段がないので定着ニップが形成されず、また、本実施形態にかかる定着装置40のようにベルト(加圧ベルト)44によって見かけ上定着ニップが形成されていても、ベルト44の張力による圧力が加わるのみであることから、ほとんど定着圧力がかかっていない状態のニップ部(仮想ニップ部)が形成されることになる。
したがって、記録紙上のトナー像は、第1ニップ部では押圧部材により定着部材(定着ローラ41)、トナー、記録紙のそれぞれが密着しているが、第1ニップ部通過後、第2ニップ部に至るまでの仮想ニップ部では、押圧部材が存在しないために、定着ローラ41と記録紙との間で若干の隙間が生じる。この時、第1ニップ部でのトナーの溶融状態が不十分であると、トナー像の一部は低温オフセット現象により、定着ローラ41側に付着することとなる。その後、仮想ニップ部で定着ローラ41と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合、第2ニップ部で再度定着ローラ41と記録紙とが密着すると、定着ローラ41に付着していたトナー像の記録紙に対する位置がずれ、画像ずれが生じてしまう。
つまり、本実施形態に示されるような複数の定着ニップ部を有する定着装置において画像ずれを防止するには、未定着画像サンプルが、第1ニップ部通過直後に低温オフセットが発生しない程度にトナー像が加熱溶融されるよう、第1ニップ部での定着条件を設定する必要があることがわかる。
なお、第1ニップ部で設定される定着条件としては、必ずしも定着強度まで満たさなくてもよい。つまり、第1ニップ部通過直後の画像ザンプルは、定着強度が不十分であるが、仮想ニップ部および第2ニップ部を通過する間に熱供給され、定着強度を満足すればよい。
(解析例1)
次に、第1ニップ部出口でのトナー温度と画像ずれの関係を検討するため、図3に示した定着装置40を、1次元熱伝導として図4のようにモデル化して伝熱状態の解析を行った。すなわち、図4に示すように、定着ローラ41の芯金41aの内部に備えられる加熱源Q、定着ローラ41の芯金(アルミニウム)41a、弾性層(シリコンゴム)41b、離型層(PFA)41c、離型層41cと記録紙上のトナーとの間に形成される第1の空気層(空気層)a1、トナー、記録紙、記録紙とベルト44の離型層44aとの間に形成される第2の空気層(空気層)a2、離型層44a、PIからなるベルト基材44bがこの順に配置されたモデルを作成し、定着ローラ41の断面深さ方向(加熱源Qから加圧ローラ42の方向)への伝熱について解析を行った。
なお、上記のモデルでは、定着ローラ41とトナー面との境界領域、および、ベルト44の離型層44aと記録紙との境界領域に、空気層a1,a2を設けている。これは、記録紙面にはある程度の表面粗さが存在するので、その表面粗さに起因する隙間を空気層a1,a2としてモデル化した。また、微視的な挙動で考えると、層の中でも温度分布が異なるので、定着ローラ41の弾性層41b、離型層41c、トナー、記録紙については、各層を伝熱方向について細かく分割した。このモデルを用い、第1ニップ出口直前において、記録紙上に印字された未定着画像(未定着トナー画像)のトナーのうち、記録紙と接する層(側)の温度である最下層温度を算出した。
解析条件として、表5に示す各層の厚み、初期温度、比熱、比重、熱伝導率、その他必要な物性値を与えた。なお、定着ローラ41の弾性層41bについては、弾性層41bを15層に分割し、分割した各層の初期温度は、離型層41cと接する層を160℃、芯金41aと接する層を188℃とした。また、分割した間の層の初期温度は、離型層41cに近い層から2℃ずつ上げた値を設定した。
表5に示した解析条件は、定着温度160℃の時の設定(条件)であり、定着温度を170℃で計算する場合は、定着ローラ41で設定する各層(離型層41c、弾性層41b、芯金41a)の初期温度をそれぞれ10℃上げることになる。同様に、定着温度180℃で計算する場合は、定着ローラ41の各層の温度をさらに10℃あげることになる。
解析に用いた計算式について説明する。図5に示すように、a層,b層,c層の順に隣接する層においては、b層のある時刻tからτ秒後の温度T(b,t+τ)は、次式で表される。
T(b,t+τ)=T(b,t)+τ/(ρb×Cb×Hb)×[{T(a,t)−T(b,t)}/(ha/2λa+hb/2λb)+{T(c,t)−T(b,t)}/(hb/2λb+hc/2λc)] ・・・式(1)
ここで、hは層の厚さ、Tは温度、λは熱伝導率、ρは比重、Cは比熱であり、添え字のa,b,cはそれぞれa層,b層,c層の値であることを示している。
この式を用いて各層の微少時間τ経過後の温度を計算し、第1ニップ通過完了直前の時間(ニップ幅をプロセス速度で除した値)まで計算を繰り返す。
上記解析条件にて、定着温度および第1ニップ幅をパラメータとして第1ニップ出口でのトナー最下層温度を計算した結果を表6に示す。
この表に示すように、トナー最下層温度は、第1ニップ幅を5.6mmとした場合、定着温度160℃では87℃、定着温度170℃では91℃、180℃では95℃であった。また、第1ニップ幅を6.4mmとした場合、定着温度160℃では91℃、定着温度170℃では95℃、180℃では99℃であった。また、第1ニップ幅を7.3mmとした場合、定着温度160℃では95℃、定着温度170℃では99℃、180℃では103℃であった。
表1および表6の結果より、トナーAにおいて、第1ニップ出口でのトナー最下層温度が99℃以上に達している時、画像ずれのない良好な画像が得られていることがわかる。すなわち、熱解析にて第1ニップ出口でのトナー最下層温度がトナーAの流出開始温度(99℃)以上に達している場合には、画像ずれが発生していないことがわかる。
同様に、表2および表6の結果より、トナーBにおいて、第1ニップ出口のトナー最下層温度が91℃以上に達している時、画像ずれのない良好な画像が得られる。つまり、トナーの物性値を変化させても、第1ニップ部においてトナーの流出開始温度以上になるような定着条件(定着温度、第1ニップ幅)を設定すれば、画像ずれを改善させることができる。
ところで、第1ニップ部でトナーに与えられる熱量は、定着温度と、第1ニップ幅とプロセス速度との関係によって算出されるニップ通過時間(ニップ通過時間=ニップ幅/プロセス速度)とによって決まる。したがって、ある定着温度において、トナー最下層温度がトナーの流出開始温度以上になるように、ニップ通過時間(ここでは、第1ニップ部でのニップ通過時間)を設定すれば、画像ずれは改善されるとも考えられる。
ここで、トナーAを用いて、一定の定着温度(170℃)のもと、プロセス速度、第1ニップ幅をパラメータとして、画像ずれの評価を行った。さらに、熱解析にて第1ニップ通過完了直前のトナー最下層温度も算出した。その結果を表7に示す。なお、画像ずれの評価「○」,「△」,「×」は、表1および表2と同様の評価基準によるものである。
表7に示すように、画像ずれは、第1ニップ通過完了直前のトナー最下層温度に相関がある。そして、第1ニップ通過完了直前のトナー最下層温度は、第1ニップ通過時間に相関がある。また、トナーの最下層温度が流出開始温度(トナーAでは99℃)以上になるような第1ニップ通過時間が確保できる条件であれば、画像ずれが起こらないことがわかる。
なお、第1ニップ通過完了直前のトナー最下層温度をトナーの流出開始温度以上にするために必要な第1ニップ通過時間は、定着温度によって異なる。図6は、定着温度を160℃,170℃,180℃とした場合の、各定着温度における第1ニップ通過直前のトナー最下層温度Tbと第1ニップ通過時間tn1との関係を示すグラフである。なお、このグラフは、表6に示したデータに基づいて、上記の各定着温度ごとに、横軸を第1ニップ通過完了直前に到達したトナーの最下層温度、縦軸をその時の第1ニップ通過時間としてプロットした結果およびその近似線を実線で表したものである。
このように、各定着温度条件について、ニップ通過直前のトナーの最下層温度Tbと、第1ニップ通過時間tn1との間には比例関係があり、下記の式(2)に示すような1次関数として表すことができる。
tn1=a×Tb+b ・・・式(2)
なお、a,bは定数である。
また、1次関数として考えた場合、各定着温度でのグラフはほぼ平行であることから、切片bが異なるだけで、その傾きは定着温度によらず、ほぼ一定(a=0.0006)である。また、このグラフにおいて、切片b(Tb=0となる場合のtn1の値)を、定着温度Tをパラメータとする関数f(T)として考えた場合、第1ニップ通過時間tn1は以下に示す関係式(式(3))で近似することができる。
tn1=0.0006×Tb+f(T) ・・・式(3)
図7は、定着温度Tと切片b(関数f(T))との関係を示すグラフである。すなわち、図6に示した各定着温度の近似線を上記式(2)の関数で表した場合に、横軸を定着温度T、縦軸を切片bとしてプロットし、その近似線を表したグラフである。このように近似線は下記の式(4)に示す1次関数として表すことができる。
b=−0.00024T+0.0015 ・・・式(4)
上記式(3)および式(4)より、第1ニップ通過時間tn1、トナー最下層温度Tb、定着温度Tの関係は、下記の式(5)で表すことができる。
tn1=0.0006Tb−0.00024T+0.0015 ・・・式(5)
ここで、第1ニップ通過時間tn1が長くなればなるほど第1ニップ通過完了直前のトナー最下層温度Tbは高くなるので、下記の式(6)を満たすように、第1ニップ通過時間(すなわち、あるプロセス速度における第1ニップ幅)を設定すれば画像ずれのない画像が得ることができる。すなわち、下記式(6)を満たすように第1ニップ通過時間tn1を設定することにより、トナー最下層温度Tbがトナー流出開始時間Tiよりも高くなり、画像ずれを防止できる。
tn1≧0.0006Ti−0.00024T+0.0015 ・・・式(6)
上記の式(6)を使えば、ある任意の熱特性のトナーにおいて、画像ずれを防止するために必要な定着温度およびニップ幅(第1ニップ幅)を、実験や解析で求めることなく算出できる。すなわち、上記式(6)を満たす定着温度Tおよび第1ニップ通過時間tn1(プロセス速度が一定の場合には第1ニップ幅)を設定することで、実験を行わずとも、画像ずれを防止した定着装置を実現することができる。
以上の結果に基づいて、本実施形態では、定着装置40を、定着ローラ41に対する圧接部(定着ニップ部)のうち、搬送された記録紙が最初に通過して圧接される定着ニップ部である第1ニップ部において、記録紙上のトナー像が低温オフセットを生じない状態まで加熱するように構成した。つまり、第1ニップ部における定着条件である、定着ローラ41の表面温度(定着温度)と、記録紙が第1ニップ部を通過する第1ニップ通過時間とが、記録紙上のトナー像が低温オフセットを生じない条件となるように設定した。なお、第1ニップ通過時間の設定は、第1ニップ部の記録紙搬送方向の幅であるニップ幅(第1ニップ幅)と記録紙の搬送速度(プロセス速度)とを設定することによってなされる。
定着装置40では、定着部材(定着ローラ41)と複数の押圧部材(加圧ローラ42および剥離ローラ43)とによって複数の定着ニップ部(第1ニップ部および第2ニップ部)が形成されている。この場合、記録紙の通紙方向(搬送方向)から見て、第1の押圧部材(加圧ローラ42)により形成される定着ニップ部(第1ニップ部)と、第2の押圧部材(剥離ローラ43)により形成される定着ニップ部(第2ニップ部)との間には、定着ニップが形成されないかもしくは、見かけ上は定着ニップが形成されていても、ほとんど定着圧力がかかっていない状態のニップ部(仮想ニップ部)が形成されることになる。そして、この場合、第1ニップ部では、押圧部材(加圧ローラ42)によって定着部材(定着ローラ41)、トナー、記録紙のそれぞれが密着しているが、第1ニップ部通過後、第2ニップ部に至るまでの仮想ニップ部では、押圧部材が存在しないために、定着部材(定着ローラ41)と記録紙との間で若干の隙間が生じる。
この時、第1ニップ部でのトナーの溶融状態が不十分であると、トナー像の一部は定着部材(定着ローラ41)側に付着(所謂、低温オフセット現象)し、仮想ニップ部で定着部材(定着ローラ41)と記録紙との間で微少な位置ズレが生じる。そして、第2ニップ部で定着部材(定着ローラ41)と記録紙とが再度密着すると、画像ずれが生じてしまう。
これに対して、定着装置40では、第1ニップ部において、記録紙上のトナー像が低温オフセットを生じない状態まで加熱するようになっている。したがって、画像ずれを確実に防止することができる。なお、第1ニップ部でのトナー像の加熱は、必ずしも定着強度的に十分でなくてもよく、少なくとも低温オフセットが発生しない状態まで加熱すればよい。これにより、画像ずれを解消することができる。
また、定着装置40では、第1ニップ部における定着条件である、定着温度と第1ニップ通過時間とを、記録紙上のトナー像が低温オフセットを生じない条件とするためには、記録紙上のトナー像のうち、最も記録紙側となる層であるトナー最下層の温度(トナー最下層温度)が、第1ニップ出口近傍において、トナーの流出開始温度以上となるように、定着温度および第1ニップ通過時間を設定している。このように、第1ニップ部出口において、トナー最下層温度をトナーの流出開始温度以上に加熱することにより、第1ニップ部における低温オフセットを防止し、その結果、画像ずれの発生を抑えることができる。
また、トナー最下層温度は、定着装置40をモデルとする理論計算により求めることができる。例えば、定着装置40を一次元の伝熱解析モデルとしてモデル化し、第1ニップ部における定着温度と第1ニップ通過時間(あるいは、プロセス速度および第1ニップ幅)とをパラメータとする理論解析(一次元の伝熱解析)を行うことにより、第1ニップ部出口近傍におけるトナー最下層温度を算出することができる。そして、この理論計算の結果に基づいて、第1ニップ部出口近傍におけるトナー最下層温度がトナー流出温度以上となるように定着温度および第1ニップ通過時間を設定することで、画像ずれを抑えることができる。
なお、上記の理論計算では、定着温度(第1ニップ部における定着ローラ41の表面温度)T(℃)、第1ニップ通過時間(記録紙が第1ニップ部を通過する時間)tn1(s)は、トナーの流出開始温度をTi(℃)とすると、上記式(6)、すなわち、
tn1≧0.0006Ti−0.00024T+0.0015 ・・・(6)
を満たすように設定すればよい。
上記式(6)に基づいて定着温度および第1ニップ通過時間を設定することで、例えば、任意の熱特性のトナーにおいて、第1ニップ部出口でのトナー最下層温度がトナー流出開始温度以上となる定着条件(定着温度および第1ニップ通過時間)を実験や解析で求めることなく、画像ずれを適切に防止することができる。
なお、定着装置40では、定着部材として定着ローラ41を用いている。また、第1の押圧部材として加圧ローラ42を用いている。このように、定着部材および押圧部材をローラで構成することにより、簡易な構成で、複数のニップ部を有する定着装置を実現することができる。
また、定着装置40における、第1の押圧部材としての加圧ローラ42は、芯金42a上に弾性層42bが被覆された弾性ローラである。このように、第1ニップ部を形成する加圧ローラ42を弾性ローラとすることで、第1ニップ部のニップ幅を十分広く設定することができる。したがって、第1ニップ部で要求される定着条件を容易に実現することができる。
また、定着装置40では、複数の支持ローラ(加圧ローラ42および剥離ローラ43)に懸架されたベルト44が設けられており、このベルト44と定着ローラ41との間に複数のニップ部が形成されている。すなわち、ベルト44が複数の支持ローラ(押圧部材;加圧ローラ42および剥離ローラ43)によって定着ローラ41に圧接されている。
ベルト44がない場合、第1の押圧部材により形成されるニップ部(第1ニップ部)と、第2の押圧部材により形成されるニップ部(第2ニップ部)との間は、記録紙の搬送方向を規制するものがないため、第2ニップ部に記録紙が突入するまでに記録紙の搬送方向が変わってしまい、記録紙が第2ニップ部に突入することができない等の搬送性の問題が生じる可能性がある。そこで、ベルト44を設けることで、第1ニップ部から排出された記録紙を、ベルト44と定着ローラ41との間に挟みこみながら(搬送方向を規制しながら)搬送し、搬送不良を防止することができる。
なお、本実施形態にかかる定着装置40では、ベルト44が加圧ローラ42と剥離ローラ43とに懸架されている構成としたが、これに限るものではなく、例えば図8に示すように、ベルト44を備えない構成としてもよい。
ただし、この場合、加圧ローラ42と剥離ローラ43との間を広く取りすぎると、第1ニップ部と第2ニップ部の間では、記録紙の搬送方向を抑制するものがないため、第2ニップ部に記録紙が突入するまでに、記録紙の搬送方向が変わってしまい、第2ニップ部に突入することができない等の搬送性の問題が生じる場合がある。このため、記録紙の搬送方向を規制する手段を備えることが好ましい。
記録紙の搬送方向を規制する手段としては、例えば図9に示すようなガイド部材45を設けてもよい。このガイド部材45は、その表面が定着ローラ41の表面に沿って微少ギャップを保ちながら対向する形状となっており、第1ニップ部出口近傍と、第2ニップ部入口近傍とに両端(両先端)が位置している。この図に示すように、ガイド部材45の形状を定着ローラ41の表面に沿った三日月状に形成することで、両端を第1ニップ部出口と第2ニップ部の入口の近傍にそれぞれ設置することができる。また、第1ニップ部から出てきた記録紙は、ガイド部材45の表面をすべりながら搬送され、第2ニップ部に記録紙の先端が突入するので、ガイド部材45は、記録紙と接する表面が低摩擦係数のものがよい。例えば、ガイド部材45の表面に、フッ素コートすることにより、すべり性がよく、紙の搬送性が良好になる。
また、ガイド部材45は、定着ローラ41、加圧ローラ42、剥離ローラ43に対して、微少なギャップを保持することが好ましく、位置精度を向上させるために、例えば、ガイド部材45を金属等で形成されたブロック体で構成してもよい。
また、仮想ニップ部において断熱性を有したい場合には、例えば、金属体で形成されたガイド部材表面に、耐熱性の樹脂、ゴム材など複数層構成されたガイド部材を用いてもよい。
また、例えば、加圧ローラ42および剥離ローラ43に加えて、ベルト44のテンションを保持する目的でテンションローラ(支持ローラ、図示せず)を1個または複数設けてもよい。また、定着装置40では、ベルト44の支持ローラとして加圧ローラ42および剥離ローラ43が備えられており、全ての支持ローラ(加圧ローラ42および剥離ローラ43)によってベルト44が定着ローラ41に押圧されているが、これに限らず、複数の支持ローラの全部或いは一部によってベルト44が定着ローラ41側に加圧(押圧)される構成であってもよい。
また、定着装置40は、例えば、図10に示すように、剥離ローラ43とテンションローラ47a・47bとにベルト44を懸架し、第1ニップ部を形成する加圧ローラ42の代わりに、スポンジ状の加圧パッド(非回転部材)46を用いることも可能である。
加圧パッド46としては、例えば、鉄製の基材(基板)上に厚さ5mm、ゴム硬度25°(アスカーC硬度)の耐熱性シリコンスポンジゴムからなる弾性層を設けたものを用いることができる。なお、加圧パッド46は、図示しないバネ等の弾性部材により、ベルト44を介して定着ローラ41の表面に圧接(押圧)され、定着ローラ41との間に第1ニップ部を形成する。また、加圧パッド46の定着ローラ41との対向面における、記録紙搬送方向の長さは、上記した加圧ローラ42によって形成される第1ニップ部のニップ幅よりも長くなっている。したがって、加圧パッド46(加圧パッド46によって押圧力を付与されたベルト44)と定着ローラ41との間に形成されるニップ幅は、加圧ローラ42(加圧ローラ42によって押圧力を付与されたベルト44)と定着ローラ41との間に形成されるニップ幅よりも広くなっている。
このように、第1ニップ部を形成する手段(押圧部材)として、加圧パッド46を用いることにより、低荷重でしかも狭いスペースで広いニップ幅(第1ニップ幅)を確保することができるので、装置の小型化が可能である。つまり、加圧ローラ42を用いる構成よりも、加圧パッド46を用いる構成の方が、定着装置の大型化を行うことなく、より広い第1ニップ幅を形成することができる。
また、例えば図11に示すように、加圧ローラ42、剥離ローラ43、テンションローラ47cにベルト44を懸架し、第2ニップ部を形成する加圧パッド46を、第1ニップ部を形成する加圧ローラ42の下流側に近接して配置してもよい。すなわち、加圧パッド46により形成されるニップ部(第2ニップ部、非回転ニップ部)と、加圧ローラ42によって形成される第1ニップ部とが、連続あるいは近接した状態(例えば、第1ニップの後端と第2ニップ部(加圧パッド46)の先端との距離が3mm以下)となるように、加圧パッド46を、第1ニップ部を形成している支持ローラ(加圧ローラ42)に対する記録紙搬送方向の下流側近傍に配置してもよい。
この場合、加圧パッド46によって形成される第2ニップ部と、加圧ローラ42によって形成される第1ニップ部とが、連続あるいは非常に近接した状態となる。このため、実質上、第1ニップ部に第2ニップ部を加えたニップ部が連続する一体のニップ部として作用するため、画像ずれを効果的に防止することができる。
また、本実施形態では、第1ニップ部出口でのトナー最下層温度をトナー流出開始温度以上とするための定着条件(定着温度および第1ニップ通過時間)を、一次元の伝熱解析によって求める場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、二次元あるいは三次元の形状を考慮した解析を行ってもよく、あるいは時間変化を考慮した解析を行ってもよい。
また、本実施形態では、第1ニップ部において、未定着トナー像を、低温オフセットを生じない温度以上に加熱するものとしたが、この際、高温オフセットが生じる温度以下とすることが好ましい。すなわち、トナーが高温になりすぎると、いわゆる高温オフセットによって画像欠損が生じるおそれがあるので、第1ニップ部出口におけるトナーの温度を、各定着ニップ部および各定着ニップ部間(各仮想ニップ部)において低温オフセットが生じず、かつ、高温オフセットも生じない温度とするように、定着温度および第1ニップ通過時間を設定することが好ましい。
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1に記載した各部材と同様の機能を有する部材については、実施形態1と同じ符号を用い、その説明を省略する。
実施形態1では、第1ニップ部における定着条件、すなわち、定着ローラ41の表面温度(定着温度)と、記録紙が第1ニップ部を通過する第1ニップ通過時間とを、記録紙上のトナー像が低温オフセットを生じない条件に設定する場合について説明した。本実施形態では、仮想ニップ部(第1ニップ部と第2ニップ部との間の領域)、または、仮想ニップ部および第1ニップ部の定着条件を、高温オフセット(ホットオフセット)による画像欠陥(高温オフセットのような画像欠陥)を防止するように設定する場合について説明する。
なお、この高温オフセットによる画像欠陥(高温オフセットのような画像欠陥)は、仮想ニップ部で(あるいは第1ニップ部と仮想ニップ部とで)トナーが必要以上に加熱されると、必要以上に加熱されたトナーは粘度が低下しているので、定着ローラ41とベルト44との間に生じる速度差によって定着部材(定着ローラ41)と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合に、トナー表面が分断してしまうことによって生じるものである。
(実験例2;画像欠陥の評価試験)
まず、実施形態1で説明した低温オフセットによる画像ずれと、高温オフセットによる画像欠陥とを切り分ける(区別する)ために、実施形態1で示した、画像ずれを発生させないための第1ニップ部の条件(この実験では第1ニップ幅を6mmとした)を用いて、画像欠陥を評価する実験を行った。なお、この実験では、実施形態1の実験例1と同様、図3に示した定着装置40を用いて、トナーの種類,定着温度,仮想ニップ部の長さ(すなわち仮想ニップ通過時間)等の定着条件を変化させ、その他の条件は一定にして、未定着画像を載せた記録紙を通紙し、定着後のサンプルについて、高温オフセットによる画像欠陥を評価する実験を行った。
画像欠陥の評価は、従来から用いられているローラ対方式の定着装置によって未定着サンプルを定着させたサンプルを比較例(標準サンプル)とし、この標準サンプルに対する相対評価(主観による画質評価)によって行った。なお、画質に問題なければ「○」、画質がやや劣るもの(製品上問題ないが、拡大して観察すると比較例に対して画質むらが存在するもの)を「△」、画質が劣るレベルのもの(比較例に対して画質むらが明らかに目立つもの)を[×]とした。プロセス速度は175mm/sとし、未定着サンプルおよびトナーは、実施形態1における実験例1と同様の条件のものを用いた。
まずはじめに、定着ローラの表面温度(定着温度)と、仮想ニップ部の仮想ニップ通過時間とをパラメータとして、トナーA,トナーBを用いる場合の画像欠陥の評価実験をそれぞれ行った。より詳細には、第1・仮想ニップ幅(第1ニップ幅+仮想ニップ幅)を、21.8mm,24.8mm,27mmの3種に変化させた。この場合、第1・仮想ニップ通過時間(第1ニップ通過時間+仮想ニップ通過時間)は、約0.124s,約0.142s,約0.155sに変化する。なお、この実験では、プロセス速度を一定(175mm/s)とし、仮想ニップ部のニップ幅(仮想ニップ幅)を変化させることで、仮想ニップ通過時間を変化させた。また、この実験では、第1ニップ部のニップ幅(第1ニップ幅)を一定(6mm)とした。
トナーAを用いた場合の結果を表8に示し、トナーBを用いた場合の結果を表9に示す。
表8および表9より、トナーAを用いる場合に比べて、トナーBを用いる場合の方が、画像欠陥が発生しやすかった。また、トナーAを用いる場合においても、定着温度を高くしたり、第1・仮想ニップ通過時間を長くしたりすること(第1・仮想ニップ幅を広くすること)で画像欠陥が発生した。
この結果から、仮想ニップ部で(第1ニップ部と仮想ニップ部とで)トナーが必要以上に加熱されると、定着ローラ41とベルト44との間に生じる速度差によって定着部材(定着ローラ41)と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合、仮想ニップ部で必要以上に加熱されているトナーは粘度が低下しているので、トナー表面が分断し、高温オフセットのような画像欠陥(高温オフセットによる画像欠陥)が生じると考えられる。
(解析例2)
次に、仮想ニップ部出口(第2ニップ部入口)でのトナー温度と、高温オフセットによる画像欠陥との関係を検討するため、実施形態1における解析例1と同様のモデルを用いて、1次元熱伝導解析を行った。このモデルを用いて、仮想ニップ部出口直前での、記録紙上に印字された未定着画像のトナーにおける最上層温度(定着ローラ41と接する側の層の温度)を算出した。
解析条件は、実施形態1における解析例1と同様、表5に示した各層の厚み、初期温度、比熱、比重、熱伝導率、物性値を用いた。また、定着ローラ41の弾性層41bについては、弾性層41bを15層に分割した。そして、分割した各層の初期温度は、離型層41cと接する層を160℃、芯金41aと接する層を188℃とした。また、分割した間の層の初期温度は、離型層41cに近い層から2℃ずつ上げた値を設定した。
なお、表5に示した解析条件は、定着温度160℃の時の設定(条件)であり、定着温度を170℃で計算する場合は、定着ローラ41で設定する各層(離型層41c、弾性層41b、芯金41a)の初期温度をそれぞれ10℃上げた。同様に、定着温度180℃で計算する場合は、定着ローラ41の各層の温度をさらに10℃あげた。
また、解析に用いた計算式は、実施形態1における解析例1と同様である。当該計算式を用いて、各層の微少時間τ経過後の温度を計算し、用紙が第1ニップ部入口から仮想ニップ部出口直前の時間(第1・仮想ニップ幅をプロセス速度で除した値)まで計算を繰り返した。
上記解析条件にて、定着温度および第1・仮想ニップ通過時間をパラメータとして仮想ニップ出口でのトナー最上層温度を計算した結果を表10に示す。
表8の実験結果および表10の解析結果より、トナーAを用いる場合、仮想ニップ出口でのトナーの最上層温度が120℃以下であれば、高温オフセットによる画像欠陥が発生せず、良好な画像が得られた。なお、トナーAの4mm降下温度は120℃である。すなわち、熱解析の結果、仮想ニップ出口でのトナー最上層温度がトナーAの4mm降下温度(120℃)以上に達している場合に、高温オフセットによる画像欠陥が発生した。
また、表9の実験結果および表10の解析結果より、トナーBを用いる場合には、仮想ニップ出口でのトナーの最下層温度が115℃以下であれば、高温オフセットによる画像欠陥が発生せず、良好な画像が得られた。なお、トナーBの4mm降下温度は115℃である。つまり、トナーBを用いる場合にも、トナーAを用いる場合と同様、熱解析の結果、仮想ニップ出口でのトナー最上層温度がトナーBの4mm降下温度(115℃)以上に達している場合に、高温オフセットのような画像欠陥が発生した。
これらの実験結果および解析結果から、高温オフセットによる画像欠陥は、仮想ニップ部出口におけるトナー最上層温度が、トナーの4mm降下温度以上の場合に発生することがわかった。なお、仮想ニップ部出口におけるトナー最上層温度は、第1・仮想ニップ通過時間(第1ニップ部入口から仮想ニップ出口までの通過時間)と相関がある。
したがって、例えば定着温度が一定の場合には、仮想ニップ部出口におけるトナーの最上層温度が4mm降下温度以下になるような第1・仮想ニップ通過時間(仮想ニップ通過時間+第1ニップ通過時間)を設定することにより、高温オフセットによる画像欠陥を防止できる。
なお、仮想ニップ出口でのトナー最上層温度を、トナーの4mm降下温度以下にするための第1・仮想ニップ通過時間(仮想ニップ通過時間+第1ニップ通過時間)は、定着温度によって異なる。
図12は、横軸を仮想ニップ部出口におけるトナー最上層温度(℃)、縦軸を第1・仮想ニップ通過時間(s)とし、表10に示したデータをプロットしたグラフである。なお、図12では、各定着温度(160℃,170℃,180℃)についての、仮想ニップ部出口におけるトナー最上層温度(℃)と第1・仮想ニップ通過時間(s)との関係を示す近似線を実線で示している。
図12に示したように、各定着温度についての、仮想ニップ出口におけるトナーの最上層温度Tioと、第1・仮想ニップ通過時間tn2との間には、比例関係があり、両者の関係は下記の式(7)に示す1次関数で表すことができる。
tn2=α×Tio+β (α,βは定数)・・・(7)
また、各定着温度についての、仮想ニップ出口におけるトナーの最上層温度Tioと、第1・仮想ニップ通過時間tn2との関係を示す近似線は、図12に示したように互いに略平行である。したがって、上記式(7)に示した1次関数は、切片が異なるだけで、その傾きは定着温度によらずほぼ一定(α≒0.0023)である。そして、図12に示したグラフにおいて、切片βを定着温度Tのパラメータとして考えた場合(β=f(T)として考えた場合)、上記式(7)を以下に示す関係式(式(8))で近似することができる。
tn2=0.0023×Tio+f(T) (f(T)は、Tの関数)・・・(8)
図13は、関数f(T)、すなわち定着温度Tと切片βとの関係を示すグラフである。つまり、図12に示した各定着温度についての近似線を、上記式(8)で表した時に、Tio=0の場合のとした時の切片β(=f(T))の値を、横軸を定着温度T、縦軸を切片βとしてプロットし、その近似線を表したグラフが図13である。この図からわかるように、定着温度Tと切片βとの関係を示す近似線は、以下に示す1次関数(式(9))として表すことができる。
β=f(T)=−0.002T+0.2078 ・・・(9)
上記式(8)および式(9)より、第1.仮想ニップ通過時間(仮想ニップ通過時間+第1ニップ通過時間)tn2、仮想ニップ出口でのトナー最上層温度Tio、定着温度Tの関係は、以下に示す式(10)で表すことができる。
tn2=0.0023×Tio−0.002T+0.2078 ・・・(10)
ここで、第1・仮想ニップ通過時間tn2が短くなればなるほど、仮想ニップ出口直前((仮想ニップ+第1ニップ)通過完了直前)のトナー最上層温度Tioは低くなる。したがって、トナーの4mm降下温度をT4mmとした場合、以下の式(11)を満たすように、第1・仮想ニップ通過時間tn2を設定すれば、高温オフセットによる画像欠陥が生じることを防止できる。
tn2≦0.0023×T4mm−0.002T+0.2078 ・・・(11)
この式(11)を用いて第1・仮想ニップ通過時間tn2を設定することにより、ある任意の熱特性(4mm降下温度)のトナーを用いる場合に、高温オフセットによる画像欠陥を防止するための定着温度および第1・仮想ニップ通過時間(あるいは第1・仮想ニップ幅)を、実験や解析を行うことなく適切に設定できる。すなわち、上記式(11)を満たす定着温度Tおよび第1・仮想ニップ通過時間tn2(あるいは第1・仮想ニップ幅)を設定することで、実験を行わずとも、高温オフセットによる画像欠陥を防止した定着装置を設計することができる。
なお、実施形態1で示した式(6)および上記式(11)の両方を満たすように各条件を設定することにより、画像ずれ、および、高温オフセットによる画像欠陥を防止した定着装置の設計を行うことができる。すなわち、上記式(6)および式(11)の両方を満たすことにより、画像ずれ、および、高温オフセットによる画像欠陥の両方を防止できる。
以上の結果に基づいて、本実施形態では、定着ローラ41に対する複数の圧接部(定着ニップ部)と各定着ニップ部に形成される仮想ニップ部とについて、記録紙搬送方向の上流側に位置する定着ニップ部である第1ニップ部(記録紙が最初に搬送されるニップ部)とそれに続く仮想ニップ部とを通過した記録紙上のトナー像が、仮想ニップ部出口で高温オフセットによる画像欠陥を生じないように、第1・仮想ニップ通過時間(第1ニップ通過時間+仮想ニップ通過時間)と定着温度とを設定した。
つまり、第1ニップ部および仮想ニップ部における定着条件である、定着ローラ41の表面温度(定着温度)と、記録紙が第1ニップ部と仮想ニップ部とを通過する第1・仮想ニップ通過時間とを、記録紙上のトナー像に高温オフセットによる画像欠陥を生じさせない条件とするように設定した。なお、第1・仮想ニップ通過時間の設定は、第1ニップ部の記録紙搬送方向の幅である第1ニップ幅および仮想ニップ部の記録紙搬送方向の幅である仮想ニップ幅と、記録紙の搬送速度(プロセス速度)とを設定することによってなされる。
定着装置40では、定着部材(定着ローラ41)と複数の押圧部材(加圧ローラ42および剥離ローラ43)とによって複数の定着ニップ部(第1ニップ部および第2ニップ部)が形成されている。この場合、記録紙の通紙方向(搬送方向)から見て、第1の押圧部材(加圧ローラ42)により形成される定着ニップ部(第1ニップ部)と、第2の押圧部材(剥離ローラ43)により形成される定着ニップ部(第2ニップ部)との間には、定着ニップが形成されないかもしくは、見かけ上は定着ニップが形成されていても、ほとんど定着圧力がかかっていない状態のニップ部(仮想ニップ部)が形成されることになる。
そして、この場合、仮想ニップ部で(あるいは第1ニップ部と仮想ニップ部とで)トナーが必要以上に加熱されると、定着ローラ41とベルト44との間に生じる速度差によって定着部材(定着ローラ41)と記録紙との間で微少な位置ズレが生じた場合に、仮想ニップ部(あるいは第1ニップ部と仮想ニップ部とで)で必要以上に加熱されているトナーは粘度が低下しているので、トナー表面が分断し、高温オフセットによる画像欠陥が生じてしまう。
これに対して、定着装置40では、仮想ニップ部出口において、記録紙上のトナー像が高温オフセットによる画像欠陥を生じない状態とするように定着条件(定着温度および第1・仮想ニップ通過時間)が設定されている。したがって、「高温オフセットのような画像欠陥」を確実に防止することができる。
また、定着装置40では、第1ニップ部および仮想ニップ部における定着条件である定着温度と第1・仮想ニップ通過時間とを、記録紙上のトナー像に高温オフセットのような画像欠陥を生じない条件とするために、記録紙上のトナー像のうち、最も定着ローラ41側となる層であるトナー最上層の温度(トナー最上層温度)が、仮想ニップ出口近傍において、トナーの4mm降下温度以下となるように、定着温度および第1・仮想ニップ通過時間を設定している。
このように、仮想ニップ部出口におけるトナー最上層温度を、トナーの4mm降下温度以下とすることにより、仮想ニップ部において高温オフセットによる画像欠陥が生じることを防止することができる。
また、仮想ニップ出口におけるトナー最上層温度は、定着装置40をモデルとする理論計算により求めることができる。例えば、定着装置40を一次元の伝熱解析モデルとしてモデル化し、第1ニップ部および仮想ニップ部における定着温度と第1・仮想ニップ通過時間(あるいは、プロセス速度および第1・仮想ニップ幅)とをパラメータとする理論解析(一次元の伝熱解析)を行うことにより、第1ニップ部出口におけるトナー最上層温度を算出することができる。そして、この理論計算の結果に基づいて、第1ニップ部出口近傍におけるトナー最上層温度が4mm降下温度以下となるように定着温度および第1・仮想ニップ通過時間を設定することで、高温オフセットによる画像欠陥を防止できる。
なお、上記の理論計算では、定着温度(第1ニップ部および仮想ニップ部における定着ローラ41の表面温度)T(℃)、第1・仮想ニップ通過時間(記録紙が第1ニップ部および仮想ニップ部を通過する時間)tn2(s)は、トナーの4mm降下温度をT4mm(℃)とすると、上記式(11)、すなわち、
tn2≦0.0023×T4mm−0.002T+0.2078 ・・・(11)
を満たすように設定すればよい。
上記式(11)に基づいて定着温度および第1・仮想ニップ通過時間を設定することで、例えば、任意の熱特性のトナーを用いる場合に、仮想ニップ部出口でのトナー最上層温度がトナーの4mm降下温度以下となる定着条件(定着温度および第1・仮想ニップ通過時間)を実験や解析で求めることなく、高温オフセットによる画像欠陥を適切に防止することができる。
なお、本実施形態にかかる定着装置40では、ベルト44が加圧ローラ42と剥離ローラ43とに懸架されている構成としたが、これに限るものではなく、例えば図8に示すように、ベルト44を備えない構成としてもよい。ただし、この場合、第1ニップ部と第2ニップ部の間の仮想ニップ部では、記録紙の搬送方向を規制するものがないため、第2ニップ部に記録紙が突入するまでに記録紙の搬送方向が変わってしまい、記録紙が第2ニップ部に突入することができない等の搬送性の問題が生じる場合がある。このため、記録紙の搬送方向を規制する手段を備えることが好ましい。記録紙の搬送方向を規制する手段としては、例えば、実施形態1と同様のものを用いることができる。
また、実施形態1と同様、加圧ローラ42および剥離ローラ43に加えて、ベルト44のテンションを保持する目的でテンションローラ(支持ローラ、図示せず)を1個または複数設けてもよい。また、例えば、実施形態1で図10に示したように、剥離ローラ43とテンションローラ47a・47bとにベルト44を懸架し、第1ニップ部を形成する加圧ローラ42の代わりに、スポンジ状の加圧パッド(非回転部材)46を用いる構成としてもよい。
また、本実施形態では、仮想ニップ部出口でのトナー最上層温度をトナーの4mm降下温度以下とするための定着条件(定着温度および第1・仮想ニップ通過時間)を、一次元の伝熱解析によって求める場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、二次元あるいは三次元の形状を考慮した解析を行ってもよく、あるいは時間変化を考慮した解析を行ってもよい。
また、仮想ニップ部出口でのトナー最上層温度をトナーの4mm降下温度以下とするための定着条件(定着温度および第1・仮想ニップ通過時間)、および、第1ニップ部出口でのトナー最下層温度をトナー流出開始温度以上とするための定着条件(定着温度および第1ニップ通過時間;実施形態1参照)の両方を満たすように、各定着条件(定着温度、第1ニップ通過時間、第1・仮想ニップ通過時間)を設定することが好ましい。
この場合、仮想ニップ部における低温オフセットによる画像ずれ、および、高温オフセットによる画像欠陥の両方を防止することができる。
上記各実施形態に記載した本発明の概念は、複数の定着ニップ部を有するあらゆる定着装置に適用でき、例えば、上記特許文献4や特許文献5に開示されているような定着ベルトを用いた定着装置にも適用できる。
また、上記各実施形態では、ネットワークを介して接続される端末装置から送信された画像データ等に基づいて、所定の記録紙に対して多色または単色の画像を形成する乾式電子写真方式のカラー画像形成装置に本発明の定着装置を備える場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、画像読取装置を備え、読み取った画像を記録紙に形成する複写機(画像形成装置)、あるいはファクシミリ装置、複写機、プリンター等の機能を複合的に備えた画像形成装置に適用してもよい。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。