JP2006136940A - 溶接ワイヤ - Google Patents
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Abstract
【課題】Ti材のMIG溶接時、あるいは、Ti溶射時に、アークの安定化と溶滴移行の安定化を可能にする溶接ワイヤを提供する。
【解決手段】TiまたはTi合金からなる溶接ワイヤであって、前記溶接ワイヤが、その表面に酸素濃化層を有し、更に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくともひとつの金属を有する金属化合物を有する溶接ワイヤ。
【選択図】 図2
【解決手段】TiまたはTi合金からなる溶接ワイヤであって、前記溶接ワイヤが、その表面に酸素濃化層を有し、更に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくともひとつの金属を有する金属化合物を有する溶接ワイヤ。
【選択図】 図2
Description
本発明は、Ti系材料のMIG溶接に用いる溶接ワイヤに関し、更に詳しくは、安定したアークと安定した溶滴移行を両立させ、優れたビード形状の形成を可能にする溶接ワイヤに関する。また、本発明の溶接ワイヤをTi溶射に用いた場合にも、安定したアークと優れた溶射被膜を得ることができる。
TiまたはTi合金から成る部材の溶接に関しては、TIG溶接法(Tungsten Inert Gas Welding)に代わって、溶接能率がより優れているMIG溶接(Metal Inert Gus Welding)が着目されている。このMIG溶接は、溶接装置から送給されるTiまたはTi合金製の溶接ワイヤと被溶接材をシールドガスで被包した状態で両者間にアークを発生させ、そのときに生成する溶接ワイヤの溶滴を被溶接材に移行・着地させることにより、ビードを連続的に形成するという態様で進められる。
そのときに重要となることは、発生アークの安定化、また、溶接ワイヤからの溶滴が安定して溶接部に移行して着地することである。発生アークが安定していなかったり、溶滴が安定して溶接部に移行しなかったりすると、例えば図7で示したように、形成されたビードにくびれが生じ、また肉盛り状態も一様にならない。このような形状のビードは、溶接部における強度特性の信頼性を保障するものとはいいがたい。
ところで、Tiは活性金属であるため、シールドガスとして含酸素ガスを使用すると、ビード表面が酸化されるばかりでなく、溶接部の延性低下を招くことになる。そこで、通常、純Arガスなどの高純度の不活性ガスがシールドガスとして使用されている。一方で、シールドガスに酸素が含まれていると、アーク発生時の陰極点が溶接ワイヤ下の被溶接材に固定され、その結果、アークが安定化するということも知られている(非特許文献1を参照)。
このことは、発生アークの場に酸素が供給されていると、陰極点が安定化し、その結果として発生アークも安定化することを意味している。このようなことを踏まえて、次のようなTi材の溶接用線材が提案されている(特許文献1を参照)。この線材は、TiまたはTi合金から成る線材の表層部に、線材の内層部よりも酸素濃度が高い酸素濃化層が形成されており、そしてその酸素濃化層の厚みが、当該線材の表面に存在する極薄の自然酸化膜よりも厚くなっている線材である。
この線材は、例えば所望組成のTi材を一旦圧延し、ついで酸素含有雰囲気で加熱処理して表層部に自然酸化膜よりも厚いTi酸化物層(酸素濃化層)を形成したのち、冷間で所定線径にまで伸線して製造されている。そして、この線材をMIG溶接の溶接ワイヤとして使用すると、シールドガスとして含酸素ガスを使用しなくても、酸素濃化層から発生アークの場に酸素が供給されるので、陰極点が安定化する。その結果、形状が良好なビードが形成される。
溶接学会全国大会予稿 65(1999)、276
特開2003−326389号公報
ところで、特許文献1の線材に関するその後の研究によれば、この線材でMIG溶接を行うと、次のような現象の発生することが判明した。
まず、発生アークの陰極点は、いずれの線材の場合も、推論のとおり線材下の被溶接材の位置にあり、変動することなく安定している。しかし、線材の先端では、図8で示したような形状の集中したアーク(以後、集中アークという)と図9で示したような形状の拡散したアーク(以後、拡散アークという)の2種類のアークが発生する。前者のアークは安定化しており、後者のアークは不安定であった。
まず、発生アークの陰極点は、いずれの線材の場合も、推論のとおり線材下の被溶接材の位置にあり、変動することなく安定している。しかし、線材の先端では、図8で示したような形状の集中したアーク(以後、集中アークという)と図9で示したような形状の拡散したアーク(以後、拡散アークという)の2種類のアークが発生する。前者のアークは安定化しており、後者のアークは不安定であった。
そして、前者の集中アークが発生する場合は、線材の先端は必ず溶滴となって離脱して溶接部へと移行し、形成されるビードの形状・外観は良好となる。しかしながら、後者の拡散アークが発生する場合は、線材先端から溶滴が離脱しないことがある。また、溶滴が離脱したとしても、離脱に要する時間が長く、したがって溶滴の溶接部への移行時間も長くなる。その結果、1パルス通電の間に当該溶滴は溶接部に移行することができず、溶滴の移行が完了する前に次の1パルス通電が実行されることになる。
そのため、形成されるビードの肉盛り状態は一様ではなくなり、溶接方向に部分的にくびれなどが発生することがある。またスパッタが多量に発生して、ビードの外観が劣悪になる。このような現象は、線材の先端、すなわち、陽極点が不安定化していることに基因して発生すると考えられる。
本発明はこのような問題を解決し、アーク放電時の陰極点と陽極点のいずれもが安定化し、そのためアークは安定化し、また溶滴の移行も安定化している溶接ワイヤの提供を目的とする。
本発明者らは、前記課題を検討すべく鋭意検討したところ、以下に示す溶接ワイヤにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の目的は、以下の溶接ワイヤにより達成された。
(1)TiまたはTi合金からなる溶接ワイヤであって、前記溶接ワイヤが、その表面に酸素濃化層を有し、更に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくともひとつの金属を有する金属化合物を有する溶接ワイヤ。
(2)前記金属化合物の含有量が、前記溶接ワイヤの全質量に対して0.002〜0.050質量%である項1の溶接ワイヤ。
(3)前記溶接ワイヤがその表面にクラックを有し、前記クラック中に前記金属化合物が存在する項1の溶接ワイヤ。
(4)前記金属の沸点が2000℃以下である項1の溶接ワイヤ。
(5)前記金属化合物がCaを含む金属化合物である項1の溶接ワイヤ。
(6)前記酸素濃化層の厚みをTw、前記溶接ワイヤの線径をDwとしたとき、Tw/Dwの値が0.3×10−3〜1×10−1であり、かつ、前記酸素濃化層の平均酸素濃度が1質量%以上である項1の溶接ワイヤ。
(7)前記酸素濃化層の平均酸素濃度が1〜40質量%である項6の溶接ワイヤ。
(8)前記溶接ワイヤの表面粗さが、JIS B0601で規定するRyで表される表面粗さにおいて、10μm以下である項1の溶接ワイヤ。
(9)前記のTw/Dwの値が1×10−3〜50×10−3であり、かつ、前記酸素濃化層の平均酸素濃度が1〜30質量%である項6の溶接ワイヤ。
アルカリ金属やアルカリ土類金属の沸点と電離電圧は、Tiの融点と電離電圧よりも低いので、アーク熱によって母材(TiまたはTi合金)が溶融する前に、アルカリ金属やアルカリ土類金属は発生アークの場に電離した金属蒸気として存在する。そのため、発生したアーク柱は安定となり、それが集中アークになる。また、酸素濃化層の酸素も発生アークを安定化し、同時に溶融した溶接ワイヤ先端の表面張力を下げて、生成した溶滴をワイヤ先端から離脱しやすくする。
このようなことから、MIG溶接において、1パルス通電で1溶滴を確実に溶接部に移行することができる。その結果、形状・外観が良好なビードの形成が可能となる。
上記の効果は、TiまたはTi合金からなる溶接ワイヤであって、溶接ワイヤが、その表面に酸素濃化層を有し、更に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくともひとつの金属を有する金属化合物を有する溶接ワイヤにより達成される。
なお、本発明において、溶接ワイヤとは、溶接用の線材はもちろん溶射用の線材(溶射ワイヤ)も包含する意味を有する。
なお、本発明において、溶接ワイヤとは、溶接用の線材はもちろん溶射用の線材(溶射ワイヤ)も包含する意味を有する。
最初に、本発明の溶接ワイヤの表面顕微鏡写真と、表層部の断面顕微鏡写真を、それぞれ、図1、図2として示す。図1から明らかなように、この溶接ワイヤは、表面が酸素濃化層で被覆され、そして、後述する伸線工程で発生する微細な表面クラックが溶接ワイヤ全体の表面に分布して形成されている。上記した表面クラックは、図2で示したように、溶接ワイヤ表面の酸素濃化層から母材の内層部に向かうある深さの亀裂として形成されている。そして、そのクラック中に、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含む後述の化合物が充填されている。
本発明において、酸素濃化層、及び、その平均酸素濃度は以下のように定義される。すなわち、ワイヤの断面を鏡面研磨し、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により酸素濃度分布を面分析する。その分析により得られたワイヤ中心部での酸素濃度を1とし、酸素濃度が1.2以上(ワイヤ中心部での酸素濃度の1.2倍以上)となる領域を酸素濃化層とする。また、該酸素濃度が1.2以上となる領域での酸素濃度の平均値(測定点5箇所)を、酸素濃化層の平均酸素濃度とする。尚、ワイヤ断面の周方向において酸素濃度にバラツキがある場合は、断面半径方向の種々の位置に濃度測定円を設定し、各濃度測定円に沿って酸素濃度を平均化することにより、周方向に平均化された断面半径方向の酸素濃度分布を求める。そして、その断面半径方向の酸素濃度分布において、酸素濃度がワイヤ中心部での酸素濃度の1.2倍以上となる領域を酸素濃化層とする。
本発明の酸素濃化層の厚さは、ワイヤ表面に発生する自然酸化膜よりも厚いことが好ましい。自然酸化膜の厚さは、通常、40〜100nmである。
また、本発明の酸素濃化層は、以下の関係を満足することが好ましい。
即ち、酸素濃化層の厚みをTw、溶接ワイヤの線径をDwとしたとき、Tw/Dwの値が0.3×10−3〜1×10−1であり、かつ、酸素濃化層の平均酸素濃度が1質量%以上であることが好ましい。このような厚さ及び平均酸素濃度を有する酸素濃化層を形成することにより、溶接装置のコンジットチューブ等を介したワイヤの送給性を大幅に向上することができる。また、アーク溶接あるいはアーク溶射を行う際のアークの安定性も良好となる。
即ち、酸素濃化層の厚みをTw、溶接ワイヤの線径をDwとしたとき、Tw/Dwの値が0.3×10−3〜1×10−1であり、かつ、酸素濃化層の平均酸素濃度が1質量%以上であることが好ましい。このような厚さ及び平均酸素濃度を有する酸素濃化層を形成することにより、溶接装置のコンジットチューブ等を介したワイヤの送給性を大幅に向上することができる。また、アーク溶接あるいはアーク溶射を行う際のアークの安定性も良好となる。
Tw/Dwが0.3×10−3(TwがDwの0.03%)未満になるか、又は、酸素濃化層の平均酸素濃度が1質量%未満になると、送給性改善効果が不十分となる。また、アークが不安定化しやすくなり、均一な溶接ビードや溶射層を形成する上で不利となる。また、Tw/Dwが1×10−1(TwがDwの10%)を超える場合には、酸素濃化層の形成処理に極めて長時間を要し、また、形成が困難なわりに効果に乏しい。溶接等に使用する場合はむしろ、溶接構造の溶接継手強度低下など、弊害を招く場合もある。
酸素濃化層の平均酸素濃度の上限値について、以下に記す。酸素濃化層の平均酸素濃度は、酸素濃化層の全てが酸化チタンで形成されている場合に最大となり、その値は、形成されている酸化物の分子式から計算される酸素含有比率に等しくなると考えられる。例えば、形成される酸化物がTiO2であれば、その化学量論的な酸素含有量から計算される平均酸素濃度の上限値は40.06質量%(Tiの原子量を47.88、酸素の原子量を16.0として計算)である。また、TiO2よりも酸素の化学量論比がさらに高いTi酸化物を形成してもよく、例えばTi2O5を形成する場合は、平均酸素濃度の上限値は45.52質量%となる。従って、酸素濃化層の平均酸素濃度の最大値が45.52質量%を超えることは、通常考えられない。よって、本発明においては、酸素濃化層の平均酸素濃度の最大値は45.52質量%であると言える。しかし、酸素濃化層の平均酸素濃度を45.52質量%とすると溶接部の延性低下等の弊害が発生する場合がある。従って、酸素濃化層の平均酸素濃度は、40質量%以下にすることが好ましい。
また、アーク安定化効果をより顕著なものとするためには、酸素濃化層の厚さTwと線径Dwとの比Tw/Dwを、1×10−3〜1×10−1の範囲に調整することがより望ましい。特に、熱酸化法等の採用により、最表層部の酸化チタン層(自然酸化膜の厚さ40〜100nm程度と同等、もしくは、それよりも厚い)に加え、酸素拡散層(最表層部より内層に位置する部分で酸化チタンよりも酸素含有が少なく、Tiを主体とする金属相中に酸素が拡散した相)が形成される場合は、酸素拡散層の分だけ酸素濃化層の厚さが増大するので、Tw/Dwが上記望ましい範囲に属するものとなる可能性が高くなる。
Tw/Dwの値及び酸素濃化層の平均酸素濃度の望ましい上限については、本発明の溶接ワイヤを溶接用のワイヤとして用いる場合と、溶射用の線材として用いる場合とでは相違する。本発明の溶接ワイヤを溶射用線材として用いる場合、溶射層は、溶接部ほどには強度的な要求が厳しくないことも多く(もちろん例外もある)、例えば、溶融金属の噴射媒体として空気が使用されることもあり得る。この場合は、溶融Ti金属が空気中の酸素と反応しながら溶射層として堆積するので、層中の酸素濃度も必然的に高くなるが、特に高強度が要求されない場合は、これでも十分に実用に耐えうる。なお、本発明の溶接ワイヤを溶射用線材として使用する場合には、結果的に溶融状態で酸化が進行することを考慮すれば、Tw/Dwの値や酸素濃化層の平均酸素濃度を、前記した上限値一杯まで増加させても、特に支障を生じない。
一方、溶接用のワイヤとして用いる場合は、酸素濃化層が過度に厚くなりすぎたり、あるいは平均酸素濃度が過度に高くなると、得られる溶接構造の溶接継手強度が損なわれる不具合が生ずる場合がある。そこで、溶接用のワイヤとして用いる場合、Tw/Dwは1×10−3〜50×10−3(TwがDwの5%)に、酸素濃化層の平均酸素濃度は1〜30質量%に制限することが更に望ましい。また、溶射用線材として用いる場合にも、アルゴン等の不活性ガスを噴射媒体として、できるだけ酸化を抑制した高強度の溶射層を形成したい場合は、Tw/Dw及び平均酸素濃度を同様の範囲に制限することが望ましい場合もある。
また、本発明の溶接ワイヤはTiを主成分とするものである。本発明において、「Tiを主成分とする」とは、ワイヤ中で最も含有率の高い成分がTiであることを意味し、50質量%以上がTiであることが好ましい。また、Ti合金を採用する場合、得られる溶接部や溶射層の強度あるいは延性向上等を目的として、種々の添加元素を副成分として含有させることができる。以下に、採用可能な添加元素の例と、望ましい添加量の範囲とを示す。
(1)Al:9質量%以下
AlはTiの低温相であるα相を安定化させるとともに、α相中に固溶してこれを強化する働きを有する。ただし、その含有量が9質量%を超えると、Ti3Al等の中間相(金属間化合物)が多量に形成され、靭性あるいは延性が阻害されることにつながる。他方、上記効果を顕著なものとするためには、1質量%以上は添加することが望ましく、より望ましくは2〜8質量%の範囲で添加するのがよい。
AlはTiの低温相であるα相を安定化させるとともに、α相中に固溶してこれを強化する働きを有する。ただし、その含有量が9質量%を超えると、Ti3Al等の中間相(金属間化合物)が多量に形成され、靭性あるいは延性が阻害されることにつながる。他方、上記効果を顕著なものとするためには、1質量%以上は添加することが望ましく、より望ましくは2〜8質量%の範囲で添加するのがよい。
(2)N及びOの少なくともいずれか:合計で0.5質量%以下
N及びOも、Alと同様のα相安定化及び強化元素として機能し、特にOの添加効果が顕著である。ただし、その合計含有量が0.5質量%を超えると、靭性あるいは延性が阻害されることにつながる。他方、上記効果を顕著なものとするためには、合計で0.03質量%以上は添加することが望ましく、より望ましくは、合計で0.08〜0.2質量%の範囲で添加するのがよい。なお、ここでの酸素含有量は、いずれも、酸素濃化層以外の内層部の酸素含有量を意味する。
N及びOも、Alと同様のα相安定化及び強化元素として機能し、特にOの添加効果が顕著である。ただし、その合計含有量が0.5質量%を超えると、靭性あるいは延性が阻害されることにつながる。他方、上記効果を顕著なものとするためには、合計で0.03質量%以上は添加することが望ましく、より望ましくは、合計で0.08〜0.2質量%の範囲で添加するのがよい。なお、ここでの酸素含有量は、いずれも、酸素濃化層以外の内層部の酸素含有量を意味する。
(3)V、Mo、Nb及びTaの1種又は2種以上:合計で45質量%以下
これらの元素は、いずれもTi高温相であるβ相の安定化元素であり、熱間加工性の向上と、熱処理性改善による高強度化を図る上で有効である。ただし、これらの元素はいずれも高比重かつ高融点であり、過剰な添加はTi合金特有の軽量及び高比強度の効果を損なわせることにつながるほか、合金融点の上昇により溶製による製造の困難化を招来するので、合計添加量の上限を45質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、合計で1質量%以上は添加することが望ましい。また、MoやTaは、合金の耐食性改善のために少量添加される場合もある。
これらの元素は、いずれもTi高温相であるβ相の安定化元素であり、熱間加工性の向上と、熱処理性改善による高強度化を図る上で有効である。ただし、これらの元素はいずれも高比重かつ高融点であり、過剰な添加はTi合金特有の軽量及び高比強度の効果を損なわせることにつながるほか、合金融点の上昇により溶製による製造の困難化を招来するので、合計添加量の上限を45質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、合計で1質量%以上は添加することが望ましい。また、MoやTaは、合金の耐食性改善のために少量添加される場合もある。
(4)Cr、Fe、Ni、Mn及びCuの1種又は2種以上:合計で15質量%以下
これらの元素もβ相の安定化効果を有し、熱間加工性の向上と、熱処理性改善による高強度化を図る上で有効である。ただし、いずれもTiとの間に中間相(例えば、TiCr2、TiFe、Ti2Ni、TiMnあるいはTi2Cuなど)を形成しやすく、過剰な添加は延性及び靭性を損なわせることにつながるために、合計添加量の上限を15質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、合計で0.5質量%以上は添加することが望ましい。また、Niは合金の耐食性改善のために少量添加される場合もある。
これらの元素もβ相の安定化効果を有し、熱間加工性の向上と、熱処理性改善による高強度化を図る上で有効である。ただし、いずれもTiとの間に中間相(例えば、TiCr2、TiFe、Ti2Ni、TiMnあるいはTi2Cuなど)を形成しやすく、過剰な添加は延性及び靭性を損なわせることにつながるために、合計添加量の上限を15質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、合計で0.5質量%以上は添加することが望ましい。また、Niは合金の耐食性改善のために少量添加される場合もある。
(5)Sn及びZrの少なくともいずれか:合計で20質量%以下
これらの元素はα相とβ相との双方を強化する中性形添加元素として知られる。ただし、過剰な添加は効果の飽和を招くため、合計添加量の上限を20質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、合計で0.5質量%以上は添加することが望ましい。
これらの元素はα相とβ相との双方を強化する中性形添加元素として知られる。ただし、過剰な添加は効果の飽和を招くため、合計添加量の上限を20質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、合計で0.5質量%以上は添加することが望ましい。
(6)Si:0.7質量%以下
合金の耐クリープ性(クリープラプチャ強度)を増し、耐熱性改善効果を有する。ただし、過剰な添加はTi5Si3等の金属間化合物の形成により、クリープラプチャ強度あるいは延性の低下を却って引き起こすため、添加量の上限を0.7質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、0.03質量%以上は添加することが望ましく、より望ましくは、0.05〜0.5質量%の範囲で添加するのがよい。
合金の耐クリープ性(クリープラプチャ強度)を増し、耐熱性改善効果を有する。ただし、過剰な添加はTi5Si3等の金属間化合物の形成により、クリープラプチャ強度あるいは延性の低下を却って引き起こすため、添加量の上限を0.7質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、0.03質量%以上は添加することが望ましく、より望ましくは、0.05〜0.5質量%の範囲で添加するのがよい。
(7)Pd及びRuの少なくともいずれか:合計で0.5質量%以下
合金の耐食性を改善する効果を有する。ただし、いずれも貴金属であり高価なことから、効果の飽和等も考慮して添加量の上限を0.5質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、0.02質量%以上は添加することが望ましい。
合金の耐食性を改善する効果を有する。ただし、いずれも貴金属であり高価なことから、効果の飽和等も考慮して添加量の上限を0.5質量%とする。他方、上記効果を顕著なものとするためには、0.02質量%以上は添加することが望ましい。
具体的な合金組成として、以下のようなものを例示できる(なお、組成に関しては、主成分元素であるTiを先頭に、副成分元素を、質量%の単位を省略した組成数値とともにハイフンで結合して記載する(例えば、Ti−6質量%Al−4質量%V合金は、Ti−6Al−4Vと記載する))。
[1]α型合金:
Ti−5Al−2.5Sn、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−1Nb−0.3Mo−0.3Si、Ti−2.5Cu
Ti−5Al−2.5Sn、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−1Nb−0.3Mo−0.3Si、Ti−2.5Cu
[2]ニアα型合金:
Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo−0.1Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−2.25Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−6Al−2Sn−2Zr−2Mo−0.25Si、Ti−6Al−2Nb−1Ta−0.8Mo、Ti−6Al−2Sn−1.5Zr−1Mo−0.35Bi−0.1Si、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5Al−6Sn−2Zr−1Mo−0.25Si
Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo−0.1Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−2.25Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−6Al−2Sn−2Zr−2Mo−0.25Si、Ti−6Al−2Nb−1Ta−0.8Mo、Ti−6Al−2Sn−1.5Zr−1Mo−0.35Bi−0.1Si、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5Al−6Sn−2Zr−1Mo−0.25Si
[3]α+β型合金:
Ti−8Mn、Ti−3Al−2.5V、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−7Al−4Mo、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−6Al−2Sn−2Zr−2Mo−2Cr−0.25Si、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−4Al−2Sn−4Mo−0.2Si、Ti−4Al−4Sn−4Mo−0.2Si、Ti−2.25Al−11Sn−4Mo−0.2Si、Ti−5Al−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−4.5Al−5Mo−1.5Cr、Ti−6Al−5Zr−4Mo−1Cu−0.2Si、Ti−5Al−2Cr−1Fe
Ti−8Mn、Ti−3Al−2.5V、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−7Al−4Mo、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−6Al−2Sn−2Zr−2Mo−2Cr−0.25Si、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−4Al−2Sn−4Mo−0.2Si、Ti−4Al−4Sn−4Mo−0.2Si、Ti−2.25Al−11Sn−4Mo−0.2Si、Ti−5Al−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−4.5Al−5Mo−1.5Cr、Ti−6Al−5Zr−4Mo−1Cu−0.2Si、Ti−5Al−2Cr−1Fe
[4]β型合金:
Ti−13V−11Cr−3Al、Ti−8Mo−8V−2Fe−3Al、Ti−3Al−8V−6Cr−4Mo−4Zr、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−11V−11Zr−2Al−2Sn、Ti−15Mo−5Zr、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−22V−4Al、Ti−15V−6Cr−4Al
Ti−13V−11Cr−3Al、Ti−8Mo−8V−2Fe−3Al、Ti−3Al−8V−6Cr−4Mo−4Zr、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−11V−11Zr−2Al−2Sn、Ti−15Mo−5Zr、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−22V−4Al、Ti−15V−6Cr−4Al
[5]ニアβ型合金:
Ti−10V−2Fe−3Al
Ti−10V−2Fe−3Al
[6]耐食合金(溶接用としても使用できるが、溶射により耐食被覆層を形成したい場合に、特に有用である)
Ti−0.15Pd、Ti−0.3Mo−0.8Ni、Ti−5Ta
Ti−0.15Pd、Ti−0.3Mo−0.8Ni、Ti−5Ta
本発明の溶接ワイヤは、Tiまたは上記のTi合金のインゴットを一旦圧延してコイル化したのち、その圧延コイルに酸化処理を行って表面に酸素濃化層を形成することで得られる。
具体的には、本発明の溶接ワイヤにおいて、酸素濃化層は、Ti系金属線材を酸素を含有した雰囲気中にて熱酸化処理することにより形成できる。酸素を含有した雰囲気としては、酸素含有窒素雰囲気(大気雰囲気を含む)、あるいは、酸素含有不活性ガス雰囲気のほか、水蒸気など、酸素化合物を含有した気体雰囲気を用いてもよい。必要十分な厚さの酸素濃化層を効率的に形成するには、酸素分圧が5×103〜15×103Paの酸素含有雰囲気を用いることが好ましい。また、処理温度は、例えば500〜800℃に設定することが好ましい。他方、熱酸化処理以外にも、線材表面に酸化チタン粒子を埋め込んだり、あるいは、酸化チタン層を蒸着やスパッタリングなどの気相成膜法により形成して酸素濃化層とする方法を採用しうる。また、酸化チタン層は、周知のゾルゲル法により形成してもよい。そして、これらの方法により酸化チタン層を形成する場合、拡散熱処理により前記した酸素拡散層を形成するとさらによい。
上記の状態にあるコイル線材の断面顕微鏡写真を、図3に示す。図3から明らかなように、この段階では、酸素濃化層から成る表面にクラックは発生していない。
ついで、このコイル線材に冷間で伸線処理を施して所定線径の線材にする。そのとき、減面率の大小によっても異なるが、線材の表面には、図1で示したように線材表面から内部へ亀裂が入り、それが多数の表面クラックとして線材の表層部に発生する。
尚、本発明において、減面率とは下式で定義される。
減面率(%)=(伸線前の線材断面積−伸線後の線材断面積)/伸線前の線材断面積×100
ついで、このコイル線材に冷間で伸線処理を施して所定線径の線材にする。そのとき、減面率の大小によっても異なるが、線材の表面には、図1で示したように線材表面から内部へ亀裂が入り、それが多数の表面クラックとして線材の表層部に発生する。
尚、本発明において、減面率とは下式で定義される。
減面率(%)=(伸線前の線材断面積−伸線後の線材断面積)/伸線前の線材断面積×100
そして最後に、この表面クラックの中に、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくともひとつの金属を有する金属化合物が充填されることにより、図2で示した本発明の溶接ワイヤが形成される。
このようにして、酸素濃化層と金属化合物とを有する本発明のワイヤが製造される。
このようにして、酸素濃化層と金属化合物とを有する本発明のワイヤが製造される。
これら金属化合物としては、炭酸塩などの金属化合物が好ましい。特に、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムが好ましい。
金属化合物のクラック内への充填方法について、以下に記す。充填方法としては、例えば、これら金属化合物を潤滑剤に混合し、前記した冷間の伸線時にその潤滑剤を用いて伸線することにより、表面クラックを発生させると同時にその中に潤滑剤を充填し、結果として金属化合物を表面クラックの中に充填する方法が挙げられる。
金属化合物の充填量は、例えば、潤滑剤への金属化合物の混合割合を変化させたり、また、酸素濃化層の厚みを変化させたり、伸線時における減面率を変化させることにより、調整することが可能である。
金属化合物の充填量は、例えば、潤滑剤への金属化合物の混合割合を変化させたり、また、酸素濃化層の厚みを変化させたり、伸線時における減面率を変化させることにより、調整することが可能である。
なお、潤滑剤としては、一般に、水酸化カルシウムやステアリン酸カルシウムなどが混合したものが使用されているが、このような潤滑剤に例えば所定金属の炭酸塩を混合すると、その金属は全て、カルシウムと複合した状態で表面クラック内に充填されることになる。
したがって、カルシウム以外の金属の化合物を充填する場合には、伸線後に線材を一旦洗浄して潤滑剤を表面クラックから除去し、ついで所定の金属化合物を用いて減面率0%の状態で線材を伸線機に通せばよい。
したがって、カルシウム以外の金属の化合物を充填する場合には、伸線後に線材を一旦洗浄して潤滑剤を表面クラックから除去し、ついで所定の金属化合物を用いて減面率0%の状態で線材を伸線機に通せばよい。
また、潤滑剤自体に所望するアルカリ金属やアルカリ土類金属が含まれている場合は、その潤滑剤を用いて伸線すればよい。
本発明の溶接ワイヤは、Ti材のMIG溶接用の溶接用線材として有用である。また、本発明の溶接ワイヤは、アークの安定性と溶滴移行の安定性も有しているので、アーク溶射法における溶射用線材としても用いることができる。
本発明の溶接ワイヤは、Ti材のMIG溶接用の溶接用線材として有用である。また、本発明の溶接ワイヤは、アークの安定性と溶滴移行の安定性も有しているので、アーク溶射法における溶射用線材としても用いることができる。
本発明において、アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Csをあげることができ、アルカリ土類金属としては、Ca、Sr、Baをあげることができる。またアルカリ金属から適宜な金属を選び、アルカリ土類金属からも適宜な金属を選び、これらの化合物を一緒に用いることにより、アルカリ金属とアルカリ土類金属を共に含有させてもよい。
本発明の金属化合物としては、上記したアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のうち、沸点が2000℃以下である金属を有することが好ましく、600℃以上2000℃以下である金属を有することが更に好ましい。特に、K、Na、Caなどの1種または2種以上を有することが好ましい。また、Caを含有する金属化合物を用いることが更に好ましい。
上記した金属化合物の含有量は、溶接ワイヤの全質量に対して、0.002〜0.050質量%に設定されることが好ましい。
上記した金属化合物の含有量は、溶接ワイヤの全質量に対して、0.002〜0.050質量%に設定されることが好ましい。
金属化合物の含有量が0.002質量%より少ない場合は、これら金属化合物の効果が充分に発揮されないので、集中アークの発生率が小さくなり、1パルス通電で1溶滴を発生させるという目標達成が困難になり、良好なビード形成に難をきたすからである。また、金属化合物の含有量が0.050質量%より多い場合は、アーク力が強くなりすぎて、溶滴の溶接部への移行過程で当該溶滴を中心にしてスパッタ現象が発生し、そのことによって、ビードはもとより、溶接部以外の箇所にも外観荒れが生ずるようになるからである。
また、1パルス通電で1溶滴の実現という点でいうと、金属化合物の含有量は、溶接ワイヤの全質量に対して0.007〜0.015質量%であることが好ましい。
これらの金属は、いずれも、母材を構成する主成分であるTiに比べて沸点と電離電圧が低い。このことを図4で示す。本発明の溶接ワイヤ表面に存在するクラック中にはこれら金属が存在するので、MIG溶接時に、アーク熱により母材(Ti)が溶融する前に、これら金属が電離した金属蒸気となってアークの場に存在することになる。そのため、発生アークは集中アークとなって安定化する。
なお、本発明でいう「集中アーク」とは、次のようなアークとして定義される。それを図5に基づいて説明する。直径Dの線材をアーク放電させて、アークの境界部を目視観察する。境界部が判別できないほどにぼやけているアークの場合は、当然ながら集中アークと認定することなく、拡散アークと呼ぶ。
そして、線材の下端面から線材の直径Dだけ下方の位置に底面を有する円錐台を想定し、この円錐台の側面と底面がなす角度をθとしたとき、θ≧60°になっている場合のアークを集中アークとする。θ≧60°とすることで、必ず溶滴を形成することができる。
本発明の溶接ワイヤは、上記の様な特徴を有するため、MIG溶接を行う装置等の溶接装置に用いることができる。
本発明の溶接ワイヤは、上記の様な特徴を有するため、MIG溶接を行う装置等の溶接装置に用いることができる。
本発明の溶接ワイヤ表面の表面粗さは、最大高さをRyとして、10μm以下であることが、溶接装置内でのワイヤの送給性を向上させる観点において望ましい。そして、前記したような厚さ及び平均酸素濃度にて酸素濃化層を形成することは、表面粗さがこのような数値に調整されたワイヤ表面を得る上でも当然に有利に作用する。また、ワイヤの表面粗さは、算術平均粗さRaとして0.5μm以下とすることが望ましい。また、最大高さRy及び算術平均粗さRaの下限値については特に制限はなく、コストとの兼ね合いにより適宜設定される。尚、本発明者らは、Ryを1.0μm程度まで、Raを0.1μm程度まで小さくできることを確認している。なお、本明細書において表面粗さは、JIS:B0601(1994)に規定された方法により測定されたものを意味する。
また、溶接装置内でのワイヤの挫屈を防止するためには、ワイヤの引張強さが400MPa〜1500MPaであることが望ましい。引張強さが400MPa未満では挫屈防止を十分に図ることが困難となり、1500MPaを超えるとワイヤの可撓性が損なわれて折損や巻取り困難等の不具合につながる。ワイヤの引張強さは、例えば伸線加工の最終段階を冷間加工にて行なう場合に、その冷間加工の減面率調整や、その後に歪除去のための焼鈍を行なう場合は、その焼鈍温度と時間の加減により調整することができる。ワイヤの引張強さは、400MPa〜1200MPaであることがより好ましい。
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1〜24,比較例1
(1)溶接ワイヤの製造
線材は、JIS:H4670で規定する2種純Ti線材(線径1.6mm)を使用した。厚い酸素濃化層の実施例1〜22は、大気中で、温度750℃で6分間の加熱処理を行い、表面に酸素濃化層を形成した。薄い酸素濃化層の実施例23,24および比較例1は、温度を450℃として同様の加熱処理を行った。
(1)溶接ワイヤの製造
線材は、JIS:H4670で規定する2種純Ti線材(線径1.6mm)を使用した。厚い酸素濃化層の実施例1〜22は、大気中で、温度750℃で6分間の加熱処理を行い、表面に酸素濃化層を形成した。薄い酸素濃化層の実施例23,24および比較例1は、温度を450℃として同様の加熱処理を行った。
一方、表1で示したアルカリ金属とアルカリ土類金属の炭酸塩粉末を用意した。また、潤滑剤としては、コーシン(水酸化カルシウムとステアリン酸カルシウムの混合物、共栄社化学(株)製の商品名)を用意した。これらの潤滑剤を用いて、冷間で伸線処理を行い、線径(Dw)1.0mmの溶接ワイヤにした。このときの減面率は37.5%である。
カルシウム以外の金属を単独で酸素濃化層と共存させる場合は、伸線後の線材を一旦ライトクリン(洗剤)で洗浄してコーシンを洗い落し、ついでその線材を減面率0%で所定金属の炭酸塩粉末を用いて伸線機に通して表面クラック内に充填した。なお、金属が酸素濃化層と共存していない比較例1は、伸線後の線材を同様の方法で洗浄した状態のままとした。得られた各溶接ワイヤにつき、下記の仕様で金属化合物の金属含有量(質量%)、酸素濃化層の厚み(Tw:μm)と平均酸素濃度、引張り強さ(MPa)、表面粗さ、動摩擦係数を測定した。
金属含有量:誘導結合プラズマ発光分光法で分析。
酸素濃化層:上述したように、ワイヤの断面を鏡面研磨し、その研磨面につき、EPMAで酸素濃度分布を面分析し、断面中心部における酸素濃度を1とし、酸素濃度が1.2以上(断面中心部の酸素濃度の1.2倍以上)となる領域を酸素濃化層とした。
平均酸素濃度:上述したように、酸素濃化層における酸素濃度の平均値(測定点5箇所)を求め、それを酸素濃化層の平均酸素濃度とした。
酸素濃化層:上述したように、ワイヤの断面を鏡面研磨し、その研磨面につき、EPMAで酸素濃度分布を面分析し、断面中心部における酸素濃度を1とし、酸素濃度が1.2以上(断面中心部の酸素濃度の1.2倍以上)となる領域を酸素濃化層とした。
平均酸素濃度:上述したように、酸素濃化層における酸素濃度の平均値(測定点5箇所)を求め、それを酸素濃化層の平均酸素濃度とした。
酸素濃化層の厚さ:酸素濃化層の厚みの平均値とした。
引張り強さ:ワイヤから長さ100mmの試験片を切り出し、インストロン型引張試験機を用いてクロスヘッド速度1.0mm/分で引張り、応力−歪曲線を測定するとともに、最大応力値を引張強さとして読み取った。
表面粗さ:ワイヤの長手方向に評価長さを設定する態様で、JIS:B0601(1994)に規定された方法により粗さ曲線を測定し、最大高さRy(μm)と、算術平均粗さRa(μm)の値をそれぞれ読みとった。
引張り強さ:ワイヤから長さ100mmの試験片を切り出し、インストロン型引張試験機を用いてクロスヘッド速度1.0mm/分で引張り、応力−歪曲線を測定するとともに、最大応力値を引張強さとして読み取った。
表面粗さ:ワイヤの長手方向に評価長さを設定する態様で、JIS:B0601(1994)に規定された方法により粗さ曲線を測定し、最大高さRy(μm)と、算術平均粗さRa(μm)の値をそれぞれ読みとった。
動摩擦係数:バウデン−リーベン型摩擦試験機を用いて測定した。具体的には、ワイヤ試料を試料台上に取り付け、上から押圧用の鋼材を重ね、その鋼材を一定重量の分銅にて押圧しながら試料台を一定速度で移動させたときの摩擦力を、歪ゲージ式の荷重検出器により検出する。
以上の結果を一括して表1に示した。
以上の結果を一括して表1に示した。
(2)MIG溶接
表1に示した各ワイヤを用いて、ビード・オン・プレート溶接および突合せ溶接を、表2で示した条件でMIG溶接法にて行った。ビード・オン・プレート溶接および突合せ溶接の被溶接材は、JIS:H4600で規定する2種純チタン板を用い、そのサイズは、ビード・オン・プレート溶接が厚み1.5mm、幅50mm、長さ150mmとし、突合せ溶接が厚み1.5mm、幅150mm、長さ150mmとした。
表1に示した各ワイヤを用いて、ビード・オン・プレート溶接および突合せ溶接を、表2で示した条件でMIG溶接法にて行った。ビード・オン・プレート溶接および突合せ溶接の被溶接材は、JIS:H4600で規定する2種純チタン板を用い、そのサイズは、ビード・オン・プレート溶接が厚み1.5mm、幅50mm、長さ150mmとし、突合せ溶接が厚み1.5mm、幅150mm、長さ150mmとした。
溶接時におけるワイヤの送給性、アークの安定性、スパッタの発生量を下記の仕様で評価した。また、形成されたビードの形状、継手部の引張り強さを下記の仕様で評価した。
なお、継手部の引張強さは突合せ溶接で評価し、その他はビード・オン・プレート溶接で評価した。
なお、継手部の引張強さは突合せ溶接で評価し、その他はビード・オン・プレート溶接で評価した。
ワイヤの送給性:溶接中にワイヤの座屈が発生しなかった場合を○、ワイヤの座屈が発生した場合を×と評価した。
アークの安定性:溶接開始2秒後から7秒の5秒間に亘り、ナック社製のハイスピードカメラシステムモデル1000(1画像/1ms)を用いて発生アークの状態を撮影し、その画像からアークの安定性を評価した。
集中アークの発生率が80%以上の場合を○、65〜80%の場合を△、65%より低い場合を×として評価した。
アークの安定性:溶接開始2秒後から7秒の5秒間に亘り、ナック社製のハイスピードカメラシステムモデル1000(1画像/1ms)を用いて発生アークの状態を撮影し、その画像からアークの安定性を評価した。
集中アークの発生率が80%以上の場合を○、65〜80%の場合を△、65%より低い場合を×として評価した。
スパッタ発生量:溶接終了後、溶接長さ100mm当たりの直径1mm以上のスパッタ付着量にて評価した。直径1mm以上のスパッタが、付着していない場合を○、1〜10個付着している場合を△、および、11個以上付着している場合を×で評価した。
ビード形状:溶接後にビードを目視観察し、幅が均一で外観が平滑な場合を○とした。また、ビード幅の不規則の乱れが、小さい場合を△、大きい場合を×として評価した。
継手部の引張り強さ:測定値が340MPa以上の場合を○、それ以下の場合を×として評価した。
以上の結果を一括して表3に示した。
継手部の引張り強さ:測定値が340MPa以上の場合を○、それ以下の場合を×として評価した。
以上の結果を一括して表3に示した。
表1と表3から明らかなように、アルカリ金属やアルカリ土類金属の金属化合物を有する実施例1〜24のワイヤを用いると、いずれの場合もアークは安定化し、またビード形状も良好になっている。また、金属化合物を適切な量含有する実施例1〜20において、その効果はより優れたものとなる。
しかし、金属化合物を全く有しておらず、酸素濃化層の厚さも薄い比較例1のワイヤを用いると、集中アークの発生が少なくなり、スパッタも多くなり、そのためビード形状は悪化している。
なお、実施例6のワイヤを用いて形成されたビードの形状を示す写真を図6に示す。図から明らかなように、このワイヤを用いると、幅が一様で肉盛り状態も一様で、外観、形状いずれも良好なビードを形成することができる。
実施例25〜40
表4に記載した組成を有するTi合金材を母材とし、表4に記載のアルカリ金属、アルカリ土類金属の種類と含有量に従い、実施例1〜24と同様の方法によりワイヤを製造した。
なお、被溶接材は、ワイヤと同じ表4に記載した組成を有するTi合金板を用い、そのサイズは実施例1〜24および比較例1と同じとした。
表4に記載した組成を有するTi合金材を母材とし、表4に記載のアルカリ金属、アルカリ土類金属の種類と含有量に従い、実施例1〜24と同様の方法によりワイヤを製造した。
なお、被溶接材は、ワイヤと同じ表4に記載した組成を有するTi合金板を用い、そのサイズは実施例1〜24および比較例1と同じとした。
実施例25〜40のワイヤを用いて、表2で示した条件でMIG溶接を行った。結果を表5に示す。
実施例41〜52
母材は実施例1〜24および比較例1と同様のTi線材とし、表6に記載のアルカリ金属、アルカリ土類金属の種類と含有量に従い、ワイヤを製造した。
母材は実施例1〜24および比較例1と同様のTi線材とし、表6に記載のアルカリ金属、アルカリ土類金属の種類と含有量に従い、ワイヤを製造した。
実施例41〜52のワイヤを溶射装置の溶射ユニットに取り付け、溶射ガンに送給して被処理物の表面に溶射した。そのときのワイヤの送給性、アークの安定性を調べた。結果を表7に示す。
本発明の溶接ワイヤは、発生するアークが集中アークになり、1パルスの通電で確実に1個の溶滴移行を実現することができるので、溶接部のビードの形状・外観は優れたものになる。この溶接ワイヤは、Ti材のMIG溶接時の溶接用線材や、Ti溶射時の溶射用線材として有用である。
Claims (9)
- TiまたはTi合金からなる溶接ワイヤであって、
前記溶接ワイヤが、その表面に酸素濃化層を有し、更に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくともひとつの金属を有する金属化合物を有する溶接ワイヤ。 - 前記金属化合物の含有量が、前記溶接ワイヤの全質量に対して0.002〜0.050質量%である請求項1の溶接ワイヤ。
- 前記溶接ワイヤがその表面にクラックを有し、前記クラック中に前記金属化合物が存在する請求項1の溶接ワイヤ。
- 前記金属の沸点が2000℃以下である請求項1の溶接ワイヤ。
- 前記金属化合物がCaを含む金属化合物である請求項1の溶接ワイヤ。
- 前記酸素濃化層の厚みをTw、前記溶接ワイヤの線径をDwとしたとき、
Tw/Dwの値が0.3×10−3〜1×10−1であり、かつ、
前記酸素濃化層の平均酸素濃度が1質量%以上である請求項1の溶接ワイヤ。 - 前記酸素濃化層の平均酸素濃度が1〜40質量%である請求項6の溶接ワイヤ。
- 前記溶接ワイヤの表面粗さが、JIS B0601で規定するRyで表される表面粗さにおいて、10μm以下である請求項1の溶接ワイヤ。
- 前記のTw/Dwの値が1×10−3〜50×10−3であり、かつ、
前記酸素濃化層の平均酸素濃度が1〜30質量%である請求項6の溶接ワイヤ。
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