JP2006129833A - ホンダワラ類の養殖方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ヒジキを含むホンダワラ類の養殖用種苗を藻体からクローン技術によって容易に増殖し、その養殖用種苗を生長させて藻体を得るホンダワラ類の養殖方法を提供する。
【解決手段】ホンダワラ類の藻体を採取してその仮根部から組織片を摘出し、その組織片を静置培養して幼芽を出芽させ、幼芽が出芽した組織片を通気培養により培養して幼芽を生長させ、生長した幼芽を組織片から切り離して養殖用種苗とし、この養殖用種苗をロープなどの着生基材に着生させて養殖する。
【解決手段】ホンダワラ類の藻体を採取してその仮根部から組織片を摘出し、その組織片を静置培養して幼芽を出芽させ、幼芽が出芽した組織片を通気培養により培養して幼芽を生長させ、生長した幼芽を組織片から切り離して養殖用種苗とし、この養殖用種苗をロープなどの着生基材に着生させて養殖する。
Description
本発明は、ヒジキなどのホンダワラ類の養殖方法に関し、特に、養殖用の種苗を短期間で大量に養殖することができるホンダワラ類の養殖方法に関する。
ヒジキは、古くから日本各地で食用に利用されている海藻の1つであり、食物繊維、鉄分を多く含んでいることから、健康志向の高まりとともにその需要を年々増やしている。
ヒジキは、潮間帯下部に生息する藻体を3〜5月の大潮干狩り時に刈り取る採藻によっても生産されてはいるものの、採藻できる時期が限られており収穫やその運搬などは重労働である。そのため、ヒジキの多くは秋季に天然の幼体(長さ5cm程度)を仮根部ごと採取して養殖用種苗とし、この種苗をロープの間に差し込んで、そのロープを筏などに垂下する養殖、特に韓国などの外国での養殖によって生産されている。
ただし、養殖にも、天然の幼体の採取に多大な労力を必要すること、仮根ごと採取することによって天然のヒジキが減少し、枯渇する可能性さえあることなどの欠点があった。このような欠点を改善するため、ヒジキの幼体にかわる養殖用種苗をより手間がかからず、枯渇する可能性のない方法で生産する方法が以前から求められていた。
養殖用種苗を生産する方法としては、まず、養殖用種苗をヒジキの卵から成育することが考えられる。しかし、ヒジキは卵を放出する期間が短いこと、その放出量がコンブ目植物と比較して極端に少ないこと、卵や幼胚の時期に珪藻や微細藻類に覆われて生育が阻害されやすいことなどから、実用化できていなかった。
また、ヒジキとは異なる種類の藻類であるカジメなどについては、養殖用種苗をクローン技術によって増殖し、その養殖用種苗から藻体を成長させる方法(特許文献1を参照)が研究されているものの、この方法は組織片の海水抽出液を必要とするなど実施に手間がかかるとの問題点があった。そして、この方法がヒジキなどのホンダワラ類に利用可能であるかも不明であった。
特開平05−103558
そこで、本発明はヒジキを含むホンダワラ類の養殖用種苗を藻体からクローン技術によって容易に増殖し、その養殖用種苗を生長させて藻体を得るホンダワラ類の養殖方法を提供することを目的とする。
本発明にかかるホンダワラ類の養殖方法は、ホンダワラ類の藻体を採取してその仮根部から組織片を摘出し、その組織片を静置培養して幼芽を出芽させ、幼芽が出芽した組織片を通気培養により培養して幼芽を生長させ、生長した幼芽を組織片から切り離して養殖用種苗とし、この養殖用種苗をロープなどの着生基材に着生させて、着生基材に着生した養殖用種苗を生長させる。
本発明にかかるホンダワラ類の養殖方法によって、ヒジキを含むホンダワラ類の養殖用種苗を比較的容易に生産できるようになったので、天然のヒジキの幼体を採取する労力が減るとともに、天然のヒジキ幼体が枯渇する可能性がなくなった。なお、組織片から幼芽を切り離したあとの組織片を通気培養しつづければ、新たな幼芽が繰返し出てくる。そのため、養殖用種苗が一度生産できるようになれば、より少ない労力でホンダワラ類を養殖することができる。
本発明は、ホンダワラ類の組織片から静置培養によって幼芽が出芽し、この幼芽が通気培養により生長して養殖用種苗として利用可能になり、この養殖用種苗をロープなどに着生し生長することによって、ホンダワラ類を養殖する。
本発明において、利用可能なホンダワラ類はヒジキ、アカモク、トゲモク、オオバモク、ノコギリモクなどであるが、食用として利用可能であることなどを考えるならば、ヒジキとアカモクが好ましく、食品としての消費量を考えれば、ヒジキが好ましい。
摘出される組織片は仮根部組織や腋芽組織に由来する必要があり、主枝部に由来する組織片は、細胞組織の分化が進んでいるため、出芽率が低く実用性がない。また、細胞組織の分化を考慮すれば、各ホンダワラ類ともに生長期に当たる時期に採取した藻体を使用するのが好ましく、成熟期から凋落期に採取した藻体を利用するのは好ましくない。例えば、ヒジキの場合、生長期に当たる3月から4月に採取した藻体を利用するのが好ましく,成熟期に当たる5月から6月頃に採取した藻体を利用するのは好ましくない。
組織片を摘出は、鋏や医療用のメス等を利用してクリーンベンチなどの無菌環境で行えばよく、摘出後の組織片は一辺の大きさが約2〜3mm程度の立方体等が好ましい。また、組織片を摘出する前に藻体を洗浄すること、組織片の摘出後に組織片を消毒することは、雑菌による組織片の汚染を防ぐため好ましい。ここで、洗浄や消毒の方法は、滅菌海水による洗浄、火炎消毒、アルコール消毒など、従来から行われている方法を単独又は組み合わせて使用すればよい。さらに、組織の摘出に先立って、軟弱化した組織を削除して成形することも、組織片に含まれる死細胞の数が減少するため好ましい。
摘出された組織片は、ピンセットなどにより固体培地上に置かれ静置培養される。静置培養に使用する固体培地は、表1に示すASP12-NTA改変培地をはじめ、一般的に使用されているASP12-NTA培地、PESI培地のほか、PES培地、Grund改変培地及びこれらの寒天培地などが利用可能であるが、なかでも海水を含まず成分の変動が少ないことから、ASP12-NTA改変培地、ASP12-NTA培地又はこれらの培地を含む寒天培地が好ましい。なお、寒天培地の寒天濃度は、藻類の培養において一般的な1.2%重量程度であり、固さや保湿力が維持できるのであれば寒天の代わりにゼラチンを利用してもよい。
組織片を静置培養する時の照度は500から8,0001uxが好ましく、特に好ましくは3,0001uxから5,0001uxである。なぜなら5001ux未満の照度では組織片から出芽が認められず、8,0001uxを越える照度では強光阻害作用により細胞の増殖速度が低下するので好ましくないからである。
一方、上記照度による照明日周期は12〜16時間点灯し、8〜12時間消灯する。なぜなら、上記照度において8時間未満の点灯時間または12時間を越える点灯時間では、細胞の増殖速度が顕著に促進されず、結果的にも培養時間を短縮できないからである。最も好ましい照明日周期としては12時間点灯、12時間消灯である。
通気培養する際の液体培地については、ASP12-NTA改変培地、ASP12-NTA培地、PESI培地、SWII 培地があるが、使用する培養液が大量であることから,滅菌海水に栄養塩類を添加したPESI培地、PES培地、SWII 培地などが好ましい。また、通気量は0.8〜1.0 L/分程度であり、幼芽が培養液中でゆっくり回転する様にするのが好ましい。照度も静置培養の際と同様500から8,0001uxが好ましく、特に好ましくは3,0001uxから5,0001uxである。また、培地の交換は、週1から2回程度でよい。
生長した幼芽が着生する着生基材としては、いわゆる種糸として採用できる天然繊維、合成繊維から成る糸状部材、網状部材であれば使用できる。また、これらの着生基材は、通常の養殖と同様に、筏などの従来から使用されている器具によって海面下に垂直もしくは水平に垂らして使用する。
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、この実施例の記載は、如何なる意味においても、請求項に記載した発明の技術的範囲を限定しない。
本実施例では、ヒジキの養殖を(1)母藻の採取と組織片の摘出、(2)静置培養、(3)通気培養、(4)流水培養、(5)本養殖の順番で行った。そこで、以下にそれぞれの詳細について説明する。
(1)母藻の採取と組織の摘出
まず、夾雑物が少なくて、黄緑色の汚れていない仮根が多い藻体を選んで母藻とし、その仮根部が千切れないように注意深く採取した。そして、採取した藻体の仮根部だけを解剖用メスにより切り取り、はけ等により表面のゴミや珪藻を払い落とし、滅菌海水で洗浄した。そののち、藻体をクリーンベンチに運び込んで、火炎消毒して解剖用メスで2〜3mm角に細断して組織片とした。なお、表皮の除去などの成形は行わなかった。
まず、夾雑物が少なくて、黄緑色の汚れていない仮根が多い藻体を選んで母藻とし、その仮根部が千切れないように注意深く採取した。そして、採取した藻体の仮根部だけを解剖用メスにより切り取り、はけ等により表面のゴミや珪藻を払い落とし、滅菌海水で洗浄した。そののち、藻体をクリーンベンチに運び込んで、火炎消毒して解剖用メスで2〜3mm角に細断して組織片とした。なお、表皮の除去などの成形は行わなかった。
(2)静置培養
裁断した組織片を10個/プレートとなるようにASP12-NAT改変寒天培地(寒天濃度1.2%)を含むプレートに移植し、温度15〜20℃、照度3,000〜5,000LUX、照明日周期12時間点灯:12時間消灯で約1ヶ月静間静置培養した。
裁断した組織片を10個/プレートとなるようにASP12-NAT改変寒天培地(寒天濃度1.2%)を含むプレートに移植し、温度15〜20℃、照度3,000〜5,000LUX、照明日周期12時間点灯:12時間消灯で約1ヶ月静間静置培養した。
この際、温度と照度とが幼芽の出芽に与える影響についても調べた。具体的には、27個の組織片を1つのグループとし、グループ毎に温度と照度を変えて(照明日周期は上記と同じ)1ヶ月静間静置培養した。培養終了後、幼芽の長さを測定しグループ毎にその単純平均値を計算した。その結果を表2に示す。なお、比較例としては主枝部から摘出した組織片を使用した。
その結果、表2に示すように、主枝部から摘出した組織片からは幼芽がまったく生えてこなかったのに対して、仮根部から摘出した組織片は約80%が出芽した。また、幼芽の出芽及び成長に適切な温度は15〜20℃、適切な照度は3,000LUXと5,000LUXの間であれば余り変わらないことも分った。なお、幼芽の形成は、実体顕微鏡による目視観察により確認した。
(3)通気培養
幼芽が出芽した組織片をPESI培地の入った500mlフラスコに入れ、水温20度、照度5,000LUX、照明日周期12時間点灯:12時間消灯で、週に1〜2回培地を換えながら通気培養した。そして、幼芽が10 mmぐらいになったところで、その幼芽を組織片から切り離して養殖用種苗とした。なお、幼芽が10 mmぐらいになるまでに平均30 日程培養する必要があった。また、組織片は幼芽を切り離したあとも、そのまま通気培養を続けることによって、何度でも新たな幼芽が出芽することが目視により確認できた。そのため、幼芽を切り離すときには、元の組織片が少し残るように切り離すほうがよい。
幼芽が出芽した組織片をPESI培地の入った500mlフラスコに入れ、水温20度、照度5,000LUX、照明日周期12時間点灯:12時間消灯で、週に1〜2回培地を換えながら通気培養した。そして、幼芽が10 mmぐらいになったところで、その幼芽を組織片から切り離して養殖用種苗とした。なお、幼芽が10 mmぐらいになるまでに平均30 日程培養する必要があった。また、組織片は幼芽を切り離したあとも、そのまま通気培養を続けることによって、何度でも新たな幼芽が出芽することが目視により確認できた。そのため、幼芽を切り離すときには、元の組織片が少し残るように切り離すほうがよい。
また、温度や照度が幼芽の通気培養に与える影響についても調べた。具体的には、20個の幼芽を1つのグループとし、グループ毎に水温と照度を変えて(照明日周期は上記と同じ)70日ほど静置培養した。そして、培養の間に組織片1つあたりの幼芽の出芽数及び最初に生えた葉の長さについて10日ごとに測定し、グループ毎にこれらの単純平均値を計算した。その結果を図1に示す。なお、図1(a)は組織片1つあたりの幼芽の出芽数を示し、図1(b)は最初に生えた葉の長さを測定した結果を示している。
その結果、温度は幼芽の成長と同じく、適切な温度は15〜20℃であり、適切な照度は3,000LUXと5,000LUXの間であれば余り変わらないことも分った。
(4)流水培養
この養殖用種苗を直径5mmの合繊ロープ(クレモナロープ、クラレ製)のストランド(撚り)の間に、幼体(1〜2cm)の組織片側の部分がロープに触れるように挟み込み、屋外水槽で1ヶ月ほど砂濾過海水により流水培養した。その結果、流水培養の開始(仮沖出し)後1ヶ月程度で全ての養殖用種苗が成長し仮根が形成した。生長の結果を図2に示す。なお、仮沖出しは水温、照度、光周期は自然条件下で海水温が20℃以下となった平成15年10月07日に開始した。
この養殖用種苗を直径5mmの合繊ロープ(クレモナロープ、クラレ製)のストランド(撚り)の間に、幼体(1〜2cm)の組織片側の部分がロープに触れるように挟み込み、屋外水槽で1ヶ月ほど砂濾過海水により流水培養した。その結果、流水培養の開始(仮沖出し)後1ヶ月程度で全ての養殖用種苗が成長し仮根が形成した。生長の結果を図2に示す。なお、仮沖出しは水温、照度、光周期は自然条件下で海水温が20℃以下となった平成15年10月07日に開始した。
(5)本養殖
海上に浮かぶ筏に張られた合繊ロープ(トリコットロープ、テダック製)に、成長した養殖用種苗が挟み込まれた合繊ロープを巻きつけて海面下に垂直に垂らした(沖出し、平成16年1月7日)。1日に1回ロープを揺すって泥を落としながら栽培したところ、沖出し後約120日で平均藻長30cm、1本あたりの平均湿重量50gに生長した。その結果を流水培養の結果と同じ図2に示す。
海上に浮かぶ筏に張られた合繊ロープ(トリコットロープ、テダック製)に、成長した養殖用種苗が挟み込まれた合繊ロープを巻きつけて海面下に垂直に垂らした(沖出し、平成16年1月7日)。1日に1回ロープを揺すって泥を落としながら栽培したところ、沖出し後約120日で平均藻長30cm、1本あたりの平均湿重量50gに生長した。その結果を流水培養の結果と同じ図2に示す。
なお、ヒジキと同じホンダワラ類に属するアカモク、トゲモク、オオバモク、ノコギリモクから同様の方法で摘出した組織片を用いて、同様の方法により養殖を行ったところ、これらの全てが藻体への生長した。
ヒジキを含むホンダワラ類は、光合成により生長する際に窒素分やリンを栄養素として取り込むため、富栄養化した海域を浄化することもできる。そのため、本発明の養殖方法を利用することによって、赤潮、青潮、磯焼けなどの海洋環境破壊を防ぐこともできる。この場合、藻体を食品としては使用しないので、トゲモク、オオバモク、ノコギリモクなどのホンダワラ類であっても利用することができる。
Claims (6)
- ホンダワラ類の藻体を採取してその仮根部から組織片を摘出し、その組織片を静置培養して幼芽を出芽させ、幼芽が出芽した組織片を通気培養により培養して幼芽を生長させ、生長した幼芽を組織片から切り離して養殖用種苗とし、この養殖用種苗をロープなどの着生基材に着生させ、着生基材に着生した養殖用種苗を生長させるホンダワラ類の養殖方法。
- 静置培養に使用する培地が、ASP12-NTA改変培地、ASP12-NTA培地、PESI培地、PES培地、Grund改変培地、ASP12-NTA改変寒天培地、ASP12-NTA寒天培地、PESI寒天培地、PES寒天培地、Grund改変寒天培地の何れか1つから選択される請求項1記載のホンダワラ類の養殖方法。
- 静置培養に使用する培地が、ASP12-NTA改変培地又はASP12-NTA改変寒天培地である請求項1から2記載のホンダワラ類の養殖方法。
- 通気培養に使用する培地が、ASP12-NTA改変培地、ASP12-NTA培地、PESI培地、SWII 培地の何れか1つから選択される請求項1から3記載のホンダワラ類の養殖方法。
- 通気培養に使用する培地が、PESI培地である請求項1から4記載のホンダワラ類の養殖方法。
- 静置培養及び通気培養での照度が、3,000〜5,0001uxであり、かつ照明日周期が8〜12時間点灯:12〜16時間消灯である請求項1から5記載のホンダワラ類の養殖方法。
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