JP2006111950A - 鍛鋼品用溶鋼の真空脱水素処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明の目的は、鍛鋼品用溶鋼を取鍋中で真空脱水素処理する方法を提供することにある。
【解決手段】 鍛鋼品用溶鋼を取鍋で真空脱水素処理する方法であって、取鍋を蓋で覆うと共に、前記蓋に設けられたAr吹きつけ用ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離を800〜3000mmとし、該吹きつけ口からスラグ表面へArを流量15〜200Nm3/hrで吹きつけ、且つ、取鍋底部に設けられた底吹き羽口からArを流量1500〜12500NL/hrで吹き込む鍛鋼品用溶鋼の真空脱水素処理方法である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、溶鋼を取鍋で真空脱ガス処理する方法に関し、より具体的には、鍛鋼品用溶鋼を取鍋で真空脱ガス処理する方法に関するものである。
取鍋で真空脱ガス処理された溶鋼は、鋼塊に成形された後、圧延して鋼材とされるほか、鍛造して鍛鋼品に加工される。こうした鍛鋼品は、圧延鋼材では製造できないような型の製品をつくることができるため需要がある。
ところで溶製後の溶鋼は種々のガス成分を含んでいるため、取鍋で真空脱ガス処理されるのが一般的であり、種々の真空脱ガス処理方法が提案されている。しかし鋼材と鍛鋼品用溶鋼ではその成分組成や用途が異なるため、真空脱ガス処理の方法も違う。
例えば、鋼材の場合は、合金元素の含有量が相対的に少なく、しかも汎用品として用いられることから、取鍋での真空脱ガス処理を低コストで行う必要がある。これに対し、鍛鋼品の場合は、合金元素の含有量が相対的に多く、またコストを削減するよりも確実に真空脱ガス処理することが求められる。
取鍋に収容した溶鋼の脱水素方法として、特許文献1には上部に排気口を有する容器の開放下端を溶鋼内に浸漬し、該容器内の溶鋼表面に不活性ガスを吹き込みつつ、取鍋の底部に設置された底吹き羽口から不活性ガスを吹き込む方法が提案されている。この技術では、上部に排気口を有する容器を溶鋼内に浸漬しているため、この容器内のみを局所的に真空状態とすることができ、脱水素処理を低コストで行うことができる。そのため鋼材の製法として好適に採用できる。しかし容器外の溶鋼とスラグは外気と接触するため、外気に含まれる水素がスラグや溶鋼へ進入して充分に脱水素処理できず、鍛鋼品の製法としては不向きである。
特許文献2には、溶鋼の精錬方法として溶鋼表面に窒素を含有しないガスを吹き付けると共に、底吹き羽口から溶鋼中へガスを吹き込む技術が提案されている。そしてこの文献の図1には、溶鋼を入れた取鍋を真空槽に装入した状態で精錬することが示されている。この技術では、取鍋内全体を真空状態としているためコストがかかるものの、溶鋼を精度良く精錬でき、鍛鋼品の製法として好適に採用できる。しかしこの文献には、溶鋼から脱水素することについては考慮されていない。
即ち、溶鋼中には3〜5ppm程度の水素が含まれているが、夏場の大気の水蒸気分圧は高いため、溶鋼中にも更に1〜2ppm程度多い水素が含まれることとなる。水素濃度が高い溶鋼を連続鋳造で鋳込むと、水素起因のブレークアウトが発生する。しかも鍛鋼品に多量の水素が含まれていると欠陥の原因となり、また遅れ破壊を引き起こす原因にもなるため、近年では水素濃度が2.0ppm以下、更には1.5ppm以下の極低水素鍛鋼品が求められている。
ところが上記特許文献2に開示されている技術は、溶鋼から脱窒素することを目指して成されたものであり、こうした観点から溶鋼表面にガスを吹き付ける際の条件や、底吹き羽口から溶鋼中へガスを吹き込む際の条件が定められている。そのため実施例では底吹き羽口から多量のArガスを吹き込んでおり、溶鋼中にスラグを巻き込み、溶鋼から脱水素できない。
なお、従来では鋼塊を600℃程度で15〜20時間程度放置することにより脱水素してから鍛造して鍛鋼品を製造していたが、こうした方法では生産性が悪く、近年求められている極低水素レベルの鍛鋼品を製造するのは困難であった。
特開2000−96127号公報([特許請求の範囲]、[0024]参照) 特開平8−302419号公報([特許請求の範囲]参照)
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、鍛鋼品用溶鋼を取鍋中で真空脱水素処理する方法を提供することにある。
本発明者らは、鍛鋼品用溶鋼から確実に真空脱水素処理する技術について鋭意検討を重ねた。その結果、取鍋で真空脱水素処理する際に、Arガスを所定の位置から所定の流量で取鍋内のスラグ表面に吹きつけると共に、Arガスを所定の流量で取鍋底部に設けられた底吹き羽口から吹き込んでやれば、鍛鋼品用溶鋼から確実に真空脱水素処理でき、極低水素量の鍛鋼品を実現できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、上記課題を解決することのできた本発明に係る真空脱水素処理方法とは、鍛鋼品用溶鋼を取鍋で真空脱水素処理する方法であって、取鍋を蓋で覆うと共に、前記蓋に設けられたAr吹きつけ用ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離を800〜3000mmとし、該吹きつけ口からスラグ表面へArを流量15〜200Nm3/hrで吹きつけ、且つ、取鍋底部に設けられた底吹き羽口からArを流量1500〜12500NL/hrで吹き込むところに要旨を有する。
本発明の真空脱水素処理方法によれば、取鍋内のスラグ表面へArガスを吹きつける際の条件(即ち、吹きつけ位置と吹きつけ流量)を厳密に制御することにより、溶鋼を覆うスラグから確実に脱水素でき、このとき取鍋底部に設けられた底吹き羽口から所定量のArガスを吹き込むことによって溶鋼を攪拌してスラグとの接触率を高めることができるため、溶鋼からの脱水素を促進できる。その結果、取鍋中で溶鋼中の水素濃度を2.0ppm以下にまで低減できる。
本発明の真空脱水素処理方法は、スラグ表面へのArガス吹きつけと、底吹き羽口からのArガス吹き込みを組み合わせて行うところに特徴を有し、特にArガスの吹きつけ・吹き込み条件を厳密に制御することが重要である。
即ち、取鍋内のスラグ表面にArガスを吹きつけると、Arガス中の水素分圧とスラグ中の水素分圧と間には差があるため、スラグ中の水素は、水素分圧の低いArガス中へ移動する。そのためArガスをスラグ表面に吹きつけることで、溶鋼を覆うスラグからの脱水素が可能となる。
一方、底吹き羽口からArガスを吹き込むことにより、取鍋内の溶鋼はArガスで攪拌されるため、溶鋼とスラグの接触率が高まる。このときスラグ中の水素分圧は、上記Arガスの吹きつけにより溶鋼中の水素分圧よりも低くなっているため、溶鋼中に存在する水素は、水素分圧の低いスラグ中へ移動する。その結果、溶鋼からの脱水素が可能となる。
以上説明した通り、スラグ表面へのArガスの吹きつけと、底吹き羽口からのArガスの吹き込みを組み合わせることにより、溶鋼からの脱水素を促進できるが、本発明の真空脱水素処理方法では、こうした組合せに加えてArガスの吹きつけ・吹き込み条件を厳密に制御することが重要となる。
即ち、上記特許文献2には、溶鋼表面に吹きつけるガスの流量について記載されているが、ガスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離については明記されていない。特許文献2の技術は、溶鋼からの脱窒素を目的として成されたものであるからと思われる。
これに対し、本発明者らが鍛鋼品用溶鋼からの真空脱水素処理条件について種々実験を繰り返した結果、後述する実施例から明らかなように、取鍋を覆う蓋に設けられたAr吹きつけ用ランス(以下、単に「ランス」と称することがある)の吹きつけ口からスラグ表面までの距離を800〜3000mmとすることが重要であることが分かった。
吹きつけガスとしてArガスを用いるのは、Arは不活性ガスのなかでも重く、スラグ上方からの吹きつけに適しているからである。またArは比較的安価であるためコスト高とならない。Arガスとしては、スラグや溶鋼からの脱水素を促進するために、実質的に水素を含まないものを用いる。
そして吹きつけ口からスラグ表面までの距離が800mm未満では、吹きつけ口とスラグ表面が近接するため、ランスからArガスを供給しても溶鋼を覆っているスラグ全体にArガスを吹きつけることができず、一部のスラグからの脱水素が不充分となる。好ましくは1000mm以上、より好ましくは1200mm以上である。しかし吹きつけ口からスラグ表面までの距離が3000mmを超えると、距離が大きくなり、ランスからArガスを供給してもArガスがスラグ表面へ到達し難くなるため、脱水素効果が得られない。また、脱水素に要するArガス量が多くなるため経済的に無駄となる。好ましくは2500mm以下、より好ましくは2000mm以下である。
ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離とは、Arを吹き出していない状態でのランス吹きつけ口とスラグ上面との距離を指す。ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離は、取鍋上端からスラグ上面までの距離(フリーボード)と、取鍋上端からランス下端口までの距離を加算または減算して求める。
また、本発明の真空脱水素処理では、ランスからArガスを吹き込むときの流量を15〜200Nm3/hrに調整することが重要である。15Nm3/hr未満では、流量が少なすぎるためArガスを取鍋容器内へ吹き込んでも直ぐに容器外へ排気されてしまい、Arガスがスラグ表面に到達しない。そのためスラグから充分に脱水素できない。好ましくは70Nm3/hr以上、より好ましくは100Nm3/hr以上である。しかし200Nm3/hrを超えると、流量が多すぎるため容器内を真空状態に保つことができず、真空脱ガス処理とならない。そのためスラグから脱水素できない。また、流量が多すぎると、地金がArガスによって吹き飛ばされて取鍋壁面等に付着するため、地金ロスが発生し、生産性を劣化させる。好ましくは160Nm3/hr以下である。
なお、ランスからArガスを吹き込む際の流量を、スラグの表面積当たりに換算すると、スラグ1m2当たり2〜70Nm3程度である。スラグの表面積は、取鍋の内径とスラグ量から計算して求めることができる。
Arガスをスラグ表面に均一に吹きつけるには、吹きつけ位置をスラグ表面の中心相当位置とすることが好ましい。中心相当位置とは、溶鋼を覆っているスラグの重心を指し、一般的には取鍋の中心位置である。
ランスからスラグ表面にArガスを吹きつけるタイミングは、取鍋を蓋で覆い、取鍋容器内を真空状態にしてからArガスの吹きつけを開始する。一旦真空状態にしてスラグ表面に付着している水素を除去してからArガスの吹きつけを開始することにより、脱水素効率が良くなる。なお、真空状態とは3.9kPa(30Torr)程度以下を指す。
Arガスをスラグ表面に吹きつける時間は、スラグや溶鋼から脱水素できる範囲であれば特に限定されず、取鍋形状やスラグ量、溶鋼量等によって変わるため一律に規定できないが、溶鋼が25〜170トン程度であれば、一般的には8〜40分程度である。
なお、Ar吹きつけ用ランスを設けている蓋の大きさは、取鍋を覆うことができ、取鍋容器内全体を真空状態に維持できればよく、例えば上記特許文献1に示されているような上部に排気口を有する容器の開放下端を浸漬するタイプでは、取鍋を完全に覆うことができないため、脱水素率が低く、鍛鋼品用溶鋼の真空脱水素処理には向かない。溶鋼を覆うスラグの一部が外気と接触していると、この部分から水素がスラグ中へ侵入するため、溶鋼から充分に脱水素できないからである。
本発明の真空脱水素処理では、上述したように、所定の位置から所定量のArガスをスラグ表面に吹きつけると共に、取鍋底部に設けられた底吹き羽口からArを流量1500〜12500NL/hrで吹き込むことが重要である。
吹き込みガスとしてArガスを用いるのは、Arは不活性ガスであり、溶鋼中の各種合金元素と反応しないためである。またArは不活性ガスのなかでも比較的安価であり、コスト高とならない。Arガスとしては、スラグや溶鋼からの脱水素を促進するために、実質的に水素を含まないものを用いる。
そして吹き込み量が1500NL/hr未満では、流量が少なすぎるため溶鋼を充分に攪拌することができず、溶鋼とスラグの接触率を高めることができない。そのため溶鋼から充分に脱水素できない。好ましくは1800NL/hr以上、より好ましくは2000NL/hr以上である。しかし12500NL/hrを超えると、流量が多すぎるため溶鋼が攪拌されすぎてスラグを巻き込み、鍛鋼品の品質低下を招く。好ましくは9000NL/hr以下、より好ましくは8400NL/hr以下である。
なお、底吹き羽口からArを吹き込む際の流量を、溶鋼当たりに換算すると、溶鋼1トン当たり60〜100NL/hr程度である。
Arガスを吹き込む位置は特に限定されず、取鍋内の溶鋼を充分に攪拌できる位置からArを吹き込めばよい。取鍋内の溶鋼を充分に攪拌できる位置とは、例えば、中心と壁面との間(即ち、半径の1/2相当位置)付近である。取鍋の重心位置から吹き込むよりも、重心位置から若干外れたところから吹き込む方が溶鋼に対流が生じやすいからである。取鍋内の溶鋼を充分に攪拌できるのであれば、もちろん取鍋の重心位置からArガスを吹き込んでも構わない。なお、Arを吹き込む位置は1箇所であってもよいし、2箇所以上であってもよい。
取鍋底部からArガスを吹き込むタイミングについては特に限定されない。真空脱ガス処理前後に行うLFでの加熱保持中も通常Arガスを吹き込んでいるためである。
Arガスを溶鋼へ吹き込む時間は、スラグや溶鋼から脱水素できる範囲であれば特に限定されず、取鍋形状やスラグ量、溶鋼量等によって変わるため一律に規定できないが、溶鋼が25〜170トン程度であれば、一般的には8〜40時間程度である。
本発明の真空脱水素処理方法で処理対象とする溶鋼の水素濃度は特に限定されず、通常の溶鋼に含まれる程度の水素濃度(例えば、3〜5ppm程度)であってもよい。こうした水素濃度の溶鋼に対して本発明の真空脱水素処理方法を採用しても溶鋼から充分に脱水素できる。但し、夏場のように大気中の水蒸気分圧が高い状態における溶鋼には高濃度の水素(例えば、水素濃度:4〜6ppm程度)が含まれるが、常法ではこうした高水素含有溶鋼から高効率で脱水素するのは困難である。そこでこうした高水素含有溶鋼を真空脱水素処理する際に本発明の方法を採用することが推奨される。
上記溶鋼の成分組成は鍛鋼品として一般的に使用されるものであれば特に限定されない。例えば、質量%で、C:0.1〜0.5%やSi:0.1〜0.4%、Cr:0.1〜12%、Ni:0.1〜42%等を含むものである。鍛鋼品として要求される特性を高めるために、他の公知成分を含んでいても構わない。残部はFeおよび不可避不純物である。
本発明の真空脱水素処理方法で処理対象とする溶鋼の量は、取鍋底部からのArガス吹き込み流量を考慮すると、25〜170トン程度とするのが妥当である。溶鋼が25トン未満では、溶鋼量に対して取鍋の底部から供給されるArガスの吹き込み量が過多となり、溶鋼が攪拌されすぎて、スラグを巻き込む恐れがある。そのため溶鋼から充分に脱水素できなかったり、鍛鋼品の品質が劣化する。これに対し、溶鋼が170トンを超えると、溶鋼量に対して取鍋の底部から供給されるArガスの吹き込み量が不足するため、溶鋼が充分に攪拌されず、脱水素効率が悪くなる。
このとき取鍋の形状は、取鍋底部から吹き込むArガス量を考慮すると、溶鋼の深さが1000〜3000mm程度となるように設計することが好ましい。溶鋼が浅すぎると、取鍋底部からの吹き込み量によっては溶鋼が攪拌されすぎるからである。一方、溶鋼が深すぎると、取鍋底部からの吹き込み量によっては溶鋼が充分に攪拌されないからである。
上記方法を採用することにより、取鍋中で溶鋼中の水素濃度を2.0ppm以下(好ましくは1.5ppm以下)にまで低減できる。そのため鋼塊を常温で長時間放置して脱水素する必要がなく、水素濃度が2.0ppm以下、更には1.5ppm以下の鍛鋼品を簡便に製造できる。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実験例1
電気炉から40トンの鍛鋼品用溶鋼を取鍋へ出鋼し、精錬した後、取鍋を蓋で覆った。次いで、取鍋内を真空状態(65Pa程度)とし、上記蓋に設けられたAr吹きつけ用ランスからスラグ表面へArガスを吹きつけると共に、取鍋底部に設けられた底吹き羽口からArガスを吹き込んで真空脱水素処理を行った。なお、本実施例では実質的に水素を含まないArガスを用いた。
Ar吹きつけ用ランスは、上記蓋の中心相当位置に設けられており、該ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離を0〜3500mmとした。吹き込み口からスラグ表面へ吹きつける際のAr流量は20Nm3/hr、吹きつけ時間は25分である。一方、底吹き羽口は取鍋底面に設けられており、中心と壁面との間(即ち、半径の1/2相当位置)付近に1箇所設けている。底吹き羽口から溶鋼へ吹き込んだAr流量は3600NL/hr、吹き込み時間は25分である。
真空脱水素処理前後において、溶鋼の水素濃度(ppm)をヘレウスエレクトロナイト社製の直接迅速分析装置「ハイドリス(装置名)」を用いて測定した。その結果、処理前における溶鋼の水素濃度は4.0〜6.0ppmであった。測定結果から下記(1)式で脱水素率を算出し、Ar吹きつけ用ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離と脱水素率との関係を図1に示す。
脱水素率(%)=[処理後の水素濃度/処理前の水素濃度]×100 …(1)
図1から明らかなように、ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離を800〜3000mmとすれば、溶鋼の水素濃度が4.0〜6.0ppm程度であっても70%以上の脱水素率で充分に脱水素できることが分かる。その結果、処理後における溶鋼の水素濃度は2.0ppm以下となる。
実験例2
電気炉から110トンの鍛鋼品用溶鋼を取鍋へ出鋼し、精錬した後、取鍋を蓋で覆った。次いで、取鍋内を真空状態(90Pa程度)とし、上記蓋に設けられたAr吹きつけ用ランスからスラグ表面へArガスを吹きつけると共に、取鍋底部に設けられた底吹き羽口からArガスを吹き込んで真空脱水素処理を行った。なお、本実施例では実質的に水素を含まないArガスを用いた。
Ar吹きつけ用ランスは、上記蓋の中心相当位置に設けられており、該ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離を1800mmとした。このとき吹き込み口からスラグ表面へ吹きつけたAr流量を0〜250Nm3/hrとした。ランスからのArガス吹きつけ時間は30分である。一方、底吹き羽口は取鍋底面に設けられており、中心と壁面との間(即ち、半径の1/2相当位置)付近に1箇所設けている。底吹き羽口から溶鋼へ吹き込んだAr流量は7200NL/hr、吹き込み時間は30分である。
真空脱水素処理前後において、溶鋼の水素濃度(ppm)を上記実験例1と同様に測定した。その結果、処理前における溶鋼の水素濃度は4.0〜5.0ppmであった。測定結果から上記(1)式で脱水素率を算出した。
ランスの吹きつけ口からスラグ表面へ吹きつけたAr流量と脱水素率との関係を図2に■で示す。
また真空脱水素処理前後における地金付着によるロス率(%)を下記(2)式から算出した。ランスの吹きつけ口からスラグ表面へ吹きつけたAr流量と付着ロス率との関係を図2に◆で示す。
付着ロス率(%)=[全鋳込質量/(出鋼質量+合金質量)]×100 …(2)
図2から明らかなように、ランスの吹きつけ口からスラグ表面へ吹きつけるAr流量を大きくするほど脱水素量は増加する。しかし該Ar流量を大きくし過ぎると、地金がArガスによって吹き飛ばされ、地金の付着ロス率が増加する。そのため生産性が落ちる。
実験例3
電気炉から下記表1に示す量(トン)の鍛鋼品用溶鋼を取鍋へ出鋼し、昇温、成分粗調整した後、取鍋を蓋で覆った。次いで、取鍋内を真空状態(80Pa程度)とし、上記蓋に設けられたAr吹きつけ用ランスからスラグ表面へArガスを吹きつけると共に、取鍋底部に設けられた底吹き羽口からArガスを吹き込んで真空脱水素処理を行った。なお、本実施例では実質的に水素を含まないArガスを用いた。
Ar吹きつけ用ランスは、上記蓋の中心相当位置に設けられており、該ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離、吹き込み口からスラグ表面へ吹きつけたAr流量および吹きつけ時間を下記表1に併せて示す。
一方、底吹き羽口は取鍋底面に設けられており、中心と壁面との間(即ち、半径の1/2相当位置)付近に1箇所設けている。底吹き羽口から溶鋼へ吹き込んだAr流量および吹き込み時間を下記表1に併せて示す。
真空脱水素処理前後において、溶鋼の水素濃度(ppm)を上記実験例1と同様に測定した。測定結果を下記表1に併せて示す。
Figure 2006111950
表1から明らかなように、スラグ表面へArを吹きつける際のランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離と、このときのArの吹きつけ流量と、底吹き羽口から吹き込む際のAr流量とのバランスを適切に制御してやれば、取鍋において溶鋼中の水素濃度を2.0ppm以下にまで低減できる。なお、No.1は、通常の溶鋼を想定した例であり、この溶鋼の水素濃度は3ppmレベルである。一方、No.2は夏場の溶鋼を想定した例であり、この溶鋼の水素濃度は4ppmレベルである。本発明の真空脱水素処理方法を採用すれば、溶鋼の水素濃度が3ppmレベルであっても、4ppmレベルであっても充分に脱水素が可能であり、処理後の溶鋼の水素濃度を2.0ppm以下に低減できる。
Ar吹きつけ用ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離と脱水素率との関係を示すグラフである。 ランスの吹きつけ口からスラグ表面へ吹きつけたAr流量と、脱水素率または付着ロス率との関係を示すグラフである。

Claims (1)

  1. 鍛鋼品用溶鋼を取鍋で真空脱水素処理する方法であって、
    取鍋を蓋で覆うと共に、前記蓋に設けられたAr吹きつけ用ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離を800〜3000mmとし、該吹きつけ口からスラグ表面へArを流量15〜200Nm3/hrで吹きつけ、且つ、取鍋底部に設けられた底吹き羽口からArを流量1500〜12500NL/hrで吹き込むことを特徴とする鍛鋼品用溶鋼の真空脱水素処理方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN100596309C (zh) * 2008-06-18 2010-03-31 中国科学院金属研究所 一种10~30吨底漏钢包炉外精炼方法

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