ところで、車両が後戻りするか否かを判定するうえでは、車輪の回転方向を検出することが必要となる。一般に、上記した回転量検出手段は、ABS(Antilock Brake System)制御やVSC(Vehicle Stability Control System)制御等を行ううえで用いられるため、車輪ごとに設けられるものである。この点、車輪の回転方向を検知可能な高機能の回転量検出手段は現存するが、車輪の回転方向を検知できない回転量検出手段に比べて著しく高価であると共に、センササイズが大きいため、車輪ごとに設けられる回転量検出手段としてかかる高機能の回転量検出手段が用いられると、車両の製造コストが上昇し、また、センサ搭載性が悪化すると共に、車輪のバネ下重量が増加する等の不都合が生じてしまう。
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、車輪の回転方向を検知可能な高機能の車輪速センサを用いることなく車両の移動情報を正確に算出することが可能な自動操舵装置を提供することを目的とする。
上記の目的は、請求項1に記載する如く、車両の目標移動軌跡に従って車両の実際の移動量を含む移動情報に対応した舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータを自動的に制御する自動操舵手段を備える自動操舵装置であって、車輪の回転量を検出するための車輪速センサと、車両前後方向の加速度を検出するための加速度センサと、前記車輪速センサによる検出結果と前記加速度センサによる検出結果とに基づいて車両の実際の前記移動情報を算出する移動情報算出手段と、を備える自動操舵装置により達成される。
本発明において、車両の実際の移動量を含む移動情報は、車輪の回転量を検出するための車輪速センサによる検出結果と車両前後方向の加速度を検出するための加速度センサによる検出結果とに基づいて算出される。車両の移動量は、通常、車輪速センサを用いて検出される車輪の回転量と相関関係を有する。また、加速度センサによる車両前後方向の加速度の時間変化又はその積分値によれば、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ向けて移動するか或いはそれとは反対方向へ向けて移動するかを判定することができる。従って、車輪の回転方向を検知可能な高機能の車輪速センサを用いることなく車両の移動量と移動方向とを含む移動情報を正確に算出できる。
また、上記の目的は、請求項2に記載する如く、車両の目標移動軌跡に従って車両の実際の移動量を含む移動情報に対応した舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータを自動的に制御する自動操舵手段を備える自動操舵装置であって、車輪の回転量を検出するための車輪速センサと、車両周辺を撮影するカメラと、前記車輪速センサによる検出結果と前記カメラによる撮像画像とに基づいて車両の実際の前記移動情報を算出する移動情報算出手段と、を備える自動操舵装置により達成される。
本発明において、車両の実際の移動量を含む移動情報は、車輪の回転量を検出するための車輪速センサによる検出結果と車両周辺を撮影するカメラによる撮像画像とに基づいて算出される。車両の移動量は、通常、車輪速センサを用いて検出される車輪の回転量と相関関係を有する。また、カメラによる撮像画像の時間変化によれば、撮像画像内に映る静止物を基準にして、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ向けて移動するか或いはそれとは反対方向へ向けて移動するかを判定することができる。従って、車輪の回転方向を検知可能な高機能の車輪速センサを用いることなく車両の移動量と移動方向とを含む移動情報を正確に算出できる。
この場合、請求項3に記載する如く、請求項1又は2記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段により算出される前記移動情報が、前記目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りする後戻り状態にある場合に、前記自動操舵手段によるステアリングアクチュエータの自動制御を終了させる制御終了手段を備えることとすれば、車両の自動操舵が目標移動軌跡から逸脱して行われるのを防止することができる。
また、請求項4に記載する如く、請求項1又は2記載の自動操舵装置において、前記自動操舵手段は、前記移動情報算出手段により算出される前記移動情報が、前記目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りする後戻り状態にある場合に、以後、進行方向を逆にした前記目標移動軌跡に従って前記移動情報に対応した舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータを自動的に制御することとすれば、車両を目標移動軌跡に沿って後戻りさせることができる。
また、請求項5に記載する如く、請求項1又は2記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段により算出される前記移動情報が、車輪の空転する車輪空転状態にある場合に、前記自動操舵手段によるステアリングアクチュエータの自動制御を終了させる制御終了手段を備えることとすれば、車両の自動操舵が目標移動軌跡から逸脱して行われるのを防止することができる。
また、請求項6に記載する如く、請求項1又は2記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、前記移動情報算出手段により算出される前記移動情報が、車輪の空転する車輪空転状態にある場合に、車両の実際の移動量を更新せず保持することとすれば、車輪が空転状態に陥った場合にもその空転状態の解消後に車両の移動情報を正確に算出するので、再び車両を目標移動軌跡に沿って移動させることができる。
また、請求項7に記載する如く、請求項1又は2記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段により算出される前記移動情報が、車輪が路面に対して滑るスリップ状態にある場合に、前記自動操舵手段によるステアリングアクチュエータの自動制御を終了させる制御終了手段を備えることとすれば、車両の自動操舵が目標移動軌跡から逸脱して行われるのを防止することができる。
尚、請求項8に記載する如く、請求項1記載の自動操舵装置において、前記加速度センサは、車両乗員を保護するエアバッグを起動させるか否かを判定するのに用いられるセンサであることとすれば、ステアリングアクチュエータによる自動操舵を行ううえで専用の加速度センサを設ける必要はなく、既存の加速度センサを用いて自動操舵を実行することができる。
ところで、請求項9に記載する如く、請求項1記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、前記車輪速センサにより検出される車輪回転量が変化する状態で、前記加速度センサの出力が、車両が前記目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対の後戻り側へ加速するものである状態が所定時間継続したとき、車両の実際の前記移動情報が前記目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りする後戻り状態にあると判定することとしてもよい。
また、請求項10に記載する如く、請求項1記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、前記車輪速センサにより検出される車輪回転量が変化する状態で、前記加速度センサの出力の積分値が前記目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対の後戻り側の所定値に達したとき、車両の実際の移動情報が前記目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りする後戻り状態にあると判定することとしてもよい。
また、請求項11に記載する如く、請求項1記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、前記車輪速センサにより検出される車輪回転量が変化する状態で、前記加速度センサの出力が初期値近傍にある状態が所定時間継続したとき、車両の実際の前記移動情報が車輪の空転する車輪空転状態にあると判定することとしてもよい。
また、請求項12に記載する如く、請求項1記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、前記車輪速センサによる車輪回転量に基づく第1の移動量算出値と前記加速度センサの出力又は該出力の積分値に基づく第2の移動量算出値との偏差が所定値以上となったとき、車両の実際の前記移動情報が車輪が路面に対して滑るスリップ状態にあると判定することとしてもよい。
また、請求項13に記載する如く、請求項1記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、ステアリングアクチュエータの自動制御が開始されるときの前記加速度センサの出力を初期値として、車両の実際の前記移動情報を算出することとすればよい。
また、請求項14に記載する如く、請求項2記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、前記車輪速センサにより検出される車輪回転量が変化する状態で、前記カメラによる撮像画像に前記目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対の後戻り側へ移動する変化が生じたとき、車両の実際の前記移動情報が前記目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りする後戻り状態にあると判定することとしてもよい。
また、請求項15に記載する如く、請求項2記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、前記車輪速センサにより検出される車輪回転量が変化する状態で、前記カメラによる撮像画像に変化が生じないとき、車両の実際の前記移動情報が車輪の空転する車輪空転状態にあると判定することとしてもよい。
更に、請求項16に記載する如く、請求項2記載の自動操舵装置において、前記移動情報算出手段は、前記車輪速センサによる車輪回転量の変化に基づく第1の移動量算出値と前記カメラによる撮像画像の変化に基づく第2の移動量算出値との偏差が所定値以上となったとき、車両の実際の前記移動情報が車輪が路面に対して滑るスリップ状態にあると判定することとしてもよい。
本発明によれば、車輪の回転方向を検知可能な高機能の車輪速センサを用いることなく車両の移動量と移動方向とを含む移動情報を正確に算出することができる。
図1は、本発明の第1実施例である車両に搭載される自動操舵装置10のシステム構成図を示す。本実施例の自動操舵装置10は、車両運転者の希望する、車庫入れ駐車や縦列駐車等の車両駐車時に、車両を駐車すべき道路路面上の目標駐車位置までの目標移動軌跡に沿って車両が移動するように車両操舵を運転者の操作によらずに自動的に行う自動操舵制御を行う装置である。
本実施例において、車両は、運転者により操作されるステアリングホイール12と、一対の前輪FR,FL及び一対の後輪RR,RLと、を備えている。ステアリングホイール12には、該ステアリングホイール12と一体に回転するステアリングシャフト14が接続されている。ステアリングシャフト14の端部には、ピニオン16が形成されている。ピニオン16には、ラック18が噛合している。ラック18の両端には、タイロッド20が設けられている。タイロッド20には、ナックル22を介して前輪FR,FLが連結されている。
ステアリングシャフト14には、電動モータからなるステアリングアクチュエータ24がウォームギア26を介して機械的に接続されている。ステアリングアクチュエータ24は、後述の如く車庫入れ駐車や縦列駐車等の車両駐車時に、運転者によるステアリング操作を伴うことなく車両を操舵させるためのトルクを発生し、該トルクをステアリングシャフト14に付与する。
自動操舵装置10は、コンピュータを主体に構成された電子制御ユニット(以下、ECUと称す)30を備えている。ECU30には、上記したステアリングアクチュエータ24が電気的に接続されていると共に、ステアリングシャフト14に配設された舵角センサ32が接続されている。舵角センサ32は、ステアリングホイール12の操舵角に応じた信号を出力する。舵角センサ32の出力信号は、ECU30に供給されている。ECU30は、舵角センサ32の出力信号に基づいてステアリングホイール12の操舵角を検出し、転舵輪としての前輪FL,FRの転舵角を検出する。また、ECU30は、後述の如く設定される目標舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24に対して指令信号を供給する。
ECU30には、各車輪に配設された車輪速センサ34が接続されている。各車輪速センサ34は、例えば磁気抵抗素子を用いて構成されており、各々の車輪の回転速度に応じた周期でパルス状の信号を出力する。尚、車輪速センサ34は、車輪の左回転方向と右回転方向とを区別する回転方向検知機能を有しておらず、両方向の回転速度の絶対値が互いに同一であるときには同一の信号を出力する。各車輪速センサ34の出力信号は、ECU30に供給されている。ECU30は、各車輪速センサ34ごとにその出力信号に基づいて車輪の回転速度すなわち単位時間当たりの回転角を検出する。そして、それら車輪の回転角と外径との関係に基づいて車両の速度及び移動距離を検出する。尚、この車輪速センサ34は、車輪のロックを防止するためのABS制御や車両の旋回挙動を安定化させるためのVSC制御等に用いられるセンサであればよい。
ECU30には、また、加減速度センサ36が接続されている。加減速度センサ36は、半導体により構成された電子式の或いはバネと錘とにより構成された機械式のセンサであり、車両の前後方向に生ずる加減速度に応じた信号を出力する。加減速度センサ36の出力信号は、ECU30に供給されている。ECU30は、加減速度センサ36の出力信号に基づいて車両の前後方向に生ずる加減速度を検出する。尚、この加減速度センサ36は、車両に生ずる衝突の有無を判定して車両乗員を保護するエアバッグを起動させるか否かを判定するエアバッグ起動制御等に用いられるセンサであればよい。また、加減速度センサ36のセンサ出力値は、車両前方への加速度が大きいほど大きく、車両後方への加速度が大きいほど小さくなるものとする。
ECU30には、更に、車両運転者により操作されるモード選択スイッチ40及び自動操舵開始スイッチ42が接続されている。モード選択スイッチ40は、自動操舵制御を行うべきモードとして、車両後方への車庫入れ駐車を行う車庫入れ駐車モード、又は、車両斜め後方への縦列駐車を行う縦列駐車モードを選択するためのスイッチである。また、自動操舵開始スイッチ42は、自動操舵制御を開始するためのスイッチである。ECU30は、モード選択スイッチ40の状態に基づいて何れの駐車モードが選択されているか否かを判別すると共に、自動操舵開始スイッチ42の状態に基づいて自動操舵制御を開始すべきか否かを判別する。
以下、本実施例の自動操舵装置10の動作について説明する。
本実施例の自動操舵装置10において、車両が停止する状況で車両運転者によりモード選択スイッチ40が操作されることにより、自動操舵制御による駐車支援が要求されると、以後、車庫入れ駐車又は縦列駐車により車両を駐車すべき目標駐車位置の指定を車両運転者に操作要求する処理が実行される。そして、例えば車両と車両後方を撮影する搭載カメラとの関係に基づいた車両後方が撮影された撮像画像上での目標駐車スペース枠のカーソル操作により、目標駐車位置が指定されると、駐車開始位置からその目標駐車位置までの目標移動軌跡の計算が行われる。
図2は、車庫入れ駐車における目標駐車位置までの目標移動軌跡を説明するための図を示す。尚、図2(A)には左斜め後方への車庫入れ駐車が行われる際の目標移動軌跡を、また、図2(B)には左斜め後方への車庫入れ駐車が行われる際の車両の移動距離と舵角との関係を、それぞれ表した図を示す。車庫入れ駐車モードにおいて、目標移動軌跡の計算は、図2に示す如く、自車両の最小旋回半径および自車両の駐車開始位置と目標駐車位置との相対的な位置関係から定まる所定の幾何学的な位置条件が満たされる場合に、かかる相対的な位置関係から、経路として順にA.所定距離の直進後退区間、B.クロソイドによる舵角の切り増し区間、C.舵角固定による定常円旋回区間、D.クロソイドによる舵角の切り戻し区間、及びE.所定距離の直進後退区間の各区間が適切に形成されるように行われる。尚、経路初期の直進後退区間Aは、全く形成されなくてもよい。
また、図3は、縦列駐車における目標駐車位置までの目標移動軌跡を説明するための図を示す。尚、図3(A)には左斜め後方への縦列駐車が行われる際の目標移動軌跡を、また、図3(B)には左斜め後方への縦列駐車が行われる際の車両の移動距離と舵角との関係を、それぞれ表した図を示す。縦列駐車モードにおいて、目標移動軌跡の計算は、図3に示す如く、自車両の最小旋回半径および自車両の駐車開始位置と目標駐車位置との相対的な位置関係から定まる所定の幾何学的な位置条件が満たされる場合に、かかる相対的な位置関係から、経路として2円が接する状態が適切に形成されるように行われる。
目標駐車位置までの目標移動軌跡が計算により生成された状況で、車両運転者により自動操舵開始スイッチ42が操作されることによって自動操舵制御の開始が要求されると、車両を目標移動軌跡に沿って移動させるための自動操舵制御が開始される。具体的には、車両運転者がブレーキ操作を解除することによりクリープ現象等によって車両が後退し始めると、以後、駐車開始位置からの路面に対する車両の移動距離が計算され、この計算された移動距離に基づいて、目標駐車位置までの目標移動軌跡に対する車両の位置が計算される。そして、その目標移動軌跡に沿って車両を移動させるための目標舵角が算出され、その目標舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24が制御される。ステアリングアクチュエータ24は、ECU30の算出した目標舵角に基づいてその目標舵角を実現させるためのトルクをステアリングシャフト14に付与する。
かかる構成によれば、車庫入れ駐車時および縦列駐車時において、車両運転者の意思に基づいた目標駐車位置までの目標移動軌跡に沿って車両を自動操舵させる自動操舵制御を実行することができる。かかる自動操舵制御によれば、車両駐車時に運転者がステアリング操作を行うことは不要となる。このため、本実施例の自動操舵装置10によれば、車庫入れ駐車時および縦列駐車時において運転者のステアリング操作の負担を軽減することが可能となっている。
図4は、自動操舵制御の実行に起因する不都合を説明するための図を示す。ところで、上記の如く目標移動軌跡に従った自動操舵制御を実行するうえでは、車両の位置と舵角との関係が極めて重要である。そして、この車両の位置は、車両の移動距離と移動方向とから把握されるものである。一方で、目標移動軌跡に従った自動操舵制御による車庫入れ駐車又は縦列駐車が行われる過程で、路面が急な上り坂であるなどに起因して、車両がその目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りすることがある。かかる後戻りが生ずるにもかかわらず、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ適切に移動しているものとして車輪速センサ34に基づく車両の移動距離が累積され、その累積された移動距離に対応した目標舵角が設定されて、その目標舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24が自動制御されるものとすると、車両が目標移動軌跡から逸脱するように誘導されることとなってしまう。そこで、かかる不都合を回避するために、自動操舵制御の実行過程で車両が後戻りする場合にはステアリングアクチュエータ24による自動操舵を中止し、駐車支援を中止することが適切となる。
ここで、車両の後戻りの有無を判定するのに、車両の移動距離すなわち車輪の回転量と共に、車両の移動方向すなわち車輪の回転方向を検知することが可能な回転方向検知機能付きの車輪速センサを用いることが考えられる。かかる車輪速センサを用いることとすれば、駐車開始位置からの車両の移動距離と、その後に車両が目標移動軌跡に沿って進行方向へ移動するかその進行方向とは反対方向へ後戻りするかを示す移動方向と、の双方を検出することができるので、車両の目標移動軌跡に対する位置を正確に検出することができ、上記した後戻り時には自動操舵制御を中止させることが可能となる。
しかし、車輪の回転方向検知機能付きの車輪速センサは、車輪の回転方向を検知できない車輪速センサに比べて高価であるので、4輪に配設される車輪速センサとしては車両の製造コスト上妥当でない。また、車輪の回転方向検知機能付きの車輪速センサは、車輪の回転方向を検知できない車輪速センサに比べてセンササイズが大きいため、車輪への搭載性が悪く、また、車輪のバネ下重量が増加する等の不都合が生じてしまう。そこで、本実施例のシステムは、車両後戻りの有無を判定するうえで必要な車両の移動方向の検知を車輪の回転方向を検知可能な高機能の車輪速センサを用いることなく実現する点に第1の特徴を有している。
図5は、本実施例において車両の移動方向を検知する手法を説明するための図を示す。尚、図5には、車両が後戻りする際における加減速度センサ36のセンサ出力値Gの時間変化の一例が示されている。車両が、停車状態にある駐車開始位置から後方へ車庫入れ駐車又は縦列駐車される過程において、その移動方向が目標移動軌跡に沿った進行方向と一致するものであるときには、車両にその駐車開始位置におけるものを基準にして車両後方(順方向側)へ向けて正の加速度が比較的大きく作用する。一方、その移動方向が目標移動軌跡に沿った進行方向に対して逆向きであるときには、車両にその駐車開始位置におけるものを基準にして車両前方(後戻り側)へ向けて正の加速度が比較的大きく作用する。従って、停止状態にある駐車開始位置における車両に作用する加速度を基準にしてその後の加減速度を測定してその大小を比較することとすれば、車両の移動方向を検知することが可能となる。
本実施例において、自動操舵装置10は、上記の如く、車輪速センサ34を備えているが、この車輪速センサ34は車両の移動方向すなわち車輪の回転方向を区別する回転方向機能を有していない。一方、自動操舵装置10は、車両の前後方向に生ずる加減速度に応じた信号を出力する加減速度センサ36を備えている。
この自動操舵装置10においては、車両運転者により自動操舵開始スイッチ42が操作されて自動操舵制御が開始されると(図5において時刻t0)、以後、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)が検出され、次式(1)の左辺に示す如く各センサ出力値G(t)と自動操舵開始時点でのセンサ出力値G(t0)(=G0)との差分の自動操舵開始からの時間積分値が算出される。そして、算出された時間積分値について(1)式の条件が満たされるか否かが判別される。尚、(1)式に示すしきい値Thは、車両が目標移動軌跡の進行方向とは反対方向へ移動していると判断できる最小車速の大きさであり、本実施例において正値に設定されている。
上記の如く、加減速度センサ36のセンサ出力値は、車両前方(後戻り側)への加速度が大きいほど大きく、車両後方への加速度が大きいほど小さくなるものである。このため、自動操舵の過程で車両が実際に目標移動軌跡に沿った進行方向へ移動するときには、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)が自動操舵開始時点のものG0に比べて小さくなる傾向となり、また、自動操舵の過程で車両が実際に目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ移動するときには、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)が自動操舵開始時点のものG0に比べて大きくなる傾向となる。
従って、本実施例において、自動操舵制御の実行過程で車輪速センサ34により検出される車輪の回転量が変化して車両の移動距離が変化する状態で、上記算出された時間積分値について(1)式の条件が満たされないと判別される場合は、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ移動していると判断され、車両の移動方向すなわち車輪の回転方向が正規の状態にあると判定される。一方、車両の移動距離が変化する状態で、上記算出された時間積分値について(1)式の条件が満たされると判別される場合は、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ移動していると判断され、車両の移動方向すなわち車輪の回転方向が正規の状態とは逆の後戻り状態にあると判定される。
このように、本実施例の自動操舵装置10においては、車両の移動距離の検知が、各車輪に設けられた車輪速センサ34を用いて行われると共に、車両の移動方向の検知が、車両の前後方向の加減速度を検出するための加減速度センサ36を用いて行われる。従って、自動操舵制御を実行するのに重要な車両の移動距離と移動方向とを検出するうえで車輪の回転方向を検知可能な高機能の車輪速センサを用いる必要はなく、車両の移動方向の検知をかかる高機能の車輪速センサを用いることなく実現することが可能となっており、この点で、かかる高機能の車輪速センサを用いることなく車両の移動距離と移動方向とから把握される車両位置を正確に算出することが可能となっている。
尚、本実施例においては、車両の移動方向を検知するうえですなわち車両の後戻りの有無を判定するうえで、自動操舵制御が開始される駐車開始位置での加減速度センサ36のセンサ出力値G0が零点基準とされている。このため、加減速度センサ36に温度ドリフトが生ずる場合や路面勾配によってセンサ出力値の初期値が変動する場合等においても、かかるセンサ出力の変動が吸収された状態で車両の移動方向の検知が行われることとなるので、車両の移動方向を正確に検知することが可能となっている。
また、本実施例においては、車両の移動方向を検知するうえですなわち車両の後戻りの有無を判定するうえで、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)の時間積分が自動操舵制御の開始時点から行われる。自動操舵制御の開始時点において車両は停止状態にある。仮に自動操舵制御の開始後車両が動き出してからの時間積分に基づいて車両の移動方向が判定されるものとすると、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ適切に移動するにもかかわらず急ブレーキが行われた場合には車両が後戻りする場合と同様の方向へ加速が生ずるため、その移動方向を誤判定する可能性がある。これに対して、本実施例によれば、自動操舵開始時点を基準にして上記時間積分が行われるため、急ブレーキ等が行われても車両の移動方向を誤判定することはなく正確に検知することが可能となっている。
また、本実施例において、車両の移動方向を検知するために用いられる加減速度センサ36は、エアバッグ起動制御等に用いられるセンサである。エアバッグ起動制御には、車両の前後方向の加減速度を検出する加減速度センサを用いることが一般的であるので、このセンサ出力に基づいてステアリングアクチュエータ24による車両の自動操舵制御を行うこととすれば、自動操舵制御を行ううえで専用の加減速度センサを設ける必要はない。この点、本実施例によれば、既存の加減速度センサ36を用いて車両の自動操舵を実行することが可能となっている。
従って、本実施例によれば、高価な車輪の回転方向を検知可能な車輪速センサを用いておらず、また、既存の加減速度センサ36を用いているので、自動操舵制御を適切に実行する自動操舵装置10を構築するうえで製造コストの削減を図ることが可能となっている。また、センササイズの大きな車輪の回転方向を検知可能な車輪速センサを用いていないので、車輪速センサ34の車輪への搭載性を良好に確保することが可能となっている。
ところで、上記の如く目標移動軌跡に従った自動操舵制御を実行するうえでは車両の位置と舵角との関係が極めて重要であるが、目標移動軌跡に従った自動操舵制御による車庫入れ駐車又は縦列駐車が行われる過程で、車両は、後戻りする以外に、路面が凍結等により車輪の滑り易い状態になっているときには、車体自体は移動しない停止状態にあるにもかかわらず車輪が回転する車輪空転状態となったり、また、車輪が路面に対して滑るスリップ状態となることがある。このように車輪が空転又はスリップするにもかかわらず、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ適切に移動しているものとして車輪速センサ34に基づく車両の移動距離が累積され、その累積された移動距離に対応した目標舵角が設定されて、その目標舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24が自動制御されるものとすると、車両が目標移動軌跡から逸脱するように誘導されることとなってしまう。
そこで、かかる不都合を回避するために、自動操舵制御の実行過程で車輪の空転やスリップが生ずる場合にはステアリングアクチュエータ24による自動操舵を中止し、駐車支援を中止することが適切となる。本実施例のシステムは、自動操舵制御の実行過程で車輪の空転やスリップの発生有無を判定する点に第2の特徴を有している。
本実施例において、自動操舵装置10は、上記の如く、車輪速センサ34を備えていると共に、加減速度センサ36を備えている。この自動操舵装置10において、車両運転者により自動操舵開始スイッチ42が操作されて自動操舵制御が開始されると、以後、車輪速センサ34を用いて車輪の回転速度が検出されかつ加減速度センサ36を用いて車両の前後方向の加速度が検出される。
車両が車輪空転状態にあるときは、車輪の回転速度が検出されて車輪の回転変化が生じている状態で、加減速度センサ36のセンサ出力値が車両の停止する自動操舵開始時点のもの(初期値)とほとんど変わらない状態が継続するものとなる。また、車両がスリップ状態にあるときは、車輪の回転速度が検出されて車輪の回転変化が生じている状態で、その車輪の回転速度と半径とから求まる車両がスリップせずに移動するものとした際の移動距離が、加減速度センサ36を用いて検知可能な車両の実際の移動距離よりも大きくなり、両者の偏差が基準値(ほぼゼロ)を超えて大きく乖離するものとなる。
従って、本実施例において、自動操舵制御の実行過程で車輪速センサ34により検出される車輪の回転量が変化する状態で、加減速度センサ36のセンサ出力値が自動操舵開始時の初期値近傍にある状態が所定時間継続する場合は、車両が車輪空転状態にあると判定される。また、車輪速センサ34に基づく車輪の回転量が変化する状態で、その車輪速センサ34による車輪の回転量のみに基づいて車両が移動したと推定される移動距離と、加減速度センサ36による加減速度を積分処理することにより算出される車両の実際に移動した移動距離との偏差が所定値以上となる場合は、車両がスリップ状態にあると判定される。この点で、車輪速センサ34及び加減速度センサ36を用いて車両の車輪空転状態又はスリップ状態を正確に検知することが可能となっている。
図6は、本実施例の自動操舵装置10においてECU30が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図6に示すルーチンは、その処理が終了するごとに繰り返し起動されるルーチンである。図6に示すルーチンが起動されると、まずステップ100の処理が実行される。
ステップ100では、車両が停止する状況でモード選択スイッチ40がオン操作され、かつ、その後目標駐車位置までの目標移動軌跡が設定された状態で自動操舵開始スイッチ42がオン操作されることにより、自動操舵制御が開始されたか否かが判別される。その結果、何れかの条件が成立せずに自動操舵制御が開始されていないと判別される場合は、以後、何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、すべての条件が成立して自動操舵制御が開始されたと判別される場合は、通常どおり車輪速センサ34を用いて算出される車両の移動距離に基づいた車両舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24による自動操舵制御が実行され、次にステップ102の処理が実行される。
ステップ102では、自動操舵制御が開始された後その実行過程において、加減速度センサ36の出力信号に基づいて上記した手法に従って、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りするか否かが判別される。その結果、車両が後戻りすると判別される場合は、次にステップ108の処理が実行される。一方、車両が後戻りしないと判別される場合は、次にステップ104の処理が実行される。
ステップ104では、車輪速センサ34の出力信号及び加減速度センサ36の出力信号に基づいて上記した手法に従って、車両が車輪空転状態にあるか否かが判別される。その結果、車両が車輪空転状態にあると判別される場合は、次にステップ108の処理が実行される。一方、車両が車輪空転状態にないと判別される場合は、次にステップ106の処理が実行される。
ステップ106では、車輪速センサ34の出力信号及び加減速度センサ36の出力信号に基づいて上記した手法に従って、車両が車輪の滑るスリップ状態にあるか否かが判別される。その結果、車輪がスリップ状態にあると判別される場合は、次にステップ108の処理が実行される。一方、車両がスリップ状態にないと判別される場合は、ステップ108の処理が実行されることなく今回のルーチンは終了される。
そして、ステップ108では、上記したステアリングアクチュエータによる自動操舵制御を中止する処理が実行される。本ステップ108の処理が実行されると、以後、車両の移動に伴って自動的に車輪が転舵される処理は行われなくなり、自動操舵による駐車支援は中止される。本ステップ108の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
上記図6に示すルーチンによれば、自動操舵制御が開始された後その実行過程で、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ移動する場合には、そのまま自動操舵制御を継続することができる一方、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りする場合、車両が車体は移動しないにもかかわらず車輪が回転する車輪空転状態にある場合、又は、車両が路面に対して車輪が滑るスリップ状態にある場合には、その自動操舵制御を中止することができる。
このため、本実施例の自動操舵装置10によれば、車庫入れ駐車又は縦列駐車の過程で車両が後戻りする際、車輪空転する際、及びスリップする際の何れの場合にも、車両の自動操舵が目標移動軌跡から逸脱して行われるのを防止することが可能となっており、これにより、ステアリングアクチュエータ24による自動操舵制御の実行を適切に行うことが可能となっている。
尚、上記の第1実施例においては、車輪速センサ34が特許請求の範囲に記載した「車輪速センサ」に、加減速度センサ36が特許請求の範囲に記載した「加速度センサ」に、それぞれ相当していると共に、ECU30が、目標移動軌跡に従って車両の駐車開始位置からの移動距離に対応した目標舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24を自動制御することにより特許請求の範囲に記載した「自動操舵手段」が、車輪速センサ34の出力信号に基づいて車輪の回転速度を検出して車両の移動距離を検出しかつ加減速度センサ36の出力信号に基づいて車両の移動方向及び移動距離を検出して、車両の後戻り、車輪空転、又はスリップの有無を判定することにより特許請求の範囲に記載した「移動情報算出手段」が、図6に示すルーチン中ステップ108の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「制御終了手段」が、それぞれ実現されている。
ところで、上記の第1実施例においては、自動操舵制御の実行過程での車両の移動方向の検知すなわち後戻りの判定を、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)の時間積分値がしきい値Thに達するか否かに基づいて行うこととしているが、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)が自動操舵制御の開始時点のものを基準として後戻り側へ加速するものであってかつその状態が所定時間継続するか否かに基づいて行うこととしてもよい。上記の如く、自動操舵の過程で車両が実際に目標移動軌跡に沿った進行方向へ移動するときには、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)が自動操舵開始時点のものG0に比べて小さくなる傾向となり、また、自動操舵の過程で車両が実際に目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ移動するときには、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)が自動操舵開始時点のものG0に比べて大きくなる傾向となる。従って、加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)が後戻り側へ加速する状態が所定時間継続するか否かによっても、車両が後戻り側へ移動するか否かを判定することが可能となる。
また、上記の第1実施例においては、自動操舵制御の実行過程での車両の移動方向の検知すなわち後戻りの判定を、自動操舵制御の開始からの加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)の時間積分値がしきい値Thに達するか否かに基づいて行うこととしているが、自動操舵制御開始後、所定時間が経過した際における加減速度センサ36のセンサ出力値G(t)の時間積分値が自動操舵開始時点のものG0を基準にして正であるか否かに基づいて行うこととしてもよい。
上記した第1実施例では、加減速度センサ36を用いて自動操舵制御の実行過程での車両の後戻り、車輪空転、及びスリップの発生有無を判定することとしている。これに対して、本発明の第2実施例においては、車両に搭載した車両周辺を撮影するカメラを用いて自動操舵制御の実行過程での車両の後戻り、車輪空転、及びスリップの発生有無を判定することとしている。以下、本実施例の特徴部について詳細に説明する。
図8は、本実施例の自動操舵装置100のシステム構成図を示す。尚、図8において、上記図1に示す構成部分と同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。本実施例の自動操舵装置100も、車両運転者の希望する、車庫入れ駐車や縦列駐車等の車両駐車時に、車両を駐車すべき道路路面上の目標駐車位置までの目標移動軌跡に沿って車両が移動するように車両操舵を運転者の操作によらずに自動的に行う自動操舵制御を行う装置である。
本実施例において、自動操舵装置100は、コンピュータを主体に構成されたECU102を備えている。ECU102には、上記したステアリングアクチュエータ24、舵角センサ32、及び車輪ごとの車輪速センサ34が電気的に接続されている。ECU102は、舵角センサ32の出力信号に基づいてステアリングホイール12の操舵角及び転舵輪としての前輪FL,FRの転舵角を検出し、各車輪速センサ34ごとにその出力信号に基づいて車輪の回転速度並びに車両の速度及び移動距離を検出すると共に、後述の如く設定される目標舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24に対して指令信号を供給する。また、ECU102には、上記したモード選択スイッチ40及び自動操舵開始スイッチ42が接続されている。
ECU102には、また、車両の例えば車体後部中央又は車体前部中央に配設されたカメラ104が電気的に接続されている。カメラ104は、車両後方又は車両前方に所定角範囲で広がる道路路面を含む領域を撮影するカメラである。カメラ104の撮影した車両周辺の画像の情報は、ECU102に供給される。尚、カメラ104は、車両後方の画像を各種の補助線を引いてモニタを介して車両運転者に提示するいわゆるバックガイドに用いられるカメラであってもよく、また、車両前方の障害物を検出するために用いられるカメラであってもよい。
以下、本実施例の自動操舵装置100の動作について説明する。
本実施例の自動操舵装置100においても、車両が停止する状況で車両運転者によりモード選択スイッチ40が操作されることにより、自動操舵制御による駐車支援が要求されると、以後、車庫入れ駐車又は縦列駐車により車両を駐車すべき目標駐車位置の指定を車両運転者に操作要求する処理が実行され、かかる指定が行われると、図2及び図3に示す如き駐車開始位置からその目標駐車位置までの目標移動軌跡の計算が行われる。かかる状況で、車両運転者により自動操舵開始スイッチ42が操作されることによって自動操舵制御の開始が要求されると、車両を目標移動軌跡に沿って移動させるための自動操舵制御が開始される。
具体的には、車両運転者がブレーキ操作を解除することによりクリープ現象等によって車両が後退し始めると、以後、駐車開始位置からの路面に対する車両の移動距離が計算され、この計算された移動距離に基づいて、目標駐車位置までの目標移動軌跡に対する車両の位置が計算される。そして、その目標移動軌跡に沿って車両を移動させるための目標舵角が算出され、その目標舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24が制御される。
かかる構成によれば、車庫入れ駐車時および縦列駐車時において、車両運転者の意思に基づいた目標駐車位置までの目標移動軌跡に沿って車両を自動操舵させる自動操舵制御を実行することができる。かかる自動操舵制御によれば、車両駐車時に運転者がステアリング操作を行うことは不要である。このため、本実施例の自動操舵装置100においても、車庫入れ駐車時および縦列駐車時において運転者のステアリング操作の負担を軽減することが可能となっている。
ところで、車両が、停車状態にある駐車開始位置から後方へ車庫入れ駐車又は縦列駐車される過程において、車両の移動方向が目標移動軌跡に沿った進行方向と一致するものであるときには、例えばその移動方向の路面上にある静止物(例えば路面に描かれた白線等)に対して車両が接近する状態になり、カメラ104の撮像画像がかかる進行方向へ移動するものとなる。一方、車両の移動方向が目標移動軌跡に沿った進行方向に対して逆向きであるときには、例えばその移動方向の路面上にある静止物に対して車両が遠ざかる状態になり、カメラ104の撮像画像がかかる後戻り方向へ移動するものとなる。従って、自動操舵制御の実行中におけるカメラ104の撮像画像の移動方向を検出することとすれば、車両の移動方向を検知することが可能となる。
本実施例において、自動操舵装置100は、車両の移動方向すなわち車輪の回転方向を区別する回転方向機能を有しない車輪速センサ34を備えていると共に、車両周辺を撮影するカメラ104を備えている。この自動操舵装置100においては、車両運転者により自動操舵開始スイッチ42が操作されて自動操舵制御が開始されると、以後、所定時間ごとに撮影されるカメラ104の複数の撮像画像が解析され、その画像に映る路面上の白線などの静止物の画像上での移動量が算出される。そして、その静止物の画像上での位置及び移動量に基づいて、車両の移動方向具体的には車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ移動するかその進行方向とは反対方向へ後戻りするか否かが判別される。
自動操舵制御の実行過程で車輪速センサ34により検出される車輪の回転量が変化して車両の移動距離が変化する状態で、カメラ104の撮像画像に目標移動軌跡に沿った進行方向へ移動する変化が生じたときは、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向へ移動していると判断され、車両の移動方向すなわち車輪の回転方向が正規の状態にあると判定される。一方、車両の移動距離が変化する状態で、カメラ104の撮像画像に目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対の後戻り側へ移動する変化が生じたときは、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ移動していると判断され、車両の移動方向すなわち車輪の回転方向が正規の状態とは逆の後戻り状態にあると判定される。
このように、本実施例の自動操舵装置100においては、車両の移動距離の検知が、各車輪に設けられた車輪速センサ34を用いて行われると共に、車両の移動方向の検知が、車両周辺を撮影するカメラ104を用いて行われる。従って、本実施例においても、自動操舵制御を実行するのに重要な車両の移動距離と移動方向とを検出するうえで車輪の回転方向を検知可能な高機能の車輪速センサを用いる必要はなく、車両の移動方向の検知をかかる高機能の車輪速センサを用いることなく実現することが可能となっており、この点で、かかる高機能の車輪速センサを用いることなく車両の移動距離と移動方向とから把握される車両位置を正確に算出することが可能となっている。
この点、本実施例によれば、高価な車輪の回転方向を検知可能な車輪速センサを用いていないので、自動操舵制御を適切に実行する自動操舵装置100を構築するうえで製造コストの削減を図ることが可能となっており、また、センササイズの大きな車輪の回転方向を検知可能な車輪速センサを用いていないので、車輪速センサ34の車輪への搭載性を良好に確保することが可能となっている。
また、車両が車輪空転状態にあるときは、車輪の回転速度が検出されて車輪の回転変化が生じている状態で、カメラ104の撮像画像がほとんど変化しない状態が継続するものとなる。また、車両がスリップ状態にあるときは、車輪の回転速度が検出されて車輪の回転変化が生じている状態で、その車輪の回転速度と半径とから求まる車両がスリップせずに移動するものとした際の移動距離が、カメラ104の撮像画像を用いて検知可能な車両の実際の移動距離よりも大きくなり、両者の偏差が基準値(ほぼゼロ)を超えて大きく乖離するものとなる。
従って、本実施例において、自動操舵制御の実行過程で車輪速センサ34により検出される車輪の回転量が変化する状態で、カメラ104の撮像画像に変化が生ずるときは、車両が停止していると判断されることはなく、車輪が空転していると判定されることはないが、カメラ104の撮像画像にほとんど変化が生じないときは、車両が停止して車輪が空転していると判定される。また、車輪速センサ34に基づく車輪の回転量が変化する状態で、その車輪速センサ34による車輪の回転量のみに基づいて車両が移動したと推定される移動距離と、カメラ104の撮像画像中での静止物の移動量及び位置から算出される車両の実際に移動した移動距離との偏差が所定値以上となるときは、車両がスリップ状態にあると判定される。この点で、車輪速センサ34及びカメラ104を用いて車両の車輪空転状態又はスリップ状態を正確に検知することが可能となっている。
更に、本実施例において、自動操舵制御が開始された後その実行過程で、車両が目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りする場合、車両が車体は移動しないにもかかわらず車輪が回転する車輪空転状態にある場合、又は、車両が路面に対して車輪が滑るスリップ状態にある場合には、その自動操舵制御が中止される。このため、本実施例の自動操舵装置100によれば、上記した第1実施例の自動操舵装置10と同様に、車庫入れ駐車又は縦列駐車の過程で車両が後戻りする際、車輪空転する際、及びスリップする際の何れの場合にも、車両の自動操舵が目標移動軌跡から逸脱して行われるのを防止することが可能となっており、これにより、ステアリングアクチュエータ24による自動操舵制御の実行を適切に行うことが可能となっている。
尚、上記の第2実施例においては、ECU30が、車輪速センサ34の出力信号に基づいて車輪の回転速度を検出して車両の移動距離を検出しかつカメラ104の撮像画像に基づいて車両の移動方向及び移動距離を検出して、車両の後戻り、車輪空転、又はスリップの有無を判定することにより特許請求の範囲に記載した「移動情報算出手段」が実現されている。
ところで、上記の第1及び第2実施例においては、自動操舵制御の過程で車両が目標移動軌跡に沿った進行方向とは反対方向へ後戻りする状態になると、以後その目標移動軌跡に従った自動操舵制御の実行を中止することとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車両の後戻りが開始された以後、図7に示す如く車両が目標移動軌跡に沿って逆方向再生により移動するように、すなわち、進行方向を逆にした目標移動軌跡に従って駐車開始位置からの移動距離に対応した目標舵角が実現されるようにステアリングアクチュエータ24による自動操舵を継続することとしてもよい。かかる構成によれば、自動操舵制御の実行途中で車両が後戻りする際には、往路と同じ目標移動軌跡を辿ることができ、元の駐車開始位置に戻ることができるので、運転者にとって便宜である。
また、上記の第1及び第2実施例においては、自動操舵制御の過程で車両が車輪の空転する車輪空転状態になると、以後その目標移動軌跡に従った自動操舵制御の実行を中止することとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車輪の空転が生じている間は車両の移動距離を更新せずに保持することによってステアリングアクチュエータ24による自動操舵を継続することとしてもよい。かかる構成によれば、一旦生じた車輪空転が解消した後においても車両の駐車開始位置からの移動距離を正確に算出することができるので、再び車両を目標移動軌跡に沿って移動させることが可能となり、自動操舵制御を適切に実行することが可能となる。