JP2006083988A - ボールねじ - Google Patents
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Abstract
【課題】高荷重下で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合でも長寿命なボールねじを提供する。
【解決手段】ねじ軸1およびナット2を所定の鋼で形成する。ねじ軸1およびナット2のねじ溝11,21の表層部とボール3の表層部の残留オーステナイト量を、20体積%以上40体積%以下にする。ねじ軸およびナットの表層部の硬さ(H1)の、ボールの表層部の硬さ(H2)に対する比を、ビッカース硬さ(Hv)で0.95以上0.99以下とする。
【選択図】 図2
【解決手段】ねじ軸1およびナット2を所定の鋼で形成する。ねじ軸1およびナット2のねじ溝11,21の表層部とボール3の表層部の残留オーステナイト量を、20体積%以上40体積%以下にする。ねじ軸およびナットの表層部の硬さ(H1)の、ボールの表層部の硬さ(H2)に対する比を、ビッカース硬さ(Hv)で0.95以上0.99以下とする。
【選択図】 図2
Description
この発明はボールねじに関する。
例えば、電動射出成形機やメカニカルプレス装置用のボールねじは、比較的大型で高荷重を受ける。そのため、従来より、ねじ軸とナットは、SCM420HやSCM415H等の浸炭鋼を所定形状に加工した後、870〜900℃で浸炭を行い、次いで、焼入れと焼戻しを施して、ねじ軸の外周面およびナットの内周面の表層部の硬さをビッカース硬さ(Hv)で700程度にしている。また、ボールとしては、高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)製で表層部の表面硬さがビッカース硬さ(Hv)で750程度のものを用いている。しかしながら、使用条件が過酷になるにつれて、上記従来例のボールねじでは耐摩耗性が不十分となっている。
下記の特許文献1には、特に耐摩耗性が要求される用途に好適な転がり軸受およびボールねじ装置についての記載がある。ここでは、転がり軸受またはボールねじ装置の転動部材の少なくとも一つを、重量%(質量%)で、C;0.1〜0.7%、Si;0.1〜1.5%、Mn;0.1〜1.5%、Cr;0.5〜3.0%、V;0.6〜2.0%、Mo;3.0%以下、Ni;2.0%以下で含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる合金鋼で形成し、これに920℃以上の温度で浸炭窒化を施して完成品表面の炭素濃度を0.7〜1.3重量%、窒素濃度を0.15〜0.3重量%とすることにより、その表面に粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、および炭窒化物を少なくとも400個/100μm2 析出させている。
下記の特許文献2には、電動射出成形機やメカニカルプレス装置用のボールねじのように、瞬間的な高荷重が加わり、短ストロークで使用されるボールねじでも、ボール表面の損傷を防止して、十分な耐久寿命を確保できるようにするための技術が記載されている。ここでは、少なくともボールを、重量比(質量比)にして、C:0.8〜1.5%、Si:0.4〜1.2%、Mn:0.8〜1.5%およびCr:0.8〜1.8%を含有する鋼を素材とし、この素材を浸炭窒化処理した後、焼入れ、焼戻し処理し、表層部の残留オーステナイト量を20〜40体積%としている。
従来のボールねじの一例を図6(斜視図)および7(断面図)に示す。このボールねじは、ボールの戻し路としてチューブを用いるチューブ式ボールねじであり、ねじ軸1とナット2とボール3とチューブ4とで構成されている。図6の符号6はチューブ4をナット2に固定するチューブ押えであり、図7ではこのチューブ押え6が省略されている。
ねじ軸1の外周面とナット2の内周面には、螺旋状の溝(ねじ溝)11,21が形成されており、これらのねじ溝11,21でボール3の軌道が形成されている。そして、ボール3がこの軌道を負荷状態で転動することにより、ナット2はねじ軸1に対して相対的に直線移動する。
ねじ軸1の外周面とナット2の内周面には、螺旋状の溝(ねじ溝)11,21が形成されており、これらのねじ溝11,21でボール3の軌道が形成されている。そして、ボール3がこの軌道を負荷状態で転動することにより、ナット2はねじ軸1に対して相対的に直線移動する。
チューブ4は略門形に形成され、その両端部が、ナット2をなす円筒に設けた貫通穴22内に挿入され、軌道の始点と終点を連結するように、ねじ軸1を挟んで斜向かいに配置されている。したがって、軌道の終点に達したボール3はこのチューブ4を通って軌道の始点に戻される。この例では、ボール循環経路(軌道+戻し路)を2つ有するため、チューブ4を2本備えている。
図8は、このボールねじの部分断面図であって、軌道と戻し路との境界部分およびその周辺部を示す。この図に示すように、ナット2には、外周面からねじ溝21に向けて貫通穴22が形成されており、この貫通穴22内にチューブ4の端部が配置されている。
この貫通穴22は、チューブ4の端面を受ける段差部22aを有する。これにより、チューブ4の端部を貫通穴22に取り付けたときに、貫通穴22の段差部22aよりねじ溝21側の面(溝側の面)22bが、チューブ4の内面41と一致するようにしてある。この溝側の面22bが、戻し路の端部がナット2のねじ溝21から立ち上がる立ち上がり面に相当する。
この貫通穴22は、チューブ4の端面を受ける段差部22aを有する。これにより、チューブ4の端部を貫通穴22に取り付けたときに、貫通穴22の段差部22aよりねじ溝21側の面(溝側の面)22bが、チューブ4の内面41と一致するようにしてある。この溝側の面22bが、戻し路の端部がナット2のねじ溝21から立ち上がる立ち上がり面に相当する。
また、チューブ4の端部には、取り付け状態で貫通穴22の溝側の面22bに対向配置されるタング42が形成されている。このタング42が、ねじ軸のねじ溝11の底面付近まで延び、ねじ溝11,21からなる軌道30の端部をなす止め部となっている。
したがって、軌道30の終点付近に至ったボール3はタング42の先端に当たって掬い上げられ、貫通穴22の溝側の面(立ち上がり面)22bとタング42との間を通ってチューブ4内に導かれる。また、チューブ4内を移動したボール3は、貫通穴22の溝側の面22bとタング42との間を通って軌道30内に導かれる。
したがって、軌道30の終点付近に至ったボール3はタング42の先端に当たって掬い上げられ、貫通穴22の溝側の面(立ち上がり面)22bとタング42との間を通ってチューブ4内に導かれる。また、チューブ4内を移動したボール3は、貫通穴22の溝側の面22bとタング42との間を通って軌道30内に導かれる。
このチューブ式ボールねじには、戻し路の立ち上がり面22bとナット2のねじ溝21との境界部25が、ボール3のスムーズな移動を妨げるという問題点がある。すなわち、この境界部25にボール3が衝突してボールに損傷が生じたり、無負荷圏であるチューブ4内から負荷圏である軌道内に連続的にボール3が入ることで境界部25に応力が集中する恐れがある。この問題点を解決するために、下記の特許文献3には、角張っている境界部25を削り取って滑らかな形状(例えば符号27で示す面形状)に加工することが提案されている。
下記の特許文献4には、ボールねじの各ボール間に、ボールの半径より曲率半径の大きい凹球面に形成された円盤形状のセパレータを配置することが記載されている。
特開2000−212721号公報
特開2000−346163号公報
特開2001−141019号公報
特開平11−315835号公報
しかしながら、上記各特許文献に記載された技術を単に組み合わせただけでは、高荷重で使用されるボールねじの寿命を十分に向上させることができない。
すなわち、高荷重で使用されるボールねじでは、機台にボールねじを取り付ける際に、取り付け誤差が大きかったり機台の変形が生じたりすると、こじり(ねじ軸とナットとの間に生じる相対的な傾き)が発生する恐れがある。そして、ボールねじに「こじり」モーメントが加わると、ナット内に常に、ボールとの接触面圧の高い箇所が存在することになるため、寿命の低下を招く。
本発明の課題は、高荷重下で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合でも長寿命なボールねじを提供することにある。
すなわち、高荷重で使用されるボールねじでは、機台にボールねじを取り付ける際に、取り付け誤差が大きかったり機台の変形が生じたりすると、こじり(ねじ軸とナットとの間に生じる相対的な傾き)が発生する恐れがある。そして、ボールねじに「こじり」モーメントが加わると、ナット内に常に、ボールとの接触面圧の高い箇所が存在することになるため、寿命の低下を招く。
本発明の課題は、高荷重下で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合でも長寿命なボールねじを提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明は、外周面に螺旋状の溝(ねじ溝)が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状の溝(ねじ溝)が形成されたナットと、ねじ軸の溝とナットの溝が互いに対向して形成される軌道と、この軌道の終点と始点を連結する戻し路と、この戻し路内および前記軌道内に配置された複数のボールと、を備えたボールねじにおいて、下記の構成(1) 〜(4) を満たすことを特徴とするボールねじを提供する。
(1) ねじ軸およびナットは、「JIS G4052」で規定する鋼材SCM415HまたはSCM420Hを所定形状に形成した後、浸炭を行い、次いで、焼入れと焼戻しを施して、ねじ軸の外周面およびナットの内周面の各表層部(表面から1.0mm〜2.5mmの深さまでの部分であり、軸径によって異なる。)の炭素含有率を0.95質量%以上1.3質量%以下とすることにより得られ、前記各表層部に粒径0.1μm以下の炭化物を面積率で「400個/100μm2 」以上含有する。
(2) ねじ軸の外周面およびナットの内周面の各表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下である。
(3) ボールの表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下である。
(4) ねじ軸およびナットの表層部の硬さ(H1)の、ボールの表層部の硬さ(H2)に対する比(H1/H2)が、ビッカース硬さ(Hv)で0.95以上0.99以下である。
(2) ねじ軸の外周面およびナットの内周面の各表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下である。
(3) ボールの表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下である。
(4) ねじ軸およびナットの表層部の硬さ(H1)の、ボールの表層部の硬さ(H2)に対する比(H1/H2)が、ビッカース硬さ(Hv)で0.95以上0.99以下である。
ここで、ねじ軸の外周面およびナットの内周面の表層部と、ボールの表層部の残留オーステナイト量が20体積%未満であると、ねじ軸およびナットのねじ溝面およびボール表面の靱性が不足する。また、前記各表層部の残留オーステナイト量が40体積%を超えると、ねじ溝面およびボール表面の硬さが不足する。
本発明のボールねじによれば、ねじ軸およびナットが前記構成(1) を満たすことによりねじ溝の耐摩耗性が良好になり、ねじ軸およびナットが前記構成(2) を満たすことによりねじ溝面に適度な靱性が付与される。また、ボールが前記構成(3) を満たすことによりボール表面に適度な靱性が付与される。また、前記構成(4) により、ねじ軸およびナットとボールとの表層部の硬さの関係が良好になる。よって、高荷重下で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合の寿命が長くなる。
本発明のボールねじは、隣接するボール間に、ボールを受ける凹面を有するセパレータが配置されていることが好ましい。これにより、ボール同士の競り合いが生じなくなるため、これに起因する作動性および耐久性の低下が回避できる。
本発明のボールねじは、隣接するボール間に、ボールを受ける凹面を有するセパレータが配置されていることが好ましい。これにより、ボール同士の競り合いが生じなくなるため、これに起因する作動性および耐久性の低下が回避できる。
本発明のボールねじにおいて、前記戻し路の両端部は、ナットの螺旋状の溝から立ち上がる立ち上がり面と、この立ち上がり面に対向配置されて軌道端をなす止め部と、を有し、前記立ち上がり面を、前記溝の底を示す螺旋の延長線より凹んだ滑らかな曲線に沿って形成し、前記溝に滑らかに連続させ、この立ち上がり面と前記戻し路との境界部に丸み部を設けることが好ましい。
これにより、無負荷圏である戻し路から負荷圏である軌道へのボールの進入がスムーズに行われる。また、ボールが戻し路から軌道に入る際の衝突に伴ってボールおよびナットに生じる応力を小さくすることができる。
これにより、無負荷圏である戻し路から負荷圏である軌道へのボールの進入がスムーズに行われる。また、ボールが戻し路から軌道に入る際の衝突に伴ってボールおよびナットに生じる応力を小さくすることができる。
本発明のボールねじによれば、高荷重下で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合の寿命を長くすることができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1はこの実施形態のボールねじの斜視図であり、図2はその部分断面図であって、軌道と戻し路との境界部分およびその周辺部を示す。図3は図2のA部分の拡大図である。この実施形態のボールねじにおいて、チューブおよびチューブ押えの数と前記境界部分の構造以外は、図6および7に示す従来のボールねじと同じである。
このボールねじは高荷重用であり、図1に示すように、チューブ4を4本取り付けてボール循環路を4つ設けている。4本のチューブ4は、ナット2の周面の位相が180°ずれた位置に2本ずつ、ナット2の長さ方向両端部と中央部に設置されている。これにより、ボールねじに掛かる荷重のバランスをとっている。
図1はこの実施形態のボールねじの斜視図であり、図2はその部分断面図であって、軌道と戻し路との境界部分およびその周辺部を示す。図3は図2のA部分の拡大図である。この実施形態のボールねじにおいて、チューブおよびチューブ押えの数と前記境界部分の構造以外は、図6および7に示す従来のボールねじと同じである。
このボールねじは高荷重用であり、図1に示すように、チューブ4を4本取り付けてボール循環路を4つ設けている。4本のチューブ4は、ナット2の周面の位相が180°ずれた位置に2本ずつ、ナット2の長さ方向両端部と中央部に設置されている。これにより、ボールねじに掛かる荷重のバランスをとっている。
図2に示すように、ナット2には、外周面からねじ溝21に向けて貫通穴22が形成されており、この貫通穴22内にチューブ4の端部が配置されている。この貫通穴22は、チューブ4の端面を受ける段差部22aを有する。これにより、チューブ4の端部を貫通穴22に取り付けたときに、貫通穴22の段差部22aよりねじ溝21側の面22bが、チューブ4の内面41と一致するようにしてある。
また、チューブ4の端部には、取り付け状態で、後述の立ち上がり面27に対向配置されるタング42が形成されている。このタング42が、ねじ軸のねじ溝11の底面付近まで延び、ねじ溝11,21からなる軌道30の端部をなす止め部となっている。
また、チューブ4の端部には、取り付け状態で、後述の立ち上がり面27に対向配置されるタング42が形成されている。このタング42が、ねじ軸のねじ溝11の底面付近まで延び、ねじ溝11,21からなる軌道30の端部をなす止め部となっている。
そして、図3に示すように、チューブ(戻し路)4とねじ溝21との境界部分に、ねじ溝21の底を示す螺旋の延長線21aより凹んだ滑らかな曲線に沿う立ち上がり面27が、ねじ溝21に滑らかに連続するように形成されている。また、この立ち上がり面27と戻し路との境界部に、曲率半径Rがボール3の直径の0.05倍以上である丸み部28が形成されている。
なお、ここでは、図3に示すように、ナット2の貫通穴22のねじ溝21側の面22bは、戻し路の端部がナット2のねじ溝21から立ち上がる「立ち上がり面」ではなく、チューブ4とともに戻し路を構成している。
なお、ここでは、図3に示すように、ナット2の貫通穴22のねじ溝21側の面22bは、戻し路の端部がナット2のねじ溝21から立ち上がる「立ち上がり面」ではなく、チューブ4とともに戻し路を構成している。
この立ち上がり面27は、ナット2にねじ溝21を研削加工で形成する際に、この部分での切り込み深さを、ねじ溝21の底を示す螺旋より深い所定の曲線に沿うように調整することで形成される。この立ち上がり面27の形成によって、貫通穴22のねじ溝21側の面22bと立ち上がり面27との境界が角部となるが、この角部を砥粒流動加工法により除去することで丸み部28が形成される。
ここで、砥粒流動加工法とは、例えば炭化ケイ素、ダイヤモンド等の砥粒が混練された粘弾性流体を用いた表面除去(研磨)方法であり、加工物の加工箇所でこの粘弾性流体を流動させて、この流体中の砥粒を加工箇所で圧接移動させることにより、加工箇所の表面が除去される。
ここで、砥粒流動加工法とは、例えば炭化ケイ素、ダイヤモンド等の砥粒が混練された粘弾性流体を用いた表面除去(研磨)方法であり、加工物の加工箇所でこの粘弾性流体を流動させて、この流体中の砥粒を加工箇所で圧接移動させることにより、加工箇所の表面が除去される。
このようなボールねじのねじ軸、ナット、およびボールを、熱処理条件を変化させて作製することにより、表層部の残留オーステナイト量(γR )が表1に示す値となっているものを得た。ナット2のチューブ(戻し路)4とねじ溝21との境界部分(図8の符号25)を図3に示すように加工せず、図8の状態になっているものも作製した。そして、その他の部材は全て同じとし、下記の表1に示す組み合わせで同じ型番のボールねじを組み立てた。なお、前記加工は表1に「角部加工」と表示した。
組み立てたボールねじの型番はNSK「BS3610」であり、その諸元は、有効巻き数:2.5巻き、ねじ軸外径:36mm、リード:10mm、ボール径:6.35mmである。
ねじ軸およびナット用の素材としては、SCM420Hからなる素材とSCM415Hからなる素材を用意した。
各素材をねじ軸およびナットの形状に加工した後、熱処理Aでは、870〜920℃での浸炭(高濃度浸炭)後に焼戻しを施し、熱処理Bでは、870〜900℃での浸炭処理(通常浸炭)後に焼戻しを施した。
ねじ軸およびナット用の素材としては、SCM420Hからなる素材とSCM415Hからなる素材を用意した。
各素材をねじ軸およびナットの形状に加工した後、熱処理Aでは、870〜920℃での浸炭(高濃度浸炭)後に焼戻しを施し、熱処理Bでは、870〜900℃での浸炭処理(通常浸炭)後に焼戻しを施した。
熱処理後のねじ軸およびナットの表層部(表面から深さ0.2mmまでの位置)の炭素含有率(質量%):〔C〕、この表層部に存在する粒径0.1μm以下の炭化物の個数、この表層部のビッカース硬さ(H1)および残留オーステナイト量(γR )を測定した。また、ボールについても表層部(表面から深さ0.2mmまでの位置)のビッカース硬さ(H2)と残留オーステナイト量(γR )を測定した。そして、粒径0.1μm以下の炭化物の面積率(個/μm2 )と、硬さの比(H1/H2)を算出した。これらの結果も下記の表1に併せて示す。
セパレータとしては図4に示すものを使用した。図4(a)はその正面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。このセパレータ7は略円柱状であって、円柱の2つの底面にボール3を受ける凹面71が形成されている。また、このセパレータ7には、円柱の中心軸に沿った貫通穴72が設けてある。この貫通穴72は油溜まりとして機能する。このセパレータ7はプラスチック製である。
得られたボールねじを日本精工(株)製のボールねじ耐久寿命試験機にかけて、試験荷重:8820N、ストローク:60mm、回転速度:1500rpm、温度:130℃、潤滑剤:グリース「ルベールYS−2」、モーメント荷重:0および100N・mの条件で、ボールねじを往復運動させる耐久寿命試験を行った。なお、この条件でモーメント荷重が0および100N・mの時の、面圧とナット内でのボール位置との関係を図4にグラフで示す。
この試験は、ねじ軸またはナットのねじ溝、あるいはボールのいずれかに剥離が生じるまでの総運動距離を測定した。次に、各サンプルで得られた測定値を、モーメント荷重0で行った試験でのNo. 8の測定値で除算して、寿命の相対値を算出した。No. 8のボールねじは、一般的な従来のボールねじである。
これらの結果も下記の表1に併せて示す。表中、本発明の範囲から外れている部分に下線を施した。
これらの結果も下記の表1に併せて示す。表中、本発明の範囲から外れている部分に下線を施した。
この表の結果から以下のことが分かる。
No. 1〜7のボールねじは、ねじ軸、ナット、およびボールのいずれもが本発明の範囲内であるため、本発明の実施例に相当する。これに対して、No. 8〜16のボールねじは、これらのいずれかの条件を満たさないため、本発明の比較例に相当する。
そして、No. 1〜7のボールねじはNo. 8〜16のボールねじよりも、寿命試験の結果が良好であった。また、セパレータを使用しているNo. 1〜3,6〜16の各ボールねじでの比較では、本発明の実施例に相当するNo. No. 1〜3,6,7が比較例に相当するNo. 8〜16よりも、モーメント荷重100N・mでの寿命が長くなった。
No. 1〜7のボールねじは、ねじ軸、ナット、およびボールのいずれもが本発明の範囲内であるため、本発明の実施例に相当する。これに対して、No. 8〜16のボールねじは、これらのいずれかの条件を満たさないため、本発明の比較例に相当する。
そして、No. 1〜7のボールねじはNo. 8〜16のボールねじよりも、寿命試験の結果が良好であった。また、セパレータを使用しているNo. 1〜3,6〜16の各ボールねじでの比較では、本発明の実施例に相当するNo. No. 1〜3,6,7が比較例に相当するNo. 8〜16よりも、モーメント荷重100N・mでの寿命が長くなった。
No. 2とNo. 3の違いは、ナットの立ち上がり面の加工が図2のようになされているかいないかの違いであるが、この加工がなされているNo. 2はなされていないNo. 3よりもモーメント荷重0kN・mでの寿命が長くなった。
No. 4とNo. 5の違いは、ナットの立ち上がり面の加工が図2のようになされているかいないかの違いであるが、この加工がなされているNo. 4はなされていないNo. 5よりも寿命が長くなった。
No. 2とNo. 4の違いはセパレータの有無であり、モーメント荷重が0の場合の寿命試験結果は同じであったが、セパレータを用いているNo. 2はセパレータを用いていないNo. 4よりも、モーメント荷重100N・mでの寿命が長くなった。
No. 4とNo. 5の違いは、ナットの立ち上がり面の加工が図2のようになされているかいないかの違いであるが、この加工がなされているNo. 4はなされていないNo. 5よりも寿命が長くなった。
No. 2とNo. 4の違いはセパレータの有無であり、モーメント荷重が0の場合の寿命試験結果は同じであったが、セパレータを用いているNo. 2はセパレータを用いていないNo. 4よりも、モーメント荷重100N・mでの寿命が長くなった。
No. 1とNo. 7の違いは素材鋼の違いだけであり、両者でほぼ同じ結果が得られた。
No. 8〜13のボールねじは、ねじ軸およびナットとボールの硬さの比が本発明の範囲から外れるため、寿命が短くなった。特に、No. 8と9のボールねじは、ねじ軸およびナットの熱処理法が本発明の範囲外であり、ねじ軸およびナットの表層部の残留オーステナイト量、炭素含有率、および炭化物の面積率も本発明の範囲から外れるため、ねじ溝面の耐摩耗性および靱性が不足することで寿命が短くなった。
No. 14〜16のボールねじは、ねじ軸およびナットの熱処理法が本発明の範囲内であるが、ねじ軸およびナットの表層部の残留オーステナイト量、炭素含有率、および炭化物の面積率が本発明の範囲から外れるため、ねじ溝面の耐摩耗性および靱性が不足することで寿命が短くなった。
No. 8〜13のボールねじは、ねじ軸およびナットとボールの硬さの比が本発明の範囲から外れるため、寿命が短くなった。特に、No. 8と9のボールねじは、ねじ軸およびナットの熱処理法が本発明の範囲外であり、ねじ軸およびナットの表層部の残留オーステナイト量、炭素含有率、および炭化物の面積率も本発明の範囲から外れるため、ねじ溝面の耐摩耗性および靱性が不足することで寿命が短くなった。
No. 14〜16のボールねじは、ねじ軸およびナットの熱処理法が本発明の範囲内であるが、ねじ軸およびナットの表層部の残留オーステナイト量、炭素含有率、および炭化物の面積率が本発明の範囲から外れるため、ねじ溝面の耐摩耗性および靱性が不足することで寿命が短くなった。
1 ねじ軸
11 ねじ軸のねじ溝(螺旋状の溝)
2 ナット
21 ナットのねじ溝(螺旋状の溝)
21a ねじ溝の底を示す螺旋の延長線
22 ナットの貫通穴
22a 貫通穴の段差部
22b 貫通穴のねじ溝側の面
25 立ち上がり面とねじ溝との境界部
27 立ち上がり面
28 丸み部(立ち上がり面と戻し路との境界部)
3 ボール
4 チューブ(戻し路)
41 チューブの内面
42 タング(軌道端をなす止め部)
6 チューブ押え
7 セパレータ
71 凹面
72 貫通穴
11 ねじ軸のねじ溝(螺旋状の溝)
2 ナット
21 ナットのねじ溝(螺旋状の溝)
21a ねじ溝の底を示す螺旋の延長線
22 ナットの貫通穴
22a 貫通穴の段差部
22b 貫通穴のねじ溝側の面
25 立ち上がり面とねじ溝との境界部
27 立ち上がり面
28 丸み部(立ち上がり面と戻し路との境界部)
3 ボール
4 チューブ(戻し路)
41 チューブの内面
42 タング(軌道端をなす止め部)
6 チューブ押え
7 セパレータ
71 凹面
72 貫通穴
Claims (3)
- 外周面に螺旋状の溝が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状の溝が形成されたナットと、ねじ軸の溝とナットの溝が互いに対向して形成される軌道と、この軌道の終点と始点を連結する戻し路と、この戻し路内および前記軌道内に配置された複数のボールと、を備えたボールねじにおいて、
ねじ軸およびナットは、「JIS G4052」で規定する鋼材SCM415HまたはSCM420Hを所定形状に形成した後、浸炭を行い、次いで、焼入れと焼戻しを施して、ねじ軸の外周面およびナットの内周面の各表層部の炭素含有率を0.95質量%以上1.3質量%以下とすることにより得られ、前記各表層部に粒径0.1μm以下の炭化物を面積率で「400個/100μm2 」以上含有し、前記各表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、
ボールの表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、
ねじ軸およびナットの表層部の硬さ(H1)の、ボールの表層部の硬さ(H2)に対する比(H1/H2)が、ビッカース硬さ(Hv)で0.95以上0.99以下であることを特徴とするボールねじ。 - 隣接するボール間に、ボールを受ける凹面を有するセパレータが配置されている請求項1記載のボールねじ。
- 前記戻し路の両端部は、ナットの螺旋状の溝から立ち上がる立ち上がり面と、この立ち上がり面に対向配置されて軌道端をなす止め部と、を有し、
前記立ち上がり面を、前記溝の底を示す螺旋の延長線より凹んだ滑らかな曲線に沿って形成し、前記溝に滑らかに連続させ、
この立ち上がり面と前記戻し路との境界部に丸み部を設けたことを特徴とする請求項1または2記載のボールねじ。
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