JP2004060754A - 転動装置及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高荷重下及び高速下などの過酷な使用条件下において、転がり疲労特性のさらなる改善を可能とした転動装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ねじ軸1、ナット2、ボール3の少なくともいずれか一つの部材を、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成する。そして、この合金鋼から構成されたねじ軸1、ナット2、或いはボール3に、920℃以上の浸炭窒化処理を行うことで、その表面炭素濃度を0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度を0.15〜0.30重量%とするとともに、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物を少なくとも400個/100μm2 以上析出させる。
【選択図】 図1
【解決手段】ねじ軸1、ナット2、ボール3の少なくともいずれか一つの部材を、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成する。そして、この合金鋼から構成されたねじ軸1、ナット2、或いはボール3に、920℃以上の浸炭窒化処理を行うことで、その表面炭素濃度を0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度を0.15〜0.30重量%とするとともに、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物を少なくとも400個/100μm2 以上析出させる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ボールねじ、リニアガイドなどの転動装置及びその製造方法に関し、特に、電動射出成型機などの高荷重用途で好適に使用するために有効な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
ボールねじなどの転動装置は、高面圧下で繰り返し剪断応力を受けるため、その剪断応力に耐えうる硬さを備え、転がり疲労寿命を確保する必要がある。このため、ボールねじを構成するねじ軸(内方部材)、ナット(外方部材)、ボール(転動体)などの転動部材は、例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)や肌焼鋼(SCR420)などの鋼材から構成されるとともに、これらの鋼材にずぶ焼や、浸炭処理或いは浸炭窒化処理などの表面硬化処理が施されることにより、HRC58以上の硬さが付与されている。
【0003】
ところで、近年、回転機械の高速化・高荷重化が進むにつれて、これを支持するボールねじの使用条件が過酷になる傾向が顕著になってきている。このような高速・高荷重条件下でボールねじを使用すると、ボールねじを構成する転動部材の温度が著しく上昇するため、転動部材の硬さが低下し、転がり疲労特性の劣化を引き起こしてしまうという不具合があった。
【0004】
この転がり疲労特性の劣化は、ボールに発生した損傷が基点となり、そのボールを転動自在に保持するねじ軸やナットの軌道面にも二次的に損傷が発生することで引き起こされると推測されている。
そこで、隣接するボール間にセパレータを介装し、このセパレータをボールの転動に伴って移動させることで、隣接するボール同士の競り合いを回避し、ボールの損傷を抑制するという手段が提案されている。この手段によれば、隣接するボール間の接触を抑制し、ボールに発生する損傷の頻度を大幅に低減させることが可能となった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述したセパレータを介装させた手段においても、より過酷な使用環境下で耐えうる転がり疲労特性を得るためには、更なる改善の余地があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高速下及び高荷重下などの過酷な使用条件であっても、転がり疲労特性のさらなる改善を可能とした転動装置及びその製造方法を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、転動部材として、バナジウムを0.6重量%以上添加した鋼材を用い、この鋼材に920℃以上の高温で浸炭窒化処理を行い、転動部材の表面に0.1μm以下の微細な炭化物、窒素物、或いは炭窒化物を多量に析出させることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明に係る請求項1に記載の転動装置は、内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置において、前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材が、バナジウムを添加し、且つ、浸炭窒化処理を施すことで表面硬化させた鋼材から構成されていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る請求項2に記載の転動装置は、内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置において、前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材が、Cを0.1〜0.7重量%、Siを0.1〜1.5重量%、Mnを0.1〜1.5重量%、Crを0.5〜3.0重量%、Vを0.6〜2.0重量%、Moを3.0重量%以下、Niを2.0重量%以下の範囲で含む合金鋼から構成されているとともに、前記合金鋼から構成された部材の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%であるとともに、前記部材の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出していることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明に係る請求項3に記載の転動装置は、請求項1又は2に記載の転動装置において、電動射出成型機用に構成したことを特徴としている。
さらに、本発明に係る請求項4に記載の転動装置の製造方法は、内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置の製造方法であって、前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材を、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成するとともに、前記合金鋼で構成した前記部材に、920℃以上で浸炭窒化処理を行うことを特徴としている。
【0010】
次に、本発明の転動装置における各数値限定の臨界的意義について説明する。
〔C含有量:0.1〜0.7重量%〕
Cは、基地をマルテンサイト化することにより、焼入れ・焼戻し後の硬さを向上させるために必要な元素である。この含有量が0.1重量%未満であると、転動部材としての必要な強度が確保できなくなり、一方、0.7重量%を超えると、素材の段階で既に炭化物が析出し、熱処理以前に製品形成のために行う塑性加工や施削加工などにおける加工性が悪くなってしまう。このため、Cの含有量は、0.1重量%以上0.7重量%以下の範囲としている。
〔Si含有量:0.1〜1.5重量%〕
Siは、製鋼時の脱酸剤として必要であるとともに、焼戻し軟化抵抗を高め、転がり疲労特性を向上させるために必要な元素である。この含有量が0.1重量%未満であると、上述した脱酸剤としての役割や転がり疲労特性の向上に有効ではなくなり、一方、1.5重量%を超えると、浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害し、熱処理生産性を低下させてしまう。このため、Siの含有量は、0.1重量%以上1.5重量%以下の範囲としている。
〔Mn:0.1〜1.5重量%〕
Mnは、製鋼時の脱酸剤及び脱硫剤として必要であるとともに、焼入性を向上させるために有効な元素である。この含有量が0.1重量%未満であると、上記脱酸剤及び脱硫剤としての役割や、焼入性の向上に有効ではなくなり、一方、1.5重量%を超えると、被削性を低下させてしまう。このため、Mnの含有量は、0.1重量%以上1.5重量%以下の範囲としている。
〔Cr:0.5〜3.0重量%〕
Crは、焼入性を向上させ、基地を固溶強化するとともに、浸炭窒化処理により転動部材表面層に炭化物、窒化物、炭窒化物を析出させ、転がり疲労特性を向上させるために有効な元素である。この含有量が、0.5重量%未満となると、添加効果が少なく、一方、3.0重量%を超えると、表面にCr酸化物が形成され、浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害し、熱処理生産性を低下させてしまう。このため、Crの含有量は、0.5重量%以上3.0重量%以下の範囲としている。
〔V:0.6〜2.0重量%〕
Vは、焼戻し軟化抵抗を増大し、耐摩耗性の向上に有効な非常に高硬度の炭化物、窒化物及び炭窒化物を形成するために有効な元素である。この含有量が0.6重量%未満となると、高温で浸炭窒化処理を行う場合に深い部分まで高い窒素濃度を得ることができなくなり、一方、2.0重量%を超えると、その添加効果が飽和しコスト的に不利となり、且つ、加工性が低下してしまう。このため、Vの含有量は、0.6重量%以上2.0重量%以下の範囲としている。
〔Mo:3.0重量%以下〕
Moは、焼戻し軟化抵抗を増大させるとともに、Crと同様に、浸炭窒化により転動部材表面層に炭化物、窒化物、炭窒化物を析出させ、転がり疲労特性を向上させるために有効な元素である。この含有量が3.0重量%を超えると、塑性加工性が悪くなるとともに、コスト的にも不利になってしまう。このため、Moの含有量は、3.0重量%以下としている。
〔Ni:2.0重量%以下〕
Niは、マトリックスに固溶して、靱性を向上させるために有効な元素である。この含有量が2.0重量%を超えると、転動部材表面層の残留オーステナイト量が増加しすぎて、硬さが低下してしまう。このため、Niの含有量は、2.0重量%以下としている。
【0011】
なお、これらの合金金属以外にも、不可避不純物として、0.02重量%以下のP、0.05重量%以下のS、0.10重量%以下のCu、或いは15ppm以下のOなどを含むことも可能である。特に、転がり疲労特性に有害な非金属介在物をできる限り少なくするために、酸素を10ppm以下に規制することが好ましい。
〔表面炭素濃度:0.7から1.3重量%〕
転動部材として必要な表面硬さを得るためには、通常炭素濃度が0.8重量%以上であることが必要とされているが、本発明においては、浸炭窒化処理によって窒素を含有させるため、炭素濃度の下限値は、0.7重量%とした。一方、窒素と炭素とを合わせた含有量が過剰になると、表面の残留オーステナイト量が過剰に生成し、 硬さが低下したり、初折セメンタイトが析出したりして転がり疲労特性を低減させるおそれがあるため、その上限は1.3重量%とした。
〔表面窒素濃度:0.15〜0.30重量%〕
窒素は、耐摩耗性を向上させるために非常に有効な元素であり、浸炭窒化処理により表面層に添加されるが、含有量が0.15重量%未満であると、 十分な効果が得られないため、その下限は0.15重量%とした。一方、高くしすぎると、研削性が悪くなるとともに、深くまで高い窒素濃度が必要とされる大型製品を製造する場合にはその熱処理に非常に長時間を要しコストが増大することより、その上限を0.3重量%とした。
〔粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、及び炭窒化物が400個/100μm2 以上〕
微細な炭化物、窒化物、及び炭窒化物は、耐摩耗性を向上させる効果が高く、特に、耐摩耗性をさらに向上させるために、粒径0.1μm以下のものを400個/100μm2 以上の密度で析出させることが好ましい。
【0012】
このように、本発明の転動装置によれば、内方部材、外方部材、及び転動体の少なくともいずれか一つを、バナジウムを添加し、浸炭窒化処理を施して表面硬化させた鋼材から構成することによって、転がり疲労特性を向上させることが可能となる。
特に、転動部材の少なくともいずれか一つを、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含む合金鋼から構成し、この合金鋼から構成された転動部材の表面炭素濃度を0.7〜1.3重量%、表面窒素濃度を0.15〜0.30重量%とし、且つ、この転動部材の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出させることによって、転がり疲労特性を確実に向上させることが可能となる。
【0013】
すなわち、本発明の転動装置は、優れた転がり疲労特性を有するため、例えば、電動射出成型機など高荷重及び高速条件下で使用される機器の回転部分及び摺動部分に好適に適用することが可能となる。
本発明の転動装置の製造方法によれば、転動部材の少なくともいずれか一つを上記合金鋼で構成するとともに、この合金鋼で構成した転動部材に、920℃以上で浸炭窒化処理を行うことによって、V以外の合金元素が含まれず、成長速度が非常に遅いVの炭化物、窒化物、或いは炭窒化物を析出させることができる。このため、合金鋼の表面には、粒径0.1μm以下の微細な炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が析出するため、転がり疲労特性を向上させた転動装置を実現することができる。
【0014】
なお、本発明における転動装置とは、外方部材と、内方部材と、この外方部材及び内方部材との間に転動自在に配設された転動体とから構成された転がり軸受、リニアガイド、或いはボールねじ等の装置を指す。ここで、転動装置が転がり軸受の場合、外方部材は外輪を、内方部材は内輪をそれぞれ指す。また、転動装置がリニアガイドの場合、外方部材はスライダを、内方部材は案内レールをそれぞれ指す。さらに、転動装置がボールねじの場合、外方部材はナットを、内方部材はねじ軸をそれぞれ指す。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明における転動装置の一例として、 ボールねじの一構成例を示す断面図である。
本実施形態におけるボールねじ100は、図1に示すように、外周面に螺旋状の第一のねじ溝1aを有するねじ軸(内方部材)1と、この第一のねじ溝1aと対向する内周面に第二のねじ軸2aを有するナット(外方部材)2と、第一のねじ溝1a及び第二のねじ溝2a間に形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に充填された複数のボール(転動体)3と、から構成されており、このボール転動路を転動する隣り合うボール3間には、セパレータ(保持ピース)10が介装され、隣接するボール3間の競り合いを抑制している。
【0016】
このボール転動路の一端には、ボール転動路を転動してくるボール3をすくい上げ、他端に送るリターンチューブ4がチューブ押さえ4aによって固定されている。また、ナット2の軸方向一端には、ナット2をテーブル等に固定するためのフランジ5が形成されており、このフランジ5とねじ軸1との間、及びナット2の軸方向他端側とねじ軸1との間は、防塵用シール6で閉塞されている。
【0017】
そして、このボールねじ100は、ねじ軸1とナット2とを相対的に回転させて一方を軸方向に移動させることで、複数のボール3の転動を介して、ねじ軸1とナット2との相対螺旋運動が無限に行われるようになっている。
このようなボールねじ100を構成する構成部材について、詳細に説明する。ねじ軸1、ナット2、ボール3の少なくともいずれか一つは、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成されている。
【0018】
この合金鋼から構成されたねじ軸1、ナット2、或いはボール3の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%となっている。また、この合金鋼から構成されたねじ軸1、ナット2、或いはボール3の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出している。
【0019】
また、セパレータ10は、例えば、非強化或いは適当な補強材を含有する樹脂組成物の成型体や、金属材料などから構成されている。
次に、本実施形態におけるボールねじ100の製造方法について説明する。
まず、ねじ軸1、ナット2、ボール3の少なくともいずれか一つを、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成する。
【0020】
次に、この合金鋼で構成したねじ軸1、ナット2、或いはボール3に、920℃以上の高温で、浸炭窒化処理を行う。このとき、920℃の高温で浸炭窒化処理を行うことで、合金鋼の表面には、V以外の合金元素が含まれないVの炭化物、窒化物、及び炭窒化物が析出するようになる。このV以外の合金元素が含まれないVの炭化物、窒化物、及び炭窒化物は、成長速度が非常に遅いため、0.1μm以下の微細な粒径を有するようになる。
【0021】
次いで、これらのねじ軸1、ナット2、ボール3、及びセパレータ10を組み込んで、ボールねじ100を完成させる。
このように、本実施形態におけるボールねじ100によれば、ねじ軸1、ナット2、ボール3の少なくともいずれか一つを、上述の合金鋼から構成するとともに、この合金鋼から構成されたねじ軸1、ナット2、或いはボール3の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%であるとともに、その表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出していることによって、転がり疲労特性を向上させ、長寿命化を実現することが可能となる。
【0022】
また、本実施形態におけるボールねじ100によれば、合金鋼の形成材料としてVを添加したことによって、窒素の拡散を促進するため、必要以上に窒素濃度を高くしなくても、優れた耐摩耗性を得ることができる。このため、熱処理後の研削取り代の大きな大型の転動装置においても熱処理時間を短く抑えることができ、安価で供給することが可能となる。
【0023】
なお、本実施形態においては、転動装置としてボールねじについて説明したが、これに限らず、例えば、転がり軸受、リニアガイドなどいずれの転動装置に適用することも可能である。
【0024】
【実施例】
次に、本発明の効果を、以下の実施例に基づき検証する。
実施例に用いるボールねじは、ねじ軸及びナットを、Cが0.41重量%、Siが0.35重量%、Mnが0.81重量%、Crが1.51重量%、Vが1.05重量%、Moが0.05重量%、Niが0重量%とした本発明の合金鋼から構成し、ボールをSUJ2から構成した。
【0025】
一方、比較例のボールねじは、ねじ軸及びナットを、Cが0.18〜0.23重量%、Siが0.15〜0.35重量%、Mnが0.60〜0.85重量%、Crが0.90〜1.20重量%、Moが0.15〜0.30重量%の範囲で含まれたSCM420H(JISに準拠)の合金鋼から構成し、ボールをSUJ2から構成した。
【0026】
そして、実施例のボールねじを構成する本発明の合金鋼には、以下の条件下で浸炭窒化処理を施した。
〔浸炭窒化処理〕
温度920〜950℃で、6〜8時間、吸熱形ガス雰囲気中にエンリッチガス及びアンモニアガスを加えて、浸炭窒化を行った。そして、その後、常温まで空冷又は除冷し、温度820〜880℃で二次焼入れを施した後、温度160〜180℃で、2〜3時間の焼き戻しを行った。
【0027】
一方、比較例のボールねじを構成するSCM420Hには、以下の条件で浸炭焼入れ処理を施した。
〔浸炭焼入れ処理〕
温度920〜950℃で、6〜8時間、通常の浸炭処理を行った後、常温まで放冷し、温度820〜880度で二次焼入れを施した後、温度160〜180℃で、2〜3時間の焼き戻しを行った。
【0028】
ここで、上述の浸炭窒化処理を施した後の本発明の合金綱における表面窒素濃度は、0.86重量%で、表面炭素濃度は0.22重量%で、粒径0.1μm以下の炭化物の個数は624個/100μm2 であった。
また、耐久性は、実施例及び比較例のボールねじを軸受寿命試験機に取り付け、下記の条件下で回転させ、耐久試験を行った。なお、試験中は定期的にねじ軸外観の観察を行い、ねじ軸に剥離が認められた時点を寿命とした。ここで、計算される寿命は、日本精工株式会社カタログから算出した値であり、計算寿命に対する実際の寿命を寿命比として、ワイブルプロットの横軸に表している。そして、この結果を、ワイブル分布のグラフ(累積破損確率−寿命比)にプロットした実施例の結果を図2に示し、比較例の結果を図3に示す。
(耐久試験条件)
回転数:500min−1
アキシアル荷重:11770N
図2及び図3から分かるように、実施例におけるボールねじの耐久性は、比較例と比べて大幅に向上していることが確認できた。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の転動装置によれば、内方部材、外方部材、及び転動体の少なくともいずれか一つの部材が、バナジウムを添加し、且つ、浸炭窒化処理を施すことで表面硬化させた鋼材から構成されていることによって、転がり疲労特性を向上させることが可能となる。
【0030】
特に、外方部材、内方部材、転動体の少なくともいずれか一つの部材が、Cを0.1〜0.7重量%、Siを0.1〜1.5重量%、Mnを0.1〜1.5重量%、Crを0.5〜3.0重量%、Vを0.6〜2.0重量%、Moを3.0重量%以下、Niを2.0重量%以下の範囲で含む合金鋼から構成されているとともに、合金鋼から構成された部材の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%であるとともに、前記部材の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出していることによって、転がり疲労特性を確実に向上させることが可能となる。
【0031】
すなわち、本発明の転動装置は、電動射出成型機など高速・高荷重条件下で使用される機器に好適に利用することが可能となる。
本発明の転動装置の製造方法によれば、本発明の転動装置を容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における転動装置の一例として、ボールねじの一構成例を示す断面図である。
【図2】本実施例のワイブル寿命分布の結果を示すグラフである。
【図3】比較例のワイブル寿命分布の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ねじ軸(内方部材)
1a 第一のねじ軸
2 ナット(外方部材)
2a 第二のねじ軸
3 ボール(転動体)
4 リターンチューブ
4a チューブ押さえ
5 フランジ
6 防塵用シール
10 セパレータ
100 ボールねじ(転動装置)
【発明の属する技術分野】
本発明は、ボールねじ、リニアガイドなどの転動装置及びその製造方法に関し、特に、電動射出成型機などの高荷重用途で好適に使用するために有効な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
ボールねじなどの転動装置は、高面圧下で繰り返し剪断応力を受けるため、その剪断応力に耐えうる硬さを備え、転がり疲労寿命を確保する必要がある。このため、ボールねじを構成するねじ軸(内方部材)、ナット(外方部材)、ボール(転動体)などの転動部材は、例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)や肌焼鋼(SCR420)などの鋼材から構成されるとともに、これらの鋼材にずぶ焼や、浸炭処理或いは浸炭窒化処理などの表面硬化処理が施されることにより、HRC58以上の硬さが付与されている。
【0003】
ところで、近年、回転機械の高速化・高荷重化が進むにつれて、これを支持するボールねじの使用条件が過酷になる傾向が顕著になってきている。このような高速・高荷重条件下でボールねじを使用すると、ボールねじを構成する転動部材の温度が著しく上昇するため、転動部材の硬さが低下し、転がり疲労特性の劣化を引き起こしてしまうという不具合があった。
【0004】
この転がり疲労特性の劣化は、ボールに発生した損傷が基点となり、そのボールを転動自在に保持するねじ軸やナットの軌道面にも二次的に損傷が発生することで引き起こされると推測されている。
そこで、隣接するボール間にセパレータを介装し、このセパレータをボールの転動に伴って移動させることで、隣接するボール同士の競り合いを回避し、ボールの損傷を抑制するという手段が提案されている。この手段によれば、隣接するボール間の接触を抑制し、ボールに発生する損傷の頻度を大幅に低減させることが可能となった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述したセパレータを介装させた手段においても、より過酷な使用環境下で耐えうる転がり疲労特性を得るためには、更なる改善の余地があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高速下及び高荷重下などの過酷な使用条件であっても、転がり疲労特性のさらなる改善を可能とした転動装置及びその製造方法を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、転動部材として、バナジウムを0.6重量%以上添加した鋼材を用い、この鋼材に920℃以上の高温で浸炭窒化処理を行い、転動部材の表面に0.1μm以下の微細な炭化物、窒素物、或いは炭窒化物を多量に析出させることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明に係る請求項1に記載の転動装置は、内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置において、前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材が、バナジウムを添加し、且つ、浸炭窒化処理を施すことで表面硬化させた鋼材から構成されていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る請求項2に記載の転動装置は、内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置において、前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材が、Cを0.1〜0.7重量%、Siを0.1〜1.5重量%、Mnを0.1〜1.5重量%、Crを0.5〜3.0重量%、Vを0.6〜2.0重量%、Moを3.0重量%以下、Niを2.0重量%以下の範囲で含む合金鋼から構成されているとともに、前記合金鋼から構成された部材の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%であるとともに、前記部材の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出していることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明に係る請求項3に記載の転動装置は、請求項1又は2に記載の転動装置において、電動射出成型機用に構成したことを特徴としている。
さらに、本発明に係る請求項4に記載の転動装置の製造方法は、内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置の製造方法であって、前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材を、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成するとともに、前記合金鋼で構成した前記部材に、920℃以上で浸炭窒化処理を行うことを特徴としている。
【0010】
次に、本発明の転動装置における各数値限定の臨界的意義について説明する。
〔C含有量:0.1〜0.7重量%〕
Cは、基地をマルテンサイト化することにより、焼入れ・焼戻し後の硬さを向上させるために必要な元素である。この含有量が0.1重量%未満であると、転動部材としての必要な強度が確保できなくなり、一方、0.7重量%を超えると、素材の段階で既に炭化物が析出し、熱処理以前に製品形成のために行う塑性加工や施削加工などにおける加工性が悪くなってしまう。このため、Cの含有量は、0.1重量%以上0.7重量%以下の範囲としている。
〔Si含有量:0.1〜1.5重量%〕
Siは、製鋼時の脱酸剤として必要であるとともに、焼戻し軟化抵抗を高め、転がり疲労特性を向上させるために必要な元素である。この含有量が0.1重量%未満であると、上述した脱酸剤としての役割や転がり疲労特性の向上に有効ではなくなり、一方、1.5重量%を超えると、浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害し、熱処理生産性を低下させてしまう。このため、Siの含有量は、0.1重量%以上1.5重量%以下の範囲としている。
〔Mn:0.1〜1.5重量%〕
Mnは、製鋼時の脱酸剤及び脱硫剤として必要であるとともに、焼入性を向上させるために有効な元素である。この含有量が0.1重量%未満であると、上記脱酸剤及び脱硫剤としての役割や、焼入性の向上に有効ではなくなり、一方、1.5重量%を超えると、被削性を低下させてしまう。このため、Mnの含有量は、0.1重量%以上1.5重量%以下の範囲としている。
〔Cr:0.5〜3.0重量%〕
Crは、焼入性を向上させ、基地を固溶強化するとともに、浸炭窒化処理により転動部材表面層に炭化物、窒化物、炭窒化物を析出させ、転がり疲労特性を向上させるために有効な元素である。この含有量が、0.5重量%未満となると、添加効果が少なく、一方、3.0重量%を超えると、表面にCr酸化物が形成され、浸炭窒化時に炭素や窒素が表面から侵入するのを阻害し、熱処理生産性を低下させてしまう。このため、Crの含有量は、0.5重量%以上3.0重量%以下の範囲としている。
〔V:0.6〜2.0重量%〕
Vは、焼戻し軟化抵抗を増大し、耐摩耗性の向上に有効な非常に高硬度の炭化物、窒化物及び炭窒化物を形成するために有効な元素である。この含有量が0.6重量%未満となると、高温で浸炭窒化処理を行う場合に深い部分まで高い窒素濃度を得ることができなくなり、一方、2.0重量%を超えると、その添加効果が飽和しコスト的に不利となり、且つ、加工性が低下してしまう。このため、Vの含有量は、0.6重量%以上2.0重量%以下の範囲としている。
〔Mo:3.0重量%以下〕
Moは、焼戻し軟化抵抗を増大させるとともに、Crと同様に、浸炭窒化により転動部材表面層に炭化物、窒化物、炭窒化物を析出させ、転がり疲労特性を向上させるために有効な元素である。この含有量が3.0重量%を超えると、塑性加工性が悪くなるとともに、コスト的にも不利になってしまう。このため、Moの含有量は、3.0重量%以下としている。
〔Ni:2.0重量%以下〕
Niは、マトリックスに固溶して、靱性を向上させるために有効な元素である。この含有量が2.0重量%を超えると、転動部材表面層の残留オーステナイト量が増加しすぎて、硬さが低下してしまう。このため、Niの含有量は、2.0重量%以下としている。
【0011】
なお、これらの合金金属以外にも、不可避不純物として、0.02重量%以下のP、0.05重量%以下のS、0.10重量%以下のCu、或いは15ppm以下のOなどを含むことも可能である。特に、転がり疲労特性に有害な非金属介在物をできる限り少なくするために、酸素を10ppm以下に規制することが好ましい。
〔表面炭素濃度:0.7から1.3重量%〕
転動部材として必要な表面硬さを得るためには、通常炭素濃度が0.8重量%以上であることが必要とされているが、本発明においては、浸炭窒化処理によって窒素を含有させるため、炭素濃度の下限値は、0.7重量%とした。一方、窒素と炭素とを合わせた含有量が過剰になると、表面の残留オーステナイト量が過剰に生成し、 硬さが低下したり、初折セメンタイトが析出したりして転がり疲労特性を低減させるおそれがあるため、その上限は1.3重量%とした。
〔表面窒素濃度:0.15〜0.30重量%〕
窒素は、耐摩耗性を向上させるために非常に有効な元素であり、浸炭窒化処理により表面層に添加されるが、含有量が0.15重量%未満であると、 十分な効果が得られないため、その下限は0.15重量%とした。一方、高くしすぎると、研削性が悪くなるとともに、深くまで高い窒素濃度が必要とされる大型製品を製造する場合にはその熱処理に非常に長時間を要しコストが増大することより、その上限を0.3重量%とした。
〔粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、及び炭窒化物が400個/100μm2 以上〕
微細な炭化物、窒化物、及び炭窒化物は、耐摩耗性を向上させる効果が高く、特に、耐摩耗性をさらに向上させるために、粒径0.1μm以下のものを400個/100μm2 以上の密度で析出させることが好ましい。
【0012】
このように、本発明の転動装置によれば、内方部材、外方部材、及び転動体の少なくともいずれか一つを、バナジウムを添加し、浸炭窒化処理を施して表面硬化させた鋼材から構成することによって、転がり疲労特性を向上させることが可能となる。
特に、転動部材の少なくともいずれか一つを、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含む合金鋼から構成し、この合金鋼から構成された転動部材の表面炭素濃度を0.7〜1.3重量%、表面窒素濃度を0.15〜0.30重量%とし、且つ、この転動部材の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出させることによって、転がり疲労特性を確実に向上させることが可能となる。
【0013】
すなわち、本発明の転動装置は、優れた転がり疲労特性を有するため、例えば、電動射出成型機など高荷重及び高速条件下で使用される機器の回転部分及び摺動部分に好適に適用することが可能となる。
本発明の転動装置の製造方法によれば、転動部材の少なくともいずれか一つを上記合金鋼で構成するとともに、この合金鋼で構成した転動部材に、920℃以上で浸炭窒化処理を行うことによって、V以外の合金元素が含まれず、成長速度が非常に遅いVの炭化物、窒化物、或いは炭窒化物を析出させることができる。このため、合金鋼の表面には、粒径0.1μm以下の微細な炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が析出するため、転がり疲労特性を向上させた転動装置を実現することができる。
【0014】
なお、本発明における転動装置とは、外方部材と、内方部材と、この外方部材及び内方部材との間に転動自在に配設された転動体とから構成された転がり軸受、リニアガイド、或いはボールねじ等の装置を指す。ここで、転動装置が転がり軸受の場合、外方部材は外輪を、内方部材は内輪をそれぞれ指す。また、転動装置がリニアガイドの場合、外方部材はスライダを、内方部材は案内レールをそれぞれ指す。さらに、転動装置がボールねじの場合、外方部材はナットを、内方部材はねじ軸をそれぞれ指す。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明における転動装置の一例として、 ボールねじの一構成例を示す断面図である。
本実施形態におけるボールねじ100は、図1に示すように、外周面に螺旋状の第一のねじ溝1aを有するねじ軸(内方部材)1と、この第一のねじ溝1aと対向する内周面に第二のねじ軸2aを有するナット(外方部材)2と、第一のねじ溝1a及び第二のねじ溝2a間に形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に充填された複数のボール(転動体)3と、から構成されており、このボール転動路を転動する隣り合うボール3間には、セパレータ(保持ピース)10が介装され、隣接するボール3間の競り合いを抑制している。
【0016】
このボール転動路の一端には、ボール転動路を転動してくるボール3をすくい上げ、他端に送るリターンチューブ4がチューブ押さえ4aによって固定されている。また、ナット2の軸方向一端には、ナット2をテーブル等に固定するためのフランジ5が形成されており、このフランジ5とねじ軸1との間、及びナット2の軸方向他端側とねじ軸1との間は、防塵用シール6で閉塞されている。
【0017】
そして、このボールねじ100は、ねじ軸1とナット2とを相対的に回転させて一方を軸方向に移動させることで、複数のボール3の転動を介して、ねじ軸1とナット2との相対螺旋運動が無限に行われるようになっている。
このようなボールねじ100を構成する構成部材について、詳細に説明する。ねじ軸1、ナット2、ボール3の少なくともいずれか一つは、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成されている。
【0018】
この合金鋼から構成されたねじ軸1、ナット2、或いはボール3の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%となっている。また、この合金鋼から構成されたねじ軸1、ナット2、或いはボール3の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出している。
【0019】
また、セパレータ10は、例えば、非強化或いは適当な補強材を含有する樹脂組成物の成型体や、金属材料などから構成されている。
次に、本実施形態におけるボールねじ100の製造方法について説明する。
まず、ねじ軸1、ナット2、ボール3の少なくともいずれか一つを、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成する。
【0020】
次に、この合金鋼で構成したねじ軸1、ナット2、或いはボール3に、920℃以上の高温で、浸炭窒化処理を行う。このとき、920℃の高温で浸炭窒化処理を行うことで、合金鋼の表面には、V以外の合金元素が含まれないVの炭化物、窒化物、及び炭窒化物が析出するようになる。このV以外の合金元素が含まれないVの炭化物、窒化物、及び炭窒化物は、成長速度が非常に遅いため、0.1μm以下の微細な粒径を有するようになる。
【0021】
次いで、これらのねじ軸1、ナット2、ボール3、及びセパレータ10を組み込んで、ボールねじ100を完成させる。
このように、本実施形態におけるボールねじ100によれば、ねじ軸1、ナット2、ボール3の少なくともいずれか一つを、上述の合金鋼から構成するとともに、この合金鋼から構成されたねじ軸1、ナット2、或いはボール3の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%であるとともに、その表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出していることによって、転がり疲労特性を向上させ、長寿命化を実現することが可能となる。
【0022】
また、本実施形態におけるボールねじ100によれば、合金鋼の形成材料としてVを添加したことによって、窒素の拡散を促進するため、必要以上に窒素濃度を高くしなくても、優れた耐摩耗性を得ることができる。このため、熱処理後の研削取り代の大きな大型の転動装置においても熱処理時間を短く抑えることができ、安価で供給することが可能となる。
【0023】
なお、本実施形態においては、転動装置としてボールねじについて説明したが、これに限らず、例えば、転がり軸受、リニアガイドなどいずれの転動装置に適用することも可能である。
【0024】
【実施例】
次に、本発明の効果を、以下の実施例に基づき検証する。
実施例に用いるボールねじは、ねじ軸及びナットを、Cが0.41重量%、Siが0.35重量%、Mnが0.81重量%、Crが1.51重量%、Vが1.05重量%、Moが0.05重量%、Niが0重量%とした本発明の合金鋼から構成し、ボールをSUJ2から構成した。
【0025】
一方、比較例のボールねじは、ねじ軸及びナットを、Cが0.18〜0.23重量%、Siが0.15〜0.35重量%、Mnが0.60〜0.85重量%、Crが0.90〜1.20重量%、Moが0.15〜0.30重量%の範囲で含まれたSCM420H(JISに準拠)の合金鋼から構成し、ボールをSUJ2から構成した。
【0026】
そして、実施例のボールねじを構成する本発明の合金鋼には、以下の条件下で浸炭窒化処理を施した。
〔浸炭窒化処理〕
温度920〜950℃で、6〜8時間、吸熱形ガス雰囲気中にエンリッチガス及びアンモニアガスを加えて、浸炭窒化を行った。そして、その後、常温まで空冷又は除冷し、温度820〜880℃で二次焼入れを施した後、温度160〜180℃で、2〜3時間の焼き戻しを行った。
【0027】
一方、比較例のボールねじを構成するSCM420Hには、以下の条件で浸炭焼入れ処理を施した。
〔浸炭焼入れ処理〕
温度920〜950℃で、6〜8時間、通常の浸炭処理を行った後、常温まで放冷し、温度820〜880度で二次焼入れを施した後、温度160〜180℃で、2〜3時間の焼き戻しを行った。
【0028】
ここで、上述の浸炭窒化処理を施した後の本発明の合金綱における表面窒素濃度は、0.86重量%で、表面炭素濃度は0.22重量%で、粒径0.1μm以下の炭化物の個数は624個/100μm2 であった。
また、耐久性は、実施例及び比較例のボールねじを軸受寿命試験機に取り付け、下記の条件下で回転させ、耐久試験を行った。なお、試験中は定期的にねじ軸外観の観察を行い、ねじ軸に剥離が認められた時点を寿命とした。ここで、計算される寿命は、日本精工株式会社カタログから算出した値であり、計算寿命に対する実際の寿命を寿命比として、ワイブルプロットの横軸に表している。そして、この結果を、ワイブル分布のグラフ(累積破損確率−寿命比)にプロットした実施例の結果を図2に示し、比較例の結果を図3に示す。
(耐久試験条件)
回転数:500min−1
アキシアル荷重:11770N
図2及び図3から分かるように、実施例におけるボールねじの耐久性は、比較例と比べて大幅に向上していることが確認できた。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の転動装置によれば、内方部材、外方部材、及び転動体の少なくともいずれか一つの部材が、バナジウムを添加し、且つ、浸炭窒化処理を施すことで表面硬化させた鋼材から構成されていることによって、転がり疲労特性を向上させることが可能となる。
【0030】
特に、外方部材、内方部材、転動体の少なくともいずれか一つの部材が、Cを0.1〜0.7重量%、Siを0.1〜1.5重量%、Mnを0.1〜1.5重量%、Crを0.5〜3.0重量%、Vを0.6〜2.0重量%、Moを3.0重量%以下、Niを2.0重量%以下の範囲で含む合金鋼から構成されているとともに、合金鋼から構成された部材の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%であるとともに、前記部材の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出していることによって、転がり疲労特性を確実に向上させることが可能となる。
【0031】
すなわち、本発明の転動装置は、電動射出成型機など高速・高荷重条件下で使用される機器に好適に利用することが可能となる。
本発明の転動装置の製造方法によれば、本発明の転動装置を容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における転動装置の一例として、ボールねじの一構成例を示す断面図である。
【図2】本実施例のワイブル寿命分布の結果を示すグラフである。
【図3】比較例のワイブル寿命分布の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ねじ軸(内方部材)
1a 第一のねじ軸
2 ナット(外方部材)
2a 第二のねじ軸
3 ボール(転動体)
4 リターンチューブ
4a チューブ押さえ
5 フランジ
6 防塵用シール
10 セパレータ
100 ボールねじ(転動装置)
Claims (4)
- 内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置において、
前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材が、バナジウムを添加し、且つ、浸炭窒化処理を施すことで表面硬化させた鋼材から構成されていることを特徴とする転動装置。 - 内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置において、
前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材が、Cを0.1〜0.7重量%、Siを0.1〜1.5重量%、Mnを0.1〜1.5重量%、Crを0.5〜3.0重量%、Vを0.6〜2.0重量%、Moを3.0重量%以下、Niを2.0重量%以下の範囲で含む合金鋼から構成されているとともに、
前記合金鋼から構成された部材の表面炭素濃度は0.7〜1.3重量%で、表面窒素濃度は0.15〜0.30重量%であるとともに、前記部材の表面には、粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、或いは炭窒化物が少なくとも400個/100μm2 以上析出していることを特徴とする転動装置。 - 電動射出成型機用に構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の転動装置。
- 内方部材と、外方部材と、前記内方部材及び前記外方部材の間に転動自在に配設される複数の転動体と、当該複数の転動体間に介装され、前記転動体を保持する複数のセパレータとを備えた転動装置の製造方法であって、
前記内方部材、前記外方部材、及び前記転動体の少なくともいずれか一つの部材を、Cが0.1〜0.7重量%、Siが0.1〜1.5重量%、Mnが0.1〜1.5重量%、Crが0.5〜3.0重量%、Vが0.6〜2.0重量%、Moが3.0重量%以下、Niが2.0重量%以下の範囲で含まれる合金鋼で構成するとともに、
前記合金鋼で構成した前記部材に、920℃以上で浸炭窒化処理を行うことを特徴とする転動装置の製造方法。
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