JP2006073320A - 高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材 - Google Patents

高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材 Download PDF

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Abstract

【課題】機械強度及び導電性に優れ、高温下でも変形しにくく、安価な原材料を使用して製造することが可能な高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を提供すること。
【解決手段】 等方性黒鉛材に、熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材であって、上記等方性黒鉛材は、平均気孔半径が2μm以下で、50〜400℃における線膨張係数が4.0×10−6〜5.5×10−6/℃であり、上記熱硬化性樹脂は、硬化後の体膨張係数が9×10−5/℃以下であることを特徴とする高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材。
【選択図】 なし

Description

本発明は、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材に関する。
近年、電解質としてプロトン導電性の固体高分子膜を用いた高分子電解質型燃料電池(以下、高分子電解質型燃料電池ともいう)の開発が進められている。
高分子電解質型燃料電池の基本的な構造及び作動原理は以下の通りである。
図1は、高分子電解質型燃料電池を構成する単セルの構造を模式的に示した断面図である。
図1に示した通り、高分子電解質型燃料電池の単セル10では、パーフルオロカーボンスルフォン酸等からなる固体高分子電解質膜11の両面に空気極12(正極)と燃料極13(負極)とがそれぞれ配置されて膜電極接合体14を構成しており、空気極12と燃料極13の外側には、セパレータ15がそれぞれ当接されている。
このセパレータ15には、空気極12と接する側に空気溝15aが形成されるとともに、燃料極13と接する側に燃料ガス溝15bが形成されており、空気溝15aに空気を流すことにより空気極12に空気を供給し、燃料ガス溝15bに燃料ガスを流すことにより、燃料極13に燃料ガスを供給する。
なお、このような高分子電解質型燃料電池の単セル10から得られる電位差(電圧)は小さいため、実際に使用する場合は、高分子電解質型燃料電池の単セル10を複数積層してスタックを形成し、大きな電位差(電圧)が得られるようにする。
高分子電解質型燃料電池では、燃料極13に燃料ガスを供給し、空気極12に空気を供給すると、燃料極13においては、下記反応式(1)に示す反応が起こり、空気極12においては、下記反応式(2)に示す反応が起こる。
その結果、高分子電解質型燃料電池全体では、下記反応式(3)に示す反応が起こることとなる。
2H→4H+4e・・・(1)
+4H+4e→2HO・・・(2)
2H+O→2HO・・・(3)
このように、高分子電解質型燃料電池では、燃料極13において反応式(1)で表される反応により電子(4e)が生成し、この電子が外部負荷回路を経由して空気極12に移動する際に、外部負荷回路において行う仕事が電力として取り出される。
また同時に、高分子電解質型燃料電池では、燃料極13において反応式(1)で表される反応により水素イオン(4H)が生成し、この水素イオンが固体高分子電解質膜11を経由して空気極12に移動し、酸素と反応する。その結果、高分子電解質型燃料電池では、上記反応式(2)及び(3)に示したように、発電に伴って水素と酸素とが反応して、空気極12において水が生成することとなる。
このような高分子電解質型燃料電池用セパレータ15では、両面に設けられた溝に供給される燃料ガスと空気とが混入しないように、優れた気体不浸透性が要求される。また、高分子電解質型燃料電池は発電時に70〜100℃に発熱するため、発熱時においても優れた気体不浸透性が保持されることが要求される。更に、発電して得られたエネルギーを効率よく利用することができるように、電気抵抗が低いことも要求される。
このような材料特性が要求される高分子電解質型燃料電池用セパレータとしては、通常、金属系セパレータ、カーボン系セパレータ等が用いられる。
金属系セパレータとしては、白金等の貴金属を使用したものや、ステンレス鋼を使用したもの等が開発されている。白金等の貴金属を使用した金属系セパレータは、腐食されることなく長期間安定して使用することができるが、高分子電解質型燃料電池全体での貴金属の使用量が多くなるため、製作コスト的に用途はかなり限定される。一方、ステンレス鋼を使用した金属系セパレータは、安価ではあるものの腐食の問題や、溶出した金属が固体高分子電解質膜のスルホン酸基と結合してプロトン伝導特性を劣化させ電池性能を低下させる問題等があった。
カーボン系セパレータとしては、以下のタイプのものが主に考案されている。
(タイプI)ガラス状カーボンを使用したセパレータ
(タイプII)熱硬化性樹脂とカーボン粉体の混合物を成形・硬化させたセパレータ
(タイプIII)等方性黒鉛材にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸・硬化させたセパレータ(例えば、特許文献1参照)
それぞれのタイプのカーボン系セパレータには以下のような特徴と問題点が挙げられる。
(タイプI)のセパレータは、緻密な組織構造を有し、優れた気体不浸透性を有している。
その一方で、ガラス状カーボンを焼成して製造する際には、ガスが発生してセパレータ内に残留しやすいするため、これに起因してセパレータが割れやすいといった問題や、硬度が高いため製造過程で加工が容易でないといった問題がある。
(タイプII)のセパレータは、導電性の高いカーボン粉体を使用し、成形・硬化のみでセパレータとするため、等方性黒鉛材やガラス状カーボンを作製する際に必要となる焼成・黒鉛化が不要になるといった利点がある。また、型押し成形したままセパレータとして使用できるため、溝等を形成するための加工が不要となるといった利点がある。このため低コストで製造することができ、大量生産に向いている。
しかしながら、使用する熱硬化性樹脂は、気体不浸透性及び機械強度に優れているものの絶縁体であるため、セパレータの導電性を確保するためにはその配合比を減らさなければならず、配合比を減らすと、セパレータの気体不浸透性及び機械強度が不充分となるという問題がある。このため、(タイプII)のセパレータは、導電性、気体不浸透性、及び、機械強度を同時に満たすことが困難である。
(タイプIII)のセパレータは、機械強度が高く、導電性を有する等方性黒鉛材を基材とするものであり、(タイプII)のセパレータで問題となる導電性及び機械強度に優れているものの、次のような問題点がある。
即ち、セパレータは、通常、室温で加工され、70〜100℃の環境下で使用される。そのため、加工時には、その表面をフラットに加工していても、上記した環境下では、表面に凹凸が生じることとなる。具体的には、黒鉛材の部分が凹部に、熱硬化性樹脂の部分が凸部になる。これは、等方性黒鉛材と熱硬化性樹脂の熱膨張係数が異なるため、使用時に不均一に膨張することとなるからである。
その結果,タイプIIIのセパレータでは、この熱硬化性樹脂の部分のみが、隣接する電極と強固に接触することとなる。そのため、電極とセパレータとの間で、接触抵抗が高くなり、発電時に電圧が低下してエネルギーロスの原因となる。
特開平8−222241号公報
本発明は、上記問題に鑑み、機械強度及び導電性に優れ、高温下でも変形しにくく、安価な原材料を使用して製造することが可能な高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を提供することを目的とするものである。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材は、等方性黒鉛材に、熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材であって、
上記等方性黒鉛材は、平均気孔半径が2μm以下で、50〜400℃における線膨張係数が4.0×10−6〜5.5×10−6/℃であり、
上記熱硬化性樹脂は、硬化後の体膨張係数が9×10−5/℃以下であることを特徴とする。
また、上記高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材において、上記熱硬化性樹脂は、硬化後のポアソン比が、0.35以下であることが望ましい。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材によれば、基材が導電性及び機械強度に優れた等方性黒鉛材から構成されているため、導電性に優れ、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材として必要な強度を有するとともに、切削加工が容易で加工性に優れている。
また、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材では、等方性黒鉛材の平均気孔半径が2μm以下で、等方性黒鉛材の体膨張係数(線膨張係数×3)と熱硬化性樹脂の体膨張係数との差が小さいため、高温で使用した際にも、変形したり、表面に凹凸が形成されたりしにくく、形状安定性に優れる。
また、上記高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材は、上述した特徴を有するため、セパレータとして使用した際に、隣接する電極との接触抵抗を低く抑えることができ、高分子電解質型燃料電池用セパレータとして好適に用いることができる。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材は、等方性黒鉛材に、熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材であって、
上記等方性黒鉛材は、平均気孔半径が2μm以下で、50〜400℃における線膨張係数が4.0×10−6〜5.5×10−6/℃であり、
上記熱硬化性樹脂は、硬化後の体膨張係数が9×10−5/℃以下であることを特徴とする。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材は、例えば、高分子電解質型燃料電池のセパレータとして好適に用いることができる。以下、主に、セパレータとして用いる場合を例に本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材について説明する。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を構成する等方性黒鉛材は、等方的な構造及び特性を有する黒鉛材であり、冷間等方圧加圧法(CIP法)等により作製されるものである。
上記等方性黒鉛材としては、気体不浸透性に優れたものが望ましいが、通常、表面及び内部に気孔を有し、上記気孔を上記熱硬化性樹脂により充填する。
上記等方性黒鉛材は、平均気孔半径が2μm以下である。
上記平均気孔半径が2μmを超えると、各気孔内に熱硬化性樹脂を充填した場合、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材の表面に露出する熱硬化性樹脂の面積が大きすぎるため、セパレータとして高温(70〜100℃)下で使用した際に、熱硬化性樹脂の膨張により、セパレータの表面に大きな凹凸が形成され、等方性黒鉛材と隣接する電極との接触が阻害されることとなる。その結果、セパレータと電極との接触抵抗が増大することとなり、高分子電解質型燃料電池全体のエネルギー損失が増大することとなる。
なお、上記平均気孔半径は、水銀圧入式ポロシメータにより測定することができる。
上記等方性黒鉛材は、50〜400℃における線膨張係数が4.0×10−6〜5.5×10−6/℃である。
上記線膨張係数が、4.0×10−6未満(体膨張係数1.2×10−5未満)であると、上記等方性黒鉛材の体膨張係数が、熱硬化性樹脂の体膨張係数に比べて小さすぎるため、使用時における熱硬化性樹脂の膨張の度合いが、等方性黒鉛材の膨張の度合いに比べて大きく、セパレータの表面に凹凸が形成されることとなり、電極との接触抵抗が増大し、高分子電解質型燃料電池のエネルギー損失が大きくなる。また、等方性黒鉛材の体膨張係数と熱硬化性樹脂の体膨張係数との差が大きすぎると、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材にクラックが発生する原因となることがある。
一方、上記等方性黒鉛材の線膨張係数が、5.5×10−6(体膨張係数1.7×10−5)を超えると、等方性黒鉛材自体の線膨張係数が大きすぎるため、使用時に,等方性黒鉛材の熱膨張に起因して、燃料電池内でセパレータが反り、隣接する電極との間で非接触の部分が生じ、接触抵抗が高くなるからである。
なお、等方性黒鉛材において、体膨張係数αと線膨張係数βとは、α=3βの関係を有している。
上記熱硬化性樹脂としては特に限定されず、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、樹脂アリルフタレート等が挙げられる。これらのなかでは、強酸性環境下で加水分解の起こりにくいフェノール樹脂、エポキシ樹脂が望ましい。
上記熱硬化性樹脂は、硬化後の体膨張係数が9×10−5/℃以下である。
上記体膨張係数が、9×10−5/℃を超えると、上記熱硬化性樹脂の体膨張係数が、等方性黒鉛材の体膨張係数に比べて大きすぎるため、使用時における熱硬化性樹脂の膨張の度合いが、等方性黒鉛材の膨張の度合いに比べて大きく、セパレータの表面に凹凸が形成されることとなり、電極との接触抵抗が増大し、高分子電解質型燃料電池のエネルギー損失が大きくなる。また、等方性黒鉛材の体膨張係数と熱硬化性樹脂の体膨張係数との差が大きすぎると、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材にクラックが発生する原因となることがある。
上記熱硬化性樹脂の体膨張係数は、含浸させる熱硬化性樹脂のみを容器にとり、等方性黒鉛材に含浸させた後の硬化条件と同一の条件で硬化させた後、その線膨張係数を測定し、得られた測定値を3倍することにより算出することができる。
なお、熱硬化性樹脂の体膨張係数の測定方法は、上述した方法に限定されるわけではなく、上述した方法で得られた硬化後の熱硬化性樹脂を、水銀等の液体に沈め、アルキメデス法により体積を測定し体膨張係数を算出してもよい。
また、熱硬化性樹脂を等方性黒鉛材に含浸、硬化させた後、その黒鉛部材を細かく粉砕し、比重選別した熱硬化性樹脂を水銀等の液体中に沈め、アルキメデス法により体積を測定し体膨張係数を算出することも可能である。
上記熱硬化性樹脂の硬化後のポアソン比は、0.35以下であることが望ましい。
上記ポアソン比が0.35を超えると、70〜100℃で使用した際に、等方性黒鉛材に含浸、硬化された熱硬化性樹脂が、セパレータの表面から盛り上がり、隣接する電極との接触を妨げる原因となることがある。その結果、セパレータ表面での接触抵抗が増大し、燃料電池全体でのエネルギー損失が増大することとなる。
上記熱硬化性樹脂のポアソン比は、含浸させる熱硬化性樹脂のみを容器にとり、等方性黒鉛材に含浸させた後の硬化条件と同一の条件で硬化させた後、圧力を加えた際の縦歪みと横歪みとを測定し、得られた横歪みの値を、得られた縦歪みの値で除することにより、算出することができる。
また、縦弾性係数と横弾性係数とを測定し、これらの値から下記式(4)を用いて算出することもできる。
縦段数係数/(2×横弾性係数)−1・・・(4)
また、上記熱硬化性樹脂の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材における含有量は、2〜6重量%が望ましい。
上記熱硬化性樹脂の含有量が、2重量%未満では、等方性黒鉛材の空隙を充分に充填することができず、気体不透過性が不充分となることがあり、一方、6重量%を超えると、そもそも基材そのものの気孔が多いため、熱硬化性樹脂で気孔を完全にふさぐことができず気体不浸透性が不十分となることがあるからである。
上記高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材における20℃での体積固有抵抗は、5mΩ・cm以下であることが望ましい。
上記体積固有抵抗が5mΩ・cmを超えると、高分子電解質型燃料電池に使用した際、ジュール熱が発生し、高分子電解質型燃料電池のエネルギー効率が低下することがある。より望ましい上限は3mΩ・cmである。
また、上記体積固有抵抗は、JIS R 7222「黒鉛素材の物理特性測定方法」に準拠した測定方法により測定することができる。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材におけるヤング率は12GPa以下であることが望ましい。
上記ヤング率が12GPaを超えると、脆くなるため、高い寸法精度で形状加工を行うことができなかったり、高分子電解質型燃料電池に加わった振動や衝撃により破損してしまったり、高分子電解質型燃料電池に供給されるガスの圧力によって破損してしまったりすることがある。ヤング率のより望ましい上限は11GPaである。
上記ヤング率の望ましい下限は6GPaである。6GPa未満であると、たわみやすくなるため、振動を生じやすくなり、振動の結果、破損してしまうことがある。
なお、上記ヤング率は、JIS R 7222「黒鉛素材の物理特性測定方法」に準拠した測定方法により測定することができる。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材における通気率の望ましい上限は1×10−7cm/sである。1×10−7cm/sを超えると、セパレータとして使用した際に、燃料ガス溝を流れる燃料ガスと空気溝を流れる空気とが混合してしまい、セパレータとしての機能を充分に果たすことができないことがある。
なお、通気率(cm/s)は、透過ガスの容積(cm・atm)×試料の厚さ(cm)/(試料の面積(cm)×透過ガスの圧力差(atm)×時間(秒))により求められる。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材におけるショア硬さHSは、80以下であることが望ましい。80を超えると、切削加工等の2次加工が困難となり、高い寸法精度で形状加工を行うことができないことがある。
なお、ショア硬さHSは、JIS Z 2246に規定されたショア硬さ試験方法に基づき測定されるものであり、一定の高さhから試料の試験面上に落下させたハンマのはね上がり高さhを用いて、試料の硬さを測定するショア硬さ試験において、HS=k×h/hで算出される値である。kは、ショア硬さHSとするための係数である。
次に、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を用いたセパレータの構造について、図2〜4を参照しながら説明する。
図2は、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材をセパレータに用いた高分子電解質型燃料電池の単セルの構造の一例を模式的に示した断面図である。図3は、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材からなるセパレータの燃料極側の面の一例を模式的に示した平面図である。図4は、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材からなるセパレータの空気極側の面の一例を模式的に示した平面図である。
図2に示したように、高分子電解質型燃料電池の単セル20では、固体高分子電解質膜21の両面に空気極22(正極)と燃料極23(負極)とがそれぞれ配置されて膜電極接合体24を構成しており、空気極22と燃料極23の外側には、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材からなるセパレータ30がそれぞれ当接されている。
図2〜4に示したように、セパレータ30は、熱硬化性樹脂が充填された等方性黒鉛材により構成され、燃料極23と接する側の面に、燃料ガスの流路となる燃料ガス溝31が設けられ、空気極22と接する側の面に、空気の流路となる空気溝32が設けられた矩形状かつ板状体である。
図3に示したように、燃料ガス溝31は、セパレータ30の中央部全体に設けられており、図3の横方向に設けられた2本の横溝31aと、図3の縦方向に設けられ、両端が2本の横溝31aに繋がった多数の平行な縦溝31bとからなる。燃料ガス溝31の両端には、燃料ガスを各セルの燃料ガス溝31に供給するための燃料ガス孔33と、燃料ガスを各セルの燃料ガス溝31から排出させるための燃料ガス孔34とが設けられている。
また、図3では示していないが、セパレータ30の外周部の燃料ガス溝31以外の部分には、空気を各セルの空気溝32に供給するための空気孔35と、空気を各セルの空気溝32から排出させるための空気孔36とが設けられている。
図4に示したように、空気溝32は、セパレータ30の中央部全体を蛇行する1本の溝からなる。空気溝32の両端には、酸素ガス孔35、36が設けられている。
また、図4では示していないが、セパレータ30の外周部の空気溝32以外の部分には、水素ガス孔33と水素ガス孔34とが設けられている。
なお、燃料ガス溝31と空気溝32とは、互いに直交している。セパレータ30の強度を確保するうえで効果的であるとともに、単セルを複数積層したスタック構造とした際に、水素ガス孔33、34及び酸素ガス孔35、36に接続されるパイプを配設しやすくなるからである。
燃料ガス溝31及び空気溝32の断面形状としては特に限定されず、例えば、凹形等が挙げられる。
燃料ガス溝31及び空気溝32の深さとしては特に限定されないが、セパレータ30の厚さの半分以下であることが望ましい。セパレータ30の強度を、単セルを複数積層したスタック構造としても変形や破損を生じないものとするためである。
セパレータ30の厚さとしては特に限定されないが、単セルを薄型化及び軽量化するために、セパレータに必要とされる強度を確保することができる範囲で薄いことが好ましい。なかでも、2〜3mmであることが好ましい。
なお、上記セパレータは、中央部に設けられた燃料ガス溝31又は空気溝32を仕切る凸部、及び、外周部を均一の厚さにし、これらにより燃料極及び空気極と当接してもよいし、上記セパレータの外周部の厚さを中央部の厚さよりも厚くし、また、燃料極及び空気極や固体高分子電解質膜の面積を本発明のセパレータの面積よりも小さくして、中央部のみにより燃料極及び空気極と当接してもよい。
このようなセパレータ30では、外部より燃料ガス及び空気が燃料ガス孔33及び空気孔35を通じて燃料ガス溝31及び空気溝32に連続的に供給され、使用後の燃料ガス及び空気が燃料ガス孔34及び空気孔36を通じて連続的に排出される。
上記セパレータの両面に設けられる溝は、燃料ガスの流路及び酸素ガスの流路に限定されず、例えば、燃料電池を冷却するための冷却水の流路であってもよい。
なお、上記冷却水の流路が設けられる場合には、2枚の燃料電池用セパレータを重ね合わせて使用し、冷却水が電極と接することがないように、2枚の燃料電池用セパレータ同士が接する面に冷却水を流し、それぞれの電極と接する反対面に燃料ガス及び空気を流すことになる。このとき、上記2枚の燃料電池用セパレータのうち、両方が本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材からなるセパレータであってもよいし、一方のみが本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材からなるセパレータであってもよい。
また、上記セパレータの両面に設けられる溝のパターンとしては、図3に示した燃料ガス溝31や図4に示した空気溝32に限定されないが、上記セパレータの中央部に均一に設けられることが望ましい。上記溝を流れる燃料ガス、空気、冷却水等の流体を、電極等に充分な接触面積で均一に接触させるためである。
なお、上記セパレータは、セパレータ内部に冷却水の流路を設けたものであってもよい。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材からなるセパレータでは、基材が導電性及び機械強度に優れた等方性黒鉛材から構成されているため、導電性に優れ、セパレータとして必要な強度を有するとともに、切削加工が容易で加工性に優れている。
また、等方性黒鉛材の内部に熱硬化性樹脂が充填されているため、気体不浸透性に優れている。
また、上記セパレータでは、等方性黒鉛材の平均気孔半径が2μm以下と小さく、等方性黒鉛材の体膨張係数と熱硬化性樹脂の体膨張係数との差が小さいため、高温(70〜100℃)で使用した際にも、変形したり、表面に凹凸が形成されたりしにくく、形状安定性に優れる。そのため、隣接する電極との接触抵抗が小さく、エネルギー効率の高い高分子電解質型燃料電池を提供するのに適している。
次に、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を製造する方法について説明する。
本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を製造にあたっては、まず、平均気孔半径が2μm以下で、50〜400℃における線膨張係数が4.0×10−6〜5.5×10−6/℃の等方性黒鉛材を作製する。
具体的には、例えば、ピッチコークス粉末、バインダーピッチを混練した混練物の粉砕原料を成形し、得られた成形体を焼成、黒鉛化する方法等が挙げられる。
上記ピッチコークス粉末としては特に限定されず、例えば、カルサインコークス、生コークス、ニードルコークス等の粉末が挙げられる。
上記ピッチコークス粉末の平均粒子径は、望ましい下限が5μmであり、望ましい上限が25μmである。
この範囲の粒径を有するピッチコークス粉末を用いることにより、上述した平均気孔半径を有する等方性黒鉛材を好適に製造することができるからである。
平均気孔半径のより望ましい下限は0.5μmであり、より望ましい上限は1.5μmである。
上記バインダーピッチとしては、市販の石炭系、石油系のバインダーピッチ等を用いることができる。
上記黒鉛粉末とバインダーピッチとの混合物における、上記バインダーピッチの望ましい配合量は、下限が20重量%であり、上限が40重量%である。
その理由は、20重量%以下であると、コークスどうしの接着力が弱いため、十分な強度が得られないことがあり、一方、40重量%を超えると、焼成時にバインダーピッチからの発生ガスが多く発泡や割れが発生しやすくなることがあるからである。
上記混合物を形成する成形する方法としては、冷間等方圧加圧法(CIP法)等を用いることができる。
また、この場合の成形条件としては、ゴムバッグに上記混練後の粉を詰め、100MPa程度の静水圧を加え、成形する条件が望ましい。
得られた成形体を焼成、黒鉛化する条件としては、焼成条件が5℃/時間前後の昇温速度で1000℃まで焼成する。黒鉛化条件は50℃/時間前後の昇温速度で2500〜3000℃程度で処理することが望ましい。
このような工程を経ることにより、平均気孔半径が2μm以下で、50〜400℃における線膨張係数が4.0×10−6〜5.5×10−6/℃以下の等方性黒鉛材を作製することができる。
次に、上記等方性黒鉛材に熱硬化性樹脂を含浸、硬化させる。
具体的には、例えば、減圧した容器内で、等方性黒鉛材に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた後、上記等方性黒鉛材の内部で上記未硬化の熱硬化性樹脂を硬化させる方法等が挙げられる。
上記含浸工程では、容器内に等方性黒鉛材を入れ、容器内の絶対圧力が1kPa以下になるよう減圧し一定時間保持する。次に、未硬化の熱硬化性樹脂を容器内に注入し、等方性黒鉛材を未硬化の熱硬化性樹脂に完全に浸漬させる。
上記含浸工程において、等方性黒鉛材を未硬化の熱硬化性樹脂に浸漬させる際の絶対圧力は、1kPa以下にする。絶対圧力が1kPaを超えると、基材の内部に気泡が残留し、得られる高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を使用した際、気泡が残留している部位から気体が透過する。
次に、容器内を圧縮空気等を導入することにより、1000〜2000kPa程度まで加圧し、未硬化の熱硬化性樹脂を等方性黒鉛材内に完全に含浸させる。
その後、圧力を開放し、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた等方性黒鉛材を取り出し、加熱処理を施すことにより、未硬化の熱硬化性樹脂を硬化させる。
なお、加熱温度は特に限定されず、熱硬化性樹脂の硬化温度を考慮して適宜選択すれば良いが、150℃以上であることが望ましい。
その理由は、150℃以下の場合、硬化にかかる時間が長いため、容易に硬化処理ができないことがあるためである。
このような工程を経ることにより、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を製造することができる。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
平均気孔半径1.5μm、50〜400℃における線膨張係数4.1×10−6の等方性黒鉛材(イビデン社製、ET−10)を200×300×5mmに加工した後オートクレーブに入れ、0.5kPaに減圧し、そこへ、未硬化のフェノール樹脂を等方性黒鉛材が完全に沈むまで導入した。
次に、圧縮空気にて1000kPaまで加圧し、30分保持し、圧力を開放後、未硬化のフェノール樹脂を含浸させた等方性黒鉛材をオートクレーブから取り出し、10℃/時間で200℃まで温度を上げて、フェノール樹脂を硬化し、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を作製した。
また、上述した操作を行うとともに、上記フェノール樹脂を容器内に入れ、同様の条件で硬化させることにより、体膨張係数測定用試料とした。なお、硬化後のフェノール樹脂の特性は、表1に示した。
(実施例2)
平均気孔半径0.9μm、線膨張係数(50〜400℃)5.2×10−6/℃の等方製黒鉛材(イビデン社製、T−4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を作製した。
(実施例3)
平均気孔半径0.9μm、50〜400℃における線膨張係数5.2×10−6の等方性黒鉛材(イビデン社製、T−4)を200×300×5mmに加工した後オートクレーブに入れ、0.5kPaに減圧し、そこへ、未硬化のエポキシ樹脂を等方性黒鉛材が完全に沈むまで導入した。
次に、圧縮空気にて1000kPaまで加圧し、30分保持し、圧力を開放後、未硬化のエポキシ樹脂を含浸させた等方性黒鉛材をオートクレーブから取り出し、10℃/時間で200℃まで温度を上げて、エポキシ樹脂を硬化し、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を作製した。
また、上述した操作を行うとともに、上記エポキシ樹脂を容器内に入れ、同様の条件で硬化させることにより、体膨張係数測定用試料とした。なお、硬化後のエポキシ樹脂の特性は、表1に示した。
(参考例1)
フェノール樹脂に代えて、ポリイミド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を作製した。なお、硬化後のポリイミド樹脂の特性は、表1に示した。
(比較例1)
フェノール樹脂に代えて、不飽和ポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を作製した。なお、硬化後の不飽和ポリエステル樹脂の特性は、表1に示した。
(比較例2)
黒鉛部材として、平均気孔半径5.0μm、線膨張係数(50〜400℃)4.1×10−6/℃の押出し成形黒鉛材を用いた以外は、実施例1と同様にして、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を作製した。
(比較例3)
平均気孔半径1.2μm、線膨張係数(50〜400℃)3.8×10−6/℃の等方性黒鉛材(イビデン社製、ET−15)を用いた以外は、実施例1と同様にして、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を作製した。
(比較例4)
平均気孔半径0.4μm、線膨張係数(50〜400℃)6.3×10−6/℃の等方性黒鉛材(イビデン社製、T−6)を用いた以外は、実施例1と同様にして、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材を作製した。
これらの実施例、参考例及び比較例において、黒鉛部材の平均気孔半径及び線膨張係数は、それぞれ下記の方法で測定した。
即ち、平均気孔半径は、Thermo Finnigan社製、水銀ポロシメーターPASCAL240型を用いてを測定した。
また、線膨張係数は、リガク社製、熱膨張率計TMA8310を用いて測定した。
また、実施例、参考例及び比較例において、熱硬化性樹脂の体膨張係数は、リガク社製、熱膨張率計TMA8310を用いて線膨張係数を測定し、その値を3倍することにより算出した。
また、上記熱硬化性樹脂のポアソン比は、圧縮試験器にて縦歪み、横歪みを測定し、横歪みを縦歪みで除することにより算出した。
また、実施例、参考例及び比較例で作製した高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材について、砥石研磨の後、図5に示したような表面接触抵抗測定装置80を用いて、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材の表面抵抗を測定した。
具体的には、まず、図5に示すように、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材83を電圧計に接続され、電極82a、82bで挟持し、さらに、これを、定電流電源に接続された電極81a、81bで挟持した。次に、図5に示す矢印方向に1MPaの荷重を負荷し、電流0.2Aの条件で、接触抵抗の値を下記式(5)より算出した。結果を表1に示した。
なお、高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材は、接触抵抗測定直前まで、予め、100℃雰囲気下で1時間放置しておいた。
接触抵抗(mΩ・cm)=電圧降下(mV)×電流(A)×接触面積(cm)・・・(5)
Figure 2006073320
表1に示した結果から明らかなように、実施例1に係る高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材に比べて、参考例に係る高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材では、接触抵抗が高くなっており、参考例に係る高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材では、接触抵抗がさらに高くなっている。
このことから、本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材は、接触抵抗が小さく、高分子電解質型燃料電池用セパレータ等として好適に用いることができることが明らかとなった。
高分子電解質型燃料電池を構成する単セルの構造を模式的に示した断面図である。 本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材をセパレータに用いた高分子電解質型燃料電池の単セルの構造の一例を模式的に示した断面図である。 本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材からなるセパレータの燃料極側の面の一例を模式的に示した平面図である。 本発明の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材からなるセパレータの空気極側の面の一例を模式的に示した平面図である。 表面接触抵抗測定装置の構成を模式的に示す概略図である。
符号の説明
10、20 単セル
11、21 固体高分子電解質膜
12、22 空気極
13、23 燃料極
14、24 膜電極接合体
15、30 セパレータ
15a、32 空気溝
15b、31 燃料ガス溝

Claims (2)

  1. 等方性黒鉛材に、熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材であって、
    前記等方性黒鉛材は、平均気孔半径が2μm以下で、50〜400℃における線膨張係数が4.0×10−6〜5.5×10−6/℃であり、
    前記熱硬化性樹脂は、硬化後の体膨張係数が9×10−5/℃以下であることを特徴とする高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材。
  2. 前記熱硬化性樹脂は、硬化後のポアソン比が、0.35以下である請求項1に記載の高分子電解質型燃料電池用黒鉛部材。
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