JP2006067749A - リニア同期電動機の制御方法及び装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 同期電動機1の磁極位置の推定処理とブレーキ18の開放タイミングを合わせ、推定処理の誤動作や、可動子6の暴走(垂直駆動では落下)を防止する。
【解決手段】 垂直方向に設置されたリニアモータ1での、磁極位置推定処理の開始タイミングを、ブレーキ開放指令後、所定時間だけ遅らせる。例えば、(1)ASR制御系21の推力指令値Tが所定値Trまで増加したこと、(2)可動子6の移動(落下)距離θ、(3)又は可動子6の移動(落下)速度ωからブレーキの釈放状態を検出し、さらに所定時間後に磁極位置の推定処理を開始させる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、リニア同期電動機、特に、可動子が垂直移動し、この可動子を静止保持するブレーキを備えたリニア同期電動機に好適な制御方法及び装置に関する。
同期電動機の駆動に際しては、磁極位置情報が不可欠であり、多くは磁極位置検出器の利用により、磁極位置情報を得ている。しかしながら、磁極位置検出器の取付けスペースの制約や、低コスト化を目的に、この磁極位置検出器を必要としない技術の開発が行われている。例えば、特許文献1では、速度制御系として構成した同期電動機の制御装置に対して、同じ速度指令を2度入力し、1回目はq軸電流のみで制御し、2回目はd軸電流のみで制御する。そのときの速度一定時のq軸電流とd軸電流の大きさの比より、磁極位置を推定する技術が開示されている。また、磁極位置の推定処理中に暴走を検出した場合には、瞬時に速度指令を実質的にゼロにし、ブレーキ付き電動機の場合には、ブレーキをかけることが記載されている。
特開2003−88165号公報(全体)
上記従来技術では、例えば、動作遅れが大きいブレーキを採用したシステムでは、ブレーキ保持状態のまま、推定処理を開始してしまい、正常な磁極位置推定を行えないという課題があった。また、逆にブレーキの応答が速い場合、特に垂直方向に駆動するシステムでは、ブレーキの開放が、磁極位置の推定処理に対して早すぎると、落下(暴走)の危険を伴なう。しかも、落下(暴走)の検出自体が磁極位置の推定処理の中で行われるという関係上、落下(暴走)状態の検出遅れが発生し、可動子の落下(暴走)距離の増大を引起すという課題がある。
本発明はその一面において、同期電動機の可動子を静止保持するブレーキ装置にブレーキ開放を指令した後のタイミングで、磁極位置の推定処理を開始させる。
本発明の望ましい実施態様においては、ブレーキ開放を指令した後、所定の時間遅れを持たせて磁極位置の推定処理を開始させる。
本発明の望ましい他の実施態様においては、同期電動機に対する速度制御系(ASR制御系)を活かし、その速度指令ω を実質的にゼロとしておき、このASR制御系によって得られる推力指令値Tが所定値Trになったことに応じて、又は所定値Trになった所定時間後に、磁極位置の推定処理を開始させる。
さらに、本発明の望ましい他の実施態様においては、同期電動機の可動子の移動(落下)距離θr又は移動(落下)速度ωrが所定値になったことに応じて、又は所定値になった所定時間後に、磁極位置の推定処理を開始させる。
本発明の望ましい実施態様によれば、個々のブレーキの開放時間や、停止位置毎のレールの潤滑状態、経時変化による開放時間の違いに関係なく、ブレーキの釈放と同時に磁極位置の推定処理を開始できる。
また、ブレーキ保持状態のまま、推定処理を開始してしまう磁極位置推定の失敗や、ブレーキ開放後、すぐに磁極位置推定処理が行われないことによる可動子の過大な落下(移動)や、これに伴う磁極位置推定の失敗を防止することができる。
本発明のその他の目的及び特徴は、以下に述べる実施例の説明の中で明らかにする。
以下本発明の詳細な実施例を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の以下の実施例に共通の同期電動機の制御装置の全体制御システム構成図である。リニア同期電動機1に対して、PWMインバータ2から電動機ケーブル3を介して3相交流電圧を印加する。電流検出器4は、これらのケーブル3を通してリニア同期電動機1に流れる3相交流電流のうち、2相分であるIu、Ivを検出する。位置センサ5は、リニア同期電動機1の可動子6の移動距離θに応じたパルス列を発生する。電気角演算部7は、この位置センサ5の出力パルスをカウントして、可動子6の補正前電気角θを算出する。この補正前電気角θと、後述する電気角補正値θOFSTを、加算器24で加算して、補正後電気角θ^を得る。この補正後電気角θ^を基に、3相/2相座標変換部8では、検出電流Iu、Iv及び加算器9の出力として得られるIwをq軸電流検出値iq及びd軸電流検出値idへ変換する。速度演算器10は、可動子6の移動距離θから可動子6の移動速度ωを演算する。ここでは、上昇方向の速度を正極性、下降方向の速度を負極性とする。磁極位置推定手段16の出力値であるq軸電流指令値iqと、q軸電流検出値iqは、減算器12に入力され、それらの偏差Δiq=(iq−iq)を演算する。一方、同じく磁極位置推定手段16の出力値であるd軸電流指令値idと、d軸電流検出値idは、減算器13に入力され、それらの偏差Δid=(id−id)を演算する。これらの両偏差Δiq及びΔidは、電流比例積分制御器11に入力され、比例積分制御を行い、2相指令電圧Vq及びVdを出力する。減算器14では、速度指令値ω と速度検出値ωとの偏差を演算し、速度比例積分制御器(ASR制御系)15で、推力指令値Tを算出する。推力指令値のTの極性は、上向きの推力を正極性、落下方向の推力を負極性とする。磁極位置推定手段16では、ブレーキ開放・磁極位置推定開始タイミング制御部17から出力される磁極位置推定処理開始フラグESを開始トリガーとして、磁極位置推定処理を開始し、磁極位置推定用の速度指令値ω を前記減算器14に出力する。また、磁極位置の推定が完了した時点で、補正前電気角θに含まれる電気角誤差と大きさが等しく、逆符号の電気角補正値θOFSTを出力する。なお、磁極位置推定手段16の詳細な処理に関しては、例えば、特許文献1に記載された手法を用いることができる。
前記ブレーキ開放・磁極位置推定開始タイミング制御部17は、起動信号STと可動子6の移動距離θ又は移動速度ω又は推力指令値Tを入力する。そして、磁極位置推定処理開始フラグESの他、ブレーキ駆動装置20に対するブレーキ開閉指令BRK、破線で囲んだASR制御系21を活性化するASR制御系オン指令ASRONを出力する。2相/3相座標変換部19では、補正後電気角θ^を用いて、2相指令電圧Vq及びVdを3相電圧指令値Vu、Vv、Vwへと変換し、PWMインバータ2に出力する。
図示した制御ブロックは、磁極位置推定において活性化される制御部のみを示しており、この推定処理終了後の実際の動作中においては、図示しない位置サーボ制御系を大ループとする制御系を構成するのが普通である。
駆動系において、可動子6を直線運動させるためのレール22は、制動時にブレーキ18のブレーキシューを押し付ける対象としても利用される。上下端のバッファ231,232は、可動子6が可動領域端部に達した際の衝撃を緩和する。
図2は、本発明の以下の実施例に共通するハードウェア構成図である。図2において、サーボアンプ201に対して、上位コントローラ202から指令ケーブル203を介して、ブレーキ開放・磁極位置推定開始タイミング制御部17へ起動信号STを発行する。リニア同期電動機1の可動子6の移動距離θは、位置センサ5で検出され、パルス列として、ケーブル204によりサーボアンプ201に伝送される。サーボアンプ201が出力する電動機駆動電力3φACは電動機ケーブル3でリニア同期電動機1に供給される。サーボアンプ201の発行するブレーキ開閉指令BRKはブレーキ指令ケーブル205を介してブレーキ駆動装置20に伝送される。ブレーキ駆動装置20はブレーキ開閉指令BRKに応じて、ブレーキ駆動ケーブル206を介して、可動子6に固定されたブレーキ18のブレーキシュー駆動用磁気回路に供給する励磁電流をオン・オフ制御する。ケーブル207は、ブレーキ駆動装置20の電源ケーブルであり、また、ケーブル208は、サーボアンプ201の電源ケーブルであり、それぞれAC電源に接続されている。図では、パワーラインを太線で、信号ラインを細線で示している。図1に示すPWMインバータ2、電流検出器4、電気角演算部7以下の符号7〜17、2相/3相座標変換部19、ASR制御系21は、サーボアンプ201に内蔵された制御装置である。
図3は、本発明の第1の実施例によるブレーキ開放・磁極位置推定開始タイミング制御部17の処理フローであり、図4は、その動作を説明するタイムチャートである。
磁極位置センサを持たない同期電動機1を起動する場合、最初に磁極位置推定処理を行う必要がある。前述のように、適切なタイミングでブレーキを開放しなければ、ブレーキ保持状態のまま、推定処理を開始してしまい、正常な磁極位置推定処理が行えないという課題がある。また、例えば、垂直方向に駆動するシステムでは、ブレーキの開放が、磁極位置推定手段16の処理開始に対して、早すぎる場合には、落下(暴走)が発生し、その検出遅れにより、落下(暴走)距離の増大を引起すという課題があることも既に述べた。そこで、ブレーキ18の開放完了時刻と、磁極位置推定手段16の推定処理開始時刻を一致させる必要がある。
本実施例では、時間調整パラメータtd1を設け、ブレーキ開放指令に対して、磁極位置推定処理の開始を指定時間td1だけ遅らせる手段を採用している。図3の処理フローは、磁極位置推定処理を開始したいとき、サーボアンプ201に対して、ユーザーもしくは、図2の上位コントローラ202から直接的又は間接的に起動信号STが入力されることにより起動される起動処理30である。また、この処理フローは、1秒間にN回の頻度で前回サイクルの途中から実行されることを前提としている。
起動処理30が開始されると、まず、無条件にステップ31の「ASR制御系オン&ブレーキ開放指令発行」を実行する。このステップ31では、ASR制御系オン信号ASRONをオン状態にセットし、図1に破線で囲んだASR制御系21を活性化する。同時に、ブレーキ開閉指令BRKを「閉」状態から「開」状態に変化させ、ブレーキ18の開放を開始する。次に、ステップ32で、時間計測用のタイマ変数tをゼロクリアし、ステップ33に移行する。ステップ33では、前記タイマ変数tに1演算周期Δtを加算し、判定ステップ34に移行する。判定ステップ34では、t≧td1が成立するか否かの判定を行い、成立しない場合には、ステップ35に移行する。ステップ35は、1演算周期Δt遅延処理である。一方、前記判定ステップ34で判定条件が成立すると、ステップ36に移行する。ステップ36では、磁極位置推定処理開始フラグESをON状態にセットし、終了ステップ37に移行する。
このように、図3の処理フローを実行することにより、ASR制御系オン指令ASRONとブレーキ開閉指令BRKの「開」指令発行後、td1時間後に磁極位置推定処理開始フラグESがOFF状態からON状態に変化し、磁極位置推定処理が開始される。
図4は、このときの動作の様子を示すタイムチャートである。ASR制御系オン指令40は、ASRONの状態を示し、Lowレベルの時はASRオフ指令、Highレベルの時はASRオン指令に対応する。ブレーキ開閉指令41は、BRKの状態を示す波形であり、Lowレベルの時はブレーキ閉指令、Highレベルの時はブレーキ開放指令に対応する。42は、ブレーキ保持力Fbrを示す波形であり、ブレーキ開閉指令BRKがHighレベルになった後も暫くブレーキ保持力Fbrを維持し、やがて、ブレーキ保持力Fbrが低下し始め、ゼロになる様子を表している。43は、磁極位置推定処理開始フラグESの状態を示す波形であり、Highレベルとなることで、磁極位置推定処理が開始される。波形43は、図3の処理フローの実行により、ブレーキ開閉指令BRKがHighレベルに変化した後、td1後にHighレベルに変化することになる。そこで、td1を適切に設定することにより、ブレーキ保持力Fbr42がゼロになると同時に、磁極位置推定処理を開始することが可能となる。具体的には、時間調整パラメータtd1として、ブレーキ18の仕様参照もしくは、実測により、ブレーキ開指令が発行されてから実際にブレーキ保持力Fbrがゼロとなるまでの時間を求め、その時間を設定する。
このように、本実施例によれば、ブレーキ保持状態のまま、推定処理を開始してしまうことによる磁極位置推定の失敗や、ブレーキ開放後、すぐに磁極位置推定処理を開始できないことによる可動子の過大な落下や、それによる磁極位置推定の失敗を防止することができる。
この第1の実施例では、時間調整パラメータtd1を設け、ブレーキ開信号に対して、磁極位置推定処理の開始を指定時間td1だけ遅らせる手段を採用した。このため、ブレーキ開指令が発行されてから実際にブレーキ保持力Fbrがゼロとなるまでの時間が常に一定である場合に有効である。しかし、ブレーキ18のブレーキシューの磨耗や、ブレーキシューを押付ける対象であるレール22の部位毎の潤滑状態の違い、又は、製品毎のばらつきにより、ブレーキの動作遅れ時間は、短期的、長期的又は製品毎に異なる。
そこで、本発明の第2の実施例では、ブレーキ開指令の発行後、ブレーキの保持力が十分に低下した状態を推力指令値Tから間接的に検出し、磁極位置推定処理の開始タイミングを決定する。
図5は、本発明の第2の実施例によるブレーキ開放・磁極位置推定開始タイミング制御部17の処理フローであり、図6は、その動作を説明するタイムチャートである。
図5の処理フローは、図3と同様に、磁極位置推定処理を開始したいとき、ユーザーもしくは、図2の上位コントローラ202から直接的又は間接的に起動信号STが入力されることにより起動される起動処理50である。起動ステップ50は、処理フローの起点であり、無条件に「ASR制御系オン&ブレーキ開放信号発行」ステップ51に移行する。「ASR制御系オン&ブレーキ開放信号発行」ステップ51では、ASR制御系オン指令ASRONをON状態にセットし、図1で破線で囲んだASR制御系を活性化する。同時に、ブレーキ開閉指令BRKを「閉」状態から「開」状態に変化させることで、ブレーキ18の開放を開始し、判断ステップ52に移行する。判断ステップ52では、推力指令値T≧Tが成立するか否かの判定を行い、成立しない場合には、ステップ53に移行する。ステップ53は、1演算周期Δt遅延処理でる。一方、判定ステップ52で判定条件が成立する場合には、ステップ54に移行する。ステップ54では、時間計測用のタイマ変数tをゼロクリアしステップ55に移行する。ステップ55では、前記タイマ変数tにΔtを加算し、判定ステップ56に移行する。判定ステップ56では、t≧td2が成立するか否かの判定を行い、成立しない場合には、ステップ57に移行する。ステップ57は、1演算周期Δt遅延処理である。一方、前記判定ステップ56で判定条件が成立する場合には、ステップ58に移行する。ステップ58では、磁極位置推定処理開始フラグESをON状態にセットし、終了ステップ59に移行する。
このように、図5の処理フローを実行することにより、ASR制御系オン指令ASRONとブレーキ開信号BRKの「開」指令発行後、1秒間にN回の頻度で推力指令値Tを監視する。そして、推力指令値Tが所定推力値Tを越えた時点から指定時間td2後に磁極位置推定処理開始フラグESがOFF状態からON状態に変化させ、磁極位置推定処理を開始する。
図6は、このときの動作の様子を示すタイムチャートである。61は、推力指令値Tを示す波形であり、その他の波形は、図4で既に説明した通りである。図5のステップ51が実行されると、波形40で示したASR制御系オン指令ASRONと波形41で示したブレーキ開閉指令BRKが共にLowレベルからHighレベルに変化する。すると、波形42で示したブレーキ保持力Fbrは暫く後に低下を始める。ブレーキ保持力Fbrが可動子6に加わる重力を下回ると、可動子6は落下を始める。このとき、図1の速度比例積分制御器15には正の値が入力されることとなり、その出力である推力指令値Tはゼロから増加を始める。そして推力指令値Tが所定推力値Tを越えた時点からtd2後に、磁極位置推定処理開始フラグESがON状態に変化する。ここで、所定推力値Tと指定時間td2の決め方について説明する。具体的には実験により求めることになるが、落下距離を抑制する為に、Tを出来るだけ小さく設定する方針を採る。ただし、Tを極端に小さくすると、可動子6に加わる振動や、位置センサ5の信号線へのノイズの影響による誤動作が発生する。そこで、この影響を受けない範囲でTを小さく設定している。次に、指定時間td2の決め方であるが、推力指令値Tの立ち上がり傾斜は、これから推定しようとしている電気角補正値θOFSTの絶対値が大きい程、急になる性質がある。このため、ブレーキ保持力Fbrがゼロとなる点で磁極位置推定処理開始フラグESをON状態にセットするためには、Tが一定であるならば、厳密には、未知の電気角補正値θOFSTに応じて指定時間td2を変化させる必要がある。しかし、これは実際には不可能なため、電気角補正値θOFSTの異なる複数の条件で、磁極位置推定処理を実施し、最も良好な結果の得られる指定時間td2を採用している。
このように本実施例によれば、個々のブレーキの開放時間や、停止位置毎のレールの潤滑状態、経時変化による開放時間の違いに関係なく、ブレーキの釈放と同時に磁極位置の推定処理を開始可能となる。これにより、ブレーキ保持状態のまま、推定処理を開始してしまうことによる磁極位置推定の失敗や、ブレーキ開放後、すぐに磁極位置推定処理が行われないことによる可動子の過大な落下、及び、それによる磁極位置推定の失敗を防止することができる。
図7は、本発明の第3の実施例によるブレーキ開放・磁極位置推定開始タイミング制御部17の処理フローであり、図8は、その動作を説明するタイムチャートである。
本実施例では、図5の実施例と同様の機能を、推力指令値Tではなく、移動(落下)距離もしくは移動(落下)速度の検出結果を利用して達成する。まず、先の実施例による処理フローと同様に、磁極位置推定処理を開始したいとき、ユーザーもしくは、図2の上位コントローラ202から直接的又は間接的に起動信号STが入力されることにより、起動ステップ70から起動される。起動ステップ70は、処理フローの起点であり、無条件に「ASR制御系オン&ブレーキ開放信号発行」ステップ71に移行する。「ASR制御系オン&ブレーキ開放信号発行」ステップ71では、ASR制御系オン指令ASRONをON状態にセットし、図1で破線で囲んだASR制御系21を活性化する。同時に、ブレーキ開閉指令BRKを「閉」状態から「開」状態に変化させることで、ブレーキ18の開放を開始し、判断ステップ72に移行する。判断ステップ72では、移動距離θ≧θもしくは、移動速度ω≧ωが成立するか否かの判定を行い、成立しない場合には、ステップ73に移行する。ステップ73は、1演算周期Δt遅延処理である。一方、判定ステップ72で判定条件が成立する場合には、ステップ74に移行する。ステップ74では、時間計測用のタイマ変数tをゼロクリアしステップ75に移行する。ステップ75では、前記タイマ変数tにΔtを加算し、判定ステップ76に移行する。判定ステップ76では、t≧td3が成立するか否かの判定を行い、成立しない場合には、ステップ77に移行する。ステップ77は、1演算周期Δt遅延処理である。一方、判定ステップ76で判定条件が成立する場合には、ステップ79に移行する。ステップ79では、磁極位置推定処理開始フラグESをON状態にセットし、終了ステップ79に移行する。
以上説明したように、図7の処理フローを実行することにより、ASR制御系オン指令ASRONとブレーキ開信号BRKの「開」指令発行後、1秒間にN回の頻度で可動子6の移動距離θもしくは、移動速度ωを監視し、可動子6が|θ|以上落下もしくは|ω|以上の落下速度を持った時点から指定時間td3後に磁極位置推定処理開始フラグESがOFF状態からON状態に変化し、磁極位置推定処理が開始されることになる。
図8は、このときの動作の様子を示すタイムチャートである。81及び82は、それぞれ移動距離θ及び移動速度ωを示す波形であり、その他の波形は、図4で説明した通りである。図7のステップ71が実行されると、波形40で示したASR制御系オン指令ASRONと波形41で示したブレーキ開閉指令BRKが共にLowレベルからHighレベルに変化する。すると、波形42で示したブレーキ保持力Fbrは暫く後に低下を始める。ブレーキ保持力Fbrが可動子6に加わる重力を下回ると、可動子6は落下を始める。そして移動距離θがθを上回るか、移動速度ωがωを上回った時点からtd3時間後に磁極位置推定処理開始フラグESがON状態に変化する。ここで、所定移動距離θもしくは、所定移動速度ωと指定時間td3の決め方について説明する。具体的には先の実施例と同様に、実験により求めることになるが、落下距離を抑制する為に|θ|もしくは|ω|を出来るだけ小さく設定する方針を採る。ただし、|θ|、|ω|を極端に小さくすると、可動子6に加わる振動や、位置センサ5の信号線へのノイズの影響による誤動作が発生する。そこで、上記の影響を受けない範囲で、|θ|や|ω|を小さく設定している。次に、指定時間td3の決め方であるが、可動子6の落下方向の加速度は、これから推定しようとしている電気角補正値θOFSTの絶対値が大きい程、大きくなる性質がある。これは、電気角補正値θOFSTの絶対値が大きい程、図1の破線で囲んだ速度制御系21が、可動子6に加わる重力に抗する為の上向きの推力を効率良く発生できなくなる為である。このため、ブレーキ保持力Fbrが実質的にゼロとなる点で磁極位置推定処理開始フラグESをON状態にセットするためには、θ又はωが一定であるならば、厳密には、未知の電気角補正値θOFSTに応じて指定時間td3を変化させる必要がある。しかし、これは実際には不可能なため、電気角補正値θOFSTの異なる複数の条件で、磁極位置推定処理を実施し、最も良好な結果の得られる指定時間td3を採用している。
以上説明したように、本実施例によれば、個々のブレーキの開放時間や、停止位置毎のレールの潤滑状態、経時変化による開放時間の違いに関係なく、ブレーキの釈放と同時に磁極位置の推定処理が開始可能となる。これにより、ブレーキ保持状態のまま、推定処理を開始してしまうことによる磁極位置推定の失敗や、ブレーキ開放後、すぐに磁極位置推定処理が行われないことによる可動子の過大な落下、及び、それによる磁極位置推定の失敗を防止することができる。
なお、図7のステップ71において、ブレーキ開放指令発行と同時に、ASR制御系オン指令を発し、図1のASR制御系21を活性化するものとした。しかし、ASR制御系21は、ステップ78で、磁極位置推定処理をオンすると同時に活性化するようにしても良い。
図9は、本発明の第4の実施例によるブレーキ開放・磁極位置推定開始タイミング制御部17の処理フローであり、図10は、その動作を説明するタイムチャートである。
前記実施例では、ブレーキ開指令の発行後、ブレーキの保持力が十分に低下した状態をASR制御系オン状態での、落下距離もしくは落下速度の検出結果から間接的に検出し、磁極位置推定処理の開始タイミングを決定していた。これに対して本実施例では、ASR制御系オフ状態での落下距離もしくは落下速度の検出結果を用いて行う。
前記図2、図4、図6の処理フローと同様に、磁極位置推定処理を開始したいとき、ユーザーもしくは、図2の上位コントローラ202から直接的又は間接的に起動信号STが入力されることにより、起動ステップ90から起動され、1秒間にN回の頻度で実行される。起動ステップ90は、図9のフローチャートの起点であり、無条件にASR制御系オン&ブレーキ開放信号発行のステップ91に移行する。ステップ91では、ASR制御系21を活性化するとともに、ブレーキ開閉指令BRKを「閉」状態から「開」状態に変化させることで、ブレーキ18の開放を開始し、判断ステップ92に移行する。判断ステップ92では、移動距離θ≧θ、移動速度ω≧ω、もしくは推力指令値T≧Tのいずれかが成立するか否かの判定を行い、成立しない場合には、ステップ93に移行する。ステップ93は、1演算周期Δt遅延処理である。一方、判定ステップ92で判定条件が成立する場合には、ステップ94に移行する。ステップ94では、時間計測用のタイマ変数tをゼロクリアしステップ95に移行する。ステップ95では、前記タイマ変数tにΔtを加算し、判定ステップ96に移行する。判定ステップ96では、t≧td4が成立するか否かの判定を行い、成立しない場合には、ステップ97に移行する。ステップ97は、1演算周期Δt遅延処理である。一方、判定ステップ96で判定条件が成立する場合には、ステップ98に移行する。ステップ98では、ASR制御系オン指令ASRONをON状態にセットし、図1で破線で囲んだASR制御系21を活性化すると同時に、磁極位置推定処理開始フラグESをON状態にセットし、終了ステップ99に移行する。
以上説明したように、図9の処理フローを実行することにより、ブレーキ開信号BRKの「開」指令発行後、1秒間にN回の頻度で可動子6の移動距離θ、移動速度ω、もしくは推力指令値Tを監視する。そして、可動子6が|θ|以上落下、|ω|以上の落下速度を持った時点もしくは推力指令値がTを超えた時点から指定時間td4後に、磁極位置推定処理開始フラグESがOFF状態からON状態に変化し、磁極位置推定処理が開始される。
図10は、このときの動作の様子を示すタイムチャートである。波形101は、推力指令値Tを示す波形であり、その他の波形は、図8で既に説明した通りである。図9のステップ91が実行されると、波形40で示したASR制御系オン指令ASRONと、波形41で示したブレーキ開閉指令BRKがともに、LowレベルからHighレベルに変化する。すると、波形42で示したブレーキ保持力Fbrは暫く後に低下を始める。ブレーキ保持力Fbrが可動子6に加わる重力を下回ると、可動子6は落下を始める。このとき、図1の速度比例積分制御器15には正の値が入力されることとなり、その出力である推力指令値Tは実質的にゼロから増加を始める。そして、移動(落下)距離θがθを上回るか、移動(落下)速度ωがωを上回った時点、又は推力指令値Tが所定推力値Tを越えた時点からtd4時間後に、波形43で示す磁極位置推定処理開始フラグESがON状態に変化する。
ここで、指定時間td4の決め方について説明する。ちなみに、所定推力値Tの決め方は、第2の実施例と同様で、所定移動距離θもしくは、所定移動速度ωの決め方は、第3の実施例と同様である。本実施例では、指定時間td4だけを変えながら磁極位置推定処理を実施し、最も良好な結果の得られる指定時間td4を採用している。
以上説明したように、本実施例によれば、個々のブレーキの開放時間や、停止位置毎のレールの潤滑状態、経時変化による開放時間の違いに関係なく、ブレーキの釈放と同時に磁極位置の推定処理を開始可能となる。これにより、ブレーキ保持状態のまま、推定処理を開始してしまうことによる磁極位置推定の失敗や、ブレーキ開放後、すぐに磁極位置推定処理が行われないことによる可動子の過大な落下、及び、それによる磁極位置推定の失敗を防止することができる。
本発明の実施例に共通の同期電動機の制御装置の全体制御システム構成図。 本発明の実施例に共通する同期電動機の制御装置のハードウェア構成図。 本発明の第1の実施例による磁極位置推定開始タイミング決定処理フロー。 本発明の第1の実施例による動作の様子を示すタイムチャート。 本発明の第2の実施例による磁極位置推定開始タイミング決定処理フロー。 本発明の第2の実施例による動作の様子を示すタイムチャート。 本発明の第3の実施例による磁極位置推定開始タイミング決定処理フロー。 本発明の第3の実施例による動作の様子を示すタイムチャート。 本発明の第4の実施例による磁極位置推定開始タイミング決定処理フロー。 本発明の第4の実施例による動作の様子を示すタイムチャート。
符号の説明
1…(リニア)同期電動機、2…PWMインバータ、5…位置センサ、6…可動子、7…電気角演算部、8…3相/2相座標変換部、10…速度演算器、11…電流比例積分制御器、15…速度比例積分制御器、16…磁極位置推定手段、17…ブレーキ開放・磁極位置推定開始タイミング制御部、18…ブレーキ、19…2相/3相座標変換部、20…ブレーキ駆動装置、21…ASR制御系、22…レール、231,232…バッファ、ω …速度指令値、ω…速度検出値、T…推力指令値、θ…可動子6の移動(落下)距離、θ…可動子6の補正前電気角、θOFST…電気角補正値、θ^…補正後電気角、ST…起動信号、ASRON…ASR制御系オン指令、BRK…ブレーキ開閉指令。

Claims (20)

  1. 同期電動機を駆動するPWM電力変換器と、この同期電動機の可動子を静止保持するブレーキ装置と、このブレーキ装置へ開閉を指示する駆動信号を生成するブレーキ駆動装置と、前記同期電動機の磁極位置を推定演算する磁極位置推定手段を備えた同期電動機の制御装置において、ブレーキ装置への前記駆動信号がブレーキ開放を指示した後に、前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させるタイミング制御手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  2. 請求項1において、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号が発生してから所定時間後に、前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  3. 請求項1において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成する速度指令手段と、この速度指令と可動子6の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御する速度制御器を備え、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、前記推力指令値が所定値を越えたことに応動して前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  4. 請求項3において、前記推力指令値が所定値を越えた後、さらに所定時間経過後に前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  5. 請求項1において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成する速度指令手段と、この速度指令と可動子の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御する速度制御器を備え、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、前記可動子の移動距離が所定値を越えたことに応動して前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  6. 請求項5において、前記移動距離が所定値を越えた後、さらに所定時間経過後に前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  7. 請求項1において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成する速度指令手段と、この速度指令と可動子の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御する速度制御器を備え、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、前記推力指令値が所定値を越えたとき又は前記可動子の移動距離が所定値を越えたとき、これらのいずれかが所定値を越えたことに応動して、前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  8. 請求項7において、前記いずれかが所定値を越えた後、さらに所定時間経過後に前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  9. 請求項1において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成する速度指令手段と、この速度指令と可動子の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御する速度制御器を備え、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、前記速度制御器が機能していない状態での可動子の移動距離が所定値を越えたことに応動して前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  10. 請求項1において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成する速度指令手段と、この速度指令と可動子の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御する速度制御器を備え、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、可動子の移動距離及び/又は速度が所定値を越えたことに応動して前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
  11. 同期電動機を駆動するPWM電力変換器と、この同期電動機の可動子を静止保持するブレーキ装置と、このブレーキ装置の駆動信号を生成するブレーキ駆動装置と、前記同期電動機の磁極位置を推定演算する磁極位置推定手段を備えた同期電動機の制御方法において、前記ブレーキ装置へブレーキ開放を指示するステップと、このブレーキ開放を指示した後に、前記磁極位置推定手段により、磁極位置の推定処理を開始するステップを備えたことを特徴とする同期電動機の制御方法。
  12. 請求項11において、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号が発生してから所定時間後に、前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させるステップを備えたことを特徴とする同期電動機の制御方法。
  13. 請求項11において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成するステップと、この速度指令と可動子の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御するステップと、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、前記推力指令値が所定値を越えたことに応動して前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させるステップを備えたことを特徴とする同期電動機の制御方法。
  14. 請求項11において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成するステップと、この速度指令と可動子の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御するステップと、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、可動子の移動距離が所定値を越えたことに応動して前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させるステップを備えたことを特徴とする同期電動機の制御方法。
  15. 請求項11において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成するステップと、この速度指令と可動子の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御するステップと、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、前記推力指令値が所定値を越えたとき又は前記可動子の移動距離が所定値を越えたとき、これらのいずれかが所定値を越えたことに応動して、前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させるステップを備えたことを特徴とする同期電動機の制御方法。
  16. 請求項15において、前記いずれかが所定値を越えた後、さらに所定時間経過後に前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させるステップを備えたことを特徴とする同期電動機の制御方法。
  17. リニア同期電動機を駆動するPWM電力変換器と、このリニア同期電動機の可動子を静止保持するブレーキ装置と、このブレーキ装置へ開閉を指示する駆動信号を生成するブレーキ駆動装置と、前記同期電動機の磁極位置を推定演算する磁極位置推定手段を備えたリニア同期電動機の制御装置において、ブレーキ装置への前記駆動信号がブレーキ開放を指示した後に、前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させるタイミング制御手段を備えたことを特徴とするリニア同期電動機の制御装置。
  18. 請求項17において、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号が発生してから所定時間後に、前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とするリニア同期電動機の制御装置。
  19. 請求項17において、前記磁極位置推定手段がその推定処理を開始するまで実質的にゼロである可動子の速度指令を生成する速度指令手段と、この速度指令と可動子の移動距離信号から求めた速度検出値との関係から推力指令値を演算し前記電力変換器を制御する速度制御器を備え、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、前記推力指令値が所定値を越えたことに応動して前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とするリニア同期電動機の制御装置。
  20. 請求項17において、前記リニア同期電動機は、その可動子が垂直方向に昇降するように配置され、前記タイミング制御手段は、ブレーキ開放を指示する前記駆動信号の発生後、前記可動子の落下距離及び/又は速度が所定値を越えたことに応動して、前記磁極位置推定手段にその推定処理を開始させる手段を備えたことを特徴とする垂直のリニア同期電動機の制御装置。
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