JP2006022036A - 脳の処理機能を効率化させる作用を有する香気組成物、およびその利用 - Google Patents

脳の処理機能を効率化させる作用を有する香気組成物、およびその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】 嗅覚を介して脳の処理機能を効率化させることが可能な組成物と、当該組成物の代表的な利用技術とを提案する。
【解決手段】 糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料として発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、脳の処理機能を効率化させる作用を有する。具体的には、ウィスキーやブランデーの香気成分を香気組成物として用いることができる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、脳の処理機能を効率化させる作用を有する香気組成物と、その代表的な利用、例えば、当該香気組成物を用いた医薬品、飲食品等として用いる薬学的組成物等に関するものである。
現代社会は、高度で複雑に入り組んだ構造となっている上に、24時間休むことなく活動する状態にある。その結果、人は様々なタイプの物理・化学的、心理的、社会的ストレスに曝されている。ストレスはストレッサーと言われる外部からの負荷や刺激により引き起こされる。言い換えれば、人は、外部刺激または負荷であるストレッサーを受けることによってストレスを発生させることになる。
ストレスは交感神経の働きを活発化させ、身体を緊張状態に移行させることになる。したがって、人にとってストレスが全くなかったり少なすぎたりすると、身体の緊張状態が生じなくなるため、心身の機能を鈍らせ退化させることになる。つまり、人にとってストレスが適度に存在すれば、健康状態を有効に維持できるということになる。
ここで、現代人に対しては、その高度で複雑な社会に対応するために様々な知的活動を求められる状況が増大している。この知的活動に伴い、人は様々なストレッサーの影響を受けることになる。ストレスの影響が適度であれば、知的活動も円滑・良好に行うことができるが、過剰になれば知的活動を阻害することになる。また、知的活動を円滑・良好に行うことができる場合であっても、知的活動が持続すると疲労するため、これが過剰なストレスとなり得る。
そこで、従来から、ストレスを解消または緩和する方法(ストレス対処法、リラクゼーション法)が種々提案されている。上述したように、ストレスは、人がストレッサーという刺激や負荷を感ずることで生じるものであるため、逆に、他の感覚を通じてストレスを解消または緩和することが可能となる。このようなリラクゼーション法の一つとして、アロマテラピーが存在する。アロマテラピーは、人間の嗅覚という感覚を介してストレスの解消や緩和を図る方法である。
ただし、嗅覚を通じたリラクゼーションという考え方や方法は、古くから世界各地に存在しており、各地域の環境や文化と密接に関連して独自に発展してきたものである。そのため、種々の香りが生体に好影響をもたらすことそのものは広く知られているものの、経験的な知識に基づくものが多く、その科学的根拠も明確になっているものは少ない。したがって、アロマテラピーという技術全体を見れば、未だ整理されておらず科学的な裏付けも不十分な点があるため、技術的には発展途上であると言うことができる。それゆえ、近年では、様々な香気成分が身体に与える影響を検討する研究がなされたり、このような研究から得られた知見から、実際にストレスの解消や緩和に有効な香気を特定して利用する技術が提案されたりしている。
具体的には、例えば、非特許文献1には、ワインの香りにリラクゼーション効果が存在することが開示されており、非特許文献2には、ウィスキーの香気成分にストレス緩和作用が存在することも開示されている。さらに、本出願人は、ストレスを有効に予防・軽減でき、さらに安全でかつ服用や摂取が容易な抗ストレス剤として、酒類の香気成分を有効成分として含む抗ストレス剤を提案している(特許文献1)。
特開2003−171286(平成15年6月17日公開) 永井元他、AROMA RESEARCH Vol. 1, No.4, p48 (2000) 青島均他、AROMA RESEARCH Vol. 3, No.4, p11 (2002)
ところで、知的活動には脳の処理機能が大きく影響するため、脳が効率的な処理を行うことができれば、知的活動をより円滑・良好に行うことが可能になる。これにより、知的活動の過程でストレスに影響を受け難くなったり、知的活動の持続による過剰ストレスの発生を抑制したりすることが可能となると考えられる。
しかしながら、上記従来の技術のように、嗅覚を介して、ストレスそのものの緩和や解消を図る技術は知られているが、脳の処理機能を効率化させる手法や技術は、これまで知られていなかった。
視覚や聴覚は知的活動に直接利用される感覚であるため、この経路を介して脳の処理機能を効率化させる手法は、知的活動そのものを阻害する可能性がある。これに対して、嗅覚は知的活動に直接利用されることが無い上に、嗅覚を介した手法は、過剰な臭いでない限りは概ねどのような環境でも利用可能である、香りをつけるだけなので媒体が限定されない等の利点を有する。そのため、嗅覚を介した手法や技術は、脳の処理機能を効率化させ、知的活動をより円滑・良好に進める上では非常に有効な技術であると考えられる。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、人の五感のうち、嗅覚を介して脳の処理機能を効率化させることが可能な組成物と、当該組成物の代表的な利用技術とを提案することにある。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ブランデーやウィスキーのように、蒸留後オーク製の樽で熟成させるタイプの蒸留酒では、その香りにより脳の血流量を変化させ、脳の処理資源を効率的に使用させることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明にかかる香気組成物は上記の課題を解決するために、糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、脳の処理機能を効率化させる作用を有することを特徴としている。
上記香気組成物においては、上記植物性素材が、果実または穀類であればよく、具体的には、例えば、上記果実としてブドウを、穀類としてオオムギを挙げることができる。なお、オオムギは、発芽した麦芽として用いることができる。
上記香気組成物においては、上記抽出画分としてブランデーまたはウィスキーを用いることができる。また、上記抽出画分としては、エタノールを除去したものも用いることができる。
本発明の利用は特に限定されるものではないが、上記香気組成物を含む薬学的組成物を挙げることができる。具体的には、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、洗剤、芳香剤の少なくとも何れかとして用いられる薬学的組成物を挙げることができ、代表的な例としては、芳香剤を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
以上のように、本発明では、醸造したエタノール含有物を蒸留して得られるエタノール溶液によりオーク材を抽出することで得られる抽出画分を、脳の処理機能を効率化させる有効成分として用いている。
これにより、知的活動に直接利用されない嗅覚を介して、脳の処理機能を効率化させることが可能になる上に、香気組成物であるため、幅広い環境で、かつ様々な媒体に対して処方することができる。それゆえ、脳の処理機能を効率化させ、知的活動のより円滑・良好な実施を有効に促進できるという効果を奏する。
本発明の実施の一形態について以下に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
(I)本発明にかかる香気組成物
本発明にかかる香気組成物は、糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたもの(発酵液)を蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでいる。すなわち、本発明では、植物性原料をアルコール発酵させる工程(発酵工程)と、発酵液を蒸留する工程(蒸留工程)と、蒸留により得られたエタノール溶液でオーク材を抽出する工程(抽出工程)とを少なくとも含む製造方法により香気組成物の有効成分である抽出画分を製造する。
<発酵工程>
上記エタノール溶液の製造に用いられる植物性素材は、アルコール発酵可能な程度に糖質やデンプン質を含むものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ブドウ、リンゴ、ナシ、ビワ、イチゴ、桜桃、マルメロ、モモ、アンズ等の果実;オオムギ、トウモロコシ、ライムギ、コメ等の穀類;サツマイモ、サトウキビ等のその他の素材等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。この中でも、果実や穀類が好ましく、果実としてはブドウが、穀類としてオオムギがより好ましい。なお、オオムギは、そのまま用いることもできるが、発芽したものすなわち麦芽としても用いることができる。
上記植物性素材をアルコール発酵させる方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により発酵させればよい。グルコース等の単糖類を多く含む植物性素材を原料として用いる場合は、当該植物性素材に対して必要に応じて適切な加工を施した上で、水および必要に応じてその他の原料と混合し、酵母等のアルコール発酵性の微生物を用いて適切な条件で発酵させればよい。同様に、デンプン質を多く含む植物性素材を原料として用いる場合には、デンプンをグルコースに分解する糖化処理(例えば、麹や麦芽を用いる)を行った上で、酵母等のアルコール発酵性の微生物を用いて適切な条件で発酵させればよい。
アルコール発酵により得られた発酵液におけるエタノール濃度は特に限定されるものではないが、5〜10%程度の範囲内であればよい。
<蒸留工程・抽出工程>
アルコール発酵により得られた発酵液を蒸留する手法も特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ブランデー、ウィスキー、乙類焼酎等の蒸留に用いられる単式蒸留器を用いてもよいし、甲類焼酎等の蒸留に用いられる連続蒸留器を用いてもよい。
なお、蒸留により得られたエタノール溶液は、そのまま用いてもよいし、エタノール濃度を調整するために加水してもよい。エタノール溶液におけるエタノール濃度は特に限定されるものではないが、30〜50%の範囲内であればよく、40%前後が好ましい。これによりオーク材の抽出をより効率的に行うことができる。
上記エタノール溶液によるオーク材の抽出方法は特に限定されるものではなく、公知の抽出方法により抽出すればよい。通常は、オーク材に対して、必要に応じて適切な加工を施した上で、上記エタノール溶液に接触させてオーク材中の成分を抽出すればよい。接触方法は特に限定されるものではなく、エタノール溶液中に浸漬させる方法であってもよいし、オーク材で容器を作製し、この容器内にエタノール溶液を充填する方法であってもよい。
オーク材の容器としては、樽が好適に用いられる。このようなオーク製の樽としては、貯蔵型の蒸留酒の製造に用いられる樽を挙げることができる。具体的には、例えば、(a)アメリカンオークで作られた樽でバーボンウィスキーの熟成に使われた古樽であるバーボン樽、(b)スパニッシュホワイトオークで作られた樽でシェリー酒を熟成させた古樽であるシェリー樽、(c)前記バーボン樽やシェリー樽を一度スコッチ・ウィスキーの熟成に使った古樽、いわば再々使用した樽であるプレーンオーク(リフィルカスク)等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
抽出の条件も特に限定されるものではなく、抽出温度は常温の範囲内であればよいが、必要に応じて温度を変化させてもよい。また、抽出時間も特に限定されるものではないが、約1年〜30年程度の長期間にわたることが好ましい。
抽出工程により得られた抽出画分は、そのまま用いることもできるし、必要に応じてエタノールを除去してもよい。本発明にかかる香気組成物においては、その有効成分はエタノールではなく抽出画分中に含まれる複合香気成分であるため、成分としてのエタノールは必ずしも含まれていなくてもよい(後述の実施例1・2参照)。
抽出画分からエタノールを除去する方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のような濃縮処理を施すことができる。
まず、オーク材を抽出したエタノール溶液を水で希釈する。このとき、約1.1〜5倍程度、より好ましくは約2倍程度に希釈するのが好ましい。次に、希釈された溶液に対し有機溶媒を用いた抽出を行う。溶媒抽出の際に用いる有機溶媒は特に限定されるものではないが、炭素数1〜8の低級炭化水素を用いることが好ましく、炭素数1〜8の低級アルカンを用いることがより好ましく、ペンタンを用いることが好ましい。また、当該有機溶媒としては、エーテルまたはエーテルと炭素数1〜8の低級炭化水素の混合溶媒を用いることもできる。より好ましくは、エーテルとペンタンの混合溶液、さらに好ましくは前記成分の混合比(容量比)が2:1の混合溶液を用いることが好ましい。
次に、抽出した後の有機溶媒を飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄する。そのとき、中性部は有機溶媒層に分画される。有機溶媒層のみを取り出し、脱水剤、好ましくは無水硫酸ナトリウムで脱水する。その後、溶媒を除去する。溶媒の除去は、当業者が公知方法の中から適宜選択することができる。具体的には、減圧下で留去する方法、シュナイダーカラムを用いたKD濃縮器で常圧濃縮し、さらに減圧下で除去する方法を用いることが好ましい。次に、さらに残渣を減圧下、好ましくは約100mmHg程度の圧力下で蒸留し、イソアミルアルコール等のフーゼルアルコールを除去する。これにより、エタノールを除去した抽出画分を得ることができる。
<具体的な抽出画分>
本発明にかかる香気組成物は、上記製造過程を経て製造することができる。したがって、本発明にかかる香気組成物においては、有効成分(抽出画分)として、オーク製の樽で貯蔵するタイプの蒸留酒を用いることができる。具体的には、ブランデーまたはウィスキーを挙げることができる。
ブランデーは、主としてブドウを原料として製造される貯蔵型の蒸留酒であり、ウィスキーは、主として麦芽を原料として製造される貯蔵型の蒸留酒である。これら蒸留酒は、貯蔵にオーク製の樽を用いるため、貯蔵の過程でオーク材の抽出を行うことになる。したがって、本発明にかかる香気組成物に含まれる抽出画分として用いることができる。
ブランデーの製造方法の一例について説明する。まず、白ぶどうを絞り、果汁を得、これに酵母を添加し発酵させ、アルコール分8〜10%のぶどう発酵液を得る。これを銅製のシャラントポット(単式蒸溜器)Iにて二度蒸留しアルコール分約60%のエタノール溶液(ヌーベル)を得る。このヌーベルをブランデー製造用のリムーザンオーク樽(3350L容量、内面は焙煎により黒褐色に焦がされたもの)に詰め12年以上貯蔵する。これを加水によりアルコール分40%に調整することで、ブランデーが製造される。
次に、ウィスキーの製造方法の一例について説明する。まず、麦芽を粉砕し、温水と混合し糖化させ、濾過した糖液に酵母を加え発酵させ、アルコール分7.0〜7.5%の発酵液(もろみ)を得る。もろみを銅製のポットスチル(単式蒸溜器)にて二度蒸溜し、アルコール分約60%のアルコール溶液(ニューポット)を得る。次に、ホワイトオーク製のウィスキー製造用の樽(内面は直火により黒褐色に焦がされたもの)に詰め12年以上貯蔵する。これを加水によりアルコール分40%に調整することで、ウィスキーが製造される。
本発明にかかる香気組成物は、上記ウィスキーやブランデーを抽出画分(有効成分)として含有させてもよいし、前項で説明したように、抽出画分をさらに抽出してエタノールを除く等の濃縮処理を施したもの(濃縮物)を抽出画分(有効成分)として含有させてもよい。また、上記ウィスキーやブランデー、あるいはその濃縮物を精製し、この生成物を抽出画分(有効成分)として含有させてもよい。上記精製の手法は特に限定されるものではなく、例えばカラムクロマトグラフィーによる精製などの公知の方法を用いることができる。
(II)香気組成物の機能
本発明にかかる香気組成物は、脳の処理機能を効率化させる作用を有する。具体的には、後述する実施例に示すように、本発明にかかる香気組成物の有効成分であるウィスキーおよびブランデーについて、これらを呈示した状態で語想起課題を負荷し、光トポグラフィ法(NIRS)により脳血流変化を測定すると、酸化ヘモグロビン濃度の上昇抑制が見られた。
脳が活性化されると、脳の活性化部位には酸化ヘモグロビンが多く運搬されることが知られている。例えば、磁気共鳴機能画像法(fMRI)と呼ばれるMRI技術では、脳の働きを調べることが可能となっている。このfMRIはボールド効果(Blood Oxygenation Level Dependency;BOLD)と呼ばれる原理に基づいている。
ボールド効果は、例えば、文献:http://www.maghealth.or.jp/backnumber/kaihou11/kaihou11.htm(磁気と健康、会報11号、2003年6月)に開示されているように、血液に含まれるヘモグロビンがMRIの画像に影響することに基づく。つまり、ヘモグロビンに含まれる鉄原子が酸素と結合すると磁性体として強くMRIの画像に影響する。その結果、MRIの画像を形成するラジオ波が乱され、水素原子が画像化しにくくなるため、MRIの画像が暗くなる。これがボールド効果である。
脳の神経細胞が機能するためにはヘモグロビンによって運搬された酸素が必要となる。それゆえ、神経細胞の周囲の毛細血管には、鉄原子が酸素と結びついた酸化ヘモグロビンと、酸素を放出した還元ヘモグロビンとが混在している。脳のある場所のはたらきが活発になると、そこには酸化ヘモグロビンが多く運搬されることになり、酸素を放出した還元ヘモグロビンは次々と押し出される。その結果、脳の活動している場所ではMRIの画像が明るく変化する。したがって、酸化ヘモグロビンの動態を確認することで、脳の機能を調べることが可能となる。
ところで、近赤外線による光トポグラフィ法(NIRS)は頭蓋外から近赤外光を照射・受光することで、全く無侵襲で局所的に脳血流の動態を測定することができる。特に、NIRSでは、酸化ヘモグロビンの濃度を測定することが可能である。後述する実施例1に示すように、ウィスキーおよびブランデーを呈示すると、語想起課題の負荷という脳の処理状態でも、酸化ヘモグロビン濃度の上昇が抑制される。これは、脳の処理資源の動員が減少したと考えられ、脳の処理機能を効率化させたことになる。
しかも、実施例2に示すように、同じ条件で同じ課題の負荷で脳波を測定すると、眠気によらないシータ波の増加(徐波化)が見られた。それゆえ、本発明にかかる香気組成物の有効成分であるウィスキーおよびブランデーを呈示すれば、集中力が向上すると考えられる。
したがって、ウィスキーおよびブランデーのように、アルコール発酵液を蒸留してなるエタノール溶液によりオーク材を抽出することで得られる抽出画分は、脳の処理機能を効率化させる作用を有することが、本発明者らの検討により初めて明らかとなった。それゆえ、上記抽出画分を有効成分として含む本発明にかかる香気組成物は、脳の処理機能を効率化させ、知的活動のより円滑・良好な実施を有効に促進することができる。
(III)本発明の利用
本発明にかかる香気組成物の利用は特に限定されるものではなく、当該香気組成物を含む薬学的組成物として、広く用いることができる。ここで言う薬学的組成物とは、医薬品だけでなく、飲食品、医薬部外品等も含むものとする。
<医薬品>
本発明にかかる薬学的組成物としての医薬品は、上記香気組成物を含んでおり、かつ、経口投与または非経口投与が都合よく行われるものであればどのような剤形のものであってもよい。本発明に係る医薬品の剤形としては、例えば注射液、輸液、用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤等の液体製剤;散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、トローチ等の固形製剤;内湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤等が挙げられる。また、本発明においては、症状に応じて、上記剤形の医薬品をそれぞれ単独で、または組み合わせて用いることができる。
上記医薬品においては、目的に応じて、医薬の製剤技術分野において通常使用し得る公知の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、安定化剤等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。より具体的には、上記医薬品が固形製剤の場合には、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニットなどの賦形剤;澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。
また、上記医薬品が液体製剤の場合には、例えば、水、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。また、液体製剤の場合、上記医薬品は有効成分である抽出画分(または香気組成物)を用時溶解させる形態の製剤であってもよい。
上記医薬品の投与経路は特に限定されるものではなく、経口投与または非経口投与のいずれでもよい。服用の容易性の点から経口投与が可能であることが好ましい。また、上記医薬品の投与量は、投与経路、剤形、患者の症状の重篤度、年齢もしくは体重などによって適宜設定されるものであり特に限定されるものではない。
<飲食品>
本発明にかかる薬学的組成物としての飲食品は、上記香気組成物を含んでいる飲食品であれば特に限定されるものではない。例えば、サプリメントとして用いる場合には、上記医薬製剤の形態と同様で用いることができる。また、上記飲食品は、自然流動食、半消化態栄養食もしくは成分栄養食、またはドリンク剤等の加工形態とすることもできる。
さらに、上記飲食品は、アルコール飲料やミネラルウォーターに用時添加する易溶性製剤としてもよい。より具体的には、本発明に係る機能性食品としては、例えばビスケット、クッキー、ケーキ、キャンデー、チョコレート、チューインガム、和菓子等の菓子類;パン、麺類、ごはん、豆腐もしくはその加工品;清酒、薬用酒等の発酵食品;みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシング等の調味料;ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズ等の畜農食品;かまぼこ、揚げ天、はんぺん等の水産食品;果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶などの飲料等の形態が挙げられるが、特に限定されるものではない。
また、上記飲食品は、例えば、医師の食事箋に基づく栄養士の管理の下に、病院給食の調理の際に、任意の食品に対して、本発明にかかる香気組成物を加え、その場で調製した飲食品の形態で患者に与えることもできる。したがって、本発明にかかる香気組成物は、液状であっても、粉末や顆粒などの固形状であってもよい。
なお、上記飲食品は、当該分野で公知の補助成分を含んでいてもよい。このような補助成分としては、例えば、乳糖、ショ糖、液糖、蜂蜜、ステアリン酸マグネシウム、オキシプロピルセルロース、各種ビタミン類、微量元素、クエン酸、リンゴ酸、香料、無機塩などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
上記飲食品は、脳機能の効率化を図りたい場合や、脳機能の低下が予想される場合等に好ましく摂取することができるが、その摂取の経路や方法等は特に限定されるものではない。
なお、上記飲食品および前記医薬品は、他のビタミン剤、ホルモン剤、その他の栄養剤、または微量元素もしくは鉄化合物と併用することができる。例えば、上記飲食品がドリンク剤の場合、必要に応じて、他の生理活性成分、ミネラル、ホルモン、栄養成分、香味剤等を混合することができる。これにより、嗜好飲料的性格を持たせることができるため好ましい。
<医薬部外品・化粧品・洗剤・芳香剤>
本発明にかかる薬学的組成物としての医薬部外品、化粧品、洗剤または芳香剤は、上記香気組成物を含んでいるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、フレグランス製品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、歯磨き粉、洗剤、柔軟仕上げ剤、台所用洗剤、漂白剤、芳香剤等を挙げることができる。
これら製品は、当該製品において公知の形態に加工されていればよく、その組成も公知の組成に上記香気組成物が含まれておればよい。本発明にかかる薬学的組成物は、上記香気組成物を含んでいるため、芳香剤、あるいは消臭剤も兼ねた芳香剤(消臭芳香剤)等として好適に用いることができる。さらに、上述した医薬部外品、化粧品、洗剤は、その使用目的から様々な香り付けがなされることがほとんどであるため、本発明にかかる香気組成物を含有させる対象としては好適である。
上記芳香剤の具体的な組成は特に限定されるものではないが、後述する実施例3に示すように、本発明にかかる香気組成物に加えて、アルコール等の揮発促進成分、3−メチル−3メトクシブタノール、ジベンジリデンソルビトール、セイジオイル等の他の香気成分、酸化防止剤、精製水等を含んでいる構成を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
本発明について、実施例、比較例、並びに図1〜図3に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、実施例1・2における実験対象と、香気組成物の呈示および課題の施行の具体的な手法を、次に示す。
〔対象〕
以下の何れの実施例においても、実験の方法および結果につき説明を受け、承諾がなされた健常成人男子20名(平均年齢:35.8±2.5歳)を被験者とした。
〔香気組成物の呈示および課題の施行〕
コントロールとしての無嗅の水、アルコール嗅(40%)を呈示後、ブランデー、ウィスキーの香りを被験者の鼻から20cmの位置に呈示した。なお、順序効果を除く目的で、被験者をブランデー先行群とウィスキー先行群の2群にわけた。これらの香りを呈示した状態で、賦活時間10秒の語想起課題(例:国の名前をできるだけ多く想起する)を負荷した。
〔実施例1〕
香気組成物としてのウィスキーおよびブランデーが、語想起課題の施行中における脳の動態に与える効果について、光トポグラフィ法(NIRS)により脳血流変化を測定することにより検討した。
上述した手法で被験者に香気組成物(ウィスキーおよびブランデーの香り)を呈示し、語想起課題を負荷した。この課題の施行に伴い、日立メディコ製光トポグラフィ測定器を用い、片側12チャンネル、合計24チャンネルを用いて、両側の前頭葉の血流動態を測定した。各香気組成物につき、10秒の課題遂行を1試行として5試行し、片側12チャンネルずつの信号を加算平均した。なお、測定前には、各被験者に対して各香気組成物に対する嗜好調査を行うとともに、測定終了後には、課題遂行に各香り呈示間で差がなかったか、内省報告を求めた。NIRSによる脳血流変化の結果を図1に示す。
図1に示す結果から明らかなように、語想起課題により、脳に負荷がかかり、特に言語を支配する左半球の酸化ヘモグロビンが増加し、血流量の増加が確認された。コントロールである水およびアルコールの呈示時には、この血流量の上昇に差は認められなかった。
一方、香気組成物としてのブランデーおよびウィスキーの呈示時には、血流量の上昇が軽減された。特に、ブランデーの呈示時には上記上昇が最も軽減された。全ての被験者は、内省報告において、各香気組成物の呈示の間、語想起課題の遂行に際して差がないと回答した。つまり、各香気組成物の呈示時において、課題遂行に差が認められなかったので、香気組成物を呈示することで、脳での情報処理が円滑に行なわれ、脳への負担が軽減したため、語想起による血流量の増加が抑制されたものと考えられる。
このように、上記血流量の上昇は、水>アルコール>ウィスキー>ブランデーの香り呈示の順で大きかったが、語想起課題のパフォーマンス自体に変わりはなかった。そのため、脳血流動態の変化から見れば、香気組成物が、想起・遂行機能で必要とされる処理資源を効率的に使用させることを一部支持するものと考えられた。さらに、ウィスキーとブランデーとの比較では、ブランデーの方がより効果が高いという結果が示された。
〔実施例2〕
香気組成物としてのウィスキーおよびブランデーが、語想起課題の施行中における脳の動態に与える効果について、脳波を測定することにより検討した。
上述した手法で被験者に香気組成物(ウィスキーおよびブランデーの香り)を呈示し、語想起課題を負荷した。この課題の施行に伴い、脳波測定器を用い、図2に示すように、国際式10−20電極配置方における正中頭頂部(Pz)および正中中心部(Cz)で脳波を測定した。また、香気組成物を呈示し、語想起課題を提示しない場合、すなわち安静時についても同様に脳波を測定した。各香気組成物の脳波に対する影響を図3に示す。
図3に示す結果から明らかなように、ブランデーを呈示すると、語想起課題の遂行時および安静時にかかわらず、Pzの位置でシータ波が増加し、デルタ波が減少した。シータ波は、眠気を催した時に発現する脳波の波形であるが、深睡眠時に発現するデルタ波が減少しているので、このシータ波の増加は、眠気によるものではないと考えられる。シータ波の中には、瞑想時や集中力が増した時に発現するFMシータ波が知られている。ブランデーの呈示によるシータ波の増加は、ブランデーの香りによって集中力が向上したためであると考えられる。
このように、脳波のパワー解析では、ブランデーの呈示で最も大きな徐波化が得られることが明らかとなった。
〔実施例3〕
本発明にかかる香気組成物としてブランデーを用い、芳香剤を調製した。具体的には、次の表1に示す組成となるように、各成分を混合して芳香剤とした。
Figure 2006022036
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
このように、本発明によれば、脳の処理機能を効率化させ、知的活動のより円滑・良好な実施を有効に促進できる。そのため、本発明は、食品、医薬品、医薬部外品等の産業に有効に利用できるだけでなく、芳香を利用するあらゆる産業に利用可能である。
本発明の実施例1におけるNIRSによる脳血流変化の結果を示すグラフである。 本発明の実施例2において、脳波測定時に被験者に取り付けられる電極の位置を示す模式図である。 本発明の実施例2における脳波の測定結果を示すグラフである。

Claims (9)

  1. 糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、
    脳の処理機能を効率化させる作用を有することを特徴とする香気組成物。
  2. 上記植物性素材が、果実または穀類であることを特徴とする請求項1に記載の香気組成物。
  3. 上記果実がブドウであることを特徴とする請求項2に記載の香気組成物。
  4. 上記穀類がオオムギであることを特徴とする請求項2に記載の香気組成物。
  5. 上記オオムギは、発芽した麦芽として用いられることを特徴とする請求項4に記載の香気組成物。
  6. 上記抽出画分としてブランデーまたはウィスキーを用いることを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の香気組成物。
  7. 上記抽出画分として、エタノールを除去したものが用いられることを特徴とする請求項1ないし6の何れか1項に記載の香気組成物。
  8. 請求項1ないし7の何れか1項に記載の香気組成物を含むことを特徴とする薬学的組成物。
  9. 飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、洗剤、芳香剤の少なくとも何れかとして用いられることを特徴とする請求項8に記載の薬学的組成物。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2010051610A (ja) * 2008-08-29 2010-03-11 T Hasegawa Co Ltd 飲食物の風味を評価する方法
JP2011117839A (ja) * 2009-12-03 2011-06-16 T Hasegawa Co Ltd 脳血流変化測定に基づく刺激の嗜好性評価方法
JP2015061827A (ja) * 2013-08-21 2015-04-02 Shiodaライフサイエンス研究所株式会社 経鼻的脳機能調整剤及び脳神経疾患を評価するためのデータを提供する方法

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