JP2011117839A - 脳血流変化測定に基づく刺激の嗜好性評価方法 - Google Patents

脳血流変化測定に基づく刺激の嗜好性評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
被験者に刺激を与え、刺激に対する応答である脳血流量変化をfNIRSにより測定する従来の評価法を改良し、脳血流量変化を大きくする方法を与え、該脳血流量変化を指標とする嗜好性評価方法を提供すること。
【解決手段】
被験者に2以上の同種の刺激を連続して呈示し、各呈示時間内に被験者の感覚的応答である脳血流変化を測定して得られる、該脳血流変化の大きさに基づいた2以上の刺激の嗜好性評価方法において、該測定前に該嗜好性評価の課題を与えて、該課題が付加された状態で脳血流変化を測定する。
【選択図】図1

Description

本発明は、飲食品の味、匂い、あるいはこれらを総合した風味、香粧品、トイレタリー商品など消費者製品の匂い、一般消費財の視覚的デザイン、一般消費財の独特の触感あるいは風合などに対する嗜好性評価方法に関する。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚は五感と呼ばれ、ヒトや動物が生存する上で重要な感覚であるが、ヒトの場合はただ単に生存目的でこれら感覚を使用する以外に、積極的にこれらの五感そのものを楽しむといった、五感の高度な利用を行っている。
具体的には、匂い、味などの風味を有する飲食物を飲食する行為、あるいは、化粧品、フレグランス、石鹸、洗剤、トイレタリー製品、芳香剤など飲食物以外の匂いを有する製品を使用し、生活を豊かにするといった行為、映画やテレビなどの映像を楽しむ行為、携帯音楽プレーヤーで好きな音楽を聴く行為などである。
これらの製品を開発する場合には、試作品を作り、社内、社外のモニターと呼ばれる人々を対象に、好き、嫌いの程度、快・不快の程度、感覚的強弱の程度の好ましさ、製品のコンセプトが良く反映されているかなどの嗜好性評価を実施して、その結果を基に最終消費者の嗜好を予想して製品化することが一般に行なわれている。また、社内、社外の一般のモニターではなく、高度に訓練された専門家が評価を行い、嗜好性を予測する場合もある。
しかしながら、上記の嗜好性評価は、個人差、感覚疲労、体調変化などの主観的要素に大きく影響される欠点がある。特にヒトの感覚を用いて行う評価は、一般には官能評価と呼ばれるが、そうした影響を受けやすく、評価の実施に当たっては細心の注意が必要である。また、細心の注意を払ったとしても官能評価には多くの問題がある。これを克服する1つの試みとして、主観的な評価に客観性を与える手法としてQDA法(定量的記述分析法)があるが、共通用語の選定やパネルの訓練などに時間を要し、一般人を対象とする官能評価には向かないという欠点がある。
そこで、最近、ヒトの、瞳孔の大きさ、心拍数、血圧、脳波、脳磁波、脳血流、ストレスホルモン濃度などの生理応答を観察・計測する手法を採用した、新しい技術が開発され、その応用が進められている。
その中で研究が活発に行なわれ、急速に広がりつつあるのが、PET(陽電子放出断層撮影法)、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)、およびfNIRS(機能的近赤外分光分析法。光トポグラフィ装置:登録商標、日立製作所)などの脳機能イメージングである。fNIRSは、PETやfMRIのように大がかりで拘束性が強い装置を使用する分析法に比べ、着脱が容易で被験者が比較的リラックスして評価を行なうことができるという利点がある(非特許文献1)。
fNIRSは、近赤外光を使用してヘモグロビン量を計測する装置であり、特定の波長域にある近赤外光(NIR)を光ファイバーで被験者頭部の一方の側から入射し、被験者の頭部内に入射された近赤外光の一部は頭部内の組織中のヘモグロビンにより吸収され、その反射光は大脳皮質を経由して頭皮上の検出器で検出される。検出された近赤外光の強度を測定することにより被験者頭部内の吸収率が測定されるという装置である(非特許文献1)。この装置を利用した技術として、fNIRSを用いて茶のフレーバーを官能評価する際の脳活動をモニタリングし、脳のどの部位が活動しているかを開示している報告がある(非特許文献2)。
さらに、fNIRSを用いる別の提案として、脳の前頭前野が関与して視覚、聴覚、触覚といった感覚を意図的に記銘するのと同様に味の記銘についての報告がある(非特許文献3、4)。これによれば、2種の溶液を連続して味わい同じかどうかを比べる実験を行い、味に関しても意図的な記銘が観察されたとしている。また、脳の前頭前野が関与することも示している。味の記銘の現象は、情報を一時的に保ちながら操作するための構造や過程に関する理論的な枠組みである、認知心理学におけるワーキングメモリー(Working Memory:作業記憶、作動記憶とも呼ぶ)に基づくものであると考えられる。しかしながら、味、匂いなどの風味を有する飲食品に関して、おいしさの程度、好き、嫌いの程度、快・不快の程度、感覚的強弱の程度の好ましさ、製品のコンセプトの反映度などの嗜好性評価を実施すること、その結果を元に消費者の嗜好を予想して製品を決定するための評価としてfNIRSを用いることに関しては、記載も示唆されていない。さらに、化粧品、フレグランス、石鹸、洗剤、トイレタリー製品、芳香剤など飲食物以外の匂いを有する製品に関しては記載すらない。
また、本発明者らは、これまでにfNIRSを用いたいくつかの提案を行なっている。具体的には、コントロールを飲用後に試料を飲用し、その脳血流量の変化を測定し、その変化が小さい場合、順応性があると判断し、コントロールと試料とが同質の味覚を有する場合には試料飲用時の脳血流量の変化はコントロール飲用時の脳血流量の変化より少ないことを利用し、ターゲットとする飲食品をコントロールとし、これに対し、順応性が大きくなるよう風味改良剤を添加し、改善を行なう提案(特許文献1)、コントロールと試料を一組とした比較呈示法を利用した風味評価方法(特許文献2)、飲食物を飲食する際に、匂いを嗅ぐ段階(フェーズ1)、口に含む段階(フェーズ2)および飲み込む段階(フェーズ3)の各フェーズの脳血流量の変化を測定することにより風味の適正を評価することを特徴とする飲食物の風味評価方法(特許文献3)、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流量の変化を測定し、該測定結果に基づいて香料の適性を評価することを特徴とする香料の評価方法(特許文献4)、濃度の異なる味覚物質を複数調製し、被験者にそれぞれの試料を飲用させ、その時の脳血流量変化を測定し、官能評価による味の強度と脳血流量変化量が対応することを利用して、味覚物質の適性濃度を評価する方法(特許文献5)、被験者に、被験者の食経験により好みに差の出る飲食物であって、その飲食物と同一のカテゴリーに属する複数の飲食品を飲食させ、その時の脳血流量変化を測定し、脳血流量変化量の応答強度により、飲食物の風味を評価する方法(特許文献6)である。
しかしながら、上記の提案は、飲食品の風味、飲食品中の香料の評価などについてある程度有効な評価が行なうことができるものの、生理的応答の結果として得られる脳血流量変化は、その波形の揺らぎや変化量のバラツキがあり、データの信頼性にいま1つ欠けるという問題があった。さらに、飲食品の嗜好性評価で喫食を伴わない、匂いのみによる嗜好性評価に関しては、これまで有効な方法は提案されていなかった。したがって、飲食品の味、匂い、あるいはこれらを総合した風味、香粧品、トイレタリー商品など消費者製品の匂い、一般消費財の視覚的デザイン、一般消費財の独特の触感あるいは風合などヒトの外部から働きかけて生理的応答を与える刺激に対して有効で、実際の製品開発にも応用できるレベルの嗜好性評価方法の開発が求められていた。
特開2007−252350号公報 特開2008−278997号公報 特開2008−281386号公報 特開2008−304445号公報 特願2008−212086 特願2008−220695
電気学会誌,Vol.123,No.3,2003,160−163頁 Appetite,Vol.7,2006,220−232頁 檀一平太、岡本雅子 「味の記憶とヒトの脳」、p86〜94、Vol.24,No.12,BIO INDUSTRY、2007年 Masako Okamoto and Ippeita Dan、"Functional Near−Infrared Spectroscopy for Human Brain Mapping of Taste−Related Cognitive Functions"Journal of Bioscience and Bioengineering、p207〜215、Vol.103,No.3,2007年
本発明の目的は、被験者に刺激を与え、刺激に対する応答である脳血流量変化をfNIRSにより測定する従来の評価法を改良し、脳血流量変化を大きくする方法を与え、該脳血流量変化を指標とする嗜好性評価方法を提供することである。
本発明者らは、これまでの知見を詳細に検討した結果、味、匂いあるいはこれらを総合した風味評価などを行い、fNIRSで脳血流変化を測定する場合に、被験者が1つの試料、あるいは、いくつかの試料を連続して喫食あるいは匂い嗅ぎし、ただ単に評価を行うような、受動的な評価の場合には、その間に測定される脳血流変化が小さいこと、一方、特定の嗜好性製品に対して強い嗜好性を示す被験者、例えば、特定のマヨネーズが好きであると回答した被験者に対し、「被験者が好きであると回答した特定のマヨネーズと比べて、呈示する複数のマヨネーズの順位付けを行え」という課題を与え、被験者が能動的に評価を行う場合には、課題を与えない場合に比べ脳血流変化量が大きくなる事実を見出した。被験者に課題を与えて能動的に評価を行い、脳血流変化のポイントが何であるかについて検討を行った。各試料を評価する間の脳血流変化の測定のバラツキを抑え、各試料間の脳血流変化量を大きくするための条件を詳細に検討した。
前記の事実が成立するための重要なポイントは3つである。第一のポイントは、極めて基本的であるが、刺激の評価においては、2以上の同種の刺激を連続して被験者に必ず与える必要があることである。その理由は、味、匂い、映像、音声などの感覚的刺激、特に味、匂いなどの刺激は比較的短時間しかその記憶が維持されず、時間の経過とともにあいまいなものへと変化するために、2以上の同種の刺激を連続して被験者に与えることにより、被験者の刺激の比較がより客観的になり、その際の被験者の応答である脳血流変化量のバラツキが小さくなることが挙げられる。より、平易な説明を行えば、1日前、あるいは、1週間前の感覚的刺激の記憶に基づいてそれと比較した客観的な刺激の比較は、被験者にはできないのである。感覚的刺激の比較は連続して与える刺激の感覚が短ければ短いほど、その信頼性が高くなると言える。
より重要なのは、第二のポイントである。第二のポイントは前記の作業を実施する場合に、「これから呈示する、2以上の同種の刺激を順次体験して、体験終了後に嗜好性の評価を行って下さい。」という課題、あるいは、「これから呈示する、2以上の同種の製品を順次体験して、体験終了後に普段、好んで使用している製品Xを元に、呈示された製品がどの程度好ましいか、評価を行って下さい。」というような課題を与えることである。この課題を付加することにより、被験者は、より能動的に2以上の同種の刺激の評価を行うことになり、被験者の応答である脳血流変化量は課題を全く与えない場合に比べて大きくなることが確認された。
また、上記の方法で測定された、被験者の各刺激に対する脳血流変化量の大きさは、同時に実施された嗜好性評価のアンケート結果から得られた嗜好性の程度と良く一致していた。したがって、被験者のアンケート結果に基づく主観的な嗜好性評価に代えて、脳血流変化量の大きさを客観的な嗜好性評価として採用できることが確認された。
すなわち、被験者に2以上の同種の刺激を連続して呈示し、各呈示時間内に被験者の感覚的応答である脳血流変化量を測定して得られる、該脳血流変化量の大きさに基づいた2以上の刺激の嗜好性評価方法において、該測定前に該嗜好性評価の課題を与えて、該課題が付加された状態で脳血流変化を測定することにより、実際の製品開発に応用できる客観的な嗜好性評価方法が提供できることが判明し、本発明を完成させた。
かくして、本発明は、被験者に2以上の同種の刺激を連続して呈示し、各呈示時間内に被験者の感覚的応答である脳血流変化を測定して得られる、該脳血流変化の大きさに基づいた2以上の刺激の嗜好性評価方法であって、該測定前に該嗜好性評価の課題を与えて、該課題が付加された状態で脳血流変化を測定することを特徴とする2以上の刺激の嗜好性評価方法を提供するものである。
また、本発明は、脳血流が、大脳皮質の血流であることを特徴とする前記の嗜好性評価方法を提供するものである。
また、本発明は、脳血流量変化が、血液中のヘモグロビン量の変化を近赤外分光法により測定することを特徴とする前記の嗜好性評価方法を提供するものである。
また、本発明は、脳血流量変化が大脳前頭外側部の脳血流量変化であることを特徴とする前記の嗜好性評価方法を提供するものである。
また、本発明は、被験者に与える刺激が匂いを有する試料の匂い嗅ぎである前記の嗜好性評価方法を提供するものである。
また、本発明は、被験者に与える刺激が風味を有する試料の飲食である前記の嗜好性評価方法を提供するものである。
本発明によれば、匂いを有する試料の匂い嗅ぎ、あるいは、風味を有する試料の飲食などの各種刺激に対する、嗜好性評価方法を提供できる。さらに、本発明の嗜好性評価方法を用いることにより、消費者の嗜好を予想して製品を決定することが可能となり、商品開発のスピードと妥当性を顕著に増加させることが出来る。
図1は、課題が付加された状態での3種の精油混合物の匂い嗅ぎと脳血流変化を示した説明図である。(実施例1) 図2は、課題の付加がない状態での3種の精油の匂い嗅ぎと脳血流変化(課題なし)を示した説明図である。(比較例1) 図3は、試料の提示〜評価〜安静〜アンケートの間のタイムスケジュールを示した説明図である。 図4は、アイスクリームの評価方法を示した説明図である。(実施例2) 図5は、課題の付加がない状態での、ある被験者のアイスクリームA〜Cの喫食と脳血流変化を示した説明図である。(実施例2) 図6は、5名の被験者のアイスクリームの評価結果を平均し、グラフ化した説明図である。(実施例2) 図7は、5名の被験者について、その平均値でおいしさの最上位、最下位のアイスクリームの喫食に対する前頭外側部の脳血流の応答(1〜52チャンネル)を示した説明図である。(実施例2) 図8は、シャンプーの評価方法を示した説明図である。(実施例3) 図9は、課題が付加された状態でのある被験者のA〜Cの匂い嗅ぎと脳血流変化を示した説明図である。(実施例3) 図10は、被験者5名のシャンプーA〜Cの評価得点およびT検定の結果を示した説明図である。(実施例3) 図11は、5名の被験者について、その平均値でシャンプーAとBの前頭外側部の脳血流の応答(1〜52チャンネル)の比較を示した説明図である。(実施例3) 図12は、5名の被験者について、その平均値でシャンプーAとCの前頭外側部の脳血流の応答(1〜52チャンネル)の比較を示した説明図である。(実施例3) 図13は、5名の被験者について、その平均値でシャンプーBとCの前頭外側部の脳血流の応答(1〜52チャンネル)の比較を示した説明図である。(実施例3)
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明における刺激とは、ヒトが持つ感覚のうち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五つの感覚、いわゆる五感と呼ばれる感覚の1種または2種以上、さらには上記の五感以外の感覚に対して、ヒトの外部から働きかけて生理的応答を与え、ヒトの脳において感覚として認知されるものをいう。具体的には、各種製品が有する感覚的刺激がこれに相当し、その場合、これら刺激は、単独で存在する場合も複数で存在する場合もある。すなわち、飲食品の味、匂い、あるいはこれらを総合した風味;香粧品、トイレタリー商品など消費者製品の匂い、あるいはパッケージの印象を含めた匂いの総合評価;一般消費財の視覚的デザイン(例えば、電子機器のデザイン、室内芳香剤の容器、飲料のボトルなど);一般消費財の独特の触感あるいは風合(例えば、新しい触感の繊維を用いた手袋、ゲル特性の異なるゲル状食品など);消費財の音声ガイダンスおよび警告音(例えば、携帯電話やコンピュータなどの電子機器の音声ガイダンスやアラーム)などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
本発明の同種の刺激とは、ごく普通に連想される同種の製品群、具体的には、例えば、市販の各種バニラアイスクリーム;市販の各種風味を有するアイスクリーム;基材そのものは同じであるが、香料を添加したまたは無添加のアイスクリーム;基材そのものは同じであるが、フルーツ果肉を添加したまたは無添加のアイスクリーム;市販の各種炭酸飲料、果実飲料、スポーツドリンク、茶系飲料など;基材そのものは同じであるが、匂い、味などの風味が異なる炭酸飲料、果実飲料、スポーツドリンク、茶系飲料など;基材等の基本組成は同一であるが、加える鰹節抽出物が異なる和風だし;基材等の基本組成は同一であるが、加える香料が異なる香水類;基材等の基本組成は同一であるが、加える香料が異なる室内芳香剤;香りの異なる市販の家庭用洗剤;天然皮革、合成皮革あるいは新素材を用いて調製された手袋;着信音の異なる携帯電話、内容の異なる観光イメージビデオなどを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
また、本発明の刺激を連続して呈示するとは、2以上の刺激を短時間のうちに順次呈示することを意味する。ここで短時間とは0.01分〜60分の範囲の時間、好ましくは0.01分〜30分、より好ましくは0.01分〜15分を挙げることができる。60分を超える範囲の時間では被験者の刺激の記憶が弱く、曖昧になり、刺激の評価の精度が低下するので好ましくない。
本発明の2以上の同種の刺激における、2以上とは、2以上、7以下の範囲内、好ましくは2以上、5以下の範囲内、より好ましくは2以上、3以下の範囲内が好ましい。
8以上になると、被験者の刺激の記憶が弱く、曖昧になり、刺激の評価の精度が低下するので好ましくない。
次に、本発明における課題とは、本発明の嗜好性評価方法において、被験者に2以上の同種の刺激を連続して呈示し、各呈示時間内に被験者の感覚的応答である脳血流変化を測定する前に与える、嗜好性評価の作業であり、被験者が行う嗜好性評価が刺激の短期記憶、いわゆるワーキングメモリーに基づく作業であることを強く意識させて、能動的な評価を行わせるための指示である。評価を開始する前にそのことを十分、被験者に説明し、十分認識させてから評価を開始する。具体的には、例えば、被験者に、「これから呈示する、2以上の匂いを順次匂い嗅ぎして、体験終了後に好みの順位付けを行って下さい。」という課題、「普段、好んで食べているアイスクリームXを元に、呈示されたアイスクリームがどの程度好ましいかを評価する。」という課題、「呈示する和風だし3試料について鰹節の風味が好ましい順位づけを行う。」という課題、「普段、好んで使用しているシャンプーAを元に、呈示されたシャンプーがどの程度好ましいかを評価する。」という課題、「呈示する4種の芳香剤について海辺をイメージする芳香剤のランクづけを行う。」「3種の精油が混合物中にどれくらい含まれた混合物かを判定する。」という課題、「呈示する3種の携帯電話の着信音に対して、耳障りとならない印象を受ける順位を付ける。」という課題、「呈示する観光のイメージビデオに最も秋を感じさせる順位づけを行う。」という課題、「呈示する3種の人工皮革の手触りに対し、最も天然皮革に近い手触りのものを選ぶ。」という課題を挙げることができるがこれらに限定されるわけではない。
次に、本発明において刺激の嗜好性評価とは、対象となる刺激に対する嗜好の程度を評価することであり、平易に説明すれば、対象となる刺激をどれくらい好きかという問いかけに対する被験者の回答である。刺激の強さまたは質に対する嗜好の程度の評価もあれば、刺激の強さおよび質、あるいは外観、感触など他の刺激などを総合した嗜好の程度の評価の場合もある。具体的には、例えば、2以上の味の強さが好ましい範囲内であるかどうかの評価あるいはその順位付け、2以上の刺激の質の評価(どれがよりフレッシュ感を有するか、どれがよりグリーン感を有するか、どれがよりバラ香気に近いか、どれがより女性に好まれるか、どれがより高級感があるかなどの評価、どれがより和風だしの風味が良好か、どれがより天然のバニラ風味を有するか、あるいはこれらの順位付け)、2以上の携帯電話のアラーム音が快適な音声であるかどうかなどを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
次に、本発明において脳血流変化の測定は、例えば、市販のfNIRSである、光トポグラフィ装置ETG−4000およびETG−7100((株)日立メディコ製:52チャンネル)、近赤外光イメージング装置OMM3000、NIRStation(株式会社島津製作所製)などで測定することができる。ETG−4000で説明すれば、この装置の原理は、頭皮上から光ファイバーを通して近赤外光(可視光より波長の長い)を照射し、血液中のヘモグロビンによる近赤外光の散乱を利用して、酸素化および還元ヘモグロビン、またこれらの合計である、総ヘモグロビン(これは脳血流量に相当する)として大脳の表面付近の血液量の変化を計測することである。脳のある部位が活動する結果、その部位に酸素を送る為の血流量(脳血流量)が増大することが知られている。ETG−4000は52チャンネルのそれぞれについて脳血流量の変化を測定することができ、計測と演算処理にかかる時間は0.1秒程度であり、リアルタイムの連続測定が可能で、2次元的なマップの作成も可能である。さらに、同装置の利点は、無侵襲(外部からの間接的な測定のみで注射、切開、電極の挿入など体への直接的な負担がない)に計測でき、被検者への拘束性も低く、繰返し、また、長時間の計測が可能なことから、被験者へのストレスなど、負の要素が少なく、嗜好性評価に適する。脳血流量変化は測定されたヘモグロビン濃度変化で表し、一般的には、その単位としてmM・cm(ミリモル・センチメートル)あるいはmM・mm(ミリモル・ミリメートル)が用いられる。また、ヘモグロビンの種類によって吸光波長が異なる点を利用し、波長の違う2つの近赤外光(695nm、830nm)を用いた酸素化及び還元ヘモグロビンの濃度変化の測定、その総和である総ヘモグロビンの濃度変化を測定することができる。
本発明の嗜好性評価方法を用いることにより、各種の製品またはサービス、例えば、飲食品、香粧品、洗剤その他のトイレタリー製品、家電、個人用電子機器、映像関連商品などに対する消費者の嗜好性の予測が可能となり、開発を効率的に行うことができる。
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
(実施例1)課題を与えることによる脳血流量の増大
被験者として20代の女性1名を選び、下記の試料Aの精油混合物の匂い嗅ぎを行わせ、脳血流量の変化を測定した。その際、被験者には事前に3種の精油を呈示し、匂い嗅ぎを行わせた上で、「3種の精油が混合物中にどれくらい含まれているかを判定する。」という課題を与え、被験者による能動的な作業として測定を行った。また、試料BおよびCについても試料Aと同様の手順で測定を行った。
脳血流量の測定は、光トポグラフィ装置ETG−4000((株)日立メディコ製:片側26チャンネル、全52チャンネル)を用い、まず、発光プローブと受光プローブを交互に3×11の配列で配置した光トポグラフィ装置の測定部を被験者の頭部に装着し、図3のタイムスケジュールで各試料のにおいを呈示した。被験者は脳血流量の計測開始後、約60秒間の安静を取った後、鼻先に設置されたノズルから呈示される試料の匂いを嗅いで、その後60秒間の安静を取った。匂いの嗅ぎ始めからその後の60秒間の安静を含めた120秒間の脳血流変化を測定した。
[試料]
市販のオレンジ精油、ラベンダー精油、ローズ精油を試料として用い、次の混合比率で試料A、B、Cを調製した。
試料A:オレンジ精油:ラベンダー精油:ローズ精油:空気=70:10:10:10
試料B:オレンジ精油:ラベンダー精油:ローズ精油:空気=30:40:20:10
試料C:オレンジ精油:ラベンダー精油:ローズ精油:空気=10:40:40:10
(比較例1)
被験者に、実施例1を行う前に、市販のオレンジ精油、ラベンダー精油、ローズ精油の各精油について匂い嗅ぎを行わせ、脳血流変化を測定した。ただし、実施例1のように課題は与えず、ただ、匂い嗅ぎを行わせ、受動的な作業として脳血流変化を測定した。
[測定結果および評価結果]
図1は実施例1の匂い嗅ぎを行っているときの、被験者の大脳前頭外側部の代表的な計測点であるチャンネル51における、典型的な酸素化ヘモグロビンの経時変化を示したものである。3回のいずれの計測においても脳血流変化量(相対値)で0.4以上の血流変化が見られ、特にオレンジ精油含量が70%である試料Aでは脳血流変化は匂い嗅ぎ開始後、40〜70秒で0.5を超える大きな変化が見られた。
図2は被験者が比較例1の匂い嗅ぎを行っているときの、大脳前頭外側部の代表的な計測点であるチャンネル51における、典型的な酸素化ヘモグロビンの経時変化を示したものである。無臭の空気と比較して、いずれの精油についても脳血流変化は非常に小さく、明瞭なピークが見られない。すなわち、課題を与えず、受動的に匂い嗅ぎの作業を行った場合には脳血流変化は少なかった。
実施例1と比較例1の結果から明らかなように、精油の匂い嗅ぎという作業を行う場合に受動的な作業の場合には脳血流変化は小さく、特定の課題を与えて作業を行わせる、能動的な作業の場合には脳血流変化は大きいという傾向が見られた。したがって、匂い嗅ぎなどの感覚的刺激の評価を行う場合に、特定の課題を与えることにより、被験者の脳血流変化など生理的応答を高めることが確認された。
(実施例2)アイスクリームの嗜好性と脳血流量変化
市販アイスクリームA、BおよびCを用意し、事前のアンケートで、アイスクリームAに嗜好性が高かった被験者5名(20〜40歳代)による風味評価を行わせ、脳血流変化を測定した。その際、被験者には、「普段、好んで食べているアイスクリームAを元に、呈示されたアイスクリームがどの程度好ましいかを評価する。」という課題を与え、被験者による能動的な作業として測定を行った。ただし、アイスクリームA、BおよびCの喫食順は告知せずに3回の測定を行なった。測定終了後に図4に示す評価表に従って、アイスクリームのおいしさを評価した。
脳血流量の測定は、光トポグラフィ装置ETG−4000((株)日立メディコ製:52チャンネル)を用い、まず、発光プローブと受光プローブを交互に3×11の配列で配置した光トポグラフィ装置の測定部を被験者の頭部に装着し、図3のタイムスケジュールで各試料を摂取した。被験者は脳血流量の計測開始後、約60秒間の安静を取った後、呈示される試料を喫食し、その後60秒間の安静を取った。喫食開始からその後の60秒間の安静を含めた120秒間の脳血流変化を測定した。
[測定結果および評価結果]
図5は、試料を喫食し、課題を付加した状態で官能評価を実施した場合の、官能評価実施中のある被験者の大脳前頭外側部の代表的な計測点であるチャンネル50における、典型的な酸素化ヘモグロビンの経時変化を示したものである。喫食の指示を0秒とした時、(15〜40秒の脳血流変化の最大値)−(0〜15秒の脳血流変化の最小値)
を課題実施中の応答量として解析を行った。
図5から明らかなようにアイスクリームAの脳血流量の最大変化はB、Cの約3.5、約2倍であり、B、Cに比べ応答が顕著に大きかった。応答の大きさには差があるものの他の4人の被験者も同様の傾向を示した。
(1)官能評価課題の結果
図6は全被験者の官能評価得点を平均して、各アイスクリーム間の比較を行った結果を示している。おいしさを含む全ての項目での平均値は、試料A>試料B、試料Cの順であり、AおよびBまたはAおよびC間でT検定を行ったところ、顕著な有意差が見られた(p<0.05)。
(2)脳血流計測結果
図7は脳血流変化を計測した52箇所(52チャンネル)における課題実施中の応答量について、おいしさが最上位と感じたアイスクリームと最下位と感じたアイスクリームの間で比較を行った結果(被験者5名の平均値)を示している。前頭外側部(9、20、22、23、30〜33チャンネル)8箇所で応答が非常に強く、T検定でも、p<0.01であった。また、5箇所(41、42、45、50および52チャンネル)は前記8箇所に次ぎ、応答がかなり強く、T検定では、0.01<p<0.05であった。さらに、2箇所(44、45チャンネル)はこれらに次ぎ、応答が比較的大きく、T検定の結果は0.05<p<0.1であった。
(3)結論
事前のアンケートでアイスクリームAに嗜好性が高かった被験者5名は、品名を知ることなしに「普段好んで食べているアイスクリームAを元に、呈示されたアイスクリームがどの程度好ましいかを評価する。」という課題を実施し、5人全員のアイスクリームAに対する脳血流変化が他のアイスクリームに対して顕著に大きく、T検定でも顕著な有意差が確認された。これらの結果から、官能評価によるおいしさの評価に代え、脳血流変化の大きさを指標とする、おいしさ(=嗜好性)の評価が可能であると考えられる。
(実施例3)シャンプーの香りの嗜好性の評価方法
市販のシャンプーA、BおよびCを用意し、200mlプラスチック製カップに各シャンプーを1ml取り、水20mlを加え、市販の水切りネット(10cm×10cm)を入れ、ガラス棒で撹拌し、良く泡立たせ、各回泡立ちの状態を揃えたものを用意した。
事前のアンケートで、シャンプーAに嗜好性が高かった被験者5名(女性、20〜30歳代)による風味評価を行わせ、脳血流変化を測定した。その際、被験者には、「普段、好んで使用しているシャンプーAを元に、呈示されたシャンプーがどの程度好ましいかを評価する。」という課題を与え、被験者による能動的な作業として測定を行った。具体的な測定の手順、すなわち、試料の呈示、喫食または匂い嗅ぎ、安静、アンケートの実施の手順は図3に示した。ただし、シャンプーA、BおよびCの匂い嗅ぎ順は告知せずに3回の測定を行なった。測定終了後に図8に示す評価表に従って、シャンプーの好ましさ、匂いの強さ、香調を評価した。評点は−3:嫌い、0:どちらでもない、3:好き、として数値化した(嗜好性の評価)。
1回の測定につき、3種類の試料を1セットとして、連続して2セットの計測を行った。2セットは、例えば、1セット目がA→B→C、2セット目がB→A→Cのように順列組合せを代えて第1日目の計測を行った。表1に第1日〜第4日の計測の順序を示した。各セット終了後、評価法を用いる評価および嗜好性の評価を実施した。
脳血流量の測定は、光トポグラフィ装置ETG−4000((株)日立メディコ製:52チャンネル)を用い、まず、発光プローブと受光プローブを交互に3×11の配列で配置した光トポグラフィ装置の測定部を被験者の頭部に装着し、図3のタイムスケジュールで各試料のにおいを呈示した。被験者は脳血流量の計測開始後、約60秒間の安静を取った後、呈示される試料を30秒間匂い嗅ぎし、その後60秒間の安静を取った。匂い嗅ぎの開始からその後の60秒間の安静を含めた120秒間の脳血流変化を測定した。
Figure 2011117839
〔測定結果および評価結果〕
図9は、試料の匂い嗅ぎを行い、課題を付加した状態で官能評価を実施した場合の、官能評価実施中のある被験者大脳前頭外側部の代表的な計測点であるチャンネル40における、典型的な酸素化ヘモグロビンの経時変化を示したものである。匂い嗅ぎ開始を0秒とした時、(20〜50秒の血流変化の最大値)−(0〜20秒の血流変化の最小値)を課題実施中の応答量として解析を行った。
(1)官能評価課題の結果
図10は全被験者のシャンプーとしての好ましさの順位評点を平均して、各シャンプー間の比較を行った結果を示している。平均値は試料A>試料B>試料Cの順で好ましさが高く、T検定の結果、試料AとB、および、試料AとCには顕著な有意差が見られた(p<0.05)。
(2)脳血流計測結果
図11〜13は脳血流変化を計測した52箇所(52チャンネル)における官能評価実施中の脳血流変化量について各シャンプー間で比較を行った結果を示している。試料Aと試料Bでは前頭外側部において若干試料A>試料Bの割合が高い計測点が見られたが、対応のあるT検定における有意差(p<0.05)は見られなかった。試料Aと試料Cでは、前頭外側部で試料A>試料Cの割合が高い計測点が多く見られ、対応のあるT検定における有意差が見られた(p<0.05)。試料Bと試料Cでは、前頭外側部において試料B>試料Cの割合が高い計測点が多く見られ、対応のあるT検定における有意差が見られた(p<0.05)。
(3)結論
以上より、「普段使用しているシャンプーを元に、呈示された試料のにおいがシャンプーとしてどの位好ましいかを評価する」という課題を付加した状態で官能評価を実施した場合の、官能評価実施中の応答には呈示した試料による差が見られ、官能評価で好ましさの得点が高い試料の応答が大きいという結果が得られた。この結果から、「普段使用しているシャンプーを元に、呈示された試料のにおいがシャンプーとしてどの位好ましいかを評価する」という課題を付加した状態で官能評価を実施した場合の、官能評価実施中の応答の大きさと官能的な好ましさには対応があるのではないかと考察することが可能である。

Claims (6)

  1. 被験者に2以上の同種の刺激を連続して呈示し、各呈示時間内に被験者の感覚的応答である脳血流変化を測定して得られる、該脳血流変化の大きさに基づいた2以上の刺激の嗜好性評価方法であって、
    該測定前に該嗜好性評価の課題を与えて、該課題が付加された状態で脳血流変化を測定することを特徴とする2以上の刺激の嗜好性評価方法。
  2. 脳血流が、大脳皮質の血流であることを特徴とする請求項1に記載の嗜好性評価方法。
  3. 脳血流量変化が、血液中のヘモグロビン量の変化を近赤外分光法により測定することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の嗜好性評価方法。
  4. 脳血流量変化が大脳前頭外側部の脳血流量変化であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の嗜好性評価方法。
  5. 被験者に与える刺激が匂いを有する試料の匂い嗅ぎである請求項1〜4のいずれかに請求項1に記載の嗜好性評価方法。
  6. 被験者に与える刺激が風味を有する試料の飲食である請求項1〜4のいずれかに記載の嗜好性評価方法。
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