以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態における車両用液圧ブレーキ装置は、ブレーキペダルBPの操作量に応じて発生するブレーキ液圧を電気的に制御し得るもので、特にエンジン(図示せず)と電気モータ(図示せず)を併用するハイブリッド車の回生協調ブレーキ装置に好適である。具体的構成例としては、図1に示すように、ブレーキ操作部材たるブレーキペダルBPの操作力に応じたストロークを付与するストロークシミュレータSM、助勢手段たるバキュームブースタVB、二つのブレーキ液圧系統HC1及びHC2の各車輪に装着されたホイールシリンダWfr,Wrl,Wfl,Wrrに対し、リザーバRSのブレーキ液を昇圧して供給し得るマスタシリンダMCを備えている。更に、本発明の電磁弁を構成する比例電磁弁SC1及びSC2と液圧ポンプHP1及びHP2を含む液圧制御手段を備え、これらをブレーキペダルBPの操作に応じて電気的に制御してブレーキ液圧を各ホイールシリンダに供給し得るように構成されている。
而して、本実施形態においては、ブレーキ・バイ・ワイヤが構成されると共に、液圧制御手段の異常時にはブレーキペダルBPの操作に応じて直接マスタシリンダMCを駆動し得るように構成されている。即ち、ブレーキペダルBPは、これに連動して前後動する入力ロッド10と、この入力ロッド10に対して相対的に移動するように配設されると共にバキュームブースタVBの調圧弁AVに装着された操作ロッド20を介し、バキュームブースタVBと連動して、あるいは直接駆動し得るように、マスタシリンダMCに連結されている。尚、図1のバキュームブースタVBは模式的に示すもので、その基本構成は従来同様であり、可動壁B1を介して定圧室B2と変圧室B3が形成され、定圧室B2は常時エンジンの吸気管(図示せず)に連通し負圧になるように構成されており、変圧室B3は調圧弁AVによって調圧され、その差圧に応じて可動壁B1が駆動される。尚、バキュームブースタVBの具体的構成例は図16に示すとおりであり、これについては後述する。以下、先ず図2乃至図7を参照して、本発明の一実施形態におけるストロークシミュレータSM内の構成及び作用について説明し、次に図1に示す液圧制御系の構成及び作用について説明した後、全体作動を説明する。
図2に拡大して示すように、ストロークシミュレータSMは、シリンダ状のハウジングSH内に、シミュレータピストン30が摺動自在に収容され、ハウジングSH内に収容された第1弾性部材たる圧縮スプリング50によって、シミュレータピストン30が後方(図2の右方)のブレーキペダルBP側に付勢されるように構成されたものである。本実施形態の圧縮スプリング50としては不等ピッチのスプリングが用いられ、ブレーキペダルBPに対する操作力(ブレーキ操作力)とブレーキペダルBPのストローク(ブレーキ操作ストローク)の関係が、マスタシリンダMCからブレーキ液圧系統HC1及びHC2にブレーキ液圧を供給した場合と同等の特性になるように設定されている。尚、ハウジングSHの後端部にはCリング60が装着されており、これによってシミュレータピストン30の後方移動が規制され、初期位置とされている。
シミュレータピストン30は円板状で、その中央に貫通孔31が形成され、その前方に延出し貫通孔31を囲繞するように円形の鍔部32が形成されている。一方、入力ロッド10の中間部にも鍔部32と略同径の鍔部11が形成されており、この鍔部11がシミュレータピストン30の鍔部32の前方(図2の左方)に位置し、鍔部32の前端面に当接し得るように配置される。更に、これらの鍔部32及び鍔部11を囲繞するように係合部材40が配設されている。この係合部材40は本発明の係合制御部材ひいては連結制御手段を構成するもので、複数の部材によって構成され、これらが環状の弾性部材(例えばゴム)41によって保持され、図7に示すように円筒状に形成されている。係合部材40には、その中間部及び後端部(図2の右側)に夫々、内側に延出する係合突起42及び係合突起43が形成されており、係合突起43はシミュレータピストン30の本体部と鍔部32との間の間隙33に嵌合され、係合部材40がシミュレータピストン30に係止されて一体的に移動し得るように構成されている。係合部材40の開口前方と係合突起42の前方には、図2乃至図7に示すようにテーパ面が形成されており、このテーパ面と略平行のテーパ面が鍔部11の後方に形成されている。
一方、操作ロッド20には円筒部21が形成されており、この円筒部21内に入力ロッド10の前端の拡径部10aが摺動自在に嵌合している。また、操作ロッド20の円筒部21内にリテーナ22が収容されると共に、入力ロッド10に固着されたロッド12がリテーナ22に対して相対的に移動可能で、ロッド12の頭部12aがリテーナ22の先端部に係合したときに、円筒部21の底面と入力ロッド10の先端面との間隔が最大となるように(換言すると、両者間を所定の間隔に規制し得るように)配設されている。そして、操作ロッド20の円筒部21の底面と入力ロッド10の先端面との間に、第2弾性部材たる圧縮スプリング70が張架され、両者を離隔する方向に付勢する、所謂吊り構造が形成されており、初期位置(図2の状態)における入力ロッド10と操作ロッド20との間が所定の間隔に規制されている。操作ロッド20の後端には、係合部材40の開口前方のテーパ面に比べて若干緩やかなテーパ面が形成されている。
而して、入力ロッド10は、その先端面が、操作ロッド20の円筒部21内に収容されたリテーナ22の後端面に当接するまでは、操作ロッド20に対して相対的に移動し、当接後は一体となって移動するように構成されている。一方、操作ロッド20は、後述するように調圧弁AVと共に前後動する。また、入力ロッド10は、その鍔部11の前端面が係合突起42の後端面に当接するまでの距離d1の間は、係合部材40ひいてはシミュレータピストン30に対して相対的に移動し、当接後は一体となって移動するように構成されている。この距離d1は、マスタシリンダ液圧が0.3MPa昇圧するストロークに設定されている。また、圧縮スプリング70の取付荷重もマスタシリンダ液圧が0.3MPa昇圧する荷重に設定され、圧縮スプリング70に撓みが生じても、マスタシリンダ液圧が殆ど昇圧せず、その荷重変化を運転者が感じない程度の低いばね定数に設定されている。更に、係合部材40の前方側テーパ面の最小径部と、操作ロッド20の円筒部21の後方側テーパ面の最大径部との間は、初期位置では図2に示すように距離d2だけ離隔しているが、両者が相対的に接近し、両者が一致すると、入力ロッド10の鍔部11と係合突起42との係合状態が解除されるように構成されている(図7の下段に示すように、図5の状態から図6の状態に移行する)。
そして、入力ロッド10とシミュレータピストン30との係合が解除された状態でブレーキペダルBPの操作が解除されたときには、圧縮スプリング70の付勢力によって入力ロッド10が初期位置に戻される。尚、ブレーキペダルBPには、その操作ストロークを検出するストロークセンサBSが設けられており、マスタシリンダMCの出力ブレーキ液圧(以下、マスタシリンダ液圧という)を監視する液圧センサ、液圧ポンプHP1及びHP2の出力液圧を監視する液圧センサ(図1ではこれらをPで表す)等の検出信号と共に、電子制御装置ECUに入力される。
次に、図1の液圧制御系について説明する。本実施形態においては、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してマスタシリンダMCが倍力駆動され、低圧リザーバRS内のブレーキ液が昇圧されてマスタシリンダ液圧が出力されるように構成されている。本実施形態のマスタシリンダMCはタンデム型のマスタシリンダで、二つの圧力室MCa及びMCbが夫々第1及び第2の液圧系統HC1及びHC2に接続されている。即ち、第1の圧力室MCaは車輪FR及びRL側の第1の液圧系統HC1に連通接続され、第2の圧力室MCbは車輪FL及びRR側の第2の液圧系統HC2に連通接続されている。尚、本実施形態では所謂X配管が構成されているが、前後配管としてもよい。
本実施形態の車輪FR及びRL側の第1の液圧系統HC1においては、第1の圧力室MCaは主液圧路MF並びにその分岐液圧路MFr及びMFlを介して夫々ホイールシリンダWfr及びWrlに接続され、主液圧路MFには比例電磁弁SC1が介装されている。また、第1の圧力室MCaは補助液圧路MFcを介して後述の逆止弁CV5とCV6との間に接続され、補助液圧路MFcには吸込弁SI1が介装されている。更に、比例電磁弁SC1に対して並列に、下流側(ホイールシリンダWfr及びWrl方向)へのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを禁止する逆止弁CV11が介装されており、この逆止弁CV11により、比例電磁弁SC1が閉位置であっても、マスタシリンダ液圧がホイールシリンダWfr及びWrl内のブレーキ液圧より大となった場合にはブレーキ液が供給され得る。
更に、本実施形態においては、分岐液圧路MFr及びMFlに夫々、常開弁NOfr及びNOrlが介装されている。また、これらと並列に夫々逆止弁CV1及びCV2が介装されている。逆止弁CV1及びCV2は、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容しホイールシリンダWfr及びWrl方向へのブレーキ液の流れを制限するもので、これらの逆止弁CV1及びCV2並びに開位置の比例電磁弁SC1を介してホイールシリンダWfr及びWrl内のブレーキ液がマスタシリンダMCひいては低圧リザーバRSに戻されるように構成されている。而して、ブレーキペダルBPが解放されたときに、ホイールシリンダWfr及びWrl内の液圧はマスタシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得る。また、ホイールシリンダWfr及びWrlに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr及びRFlに、常閉弁NCfr及びNCrlが介装されており、分岐液圧路RFr及びRFlが合流した排出液圧路RFはリザーバRS1に接続されている。このリザーバRS1は、マスタシリンダMCの低圧リザーバRSとは別に設けられるもので、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、種々の制御に必要な容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。
車輪FR及びRL側の第1の液圧系統HC1には液圧ポンプHP1が介装されている。具体的には、液圧ポンプHP1の吸入ポートは(吸込弁SI1を介して)マスタシリンダMCと比例電磁弁SC1との間の連通路に接続され、液圧ポンプHP1の吐出ポートは比例電磁弁SC1とホイールシリンダWfr及びWrlとの間の連通路に接続されている。尚、液圧ポンプHP1の吸入ポートには逆止弁CV5及びCV6を介してリザーバRS1が接続されている。液圧ポンプHP1は、液圧ポンプHP2と共に一つの電動モータMによって駆動され、吸入ポートからブレーキ液を導入し昇圧して吐出ポートから出力するように構成されている。
マスタシリンダMCは、補助液圧路MFc及びこれに介装された吸込弁SI1を介して、液圧ポンプHP1の吸入ポート側の逆止弁CV5と逆止弁CV6との間に連通接続されている。逆止弁CV5はリザーバRS1へのブレーキ液の流れを阻止し、逆方向の流れを許容するものである。また、逆止弁CV6及びCV7は液圧ポンプHP1を介して吐出されるブレーキ液の流れを一定方向に規制するもので、通常は液圧ポンプHP1内に一体的に構成されている。そして、吸込弁SI1は、図1に示す常態の閉位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸入ポートとの連通が遮断され、開位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸入ポートが連通するように切り換えられる。
車輪FL及びRR側の第2の液圧系統HC2においても同様に、比例電磁弁SC2をはじめ、吸込弁SI2、リザーバRS2、常開弁NOfl及びNOrr、常閉弁NCfl及びNCrr、逆止弁CV3,CV4,CV8乃至CV10、並びに逆止弁CV12が配設されている。液圧ポンプHP2は、電動モータMによって液圧ポンプHP1と共に駆動され、電動モータMの起動後は両液圧ポンプHP1及びHP2は連続して駆動される。上記比例電磁弁SC2、吸込弁SI2、常開弁NOfl及びNOrr、並びに常閉弁NCfl及びNCrrは前述の電子制御装置ECUによって駆動制御され、ホイールシリンダWfl及びWrr内の液圧が調圧される。
上記の構成になる液圧制御系において、通常時は、各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動モータMは停止している。この状態でブレーキペダルBPが踏み込まれると、比例電磁弁SC1及びSC2が先ず閉位置とされた後、液圧ポンプHP1及びHP2が駆動制御され、これらの出力液圧が第1及び第2の液圧系統HP1及びHP2に出力され、開位置の常開弁NOfr及びNOrl、並びに常開弁NOfl及びNOrrを介して、ホイールシリンダWfr及びWrl、並びにホイールシリンダWfl及びWrrに夫々供給される。そして、電子制御装置ECUによってストロークセンサBSの検出ストロークに応じて比例電磁弁SC1及びSC2が制御され、各ホイールシリンダ内のホイールシリンダ液圧が減圧されて、ブレーキペダルBPの操作量に応じた液圧に制御される。
更に、例えばアンチスキッド制御が行われると、その減圧モードでは、例えば常開弁NOrlが閉位置とされると共に、常閉弁NCrlが開位置とされ、ホイールシリンダWrlは常閉弁NCrlを介してリザーバRS1に連通し、ホイールシリンダWrl内のブレーキ液がリザーバRS1内に流出し減圧される。そして、ホイールシリンダWrlがパルス増圧モードとなると、常閉弁NCrlが閉位置とされた後に常開弁NOrlが開位置とされ、液圧ポンプHP1の出力液圧が常開弁NOrlを介してホイールシリンダWrlに供給される。そして、常開弁NOrlが駆動制御され、ホイールシリンダWrl内のブレーキ液は増圧と保持が繰り返されてパルス的に増大し、緩やかに増圧される。ホイールシリンダWrlに対し急増圧モードが設定されたときには、常閉弁NCrlが閉位置とされた後、常開弁NOrlが開位置とされ、液圧ポンプHP1の出力液圧がホイールシリンダWrlに供給される。そして、ブレーキペダルBPが解放されると、比例電磁弁SC1が開位置とされ、ホイールシリンダWrlの液圧よりマスタシリンダ液圧の方が小さくなると、ホイールシリンダWrl内のブレーキ液が逆止弁CV2及び開位置の比例電磁弁SC1を介してマスタシリンダMC、ひいては低圧リザーバRSに戻される。このようにして、車輪毎に独立した制動力制御が行なわれる。
一方、ストロークセンサBS、液圧センサP及び電子制御装置ECU等の液圧制御手段に異常が生じたときには、ブレーキペダルBPの操作に応じて直接マスタシリンダMCが駆動され、マスタシリンダMCの第1及び第2の圧力室MCa及びMCbから、マスタシリンダ液圧が初期位置(開位置)の比例電磁弁SC1及びSC2、そして初期位置(開位置)の常開弁NOfr及びNOrl並びに常開弁NOfl及びNOrrを介して、ホイールシリンダWfr及びWrl並びにホイールシリンダWfl及びWrrに夫々供給されるように構成されている。
上記の構成になる車両用液圧ブレーキ装置における全体作動を説明すると、電子制御装置ECU等の液圧制御手段が正常であるときには、ブレーキペダルBPの操作に応じて入力ロッド10が前進すると、第2弾性部材の圧縮スプリング70の取付荷重により操作ロッド20が前進し、マスタシリンダ液圧が0.3MPaとなるまで昇圧する。そして、入力ロッド10の鍔部11が係合突起42に係合すると(図2の距離d1移動)、入力ロッド10はシミュレータピストン30と一体となって移動する。このとき、ブレーキペダルの操作ストロークに応じて回生制動力とホイールシリンダ液圧が制御される。具体的には、ストロークセンサBS及び液圧センサP等の検出信号に基づき、電子制御装置ECUによって比例電磁弁SC1及びSC2並びに液圧ポンプHP1及びHP2がブレーキペダルBPの操作ストロークに応じて制御され、回生制動力とホイールシリンダ液圧が制御される。即ち、ブレーキペダルBPの操作ストロークと制動力との関係が所定の関係となるように、そのときに得られる回生制動力に応じてホイールシリンダ液圧が制御される。
例えば、回生制動力が最大限確保されているときには、ホイールシリンダ液圧は、ブレーキペダルBPの操作に応じて図8及び図9に実線で示す微少領域から二点鎖線で示す微少領域を経て、一点鎖線で示すように制御される。尚、図8及び図9における二点鎖線の液圧は前述の0.3MPaのマスタシリンダ液圧に対応している。一点鎖線の特性を示す際には、ストロークシミュレータSMの構成部材は図3に示す関係にある。即ち、入力ロッド10はシミュレータピストン30と一体となって移動する状態(d1=0)にあるが、係合部材40の前方側テーパ面の最小径部と、操作ロッド20の円筒部21の後方側テーパ面の最大径部との間は図3に示すように離隔しており、係合部材40は外方に拡張されない位置にある。換言すれば、このときの係合部材40の前方側テーパ面の最小径部と、操作ロッド20の円筒部21の後方側テーパ面の最大径部との間隔は、入力ロッド10とシミュレータピストン30との連結が解除されない値に設定されている。
これに対し、車両が停止している場合や、電気モータの電源たるバッテリ(図示せず)の充電が充分で回生制動力が得られない場合には、ホイールシリンダ液圧は図8及び図9に実線で示すように制御される。この場合のストロークシミュレータSMの各構成部材は図4に示す関係にあり、ブレーキペダルBPが操作されると、入力ロッド10はシミュレータピストン30と一体となって移動し、操作ロッド20も図4に示すようにこれらと同程度移動する。尚、車両が低速走行中のブレーキ操作時のホイールシリンダ液圧は、図8及び図9に示す実線と一点鎖線の中間の特性を示す。
一方、液圧制御手段に異常が生じたときには、電子制御装置ECUによる比例電磁弁SC1及びSC2並びに液圧ポンプHP1及びHP2の制御が停止される。この状態で、ブレーキペダルBPが操作され、その操作に応じて入力ロッド10が前進すると、第2弾性部材の圧縮スプリング70の取付荷重により操作ロッド20が前進し、マスタシリンダ液圧が0.3MPaとなるまで昇圧すると、鍔部11が係合突起42に係合してシミュレータピストン30と一体となって移動する。このとき、液圧ポンプHP1及びHP2は停止し吸込弁SI1及びSI2は常態の閉位置となっているので、ブレーキ液が吸引されず、マスタピストン90は殆ど前進しない。従って、更に入力ロッド10が前進すると、圧縮スプリング70が大きく撓み、入力ロッド10の初期位置からの移動距離が所定の距離となると、弾性部材41による付勢力に抗して係合部材40が円筒部21の後方側テーパ面によって外方に駆動され(即ち、係合制御部材を構成する係合部材40が外方に拡張し)、図5に示すように係合部材40の前方側テーパ面の最小径部と、操作ロッド20の円筒部21の後方側テーパ面の最大径部とが一致すると、鍔部11と係合突起42の係合状態が解除される。これは、入力ロッド10が操作ロッド20に対し初期位置から距離d1と距離d2の合計距離を移動したことを意味し、この合計距離(=d1+d2)が本発明における所定距離に相当する。
この結果、図5に示す状態から、図6に示すように入力ロッド10とシミュレータピストン30との連結が解除された状態となり、シミュレータピストン30は圧縮スプリング50の付勢力によって初期位置に戻されると共に、操作ロッド20は入力ロッド10によって直接押圧され得る状態となる。以後、ブレーキペダルBPの操作に応じて、マスタシリンダMCを直接駆動することができ、図8及び図9に破線で示す特性となる(図8において、液圧の軸に平行な破線部分の右側は実線の特性に重合している)。尚、この間における入力ロッド10と操作ロッド20及び係合部材40の関係は、図7の上段に示す状態(図2に対応)から、図7の中段に示す状態(図5に対応)を経て、図7の下段に示す状態(図6に対応)となる。この状態から、ブレーキペダルBPの操作が解除されたときには、圧縮スプリング70の付勢力によって入力ロッド10は初期位置に戻される。このとき、鍔部11のテーパ面と係合突起42のテーパ面により、係合部材40は外方に拡張し、入力ロッド10とシミュレータピストン30が連結された図2の状態に戻る。
図10は本発明の他の実施形態に係るもので、入力ロッド100内に操作ロッド200及び係合部材400が収容され、入力ロッド100がシミュレータピストン300に対し摺動自在に支持されるように構成されている。従って、図2に記載の実施形態とはストロークシミュレータ内の構造が異なるのでストロークシミュレータをSM2としているが、バキュームブースタVB等の構成は図2に記載の実施形態と同様であり、図2に記載の構成要素と実質的に同じ構成要素には同一の符号を付している。本実施形態のシミュレータピストン300は円板部301と円筒部302から成り、その中央に貫通孔303が形成され、後方(図10の右方)の内周面に環状溝304が形成されている。シミュレータピストン300の貫通孔303に嵌合される入力ロッド100は、前方(図10の左方)に円筒部101が形成された有底筒体で、その前方開口端が外方に延出し円形の鍔部102が形成されており、この鍔部102がシミュレータピストン300の円筒部302の前方開口端に当接し得るように配置される。入力ロッド100の中間部には複数(例えば四つ)の孔103が円周方向に連続して形成されている。これらの孔103の径は係合部材400の一部を構成する球体403が通過し得る大きさに設定されている。
一方、操作ロッド200は、その前端部が調圧弁AVに装着され、その後端部が入力ロッド100の円筒部101に嵌合されるように構成されている。また、操作ロッド200の後端面にはロッド202が固着され、入力ロッド100の円筒部101内に収容されたリテーナ201に対して相対的に移動可能で、ロッド202の頭部がリテーナ201の先端部に係合したときに、円筒部101の底面と操作ロッド200の後端面との間隔が最大となるように(換言すると、両者間を所定の間隔に規制し得るように)配設されている。そして、入力ロッド100の円筒部101の底面と操作ロッド200の後端面との間に、第2弾性部材たる圧縮スプリング70が張架されて吊り構造が形成されており、初期位置(図10の状態)における入力ロッド100と操作ロッド200との間が所定の間隔に規制されている。
更に、圧縮スプリング70と入力ロッド100の円筒部101内周面との間の環状空間に、段付円筒状の係合部材400が収容されており、この係合部材400は円筒部101内に収容された圧縮スプリング404によって操作ロッド200の後端面に押接されている。係合部材400の小径部401と大径部402との段差部分はテーパ面に形成されており、小径部401の外周面と入力ロッド100の円筒部101の内周面との間に環状の空隙が形成されている。これに対し、大径部402の外周面は円筒部101の内周面に摺接し、初期位置では、大径部402の後端側の外周面によって入力ロッド100の孔103が閉塞されるように配置されている。而して、係合部材400によって本発明の係合制御部材ひいては連結制御手段が構成されている。
図10に示すように、入力ロッド100、シミュレータピストン300及び係合部材400は、その初期位置において、環状溝304と孔103で形成される空間内に球体403が収容される寸法関係に設定されている。即ち、環状溝304の径方向の深さと入力ロッド100の円筒部101の厚さの和が球体403の直径より若干大きくなるように設定されている。同様に、小径部401の外周面と円筒部101の内周面の間の空隙と、孔103とで形成される空間内に球体403が収容される寸法関係に設定されている。即ち、小径部401の外周面と円筒部101の内周面の間の空隙の径方向の深さと円筒部101の厚さの和が球体403の直径より若干大きくなるように設定されており、当該空隙の軸方向の幅は球体403の直径より大に設定されている。そして、環状溝304の軸方向の幅は球体403の直径より大で、前方にテーパ面が形成されており、例えば、このテーパ面に当接したときの球体403の中心と環状溝304の後端面に当接したときの球体403の中心との間の軸方向距離がd1に設定され、係合部材400の小径部401後端のテーパ面に当接したときの球体403の中心と、環状溝304の後端面に当接したときの球体403の中心との間の軸方向距離がd3に設定される。
而して、入力ロッド100は、その円筒部101内のリテーナ201の先端面が操作ロッド200の後端面に当接するまでは、操作ロッド200に対して相対的に移動し、当接後は一体となって移動するように構成されている。また、入力ロッド100は、球体403が環状溝304のテーパ面に当接するまでの距離d1の間は係合部材400ひいてはシミュレータピストン300に対して相対的に移動し、当接後は一体となって移動するように構成されている。上記の距離d1は、前述の実施形態と同様、マスタシリンダ液圧が0.3MPa昇圧するストロークに設定されている。また、圧縮スプリング70の取付荷重もマスタシリンダ液圧が0.3MPa昇圧する荷重に設定され、圧縮スプリング70に撓みが生じても、マスタシリンダ液圧が殆ど昇圧せず、その荷重変化を運転者が感じない程度の低いばね定数に設定されている。尚、圧縮スプリング404は係合部材400を単に前方に付勢する程度の取付荷重で、マスタシリンダ液圧の昇圧には殆ど寄与しない低いばね定数に設定されている。
そして、球体403の中心が大径部402の前端を通過し、小径部401の外周面と円筒部101の内周面の間の空隙と孔103とで形成される空間内に球体403が収容されるまで(初期位置から距離d3以上となるまで)、入力ロッド100が前進駆動されると、入力ロッド100とシミュレータピストン300との係合状態が解除される(図13の状態から図14の状態に移行する)。従って、本実施形態における距離d3が本発明の所定距離に相当する。
上記の構成になる車両用液圧ブレーキ装置において、電子制御装置ECU等の液圧制御手段が正常であるときには、ブレーキペダルBPの操作に応じて入力ロッド100が前進すると、第2弾性部材の圧縮スプリング70の取付荷重により操作ロッド200が前進し、マスタシリンダ液圧が0.3MPaとなるまで昇圧する。そして、球体403が環状溝304の前方のテーパ面に当接すると(距離d1移動)、入力ロッド100はシミュレータピストン300と一体となって移動する。このとき、ストロークセンサBS及び液圧センサP等の検出信号に基づき、電子制御装置ECUによって、前述の実施形態と同様、ブレーキペダルBPの操作ストロークと制動力との関係が所定の関係となるように、そのときに得られる回生制動力に応じてホイールシリンダ液圧が制御される。
例えば、回生制動力が最大限確保されているときには、ホイールシリンダ液圧は前述の図8及び図9に一点鎖線で示すように制御される。この場合のストロークシミュレータSM2の各構成部材は図11に示す関係にある。即ち、入力ロッド100はシミュレータピストン300と一体となって移動する状態にあり、球体403の中心と係合部材400の大径部402の前端の間隔は図11に示すように、球体403が、小径部401の外周面と円筒部101の内周面の間の空隙と孔103とで形成される空間には収容されない位置にあり、入力ロッド100とシミュレータピストン300との連結は解除されない。
これに対し、車両が停止している場合や、バッテリ(図示せず)の充電が充分で回生制動力が得られない場合には、ホイールシリンダ液圧は前述の図8及び図9に実線で示すように制御される。この場合のストロークシミュレータSM2の構成部材は図12に示す関係にあり、ブレーキペダルBPが操作されると、入力ロッド100はシミュレータピストン300と一体となって移動し、調圧弁AV及び操作ロッド200も図12に示すようにこれらと同程度移動する。
一方、液圧制御手段に異常が生じたときには、電子制御装置ECUによる比例電磁弁SC1及びSC2並びに液圧ポンプHP1及びHP2の制御が停止される。この状態で、ブレーキペダルBPが操作され、その操作に応じて入力ロッド100が前進すると、圧縮スプリング70の取付荷重により操作ロッド200が前進し、マスタシリンダ液圧が0.3MPaとなるまで昇圧すると、球体403が環状溝304のテーパ面に当接してシミュレータピストン300と一体となって移動する。このとき、マスタピストン90は殆ど前進しないので、更に入力ロッド100が前進すると、圧縮スプリング70が大きく撓み、環状溝304の後端面に当接した状態の球体403の中心からの軸方向移動距離がd3(図10)以上となると、図13に示すように、小径部401の外周面と円筒部101の内周面の間の空隙と孔103とで形成される空間内に球体403が収容され、即ち、係合制御部材を構成する球体403が入力ロッド100の中心軸に向かって移動し、入力ロッド100とシミュレータピストン300の係合状態が解除される。
この結果、図14に示すように、シミュレータピストン300は圧縮スプリング50の付勢力によって初期位置に戻され、入力ロッド100の円筒部101内のリテーナ201の先端面が操作ロッド200の後端面に当接し、操作ロッド200は入力ロッド100によって直接押圧され得る状態となるので、ブレーキペダルBPの操作に応じて、マスタシリンダMCを直接駆動することができ、前述の図8及び図9に破線で示す特性となる。この状態から、ブレーキペダルBPの操作が解除されたときには、圧縮スプリング70の付勢力によって入力ロッド100は初期位置に戻される。このとき、図15に示すように、係合部材400はスプリング404を圧縮し、操作ロッド200の後端面から離隔して入力ロッド100と一体となって後方に移動する。そして、環状溝304と孔103で形成される空間に球体403が収容された状態、即ち、入力ロッド100とシミュレータピストン300が連結された図10の状態に戻る。
図1及び図10に示したバキュームブースタVBは図16に示すように構成されており、これらに前述の操作ロッド20又は200が連結されている。これらは前掲の特許文献2に記載されたものと同様であるが、以下に概要を説明する。バキュームブースタVBは、可動壁B1に一体的に連結されたパワーピストンB4内に、定圧室B2と変圧室B3との間の連通を断続するバキュームバルブV1と、変圧室B3と大気との間の連通を断続するエアバルブV2が設けられており、パワーピストンB4、バキュームバルブV1、エアバルブV2、及びマスタシリンダMCに力を伝達するリアクションディスクRD等によって調圧弁AVが構成されている。これらのバキュームバルブV1及びエアバルブV2は、ブレーキペダルBP(図1及び図10)の操作に応じて開閉し、定圧室B2と変圧室B3との間にブレーキペダルBPの操作力に応じた差圧が生じ、ブレーキペダルBPの操作に応じて増幅された出力がマスタシリンダMCに伝達されるように構成されている。
而して、ブレーキペダルBPの操作に応じて操作ロッド20又は200が移動すると、エアバルブV2の弁体が一体的に移動する。その結果、バキュームバルブV1が閉弁されると、変圧室B3と定圧室B2との連通が遮断される。更に、操作ロッド20又は200が移動すると、エアバルブV2が開弁して変圧室B3に大気が導入され、変圧室B3と定圧室B2の間に差圧が発生し、パワーピストンB4が前進駆動され、マスタシリンダMCからブレーキ液圧が出力される。
図17乃至図20は本発明の更に他の実施形態を示すもので、電気的駆動手段を有する倍力装置を備えた車両用液圧ブレーキ装置に係る。本実施形態では、図2に記載の実施形態におけるバキュームブースタVBに対し、電気的駆動手段として電気駆動装置BEが付設されている。また、本実施形態におけるストロークシミュレータSMの圧縮スプリング500は、ブレーキ操作力とブレーキ操作ストロークの関係がマスタシリンダMCからブレーキ液圧系統HC1及びHC2にブレーキ液圧を供給した場合よりもブレーキ操作ストロークが短くなるように設定されている。その他の構成は図2に記載の実施形態と同様であり、図2の構成要素と実質的に同じ構成要素には同一の符号を付している。従って、液圧制御系を含む全体構成は図1と同様であるが、本実施形態のバキュームブースタVBの定圧室B2内には、図17に示すように、可動壁B5を介して作動室B6が形成されると共に、電子制御装置ECUの駆動信号に応じて作動室B6に対する負圧と大気圧への連通切換え制御を行う電磁切換弁SLが設けられており、これらによって電気駆動装置BEが構成されている。
そして、図17に示すように、調圧弁AVには、可動壁B5を貫通して前方に延出する出力ロッド80が形成されており、この出力ロッド80を収容するように、マスタピストン90の後端面から筒状の延出部91が延出形成され、この延出部91の後端面に当接するように可動壁B5が配置されている。尚、電気駆動装置BEの非作動時には、出力ロッド80の先端面は延出部91の底面に当接するように配設され、出力ロッド80を介してマスタピストン90に対し入力ロッド10及び操作ロッド20の力が直接伝達され得るように構成されている。また、本実施形態においては、距離d1は、マスタシリンダ液圧が0.4MPa昇圧するストロークに設定され、圧縮スプリング70の取付荷重もマスタシリンダ液圧が0.4MPa昇圧する荷重に設定されている(この理由については後述する)。
電磁切換弁SLは、非励磁時には図17に示すように、作動室B6が連通路B7を介して負圧源(例えば、前述の吸気管)に連通する第1の位置とされ、励磁されると図18に示すように、作動室B6が大気圧に連通する第2の位置に切り換えられる。この結果、作動室B6が大気圧となると、定圧室B2内の負圧との圧力差によって可動壁B5が前進駆動され、マスタピストン90の延出部91が押圧され、マスタピストン90は前進駆動される。これにより、マスタピストン90は出力ロッド80の作動とは無関係に出力ロッド80に対して相対的に移動することになる。尚、本実施形態のバキュームブースタVB及び電気駆動装置BEの具体的構成例は図19及び図20に示すとおりであり、前掲の特許文献3に記載されたものと同様であるので、本実施形態における図17及び図18に記載の要素に対応する部品と同一の符号を付して説明は省略する。
而して、本実施形態においては、電子制御装置ECU等の液圧制御手段が正常であるときには、ブレーキペダルBPの操作に応じて入力ロッド10が前進すると、第2弾性部材の圧縮スプリング70の取付荷重により操作ロッド20が前進し、マスタシリンダ液圧が0.4MPaとなるまで昇圧する。この場合において、本実施形態では、液圧センサPの検出信号に基づきマスタシリンダ液圧が0.3MPaを越えたことが検出されると(あるいは、ストロークセンサBSによって、0.3MPaに相当するストロークに達したことが検出されると)、電磁切換弁SLが励磁されて第2の位置に切り換えられるように構成されており、この結果、作動室B6は大気圧となる。また、作動室B6内の受圧有効断面積は、可動壁B5の前進駆動によって昇圧されるマスタシリンダ液圧が0.3MPaとなるように設定されている。このときの圧縮スプリング70の取付荷重はこれによるマスタシリンダ液圧が前述のように0.4MPaとなるように設定されており、0.3MPaを越える値であるので、作動室B6が殆ど拡張することなく、入力ロッド10の鍔部11が係合突起42に係合し、入力ロッド10はシミュレータピストン30と一体となって移動する。以後、前述の図2の実施形態と同様に作動し、回生制動力が最大限確保されているときも同様に作動する。
次に、回生制動力が得られない場合には、本実施形態では、図18に示すように、マスタピストン90の延出部91の底面と出力ロッド80の先端面との間に若干の間隙が形成された状態にあり、従って、この場合はマスタシリンダ液圧は0.3MPaとなっている。このとき、延出部91の底面と出力ロッド80の先端面との間に間隙が形成されない状態に対して、第2弾性部材の圧縮スプリング70を介して入力ロッド10に作用する荷重が0.1MPa分変化することになるが、この荷重変化は僅かであり、運転者に違和感を与えるおそれはない。
一方、液圧制御手段に異常が生じたときには、ブレーキペダルBPが操作され、その操作に応じて入力ロッド10が前進すると、第2弾性部材の圧縮スプリング70の取付荷重により操作ロッド20が前進し、マスタシリンダ液圧が0.4MPaとなるまで昇圧すると、鍔部11が係合突起42に係合してシミュレータピストン30と一体となって移動する。このとき、マスタピストン90は殆ど前進しないので、更に入力ロッド10が前進すると圧縮スプリング70が大きく撓み、入力ロッド10の初期位置からの移動距離が所定の距離となると、弾性部材41による付勢力に抗して係合部材40が円筒部21の後方側テーパ面によって外方に駆動される。この結果、係合部材40の前方側テーパ面の最小径部と、操作ロッド20の円筒部21の後方側テーパ面の最大径部とが一致すると、鍔部11と係合突起42の係合状態が解除され、シミュレータピストン30は圧縮スプリング50の付勢力によって初期位置に戻されると共に、操作ロッド20は入力ロッド10によって直接押圧され得る状態となり、ブレーキペダルBPの操作に応じて、マスタシリンダMCを直接駆動することができる。
尚、上記の各実施形態においては、ストロークシミュレータの第1弾性部材として圧縮スプリング50又は500を用い、ブレーキ操作力とブレーキ操作ストロークの関係がマスタシリンダからホイールシリンダにブレーキ液圧を供給した場合と同等の特性、又はブレーキ操作ストロークが短くなるように設定したが、ブレーキ操作力が軽くなるように設定してもよい。また、上記の実施形態においては、負圧式倍力装置(バキュームブースタVB)を用いたが、液圧式倍力装置を用いることとしてもよいし、更には、前述の図2及び図10に記載の実施形態については倍力装置を備えない構成としてもよい。