JP2005336538A - 微細構造体およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】信号強度が十分に大きく、かつ、再現性に優れた局在プラズモン共鳴を発生させる構造体の提供。
【解決手段】マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム部材を少なくとも一部に有する構造体であって、前記陽極酸化皮膜の表面が、親水性および疎水性のいずれかの表面特性を有し、かつ、前記マイクロポアが金属で封孔されている、構造体。
【選択図】図1

Description

本発明は、複数のマイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム部材を用いた微細構造体およびその製造方法に関する。
金属および半導体の薄膜、細線、ドット等の技術領域では、ある特徴的な長さより小さいサイズにおいて自由電子の動きが閉じ込められることにより、電気的、光学的および化学的に特異な現象が見られることが知られている。このような現象は「量子力学的サイズ効果(量子サイズ効果)」と呼ばれている。このような特異な現象を応用した機能性材料の研究開発が、現在、盛んに行なわれている。具体的には、数百nmより微細な構造を有する材料が、「微細構造体」または「ナノ構造体」と称されており、材料開発の対象の一つとされている。
こうした微細構造体の作製方法としては、例えば、フォトリソグラフィ、電子線露光、X線露光等の微細パターン形成技術を初めとする半導体加工技術によって直接的にナノ構造体を作製する方法が挙げられる。
中でも、規則的な微細構造を有するナノ構造体を作製する方法についての研究が注目され、多く行われている。
例えば、自己規制的に規則的な構造が形成される方法として、電解液中でアルミニウムに陽極酸化処理を施して得られる陽極酸化アルミナ膜(陽極酸化皮膜)が挙げられる。陽極酸化皮膜には、数nm程度から数百nm程度の直径を有する複数の微細孔(マイクロポア)が規則的に形成されることが知られている。この陽極酸化皮膜の自己規則化を用い、完全に規則的な配列を得ると、理論的には、マイクロポアを中心に底面が正六角形である六角柱のセルが形成され、隣接するマイクロポアを結ぶ線が正三角形を成すことが知られている。
例えば、非特許文献1には、マイクロポアを有する陽極酸化皮膜が記載されている。また、非特許文献2には、陽極酸化皮膜には、酸化の進行に伴って、細孔が自然形成されることが記載されている。また、非特許文献3では、多孔質酸化皮膜をマスクとしてSi基板上にAuドットアレイを形成することも提案されている。
陽極酸化皮膜の材料としての最大の特徴は、複数のマイクロポアが、基板表面に対してほぼ垂直方向に、ほぼ等間隔に平行に形成されたハニカム構造を採る点にあるとされている。これに加え、ポア径、ポア間隔およびポア深さを比較的自由に制御することができる点もほかの材料にない特徴であるとされている(非特許文献3参照。)。
陽極酸化皮膜の応用例としては、ナノデバイス、磁気デバイス、発光体等の種々のデバイス類が知られている。例えば、特許文献1には、磁気デバイスとして磁性金属であるCo、Niをマイクロポア内に充填したり、発光材料であるZnOをマイクロポア内に充填したり、バイオセンサーとして酵素/抗体をマイクロポア内に充填したりした応用例が記載されている。
更に、バイオセンシングの分野では、特許文献2に、陽極酸化皮膜のマイクロポアの内部に金属を充填した構造体を用いて、ラマン分光分析用の試料台とする例が記載されている。
ラマン散乱は、入射光(光子)が粒子に当たって散乱する際に、粒子と非弾性衝突を起こして、エネルギーを変化させる散乱である。ラマン散乱光は、分光分析の手法として用いられるが、分析の感度および精度の向上のため、測定に用いる散乱光の強度を増強させることが課題となっている。
ラマン散乱光を増強させる現象としては、表面増強共鳴ラマン散乱(SERRS:Surface−Enhanced Resonance Raman Scattering)現象が知られている。この現象は、金属電極、ゾル、結晶、蒸着膜、半導体等の表面上に吸収されたある種の分子の散乱が、溶液中に比べて増強される現象であり、特に、金または銀で、1011〜1014倍の顕著な増強効果が見られる。SERRS現象の発生メカニズムは、現時点では解明されていないが、上述した表面プラズモン共鳴が影響を与えていると考えられている。特許文献2においても、ラマン散乱強度を増強させる手段として、プラズモン共鳴の原理を利用することを目的としている。
プラズモン共鳴は、金、銀等の貴金属の表面に光を照射した際に、金属表面が励起状態となり、局在する電子密度波であるプラズモン波が、電磁波と相互作用を起こし(共鳴励起)、共鳴状態を形成する現象である。そのうち、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)は、金属表面に光を照射した際に、金属表面の自由電子が励起状態になり、自由電子が集団で振動することで、表面プラズモン波が発生し、強い電場が発生する現象である。
プラズモン共鳴が起きている表面近傍の領域、具体的には、表面から200nm以内程度の領域では、数桁倍(一例では、108〜1010倍)に及ぶ電場の増強が見られ、各種の光学効果に顕著な高揚が観察される。例えば、金等の薄膜を蒸着したプリズムに臨界角以上の角度で光を入射すると、薄膜表面の誘電率変化を、表面プラズモン共鳴現象による反射光強度の変化として、高感度で検出することができる。
具体的には、表面プラズモン共鳴現象を応用したSPR装置を用いると、生体分子間の反応量および結合量の測定や速度論的解析が、ノンラベルかつリアルタイムで可能となる。SPR装置は、免疫応答、シグナル伝達、タンパク質、核酸等の様々な物質間の相互作用の研究に応用され、最近では、SPR装置で微量ダイオキシンを分析する論文も発表されている(非特許文献4参照。)。
プラズモン共鳴を増大させる方法として、種々の方法が検討されているが、金属を薄膜ではなく孤立した粒子にすることで、プラズモンを局在化させる手法が知られている。例えば、上述した特許文献2には、規則化した陽極酸化皮膜の細孔上に金属粒子を設けて局在化させる手法が記載されている。
ここで、金属粒子による局在プラズモン共鳴を利用する場合、金属粒子が近接して存在すると、金属粒子間のギャップで電場強度が増強され、プラズモン共鳴がより発生しやすい状態が実現するとの研究報告がある(非特許文献5参照。)。即ち、局所プラズモン共鳴を利用したデバイスでは、金属粒子を近接させて存在させることが重要な要件となる。例えば、金属粒子を接触させずに、200nm以内の間隔で隣接して存在させることが重要である。
特開2000−31462号公報 特開2003−268592号公報 H.Masuda et.Al.,Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.37(1998),pp.L1340−1342,Part2,No.11A,1 November 1998(Fig.2.) 「表面技術便覧」、(社)表面技術協会編(1998)、日刊工業新聞社、p.490−553 益田秀樹,「陽極酸化アルミナにもとづく高規則性メタルナノホールアレー」,固体物理,1996年,第31巻,第5号,p.493−499 軽部ら,ANALYTICA CHIMICA ACTA 2001,434:2:223−230 岡本隆之、"金属ナノ粒子相互作用および、バイオセンサーに関する調査研究"、[on line]、[平成15年11月27日検索]、インターネット<URL:http://www.plasmon.jp/reports/okamoto.pdf>
本発明者は、局在プラズモン共鳴を利用したデバイスについて鋭意研究した結果、従来の自己規則化陽極酸化皮膜を用いたデバイスには、共鳴の強度が十分に大きくないという問題があることを見出した。
また、非特許文献5においては、金コロイド粒子を3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いて化学的にガラス基板上に固定しているが、本発明者は、これをプラズモン共鳴デバイスとしてラマン分光分析用試料台に用いると、信号強度の再現性が悪いという問題があることを見出した。
したがって、本発明は、信号強度が十分に大きく、かつ、再現性に優れた局在プラズモン共鳴を発生させる構造体を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意研究の結果、プラズモン共鳴デバイスをラマン分光分析用試料台に用いる場合において、分析用の液状の検体が金属粒子の表面に付着していなかったり、付着していても、その状態が不均一だったりすると、信号強度が小さくなったり、信号の再現性が悪くなったりするということを見出した。
更に、本発明者は、自己規則化陽極酸化皮膜を用いたデバイスにおいて、陽極酸化皮膜の表面に、親水性および疎水性のいずれかの表面特性を付与し、検体の化学的性質に応じて、いずれかの表面特性を有するデバイスを選択してラマン分光分析用試料台に用いることにより、検体が金属粒子の表面に選択的にかつ均一に付着し、その結果、信号強度を十分に大きく、かつ、再現性に優れたものにすることができることを見出した。
本発明者は、これらの知見に基づき、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
(1)マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム部材を少なくとも一部に有する構造体であって、
前記陽極酸化皮膜の表面が、親水性および疎水性のいずれかの表面特性を有し、かつ、前記マイクロポアが金属で封孔されている、構造体。
(2)前記金属が金または銀である、上記(1)に記載の構造体。
(3)上記(1)または(2)に記載の構造体の製造方法であって、
アルミニウム部材の表面に陽極酸化処理を施して、マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を形成させる陽極酸化処理工程と、
前記陽極酸化処理工程の後、前記陽極酸化皮膜の表面に、親水化処理および疎水化処理のいずれかの表面処理を施し、前記表面特性を付与する表面処理工程と、
前記表面処理工程の後、前記マイクロポアを金属で封孔する封孔処理工程と
を具備する、構造体の製造方法。
(4)上記(1)または(2)に記載の構造体の製造方法であって、
アルミニウム部材の表面に、親水化剤および疎水化剤のいずれかの処理剤を含有する電解液を用いて陽極酸化処理を施して、マイクロポアが存在し、かつ、前記表面特性を有する陽極酸化皮膜を形成させる陽極酸化処理工程と、
前記陽極酸化処理工程の後、前記マイクロポアを金属で封孔する封孔処理工程と
を具備する、構造体の製造方法。
本発明の構造体は、ラマン分光分析用試料台として使用すると、金属粒子が近接して存在するため、局在プラズモン共鳴が大きくなるので、感度が極めて高くなり、また、検体の化学的性質に応じて、表面特性を選択することにより、検体が金属粒子の表面に選択的にかつ均一に付着するため、信号強度が十分に大きく、かつ、再現性に優れたものになる。
また、本発明の構造体は、その他のプラズモン共鳴を利用したデバイスに好適に用いることができる。
以下に、本発明を詳細に説明する。
<アルミニウム部材>
本発明の構造体は、マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム部材を少なくとも一部に有する。
本発明に用いられる陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム部材は、アルミニウム表面を有する部材の表面に陽極酸化処理を施して得ることができる。
アルミニウム表面を有する部材は、特に限定されず、例えば、低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)に高純度アルミニウムを蒸着させた基板等のアルミニウム基板;シリコンウエハー、石英、ガラス等の表面にスパッタリング、蒸着、CVD、電着、化学めっき、電気めっき等の方法により高純度アルミニウムを被覆させた基板;アルミニウム箔をラミネートした基板が挙げられる。
アルミニウム箔をラミネートした基板は、樹脂基板等の基板上に、アルミニウム箔を接着剤を用いた接着層を介して設けることにより、得られる。
各種接着剤の具体例としては、芳香族ポリエーテル系1液湿気硬化型接着剤(例えば、SF102RA、大日本インキ化学工業社製);芳香族ポリエーテル系2液硬化型接着剤(例えば、2K−SF−302A/HA550B、大日本インキ化学工業社製);脂肪族ポリエステル系2液硬化型接着剤(例えば、2K−SF−250A/HA280B、大日本インキ化学工業社製);水性ドライラミネート用接着剤(例えば、WS305A/LB−60、WS201A/LB−60、WS325A/LJ−55、WS350A/LA−100、WS−320A、いずれも大日本インキ化学工業社製);有機溶剤型ドライラミネート用接着剤(例えば、LX−747A/KX−75、LX−88H(T)/KW−75、LX−732/KRX−90、いずれも大曰本インキ化学工業社製);エポキシ系の1液型熱硬化型接着剤(例えば、EP106、EP138、EP160、EP170、EP171、いずれもセメダイン社製);アクリル系オリゴマー(SGA)等の1液型嫌気硬化型接着剤(例えば、Y−800シリーズ、Y−805GH、いずれもセメダイン社製);特殊シリコーン変性ポリマー系1液型弾性接着剤(例えば、スーパーX、セメダイン社製);フェノール樹脂とブタジエンまたはアクリロニトリルゴムとの混合体、フェノール樹脂とポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールまたはポリビニルホルマールとの各種混合体、フェノール樹脂とエポキシとの混合体等のフェノール樹脂複合ポリマー系接着剤;2液型縮合反応型接着剤;エポキシ、イソシアネート等の2液型付加反応型接着剤;アクリル系オリゴマー(SGA)等の2液型ラジカル重合型接着剤;ポリイミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の熱溶融型接着剤;ゴム、ポリアクリル酸エステル等の感圧型接着剤;2−シアノアクリル酸エステルを主成分とする1液型の常温硬化接着剤;2−シアノアクリル酸メチル系接着剤;2−シアノアクリル酸エチル系接着剤(例えば、アロンアルファ、東亜合成化学社製)、α−シアノアクリレート系接着剤(例えば、3000DXシリーズ、セメダイン社製)が挙げられる。
接着層の厚さは、3〜50μmであるのが好ましく、5〜20μmであるのがより好ましく、10〜20μmであるのが更に好ましい。接着層の厚さは、例えば、破断面をSEMで観察する方法により求めることができる。
接着層の上に、アルミニウム箔が設けられる。アルミニウム箔の厚さは、1〜10μmであるのが好ましく、1〜5μmであるのがより好ましく、2〜4μmであるのが更に好ましい。
後述するように、自己規則化法により本陽極酸化処理の起点となる窪みを形成させる場合には、アルミニウム表面を有する部材自体に、ある程度の厚さが必要であるため、アルミニウム基板が好ましい。
アルミニウム部材のうち、陽極酸化処理により陽極酸化皮膜を設ける表面は、アルミニウム純度が、99.5質量%以上であるのが好ましく、99.80質量%以上であるのがより好ましく、また、99.99質量%未満であるのが好ましく、99.95質量%以下であるのがより好ましい。アルミニウム純度が99.5質量%以上であると、ポア配列の規則性が十分となり、99.99質量%未満であると安価に製造することができる。
アルミニウム部材の表面は、あらかじめ脱脂処理および鏡面仕上げ処理を施されるのが好ましい。
<脱脂処理>
脱脂処理は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム表面に付着した、ほこり、脂、樹脂等の有機成分等を溶解させて除去し、有機成分を原因とする後述の各処理における欠陥の発生を防止することを目的として行われる。
脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。
中でも、以下の各方法が好適に例示される。
各種アルコール、各種ケトン、ベンジン、揮発油等の有機溶剤を常温でアルミニウム表面に接触させる方法(有機溶剤法);石けん、中性洗剤等の界面活性剤を含有する液を常温から80℃までの温度でアルミニウム表面に接触させ、その後、水洗する方法(界面活性剤法);濃度10〜200g/Lの硫酸水溶液を常温から70℃までの温度でアルミニウム表面に30〜80秒間接触させ、その後、水洗する方法;濃度5〜20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を常温でアルミニウム表面に30秒間程度接触させつつ、アルミニウム表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して電解し、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;各種公知の陽極酸化処理用電解液を常温でアルミニウム表面に接触させつつ、アルミニウム表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して、または、交流電流を流して電解する方法;濃度10〜200g/Lのアルカリ水溶液を40〜50℃でアルミニウム表面に15〜60秒間接触させ、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;軽油、灯油等に界面活性剤、水等を混合させた乳化液を常温から50℃までの温度でアルミニウム表面に接触させ、その後、水洗する方法(乳化脱脂法);炭酸ナトリウム、リン酸塩類、界面活性剤等の混合液を常温から50℃までの温度でアルミニウム表面に30〜180秒間接触させ、その後、水洗する方法(リン酸塩法)。
脱脂処理は、アルミニウム表面の脂分を除去しうる一方で、アルミニウムの溶解がほとんど起こらない方法が好ましい。この点で、有機溶剤法、界面活性剤法、乳化脱脂法、リン酸塩法が好ましい。
<鏡面仕上げ処理>
鏡面仕上げ処理は、アルミニウム部材の表面の凹凸をなくして、電着法等による封孔処理の均一性や再現性を向上させるために行われる。アルミニウム部材の表面の凹凸としては、例えば、アルミニウム部材が圧延を経て製造されたものである場合における、圧延時に発生した圧延筋が挙げられる。
本発明において、鏡面仕上げ処理は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨が挙げられる。
機械研磨としては、例えば、各種市販の研磨布で研磨する方法、市販の各種研磨剤(例えば、ダイヤ、アルミナ)とバフとを組み合わせた方法が挙げられる。具体的には、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行う方法が好適に例示される。この場合、最終的に用いる研磨剤としては、#1500のものが好ましい。これにより、光沢度を50%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに50%以上)とすることができる。
化学研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法が挙げられる。
また、リン酸−硝酸法、Alupol I、Alupol V、Alcoa R5、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好適に挙げられる。中でも、リン酸−硝酸法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好ましい。
化学研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
電解研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法が挙げられる。
また、米国特許第2708655号明細書に記載されている方法が好適に挙げられる。
また、「実務表面技術」,vol.33,No.3,1986年,p.32−38に記載されている方法も好適に挙げられる。
電解研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
これらの方法は、適宜組み合わせて用いることができる。例えば、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行い、その後、電解研磨を施す方法が好適に挙げられる。
鏡面仕上げ処理により、例えば、平均表面粗さRa0.1μm以下、光沢度50%以上の表面を得ることができる。平均表面粗さRaは、0.03μm以下であるのが好ましく、0.02μm以下であるのがより好ましい。また、光沢度は70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
なお、光沢度は、圧延方向に垂直な方向において、JIS Z8741−1997の「方法3 60度鏡面光沢」の規定に準じて求められる正反射率である。具体的には、変角光沢度計(例えば、VG−1D、日本電色工業社製)を用いて、正反射率70%以下の場合には入反射角度60度で、正反射率70%を超える場合には入反射角度20度で、測定する。
<窪みの形成>
アルミニウム表面を有する部材の表面に陽極酸化処理を施す方法としては、マイクロポアを形成させる陽極酸化処理(以下「本陽極酸化処理」ともいう。)の前に、本陽極酸化処理のマイクロポアの生成の起点となる窪みを形成させておく方法が好ましい。
窪みを形成させる方法は、特に限定されず、例えば、陽極酸化皮膜の自己規則性を利用した自己規則化法、物理的方法、粒子線法、ブロックコポリマー法、レジスト干渉露光法が挙げられる。
<自己規則化法>
自己規則化法は、陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウムを使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させ、その後、脱膜処理を行う。
この方法においては、ポア径は電圧に依存するので、電圧を制御することにより、ある程度所望のポア径を得ることができる。
自己規則化法の代表例としては、J.Electrochem.Soc.Vol.144,No.5,May 1997,p.L128(非特許文献6)、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.35(1996)Pt.2,No.1B,L126(非特許文献7)、Appl.Phys.Lett,Vol.71,No.19,10 Nov 1997,p.2771(非特許文献8)、上記非特許文献1が知られている。具体的には、以下に示される条件で、自己規則化法を行っている。
0.3mol/L硫酸、0℃、27V、450分(非特許文献6)
0.3mol/L硫酸、10℃、25V、750分(非特許文献6)
0.3mol/Lシュウ酸、17℃、40V、600分;その後、ポアワイド処理(6重量%リン酸および1.8重量%クロム酸含有液、60℃、840分)(非特許文献7)
0.3mol/Lシュウ酸、17℃、40〜60V、36分;その後、ポアワイド処理(5重量%リン酸、30℃、70分)(非特許文献8)
0.04mol/Lシュウ酸、3℃、80V、膜厚3μm;その後、ポアワイド処理(5重量%リン酸、30℃、70分)(非特許文献8)
0.3mol/Lリン酸、0℃、195V、960分;その後、ポアワイド処理(10重量%リン酸、240分)(非特許文献1)
また、これらの公知文献に記載されている方法では、陽極酸化皮膜を溶解させて除去する脱膜処理に、50℃程度のクロム酸とリン酸の混合水溶液を用いて、12時間以上をかけている。なお、沸騰した水溶液を用いて処理すると、規則化の起点が破壊され、乱れるので、沸騰させないで用いる。
自己規則化陽極酸化皮膜は、アルミニウム部分に近くなるほど規則性が高くなってくるので、一度脱膜して、アルミニウム部分に残存した陽極酸化皮膜の底部分を表面に出して、規則的な窪みを得る。したがって、脱膜処理においては、アルミニウムは溶解させず、酸化アルミニウムである陽極酸化皮膜のみを溶解させる。
本発明に用いられる自己規則化陽極酸化処理は、例えば、酸濃度1〜10質量%の溶液中で、アルミニウム部材を陽極として通電する方法を用いることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
自己規則化陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜10質量%、液温0〜20℃、電流密度0.1〜10A/dm2、電圧10〜200V、電解時間2〜20時間であるのが適当である。
自己規則化陽極酸化皮膜の膜厚は、10〜50μmであるのが好ましい。
本発明においては、自己規則化陽極酸化処理は、1〜16時間であるのが好ましく、2〜12時間であるのがより好ましく、2〜7時間であるのが更に好ましい。
また、脱膜処理は、0.5〜10時間であるのが好ましく、2〜10時間であるのがより好ましく、4〜10時間であるのが更に好ましい。
このように、自己規則化法により、陽極酸化皮膜を形成させた後、これを溶解させて除去し、再度、同一の条件で後述する本陽極酸化処理を行うと、ほぼ真っ直ぐなマイクロポアが、膜面に対してほぼ垂直に形成される。
<物理的方法>
物理的方法としては、例えば、プレスパターニングを用いる方法が挙げられる。具体的には、複数の突起を表面に有する基板をアルミニウム表面に押し付けて窪みを形成させる方法が挙げられる。例えば、特開平10−121292号公報に記載されている方法を用いることができる。
また、アルミニウム表面にポリスチレン球を稠密状態で配列させ、その上からSiO2を蒸着した後、ポリスチレン球を除去し、蒸着されたSiO2をマスクとして基板をエッチングして窪みを形成させる方法も挙げられる。
<粒子線法>
粒子線法は、アルミニウム表面に粒子線を照射して窪みを形成させる方法である。粒子線法は、窪みの位置を自由に制御することができるという利点を有する。
粒子線としては、例えば、荷電粒子ビーム、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)、電子ビームが挙げられる。
粒子線法としては、例えば、特開2001−105400号公報に記載されている方法を用いることもできる。
<ブロックコポリマー法>
ブロックコポリマー法は、アルミニウム表面にブロックコポリマー層を形成させ、熱アニールによりブロックコポリマー層に海島構造を形成させた後、島部分を除去して窪みを形成させる方法である。
ブロックコポリマー法としては、例えば、特開2003−129288号公報に記載されている方法を用いることができる。
<レジスト干渉露光法>
レジスト干渉露光法は、アルミニウム表面にレジストを設け、レジストに露光および現像を施して、レジストにアルミニウム表面まで貫通した窪みを形成させる方法である。
レジスト干渉露光法としては、例えば、特開2000−315785号公報に記載されている方法を用いることができる。
上述した種々の窪みを形成させる方法の中でも、10cm角程度以上の大面積にわたって均一に形成することができる点で、自己規則化法、FIB法、レジスト干渉露光法が望ましい。
更には、製造コストを考慮すると、自己規則化法が最も好ましい。また、マイクロポアの配列を自由に制御することができる点では、FIB法も好ましい。
形成される窪みは、深さが約10nm以上であるのが好ましい。また、幅は、所望とするポア径の幅以下であるのが好ましい。
<本陽極酸化処理>
上述したように、好ましくはアルミニウム表面に窪みを形成させた後、本陽極酸化処理により、マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を形成させる。
本発明においては、得られた陽極酸化皮膜の表面が、親水性および疎水性のいずれかの表面特性を有する。陽極酸化皮膜の表面にこの表面特性を付与する方法は、特に限定されず、例えば、陽極酸化皮膜を形成させた後、その表面に、親水化処理および疎水化処理のいずれかの表面処理を施し、前記表面特性を付与する方法;親水化剤および疎水化剤のいずれかの処理剤を含有する電解液を用いて陽極酸化処理を施し、陽極酸化皮膜を形成させる方法が挙げられる。
本陽極酸化処理は、従来公知の方法を用いることができる。
陽極酸化皮膜を形成させた後に表面処理を施す方法を用いる場合は、上述した自己規則化法と同一の条件で行われるのが好ましい。
また、直流電圧を一定としつつ、断続的に電流のオンおよびオフを繰り返す方法、直流電圧を断続的に変化させつつ、電流のオンおよびオフを繰り返す方法も好適に用いることができる。これらの方法によれば、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に電着処理により封孔処理する際に、均一性が向上する点で、好ましい。
上述した電圧を断続的に変化させる方法においては、電圧を順次低くしていくのが好ましい。これにより、陽極酸化皮膜の抵抗を下げることが可能になり、後に電着処理を行う場合に、均一化することができる。
本陽極酸化皮膜を低温で行うと、マイクロポアの配列が規則的になり、また、ポア径が均一になる。
陽極酸化皮膜の膜厚は、封孔のしやすさの点で、ポア径の0.5〜10倍であるのが好ましく、1〜8倍であるのがより好ましく、1〜5倍が更に好ましい。
ポア径は、後に封孔処理として電着処理を行う場合には、10nm以上であるのが好ましい。
したがって、例えば、前記陽極酸化皮膜の膜厚が0.1〜1μmであり、マイクロポアの平均ポア径が0.01〜0.5μmであるのは、好ましい態様の一つである。
平均ポア密度は50〜1500個/μm2であるのが好ましい。
マイクロポアの占める面積率は、20〜50%であるのが好ましい。
マイクロポアの占める面積率は、アルミニウム表面の面積に対するマイクロポアの開口部の面積の合計の割合である。マイクロポアの占める面積率の算出においては、マイクロポアには、金属により封孔されているものもいないものも含まれる。具体的には、封孔処理前に表面空隙率を測定して求められる。
処理剤を含有する電解液を用いて陽極酸化処理を施す方法を用いる場合、電解液に処理剤として後述する親水化剤および疎水化剤のいずれかを含有させる以外は、上記と同様との方法により陽極酸化処理を行うことができる。
親水化剤としては、例えば、親水性無機微粒子、水溶性樹脂が挙げられる。
親水性無機微粒子としては、具体的には、例えば、コロイダルシリカ(例えば、スノーテックスST−O、日産化学工業社製、SiO2含有量20質量%、粒子径10〜20nm、pH2.0〜4.0)、コロイダルアルミナ(例えば、アルミナゾル500、日産化学工業社製、Al23含有量20質量%、NO3含有量1質量%以下、ベーマイト板状結晶、硝酸安定型;アルミナゾル200、日産化学工業社製、Al23含有量10質量%、CH3COOH含有量3.5質量%以下、羽毛状、酢酸安定型;アルミナゾル100、日産化学工業社製、Al23含有量10質量%、Cl含有量3質量%以下、羽毛状、塩酸安定型)が挙げられる。
水溶性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)が挙げられる。これらは、例えば、関東化学社製の試薬が入手可能である。
親水化剤は、ゲル化防止のため、液体である場合には、pHが中性であるか、電解液のpHをあまり変化させないpHであるかが好ましく、固体である場合には、電解液のpHをあまり変化させないpHであるのが好ましい。
疎水化剤としては、例えば、コロイド状疎水化樹脂;変性スチレン・ブタジエン共重合体および中硬化スチレン系混合ラテックス(例えば、Nipol LX438C、日本ゼオン社製、平均粒径150nm、pH7;Nipol LX430、日本ゼオン社製、平均粒径150nm、pH7)等の中性エマルション樹脂;変性スチレン・ブタジエン共重合体系ラテックス(例えば、Nipol LX407AS、日本ゼオン社製、平均粒径100〜140nm、pH5〜6)、アクリレート系ラテックス(例えば、Nipol LX816、日本ゼオン社製)等の酸性エマルション樹脂が挙げられる。
また、疎水化剤としては、いわゆる撥水化剤を用いることもできる。撥水化剤としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
1−Si(R23 (1)
式中、R1は、置換基を有していてもよい炭素原子数3以上のアルキル基を表す。Rは、直鎖状、分岐状および環状のいずれであってもよい。
直鎖状のアルキル基としては、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。分岐状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基が挙げられる。環状のアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基が挙げられる。
上記アルキル基は、置換基を有していてもよく、その置換基は、特に限定されない。例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリル基、アリール基、アリルアリール基、これらを組み合わせた基が挙げられる。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、上記のRで例示したものと同じものが挙げられる。
中でも、置換基としては、フッ素が好ましい。
上記式(1)で表される化合物は、R1の炭素原子数が多いほど、また、フッ素原子を置換基として有する場合は、フッ素原子数が多いほど、表面の疎水性を大きすることができる。
2は、それぞれ独立に、メトキシ基、エトキシ基またはイソシアネート基を表す。
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、アルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、フルオロアルキルトリメトキシシラン、フルオロアルキルトリエトキシシラン、アルキルトリイソシアネートシラン、フルオロアルキルトリイソシアネートシランが挙げられる。
中でも、室温硬化型の撥水化剤であるフルオロアルキルトリメトキシシラン、フルオロアルキルトリエトキシシラン等のフルオロアルキルシラン(FAS);フルオロアルキルトリイソシアネートシランが好適に挙げられる。
親水化剤および疎水化剤を陽極酸化処理に用いられる電解液に含有させる場合、これらの含有量は、それぞれ、電解液全量に対して、1〜30質量%であるのが好ましく、5〜20質量%であるのがより好ましい。上記範囲であると、陽極酸化処理の電圧が高くても、焼けが発生することがなく、均一な陽極酸化処理を施すことができる。
<ポアワイド処理>
ポアワイド処理は、本陽極酸化処理後、アルミニウム部材を酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸せきさせることにより、陽極酸化皮膜を溶解させ、マイクロポアのポア径を拡大する処理である。
これにより、陽極酸化皮膜のマイクロポアの底部分のバリヤー皮膜を溶解させることにより、マイクロポア内部に選択的に電着させることが可能となる。
ポアワイド処理に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は1〜10質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、25〜40℃であるのが好ましい。
ポアワイド処理にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜60分であるのが好ましく、10〜50分であるのがより好ましく、15〜30分であるのが更に好ましい。
<表面処理>
処理剤を含有しない電解液を用いて陽極酸化処理を施した場合には、陽極酸化処理後、または、その後、更にポアワイド処理を施した後、陽極酸化皮膜の表面に、親水化処理および疎水化処理のいずれかの表面処理を施し、親水性および疎水性のいずれかの表面特性を付与する。なお、処理剤を含有する電解液を用いて陽極酸化処理を施した場合であっても、その後、表面処理を行うことは可能である。
親水化処理は、その方法を特に限定されず、例えば、米国特許第2,946,638号明細書に記載されているフッ化ジルコニウム酸カリウム処理、米国特許第3,201,247号明細書に記載されているホスホモリブデート処理、英国特許第1,108,559号に記載されているアルキルチタネート処理、独国特許第1,091,433号明細書に記載されているポリアクリル酸処理、独国特許第1,134,093号明細書および英国特許第1,230,447号明細書に記載されているポリビニルホスホン酸処理、特公昭44−6409号公報に記載されているホスホン酸処理、米国特許第3,307,951号明細書に記載されているフィチン酸処理、特開昭58−16893号公報および特開昭58−18291号公報に記載されている親油性有機高分子化合物と2価の金属との塩による処理、米国特許第3,860,426号明細書に記載されているように、水溶性金属塩(例えば、酢酸亜鉛)を含む親水性セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)の層を設ける処理、特開昭59−101651号公報に記載されているスルホ基を有する水溶性重合体を塗布する処理が挙げられる。
また、特開昭62−019494号公報に記載されているリン酸塩、特開昭62−033692号公報に記載されている水溶性エポキシ化合物、特開昭62−097892号公報に記載されているリン酸変性デンプン、特開昭63−056498号公報に記載されているジアミン化合物、特開昭63−130391号公報に記載されているアミノ酸の無機または有機酸、特開昭63−145092号公報に記載されているカルボキシ基またはヒドロキシ基を含む有機ホスホン酸、特開昭63−165183号公報に記載されているアミノ基とホスホン酸基を有する化合物、特開平2−316290号公報に記載されている特定のカルボン酸誘導体、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平3−261592号公報に記載されている1個のアミノ基とリンの酸素酸基1個を持つ化合物、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平5−246171号公報に記載されているフェニルホスホン酸等の脂肪族または芳香族ホスホン酸、特開平1−307745号公報に記載されているチオサリチル酸のようなS原子を含む化合物、特開平4−282637号公報に記載されているリンの酸素酸のグループを持つ化合物等を塗布する処理も挙げられる。
また、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸せきさせる方法、親水性ビニルポリマーまたは親水性化合物を塗布して親水化処理を行うのが、好適に挙げられる。
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法および手順に従って行うことができる。
アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVA族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
また、親水性層の形成による親水化処理は、特開昭59−101651号公報および特開昭60−149491号公報に記載されている条件および手順に従って行うこともできる。
この方法に用いられる親水性ビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、スルホ基を有するp−スチレンスルホン酸等のスルホ基含有ビニル重合性化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の通常のビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。また、この方法に用いられる親水性化合物としては、例えば、−NH2基、−COOH基およびスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物が挙げられる。
また、上述した親水化剤を含有する液を、陽極酸化皮膜の表面に塗布し、乾燥させる方法も挙げられる。
疎水化処理は、その方法を特に限定されず、例えば、カルボキシメチルセルロース;デキストリン;アラビアガム;2−アミノエチルホスホン酸等のアミノ基を有するホスホン酸類、置換基を有していてもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸、エチレンジホスホン酸等の有機ホスホン酸;置換基を有していてもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸、グリセロリン酸等の有機リン酸;置換基を有していてもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸、グリセロホスフィン酸等の有機ホスフィン酸;グリシン、β−アラニン等のアミノ酸類;トリエタノールアミンの塩酸塩等のヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等を用いて疎水性層を形成させる方法が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
また、疎水性層としては、特開2000−105462号公報に記載されている、酸基を有する構成成分とオニウム基を有する構成成分とを有する高分子化合物を含有する層も好適に用いられる。
また、上述した疎水化剤を含有する液を、陽極酸化皮膜の表面に塗布し、乾燥させる方法も挙げられる。
親水化処理および疎水化処理に用いられる塗布方法は特に限定されず、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、浸せき塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等が挙げられる。
<封孔処理>
本発明の構造体は、封孔処理により、陽極酸化皮膜のマイクロポアが金属で封孔されている。
金属は、自由電子を有する金属結合からなる元素であり、特に限定されないが、プラズモン共鳴が確認されている金属であるのが好ましい。中でも、金、銀、銅、ニッケル、白金が、プラズモン共鳴が起こりやすいことが知られており(現代化学,2003年9月号,p.20〜27(非特許文献9))、好ましい。特に、電着やコロイド粒子の作製が容易である金、銀が好ましい。
封孔処理の方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
例えば、電着法;金属コロイド粒子の分散液を、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム部材に塗布し乾燥させる方法が好適に挙げられる。金属は、単一粒子または凝集体であるのが好ましい。
電着法は、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、金電着法の場合、1g/LのHAuCl4と7g/LのH2SO4を含有する30℃の分散液に、アルミニウム部材を浸せきさせ、11Vの定電圧(スライダックで調整)で、5〜6分間電着処理する方法が挙げられる。
電着法としては、現代化学,1997年1月号,p.51−54(非特許文献10)に銅、スズおよびニッケルを用いた例が詳細に記載されており、この方法を用いることもできる。
金属コロイド粒子を用いる方法に用いられる分散液は、従来公知の方法により得ることができる。例えば、低真空蒸発法による微粒子の作製方法、金属塩の水溶液を還元する金属コロイド作製方法により得ることができる。
金属コロイド粒子は、平均粒径が1〜200nmであるのが好ましく、1〜100nmであるのがより好ましく、2〜80nmであるのが更に好ましい。
分散液に用いられる分散媒としては、水が好適に用いられる。また、水と混合しうる溶剤、例えば、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、メチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のアルコールと、水との混合溶媒も用いることができる。
金属コロイド粒子を用いる方法において、塗布方法は特に限定されず、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、浸せき塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等が挙げられる。
金属コロイド粒子を用いる方法に用いられる分散液としては、例えば、金コロイド粒子の分散液、銀コロイド粒子の分散液が好適に用いられる。
金コロイド粒子の分散液としては、例えば、特開平2001−89140号公報および特開平11−80647号公報に記載されているものを用いることができる。また、市販品を用いることもできる。
銀コロイド粒子の分散液は、陽極酸化皮膜から溶出する酸によって影響を受けない点で、銀とパラジウムの合金の粒子を含有するのが好ましい。この場合、パラジウムの含有量は、5〜30質量%であるのが好ましい。
分散液を塗布した後、水等の溶媒を用いて適宜洗浄する。これにより、マイクロポアに充填された粒子のみ陽極酸化皮膜に残存し、マイクロポアに充填されなかった粒子は除去される。
封孔処理後の金属の付着量は、100〜500mg/m2であるのが好ましい。
また、封孔処理後の表面空隙率は、20%以下であるのが好ましい。封孔処理後の表面空隙率は、アルミニウム表面の面積に対する封孔されていないマイクロポアの開口部の面積の合計の割合である。表面空隙率が上記範囲であると、より強い局在プラズモン共鳴が得られる。
ポア径が50nm以上である場合は、金属コロイド粒子を用いる方法が好適に用いられる。また、ポア径が50nm未満である場合は、電着法が好適に用いられる。両者を組み合わせる方法も好適に用いられる。
<微細構造体>
上述したようにして得られた本発明の構造体は、金属がマイクロポアを封孔しており、陽極酸化皮膜の表面に粒子となって存在している。
図1は、電着法による封孔処理を施されてなる本発明の構造体の表面を示す模式的な断面図である。図1に示される構造体10は、陽極酸化皮膜12のマイクロポア14を金属16が充填し、金属16の表面は、陽極酸化皮膜12の表面から盛り上がって粒子状となっている。
また、図2は、金属コロイド粒子を用いる方法による封孔処理を施されてなる本発明の構造体の表面を示す模式的な断面図である。図2に示される構造体20は、陽極酸化皮膜22のマイクロポア24を金属26が充填し、金属26の表面は、陽極酸化皮膜22の表面から盛り上がって粒子状となっている。なお、マイクロポア24の内部には空隙が残っている場合もある(図2中の右側のマイクロポアで顕著である。)。
この金属粒子の間隔は、ラマン増強効果を大きくするためには、一般に短い方が好ましいが、最適な間隔は、金属粒子の大きさや形状の影響を受ける。
したがって、金属粒子の間隔は一概には決定することができないが、概して、1〜400nmの範囲であるのが好ましく、5〜300nmであるのがより好ましく、10〜200nmであるのが更に好ましい。上記範囲であると、ラマン増強効果が大きくなる。
ここで、「金属粒子の間隔」は、隣接する粒子の表面同士の最短距離である。
<局在プラズモン共鳴によるラマン増強効果>
ラマン増強効果は、金属に吸着した分子のラマン散乱強度が105〜106倍程度増強される現象であり、表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)と呼ばれている。そして、上記非特許文献9には、金、銀、銅、白金、ニッケル等の金属粒子を用いた局在プラズモン共鳴により、ラマン増強効果が得られることが記載されている。
本発明の構造体は、陽極酸化皮膜の表面が表面処理を施されているから、検体の化学的性質に応じて、表面特性を選択することにより、検体が金属粒子の表面に選択的にかつ均一に付着させることができる。
図3は、ラマン分光分析用試料台として使用される、図1に示される本発明の構造体の表面を示す模式的な断面図である。
ラマン分光分析用の検体が親水性物質である場合には、陽極酸化皮膜12の表面が疎水性である構造体10を用いるのが好ましく、ラマン分光分析用の検体が疎水性物質である場合には、陽極酸化皮膜12の表面が親水性である構造体10を用いるのが好ましい。このようにすることにより、図3に示されるように、検体18が粒子状の金属16の表面に選択的にかつ均一に付着するようになる。
本発明の構造体をラマン分光分析用試料台に用いると、上述したように、検体が金属粒子の表面に選択的にかつ均一に付着するため、ラマン散乱の信号強度が十分に大きくなり、かつ、再現性も優れたものになる。したがって、本発明の構造体を用いたラマン分光分析用試料台は、有用である。
また、陽極酸化皮膜の表面に親水性および疎水性のいずれかの表面特性を付与しない場合、陽極酸化皮膜の表面に空気中に浮遊した微量の有機成分等が付着し、表面特性が変化する。具体的には、陽極酸化皮膜形成直後には、親水性であるが、数時間後には親水性が低下し、数日後には疎水性を示すようになる。
したがって、表面特性を付与しない構造体をラマン分光分析用試料台に用いると、金属粒子の表面に付着する検体の量が経時的に変化し、その結果、ラマン散乱強度が大きく変化してしまう。このような経時的変化を抑制するためには、真空中でまたはアルコール等の溶媒中での保管が必要となる場合もあった。
これに対し、本発明の構造体は、親水性および疎水性のいずれかの表面特性を付与しており、経時的変化も抑制されている。したがって、ラマン散乱強度の経時安定性に優れる。
本発明のラマン分光分析用試料台の使用方法は、従来のラマン分光分析用試料台の使用方法と同様である。具体的には、本発明のラマン分光分析用試料台に対して光を照射して、反射した光または透過した光のラマン散乱強度を測定することにより、試料台に保持された金属の近傍の物質の特性を検出する。
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
(実施例1〜18および比較例1〜3)
1.構造体の作製
第1表および第2表に示されるように、基板に、鏡面仕上げ処理、窪みの形成、本陽極酸化処理、ポアワイド処理、表面処理および封孔処理を順次施して、各構造体を得た。なお、第1表および第2表中、「−」は該当する処理を施していないことを示す。
Figure 2005336538
Figure 2005336538
以下、基板および各処理について説明する。
(1)基板
構造体の作製に用いた基板は、以下のとおりである。
基板1:高純度アルミニウム、和光純薬工業社製、純度99.99質量%、厚さ0.4mm
基板2:表面層を設けたガラス、アズワン社製、厚さ5mm
基板2の表面層は、スパッタリング法により、到達圧力:4×10-6Pa、スパッタ圧力:10-2Pa、アルゴン流量:20sccm、基板:150℃制御(冷却有り)、バイアス:なし、スパッタ電源:RC、スパッタ電力:RF400W、スパッタ材料:純度99.99質量%の4Nバッキングプレート(協同インターナショナル社製)の条件で、ガラス上に形成された。表面層の厚さは、0.5μmであった。
なお、表面層の厚さは、PET基板にマスキングを施して、上記と同様の条件で、スパッタリング法を時間を変化させて行い、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)でそれぞれの膜厚を測定することにより得られた時間と膜厚との相関検量線を用い、時間を調整することにより、調整した。
また、表面層の純度は、走査型X線光電子分光分析装置(Quantum 2000、アルバック・ファイ社製)を用いて、エッチング用イオン銃で深さ方向に掘りながら全定量分析を行い、異種金属元素の含有率を検量線法によって定量して求めた。その結果、表面層は、スパッタ材料の純度とほぼ同一の純度であった。
(2)鏡面仕上げ処理
上記基板1および2のうち、基板1については、以下の鏡面仕上げ処理を施した。
<鏡面仕上げ処理>
研磨布を用いた研磨、バフ研磨および電解研磨をこの順に行うことにより、鏡面仕上げ処理を施した。バフ研磨後には水洗を行った。
研磨布を用いた研磨は、研磨盤(Struers Abramin、丸本工業社製)および耐水研磨布(市販品)を用い、耐水研磨布の番手を#200、#500、#800、、#1000および#1500の順に変更しつつ行った。
バフ研磨は、スラリー状研磨剤(FM No.3(平均粒径1μm)およびFM No.4(平均粒径0.3μm)、いずれもフジミインコーポレーテッド社製)を用いて行った。
電解研磨は、下記組成の電解液(温度70℃)を用いて、陽極を基板、陰極をカーボン電極とし、130mA/cm2の定電流で、2分間行った。電源としては、GP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。
<電解液組成>
・85質量%リン酸(和光純薬社製試薬) 660mL
・純水 160mL
・硫酸 150mL
・エチレングリコール 30mL
(3)窪みの形成
鏡面仕上げを施した基板1および鏡面仕上げを施していない基板2の表面に、下記(i)および(ii)のいずれかの方法により、後述する陽極酸化処理においてマイクロポア形成の開始点となる窪みを形成させた。
(i)集束イオンビーム法
集束イオンビーム加工装置を用い、基板2の表面に集束イオンビームを照射して窪みを形成させた。イオン種としてはGaを用い、加速電圧は30kV、イオンビーム径は約30nm、イオン電流は約3pAであった。
この際、集束イオンビーム加工装置の二次電子観察機能を用いて、窪みの位置決めを行い、窪み密度および窪みの中心間隔が第2表に示されるハニカムパターン(最密充填構造)になるように、照射を繰り返した。各窪みにおける集束イオンビームの滞在時間は、約10msecであった。
(ii)自己規則化法
第3表に示される電解液の種類、濃度および温度、電圧、電流密度ならびに処理時間で、基板1の表面に自己規則化陽極酸化処理を行い、第3表に示される膜厚および平均ポア径の陽極酸化皮膜を形成させた。自己規則化陽極酸化処理においては、冷却装置としてNeoCool BD36(ヤマト科学社製)、かくはん加温装置としてペアスターラー PS−100(EYELA社製)、電源としてGP0650−2R(高砂製作所社製)を用いた。
Figure 2005336538
第3表中、リン酸は、関東化学社製の試薬を用いた。電流密度は安定時の値を示した。
なお、マイクロポアの平均ポア径は、SEM表面写真を画像解析することにより測定した。画像解析の方法を以下に示す。
画像処理ソフト(Image Factory、旭ハイテック社製)を用いて、2値化(大津の方法)を実行し、その後、2値化画像の形状解析を、黒穴埋め、黒膨張および黒収縮の順に実行した。ついで、写真に写し出された長さを計測バーを使って入力した。更に、形状特徴を抽出し、等価円直径を出力して、等価円直径分布から平均ポア径を算出した。
ついで、陽極酸化皮膜を形成された基板を、85質量%リン酸水溶液(関東化学社製)100g、無水クロム酸(関東化学社製)30gおよび純水1500gからなる処理液(液温50℃)に浸せきさせて、陽極酸化皮膜を溶解させる脱膜処理を行った。
また、陽極酸化皮膜の膜厚の経時変化量および処理時間から、以下のようにして脱膜速度を算出したところ、4μm/hrであった。なお、脱膜処理後の陽極酸化皮膜の膜厚は、0.1μm以下であった。
<脱膜速度の算出>
脱膜処理中、1時間毎にサンプリングした基板を、折り曲げ、ひび割れ部分の側面(破断面)について、超高分解能型SEM(日立S-900、日立製作所社製)を使用して、12Vという比較的低加速電圧で、導電性を付与する蒸着処理等を施すことなしに観察し、膜厚を測定した。サンプリングは、1回につき10箇所を無作為抽出し、膜厚の平均を求めた。膜厚の誤差は±10%の範囲にあった。
(4)本陽極酸化処理
窪みを形成させた基板に本陽極酸化処理を施した。本陽極酸化処理は、1mol/Lリン酸水溶液に、第4表に示される処理剤を第4表に示される量で添加させて得られる電解液(第4表に液温を示す。)中に基板を浸せきさせ、第4表に示される1回目の電圧で、1回または複数回、電解処理を施すことにより行った。
電解処理を複数回行う場合は、1回目は、定電圧の初期設定値V0に到達したら電解を中断し、2回目は、定電圧の初期設定値0.9×V0[V]に到達したら電解を中断し、3回目は、定電圧の初期設定値0.8×V0[V]に到達したら電解を中断するというように、n回目は、定電圧の初期設定値{1−0.1×(n−1)}×V0に到達したら電解を中断することを複数回繰り返した。
処理剤は、以下のとおりである。
親水化剤1:コロイダルシリカ、スノーテックスST−O、日産化学工業社製、SiO2含有量20質量%、粒子径10〜20nm、pH2.0〜4.0
親水化剤2:コロイダルアルミナ、アルミナゾル200、日産化学工業社製、Al23含有量10質量%、CH3COOH含有量3.5質量%以下、羽毛状、酢酸安定型
疎水化剤:変性スチレン・ブタジエン共重合体系ラテックス、Nipol LX407AS、日本ゼオン社製、平均粒径100〜140nm、pH5〜6
また、陽極酸化皮膜の膜厚を上記と同様の方法により測定し、増加分を第4表に示した。
更に、陽極酸化皮膜を形成してから24時間および1か月経過した後、陽極酸化皮膜の表面に空気中で水滴(液滴直径2mm)を滴下し、30秒後に支持体表面と水滴表面とのなす角度(空中水滴接触角)を測定した。測定には、接触角計(CA−S150、協和界面科学社製)を用いた。なお、測定は試料上の異なる5点で行い、その平均値を用いた。
結果を第4表に示す。第4表中、「拡張濡れ」とは、濡れ性が高く、水滴が測定時までに拡張するように形状変化して、接触角を測定することができなかったことを示す。
Figure 2005336538
(5)ポアワイド処理
ポアワイド処理は、基板を、濃度50g/Lのリン酸水溶液(液温30℃)に、30分間浸せきさせることにより行った。
(6)表面処理
表面処理は、親水化処理、疎水化処理1および疎水化処理2のいずれかを行った。
親水化処理は、2.5質量%の3号ケイ酸ナトリウム水溶液(液温30℃)に、陽極酸化皮膜の表面を10秒間浸せきさせることにより行った。
疎水化処理1は、下記組成の処理液(液温25℃)を、乾燥後の塗布量が2mg/m2となるように塗布し乾燥させることにより行った。
<処理液組成>
・β−アラニン(関東化学社製) 0.2g
・メタノール 100g
・水 1g
疎水化処理2は、CF3CF2CH2CH2Si(OCH2CH33(SIH5814.2、チッソ社製)のメタノール溶液を、乾燥後の塗布量が2mg/m2となるように塗布し乾燥させることにより行った。
(7)封孔処理
封孔処理は、封孔処理1および封孔処理2のいずれかを行った。
<封孔処理1(金コロイド粒子を用いる方法)>
0.05質量%のHAuCl4水溶液1.5mLに1質量%のクエン酸水溶液1.5mLを添加して、アルコールランプを用いて室温から徐々に加熱し、赤紫色に変化した状態で加熱を停止し、室温まで冷却して得た金コロイド粒子分散液(金コロイド粒子の平均粒径120nm)に、支持体を1分間浸せきさせた後、水洗し乾燥させた。
<封孔処理2(電着法)>
1g/LのHAuCl4と7g/LのH2SO4を含有する30℃の分散液に、支持体を浸せきさせ、11Vの定電圧(スライダックで調整)で、5〜6分間電着処理した。
2.ラマン増強効果の測定
下記検体A〜Dのいずれかを構造体の表面に塗布して測定用サンプルを得た後、ラマン分光分析装置(T64000、堀場製作所製)を用いて、ラマンシフト測定範囲cm-1の条件で、ラマン散乱強度を測定した。各実験例および比較実験例につき、測定用サンプルを50個作製し、そのラマン散乱強度を測定した。
検体A:D−グルコース水溶液(関東化学社製)、親水性大、励起波長457nm、測定波数285cm-1、ラマンシフト測定範囲100〜500cm-1
検体B:ラクトース水溶液(関東化学社製)、親水性小、励起波長710nm、測定波数992cm-1、ラマンシフト測定範囲200〜2000cm-1
検体C:ピリジン水溶液(関東化学社製)、疎水性小、励起波長710nm、測定波数1036cm-1、ラマンシフト測定範囲200〜2000cm-1
検体D:ローダミン6Gメタノール溶液(関東化学社製)、疎水性大、励起波長710nm、測定波数1655cm-1、ラマンシフト測定範囲200〜2000cm-1
測定されたラマン散乱強度の値の平均値を、通常のスライドガラスを用いてレーザー出力を最大にして測定した場合のラマン散乱強度の値で除して、増強倍率を算出し、ラマン増強効果の大きさを評価した。
また、測定されたラマン散乱強度の値の変動係数(CV:Coefficient of Variation)を算出し、ラマン増強効果の再現性を評価した。なお、変動係数は、下記式により定義される。
(ラマン散乱強度の変動係数)=(ラマン散乱強度の標準偏差)/(ラマン散乱強度の平均)
なお、ラマン散乱強度の測定は、構造体を作製してから24時間および1か月経過した後に行い、これによりラマン増強効果の経時安定性を評価した。
結果を第5表に示す。
第5表中の「ラマン増強効果の大きさ」の欄の記号の意味は以下のとおりである。
◎:増強倍率が105以上
○:増強倍率が104以上105未満
△:増強倍率が102以上103未満
×:増強倍率が101未満
また、第5表中の「ラマン増強効果の再現性」の欄の記号の意味は以下のとおりである。
◎:変動係数が10%以下
○:変動係数が10%を超え25%以下
△:変動係数が25%を超え50%以下
×:変動係数が50%を超えた
Figure 2005336538
Figure 2005336538
第5表から明らかなように、本発明の構造体は、ラマン増強効果の大きさ、再現性および経時安定性に優れる。
また、封孔処理を以下のようにして行った以外は、実施例1〜18および比較例1〜3と同様の方法により、構造体を作製し、その性状を評価した。
<封孔処理3(銀コロイド粒子を用いる方法)>
30質量%の硫酸鉄(II)(FeSO4・7H2O)水溶液に40質量%のクエン酸水溶液を添加して混合させた。ついで、20℃に保持しつつかくはんしながら、10質量%の硝酸銀および硝酸パラジウムの水溶液(モル比9:1)を200mL/minの速度で添加して混合し、その後、遠心分離により水洗を繰り返し、最終的に3質量%になるように純水を加え、銀コロイド粒子分散液を得た。銀コロイド粒子の粒径は、TEMで測定した結果、約9〜12nmであった。
得られた銀コロイド粒子分散液100gにイソプロピルアルコールを加え、超音波を用いて分散させ、ついで、孔径1μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して銀コロイド粒子塗布液を得た。
銀コロイド粒子を用いた場合も、金コロイド粒子を用いた場合とほぼ同様のラマン増強効果が得られた。
電着法による封孔処理を施されてなる本発明の構造体の表面を示す模式的な断面図である。 金属コロイド粒子を用いる方法による封孔処理を施されてなる本発明の構造体の表面を示す模式的な断面図である。 ラマン分光分析用試料台として使用される、図1に示される本発明の構造体の表面を示す模式的な断面図である。
符号の説明
10、20 構造体
12 陽極酸化皮膜
14 マイクロポア
16、26 金属
18 検体

Claims (4)

  1. マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム部材を少なくとも一部に有する構造体であって、
    前記陽極酸化皮膜の表面が、親水性および疎水性のいずれかの表面特性を有し、かつ、前記マイクロポアが金属で封孔されている、構造体。
  2. 前記金属が金または銀である、請求項1に記載の構造体。
  3. 請求項1または2に記載の構造体の製造方法であって、
    アルミニウム部材の表面に陽極酸化処理を施して、マイクロポアが存在する陽極酸化皮膜を形成させる陽極酸化処理工程と、
    前記陽極酸化処理工程の後、前記陽極酸化皮膜の表面に、親水化処理および疎水化処理のいずれかの表面処理を施し、前記表面特性を付与する表面処理工程と、
    前記表面処理工程の後、前記マイクロポアを金属で封孔する封孔処理工程と
    を具備する、構造体の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載の構造体の製造方法であって、
    アルミニウム部材の表面に、親水化剤および疎水化剤のいずれかの処理剤を含有する電解液を用いて陽極酸化処理を施して、マイクロポアが存在し、かつ、前記表面特性を有する陽極酸化皮膜を形成させる陽極酸化処理工程と、
    前記陽極酸化処理工程の後、前記マイクロポアを金属で封孔する封孔処理工程と
    を具備する、構造体の製造方法。
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