JP2005325451A - 亜鉛アンチモン化合物焼結体 - Google Patents

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【課題】特定の温度及び圧力の条件下に加圧焼結を行い、その結果、合成時に不可避的に発生する残留応力が低減され、クラックが存在せず、かつ、機械的強度の大きな亜鉛−アンチモン化合物(β-Zn4Sb3)焼結体の提供
【解決手段】Zn及びSb各成分からなり、その割合がモル比で4対3である混合された原料を、真空封入下に650〜700℃の温度下に溶融凝固させてβ-Zn4Sb3としこれを粉砕して粉体とし、次に圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度が450℃以上、500℃以下の条件下の一定条件下に維持して緻密化処理を行い、終了後、焼結温度がその温度の95%に到達する前迄に、前記圧力を解除することにより得られるβ-Zn4Sb3焼結体。
【選択図】なし

Description

本発明は,亜鉛アンチモン化合物焼結体に関するものである。
熱エネルギーを電気エネルギーに、或いは電気エネルギーを熱エネルギーに変換させる熱電変換モジュールは、エネルギー変換モジュルールとして注目されている。このモジュールを利用した熱電発電を行うための機構は、図1に示されている。熱電発電は、熱電発電モジュールを片方に熱を供給し、高温温度側部分を形成させ、他方の低温温度側部分から熱を放熱させ、貫流する熱の一部を電気として取り出すことにより、発電を行う発電方式である。
熱電発電には、p型材料とn型材料が使用される。
発電変換効率は、各材料の性能を表す下式により決定される。
Figure 2005325451

ここで、TH、TL、<T>は、高温部温度、低温部温度及びそれらの平均温度であり、Zは材料の性能指数(単位はK-1)である。Zの値が高いほど、熱電発電の変換効率は高くなる。この熱電変換効率により、熱電発電の性能は定まる。
この材料の一つとして、亜鉛アンチモン化合物が知られており、具体的には、β−ZnSbが良好であることが知られている。
図2は、各材料の熱電材料の性能指数と温度との関係を示すものである。β−ZnSbは、500Kから700Kの間で、他の材料に比較して高い性能指数Zの値を示しており、発電用材料として高いポテンシャルを有していることがわかる。
従来、β−ZnSb緻密固体は、通常の均一に加熱を行う溶融法では合成できないとされている。
図3は、Zn−Sbの状態図である。この状態図を見ると、β相は調和溶融せず、他の相を生成しながらγ相を生成、より低温でβ相となっていることがわかる。また、単相として得る事が難しいこともわかる。また、単相に類似する、性能の良い材料が得られたとしても、γ相からβ相への相変態温度が492℃であり、冷却時に体積変化を経験することから、内部に気泡やクラックが多量に存在し、機械的に非常に弱いために、熱電発電モジュールとして使用することは不可能である。このような事情で、確実に均質な材料を得るためには、亜鉛及びアンチモンの各単体元素の混合粉体を300℃〜400℃という低い温度で、長時間かけて固相反応を進めるか、もしくは、不均一な溶融凝固試料を一度粉砕し、長時間かけて上記温度で熱処理する事が必要とされるこが考えられる。
上記各材料は粉体であるため、通常は加圧焼結を行い、密度を上げて、機械的に丈夫な材料からなる素子を製造し、熱電発電に利用する。このようなことから、例えば、400℃、35MPaという条件で、一軸加圧の放電プラズマ焼結により、焼結体を合成することは可能である。しかしならが、上記焼結体でも、焼結体内部に微細なクラックが多く発生する事が報告されており、焼結体は機械的な特性を測定する事が困難なほどに脆弱であり、熱電発電モジュールに利用するために十分な強度が得られない。また、場合によっては焼結装置から取り出した状態で、割れてしまうなど、機械的な信頼性に乏しい状態にある。
このようなことから、β−ZnSbに関し、内部に気泡やクラックが多量に存在せず、機械的に十分な強度がある、熱電発電モジュールに使用することができる焼結材料及びその製法が求められている。
本発明の課題は,特定の温度範囲及び圧力範囲に含まれる一定条件下に加圧焼結を行い、製造時に不可避的に発生する残留応力が低減され、クラックが存在しない、かつ、機械的強度の大きな亜鉛−アンチモン化合物(β−ZnSb)焼結体を提供することである。
本発明者らは,前記課題を研究し、Zn及びSb各成分の組み合わせからなり、その割合がモル比で4対3である混合された粉体を、真空下に650〜700℃の温度範囲下に溶融凝固させてβ−ZnSbとし、これを粉砕して粉体とし、次に圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度範囲が450℃以上、500℃以下の、一定条件下に、緻密化処理を行い、終了後、温度が焼結温度の95%に到達する前迄に、焼結圧力を解除することにより得られるβ−ZnSb焼結体は、このような圧力を解除せずに、冷却を続けて得られた従来の焼結体に見られた、不可避的に発生する残留応力が低減され、クラックが存在しない、機械的強度の大きな亜鉛−アンチモン化合物(β−ZnSb)焼結体であることを実験的に見出して、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)Zn及びSb各成分の組み合わせからなり、その割合がモル比で4対3である混合された粉体を真空封入後、650〜700℃程度の温度下に溶融凝固させてβ−ZnSbとし、これを粉砕して粉体とし、次に圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度範囲が450℃以上、500℃以下の、一定条件下に、緻密化処理を行い、終了後、焼結温度がその温度の95%に到達する前迄に、前記圧力を解除することにより得られるものであることを特徴とするβ−ZnSb焼結体。
本発明により得られる焼結体は、従来の加圧焼結により得られる焼結体の合成時に不可避的に発生する残留応力が低減され、クラックの存在しない、機械的強度の大きな亜鉛−アンチモン化合物(β−ZnSb)焼結体を得ることができる。そして、この焼結体は熱電特性、および機械的な特性に優れた亜鉛アンチモン化合物焼結体である。
本発明によれば、焼結体の原料には、亜鉛とアンチモンの高純度原料を用いる。原料の純度は99.9%以上、望ましくは99.99%以上、より望ましくは99.999%の原料を用いる。これらは、1mm〜5mm程度の固体の粉体状であることが一般的であり、形状に特に指定はない。
各原料の固体を、亜鉛とアンチモンの割合がモル比で4対3となるように秤量し、できるだけ均一になるように混合する。
この亜鉛とアンチモンのモル比は、亜鉛を過剰量に用いるようにしても差し支えない。亜鉛の使用量を、あまりに過剰とすることは,亜鉛の影響を無視することができなくなり、好ましくない。このようなことから、通常、亜鉛の使用量を3%以内であれば,良好な結果を得ることができる。したがって、この程度の範囲内であれば,適宜採用することができる。回転式或いはボールミルなどの混合機により混合した後に,ガラス製の容器内に入れ、真空ポンプにより内部のガスを引き、容器内を真空状態として封じ切る。ガラス製の容器を高温保持が可能な炉中に静置し、650〜700℃の範囲の温度で、原料の固体の溶融混合を進行させる。通常5時間から10時間程度の溶融を行い、通常毎分1℃程度の割合で除冷し、β−ZnSbを製造する。凝固させたβ−ZnSbインゴットを取り出した後、空気等の酸化性ガスが存在しない空間で、粉砕し、粉粒体とする。
このようにして得られる、粉粒体のβ−ZnSbの焼結処理を行う。
焼結操作は,圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度範囲が450℃以上、500℃以下の、一定の温度及び圧力条件下に行う緻密化処理である。この焼結操作を行う装置には,加圧及び加熱するための手段を有するものが用いられる。簡便には、一軸加圧式のホットプレスが用いられるが、より大型で均質な焼結を目指す場合には等方的な加圧方式であるHIP焼結も利用される。
焼結操作の温度・圧力のプロフイルは図5に示すとおりである。
最高温度に達するまでの昇温速度は、10〜20℃/min.の範囲に設定される。
焼結操作のための一定温度(450〜500℃)に到達したあとは,この温度を一定に保つように制御される。焼結操作に要する時間は、焼結温度との組み合わせに応じて適宜決定する。焼結温度に高い温度を採用した場合には、焼結時間は短く、また焼結温度に低い温度を採用した場合には、緻密化処理に要する時間は長くなる。具体的には、450℃の焼結温度においては、8〜10時間の範囲で行われることが望ましい。また、500℃の焼結温度においては、2〜4時間の範囲で行われることが望ましい。
焼結操作が終了した後に、放置して冷却操作を開始する。冷却速度は、10℃から20℃/min.の範囲である。

全体の温度が焼結温度の95%の温度となる前迄に、焼結操作の圧力を解除する。この全体温度は重要な意味をもつ。この温度を過ぎて圧力を解除したのでは,残留応力が低減されていない状態で、クラックが生じてしまったりして、効果を達成することができない。
本発明により得られる焼結体は、従来の加圧焼結による焼結体の合成時に見られた不可避的に発生する残留応力が低減され、クラックの存在しない、機械的強度の大きな亜鉛−アンチモン化合物(β−ZnSb)焼結体である。
以下に,本発明について実施例により更に説明する。本発明はこの実施例により限定されるものではない。
亜鉛、アンチモン各粉体(粒度100メッシュ以下)からなる原料粉体を、亜鉛1.333:アンチモン1.000のモル比となるように秤量し、ガラス製アンプル中に10−2Torrの真空下に封入し、マッフル炉の中央に静置した。650℃で、10時間にわたり加熱溶融した後、開封してインゴットを取り出し、アルゴンガスを満たしたグローブボックス内で乳ばちにより粉砕した。このようにして、原料となるβ−ZnSb化合物の粉粒体を合成した。
上記粉体を、グラファイト製の一軸加圧プレス用のダイスに充填した。この実施例では、直径15mmφの円筒形のダイスであり、上下からグラファイト製のパンチで加圧する仕組みとなっている。粉粒体は、焼結体の仕上がりの状態で厚さ3mm程度となるように秤量し、充填した。
このダイスを1軸加圧式のホットプレス装置にセットし、アルゴンガス雰囲気内でダイス温度470℃、8時間、100MPaの条件で焼結した。室温から470℃までの昇温速度は15℃/min.とした。
この条件下に、8時間にわたる焼結操作の結果、密度を十分に緻密化させることができた。
そして、焼結操作が終了後、速やかに、焼結圧力を除いた状態とし、その後、15℃/min.で除冷を開始した。このことで、加圧軸方向への体積膨張の自由度が許され、内部応力が緩和されることとなった。
この焼結操作条件で得られた焼結体の密度は6.32g/cm3まで上がっており、顕微鏡観察によってもクラックが発見されず、室温における抵抗率が2〜3×10−5Ωm、ゼーベック係数が120μV/K、熱伝導率が0.92W/mKと、良好な熱電特性を有することが確認できた。
実施例1の焼結方法の有効性を確認するために、実施例1と全く同様の方法により、焼結操作により緻密化処理を行い、焼結時と同じ100MPaの圧力をかけ続けた状態で、除冷を行って得られた焼結体の写真を図4aに示す。比較のため、本発明の実施例1により得られた焼結体を図4bに示す。
圧力をかけ続けた状態で除冷した焼結体は、ダイスから取り出した時点で無数のクラックを有しており、わずかな力で簡単に破砕された。このため、実用化は困難であると考えられた。実施例1で得られた焼結体は、研削砥石による、厚み1mm以下の切り出し作業やメッキ作業にも全く破砕する事なく、実用化に必要な強度を有している事が確認できた。
本発明のクラックの発生を抑制する機構の知見、及び焼結条件の有効範囲を得ると共に、冷却時のどの時点でクラックが発生するかを調べるため、以下の実験を行った。
実施例1のように焼結温度を470℃とした場合、8時間の緻密化工程終了後に除冷を開始し、異なる3種類の温度に到達した時点で、圧力を解除する実験を行った。すなわち図5に見るように、450℃、430℃、400℃、室温までダイス温度が下がるまでは圧力を解除しないという条件で焼結操作を行った。
冷却の速度は、実施例1、2と同様に15℃/min.とした。
実験の結果、表1に見るように、450℃(焼結温度の、ほぼ95%に相当)では機械的強度に優れた焼結体が得られたが、430℃、400℃、室温になるまで加圧を続けると実用性のない、脆い焼結体となる事が分かる。
これらの実験より、本発明で主張する圧力の解除は、冷却が開始されてからダイス温度が450℃に至る前に行う必要がある事が分かる。
Figure 2005325451
比較例1
本発明における焼結時の冷却速度の影響を調べるために、以下の実験を行った。
実施例1と同様のダイスを使用して、焼結温度を500℃とし、この温度からの冷却速度を5℃/min.及び1℃/min.として冷却を行った。
いずれの場合も、焼結圧力は100MPaとし、ダイス温度が室温になるまで圧力を加え続けた。
この結果、得られた焼結体はいずれもクラックを有し、簡単に破砕されてしまうほどに、脆い焼結体であることが確認された。
つまり、冷却速度を小さくしても、クラック発生の抑制効果はない事が分かる。このことは、クラック発生の機構が、緻密化終了後の冷却時に発生する焼結体内の温度分布による熱歪みに帰因するものではない事を裏付けている。
亜鉛アンチモン化合物の焼結条件と熱電特性の関係を調べるために、温度、圧力、時間を変化させた焼結実験を行った。
実験の結果、表2に示す通り焼結温度は、少なくとも450℃以上、500℃未満で、熱起電力が高い、良好な特性が得られる事が明らかである。
試料の密度が6.0g/cm3以上のサンプルが必要であり、少なくとも50MPa以上の加圧が必要であることが理解できる。
また、1200MPaといった大きな圧力は、緻密化には寄与するものの、製造された焼結体の熱起電力は極めて小さくなる。X線回折実験によれば、この焼結体は異なる結晶構造になっており、従って、過剰な加圧は高い性能を持つ熱電材料の製造に相応しくない。
したがってこの実験では、性能を維持する適正な圧力範囲は50〜100MPaであると言える。
Figure 2005325451
次に,亜鉛の使用量を多くした場合の結果について述べる。
亜鉛とアンチモンの配合比率が異なる試料に本発明を適用した実施例は、次のとおりである。
亜鉛1.333モルに対してアンチモンを1.000モル秤量して、実施例1の方法に従い、混合粉砕、固相反応、及びホットプレス焼結を行った試料の他、原料出発組成をそれぞれ、1%、2%、3%亜鉛を過剰に添加した試料を、前記実施例1の同様の方法で、合成及び焼結操作を行った。亜鉛を前記の量を過剰に添加した試料においても、実施例1と同様に、本発明を適用する事で、焼結体にクラックの発生は認められず、機械的強度に優れているという結果が得られた。
このことから、3%以内であれば,亜鉛を過剰に使用しても差し支えないということができる。
参考例6
次に、本発明の亜鉛アンチモン化合物にカドミウムを添加するときに、どのような結果が得られるかについての参考例を述べる。
亜鉛1.333モルに対してアンチモンを1.000モル秤量するところ、アンチモンの0.050〜最大0.300モル分をカドミウムに置き換えて実験を行った。実施例1の要領に従い、それぞれ、混合粉砕、固相反応、ホットプレス焼結をおこなった。これらの焼結体試料製造に本発明を適用する事で、クラックの発生は認められず、機械的強度に優れている試料の製造が可能となった。
また対比実験として、亜鉛1.333モル、アンチモン0.05モル、カドミウム0.15モルの比率で秤量、合成を開始した試料をホットプレス焼結し、このとき、実施例1とは異なる条件、すなわち、試料緻密化終了後に室温まで冷却する際も圧力をかけ続けていた場合、出来上がった焼結体試料にはクラックが入り、容易に破砕する脆い試料となった。
このことから、カドミウムを添加した亜鉛アンチモン化合物においても本発明が有効である事が分かる。
熱電変換素子及び熱電変換素子を用いた熱電発電の原理図 熱電材料の性能指数 Zn−Sb系状態図 焼結体を示す図 本発明の焼結の温度/圧力のプロフイルを示す図 実施例3による焼結の温度/圧力のプロフイルを示す図

Claims (1)

  1. Zn及びSb各成分の組み合わせからなり、その割合がモル比で4対3である混合された粉体を真空封入後、650〜700℃の温度下に溶融凝固させてβ−ZnSbとし、これを粉砕して粉体とし、次に圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度範囲が450℃以上、500℃以下の、一定条件下に維持することにより緻密化処理を行い、終了後、温度が焼結温度の温度95%に到達する前迄に、前記圧力を解除することにより得られることを特徴とするβ−ZnSb焼結体。

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