JP3704555B2 - 亜鉛、アンチモン及びカドミウムからなる化合物焼結体及びその製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,亜鉛、アンチモン及びカドミウムからなる化合物焼結体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱エネルギーを電気エネルギーに、或いは電気エネルギーを熱エネルギーに変換させる熱電変換モジュールは、エネルギー変換モジュルールとして注目されている。このモジュールを利用した熱電発電を行うための機構は、図1に示されている。
この熱電発電は、熱電発電を構成するモジュールの一方に熱を供給し、高温部分を形成し、他の一方の低温部分から熱を放熱させることにより、貫流する熱の一部を電気として取り出す発電方式である。
熱発電のモジュールには、p型材料とn型材料が使用される。
発電変換効率は、各材料の性能を表す下式により決定される。
ここで、TH、TL、
は、夫々、高温部温度と低温部温度及びそれらの平均温度であり、Zは、材料の性能指数(単位はK-1)である。Zの値が高いほど、熱電発電の変換効率は高くなる。この熱電変換効率により、熱電発電の性能は定まる。この材料の一つとして、亜鉛アンチモン化合物が知られており、具体的には、β-Zn4Sb3 が良好であるとされている。
図2は、従来知れている各材料の熱電材料の性能指数と温度の関係を示すものである。β-Zn4Sb3は、500Kから700Kの間で、他の材料に比較して高い性能指数Zの値を示しており、発電用材料として高いポテンシャルを有していることがわかる。
また、この化合物のZnの一部をCdにより置換することによって得られるZn、Cd及びSbからなる化合物は、結晶格子中を伝播するフォノンの散乱を増加させ、熱伝導をさらに低減することができると考えられるので、熱電変換材料としての性能を向上させる事ができると考えられている。
このように、亜鉛及びアンチモンを含有する化合物およびそれらの合金は、発電材料として高いポテンシャルを有しているということができる。
従来、β-Zn4Sb3緻密固体は、通常の均一に加熱を行う溶融法では合成できないとされている。
図3は、Zn−Sbの状態図である。この状態図を見ると、β相は調和溶融せず、他の相を生成しながらγ相を生成、より低温でβ相となることがわかる。 このために、Zn―Sbの単相を得ることは難しいことがわかる。また、単相に類似する、性能の良い材料が得られたとしても、γ相からβ相への相変態温度が492℃であり、冷却時に体積変化を経験することから、内部に気泡やクラックが多量に存在し、機械的に非常に弱いために、熱電発電用モジュールとして使用することは不可能である。このような事情で,確実に均質な材料を得るためには、亜鉛及びアンチモンの各原料の混合粉体を300℃〜400℃という低い温度で、長時間かけて固相反応を進めるか、もしくは、不均一な溶融凝固試料を一度粉砕し、長時間かけて上記温度で熱処理する事が必要とされている。
β-Zn4Sb3のZn原子の一部をCd原子により置換した化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3で示される化合物の焼結体を製造する場合にも、その困難性は同様である。
上記焼結体を得るための各材料は粉体であるため、通常は加圧焼結を行い、密度を上げて、機械的に丈夫な焼結体を製造し、これを熱電発電に利用する。
このようなことから、例えば、400℃、35MPaという条件で、一軸加圧の放電プラズマ焼結により、焼結体を合成することは可能である。しかしながら、このようにして製造された上記焼結体でも、焼結体内部に微細なクラックが多く発生する事が報告されており、焼結体は機械的な特性を測定する事が困難なほどに脆弱であり、熱電発電モジュールに利用するのに十分な強度が得られない。また、場合によっては、焼結装置から取り出した状態で、割れてしまうなど、機械的な信頼性は乏しい状態にある。
このようなことから、β-(Zn1-xCdx)4Sb3の化合物の焼結体に関し、内部に気泡やクラックができるかぎり存在しないものであり、機械的に十分な強度がある、熱電発電モジュールに使用することができる焼結材料及びその製法が求められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は,特定の温度範囲及び圧力範囲に含まれる一定条件下に加圧焼結を行い、製造時に不可避的に発生する残留応力が低減され、クラックが存在しない、かつ、機械的強度の大きな亜鉛、アンチモン及びカドミウムからなる化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3で示される化合物の焼結体及びその製造法を提供することである。
【0004】
【課題を解決する手段】
本発明者らは,前記課題を研究し、Zn、Cd及びSb各成分の組み合わせからなり、その割合がモル比で4.0対0(但し、0を含まない。)対3.0〜2.8対1.2対3.0の割合で混合された粉体を、真空封入後、400〜500℃程度の温度下に固相反応させて得られる化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、0を含まない。)で表される化合物を、引き続き圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度範囲が400℃以上、500℃以下の一定条件下に維持して緻密化処理を行い、終了後、温度が焼結温度の95%に到達する前迄に、前記圧力を解除することにより得られる化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3)で示される化合物の焼結体は、従来、この化合物に見られた不可避的に発生する残留応力が低減され、クラックが存在しない、かつ機械的強度の大きな亜鉛、アンチモン及びカドミウムからなる化合物(β-(Zn1-xCdx)4Sb3(X=0〜0.3であり、0を含まない。))の焼結体が得られることを実験的に見出して、本発明を完成させた。
【0005】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)Zn、Cd及びSb各成分の組み合わせからなり、その割合がモル比で4.0対0(但し、0を含まない)対3.0〜1.8対1.2対3.0の割合で混合された粉体を真空封入後、400〜500℃の温度下に固相反応させて得られる化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を含まない。)で示される化合物を、引き続いて、圧力範囲が50MPa以上100MPa以下、かつ焼結温度範囲が400℃以上、500℃以下の、一定条件下に維持することにより、緻密化処理を行い、終了後、温度が焼結温度の95%に到達する前迄に、前記圧力を解除することにより得られることを特徴とする化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を含まない。)で示される化合物の焼結体。
(2)Zn、Cd及びSb各成分の組み合わせからなり、その割合がモル比で、4.0対0(但し、0を含まない。)対3.0〜2.8対1.2対3の割合で混合された粉体を真空封入後、400〜500℃の温度下に固相反応させて、化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を含まない。)で示される化合物を製造し、引き続いて、圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度範囲が400℃以上、500℃以下の一定条件下に維持して緻密化処理を行い、終了後、焼結温度がその温度の95%に到達する前迄に、前記圧力を解除することを特徴とする化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を含まない。)で示される化合物の焼結体の製造方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の焼結体の原料には、亜鉛、カドミウムおよびアンチモンの各微粉体の組み合わせを用いる。これらは、亜鉛、カドミウム、およびアンチモン原料単体を個別に粉砕されたものを用いる。粉砕操作は、できれば、空気などの酸化性ガスが存在しない状態で行うことが好ましい。粉砕にはボールミルが用いられる。粉砕操作は、粉砕しようとする単体原料物質にできるだけ、熱を与えないようにして行う。粉砕は毎分400回転の速さで、通常1時間程行われるが、最終的に得られる混合粉砕粉体の平均粒度が30μm以下になることが重要であり、1μm以上、10μm以下の範囲に粉体の90%が含まれる粒度分布のものが、より好ましい。
粉砕操作により得られる粉体の粒度は、150μm以下である事が必要であり、より厳密には50μm以上、100μm以下の範囲に粉体の90%が含まれる粒度分布が望ましい。
【0007】
各粉体を、亜鉛とカドミウム、およびアンチモンの割合がモル比で(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、0を含まない。)となるように秤量し、できるだけ均一になるように混合する。混合にはボールミルなどの混合機を用いる。混合操作は、空気などの酸化性ガスが存在しない状態で行うことが好ましい。
固相反応は、これら各粉体を混合した後、空気が存在しない、真空密閉状態下に行う。固相反応は、400〜500℃の範囲の温度で行う。その結果、粉粒体である化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を除く。)の化合物を製造することができる。反応時間は適宜決定されるが、通常、20〜50時間程度を要する。
【0008】
次に、このようにして得られる化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を除く。)で示される化合物の焼結処理を行う。
焼結処理は,圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度範囲が400℃以上、500℃以下の中の、温度・圧力が一定である条件下に行うものであり、焼結処理の結果、緻密化処理された焼結体をえることができる。
この焼結処理装置には,加圧及び加熱するための手段を有するものが用いられる。簡便には、一軸加圧式のホットプレスが用いられるが、より大型で均質な焼結を目指す場合には等方的な加圧方式であるHIP焼結も利用される。
焼結操作の温度・圧力のプロフイルは図5に示すとおりである。焼結のための温度に達するまでの昇温速度は、10〜20℃/min.の範囲に設定される。
焼結操作のための温度(400〜500℃)に到達したあとは,この温度を一定に保つように制御される。焼結操作に要する時間は適宜決定する。焼結温度が高い程、またカドミウム比率が多い程、焼結時間は短く、また焼結温度が低い場合やカドミウム比率が少ない場合は、緻密化に要する時間は長くなる。具体的には、化学式 (Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0.1である。)で示される化合物では、450℃の焼結温度条件下、8〜10時間をかけて行うことが望ましい。
焼結操作が終了した後に、放置して冷却操作を開始する。冷却速度は、10℃から20℃/min.の範囲である。
前記焼結温度の95%程度の温度に低下する前迄に、圧力を解除する。この温度は重要な意味をもつ。この温度を過ぎて圧力を解除したのでは,残留応力が低減されていない状態で、クラックが生じてしまったりして、効果を達成することができない。
【0009】
本発明により得られる焼結体は、従来、加圧焼結による得られた焼結体に不可避的に発生していた残留応力が低減され、クラックの存在せず、機械的強度が大きな亜鉛、カドミウム及びアンチモンからなる化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3((式中、X=0.0〜0.3であり、0を含まない。)で示される焼結体である。
【0010】
【実施例】
以下に,本発明について実施例により更に説明する。本発明はこの実施例により限定されるものではない。
実施例1
原料となる亜鉛、カドミウム、アンチモン各粉体(粒度100メッシュ以下)を、亜鉛3.2:カドミウム:0.8:アンチモン3のモル比となるよう秤量し、メノウ製ボーミルポットに、メノウ製ボールとともに入れて、5時間、400rpmで攪拌混合した。混合粉体を、ガラスアンプル中に真空封入し、450℃で50時間、固相反応を行った。このようにして化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(x=0.2)で示される化合物を合成した。
得られた前記粉体を、グラファイト製の一軸加圧プレス用のダイスに充填した。用いた装置は、直径15mmφの円筒形のダイスであり、上下からグラファイト製のパンチで加圧することがでるものである。粉体を、得られる焼結体の状態で厚さ3mm程度となるように秤量し、これを充填した。
このダイスを、1軸加圧式のホットプレス装置にセットし、アルゴンガス雰囲気内でダイス温度433℃、7時間、100MPaの条件で焼結した。室温から433℃までの昇温速度は、15℃/min.とした。
この条件下で、7時間の焼結で密度は十分に緻密化した。
そして、この段階で、圧力を解放し、その後、15℃/min.で除冷を開始した。このことで、加圧軸方向への体積膨張の自由度が許され、内部応力が緩和されるることとなった。
この条件で作製した試料の密度は6.53g/cm3まで上がっており、顕微鏡観察によってもクラックが発見されず、室温における抵抗率が4×10-5Ωm、ゼーベック係数が170μV/K、熱伝導率が0.7W/mKと、良好な熱電特性を有することが確認できた。
【0011】
実施例2
実施例1の焼結方法の有効性を確認するために、実施例1と同様の方法で焼結緻密化を行い、焼結操作時と同じ100MPaの圧力をかけながら除冷を行った。この焼結体の写真を図4aに示す。比較のため、本発明の条件で作製した素子を図4bに示す。圧力をかけながら除冷した焼結体は、ダイスから取り出した時点で無数のクラックを有しており、わずかな力で簡単に破砕された。このため、材料としての実用化は困難であることが分かった。本発明の実施例1の焼結体は、研削砥石による、厚み1mm以下の切り出し作業やメッキ作業にも全く破砕する事なく、実用化に必要な強度を有している事が確認できた。
【0012】
実施例3
実施例1の焼結方法が、他の異なるカドミウム含有量のβ-(Zn1-xCdx)4Sb3に関しても有効であることを確認するために、表1に示すようなカドミウム置換量の異なる試料を作製した。各焼結体は、十分に緻密かつ機械的に頑丈であり、これらのカドミウム置換量においても、本焼結方法が有効である事を示すものである。
【0013】
【表1】
【0014】
【発明の効果】
本発明により得られる焼結体は、加圧焼結による焼結体の合成時に不可避的に発生する残留応力が低減され、クラックの存在しない、機械的強度の大きな亜鉛アンチモンカドミウム化合物β-(Zn1-xCdx)4Sb3であり、熱電特性、および機械的な特性に優れた亜鉛、アンチモン及びカドミウム化合物からなる焼結体である。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱電変換素子及び熱電変換素子を用いた熱電発電の原理図
【図2】熱電材料の性能指数を示す図
【図3】Zn−Sb系状態図
【図4】焼結体を示す図
【図5】本発明による焼結の温度/圧力のプロフイルを示す図
Claims (2)
- Zn、Cd及びSb各成分の組み合わせからなり、その割合がモル比で4.0対0(ただし、0を含まない)対3.0〜1.8対1.2対3.0の割合で混合された粉体を真空封入後、400〜500℃の温度下に固相反応させて得られる化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を含まない。)で示される化合物を、引き続いて、圧力範囲が50Mpa〜100MPa、かつ焼結温度範囲が400℃〜500℃の、一定条件下に維持することにより、緻密化処理を行い、終了後、温度が焼結温度の95%に到達する前迄に、前記圧力を解除することにより得られることを特徴とする化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を含まない。)で示される化合物の焼結体。
- Zn、Cd及びSb各成分の組み合わせからなり、その割合がモル比で、4.0対0(ただし、0を含まない。)対3.0〜2.8対1.2対3の割合で混合された粉体を真空封入後、400〜500℃の温度下に固相反応させて、化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を含まない。)で示される化合物を製造し、引き続いて、圧力範囲が50MPa以上100MPa以下であり、かつ焼結温度範囲が400℃以上、500℃以下の一定条件下に維持して緻密化処理を行い、終了後、焼結温度がその温度の95%に到達する前迄に、前記圧力を解除することを特徴とする化学式β-(Zn1-xCdx)4Sb3(式中、X=0〜0.3であり、ただし、0を含まない。)で示される化合物の焼結体の製造方法。
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