JP2005314673A - 高分子化合物、高透明性ポリイミド、樹脂組成物及び物品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有する高分子化合物であって、分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部を、分子の立体構造により切断され、又は希薄にすることで、可視光領域の透過率を向上させた高分子化合物を提供する。さらに、その一態様として、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する高透明性ポリイミドを提供する。
【化1】
上記式(1)において、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。R7は2価の有機基である。
【選択図】 なし
Description
このようなフレキシブルディスプレーを実用化するために、現在基材として用いられているガラスを、折り曲げ可能な柔軟な材料である高分子に変更する試みがなされている。そのような代替材料には、ガラスと同等の透明性、耐熱性、耐薬品性、水蒸気や酸素のバリア性、寸法安定性などが求められる。
ガラス代替の材料としては、耐熱性は高ければ高いほどよいが、後加工時に必要な熱処理条件の観点から、少なくともガラス転移温度が200℃以上であることが好ましいとされ、透明性においても吸収を全く有しないものが理想とされるが、少なくとも可視光の領域と一般に言われる400nm〜800nmの波長領域の各波長において85%以上の透過率を示すものが好ましいとされる。また、寸法安定性もガラスと同等の数ppmのオーダーのものが好ましいとされるが、少なくとも40ppm以下であることが好ましいとされている。
その一つに透明性がある。ポリイミドは一般に赤茶色に着色している。その原因は、電荷の移動によるものと言われており、最近では、特にその分子内の電荷移動が着色に大きく関わっていると報告されている。(非特許文献1)
一つは、通常芳香族骨格が多いポリイミドの骨格内に脂肪族構造、特に脂環構造を導入し、骨格内のπ電子の共役を断ち切ることで骨格内の電荷の移動を阻害し、透明化を図るというものである。特に原料であるジアミンに脂環骨格を導入することが効果的であるといわれている。(非特許文献1、特許文献1)
もう一つは、ポリイミド骨格内にフッ素を導入し、骨格内の電子状態を電荷移動しにくくすることで透明性を付与するものである。(特許文献2)
特許文献4には、実施例に2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミドが記載されているが、ここではポリイミドはポリマー重合容器へのポリマーの付着を防ぐ保護膜として用いられており、その保護膜を施した重合容器で製造されたポリマーの初期着色性について述べられているものの、ポリイミドそのものの物性について何ら述べられていない。
特許文献6には、ポリイミド微粒子の製造方法が開示されており、ここにも原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実際の合成例は記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
特許文献8には、光導電性高分子の製造方法が開示されており、ここにも原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実施例としては記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
前記第一の手法では、脂環式構造は、芳香族構造に比べ酸化されやすく、空気中で加熱すると酸化により着色をしてしまうという問題がある。その為、脂環式構造を導入したポリイミドは、不活性雰囲気下での加熱が推奨されている。また、脂環式構造を導入したポリイミドは、芳香族ポリイミドに比べ熱分解温度も低いため、耐熱性に劣る。さらに、線熱膨張係数が大きくなり、金属、金属酸化物あるいはシリコンウェハ等の熱膨張率の小さな物質と界面を形成する場合には、熱履歴がかかることによって反りの発生や密着不良などの原因となる。
本発明は、これらの目的のうち少なくともひとつを解決するものである。
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有する高分子化合物は、通常であれば分子内のπ電子軌道により共役状態が形成されやすいが、本発明に係る高分子化合物においては、通常であれば形成されるであろう共役状態が、分子の立体構造により切断又は希薄にされるため、π電子軌道の安定化が阻害される。その結果、光の吸収波長領域が短波長化されて、可視光領域の波長の光の透過率を向上させることができる。
具体的には、本発明に係る高分子化合物を厚み1μmのフィルムに成膜した時に、400nm〜800nmの間の透過率が各波長において85%以上となるような非常に優れた透明性を達成することが出来る。
本発明に係るポリイミドは、このような分子構造の空間配置を有するため、芳香族ポリイミドゆえの耐熱性を有しながら、ポリイミド分子鎖上の電荷移動が阻止され、透明なポリイミドとなる。
従って、本発明に係る高分子化合物は、当該高分子化合物を用いて透明性に対する要求も高い製品又は部材を形成するための樹脂材料として有用であり、当該高分子化合物を含有する樹脂組成物を用いて、透明性に優れた製品又は部材を作製することが可能である。
また、本発明に係るポリイミドは、フッ素や脂環骨格を導入しなくても良好な透明性を示す。従って、従来、フッ素や脂環骨格の導入により避けられなかった耐熱性、寸法安定性等のポリイミド本来の物性が低下する問題や、コスト高となる問題を解消することができ、従来の芳香族ポリイミドと同等の耐熱性を有し、且つ、透明性の高いポリイミドの塗膜、フィルム或いは成形品を得ることできる。
さらに発明者は、上記の考え方はポリイミドに限らず、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有するゆえに分子内に共役状態が形成され、その結果として着色しやすい高分子化合物に広く適用できることも見出し、本発明に至った。
一般に不飽和結合が単結合を介して連結している場合にπ共役構造が見受けられる。その場合、単結合は不飽和結合間の相互作用により2重結合性を有する。単結合を介して連結されている不飽和結合のπ結合に関与する電子(π電子)は、共通のπ電子の軌道を有すると安定となる。その為、本来単結合であるべき結合上に存在するようになった電子も含めて、同一平面状に存在するようになる。
さらに、広義にはπ共役構造を示すものとして、不飽和結合がアミノ基や、エーテル基等の非共有電子対を有する原子で構成されるような官能基で連結されているものも挙げられる。
これらの例も含め、これまで公知であるすべてのπ共役構造を有する構造に対して、本発明は適用可能である。
π共役構造の典型例としては、芳香族構造が挙げられる。本発明における芳香族構造とは、一般的な芳香族と定義される化学構造であり、その中にはベンゼンやナフタレンのように、その構造内に含まれる不飽和結合が環状に連結し、π共役し平面構造となった芳香族環状構造を含む。
このように、通常であれば形成されるはずの共役状態の少なくとも一部を切断又は希薄にすることによって、高分子化合物の分子内に存在するπ電子軌道の安定化を阻害する。すなわち、π電子軌道の一体化による分子内での電荷移動が阻害される。
具体的には、単結合の両端にある2つの不飽和結合のπ電子の軌道が、同一平面状にない状態のことをいい、一般にその平面同士の角度が0度から90度に近づくほど相互作用しにくくなり、90度となったとき、最も相互作用がしにくくなると考えられている。
2つのπ電子の軌道は、一般に同一平面状にあるときがもっとも相互作用しやすく安定であると思われ、2つのπ電子の軌道の角度が直行するときが相互作用が最も希薄で不安定であると思われる。安定な電子軌道は低エネルギーの電磁波、つまり長波長の電磁波によって励起されるようになる為、その部分の吸収が大きくなる。つまり、π電子の軌道の安定化を阻害する程度が大きければ大きいほど、本来の吸収波長よりも単波長側へ吸収波長がシフトする。
後述する7員環イミド構造を含む高透明性ポリイミドの場合には、イミド環の歪みを解放するためのドライビングフォースが、該イミド環と一体化しているビフェニル構造に含まれる2つのベンゼン環を同一のπ平面内に配置しようとするドライビングフォースよりも優り、その結果としてπ結合の共役が断ち切られる。
また、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニルは、2位および,2’位に導入された2つのメチル基によってベンゼン環の間にある単結合の自由回転が阻害されメチル基が導入されていない、4,4’−ジアミノビフェニルと比較して共役しにくくなっている。
高分子化合物の分子内において、共役状態が分子の立体構造により切断又は希薄にされるかどうかは、当該高分子化合物又はそれに類似するモデル化合物の分子軌道計算の結果から推測することが出来る。
ここで、光の吸収波長領域が短波長側にシフトしたかどうかは、当該高分子化合物又はそれに類似するモデル化合物のMM2やAM1、PM5といった分子力学的、分子軌道的計算によって推測される吸収波長領域及び/又は強度の概算値と、それらの実測値とを比較することで確認できる。また、比較対象となる化合物が存在しない場合は、少なくともπ共役構造の切断、および/または、希薄になった状態が、分子力学的、分子軌道的計算結果の最安定構造であることが確認できれば良い。
その他の手法としては、共役構造が連続する類似構造のモデル化合物が安定に存在する場合は、そのモデル化合物と、共役構造を切断又は希薄にした化合物の吸収波長を比較し、確認しても良い。
本発明によれば、分子内に他の化学構造や置換基を導入することによって透明性を高める場合と比べて、高分子化合物が本来備えている有用な特性を低下させずに、優れた透明性が得られる。
本発明に係る高分子化合物は、本発明による透明性を向上させる原理によって、可視光領域(400nm〜800nm)の全ての波長において光の透過率が向上しているか、又は全光線透過率が向上していることが望ましい。しかしながら、高分子化合物の用途又はその用途で使用される光源の波長によっては、400nm〜800nmの間の波長のうち、一部の波長において光の透過率が上がれば十分に利用価値がある。従って、本発明においては、400nm〜800nmの間の少なくとも一部の波長の光の透過率が、分子の立体構造により高分子化合物内の共役状態を切断又は希薄にされることによって向上していればよい。
具体的には、芳香族構造が分子構造全体の50重量%以上を占める高分子化合物は、通常であれば分子内のπ電子軌道により共役状態が形成されやすいものの典型例であり、着色しやすい分子構造であるが、本発明に係る高分子化合物は、芳香族構造が分子構造全体の50重量%以上を占める場合であっても、厚み1μm、好ましくは2μm、特に好ましくは2μm以上のフィルムに成膜した時に、400nm〜800nmの間の透過率が各波長において85%以上、特に好ましくは90%以上となるような非常に優れた透明性を達成することが出来る。また、このフィルムの全光線透過率(JIS K7105)が90%以上であることが、さらに好ましい。
芳香族構造が全体の50重量%以上を占めているかどうかを確認する手法は特に限定されないが、例えば、固体・液体の1H−、及び13C−NMRスペクトル(核磁気共鳴スペクトル)あるいは、赤外分光スペクトル、ガスクロマトグラフィーといった手法を用いることができる。
かかる観点から、本発明に属する好ましい態様の一つとしては、高分子骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上、特に70モル%以上が、該高分子骨格の一部となる芳香族環又は芳香族環を含む縮合環を含む繰り返し単位によって占められ、該高分子骨格の一部となる該芳香族環又は該縮合環の間の共役状態の少なくとも一部を、分子の立体構造により切断又は希薄にした高分子化合物が挙げられる。
上記繰り返し単位に含まれる芳香族環は、単環構造の芳香族環または縮合多環構造の芳香族環のいずれであってもよい。また、芳香族環を含む縮合環は、芳香族環を2つ以上含んでいても良い。縮合環に含まれる芳香族環も単環構造または縮合多環構造のいずれであってもよい。
上記繰り返し単位が、さらに2つ以上の繰り返し単位に分割できる場合には、最小の繰り返し単位に区切ってモル割合を決定する。
この態様においては、高分子骨格、特に好ましくは主鎖骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上、特に70モル%以上が、芳香族環の間の共役状態を、分子構造の立体配置により切断又は希薄にした繰り返し単位によって占められているのが好ましい。
すなわち、本発明に属する他の好ましい態様として、該高分子骨格の一部となる縮合環を含む繰り返し単位を含み、該繰り返し単位の同じ縮合環内に含まれる少なくとも2つの芳香族環の間の共役状態を、分子の立体構造により切断又は希薄にした高分子化合物が挙げられる。なお、後述する7員環イミド構造を含む高透明性ポリイミドは、この態様の一つである。
この態様においては、高分子骨格、特に好ましくは主鎖骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上、特に70モル%以上が、相互の共役状態を切断又は希薄にした2つ以上の芳香族環を含む縮合環を含む上記繰り返し単位によって占められていることが更に好ましい。
本発明の高透明性ポリイミドは、7員環のイミド構造を含む下記式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴としている。
また、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来されるポリイミドも、イミド基は、異なるベンゼン環に結合しているものの平面構造を有する5員環構造のイミド基を有する為、そのベンゼン環とイミド基がπ共役する。また、酸無水物由来の2つのベンゼン環を結ぶ単結合は自由回転が可能であり、それらがπ共役構造を形成することが可能である。
本発明に係るポリイミドは、このような分子構造の空間配置を有するため、芳香族ポリイミドゆえの耐熱性を有しながら、ポリイミド分子鎖上の電荷移動が阻止され、透明なポリイミドとなる。
水素原子以外にR1〜R6の位置に導入し得る1価の有機基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、アリル基等が挙げられる。R1〜R6は互いに同一であっても異なっていても良い。R1〜R6のうちの2つ又は3つ以上の基、特に、R1〜R3のうちの2つ又は3つ、及び/又は、R4〜R6のうちの2つ又は3つは、互いに結合して環状構造を形成していても良い。
その為、透明性を追求する場合には、(2)または(3)の方法が好ましく、特に厳しく透明性を追求する場合には、分子内イミド環化率が確実に100%とすることが可能な上記(3)の手法で合成することが好ましい。
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と併用できる酸二無水物は、耐熱性の観点から芳香族酸二無水物が好ましい。目的の物性に応じて、酸二無水物全体の50モル%、好ましくは30モル%を超えない範囲で2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外の酸二無水物を用いても良い。
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(4)により表されるものがある。具体例としては、ベンジジン等が挙げられる。
具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
また、光導波路、光回路部品として用いる場合には、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると1μm以上の波長の電磁波に対しての透過率を向上させることができる。
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いても良い。
例えば、窒素中で測定した5%重量減少温度は、250℃以上が好ましく、300℃以上がさらに好ましい。特に、はんだリフローの工程を通るような電子部品等の用途に用いる場合は、5%重量減少温度が300℃以下であると、はんだリフローの工程で発生した分解ガスにより気泡等の不具合が発生する恐れがある。ここで、5%重量減少温度とは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期重量から5%減少した時点(換言すればサンプル重量が初期の95%となった時点)の温度である。同様に10%重量減少温度とはサンプル重量が初期重量から10%減少した時点の温度である。
寸法安定性の観点から線熱膨張係数は、60ppm以下が好ましく、40ppm以下がさらに好ましい。ガラス代替として、フレキシブルディスプレー用のフィルム基板等に用いる場合には、20ppm以下がさらに好ましい。
使用可能な汎用溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、修酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独もしくは組み合わせて用いられる。
このようなエチレン性不飽和結合を有する光硬化性化合物を用いる場合には、さらに光ラジカル発生剤を添加してもよい。
ピレン 15g(74mmol)を2L(リットル)のなすフラスコへ入れ、ジクロロメタン320mlに溶解させた。完全に溶解したら、アセトニトリル320mlと蒸留水480mlを加え、撹拌した。そこへ酸化剤の過よう素酸ナトリウム150gと触媒の3塩化ルテニウム650mgを加え、室温で22時間撹拌した。反応終了後、沈殿物を濾過し、その沈殿物をアセトンで抽出、濾過した。抽出したアセトンを濃縮し乾燥させた後、ジクロロメタンで4時間還流を行い、それを濾過し粉末を得た。その粉末が完全に白色になるまでアセトンによる抽出とジクロロメタンによる還流を繰り返し、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を10.2g得た。
得られた2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を無水酢酸で3時間還流後、溶媒を留去し、得られた固形物を0.8mmHg(106.4Pa)の圧力で230℃の条件で昇華精製することで目的物である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,2',6,6'-BPDA)の白色粉末を得た。
p−アミノ安息香酸 0.82g(6mmol)を50mlの3つ口フラスコに投入し、10mlのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた。そこへ、少しずつ2,2',6,6'-BPDA 0.88g(3mmol)を添加し、室温で5時間撹拌した。その後、無水酢酸10mlを加え120℃で5時間撹拌を行った。反応終了後、室温になるまで冷却し、反応液を500mlの飽和炭酸水素ナトリウム溶液に滴下し再沈殿を行い、末端にカルボン酸を有するジイミド化合物1の白色粉末を得た。
上記のジイミド化合物1 1.64g(2mmol)とトルエン20mlを200mlのなすフラスコに投入し撹拌した。そこへ、塩化チオニル50mlを添加し、120℃で5時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターにて溶媒及び塩化チオニルを留去し、酸クロライドを得た。そこへあらかじめ脱水されたジクロロメタン20mlを加え酸クロライドを溶解させた後、4,4'-イソプロピリデンジフェノール 0.45g(2mmol)とトリエチルアミン 0.30g(3mmol)が溶解した脱水されたテトラヒドロフラン溶液に滴下し、50℃で4時間撹拌する。析出物を含め蒸留水で再沈殿した後、DMFに溶解させ再度、ヘキサンにて再沈殿し、目的のポリイミドを白色粉末(ポリイミド1)として得た。
(1)前駆体溶液1の合成
4,4'-ジアミノジフェニルエーテル 1.20g(6mmol)を50mlの3つ口フラスコに投入し、5mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した2,2',6,6'-BPDA 1.77g(6mmol)を添加し、添加終了後、氷浴中で5時間撹拌し、透明の粘ちょうな液体(前駆体溶液1)を得た。
(2)ポリイミド2の合成
50mlのナスフラスコに、上記前駆体溶液1 1gと、脱水されたNMP 4mlを入れ撹拌した。そこへ、無水酢酸2mlを加え、100℃で24時間撹拌した。その溶液を、ジエチルエーテルによって再沈殿し、白色の粉末を370mg得た。(ポリイミド2)。GPC(ゲルパーミレーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量は64,000であった。
50mlのナスフラスコに、上記実施例2で合成した前駆体溶液1 1gと、脱水されたNMP 4mlを入れ撹拌した。そこへ、トリフルオロ酢酸無水物2mlを加え、100℃で24時間撹拌した。その溶液を、ジエチルエーテルによって再沈殿し、白色の粉末(ポリイミド3)を370mg得た。GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量は13,000であった。
上記実施例2で合成した前駆体溶液1を直接ガラス上にスピンコートし、140℃に温められたホットプレート上で30分乾燥させた。その後、空気中、オーブンにより300℃で1時間加熱を行い、NMPに不溶のポリイミド(ポリイミド4)を得た。
(1)前駆体溶液2の合成
4,4'-ジアミノジフェニルエーテル 1.20g(6mmol)を50mlの3つ口フラスコに投入し、5mlのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、室温で撹拌した。そこへ、2,2',6,6'-BPDA 1.77g(6mmol)を一度に添加した。添加と共に大きな発熱が見受けられた。添加終了後、5時間撹拌し、薄褐色の液体(前駆体溶液2)を得た。
(2)ポリイミド5の合成
50mlのナスフラスコに、上記前駆体溶液2 1gと、NMP 4mlを入れ撹拌した。そこへ、無水酢酸2mlを加え、100℃で24時間撹拌した。その溶液を、ジエチルエーテルによって再沈殿し、薄茶色の粉末(ポリイミド5)を350mg得た。GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量は6,800であった。
上記ポリイミドの15重量%DMF溶液を用いて、スピンコート法によりガラス上に厚み約2μmの塗膜を形成した。その塗膜の400〜800nmにおける透過率を、分光測定装置(SHIMADZU製UV-2550 (PC)S GLP)にて測定を行ったところ、全ての波長において90%以上の透過率を示した。
上記ポリイミド2、4、5および、前駆体溶液1を、スピンコート法によりガラス上に形成し、その塗膜の400〜800nmにおける透過率を、分光測定装置(SHIMADZU製UV-2550 (PC)S GLP)にて測定を行った。ポリイミド2および5は、ポリマー粉末をNMPに溶解させ、前駆体溶液1はそのまま、スピンコートし、140℃のホットプレート上で30分乾燥させた。ポリイミド4は、実施例4で作製したものをそのまま用いた。
測定結果を図2のグラフに示す。分子量の小さいポリイミド5は、ほぼ1μmの膜厚において、約470nm以下の波長で透過率が85%以下となった。一方で分子量の大きい前駆体溶液1由来のポリイミド2、4は、厚さが1μm以上であるにもかかわらず、それらの前駆体も含めて400nm〜800nmの範囲で85%以上の透過率を示し、透過率が良好であることがわかった。前駆体の分子量が低いとポリマー末端の数が多くポリマー末端由来の着色が生じ、それが透過率を低下させる原因になると考えられる。
また、実施例1のように、ジイミド化合物を連結し、ポリイミドとする方法ではなく、実施例2〜5のようにポリイミドが、前駆体のポリアミック酸より、触媒反応による化学的な、または、熱による脱水閉環反応により形成される場合、ポリイミド2に代表される化学的イミド化物(化学的脱水閉環反応によるイミド化物)は、分子内での脱水環化反応が進行しやすいが、ポリイミド4に代表される熱イミド化物(加熱脱水閉環反応によるイミド化物)は、脱水環化反応の他に一部分子間の架橋反応も進行する。本発明のポリイミドの場合、ポリイミドが7員環イミド構造を有することにより、π電子の共役を切断し、透明性を発現させているので分子間架橋は着色の原因となると考えられる。その為、ポリイミド4は、ポリイミド2に比べ若干透過率が低下しているのではないかと考えられる。
上記のポリイミド2のNMP溶液を、ガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、140℃のホットプレート上で30分乾燥させた後、剥離し、膜厚5μmのフィルムを得た。
同様に、前駆体溶液1をガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、140℃のホットプレート上で30分乾燥させた後、剥離して得たフィルムを、空気中、オーブンにより300℃で1時間加熱を行い、厚さ45μmのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムは、実質的に上記ポリイミド4のフィルムである。
上記の熱物性評価において作製したフィルムを、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数3Hz、昇温速度5℃/minで動的粘弾性測定を行った。
ポリイミド2及びポリイミド4の各フィルムの測定結果を図3のグラフに示す。双方とも350℃付近にtanδのピークを有することから、これらのポリイミドのTg(ガラス転移温度)は350℃であるといえる。また、Tg以上の貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)の挙動から、ポリイミド4はTg以上でゴム状領域(E’とE’’がある2点の温度間において一定となる領域)を取る為、架橋体である事が示唆された。一方、ポリイミド2は、E’とE’’が、Tg以上の温度でそのまま低下していることから、非架橋体である事が示唆される。
上記の熱物性評価において作製したフィルムの線熱膨張係数を、熱機械的分析装置Thermo Plus TMA8310(リガク社製)によって、昇温速度10℃/minで、ポリイミド2フィルムは引っ張り加重1g、ポリイミド4フィルムは引っ張り加重5g(膜厚5μmあたり約1g)で測定を行った。
その結果、50℃〜100℃における線熱膨張係数は、ポリイミド2が27ppm、ポリイミド4が25ppmとなった。また、フィルムの膨張の変曲点は双方とも315℃であった。
これらの結果より、本発明の7員環イミド構造を有するポリイミドは、耐熱性が良好で透明性が高く、且つ、低膨張率のフィルムを作製することが可能である為、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、その他の光学部材又は建築材料を形成するのに適している。
さらに、透明性が必要とされる公知の全ての部材用のフィルムや塗膜として好適であり、例えば、反射防止膜、光回路部品、ホログラム等の光学部材用の高耐熱性のフィルムや構造物としての利用が期待される。
Claims (25)
- π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有する高分子化合物であって、分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となり、400nm〜800nmの間の少なくとも一部の波長の透過率が、共役状態が切断されず希薄ともならなかったと仮定した場合に予想される透過率よりも大きいことを特徴とする高分子化合物。
- 芳香族構造が高分子化合物全体の50重量%以上を占め、厚み1μmのフィルムに成膜した時の400nm〜800nmの間の透過率が各波長で85%以上である、請求項1に記載の高分子化合物。
- 前記高分子化合物の高分子骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上が、該高分子骨格の一部となる芳香族環又は芳香族環を含む縮合環を含む繰り返し単位によって占められ、該高分子骨格の一部となる該芳香族環又は該縮合環の間の共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となった、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
- 高分子骨格の一部となる芳香族環又は芳香族環を含む縮合環を含む前記繰り返し単位の量に対する、共役状態を切断又は希薄にする前記分子の立体構造のモル比が、50%以上である、請求項3に記載の高分子化合物。
- 前記縮合環を含む繰り返し単位として、芳香族環を2つ以上含み且つ該高分子骨格の一部となる縮合環を含む繰り返し単位を含み、該繰り返し単位の同じ縮合環内に含まれる少なくとも2つの芳香族環の間の共役状態を、分子の立体構造により切断又は希薄にした、請求項3又は4に記載の高分子化合物。
- 芳香族環の間の共役状態を切断又は希薄にした前記縮合環を含む繰り返し単位が、前記高分子骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上を占める、請求項5に記載の高分子化合物。
- ガラス転移温度が120℃以上である、請求項1乃至6のいずれかに記載の高分子化合物。
- 線熱膨張係数が60ppm以下である、請求項1乃至7のいずれかに記載の高分子化合物。
- 前記請求項1乃至8のいずれかに記載された高分子化合物を含有する樹脂組成物。
- パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項9に記載の樹脂組成物。
- 塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項9に記載の樹脂組成物。
- 前記請求項9乃至11のいずれかに記載の樹脂組成物又はその硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。
- 厚み1μmのフィルムに成膜した時の400nm〜800nmの間の光の透過率が、各波長で85%以上である、請求項13又は14に記載の芳香族7員環ポリイミド。
- 線熱膨張係数が60ppm以下である、請求項13乃至15のいずれかに記載の芳香族7員環ポリイミド。
- ガラス転移温度が120℃以上である、請求項13乃至16のいずれかに記載の芳香族7員環ポリイミド。
- 分子内イミド環化率が80%以上である、請求項13乃至17のいずれかに記載の芳香族7員環ポリイミド。
- 動的粘弾性測定においてゴム状領域を示さない、請求項13乃至18のいずれかに記載の芳香族7員環ポリイミド。
- 重量平均分子量が10,000以上である、請求項13乃至19のいずれかに記載の芳香族7員環ポリイミド。
- 前記式(1)は全芳香族ポリイミドの繰り返し単位である、請求項13乃至20いずれかに記載の芳香族7員環ポリイミド。
- 前記請求項13乃至21のいずれかに記載されたポリイミドを含有するポリイミド樹脂組成物。
- パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項22に記載のポリイミド樹脂組成物。
- 塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項22に記載のポリイミド樹脂組成物。
- 前記請求項22乃至24のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物又はその硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。
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