図1は、本発明の実施の第1形態である摩擦撹拌接合装置20の一部を示す断面図である。図2は、図1の矢符II−IIから摩擦撹拌接合装置20を見た図である。摩擦撹拌接合(Friction Stir Welding:略称FSW)装置20は、多関節ロボット100に保持され、重ね合わされた複数の被接合部材18,19を互いに接合する。多関節ロボット100は、3次元的に任意の位置に摩擦撹拌接合装置20を移動させる。これによって摩擦撹拌接合装置20は、被接合物17に複数点在する接合部分を順次接合するスポット接合を行うことができる。
被接合物17は、互いに並んだ複数の被接合部材18,19によって構成される。この並んだ状態とは、各被接合部材18,19との間に隙間が形成される状態を含む。被接合物17は、たとえばアルミ合金製の薄厚および中厚製品、具体的には、自動車ボディ、意匠構造物、重ね接合物などである。被接合物17は、予め定める被接合物保持装置に保持される。
摩擦撹拌接合装置20は、予め定める回転軸線L1が設定される。摩擦撹拌接合にあたって、回転軸線L1は、被接合物17に接合ツール22を没入させる方向に沿い、被接合物17の接合位置を挿通する。摩擦撹拌接合装置20は、円柱状の接合ツール22を着脱可能に装着する。摩擦撹拌接合装置20は、装着した接合ツール22を回転軸線L1まわりに回転駆動するとともに、回転軸線L1に沿う方向に直進駆動する。以下、回転軸線L1に沿う方向をX方向と称する。
摩擦撹拌接合装置20は、接合ツール22に対してX方向に間隔を開けて配置される裏当て部材121を有する。裏当て部材121と接合ツール22とは、回転軸線L1に沿って配置される。摩擦撹拌接合にあたって、裏当て部材121は、被接合物17のX方向一方X1の表面19aに当接する。接合ツール22は、X方向一方X1に移動することによって、被接合物17のX方向他方X2の表面18aに当接する。これによって接合ツール22と裏当て部材121とは、協働して被接合物17を挟持する。なお、X方向一方X1は、接合ツール22から裏当て部材121に向かう方向であり、X方向他方X2は、裏当て部材121から接合ツール22に向かう方向である。
摩擦撹拌接合装置20は、接合ツール22を回転軸線L1まわりに回転させるとともにX方向一方X1に変位させる。そして接合ツール22を被接合物17に回転接触させる。接合ツール22を被接合物17に押付けることによって、接合ツール22と被接合物17とに摩擦熱を生じさせて被接合物17を軟化させ、接合ツール22を被接合物17に没入させる。
次に摩擦撹拌接合装置20は、接合ツール22が予め定める量没入した状態で回転を継続して待機し、接合ツール22の近傍の被接合部材18,19を流動化して撹拌する。これによって各被接合部材18,19は、互いに混ざり合った接合領域が形成される。摩擦撹拌接合装置20は、接合領域を形成すると、接合ツール22を被接合物17から離脱させる。これによって流動化した接合領域が固体化し、各被接合部材18,19が接合される。
図1に示すように、摩擦撹拌接合装置20は、裏当て部材121を含む裏当て構造体120と、接合ツール22を装着するツール保持部を支持する基体21とを含む。基体21は、略C字状に形成され、周方向一端部にツール保持部が設けられる。また周方向他端部に裏当て構造体120が着脱可能に装着される。
裏当て構造体120は、裏当て部材121と、基体21に装着される装着体122と、装着体122に固定される微小移動手段123と、裏当て部材121を支持する支持体124とを有する。装着体122は、基体21に着脱可能に装着される。
裏当て部材121は、円筒状に形成される。裏当て部材121は、角変位軸線L2を有する。角変位軸線L2は、回転軸線L1に直交する方向に延びる。本実施の形態では、角変位軸線L2は、X方向に直交するうちの一方向であるY方向に延びる。本実施の形態では、Y方向は、被接合物17に力を与える作用方向となる。言い換えると角変位軸線L2は、回転軸線L1に対して垂直に延びる。裏当て部材121は、角変位軸線L2まわりに角変位可能に支持体124に支持される。
裏当て部材121の外周面は、角変位軸線L1を中心とする曲率半径を有する。裏当て部材121の外周面は、接合ツール22に対向する。接合にあたって、被接合物17は、裏当て部材121の外周面の一部に当接する。この当接位置は、外周面のうち回転軸線L1と交差する位置となる。また裏当て部材121は、その外周部に凹凸が形成される。具体的には、裏当て部材121は、角変位軸線L2に平行に延びるローレット溝125が形成される。
支持体124は、装着体122に固定されて装着体122からX方向他方X2に延びる2つの立設部126,127と、立設部126,127の間に設けられる軸体128とを含む。各立設部126,127は、X方向とY方向とにともに直交するZ方向に並び、Z方向に間隔を開けて配置される。軸体328は、円柱状に形成され、その軸線は、裏当て部材121の角変位軸線L2と一致する。軸体128と裏当て部材121とは、ベアリング128を介して連結される。これによって、裏当て部材121は、装着体122が基体21に装着された状態で、基体21に対して角変位軸線L2まわりに角変位可能となる。
図3は、図2の矢符III−IIIから摩擦撹拌接合装置20を見て、一部を切断して示す図である。微小移動手段123は、裏当て部材121を角変位軸線L2まわりに角変位駆動する。微小移動手段123は、装着体122に固定される。本実施の形態では、微小移動手段123は、復動式エアシリンダによって実現され、Y方向に変位自在なピストンロッド130が設けられる。
また微小移動手段123は、シリンダチューブ133に2つの流体入出孔131,132が形成される。2つの流体入出孔131,132のうち、第1流体入出孔131から流体がシリンダチューブ132に供給されると、ピストンロッド130は、Y方向一方Y1に変位する。2つの流体入出孔131,132のうち、第2流体入出孔132から流体がシリンダチューブ132に供給されると、ピストンロッド130は、Y方向他方Y2に変位する。本実施の形態では、ピストンロッド130の移動速度をコントロールするためのスピードコントローラ141,142が設けられる。これによってピストンロッド130がY方向一方Y1に進む速度と、Y方向他方Y2に進む速度とをそれぞれ異ならせて調整可能である。スピードコントローラ141,142は、ピストンロッドの速度を調整する速度調整手段となる。
ピストンロッド130は、先端部134がシリンダチューブ132から突出する。ピストンロッド130の先端部134は、裏当て部材121に固定される。なお、ピストンロッド130の先端部134は、ピストンロッド130の残余の部分に対して角変位可能に連結されることが好ましい。ピストンロッド130の先端部134は、裏当て部材121のうち、裏当て部材121が被接合物17に当接することを疎外しない位置で、裏当て部材121に連結される。本実施の形態では、ピストンロッド130は、装着体122と、裏当て部材122との間を通過し、ピストンロッド130の先端部134は、裏当て部材121のうちX方向一方X1側部分に固定される。
図3は、ピストンロッド130がY方向一方Y1に変位した状態を示し、図4は、図3に対してピストンロッド130がY方向他方Y2に変位した状態を示す。ピストンロッド130が、Y方向に変位することによって、ピストンロッド130の先端部134に固定される裏当て部材121は、角変位軸線L2まわりに角変位する。
支持体124には、ピストンロッド130の先端部134を収容する収容空間135が形成される。具体的には、支持体124には、装着体122からX方向他方X2に延びる2つの収容空間形成部136,137が形成される。収容空間形成部136,137は、Y方向に間隔を開けて配置される。収容空間形成部136,137は、裏当て部材121と装着体122との間に形成される。また立設部126,127と収容空間形成部136,137とによって、四角形の枠が形成される。この枠によって規定される空間が収容空間135となり、枠内にピストンロッド130の先端部134が配置される。
収容空間135のY方向寸法は、ピストンロッド130の先端部134よりも大きく形成される。これによって収容空間135に配置されるピストンロッド130の先端部134は、予め定められるストローク量ぶんY方向に移動可能に形成される。またピストンロッド130は、収容空間形成部136,137によって変位が規制されることによって、予め定めるストローク量以上移動することが阻止される。
さらに本実施の形態では、ピストンロッド130のストローク量を調整するためのストローク調整部材140が設けられる。ストローク調整部材140は、収容空間形成部136に螺着するボルトによって実現される。ボルトは、収容空間形成部136に形成される内ねじが形成されるねじ孔形成部に螺着する。ボルトがねじ孔形成部を螺進することによって、ボルトが収容空間135に突出する突出量を変更することができ、ピストンロッド130のストロークを調整することができる。また裏当て部材121を角変位させるのに、エアシリンダを用いることによって、微小移動手段123を安価に形成することができる。またエアシリンダを用いることで、空気のバネ性を利用することができ、裏当て部材121の急移動を緩和させることができる。
図5は、摩擦撹拌接合装置20の一部を切断して示す断面図である。摩擦撹拌接合装置20は、ツール保持部40と、回転駆動手段102と、直進駆動手段103と、裏当て部材構造体120と、基体21と、制御手段10とを含んで構成される。ツール保持部40は、回転軸線L1と同軸に接合ツール22を保持し、回転軸線L1まわりに回転可能でかつ回転軸線L1に沿う方向に直線変位可能に構成される。したがってツール保持部40に装着される接合ツール22もまた、回転軸線L1まわりに回転可能でかつ回転軸線L1に沿う方向に直線変位可能となる。
回転駆動手段102は、ツール保持部40を回転軸線L1まわりに回転駆動する。直進駆動手段103は、ツール保持部40を回転軸線L1に沿う方向であるX方向に変位駆動する。制御手段10は、回転駆動手段102、直進駆動手段103および微小移動手段123を制御する。たとえば制御手段10は、ロボットコントローラによって実現され、接合手順を示すプログラムを予め記憶する。摩擦撹拌接合装置20は、制御手段10が予め記憶するプログラムを実行することによって、摩擦撹拌接合を行う。なお、制御手段10は、接合ツール22の回転速度、接合ツール22が被接合物に与える加圧力、裏当て部材121の移動位置および時刻変化などを取得可能である。
回転駆動手段102は、制御手段10の回転制御部12から接合ツール22の回転動作に関する指令が与えられた場合、その指令に基づいてツール保持部40を回転および回転停止させる。直進駆動手段103は、制御手段10の直進制御部11から接合ツール22の直進動作に関する指令が与えられた場合、その指令に基づいてツール保持部40を直進移動および直進移動停止させる。微小移動手段123は、制御手段10の微小制御部13から、基体21と被接合物17との相対微小移動に関する指令が与えられた場合、その指令に基づいて裏当て部材122を変位移動および変位停止させる。
基体21は、ツール保持部40、裏当て部材121、回転駆動手段102および直進駆動手段103を支持する。なお、裏当て構造体120は、基体21に対して着脱自在に固定される。基体21は、略C字状に形成され、Y方向に垂直な平面に沿って延びる。なお、基体21は、多関節ロボットよりも剛性が高く設定される。
基体21は、その周方向一端部にツール保持部40が設けられ、その周方向他端部に裏当て部材121が設けられる。基体21は、多関節ロボット100に装着され、多関節ロボット100によって任意の位置に変位駆動される。なお、回転駆動手段102および直進駆動手段103の具体的な構成については、後述する。
図6は、摩擦撹拌接合装置の第1の動作手順を示すフローチャートである。図7は、第1の動作手順におけるタイムチャートである。なお、図7(1)は、接合ツール22の回転速度の時間変化を示す。図7(2)は、接合ツール22が被接合物17に与える加圧力の時間変化を示す。図7(3)は、制御手段10が微小移動手段123に与える指令の時間変化を示す。図7(4)は、裏当て部材121の角変位量の時間変化を示す。
ステップa0で、摩擦撹拌接合装置20は、多関節ロボット100によって被接合物17に向かって基体21が移動され、予め定める接合準備位置に移動される。接合準備位置は、被接合物17の両側に接合ツール22と裏当て部材121とが配置され、回転軸線L1が、被接合物17の接合位置を通過する位置である。
本実施の形態では、摩擦撹拌接合装置20が接合準備位置に移動すると、裏当て部材121は被接合物17のX方向一方X1の表面19aに当接する。制御手段10は、多関節ロボット100のロボットコントローラから与えられる信号に基づいて、接合準備位置に基体21が移動したことを判断すると、ステップa1に進み、接合動作を開始する。
ステップa1では、制御手段10は、図7(1)に示すように、動作開始時刻T0で、回転駆動手段102に回転指令を与える。これによって接合ツール22が回転する。接合ツール22は、第1時刻T1で回転速度が予め定める設定回転速度V1に達する。制御手段10は、エンコーダなどを用いて接合ツール22の回転速度が設定回転速度V1に達したことを判断すると、ステップa2に進む。
ステップa2では、制御手段10は、直進駆動手段103に没入指令を与える。これによって接合ツール22がX方向一方X1に直進する。すなわち接合ツール22は、裏当て部材121に近接する方向に移動する。接合ツール22は、図7(2)に示すように、第2時刻T2で被接合物17に回転接触して、被接合物17に加圧力を与える。次に、接合ツール22は、第3時刻T3で加圧力が予め定める設定加圧力P1に達する。制御手段10は、接合ツール22の加圧力が設定加圧力P1に達したことを判断すると、ステップa3に進む。
制御手段10は、第3時刻T3を計測することによって加圧力が設定加圧力P1に達したことを判断してもよい。また直進駆動手段103のモータを流れる電流を検出する電流検出手段または接合ツールの加圧力を測定するロードセルなどを用いて、加圧力が設定加圧力P1に達したことを判断してもよい。
ステップa3では、制御手段10は、摩擦熱によって被接合物17が軟化したか否かを判断する。たとえば制御手段10は、接合ツール22が被接合物17に当接した第2時刻T2から、被接合物17の接合領域が軟化するであろう軟化時間W1が経過した第4時刻T4に達すると、接合領域が軟化したことを判断する。一例として軟化時間W1は、0.1秒以上0.2秒以下に設定される。制御手段10は、接合領域が軟化したことを判断するとステップa4に進む。
ステップa4では、制御手段10は、図7(3)に示すように、裏当て部材121を角変位軸線L2まわりに周方向一方に角変位させる周方向一方角変位指令を微小移動手段123に与える。これによって微小移動手段123は、ピストンロッド130をY方向一方に変位させて、裏当て部材121を角変位軸線L2まわりに周方向一方に角変位させる。制御手段10は、このようにして角変位指令を微小移動手段123に与えるとステップa5に進む。
ステップa5では、制御手段10は、接合領域が十分に撹拌されたか否かを判断する。たとえば制御手段10は、接合ツール22が被接合物17を加圧する加圧力が設定加圧力P1に達した第3時刻T3から、被接合物17の接合領域が撹拌するであろう撹拌時間W2が経過した第5時刻T5に達すると、接合領域が十分に撹拌されたこと判断する。制御手段10は、接合領域を十分に撹拌したことを判断するとステップa6に進む。
ステップa6では、制御手段10は、図7(2)に示すように、第5時刻T5で直進駆動手段103に退出指令を与える。これによって接合ツール22がX方向他方X2に直進する。すなわち接合ツール22は、裏当て部材121から離反する方向に移動する。接合ツール22が被接合物17から抜け出す第6時刻T6に達すると、ステップa7に進む。
ステップa7では、制御手段10は、回転駆動手段102に回転停止指令を与える。これによって接合ツール22の回転が停止する。また制御手段10は、図7(3)に示すように、微小移動手段123に角変位指令を与えた第4時刻T4から、予め定める微動時間W3が経過した第7時刻T7に達すると、裏当て部材121を角変位軸線L2まわりに周方向他方に角変位させる周方向他方角変位指令を微小移動手段123に与える。これによって微小移動手段123は、ピストンロッド130を変位して、裏当て部材121を角変位軸線L2まわりに周方向他方に角変位させる。制御手段10は、このようにして回転駆動手段102および微小移動手段123に指令を与えるとステップa8に進む。
ステップa8では、接合ツール22のX方向の位置が予め定める初期位置に移動するとともに、裏当て部材121の周方向位置が予め定める初期位置に移動したことを判断すると、ステップa9に進む。ステップa9では、制御手段10は、摩擦撹拌接合手順を終了する。
図8は、摩擦撹拌接合装置20の動作手順を示す断面図である。図8(1)〜図8(5)の順に動作手順が進行する。上述したステップa2では、図8(1)に示すように、接合ツール22は、回転軸線L1まわりに回転した状態で、被接合物17に近づく。
次に図8(2)に示すように、接合ツール22は、被接合物17に回転接触し、被接合物17に加圧力を与える。このとき裏当て部材121が被接合物17のX方向一方X1側部分に当接し、接合ツール22が被接合物17のX方向他方X2側部分に当接する。すなわち裏当て部材121と接合ツール22とによって、被接合物17を挟持した状態で、接合ツール22が被接合物17を加圧する。これによって裏当て部材22は、被接合物17から加圧される。これによって接合ツール22と被接合物17とに摩擦熱が発生し、被接合物17は接合ツール22と接触している部分が軟化し、接合ツール22が被接合物17に没入する。
図8(3)に示すように、各接合部材18,19を流動化しつつ、接合ツール22が各被接合部材18,19の境界を通過すると、各接合物18,19の流動化した部分が混ざり合う。このように被接合物17を部分的に流動撹拌した状態で、ステップa4に示すように裏当て部材121が角変位軸線L2まわりに角変位する。裏当て部材121は、被接合物17にY方向に移動する力F1を与える。このとき裏当て部材121は、被接合物17に与えた力F1に関する反力F2が、被接合物17から与えられる。
この裏当て部材121に与えられた反力F2は、支持体124、装着体122、基体21を順に介して、多関節ロボット100に与えられる。多関節ロボット100は、反力F2が与えられることによって、反力F2が与えられた方向に撓む。基体21とともに接合ツール22が、被接合物17に対して反力F2が与えられた方向に変位することになる。
図8(4)に示すように、反力F2が与えられた方向に基体21が移動することによって、被接合物17に対して接合ツール22がY方向に移動し、接合領域をY方向に拡大することができ、被接合物17の接合強度を向上することができる。裏当て部材121が角変位移動を継続している状態で、接合ツール22が被接合物17から離脱することによって、接合開始位置から接合終了位置に向かうにつれて、接合跡の深さを小さくすることができ、接合後の美感を向上することができる。
以上のように本発明の実施の第1形態に従えば、摩擦撹拌時に微小移動手段123がY方向に移動させる力F1を被接合物17に与えると、その反力F2によって、基体保持装置となる多関節ロボット100が撓み、被接合物17に対して基体21がY方向に移動する。基体21とともに接合ツール22および裏当て部材121がY方向に移動することで、被接合物17に形成される接合領域をY方向に広げることができる。
本実施の形態では、多関節ロボット100を用いることによって、汎用性を向上することができ、被接合物17の形状が異なる場合、接合位置が異なる場合であってもスポット接合を行うことができる。また被接合物17の形状が3次元的な複雑な形状であっても摩擦撹拌接合を行うことができる。
比較例として、多関節ロボット100を制御することによって、摩擦撹拌接合装置20をY方向に移動しようとした場合には、多関節ロボット100の制御が困難であり、接合ツール22を微小移動させることが困難である。また多関節ロボット100によって摩擦撹拌接合装置20を移動させようとした場合には、ロボットアームに大きな抵抗力が与えられ、ロボットアームが撓んで接合ツール22を所望とする移動量移動させることが困難である。たとえば基部側でロボットアームを変位させたとしても先端部側ではロボットアームが変形することで、摩擦撹拌接合装置20をY方向に移動させることができない場合がある。
これに対して本発明の本実施の形態では、基体21から被接合物17に力を与えることによって、基体21を支持する多関節ロボット100の剛性が低い場合であっても、基体21と被接合物17とをY方向に正確な所望の移動量ぶん確実にずらすことができる。このように本発明の実施の形態に従えば多関節ロボット100を用いて、被接合物17の接合領域を向上させることができるので、ロボットを用いることによる利点、すなわち汎用性を保ったうえで、被接合物17の接合強度を向上することができる。
また本実施の形態では、接合ツール22の大きさにかかわらずに、接合領域をY方向に広げることができ、被接合物17の接合強度を向上することができる。たとえば直径の小さい接合ツール22を用いてY方向に延びる接合領域を形成することができる。これによって被接合物17が長細い場合に、被接合物17の長手方向に接合領域を形成することができ、接合領域以外の領域に熱ひずみが生じることを防いで、各被接合部材18,19を良好に接合することができる。
また接合領域をY方向に延ばすことができるので、接合領域が延びる方向における接合強度を向上することができる。これによって予め定める方向の強度を向上する場合に、その方向に接合領域を延ばすことによって、接合領域が無駄に大きくなることを防いで、接合強度を向上することができる。なお、被接合物の接合強度は、引張強度、はく離強度およびせん断強度などである。
また本実施の形態では、裏当て部材121を角変位軸線L2まわりに角変位させることによって、裏当て部材121を直線変位させる場合に比べて、基体21と被接合物17とを移動させるために必要な領域を小さくすることができる。これによって装置を小形化することができる。またベアリングによって裏当て部材121を角変位可能に支持することができ、構造を簡単化することができる。
また裏当て部材121を直線変位させた場合には、基体21が裏当て部材121を支持する位置が変化してしまう。これに対して裏当て部材121を角変位させた場合には、裏当て部材121を角変位させたとしても、基体21に対して予め定められる位置で裏当て部材121が被接合物17に接触する。言い換えると基体21が裏当て部材121を支持する位置が変化することがない。これによって裏当て部材121を角変位させた場合であっても、接合ツール22と裏当て部材121とで安定して被接合物17を挟持することができる。
また本実施の形態では、裏当て部材121にローレット溝が形成されることによって、被接合物17と裏当て部材121との接触領域が小さい場合であっても、摩擦係数を大きくして、被接合物17に対して裏当て部材121が滑ることを防ぐことができ、被接合物17にY方向に向かう力を確実に与えることができる。これによって基体21と被接合物17との移動に抗する力が大きい場合でも、基体21と被接合物17とを相対的に移動させることができる。
また本実施の形態では、接合ツール22と被接合物17との摩擦熱とによって被接合物17が軟化した状態で、微小移動手段121が被接合物17に力を与える。被接合物17が軟化していると、被接合物17と基体21とが相対的に移動するのに対して抗する力が小さくなり、被接合物17に対して、基体21を容易に移動させることができる。
たとえば接合ツール22を被接合物17に没入した状態で、接合ツール22と被接合物17とを相対的にY方向に5mm程度ずらすように設定する。これによってY方向にずらさない場合に比べて、被接合物の接合強度を1.5倍にすることができる。また摩擦撹拌中に、接合ツール22と被接合物17とがY方向にずれることによって、接合ツール22と被接合物17とがY方向にずれない場合に比べて、接合後の被接合物の表面を平滑に形成することができる。また裏当て部材121を移動させない場合に比べて、接合後に生じるバリを抑えることができる。
図7に示すように、動作開始時刻T0から第5時刻T5までの時間を加工時間tとし、動作開始時刻T0から第4時刻T4までの時間を待ち時間t1とし、第4時刻T4から第7時刻T7までの時間を移動時間t2とする。この場合、本実施の形態では、加工時間tは、待ち時間t1と移動時間t2との合計時間以下、すなわちt≦(t1+t2)に設定される。また加工時間tは、待ち時間t1を超え、すなわちt>t1に設定される。
このように設定されることによって被接合物17と接合ツール22とがY方向に相対的に変位させながら、接合ツール22を被接合物17から退避させることができる。これによって図8(5)に示すように、接合ツール22が接合開始位置から接合終了位置に向かうにつれて、接合跡の接合深さを小さくすることができ、接合品質を向上することができる。
たとえば1つの組み合わせとして、加工時間tが2〜3秒、待ち時間t1が1.5秒、移動時間t2が4秒に設定される。また他の1つの組み合わせとして、加工時間tが1.5秒、待ち時間t1が1秒、移動時間t2が3秒に設定される。なお、加工時間tが待ち時間t1と移動時間t2との合計時間を超えてもよい。
なお、加工時間t、待ち時間t1および移動時間t2は、予め制御手段10に記憶されていてもよい。また被接合物の形状、接合ツールの形状などの接合条件に応じて、作業者が制御手段10に教示してもよい。また接合条件に応じて、スピードコントローラ141を用いて、ピストンロッド130の移動速度を変更してもよい。
本実施の形態において、設定パラメータは、前記設定回転速度V1、前記設定加圧力P1、加工時間t、裏当て部材の移動量、待ち時間t1、移動時間t2、リピート速度rである。リピート速度rは、任意の接合位置で摩擦撹拌接合を終了してから次の接合位置まで移動する速度を示す。たとえばリピート速度rは、ロボットの最大移動速度を100%とすると、30〜100%の間で変更可能である。接合パラメータは、接合ツール22および被接合物17の形状などの接合条件に応じて変更可能であり、最適な接合品質を得ることができる設定パラメータに設定される。
たとえば設定回転速度V1は、回転数で表わすと1000〜4000rpmの間で設定可能である。また設定加圧力P1は、2000〜5500N(200〜550kgf)の間で設定可能である。また加工時間tは、1〜4秒の間で設定可能である。また移動距離は、1〜4mmの間で設定可能である。また待ち時間t1は、0.5〜1.5秒の間で設定可能である。また移動時間t2は、0.5〜2秒の間、またはそれ以上の間で設定可能である。なおこのような、変更範囲は一例示であって、他の範囲であってもよい。また裏当て部材121を含む裏当て構造体120が基体21に対して着脱可能に構成されるので、接合条件に応じて最適な裏当て構造体120を基体21に装着してもよい。
本実施の形態の摩擦撹拌接合装置20を用いた場合には、1つの接合点における接合強度を向上することができるので、予め定められる接合強度を得るために必要な接合点を少なくすることができる。本実施の形態では、裏当て部材121を移動させることによって、裏当て部材121を移動させない場合に比べてスポット接合に費やす時間が若干増加する。しかしながら、上述したように接合点を少なくすることができるので、接合に費やす接合時間が大幅に大きくなることを防止することができる。
また本実施の形態では、裏当て部材121と被接合物17とで摩擦力を発生させ、摩擦力によって被接合物17にY方向に向かう力を与える。したがって被接合物17にY方向に向かう力を与えるための係止部分が形成されなくても、被接合物17にY方向に向かう力を与えることができる。したがって被接合物17の形状にかかわらず接合領域を増やすことができ、汎用性を向上することができる。また接合ツール22が被接合物17を裏当て部材121に向かって押圧するので、被接合物17と裏当て部材121との摩擦力を発生するために、裏当て部材121に被接合物17を押圧する機構を設ける必要がない。これによって摩擦撹拌接合装置20の構造を簡単化することができる。
また本実施の形態では、ピストンロッド130のストロークを調整するストローク調整部材140が設けられる。ストローク調整部材140によってピストンロッド130のストロークを調整することによって、必要な接合強度に応じた接合領域を容易に形成することができ、接合強度を調整することができる。エアシリンダ単体では、微小な位置調整が困難であるが、このようなストローク調整部材140を用いることによって、精度よく接合領域を形成することができる。なお、基体21の移動量は、少なくとも多関節ロボットの弾性範囲内に設定することが好ましい。これによって多関節ロボット100が破損することなく、被接合物17の接合強度を向上することができる。
またエアシリンダは、スピードコントローラ141,142が設けられる。これによってピストンロッド130をY方向一方Y1に移動させる速度と、Y方向他方Y2に移動させる速度とを異ならせることができる。たとえば摩擦撹拌中に裏当て部材121を移動させる場合は、必要な接合領域を形成するために必要な速度に設定し、接合後に裏当て部材を移動させる場合には、可及的に高速度に設定する。これによって接合品質を維持したうえで、接合に費やす時間を短縮することができる。
図5を参照して、摩擦撹拌接合装置20の具体的な構成を説明する。摩擦撹拌接合装置20は、ツール保持部40と、回転駆動手段102と、直進駆動手段103と、裏当て部材構造体120と、基体21と、制御手段10とを含んで構成される。ツール保持部40は、接合ツール22が着脱自在に装着され、予め定められる回転軸線L1まわりに回転自在かつ回転軸線L1に沿って変位自在に構成される。具体的には、ツール保持部40は、ピン部52およびショルダ面がツール保持部40から軸線方向一方に突出した状態で、接合ツール22を保持する。ツール保持部40に装着された接合ツール22は、ツール保持部40と同様に変位可能となる。具体的には、接合ツール22は、回転軸線L1まわりに回転可能であり、回転軸線L1に沿って変位可能に摩擦撹拌接合装置20に装着される。
回転駆動手段102は、ツール保持部40を回転軸線L1まわりに回転駆動する。回転駆動手段102は、接合ツール22を回転させる回転用モータ25と、回転用モータ25の回転力を接合ツール22に伝達する回転伝達手段30を有する。回転用モータ25は、制御手段10に設けられる回転制御部12によって制御される。
接合ツール22には、回転軸線L1に同軸に配置される回転軸26が結合される。回転軸26は、回転軸線L1に沿って延びるスプラインシャフトであり、回転伝達用従動側プーリ48が取り付けられる。回転伝達用従動側プーリ48は、X方向への回転軸26の移動を許容し、回転軸線L1まわりの回転を阻止して、回転力26に回転力を伝達する。回転伝達用従動側プーリ48は、プーリ支持用軸受け50によって本体フレーム29に、回転軸線L1まわりに回転自在に軸支される。なお、本体フレーム29は、基体21の周方向一端部に固定される。
本体フレーム29に固定される回転用モータ25の出力軸には、回転伝達用駆動側プーリ46が固定される。回転伝達用駆動側プーリ46と回転伝達用従動側プーリ48とは、回転伝達用ベルト47が巻きかけられ、回転用モータ25を回転させることによって、X方向へ移動可能に接合ツール22を回転駆動するように構成される。したがって回転伝達手段30は、回転軸26と、回転伝達用従動側プーリ48と、回転伝達用ベルト47と、回転伝達用駆動側プーリ46とを含む。
直進駆動手段103は、ツール保持部40を回転軸線L1に沿って変位駆動する。直進駆動手段103は、接合ツール22を直進させる直進用モータ24と、直進用モータ24の回転力を接合ツール22に伝達する直進伝達手段45を有する。直進用モータ24は、制御手段10に設けられる直進制御部11によって制御される。
摩擦撹拌接合装置20は、回転軸26を外囲して、接合ツール22を直進移動させて加圧力を与える中空の加圧軸27が設けられる。この加圧軸27は、X方向両端部がそれぞれ軸受け31,32によって回転軸線L1まわりに回転自在に本体フレーム29に支持される。加圧軸27の内部に挿通する回転軸26は、加圧軸27のX方向一方X1側端部からX方向一方X1に突出し、その先端に接合ツール22が取り付けられる。
加圧軸27のX方向他方X2側端部には、直進伝達用従動側プーリ60が固定される。回転用モータ25と同軸に本体フレーム29に固定される直進用モータ24の出力軸には、直進伝達用駆動側プーリ61が固定される。直進伝達用駆動側プーリ61と直進伝達用従動側プーリ60とは、直進伝達用ベルト62が巻きかけられ、直進用モータ24を回転させることによって、加圧軸27を回転軸線L1まわりに回転させることができる。
加圧軸27の外周には、外ねじが形成され、ナット部材53が螺合する。ナット部材53は、加圧軸27をX方向両端部で軸支する各軸受け31,32の間に配置される。この加圧軸27およびナット部材53は、ボールねじによって実現される。本体フレーム29には、加圧軸27に対向し、回転軸線L1に平行にリニアガイド55が固定される。前記ナット部材53は、リニアガイド55によって回転軸線L1に沿って直線状に案内支持される。
接合ツール22には、接合ツール22を保持するツール保持部40が取り付けられる。ツール保持部40は、保持部保持用軸受け65,66を介して接合ツール22を回転軸線L1まわりに回転自在に保持する。そしてこのツール保持部40と前記ナット部材53とがブラケット70によって連結される。
ブラケット70は、回転軸線L1に沿って延び、回転軸線L1を外囲する略C字状の断面形状を有する。この回転軸線L1に沿って、X方向一方X1から順にナット部材53、加圧軸27およびツール保持部40が配置される。ブラケット70は高剛性材料からなり、回転軸線L1を中心とする断面C字状であるので、ナット部材53からの加圧力を確実にツール保持部40に伝達することができる。このように、直進用モータ24の回転力は、加圧力として、ブラケット70を介して接合ツール22を保持するツール保持部40に伝達される。すなわち直進用モータ24が回転すると、ブラケット70とともに接合ツール22がX方向に変位移動する。したがって直進伝達手段45は、加圧軸27と、ナット部材53と、ブラケット70と、直進伝達用従動側プーリ60と、直進伝達用ベルト62と、直進伝達用駆動側プーリ61とを含む。
このような回転駆動手段102および直進駆動手段103を用いることで、接合ツール22を回転軸線L1まわりに高速で回転させながら、回転軸線L1に沿って直進移動させることができる。
回転用モータ25は、回転用モータ25の出力軸の回転速度を検出するエンコーダが設けられる。エンコーダは、接合ツール22の回転速度を検出するための検出手段となる。エンコーダは、検出結果を制御手段10に与える。制御手段10は、エンコーダから与えられる検出結果に基づいて、回転用モータ25を制御することによって、接合ツール22の回転速度を設定回転速度にすることができる。
また直進用モータ24に流れる電流を検出する電流検出手段が設けられる。電流検出手段は、接合ツール22が被接合物17に与える加圧力を検出するための検出手段となる。電流検出手段は、検出結果を制御手段10に与える。制御手段10は、電流検出手段から与えられる検出結果に基づいて、直進用モータ24を制御することによって、接合ツール22が被接合物17に与える加圧力を設定加圧力にすることができる。
裏当て部材構造体120は、ツール保持部40に対して回転軸線L1に間隔を開けて配置される。裏当て部材構造体120は、裏当て部材101を有する。裏当て部材101は、摩擦撹拌接合にあたって、ツール保持部22と反対側から被接合物17に当接して、接合ツール22と協働して被接合物21を挟持する。
基体21は、略C字状に形成され、ツール保持部22と裏当て部材構造体120とを支持する。具体的には、機体21は、周方向一端部にツール保持部22を支持し、周方向他端部に裏当て部材構造体120を支持する。本実施の形態では、基体21は、回転駆動手段102および直進駆動手段103も支持する。基体21は、多関節ロボット100に装着される。摩擦撹拌接合装置20は、多関節ロボット100の動作によって任意の位置に変位駆動される。
接合ツール22は、被接合部材18,19よりも高度の高い材質から成る。接合ツール22は、円筒形に形成されるショルダ部51と、ショルダ部51の一端面となるショルダ面から軸線方向一方側に突出する円筒状のピン部52とを有する。ショルダ部51とピン部52とは同軸に形成される。本実施の形態では、ショルダ部51の直径は、10mmに設定され、ピン部51の直径は、2mmに設定される。またピン部51は、ショルダ部51から1.5mm突出する。
図9は、摩擦撹拌接合装置の第2の動作手順を示すフローチャートである。図10は、第2の動作手順におけるタイムチャートである。第2の動作手順は、第1の動作手順に比べて、裏当て部材121の変位動作を停止するタイミングが異なり、その他の動作は同一である。
第2の動作においてステップb0〜ステップb4の動作は、第1の動作手順におけるステップa0〜ステップa4の動作にそれぞれ対応し、第1の動作手順とそれぞれ同様の手順であるので、説明を省略する。
ステップb4では、角変位指令を微小移動手段123に与えるとステップb5に進む。ステップb5では、制御手段10が、予め定める微小移動量ぶん裏当て部材121が角変位したことを判断すると、裏当て部材123の角変位を停止する停止指令を微小移動手段123に与える。制御手段10は、図10(3)に示すように、第4時刻T4から予め定める移動時間W5が経過した第9時刻T9に達すると、予め定める微小移動量ぶん裏当て部材121が角変位したことを判断する。制御手段10は、このようにして停止指令を微小移動手段123に与えるとステップb6に進む。
ステップb6では、制御手段10は、接合領域が十分に撹拌されたか否かを判断する。たとえば制御手段10は、接合ツール22が被接合物17に当接した第3時刻T3から、被接合物17の接合領域が撹拌するであろう撹拌時間W4が経過した第5時刻T5に達すると、接合領域が十分に撹拌されたこと判断する。制御手段10は、接合領域を十分に撹拌したことを判断するとステップb7に進む。
第2の動作においてステップb7〜ステップb10の動作は、第1の動作手順におけるステップa6〜ステップa9の動作にそれぞれ対応し、第1の動作手順とそれぞれ同様の手順であるので、説明を省略する。
第2の実施の形態では、撹拌時間W4は、軟化時間W1と移動時間W5との合計時間を超え、すなわちW4>(W1+W2)に設定される。このように設定することによって、接合跡の深さをほぼ一定にすることができ、接合開始位置と接合終了位置とで確実に、複数の被接合部材18,19を接合することができる。
また裏当て部材121の移動は、このような場合に限らず、摩擦撹拌中に種々変化させてもよく、たとえば裏当て部材の移動方向および移動速度を変化させてもよい。
具体的には、摩擦撹拌中に、裏当て部材121をY方向一方Y1に移動させた後さらにY方向他方Y2に移動させて、裏当て部材121を初期位置に配置した状態で、接合ツール22を被接合物17から退避させてもよい。これによって多関節ロボット100に生じる応力が解消させた状態で、接合ツール22と裏当て部材121とによる被接合物17の挟持を解消することができる。
また接合点が複数存在する場合には、撹拌接合中に、第1の接合点で裏当て部材121をY方向一方Y1に移動させ、接合後に、裏当て部材121をY方向他方Y2に移動させず、次の接合点である第2の接合点で裏当て部材121をY方向他方Y2に移動させてもよい。これによって裏当て部材121を初期位置に戻す手間を省くことができる。
図11は、本発明の実施の第2形態である摩擦撹拌接合装置220の一部を示す断面図である。図12は、図11の矢符XII−XIIから摩擦撹拌接合装置220を見た図であり、図13は、図11の矢符XIII−XIIIから摩擦撹拌接合装置220を見た拡大図であり、図14は、図12の矢符XIV−XIVから摩擦撹拌接合装置220を見た図である。
摩擦撹拌接合装置220は、上述した第1実施形態の摩擦撹拌接合装置20に対応する構成を有し、対応する構成については、第1実施形態の摩擦撹拌接合装置20の参照符号に200を加算した参照符号を付する。摩擦撹拌接合装置220は、基体221に設けられ、回転軸線L1に直交する方向のうちの一方となるY方向に向かう力を、予め固定される被接合物17に与える微小移動手段323を備える。
摩擦撹拌接合装置220は、第1実施形態の摩擦撹拌接合装置20に対して、微小移動手段323の構成が異なる。微小移動手段323は、裏当て部材221に対して離反した位置に設けられる動力源323aと、動力源323aから動力を裏当て部材321に伝達する動力伝達機構323bとを含む。
動力源323aは、エアシリンダによって実現される。動力源323aは、X方向およびY方向に直交するZ方向に関して、裏当て部材321から直線的に移動した位置で基台221に固定される。動力伝達機構323bは、動力源323aと裏当て部材321とを連結するリンク機構によって実現される。
動力源323aは、固定ブロック400を介してピストンロッド330の先端部が基体221に固定される。また固定ブロック400には、動力源323aのシリンダチューブ333に向かって延びるストローク調整用ボルト401が設けられる。ストローク調整用ボルト401は、シリンダチューブ333までの距離を調整可能に設けられる。
動力源323aは、シリンダチューブ333が第1リンク部材402に固定される。第1リンク部材402は、X方向とY方向とに直交するZ方向に変位可能に構成される。これによってシリンダチューブ333に対してピストンロッド330をZ方向に変位すると、基体221に対して、シリンダチューブ333とともに第1リンク部材402がZ方向に変位する。第1リンク部材402は、動力伝達機構323bの一部を構成する。
動力伝達機構323bは、伝達部406と、方向変換部405とを含む。伝達部406は、動力源323aから裏当て部材321付近に、Z方向に向かう動力を伝達する。また変換部405は、裏当て部材321付近に設けられ、伝達部406から与えられる動力を、Y方向に向かう動力変換して裏当て部材321に与える。
伝達部406は、第1リンク部材402と、第2リンク部材403,413と、第3リンク部材404とを含む。第1リンク部材402は、略U字状に形成され、周方向中央部402aにシリンダチューブ333が固定される。第1リンク部材402の周方向両端部402b,402cは、固定ブロック400のY方向側面にそれぞれ対向し、第2リンク部材403a,403bが固定される。
第2リンク部材403,413は、2つ設けられ、板状に設けられる。各第2リンク部材403,413は、Z方向に延びる。一方の第2リンク部材403のZ方向一端部403aは、第1リンク部材402の周方向一端部402bに固定される。また他方の第2リンク部材413のZ方向一端部413aは、第1リンク部材402の周方向他端部402cに固定される。なお2つの第2リンク部材403,413は、基体221に対してY方向両側に延びる。
第3リンク部材404は、板状に形成されZ方向に延びる一対の対向部材407,408と、各対向部材407,408のZ方向他端部407b,408bを連結する連結部材409とを含んで構成される。2つの対向部材407,408は、基体221に対してY方向両側に延びる。一方の対向部材407のZ方向一端部407aは、一方の第2リンク部材403のZ方向他端部403bに固定される。また他方の対向部材408のZ方向一端部408aは、他方の第2リンク部材413のZ方向他端部413bに固定される。
第3リンク部材404の連結部409は、X方向に垂直な平面を有する板状に形成される。連結部409は、Y方向一端部に一方の対向部材407が固定され、Y方向他端部に他方の対向部材408が固定される。
ピストンロッド330をシリンダチューブ333に対して、Z方向に変位させることによって、シリンダチューブ333が基体221に対してZ方向に変位する。これによってシリンダチューブ333に直接または間接的に固定される第1リンク部材402、第2リンク部材403,413および第3リンク部材404が基体221に対してZ方向に変位する。
図15は、図11の矢符XV−XVで切断した摩擦撹拌接合装置を示す断面図である。基体321には、裏当て構造体320が着脱可能に装着される。裏当て構造体320は、裏当て部材321と、基体221に装着される装着体322と、裏当て部材121を支持する支持体324とを有する。
裏当て部材321は、棒状に形成される棒状体450と、棒状体450の先端に固定される当接部451とを含む。棒状体450は、略X方向に延びる。棒状体450は、回転軸線L1に直交する角変位軸線L2を有する。棒状体450は、角変位軸線L2まわりに角変位可能に支持部324に支持される。当接部451は、前記角変位軸線L2を中心とする円筒面が形成される。円筒面が形成される円筒面形成部には、Y方向に延びるローレット溝が形成される。当接部451は、接合ツール22に対向し、摩擦撹拌時に被接合物17に当接する。
支持体324は、装着体322に固定され、装着体322からX方向他方X2に延びる2つの立設部326,327と、立設部326,327の間に設けられる軸体328とを含む。立設部326,327は、Z方向に間隔を開けて配置される。軸体128は、円筒状に形成され、軸体328は、棒状体450に形成される挿通孔に挿通し、棒状体450と軸体328とは、ベアリングを介して連結される。なお、棒状体450に形成される挿通孔は、角変位軸線L2と同軸に形成される。これによって裏当て部材321は、装着体322に対して角変位軸線L2まわりに角変位可能となる。なお棒状体450は、支持体324に支持された状態で、回転軸線L1にほぼ平行となる。
支持体324および装着体322は、回転軸線L1に沿って貫通する貫通孔460,461が形成される。棒状体450は、各貫通孔460,461を挿通して、装着体322からX方向一方X1に突出する。各貫通孔460,461は、棒状体450が角変位可能となるように棒状体450よりも大きく形成される。支持体324および裏当て部材321は、回転軸線L1まわりに角変位可能に形成されることが好ましい。
図16は、図11の矢符XVI−XVIから摩擦撹拌接合装置220を見た図であり、図17は、方向変換部405を説明するために一部を省略して示す斜視図である。方向変換部405は、嵌合体470と、固定体471と、ピン体472とを含んで形成される。嵌合体470は、板状体に形成され、厚み方向に垂直な断面形状がL字状に形成される。嵌合体470は、2つの板状片476,477が連結されてL字状に形成される。一方の板状片476は、ほぼZ方向に延び、他方の板状片477は、ほぼY方向に延びる。嵌合体470は、2つの板状片476,477が連結される連結位置に厚み方向に挿通する第1嵌合孔473が形成される。また一方の板状片476には連結位置から離れた位置に厚み方向に挿通する第2嵌合孔474が形成される。また他方の板状体477には連結位置から離れた位置に厚み方向に挿通する第3嵌合孔475が形成される。
第1嵌合孔473には、装着部322に連結されるピン体472が嵌合する。ピン体472および第1嵌合孔473は、ほぼ円形に形成される。嵌合体470は、ピン体472に嵌合した状態で、ピン体472の軸線L3まわりに角変位可能に形成される。
第2嵌合孔474には、棒状体450のX方向一端部452が嵌合する。第2嵌合孔474は、棒状体450のX方向一端部452よりも大きく形成される。棒状体450のX方向一端部452が第2嵌合孔474に嵌合した状態で、嵌合体470がピン体472まわりに角変位すると、棒状体450のX方向一端部452は、Y方向に角変位する。
第3嵌合孔475には、固定体471のピン部480が嵌合する。第3嵌合孔475は、固定体471のピン部480よりも大きく形成される。固定体471は、第3リンク部材404の連結部材409に固定される。固定体471が第3嵌合孔475に嵌合した状態で、第3リンク部材404とともに固定体471が変位すると、嵌合体470は、ピン体472の軸線L3まわりに角変位する。
第3リンク部材404がZ方向に変位すると、嵌合体450がピン体472の軸線L3まわりに角変位して、第2嵌合孔474がY方向に変位する。これによって第2嵌合孔474に嵌合する棒状体450のX方向一端部452がY方向に変位し、棒状体450は、角変位軸線L2まわりに角変位する。
図18は、第3リンク部材404に対する嵌合体470の状態を説明するための図である。図18(1)は、第3リンク部材404が基体21に対して標準位置にある状態を示す。図18(2)は、第3リンク部材404が基体21に対して図18(1)に示す標準位置からZ方向一方Z1に移動した状態を示す。図18(3)は、第3リンク部材404が基体21に対して図18(1)に示す標準位置からZ方向他方Z2に移動した状態を示す。
上述したように、嵌合体470のうち他方の板状体477の先端部が、固定体471を介して第3リンク部材404に固定される。また嵌合体470は、ピン体472によって基体21に対してピン体472の軸線L3まわりに角変位可能に形成される。図18(1)に示すように、第3リンク部材404が標準位置にある状態では、嵌合体470の一方の板状体476はZ方向と平行に延び、他方の板状体477はY方向と平行に延びる。
図18(2)に示すように、第3リンク部材404が標準位置から基体21に対してZ方向一方Z1に移動すると、他方の板状体477の先端部が固定体471とともにZ方向一方Z1に移動する。これによって嵌合体470は、ピン体472の軸線L3まわり一方R1に角変位する。このとき棒状体450のX方向一端部452は、嵌合体470の一方の板状体476の先端部とともに、Y方向一方Y1に移動する。
また図18(3)に示すように、第3リンク部材404が標準位置から基体21に対してZ方向他方Z2に移動すると、他方の板状体477の先端部が固定体471とともにZ方向他方Z2に移動する。これによって嵌合体470は、ピン体472の軸線L3まわり他方R2に角変位する。このとき棒状体450のX方向一端部452は、嵌合体470の一方の板状体476の先端部とともに、Y方向他方Y2に移動する。
このようにして、棒状体450のX方向一端部452をY方向両方Y1,Y2に移動させることによって、当接部451をZ方向に延びる角変位軸線L2まわりに回転させることができ、接合ツール22を被接合物17に対してY方向に微小移動させることができる。なお、摩擦撹拌接合装置220の摩擦撹拌接合動作は、第1実施例の摩擦撹拌接合装置20の摩擦撹拌接合動作と同様であり、図6〜図8または図9〜図10に示す動作を行う。
図19は、裏当て部材321の変位方向を変化させた状態を示す断面図であり、図20は、図19の矢符XIX−XIXから見た図であり、図21は、方向変換部405を説明するために一部を省略して示す斜視図である。支持体の324の向きを変更することによって、裏当て部材321の角変位軸線L2をY方向に平行にすることができる。さらに第3リンク部材404の動力を直接、棒状体450に与えることによって、裏当て部材321をY方向に平行な角変位軸線L2まわりに角変位させることができる。この場合、Z方向は、被接合物17に力を与える作用方向となる。
方向変換部405は、結合体478を有する。結合体478は、棒状体450のX方向一端部452が貫通する貫通孔481が形成される。貫通孔481は、棒状体450のX方向一端部452よりも大きく形成される。結合体478は、厚み方向に突出する凸部482が形成され、第3リンク部材404の連結部材409に形成される凹所483に嵌合することによって、結合体478と第3リンク部材の連結部材409とが固定される。棒状体450のX方向一端部452が貫通孔481に嵌合した状態で、第3リンク部材404とともに結合体478がZ方向に角変位すると、棒状体450のX方向一端部452は、Z方向に角変位する。
第3リンク部材404がZ方向に変位すると、第3リンク部材404とともに棒状体450のX方向一端部452がZ方向に変位する。これによって棒状体450が角変位軸線L2まわりに角変位する。
図22は、第3リンク部材404に対する棒状体450のX方向一端部452の状態を説明するための図である。図22(1)は、第3リンク部材404が基体21に対して標準位置にある状態を示す。図22(2)は、第3リンク部材404が基体21に対して図22(1)に示す標準位置からZ方向一方Z1に移動した状態を示す。図22(3)は、第3リンク部材404が基体21に対して図22(1)に示す標準位置からZ方向他方Z2に移動した状態を示す。
上述したように、裏当て部材321の変位方向を変化させた場合には、棒状体450のX方向一端部452が、結合体478を介して第3リンク部材404に連結される。図22(1)に示すように、第3リンク部材404が標準位置にある状態では、棒状体450のX方向一端部452は、予め定める規定位置に位置する。棒状体450のX方向一端部452が規定位置にある状態では、棒状体450は、X方向にほぼ平行に延びる。
図22(2)に示すように、第3リンク部材404が標準位置から基体21に対してZ方向一方Z1に移動すると、棒状体450のX方向一端部452もまた、基定位置からZ方向一方Z1に移動する。また、図22(3)に示すように、第3リンク部材404が標準位置から基体21に対してZ方向他方Z2に移動すると、棒状体450のX方向一端部452もまた、基定位置からZ方向他方Z2に移動する。
このようにして、棒状体450のX方向一端部452をZ方向両方Z1,Z2に移動させることによって、当接部451をY方向に延びる角変位軸線L2まわりに回転させることができ、接合ツール22を被接合物17に対してZ方向に微小移動させることができる。なお、摩擦撹拌接合装置220の摩擦撹拌接合動作は、第1実施例の摩擦撹拌接合装置20の摩擦撹拌接合動作に比べて、接合ツール22を被接合物17に対して微小移動させる方向が異なるだけで、他の動作については図6〜図8または図9〜図10に示す動作とほぼ同様の動作を行う。
図23は、裏当て部材321の変位方向を変化させた場合における動作手順を示す断面図である。図23(1)〜図23(5)の順に動作手順が進行する。図6または図9に示すフローチャートに従って動作が行われる。まず、図23(1)に示すように、接合ツール22は、回転軸線L1まわりに回転した状態で、被接合物17に近づく。
次に図23(2)に示すように、接合ツール22は、被接合物17に回転接触し、被接合物17に加圧力を与える。このとき裏当て部材121が被接合物17のX方向一方X1側部分に当接し、接合ツール22が被接合物17のX方向他方X2側部分に当接する。これによって接合ツール22と被接合物17とに摩擦熱が発生し、被接合物17は接合ツール22と接触している部分が軟化し、接合ツール22が被接合物17に没入する。
次に、図23(3)に示すように、各接合部材18,19を流動化しつつ、接合ツール22が各被接合部材18,19の境界を通過すると、各接合物18,19の流動化した部分が混ざり合う。このように被接合物17を部分的に流動撹拌した状態で、裏当て部材121が角変位軸線L2まわりに角変位する。裏当て部材121は、被接合物17にZ方向に移動する力F1を与える。このとき裏当て部材121は、被接合物17に与えた力F1に関する反力F2が、被接合物17から与えられる。
この裏当て部材121に与えられた反力F2は、支持体124、装着体122、基体21を順に介して、多関節ロボット100に与えられる。多関節ロボット100は、反力F2が与えられることによって、反力F2が与えられた方向に撓む。基体21とともに接合ツール22が、被接合物17に対して反力F2が与えられた方向、すなわちZ方向に変位することになる。
図24は、摩擦撹拌接合装置220と多関節ロボット100とに教示動作を行う操作者の動作を示すフローチャートである。操作者は、ステップc0で被接合物17を決定すると、ステップc1に進み、教示動作を開始する。ステップc1では、接合ツール22を被接合物17に対して微小移動させる加工方向を決定し、ステップc2に進む。ステップc2では、被接合物17に対して接合を開始および終了する加工位置を決定し、ステップc3に進む。ステップc3では摩擦撹拌接合における加工条件を決定する。加工条件は、たとえば接合ツール22の回転数、加圧力、接合時間などである。このように、接合ツール22の加工方向、加工位置および加工条件を決定すると、教示動作を終了する。なお、加工方向、加工位置および加工条件を決定する順番については、上述する順番でなくてもよい。
図25は、接合後の被接合物17の一部を示す斜視図であり、図26および図27は、接合後の被接合物17の他の一部を示す斜視図である。図25に示すように、接合ツール22を被接合物17に対してY方向に微小移動させて、Y方向に延びる接合跡200を形成する。さらにY方向の複数の箇所で接合ツール22を没入することで、Y方向に間隔をあけて前記接合跡200を形成することができる。
その中で、たとえば、図26に示すように、アングルなどの障害物202が被接合部材18から突出し、その障害物202がZ方向に延びる部分では、障害物202の近傍を接合する場合に、接合ツール22が被接合物17に対して微小移動する方向を換える。そして、障害物202の近傍では、接合ツール22を被接合物17に対してZ方向に微小移動させて、Z方向に延びる接合跡201を形成する。これによって障害物202の近傍における被接合物17の接合強度を向上することができる。
また図27に示すように、2つの被接合部材18,19をクランプするクランプ体203の近傍においても、接合ツール22が被接合物17に対して微小移動する方向を換える。そして、クランプ体203の近傍では、接合ツール22を被接合物17に対してZ方向に微小移動して、Z方向に延びる接合跡201を形成する。これによって、クランプ体203の近傍における被接合物17の接合強度を向上することができる。
以上のように第2の実施の形態に従えば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。さらに微小移動手段323の動力源323aを裏当て部材321から離反させて配置させることによって、裏当て部材321付近をコンパクトにすることができる。これによって接合ツール22と裏当て部材321とを配置するための空間が小さい場合であっても、摩擦撹拌接合を行うことができ、利便性を向上することができる。
また本実施の形態では、リンク機構によって動力源223aからの動力を裏当て部材321に伝達する。したがって歯車伝達機構に比べて、簡略化した構成で、動力源223aと裏当て部材321との間隔を大きくすることができる。またベルト伝達機構に比べて、大きい動力を伝達することができ、裏当て部材321の移動に抗する力が大きくても、裏当て部材321を確実に移動させることができる。
また支持体324および裏当て部材321の向きを変更し、動力伝達機構の構成を変更することによって、被接合物に与える力の方向を変更することができる。これによって接合領域が広がる方向を基体に対して変更することができ、利便性を向上することができる。被接合物の形状および接合条件などに応じて、接合領域を変更することができる。たとえば、図26および図27に示すように、障害物202およびクランプ体203などが形成される被接合物17の一部分を接合する場合について、接合ツール22を被接合物17を微小移動させる方向を変更させることによって、障害物202およびクランプ体203付近であっても、接合強度を向上することができる。
図28は、本発明の他の実施の形態によって実現される摩擦撹拌接合装置の接合跡205,206,207を示す斜視図である。上述した実施の形態では、接合ツール22を被接合物17に対してY方向およびZ方向のいずれかの方向に微小移動させたが、両方の方向に微小移動させるようにしてもよい。
たとえば裏当て部材121を球面状にして、裏当て部材121をY方向およびZ方向に平行な2つの軸線まわりにそれぞれ角変位駆動することによって、接合ツール22を被接合物17に対して、一度にY方向およびZ方向の両方に微小移動させることができる。この場合の摩擦撹拌接合装置の摩擦撹拌接合動作は、第1実施例の摩擦撹拌接合装置20の摩擦撹拌接合動作に比べて、接合ツール22を微小移動させる方向が異なるだけで、他の動作については図6〜図8または図9〜図10に示す動作とほぼ同様の動作を行う。
これによって図28(1)に示すように、L字状の接合跡205を形成することができる。この接合跡205は、Y方向に延びる部分205aとZ方向に延びる部分205bとが連なる。この場合、接合ツール22が被接合物17に対してY方向およびZ方向のいずれか一方の方向に微小移動した後、被接合物17に対してY方向およびZ方向のいずれか他方の方向に微小移動する。また図28(2)に示すように、U字状の接合跡206を形成することができる。この接合跡206は、Z方向に平行に延びる2つの部分206a,206bがY方向に平行に延びる部分206cによって連結される。この場合、接合ツール22がZ方向一方に移動した後、Y方向に移動し、さらにZ方向他方に移動する。また図28(3)に示すように接合ツール22をX方向に延びる軸線まわりに角変位させて、接合跡207を円弧状に形成するようにしてもよい。これによって1度の摩擦撹拌接合動作で、Y方向およびZ方向の両方における接合強度を向上することができる。
以上のような本発明の実施の各形態は、発明の例示に過ぎず発明の範囲内で構成を変更することができる。たとえば被接合物17を保持する被接合物保持装置よりも、摩擦撹拌接合装置を保持する多関節ロボット100の剛性が低い場合について説明したが、被接合物17を保持する被接合物保持装置の剛性が、摩擦撹拌接合装置を保持する保持装置よりも低い場合であっても同様に接合領域を増やすことができる。この場合、被接合物保持装置が撓むことによって、基体21に対して被接合物17を回転軸線L1に直交する方向にずらすことができる。このようにして接合領域を作用方向にずらすことによって、被接合物17の接合強度を向上することができる。
また本実施の形態では、被接合部材18,19を重ね合わせた状態の被接合物17を用いたが、被接合部材18,19を突き合せた状態の被接合物17を用いて、摩擦撹拌接合を行ってもよい。また裏当て部材121を、角変位軸線L2まわりに角変位させて、被接合物17に回転軸線L1と直交する方向の力を与えたが、裏当て部材121を回転軸線L1に直交する方向に直進移動させてもよい。また裏当て部材121とは別途異なる部材を用いて被接合物17に回転軸線L1と直交する方向の力を与えてもよい。また本実施の形態では、基体21は、C字状、いわゆるCガンタイプに形成されたが、一端部に接合ツールを支持し、他端部に裏当て部材を支持すればよい。これによって基体21が、Xガンタイプであっても、同様の効果を得ることができる。