この発明は、車両における動力源の出力側に配置される動力伝達装置に関するものである。
従来、車両の動力源としてエンジンが搭載され、そのエンジンの出力側に無段変速機を設けた動力伝達装置が知られている。このような構成の動力伝達装置においては、無段変速機の変速比を無段階に制御することにより、エンジンの運転状態を最適燃費に即した状態に制御できる利点がある。このような無段変速機には、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機、遊星歯車装置を用いた無段変速機などがあり、遊星歯車装置を用いた無段変速機の一例が、特許文献1に記載されている。
この特許文献1に記載されている無段変速機は、原動機に接続する入力軸と、負荷に接続する出力軸と、入力軸と出力軸との間に配置された遊星歯車機構とを有している。この遊星歯車機構は、サンギヤと、リングギヤと、サンギヤおよびリングギヤに噛合されたピニオンギヤを保持するキャリヤとを有している。また、リングギヤには油圧ポンプが連結され、油圧ポンプの吐出口と吸入口とを連結する循環パイプにはオイルバルブが設けられている。さらに、原動機と入力軸との間にはトルクセンサーが設けられているとともに、オイルバルブの開度を制御するアクチュエータが設けられている。
上記の特許文献1においては、原動機から入力軸に伝達されるトルクをトルクセンサーにより検知し、トルクセンサーの信号に応じてアクチュエータに動作指令が送られる。このアクチュエータによりオイルバルブの開度が制御されて、油圧ポンプの回転抵抗値が変動されて、リングギヤに加えられる制動力が可変となる。つまり、油圧ポンプは駆動源を必要とせず、負荷の反力で受動的に回転し、出力軸に対する支点の役割を果たすとされている。なお、遊星歯車機構を有する無段変速機において、遊星歯車機構の回転要素にオイルポンプを連結した構成の動力伝達装置は、特許文献2および特許文献3および特許文献4にも記載されている。
特開昭64−30951号公報
特開平2−129414号公報
特開平4−88241号公報
特開昭63−158345号公報
ところで、上記の特許文献1においては、油圧ポンプの吐出口から吐出されたオイルが、循環パイプを経由して油圧ポンプの吸入口に吸入される構成となっている。一方、特許文献2および特許文献3および特許文献4においては、オイルタンクのオイルがオイルポンプに吸入され、オイルポンプから吐出されたオイルがオイルタンクに戻される構成となっている。すなわち、いずれの特許文献に記載されている動力伝達装置においても、オイルポンプを含む閉じられた油圧回路内において、オイルが循環する構成となっており、オイルポンプから吐出されたオイルの有効な利用という観点から改善の余地があった。
この発明は、上記の事情を背景にしてなされたものであり、遊星歯車装置の要素に連結されたオイルポンプを有する動力伝達装置において、オイルポンプから吐出されたオイルを有効に利用することの可能な動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、差動回転可能に取り付けられた第1要素および第2要素および第3要素を有する遊星歯車装置と、前記第1要素のトルクにより駆動されるオイルポンプと、前記第2要素に連結された入力部材と、前記第3要素に連結された出力部材と、前記オイルポンプの吐出側に配置され、かつ、このオイルポンプの駆動に必要なトルクを調整するように開度が制御される制御弁とを有する動力伝達装置において、前記制御弁により吐出状態が制御されるオイルポンプのオイルが、他の油圧装置に供給されるオイルとして兼用される構成であることを特徴とするものである。
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記遊星歯車装置は、前記入力部材のトルクを前記出力部材に伝達する場合に、前記第1要素が反力を受け持つ構成を有していることを特徴とするものである。
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、車両が前進する条件が成立した場合に、前記第1要素および第2要素および第3要素のうち2個の要素を連結することにより、前記遊星歯車装置を一体回転させるクラッチが設けられていることを特徴とするものである。
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの構成に加えて、車両が後進する条件が成立した場合に、前記出力部材の回転方向を、車両が前進する場合における出力部材の回転方向とは逆にする後進機構が設けられていることを特徴とするものである。
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの構成に加えて、前記遊星歯車装置は、大径サンギヤおよび小径サンギヤと、リングギヤと、前記大径サンギヤおよびリングギヤに噛合する第1ピニオンギヤと、この第1ピニオンギヤおよび小径サンギヤに噛合する第2ピニオンギヤと、前記第1ピニオンギヤおよび第2ピニオンギヤを一体的に公転可能に保持するキャリヤとを有するラビニョ型遊星歯車装置であり、前記キャリヤが前記第1要素に該当し、前記リングギヤが前記第2要素に該当し、前記大径サンギヤおよび小径サンギヤが前記第3要素に該当するとともに、前記後進機構は、前記大径サンギヤまたは小径サンギヤと、前記出力部材との連結状態を切り替えることにより、車両が前進する場合における出力部材の回転方向とは逆に、前記出力部材を回転させる構成を有していることを特徴とするものである。
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの構成に加えて、前記オイルポンプは、相対回転することによりオイルを吐出する第1回転部材および第2回転部材を有しており、この第1回転部材または第2回転部材のいずれか一方が、前記第1要素に連結され、前記第1回転部材または第2回転部材のいずれか他方が、前記第2要素または第3要素に連結された構成を有しているとともに、前記入力部材の回転数に応じて前記制御弁の開度を制御する構成を有していることを特徴とするものである。
請求項7の発明は、請求項6の構成に加えて、前記第1回転部材または第2回転部材のいずれか一方と、前記第1要素との間における変速比と、前記第1回転部材または第2回転部材のいずれか他方と、前記第2要素または第3要素との間における変速比とを異ならせる変速機構が設けられているとともに、前記遊星歯車装置を一体回転させる一体回転機構を備えていることを特徴とするものである。
請求項8の発明は、差動回転可能に取り付けられた第1要素および第2要素および第3要素を有する遊星歯車装置と、前記第1要素のトルクにより駆動されるオイルポンプと、前記第2要素に連結された入力部材と、前記第3要素に連結された出力部材と、前記オイルポンプの駆動に必要なトルクを調整する駆動トルク制御機構とを有する動力伝達装置において、前記駆動トルク制御機構により吐出状態が制御されるオイルポンプのオイルが、他の油圧装置に供給されるオイルとして兼用される構成であることを特徴とするものである。
請求項9の発明は、差動回転可能に取り付けられた第1要素および第2要素および第3要素を有する遊星歯車装置と、前記第1要素のトルクにより駆動されるオイルポンプと、前記第2要素に連結された入力部材と、前記第3要素に連結された出力部材と、前記オイルポンプの吐出側に配置され、かつ、このオイルポンプの駆動に必要なトルクを調整するように開度が制御される制御弁とを有する動力伝達装置において、前記オイルポンプは、相対回転することによりオイルを吐出する第1回転部材および第2回転部材を有しており、この第1回転部材または第2回転部材のいずれか一方が、前記第1要素に連結され、前記第1回転部材または第2回転部材のいずれか他方が、前記第2要素または第3要素に連結された構成を有しているとともに、前記入力部材の回転数に応じて前記制御弁の開度を制御する構成を有していることを特徴とするものである。
請求項10の発明は、請求項9の構成に加えて、前記第1回転部材または第2回転部材のいずれか一方と、前記第1要素との間における変速比と、前記第1回転部材または第2回転部材のいずれか他方と、前記第2要素または第3要素との間における変速比とを異ならせる変速機構が設けられているとともに、前記遊星歯車装置を一体回転させる一体回転機構を備えていることを特徴とするものである。
各請求項において、他の油圧装置とは、オイルポンプとは異なる油圧装置、具体的には、遊星歯車装置の要素で受け持つべき反力トルクを生成する機能とは異なる機能を有するものである。例えば、油圧制御式の摩擦係合装置(クラッチやブレーキなど)などの他に、摩擦係合装置の係合圧を制御する油圧室、この油圧室に供給される圧油の油圧および流量を制御する油圧制御装置、ベルト式無段変速機のベルトに挟圧力を与える油圧室などが、各請求項における油圧装置に含まれる。
請求項1の発明によれば、入力部材のトルクが遊星歯車装置を経由して出力部材に伝達されるとともに、遊星歯車装置における第1要素のトルクにより、オイルポンプが駆動される。この場合、制御弁の開度を制御することにより、オイルポンプの駆動に必要なトルクを制御することが可能である。さらに、制御弁により吐出状態が制御されるオイルポンプのオイルが、他の油圧装置に供給するオイルとして兼用される。
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、入力部材のトルクを出力部材に伝達する場合は、第1要素に連結されたオイルポンプにより、反力が受け持たれる。
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、車両が前進する条件が成立した場合は、第1要素および第2要素および第3要素のうち2個の要素がクラッチにより連結されて、入力部材に入力されるトルクにより、遊星歯車装置が一体回転する。したがって、オイルポンプにより受け持つ反力を、必ずしも制御せずに済み、オイルポンプの制御性が向上する。
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明と同様の効果を得ることができる他に、車両が後進する条件が成立した場合は、出力部材の回転方向が、車両が前進する場合における出力部材の回転方向とは逆になる。
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかの発明と同様の効果を得ることができる他に、大径サンギヤまたは小径サンギヤと、出力部材との連結状態を切り替えることにより、車両が前進する場合における出力部材の回転方向とは逆に、出力部材が回転する。
請求項6の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかの発明と同様の効果を得ることができる他に、オイルポンプの第1回転部材または第2回転部材の回転数に応じて、オイルポンプの駆動に必要なトルクを制御することが可能である。
請求項7の発明によれば、請求項6の発明と同様の効果を得ることができる他に、遊星歯車装置が一体回転した場合でも、オイルポンプの第1回転部材と第2回転部材とが相対回転して、オイルポンプからオイルを吐出させることができる。
請求項8の発明によれば、入力部材のトルクが出力部材に伝達されるとともに、第1要素のトルクによりオイルポンプが駆動される。また、駆動トルク制御機構により、オイルポンプの駆動に必要なトルクが制御される。さらに、オイルポンプから吐出されたオイルは、他の油圧装置に供給するオイルとして兼用される。
請求項9の発明によれば、入力部材のトルクが遊星歯車装置を経由して出力部材に伝達されるとともに、遊星歯車装置における第1要素のトルクにより、オイルポンプが駆動される。この場合、制御弁の開度を制御することにより、オイルポンプの駆動に必要なトルクを制御することが可能である。また、オイルポンプの第1回転部材または第2回転部材の回転数に応じて、オイルポンプの駆動に必要なトルクを制御することが可能である。
請求項10の発明によれば、請求項9の発明と同様の効果を得ることができる他に、遊星歯車装置が一体回転した場合でも、オイルポンプの第1回転部材と第2回転部材とが相対回転して、オイルポンプからオイルを吐出させることができる。
つぎに、この発明における動力伝達装置の実施例を図面に基づいて説明する。各実施例の動力伝達装置においては、3個の要素を有する遊星歯車装置が設けられているとともに、いずれかの要素にオイルポンプが連結されている。そして、動力伝達装置は、動力源のトルクを遊星歯車装置を経由させて車輪に伝達する場合に、オイルポンプの駆動に必要なトルクを制御することにより、遊星歯車装置の反力要素で受け持つ反力トルクを調整することが可能に構成されている。以下、動力伝達装置の具体的な実施例を順次説明する。
この実施例1は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項8に対応する実施例であり、実施例1に対応する車両Veの一例が、図1に模式的に示されている。ここに示す動力伝達装置は、動力源としてのエンジン1のトルクが、ダンパ機構50、遊星歯車装置2および前後進切換装置3およびベルト式無段変速機4およびデファレンシャル5を経由して車輪6に伝達される構成を有している。より具体的には、エンジン1はクランクシャフト49を有しており、クランクシャフト49のトルクがダンパ機構50を経由してインプットシャフト9に伝達される構成となっている。
つぎに、前記遊星歯車装置2の構成を説明すると、この遊星歯車装置2は、シャフト7と一体回転するサンギヤ8と、インプットシャフト9に連結され、かつ、サンギヤ8と同軸上に配置されたリングギヤ10と、サンギヤ8に噛合されたピニオンギヤ11と、ピニオンギヤ11およびリングギヤ10に噛合されたピニオンギヤ12と、ピニオンギヤ対11,12を一体的に公転可能に保持するキャリヤ13とを有している。このように、遊星歯車装置2は、2個のピニオンギヤ対11,12を有するダブルピニオン式の遊星歯車装置であり、サンギヤ8とリングギヤ10とキャリヤ13とが、相互に差動回転可能に取り付けられている。
このキャリヤ13とサンギヤ8とを選択的に連結することにより、キャリヤ13と、サンギヤ8とを一体回転させることの可能なクラッチ14が設けられている。このクラッチ14は油圧制御式のクラッチであり、クラッチ14は、油圧室14Aの油圧に基づいて、係合・解放が切り換えられる構成を有している。このクラッチ14の油圧室14Aに圧油を供給するオイルポンプ15が設けられている。オイルポンプ15としては、定容量型オイルポンプまたは可変容量型オイルポンプのいずれを用いてもよい。可変容量型オイルポンプとしては、例えば、公知の可変容量型ベーンポンプを用いることが可能である。この可変容量型ベーンポンプは、ケーシング内に配置されたリングと、リング内に配置され、かつ、ベーンを有する円形のロータとを有し、リングとロータとが偏心して配置されており、アクチュエータ15Aで偏心量を制御することにより、吐出油圧および吐出流量を制御することが可能である。
また、オイルポンプ15の吐出側には、吐出流量を制御する制御弁16が設けられている。なお、オイルポンプ15が、可変容量型オイルポンプである場合は、制御弁16を設けなくともよい。さらに、オイルポンプ15から吐出された圧油を、クラッチ14の油圧室14Aに供給する油圧制御装置17が設けられている。油圧制御装置17は、油圧回路(図示せず)およびソレノイドバルブ(図示せず)などを有している。なお、クラッチ14の油圧室14Aから圧油を排出する排出口(図示せず)も設けられている。
前記オイルポンプ15の駆動系統について説明すると、キャリヤ13のトルクをオイルポンプ15のロータに伝達する伝動装置18が設けられている。この伝動装置18としては、歯車伝動装置または巻き掛け伝動装置などを用いることができる。このように、オイルポンプ15は、キャリヤ13のトルクにより駆動され、オイルパン19のオイルがオイルポンプ15の吸入口20に吸入されて、オイルポンプ15の吐出口21から吐出される構成を有している。
一方、エンジン1は燃料を燃焼させて生じた熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であり、エンジン1としては、例えば、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。前記前後進切換装置3は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、前後進切換装置3は、シャフト7の回転方向に対するプライマリシャフト22の回転方向を切り換える構成を備えている。図1に示す例では、前後進切換装置3としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、シャフト7と一体回転するサンギヤ23と、サンギヤ23と同心状に配置されたリングギヤ24とが設けられ、これらのサンギヤ23とリングギヤ24との間に、サンギヤ23に噛合したピニオンギヤ25と、ピニオンギヤ25およびリングギヤ24に噛合した他のピニオンギヤ26とが配置され、ピニオンギヤ25,26がキャリヤ27によって、自転かつ公転自在に保持されている。また、キャリヤ27とプライマリシャフト22とが一体回転する構成となっている。
さらに、サンギヤ23およびシャフト7と、キャリヤ27とを一体回転可能に連結する前進用クラッチ28が設けられている。またリングギヤ24を選択的に固定することにより、シャフト7の回転方向に対するプライマリシャフト22の回転方向を反転する後進用ブレーキ29が設けられている。
前記ベルト式無段変速機4は、プライマリプーリ30およびセカンダリプーリ31と、プライマリプーリ30の溝およびセカンダリプーリ31の溝に巻き掛けられたベルト32とを有している。まず、プライマリプーリ30は、プライマリシャフト22と一体回転するように構成されており、プライマリプーリ30の溝幅を制御するアクチュエータ33が設けられている。これに対して、セカンダリプーリ31は、セカンダリシャフト34と一体回転するように構成されており、セカンダリプーリ31からベルト32に加えられる挟圧力を制御するアクチュエータ35が設けられている。さらに、セカンダリシャフト34のトルクをデファレンシャル5に伝達する歯車伝動装置36が設けられている。
つぎに、図1に示された車両Veの制御系統を説明する。まず、電子制御装置(ECU)37が設けられており、この電子制御装置37は、演算処理装置(CPUまたはMPU)と、記憶装置(RAMおよびROM)と、入出力インターフェースとを有するマイクロコンピュータにより構成されている。この電子制御装置37には、エンジン回転数、車速、加速要求、制動要求、シフトポジションなどを示す各種の信号が入力される。シフトポジションとしては、例えば、パーキングポジション、リバースポジション、ニュートラルポジション、ドライブポジションなどがある。
この電子制御装置37からは、制御弁16を制御する信号、油圧制御装置17を制御する信号、エンジン1を制御する信号、アクチュエータ33,35を制御する信号、前進用クラッチ28を制御する信号、後進用ブレーキ29を制御する信号などが出力される。さらに、図1に示された構成同士の関係を図2の概念図に示す。この図2は、遊星歯車装置2を中心としたトルクの授受関係、およびオイルポンプ15から制御弁16に吐出されるオイルの流れを示す概念図である。
上記のように構成された車両Veにおいて、遊星歯車装置2の作用を、図3ないし図5の共線図に基づいて説明する。各図において、縦軸に各要素の回転数が示されている。具体的には、「S」がサンギヤ8の回転数を示し、「R」がリングギヤ10の回転数を示し、「C」がキャリヤ13の回転数を示している。また、「正」は要素の回転方向が正方向であることを示し、「逆」は要素の回転方向が逆方向であることを示し、「零」は要素が停止していることを示している。ここで、正方向とは、エンジン1の回転方向と同じ回転方向を意味する。さらに、白抜き矢印は、要素に作用するトルクの向きを示している。
まず、車両Veが停止し、かつ、ニュートラルポジションが選択され、かつ、アイドリング回転しているエンジン1のトルクがインプットシャフト9に伝達された場合は、図3に示すように、エンジントルクによりリングギヤ10が正方向に回転し、サンギヤ8が引き摺りトルクにより停止し、かつ、キャリヤ13が正方向に回転する。このニュートラルポジションが選択されている場合は、オイルポンプ15が無負荷となるように制御され、キャリヤ13が空転する。なお、ニュートラルポジションが選択されている場合は、クラッチ14は解放されているとともに、前記前後進切換装置3においては、前進用クラッチ28および後進用ブレーキ29が共に解放されている。
つぎに、停止している車両Veが発進するために、ニュートラルポジションからドライブポジションに変更されるとともに、加速要求が増加した(例えば、アクセルペダルが踏み込まれた)場合は、図4に示すように、エンジントルクがリングギヤ10に伝達されて、リングギヤ10の回転数が上昇する。また、キャリヤ13からオイルポンプ15に伝達されるトルクによりオイルポンプ15を駆動するとともに、オイルポンプ15を駆動するために必要なトルクを、制御弁16により上昇させる制御が実行される。その結果、キャリヤ13に加えられる反力トルクが増加されて、リングギヤ10のトルクが、キャリヤ13を反力要素としてサンギヤ8に伝達されて、サンギヤ8の回転数が上昇する。
このように、ドライブポジションが選択された場合は、前後進切換装置3において、前進用クラッチ28が係合され、後進用ブレーキ29が解放される。すると、シャフト7とキャリヤ27とが一体回転し、シャフト7のトルクが、ベルト式無段変速機4およびデファレンシャル5を経由して車輪6に伝達され、駆動力が発生する。なお、この時点においても、クラッチ14は解放されている。
上記のように、ドライブポジションが選択されて、車両Veが発進した後は、オイルポンプ15から吐出された圧油をクラッチ14の油圧室14Aに供給することにより、クラッチ14の係合圧を高める制御が実行される。このように、クラッチ14が係合された場合は、サンギヤ8とキャリヤ13とが連結されて、図5に示すように、遊星歯車装置2が一体回転する。
なお、リバースポジションが選択された場合においても、キャリヤ13のトルクをオイルポンプ15に伝達してオイルポンプ15を駆動させ、キャリヤ13を反力要素として機能させ、サンギヤ8の回転数を上昇させる制御が実行される。
上記のように、オイルポンプ15の駆動負荷、言い換えれば、オイルポンプ15の駆動に必要なトルクは、吐出流量および吐出油圧などの条件を制御することにより調整可能である。ここでオイルポンプ15の駆動に必要なトルクTは、次式の算出値と比例する。
(P×Q)/η
上記式において、Pは吐出油圧であり、Qは吐出流量であり、ηはポンプの機械効率である。したがって、吐出油圧または吐出流量を制御することにより、トルクTを調整可能であり、エンジン1からインプットシャフト9に伝達されるトルクに応じた反力トルクを、キャリヤ13で受け持つことが可能である。この実施例1においては、オイルポンプ15が定容量型オイルポンプである場合は、制御弁16の開度を調整することにより、オイルポンプ15の吐出圧力を変更することが可能である。これに対して、オイルポンプ15が可変容量型オイルポンプである場合は、電子制御装置37によりオイルポンプ15を制御して、吐出油圧または吐出流量のうちの少なくとも一方を変更することが可能である。
一方、ベルト式無段変速機4においては、電子制御装置37に入力される信号、および電子制御装置37に記憶されているデータに基づいて、アクチュエータ33,35が制御される。その結果、プライマリプーリ30におけるベルト32の巻き掛け半径、およびセカンダリプーリ31におけるベルト32の巻き掛け半径が制御され、ベルト式無段変速機4の変速比、つまり、プライマリシャフト22の回転速度と、セカンダリシャフト34の回転速度との比を無段階(連続的)に制御することができるとともに、ベルト式無段変速機4のトルク容量が制御される。
以上説明したように、この実施例1においては、インプットシャフト9のトルクを遊星歯車装置2を経由させてシャフト7に伝達する場合に、反力要素となるキャリヤ13のトルクによりオイルポンプ15が駆動される。また、オイルポンプ15から吐出された圧油は、油圧制御装置17を経由してクラッチ14の油圧室14Aに供給され、クラッチ14の係合圧の制御に有効に利用される。また、車両Veが前進する条件が成立した場合、つまり、ドライブポジションが選択された場合は、クラッチ14を係合させることより、キャリヤ13とサンギヤ8とが連結されて、インプットシャフト9に入力されるトルクにより、遊星歯車装置2が一体回転する。したがって、クラッチ14が係合された後は、オイルポンプ15により受け持つ反力を制御せずに済み、オイルポンプ15の制御性が向上する。さらに、車両Veが後進する条件が成立した場合、つまり、リバースポジションが選択された場合は、プライマリシャフト22の回転方向が、車両Veが前進する場合におけるプライマリシャフト22の回転方向とは逆になり、車両Veを後進させる駆動力が発生する。
さらに、ドライブポジションが選択され、かつ、クラッチ14が解放されている場合は、キャリヤ13に加えられる反力トルクをオイルポンプ15で制御することができ、摩擦材などを用いずに済むため、耐久性の低下を抑制することができる。さらに、オイルポンプ15が、キャリヤ13の反力トルクを生じさせる機能と、クラッチ14の油圧室14Aに供給する圧油を吐出する機能とを兼備しているため、クラッチ14の油圧室14Aに圧油を供給するために、オイルポンプ15とは別のオイルポンプを設けずに済み、全体が小型化され、低コストとなる。さらに、オイルポンプ15はキャリヤ13のトルクにより駆動される構成であるため、オイルポンプ15を駆動するために別の動力源、例えば電動機などを設ける必要がなく、全体としての構成を簡素化できる。
さらに、オイルポンプ15として可変容量オイルポンプを用いた場合は、吐出油圧または吐出流量を制御することにより、オイルポンプ15の駆動に必要なトルクを制御することが可能であるため、何らかの条件により吐出油圧を制御することが困難である場合は、吐出流量を制御することにより、オイルポンプ15の駆動に必要なトルクを制御することが可能である一方、何らかの条件により吐出流量を制御することが困難である場合は、吐出油圧を制御することにより、オイルポンプ15の駆動に必要なトルクを制御することが可能である。
ここで、実施例1で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、キャリヤ13が、この発明の第1要素に相当し、リングギヤ10が、この発明の第2要素に相当し、サンギヤ8が、この発明の第3要素に相当し、インプットシャフト9が、この発明の入力部材に相当し、シャフト7およびプライマリシャフト22が、この発明の出力部材に相当し、クラッチ14および油圧室14Aおよびリングギヤ24および前進用クラッチ28およびアクチュエータ33,35が、この発明の油圧装置に相当し、キャリヤ13およびサンギヤ8が、この発明の2個の要素に相当し、前後進切換装置3が、この発明における後進装置に相当し、制御弁16、およびアクチュエータ15Aによる可変容量機能を有するオイルポンプ15自体が、この発明における駆動トルク制御機構に相当する。
つぎに、この発明における動力伝達装置の実施例2を、図6に基づいて説明する。この実施例2は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項8に対応する実施例である。図6において、実施例1の構成と同じ構成については、図1と同じ符号を付してその説明を省略する。この実施例2においては、インプットシャフト9からプライマリシャフト22に至る経路に、遊星歯車装置38およびドグクラッチ39が設けられている。まず、遊星歯車装置38の構成について説明すると、遊星歯車装置38は、大径サンギヤ40と、大径サンギヤ40より小径な小径サンギヤ41と、リングギヤ10と、大径サンギヤ40およびリングギヤ10に噛合するピニオンギヤ42と、サンギヤ40およびピニオンギヤ42に噛合するピニオンギヤ43と、ピニオンギヤ42,43を一体的に公転可能に保持するキャリヤ44とを有するラビニョ型の遊星歯車装置である。
前記小径サンギヤ41はインナーシャフト51と一体回転するように構成され、大径サンギヤ40はアウターシャフト45と一体回転するように構成されている。このアウターシャフト45は中空に構成されており、アウターシャフト45とインナーシャフト51とが同軸上に配置されている。具体的には、アウターシャフト45内にインナーシャフト51が配置されているとともに、インナーシャフト51とアウターシャフト45とが相対回転可能となっている。また、インナーシャフト51およびアウターシャフト45およびプライマリシャフト22が同軸上に配置されている。
また、キャリヤ44とアウターシャフト45とを一体回転可能に連結するクラッチ46が設けられている。クラッチ46は油圧制御式のクラッチであり、油圧室47の油圧により、クラッチ46の係合圧が制御される構成となっている。また、この実施例2においては、キャリヤ44のトルクが伝動装置18を経由してオイルポンプ15に伝達される構成となっているとともに、オイルポンプ15から吐出された圧油が、油圧制御装置17を経由して油圧室47に供給される構成となっている。
前記ドグクラッチ39は、インナーシャフト51またはアウターシャフト45と、プライマリシャフト22とを選択的に連結する装置である。このドグクラッチ39は、インナーシャフト51およびアウターシャフト45およびプライマリシャフト22の軸線方向に動作可能なスリーブ48を有している。このスリーブ48の内周には、軸線方向の異なる位置にスプライン(内歯)48A,48Bが形成されている。一方、プライマリシャフト22にはスプライン(外歯)22Aが形成され、インナーシャフト51にはスプライン(外歯)51Aが形成され、アウターシャフト45にはスプライン(外歯)45Aが形成されている。そして、軸線方向におけるスリーブ48の位置は、選択されるシフトポジションョンに応じて変更させる構成となっている。具体的には、いずれのシフトポジションが選択されている場合も、スプライン48Aとスプライン22Aとが噛合される。これに対して、スプライン48Bは、選択されるシフトポジションに応じて噛合されるスプラインが切り替えられるか、もしくはいずれのスプラインとも噛合されない。
なお、実施例2においては、エンジン1のクランクシャフト49からインプットシャフト9に至る経路にダンパ機構50が設けられている。このダンパ機構50は、エンジントルクの変動がインプットシャフト9に伝達されることを抑制する機構である。
つぎに、この実施例2における遊星歯車装置38の作用を、図7ないし図10の共線図に基づいて説明する。各図において、縦軸に各要素の回転数が示されている。具体的には、「S1」が大径サンギヤ40の回転数を示し、「S2」が小径サンギヤ41の回転数を示し、「R」がリングギヤ10の回転数を示し、「C」がキャリヤ44の回転数を示している。各共線図におけるその他の意味は、前述した意味と同じである。
まず、車両Veが停止し、かつ、ニュートラルポジションが選択されている場合は、クラッチ46が解放されているとともに、スリーブ48の位置が制御されて、スプライン48Bは、スプライン45Aおよびスプライン51Aのいずれとも噛合されない。つまり、プライマリシャフト22と、インナーシャフト51およびアウターシャフト45との間における動力伝達が遮断される。ここで、エンジントルクがインプットシャフト9に伝達された場合は、図7に示すように、小径サンギヤ41は引き摺りトルクにより停止し、エンジントルクによりリングギヤ10が正方向に回転するとともに、キャリヤ44および大径サンギヤ40が正方向に回転する。このニュートラルポジションが選択されている場合は、キャリヤ44に連結されているオイルポンプ15が無負荷となるように制御され、キャリヤ44が空転する。
つぎに、停止している車両Veが発進するために、ニュートラルポジションからドライブポジションに変更され、かつ、加速要求が増加(例えばアクセルペダルが踏み込まれた)場合は、スリーブ48の位置が制御されて、スプライン48Bがスプライン51Aに噛合され、スプライン48Bはスプライン45Aには噛合されない。このようにして、インナーシャフト51とプライマリシャフト2とが動力伝達可能に連結され、アウターシャフト45とプライマリシャフト2との間における動力伝達が遮断される。そして、アクセルペダルが踏み込まれて、エンジントルクがリングギヤ10に伝達されると、図8に示すように、リングギヤ10の回転数が上昇する。また、キャリヤ44からオイルポンプ15に伝達されるトルクによりオイルポンプ15を駆動するとともに、オイルポンプ15を駆動するために必要なトルクを、制御弁16により上昇させる制御が実行される。その結果、キャリヤ44に加えられる反力トルクが増加されて、リングギヤ10のトルクが、キャリヤ44を反力要素として小径サンギヤ41に伝達されて、小径サンギヤ41の回転数が上昇する。このような作用により、インプットシャフト9のトルクが、インナーシャフト51、ベルト式無段変速機4、デファレンシャル5を経由して車輪6に伝達され、駆動力が発生する。
上記のように、ドライブポジションが選択されて、車両Veが発進した後は、オイルポンプ15から吐出された圧油をクラッチ46の油圧室47に供給することにより、クラッチ46の係合圧を高める制御が実行される。このように、クラッチ46が係合された場合は、小径サンギヤ41と大径サンギヤ40とが連結されて、図9に示すように、遊星歯車装置38が一体回転する。
一方、リバースポジションが選択された場合は、クラッチ46が解放されるとともに、スリーブ48の位置が制御されて、スプライン48Bとスプライン45Aとが噛合され、スプライン48Bとスプライン51Aとは噛合されない。このようにして、アウターシャフト45とプライマリシャフト22とが動力伝達可能に連結され、インナーシャフト51とプライマリシャフト22との間における動力伝達が遮断される。また、オイルポンプ15の駆動に必要なトルクを増加する制御が実行されて、反力要素としてのキャリヤ44の回転数が低下され、図10に示すように、大径サンギヤ40が逆方向に回転する。この大径サンギヤ40のトルクが、ベルト式無段変速機4およびデファレンシャル5を経由して車輪6に伝達されて、車両Veを後進させる向きの駆動力が発生する。このように、クラッチ46およびドグクラッチ38が、プライマリシャフト22の回転方向を選択的に切り換える前後進切換装置としての機能を有している。
この実施例2においても、実施例1の同じ構成部分については実施例1と同様の効果を得ることができる。また、この実施例2においては、ドグクラッチ39により、プライマリシャフト22と、インナーシャフト51またはアウターシャフト45とを選択的に連結することにより、車両Veが前進する場合と後進する場合とで、プライマリシャフト22の回転方向を切り換えることが可能である。この実施例2における構成と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ピニオンギヤ42が、この発明の第1ピニオンギヤに相当し、ピニオンギヤ43が、この発明の第2ピニオンギヤに相当し、ドグクラッチ39が、この発明における後進機構に相当する。
この実施例3は、請求項1、請求項2、請求項4、請求項6、請求項8、請求項9に対応する実施例であり、実施例3に対応する車両Veの一例が、図11に模式的に示されている。この実施例3は、オイルポンプ52の構成およびオイルポンプ52の駆動系統の構成が、実施例1および実施例2とは異なる。すなわち、オイルポンプ52は、相対回転可能なケーシング53およびロータ54を有している。
また、ケーシング53と一体回転するシャフト55が設けられ、ロータ54と一体回転するシャフト56が設けられているとともに、シャフト55と、遊星歯車装置2のキャリヤ13とが、伝動装置18により動力伝達可能に連結されている。さらに、インプットシャフト9のトルクをシャフト56に伝達する伝動装置57が設けられている。ここで、インプットシャフト9とシャフト56との間における変速比と、キャリヤ13とシャフト55との間における変速比が同一となるように、伝動装置18,57が構成されている。
上記構成のオイルポンプ52が駆動された場合は、オイルパン19のオイルが吸入口20から吸入され、吐出口53から吐出されたオイルが、制御弁16を経由して油圧制御装置17に供給される。ここで、オイルポンプ52として可変容量型オイルポンプを用いた場合は、制御弁16を設けなくともよい。さらに、実施例3においては、キャリヤ13とシャフト7とを選択的に連結する機構は設けられていない。なお、実施例3におけるその他の構成は、実施例1における構成と同じであるため、実施例1と同じ符号を付してその説明を省略する。
つぎに、実施例3における作用を説明する。まず、車両Veが停止し、かつ、ニュートラルポジションが選択され、かつ、エンジントルクがインプットシャフト9に伝達された場合は、遊星歯車装置2の各要素の状態は、実施例1と同様に図3の共線図で示す状態となる。ここで、オイルポンプ52は、前進用クラッチ28または後進用ブレーキ29を係合する油圧を確保することが可能となるように、そのオイル吐出状態が制御される。また、前後進切換装置3においては、前進用クラッチ28および後進用ブレーキ29が共に解放される。
つぎに、停止している車両Veが発進するために、ニュートラルポジションからドライブポジションに変更された場合は、オイルポンプ52の負荷を高めて、ケーシング53から、シャフト55および伝動装置18を経由してキャリヤ13に加えられる反力トルクを増加する制御が実行される。その結果、図4の共線図に示すように、サンギヤ8の回転数が上昇する。また、ドライブポジションが選択された場合は、前後進切換装置3において、前進用クラッチ28が係合され、後進用ブレーキ29が解放され、車両Veを前進させる向きの駆動力が発生する。なお、リバースポジションが選択された場合は、前後進切換装置3の後進用ブレーキ29が係合され、前進用クラッチ28が解放される。
この実施例3においても、遊星歯車装置2のリングギヤ10およびキャリヤ13から伝達されるトルクによりオイルポンプ52が駆動されるとともに、キャリヤ13に加えられる反力トルクが制御される。そして、実施例3において、実施例1と同様の構成部分については、実施例1の構成と同様の効果を得ることができる。
ところで、前述の「背景技術」に記載したように、特許文献1においては、原動機から入力軸に伝達されるトルクがトルクセンサーにより検知され、トルクセンサーの信号に応じてアクチュエータに動作指令が送られるとともに、このアクチュエータによりオイルバルブの開度が制御される構成となっている。しかしながら、入力軸の回転数によっては過剰なオイルを汲み上げる可能性があり、油圧ポンプの機械効率が低下する可能性があった。
これに対して、実施例3においては、インプットシャフト9の回転数が所定回転数以上である場合に、オイルポンプ55の吐出油量または吐出油圧を制御することにより、オイルポンプ52のロータ54およびケーシング53の回転数、具体的には、回転数差を制御することができる。したがって、オイルポンプ52により過剰なオイルを汲み上げることを抑制でき、ポンプ効率が向上する。さらには、キャリヤ13とサンギヤ8とを一体回転するように連結するクラッチが設けられていないため、クラッチの引き摺りによる動力損失を防止できる。
この実施例3の構成とこの発明の構成との対応関係を説明すれば、油圧制御装置17がこの発明の油圧装置に相当し、ケーシング53がこの発明の第1回転部材に相当し、ロータ54がこの発明の第2回転部材に相当する。実施例3のその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、実施例1の構成とこの発明の構成との対応関係と同じである。なお、この実施例3において、ケーシング53とインプットシャフト9とを伝動装置により連結し、ロータ54とキャリヤ13とを伝動装置により連結するように、設計変更をおこなうことも可能である。
この実施例4は、請求項1、請求項2、請求項4、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9、請求項10に対応する実施例であり、実施例4に対応する車両Veの一例が、図12に模式的に示されている。この実施例4の構成において、実施例1の構成および実施例3の構成と同じ構成については、実施例1の構成および実施例3の構成と同じ符号を付してその説明を省略する。
この実施例4においては、キャリヤ13とシャフト56との間における変速比と、シャフト7とシャフト55との間における変速比とが異なる値となるように、伝動装置18,57が構成されている。また、実施例4においては、実施例1と同様にクラッチ14および油圧室14Aが設けられており、オイルポンプ52から吐出されたオイルが、油圧制御装置17を経由して油圧室14Aに供給される構成となっている。
つぎに、この実施例4における作用を説明する。まず、車両Veが停止し、かつ、ニュートラルポジションが選択された場合は、クラッチ14が解放されるとともに、前後進切換装置3においては、前進用クラッチ28および後進用ブレーキ29が共に解放される。そして、エンジントルクがインプットシャフト9に伝達された場合は、遊星歯車装置2の各要素の状態は、実施例1と同様に図3の共線図で示す状態となる。ここで、オイルポンプ52は実施例1と同様に無負荷状態に制御される。
また、停止している車両Veが発進するために、ニュートラルポジションからドライブポジションに変更された場合は、オイルポンプ52の負荷を高めて、ケーシング53から、シャフト55および伝動装置18を経由してキャリヤ13に加えられる反力トルクを増加する制御が実行される。その結果、図4の共線図に示すように、サンギヤ8の回転数が上昇する。また、ドライブポジションが選択された場合は、前後進切換装置3において、前進用クラッチ28が係合され、後進用ブレーキ29が解放され、車両Veを前進させる向きの駆動力が発生する。さらに、車両Veが前進を開始した後、クラッチ14が係合されて、図5の共線図に示すように、遊星歯車装置2が一体回転する。
この実施例4においても、実施例1の構成と同じ構成部分については、実施例1と同様の効果を得られ、実施例3の構成と同じ構成部分については、実施例3と同様の効果を得られる。また、実施例4においては、キャリヤ13とシャフト56との間における変速比と、シャフト7とシャフト55との間における変速比とが異なるため、遊星歯車装置2が一体回転した場合でも、オイルポンプ52のケーシング53とロータ54とが相対回転し、オイルポンプ52からオイルが吐出される。したがって、油圧室14Aに供給される圧油の低下を防止できるとともに、オイル漏れによりオイルポンプ52の容積効率が低下する場合でも、オイルポンプ52の吐出油圧の低下を抑制することができる。
さらに、オイルポンプ52の容積効率が低下する場合でも、オイルポンプ52から油圧室14Aに供給される圧油の低下を抑制することができる。したがって、動力伝達装置における動力伝達効率の低下を抑制できる。また、キャリヤ13とシャフト56との間における変速比と、シャフト7とシャフト55との間における変速比との差を小さく設定することにより、クラッチ14が係合される場合、例えば、インプットシャフト9の回転数が略一定に制御される場合、または、インプットシャフト9の回転数が所定回転数以上である場合において、オイルポンプ52の吐出容量を少量とすることができる。したがって、動力伝達装置によるオイルポンプ52の駆動負荷の増加を抑制することができ、動力伝達装置における動力伝達効率の低下を抑制することができる。
ここで、実施例4の構成とこの発明の構成との対応関係を説明すれば、伝動装置18,57が、この発明の変速機構に相当し、クラッチ14が、この発明の一体回転機構に相当する。実施例4のその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、実施例1の構成とこの発明の構成との対応関係と同じである。なお、この実施例4において、ケーシング53とキャリヤ13とを伝動装置により連結し、ロータ54とシャフト7とを伝動装置により連結するように、設計変更をおこなうことも可能である。
この発明における動力伝達装置の一実施例に相当する車両のパワートレーンおよび制御系統を示す概念図である。
この発明における動力伝達装置を示す概念図である。
図1に示された遊星歯車装置の各要素の状態を示す共線図である。
図1に示された遊星歯車装置の各要素の状態を示す共線図である。
図1に示された遊星歯車装置の各要素の状態を示す共線図である。
この発明における動力伝達装置の他の実施例に相当する車両のパワートレーンおよび制御系統を示す概念図である。
図6に示された遊星歯車装置の各要素の状態を示す共線図である。
図6に示された遊星歯車装置の各要素の状態を示す共線図である。
図6に示された遊星歯車装置の各要素の状態を示す共線図である。
図6に示された遊星歯車装置の各要素の状態を示す共線図である。
この発明における動力伝達装置の他の実施例に相当する車両のパワートレーンおよび制御系統を示す概念図である。
この発明における動力伝達装置の他の実施例に相当する車両のパワートレーンおよび制御系統を示す概念図である。
符号の説明
2,38…遊星歯車装置、 3…前後進切換装置、 8…サンギヤ、 9…インプットシャフト、 10…リングギヤ、 13,44…キャリヤ、 15,52…オイルポンプ、 15A…アクチュエータ、 22…プライマリシャフト、 14…クラッチ、 14A…油圧室、 16…制御弁、 17…油圧制御装置、 18,57…伝動装置、 24…リングギヤ、 28…前進用クラッチ、 33,35…アクチュエータ、 39…ドグクラッチ、 40…大径サンギヤ、 41…小径サンギヤ、 42,43…ピニオンギヤ、 53…ケーシング、 54…ロータ、 Ve…車両。