JP2005285451A - 電解質膜およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 燃料電池において高効率な発電を実現できる電解質膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 電解質膜1は、燃料電池に用いる電解質膜1であって、基底部2と凸構造部3とを備える。凸構造部3は基底部2上に形成され、基底部2の表面5に対して傾斜した柱状体としての柱状結晶4を有する。このようにすれば、凸構造部3には柱状結晶4が形成されているので、当該柱状結晶4体が存在しない場合より電解質膜1の凸構造部3側の表面積を大きくできる。このため、凸構造部3上にたとえば燃料極を形成して、一方、電解質膜1において凸構造部3が形成された面とは反対側に位置する面に空気極を形成することにより、燃料極が形成された領域の面積(活性面積)を大きくすることができる。この結果、発電効率の高い燃料電池を実現できる。
【選択図】 図1

Description

この発明は、燃料電池において用いられる電解質膜およびその製造方法に関し、より特定的には、燃料電池での高効率な発電を可能とする電解質膜およびその製造方法に関する。
従来、燃料電池の一種として固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)が知られている。固体酸化物形燃料電池は、電解質膜を2つの電極層で挟んだ構造である。ここでは、空気と触れる一方の電極を空気極、燃料ガスと触れる他方の電極を燃料極と呼ぶ。固体酸化物形燃料電池の発生する電力は、燃料電池の活性面積(すなわち、燃料極の活性面積)に比例することが知られている。そこで、燃料電池における高効率な発電を実現するため、たとえば、上記電解質膜の燃料極側にエッチングにより凹凸部を形成し、この凹凸部上に燃料極を形成した構造の燃料電池が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
特開平7−14585号公報
上述した特許文献1に開示された電解質膜において、電解質膜における燃料極側の表面の面積(燃料電池の活性面積)を大きくするためには、形成される凹凸部の凹部の深さを極力深くすることが好ましい。しかし、このように電解質膜を後から加工することにより凹凸部を形成する手法を用いた場合、凹凸部の凹部の深さを深く形成することには限界があった。
また、高効率な発電を実現するためには、電解質膜での発電損失を小さくすることも求められる。たとえば、従来の電解質膜はその厚みが30μm以上と厚いため、電解質膜中をイオンが移動する際、当該イオンの移動が十分行なわれない(イオン移動に対する損失が発生する)といった問題があった。一方、電解質膜中でのイオン移動に対する損失を低減するため、電解質膜を薄くする場合、たとえば当該電解質膜が焼結法などにより形成されていると、電解質膜を燃料電池の反応ガス(水素ガスや酸素ガスなど)が透過してしまう場合があった。この場合、燃料の利用効率が低下するため、結果的に発電効率が低下することになっていた。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、燃料電池において高効率な発電を実現できる電解質膜およびその製造方法を提供することである。
この発明に従った電解質膜は、燃料電池に用いる電解質膜であって、基底部と凸構造部とを備える。凸構造部は基底部上に形成され、基底部の表面に対して傾斜した柱状体を有する。
このようにすれば、凸構造部には柱状体が形成されているので、当該柱状体が存在しない場合より電解質膜の表面積を大きくできる。この結果、当該凸構造部上にたとえば燃料極を形成し、一方、電解質膜において凸構造部が形成された面とは反対側に位置する面に空気極を形成することにより、燃料極が形成された領域の面積(活性面積)を大きくすることができる。この結果、発電効率の高い燃料電池を実現できる。
また、凸構造部に形成される柱状体は基底部の表面に対して傾斜しているため、基底部表面に対して垂直な場合よりも、柱状体による表面積の増加効果が大きい。さらに、電解質膜や燃料電池の製造時、あるいは燃料電池の運転時に、基底部の表面に対してたとえばほぼ垂直な方向から電解質膜に応力が加えられる場合、傾斜している柱状体が弾性変形することにより当該応力を吸収することができる。この結果、その応力により凸構造部が損傷を受ける(たとえば柱状体が座屈する)可能性を低減できる。
上記電解質膜では、電解質膜が用いられる温度条件において酸素ガスおよび水素ガスが基底部を透過しないように、基底部の密度が決定されていることが好ましい。
この場合、電解質膜が用いられる温度条件(すなわち、電解質膜を含む燃料電池の運転温度)において、燃料電池で用いられる反応ガス(水素ガスおよび酸素ガス)が電解質膜を透過することを抑制できる。この結果、酸素ガスあるいは水素ガスが電解質膜を透過することで燃料電池における燃料の利用効率が低下するという問題の発生を抑制できる。
なお、ここで酸素ガスおよび水素ガスが電解質膜を透過しない密度とは、上記温度条件において電解質膜における酸素ガスおよび水素ガスの透過量を、当該電解質膜を適用した燃料電池の発電効率に実質的な影響を与えない程度に低く抑えることが可能な程度の密度であり、電解質膜をごく微量な酸素ガスあるいは水素ガスが透過するような基底部の密度も含まれる。
上記電解質膜において、基底部の密度は、凸構造部の密度より高くなっていることが好ましい。
この場合、基底部における酸素ガスあるいは水素ガスの透過を阻止する能力を、凸構造部における当該能力より高くできる。そして、このように基底部において酸素ガスあるいは水素ガスの透過を抑制できれば、凸構造部については当該ガスの透過について特に制限されること無く、材料や形成条件の選択を行なうことができる。この結果、凸構造部の材料選択の自由度を向上させることができる。
上記電解質膜において、凸構造部は、ターゲット材表面に対して基底部の表面を傾斜して配置した状態で、ターゲット材表面から凸構造部を構成する材料を飛散させ、その飛散した材料を基底部の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して形成されていることが好ましい。
この場合、いわゆる基板傾斜成膜法(Inclined Substrate Deposition 法:ISD法)を用いることにより、傾斜した柱状体を容易に形成することができる。
上記電解質膜において、凸構造部は柱状体を複数有していることが好ましい。上記電解質膜では、電解質膜が用いられる温度条件(電解質膜が用いられる燃料電池の運転温度)において、凸構造部の柱状体の直径をd、複数の柱状体の間の間隔をL、基底部の表面から柱状体の上部表面までの沿面距離をhとした場合であって、電解質膜の表面が平坦である場合の表面積に比べて電解質膜の凸構造部が形成された面の表面積をn倍以上にする場合、1+π×d×h/(d+L)2 ≧ n という式を満足するように、柱状体の直径d、間隔L、沿面距離hが決定されていることが好ましい。この場合、所定の表面積を有するような凸構造部を実現できる。なお、nは製造可能な範囲で任意に選択できるが、n=3、さらにはn≧3であれば効果が大きく好ましい。本発明によれば、n≧10の形状とすることもできる。
上記電解質膜において、基底部の厚みは前述のガスが透過しない範囲において10μm以下であってもよい。この場合、基底部の厚みを相対的に薄く設定することで、電解質膜におけるイオンの移動に対する損失を低減できる。
この発明に従った電解質膜の製造方法は、基底部と、基底部上に形成され、基底部の表面に対して傾斜した柱状体を有する凸構造部とを備える電解質膜の製造方法であって、基底部を形成する工程と、凸構造部を形成する工程とを備える。凸構造部を形成する工程では、基底部上に、基底部の表面に対して傾斜した柱状体を有する凸構造部を形成する。また、凸構造部を形成する工程は、ターゲット材表面に対して基底部の表面を傾斜して配置した状態で、ターゲット材表面から凸構造部を構成する材料を飛散させ、飛散した当該材料を基底部の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して凸構造部を形成する工程を含む。
この場合、いわゆるISD法を用いることにより、本発明による電解質膜を容易に得ることができる。
上記電解質膜の製造方法において、基底部を形成する工程は、ターゲット材表面に対して基底部が形成されるべき基板の表面を平行に配置した状態で、ターゲット材表面から基底部を構成する材料を飛散させ、飛散した材料を基板の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して基底部を形成する工程を含んでいてもよい。
この場合、基底部の形成と凸構造部の形成とを、基板の表面のターゲット材表面に対する角度を変えるだけで、連続的に行なうことができる。この結果、基底部と凸構造部との界面に不純物などが侵入する可能性を低減できる。したがって、高品質な電解質膜を得ることができる。
上記電解質膜の製造方法では、基底部を形成する工程および凸構造部を形成する工程において利用される物理蒸着法は、ターゲット材表面にレーザ光を照射することによりターゲット材表面から材料を飛散させるものであってもよい。また、上記電解質膜の製造方法では、凸構造部を形成する工程で利用される物理蒸着法においてターゲット材表面に照射されるレーザ光の周波数は、基底部を形成する工程で利用される物理蒸着法においてターゲット材表面に照射されるレーザ光の周波数より高いことが好ましい。
ここで、レーザ光を利用した物理蒸着法において形成される膜の密度は、レーザ光の周波数が高いほど低くなる。このため、基底部を構成する材料の密度は、凸構造部を構成する材料の密度より高くなる(凸構造部を構成する材料の密度は、基底部を構成する材料の密度より低くなる)。したがって、基底部については高密度化して酸素ガスや水素ガスなどの透過を抑制する層としての機能を持たせることができる。また、レーザ光の周波数を変更することで、基底部および凸構造部を構成する材料のそれぞれの密度をある程度変更できるので、電解質膜の設計の自由度を向上させることができる。
このように、本発明によれば、電解質膜の活性面積(燃料極が形成されるべき凸構造部の表面積)を大きくできるので、当該電解質膜を用いて高効率な発電が可能な燃料電池を実現できる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
図1は、本発明による電解質膜を示す断面模式図である。図2は、図1に示した電解質膜を用いた燃料電池の概念図である。なお、図2に示した燃料電池は、いわゆる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。図2(a)は電解質膜が酸素イオンを透過する場合、図2(b)は水素イオンを透過する場合をそれぞれ示す。図1および図2(a)を参照して、本発明による電解質膜および燃料電池を説明する。
図1に示すように、本発明による電解質膜1は、基底部2と、その基底部2の表面上に柱状結晶4が複数個形成された凸構造部3とからなる。柱状結晶4の中心軸6は、基底部2の表面5に対して傾斜した状態になっている。また、異なる観点からいえば、柱状結晶4の側面7は、基底部2の表面5に対して傾斜する方向に延びるように形成されている。なお、柱状結晶4の側面7は、柱状結晶4の中心軸6の延びる方向にほぼ平行に延在しているが、中心軸6に対して傾斜する方向に延在していてもよい。
基底部2の厚みT1は、たとえば10μm程度とすることができる。また、電解質膜1のトータル厚みT2は、たとえば30μm以下、より好ましくは20μm以下とすることができる。
次に、図1に示した電解質膜1を用いた燃料電池10を説明する。図2(a)に示すように、図1に示した電解質膜1を用いた燃料電池10では、電解質膜1の凸構造部3側に燃料極12が形成されている。また、電解質膜1の基底部2側に空気極11(酸素極とも言う)が形成されている。
そして、所定の運転温度において、空気極11側に酸素を供給し、燃料極12側に水素を供給する。この結果、空気極11側においては、1/2O2+2e-→O2-という反応が起きる。そして、電解質膜1中を酸素イオンとしてのO2-が移動する。燃料極12においては、H2+O2-→H2O+2e-という反応が起きる。この結果、空気極11と燃料極12とを導電線14より負荷13を介して接続すれば、図2(a)に示すようにこの導電線14に電流が流れる(電子が流れる)。
ここで、燃料電池10の電解質膜1は、燃料電池10の性能および発電効率の面から、できるだけ薄膜であること、高いガス隔離性を示すこと、さらに高い反応性(水素と酸素イオンとの反応性)を示すこと、などが求められる。電解質膜1の薄膜化という要請と、高いガス隔離性という要請とは、トレードオフの関係にあると考えられる。しかし、後述するように電解質膜1の基底部2について、高密度の薄膜を構成材料として用いることにより、上述した2つの要請をハイレベルで両立させることができる。
また、高い反応性を実現するためには、電解質膜1の表面積(特に燃料極12側の表面積)をいかに大きくするかが重要な要因である。そこで、本発明による電解質膜1では、後述するようにISD法(基板傾斜成膜法)を用いて基底部2の表面に対して斜め方向に延びる柱状結晶4を複数個備える凸構造部3を形成した。この結果、この凸構造部3の柱状結晶4が存在することにより、基底部2の表面5が平滑である場合よりも凸構造部3の表面積を増大させることができる。
また、電解質膜1に対しては、燃料電池10の製造工程および燃料電池10を稼動させるときなどにおいて、その厚さ方向に応力が加えられる場合がある。しかし、本発明による電解質膜1では、柱状結晶4が斜め方向に延びているため、この応力を柱状結晶4の弾性変形によりある程度吸収することができる。その結果、基底部2の表面5に対してほぼ垂直な方向に柱状結晶4が形成されている場合に比べて、柱状結晶4が応力により座屈して凸構造部3の構造が破損する危険性を低減できる。
なお、凸構造部3における柱状結晶4のサイズや密度は、以下のように決定することができる。図3は、本発明による電解質膜における凸構造部が形成された面の平面模式図である。図4は、図3に示した線分IV−IVにおける断面模式図である。図3および図4を参照して、電解質膜1の表面積の設定値と凸構造部3の構造の寸法との関係を説明する。
図3に示すように、電解質膜1の凸構造部3における単位面積領域20を考える。この単位面積領域20内部に柱状結晶4が均等な間隔で分散配置していると仮定する。ここで、柱状結晶4の直径をd、柱状結晶4の間の距離をL、柱状結晶4の上部表面から基底部2の表面までの側面7に沿った距離(沿面距離)をhとする。
このように考えた場合、1つの柱状結晶4が形成されることによる電解質膜1の表面積の増加分はπ×d×hと表わすことができる。また、単位面積領域20当りの柱状結晶4の数は、1/(d+L)2個と表わすことができる。このため、単位面積領域20について、柱状結晶4が形成された場合での電解質膜1の表面積の増加分はπ×d×h×1/(d+L)2と表わすことができる。このため、単位面積領域20の表面積を1と表わす場合に、この柱状結晶4を形成することにより柱状結晶4が形成された面側の表面積をn倍にする場合には、上述した柱状結晶の直径d、間隔L、柱状結晶4の上部表面から基底部2までの側面7の長さhと上述した数値nとの関係は、1+π×d×h/(d+L)2=nという関係を満足する。
つまり、電解質膜1の表面積を通常の平坦な表面である場合の何倍にしたいかが決定した場合、上述したnが決定されることになるため、上述した式を満足するように柱状結晶4の直径d、間隔Lおよび側面7の長さhを設定すればよいことがわかる。つまり、柱状結晶4の形状および分布密度を制御することにより、電解質膜1の表面積を任意の値とすることが可能である。
次に、図1に示した本発明による電解質膜の製造方法を説明する。図5は、図1に示した電解質膜1の製造方法を示すフローチャートである。図6は、図5に示した基底部を形成する工程を説明するための模式図である。図7は、図5に示した凸構造部を形成する工程を説明するための模式図である。図5〜図7を参照して、本発明による電解質膜の製造方法を説明する。
図5を参照して、本発明による電解質膜1の製造方法では、まず基板を準備する工程(S10)を実施する。この基板32(図6参照)は、表面に電解質膜1を形成するためのものである。
次に、この基板32上に基底部2を形成する工程(S20)を実施する。具体的には、図6に示すように、物理蒸着法を用いて先ほど準備した基板32の表面34上に、ターゲット材31からの粒子を蒸着させる。ターゲット材31は基底部2(図1参照)を構成する材料からなる。このターゲット材31にレーザ光30を照射することによりプラズマ33を発生させる。そして、このプラズマ33からの粒子(ターゲット材31の表面35から飛散した粒子)が基板32の表面上に蒸着する。このようにして基板32の表面34上に基底部2を形成する。このとき、図6に示すように、ターゲット材31の表面35と基板32の表面34とは互いに実質的に平行となるように、基板32とターゲット材31とは配置される。
ここで、たとえばターゲット材31に照射するレーザ光については、その波長を248nmとすることができる。また、このときのレーザ光の周波数としては20Hzとすることができる。また、基板32の温度は600℃とすることができる。また、ターゲット材31を構成する材料としては、酸素イオンを透過する材料であれば任意の材料を用いることができる。たとえば、ターゲット材31の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(Yttria Stabilized Zirconia:YSZ)を用いることができる。
そして、所定時間成膜を実施し、基底部2を所定の厚みだけ基板32の表面34上に形成した後、基板を傾斜させる工程(S30)(図5参照)を実施する。この結果、図7に示すように、基板32の表面34がターゲット材31の表面35に対して傾斜した状態となるように基板32が配置される。なお、基板を傾斜させる工程(S30)に先立って、基底部2を形成するための成膜工程を停止(レーザ光30の照射を停止)してもよいし、当該成膜工程を実施しながら基板を傾斜させる工程(S30)を実施してもよい。
そして、このように基板32の表面34がターゲット材31の表面35に対して傾斜した状態で、凸構造部を形成する工程(S40)(図5参照)を実施する。具体的には、上述したように、ターゲット材31の表面35に対して基板32の表面34が傾斜した状態において、ターゲット材31の表面にレーザ光30を照射する。このレーザ光30の照射により、ターゲット材31の表面35からターゲット材31を構成する材料の粒子が飛散してプラズマ33が形成される。そして、飛散した粒子が基板32の表面34に形成された基底部2(図示せず)の表面上に蒸着する。すなわち、凸構造部3を構成する柱状結晶4はISD法(基板傾斜成膜法)により形成される。
なお、このときのターゲット材31の表面35に対する基板32の表面34の傾き角度はたとえば45°とすることができるが、これに限定されるものではない。また、図7に示した工程におけるレーザ光の周波数は100Hzとすることができる。なお、このときのレーザ光の周波数は、図6に示した基底部を形成する工程における周波数よりも高い周波数であれば、他の任意の周波数を用いてもよい。また、図6に示した基底部を形成する工程におけるレーザ光の周波数は、上述したように20Hzでもよいが、図7に示した工程でのレーザ光の周波数より小さい値であれば、他の任意の値とすることができる。
このようにして得られた電解質膜1は、図3および図4に示したように基底部2の表面に柱状結晶4が形成された構造となっている。この柱状結晶4の径d(図3参照)は0.3μm、間隔L(図3参照)は、電解質膜1を燃料電池の運転温度(約1000℃)とした場合に0.1μm、また、柱状結晶4の側面7の長さh(図4参照)は5μmであった。基底部2の厚みは3μmであった。基底部2の表面5に対する柱状結晶4の側面7の傾き角θ(図1参照)は67°であった。なお、上述した燃料電池の運転温度としては、たとえば200℃から1000℃の温度範囲が考えられるが、より好ましくは500℃である。
上述した本発明に従った電解質膜1の特徴的な構成を要約すれば、電解質膜1は、燃料電池10(図2参照)に用いる電解質膜1であって、図1に示すように基底部2と凸構造部3とを備える。凸構造部3は基底部2上に形成され、基底部2の表面5に対して傾斜した柱状体としての柱状結晶4を有する。
このようにすれば、凸構造部3には柱状結晶4が形成されているので、当該柱状結晶4体が存在しない場合より電解質膜1の凸構造部3側の表面積を大きくできる。このため、図2に示すように凸構造部3上にたとえば燃料極12を形成して、一方、電解質膜1において凸構造部3が形成された面とは反対側に位置する面に空気極11を形成することにより、燃料極12が形成された領域の面積(活性面積)を大きくすることができる。この結果、発電効率の高い燃料電池10を実現できる。
また、凸構造部3に形成される柱状結晶4は基底部2の表面5に対してその中心軸6が傾斜しているため、電解質膜1や燃料電池10の製造時、あるいは燃料電池10の運転時に、基底部2の表面に対してたとえばほぼ垂直な方向から応力が加えられる場合、傾斜している柱状結晶4が弾性変形することにより当該応力を吸収することができる。この結果、その応力により凸構造部3が損傷を受ける(たとえば柱状結晶4が座屈する)可能性を低減できる。
上記電解質膜1では、電解質膜1が用いられる温度条件において酸素ガスおよび水素ガスが基底部2を透過しないように、基底部2の密度が決定されていることが好ましい。この場合、電解質膜1が用いられる温度条件(すなわち、電解質膜1を含む燃料電池10の運転温度)において、燃料電池10で用いられる反応ガス(水素ガスおよび酸素ガス)が電解質膜1(具体的には基底部2)を透過することを抑制できる。この結果、酸素ガスあるいは水素ガスが電解質膜1を透過することで燃料電池10における燃料の利用効率が低下するという問題の発生を抑制できる。
上記電解質膜1において、基底部2の密度は、凸構造部3の密度より高くなっていることが好ましい。この場合、基底部2における酸素ガスあるいは水素ガスの透過を阻止する能力を、凸構造部における当該能力より高くできる。そして、このように基底部2において酸素ガスあるいは水素ガスの透過を抑制できれば、凸構造部3については当該ガスの透過について特に制限されること無く、材料の種類や形成条件の選択を行なうことができる。この結果、凸構造部3の材料選択の自由度を向上させることができる。
上記電解質膜1において、凸構造部3は、図7に示すようにターゲット材31の表面35に対して基底部2の表面(基底部2が形成された基板32の表面34)を傾斜して配置した状態で、ターゲット材31表面から凸構造部3を構成する材料を飛散させ、当該飛散した材料を基底部2の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して形成されている。この場合、いわゆる基板傾斜成膜法を用いることにより、傾斜した柱状体としての柱状結晶4を容易に形成することができる。
上記電解質膜1において、凸構造部3は柱状結晶4を複数有している。上記電解質膜1では、電解質膜1が用いられる温度条件(電解質膜1が用いられる燃料電池10の運転温度)において、凸構造部3の柱状結晶4の直径をd、複数の柱状結晶4の間の間隔をL、基底部2の表面から柱状結晶4の上部表面までの沿面距離をhとした場合であって、電解質膜1の表面が平坦である場合の表面積に比べて電解質膜1の凸構造部3が形成された面の表面積をn倍以上にする場合、1+π×d×h/(d+L)2 ≧ n という式を満足するように、柱状結晶4の直径d、間隔L、沿面距離hが決定されている。この場合、所定の表面積を有するような凸構造部3を備える電解質膜1を容易に実現できる。なお、nは製造可能な範囲で任意に選択できるが、n=3、さらにはn≧3であれば効果が大きく好ましい。本発明によれば、n≧10という条件を満足する電解質膜1の形状とすることもできる。
上記電解質膜1において、基底部2の厚みは10μm以下である。この場合、基底部2の厚みを相対的に薄く設定することで、電解質膜における酸素イオンの移動に対する損失を低減できる。
この発明に従った電解質膜1の製造方法は、基底部2と、基底部2上に形成され、基底部2の表面に対して傾斜した柱状体としての柱状結晶4を有する凸構造部3とを備える電解質膜1の製造方法であって、基底部2を形成する工程(S20)と、凸構造部を形成する工程(S40)とを備える(図5参照)。凸構造部を形成する工程(S40)では、基底部2上に、基底部2の表面5に対して傾斜した柱状体としての柱状結晶4を有する凸構造部3を形成する。また、凸構造部を形成する工程(S40)は、ターゲット材31の表面35に対して基底部2の表面(つまり基底部2が形成された基板32の表面34)を傾斜して配置した状態で、ターゲット材31の表面35から凸構造部3を構成する材料を飛散させ、飛散した当該材料を基板32上に形成された基底部2の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して凸構造部3を形成する、図7に示したような工程を含む。この場合、いわゆるISD法を用いることにより、電解質膜を構成する膜をあとからエッチング加工するといった手法を用いることなく、本発明による電解質膜1を容易に得ることができる。
上記電解質膜1の製造方法において、基底部を形成する工程(S20)は、ターゲット材31の表面35に対して基底部2が形成されるべき基板32の表面を平行に配置した状態で、ターゲット材31の表面35から基底部2を構成する材料を飛散させ、飛散した材料を基板32の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して基底部2を形成する工程を含んでいる。この場合、基底部2を形成する工程(S20)と凸構造部3を形成する工程(S40)とを、ターゲット材31の表面35に対する基板32の表面34の角度を変えるだけで、連続的に行なうことができる。この結果、基底部2と凸構造部3との界面に不純物などが侵入する可能性を低減できる。したがって、高品質な電解質膜1を得ることができる。
上記電解質膜の製造方法では、基底部2を形成する工程(S20)および凸構造部3を形成する工程(S40)において利用される物理蒸着法は、ターゲット材31の表面35にレーザ光30を照射することによりターゲット材31表面から材料を飛散させるものであってもよい。また、上記電解質膜の製造方法では、凸構造部3を形成する工程(S40)で利用される物理蒸着法においてターゲット材31の表面35に照射されるレーザ光30の周波数は、基底部2を形成する工程(S20)で利用される物理蒸着法においてターゲット材31の表面35に照射されるレーザ光30の周波数より高いことが好ましい。
ここで、レーザ光を利用した物理蒸着法において形成される膜の密度は、レーザ光の周波数が高いほど低くなる。このため、基底部2を構成する材料の密度は、凸構造部3を構成する材料の密度より高くなる(凸構造部3を構成する材料の密度は、基底部を構成する材料の密度より低くなる)。したがって、基底部2を高密度化することで、酸素ガスや水素ガスなどの透過を抑制する層としての機能を基底部2に持たせることができる。また、レーザ光30の周波数を変更することで、基底部2および凸構造部3を構成する材料のそれぞれの密度をある程度変更できるので、電解質膜1の設計の自由度を向上させることができる。
上述した電解質膜1を構成する材料としては、酸素イオンを透過させることが可能な材料であれば任意の材料を用いることができる。たとえば、酸素イオンを透過する材料である酸化物イオン導電体を用いることができる。電解質膜1を構成する材料として用いることができる酸化物イオン導電体には、たとえば蛍石型構造の化合物、具体的には酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)および酸化トリウム(ThO2)ベースの化合物などが挙げられる。このような化合物の例として、たとえば、CeO2ベースの化合物としては、(CeO21-X(MOYX(M=Ca、Sr、Sm、Gd、Y、La、Sc)といった化学式で示されるのものが挙げられる。また、ZrO2ベースの化合物としては、上述した安定化ジルコニア(YSZ)、さらにSc23で安定化したジルコニア(ScSZ)などが挙げられる。
また、上述した蛍石型構造の化合物のより具体的な例としては、たとえば(CeO20.8(GdO1.50.2、(ZrO20.9(ScO1.50.1、(ZrO20.9(YO1.50.1、(ZrO20.87(CaO)0.13、(ThO20.93(YO1.50.07、(HfO20.88(CaO)0.12などを挙げることができる。
また、電解質膜1を構成する材料として、欠陥蛍石型構造の化合物を用いることもできる。このような欠陥蛍石型構造の化合物の例としては、C希土型構造ベースの化合物、パイロクロア型構造ベースの化合物、Bi23ベースの化合物などが挙げられる。また、C希土型構造ベースの化合物の一例としては、La23−MO(M=Mg、Cu、Sr、Ba)という化学式で示される化合物(La23−MO系化合物)を挙げることができる。
このような欠陥蛍石型構造の化合物のより具体的な例として、たとえば(Bi230.75(Y230.25、(Bi230.75(WO30.25、(La230.95(SrO)0.05、Zr2Gd27およびZr2Sm27などを挙げることができる。また、パイロクロア型構造ベースの化合物の具体的な他の例としては、(Gd2-xCax)Zr27-x/2、Gd2(Zr2-xScx)O7-x/2という化学式で示される化合物が挙げられる。
また、電解質膜1を構成する材料としては、ペロブスカイト型構造の化合物も用いることができる。このペロブスカイト型構造の化合物としては、たとえばLaGaO3ベースの化合物、CaTiO3ベースの化合物、LaAlO3ベースの化合物が挙げられる。
LaGaO3系の化合物の具体例としては、たとえば、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.2)O2.8、((La0.9Nd0.10.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.2)O2.8などが挙げられる。また、CaTiO3ベースの化合物の例としては、たとえばCa(Ti0.7Al0.3)O2.85が挙げられる。また、LaAlO3ベースの化合物の例としては、たとえば(La0.7Ca0.3)AlO2.85が挙げられる。
また、電解質膜1を構成する材料としては、層状ペロブスカイト型構造の化合物も用いることができる。この層状ペロブスカイト型構造の化合物の結晶構造としては、Brownmillerrite型構造、Grenier型構造などが挙げられる。Brownmillerrite型構造の化合物としては、たとえばBa2In25、Ba2(In1.75Ce0.25)O5.125といった化合物が挙げられる。また、Grenier型構造の化合物としては、たとえばBa3(In2IV)O8(MIV=Hf、Zr、Ce)という化学式で表わされる化合物が挙げられる。さらに、上述した層状ペロブスカイト型構造の化合物のより具体的に的な例として、たとえばBa3(In2Zr)O8、Ba3(In2Ce)O8、Ba3(In2Hf)O3が挙げられる。
また、電解質膜1を構成する材料として、他にもAurivillius相の化合物を用いることができる。Aurivillius相の化合物としては、たとえばBi425系化合物、BIMEVOXと称されるBi4(V2-xx)O11(代表的には、Bi4(V1.90.1)O11-d(M=Co、Ni、CuおよびZn)という化学式で表わされる化合物などが挙げられる。
また、電解質膜1を構成する材料として、intergrowth化合物を用いることもできる。このintergrowth化合物としては、たとえばBa8In617、BaBi4(Ti3M)O14.5(M=Ga、Sc、In)、Bi2Sr2(Nb2M)O11.5(M=Al、Ga)という化学式で示される化合物が挙げられる。
さらに、電解質膜1を構成する他の材料として、(La1-XSrX)MIII3−d(MIII=Al、Ga、Sc、In、Lu)化合物を用いることもできる。
また、上述した電解質膜1は、酸素イオンを透過するものであったが、燃料電池の構造によっては、図2(b)に示すように、水素イオンを透過する材料を電解質膜1として用いる場合も考えられる。図2(b)を参照して、燃料電池10は、基本的には図2(a)に示した燃料電池10と同様の構造を備えるが、電解質膜1のおよび燃料極12と空気極11との配置が異なる。図2(b)に示した燃料電池10では、電解質膜1として水素イオンを透過する材料(水素イオン透過材料)を用いる。この場合、水素イオンを透過する電解質膜1を構成する材料としては、たとえばBa(Ce1-XX)O3-a、Ba(Ce1-XNdX)O3-a、Sr(Ce1-XYbX)O3-a、Sr(Zr1-XX)O3-a、Ca(Zr1-XInX)O3-aなどが挙げられる。水素イオン透過材料を用いる場合は、H+とO2とが反応する酸素極側が活性界面となり、前述の凸部は酸素極側に形成する。つまり、電解質膜1の凸構造部3表面に空気極11(酸素極)が形成され、電解質膜1の基底部2側に燃料極12が形成されている。そして、所定の運転温度において、燃料極12側に水素が供給され、空気極11側に酸素が供給される。燃料極12での所定の反応により水素から形成された水素イオンH+は、電解質膜1中を燃料極12側から空気極11側へ移動する。空気極11では、酸素O2と水素イオンH+とから水が形成される反応が起きる。この結果、空気極11と燃料極12とを導電線14より負荷13を介して接続すれば、図2(b)に示すようにこの導電線14に電流が流れる(電子が流れる)。
なお、上述した電解質膜1では、基底部2および凸構造部3について同じ材質により構成したが、基底部2と凸構造部3とを異なる材料により構成してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明による電解質膜を示す断面模式図である。 図1に示した電解質膜を用いた燃料電池の概念図である。 本発明による電解質膜における凸構造部が形成された面の平面模式図である。 図3に示した線分IV−IVにおける断面模式図である。 図1に示した電解質膜1の製造方法を示すフローチャートである。 図5に示した基底部を形成する工程を説明するための模式図である。 図5に示した凸構造部を形成する工程を説明するための模式図である。
符号の説明
1 電解質膜、2 基底部、3 凸構造部、4 柱状結晶、5,34,35 表面、6 中心軸、7 側面、10 燃料電池、11 空気極、12 燃料極、13 負荷、14 導電線、20 単位面積領域、30 レーザ光、31 ターゲット材、32 基板、33 プラズマ。

Claims (10)

  1. 燃料電池に用いる電解質膜であって、
    基底部と、
    前記基底部上に形成され、前記基底部の表面に対して傾斜した柱状体を有する凸構造部とを備える電解質膜。
  2. 前記電解質膜が用いられる温度条件において酸素ガスおよび水素ガスが前記基底部を透過しないように、前記基底部の密度は決定されている、請求項1に記載の電解質膜。
  3. 前記基底部の密度は、前記凸構造部の密度より高くなっている、請求項1または2に記載の電解質膜。
  4. 前記凸構造部は、ターゲット材表面に対して前記基底部の表面を傾斜して配置した状態で、前記ターゲット材表面から前記凸構造部を構成する材料を飛散させ、飛散した前記材料を前記基底部の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解質膜。
  5. 前記凸構造部は前記柱状体を複数有し、
    前記電解質膜が用いられる温度条件において、前記凸構造部の前記柱状体の直径をd、前記複数の柱状体の間の間隔をL、前記基底部の表面から前記柱状体の上部表面までの沿面距離をhとした場合であって、前記電解質膜の表面が平坦である場合の表面積に比べて前記電解質膜の前記凸構造部が形成された面の表面積をn倍以上にする場合、
    1+π×d×h/(d+L)2 ≧ n
    という式を満足するように、前記柱状体の前記直径d、前記間隔L、前記沿面距離hが決定されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解質膜。
  6. 前記nが3である、請求項5に記載の電解質膜。
  7. 前記基底部の厚みは10μm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解質膜。
  8. 基底部と、前記基底部上に形成され、前記基底部の表面に対して傾斜した柱状体を有する凸構造部とを備える電解質膜の製造方法であって、
    基底部を形成する工程と、
    前記基底部上に、前記基底部の表面に対して傾斜した柱状体を有する凸構造部を形成する工程とを備え、
    前記凸構造部を形成する工程は、ターゲット材表面に対して前記基底部の表面を傾斜して配置した状態で、前記ターゲット材表面から前記凸構造部を構成する材料を飛散させ、飛散した前記材料を前記基底部の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して前記凸構造部を形成する工程を含む、電解質膜の製造方法。
  9. 前記基底部を形成する工程は、前記ターゲット材表面に対して前記基底部が形成されるべき基板の表面を平行に配置した状態で、前記ターゲット材表面から前記基底部を構成する材料を飛散させ、飛散した前記材料を前記基板の表面上に蒸着させる物理蒸着法を利用して前記基底部を形成する工程を含む、請求項8に記載の電解質膜の製造方法。
  10. 前記基底部を形成する工程および前記凸構造部を形成する工程において利用される物理蒸着法は、前記ターゲット材表面にレーザ光を照射することにより前記ターゲット材表面から前記材料を飛散させるものであり、
    前記凸構造部を形成する工程で利用される物理蒸着法において前記ターゲット材表面に照射されるレーザ光の周波数は、前記基底部を形成する工程で利用される物理蒸着法において前記ターゲット材表面に照射されるレーザ光の周波数より高い、請求項9に記載の電解質膜の製造方法。
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