本発明における第一の発明である、ポリエステルフィルム被覆金属板について述べる。 まず,本発明で適用されるポリエステルフィルム(F)について述べる。本発明では、少なくとも缶の内面側に相当する金属板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)は、ポリエステルフィルム層(A層)とポリエステルフィルム層(B層)とからなる二層構成のフィルムで、共に結晶性のポリエステル樹脂を基本樹脂とし、ポリエステルフィルム層(B層)が金属板と相接して被覆されている。
本発明では、ポリエステルフィルム層(A層)は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、等価球換算径が2000nm以下のゴム弾性樹脂(R)の微粒子を0.1〜10質量部と極性基を有するビニル重合体(V)をポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.01〜3質量部を含有し、ポリエステルフィルム層(B層)はポリエステル樹脂(B)100質量部に対し、等価球換算径として2000nm以下のゴム弾性樹脂(R)の微粒子を5〜40質量部と極性基を有するビニル重合体(V)をポリエステル樹脂(B)100質量部に対して1〜10質量部含有する。
ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の各フィルム層は、成形性や耐デント性に対しお互いに作用をしあうが、基本的には本発明の目的達成に対し役割分担を有しており、ポリエステルフィルム層(A層)は主に高速・高加工度での製缶性の確保を担い、ゴム弾性樹脂(R)を含有するポリエステルフィルム層(B層)は、主に耐デント性の確保を担っている。フィルムの耐デント性を大幅に向上させるためには、打撃や衝撃のエネルギーを吸収できることが必須要件で、ゴム弾性樹脂(R)を基本樹脂であるポリエステル樹脂に含有させ、打撃や衝撃のエネルギーを吸収する作用を付与させたものである。こうしたゴム弾性を有する樹脂の内、特にガラス転移温度(Tg)が10℃以下の樹脂が最適である。
この理由は、例えば、炭酸飲料やビール等では、当然低温で保存されるため、そうした低温下でも打撃や衝撃のエネルギーを吸収する作用を有する必要があるからである。
かかる意味において、ガラス転移温度(Tg)が10℃以下の樹脂が、更に好適にはガラス転移温度(Tg)が4℃以下の樹脂が耐デント性を確保するためには良い。
ゴム弾性樹脂(R)として好適な樹脂は、ポリエチレン及びエチレン−ブテン共重合体で、これらの樹脂の1種或いは2種を適用することが挙げられる。
ポリエチレンを適用する場合は、密度が0.90〜0.96g/cm3 の範囲にあるポリエチレン樹脂の微粒子が、特に最適である。
この理由は、密度が0.90g/cm3 未満の場合は、ポリエステル樹脂に含有させる量にもよるが、フィルム層全体が軟質化するため、カップ成形時のラミネート金属板の剪断で切れが悪くなり、フィルムへアーと呼ばれる剪断端部にフィルム残りが起こる場合がある。このフィルム残りがカップ成形時に離脱して、カップや金型に付着したりすると、缶体の品質不良や成形不良の原因となり、重大な問題を引き起こす危険があるため、好ましくない。
また、密度が0.96g/cm3 を超えると硬質化してくるため、前述したフィルムへアー問題はないが、衝撃エネルギーを吸収する能力が以下し、本発明の目的である耐デント性向上効果が小さくなり、好ましくない。
ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等のゴム弾性樹脂は、ポリエステル樹脂に対しては非相溶性樹脂であるため、ポリエステル樹脂中に分散系として存在している。
更に、本発明では、ポリエステル樹脂中に分散系として存在するポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂は、基本形状としては球状で、等価球換算径として2000nm以下の微粒子である。本発明においてポリエステル樹脂中に分散系として存在するポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂の大きさは、衝撃エネルギーを吸収する能力を確保する上で、含有量との関係を含め重要となる。
理想的な姿としては、分散させる樹脂の等価球換算径が小さい極微細な充填状態が可能となるため、少ない含有量で衝撃エネルギーを吸収する能力を発揮させることが可能となる。
逆に、分散させるゴム弾性樹脂の径が大きいと、疎な充填状態となるため衝撃エネルギー吸収能が低下し、含有量を多くしないと衝撃エネルギーを吸収する能力が確保出来なくなる。その結果前述した耐熱性が低下し、高速・高加工の絞り・しごき加工でパンチの離型性(パンチが缶体からの抜け易さを示す特性でストリップアウト性とも呼ばれている)が劣ってくるため、缶胴上部に挫屈が起こったり、激しい場合は缶体がパンチから抜けない、と言ったことが起こり正常な缶体が得られない、と言った現象が現れ易くなる。
従って、ポリエステル樹脂中に存在するポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂は、等価球換算径として小さいほど好ましいが、安定して製造可能な観点からと、前述した含有量の観点からは200nmまでが現実的なサイズ径であるため、下限値は200nmとする。一方、上限値である2000nmを超えると、前述したように耐デント性確保の点から含有量を多くする必要があり、好ましくない。更に安定的に製造できる点と耐デント性の確保の両面からは、等価球換算径の下限値は250nm以上であり、また、耐デントと高速・高加工の絞り・しごき加工性の両方を確保できる面からは、上限値は少なくとも1800nm以下、より良い等価球換算径として1500nm以下が好ましい。
前述したように、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂は、ポリエステル樹脂に対しては非相溶性の樹脂であるため、本発明のようにいかに等価球換算径の小さい微粒子として分散させたとしても、ポリエステル樹脂とポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂との境界はお互いの化学結合はないため、接しているだけである。
従って、加工度の大きい加工を行うと、樹脂同士の境界で界面剥離となり、フィルム内で内部欠陥を作る原因となる。
こうした内部欠陥がある部位では水、イオン、ガスと言った物質の透過がし易くなり、バリアー効果は低下する。従って、内容物が充填された缶体としては、金属腐食が起こり易くなるため、缶寿命の低下に繋がり好ましくない。
又、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂は、金属との自己接着能を有していない樹脂であるから、金属板との密着性低下の原因となる。
本発明では、上記の問題を回避すること、更には、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂の等価球換算径サイズを一定の範囲内に安定的に確保することを目的として、極性基を有するビニル重合体(V)を同時に含有させる。
極性基を有するビニル重合体(V)は、ポリエステル樹脂とポリエチレやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂との相溶化剤として作用するもので、界面張力の差を利用してポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体樹脂にカプセル構造を形成させる。
従って、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂がコア部、ビニル重合体((V)がシェル部として形成されるため、ポリエステル樹脂内で前述した分散構造を容易にとることが可能となる。
更に、シェル部となるビニル重合体(V)は極性基を有しているため、ポリエステル樹脂の末端の水酸残基やカルボキシル残基と化学結合して一体化するため樹脂間の界面密着性が向上し、高加工度の加工を行なってもフィルム内の内部欠陥を作り難い。更に、金属板との密着性も向上させる、と言った効果も併せ持つ。
極性基を有するビニル重合体(V)としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、エチレン・メチレンアクリレート−グリシジルメタクリレート共重合物等のアクリル系樹脂が適用でき、これらのアクリル系樹脂の1種もしくは2種以上でも適用可能である。
含有量について言えば、本発明では、ポリエステルフィルム層(A層)は、混合ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、等価球換算径が2000nm以下のゴム弾性樹脂(R)の微粒子を0.1〜10質量部と極性基を有するビニル重合体(V)をポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.01〜3質量部を含有させる。前述したように、ポリエステルフィルム層(A層)は、主に高速・高加工度の絞り・しごき加工に対応する製缶性を担っているが、耐デント性に対しても影響を及ぼしている。
従って、ポリエステルフィルム層(A層)にもゴム弾性樹脂(R)を含有させることにより、ポリエステルフィルム(F)の耐デント性は向上し、腐食性の強い、例えば、コーラ、スポーツ飲料等の内容物にも、より安心しての使用が可能となる。
しかし、前述したように、ゴム弾性樹脂(R)を含有させることにより、絞り・しごき加工でパンチの離型性が劣ってくる、と言った現象があり、特に、成形加工が高速化・高加工度化になるほど、パンチの離型性の低下が顕著に現れてくる。
しかし、後述するポリエステルフィルム層(A層)に適用するポリエステル樹脂(A)の特性とポリエステルフィルム層(A層)に含有させる滑剤の両方の効果で、ポリエステルフィルム層(A層)にゴム弾性樹脂(R)を含有させても良好なパンチの離型性が確保される。ただし、ポリエステルフィルム層(A層)の耐デント性向上は、ポリエステルフィルム(F)全体の耐デント性向上の補完的意味であって、ポリエステルフィルム(F)の耐デント性はポリエステルフィルム層(B層)が担っていることには変わりない。
そこで、本発明ではポリエステルフィルム層(A層)には、ゴム弾性樹脂(R)の含有量は0.1〜10質量部の範囲とする。
上限値である10質量部を超えると、前述したポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂(R)の含有量との関係もあるが、耐デント性は良好となる。しかし、フィルム自身が軟化してくるためパンチに粘着したり、食い込み易くなったりして、パンチの離型性の低下が起こり、例えば、40缶/分程度の加工速度で板厚減少率で25%、局部的には50%程度の絞り・しごき加工条件でも、パンチの離型性が劣り缶体の開口部に挫屈が起こり正規な缶高さの缶体が得られない場合があり、好ましくない。
一方、0.1質量部未満では、分散して存在しているゴム弾性樹脂(R)の等価球換算径影響も若干あるが、ポリエステルフィルム層(A層)の衝撃エネルギーの吸収する能力はほとんど見られず、ポリエステルフィルム層(A層)にマイクロクラックが発生し、高腐食性の内容物を充填した場合、耐食性が確保できない場合があるなど、耐デント性の向上効果は見られない。
ポリエステルフィルム層(A層)に含有させるゴム弾性樹脂(R)の量としては0.1〜10質量部であるが、特に、60缶/分以上の加工速度で板厚減少率が50%以上の高速・高加工度の絞り・しごき加工を行い、しかも高腐食性の内容物を充填する場合は、1〜7質量部の範囲が、特に好ましい。極性基を有するビニル重合体(V)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.01〜3質量部である。
極性基を有するビニル重合体(V)は、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂の分散性確保と変性として作用させるものであるから、極性基を有するビニル重合体(V)の含有量は、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体樹脂の含有量に対応して適宜選定する必要があることは言うまでもないがビニル重合体(V)とポリエチレンやエチレンン−ブテン共重合体樹脂の質量部比で0.1〜0.3程度が好ましい範囲である。
従って、3質量部を超えても、シェル部の形成に対し過剰となり効果が飽和してくるため、経済的でない。ポリエステルフィルム層(B層)は混合ポリエステル樹脂(B)100質量部に対し、等価球換算径として2000nm以下のゴム弾性樹脂(R)の微粒子を5〜40質量部と極性基を有するビニル重合体(V)をポリエステル樹脂(B)100質量部に対して1〜10質量部含有する。
前述したように、ポリエステルフィルム層(B層)は主に耐デント性の向上を担っている。含有量が5質量部未満では、ポリエステルフィルム層(A層)に含有しているゴム弾性樹脂(R)が少ない場合は、衝撃エネルギーを吸収する能力が十分でなく、ポリエステルフィルム(F)として耐デント性が確保出来ない場合があり、好ましくない。
一方、含有量が40質量部を超えると、ポリエステルフィルム(F)としての耐デント性は十分確保出来るが、例えば、ポリエステルフィルム層(A層)にゴム弾性樹脂(R)が含有されていない場合でも、ポリエステルフィルム層(B層)に含有されているポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体の特性が発現してくるため、耐熱性が低下し、高速・高加工の絞り・しごき加工でパンチの離型性が劣り正常な缶体が得られない、と言った現象が現れるため、好ましくない。
極性基を有するビニル重合体(V)の含有量は、ポリエステル樹脂(B)100質量部に対して1〜10質量部の範囲である。ポリエステルフィルム層(B層)は、金属板と接するフィルムであるため、金属板との密着性も併せて確保する必要がある。1質量部未満では、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等の樹脂にシェル部を形成させるには不十分な量で、前述したように加工度の大きい加工を行うとフィルム内の内部欠陥を作る危険性や金属板との密着性が不十分な危険性が高くなるため、好ましくない。
一方、10質量部を超えても、シェル部を形成に対し過剰となり効果が飽和してくるため、経済的でない。又、前述したように、極性基を有するビニル重合体(V)は、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体等のゴム弾性樹脂のポリエステル樹脂への分散性確保と反応性確保を併せ持つものであるから、極性基を有するビニル重合体(V)の含有量は、ポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体樹脂の含有量に対応して適宜選定する必要があることは言うまでもないが、ビニル重合体(V)とポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体樹脂の質量部比で0.1〜0.3程度が好ましい範囲である。
次に、本発明に適用されるポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)について述べる。
ポリエステルフィルム層(A層)として適用されるポリエステル樹脂(A)は、融点(A−Tm)が235℃以上、極限粘度(A−IV)が0.60以上、結晶融解熱(A−Hm)及び/または冷結晶化熱(A−Hc)が25〜50J/g、ガラス転移温度(A−Tg)が65℃以上のポリエステル樹脂に、滑剤、熱安定化剤及び/または酸化防止剤を含むポリエステル樹脂(A)からなる。
前述したように、ポリエステルフィルム層(A層)は主に高速・高加工度製缶性を担うものである。従って、ポリエステルフィルム層(A層)は、パンチと直接接するフィルムであることから、耐熱性は最も重要な要件であり、融点(A−Tm)は235℃以上とする。融点(A−Tm)が235℃以上であれば、ポリエステルフィルム層(A層)のゴム弾性樹脂が10質量部含有されていても高速・高加工度のしごき加工で、パンチの離型性が劣り缶体の上部で挫屈する、と言った現象やパンチが成形された缶体から抜けない、といった現象は回避され良好な製缶性が確保される。
ポリエステル樹脂(A)の融点(A−Tm)の上限値は特に限定するものではないが、パンチの離型性の観点からは260℃を超えても更なる効果は見られず、又、ポリエステル樹脂は一般的に融点が高い樹脂は強結晶性の樹脂となる傾向にあることから、260℃以下が好ましい。本発明では、ポリエステルフィルム層(A層)に適用されるポリエステル樹脂の極限粘度(A−IV)は0.60以上である。ポリエステルフィルム層(A層)は、前述したようにパンチと直接接するフィルムであるから、しごき加工の際にかかる面圧に耐える必要がある。
又、極限粘度(IV)が高いポリエステル樹脂は機械的強度も高いこと、更には、熱による結晶化が起こり難い、といった特性を有していることから、しごき加工の際の発熱で結晶化による伸び特性の低下が緩和される方向にある。そこで、本発明では上記の理由からポリエステルフィルム層(A層)に適用するポリエステル樹脂の極限粘度(A−IV)は0.60以上とする。ポリエステル樹脂の極限粘度(A−IV)が0.60dl/g未満では、打撃・衝撃の大きさにもよるが耐デント性が若干劣り、ポリエステルフィルム層(A層)に微細なクラックが入る場合があり、好ましくない。
前述したように、フィルムの機械的強度は極限粘度(IV)が高い程高く、衝撃破壊強度も同様な傾向にあることから、コーラ、スポーツ飲料のような高腐食性の内容物に対しては、極限粘度(IV)は高めのポリエステル樹脂を適用するのが好ましく、かかる意味からは、ポリエステル樹脂フィルム層(A)に使用するポリエステル樹脂の極限粘度(A−IV)も高い方がより安全である。 しかし、極限粘度(IV)の高いポリエステル樹脂から製膜することは、溶融粘度が高くなるためTダイで層状に押し出すための押し出し機のパワーがより大きいものが必要とすることから生産コストが上がる、と言ったことや、更には押し出し機内で発生する摩擦熱によって、溶融温度が上昇するため樹脂の熱分解が起こり易くなるため、分子量低下に繋がり易い、と言った状況が起こり、結局は思ったほど高い極限粘度(IV)のポリエステル樹脂フィルムが得られない、と言った場合がある。
本発明では、極限粘度(A−IV)の上限値は特に限定するものではないが、前述した生産性との兼ね合いからは、2.00dl/g以下が好ましい。従って、好ましい極限粘度の範囲は0.65〜2.00dl/g、更に好ましくは0.70〜2.00dl/gが良い。本発明では、ポリエステルフィルム層(A層)に適用されるポリエステル樹脂の結晶融解熱(A−Hm)及び冷結晶化熱(A−Hc)は、一方、若しくは、両方の特性値として25〜50J/gの範囲とする。
結晶融解熱(Hm)及び冷結晶化熱(Hc)は、共に樹脂の結晶性を熱量で示したもので、冷結晶化熱(Hc)は単位質量当たりの樹脂が熱で結晶化する量を熱量で示したもので結晶融解熱(Hm)は単位質量当たりの樹脂が熱で結晶化したものが融解する量を熱量で示したものである。従って、冷結晶化熱(Hc)が大きいことは結晶化する量が多いことを示し、結晶融解熱(Hm)が大きいことは結晶化した量が多いことを示している。
前述したように、高速・高加工度のしごき加工では、ポリエステル樹脂は結晶化と延伸化が起こり、場合によってはフィルムが缶高さ方向に対し円周状にクラックが発生する、と言った現象が起こり易くなるため、結晶融解熱(Hm)及び冷結晶化熱(Hc)の大きな樹脂を適用することは好ましくない。しかし、本発明では、ポリエステルフィルム層(B層)の存在により、上記のよな円周状のクラックの発生は回避されることから、ポリエステルフィルム層(A層)は主にパンチの離型性に対する特性を保持させたものである。とは言え、ポリエステルフィルム層(A層)にクラックが激しく発生した場合、そのクラックがポリエステル樹脂フィルム層(B)に伝播しポリエステルフィルム層(B層)にまでクラックを発生させる、と言ったことは当然好ましくない。
そこで、本発明では、ポリエステルフィルム層(A)に適用されるポリエステル樹脂の結晶融解熱(A−Hm)及び冷結晶化熱(A−Hc)は、一方若しくは両方の特性値として25〜50J/gの範囲とする。25J/g未満の場合、パンチの離型性が劣るため、前述した缶体の上部で挫屈する、と言った現象や、激しい場合は全くパンチが抜けない、と言った現象が起こる場合があり好ましくない。
特に、しごき加工が60缶/分以上の高速の場合や加工度が50%以上の高加工度の場合、こうした現象が顕著に現れてくる危険性が高い。従って、25J/g未満でも、しごき加工が低速で且つ低加工度の場合は問題なく成形ができる場合がある、ことは言うまでもない。一方、50J/gを超えると、パンチの離型性は良好であるが、フィルムに微細なクラックが発生し易く、ポリエステルフィルム層(B層)のフィルムの健全性にまで影響を及ぼす場合があり、好ましくない。
ガラス転移温度(A−Tg)は65℃以上である。ガラス転移温度(Tg)もパンチの離型性にかかわってくる要件である。ガラス転移温度(A−Tg)が65℃未満では、しごき加工時に起こる発熱でフィルムが軟化し、パンチに粘着したり、また、局部的に高い面圧が掛かることからパンチがフィルムに食い込んだりする場合があり、その結果パンチの離型性が劣り、前述した缶体の上部で挫屈する、と言った現象やパンチが成形された缶体から抜けない、と言った現象が起こる場合があり、好ましくない。
ガラス転移温度(A−Tg)の上限値は特に限定するものではないが、一般的には前述した低温下における衝撃エネルギーを吸収する能力はガラス転移温度が低い方が高いため、本発明のようにポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)にゴム弾性性樹脂を含有させていても、耐デント性の点からは110℃以下が好ましい。 本発明では、ポリエステルフィルム層(A層)には、平均粒子径サイズが0.4〜2μmの滑剤を0.5〜1.0質量%含有させる。滑剤はパンチの離型性向上の補助剤として重要な役割を担うが、小さすぎても好ましくない。
即ち、絞り・しごき加工において、特にしごき加工では、パンチ表面とダイスの作用点で、極めて高い面圧が掛かる。こうした面圧は、内面側フィルム側ではポリエステルフィルム層(A層)が直接支える役割を担うことになる。
滑剤のサイズが0.4μm未満の場合、この面圧を支えることが出来ず、直接ポリエステルフィルム層(A層)に掛かることになり、パンチに食い込む割合が増加し、パンチの離型性低下の原因となるため好ましくない。
一方、滑剤のサイズが2μmを超えると、この面圧を支えることに対しては十分な効果を発揮するが、パンチが抜ける時に滑剤によってフィルム面を傷つける、と言った現象が起こる場合があり、内面フィルムの健全性を損ねることとなり、好ましくない。
含有量についても同様で、0.5質量%未満では面圧を支えるだけの量が足りなく、パンチの離型性低下の原因となるため好ましくない。又、1.0質量%を超えると量が多いためパンチが抜ける時に内面フィルムを傷つける機会が高まり、かえって健全性は確保出来なくなるため、好ましくない。ポリエステルフィルム層(A層)に含有させる滑剤は、粒子径サイズとして0.5〜1.5μmの微粒子を0.5〜1.0質量%の範囲で含有させることが最適である。
滑剤として、例えば酸化珪素、酸化アルミ等が代表例としてあるが、滑剤としての硬さ、粒子サイズの均一性から酸化珪素が最適であるが、これらの併用も可能である。
ポリエステルフィルム層(B層)として適用されるポリエステル樹脂(B)は、融点(B−Tm)が235℃以上、極限粘度(B−IV)が0.60以上、結晶融解熱(B−Hm)及び/または冷結晶化熱(B−Hc)が25〜50J/g、ガラス転移温度(B−Tg)が45℃以上のポリエステル樹脂に、滑剤、熱安定化剤及び/または酸化防止剤を含むものである。ポリエステルフィルム層(B層)に適用するポリエステル樹脂の融点(B−Tm)は220℃以上である。
前述したように、本発明のポリエステルフィルム被覆金属板では、高速・高加工度の製缶性確保を担っているのは主にポリエステルフィルム層(A層)であるがポリエステルフィルム層(B層)は全く関与しない訳ではなく、ポリエステルフィルム層(B層)に使用するポリエステル樹脂の融点(B−Tm)が220℃未満の場合、高速・高加工度の成形加工の場合、絞り加工のみの場合は成形性に問題はないが、特にしごき加工でパンチの離型性が劣り、パンチが成形された缶体から抜け難くなるため、缶体の上部で挫屈する、と言った現象や、激しい場合は全くパンチが抜けない、と言った現象が起こる場合がある。
こうした現象は、主に加工熱とその熱の金型への蓄熱が影響していることから、金型への蓄熱を抑え、フィルムへの影響を小さくする方法として、金型を冷却する方法が提案されているが、高速化になるほど冷却速度の方がなかなか追いつかなくなり、自ずと限界があり、かかる意味からもポリエステルフィルム層(B層)の融点(B−Tm)は重要で、本発明ではポリエステルフィルム層(B層)の融点(B−Tm)は、220℃以上とする。ポリエステルフィルム層(B層)の融点(B−Tm)が220℃以上であれば、後述する加工速度及び加工度の範囲であれば問題はなく、パンチの離型性が問題となることはなく連続成形が可能となる。
本発明では、ポリエステルフィルム層(B層)の融点(B−Tm)の上限値は特に限定していないが、その上層であるポリエステルフィルム層(A層)の融点(A−Tm)より高い融点を有するポリエステル樹脂では、金属板に被覆する際のラミネート性から好ましくなく、従って260℃以下が好ましい。更に言えば、ポリエステルフィルム層(A層)の融点(A−Tm)−30℃以内、好ましくはポリエステルフィルム層(A層)の融点(A−Tm)−25℃以内の融点が、ラミネート適性、更には後述するフィルムの密度を1.360g/cm3 以下にする際の加熱処理で、ポリエステルフィルム層(A)のフィルム収縮が抑制されるため、好ましい。
ポリエステルフィルム層(B層)の結晶融解熱(B−Hm)及び/または冷結晶化熱(B−Hc)は、20〜45J/gの範囲である。通常、絞り・しごき加工の場合、所望する缶サイズ、例えば350mlのビール缶サイズを得るためには、缶胴部の金属板の破断防止から2回若しくは3回のしごき加工、即ち多段しごき加工を行っているのが一般的である。
前述したように、高速・高加工度のしごき加工では、ポリエステル樹脂は加工時の発熱により結晶化と缶高さ方向へ伸ばされることにより延伸化が同時に起こる。この結果、ポリエステル樹脂フィルムの伸び特性は成形以前に比べ、低下することになり、ポリエステル樹脂によっては成形に追随出来ず、フィルムが缶高さ方向に対し円周状にクラックが発生する、と言った現象がおこり、激しい場合は金属板の破断に繋がる場合がある。
金属板の破断が起こった場合、残骸を取り除く必要があることから、ライン停止となり著しく生産性を低下させる結果となる。また、フィルムが破断しても、缶体としては被膜フィルムの健全性が確保出来ないことから、実用性を有する缶にはならず、不良缶となり好ましくない結果となる。こうした現象は、ポリエステル樹脂の結晶性に起因するものであるから、前述した結晶融解熱(Hm)及び冷結晶化熱(Hc)の大きな樹脂を適用することは好ましくない。
しかし、結晶性のポリエステル樹脂で結晶融解熱(Hm)及び冷結晶化熱(Hc)の小さな樹脂は、概して軟質であるため、ポリエステルフィルム層(A層)が存在しているとは言え、前述したパンチの離型性の点で劣る、と言った問題が発生する。
そこで、本発明では、ポリエステルフィルム層(B層)に適用されるポリエステル樹脂の結晶融解熱(B−Hm)及び冷結晶化熱(B−Hc)は、一方若しくは両方の特性値として20〜45J/gの範囲とする。
20J/g未満の場合、パンチ離型性が劣るため、前述した缶体の上部で挫屈する、と言った現象や、激しい場合は全くパンチが抜けない、と言った現象が起こる場合があり好ましくない。特に、しごき加工が60缶/分以上の高速の場合や加工度が50%以上の高加工度の場合、こうした現象が顕著に現れてくる危険性が高い。従って、20J/g未満でも、しごき加工が低速で且つ低加工度の場合は問題なく成形ができる場合がある、ことは言うまでもない。
一方、45J/gを超えると、パンチの離型性は良好であるが、フィルムに微細なクラックが発生し易く、フィルムの健全性を確保することが難しくなる場合があり、好ましくない。本発明では、ポリエステルフィルム層(B層)に適用されるポリエステル樹脂のガラス転移温度(B−Tg)は45℃以上である。ポリエステル樹脂フィルム層(B層)は、前述したように、主に耐デント性の向上を担うフィルム層であるから、基本的には軟質の樹脂の方が良いことは言うまでもない。
しかし、いかにポリエステルフィルム層(A層)が存在しているとは言え、ポリエステルフィルム層(B層)が軟質過ぎると、特にしごき加工時のパンチ離型性が劣り、高速・高加工度の場合に正常な缶体が得られなかったり、缶がパンチから抜けなかったりすることが、しばしば発生する場合がある。こうした現象は、勿論、前述したポリエステルフィルム層(A層)の樹脂のガラス転移温度(A−Tg)の影響や、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の結晶性の影響もあるが、ポリエステルフィルム層(B層)のガラス転移温度(B−Tg)の影響もあり、ポリエステルフィルム層(B層)のガラス転移温度(B−Tg)が45℃未満では、軟質過ぎて本発明の目的は達成できない。
ポリエステルフィルム層(B層)のガラス転移温度(B−Tg)は、好ましくは48℃以上が良好なパンチ離型性を確保でき、良い。ポリエステルフィルム層(B層)のガラス転移温度(B−Tg)の上限値は特に限定するものではないが、前述したように、一般的には前述した低温下における衝撃エネルギーを吸収する能力はガラス転移温度が低い方が高いため、ポリエステルフィルム層(A層)と同様に耐デント性の点からは110℃以下が好ましい。
本発明では、ポリエステルフィルム層(B層)に適用されるポリエステル樹脂の極限粘度(B−IV)は0.55dl/g以上である。極限粘度(IV)は、ポリエステル樹脂の平均分子量を示す指標で、極限粘度(IV)が高い程平均分子量が大きいことを示している。ポリエステル樹脂フィルムの機械的特性は、同一樹脂組成の場合、耐デント性に直接関係する、例えば、前述したように、フィルムの衝撃破壊強度、と言った機械的特性は、極限粘度(IV)が高い程高いため、本発明の目的である耐デント性の改善に対しては多くの場合、極限粘度(IV)の高いポリエステル樹脂からなるフィルムが提案されている。
本発明では、前述したゴム弾性樹脂(R)を含有させることにより、ポリエステルフィルム層(B)に使用するポリエステル樹脂の極限粘度(B−IV)は、0.55dl/gまで適用が可能となり、この極限粘度(IV)でも良好な耐デント性が確保される。
しかし、前述したように、フィルムの衝撃破壊強度は極限粘度(IV)が高い程高いため、コーラ、スポーツ飲料のような高腐食性の内容物に対しては、極限粘度(IV)は高めのポリエステル樹脂を適用するのが好ましく、かかる意味からは、ポリエステルフィルム層(B層)に使用するポリエステル樹脂の極限粘度(B−IV)は、好ましくは0.60dl/g以上、更に好ましくは0.65dl/g以上が良い。
極限粘度(B−IV)の上限値は、特に限定するものではないが、前述したように極限粘度(IV)の高いポリエステル樹脂から製膜することは、生産コストが上がる、と言ったことに繋がるため、生産性との兼ね合いからは、2.00dl/g以下が好ましい。 従って、好ましい極限粘度の範囲は0.60〜2.00dl/g、更に好ましくは0.65〜2.00dl/gが良い。本発明では、ポリエステルフィルム層(B層)に含有する滑剤は特に限定するものではないが、例えば酸化珪素、酸化アルミ等の滑剤を0.1〜0.5μmの微粒子を0〜0.5質量%含有させることは可能である。
本発明で適用されるポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)のポリエステル樹脂は、共に結晶性のポリエステル樹脂を基本樹脂としたもので、その一例としては、酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸、フマル酸、コハク酸、マレイン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸と、グリコール成分としてエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ペンタンジオール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコールからなるポリエステル樹脂の共重合物やブレンド物が、前記の融点(Tm)、結晶融解熱、冷結晶化熱の限定範囲であれば、適用できる。
更に、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)のポリエステル樹脂は、熱安定化剤及び/又は酸化防止剤を含むものである。ポリエステル樹脂は、製膜時の熱やラミネート時の熱、更にはレトルト殺菌処理時の熱によって、分子内の結合が切断される、と言った、熱分解や熱水分解を起こす樹脂である。特に、熱水による分解は熱分解より速い速度で起こる。熱分解や熱水分解が起こると、当然、分子量は小さくなり、その結果フィルム自身の機械的特性が低下する。又、結晶化速度も速くなり結晶化し易くなる。
このことは、ラミネート金属板の成形性の低下、又、得られた缶体の耐デント性の低下の原因となる。こうした現象を回避するため、本発明では熱安定化剤及び/又は酸化防止剤を含有させたポリエステル樹脂とする。熱安定化剤としては、特に限定されるものではないが、亜リン酸エステル系安定剤が好適で、その一例としてビス(2,4−ジ−第三ブチル)フェニルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、等が上げられる。
酸化防止剤としても特に限定されるものではないが、その一例として:テトラキス〔メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート)〕メタン、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、等が上げられる。含有量としては、熱安定化剤、酸化防止剤の1種又は2種以上を、ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01〜3質量部の範囲で含有させる。
ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01質量部未満では、前述した熱分解や熱水分解を抑制する効果が充分でなく、成形加工でパンチ離型性の低下やフィルムのマイクロクラックが発生する場合や、得られた缶の耐デント性が低下する、と言った現象が現れる場合があり、好ましくない。一方、ポリエステル樹脂100質量部に対して3質量部を超えると、前述した成形加工でパンチ離型性の低下やフィルムのマイクロクラックの発生、又、得られた缶の耐デント性の低下、と言った現象は勿論回避され、良好な成形性や耐デント性は確保されるが、その効果は飽和するだけでなく、フィルムの透明性が局部的に白っぽく濁ると言った現象が現れる場合があり、フィルムの外観を損ねる場合があり好ましくない。
本発明では、ポリエステル樹脂には、必要に応じて紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、結晶核剤等を配合させることも可能である。本発明におけるポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)の製造方法については特に限定しない。即ち、エステル交換法又は直接重合法のいずれの方法で製造されたものであっても使用できる。又、極限粘度(IV)を高めるために固相重合法で製造されたものであってもかまわない。更に、缶に内容物を充填・密封後に実施されるレトルト殺菌処理、パストロ殺菌処理等でのポリエステル樹脂からの溶出オリゴマー量を少なくする点から、減圧固相重合法で製造されたオリゴマー含有量が低いポリエステルを使用することは好ましい。
金属板に被覆されているフィルム厚みについて言えば、本発明では、ポリエステル樹脂フィルム層(A層)の厚みは5〜20μm、ポリエステル樹脂フィルム層(B層)の厚みは5〜25μm、ポリエステルフィルム(F)の総厚みとしては10〜40μmである。 又、ポリエステルフィルム層(A層)とポリエステルフィルム層(B層)の厚み構成比からはA層/B層の厚み比は0.4〜1.0の範囲が望ましい。
成形加工前のラミネート金属板に積層されているポリエステルフィルム(F)のフィルム厚みが10μm未満の場合、加工度によっては成形後の缶胴部のフィルム厚みが3〜4μm程度になる個所が局部的にはあるため、フィルム健全性の確保が難しく、また、健全性は確保できたとしても、内容物の透過を抑制するバリアー効果が低下してくるため、長期間の内容物保存性が劣り、耐食性の点で不十分な場合があり好ましくない。
また、耐デント性の点でもポリエステルフィルム層(B層)の厚みが5μm未満であったり、上記の総フィルム厚みが10μm未満であったりすると、衝撃エネルギーを十分に吸収出来ず、フィルムにクラックが発生する場合があり、この点からも好ましくない。
一方、ラミネート金属板に積層されているフィルム厚みが、総厚みとして40μmを超えた場合、耐食性や耐デント性の点では十分性能を発揮するが、その効果は飽和した状態であり経済的ではないだけでなく、ラミネート金属板の総厚みが厚くなるため、加工時の面圧が高くなり、加工度によってはパンチの離型性の低下を招く原因となるため、好ましくない。
勿論、ポリエステル樹脂フィルム(F)の厚みは、加工度が小さい場合は薄いフィルムが適用でき、加工度が大きい場合は厚いフィルムを適用することが、内容物の保存性の点から可能であるが、成形性との兼ね合いもあることから、厚いフィルムの適用はパンチの離型性が確保できる範囲内が望ましい、ことは言うまでもない。
更に、フィルム厚みについて言えば、前述したようにポリエステルフィルム層(B層)厚みとポリエステルフィルム層(A層)の厚みの比は、ポリエステルフィルム層(A層)厚み/ポリエステルフィルム層(B層)厚み、として0.4〜1.0が最適である。
ポリエステルフィルム層(A層)厚み/ポリエステルフィルム層(B層)厚みの比が0.4未満では、総厚みが厚くなった場合、ポリエステルフィルム層(B層)の特性が大きく発現し、耐デント性は良好であるが、フィルム全体の耐熱性や機械的特性が低下し、パンチの離型性不良に繋がるため好ましくない。
一方、ポリエステルフィルム層(A層)厚み/ポリエステルフィルム層(B層)厚みの比が1.0を超えると、特に総厚みが薄くなった場合、ポリエステルフィルム層(B層)の特性が十分に発揮されたとしても、厚み要因の影響を受けるため衝撃破壊強度が小さくなり、その結果耐デント性が低下しフィルムにクラックが発生し耐食性低下に繋がる場合があり好ましくない。ポリエステルフィルム層(A層)厚み/ポリエステルフィルム層(B層)厚みの比は、前述したポリエステルフィルム層(B層)の厚みが5μm以上、ポリエステルフィルム層(A層)との総厚みとしては10〜40μmの範囲内であれば、製缶性と耐デント性の兼備から、0.4〜1.0の範囲が最適である。
次に、本発明に使用する金属板について述べる。
本発明では、金属板として、鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板が適用される。鋼板は、板厚や引張破断強度等の機械的特性は特に限定するものでなく、通常製缶用鋼板として使用されているもの、具体的には絞り缶用、絞り・しごき缶用、蓋用のそれぞれの用途に用いられている鋼板が適用される。鋼板表面の施される表面処理も同様で、通称TFS−CTと呼ばれている、鋼板の両面に片面の付着量として金属クロムが80〜150mg/m2 、その上層に金属クロム換算で10〜20mg/m2 の水和酸化クロム皮膜を有する電解クロム酸処理鋼板、鋼板の両面に片面の付着量として50〜1000mg/m2 、その上層に金属クロム換算で10〜15mg/m2 の水和酸化クロム皮膜を有するNiめっき鋼板、鋼板の両面に片面付着量として20〜2000mg/m2 のNiめっき層、その上層に片面の付着C量として1〜100mg/m2 の有機樹脂を主体とする化成処理皮膜層を有するNi−化成処理鋼板等、幅広く適用される。
アルミニウム板やアルミニウム合金板も同様で、板厚や引張破断強度等の機械的特性は特に限定するものでなく、通常製缶用アルミニウム板として使用されているもの、具体的には絞り・しごき缶用、蓋用のそれぞれの用途に用いられているアルミニウム板が適用される。アルミニウム板やアルミニウム合金板の表面処理については、アルミニウム板の両面に片面のクロム付着量として10〜60mg/m2 の化成処理を行ったリン酸クロム処理アルミニウム板やその他の化成処理が施されたアルミニウム板やアルミニウム合金板、等、幅広く適用される。
本発明のポリエステルフィルム被覆金属板を得る際のフィルムは、製膜の履歴は問わず、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無配向フィルムの何れでも良い。本発明の金属板にポリエステルフィルム(F)を被覆する方法としては、その一例として、少なくともポリエステルフィルム層(B層)の融点以上の温度に加熱した金属板の一方の面に、ポリエステルフィルム層(B層)が金属板と相接するように、ラミネートロールを用いてフィルムをラミネートする方法、等の周知の方法で金属板に被覆して一次接着を行った後、続けてポリエステルフィルム層(A層)の融点以上、もしくは上記の金属板の他方の面に被覆した任意フィルムの融点以上の温度に板温として金属板を加熱した後、直ちに水冷または/および圧縮空気等で急冷して得る方法が適用できる。
金属板の他方の面には任意のフィルムでも、または塗装でも何れでも可能である。
任意のフィルムを適用する場合は、当然のことながら、金属板は融点の高い方を基準に板温を設定する必要があり、また両面同時ラミネートでも、逐次ラミネートでも可能である。一次接着を行う際の金属板の加熱方法としては、電気炉中で加熱する方法、熱風による加熱方法、加熱ロールに接触させて加熱する方法、高周波で誘導加熱する方法、等の加熱方法が採用できるが、その後に続けて行うポリエステルフィルム層(A層)の融点以上、もしくは上記の金属板の他方の面に被覆した任意フィルムの融点以上の温度に板温として金属板を加熱する際は、ポリエステルフィルムが被覆されているので電気炉中で加熱する方法、熱風による加熱方法、高周波で誘導加熱する方法等の非接触加熱が好ましく、加熱ロールのような接触型加熱方式は採用しない方が良いことは言うまでもない。
又、急冷する方法としては圧縮空気や冷却された圧縮空気を吹きかけて冷却する方法、水等に浸漬して冷却する方法の単独もしくは複合で採用することが可能である。
本発明では、金属板に被覆されているポリエステルフィルム(F)の密度は特に限定するものでないが、ポリエステルフィルム層(A層)とポリエステルフィルム層(B層)の二層構成フィルム全体の密度は、1.360g/cm3 以下であることが望ましい。
密度が1.360g/cm3 以下であることは、被覆されているフィルムは、非晶質状態もしくは極めて非晶質状態に近い状態であることを示している。
成形加工前の金属板に被覆されているポリエステルフィルム(F)の密度が、1.360g/cm3 以下が望ましい理由は、フィルムを絞り・しごき加工に追随させるためで、金属板に被覆されているポリエステルフィルムの密度が1.360g/cm3 超えると、フィルムの伸び特性が落ちてくるため、特に缶壁部の板厚減少率が大きい、高加工度に追随できず、局部的フィルム破断が起こり、缶の内面側フィルムの健全性は確保できないことがあるためである。缶の内面側フィルムの健全性が確保できなくなると、素地金属の腐食に発展するため、内容物の保存性の点で大きな問題となり、好ましくない。
従って、缶の内面側に相当するポリエステルフィルム(F)の密度は、1.360g/cm3 以下にすることが缶の内面側フィルムの健全性が確保でき、耐食性の優れた絞り・しごき加工缶の成形が達成できるので望ましい。本発明のポリエステルフィルム(F)の全体の密度を1.360g/cm3 以下にするには、一次接着を行った後、続けて少なくともポリエステル樹脂フィルム層(A層)の融点以上の温度に板温として金属板を加熱し、特に供給するフィルムが二軸延伸フィルムや一軸延伸フィルムの場合、十分に溶融して結晶を破壊すること、更には、冷却の過程で結晶化を起こさせない、ことが肝要である。
前述した急冷の条件は重要で、ポリエステル樹脂フィルム表面での熱伝達係数が0.0005cal/cm2 ・sec・℃以上、0.005cal/cm2 ・sec・℃未満の条件で冷却することが重要である。急冷する方法としては圧縮空気や冷却された圧縮空気を吹きかけて冷却する方法、水等に浸漬して冷却する方法の単独もしくは複合で採用することが可能である。
次に、本発明の第二であるポリエステルフィルム被覆金属缶について述べる。
本発明の金属缶は、缶胴は前述したように絞り加工や絞り・しごき加工によって得られるシームレス缶が基本の缶である。本発明の缶の例としては、(1)絞り・しごき加工を行った後、開口部を正規の缶高さにトリミングした後、開口部を更に絞り加工を行い口部を缶胴の径に比べ小径に加工(ネックイン加工)した後、缶蓋を巻締められるようにフランジを加工(フランジ加工)し形成するシームレス缶。具体的な一例としては、350mlビール缶サイズの場合は、缶胴の外径が呼称211(2インチ+11/16インチ)の缶胴を呼称204(2インチ+4/16インチ)の蓋を巻締められるように、缶胴の開口部を絞り加工したシームレス缶が上げられる。
(2)絞り・しごき加工によりシームレス缶作成し、その後、シームレス缶開口部を更に絞り加工を行い、肩部成形やキャップ出来る径にまで成形し、更にキャップで閉缶することが出来るようにネジ切り加工を行った、再栓可能なボトル型缶等のシームレス缶。
(3)絞り・しごき加工によりシームレス缶作成し、その後缶底部を絞り加工を行い、肩部成形やキャップ出来る径にまで首部を成形した後首部をトリミングして、更にキャップで閉缶することが出来るようにネジ切り加工を行い、一方シームレス缶の元々の開口部には缶蓋を巻締めた、再栓可能なボトル型缶等のシームレス缶。等が上げられる。
従って、本発明のシームレス缶は最終的にどの形状の缶体を得るかによって、前述した数式1で示される缶壁部の加工度は異なるが、加工度としては25%以上70%以下が最適の範囲である。そして、本発明における金属缶の少なくとも内面側に被覆されているポリエステルフィルム(F)の密度は、1.360g/cm3 以下である。密度が1.360g/cm3 以下であると言うことは、前述したように実質的に非晶質状態、或いは非晶質状態に極めて近い状態であることを意味している。
本発明における金属缶に被覆されているポリエステルフィルムの密度を、1.360g/cm3 以下にする理由の第一は、次行程の成形加工性を確保するためである。
即ち、ポリエステルフィルム被覆金属板を絞り・しごき加工を経て作成された缶は、前述したように開口部を更に絞り加工を行い口部を缶胴の径に比べ小径に加工(この加工をネックイン加工と呼ばれている)した後、蓋を巻締めるためのフランジ出しを加工(この加工をフランジ加工と呼ばれている)をするのが、アルミ製の易開缶蓋(イージーオープンエンド、通称EOEと呼ばれている)の低コスト化から一般的である。
このネックイン加工及びフランジ加工は、口部の小径化が大きいほど加工が厳しく、この部位でフィルム剥離が起こり易い。勿論、フィルム剥離が起こった缶は、剥離部が内容物に曝されるため下地金属の腐食に繋がり、問題となる場合が起こることがある。
こうした問題を回避するためには、被覆されているフィルムの伸び特性と下地金属との密着性が良好である必要があり、そのためには、被覆されているポリエステルフィルムは非晶質状態が好ましく、密度を1.360g/cm3 以下にすることで達成される。
また、前述した再栓可能なボトル型缶の場合は、成形加工が通常のシームレス缶の加工に比べ、一層厳しい加工を受けることになるため、ポリエステルフィルムの密度は1.360g/cm3 以下にする必要がある。本発明における金属缶に被覆されているポリエステル樹脂フィルムの密度を、1.360g/cm3 以下にする理由の第二は、耐デント性を確保することにある。
本発明のポリエチレンやエチレン−ブテン共重合体と言ったゴム弾性樹脂(R)は、成形加工前は球状の状態でポリエステルフィルム層(B層)に分散しているが、しごき加工によって缶高さ方向に激しく伸ばされる。こうした状態ではゴム弾性樹脂(R)も成形歪みが樹脂内に多く蓄積されており、衝撃エネルギーを吸収する能力が落ち、その結果耐デント性の向上効果は低下する。こうした状況を回復させるためには、熱を加えて歪みを開放してやれば良いわけであるが、ポリエステル樹脂の融点以下の温度では、ポリエステル樹脂自身が結晶化してしまい、ポリエステル樹脂自身の衝撃破壊強度を低下させることから、耐デント性はかえって低下させる結果となってしまうことがある。
そこで、ポリエステル樹脂フィルムの密度を、1.360g/cm3 以下にする。この状態は、前述したようにポリエステル樹脂は実質的に非晶質状態、或いは非晶質状態に極めて近い状態でり、こうした状態であればゴム弾性樹脂(R)は再度球状となり特性が十分に発揮でき、優れた耐デント性が確保され。絞り・しごき加工で得られた金属缶に被覆されているポリエステル樹脂フィルムを実質的に非晶質化し、密度を1.360g/cm3 以下にする方法としては、缶体をポリエステルフィルム層(A層)の融点以上に加熱し再溶融した後、急冷することで得られる。
缶体の加熱により被覆されているポリエステルフィルム(F)を非晶質にする工程としては、(1)絞り・しごき加工で得られた金属缶の缶口部をトリミングする前に脱脂剤で成形加工用潤滑剤を脱脂後、少なくともトリミングされる開口部を非晶質にする、(2)絞り・しごき加工で得られた金属缶を加熱して成形加工用潤滑剤を揮散させると同時に非晶質にする、(3)トリミング後、シームレス缶であればネック・フランジ加工前に、再栓可能なボトル型缶であればネジ切り加工前に、少なくとも加工該当個所を非晶質にする、等の工程によって行うことが可能である。どの工程で、どのような手段で行うかは、設備との関係で適宜選択することができる。
缶体の加熱方法としては電気炉中で加熱する方法、熱風による加熱方法、高周波で誘導加熱する方法、等の加熱方法が採用できる。従って、金属缶の外面に施す塗装・印刷工程の熱を利用して金属缶を加熱することも可能である。又、急冷する方法としては圧縮空気や冷却された圧縮空気を吹きかけて冷却する方法等が採用できる。また状況によっては水等に浸漬して冷却する方法も可能である。
以下、実施例にて、本発明の方法の効果を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、本実施例で行った評価法は以下の通りである。
(1)ポリエステル樹脂フィルムの融点(Tm)は、ポリエステルフィルム10mgを用い、窒素気流中、示差走査熱量計(DSC)で、10℃/分の昇温速度で発熱・吸熱曲線(DSC曲線)を測定したときの、発熱部の積分強度を冷結晶化熱Hc(J/g)、吸熱部の積分強度を結晶融解熱Hm(J/g)、融解に伴う吸熱ピークの頂点温度を融点Tm(℃)とした。
(2)ポリエステル樹脂フィルムの密度は、密度勾配管法にて測定した。
(3)ポリエステルの極限粘度(IV)は、ウベローデ粘度計でオルトクロルフェノール溶液中にポリエステルフィルムを0.100±0.003g溶解し、25.0±0.1℃で測定した。
(4)ゴム弾性性樹脂の等価球換算径、分散状態及びビニル重合体の分散状態は、ラミネート材をミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸で染色しポリエステル樹脂フィルム中の存在状態を透過顕微鏡で観察して調べた。
(5)ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)のガラス転移温度は、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)からなる二層フィルムを作成する際、ポリエステル樹脂(A)又はポリエステル樹脂(B)から単体の25μm単層フィルムを作成し、各実施例及び各比較例と同一条件でラミネート材作成し、TMA(セイコー電子工業株式会社製のTMA−SS100)で、昇温条件:5℃/分、荷重:3g、プローブ:1mmフラット(石英製)の条件で測定した時のプローブ侵入開始温度(℃)とした。
(6)パンチ離型性評価
缶内面のフィルムと加工パンチの離型性は、連続成形缶をランダムに500缶抽出し、成形缶上部に起こる缶体の挫屈程度を観察し評価した。
離型性の評価は、次のように評価基準を設定し行った。
◎:缶開口部の挫屈なく良好
○:軽微な缶開口部の挫屈あるが正規な缶高さは確保可能で実用上問題ない
○〜△:缶開口部に挫屈があり正規な缶高さを確保するのが難しい缶が散発してお り実用性は不可
△:缶開口部に挫屈があり正規な缶高さを確保するのが難しく実用性は不可
×:缶体がパンチから抜けなかったり、抜けても缶開口部に激しい挫屈があり 実用性不可
(7)缶の内面フィルムの健全性評価
缶内面の樹脂フィルムの傷付き程度については、1.0%食塩水に界面活性剤を0.1%添加した電解液で、缶体を陽極、陰極を銅線とし印加電圧5Vで3秒後の電流値を測定し、被覆フィルムの健全性の評価とした。
なお、評価はランダムに50缶抽出し、その荷重平均値を表2に示した。
缶内面フィルム健全性は、金属素材が鋼板の場合はQTV値の荷重平均値で0.2mA以下を実用レベルとした。
(以降、この評価法をQTV試験と称する)
(8)缶の内面フィルムの耐デント性評価
缶内面のフィルムの耐デント性については、缶にお茶を充填した後125℃で30分レトルト殺菌処理を行った後、4℃の保冷庫に保存し、缶体温度が4℃になった時点で、缶胴部に先端幅が1mmの幅20mmのくさびを置き、荷重500gを5cmの高さからくさびに落下させ、デントを起こさせた。(この方法を缶胴デントと称する)
又、同様に缶体温度が4℃になった時点で、高さ45cmの位置から60°の角度で缶底部を下にして落下させ、デントを起こさせた。(この方法を缶底デントと称する)
耐デント性の評価は、缶胴デント及び缶胴デントを行った後、変形した部位以外を絶縁物でシールし、缶体を陽極、陰極を銅線とし印加電圧6Vで30秒後の電流値を測定し、デント部フィルムの健全性の評価とした。なお、評価はランダムに20缶抽出して測定し、その測定値の最も高い数値を表2に示している。耐デント性は、缶胴デント及び缶胴デント共、0.03mA以下を実用レベルとした。
(以降、この評価方法を耐デント性評価と称する)。
なお、実施例及び比較例で用いたビニル重合体の略語と内容は次の通りである
(1)ビニル重合体A(重合体A):エチレン−メチルアクリレート・グリシジルメタク リレート重合体
(2)ビニル重合体B(重合体B):エチレン−酢酸ビニル・グリシジルメタクリレート 重合体
又、実施例及び比較例で用いた熱安定化剤及び酸化防止剤の内容は次の通りである。
(1)熱安定化剤:ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホス ファイト
(2)酸化防止剤:テトラキス〔メチレン(3,5−ジ−t−ブチルヒドロキシハイドロ シンナメート)〕メタン
(実施例1)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を0.5質量部及びビニル重合体を0.1質量部含む、融点が237℃の厚み12μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む融点が223℃の厚み13μmのフィルム層とからなる、総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム1)を作成した。
こうして得たフィルム1と缶の外面用フィルムとして融点が235℃で厚みが12μmの単層のポリエステルフィルム(フィルムA、後述する缶の成形時に必要なフィルムで実施例及び比較例とは無関係であるため、評価の対象外。以降同様)を用いて、鋼板の両面に片面のNi付着量として550mg/m2 その上層に金属クロム換算で15mg/m2 の水和酸化クロム皮膜を有する板厚が0.19mmのNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が250℃で一方の面にフィルム1をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムAを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を255℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト1)を作成した。
同様に、缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を0.5質量部及びビニル重合体を0.1質量部含む、融点が245℃の厚み12μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が243℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム2)を作成した。
こうして得たフィルム2と缶の外面用フィルムとして融点が245℃で厚みが12μmの単層のポリエステルフィルム(フィルムB、後述する缶の成形時に必要なフィルムで実施例及び比較例とは無関係であるため、評価の対象外。以降同様)を用いて、前記のNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム2をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト2)を作成した。
同様に、缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を0.5質量部及びビニル重合体を0.1質量部含む、融点が252℃の厚み12μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が248℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム3)を作成した。
こうして得たフィルム3と前記フィルムBを用いて、前記のNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が265℃で一方の面にフィルム3をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を275℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト3)を作成した。テスト1〜テスト3で得られたラミネート鋼板のポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト1、テスト2、テスト3共に、ゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤、酸化防止剤等の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト1〜テスト3のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、90缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が58%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度がテスト1から得られた缶は板温が255℃になるように、テスト2から得られた缶は260℃になるように、テスト3から得られた缶は275℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、呼称204の缶蓋が巻締められるようにネック加工及びフランジ加工を行い350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。
こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、実施例1のテスト1〜テスト3のラミネート鋼板は、良好なパンチ離型性を示し、製缶性に優れていることが判る。
又、得られる缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値内面品質や耐デント性は、良好なものが得られていることが判る。
(実施例2) 缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を5質量部及びビニル重合体を1.0質量部含む、融点が237℃の厚み12μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が223℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム4)を作成した。
こうして得たフィルム4と実施例1で使用したフィルムAを用いて、実施例1で使用したNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム4をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムAを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間に加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト4)を作成した。
同様に、缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を5質量部及びビニル重合体を1.0質量部含む、融点が252℃の厚み12μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、等価球換算径が730nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が248℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム5)を作成した。
こうして得たフィルム5と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例1で使用したNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が265℃で一方の面にフィルム5をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を275℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト5)を作成した。
テスト4及びテスト5で得られたラミネート鋼板のポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト4及びテスト5は共に、ゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤、酸化防止剤等の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト4及びテスト5のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、90缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が58%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度がテスト4から得られた缶は板温が255℃になるように、テスト5から得られた缶は275℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従いネック加工およびフランジ加工を行い350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。
こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、実施例2のテスト4のラミネート鋼板は、実施例1のテスト1から得られるラミネート鋼板に比べ、若干パンチ離型性は劣るが、実用性は有しているレベルにある。又、テスト5のラミネート鋼板は良好なパンチ離型性を示し、製缶性に優れていることが判る。又、テスト4及びテスト5から得られる缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値や耐デント性は良好なものが得られていることが判る。
(実施例3)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が280nmのゴム弾性樹脂を7質量部及びビニル重合体を1.5質量部含む、融点が248℃の厚み12μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、熱安定化剤、酸化防止剤、等価球換算径が280nmのゴム弾性樹脂を15質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が248℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム6)を作成した。
こうして得たフィルム6と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例1で使用したNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が265℃で一方の面にフィルム6をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト6)を作成した。
又、前記のフィルム6及びフィルムBを用いて、片面の金属クロム換算として12mg/m2 の付着量を有するリン酸クロム系化成処理が施された板厚が0.28mmの3004系アルミニウム合金板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し板温が265℃で、一方の面にフィルム6をポリエステルフィルム層(B層)がアルミニウム合金板と相接するように、他方のアルミニウム合金板面にはフィルムBを両面に一次接着した後、続いてアルミニウム合金板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネートアルミニウム合金板(テスト7)を作成した。
テスト6で得られたラミネート鋼板及びテスト7で得られたラミネートアルミニウム合金板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト6及びテスト7は共に、ゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤、酸化防止剤及び熱安定化剤等の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト6のラミネート鋼板及びテスト7のラミネートアルミニウム合金板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、テスト6のラミネート鋼板は80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って缶壁部の加工度が55%の350mlサイズのシームレス缶を、又、テスト7のラミネートアルミニウム合金板は100缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が62%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶をそれぞれ成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度がテスト6及びテスト7から得られた缶を板温が265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従いネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。
こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、実施例3のテスト6のラミネート鋼板及びテスト7のラミネート合金板は、共に若干パンチ離型性は劣るが、実用性は有しているレベルにあり、製缶性には問題ないことが判る。又、テスト6及びテスト7から得られる缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値や耐デント性は、良好なものが得られていることが判る。
(実施例4)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が1770nmのゴム弾性樹脂を7質量部及びビニル重合体を1.5質量部含む、融点が248℃の厚み12μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、熱安定化剤、酸化防止剤、等価球換算径が1770nmのゴム弾性樹脂を15質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が248℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム7)を作成した。
こうして得たフィルム7と実施例1で使用したフィルムBを用いて、鋼板の両面に金属クロムが110mg/m2 、更にその上層に金属クロム換算で18mg/m2 の水和酸化クロム皮膜を有する板厚が0.19mmの電解クロム酸処理鋼板(TFS−CT)を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し板温が265℃で、一方の面にフィルム7をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト8)を作成した。
テスト8で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト8のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤、酸化防止剤及び熱安定化剤等の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト8のラミネート鋼板両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が55%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果を表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板の温度が板温で265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従いネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、実施例4のテスト8のラミネート鋼板は若干パンチ離型性は劣るが、実用性は有しているレベルにあり、製缶性には問題ないことが判る。又、テスト8から得られる缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値や耐デント性は、良好なものが得られていることが判る。
(実施例5)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、等価球換算径が860nmのゴム弾性樹脂を2質量部及びビニル重合体を0.5質量部含む、融点が248℃の厚み8μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、等価球換算径が860nmのゴム弾性樹脂を7質量部及びビニル重合体を1.5質量部含む、融点が237℃の厚み17μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム8)を作成した。
同様に、缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、等価球換算径が860nmのゴム弾性樹脂を2質量部及びビニル重合体を0.5質量部含む、融点が248℃の厚み8μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、等価球換算径が860nmのゴム弾性樹脂を35質量部及びビニル重合体を9.0質量部含む、融点が237℃の厚み17μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム9)を作成した。
こうして得たフィルム8と実施例1で使用したフィルムBを用いて、鋼板の両面に片面の付着量として550mg/m2 のNiめっきを行った後、フェノール樹脂と縮合リン酸を含有する化成処理液を塗布・乾燥し、片面のC付着量として10mg/m2 の化成処理を行ったNi−化成処理鋼板を、実施例1の手順に従って加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が265℃で一方の面にフィルム8をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト9)を作成した。
同様に、フィルム9と実施例1で使用したフィルムBを用いて、前記のNi−化成処理鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が265℃で一方の面にフィルム9をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト10)を作成した。
テスト9及びテスト10で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト9及びテスト10は共に、ゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑材、酸化防止剤等の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト9及びテスト10のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、90缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が58%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶をそれぞれ成形した。
得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度が板温で265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従って204のネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。
こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。
表2から判るように、実施例5のテスト9のラミネート鋼板は良好なパンチ離型性を有しており、テスト10のラミネート鋼板は若干パンチ離型性は劣っていたが、実用性は有しているレベルにあり、製缶性には問題ないことが判る。又、テスト9及びテスト10から得られた缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値や耐デント性は実用レベルで、特にテスト10から得られた缶の耐デント性は優れていた。
(実施例6)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、等価球換算径が850nmのゴム弾性樹脂を7質量部及びビニル重合体を1.5質量部含む、融点が245℃の厚み10μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、等価球換算径が850nmのゴム弾性樹脂を10質量部、ビニル重合体を2.0質量部含む、融点が222℃/237℃の厚み15μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム10)を作成した。
こうして得たフィルム10と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例4で使用した電解クロム酸処理鋼板(TFS−CT)を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し板温が255℃で、一方の面にフィルム10をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面には実施例1で用いたフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を260℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト11)を作成した。
テスト11で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト11のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑材、酸化防止剤の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト11のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が58%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度が板温で260℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2示した。表2から判るように、実施例6のテスト11のラミネート鋼板は若干パンチ離型性は劣るが、実用性は有しているレベルにあり、製缶性には問題ないことが判る。又、テスト11から得られる缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値や耐デント性は、良好なものが得られていることが判る。
(実施例7)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、熱安定化剤、等価球換算径が780nmのゴム弾性樹脂を5質量部及びビニル重合体を1.0質量部含む、融点が248℃の厚み5μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、熱安定化剤、等価球換算径が750nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が237℃の厚み7μmのフィルム層からなる総厚みが12μmの二層フィルム(フィルム11)を作成した。
同様に、缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、熱安定化剤、等価球換算径が780nmのゴム弾性樹脂を5質量部及びビニル重合体を1.0質量部含む、融点が248℃の厚み15μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、熱安定化剤、等価球換算径が750nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が237℃の厚み23μmのフィルム層からなる総厚みが38μmの二層フィルム(フィルム12)を作成した。
こうして得たフィルム11と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例1で使用したNiめっきを鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム11をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト12)を作成した。
同様に、フィルム12と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例1で使用したNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で、一方の面にフィルム12をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト13)を作成した。
テスト12及びテスト13で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト12及びテスト13は共に、ゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑材、熱安定化剤の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト12及びテスト13のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が58%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度が板温で260℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。
表2から判るように、実施例7のテスト12のラミネート鋼板は良好なパンチ離型性を示した。又、テスト13のラミネート鋼板は若干パンチ離型性は劣るが、実用性は有しているレベルにあり、製缶性には問題ないことが判る。又、テスト12及びテスト13から得られた缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値や耐デント性は実用レベルで、特にテスト13から得られた缶の耐デント性は優れていた。
(実施例8)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が920nmのゴム弾性樹脂を10質量部及びビニル重合体を2.0質量部含む、融点が255℃の厚み12μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が920nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が222℃/244℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム13)を作成した。
こうして得たフィルム13と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例3で使用したアルミニウム合金板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム13をポリエステルフィルム層(B層)がアルミニウム合金板と相接するように、他方のアルミニウム合金板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いてアルミニウム合金板板温を275℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネートアルミニウム合金板(テスト14)を作成した。
テスト14で得られたラミネートアルミニウム合金板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト14のゴム弾性樹脂は、ビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当するラミネートアルミニウム合金板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑材、酸化防止剤及び熱安定化剤等の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト14のラミネートアルミニウム合金板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、100缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が62%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。
得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度が275℃にるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、実施例8のテスト14のラミネートアルミニウム合金板は、若干パンチ離型性は劣るが、実用性は有しているレベルにあり、製缶性には問題ないことが判る。又、テスト14から得られた缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値は実用レベルにあり、特に、耐デント性は優れていた。
(比較例1)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、熱安定化、等価球換算径が780nmのゴム弾性樹脂を0.5質量部及びビニル重合体を0.1質量部含む、融点が232℃の厚み12μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が780nmのゴム弾性樹脂を7質量部及びビニル重合体を1.5質量部含む、融点が218℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム14) を作成した。
こうして得たフィルム14と実施例1で使用したフィルムAを用いて、実施例1で使用したNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が250℃で一方の面にフィルム14をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムAを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト15)を作成した。テスト15で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト15のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤、酸化防止剤、熱安定化剤の内容の詳細は、表2に示した。こうして得たテスト15のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が65%の350mlビール缶用サイズのシール缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
成形缶は缶開口部の挫屈が発生し、正規の缶高さを確保するのが難しい状況の缶が散発していたが、正規の缶高さが得られる缶だけを抽出し、開口部をトリミングした後、缶の金属板温度が板温が265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。
こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、比較例1のテスト15のラミネート鋼板は、パンチ離型性が劣るため、缶開口部の挫屈が発生し、正規の缶高さを確保するのが難しい状況の缶が散発しており、実用性レベルにはない。又、テスト15から得られた缶は、内面フィルムのパンチ離型性が悪いと起こるパンチ傷があり、内面フィルムの健全性を示すQTV値は実施例に比べ高い値を示し、実用レベルにはない。但し、耐デント性は実施例と差はなく実用レベルであった。
(比較例2)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が670nmのゴム弾性樹脂を7質量部及びビニル重合体を1.5質量部含む、融点が251℃の厚み12μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が650nmのゴム弾性樹脂を3質量部及びビニル重合体を0.7質量部含む、融点が237℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム15) を作成した。
こうして得たフィルム15と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例1で使用したNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム15をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト16)を作成した。
テスト16で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト16のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。 なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤、酸化防止剤、熱安定化剤の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト16のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が55%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度が板温で265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように比較例2のテスト16のラミネート鋼板は、若干パンチ離型性が劣るが実用性レベルにあり、製缶性は問題なかった。しかし、テスト16から得られた缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値は実施例1に比べ差はなく実用レベルにあるが、耐デント性は実施例に比べ劣っており実用レベルにはなかった。
(比較例3)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、実施例1のテストト3で使用したポリエステル原料を用いて、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、等価球換算径が670nmのゴム弾性樹脂を7質量部及びビニル重合体を1.5質量部含む、融点が251℃の厚み12μmの酸化防止剤及び熱安定化剤は含まないフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は等価球換算径が650nmのゴム弾性樹脂を15質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が248℃の厚み13μmの酸化防止剤及び熱安定化剤は含まないフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム16)を作成した。
こうして得たフィルム16と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例1で使用したNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム16をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト17)を作成した。
テスト17で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト17のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。 なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト17のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が55%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度が板温で260℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従いネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。こうして得た正規の缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。
表2から判るように、比較例3のテスト17のラミネート鋼板は、若干パンチ離型性が劣るが実用性レベルにあり、製缶性は問題なかった。しかし、テスト17から得られた缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値は実施例に比べ差はなく実用レベルにあるが、耐デント性は実施例に比べ劣っており実用レベルにはなかった。
(比較例4)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が2250nmのゴム弾性性樹脂を12質量部及びビニル重合体を2.5質量部含む、融点が255℃の厚み12μmのフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が2250nmのゴム弾性樹脂を13質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が248℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム17)を作成した。
こうして得たフィルム17と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例4で使用した電解クロム酸処理鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が265℃で一方の面にフィルム17をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を280℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト18)を作成した。
テスト18で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト18のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト17のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が55%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
比較例4のテスト18のラミネート鋼板は、パンチ離型性が著しく劣り、パンチが缶体から抜けなかったり、抜けても缶体の開口部が激しく挫屈しており実用性レベルにはなく、製缶性に問題がある。
しかし、念のため開口部が挫屈した缶をトリミングして挫屈部を除去した後、缶の金属板温度が板温で280℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従いネック加工及びフランジ加工を行い、缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。 こうして得た缶の内面側フィルムについて缶底部の耐デント性のみを調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、缶底部の耐デント性が実施例に比べ劣っており実用レベルにはなかった。この原因を調べるため、デント部フィルムのゴム弾性樹脂の分散状態を観察した結果、ポリエステル樹脂の衝撃破壊が伝播してゴム弾性樹脂も微細なクラックが発生しており破壊されていることが判った。また、パンチの離型性については前述したように、著しく劣ったものであった。
(比較例5)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、粒子径が0.2μmの滑材を0.3質量%、酸化防止剤を含む、融点が248℃の厚み12μmのゴム弾性樹脂とビニル重合物を含まないフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が750nmのゴム弾性樹脂を10質量部及びビニル重合体を2.0質量部含む、融点が248℃の厚み13μmのフィルム層からなる総厚みが25μmの二層フィルム(フィルム18)を作成した。
こうして得たフィルム18と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例3で使用したアルミニウム合金板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム18をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いてアルミニウム合金板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネートアルミニウム合金板(テスト19)を作成した。
テスト19で得られたアルミニウム合金板の、ポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト19のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤、酸化防止剤、熱安定化剤の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト19のラミネートアルミニウム合金板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、100缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が62%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
成形缶は缶開口部の挫屈が発生し、正規の缶高さを確保するのが難しい状況の缶が散発しており、生産性の点で実用レベルにはないものであった。
しかし、一応正規の缶高さが得られる缶だけを抽出し、開口部をトリミングした後、缶の金属板温度が板温で265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。
こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、比較例5のテスト19のラミネートアルミニウム合金板は、前述したようにパンチ離型性が劣るため、缶開口部の挫屈が発生し、正規の缶高さを確保するのが難しい状況の缶が散発しており、実用性レベルにはない。
又、テスト19から得られた缶は、内面フィルムのパンチ離型性が悪いと起こるパンチ傷があり、内面フィルムの健全性を示すQTV値は実施例に比べ高い値を示し、実用レベルにはない。但し、耐デント性は実施例と差はなく実用レベルであった。
(比較例6)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、等価球換算径が780nmのゴム弾性樹脂を5質量部及びビニル重合体を1.0質量部含む、融点が248℃で厚みが4μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が750nmのゴム弾性樹脂を15質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が237℃の厚みが4μmのフィルム層からなる、総厚みが8μmの二層フィルム(フィルム19)を作成した。
こうして得たフィルム19と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例4で使用した電解クロム酸処理鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム19をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト20)を作成した。
テスト20で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト20のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑材の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト20のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が55%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムの離型性を調べた。その結果は表2に示した。
更に、開口部をトリミングし、缶の金属板温度が板温で265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、比較例6のテスト20のラミネート鋼板は、パンチ離型性は良好で製缶性には問題ない。しかし、テスト20から得られた缶は、内面フィルムが薄い分健全性を示すQTV値や耐デント性は実施例に比べ劣り、実用レベルにはないものであった。
(比較例7)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑剤、酸化防止剤、等価球換算径が780nmのゴム弾性樹脂を5質量部及びビニル重合体を1.0質量部含む、融点が248℃の厚み15μmのフィルム層と、ポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が750nmのゴム弾性樹脂を15質量部及びビニル重合体を3.0質量部含む、融点が237℃の厚み30μmのフィルム層からなる総厚みが45μmの二層フィルム(フィルム20)を作成した。
こうして得たフィルム20と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例1で使用したNiめっき鋼板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム20をポリエステルフィルム層(B層)が鋼板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いて鋼板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネート鋼板(テスト21)を作成した。
テスト21で得られたラミネート鋼板の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト21のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト21のラミネート鋼板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、80缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が55%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。成形缶は缶開口部の挫屈が発生し、正規の缶高さを確保するのが難しい状況の缶が散発しており、生産性の点で実用レベルにはなかった。
しかし、一応正規の缶高さが得られる缶だけを抽出し、開口部をトリミングした後、缶の金属板温度が板温で265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。
表2から判るように、比較例7のテスト21のラミネート鋼板は、前述したようにパンチ離型性が劣るため、缶開口部の挫屈が発生し、正規の缶高さを確保するのが難しい状況の缶が散発しており、実用性レベルにはない。又、テスト21から得られた缶は、内面フィルムのパンチ離型性が悪いと起こるパンチ傷があり、内面フィルムの健全性を示すQTV値は実施例に比べ若干高い値を示したが実用レベルにはあった。又、耐デント性は良好であった。
(比較例8)
缶の内面用ポリエステルフィルム(F)として、ポリエステルフィルム層(A層)は、滑材、酸化防止剤、熱安定化剤を含む融点が248℃で厚みが6μmの、ゴム弾性樹脂とビニル重合物を含まないフィルム層とポリエステルフィルム層(B層)は、酸化防止剤、熱安定化剤、等価球換算径が750nmのゴム弾性樹脂を43質量部及びビニル重合体を10.0質量部含む、融点が237℃で厚みが6μmのフィルム層からなる、総厚みが12μmの二層フィルム(フィルム21)を作成した。
こうして得たフィルム21と実施例1で使用したフィルムBを用いて、実施例3で使用したアルミニウム合金板を加熱ロール(ジャッケトロール)で加熱し、板温が260℃で一方の面にフィルム18をポリエステルフィルム層(B層)がアルミニウム合金板と相接するように、他方の鋼板面にはフィルムBを、ラミネートロールで熱圧着法により両面に一次接着した後、続いてアルミニウム合金板板温を265℃で3秒間加熱した後30℃の水中に浸漬して急冷し、ポリエステルフィルムラミネートアルミニウム合金板(テスト22)を作成した。
テスト22で得られたアルミニウム合金板の、ポリエステルフィルム層(B層)に含有しているゴム弾性樹脂及びビニル重合体の分散状態を観察した結果、テスト22のゴム弾性樹脂はビニル重合体でほぼカプセル化されていた。
なお、缶の内面側に相当する鋼板表面に被覆されているポリエステルフィルム(F)の、ポリエステルフィルム層(A層)及びポリエステルフィルム層(B層)の冷結晶化熱、結晶融解熱、ガラス転移温度、極限粘度、ゴム弾性樹脂の内容、ビニル重合体の内容の詳細は表1に、又、滑剤、酸化防止剤、熱安定化剤の内容の詳細は、表2に示した。
こうして得たテスト22のラミネートアルミニウム合金板の両面に成形用潤滑剤を塗油後、ポリエステルフィルム(F)が被覆された面が缶の内面側になるように、100缶/分の加工速度でカップ絞り加工、再絞り加工及びしごき加工を行って、缶壁部の加工度が62%の350mlビール缶用サイズのシームレス缶を成形した。得られた成形缶について、内面フィルムのパンチの離型性を調べた。その結果は表2に示した。成形缶は缶開口部の挫屈が発生し、正規の缶高さを確保するのが難しい状況の缶が散発しており、生産性の点で実用レベルにはなかった。
しかし、一応正規の缶高さが得られる缶だけを抽出し、開口部をトリミングした後、缶の金属板温度が板温で265℃になるように、熱風炉中を通過させて加熱した後、直ちに圧縮空気を吹き付けて急冷した。次いで、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成した。得られた缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。
こうして得た缶の内面側フィルムについてQTV試験及び耐デント性を調べた。その結果は表2に示した。表2から判るように、比較例8のテスト22のラミネートアルミニウム合金板は、前述したようにパンチ離型性が劣るため、缶開口部の挫屈が発生し、正規の缶高さを確保するのが難しい状況の缶が散発しており、実用性レベルにはない。
しかし、テスト22から得られた缶は、内面フィルムの健全性を示すQTV値は実施例と差はなく実用レベルにある。また、耐デント性は優れていた。
(比較例9)
実施例1のテスト2から得た缶壁部の加工度が58%の350mlサイズのシームレス缶を用いて、開口部をトリミングした後、缶体を板温が240℃になるよう熱風炉中を通過させて加熱し、その後圧縮空気で急冷した後、実施例1の手順に従ってネック加工及びフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成(テスト23)した。
同様に、実施例2のテスト5から得た缶壁部の加工度が58%の350mlサイズのシームレス缶を用いて、開口部をトリミングした後、缶体を板温が245℃になるよう熱風炉中を通過させて加熱し、その後空冷した後、実施例1の手順に従ってネック加工およびフランジ加工を行い、350mlサイズの缶を作成(テスト24)した。
得られたテスト23の金属缶及びテスト24の金属缶は、共にフランジ部端面からフィルム剥離が起こっており、缶としては劣ったものである。得られたテスト23の缶及びテスト24の缶の内面側フィルムの密度の測定結果は表2に示した。更に、得られた缶について念のため内面フィルム剥離個所の直下までQTV電解液を入れてQTV試験を、また、耐デント性についても併せて調べた。その結果は表2に示した。
表2から判るように、比較例9のテスト23及びテスト24から得られた缶は、内面フィルムの健全性は実施例に比べ劣っており実用レベルにはなく、ネック加工部がQTVの反応点になっていた。また、耐デント性も比較例9のテスト23及びテスト24の缶は実施例に比べ、劣ったものであった。この結果は、缶体のフィルムが密度1.360g/cm3 以下の、非晶質若しくは非晶質に近い状態でないと、ネック加工およびフランジ加工でフィルム剥離を起こしたり、耐デント性が低下することを示している。