JP2005263795A - フラーレン誘導体及びメタノフラーレンの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 高収率で安全なメタノフラーレンの製造方法を提供する。
【解決手段】 電子吸引性基を有するメチレン化合物に対して、当量以下の塩基の存在下、ハロゲン化剤を作用させた後、フラーレンと混合し、更に塩基を加えて反応させる。
【選択図】 なし

Description

本発明は新規なフラーレン誘導体と、メタノフラーレンの新規な製造方法に関する。具体的には、工業的に使用が好まれる安全な溶剤に対して高い溶解性を示し、且つ、酸処理後にアルカリ性水溶液に可溶なフラーレン誘導体に関し、更には、高収率で安全なメタノフラーレンの製造方法に関する。
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。そして、数多くのフラーレンが合成されると共に、それらの様々な用途への適用が検討されている。
上記検討されている用途としては、例えば、太陽電池、光伝導体、二次電池、紫外線吸収剤、燃料電池等が挙げられる。また、フラーレンを界面活性剤等によって水中に分散したり、水溶性誘導体化したりすることにより、化粧品や医薬品へ応用することも期待されている。フラーレンにはラジカル失活作用や酵素阻害作用、軟骨分化誘導促進作用、抗変位原性などが知られており、医薬品としての利用可能性も考えられる。
ところで、近年、フラーレンの電子受容性を活用した有機薄膜太陽電池への用途への適用やそのユニークな球状構造を利用したレジスト用途への適用も期待されているが、そのためには、適当な膜厚の塗膜を形成する必要がある。
しかしながら、フラーレンは、黒鉛、カーボンブラック、ダイアモンド、炭素繊維、カーボンナノチューブ等の他の炭素材料と同様に、疎水性が高いために、各種極性溶媒への溶解性が低く、特に水には殆ど溶けない。フラーレンが比較的高い溶解性を示す溶媒は、芳香族炭化水素系のごく一部に限られており、極性溶媒への低溶解性がフラーレンを各種用途に適用する制約となっている。例えば、ベンゼン系及びハロゲン系溶媒に対するC60の溶解度は、対トルエンが2.8mg/cm3、対クロロホルムが0.16mg/cm3である(非特許文献1)が、これらの溶媒は安全性の面で好ましくなく、取り扱いが難しいという課題がある。また、マロン酸エチルエステル基が一つ付加したフラーレン誘導体が、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)に溶解するか試験したところ、溶解度は1mg/cm3未満であった。
一方、酸解離性を有するフラーレン誘導体が得られれば、水溶性フラーレン誘導体の原料になると考えられる。水溶性フラーレンが得られれば、医薬品、農薬、化粧品用途への適用が期待される他、水系コーティング材などにも利用できる。また、酸解離性基を有するフラーレン類は、IC製造用、マスク製造用、画像形成用、液晶画面製造用、カラーフィルター製造用あるいは平板印刷用などのパターン形成用材料分野で、化学増幅型ポジレジストへの適用が期待される。
更に、フラーレンの閉殻骨格構造は、レジスト用途におけるエッチング耐性の向上に有効であると言われている(特許文献1)。メタノフラーレン誘導体の塗膜作製例も挙げられているが(特許文献2)、回転数が500rpmで膜厚が100nm程度しかなく、一般的には半導体集積回路用レジストに求められる膜厚が、220〜360nmと言われているのに対して、十分な膜厚の塗膜が得られていない。また、メタノフラーレン誘導体をクロロホルムに溶解させた例はあるが(特許文献2)、クロロホルムは毒物および劇物取締法に基づく毒物であるので、排気設備が必要な上、安全上好ましくない。
上記のメタノフラーレンとはフラーレン誘導体の一種であり、フラーレン骨格上にメチレン基による架橋結合を有するフラーレン誘導体の総称である。通常は、フラーレン骨格上に以下の式(0)で表わされるシクロプロパン構造を有するフラーレン誘導体を指す。
Figure 2005263795
式(0)において、2つのCfは、フラーレン骨格上の隣接する2つの炭素原子(具体
的には、隣接する2つの6員環の間で(6,6)結合を形成する2つの炭素原子)を表わし、2つのRは各々独立に、水素原子又は任意の置換基を指す。Rの一方又は双方に各種の官能基を導入することで、様々な機能を付与したフラーレンの実現が期待される。例えば、Rとしてエステル基を有するメタノフラーレン、即ち、フラーレンにマロン酸エステルを付加した誘導体(フラーレン・マロン酸エステル付加体)は、有機溶媒への優れた溶解性を発揮することが期待される。
こうした背景から、近年、種々のメタノフラーレンを製造する試みがなされている。特に、上述のフラーレン・マロン酸エステル付加体については、既にその製造方法が幾つか報告されている。
具体的に、非特許文献2及び特許文献3には、付加原料としてブロモマロン酸ジエチルを用い、水素化ナトリウムの存在下、これをトルエンに溶解させたフラーレンC60と反応させることにより、フラーレン・マロン酸エチル付加体を製造する方法が記載されている。
また、非特許文献3,4には、付加原料としてマロン酸エステルを用い、1,8−diazebicyclo[5.4.0]−undec−7−ene(DBU)の存在下、フラーレンC60及びハロゲン化剤(四臭化炭素又はヨウ素)と反応させることにより、フラーレン・マロン酸エステル付加体を製造する方法が記載されている。
J.Phys.Chem.,1993年,97巻,p.3379 Chem.Ber.,1993年,126巻,p.1957 J.Chem.Soc.,Perkin Trans. 1.,1997年,p.1595 Helvetica Acta,1997年,p.1238 特開平10−282649号公報 特開平11−143074号公報 特表平8−509232号公報
このように、特許文献1,2を始めとした従来公知のフラーレン誘導体は、各種の溶媒、特に極性溶媒への溶解性が低く、また、酸解離性やアルカリ溶解性の面でも充分とは言えなかった。このため、工業的に好ましい安全性の高い溶媒に対して高い溶解性を示し、且つ、酸処理後にアルカリ溶解性を有する、新たなフラーレン誘導体が求められていた。
一方、メタノフラーレンの製造に関する従来技術についても、非特許文献2及び特許文献3に記載の技術では、反応過程において水素が発生するため、反応時の取り扱いが繁雑で安全面でも課題がある。また、付加原料として用いるブロモマロン酸エステル類が入手困難であり、合成に手間や費用がかかるという課題がある。更に、エステルの置換基の種類や付加位置によっては、有機溶媒に対する溶解性の低いフラーレン・マロン酸エステル付加体が副生物として生成してしまい、目的とするフラーレン・マロン酸エステル付加体の収率が充分でないという課題もある。また、非特許文献3,4に記載の技術では、水素等の発生がなく、反応時の取り扱いが容易で安全性にも優れているが、目的とするマロン酸エステルの収率が低いという課題がある。
更に、メタノフラーレンの用途の広がりに応じて、マロン酸エステルに限らず、その他の各種のカルボニル化合物をフラーレンに付加した、様々な構造のメタノフラーレンを合成することが要望されていた。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、工業的に使用が好まれる安全な溶剤に対して高い溶解性を示し、且つ、酸処理後にアルカリ溶解性を有するフラーレン誘導体を提供することに存する。
また、本発明の別の目的は、高収率で安全なメタノフラーレンの製造方法を提供することに存する。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一定量の酸解離性基を有するフラーレン誘導体が、有機溶剤に対して高い溶解性を示すと共に、酸処理後に優れたアルカリ溶解性を示すことを見出した。また、電子吸引性基を有するメチレン化合物に対して当量以下の塩基の存在下、ハロゲン化剤を作用させた後、得られた生成物をフラーレンと混合し、更に塩基を加えて反応させることによって、上述のフラーレン誘導体に該当するものを含む各種のメタノフラーレンを高い収率で安全に製造することが可能となり、上記課題が効率的に解決されることを見出して、本発明を完成させた。
即ち、本発明の趣旨は、有機溶剤に可溶、且つ、酸処理後にアルカリ性水溶液に可溶であることを特徴とするフラーレン誘導体に存する。
また、本発明の別の趣旨は、電子吸引性基を有するメチレン化合物に対して、当量以下の塩基の存在下、ハロゲン化剤を作用させた後、フラーレンと混合し、更に塩基を加えて反応させることを特徴とする、メタノフラーレンの製造方法に存する。
本発明のフラーレン誘導体は、有機溶剤に可溶であるとともに、酸解離性を有し、酸処理後にアルカリ性水溶液に可溶である。よって、各種の用途に好適に適用できる。
また、本発明のメタノフラーレンの製造方法によれば、上述の本発明のフラーレン誘導体に該当するメタノフラーレンを含め、各種のメタノフラーレンを高い収率で安全に製造することが可能となる。
以下、本発明の代表的な実施の形態につき詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨に反しない限りにおいて種々変形して実施することができる。
[I.フラーレン誘導体]
〔フラーレンについて〕
「フラーレン」とは、炭素原子が球状又はラグビー状に配置して形成される閉殻状の骨格(以下、「フラーレン骨格」という。)を有する炭素クラスターをいう。その炭素数は通常60以上、120以下の範囲であり、具体的にはC60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びより高次の炭素クラスターが挙げられる。これらは単一でも混合物であってもよい。これらのうち、製造時における反応原料の入手の容易さからC60又はC70が好ましく、特にC60が好ましい。
〔有機溶剤への可溶性について〕
本発明のフラーレン誘導体は、有機溶媒に可溶である。本発明において、フラーレン誘導体が「有機溶剤に可溶」であるとは、フラーレン誘導体を有機溶剤に混合した際に、目視で沈殿物や不溶分が検出されないことである。具体的には、常温(20〜25℃)、常圧下で、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、乳酸エチル、又はメチルアミルケトンの何れかの溶媒に対して、溶媒の単位体積(1cm3)当たり1mg以上溶解するかどうかで判断する。なお、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、乳酸エチル、メチルアミルケトンは半導体集積回路作製用やマスク製造用、液晶用集積回路作製用および液晶画面製造用レジスト材料の溶媒として一般的に用いられる溶媒である。
上述の溶媒に対する好ましい溶解度の値はフラーレン誘導体の用途によって異なるが、例えば、半導体集積回路作成用やマスク製造用、液晶用集積回路作成用および液晶画面製造用レジスト用途のための塗膜を形成するためには、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、乳酸エチル、及びメチルアミルケトンのうち何れかの溶媒に対して、通常10mg/cm3以上、中でも50mg/cm3以上、更には100mg/cm3以上の溶解性を有するのが良い。
〔酸処理後のアルカリ溶解性について〕
本発明のフラーレン誘導体は、酸処理後にアルカリ性水溶液に可溶であり、通常、酸解離性基を有している。
本発明でいう酸解離性基とは、例としては、フェノール系水酸基やカルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸およびリン酸のような酸のエステル基のことであって、酸の作用により、アルコキシ基が脱離して水酸基に変化する有機基が挙げられる。この中でカルボン酸エステル基が特に好ましい。
酸処理とは、フラーレン誘導体をpH7未満の酸と接触させることをいう。
酸処理に使用される酸の種類は特に制限されないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸などの鉱酸;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸などのカルボン酸;パラトルエンスルホン酸、9−カンファースルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸又はその水和物;三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、塩化アルミニウム、塩化錫、四塩化チタン、ヨウ化マグネシウム、トリメチルシリルトリフラートなどのルイス酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いても構わない。
酸に接触させるとは、有機溶媒に本発明のフラーレン誘導体を溶解させた溶液に酸を加えたり、フラーレン誘導体をスピンコートにより形成した塗膜を酸の蒸気にさらすなどの方法のことをいう。ここで、酸処理時の温度、圧力、処理時間は、酸による反応が起こる範囲であれば特に制限はないが、通常、0〜150℃、常圧で行なう。
酸処理によって、フラーレン誘導体の有する酸解離性基が解離して酸性官能基を生じる。例えば、フラーレン誘導体が酸解離性基としてカルボン酸エステル基を有する場合、このカルボン酸エステル基が酸で解離してカルボン酸を生じることになる。
アルカリ性水溶液は、pH7を越える水溶液である。通常は、所謂アルカリ性化合物を水に混合したものである。アルカリ性化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類;エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、N,N−ジエチルメチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムハイドロオキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピペリジン等の環状アミン類等が挙げられる。これらのアルカリ性化合物は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせで使用しても良い。水に対するアルカリ性化合物の混合割合は、アルカリ性化合物の種類によっても異なり、特に制限されるものではないが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下の範囲である。これらのアルカリ性水溶液に対して、通常1mg/cm3、好ましくは、5mg/cm3以上の溶解性を有するフラーレン誘導体が好ましい。
なお、本発明において「アルカリ性水溶液に対して可溶である」とは、常温(20〜25℃)、常圧で、0.1重量%水酸化ナトリウム水溶液に対して1mg/cm3以上溶解することをいうものとする。
〔フラーレン誘導体の構造〕
以上の特性を満たす本発明のフラーレン誘導体の好ましい例としては、下記一般式(Ia)で表されるフラーレン誘導体が挙げられる。
Figure 2005263795
上記一般式(Ia)中、FLNは、フラーレンの炭素骨格を表わす。
1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。任意の置換基とは、以下に説明する酸性解離基の他、ハロゲン原子、水酸基、及び、炭素数1〜21の有機基を表わす。炭素数1〜21の有機基としては、例えば、カルボキシル基や下記一般式(2)で表される以外の第1級アルキルオキシ基および第2級アルキルオキシ基等が挙げられる。R1及びR2は同一であっても異なっていても良いが、同一である方が合成上好ましい。
Figure 2005263795
(上記一般式(2)中、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表す。)
1及びR2の少なくとも一方、好ましくは両方は、酸解離性基である。酸解離性基の種類としては、フェノール性水酸基のエステル基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基等が挙げられるが、好ましくは、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基であり、更に好ましくはカルボン酸エステル基である。
一般式(Ia)中、nは架橋メチレン基の付加数に相当し、2以上の整数を表す。この数は基本的に多い方が、フラーレン骨格あたりの酸性解離基の数が多くなるので、本発明に必要な上述の物性(即ち、有機溶媒への溶解性、及び、酸処理後のアルカリ性水溶液に対する溶解性)をフラーレンに付与する上で好ましい。また、架橋メチレン基の付加数nの理論上の最大値は30であるが、立体反発等の要因により、nの上限は通常、もっと低い数となる。
一般式(Ia)のフラーレン誘導体の物性は、R1及びR2の種類及びnの数の他、フラーレン骨格における置換位置などにも依存している。例えば、nの数が同じであっても、架橋メチレン基の付加位置の対称性が高いものは、対称性が低いものに比べ、有機溶媒に対する溶解性や酸処理後のアルカリ性水溶液に対する溶解性が低くなる傾向がある。
上記一般式(Ia)の好ましい例としては、下記一般式(Ib)で表されるフラーレン誘導体が挙げられる。
Figure 2005263795
(上記一般式(Ib)中、R3及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の有機基を表わす。FLN及びnは、一般式(Ia)と同義である。但し、R3及びR4の少なくとも一方は酸の作用により水酸基を生じる有機基である。また、R3とR4で環状構造を形成していても良い。)
3及びR4としては、炭素数1〜20の置換されていてもよいアルキル基、炭素数1〜15の置換されていてもよいアルコキシ基、炭素数6〜20の置換されていてもよいアリール基、炭素数6〜20の置換されていてもよいアリールオキシ基、炭素数2〜10の置換されていてもよいアルコキシカルボニルオキシ基、又はトリアルキルシリルオキシ基などが良い。また、R3とR4が結合して環を形成していてもよい。なお、ここでの炭素数は、置換基を有する場合はこれを含めることとする。
3及びR4の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、tert−アミル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、ラウリル基、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、2−ノルボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基等の炭素数1〜12のアルキル基;メトキシメチル基、1−エトキシメチル基、1−エトキシプロピル基、1−メトキシプロピル基、2−メトキシプロピル基、2−エトキシプロピル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、1−メトキシシクロヘキシル基、1−エトキシシクロヘキシル基等の炭素数1〜12の置換アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、tert−アミルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、n−ヘキシオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロプロピルメトキシ基、シクロブトキシ基、シクロブチルメトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘキシルメトキシ基、シクロヘプチルオキシ基、2−ノルボルニルオキシ基、1−アダマンチルオキシ基、2−アダマンチルオキシ基、2−メチル−2−アダマンチルオキシ基、2−エチル−2−アダマンチルオキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、1−(1−エトキシ)エトキシ基、1−(1−エトキシ)プロピルオキシ基、1−(1−メトキシ)プロピルオキシ基、テトラヒドロフラニルオキシ基類、テトラヒドロピラニルオキシ基類、tert−ブトキシカルボニルメチルオキシ基、p−(tert−ブトキシ)フェニルメチルオキシ基、p−(tert−ブトキシ)フェニルエチルオキシ基、1−メチル−1−(1−メトキシ)エトキシ基、1−メチル−(1−エトキシ)エトキシ基、1−(1−メトキシ)シクロペンチルオキシ基、1−(1−エトキシ)シクロペンチルオキシ基、1−(1−メトキシ)シクロヘキチルオキシ基、1−(1−エトキシ)シクロヘキチルオキシ基等の炭素数1〜15の置換アルコキシ基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、o−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、p−メチルフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基等の炭素数6〜20の置換又は無置換のアリール基;フェノキシ基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基、o−メチルフェノキシ基、m−メチルフェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、o−メトキシフェノキシ基、m−メトキシフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、2,3−ジメチルフェノキシ基、2,4−ジメチルフェノキシ基、2,5−ジメチルフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、3,4−ジメチルフェノキシ基、3,5−ジメチルフェノキシ基、2,3,5−トリメチルフェノキシ基、2,3,6−トリメチルフェノキシ基、2,4,6−トリメチルフェノキシ基、o−ニトロフェノキシ基、m−ニトロフェノキシ基、p−ニトロフェノキシ基等の炭素数6〜20の置換又は無置換のアリールオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロピルオキシカルボニルオキシ基、iso−プロピルオキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基、sec−ブトキシカルボニルオキシ基、iso−ブトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−ペンチルオキシカルボニルオキシ基、tert−アミルオキシカルボニルオキシ基、2−メチルブトキシカルボニルオキシ基、3−メチルブトキシカルボニルオキシ基、n−ヘキシルオキシカルボニルオキシ基、n−ヘプチルオキシカルボニルオキシ基、n−オクチルオキシカルボニルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシカルボニルオキシ基、n−ノニルオキシカルボニルオキシ基、シクロプロピルオキシカルボニルオキシ基、シクロプロピルメトキシカルボニルオキシ基、シクロブトキシカルボニルオキシ基、シクロブチルメトキシカルボニルオキシ基、シクロペンチルオキシカルボニルオキシ基、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ基、シクロヘキシルメトキシカルボニルオキシ基、シクロヘプチルオキシカルボニルオキシ基、2−ノルボルニルオキシカルボニルオキシ基、等の炭素数2〜10のアルコキシカルボニルオキシ基;メトキシメトキシカルボニルオキシ基、1−エトキシエトキシカルボニルオキシ基、1−エトキシプロピルオキシカルボニルオキシ基、1−メトキシプロピルオキシカルボニルオキシ基、2−メトキシプロピルオキシカルボニルオキシ基、2−エトキシプロピルオキシカルボニルオキシ基、テトラヒドロフラニルオキシカルボニルオキシ基、テトラヒドロピラニルオキシカルボニルオキシ基、1−メトキシシクロヘキシルオキシカルボニルオキシ基、1−エトキシシクロヘキシルオキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜10の置換アルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。また、R3とR4が結合して環状構造を形成している例としては、メルドラム酸が挙げられる。更に、トリアルキルシリルオキシ基としては、下記一般式(3)で表されるもの、具体例としては、トリメチルシリルオキシ基、ジメチルエチルシリルオキシ基、メチルジエチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基等が挙げられる。
Figure 2005263795
(式中、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、炭素数1〜10の炭化水素基を表し、同じであっても異なっていてもよい。この場合の炭化水素基は、飽和又は不飽和、脂肪族又は芳香族のいずれでもよく、脂肪族炭化水素の場合、直鎖、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。また、この炭化水素基は、本発明の趣旨に反しないような置換基を有していても良い。炭化水素基の炭素数は、置換基を有する場合にはこれを含めて、通常10以下、好ましくは7以下、更に好ましくは4以下の範囲であり、下限は1である。)
これらのうち、R3及びR4としては、一般式(2)で表わされる置換アルコキシ基、下記一般式(4)で表わされる置換アルコキシ基、及び、一般式(3)で表されるトリアルキルシリルオキシ基が、酸で容易に解離するので好ましい。更に好ましくは一般式(2)で表される置換アルコキシ基であり、特に好ましくはtert−ブトキシ基である。
Figure 2005263795
(上記式(4)中、R17、R18は、水素原子又は炭素数1〜4の有機基を表し、R19は炭素数1〜4の有機基を表す。但し、R17とR19又はR18とR19が結合してアルキレン基を形成してもよい。)
なお、上記R3及びR4の各例示基の置換基としては、有機基であって、本発明の趣旨に反する虞のないものであれば、その種類は特に制限されない。「本発明の趣旨に反する」置換基とは、例えば、フラーレン誘導体の有機溶剤への可溶性や酸処理後のアルカリ性水溶液への可溶性を大きく損なったり、フラーレン誘導体の有する付加基の酸解離性を打ち消したりする基をいう。好ましい置換基の具体例としては、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基等が挙げられる。
3及びR4が共にアルキル基、アリール基、及びアリールオキシ基の何れかの基である場合、一般式(Ib)にて表される化合物は酸で解離しなくなってしまうため、水溶性フラーレンの原料や化学増幅型レジスト用の化合物として用いるためには、R3及びR4の少なくとも一方は、一般式(2)や一般式(4)で表わされる置換アルコキシ基、置換されてもよいアルコキシカルボニルオキシ基、又は一般式(3)で表わされるトリアルキルシリルオキシ基であることが必要である。中でも好ましいのは、一般式(2)、一般式(4)で表わされる置換アルコキシ基、又は一般式(3)で表わされるトリアルキルシリルオキシ基であり、特にtert−ブトキシ基が好ましい。
例えば、化学増幅型レジストへの適用を考えた場合、膜の露光部と未露光部との現像液に対する溶解性変化を大きくし、解像性を向上させるという観点から、R3及びR4は、少なくとも1つか或いは好ましくは両方ともアルコキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基、又はトリアルキルシリルオキシ基であることが好ましい。アルコキシ基及びアルコキシカルボニルオキシ基の中でも好ましいのは、tert−ブトキシ基、tert−アミルオキシ基、1−アダマンチルオキシ基、2−メチル−2−アダマンチルオキシ基、2−エチル−2−アダマンチルオキシ基等の第三級アルコキシ基;メトキシメトキシ基、1−(1−エトキシ)エトキシ基、1−(1−エトキシ)プロピルオキシ基、1−(1−メトキシ)プロピルオキシ基等の1−アルコキシ置換アルコキシ基(ここでいう“1”とは、基本骨格のアルコキシ基における1位を表わす。即ち、“1−アルコキシ”とは、アルコキシ基の酸素原子が結合した炭素原子にアルコキシ基が結合していることを意味する。);1−メチル−1−(1−メトキシ)エトキシ基、1−メチル−1−(1−エトキシ)エトキシ基、tert−ブトキシカルボニルメチルオキシ基等のアルコキシカルボニル置換アルコキシ基;2−テトラヒドロフラニルオキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基等の環状アセタールオキシ基;tert−ブトキシカルボニルオキシ基、tert−アミルオキシカルボニルオキシ基等の第三級アルコキシカルボニルオキシ基;トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリルオキシ基であり、特にtert−ブトキシ基が好ましい。
〔フラーレン誘導体の製造〕
一般式(Ia),(Ib)で表わされる構造を有するフラーレン誘導体の製造方法は特に制限されないが、例としては、後述するメタノフラーレンの製造方法が挙げられる。この方法において、上述の酸解離性基を有するメチレン化合物を原料として用いることにより、目的とするフラーレン誘導体を得ることが可能となる。
〔その他〕
以上、説明した本発明のフラーレン誘導体は、有機溶媒、特に、工業的に安全で好ましい溶媒に対する溶解性に優れている。工業的に安全で好ましい溶媒としては、2−ヘキサノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、2−ヘプタノン等のケトン系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶媒、ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル−2−ヒドロキシブチレート、エチルアセトアセテート、酢酸ブチル、酢酸アミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル等のエステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコール系溶媒、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、本発明のフラーレン誘導体は、特に、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、乳酸エチル、及びメチルアミルケトンに対する溶解性が優れている。
このように、本発明のフラーレン誘導体は、工業的に安全で好ましい溶媒に対する溶解性に優れているため、本発明のフラーレン誘導体をこれらの溶媒に溶解させて塗膜形成に用いることにより、容易且つ安全に塗膜を形成することができ、塗膜の膜厚を精密に制御することができ、且つ、画像を形成できる。これによって、フラーレンの電子受容性を活用した有機薄膜太陽電池への用途への適用や、そのユニークな球状構造を利用したレジスト用途への適用が期待される。
なお、本発明のフラーレン誘導体を用いて塗膜を形成する場合は、フラーレン誘導体を上記例示の有機溶媒に溶解させた溶液を用いて、スプレィ方式やワイヤーバーなどによるバーコート法や転写ロール法による塗布やスピンコート法等の方法を適用することができる。また、塗布した膜は触針式の段差計などにてその膜厚を測定することができる。
また、本発明のフラーレン誘導体は、酸解離性基を有し、酸処理後にアルカリ性水溶液に対して高い溶解性を示すことから、水溶性フラーレン誘導体の原料としての用途や、化学増幅型レジスト用途への適用も期待される。
[II.メタノフラーレンの製造方法]
本発明のメタノフラーレンの製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」と略称する。)は、電子吸引性基を有するメチレン化合物に対して、当量以下の塩基の存在下、ハロゲン化剤を作用させた後、得られた生成物をフラーレンと混合し、更に塩基を加えて反応させることを特徴としている。
〔1.原料〕
<フラーレン>
本発明の製造方法で用いるフラーレンは特に制限されず、上述のフラーレンの定義に該当するものであれば、任意のものを用いることができる。具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びより高次の炭素クラスターが挙げられる。これらは何れか1種の単体であっても、2種以上の混合物であってもよい。これらのうち、製造時における反応原料の入手の容易さからC60又はC70が好ましく、特にC60が好ましい。また、本発明の趣旨に反しない限り(例えば、後述する架橋メチレン基の導入を阻害したり、目的とするメタノフラーレンの用途を妨げたりしない限り)において、(i)フラーレン骨格上に他の置換基を有するフラーレン誘導体、(ii)フラーレン又はその誘導体の骨格内部に金属や化合物等を内包するもの、(iii)フラーレン又はその誘導体が他の金属原子や化合物と錯体を形成したもの、等を用いることも可能である。
<メチレン化合物>
本発明の製造方法で用いるメチレン化合物は、電子吸引性基を有することを要する。この様なメチレン化合物は通常、下記式(IIa)で表わされる構造を有する。
Figure 2005263795
上記式(IIa)において、R5及びR6は各々独立に、水素原子又は任意の置換基を表わす。ここで任意の置換基とは、炭素数1〜21の有機基をいい、また、R5及びR6が結合して環状の構造を形成していてもよい。
本発明においては、R5及びR6の少なくとも一方が、電子吸引性基であることを要する。R5及びR6が結合して環状構造を形成する場合には、R5及びR6が結合して形成される基が、電子吸引性の性質を有していることを要する。特に、R5及びR6の両方が電子吸引性基を有していることが好ましい。電子吸引性基が隣接することによって、メチレン基の酸性度が高くなり、水素原子を塩基によって容易に引き抜いてアニオン化することが出来る。即ち、メチレン基を容易にハロゲン化することができ、更に、ハロゲン化されたメチレン化合物も容易にアニオン化されるため、フラーレンとの付加反応が容易に生じることになる。
なお、本発明において「電子吸引性基」とは、ハメット則における置換基定数が0以上となる基をいう。
置換基定数σfは、通常、その置換基をパラ位に有する安息香酸(p−置換安息香酸)の水中25℃のイオン化の解離平衡定数Kと、パラ位に置換基を有する安息香酸エチル(p−置換安息香酸エチル)の塩基加水分解速度定数kとを用いて、下記式によって定義される。
log(kf/kH)=ρlog(Kf/KH)=ρσf
ここに、kf及びkHはそれぞれp−置換安息香酸エチル及び無置換安息香酸エチルの塩基加水分解速度定数、Kf及びKHはそれぞれパラ置換安息香酸及び無置換安息香酸の水中25℃におけるイオン化の解離平衡定数を表し、ρは、置換基の種類と温度や溶媒などの条件によってきまる定数を表わす。なお、ρは25℃での水中におけるパラ置換安息香酸と無置換安息香酸との解離反応においてρ=1となる。
したがって、置換基定数σfは、下記数式(I)で表される。
σf=log(Kf/KH) ・・・数式(I)
なお、対象とする基の置換基定数が既知である場合は、例えば、化学便覧(改訂4版基礎編II:第347頁〜第348頁,1993年9月30日発行)に記載された値を用いることができる。また、対象とする基の置換基定数が既知で無い場合は、そのメチレン化合物におけるメチレン基に隣接する基の基本構造を、対象とする基全体の置換基定数とする。
電子吸引性基の例としては、−C(=O)−で表わされるカルボニル基を連結基として、その一方に置換基が結合して形成される置換カルボニル基や、ホルミル基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、シアノ基、有機スルフィニル基、有機スルフォキシ基、ハロゲン原子、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。中でも、置換カルボニル基が好ましい。カルボニル基の有する置換基としては、置換カルボニル基全体としての電子吸引性の性質を損なわない限り、その種類は特に制限されない。例としては後述する基が挙げられる。
なお、R5及びR6の何れか一方のみが電子吸引性基である場合、他方の基としては、その電子吸引性基の性質を打ち消すことのない基であれば、その種類は特に制限されない。一般的には、置換基定数が負の値を示す基(電子供与性基)であっても、並存する電子吸引性基の置換基定数(正の値)と比較して、その絶対値がより小さな値を示す基であれば、並存する電子吸引性基の性質を打ち消す虞が少ないと言える。このような、置換基定数の絶対値が比較的小さな電子供与性基の例としては、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基等が挙げられる。但し、あくまでも好ましいのは、R5及びR6の双方がともに電子吸引性基である場合、又は、R5及びR6が結合して環状構造を形成し、且つ、それが電子吸引性の性質を示す基である場合である。
本発明で用いるメチレン化合物としては、特に、R5及びR6の双方が置換カルボニル基である、下記式(IIb)で表わされる構造の化合物が好ましい。
Figure 2005263795
上記式(IIb)において、R7及びR8は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の有機基を表わす。有機基の種類は特に制限されないが、好ましい例としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、トリアルキルシリルオキシ基等が挙げられる。これらの例示基は何れも、更に置換基を有していても良い。これらの例示基が更に置換基を有する場合には、その置換基も含めた有機基全体としての炭素数が、前記範囲を満たすものとする。
アルキル基としては、鎖状でも環状でもよく、鎖状の場合は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、鎖状アルキル基と環状アルキル基とが結合した形状でもよい。また、飽和アルキル基でもよく、1又は2以上の不飽和結合を有する不飽和アルキル基(即ちアルケニル基やアルキニル基)であってもよい。アルキル基の炭素数は通常1以上、12以下である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、tert−アミル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、ラウリル基等の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、2−ノルボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基等の環状アルキル基;等が挙げられる。これらのアルキル基は置換基を有していてもよいが、その場合にはその置換基も含めた置換アルキル基全体としての炭素数が前記範囲を満たすものとする。置換基の具体例としては、アルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換アルキル基の具体例としては、メトキシメチル基、1−エトキシメチル基、1−エトキシプロピル基、1−メトキシプロピル基、2−メトキシプロピル基、2−エトキシプロピル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、1−メトキシシクロヘキシル基、1−エトキシシクロヘキシル基等が挙げられる。
アルコキシ基としては、酸素原子に上述のアルキル基が結合したものが挙げられる。よってその炭素数は通常1以上、12以下である。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、tert−アミルオキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、n−ヘキシオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等の鎖状アルキルオキシ基;シクロプロピルオキシ基、シクロプロピルメトキシ基、シクロブトキシ基、シクロブチルメトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘキシルメトキシ基、シクロヘプチルオキシ基、2−ノルボルニルオキシ基、1−アダマンチルオキシ基、2−アダマンチルオキシ基、2−メチル−2−アダマンチルオキシ基、2−エチル−2−アダマンチルオキシ基等の環状アルキルオキシ基;等が挙げられる。これらのアルコキシ基は上記のアルキル基の場合と同様の置換基を有していてもよいが、その場合にはその置換基も含めた置換アルコキシ基全体としての炭素数が、前記範囲を満たすものとする。置換アルコキシ基の具体例としては、メトキシメトキシ基、1−(1−エトキシ)エトキシ基、1−(1−エトキシ)プロピルオキシ基、1−(1−メトキシ)プロピルオキシ基、1−メチル−1−(1−メトキシ)−エトキシ基、1−メチル−1−(1−エトキシ)−エトキシ基、2−テトラヒドロフラニルオキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基、1−(1−メトキシ)シクロヘキシルオキシ基、1−(1−エトキシ)シクロヘキシルオキシ基、1−(1−メトキシ)シクロペンチル基、1−(1−エトキシ)シクロペンチル基などの1−アルコキシ置換アルコキシ基等が挙げられる。
アリール基としては、その環数は制限されず単環でも多環でもよいが、通常は1〜3であり、好ましくは1である。個々の環の員数も制限されないが、通常は3〜7であり、好ましくは5又は6である。また、複数の環を有する場合には、それらが直接結合していても、何らかの連結基を介して結合していてもよく、環の一部を共有して縮合していてもよい。アリール基の炭素数は通常6以上、20以下である。アリール基の具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントラセニル基類等が挙げられる。これらのアリール基は、更に置換基を有していてもよい。但し、置換基を有する場合にはそれらも含めたアリール基全体としての炭素数が、前記範囲を満たすものとする。置換基の具体例としては、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換アリール基の具体例としては、1−ナフチル基、2−ナフチル基、o−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、p−メチルフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基等が挙げられる。
アリーロキシ基としては、酸素原子に上述のアリール基が結合したものが挙げられる。よってその炭素数は通常6以上、20以下である。アリーロキシ基の具体例としては、フェノキシ基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基、アントラセニル基類等が挙げられる。これらのアリール基は、更に上述のアリール基と同様の置換基を有していてもよいが、その場合にはそれらも含めた置換アリーロキシ基全体としての炭素数が、前記範囲を満たすものとする。置換アリーロキシ基の具体例としては、o−メチルフェノキシ基、m−メチルフェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、o−メトキシフェノキシ基、m−メトキシフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、2,3−ジメチルフェノキシ基、2,4−ジメチルフェノキシ基、2,5−ジメチルフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、3,4−ジメチルフェノキシ基、3,5−ジメチルフェノキシ基、2,3,5−トリメチルフェノキシ基、2,3,6−トリメチルフェノキシ基、2,4,6−トリメチルフェノキシ基、o−ニトロフェノキシ基、m−ニトロフェノキシ基、p−ニトロフェノキシ基等が挙げられる。
アルコキシカルボニルオキシ基としては、カルボニルオキシ基に、エステル基がそのカルボニル炭素で結合した基が挙げられ、下式(5)における「O−C(=O)−OR20」を意味する。
Figure 2005263795
なお、上記式(5)において、R20はアルキル基を表わす。
アルコキシカルボニルオキシ基の炭素数は、カルボニルオキシ基部分も含めた値で通常2以上、20以下である。アルコキシカルボニルオキシ基の具体例としては、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロピルオキシカルボニルオキシ基、iso−プロピルオキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基、sec−ブトキシカルボニルオキシ基、iso−ブトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−ペンチルオキシカルボニルオキシ基、tert−アミルオキシカルボニルオキシ基、2−メチルブトキシカルボニルオキシ基、3−メチルブトキシカルボニルオキシ基、n−ヘキシルオキシカルボニルオキシ基、n−ヘプチルオキシカルボニルオキシ基、n−オクチルオキシカルボニルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシカルボニルオキシ基、n−ノニルオキシカルボニルオキシ基等の鎖状アルコキシカルボニルオキシ基;シクロプロピルオキシカルボニルオキシ基、シクロプロピルメトキシカルボニルオキシ基、シクロブトキシカルボニルオキシ基、シクロブチルメトキシカルボニルオキシ基、シクロペンチルオキシカルボニルオキシ基、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ基、シクロヘキシルメトキシカルボニルオキシ基、シクロヘプチルオキシカルボニルオキシ基、2−ノルボルニルオキシカルボニルオキシ基等の環状アルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。これらのアルコキシカルボニルオキシ基は上記のアルコキシ基の場合と同様の置換基を有していてもよいが、その場合にはその置換基も含めた置換アルコキシカルボニルオキシ基全体としての炭素数が、前記範囲を満たすものとする。置換アルコキシカルボニルオキシ基の具体例としては、メトキシメトキシカルボニルオキシ基、1−エトキシエトキシカルボニルオキシ基、1−エトキシプロピルオキシカルボニルオキシ基、1−メトキシプロピルオキシカルボニルオキシ基、2−メトキシプロピルオキシカルボニルオキシ基、2−エトキシプロピルオキシカルボニルオキシ基、テトラヒドロフラニルオキシカルボニルオキシ基、テトラヒドロピラニルオキシカルボニルオキシ基、1−メトキシシクロヘキシルオキシカルボニルオキシ基、1−エトキシシクロヘキシルオキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
トリアルキルシリルオキシ基としては、シリルオキシ基に上述のアルキル基が3つ結合したものが挙げられる。そのアルキル基の炭素数は通常1以上、7以下である。3つのアルキル基は全て同じでもよく、2つ又は3つが互いに異なっていても良いが、製造の容易さの観点からは3つ全てが同じ基であることが好ましい。これらのアルキル基は上記のアルキル基の場合と同様の置換基を有していてもよいが、その場合にはその置換基も含めた置換アルキル基全体としての炭素数が、前記範囲を満たすものとする。また、アルキル基の代わりに上述のアリール基を有していても良い。この場合、アルキル基2つにアリール基1つの組み合わせでも、アルキル基1つにアリール基2つの組み合わせでも、アリール基3つの組み合わせでもよい。トリアルキルシリルオキシ基の具体例としては、トリメチルシリルオキシ基、ジメチルエチルシリルオキシ基、メチルジエチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基、ジメチルベンジルシリルオキシ基、メチルジベンジルシリルオキシ基等が挙げられる。
これらの中でも、R7及びR8としては、オキシ基を介してカルボニル基に結合する基、即ち、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、トリアルキルシリルオキシ基等が好ましい。特に、R7及びR8の双方がともにこれらの基であることが好ましい。この場合、本発明で用いるメチレン化合物は、下記式(IIc)で表わされる構造を有するマロン酸エステルとなる。
Figure 2005263795
上記式(IIc)において、−O−R9及び−O−R10が、それぞれ上述の式(IIb)におけるRa及びRbに該当する。即ち、R9及びR10はそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、トリアルキルシリル基を表わすことになる。それぞれの詳細は上に記載した通りである。中でも、R9及びR10として好ましいのは、置換されていてもよいアルキル基、アルコキシカルボニル基、トリアルキルシリル基である。
上記式(IIc)のマロン酸エステルのうち、本発明の製造方法において特に好ましい具体例としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジ−tert―ブチル、マロン酸ジ−n―ブチル、マロン酸ジベンジル、マロン酸ジ(トリアルキルシリル)等の対称マロン酸エステル類(2つのエステル基が同一であるもの);マロン酸−tert−ブチルメチル、マロン酸−tert−ブチルエチル、マロン酸ベンジルエチルなどの非対称マロン酸エステル類(2つのエステル基が異なっているもの);環状マロン酸エステル類であるメルドラム酸等が挙げられる。
中でも、上述した本発明のフラーレン誘導体、即ち、溶剤に対して高い溶解性を示し、且つ、酸処理後にアルカリ性水溶液に可溶なフラーレン誘導体を製造する観点からは、エステル部位が酸解離性基であることが好ましい。この様な用途を前提とした場合、好ましいマロン酸エステルの具体例としては、マロン酸ジ−tert―ブチル、マロン酸ジ(トリアルキルシリル)等が挙げられる。
<メチレン化合物の使用量>
原料となるメチレン化合物の使用量は、目的とするメタノフラーレンの架橋メチレン基の付加数に応じて適宜調整すればよい。例えば、フラーレン骨格当たり平均一つの架橋メチレン基を付加させる場合(即ち、モノメタノフラーレンを得る場合)には、フラーレンに対して等モル量のメチレン化合物を使用すればよく、フラーレン骨格に対してより多くの架橋メチレン基を付加させる場合(即ち、ポリメタノフラーレンを得る場合)には、目的とする平均付加数に応じてメチレン化合物の使用量を増やしていけばよい。なお、フラーレンに対して等モル以上のメチレン化合物を使用した場合には、様々な付加数のメタノフラーレンが組成物として得られることになる。
〔2.メチレン化合物とハロゲン化剤との反応(第1の工程)〕
本発明の製造方法においては、まず、上述のメチレン化合物を、当量以下の塩基の存在下、ハロゲン化剤と反応させる。以下、この工程を適宜「第1の工程」という。
<塩基>
塩基の種類は、上述のメチレン化合物が有する電子吸引性基の性質を害するものでなければ特に制限されないが、上述のメチレン化合物のメチレン水素を引き抜ける塩基が好ましい。具体例としては、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、キヌクリジン等の含窒素複素環三級アミン類;ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン等の含窒素複素環二級アミン類;ピリジン、ジメチルアミノピリジンなどの含窒素複素環芳香族系化合物類;トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルアミンなどの鎖状アミン類;ナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムジイソプロピルアミド〔LDA:(iso−C372NLi)等、アミンの水素原子がアルカリ金属によって置換された構造を持つ金属アミド類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−tert−ブトキシド(KOtBu)等の金属アルコキシド類等が挙げられる。これらは1種を単独でも用いてもよく、2種以上を任意の組成及び組み合わせで用いても良い。これらの中でも、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、キヌクリジン等の含窒素複素環三級アミン類が好ましく、特にDBUが好ましい。
本第1の工程における塩基の使用量は、メチレン化合物に対して1当量以下であることを要する。メチレン化合物に対して塩基を当量以下に抑えることによって、その他の原料であるフラーレンやハロゲン化剤との副反応を押さえることが可能となる。中でも1.0当量未満、更には0.95当量以下であることが好ましい。一方、本工程における塩基の使用量の下限は、メチレン化合物に対して通常0.10当量、好ましくは0.20当量、更に好ましくは0.50当量である。塩基の使用量が少な過ぎると、反応の進行が遅くなる虞があるのでやはり好ましくない。
<ハロゲン化剤>
ハロゲン化剤の種類は特に制限されないが、上述のアニオン化されたメチレン化合物をハロゲン化するためのハロゲニウムイオン(Cl+:クロロニウムイオン、Br+:ブロモニウムイオン、I+:ヨードニウムイオン)を放出するものが好ましい。具体例としては、ヨウ素(I2),臭素(Br2),塩素(Cl2)等のハロゲン類;四ヨウ化炭素(CI4),四臭化炭素(CBr4)、ジブロモジクロロメタン等の四ハロゲン化置換メタン類;ブロモホルム、ヨードホルム等の三ハロゲン化置換メタン類;ジヨードメタン、ジブロモメタン等の二ハロゲン化置換メタン類等が挙げられる。これらは1種を単独でも用いてもよく、2種以上を任意の組成及び組み合わせで用いても良い。中でも副生物が少ないという理由から、塩素(Cl2)、臭素(Br2)、ヨウ素(I2)などのハロゲン類が好ましく、更に取り扱いの容易さの観点から臭素(Br2)、ヨウ素(I2)が特に好ましく、ヨウ素が最も好ましい。
ハロゲン化剤の使用量は特に制限されないが、メチレン化合物1当量に対して通常0.8当量以上、中でも0.9当量以上、また、通常1.2当量以下、中でも1.0当量以下の範囲である。ハロゲン化剤の使用量が多過ぎると、副反応が生じるおそれがあるので好ましくない。一方、ハロゲン化剤の使用量が少な過ぎると、メチレン化合物が十分にハロゲン化されないおそれがあるのでやはり好ましくない。
<反応手順>
第1の工程における反応の手順としては、メチレン化合物と塩基とを混合した上で、更にハロゲン化剤を混合して反応を生じさせればよい。但し、反応に際しては何らかの溶媒を使用することが好ましい。この場合、通常は、反応器中でメチレン化合物及び塩基を溶媒に溶解又は均一に分散させてから、更にハロゲン化剤を加えて反応を行なう。
ここで使用する溶媒(反応溶媒)としては、反応に関与する各成分に対して好ましくない作用を有したり、目的とする反応を阻害したりするものでない限り、その種類は特に制限されないが、使用するメチレン化合物、塩基、ハロゲン化剤、反応生成物を良好に溶解又は均一に分散させるものが好ましい。具体例としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系炭化水素類;トルエン、キシレン類、トリメチルベンゼン類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン類などの芳香族系化合物類;N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン等の含窒素化合物類等が挙げられる。これらは1種を単独でも用いてもよく、2種以上を任意の組成及び組み合わせで混合して用いても良い。中でもハロゲン系炭化水素類や芳香族系化合物類が好ましく、具体的にはトリメチルベンゼン類が好ましい。
反応溶媒の使用量は、使用するメチレン化合物及び塩基を良好に溶解又は均一に分散させることが可能であれば、特に制限されないが、一般にはメチレン化合物に対して通常1.0重量%以上、中でも5.0重量%以上、また、通常15重量%以下、中でも30重量%以下の範囲である。反応溶媒の使用量が多過ぎると、反応速度低下や後処理操作が煩雑となるので好ましくない。一方、反応溶媒の使用量が少な過ぎると、メチレン化合物が十分に分散せず反応の再現性に問題があるのでやはり好ましくない。
上述の反応溶媒にメチレン化合物及び塩基を加える順序は特に制限されず、どちらを先に加えても、同時に加えても良い。必要に応じて攪拌等の手段を用いて、メチレン化合物及び塩基を反応溶媒に溶解又は均一に分散させた上で、更にハロゲン化剤を反応溶媒に加えて反応を開始する。
ここで、ハロゲン化剤については、予め何らかの溶媒を用いて溶解又は均一に分散させてから、上述の反応溶媒に加えることが好ましい。ここで使用する溶媒(ハロゲン化剤用溶媒)としても、反応に関与する各成分に対して好ましくない作用を有したり、目的とする反応を阻害したりするものでない限り、その種類は特に制限されないが、使用するハロゲン化剤を良好に溶解又は均一に分散させるものが好ましい。具体例としては、上述の反応溶媒の説明において例示した溶媒が挙げられる。これらは1種を単独でも用いてもよく、2種以上を任意の組成及び組み合わせで混合して用いても良い。特に、反応溶媒として使用したものと同じ溶媒をハロゲン化剤用の溶媒として使用することが好ましい。
ハロゲン化剤用溶媒の使用量は、使用するハロゲン化剤を良好に溶解又は均一に分散させることが可能であれば、特に制限されないが、一般にはハロゲン化剤に対して通常3.0重量%以上、中でも5.0重量%以上、また、通常20重量%以下、中でも10重量%以下の範囲である。溶媒の使用量が多過ぎると、反応速度低下や後処理操作が煩雑となるので好ましくない。一方、溶媒の使用量が少な過ぎると、ハロゲン化剤が十分に分散せず反応の再現性に問題があるのでやはり好ましくない。
<反応条件>
第1の工程における反応時の温度は、通常50℃以下、好ましくは30℃以下、更に好ましくは15℃以下となるようにする。反応時の温度が高過ぎると、副反応がおこり、目的物であるメタノフラーレン誘導体の収率が下がるので好ましくない。但し、反応時の温度が低過ぎると反応があまりに進行しない虞があるので、その下限は通常−78℃、好ましくは−40℃、更に好ましくは−20℃である。
また、メチレン化合物とハロゲン化剤との反応は通常は発熱を伴うが、本発明ではその発熱をできるだけ抑えることが肝要である。具体的には、反応時の温度上昇幅(ハロゲン化剤を反応系に加えて反応を開始してから反応終了までの間における最大温度上昇量)を、通常50℃以下、好ましくは30℃以下、更に好ましくは15℃以下の範囲となるようにする。反応時の温度上昇幅が大き過ぎると、副反応がおこり、目的物であるメタノフラーレン誘導体の収率が下がるので好ましくない。
反応時に上述の温度条件を達成するために、通常は氷浴や冷却器等の手段で反応器を冷却する必要がある。特に、ハロゲン化剤を反応系に加える前に各種手段で反応器を冷却し、反応系を所望の温度条件となるように調整しておいてから、ハロゲン化剤を反応系に加えて反応を開始することが好ましい。ここで、反応開始時の反応系の温度は、反応時の発熱による温度上昇幅を考慮して、上述した反応温度範囲の上限よりも更に低い値としておくことが望まれる。また、反応中も反応器の冷却を継続し、反応温度や温度上昇幅を上記範囲内に維持することが好ましい。
第1の工程における反応時の圧力は特に制限されないが、通常は常圧以上、また、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下の範囲である。また、雰囲気も特に制限されず、空気下でもよいが、副反応が進行するのを防ぐために、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体の雰囲気下で行なうのが好ましい。
なお、反応時には攪拌等の手段を用いて、反応系が均一の状態となるように保つのが好ましい。
<反応時間>
第1の工程において、反応を行なう時間は特に制限されず、少なくともメチレン化合物とハロゲン化剤との反応が充分に進行してモノハロゲン化メチン化合物が生成し、その反応が定常状態に達するまでの時間行なえばよい。反応が定常状態に達したことは、薄層クロマトグラフィー(TLC)、核磁気共鳴(NMR)、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)等の手法によって確認することが出来る。具体的な反応時間は、使用するメチレン化合物、塩基、ハロゲン化剤、溶媒等の種類やその量比、反応時の温度や圧力等の条件によって異なるが、一般的には、通常5分以上、好ましくは15分以上、また、通常5時間以下、好ましくは3時間以下の範囲とする。反応時間が短過ぎると反応が充分に進行しない虞がある一方で、逆に反応が定常状態に達した後も反応を続けるのは製造効率上無駄が多く、副反応が進行してしまうという課題もある。
反応終了後、得られた反応液をそのまま、又は必要に応じて反応溶媒の一部又は全部を留去して、次工程に供する。次工程に移るまでの時間は特に制限されない。得られた反応液をすぐに次工程に供してもよく、時間をおいてから次工程に供してもよい。反応系を冷却していた場合には、反応終了後に冷却を停止し、反応系を常温に戻しておいてもよく、また次工程に適切な温度まで加温してもよい。
〔3.反応生成物とフラーレンとの反応(第2の工程)〕
続いて、第1の工程の反応生成物を上述のフラーレンと混合し、更に塩基を加えて反応させる。以下、この工程を適宜「第2の工程」という。
<塩基>
塩基としては、第1の工程について説明したものと同様の塩基が使用できる。第1の工程で使用する塩基と第2の工程で使用する塩基は、同じであっても異なっていてもよいが、製造効率の観点からは同じであることが好ましい。
第2の工程における塩基の使用量は付加反応を阻害しない限り特に制限されないが、メチレン化合物1当量に対して、通常0.5当量以上、中でも0.8当量以上、更には1.0当量以上、また、通常10当量以下、中でも5.0当量以下、更には3.0当量以下の範囲である。塩基の使用量が多過ぎると、副反応が進行する虞があり好ましくない一方で、塩基の使用量が少な過ぎると、反応速度低下の虞があるのでやはり好ましくない。
<反応の手順>
第2の工程における反応の手順としては、第1の工程の反応生成物をまずフラーレンと混合してから、更に塩基と反応させることを要する。通常は、反応器(第1の工程で用いたものと同一でも異なってもよい)中で、第1の工程で得られた反応液に上述のフラーレンを加えて均一になるように混合した後、更に反応液に塩基を加えて均一になるように混合し、反応を開始させる。
ここで、何らかの溶媒を使用してフラーレンを予め溶解又は均一に分散させてから、反応系に加えることが好ましい。使用する溶媒(フラーレン用溶媒)としては、反応に関与する各成分に対して好ましくない作用を有したり、目的とする反応を阻害したりする虞のない溶媒であって、使用するフラーレンを良好に溶解又は均一に分散させるものを選択する必要がある。具体例としては、トルエン、キシレン類、トリメチルベンゼン類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン類などの芳香族系化合物等が挙げられる。これらは1種を単独でも用いてもよく、2種以上を任意の組成及び組み合わせで混合して用いても良い。中でもフラーレンの溶解度が高いという理由から、トリメチルベンゼン類、ジクロロベンゼン類が好ましく、特にトリメチルベンゼン類が好ましい。
フラーレン用溶媒の使用量は、使用するフラーレンを良好に溶解又は均一に分散させることが可能であれば、特に制限されないが、一般にはフラーレンに対して通常0.5重量%以上、中でも1.0重量%以上、また、通常10重量%以下、中でも5.0重量%以下の範囲である。溶媒の使用量が多過ぎると、反応速度低下や後処理操作が煩雑となるので好ましくない。一方、溶媒の使用量が少な過ぎると、フラーレンが十分に溶解又は分散しないため反応の再現性がない虞があるのでやはり好ましくない。
上記の溶媒を用いて作製したフラーレンの溶液又は分散液を、第1の工程で得られた反応液に加え、通常は攪拌等の手段を用いて均一になるまで混合する。目視によってフラーレンが反応系中に均一に混合されたことを確認した上で、反応系に塩基を加えて、反応を開始させる。
塩基については、そのまま反応系に加えてもよいが、固体であったり、反応溶媒に分散し難い等の場合には、何らかの溶媒を用いて溶解又は均一に分散させてから、反応系に加えてもよい。ここで使用する溶媒(塩基用溶媒)としても、反応に関与する各成分に対して好ましくない作用を有したり、目的とする反応を阻害したりするものでない限り、その種類は特に制限されないが、使用する塩基を良好に溶解又は均一に分散させるものが好ましい。具体例としては、上述の反応溶媒の説明において例示した溶媒が挙げられる。これらは1種を単独でも用いてもよく、2種以上を任意の組成及び組み合わせで混合して用いても良い。特に、反応溶媒として使用したものと同じ溶媒を塩基用溶媒として使用することが好ましい。
<反応条件>
第2の工程における反応系の温度は、フラーレンを混合する時、塩基と反応させる時を通じて、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、中でも20℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、中でも50℃以下の範囲である。反応時の温度が低過ぎると、フラーレンを反応系に均一に混合させることが困難となったり、塩基を加えた際の反応が充分に進行しない虞があるので好ましくない。一方、反応時の温度が高過ぎると、副反応の虞があるのでやはり好ましくない。
第2の工程における反応系の圧力は特に制限されないが、フラーレンを混合する時、塩基と反応させる時を通じて、通常は常圧以上、また、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下の範囲である。また、雰囲気も特に制限されず、空気下でもよいが、副反応が進行するのを防ぐために、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体の雰囲気下で行なうのが好ましい。
<反応時間>
第2の工程において塩基を加えると、第1の工程において得られたモノハロゲン化メチン化合物が塩基と相互作用し、フラーレンに付加してメタノフラーレンを生成するという反応が進行する。ここで、塩基を加えた後の反応時間の経過に従って、フラーレンに対する架橋メチレン基の付加数が徐々に増加していく傾向がある。よって、第2の工程における塩基添加後の反応時間は特に制限されないが、反応原料であるフラーレンが消失するまでの時間、又は、所望とする付加数のメタノフラーレンが得られるまでの時間、又は、各付加数のメタノフラーレンの組成比が定常状態に達するまでの時間、反応を行なえばよい。反応原料であるフラーレンの消失や、生成したメタノフラーレンの架橋メチレン基の付加数は、薄層クロマトグラフィー等の手法によって確認することが出来る。具体的な反応時間は、使用するメチレン化合物、塩基、ハロゲン化剤、フラーレン、溶媒等の種類やその量比、反応時の温度や圧力等の条件によって異なるが、一般的には、通常30分以上、好ましくは60分以上である。反応時間が短過ぎると反応が充分に進行しない虞がある。一方で、架橋メチレン基の付加数の上限は、フラーレンに対するメチレン化合物の使用比率やメチレン化合物の置換基、反応条件等によって制限されてしまうので、一定時間を超えると架橋メチレン基の付加数の増加は頭打ち(すなわち定常状態)となってしまう。よって、あまりに長い時間反応を続けるのは製造効率上無駄が多く、副反応が進行してしまうというおそれもある。よって、反応時間の上限は通常24時間以下、好ましくは12時間以下である。
〔4.後処理〕
上述の第2の工程による反応の終了後、得られた反応液中には、目的とするメタノフラーレンに加え、反応に使用したハロゲン化剤や塩基等の成分の残りや、反応によって生じた塩等の副生物等が混在している。よって、これらの物質を除去して、目的とするメタノフラーレンを精製することが好ましい。メタノフラーレンを精製する手法としては、溶媒抽出法、晶析法、シリカゲルカラム精製法等の各種の精製法の中から、得られたメタノフラーレンの性質や混在する物質の種類に応じて適切な手法を選択して用いればよい。溶媒抽出法は、目的のメタノフラーレンを溶解する有機溶媒と、副生した塩や塩基を溶解する水溶液を用いて、分液漏斗などによって行なうことができる。晶析法は、目的のメタノフラーレンの溶液に対し、貧溶媒(メタノフラーレンを溶解し難い溶媒)を加える、或いは貧溶媒に対し、目的のメタノフラーレンの溶液を加えるという操作が挙げられる。特に、複数の精製法を組み合わせて実施することにより、より純度の高いメタノフラーレンを得ることが可能となる。溶媒抽出法及び晶析法を組み合わせて用いた場合の具体的な手順の例としては、後述の実施例に記載した手法を挙げることができる。
また、ある特定の性質を有するメタノフラーレンを目的としている際に、その目的に添わないメタノフラーレンが副生物として生じる場合があるので、これを除去することが好ましい。例えば、溶媒への溶解性に優れたメタノフラーレンを製造する目的で、適切なメチレン化合物を選択して付加した場合であっても、その付加数や付加位置によっては充分な溶解性を有さないメタノフラーレンが生成することがある。この場合には、上述の精製法の前後又は途中において、得られたメタノフラーレンの混合物を対象となる溶媒に溶解させ、不溶成分を除去することによって、目的とする溶媒への溶解性に優れたメタノフラーレンのみを得ることが可能となる。具体的な手順の例としては、後述の実施例に記載した手法を挙げることができる。
精製(及び不要なメタノフラーレンの除去)を行なうことにより、所望のフラーレンが溶媒中に溶解した溶液が得られる。この溶液をそのまま目的とする用途に用いても良いが、必要に応じて自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等の手法で溶媒を除去することにより、所望のメタノフラーレンを固体の状態で得ることが出来る。
〔5.製造されるメタノフラーレンの性質〕
本発明の製造方法によって得られるメタノフラーレンにおいては、上述のメチレン化合物が有するメチレン基部位の炭素原子が、フラーレン骨格上の隣接する2つの炭素原子(具体的には、隣接する2つの6員環の間で(6,6)結合を形成する2つの炭素原子)に結合することにより、架橋メチレン基を形成する。具体的に、原料として上記の式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)のメチレン化合物を用いた場合、得られるメタノフラーレンは、それぞれ以下の式(IIIa)、式(IIIb)、式(IIIc)で表わされる架橋メチレン基を付加基として有することになる。
Figure 2005263795
Figure 2005263795
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上記の式(IIIa)、式(IIIb)、式(IIIc)において、R5,R6,R7,R8,R9,R10は、上記の式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)の同符号の基と同様の基を表わす。また、各式における2つのCFは、フラーレン骨格上の隣接する2つの炭素原子(具体的には、隣接する2つの6員環の間で(6,6)結合を形成する2つの炭素原子)を表わす。
本発明の製造方法によって得られるメタノフラーレンは、上述の式(IIIa)、式(IIIb)、式(IIIc)等の架橋メチレン基がフラーレン骨格に付加した誘導体である。フラーレン骨格当たりの架橋メチレン基の付加数は特に制限されないが、通常は様々な付加数を有する複数種のメタノフラーレンからなる組成物が得られる。上述した様に、原料として用いるメチレン化合物とフラーレンとの比率や、反応時間等の条件を調整することによって、フラーレン骨格当たりの架橋メチレン基の平均付加数をある程度制御することが可能である。基本的には、フラーレンに対して当量のメチレン化合物を用いることによって、平均付加数1程度のメタノフラーレンが得られる。平均付加数を増加させるためには、フラーレンに対するメチレン化合物の使用比率を増加させるとともに、第2の工程における塩基添加後の反応時間をより長くすればよい。このような条件の調整によって、付加数が1以上、また、最大30程度の付加数のメタノフラーレンを得ることができる。
本発明の製造方法によって得られるメタノフラーレンの収率は、原料のフラーレンに対する重量比の値で、通常70重量%以上、好ましくは75重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。これは、上述の従来文献に記載の技術と比較すると極めて高い値である。
なお、メタノフラーレンの構造、付加体の組成等は、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴法(NMR)、質量スペクトル(MS)等の手法を用いて分析することが可能である。また、メタノフラーレンの収率は、LC−MSなどによって求めた平均付加数をnaとして、主生成物であるna付加体の分子量を算出し、これを元に求めることができる。
また、本発明の製造方法によって製造した、様々な付加数のメタノフラーレンが混在する組成物を、LCやHPLC等の手法によって、単一の付加数のメタノフラーレンに分離することが可能である。
〔6.その他〕
本発明の製造方法によって高い収率でメタノフラーレンが得られる理由は定かではないが、次のように推測される。
本発明の製造方法では、上記非特許文献3,4記載の従来技術のようにメチレン化合物を最初からフラーレンと反応させるのではなく、メチレン化合物をフラーレンとの反応に先立って予めハロゲン化剤と反応させるとともに、その際の塩基の存在量をメチレン化合物に対して当量以下に制限しておく(第1の工程)。これによって、メタノフラーレンへの付加前駆体である、モノハロゲン化メチン化合物を反応系内で効率的に得ることができ、また副生物を押さえることが可能となる。更に、得られた反応生成物にフラーレンと塩基を同時に加えて反応させるのではなく、フラーレンを加えて混合してから塩基と反応させている。これによって、塩基とフラーレンの反応(即ち、副反応)を抑えることが可能となる。以上の機構によって、高い収率でメタノフラーレンが得られるものと推測される。
また、本発明の製造方法では、上述の非特許文献2や特許文献3に記載の技術のように水素等の爆発性気体の発生を伴うことがないので、反応時の取り扱いが容易で安全性にも優れている。更に、所望のメタノフラーレンの付加基に対応するメチレン化合物そのものを原料として用いることが出来るので、製造コストの面でも優れている。
また、本発明の製造方法では、様々なメチレン化合物を原料としてメタノフラーレンを製造することができ、更には、その付加数についても制御することが可能である。よって、付加基(架橋メチレン基)の種類やその付加数を適切に調整することによって、様々な機能を付与したフラーレンの実現が可能となる。例えば、式(IIa)のR5、R6として酸解離性基を有するメチレン化合物(特に式(IIb)や式(IIc)の化合物)を用いることによって、上述した本発明のフラーレン誘導体に該当するメタノフラーレン(式(IIa)、式(IIIb)、式(IIIc)等の架橋メチレン基を有するメタノフラーレン)を製造することが可能である。更に、架橋メチレン基の付加数を増やすことによって、その溶解性等の性質を更に向上させることも可能である。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
・実施例1−1(本発明の方法によるマロン酸ジエチル多付加体の合成)
温度計を設置したガラス製2Lの4つ口フラスコに、窒素を吹き込みながらマロン酸ジエチル(東京化成(株)社製)16.8gを入れ、更に1,2,4−トリメチルベンゼン150cm3とDBU(1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene:東京化成(株)社製)15.1gを加えて攪拌しながら、氷浴を用いて温度を4℃に調整した。
得られた温度調整後の反応液に対して、ヨウ素(和光純薬(株)社製)24.5gを300cm3の1,2,4−トリメチルベンゼンに溶解させた黒紫色の溶液を25分かけて滴下した。滴下中はフラスコ内の反応液を攪拌し、且つ、氷浴を用いてフラスコの内温を11℃以下になるように制御した。滴下終了後、氷浴を取り外してフラスコの内温を室温まで昇温した。フラスコ内の反応液は茶色の懸濁液の状態であった。
その後、フラスコ内の反応液に、フラーレンC60(分子量720、フロンティアカーボン(株)社製)5.00gを1,2,4−トリメチルベンゼン350cm3に溶解させた紫色の溶液を、攪拌しながら加えた。フラスコ内の反応液は紫色の懸濁液の状態となった。
その後、フラスコ内の反応液に、DBU(1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene:東京化成(株)社製)16.2gを5cm3の1,2,4−トリメチルベンゼンで希釈した溶液を、攪拌しながら5分かけて滴下した。滴下後も攪拌を継続しながら、薄層クロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィー(LC)によりフラスコ中の反応液の組成を確認したところ、フラーレンC60を添加してから5分後に、原料のフラーレンC60が完全に消失していることを確認した。更にLCによる反応追跡を続けたところ、フラーレンC60を添加してから4時間後に、反応液中の付加体組成比が付加数5のピークが最大の状態で変化しなくなったことから、反応の終点に至っていることを確認した。この時点でフラスコ内の反応液は赤茶色の懸濁液の状態であった。
得られた反応液について、以下の手順により、溶媒抽出による洗浄を行なった。
まず、反応液(有機相)に対して、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液200cm3を加えて攪拌した後、薄黄色に着色した水相を分液除去して、有機相を分取した。同様の手順で、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液を用いた洗浄を更に4回行なったところ、4回目に分液された水相はほぼ無色となっており、反応液中のヨウ素がほぼ除去されたことが確認された。
得られた有機相(反応液)について、同様の溶媒抽出の手順により、1N硫酸水溶液100cm3を用いて2回洗浄し、反応液に残留しているDBUを除去した後、更に脱塩水200cm3を用いて3回洗浄した。なお、脱塩水による3回目の洗浄時には、有機相に脱塩水を加えて攪拌後、得られた混合液を吸引濾過することにより固体成分を濾別・除去してから、水相を分液・除去して有機相を得た。
得られた有機相をロータリーエバポレーターで濃縮してから、ヘプタン500cm3に攪拌を加えながら滴下したところ、赤茶色の固体が析出した。この固体を吸引濾過により濾別して取得し、得られた固体にトルエン35cm3を加えて懸濁させた後、吸引濾過により固体成分を除き、トルエン5cm3で振掛洗浄を行なった。得られた赤茶色の濾液をヘプタン500cm3に滴下して、析出した赤茶色固体を吸引濾過により濾別した。その後、ヘプタン100cm3で懸濁洗浄、次いでヘプタン5cm3で振掛洗浄した後、減圧下(1.5kPa)40℃で5時間乾燥し、赤茶色固体8.90gを得た。
得られた赤茶色固体について、液体クロマトグラフ−質量分析(LC−MS)による測定を行なったところ、フラーレンC60−マロン酸ジエチル付加体の3、4、5、6付加体にそれぞれ相当するピーク(m/Z=1194,1352,1510,1668)が観測された。
また、赤外線吸収スペクトルを測定したところ、3000〜2900cm-1に炭化水素結合の吸収があり、1750cm-1にエステル基のカルボニル吸収、及び1240cm-1に炭素−酸素結合の吸収が検出されたことから、エチルエステル基の存在が認められた。
更に、1H−NMR測定(重クロロホルム)を行なったところ、4.55〜4.20ppmと1.48〜1.20ppmに多重線が観測され、それらの積分比は「2:3」であったことからもエチルエステル基の存在が認められた。また、重クロロホルムに予め含有されていた水、クロロホルム、テトラメチルシランのピーク以外には、他のピークが観測されなかったことから、用いた試薬、反応溶媒は残っていないことがわかった。
反応の終点確認のLC分析において、5付加体が主生成物であったことから、付加数5(C955020:分子量1510)、純度100%と仮定して収率を計算すると、(8.90g/1510)/(5.00g/720)×100%=84.9%であった。
なお、1N硫酸水溶液で2回洗浄後、脱塩水200cm3で3回洗浄してから吸引濾過で濾別した固体成分について、脱塩水100cm3を用いた懸濁洗浄を2回行なった後、トルエン100cm3で懸濁洗浄を行ない、吸引濾過し、減圧下(1.5kPa)40℃で4時間乾燥し、黄橙色固体1.24gとして単離した。この黄橙色固体の1H−NMR(重クロロホルム)を測定した所、4.31ppmに4重線、1.31ppmに3重線が観測され、それらの積分比は「2:3」であった。更に、13C−NMRによる測定(重クロロホルム)を行なったところ、163.8,145.7,141.1,69.0,62.8,45.4,14.0ppmに7本のピークが観測されたことから、JACS,1994,9385pに記載されているTh対称6付加体(C1026024:分子量1668)であることが判明した。得られたTh対称6付加体の収率は、純度を100%であると仮定すると(1.24g/1668)/(5.00g/720)×100%=10.7%であった。
・実施例1−2(本発明の方法によるマロン酸ジ−tert−ブチル多付加体の合成)
温度計を設置したガラス製2Lの4つ口フラスコに、窒素を吹き込みながらマロン酸ジ−tert−ブチル(Aldrich社製)9.80gを入れ、更に1,2,4−トリメチルベンゼン150cm3とDBU(1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene:東京化成(株)社製)6.50gを加えて攪拌しながら、氷浴を用いて4℃に調整した。
得られた温度調整後の反応液に対して、ヨウ素(和光純薬(株)社製)10.9gを130cm3の1,2,4−トリメチルベンゼンに溶解させた黒紫色の溶液を、20分かけて滴下した。滴下中はフラスコ内の反応液を攪拌し、且つ、氷浴を用いてフラスコの内温が11℃以下になるよう制御した。滴下終了後、氷浴を取り外してフラスコの内温を室温まで昇温した。フラスコ内の反応液は茶色の懸濁液の状態であった。
その後、フラスコ内の反応液に、フラーレンC60(分子量720、フロンティアカーボン(株)社製)5.00gを1,2,4−トリメチルベンゼン350cm3に溶解させた紫色の溶液を、攪拌しながら加えた。フラスコ内の反応液は紫色の懸濁液の状態となった。
その後、フラスコ内の反応液に、DBU(1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene:東京化成(株)社製)6.90gを5cm3の1,2,4−トリメチルベンゼンで希釈した溶液を、攪拌しながら5分かけて滴下した。滴下後も攪拌を継続しながら、薄層クロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィー(LC)によりフラスコ中の反応液の組成を確認したところ、フラーレンC60を添加してから5分に、原料のフラーレンC60が完全に消失していることを確認した。更にLCによる反応追跡を続けたところ、フラーレンC60を添加してから4時間後に、反応液中の付加体組成比が付加数4のピークが最大の状態で変化しなくなったことから、反応の終点に至っていることを確認した。この時点でフラスコ内の反応液は赤茶色の懸濁液の状態であった。
得られた赤茶色懸濁液に、実施例1−1と同様の手順により、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、ヘプタン、トルエンを用いた溶媒抽出による洗浄処理、濃縮、貧溶媒による晶析、洗浄、吸引濾過による不溶分の濾別・除去、乾燥等を施し、茶色固体9.50gを得た。
得られた茶色固体をLC−MSで測定すると、フラーレンC60−マロン酸ジ−tert−ブチル付加体において、3付加体、4付加体及び5付加体に相当するピーク(m/Z=1362,1576,1790)が観測された。
また、赤外線吸収スペクトルを測定したところ、3000〜2900cm-1に炭化水素結合の吸収があり、1750cm-1にエステル基のカルボニル吸収、及び1240cm-1に炭素−酸素結合の吸収ピークが検出されたことから、tert−ブチルエステル基の存在が認められた。
更に、1H−NMR測定(重クロロホルム)を行なったところ、1.74〜1.50ppmに多数の一重線が観測されたことからも、tert−ブチルエステル基の存在が認められた。
反応の終点確認のLC分析において、4付加体が主生成物であったことから、付加数4(C1047216:分子量1576)、純度100%と仮定して収率を計算すると、(9.50g/1576)/(5.00g/720)×100%=86.8%であった。
・比較例1−1(従来法:NaHを用いたマロン酸ジエチル多付加体の合成)
温度計を設置したガラス製500cm3の4つ口フラスコに、窒素を吹き込みながら水素化ナトリウム(和光純薬(株)社製)2.0gを入れ、ヘキサン10cm3を用いて2回洗浄した。これにテトラヒドロフラン70cm3を添加し、氷浴を用いて5℃に調整した懸濁液に、ブロモマロン酸ジエチル(Aldrich社製)11gをテトラヒドロフラン100cm3で希釈した溶液を滴下したところ、1.2Lの水素が発生し、均一溶液となった。
氷浴を取り外し、室温まで昇温したところで、フラーレンC60(分子量720、フロンティアカーボン(株)社製)2.0gを1,2,4−トリメチルベンゼン140cm3に溶解させた紫色の溶液を加えた。
薄層クロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィー(LC)により原料のフラーレンC60が完全に消失していることを確認した。LCによる反応追跡を続けたところ、フラーレンC60を添加してから2時間後に、反応液中の付加体組成比が付加数5のピークが最大の状態で変化しなくなったことから、反応の終点に至っていることを確認した。
得られた赤茶色懸濁液に、0.2N塩酸70cm3を加えて攪拌した後、吸引濾過を行
って固体成分を濾別した。
固体成分(Th対称6付加体)を除去した後、分液して得られた有機層を脱塩水100cm3で2回洗浄した。分液して得られた有機層を無水硫酸ナトリウム30gで1時間乾
燥し、硫酸ナトリウムを濾別して得た溶液をロータリーエバポレーターで濃縮してスラリー5gを得た。
このスラリーにトルエン20cm3を添加して溶液とし、ヘキサン100cm3に攪拌を加えながら添加したところ、赤茶色固体が析出した。この固体を吸引濾過で濾別後、ヘキサン100cm3で懸濁洗浄をし、次いでヘキサン5cm3で振掛洗浄した後、減圧下(1.5kPa)40℃で5時間乾燥し、赤茶色固体3.0gを得た。付加数5(分子量1510)、純度100%と仮定して収率を計算すると、(3.0g/1510)/(2.0g/720)×100%=72%であった。
0.2N塩酸を加えた後の吸引濾過により濾別した固体成分(Th対称6付加体)について、脱塩水、トルエンによる洗浄、乾燥等の処理を行ない、黄橙色固体0.88gを得た。得られたTh対称6付加体の収率は、純度100%であると仮定すると(0.88g/1668)/(2.0g/720)×100%=19%であった。
・比較例1−2(従来例:DBUを一度に添加したマロン酸ジエチル多付加体の合成)
温度計を設置したガラス製200cm3の3つ口フラスコに、窒素を吹き込みながらマロン酸ジエチル(東京化成(株)社製)3.4gと1,2,4−トリメチルベンゼン30cm3を入れ、氷浴を用いて4℃に調整した。ヨウ素(和光純薬(株)社製)4.9gを60cm3の1,2,4−トリメチルベンゼンに溶解させた黒紫色の溶液、及びフラーレンC60(分子量720、フロンティアカーボン(株)社製)1.0gを1,2,4−トリメチルベンゼンに溶解させた紫色の溶液を加えて攪拌し、得られた紫色の溶液に、DBU(1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene:東京化成(株)社製)3.2gを1cm3の1,2,4−トリメチルベンゼンで希釈した溶液を、内温が11℃以下になるよう制御しながら滴下した。
LCにより反応追跡を行ったところ、フラーレンC60を添加してから4時間後に、反応液中の付加体組成比が付加数5のピークが最大の状態で変化しなくなったことから、反応の終点に至っていることを確認した。なお、3付加体や4付加体等の低付加体の比率が、実施例1−1に比べて高いが、最大ピークは5付加体であった。
得られた赤茶色懸濁液に、実施例1−1と同様の手順により、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、トルエンを用いた溶媒抽出による洗浄処理、濃縮、晶析、洗浄、吸引濾過による不溶分の濾別・除去、乾燥等を施し、赤茶色固体1.4gを得た。付加数5(分子量1510)、純度100%と仮定して収率を計算すると、(1.4g/1510)/(1.0g/720)×100%=67%であった。
溶媒抽出による洗浄後の吸引濾過により濾別した固体成分(Th対称6付加体)について、脱塩水、トルエンによる洗浄、乾燥等の処理を行ない、黄橙色固体0.05gを得た。得られたTh対称6付加体の収率は、純度100%であると仮定すると(0.05g/1668)/(2.0g/720)×100%=2.2%であった。
・実施例2−1(マロン酸ジ−tert−ブチル多付加体の有機溶媒に対する溶解性、酸解離性基の脱離及び酸処理後のアルカリ水溶液への溶解性、画像形成)
実施例1−2と同様の手順で得られたマロン酸ジ−tert−ブチル多付加体を、常温(20〜25℃)常圧下で、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテートに添加したところ、100mg/cm3以上溶解した。また、同10重量%溶液を調製し、硝子基板およびシリコンウェハ上に主回転数1000rpmの回転速度で10秒間スピンコーティングし、90℃に設定したホットプレート上で90秒間乾燥させたところ、触針式の膜厚計で、膜厚240nmの膜が得られた。さらに、同15重量%溶液3gを調整し、これにトリフェニルスルホニウムトリフレート感光剤0.02gを添加し、硝子基板上に主回転数1000rpmの回転速度で10秒間スピンコーティングし、90℃に設定したホットプレート上で90秒間乾燥させ、触針式の膜厚計での膜厚が490nmの膜を作成した。この膜の一部分を遮光してから低圧水銀灯で1600mJ/cm2の露光量の光を当てた後、140℃に設定したホットプレート上で90秒間乾燥させた。その後、2.38重量%テトラメチルアンモニウム水溶液に浸漬させたところ、露光した部分のみが溶解し、画像が形成された。
なお、マロン酸ジ−tert−ブチル多付加体は、常温(20〜25℃)常圧下で、乳酸エチル及びメチルアミルケトンの双方に、100mg/cm3以上溶解した。
また、実施例1−2と同様の手順で得られたマロン酸ジ−tert−ブチル多付加体0.50gをトルエン20cm3に溶解させ、p−トルエンスルホン酸・一水和物(Aldrich社製)0.48gを添加して100℃に加熱した。薄層クロマトグラフィーで、加熱後30分で、原料が消失していることから反応の終了を確認し、室温まで冷却した後、脱塩水20cm3を添加し、吸引濾過により茶色固体を濾別した。脱塩水50cm3と酢酸エチル50cm3で振掛洗浄を行なった後、真空中(1.5kPa)40℃で3時間乾燥し、茶色固体0.30gを取得した。茶色固体の赤外線吸収スペクトルで、3100,1730、1250cm-1にカルボン酸を示すピークが検出され、CH吸収帯(2900〜3000cm-1)にピークが検出されなかったことから、tert−ブチルエステル基(−CO2 tBu)におけるtert−ブチル基が酸によって解離され、カルボキシ基(−CO2H)になったことが確認された。また、この茶色固体を常温(20〜25℃)常圧で、0.1重量%水酸化ナトリウム水溶液に添加したところ、5mg/cm3以上溶解した。
・比較例2−1(マロン酸ジエチル1付加体の酸解離性基の脱離及び酸処理後のアルカリ水溶液への溶解性)
非特許文献2に従ってマロン酸ジエチル1付加体を合成した。生成物の確認は、1H−NMR(重クロロホルム)測定において、4.57ppmに4重線と、1.49ppmに3重線が観測され、それらの積分比が「2:3」であったことから行なった。
マロン酸ジエチル−1付加体0.30gをトルエン300cm3に溶解させ、p−トルエンスルホン酸・一水和物(Aldrich社製)0.065gを添加して100℃に加熱した。加熱後、1時間毎に5時間まで、薄層クロマトグラフィーによって反応を追跡したが、原料以外の生成物が検出されず、エチルエステル基がカルボキシル基に変換されていないことが確認された。また、これを室温まで冷却し、脱塩水100cm3を添加後、分液して有機層を分取し、濃縮してトルエンを除去し、得られた固体を真空中(1.5kPa)40℃で5時間乾燥したところ、0.30gの固体が回収された。
・比較例2−2(マロン酸ジエチル多付加体の酸解離性基の脱離及び酸処理後のアルカリ水溶液への溶解性)
実施例1−1と同様にして得られたマロン酸ジエチル多付加体0.50gをトルエン10cm3に溶解させ、p−トルエンスルホン酸・一水和物(Aldrich社製)0.72gを添加して100℃に加熱した。加熱後、1時間毎に5時間後に至るまで、薄層クロマトグラフィーで反応を追跡したが、原料以外の生成物が検出されず、エチルエステル基がカルボキシル基に変換されていないことが確認された。また、これを室温まで冷却し、脱塩水10cm3を添加後、分液して有機層を分取し、濃縮してトルエンを除去し、得られた固体を真空中(1.5kPa)40℃で5時間乾燥したところ、0.49gの固体が回収された。
・比較例2−3(マロン酸ジ−tert−ブチル1付加体の有機溶媒溶解性、酸解離性基の脱離及び酸処理後のアルカリ水溶液への溶解性)
特許文献3に従って、マロン酸ジ−tert−ブチル1付加体を合成した。生成物の確認は、1H−NMR測定(重クロロホルム)において、1.69ppmに1重線が観測されたことから行なった。
マロン酸ジ−tert−ブチル1付加体をプロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテートに添加したところ、常温(20〜25℃)常圧下で、溶解度は、1mg/cm3未満であった。また、乳酸エチルやメチルアミルケトンに対する常温(20〜25℃)常圧下での溶解度も、1mg/cm3未満であった。これらの溶液を用いて、硝子基板上にスピンコーターにて塗布を試みたが、塗膜は得られなかった。
マロン酸ジ−tert−ブチル1付加体0.60gをトルエン20cm3に溶解させ、p−トルエンスルホン酸・一水和物(Aldrich社製)0.12gを添加して100℃に加熱した。加熱10分後に、薄層クロマトグラフィーで原料が消失していたことから、反応の終結を確認し、室温まで冷却した後、吸引濾過を行ない、析出した黒色固体を濾別し、トルエン20cm3と脱塩水30cm3で振掛洗浄を行なった。真空中(1.5kPa)、40℃で3時間乾燥し、黒色固体0.49gを取得した。
黒色固体の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、3100,1730、1250cm-1にカルボン酸を示すピークが検出され、CH吸収帯(2900〜3000cm-1)にピークが検出されなかったことから、tert−ブチルエステル基(−CO2 tBu)におけるtert−ブチル基が酸により解離して、カルボキシ基(−CO2H)になったことが確認された。
酸処理して得られた黒色固体のうち、0.1gを1重量%水酸化ナトリウム水溶液10cm3に添加したところ、全く溶解せずに沈降した。吸引濾過により黒色固体を濾別し、脱塩水により洗浄を行ない、真空中(1.5kPa)、40℃で4時間乾燥したところ、0.1gの黒色固体が回収された。
本発明のフラーレン誘導体によれば、有機溶媒に対する溶解性が高いことから、太陽電池、レジスト用途への適用が期待される。また、酸解離性を有することから、水溶性のフラーレン誘導体の原料、化学増幅型レジスト用途に適用可能である。
また、本発明のメタノフラーレンの製造方法によれば、メタノフラーレンを高い収率で安全に製造することが可能となり、各種のメタノフラーレンの工業生産に有用である。また、様々な性質を付与したメタノフラーレンを製造することにより、各種の機能性材料としての用途が期待される。

Claims (5)

  1. 有機溶剤に可溶、且つ、酸処理後にアルカリ性水溶液に可溶であることを特徴とするフラーレン誘導体。
  2. 下記一般式(Ia)で表されることを特徴とする、請求項1記載のフラーレン誘導体。
    Figure 2005263795
    (上記一般式(Ia)中、FLNは、フラーレンの炭素骨格を表し、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。但し、R1及びR2の少なくとも一方は、酸解離性基である。nは2以上の整数を表す。)
  3. 下記一般式(Ib)で表されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のフラーレン誘導体。
    Figure 2005263795
    (上記一般式(Ib)中、R3及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜20の有機基を表わす。FLN及びnは、一般式(Ia)と同義である。)
  4. 電子吸引性基を有するメチレン化合物に対して、当量以下の塩基の存在下、ハロゲン化剤を作用させた後、フラーレンと混合し、更に塩基を加えて反応させることを特徴とする、メタノフラーレンの製造方法。
  5. 電子吸引性基を有するメチレン化合物とハロゲン化剤との反応を、50℃以下の温度で行なうことを特徴とする、請求項4記載のメタノフラーレンの製造方法。
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