JP2005256142A - 耐粗粒化特性と被削性に優れた高温浸炭鋼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 高温浸炭時の粗大粒の発生を防止し、熱間鍛造後の焼きならし処理が省略可能な結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.1〜0.35%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜2.0%、TiまたはNbの1種又は2種:0.1〜0.3%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を素材とし、熱間鍛造時に加熱温度を1200℃以上とし、熱間鍛造後780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保した後、780〜500℃を2℃/sec以下の冷却速度で冷却することで、焼きならし省略可能な浸炭鋼の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】 質量%で、C:0.1〜0.35%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜2.0%、TiまたはNbの1種又は2種:0.1〜0.3%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を素材とし、熱間鍛造時に加熱温度を1200℃以上とし、熱間鍛造後780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保した後、780〜500℃を2℃/sec以下の冷却速度で冷却することで、焼きならし省略可能な浸炭鋼の製造方法。
【選択図】 なし
Description
本発明は、熱間鍛造で成形した高温浸炭部品の素形材用の浸炭鋼に関し、特に熱間鍛造後に焼きならしを省略して直接高温浸炭しても安定した結晶粒度特性が得られる浸炭鋼の製造方法に関する。
熱間鍛造をした浸炭鋼は、冷却時にベイナイト組織が発生し、浸炭時に浸炭粒度が比較的大きくなりかつ混粒が発生し易くなる。そこで一般的には焼きならしを実施して使用されている。ベイナイト組織の発生は硬さの向上につながり、鍛造後の機械加工において被削性を低下させる原因となる。特に浸炭鋼が使用される自動車の歯車の歯切り加工などでは機械加工前の硬さが220HV以下で規定されているところが多い。さらにベイナイト組織の発生により浸炭前の組織がフェライト・パーライト・ベイナイトの3相になると、浸炭後に混粒が発生し易くなることが知られている。
ベイナイト組織の発生を防止するために、熱間鍛造後の冷却時に変態点付近で冷却されるような簡易焼鈍炉を設置しているところも多く、変態点付近で徐冷するため結晶粒度が大きくなり、結果として疲労強度の低下を招き、さらに温度調整のため炉中雰囲気の加熱が実施されており、完全な熱処理省略によるコストの低減に至っていない(例えば、特許文献1参照。)。
従来の技術では、熱間圧延の条件を規定することにより熱間圧延ままで焼きならし処理を省略したものと同等の組織を有し、浸炭時に結晶粒が粗大化しない浸炭鋼が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
ところで、本願の出願人は、熱間鍛造ままの状態で焼ならしを省略し、焼ならしと同等のミクロ組織、硬さ、結晶粒度特性を有する浸炭鋼を開発している(例えば、特許文献1参照。)。
一方、歯車、軸受部品、転動部品、シャフト類を、通常、例えばJIS G 4052、JIS G 4104、JIS G 4105、JIS G 4106等に規定されている中炭素の機械構造用合金鋼を使用し、熱間鍛造−焼きならし−切削により所定の形状に加工した後、浸炭焼入れを行う工程で製造する方法がある。この方法は、上記の製造工程における焼きならし工程は900〜950℃程度の温度範囲に加熱して組織を一旦オーステナイト化し、その後の冷却によってフェライト・パーライト組織に調整する処理である。
ところで、熱間鍛造は、通常1100〜1300℃の高温域で行われるため、熱間鍛造ままの組織は粗大なフェライト、パーライト、ベイナイト組織が1種又は2種以上混合した、不均一で硬質な組織となる。従って、熱間鍛造ままの状態では硬いため、切削加工が困難である。また、熱間鍛造ままの状態で浸炭処理を行えば、元の組織が粗大で不均一であるため、浸炭加熱時に一部の結晶粒が粗大化する「粗大粒」が発生する。浸炭部品の結晶粒の粗大化は熱処理歪みの大きな原因であり、熱処理歪みが大きければ騒音や振動の原因となる。そこで現状では、熱間鍛造の後に焼きならし処理を行う(例えば、特許文献3参照。)ことによって浸炭前の組織を比較的軟質・均質なフェライト・パーライト組織に整え、軟質化によって切削加工性を改善し、均質化によって浸炭時の結晶粒の粗大化を防止している。近年の省エネルギー化、部品の製造コスト低減の観点から、焼きならし工程の省略が求められているが、上記のような切削加工性、結晶粒の粗大化の問題から、焼きならし工程を省略できないのが現状である。
一方、軸受部品、転動部品の中で高面圧が負荷される部品においては、高深度浸炭が行われている。高深度浸炭は通常、十数時間から数十時間の長時間を要するために、省エネルギーの視点から、浸炭時間の短縮が重要な課題である。浸炭時間短縮のためには、浸炭温度の高温化が有効である。通常の浸炭温度は930℃程度であるが、これに対して1000〜1050℃の温度域で高温浸炭を行うと浸炭時間がおよそ1/4程度に短縮できるため、浸炭温度の高温化のニーズは大きい。しかし、高温浸炭を行うと粗大粒が発生し、転動疲労特性等の必要な材質特性が得られないという問題が発生している。その理由は、浸炭温度の高温化によって結晶粒の成長を抑制している微細なピン止め粒子(AlN等)が凝集・粗大化し、ピン止め粒子の数が減少することによってピン止め効果が減少するためである。前述のように、焼きならしによって浸炭前の組織を均質なフェライト・パーライトに整えれば、通常浸炭の場合は従来鋼でも粗大粒の発生を防止可能であるが、高温浸炭の場合は防止できない。
これに対して、特定量のAl、Nb、Nを含有する鋼の熱間圧延、又は熱間鍛造後のNb(CN)、AlNの析出量を規定し、ピン止め粒子として微細なAlN、Nb(CN)を浸炭加熱時に多量分散させることによって高温浸炭においても粗大粒の発生を防止する技術が知られている。しかしながら、この技術は、熱間鍛造後に焼きならしを施すことが前提であって、切削加工性、及び粗大粒発生防止の制約から、熱間鍛造後に焼きならし処理を行うことが必要であり、熱間鍛造後に切削加工工程が入る場合は焼きならしが省略できない。また、熱間鍛造後に焼きならしを行えば、高温浸炭においても粗大粒の発生を防止できるが、通常の熱鍛ままの状態で高温浸炭を行う場合は防止できない。以上に述べた通り、高温浸炭時の粗大粒の発生を防止し、なおかつ、焼きならしの省略をも可能とする技術は依然として見当たらない。
本発明が解決しようとする課題は、高温浸炭時の粗大粒の発生を防止し、省エネルギー化および部品製造コスト低減のため、熱間鍛造後の焼きならし処理が省略可能とする結晶粒粗大化防止特性に優れた高温浸炭鋼の製造方法を提供することである。
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、質量%で、C:0.1〜0.35%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜2.0%を含有し、さらにTiまたはNbから選択した1種または2種を0.1〜0.3%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を素材とし、熱間鍛造時に加熱温度を1200℃以上とし、熱間鍛造後780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保した後、780〜500℃の温度範囲を2℃/sec以下の冷却速度にて冷却することにより、熱間鍛造後のTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)の析出物のうち、10〜100nmの粒子が30個/μm2以上であり、熱間鍛造後にベイナイト組織が5%以下で、残部がフェライト・パーライト組織で硬さが220HV以下であり、1000℃以上で浸炭した時にオーステナイト結晶粒度が7番以上かつ結晶粒度が3番以上異なる粗大粒が20%を超えないことを特徴とする熱間鍛造後焼きならしの省略可能な耐粗粒化特性と被削性に優れた高温浸炭鋼の製造方法である。
請求項2の発明では、請求項1の手段の鋼の製造方法において、素材の鋼の化学成分は、さらに質量%で、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.2〜2.0%、Mo:0.01〜0.35%から選択した1種または2種以上を含有していることを特徴とする熱間鍛造後焼きならしの省略可能な耐粗粒化特性と被削性に優れた高温浸炭鋼の製造方法である。
ここで、本発明の方法における浸炭鋼の化学組成割合の限定理由を述べる。以下%は質量%である。
C:0.1〜0.35%
Cは、機械構造用部品として浸炭処理後の芯部強度を確保するために必要な元素である。0.1%未満ではその効果が十分に得られず、反対に0.35%を超えると芯部の靭性を低下させる。そのため含有量を0.1〜0.35%とした。
Cは、機械構造用部品として浸炭処理後の芯部強度を確保するために必要な元素である。0.1%未満ではその効果が十分に得られず、反対に0.35%を超えると芯部の靭性を低下させる。そのため含有量を0.1〜0.35%とした。
Si:0.05〜0.5%
Siは、転動疲労中の組織変化の遅延および焼入性に効果のある元素であるが、0.05%未満では脱酸効果が十分でなく、0.5%を超えると加工性を低下させる。そのため含有量を0.05〜0.5%とした。
Siは、転動疲労中の組織変化の遅延および焼入性に効果のある元素であるが、0.05%未満では脱酸効果が十分でなく、0.5%を超えると加工性を低下させる。そのため含有量を0.05〜0.5%とした。
Mn:0.2〜2.0%
Mnは、焼入性を向上させる元素であるが、0.2%未満では脱酸効果が十分でなく、2.0%を超えるとベイナイト組織が発生し加工性、粒度特性が低下する。そのため含有量を0.2〜2%とした。
Mnは、焼入性を向上させる元素であるが、0.2%未満では脱酸効果が十分でなく、2.0%を超えるとベイナイト組織が発生し加工性、粒度特性が低下する。そのため含有量を0.2〜2%とした。
TiまたはNbから選択した1種または2種:0.1〜0.3%
TiまたはNbは、本発明において重要な元素であり、鋼中に微細に分散した析出物が冷却時の変態においてフェライトの生成核となり、より多くのフェライトを生成させて結晶粒を微細化し、かつ、フェライトの生成によりベイナイト組織の発生を抑えて硬さを低下させる。さらに、浸炭時には微細に分散した析出物の働きによりオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する。TiまたはNbの含有量が0.1%未満の場合には所望の効果が得られず、0.3%を超えると析出物が過剰となり、加工性や強度の低下を招く。そのためTiまたはNbから選択した1種または2種は0.1〜0.3%とした。なお、請求項として記載していないが、Tiは鋼中のfree−Nを固定してBの焼入性への効果を向上させるので、さらにBを添加して使用することができるが、その場合にはTiを0.025%以上含有していることが必要である。
TiまたはNbは、本発明において重要な元素であり、鋼中に微細に分散した析出物が冷却時の変態においてフェライトの生成核となり、より多くのフェライトを生成させて結晶粒を微細化し、かつ、フェライトの生成によりベイナイト組織の発生を抑えて硬さを低下させる。さらに、浸炭時には微細に分散した析出物の働きによりオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する。TiまたはNbの含有量が0.1%未満の場合には所望の効果が得られず、0.3%を超えると析出物が過剰となり、加工性や強度の低下を招く。そのためTiまたはNbから選択した1種または2種は0.1〜0.3%とした。なお、請求項として記載していないが、Tiは鋼中のfree−Nを固定してBの焼入性への効果を向上させるので、さらにBを添加して使用することができるが、その場合にはTiを0.025%以上含有していることが必要である。
Ni:0.1〜1%、Cr:0.2〜2%、Mo:0.01〜0.35%
Ni、Cr、Moの元素は、焼入性を向上させる元素であるが、多すぎるとベイナイト組織が発生し、加工性、粒度特性が低下する。逆に少なすぎればその効果が十分に期待できない。そこでNi:0.1〜1.0%、Cr:0.2〜2.0%以下、Mo:0.01〜0.35%とし、そのうち1種または2種以上を要求される用途に応じて選択して使用する。
Ni、Cr、Moの元素は、焼入性を向上させる元素であるが、多すぎるとベイナイト組織が発生し、加工性、粒度特性が低下する。逆に少なすぎればその効果が十分に期待できない。そこでNi:0.1〜1.0%、Cr:0.2〜2.0%以下、Mo:0.01〜0.35%とし、そのうち1種または2種以上を要求される用途に応じて選択して使用する。
N:不純物として0.015%以下、好ましくは0.008%以下
Nは0.015%を超えて含有するとTiNが増加し、被削性が低減される。そこで、このN含有量を0.015%以下とした。しかしながら、疲労強度、寿命の要求される場合においては、TiNが少ない方が好ましいので、特に、0.008%以下が望まれる。
Nは0.015%を超えて含有するとTiNが増加し、被削性が低減される。そこで、このN含有量を0.015%以下とした。しかしながら、疲労強度、寿命の要求される場合においては、TiNが少ない方が好ましいので、特に、0.008%以下が望まれる。
本発明は、上記したように請求項として記載していないが、請求項1または2の鋼において、さらに、Bを0.0005〜0.005%を必要により適宜に添加することができる。この場合、Bは微量の添加により焼入性を向上させる元素であり、0.0005%未満ではその効果が十分得られず、0.005%を超えると逆に焼入性を低下させる。そのため0.0005〜0.005%を要求される用途に応じて適宜使用しても良い。
次いで、本発明の浸炭鋼の製造方法における熱間鍛造条件について述べる。熱間鍛造条件は本発明において重要な点である。熱間鍛造時の加熱温度は1200℃以上とする。これはTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)を鋼中に固溶させるためである。好適には、1200〜1300℃である。
さらに、熱間鍛造後の冷却条件について述べる。熱間鍛造後780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保する場合、冷却は炉内冷却が望ましい。780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保するのは、固溶していたTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)をオーステナイト中およびオーステナイト/フェライト界面に優先的に析出させるための時間を確保するためである。780℃以上の温度で5分の冷却時間を確保できない場合、析出しなかったTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)は780℃以下の冷却時、フェライト中に析出するため、その析出硬化に伴い、鋼材は著しく硬さが向上するためである。780〜500℃の温度範囲を2℃/sec以下の冷却条件で冷却する場合、冷却は自然空冷でよい。しかし、冷却速度が2℃/secを超えるような過冷却ではベイナイト組織が発生する。そこで、冷却速度は2℃/sec以下とする。
本願発明では、さらにTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)からなるピンニング粒子を10〜100nmとする。熱間鍛造時の加熱前に析出していた粒子のうち、熱間鍛造加熱時に固溶しなかった粒子の中には凝集・合体により成長し100nmを超えてピンニング効果を失うものが出てくる。一方、熱間鍛造加熱時に固溶し、冷却時に析出したピンニング粒子は、粒子径が小さくピンニング効果を有する。以上の点から、浸炭時に結晶粒度粗大化抑制に寄与する粒子量を規定するだけでは不十分であり、その粒子径を10〜100nmに限定するとよい。ただし、10nm未満の析出物については、電子顕微鏡で観察しても、その組成分析が困難なため、ピンニングには寄与するものの、個数のカウントから外した。
さらに、熱間鍛造後のTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)からなる析出物のうち、10〜100nmの粒子からなる析出物を30個/μm2以上とするのは、別途に調査したところ、浸炭処理前のTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)は、浸炭温度の1000℃において、結晶粒の粗大化を抑制するためには、鍛造部品中に30個/μm2以上のTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)の析出物とすることが良い。
本発明は、上記の手段とすることで、熱間鍛造後の焼きならしを省略できるにもかかわらず、熱間鍛造後の硬さが220HV以下で、かつ1000℃以上の高温での浸炭後においてもTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)からなるピンニング効果により、目的とする結晶粒度が7番以上でかつ結晶粒度3番以上異なる粗大粒が20%未満である浸炭鋼を得ることができた。
以下に本発明の最良の実施形態を表1および表2を通じて説明する。ところで、熱間鍛造後、ただ単に800℃まで冷却し、そこから500℃までの温度範囲を2℃/sec以下の冷却速度で冷却するだけでは、フェライト・パーライト組織は得られるものの、TiCまたはTiCNもしくはNb(CN)の析出により析出硬化するため、結果として機械加工時の切削性を低下せしめる。一方、熱間鍛造後780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保し、TiCまたはTiCNもしくはNb(CN)を析出させた後、780〜500℃の温度範囲を2℃/sec以下の冷却速度で冷却すれば、TiCまたはTiCNもしくはNb(CN)による析出硬化もなく、かつフェライト・パーライト組織が得られるので、耐粗粒化特性並びに被削性に優れる鋼が得られる。
表1に示す化学組成を有する100kg鋼塊を真空溶解炉にて溶製し、表2に示す1200℃以上に加熱して鍛伸加熱温度でφ30mmの棒鋼材に鍛伸し、焼きならしを行った。機械加工によりφ8mm×12mmの試験片を切り出し、加工フォーマスターによる熱間鍛造テストを実施した。
詳細には、熱間鍛造テストは、高周波加熱により室温から15secかけて表2に示す鍛造加熱温度に加熱し、60sec保持した後、それぞれのNo.における鍛造加熱温度マイナス100℃で高さ70%になるまで圧縮を行い、780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保し、780〜500℃の温度範囲を0.7℃/secの冷却速度にて冷却後、室温まで空冷した。
圧縮したテストピースについて、硬さを測定した。
さらに電子顕微鏡観察用の試料を抽出レプリカにて作製し、そのミクロ組織すなわち析出物の形態及び析出物量を調査した。なお、10nm未満の析出物については、その組成分析が困難なため、個数のカウントから除外した。
さらに、擬似浸炭温度1000℃、1050℃にてそれぞれ6時間保持して擬似浸炭し、擬似浸炭後のオーステナイト結晶粒度を調査し、その結果を表2に示す。
表2に見られるとおり、本発明の方法における発明鋼は、鍛造加熱温度を1200℃以上のそれぞれのNo.における温度とし、780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保し、780〜500℃の温度範囲を2℃/sec以下の冷却速度で冷却した。その結果、熱間鍛造後のTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)の析出物のうち、10〜100nmの粒子が30個/μm2以上であった。さらに別途に顕微鏡により観察した結果、熱間鍛造後の組織において、ベイナイト組織が5%以下で残部がフェライト・パーライト組織からなり、硬さが180〜215HVと220HV以下であり、1000℃を超える温度で浸炭した後のオーステナイト結晶粒度は、擬似浸炭後の結晶粒度に見られるとおり8番以上、すなわち本願発明が狙う7番以上であり、混粒の発生も認められず、目的の結晶粒度が得られていることが確認された。
以上から、同じ化学組成の鋼材でも、粗大粒の発生を抑制できる場合もあれば、できない場合もあり、化学組成を制限するのみでは粗大粒を防止することはできない。化学組成以外の要因として、熱間鍛造後の温度処理による鋼材の炭窒化物の析出状態が重要であることがわかる。
さらに、浸炭時に結晶粒の粗大化を防止するには、ピン止め粒子として微細なTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)を浸炭加熱時に多量分散させることがポイントであることがわかる。
熱間鍛造後の鋼材に、一定量以上のTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)をあらかじめ微細析出させるためには、熱間鍛造の加熱温度を極力高温にしてTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)を一旦マトリックス中に固溶させ、熱間鍛造後の冷却時にTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)を析出させることによってTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)を一定量以上、微細分散させることができる。
上記のように炭窒化物の規制を満足したとしても、冷却速度を規定しない限り、熱間鍛造後の鋼材にベイナイト組織が一定量すなわち5%以上混入すると、浸炭加熱時の粗大粒発生の原因となるのみならず、硬さが増加することによって浸炭前の切削加工が困難となる。
熱間鍛造後のTiCまたはTiCNもしくはNb(CN)の析出量の限定理由は、浸炭処理前のTi炭化物またはTi炭窒化物もしくはNb炭窒化物の数と結晶粒粗大化温度の関係を調査した結果、浸炭温度1000℃以上において結晶粒の粗大化を抑制するためには、鋼材または鍛造部品中に30個/μm2以上の析出物が必要であることが判明した。すなわち、鍛造部品中に析出物が30個/μm2以上となったときに、結晶粒の粗大化の抑制作用が発揮され、表2では、38個/μm2以上で粗大化防止が有効に発揮されていることがわかった。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.1〜0.35%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜2.0%を含有し、さらにTiまたはNbから選択した1種または2種を0.1〜0.3%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を素材とし、熱間鍛造時に加熱温度を1200℃以上とし、熱間鍛造後780℃以上の温度で5分以上の冷却時間を確保した後、780〜500℃の温度範囲を2℃/sec以下の冷却速度にて冷却することを特徴とする耐粗粒化特性と被削性に優れた高温浸炭鋼の製造方法。
- 請求項1記載の浸炭鋼の製造方法において、素材の鋼は、さらに、質量%で、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.2〜2.0%、Mo:0.01〜0.35%から選択した1種または2種以上を含有することを特徴とする耐粗粒化特性と被削性に優れた高温浸炭鋼の製造方法。
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