JP2006028568A - 高温浸炭用鋼およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 1000℃を超える高温浸炭温度においても結晶粒の粗大化が防止され、機械的特性が劣化し難いような高温浸炭用鋼、およびこうした高温浸炭用鋼材を製造するための有用な方法を提供する。
【解決手段】 本発明の高温浸炭用は、C:0.13〜0.40%、Nb:0.030〜0.40%およびTi:0.025〜0.10%未満を夫々含有すると共に、下記(1)式を満足する炭化物および/または炭窒化物が2.0×107個/mm2以上存在するものである。
[Ti]/[Nb]≧0.05 …(1)
但し、[Ti]および[Nb]は、炭化物および/または炭窒化物中におけるTiおよびNの夫々の含有量(質量%)を示す。

Description

本発明は、自動車や産業機械等の機械部品に加工される鋼のうち、比較的高い温度で浸炭処理される浸炭用鋼およびその製造方法に関し、特に高温浸炭処理した場合であっても結晶粒の粗大化を招かないような高温浸炭用鋼、およびこのような浸炭用鋼を製造するための有用な方法に関するものである。
自動車部品、産業機械部品等において、歯車などのように耐摩耗性、耐衝撃性、疲労強度および靭性が要求される部材には、疲労強度や靭性を確保しつつ耐摩耗性や耐衝撃性を良好にする手段として、表面硬度を高くすることが効果的であることが知られている。こうした表面硬化法として、粗加工した部材に対して仕上げ加工する前にその表面を浸炭処理する方法が行われている。またこうした用途に用いられる鋼材は、「浸炭用鋼」若しくは「肌焼き鋼」と呼ばれている。
上記のような浸炭処理は、素材を浸炭雰囲気にて910〜950℃程度の温度で長時間保持する処理であり、生産性が悪いという問題がある。一方、高温で処理すると、保持時間を短くすることができるが、処理中に結晶粒(γ粒)が粗大化してしまい、母材の機械的性質の劣化や焼入れ歪の増大が生じるという問題がある。こうしたことから、より高温で浸炭処理を施しても結晶粒粗大化を抑制できる鋼材が要求されているのが実情である。
こうした観点から、これまでにも様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、NbやAlを積極的に添加し、Nbの析出物やAlとNbの複合組成[Nb(CN),AlN]からなる析出物を所定量生成させ、これらの析出物によって結晶粒の成長を阻止する効果(ピンニング効果)を発揮させた肌焼き鋼が提案されている。また、特許文献2には、Bを必須成分として含有し、Tiを0.1%超〜0.2%積極的に含有させることによってTi炭化物、Ti複合炭化物等を析出させ、これによって結晶粒成長を抑制した肌焼ボロン鋼が提案されている。更に、特許文献3には、AlやTiを積極的に添加し、AlNやTiNを生成させることによって結晶粒に粗大化を防止した肌焼き鋼の製造方法が提案されている。一方、特許文献4には、鋼中の溶存酸素量を10〜150ppmにした後、Al、Ti或いはAl合金、Ti合金の1種または2種で脱酸し、鋼中にMnSを微細分散させることによって粗大粒発生を防止する技術が提案されている。
特開平9−78184号公報 特許請求の範囲等 特開平10−81938号公報 特許請求の範囲等 特公平5−68528号公報 特許請求の範囲等 特公平7−91579号公報 特許請求の範囲等
これまで提案されている技術は、AlN、Nb(CN)、TiC或いはMnS等をできるだけ多量に微細分散させることによって、結晶粒も成長を抑制するものであり、これらの技術によって浸炭温度が1000℃程度まで上げても、結晶粒の平均サイズをある程度小さく維持することができるものとなっている。
ところで、浸炭温度の高温化は単に浸炭時間の短縮化だけでなく、浸炭深さをできるだけ深くするためにも必要である。例えば、従来の歯車では浸炭深さが0.5〜1mm程度でその特性が確保できるのであるが、CVT(無段変速機)の金属ベルトを巻き掛けるプーリーなどでは、2mm程度の浸炭深さが要求されるようになっており、こうした観点から従来よりも浸炭温度をできるだけ高くする必要がある。
しかしながら、これまで提案されてきる技術では、1000℃を超える高温域で浸炭処理を行うと、これらの析出物の固溶量が増大してしまい、析出物が固溶して消失した部位9ではピンニング効果が発揮されず、結晶粒の異常成長が発生してこれらの結晶粒が粗大してしまい、機械的特性が劣化してしまうという問題がある。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、1000℃を超える高温浸炭温度においても結晶粒の粗大化が防止され、機械的特性が劣化し難いような高温浸炭用鋼、およびこうした高温浸炭用鋼材を製造するための有用な方法を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明の浸炭用鋼とは、C:0.13〜0.40%(質量%の意味、以下同じ)、Nb:0.030〜0.40%およびTi:0.025〜0.10%未満を夫々含有すると共に、下記(1)式を満足する炭化物および/または炭窒化物が2.0×107個/mm2以上存在するものである点に要旨を有するものである。
[Ti]/[Nb]≧0.05 …(1)
但し、[Ti]および[Nb]は、炭化物および/または炭窒化物中におけるTiおよびNの夫々の含有量(質量%)を示す。
本発明の浸炭用鋼における他の成分としては、Si:0.05〜1.5%、Mn:0.2〜2.2%およびAl:0.10%以下(0%を含む)およびS:0.10%以下(0%を含む)を夫々含有すると共に、P:0.050%以下(0%を含む)、O:0.0030%以下(0%を含む)およびN:0.020%以下(0%を含む)に夫々抑制したものであることが好ましく、こうした化学成分組成とする場合には、下記(2)式を満足することが有用である。
[Ti]−47.9[N]/14≧0.0050(質量%) …(2)
但し、[Ti]および[N]は、鋼中におけるTiおよびNの夫々の含有量(質量%)を示す。
本発明の浸炭用鋼においては、粒径:8μm以上の粗大介在物の量が10個/mm2以下であることが好ましく、また必要によって、(1)Ni:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Cr:2.0%以下およびMo:1.0%以下よりなる群から選ばれる1種以上、(2)B:0.0050%以下、(3)V:0.10%以下、(4)Zr:0.40%以下、Hf:0.40%以下およびTa:0.40%以下よりなる群から選ばれる1種以上、(5)Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下およびREM:0.020%以下よりなる群から選ばれる1種以上、等を含有させることも有効であり、含有させる成分の種類に応じて浸炭用鋼の特性が更に改善されることになる。
一方、本発明の浸炭用鋼を製造するに当たっては、上記いずれかに記載の化学成分を有する鋼を溶製した後鋳造することによって得られた鋳片を、1250℃以上の温度に再加熱してその温度で下記(3)式を満足する時間保持すれば良い。
(T+273)2×[log(t)+20]≧4.64×107…(3)
但し、T:保持温度(℃)、t:保持時間(hr)を夫々示す。
この製造方法においては、前記(3)式を満足する時間保持した後は、鋳片を冷間鍛造または熱間鍛造されてから浸炭処理されることになる。また前記鋳造するに際して、鋼の凝固点から1200℃までを10℃/min以上の冷却速度で冷却することが好ましい。
また、本発明の浸炭用鋼を製造するに当たっては、上記いずれかに記載の化学成分を有する鋼を溶製した後鋳造するに際して、鋼の凝固点から1200℃までを10℃/min以上の冷却速度で冷却する構成を採用することも有用である。
本発明の浸炭用鋼においては、C,NbおよびTi等の基本成分を適切に制御すると共に、所定の関係式を満足する析出物の分布状況を適切にすることによって、1000℃を超える高温浸炭温度においても結晶粒の粗大化が防止され、機械的特性が劣化しない高温浸炭用鋼が実現できた。
これまで提案されている技術では、AlN,Nb(CN)或いはTiC等の析出物をできるだけ多量に微細分散させることによって、結晶粒成長を抑制することを基本とするものである。しかしながらこうした技術では、いずれも1000℃を超える高温域では、炭素が濃化する浸炭表面での異常粒成長が依然として発生することになる。こうした高温域では、いずれの析出物も固溶量が多くなり、析出物が固溶してピンニングが外れた部位が異常粒成長することになる。特に、浸炭された表面においては、Cの濃化および拡散が生じることになって、炭化物や炭窒化物が著しく粒成長し、析出数が少なくなってしまい、その結果として異常粒成長が発生することが判明した。即ち、浸炭前処理段階での析出物の数を多くするだけではなく、析出物の個数を一定以上に確保しつつ、浸炭温度における析出物の粒成長を抑制することが極めて重要であることは分かった。
そこで本発明者らは、上記のような知見に基づき、1000℃を超える高温域での浸炭温度において、析出物の個数を確保しつつ、析出物の粒成長を抑制する方策について様々な角度から鋭意研究を重ねた。その結果、TiとNbを同時に含む炭化物や炭窒化物では粒成長が著しく遅く、必要な析出物数が確保できることが判明したのである。具体的には、前記(1)式の関係を満足する炭化物および/または炭窒化物の個数が2.0×107個/mm2以上生成させれば良いことを見出し、本発明を完成した。
一般に、析出物の粒成長は、析出物中の合金元素のマトリックス中の固溶量と拡散速度で決定されると考えられている。TiとNbを複合させた炭化物や炭窒化物とすることによって、Ti、Nbのマトリックス中の固溶量が低減すること、またTiとNbが同時に拡散する必要があるため、拡散速度が遅くなって粒成長速度を著しく抑制できることが分かったのである。即ち、Nbの拡散速度は比較的速いのであるが、こうしたNbに拡散速度が比較的遅いTiを複合添加することによって、全体としての拡散速度を遅くして粒成長速度を著しく抑制できたのである。
本発明の浸炭用鋼では、Cを0.13〜0.4%程度含有する鋼材において所定量のNbおよびTiを含有させ、前記(1)式の関係を満足する炭化物および/または炭窒化物が2.0×107個/mm2以上存在するものであるが、これらの要件を規定した理由は次の通りである。
C:0.13〜0.40%
Cは、部材の芯部強度を確保のために、0.13%以上含有させる必要がある。しかし、0.40%を超えて過剰に含有させると芯部の靱性を劣化させる。こうしたことから、C含有量の範囲は0.13〜0.40%とした。尚、C含有量の好ましい下限は0.15%であり、より好ましくは0.17%以上とするのが良い。また、C含有量の好ましい上限は0.30%であり、より好ましくは0.25%以下とするのが良い。
Nb:0.030〜0.40%
Nbは微細な(Nb,Ti)(CN)を形成し、γの結晶粒成長を抑制する効果を有し、本発明において最も重要な元素の一つである。こうした効果を発揮させるためには、Nb含有量は0.030%以上とする必要がある。しかしながら、Nb含有量が過剰になって0.40%を超えるとその効果が小さくなり、粗大炭化物が生成し、疲労特性を却って劣化させることになる。尚、Nb含有量の好ましい下限は、0.040%であり、より好ましくは0.050%以上とするのが良い。またNb含有量の好ましい上限は0.20%であり、より好ましくは0.12%以下とするのが良い。
Ti:0.025〜0.10%未満
TiはNと反応してTiNを形成する以外に、微細な(Nb,Ti)(CN)となってγの結晶粒成長を抑制し、またTiがNb(CN)中に固溶することで、浸炭時の炭窒化物の粒成長を抑制し、γ結晶粒成長を抑制する効果を有し、本発明において最も重要な元素の一つである。Ti含有量が0.025%未満になると炭窒化物の粒成長を抑制する効果が少なく、γ結晶粒成長の抑制効果が十分ではなく、0.10%以上となるとTiNが粗大化して疲労特性を劣化させることになる。こうしたことからTi含有量は0.025〜0.10%未満とする必要がある。尚、Ti含有量の好ましい下限は0.030%であり、より好ましくは0.035%以上とするのが良い。またTi含有量の好ましい上限は0.070%であり、より好ましくは0.050%以下とするのが良い。
[Ti]/[Nb]]≧0.05を満足する炭化物および/または炭窒化物の個数が2.0×10 7 個/mm 2 以上
炭化物および/または炭窒化物中のNbに対するTiの割合が多くなるほど、析出物の粒成長が抑制される。[Ti]/[Nb]の値が0.05以上であるとその効果が有効に発揮されるのであるが、0.05未満となるその効果が小さくなってしまう。また、炭化物および/または炭窒化物はできるだけ多数存在させた方が、γの結晶粒径が微細になるが、その数が2.0×107個/mm2未満では結晶粒成長抑制効果が発揮できない。こうしたことから、炭化物および/または炭窒化物の個数の下限を2.0×107個/mm2としたのであるが、好ましくは1.0×108個/mm2以上、より好ましくは5.0×108個/mm2以上とするのが良い。
上記のような特徴を有する高温浸炭用鋼を製造するに当たっては(特に析出物を上記の形態にするには)、上記のような化学成分を有する鋼を溶製した後鋳造することによって得られた鋳片を、1250℃以上の温度で所定時間保持すれば良い。この温度(再加熱温度)が、1250℃未満の場合、或いは再加熱せずに鋳造ままの場合には、粗大なTiNと比較的微細なNbCに分離したままであり、その後の浸炭時にNbCが粗大化するのに対して、高温で炭窒化物を一旦固溶させることによって、マトリックス中のNb、Tiが再固溶し、NbおよびTiの複合析出物が再析出し、それらは浸炭時にも著しく粒成長しにくいものとなる。
1250℃で保持する時間t(保持時間)については、本発明者らが検討したところによれば、下記(3)式を満足する時間tとすることが必要であることが判明している。この保持時間tは、下記(4)式の関係を満足する保持時間t1とすることが好ましく、より好ましくは下記(5)式の関係を満足する保持時間t2とするのが良い。
(T+273)2×[log(t)+20]≧4.64×107…(3)
但し、T:保持温度(℃)、t:保持時間(hr)を夫々示す。
(T+273)2×[log(t1)+20]≧4.95×107…(4)
(T+273)2×[log(t2)+20]≧5.10×107…(5)
本発明の浸炭用鋼では、C,NbおよびTiの含有量以外については特に限定するものではないが、Si,Mn,Al,P,O,N等の成分も下記の様に適切に調整することが好ましい。これらの成分の範囲限定理由については次の通りである。またNの含有量を適切な範囲に調整した場合には、このN含有量とTi含有量の関係が前記(2)式を満足することが好ましい。
Si:0.05〜1.5%
Siは脱酸のための必要な元素であり、その効果を発揮させるためには0.05%以上含有させるのが好ましい。しかし、1.5%を超えて過剰に含有させると加工の低下や浸炭時の粒界酸化層の形成を助長し、疲労強度の低下を招くことになる。尚、Si含有量のより好ましい下限は0.10%であり、更に好ましくは0.2%以上とするのが良い。また、Si含有量のより好ましい上限は0.80%であり、更に好ましくは0.50%以下とするのが良い。
Mn:0.2〜2.2%
Mnは焼入れ性を確保するのに有用な元素であり、こうした効果を発揮させるためには0.2%以上含有させることが好ましい。しかし、2.2%を超えて過剰に含有させると加工性が劣化する。尚、Mn含有量のより好ましい下限は0.5%であり、更に好ましくは0.75%以上とするのが良い。また、Mn含有量のより好ましい上限は2.0%であり、更に好ましくは1.5%以下とするのが良い。
Al:0.10%以下(0%を含む)
Alは脱酸剤として必要によって添加されるものであるが、過剰に含有されると介在物が多く発生し、疲労強度、靭性を劣化させることがあるので、0.10%以下とすることが好ましい。Al含有量のより好ましい上限は0.050%であり、更に好ましくは0.020%以下、若しくは0.010%以下とするのが良い。尚、Alは脱酸剤として必ずしも含有させる必要がなく、例えばSiによって代用できるものである。
S:0.10%以下(0%を含む)
Sは鋼材の靭性を劣化させる元素であるが、添加することによってMnSを形成して切削性を改善するという効果を有する。従って、要求される特性に応じて、切削が必要となる場合にはSを含有することが好ましい。しかしながら、S含有量が過剰になって0.10%を超えると靭性が著しく劣化することになる。こうしたことから、S含有量は0.010%以下とした。尚、S含有量のより好ましい上限は0.08%であり、更に好ましくは0.02%以下とするのが良い。
P:0.050%以下(0%を含む)、O:0.0030%以下(0%を含む)
PおよびOは靭性を劣化させる元素であるため、極力低減することが望ましい。しかしながら、P,Oは鋼中の不純物として含有させることが多く、特別な精錬が必要となるので、低減するためには素材コストが上昇することになる。従って、靭性を著しく劣化させない範囲としてP,Oの上限を規定した。尚、P含有量のより好ましい上限は0.02%であり、更に好ましくは0.015%以下とするのが良い。またO含有量のより好ましい上限0.0020%であり、更に好ましくは0.0015%以下とするのが良い。
N:0.020%以下(0%を含む)
窒素は不純物として鋼中に混入し、Tiと反応してTiNを形成し、粗大介在物となり疲労特性を劣化させる原因となるため、なるべく低減することが好ましい。こうしたことから、N含有量は0.020%以下と規定したが、より好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.0070%以下、若しくは0.0050%以下とするのが良い。
[Ti]−47.9[N]/14≧0.0050(質量%)
TiはまずNと優先的に反応するので、Nb(CN)中にTiを固溶させて浸炭時の炭窒化物の粒成長を抑制するためには、TiがNと反応した後であっても所定量のTi量を確保する必要がある。こうしたことから、上記関係式を満足することが好ましい。即ち、TiがNと反応した後において0.050%以上のTi量を確保するのが良い。尚、[[Ti]−47.9[N]/14]の値は、より好ましくは0.010%以上、更に好ましくは0.015%以上とするのが良い。
ところで、Tiを添加した鋼材においては粗大なTiNが存在しやすく、特に粒径が8μm以上の粗大介在物(特に、TiN)が10個/mm2を超えて存在すると疲労特性を劣化させることになる。こうしたことから、このような粗大介在物の個数は10個/mm2以下とすることが好ましく、より好ましくは5個/mm2以下、更に好ましくは0個/mm2以下とするのが良い。また、こうした粗大介在物を低減するには、鋼材の鋳造の段階において、鋼の凝固点から1200℃までを10℃/min以上の冷却速度で冷却することが好ましい。このように凝固時の冷却速度を速めることによって、粗大介在物の析出を抑えることができる。このときの冷却速度は、20℃/min以上とすることがより好ましく、更に好ましくは30℃/min以上とするのが効果的である。
本発明の浸炭用鋼における基本成分は上記した通りであり、残部は鉄および不可避的不純物(例えば、Sn,Sb等)からなるものであるが、これら以外にも鋼材の特性を阻害しない程度の成分(例えば、W,Co等)の含有も許容できる。但し、これら許容成分は、その量が過剰になると靭性が劣化するので、0.1%程度以下に抑えるべきである。
また、本発明の浸炭用鋼には、上記成分の他必要によって、(1)Ni:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Cr:2.0%以下およびMo:1.0%以下よりなる群から選ばれる1種以上、(2)B:0.0050%以下、(3)V:0.10%以下、(4)Zr:0.40%以下、Hf:0.40%以下およびTa:0.40%以下よりなる群から選ばれる1種以上、(5)Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下およびREM:0.020%以下よりなる群から選ばれる1種以上、等を含有させることも有効であり、含有させる成分の種類に応じて浸炭用鋼の特性が更に改善されることになる。これらの元素を含有させるときの範囲限定理由は次の通りである。
Ni:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Cr:2.0%以下およびMo:1.0%以下よりなる群から選ばれる1種以上
Ni,Cu,CrおよびMoの各元素は、浸炭部および芯部の強度、靭性を改善する元素であり、要求される強度や靭性に応じて含有させることができる。これらの元素による効果はその含有量が増すにつれて大きくなるが、過剰になると熱間加工後の硬さが増加し、冷間加工性を劣化させることになるので、Ni,CuおよびCrについては2.0%以下、Moについては1.0%以下とするのが好ましい。これらの元素のより好ましい上限は、Ni,CuおよびCrについては1.5%であり、更に好ましくは1.2%以下とするのが良い。またMoのより好ましい上限は、0.75%であり、更に好ましくは0.5%以下とするのが良い。尚、これらのうちCrについては、鋼材の焼入れ性を高める作用を発揮するが、こうした効果を発揮させるためには0.2%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.50%以上含有させるのが良い。
B:0.0050%以下
Bは冷間加工性を劣化させることなく、焼入れ性や靭性を向上させることができる元素であり、要求特性に応じて含有させることができる。しかしながら、0.0050%を超えて含有させても、その効果が飽和すると共に、熱間加工性を劣化させるのでその上限を0.0050%以下とした。B含有量のより好ましい上限は0.0035%であり、更に好ましくは0.0025%以下とするのが良い。
V:0.10%以下
Vは少量の含有によって、焼入れ性および焼き戻し軟化抵抗を高める作用がある。こうした効果はその含有量が増すにつれて大きくなるが、0.10%を超えて過剰になると、冷間加工性を劣化させるためその上限を0.10%とした。尚、V含有量のより好ましい上限は0.05%であり、更に好ましくは0.02%以下とするのが良い。
Zr:0.40%以下、Hf:0.40%以下およびTa:0.40%以下よりなる群から選ばれる1種以上
これらの元素は、NaCl型の炭窒化物を形成するため、(Nb,Ti)(CN)に固溶し、析出物の粒成長を抑制し、γ結晶粒成長も抑制する効果も発揮する。しかしながら、いずれも0.40%を超えて含有すると粗大介在物が形成されて疲労特性が劣化することになる。これらの元素のより好ましい含有量は0.10%以下であり、更に好ましくは0.05%以下とするのが良い。
Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下およびREM:0.020%以下よりなる群から選ばれる1種以上
Ca,MgおよびREMは、硫化物を形成し、MnSの伸長を防止することによって靭性を改善する効果を有し、要求特性に応じて含有させることができる。しかしながら、各元素の上限を超えると、鋼材の靭性を却って劣化させることになる。これらの元素の夫々のより好ましい上限は、Ca:0.0030%、Mg:0.0030%、REM:0.010%である。
尚、本発明の浸炭用鋼は、浸炭焼入れして用いられることを想定したものであり、浸炭時における温度を比較的高温にした場合であっても結晶粒粗大化が発生しないという効果を発揮するものであるが、浸炭と同時に窒化も起こる浸炭窒化法にも適用できるものである。また本発明の浸炭用鋼は、上記のように再加熱した後、冷間鍛造または熱間鍛造してから浸炭処理されるものであるが、限定された鍛造温度でのみ効果を発揮するものではなく、鍛造温度に関係なく、その効果を発揮する。また冷間鍛造または熱間鍛造に先立ち(即ち、再加熱の後)、組織の均一化を図るために焼きならし処理を施す場合もある。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含されるものである。
実施例1
下記表1に示す化学成分組成の鋼材を、下記表2に示す冷却速度によって鋳造し、冷間鍛造に際して、鋳片を同表2に示す最高温度にて再加熱して所定の時間保持した後、30mmφの棒鋼に鍛伸し、次いで900℃で焼きならしを行い、12mmφ×18mmHの円柱試験片を作製した。この円柱試験片を用い、冷鍛プレス機によって室温にて70%の加工を加えた後、1050℃×3時間の浸炭処理(アセチレンガス雰囲気)を行い、次いで油焼入れを行ったものについて、結晶粒を測定した。また30mmφ棒鋼を1050℃×3時間の浸炭処理+油焼入れ処理を行い、160℃で焼き戻しを行った。このようにして得られた試験片から、JIS3号シャルピー衝撃試験片を採取し、靭性評価を行い、20J以上を合格とした。また、各試験片の芯部の硬さを測定し、芯部強度を評価し、Hv300以上を合格とした。更に、小野式回転曲げ疲労試験により疲労限を求め、700MPa以上を合格とした。その他、下記の各方法によって、結晶粒度抑制効果、微細炭窒化物および粗大介在物の評価を行った。これらの結果を、一括して下記表3に示す。
[結晶粒度抑制効果の評価方法]
浸炭後の試験片の断面を観察し、結晶粒度5番以下の粗粒の面積率(粗粒率)を測定し、5%以下を合格とした。また、平均粒度を測定し、5番以上を合格とした。
[微細炭窒化物の評価方法]
900℃焼きならし材の試料から、透過型電子顕微鏡用の抽出レプリカを作製し、観察倍率10万倍で任意の炭化物/炭窒化物20個について、[Ti]/[Nb]をEDX(エネルギー分散形X線分析装置)により分析し、0.05以上となる割合を求めた。その後、観察倍率15万倍で、測定面積0.75μm2の写真を20視野観察し、個数をカウントし、先に求めた[Ti]/[Nb]≧0.05となる割合を乗じることで、[Ti]/[Nb]≧0.05となる炭化物/炭窒化物の個数を求めた。
[粗大介在物の評価方法]
900℃焼きならし材の試料を鏡面研磨し、光学顕微鏡を用いて400倍で228μm×183μmの視野を20視野写真観察し、画像解析によって8μm以上の介在物の個数を測定した。
Figure 2006028568
Figure 2006028568
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これらの結果から次のように考察できる。本発明で規定する要件を満足するもの(No.3〜6,8,9,11〜14,18〜33)では、浸炭温度の影響が少なく、1050℃の浸炭温度であっても、安定して結晶粒の成長を抑制しているが、本発明で規定する要件のいずれかを満足しないもの(No.1〜3,7,10,15〜17,34,35)では、いずれかの特性が劣化していることが分かる。
実施例2
前記実施例1では、冷間鍛造する場合を示したが、この実施例2では熱間鍛造後の浸炭時の結果を示す。実施例1と同様にして下記表4に示す化学成分組成の鋼材(前記表1のNo.1〜6と同じもの)を、下記表5に示す冷却速度によって鋳造し、熱間鍛造に際して、鋳片を同表5に示す加熱温度(最高温度)にて再加熱して所定の時間保持した後、30mmφの棒鋼に鍛伸し、次いで900℃で焼きならしを行い、12mmφ×18mmHの円柱試験片を作製した。この円柱試験片を用い、1250℃×8minの加熱後に70%の加工を施し、その後一旦冷却した後、1100℃×3時間の浸炭処理(アセチレンガス雰囲気)を行い、次いで油焼入れを行ったものについて実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を、一括して下記表6に示すが、本発明で規定する要件を満足するものでは、熱間鍛造後においても浸炭温度の影響が少なく、1100℃の浸炭温度であっても、安定して結晶粒の成長を抑制していることが分かる。
Figure 2006028568
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Claims (12)

  1. C:0.13〜0.40%(質量%の意味、以下同じ)、Nb:0.030〜0.40%およびTi:0.025〜0.10%未満を夫々含有すると共に、下記(1)式を満足する炭化物および/または炭窒化物が2.0×107個/mm2以上存在するものであることを特徴とする高温浸炭用鋼。
    [Ti]/[Nb]≧0.05 …(1)
    但し、[Ti]および[Nb]は、炭化物および/または炭窒化物中におけるTiおよびNの夫々の含有量(質量%)を示す。
  2. Si:0.05〜1.5%、Mn:0.2〜2.2%およびAl:0.10%以下(0%を含む)およびS:0.10%以下(0%を含む)を夫々含有すると共に、P:0.050%以下(0%を含む)、O:0.0030%以下(0%を含む)およびN:0.020%(0%を含む)以下に夫々抑制し、且つ下記(2)式を満足するものである請求項1に記載の高温浸炭用鋼。
    [Ti]−47.9[N]/14≧0.0050(質量%) …(2)
    但し、[Ti]および[N]は、鋼中におけるTiおよびNの夫々の含有量(質量%)を示す。
  3. 粒径:8μm以上の粗大介在物の量が10個/mm2以下である請求項1または2に記載の高温浸炭用鋼。
  4. 更に、Ni:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Cr:2.0%以下およびMo:1.0%以下よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の高温浸炭用鋼。
  5. 更に、B:0.0050%以下を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の高温浸炭用鋼。
  6. 更に、V:0.10%以下を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の高温浸炭用鋼。
  7. 更に、Zr:0.40%以下、Hf:0.40%以下およびTa:0.40%以下よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の高温浸炭用鋼。
  8. Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下およびREM:0.020%以下よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の高温浸炭用鋼。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の高温浸炭用鋼を製造するに当たり、請求項1〜8のいずれかに記載の化学成分を有する鋼を溶製した後鋳造することによって得られた鋳片を、1250℃以上の温度に再加熱してその温度で下記(3)式を満足する時間保持することを特徴とする高温浸炭用鋼の製造方法。
    (T+273)2×[log(t)+20]≧4.64×107…(3)
    但し、T:保持温度(℃)、t:保持時間(hr)を夫々示す。
  10. 前記(3)式を満足する時間保持した後、鋳片を冷間鍛造または熱間鍛造する請求項9に記載の製造方法。
  11. 前記鋳造するに際して、鋼の凝固点から1200℃までを10℃/min以上の冷却速度で冷却する請求項9または10に記載の製造方法。
  12. 請求項1〜8のいずれかに記載の高温浸炭用鋼を製造するに当たり、請求項1〜8のいずれかに記載の化学成分を有する鋼を溶製した後鋳造するに際して、鋼の凝固点から1200℃までを10℃/min以上の冷却速度で冷却することを特徴とする高温浸炭用鋼の製造方法。
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