ところで、機関出力の向上等を目的として、内燃機関に過給機が設けられることがある。
ここで、過給機付きの内燃機関では、過給機の作動によって得られる過給圧が変化すると、例えば吸気ポートから排気ポートへの吸気の吹き抜け量や新気に混合される排気の量等も変化し、これにより内部排気還流量も変化するようになる。
この点上記従来のバルブ特性制御装置では、バルブオーバラップ量の設定に際して内部排気還流量等に対する過給圧の影響が何ら考慮されないため、これを可変動弁機構と過給機とを備える内燃機関のバルブ特性制御装置としてこれを適用しても、バルブオーバラップ量を機関運転状態に応じた最適なものに設定することができない。そのため、例えば燃焼状態の悪化等を招くおそれがあり、さらなる改善の余地を残すものとなっている。
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その目的は、可変動弁機構を備える過給機付きの内燃機関にあって、バルブオーバラップ量を好適に設定することのできる過給器付き内燃機関のバルブ特性制御装置を提供することにある。
こうした目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方についてそのバルブ特性を可変とする可変動弁機構を備える過給機付きの内燃機関にあって、前記可変動弁機構の駆動制御を通じて機関運転状態に応じたバルブオーバラップ量を設定する過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記過給機の作動によって得られる過給圧に基づいて前記バルブオーバラップ量を変更することをその要旨とする。
上記構成によれば、内部排気還流量に影響を与える過給圧を考慮してバルブオーバラップ量が設定されるため、可変動弁機構と過給機とを備える内燃機関のバルブオーバラップ量を好適に設定することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記過給圧を前記内燃機関の吸気管内の圧力と排気管内の圧力とに基づいて算出することをその要旨とする。
過給機付きの内燃機関では、上述したように過給圧により変化する吸気管内の圧力と、排気管内の圧力との関係で内部排気還流量が変化する。例えば、吸気管内の圧力が排気管内の圧力に比べて大きいときには気筒内の内部排気還流量は少なくなり、吸気管内の圧力が排気管内の圧力よりも小さいときには同気筒内の内部排気還流量が増大する。このため、吸気管内の圧力と排気管内の圧力とに基づいて上記バルブオーバラップ量を変更することとした上記構成によれば、内部排気還流量の変化傾向を考慮した可変動弁機構の制御が可能となり、バルブオーバラップ量を好適に設定することができるようになる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記吸気管内の圧力が前記排気管内の圧力よりも大きいときには前記内燃機関の筒内における新気捕捉率を算出し、該新気捕捉率に基づいて前記バルブオーバラップ量を変更することをその要旨とする。なお、新気捕捉率とは、内燃機関の筒内(燃焼室内)に入った新気(混合気)の量に対して排気管側に抜けることなく気筒内に残った新気の量を比率で表わしたものである。
吸気管内の圧力が排気管内の圧力に比べて大きい機関運転状態においてバルブオーバラップ量を増大させると、吸気ポートから排気ポートへの吸気の吹き抜け量が増大するため、内部排気還流量はほとんど増大せず、新気捕捉率は低下するようになる。そのため、この場合には新規捕捉率を重視したバルブオーバラップ量の設定を行うことが望ましい。そこで上記構成では、吸気管内の圧力が排気管内の圧力よりも大きいときには新気捕捉率を算出し、この新気捕捉率に基づいてバルブオーバラップ量を変更するようにしている。従って同構成によれば、気筒内に残留する新気の量を好適に確保することができるようになる。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記新気捕捉率に基づく前記バルブオーバラップ量の変更に際して、前記新気捕捉率が予め設定された目標捕捉率を超えるときには前記新気捕捉率を該目標捕捉率に設定するべく、前記バルブオーバラップ量を増大させることをその要旨とする。なお、目標捕捉率とは、内燃機関の好適な燃焼を実現するうえで好ましい新気捕捉率として予め設定される値である。
上記構成によれば、新気捕捉率に余裕があるときにはバルブオーバラップ量が増大されて、ポンピングロスが低減される。そのため、内燃機関の効率を向上させることができるようになる。
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記新気捕捉率に基づく前記バルブオーバラップ量の変更に際して、前記新気捕捉率が前記目標捕捉率に満たないときには前記新気捕捉率を該目標捕捉率に設定するべく、前記バルブオーバラップ量を減少させることをその要旨とする。
上記構成によれば、新気捕捉率が不足しているときにはバルブオーバラップ量が減少されて上述したような吸気の吹き抜け量が減量される。そのため、新気を確実に気筒内にとどめることができるようになり、もって内燃機関の吸気効率を好適に確保することができるようになる。また、新気が気筒内に確実に留められることにより、新気の吹き抜けによる燃費悪化や排気エミッション悪化を抑制することにも繋がる。
請求項6に記載の発明は、請求項2〜5のいずれかに記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記吸気管内の圧力が前記排気管内の圧力よりも小さいときには前記筒内における内部排気還流量を算出し、該内部排気還流量に基づいて前記バルブオーバラップ量を変更することをその要旨とする。
吸気管内の圧力が排気管内の圧力に比べて小さい機関運転状態においては、吸気ポートから排気ポートへの吸気の吹き抜け量が少なく、バルブオーバラップ量を増大させると、これに伴って内部排気還流量は増大するようになる。そのため、この場合には内部排気還流量を重視したバルブオーバラップ量の設定を行うことが望ましい。そこで上記構成では、吸気管内の圧力が排気管内の圧力よりも小さいときには内部排気還流量を算出し、この内部排気還流量に基づいてバルブオーバラップ量を変更するようにしている。従って同構成によれば、内部排気還流量を好適に確保することができるようになる。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記内部排気還流量に基づく前記バルブオーバラップ量の変更に際して、該内部排気還流量が予め設定された目標内部排気還流量を超えるときには内部排気還流量を該目標内部排気還流量に設定するべく、前記バルブオーバラップ量を減少させることをその要旨とする。なお、目標内部排気還流量とは、内燃機関の好適な燃焼を実現するうえで好ましい内部排気還流量として予め設定される値である。
上記構成によれば、内部排気還流量が過度に多く確保されているときにはバルブオーバラップ量が減少されるため、内燃機関の燃焼状態を好適なものにすることができるようになる。
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記内部排気還流量に基づく前記バルブオーバラップ量の変更に際して、前記内部排気還流量が前記目標内部排気還流量に満たないときには内部排気還流量を該目標内部排気還流量に設定するべく、前記バルブオーバラップ量を増大させることをその要旨とする。
上記構成によれば、内部排気還流量が不足しているときにはバルブオーバラップ量が増大されてその不足分が補償されるため、排気エミッションの悪化を抑制することができるようになる。なお、このようにバルブオーバーラップ量が増大されて内部排気還流量も増大される場合には、壁面付着燃料の蒸発が促進されて吸気と燃料との混合がより良好な状態となったり、混合気の燃焼温度が低下したりする等して燃焼状態が改善され、排気エミッションは良好な状態となる。さらに、このようにバルブオーバラップ量が増大されるときには、上述したようにポンピングロスが低減されるため、内燃機関の効率を向上させることもできる。
ところで、上記可変動弁機構としては請求項9に記載の発明によるように、前記可変動弁機構は吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方についてそのバルブタイミングを可変設定する機構である、といった構成を採用することにより、バルブオーバラップ量を的確に変更することができる。
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記可変動弁機構は前記バルブタイミングに加え、前記吸気バルブのバルブリフト量も可変設定する機構であって、前記バルブタイミングの可変設定によるバルブオーバラップ量の変更に伴って変化する吸気充填効率を前記バルブリフト量の変更によって補償することをその要旨とする。
バルブタイミングの可変設定を通じたバルブオーバラップ量の変更に際しては、気筒に導入される新気の量が増減して吸気充填効率が変化することがある。そこで、上記構成では、バルブタイミングに加え、吸気バルブのバルブリフト量も可変設定することのできる可変動弁機構を備え、同バルブリフト量の変更によって、上述したような吸気充填効率の変化を補償するようにしている。そのため、バルブオーバラップ量の変更に伴う機関出力の低下等を好適に抑制することができる。
このような吸気充填効率の補償に際しては、請求項11に記載の発明によるように、前記バルブオーバラップ量が増大側に変更されるときには、前記バルブリフト量を増大させる、といった態様を採用することができる。この場合にはバルブオーバラップ量の増大に伴って減少する新気の導入量がバルブリフト量の増大によって補われ、もって吸気充填効率を的確に補償することができる。
また、請求項12に記載の発明によるように、前記バルブオーバラップ量が減少側に変更されるときには、前記バルブリフト量を減少させる、といった態様を採用することもできる。この場合にはバルブオーバラップ量の減少に伴って増大する新気の導入量がバルブリフト量の減少によって減量され、もって吸気充填効率を的確に補償することができる。
請求項13に記載の発明は、請求項9〜12のいずれかに記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記可変動弁機構は吸気バルブのバルブタイミングを変更することをその要旨とする。
上記構成によれば、バルブオーバラップ量の変更が吸気バルブのバルブタイミングの変更を通じて行われる。そのため、バルブオーバラップ量を増大させる際には、吸気バルブのバルブタイミングが進角側に変更されることとなり、同吸気バルブの閉弁時期がより早められる。ここで、吸気バルブの閉弁時期が早くなると、ポンピングロスが減少するようになるため、同構成によれば、内燃機関の効率をさらに向上させることができるようになる。
また、上記可変動弁機構としては、請求項14に記載の発明によるように、前記可変動弁機構は吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方についてそのバルブリフト量を可変設定する機構である、といった構成を採用することもできる。そして、この場合にもバルブオーバラップ量を的確に変更することができる。
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の過給機付き内燃機関のバルブ特性制御装置において、前記可変動弁機構は前記バルブリフト量に加え、前記吸気バルブのバルブタイミングも可変設定する機構であって、前記バルブリフト量の可変設定によるバルブオーバラップ量の変更に伴って変化する吸気充填効率を前記バルブタイミングの変更によって補償することをその要旨とする。
バルブリフト量の可変設定を通じたバルブオーバラップ量の変更に際しては、気筒に導入される新気の量が増減して吸気充填効率が変化することがある。そこで、上記構成では、バルブリフト量に加え、吸気バルブのバルブタイミングも可変設定することのできる可変動弁機構を備え、同バルブタイミングの変更によって、上述したような吸気充填効率の変化を補償するようにしている。そのため、バルブオーバラップ量の変更に伴う機関出力の低下等を好適に抑制することができる。
このような吸気充填効率の補償に際しては、請求項16に記載の発明によるように、前記バルブオーバラップ量が増大側に変更されるときには、前記バルブタイミングを遅角側に変更する、といった態様を採用することができる。この場合にはバルブオーバラップ量の増大に伴って減少する新気の導入量が、上記バルブタイミングの遅角側への変更によって補われる。すなわち、吸気バルブの閉弁時期がより遅くされるため、より長い時間新気を気筒内に導入することができ、もって吸気充填効率を確実に補償することができる。
また、請求項17に記載の発明によるように、前記バルブオーバラップ量が減少側に変更されるときには、前記バルブタイミングを進角側に変更する、といった態様を採用することもできる。この場合にはバルブオーバラップ量の減少に伴って増大する新気の導入量が、上記バルブタイミングの進角側への変更によって減量される。すなわち、吸気バルブの閉弁時期がより早くされるため、新気が気筒内に導入される時間を短くすることができ、もって吸気充填効率を確実に補償することができる。
なお、バルブタイミングを可変設定する場合における上記バルブオーバラップ量は、吸気バルブの開弁期間と排気バルブの開弁期間とが重なっている期間として表すことができる。また、バルブリフト量を可変設定する場合における上記バルブオーバラップ量は、吸気バルブ及び排気バルブについてそれらの開弁期間とリフト量とを示すバルブ特性図にあって、吸気バルブのバルブ特性を示す線と排気バルブのバルブ特性を示す線とが交差して囲まれる部分の面積(図9に示す斜線部)として表すことができる。
以下、本発明にかかる過給機付きの内燃機関のバルブ特性制御装置をガソリン機関に適用される制御装置に具体化した一実施の形態について図1〜図8を参照して説明する。
図1に示すように、本実施の形態が適用される内燃機関10は、シリンダブロックに複数のシリンダ11(同図1では1つのみ図示)を備えている。そして、このシリンダ11内に設けられたピストン12は、クランクシャフト13にコンロッド14を介して連結されており、このコンロッド14によりピストン12の往復運動がクランクシャフト13の回転運動へと変換される。また、シリンダブロックの上部には、シリンダヘッドが取り付けられており、このシリンダヘッドとピストン12の上端との間には、点火プラブ16が配設された燃焼室15が形成されている。また、この燃焼室15に対応して設けられた吸気ポート17及び排気ポート18には吸気管19及び排気管20が接続されている。
吸気管19には、その上流側からエアフロメータ21、スロットル弁(吸気絞り弁)22、及び過給機23のコンプレッサ23Aが配設されている。このスロットル弁22はスロットルアクチュエータ24によってその開度が変更されることにより、燃焼室15内へ吸入される空気量が調節されるようになっている。また、吸気管19は、スロットル弁22の吸気下流側に設けられた吸気マニホールドにおいて分岐されており、この分岐した部分を通じて各燃焼室15に接続されている。また、吸気管19には吸入される空気に対して燃料を噴射供給するインジェクタ25が配設されている。
排気管20には、過給機23の排気タービン23Bが配設されており、各気筒の燃焼室15での燃焼により生じた排気が排気マニホールドを通じて過給機23の排気タービン23Bに導入される。そして、この導入された排気の流勢によって排気タービン23Bが作動すると、吸気管19側の上記コンプレッサ23Aが連動して作動し、吸気管19側において空気の圧縮が行われる。そして、この空気の圧縮により吸気管19内の圧力が高められ、その圧力により燃焼室15内に対して空気が効率よく充填されるようになっている。なお、本実施の形態では、過給機23としてターボチャージャを備えるようにしているが、この他の過給機、例えばスーパーチャージャ等を備えるようにしてもよい。
内燃機関10は、上記吸気管19及び排気管20と接続される前記吸気ポート17及び排気ポート18をそれぞれ開閉する吸気バルブ26及び排気バルブ27を備えている。この吸気バルブ26及び排気バルブ27は、クランクシャフト13と駆動連結された吸気側カムシャフト及び排気側カムシャフトの回転に伴い開閉動作するようになっている。このため、吸気バルブ26及び排気バルブ27は、クランクシャフト13の回転に同期して、すなわち各ピストン12の往復移動に対応して所定のタイミングで開閉駆動される。
また、内燃機関10は、吸気バルブ26のバルブタイミング(開閉時期)やバルブリフト量といったバルブ特性を可変設定する可変動弁機構として、可変バルブタイミング機構28及び可変バルブリフト機構29を備えている。
可変バルブタイミング機構28は、クランクシャフト13に対する吸気側カムシャフトの相対回転位相を例えば油圧等により変更することで吸気バルブ26のバルブタイミングを連続的に変更する機構であり、これにより吸気バルブ26の位相角が進角・遅角制御される。そして、吸気バルブ26のバルブタイミングが変更されることで、吸気バルブ26の開弁期間と排気バルブ27の開弁期間とのオーバラップ量であるバルブオーバラップ量が変更されるようになっている。なお、本実施形態では吸気バルブ26の位相角が最遅角位置に設定されている状態を初期状態としており、上記可変バルブタイミング機構28によって最遅角位置からの進角量が変更される。
また、可変バルブリフト機構29は、吸気側カムシャフトに設けられる複数のカムを選択的に切り替えてバルブリフト量を変更する機構からなり、そのバルブリフト量が変更されることで上記可変バルブタイミング機構28と同じくバルブオーバラップ量が変更されるようになっている。なお、上記可変バルブタイミング機構28はバルブタイミングを変更することのできる機構であれば、他の機構を採用することもできる。また、可変バルブリフト機構29もバルブリフト量を変更することのできる機構であれば、他の機構を採用することもできる。
このような構成からなる内燃機関10には、機関運転状態を検出する各種センサ類が配設されている。例えば内燃機関10の出力軸であるクランクシャフト13の近傍にはクランク角センサ30が設けられている。また、吸気バルブ26及び排気バルブ27の開閉駆動を行う吸気側及び排気側のカムシャフト近傍には、カム角センサ31a,31bが設けられている。更に、内燃機関10の吸気管19には、吸気管19を通過する空気の量を検出する上記エアフロメータ21のほか、上記スロットル弁22の開度を検出するスロットル開度センサ32がそれぞれ配設されている。そして、これらセンサの検出信号は、内燃機関10の各種制御を司る電子制御装置40に入力されている。この電子制御装置40は、CPU、ROM、及びRAM等により構成されている。
電子制御装置40は、こうした各種センサの検出信号に基づき機関運転状態を把握する。例えばクランク角センサ30の検出信号からは、クランクシャフト13の回転位相、すなわちクランク角が求められ、更に機関回転数NEが算出される。また、各カム角センサ31a,31bの検出信号からは、吸気側及び排気側のカムシャフトの回転位相、すなわちカム角がそれぞれ求められる。更に、エアフロメータ21の検出信号からは通過(吸入)空気量Gaが求められる。
また、電子制御装置40は、上記可変バルブタイミング機構28及び可変バルブリフト機構29の駆動制御を行う。詳しくは、電子制御装置40は、上記各種センサに基づいて把握される機関運転状態に応じた吸気バルブのバルブタイミング、すなわちその位相角やバルブリフト量を算出し、その算出した制御量に基づいて上記可変動弁機構の駆動を制御する。
ところで、上記電子制御装置40は、機関運転状態に基づいて可変バルブタイミング機構28及び可変バルブリフト機構29の駆動を制御するが、本実施の形態では、特に過給圧も考慮してそれらの駆動を制御するようにしている。詳しくは、吸気管19内の圧力(吸気管圧)から排気管20内の圧力(排気管圧)を差し引いた差分、すなわち過給圧に基づいてそれらを制御するようにしている。以下、この過給圧に基づいた可変動弁機構の制御態様について図2を参照して説明する。
この図2は本実施の形態における可変動弁機構の駆動制御についてその処理手順を示している。
この処理を実行するにあたり、電子制御装置40は、ステップS100の処理として、上記各種センサ等から入力される信号に基づき、機関回転数NE、通過空気量Ga、吸気充填効率KL、吸気バルブ26の位相角IN、排気バルブ27の位相角EX、吸気バルブ26のバルブリフト量VL等を算出して現在の機関運転状態を把握する。なお、上記吸気充填効率KLとはエアフロメータ21による検出信号から算出される通過空気量Gaに基づいて算出されるものであり、シリンダ容積に対する吸入空気量の割合を示すものである。そして本実施形態ではこの値を、機関負荷を示す値として用いている。また、このときには機関負荷、機関回転数、及び後述する位相角INに関する変更量に基づいて算出された目標位相角に上記位相角INは制御されている。
次に、電子制御装置40は、ステップS101の処理として、上記ステップS100の処理にて把握した機関運転状態に基づいて排気管圧Pexを算出する。詳しくは、電子制御装置40は、図5に示されるような通過空気量Gaと排気管圧Pexとの関係を予めROM等に記憶しており、この関係に基づいて排気管圧Pexを算出する。なお、上記通過空気量Gaは機関回転数NE及び吸気充填効率KLに基づいて推定することも可能であり、この推定した通過空気量Gaに基づいて排気管圧Pexを算出することもできる。
次に、電子制御装置40は、ステップS102の処理として、上記ステップS100の処理にて把握した機関運転状態に基づき吸気管圧Pinを算出する。なお、この吸気管圧Pinについては、例えば通過空気量Ga等に基づいて算出することができる。
そして、電子制御装置40は、ステップS103の処理として、上記ステップS102の処理にて算出した吸気管圧Pinから排気管圧Pexを差し引いて差圧ΔPを算出するとともに、ステップS104の処理として、その算出した差圧ΔPが正圧であるか負圧であるか否かを判断する。なお、本実施の形態ではこの差圧ΔPを上記過給圧としている。
ここで、差圧ΔPが正圧として算出されたとき、すなわち吸気管圧Pinが排気管圧Pexに比べて大きいときには内燃機関10が過給状態にあると判断される。そして、このような過給時にあって、バルブオーバラップ量を増大させると、吸気ポートから排気ポートへの吸気の吹き抜け量が増大するため、内部排気還流量(以下、内部EGR量という)はほとんど増大せず、後述する新気捕捉率は低下するようになる。また、燃焼室15内に吸入された新気(混合気)が燃焼することなく排気管20側に排出されるといった、いわゆる生ガス吹き抜けが懸念される。したがって、本実施の形態では、このように差圧ΔPが正圧として算出されたときにはステップS105に移行し、新気捕捉率の確保を重視するとともに、生ガス吹き抜け等を抑制するための「新気捕捉率に基づくバルブ特性制御」を行う。なお、このステップS105の処理についての詳細は後述する。
これに対して、ステップS104において、差圧ΔPが負圧として算出されたとき、すなわち吸気管圧Pinが排気管圧Pexに比べて低いときには内燃機関10が過給状態にない、もしくは過給状態にあってもその過給圧が小さいと判断される。そして、このような状態では、吸気ポートから排気ポートへの吸気の吹き抜け量が少なく、バルブオーバラップ量を増大させると、これに伴って内部EGR量は増大するようになる。そのため、この場合には内部EGR量を重視したバルブオーバラップ量の設定を行うことが望ましい。したがって、本実施の形態では、このように差圧ΔPが負圧として算出されたときにはステップS106に移行し、内部EGR量を最適化して内燃機関の好適な燃焼を実現すべく「内部EGR率に基づくバルブ特性制御」を行う。なお、このステップS106の処理についての詳細は後述する。
(ステップS105の新気捕捉率に基づくバルブ特性制御について)
図3に示すように、まずこの制御を実行するにあたって電子制御装置40は、ステップS200の処理として、新気捕捉率Traprateを算出する。この新気捕捉率Traprateとは、燃焼室15内に入った新気の量に対して、排気管20側に抜けることなく燃焼室15内に残った新気の量を比率で表わしたものであり、通過空気量Gaや排気管圧Pex等に基づいて算出される。
そして、ステップS201以降の処理において電子制御装置40は、上記新気捕捉率Traprateに基づいて可変動弁機構の制御量、すなわち吸気バルブ26の位相角IN、及び吸気バルブ26のバルブリフト量VLをそれぞれ求めて可変バルブタイミング機構28及び可変バルブリフト機構29を駆動制御する。
電子制御装置40は、ステップS201の処理として、上記新気捕捉率Traprateが予め設定された目標捕捉率TrapLimよりも大きいか否かを判断する。因みに、この目標捕捉率TrapLimとは、機関負荷や生ガス吹き抜け等による排気エミッションの悪化等の限界値から定まるものであり、この目標捕捉率TrapLimに新気捕捉率Traprateを合わせることで内燃機関10の好適な燃焼が実現される。そして、この新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLimよりも大きい場合にはステップS202に移行する。一方、この新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLim以下である場合にはステップS206に移行する。なお、以下では説明の便宜上、ステップS202以降の処理及びステップS206以降の処理を併せて説明する。
電子制御装置40は、ステップS202,S206の処理として、算出した新気捕捉率Traprateと目標捕捉率TrapLimとの乖離度合等に基づいて吸気バルブ26の位相角INに関する変更量、すなわち進角量αや遅角量γを算出する。
ここで、この位相角INに関する変更量を算出する態様について図6を併せ参照して説明する。同図6に示される実線G1及び一点鎖線G2は、吸気バルブ26の位相角が変更されることによって変化する新気捕捉率の推移の一例を示したものであり、予めシミュレーション等で設定されてROM等に記憶されている。この実線G1は、一点鎖線G2と同じ過給圧で、一点鎖線G2よりも機関回転数が高く、且つ吸気バルブ26のバルブリフト量VLが小さい機関運転状態における新気捕捉率の推移を示したものである。
この図6に示される実線G1と一点鎖線G2との関係に示されるように、上記差圧ΔPが正圧となる機関運転状態においては、同じバルブオーバラップ量であっても機関回転数が低いときほど、吸気バルブ26と排気バルブ27とが同時に開弁している時間は長くなるため、生ガス吹き抜けが増加して新気捕捉率が低下する。また、吸気バルブ26のバルブリフト量が多いほどバルブオーバラップ量も多くなるため、新気捕捉率は低下する。さらに、吸気バルブ26の位相角が進角側になるほど新気捕捉率が低下する。これは、吸気バルブ26が進角側に制御されるほど排気バルブ27とのバルブオーバラップ量が増大して生ガス等といった吸気の吹き抜け量が多くなるからである。
さて、上記ステップS202での処理(新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLimよりも大きい場合の処理)について一例を挙げながら説明する。なお、この例では、上記ステップS100の処理にて算出した吸気バルブの位相角IN、機関回転数NE、バルブリフト量VL、及び上記ステップS200の処理にて算出した新気捕捉率Traprateから図6に示した実線G1上に示されるA点が算出されたとして説明する。この場合、電子制御装置40は、実線G1の推移から新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLimとなる位相角Tが好ましい吸気バルブ26の位相角INであると判断する。そして、この位相角Tに吸気バルブ26の位相角INを合わせるべく、位相角INの進角量αを算出する。
次に、ステップS206の処理(新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLim以下である場合の処理)について一例を挙げながら説明する。なお、この例では、上記ステップS100の処理で読み込んだ吸気バルブの位相角IN、機関回転数NE、バルブリフト量VL、及び上記ステップS200の処理で算出した新気捕捉率Traprateから実線G1上に示されるB点が算出されたとして説明する。この場合、電子制御装置40は、実線G1の推移から新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLimとなる位相角Tが好ましい吸気バルブ26の位相角INであると判断する。そして、この位相角Tに吸気バルブ26の位相角INを合わせるべく、吸気バルブ26の遅角量γを算出する。ちなみに、新気捕捉率Traprateと目標捕捉率TrapLimとが等しい場合には、位相角INに関する変更量は「0」とされる。
ところで、上記ステップS202,S206の処理によって算出された変更量(すなわち上記進角量α、あるいは遅角量γ)を位相角INに反映することにより新気捕捉率についてはこれを目標捕捉率TrapLimに合わせることはできる。しかしこの場合には、吸気バルブ26の位相角INが変化するために吸気充填効率が変化し、内燃機関10の出力低下を招くおそれがある。そこで本実施の形態では、以下の処理を行うことによって吸気バルブ26のバルブリフト量VLを調節して吸気充填効率KLを補償するようにしている。
すなわち、電子制御装置40は、ステップS203,S207の処理として、上記ステップS202,S206の処理において算出した進角量α及び遅角量γを位相角INに反映することにより変化する吸気充填効率KLの変化量ΔKLを算出する。この変化量ΔKLの算出は、予めのシミュレーション等により設定されている変更量ΔIN(進角量αまたは遅角量γ)と変化量ΔKLとの関係(図7(a)参照)に基づいて行われる。この図7(a)に示されるように、上記ステップS202の処理において進角量αが算出された場合には、ステップS203の処理において変化量ΔKLが変化量KLαとして算出され、上記ステップS206の処理において遅角量γが算出された場合には、ステップS207の処理において変化量ΔKLが変化量KLγとして算出される。
そして、電子制御装置40は、この算出した変化量ΔKLを補償するリフト変更量ΔVLを、予めのシミュレーション等により設定されている変化量ΔKLとリフト変更量ΔVLとの関係(図7(b)参照)に基づいて算出する。すなわち、ステップS203の処理においては、位相角INを進角させることによって低下する吸気充填効率KLを補償するためのリフト変更量ΔVLとして、上記変化量KLαに対応するリフト増加量βが算出される。一方、ステップS207においては、位相角INを遅角させることによって増加する吸気充填効率KLを補償するためのリフト変更量ΔVLとして、上記変化量KLγに対応するリフト減少量ωが算出される。
そして、電子制御装置40は、ステップS204,S208の処理として、上記ステップS202,S206の処理で算出した進角量αや遅角量γを現在の吸気バルブの位相角INに反映し、この反映された位相角INとなるように可変バルブタイミング機構28を駆動制御する。
このように新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLimよりも大きい場合、すなわち新気捕捉率に余裕があるときには、ステップS202、ステップS204の処理を通じて吸気バルブ26の位相角INが進角側に変更される。従って、バルブオーバラップ量が増大されて、ポンピングロスが低減される。そのため、内燃機関10の効率を向上させることができる。
他方、新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLim以下である場合、すなわち新気捕捉率が不足しているときにはステップS206、ステップS208の処理を通じて吸気バルブ26の位相角INが遅角側に変更される。従って、バルブオーバラップ量が減少されて、吸気や生ガスの吹き抜け量が減量される。そのため、新気を確実に気筒内にとどめることができるようになり、もって内燃機関の吸気効率を確保することができる。
次に、電子制御装置40は、ステップS205,S209の処理として、上記ステップS203,S207で算出したリフト増加量βやリフト減少量ωを現在の吸気バルブのバルブリフト量VLに反映し、この反映されたバルブリフト量VLになるように可変バルブリフト機構29を駆動制御して本処理を終了する。これにより先の図2におけるステップS105の処理も終了し、可変動弁機構の制御は一旦終了される。
このようにステップS202、ステップS204の処理を通じてバルブオーバラップ量が増大されるときには、ステップS203、ステップS205の処理を通じてバルブリフト量VLが増大されるため、バルブオーバラップ量の増大に伴って減少する新気の導入量がバルブリフト量VLの増大によって補われる。そのため、吸気充填効率を的確に補償することができる。
他方、ステップS206、ステップS208の処理を通じてバルブオーバラップ量が減少されるときには、ステップS207、ステップS209の処理を通じてバルブリフト量VLが減少されるため、バルブオーバラップ量の減少に伴って増大する新気の導入量がバルブリフト量の減少によって減量される。そのため、吸気充填効率を的確に補償することができる。
(ステップS106の内部EGR率に基づくバルブ制御について)
まず、電子制御装置40は、ステップS300の処理として、上記ステップS100(図2)の処理で把握した機関運転状態を示す各パラメータに基づき内部排気還流率(以下、内部EGR率という)EGRrateを算出する。この内部EGR率EGRrateは、吸入空気量(新気の量、外部EGR量、及び内部EGR量の総和)に対する内部EGR量の割合を示しており、内部EGR量が増大するほどその値は大きくなる。また、内部EGR率EGRrateは通過空気量Gaや排気管圧Pex等に基づいて算出される。
そして、ステップS301以降の処理において電子制御装置40は、算出した内部EGR率EGRrateに基づいて可変動弁機構の制御量、すなわち吸気バルブ26の位相角IN、及び吸気バルブ26のバルブリフト量VLをそれぞれ求めて可変バルブタイミング機構28及び可変バルブリフト機構29を駆動制御する。
電子制御装置40は、ステップS301の処理として、算出された内部EGR率EGRrateが予め設定された目標内部排気還流率(以下、目標内部EGR率という)EGRLimよりも大きいか否かを判断する。なお、この目標内部EGR率EGRLimは空燃比等から定まる値であり、内部EGR率EGRrateを目標内部EGR率EGRLimとすることで内燃機関10の好適な燃焼が実現される。そして、このステップS301において、内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLimよりも大きいときにはステップS302に移行する。一方、内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLim以下であるときにはステップS306に移行する。なお、以下では先に説明した「新気捕捉率に基づくバルブ特性制御」と同様に、説明便宜上、ステップS302以降の処理及びステップS306以降の処理を併せて説明する。
電子制御装置40は、ステップS302,S306の処理として、算出した内部EGR率EGRrateと目標内部EGR率EGRLimとの乖離度合等に基づいて吸気バルブ26の位相角INに関する変更量、すなわち遅角量γ’や進角量α’を算出する。
ここで、この位相角INに関する変更量を算出する態様について図8を併せ参照して説明する。同図8に示される実線G3及び一点鎖線G4は、吸気バルブ26の位相角が変更されることによって変化する内部EGR率の推移の一例を示している。この実線G3は、一点鎖線G4と同じ過給圧であって、一点鎖線G4に比べて機関回転数が高く、且つ吸気バルブ26のバルブリフト量VLが大きい機関運転状態における内部EGR率の推移を示したものである。
この図8に示される実線G3及び一点鎖線G4の関係に示されるように、上記差圧ΔPが負圧となる運転状況下においては、同じバルブオーバラップ量であっても機関回転数が低い(一点鎖線G4)ほど、吸気バルブ26と排気バルブ27とが同時に開弁している時間は長くなるため内部EGR率が高まる。また、吸気バルブ26のバルブリフト量が多いほどバルブオーバラップ量も多くなるため、内部EGR率が高まる。また、吸気バルブ26の位相角INが進角側に制御されるほど排気バルブ27とのバルブオーバラップ量が増大し、これに伴い内部EGR率も増大する。
さて、ステップS302での処理(内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLimよりも大きい場合の処理)について一例を挙げながら説明する。なお、この例では、上記ステップS100の処理にて把握した吸気バルブ26の位相角IN、機関回転数NE、バルブリフト量VL、及び上記ステップS300の処理にて算出した内部EGR率EGRrateから、図8に示した実線G3上に示されるC点が算出されたとして説明する。この場合、電子制御装置40は、実線G3の推移から内部EGR率が目標内部EGR率EGRLimとなる位相角Tが好ましい吸気バルブ26の位相角INであると判断する。そして、この位相角Tに吸気バルブ26の位相角INを合わせるべく、位相角INの遅角量γ’を算出する。
次に、ステップS306の処理(内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLim以下である場合の処理)について一例を挙げながら説明する。なお、この例では、上記ステップS100の処理にて把握した吸気バルブ26の位相角IN、機関回転数NE、バルブリフト量VL、及び上記ステップS300の処理にて算出した内部EGR率EGRrateから実線G3上に示されるD点が算出されたとして説明する。この場合、電子制御装置40は、実線G3の推移から内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLimとなる位相角Tが好ましい吸気バルブ26の位相角INであると判断する。そして、この位相角Tに吸気バルブ26の位相角INを合わせるべく、吸気バルブ26の進角量α’を算出する。因みに、内部EGR率EGRrateと目標内部EGR率EGRLimとが等しい場合には、位相角INに関する変更量は「0」とされる。
ここで、ステップS302,S306の処理によって算出された変更量(すなわち遅角量γ’、あるいは進角量α’)を位相角INに反映することにより内部EGR率EGRrateを目標内部EGR率EGRLimに併せることができるものの、上述したように、位相角INを変更すると吸気充填効率が変化する。そこで、この場合にも上記「新気捕捉率に基づくバルブ特性制御」と同様に、吸気バルブ26のバルブリフト量VLを調節して吸気充填効率を補償するようにしている。すなわち、ステップS303、S307では、先の図3におけるステップS203、S207と同様な態様で、遅角量γ’に対応した吸気充填効率の変化量ΔKLγ’や、進角量α’に対応した吸気充填効率の変化量ΔKLα’が求められる。そして、この変化量ΔKLγ’を補償するためのリフト減少量ω’(ステップS303)や、変化量ΔKLα’を補償するためのリフト増加量β’(ステップS307)が算出される。
そして、電子制御装置40は、ステップS304,S308の処理として、上記ステップS302,S306の処理で算出した遅角量γ’や進角量α’を現在の吸気バルブ26の位相角INに反映し、この反映された位相角INとなるように可変バルブタイミング機構28を駆動制御する。
このように内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLimよりも大きい場合、すなわち内部EGR量が過度に多く確保されているときには、ステップS302、ステップS304の処理を通じて吸気バルブ26の位相角INが遅角側に変更される。従って、バルブオーバラップ量が減少され、内燃機関の燃焼状態を好適なものにすることができる。
他方、内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLim以下である場合、すなわち内部EGR量が不足しているときにはステップS306、ステップS308の処理を通じて吸気バルブ26の位相角INが進角側に変更される。従って、バルブオーバラップ量が増大され、排気エミッションの悪化を抑制することができるようになる。また、このようにバルブオーバラップ量が増大されるときには、上述したようにポンピングロスが低減されるため、内燃機関の効率を向上させることもできる。
次に、電子制御装置40は、ステップS305,S309の処理として、上記ステップS303,S307で算出したリフト減少量ω’やリフト増加量β’を現在の吸気バルブのバルブリフト量VLに反映し、この反映されたバルブリフト量VLになるように可変バルブリフト機構29を駆動制御して本処理を終了する。これにより先の図2におけるステップS106の処理も終了し、可変動弁機構の制御は一旦終了される。
このようにステップS302、ステップS304の処理を通じてバルブオーバラップ量が減少されるときには、ステップS303、ステップS305の処理を通じてバルブリフト量VLが減少されるため、バルブオーバラップ量の減少に伴って増大する新気の導入量がバルブリフト量VLの減少によって減量される。そのため、吸気充填効率を確実に補償することができる。
他方、ステップS306、ステップS308の処理を通じてバルブオーバラップ量が増大されるときには、ステップS307、ステップS309の処理を通じてバルブリフト量VLが増大されるため、バルブオーバラップ量の増大に伴って減少する新気の導入量がバルブリフト量の増大によって補われる。そのため、吸気充填効率を確実に補償することができる。
なお、本実施の形態では、可変バルブタイミング機構28によって吸気バルブ26のバルブタイミングを変更させるようにしている。そのため、バルブオーバラップ量を増大させる際には、吸気バルブ26のバルブタイミングが進角側に変更されることとなり、同吸気バルブ26の閉弁時期がより早められる。ここで、吸気バルブ26の閉弁時期が早くなると、ポンピングロスが減少するようになるため、排気バルブ27のバルブタイミングを変更する場合と比較して、内燃機関10の効率を向上させることができる。
以上説明した実施の形態によれば、以下に列記する効果が得られるようになる。
(1)過給機23の作動によって得られる過給圧に基づいてバルブオーバラップ量を変更するようにしている。そのため、内部EGR量に影響を与える過給圧を考慮してバルブオーバラップ量が設定されるようになり、もって可変動弁機構と過給機とを備える内燃機関のバルブオーバラップ量を好適に設定することができるようになる。
(2)内燃機関の吸気管圧と排気管圧とに基づいて過給圧を算出するようにしている。そのため、内部EGR量の変化傾向を考慮した可変動弁機構の制御が可能となり、バルブオーバラップ量を好適に設定することができるようになる。
(3)吸気管圧が排気管圧よりも大きいとき(差圧ΔP>0)には、バルブオーバラップ量を変更しても内部EGR量はほとんど変化しない。そこで、このような過給状態にあるときには、上述の如く新気捕捉率Traprateに基づいてバルブオーバラップ量を変更するようにしている。そのため、気筒内に残留する新気の量を好適に確保することができるようになる。
(4)新気捕捉率Traprateが予め設定された目標捕捉率TrapLimを超えるときには、新気捕捉率を該目標捕捉率TrapLimに設定するべく、バルブオーバラップ量を増大させるようにしている。そのため、新気捕捉率に余裕があるときにはバルブオーバラップ量が増大されて、ポンピングロスが低減され、内燃機関の効率を向上させることができるようになる。
(5)他方、新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLimに満たないときには、新気捕捉率を該目標捕捉率TrapLimに設定するべく、バルブオーバラップ量を減少させるようにしている。そのため、新気捕捉率が不足しているときにはバルブオーバラップ量が減少されて、上述したような吸気の吹き抜け量が減量される。従って、新気を確実に気筒内にとどめることができるようになり、もって内燃機関の吸気効率を好適に確保することができるようになる。また、新気が気筒内に確実に留められることにより、新気の吹き抜けによる燃費悪化や排気エミッション悪化を抑制することにも繋がる。
(6)吸気管圧が排気管圧に比べて小さいとき(差圧ΔP≦0)には、バルブオーバラップ量を変更することで内部EGR量も変化させることができる。そこで、このような過給状態にあるとき(実質的には過給の効果が少ないとき)には、内部EGR量(内部EGR率)に基づいてバルブオーバラップ量を変更するようにしたため、内部EGR量を好適に確保することができるようになる。
(7)内部EGR量(内部EGR率EGRrate)が予め設定された目標内部EGR量(目標内部EGR率EGRLim)を超えるときには、内部EGR率EGRrateを目標内部EGR率EGRLimに設定するべく、バルブオーバラップ量を減少させるようにしている。そのため、内部EGR量が過度に多く確保されているときにはバルブオーバラップ量が減少され、内燃機関の燃焼状態を好適なものにすることができるようになる。
(8)他方、内部EGR量(内部EGR率EGRrate)が予め設定された目標内部EGR量(目標内部EGR率EGRLim)に満たないときには、内部EGR率EGRrateを該目標内部EGR率EGRLimに設定するべく、バルブオーバラップ量を増大させるようにしている。そのため、内部EGR量が不足しているときにはバルブオーバラップ量が増大されて不足分が補償されるため、排気エミッションの悪化を抑制することができるようになる。なお、このようにバルブオーバラップ量が増大されて内部EGR量も増大される場合には、壁面付着燃料の蒸発が促進されて吸気と燃料との混合がより良好な状態となったり、混合気の燃焼温度が低下したりする等して燃焼状態が改善され、排気エミッションは良好な状態となる。さらに、このようにバルブオーバラップ量が増大されるときには、上述したようにポンピングロスが低減されるため、内燃機関の効率を向上させることもできる。
(9)バルブタイミングの可変設定を通じたバルブオーバラップ量の変更に際しては、気筒に導入される新気の量が増減して吸気充填効率が変化することがある。そこで、上記実施の形態では、バルブタイミングに加え、吸気バルブ26のバルブリフト量も可変設定することのできる可変動弁機構(可変バルブリフト機構29)を備えるようにしている。そして、バルブリフト量の変更によって、上述したような吸気充填効率の変化を補償するようにしている。そのため、バルブオーバラップ量の変更に伴う機関出力の低下等を好適に抑制することができる。
(10)このような吸気充填効率の補償に際しては、バルブオーバラップ量が増大側に変更されるときには、バルブリフト量を増大させるようにしている。そのため、バルブオーバラップ量の増大に伴って減少する新気の導入量がバルブリフト量の増大によって補われ、もって吸気充填効率を的確に補償することができる。
(11)他方、バルブオーバラップ量が減少側に変更されたときには、バルブリフト量を減少させるようにしている。そのため、バルブオーバラップ量の減少に伴って増大する新気の導入量がバルブリフト量の減少によって減量され、もって吸気充填効率を的確に補償することができる。
(12)可変バルブタイミング機構28によって吸気バルブ26のバルブタイミングを変更させるようにしている。そのため、排気バルブ27のバルブタイミングを変更する場合と比較して、ポンピングロスを減少させることができ、もって内燃機関10の効率を向上させることができる。
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、可変バルブタイミング機構28を制御して位相角を変更することで新気捕捉率や内部EGR率をそれぞれ目標捕捉率TrapLimや目標内部EGR率EGRLimに合わせることとしたが、この位相角変更に代えて、可変バルブリフト機構29のバルブリフト量を変更するようにしてもよい。この場合には、バルブリフト量を変更することによりバルブオーバラップ量を増減させて新気捕捉率や内部EGR率を調節した後、そのバルブリフト量の変更に伴って変化する吸気充填効率の変化量ΔKLを可変バルブタイミング機構28による位相角変更をもって補償するようにしてもよい。このような吸気充填効率の補償に際しては、例えば、バルブリフト量の増大によってバルブオーバラップ量が増大側に変更されるときには、吸気バルブのバルブタイミングを遅角側に変更する、といった態様を採用することができる。この場合には、バルブオーバラップ量の増大に伴って減少する新気の導入量が、バルブタイミングの遅角側への変更によって補われる。すなわち、吸気バルブの閉弁時期がより遅くされるため、より長い時間新気を気筒内に導入することができ、もって吸気充填効率を的確に補償することができる。また、バルブリフト量の減少によってバルブオーバラップ量が減少側に変更されるときには、バルブタイミングを進角側に変更する、といった態様を採用することもできる。この場合にはバルブオーバラップ量の減少に伴って増大する新気の導入量が、バルブタイミングの進角側への変更によって減量される。すなわち、吸気バルブの閉弁時期がより早くされるため、新気が気筒内に導入される時間を短くすることができ、もって吸気充填効率を的確に補償することができる。従って、このような変形例であっても上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
・上述したような新気捕捉率や内部EGR率に関するバルブオーバラップ量の変更については、吸気バルブ26及び排気バルブ27の少なくとも一方についてそのバルブタイミングを可変設定することのできる可変バルブタイミング機構を備えることで具体化することができる。また、吸気バルブ26及び排気バルブ27の少なくとも一方についてそのバルブリフト量を可変設定することのできる可変バルブリフト機構を備えることによっても具体化することができる。
・上述したような吸気充填効率の補償については、吸気バルブ26のバルブタイミング、あるいは同吸気バルブ26のバルブリフト量を可変設定することのできる可変動弁機構であれば、これを具体化することができる。
・上記実施の形態では、バルブリフト量を変更させて吸気充填効率の変化を補償するようにしたが、この補償処理を省略するようにしてもよい。この場合であっても、内部EGR量に影響を与える過給圧を考慮してバルブオーバラップ量が設定されるため、少なくとも過給機を備える内燃機関のバルブオーバラップ量を好適に設定することができる。また、この場合には可変バルブリフト機構29を省略することもできる。
・新気捕捉率に基づくバルブ特性制御のみを実施する、あるいは内部EGR率に基づくバルブ特性制御のみを実施するようにしてもよい。この場合であっても、各バルブ特性制御による作用効果を得ることができる。
また、新気捕捉率に基づくバルブ特性制御において、新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLimを超える場合に実行される処理(図3のステップS202〜S205の処理)と、新気捕捉率Traprateが目標捕捉率TrapLimに満たない場合に実行される処理(図3のステップS206〜S209の処理)とのうち、いずれか一方を実施するようにしてもよい。この場合であっても、実施される処理に対応した作用効果を得ることができる。
また、内部EGR率に基づくバルブ特性制御において、内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLimを超える場合に実行される処理(図4のステップS302〜S305の処理)と、内部EGR率EGRrateが目標内部EGR率EGRLimに満たない場合に実行される処理(図4のステップS306〜S309の処理)とのうち、いずれか一方を実施するようにしてもよい。この場合であっても、実施される処理に対応した作用効果を得ることができる。
・上記実施の形態では、過給状態の判断を吸気管圧Pinから排気管圧Pexを差し引いた差圧ΔPに基づいて行うこととしたが、吸気管圧Pinのみをもって過給状態を判断したり、吸気管圧Pinと排気管圧Pexとの比率に基づいて過給状態を判断したりしてもよい。
・吸気管圧Pinや排気管圧Pexについてはセンサ等を用いて実際に測定するようにしてもよい。
・上記実施の形態では、吸気バルブ26の位相角INに関する変更量を算出するに際して、一律の目標捕捉率TrapLim及び目標内部EGR率EGRLimを用いることとしたが、機関運転状態に応じてこれらの値を適宜変更するようにしてもよい。これにより、機関運転状態に応じて設定される最適な目標捕捉率TrapLim及び目標内部EGR率EGRLimに基づいてバルブ特性を設定することが可能となるため、内燃機関のより好適な燃焼を実現することができるようになる。
10…内燃機関、11…シリンダ、12…ピストン、13…クランクシャフト、14…コンロッド、15…燃焼室、16…点火プラグ、17…吸気ポート、18…排気ポート、19…吸気管、20…排気管、21…エアフロメータ、22…スロットル弁、23…過給機、23A…コンプレッサ、23B…排気タービン、24…スロットルアクチュエータ、25…インジェクタ、26…吸気バルブ、27…排気バルブ、28…可変バルブタイミング機構、29…可変バルブリフト機構、30…クランク角センサ、31a、31b…カム角センサ、32…スロットル開度センサ、40…電子制御装置。