JP2005238305A - 高疲労強度隅肉溶接継手 - Google Patents

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Abstract

【課題】 変態温度が従来の変態温度よりも高い溶接金属の変態膨張を利用して隅肉溶接継手の疲労強度を高める。
【解決手段】 少なくとも一方の鋼板の板厚が1〜4mmの隅肉溶接継手において、(a)溶接金属中のマルテンサイトの体積率が50%以上であり、かつ、(b)上記鋼板面に形成された溶接止端部の角度が110〜150°であることを特徴とする高疲労強度隅肉溶接継手。
【選択図】 図1

Description

本発明は、特に、自動車の足回り部材の製作などに適用され、優れた疲労強度が要求される薄鋼板の隅肉溶接継手に関し、より詳しくは、板厚が1〜4mmの薄鋼板を隅肉溶接して形成される高疲労強度隅肉溶接継手に関する。
溶接鋼構造物の安全性および信頼性に重大な影響を与える疲労亀裂は溶接部に発生し易いので、従来から、溶接部の疲労強度を高める方法が種々検討されてきた。疲労亀裂は、溶接部の溶接止端部において最も発生し易く、その主な原因は、溶接止端部で発生し易い引張残留応力による応力集中である。
それ故、これまで、溶接継手の疲労強度を改善する方法として、溶接後のTIGなめ付け溶接(化粧溶接)や研削等の機械加工などで、溶接止端部の形状を改善する方法や、同じく、ショットピーニングなどで、溶接止端部の形状を改善して圧縮残留応力を導入する方法が提案されている。
しかし、これらの方法は、溶接終了後に後処理を必要とし、その分、作業工程が増えて、経済的負荷も増加するので、作業性や経済性の点で好ましい方法ではない。
最近では、溶接金属の変態温度が低くなるように溶接材料の成分組成を設計し、変態に伴う体積膨張を利用して溶接継手に圧縮残留応力を導入することで、溶接止端部における引張残留応力を低減し、溶接継手の疲労強度を改善する技術が提案されている。
上記技術として、例えば、特許文献1には、変態温度が低い溶接材料(以下「低温変態溶接材料」という)を用いて溶接し、変態開始温度が170〜250℃の低温域でマルテンサイト変態を生じさせて、該変態に伴う体積膨張で、その後の冷却に伴う熱収縮に起因する引張応力を相殺し、室温において、溶接止端部に残留する引張残留応力を低減するか、または、溶接止端部における残留応力を圧縮残留応力に変える技術が開示されている。
このような、溶接金属の低温変態膨張を利用する技術は、主に、溶接材料の成分組成を調整するだけで溶接継手の疲労強度を改善できるので、溶接後の後処理を必要とする前記技術に比べ、作業工程が少なくてすみ、またその分、人件費等を削減できるので、作業性や経済性の点で優れた技術である。
しかし、特許文献1に開示の技術は、次ぎの問題を抱えている。つまり、低温変態溶接材料は、変態温度を下げるために高価な合金元素を多量に含有しているので、(a)その分溶接材料の価格が高い、(b)溶接施工時の作業性が悪くなって作業効率が劣化し、施工コストが上昇する、および、(c)溶接金属中の合金元素量が多くなり、溶接金属の機械的特性(特に、靭性)が劣化する、という問題である。
そこで、上記問題に鑑み、特許文献2には、鋼板強度(引張強度680MPa以上)や、溶接部における溶け込み深さや拘束条件を適正化することにより、溶接金属が変態膨張終了温度から室温まで冷却される間の熱収縮に起因して溶接止端部に発生する引張応力を抑制し、変態開始温度が400〜550℃と非常に高い温度域において溶接金属の変態膨張により発生した圧縮応力を室温まで維持し、室温での溶接止端部における残留応力を圧縮応力状態に維持し、溶接継手の疲労強度を高める技術が開示されている。
特許文献2に開示の技術は、被溶接鋼板の引張強度が680MPa以上であることを前提に、溶接金属の変態膨張時に圧縮応力を発生させる技術であり、この強度レベルの鋼板を隅肉溶接する場合、低コストで、所要の機械的特性(特に、靭性)を維持しつつ溶接継手の疲労強度を高めることが可能である。
このように、被溶接鋼板の引張強度が680MPa以上の場合、溶接金属の変態膨張利用による溶接継手の疲労強度の向上は顕著であるが、被溶接鋼板の強度が低い場合、該特性の向上は期待できない。即ち、例えば、引張強度が680MPa未満の低強度鋼板を溶接する場合、溶接金属が変態膨張しても、溶接金属がその周囲の鋼板部分から大きな反力を受けず、溶接部に大きな圧縮応力が発生しない。そして、溶接金属の温度が室温に達した時、溶接部において残留応力が充分に低減せず、溶接継手の疲労強度は向上しない。
従来から、引張強度が680MPa未満の低強度鋼板が、構造部材として多くの用途に用いられているが、近年、用途の多様化、構造物の複雑化に伴い、溶接継手の疲労強度を、機械的特性を維持しつつ改善する技術の出現が期待されている。特に、自動車分野では、鋼板を溶接して構造部材を製作する前に、鋼板を所定形状にプレス加工または機械加工する場合が多く、優れた加工性を有する鋼板の溶接継手の疲労強度を改善する技術は極めて有用である。
一般に、強度が低いほど鋼板の加工性は良好であるから、低強度(例えば、引張強度680MPa未満)の鋼板の溶接継手の疲労強度を、機械的特性を維持しつつ高める技術が強く求められている。また、中・高強度(例えば、引張強度680MPa以上、980MPa以下)の鋼板の溶接継手の疲労強度を、機械的特性を維持しつつ、従来以上に高める技術も同様に求められている。
特開平11-138290号公報 特開2004−1075号公報
本発明は、前記従来技術の問題点に鑑み、従来技術では疲労強度の向上が困難であった引張強度が680MPa未満の低強度薄鋼板(板厚1〜4mm)、さらには、従来以上に高い疲労強度が望まれている引張強度が680MPa以上、980MPa以下の中・高強度薄鋼板(板厚1〜4mm)の隅肉溶接において、(i)変態温度が従来の変態温度よりも高い溶接金属の変態膨張と、(ii)溶接止端部の形状(角度)の両面から、溶接継手の機械的特性を維持しつつ疲労強度を改善し、作業性および経済性に優れた高疲労強度隅肉溶接継手を提供することを課題とする。
本発明は、上記課題を解決するものであり、その要旨は、次の通りである。
(1) 少なくとも一方の鋼板の板厚が1〜4mmの隅肉溶接継手において、
(a)溶接金属中のマルテンサイトの体積率が50%以上であり、かつ、
(b)上記鋼板面に形成された溶接止端部の角度が110〜150°である
ことを特徴とする高疲労強度隅肉溶接継手。
(2) 前記溶接金属が、質量%で、C:0.2〜0.4%、Si:0.05〜0.8%、Mn:0.4〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする前記(1)に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
(3) 前記溶接金属が、質量%で、C:0.03〜0.2%未満、Si:0.05〜0.8%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Ni:1.5〜4%を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする前記(1)に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
(4) 前記溶接金属が、さらに、質量%で、Tiを0.05〜0.5%含有することを特徴とする前記(2)または(3)に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
(5) 前記溶接金属が、さらに、質量%で、Ni、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ca、B、および、Mgの1種または2種以上を、合計で0.001〜2%含有することを特徴とする前記(2)または(4)に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
(6) 前記溶接金属が、さらに、質量%で、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ca、B、および、Mgの1種または2種以上を、合計で0.001〜2%含有することを特徴とする前記(3)または(4)に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
(7) 前記鋼板が、質量%で、C:0.02〜0.2%、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
(8) 前記鋼板が、さらに、質量%で、Ti:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.05%、Ca:0.001〜0.005%、Cu:0.1〜1.5%、Ni:0.1〜0.8%、Nb:0.001〜0.05%、Cr:0.05〜0.3%の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(7)に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
(9) 前記鋼板の引張強度が680MPa未満であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
本発明によれば、従来技術では疲労強度の向上が困難であった引張強度が680MPa未満の低強度鋼板の隅肉溶接において、変態温度が従来の変態温度よりも高い溶接金属の変態膨張を利用して機械的特性を維持しつつ疲労強度を高めた溶接継手を提供することができる。
また、引張強度が680MPa以上、980MPa以下の中高強度鋼板の隅肉溶接においても、機械的特性を維持しつつ従来に比べてより高い疲労強度を有する溶接継手を提供することができる。さらに、本発明によれば、変態温度を下げるために高価な合金元素を含有する溶接材料を用いる必要がないので、作業性と経済性に優れた高疲労強度の隅肉溶接継手を提供することができる。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、溶接金属の変態膨張を利用して溶接継手の疲労強度を高めるという従来の技術(特許文献1および2、参照)に比べると、前提とする溶接条件において、次の点で、技術思想が基本的に異なるものである。
(x)溶接金属の変態開始温度が、従来の変態開始温度に比べて高い。
(y)溶接止端部の形状(角度)を適正化して、溶接金属の変態膨張時の溶接止端部で発生する圧縮残留応力を向上させる。および、
(z)溶接金属組織中のマルテンサイト相により、溶接金属の変態膨張量を安定して確保する。
鋼板の隅肉溶接において、溶接部に残留応力が発生する過程は、概略、次のとおりである。溶接後、溶接金属が凝固し冷却されて、溶接金属の温度が変態開始温度に達すると、溶接金属は変態により体積が膨張し、変態膨張終了後の冷却で熱収縮する。この熱収縮に起因して生じる応力と、溶接金属の周囲に存在する鋼板部分(熱影響部)からの反力との関係で、溶接止端部に残留応力が発生する。
溶接金属の変態開始温度が高いと、溶接金属の変態による体積膨張は高温域で起きるので、変態膨張時に、一旦、圧縮応力が発生しても、変態膨張終了後の冷却過程で生じる熱収縮量は大きい。そして、その熱収縮により生じる引張応力により、上記圧縮応力が相殺されて、溶接金属が室温まで冷却された時点では、溶接止端部における残留応力は、引張応力状態となる。
これに対し、特許文献1に開示の技術では、溶接金属の変態開始温度が250℃以下の低温変態溶接材料を用いて溶接し、即ち、溶接金属の変態開始温度をできるだけ低温側にして溶接し、溶接金属の変態膨張終了時点から室温までの温度差を小さくして、室温までの冷却過程での熱収縮量をできるだけ低減し、室温における溶接止端部の残留応力を圧縮応力状態に移行させる。
しかし、上記方法では、溶接金属の変態開始温度を250℃以下に維持するために溶接金属中の合金元素量を増加する必要があり、このことは、溶接材料の経済性と作業性を阻害し、さらには、溶接金属の機械的性質、特に靭性を劣化させる原因ともなる。
一方、特許文献2に開示の技術では、溶接金属が高温域(変態開始温度が400℃〜550℃)で変態膨張しても、溶接部における溶け込み深さや拘束条件を適正化することにより、変態膨張終了から室温までの冷却過程で生じる熱収縮に起因して溶接止端部に発生する引張応力を抑制して、変態膨張時に溶接止端部で発生した圧縮応力を室温まで維持し、溶接継手の疲労強度を高めている。
しかし、上記方法は、特許文献1に開示の技術における方法と同様に、鋼板の引張強度が680MPa以上であることを前提にするもので、その意味で、高強度鋼板ほど溶接止端部に大きな圧縮残留応力を導入できるという従来の技術思想(特許文献1、参照)から抜け出るものではない。
そして、本発明者は、特に従来技術では疲労強度の向上が困難であった引張強度が680MPa未満の低強度鋼板の隅肉溶接において、溶接金属を変態開始温度400〜550℃の比較的高温域で変態膨張させ、溶接部に圧縮応力を発生させる試験を行い、圧縮応力の残留程度を調査した。
その結果、特許文献2にも開示されているように、溶接金属の変態膨張過程で、溶接金属を囲む鋼板部分(熱影響部)から充分な反力が得られず、結局、室温まで冷却された後の溶接部において圧縮応力が充分に残留せず、溶接継手の疲労強度を改善することが困難であることを確認した。
そこで、本発明においては、従来技術では疲労強度の向上が困難であった引張強度680MPa未満の低強度鋼板、さらには、従来以上に疲労強度を向上することが望まれている引張強度が680MPa以上、980MPa以下の中・高強度薄鋼板を隅肉溶接した溶接継手の疲労強度を改善するため、
(i)変態膨張後の溶接金属に対する拘束度合いが比較的小さい板厚1〜4mmの鋼板において、溶接金属の変態膨張を利用することを前提にし、
(ii-1)溶接金属の変態膨張量を左右するマルテンサイト量、および、
(ii-2)溶接止端部に負荷される外力の大きさ、および、導入される圧縮残留応力の大きさに影響する溶接止端部の角度(以下「止端角度」ということがある)、
を指標として、溶接継手の残留応力を適宜調整することを基本的な技術思想とする。
そして、本発明は、上記技術思想において、
(iii-1)上記マルテンサイト量を体積率で50%以上、かつ、
(iii-2)上記止端部角度を110〜150°
の適正範囲に制御すること(本発明の特徴)により、溶接継手の残留応力を圧縮残留応力状態に維持することができ、従来の溶接継手の疲労強度改善手段(特許文献1および2、参照)では、疲労強度の向上を望むべくもなかった、引張強度680MPa未満の低強度鋼板を隅肉溶接した溶接継手において、その疲労強度を顕著に改善することができる。
また、本発明は、さらに、引張強度が680MPa以上、980MPa以下の中・高強度鋼板の隅肉溶接継手においても、機械的特性を維持しつつ、従来に比べてより高い疲労強度を達成できる。
以下に、本発明の高疲労強度隅肉溶接を実現する要件およびその限定理由について説明する。
(被溶接鋼板の板厚:1〜4mm)
隅肉溶接継手において、少なくとも一方の鋼板の板厚を1〜4mmに限定した理由について説明する。隅肉溶接においては、この一方の板厚1〜4mmの鋼板面に、少なくとも疲労が問題となる溶接止端部が形成される。
なお、隅肉溶接継手において少なくとも疲労が問題となる溶接止端部とは、溶接継手を使用する際に、主に、疲労応力が集中し易い溶接止端部を意味する。例えば、重ね隅肉溶接継手の場合には、上下に重ねた鋼板の下側にある鋼板に形成される溶接止端部を指し、また、T字型隅肉継手の場合には、両方の鋼板に形成される溶接止端部を指す(図1および図5、参照)。
本発明において、被溶接鋼板の板厚限定は、溶接継手の疲労強度を向上せしめるうえで必須の要件である。この点について、以下に詳細に説明する。
本発明では、溶接金属を構成する成分元素の添加量を、特許文献1に開示の従来技術に比べ、相当程度低く設定しているので、溶接金属の変態開始温度は、特許文献2に開示の従来技術における変態開始温度(400〜550℃)と同じレベルである。そのため、本発明においては、溶接金属を低温変態膨張させる場合に比べ、変態膨張終了後から室温に至るまでの温度差が大きく、その結果、室温に至るまでの熱収縮(溶接金属と被溶接鋼板の熱収縮)に起因して発生する応力関係が溶接継手の残留応力状態に与える影響が大きい。
隅肉溶接継手において、少なくとも疲労が問題となる溶接止端部を有する鋼板の板厚が薄い場合、溶接金属の裏側にある鋼板の板厚は、溶接金属の溶け込みによりさらに薄くなり、溶接金属が変態膨張を終了する前に、溶接熱が直ちに被溶接鋼板の裏面まで伝達してしまい、変態膨張の終了後、溶接金属の周囲にある鋼板部分による溶接金属に対する拘束力が弱くなる。
そして、この拘束力が弱化すると、溶接金属の熱収縮と被溶接鋼板裏面の熱収縮が同時に進行し、その結果、室温において、溶接継手における残留応力が圧縮応力側へ移行し、溶接継手の疲労強度が著しく向上する。
隅肉溶接継手において、少なくとも疲労が問題となる溶接止端部を有する鋼板の板厚が4mmを超えると、溶接熱の伝達に時間がかかり、溶接金属が変態膨張を終了しても、溶接熱が、被溶接鋼板の裏面まで達していない状態となる。その結果、溶接金属の変態膨張が終了し、溶接金属が室温まで冷却される間の熱収縮過程で、溶接金属の熱収縮が、その周囲の鋼板部分によって強く拘束されて、溶接止端部に引張応力が発生する。その結果、溶接継手の疲労強度は向上しない。
また、上記板厚4mmを超える鋼板を高C系の溶接材料を用いて隅肉溶接すると、高Cと4mm超の板厚との相乗作用で、溶接金属の凝固割れが発生する可能性が高くなる。さらには、溶接金属の断面構造と溶接金属下部の板厚との関係で定まる拘束力が大きくなり、溶接金属の冷却過程で、溶接止端部における残留応力を圧縮応力状態にするのに十分小さい拘束力を得ることができない。
一方、隅肉溶接継手において、少なくとも疲労が問題となる溶接止端部を有する鋼板の板厚が1mm未満になると、溶接金属の溶け込みにより溶接金属下部の厚みが板厚に対して相対的に減少し、溶接金属の変態膨張時に溶接金属を拘束する溶接金属直下の鋼板部分が薄くなり、溶接金属に対する反力が小さくなって、溶接止端部への圧縮応力の導入が難しくなる。その結果、溶接継手の疲労強度が低下する。したがって、本発明においては、隅肉溶接継手において、少なくとも疲労が問題となる溶接止端部を有する鋼板(少なくとも一方の鋼板)の板厚の下限を1mmとし、同上限を4mmとする。
本発明において、例えば、2枚の被溶接鋼板の板厚は、上記範囲内で同じである必要はない。即ち、隅肉溶接継手において、少なくとも疲労が問題となる溶接止端部を有する少なくとも一方の鋼板の板厚が1〜4mmの範囲内にあればよく、他方の鋼板として、板厚1〜4mmの範囲内で、一方の鋼板の板厚と異なる板厚の鋼板を選択して溶接した場合にも、また、上記範囲を超える板厚の鋼板を選択して溶接した場合にも、溶接継手の疲労強度を著しく高めることができる。
(被溶接鋼板の引張強度)
本発明では、被溶接鋼板の引張強度は特に限定する必要はない。前述のとおり、鋼板強度が高いほど、隅肉溶接継手における溶接止端部に圧縮応力を多く導入することができるから、継手疲労強度向上のためには、被溶接鋼板の引張強度は高いほど有利である。
一方、鋼板強度が低くなるほど、隅肉溶接継手における溶接止端部に圧縮応力を導入することが困難となり、引張強度が680MPa未満の比較的低強度鋼板の隅肉溶接継手においては、従来技術を適用する限り、継手疲労強度の改善は期待できなかった。
引張強度が680MPa未満の比較的低強度鋼板は、延性やプレス成形性が高いため、特に溶接前の高いプレス成形性と溶接後の継手疲労強度の向上が要求される自動車の足回り部品などの自動車用溶接構造用部材として用いられているが、この低強度鋼板の隅肉溶接継手に本発明を適用することにより、隅肉溶接継手の疲労強度を高めることが可能となるので、本発明の産業上の利用価値は高い。
なお、本発明の適用により、自動車分野の溶接構造物で通常使用されている引張強度240MPaまでの低強度鋼板の隅肉溶接継手の疲労強度を充分に高めることができる。
(溶接止端部の角度:110〜150°)
次に、溶接止端部の角度(止端角度)を110〜150°に限定した理由について説明する。
本発明においては、(iii-2-1)外力の作用により溶接止端部において局部応力が増大するのを抑制するため止端角度に下限を設定し、かつ、(iii-2-2)溶接金属の変態膨張に伴う溶接部への圧縮残留応力の導入を適確に行うため止端角度に上限を設定する。
重ね隅肉溶接条件と溶接止端部角度との関係を説明するため、図1に、2枚の鋼板2、2を重ね隅肉溶接して形成した止端角度θの溶接継手1の断面形状を示す。一般に、止端角度θを小さくすれば、溶接継手を使用する際に、溶接止端部での応力集中が大きくなり、溶接継手の疲労強度が低下することが知られている(従来知見)。そのため、従来は、溶接継手の止端角度θをできるだけ大きくすることが常識であった。
しかし、溶接金属の変態膨張を利用して溶接止端部で局所的な圧縮残留応力を発生させる際、止端角度θが、溶接止端部での残留応力発生にどのような影響を与えるかについては、よく知られていない。
そこで、本発明者らが、上記影響について鋭意研究した結果、被溶接鋼板の板厚が1〜4mmの場合において、溶接金属の変態膨張を利用して溶接部に適正な圧縮残留応力を導入し、溶接継手の疲労強度を高めようとする場合、(i)上記従来知見は必ずしも適用し得ないこと、さらには、(ii)止端角度θが小さすぎても大きすぎても、溶接継手の疲労強度を高めるに足る残留圧縮応力を充分に発生させることができないこと、が判明した。
即ち、本発明者は、被溶接鋼板の板厚が1〜4mmの場合、(i)溶接止端部において応力集中が過度になり疲労強度の向上を阻害しないよう、止端角度θに下限を設定する必要があり、また、一方で、(ii)溶接継手に圧縮残留応力を適確に導入するため、止端角度θに上限を設定する必要があること、を見出した。
即ち、特に、引張強度680MPa未満の比較的低強度の鋼板の隅肉溶接継手において、溶接金属の変態膨張を有効に利用しようとする場合、止端角度θが大き過ぎると、溶接金属の変態膨張が充分に拘束されず、その結果、高疲労強度を達成するに充分な圧縮残留応力を溶接継手に導入することができない。それ故、本発明においては、止端角度θの上限を150°と設定した。
一般に、溶接金属の変態膨張により発生する圧縮応力の大きさは、溶接金属の周囲にある鋼板の降伏強度とヤング率によってほぼ決まるが、止端角度θを150°以下として、溶接止端部における局所的な残留応力を積極的に増加することにより、低強度の鋼板を溶接する場合であっても、溶接継手の疲労強度を向上することが可能となる。
このことを、溶接アークの広がりと溶接継手の形状との関係を示す図2に基づいて説明する。図2(1)には、溶接アーク3の広がりが狭いため溶け込みが深く、止端角度θが小さい溶接継手の形状を示し、図2(2)には、溶接アーク3の広がりが広いため溶け込みが浅く、止端角度θが大きい溶接継手の形状を示す。
図2(2)に示すように、溶接アークの広がりが大きくて、溶接金属の溶け込みが不充分(d2が大きい)で、止端角度θが大きいと、溶接金属が変態膨張する時、その周囲の鋼板部分から受ける拘束力は弱く、結局、溶接継手に圧縮残留応力が効果的に導入されないことになる。なお、この傾向は、引張強度が低くなると顕著である。
本発明において、止端角度θの上限を設定するもう1つの理由は、溶接金属の変態膨張により導入された圧縮残留応力を、局部的に増加させるということである。この理由も重要である。
例えば、導入された圧縮残留応力の平均値を200MPaとし、溶接止端部における応力集中係数を1.5とすると、溶接止端部の近傍における局部圧縮残留応力は、200×1.5=300MPaとなり、それだけ大きな圧縮残留応力が得られることになる。
本発明においては、溶接止端部の角度(止端角度)θの下限を110°に設定する。この設定には、低強度との関連で2つの理由がある。
まず、止端角度θが小さいと、溶接継手においては、溶接金属の変態膨張時に、局部的な圧縮残留応力の発生が増加する(従来知見)が、低強度鋼板の場合、溶接金属の変態膨張による圧縮応力が、その周囲の鋼板の降伏強度を超えてしまう。その超過分は塑性歪に変換されるだけであり、溶接継手において、さらに残留圧縮応力が増加することはない。
逆に、溶接継手に疲労応力が負荷されると、従来から知られているように、溶接止端部が応力集中部となり、溶接継手の疲労強度を低下させる原因となる。従って、止端角度θを小さくし過ぎることは好ましくない。
例えば、鋼板強度を400MPaとし、溶接止端部の応力集中係数を2.5、導入された平均的な圧縮残留応力を200MPaとすると、溶接止端部における圧縮残留応力は、200×2.5=500MPaとなるが、この値は、鋼板強度400MPaを超えている。その超過分は塑性歪に変換されるので、溶接止端部における圧縮残留応力は、鋼板強度と同じ400MPaとなる。
そして、圧縮残留応力が400MPaの状態で、溶接継手に外部から疲労応力200MPaが負荷されると、溶接止端部には、引張応力として500MPa(=200×2.5)が負荷されることになるので、溶接金属の変態膨張による圧縮残留応力(400MPa)を差し引いても、最終的に、溶接継手には、100MPaの引張応力が残留することになる。その結果、溶接継手は、疲労ダメージを受けることになる。
かりに、上記条件と同じ条件で、鋼板強度が充分に高い、例えば、780MPaの鋼板を隅肉溶接した場合、溶接止端部には上記計算に従う圧縮残留応力500MPaがそのまま残留するので、溶接継手に疲労応力200MPaを負荷しても、溶接止端部における引張応力は0MPa(=200MPa×2.5−500MPa)となり、溶接継手は、疲労ダメージを受けない。
以上の理由により、低強度の鋼板を隅肉溶接する場合、溶接継手の疲労強度を充分に高めるためには、止端角度θの下限を110°と設定する。このように、低強度の鋼板を隅肉溶接して形成した溶接継手において、止端角度θを小さくすることによる応力集中と、圧縮残留応力との大小関係を考慮して、止端角度θに下限を設定することは、溶接継手の疲労強度を高める点で、特に重要なことである。
止端角度θの下限を110℃とするもう一つの理由は、溶接金属の変態膨張時に、その周囲の鋼板部分により溶接金属を充分に拘束し、溶接止端部に、所要の圧縮応力を発生させるということである。
通常、図2(1)に示すように、溶接アークの広がりが小さいと、溶接アークの広がりが大きい場合(図2(2)、参照)に比べ、溶接金属の溶け込みは深くて、止端角度θは小さい(図中「d1、d2」、参照)。
このように溶接金属の溶け込みが深い場合、溶接金属直下の鋼板部分の厚みが薄くなり(図中「d1」参照)、溶接金属の変態膨張を充分に抑えるに足る鋼板厚みを確保することができない。その結果、溶接金属の冷却過程で、圧縮残留応力が、溶接継手に有効に導入されないことになる。この傾向は、特に、低強度鋼板を溶接した溶接継手において顕著であり、この点からも、止端角度θの下限を110°に規定する必要がある。
以上の理由により、本発明においては、低強度鋼板を隅肉溶接して形成した溶接継手の疲労強度を高める点から、溶接止端部の角度θの範囲を110〜150°と規定した。そして、本発明においては、上記範囲の止端角度θと、次に説明するマルテンサイト量との相乗作用により、溶接金属の変態膨張を利用して、溶接継手に、所要の圧縮残留応力を適確に導入する。
(金属組織中のマルテンサイトの体積率:50%以上)
次に、溶接金属組織中のマルテンサイトを、体積率で50%以上に限定した理由について説明する。溶接材料が溶融、凝固した溶接金属は、冷却過程で、オーステナイトから、フェライト、パーライト、ベイナイト、および、マルテンサイトのいずれか1種の組織または2種以上の混合組織に相変態する。
いずれの相変態も、面心立方結晶構造(fcc)から体心立方結晶構造(bcc)への変態で、変態過程で体積膨張を伴うが、なかでも、相変態開始温度が低温域にあるオーステナイト(fcc)からマルテンサイト(bcc)への変態膨張を利用することが、溶接止端部により大きな圧縮応力を導入し、かつ、室温までの熱収縮過程での引張応力の発生を小さくすることができる点で好ましい。
特許文献1で開示する溶接金属(合金元素の量が多く、変態開始温度が低い)の場合、溶接金属は焼入性が高く、相変態としては、主としてマルテンサイト変態(低温域の変態)が生じる。このように合金元素の量が多い場合、変態開始温度は、溶接金属の成分組成のみで決まり、溶接条件には殆んど依存しない。
一方、本発明の溶接金属は、特許文献1で開示する溶接金属(合金元素の量が多く、変態開始温度が低い)に比べ、合金元素の量が極めて少なく、変態膨張開始温度が高温域にある(即ち、焼入性が低い)ので、高温域で、主としてベイナイト変態が起こり、低温域での変態(マルテンサイト変態)が起こり難い。
ベイナイト変態による体積膨張を活用して溶接止端部に残留応力を生じさせ、溶接金属の熱収縮により発生する引張応力の増大を抑制することは可能であるが、本発明のように、板厚1〜4mmの鋼板を隅肉溶接して形成した溶接継手において、溶接止端部に所要の残留応力を適確に導入し疲労強度の向上を図るには、ベイナイト変態の温度域よりも低い温域で変態を開始するマルテンサイト変態を活用する必要がある。
以上の理由から、本発明においては、溶接止端部により大きな圧縮応力を導入し、かつ、室温までの熱収縮過程での引張応力の発生を極力抑制して、溶接継手の疲労強度を高め得る溶接金属組織中のマルテンサイトの最少量を、体積率で50%と規定した。上記疲労強度の向上効果を安定的に得るためには、マルテンサイトを、体積率で好ましくは60%以上確保する。
なお、溶接金属の成分系が同じでも、マルテンサイトの体積率が大きいほど、溶接継手における残留応力を適確に圧縮残留応力状態にすることができるので、体積率の上限は規定しない。
本発明においては、板厚1〜4mmの鋼板を、板厚に見合う通常の入熱条件で隅肉溶接することにより、溶接金属組織中に、マルテンサイトを体積率で50%以上確保することができる。ただし、溶接時、鋼板板厚に対し過大な入熱量を導入すると、溶接金属の冷却速度が遅くなり、主としてベイナイト変態が進行し、マルテンサイト体積率が50%に達しない場合もある。
それ故、例えば、所定板厚の鋼板を種々の溶接条件で隅肉溶接し、図3に示すように、溶接金属中のマルテンサイト体積率と入熱量との関係を予め調べておけば、溶接金属組織において体積率50%以上のマルテンサイトを確実に確保できる入熱量を、適確に決定することができる。実際の隅肉溶接においては、この入熱量に基づいて溶接条件を設定すればよい。なお、マルテンサイトの体積率は、溶接金属組織を観察することにより定量することができる。
(溶接金属の成分系)
本発明の溶接金属の成分系について説明する。本発明の溶接金属は、被溶接鋼板の成分組成によっても異なるが、基本的には、変態時に所要の変態膨張量を確保できる成分系であればよく、特に、特定の成分系に限定されるものではない。
ただし、低強度鋼板を隅肉溶接する場合においては、(i)主としてCを比較的多く含有することにより、溶接金属組織中で、体積率50%以上のマルテンサイトを確保する成分系(以下「C系」という)、または、(ii)主としてNiを含有することにより、溶接金属組織中で、体積率50%以上のマルテンサイトを確保する成分系(以下「Ni系」という)が好ましい。
C系溶接金属は、高価な合金元素の含有量が少なく、その溶接金属を得るための溶接材料の製造コストが低くてすむので、靭性はNi系溶接金属に比べやや劣るが、疲労強度に優れた溶接継手を、作業性と経済性よく形成することができる。この点で、C系溶接金属は有利である。
一方、Ni系溶接金属は、高価なNiを比較的多く含有するので、継手形成に係る経済性の点では不利であるが、Ni添加で継手の靭性が向上するので、疲労強度とともに高靭性が要求される溶接継手を形成する場合に有利である。
なお、溶接金属の成分系、および、溶接金属を得るための溶接材料の選択は、成分系の特徴や、溶接材料の特徴を踏まえ、疲労強度の向上程度を考慮して、適宜行えばよい。
(C系溶接金属の成分組成)
C系溶接金属の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下において、「%」は「質量%」を意味する。
Cは、焼入性向上元素であり、溶接金属の強度向上および変態温度の低下の両方において有効な元素である。C量が0.2%未満であると、マルテンサイトを体積率で50%以上確保することが困難になるので、C量の下限を0.2%とした。一方、C量が多くなると、溶接金属に凝固割れが発生する危険性が高まるので、C量の上限を0.4%とした。
Siは、主として脱酸元素として添加されるが、空気の混入などにより溶接金属の酸素濃度が上昇する時、その酸素濃度を下げる作用をなす元素である。Si量が0.05%未満であると脱酸が不充分となり、溶接金属中の酸素を充分に低減できず、溶接金属の機械的特性、特に、靭性が劣化するので、下限を0.05%とした。一方、0.8%を超えると、強度の上昇が著しく、靱性劣化を招くので、Si量の上限を0.8%とした。
Mnは、焼入性向上元素であり、溶接金属組織においてマルテンサイトを体積率で50%以上確保する上で有効に活用すべき元素である。溶接金属において所要の焼入性を確保するため、Mn量の下限を0.4%とした。一方、Mn量が多くなると、溶接材料の製造コストが高くなり、経済性の観点から好ましくないので、上限を2.5%とした。
PおよびSは、不可避不純物元素であり、溶接金属中に多量に存在すると靭性が劣化するので、上限を、Pは0.03%、Sは0.02%とした。
以上が、本発明におけるC系溶接金属の基本成分組成であり、この成分組成により、溶接継手の疲労強度を充分に高めることができる。
本発明では、上記成分組成に加え、溶接アークの安定性を確保するため、Tiを0.05〜0.5%添加してもよい。また、Ti添加により、ブローホールの発生防止や継手形状の改善を図ることができるので、0.05%以上添加する。一方、過度の添加は溶接金属の靱性の低下を招くので、上限を0.5%とした。
さらに、溶接金属の焼入性を高め、所要体積率のマルテンサイトを確保するため、Ni、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ca、B、および、Mgの1種または2種以上を、合計で0.001〜2%添加してもよい。溶接金属中のマルテンサイトの体積率を高めるため、合計量で最低限0.001%必要である。一方、過度に合金元素を添加すると溶接継手の製造コストが増加するので、合計量の上限を2%とした。なお、この上限は1%が好ましい。
(Ni系溶接金属の成分組成)
Ni系溶接金属の成分組成の限定理由について説明する。なお、「%」は「質量%」を意味する。
Cは、焼入性向上元素であり、溶接金属中のマルテンサイトの体積率を高める点で有効な元素であるが、Ni系溶接金属では、マルテンサイトの体積率を、主としてNi添加により確保するので、Cは、Niの作用を補完するために添加する。その補完効果が得られる最少量が0.03%程度であるので、下限を0.03%とした。一方、過度の添加は、溶接金属の靱性を劣化せしめるので、上限を0.2%未満とした。
Siは、主として脱酸元素として添加され、空気の混入などにより溶接金属の酸素濃度が上昇する時、その濃度を下げる作用をなす元素である。Si量が0.05%未満であると脱酸が不充分となり、溶接金属中の酸素濃度が高くなり過ぎて、溶接金属の機械的特性、特に、靭性が劣化する危険性があるので、下限を0.05%とした。一方、Siを過度に添加すると強度の上昇が著しく、靱性の劣化を招くので、上限を0.8%とした。
Mnは、焼入性向上元素であり、溶接金属組織においてマルテンサイトの体積率を高める作用をなす元素である。この作用を充分に確保するため、下限を0.5%とした。体積率で50%以上のマルテンサイトを確保するため、MnをNiの補完成分として、添加量を適宜調整して添加するが、過度に添加すると、溶接金属の靱性が劣化するので、上限を2.5%とした。
PおよびSは、不可避不純物元素であり、溶接金属中に多量に存在すると靭性が劣化するので、上限を、Pは0.03%、Sは0.02%とした。
Niは、オーステナイト構造(面心構造)を有する元素で、高温域での溶接金属のオーステナイト状態を安定化し、低温域でのフェライト(体心構造)への変態を遅らせて、溶接金属組織中のマルテンサイトの体積率を高める元素である。また、Niは、Cと同量の添加で、Cに比べ、溶接金属の凝固割れの危険性を高めず、かつ、溶接金属の靭性を維持するのに有効な元素である。
Ni系溶接金属の組織においてマルテンサイトが体積率で50%以上確保されていれば、C量が低減されていても、C系溶接金属と同様に、溶接継手の疲労強度を高めることができるとともに、C系溶接金属に比べ、溶接継手の靭性をより高めることができる。それ故、Ni量の下限を1.5%とした。一方、溶接継手の経済性の点から、上限を4%とした。
以上が、本発明のNi系溶接金属の基本成分組成であり、溶接継手において優れた靭性と疲労強度を確保することができる。
本発明では、上記基本成分組成に加え、溶接アークの安定性を確保するため、Tiを、0.05〜0.5%添加してもよい。また、Ti添加により、ブローホールの発生防止や継手形状の改善を図ることができるので、0.05%以上添加する。一方、過度の添加は継手靱性の低下を招くので、上限を0.5%とする。
さらに、溶接金属の焼入性を高め、溶接金属組織中のマルテンサイトの体積率をより高めるため、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ca、B、および、Mgの1種または2種以上を、合計で0.001〜2%添加してもよい。溶接金属の強度および靭性を高めるためには、最低限、合計で0.001%必要である。一方、過度に合金元素を添加すると、溶接継手の製造コストが増加するので、合計量の上限を2%とした。なお、この上限は、1%が好ましい。
以上、C系溶接金属とNi系溶接金属の成分組成とその限定理由について説明したが、該成分組成の調整は、溶接材料を構成する成分元素の歩留まりを考慮して溶接材料の成分組成を設計することにより行う。
(鋼板の成分組成)
次に、鋼板の成分組成とその限定理由について述べる。
本発明は、従来技術では疲労強度の向上が困難であった引張強度が680MPa未満の低強度鋼板、および、従来以上に疲労強度の向上が望まれる引張強度が680MPa以上、980MPa以下の中・高強度鋼板において、溶接金属の変態膨張を適切に利用して、溶接止端部の近傍における局部応力(=残留応力+疲労応力)を低減し、溶接継手の疲労強度を高めるものである。
鋼板は、主として、機械構造用部材(例えば、自動車の足回り部材)として使用されるので、本発明において、鋼板の成分組成は、加工性(特に、プレス成形性)や全伸び性、さらには、溶接熱影響部の靭性などの機械的特性をも考慮して調整されるべきものである。
Cは、鋼板強度を確保するために必要な元素で、実用構造用鋼として最低限の強度を確保するため、下限を0.02%とした。しかし、過度の添加は、鋼板強度を必要以上に高めるとともに、加工性や全伸び性を阻害し、また、溶接熱影響部の機械的特性(特に、靭性)を阻害するので、上限を0.2%とした。
Siも、鋼板強度を確保するために必要な元素で、実用構造用鋼として最低限の強度を確保するため、下限を0.1%とした。また、Siは、残留オーステナイトを形成させ、鋼板のプレス成形性を改善する元素でもあるが、過度の添加は、Cと同様に、鋼板強度を必要以上に高めるとともに、加工性や全伸び性を阻害し、溶接熱影響部の機械的特性、特に、靭性を阻害するので、上限を2.5%とした。加工性や全伸び性の阻害を抑制し、プレス成形性を良好に維持するためには、その上限を1%とするのが好ましい。
Mnは、Cと同様に、焼入性向上元素で、実用構造用鋼として最低限の強度を確保するため、下限を0.5%とした。しかし、過度の添加は、Cと同様に、鋼板強度を必要以上に高めるとともに、加工性や全伸び性を阻害し、また、溶接熱影響部の機械的特性、特に、靭性を阻害するので、Mn量の上限を2.5%とした。加工性や全伸び性の阻害を抑制し、プレス成形性を良好に維持するためには、その上限を2%とするのが好ましい。
PおよびSは、不可避的不純物元素であり、多量に存在すると、鋼板の靱性および溶接性が劣化するので、上限を、Pは0.02%、Sは0.01%とした。
以上が、本発明における鋼板の基本成分組成であるが、その他、質量%で、Ti:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.05%、Ca:0.001〜0.005%、Cu:0.1〜1.5%、Ni:0.1〜0.8%、Cr:0.05〜0.3%の1種または2種以上を、所要の機械的特性、例えば、引張強度、降伏強度などを確保するため、適宜添加してもよい。
しかし、添加量が多くなると、鋼板強度が著しく増大し、鋼板のプレス成形性や全伸び性が劣化するし、また、溶接熱影響部の機械的特性、特に、靭性を阻害するので、Ti、Nb、Ca、Cu、Ni、Crの1種または2種以上の添加は、合計量で1%以下が望ましい。
本発明においては、例えば、2枚の被溶接鋼板の成分組成が同じである必要はない。即ち、被溶接鋼板の成分組成は、上記規定の範囲内にあればよく、該範囲内で、異なる成分組成の鋼板を選択して隅肉溶接した場合にも、溶接継手の疲労強度を著しく高めることができる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表1に、本実施例で用いた鋼板の成分組成、および、引張試験による引張強度および全伸びを示す。そして、これら鋼板の板厚を適宜変えて疲労試験に供する試験片を作製した。表1において、S−Eの鋼板(S−E鋼板)は、引張強度が835MPa(>680MPa)で、全伸びが21%で、30%に達していない鋼板である。他のS−A〜S−Dの鋼板は、引張強度が680MPa未満で、全伸びが30%を超えていて、プレス成形性がS−E鋼板より優れている鋼板である。S−Fの鋼板は、引張強度が985MPaで、全伸びが22%で、30%に達していない鋼板である。
Figure 2005238305
図4に、本実施例で用いた試験片の形状を示す。図4からわかるように、試験片は、中央部に溶接止端部が位置するように作製した。同じ条件で作製した試験片の溶接金属の成分組成を調査した結果を表2に示す。この試験片の場合、疲労が問題となる溶接止端部は鋼板1(2a)に存在する。
Figure 2005238305
表2において、成分組成がW1−A〜W1−Eの溶接金属は、本発明のC系溶接金属に区分されるものであり、W2−A〜W2−C、W2−E、および、W2−Fの溶接金属は、本発明のNi系溶接金属に区分されるものである。また、成分組成がW2−DおよびW3−Aの溶接金属は、本発明で規定するC系およびNi系の成分組成から外れるもので、その他の成分系に属するものである。
上記溶接金属の成分組成は、隅肉溶接に用いる溶接材料の成分を適宜調整することにより再現可能である。また、溶接止端部の角度(止端角度)θは、溶接アークのねらい位置や姿勢を変化させて、適宜調節することができる。いずれの調整も、当業者であれば周知・慣用の技術に従って行い、上記成分組成および止端角度θを容易に再現できる。
疲労試験は、図4に示す試験片おいて、矢印Pの方向に疲労荷重を負荷して行った。疲労荷重を200万回繰り返して負荷しても亀裂が発生しない最大応力を求め、それを比較して、本発明の疲労強度向上効果を調査した。このときの応力は、試験片の表面に歪ゲージを貼りつけ、その読みから決定した。
疲労試験は、同じ条件で作製した試験片を複数個用意し、それぞれに異なる疲労荷重を負荷して行った。この試験により、荷重を200万回繰り返して負荷しても亀裂が発生しない最大応力を、疲労強度として決定できる。なお、このときの応力比は0.1である。
すなわち、疲労強度が300MPaの場合は、応力を、33MPaから333MPaの間で、200万回繰り返して負荷しても亀裂が発生しなかった場合である。また、同じ試験片から溶接部の断面マクロ試験片を採取し、止端角度θと溶接金属組織中のマルテンサイトの体積率を決定した。
表3に、試験条件(鋼板、溶接金属、板厚)と試験結果(θ[止端角度]、マルテンサイトの体積率[Vm]、200万回疲労強度)を示す。なお、表3に示す試験結果は、図4に示す試験片おいて、鋼板1(2a)と鋼板2(2b)が同じ(すなわち、成分組成および板厚が同じ)場合の試験結果である。
Figure 2005238305
試験No.J1−A〜J1−H(以下、「試験No.」を省略する。)は、溶接金属が表2に示すW1−A〜W1−E(C系)である場合で、J2−A〜J2−Kは、溶接金属が表2に示すW2−A〜W2−F(Ni系とその他系)である場合である。
まず、J1−A〜J1−Hの試験結果について説明する。J1−Bは、溶接金属の成分組成、Vm、および、θが本発明の範囲内にあるが、板厚が4mmを超えて厚すぎ(6.5mm)、溶接熱が鋼板の裏面まで充分伝達する前に変態が終了して、疲労強度の向上を達成できなかった例(比較例)である。
J1−Eは、θが小さすぎて(105°)、疲労強度の向上を達成できなかった例(比較例)である。ちなみに、J1−Eの溶接金属W1−Dは、Tiを含有していない。
そして、W1−Dが溶接金属であるJ1−D(本発明例)は、下向き隅肉溶接で溶接した例で、θが本発明の範囲内に入っているが、J1−E(比較例)では、溶接金属が同じW1−Dでも水平隅肉溶接姿勢で溶接したため、θが本発明の範囲外になっている。Tiには、溶接姿勢の取り得る範囲を広げる働きがあるといえる。
勿論、ポジショナーなどを用いて溶接姿勢をコントロールできれば、Ti添加は必ずしも必須のことではない。Tiの添加は、それぞれの状況に応じて適宜決定する。
J1−Hは、溶接金属がW1−Eで、その成分組成は本発明のC系の範囲内にあるが、溶接前にわざと予熱を行い、かつ、溶接時に試験片を断熱材で被い冷却を遅くしたので、Vmが小さくなってしまい、疲労強度が、J1−Bのレベルに低下した例(比較例)である。
そして、比較例のJ1−BおよびJ1−E〜J1−Hにおいて、疲労強度は全て330MPa以下であるが、本発明例のJ1−A、J1−C、および、J1−Dにおいては、疲労強度が全て380MPa以上である。
次に、表3に示すJ2−A〜J2−Iについて説明する。比較例のJ2−Dは、Vmが本発明の範囲外であり、同J2−Eは、板厚が本発明の範囲外であり、同J2−GおよびJ2−Hは、θが本発明の範囲外であり、また、同J2−Iは、板厚が本発明の範囲外であるため、疲労強度が320MPa以下になった例である。
J2−D(溶接金属W2−D[その他系])の場合には、疲労強度の向上が実現していない。J2−J(溶接金属W2−B[Ni系])の場合には、水冷銅板上で溶接し、冷却速度を大きくしたので、Vmが本発明の範囲内にある。それに対し、本発明例のJ2−A〜J2−C、J2−F、J2−K、および、J3−A(溶接金属W3−A[その他系])の場合には、全て、疲労強度が380MPa以上にまで向上している。
(実施例2)
本実施例では、成分組成は同じであるが板厚が異なる鋼板、および、板厚が同じであるが成分組成が異なる鋼板を隅肉溶接して溶接継手を形成する場合について調査した。試験方法は、実施例1における試験方法と同じである。
表4に、成分組成は同じであるが板厚が異なる鋼板を隅肉溶接して溶接継手を形成する場合における試験条件(鋼板、板厚[板厚1、板厚2]、溶接金属)と試験結果(θ[止端角度]、マルテンサイトの体積率[Vm]、200万回疲労強度)を示す。
表5に、板厚が同じであるが成分組成が異なる鋼板を溶接して溶接継手を形成する場合における試験条件(鋼板[鋼板1、鋼板2]、板厚、溶接金属)と試験結果(θ[止端角度]、マルテンサイトの体積率[Vm]、200万回疲労強度)を示す。
Figure 2005238305
Figure 2005238305
表4において、J3−AおよびJ3−Bは本発明例である。J3−Cは、止端角度θが本発明の範囲内にあるが、θを測定すべき溶接止端部が存在する鋼板(一方の鋼板)の板厚(板厚1:6.4mm)が本発明の範囲外にあり、比較例である。本発明例では、溶接継手の疲労強度が380MPa以上に達しているのに対し、比較例では、疲労強度が330MPaに達していない。
表5においても、本発明例のJ4−A〜J4−Cでは、疲労強度が380MPa以上に達しているのに対し、比較例のJ4−Dでは、疲労強度が300MPaに達していない。
以上のことから、本発明の範囲内において、板厚が異なる鋼板、または、組成組成が異なる鋼板を選択して隅肉溶接した場合にも、疲労強度の優れた溶接継手を形成できることが解かる。
(実施例3)
本実施例では、成分組成および板厚が異なる鋼板を隅肉溶接して溶接継手を形成する場合について調査した。表6に、試験条件(鋼板[鋼板1、鋼板2]、板厚[板厚1:鋼板1の板厚、板厚2:鋼板2の板厚]、溶接金属)と試験結果(θ[止端角度]、マルテンサイトの体積率[Vm]、200万回疲労強度)を示す。
表中、J5−AおよびJ5−Bは本発明例であり、J5−Cは比較例(Vmが本発明の範囲外)である。表6から、本発明の範囲内において、異なる成分組成の鋼板および異なる板厚の鋼板から適宜鋼板を選択して隅肉溶接した場合にも、疲労強度の優れた溶接継手を形成できることが解かる。
Figure 2005238305
(実施例4)
本実施例では、引張強度が680MPaを超える鋼板を隅肉溶接して形成した溶接継手の疲労強度を比較した。その結果を表7に示す。
Figure 2005238305
表7に示すJ2−Cは、表3に示すJ2−Cであるが、比較のため表7に掲載した。表7中J6−Aは、被溶接鋼板として、表1に示すS−E鋼板を用いた場合であるが、疲労強度は450MPaで、実施例1〜4の本発明例の中で最も高い疲労強度を示している。このことは、溶接金属の変態膨張を用いて残留応力を低減して疲労強度を改善するという技術的観点からすると、鋼板強度が高い鋼板ほど、疲労強度を改善し易いということを示している。
しかし、J6−Aで用いたS−E鋼板は、表1に示すように、全伸びが21%と、30%に満たず、J2−Cで用いたS−C鋼板より、プレス成形性が劣るものである。それ故、表7から、J2−Cは、疲労強度も高く、かつ、プレス成形性も充分であり、より好ましい本発明例であることが解かる。
(実施例5)
本実施例では、同じ隅肉継手でも、重ね隅肉継手ではなく、T字隅肉溶接で形成した溶接継手(T字隅肉溶接継手)の疲労強度を比較した。この場合に用いた疲労試験片の形状を図5に示す。この場合、疲労荷重は、図5中の矢印Pに示すように、縦板(鋼板2(2b))を左側に曲げる方向に加えた。
疲労が問題となる溶接止端部は、実施例1〜4では、鋼板1(2a)のみに存在するが、図5に示す試験片の場合には、鋼板1(2a)と鋼板2(2b)の両方に存在する。そのため、止端角度θは2箇所で測定し、鋼板1(2a)のθをθ1とし、鋼材2(2b)のθをθ2とした。
歪ゲージを、鋼板1(2a)および鋼板2(2b)のそれぞれにおける溶接止端部に貼り付け、それぞれの応力を測定した。疲労強度は、200万回疲労荷重を加えても破断しなかった応力として決定した。鋼材1(2a)の応力計測値と鋼板2(2b)の応力計測値が異なる場合は、低い方の値を、その継手の疲労強度とした。なお、応力比は0.1である。
表8に試験結果を示す。表8において、J8−AおよびJ8−Bのいずれの例においても、止端角度は、本発明の範囲内にあり、かつ、溶接金属中のマルテンサイト体積率、および、各鋼板の板厚(板厚1:鋼板1(図中2a)の板厚、板厚2:鋼板2(図中2b)の板厚)も、本発明の範囲内に入っている。
J8−Aは、鋼板がS−Cで、引張強度が605MPaであり、J8−Bは、鋼板がS−Fで、引張強度が985MPaと高いものである(表1、参照)。いずれの場合も、T字隅肉溶接継手の疲労強度は400MPa以上である。それに対し、J8−Cは、溶接金属がW2−Dで、合金元素添加が少なく(表2、参照)、マルテンサイトの体積率が本発明の範囲外であり、疲労強度が高くない例である。
Figure 2005238305
前述したように、本発明によれば、低強度(引張強度が680MPa未満)および中・高強度(引張強度が680MPa以上、980MPa以下)の鋼板の隅肉溶接において、変態温度が従来の変態温度よりも高い溶接金属の変態膨張を利用して機械的特性を維持しつつ疲労強度を高めた溶接継手を提供することができる。
さらに、本発明によれば、変態温度を下げるために必要な高価な合金元素を含有する溶接材料を用いる必要がないので、作業性と経済性に優れた高疲労強度の隅肉溶接継手を提供することができる。
したがって、本発明は、溶接産業において工業的価値が極めて高いものである。
溶接止端部角度がθの溶接継手の断面形状を示す図である。 溶接アークの広がりと溶接継手の形状との関係を示す図である。図2(1)は、溶接アークの広がりが狭いため溶け込みが深く、止端角度が小さい溶接継手の形状を示し、図2(2)は、溶接アークの広がりが広いため溶け込みが浅く、止端角度が大きい溶接継手の形状を示す図である。 溶接金属中のマルテンサイト体積率と入熱量との関係を示す図である。 疲労試験に供した試験片の形状を示す図である。 疲労試験に供したT字隅肉溶接継手の試験片の形状を示す図である。図5(1)は、上記溶接継手の態様を示す図であり、図5(2)は、図5(1)中の円内部分(A断面)を拡大して示す図である。
符号の説明
1…溶接継手
2…鋼板
2a…鋼板1
2b…鋼板2
3…溶接アーク
θ…溶接止端部の角度
d1、d2…溶接金属直下の鋼板部分の厚み
P…疲労荷重の負荷方向

Claims (9)

  1. 少なくとも一方の鋼板の板厚が1〜4mmの隅肉溶接継手において、
    (a)溶接金属中のマルテンサイトの体積率が50%以上であり、かつ、
    (b)上記鋼板面に形成された溶接止端部の角度が110〜150°である
    ことを特徴とする高疲労強度隅肉溶接継手。
  2. 前記溶接金属が、質量%で、C:0.2〜0.4%、Si:0.05〜0.8%、Mn:0.4〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
  3. 前記溶接金属が、質量%で、C:0.03〜0.2%未満、Si:0.05〜0.8%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Ni:1.5〜4%を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
  4. 前記溶接金属が、さらに、質量%で、Tiを0.05〜0.5%含有することを特徴とする請求項2または3に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
  5. 前記溶接金属が、さらに、質量%で、Ni、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ca、B、および、Mgの1種または2種以上を、合計で0.001〜2%含有することを特徴とする請求項2または4に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
  6. 前記溶接金属が、さらに、質量%で、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ca、B、および、Mgの1種または2種以上を、合計で0.001〜2%含有することを特徴とする請求項3または4に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
    ことを特徴とする高疲労強度隅肉溶接継手。
  7. 前記鋼板が、質量%で、C:0.02〜0.2%、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
  8. 前記鋼板が、さらに、質量%で、Ti:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.05%、Ca:0.001〜0.005%、Cu:0.1〜1.5%、Ni:0.1〜0.8%、Nb:0.001〜0.05%、Cr:0.05〜0.3%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項7に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
  9. 前記鋼板の引張強度が680MPa未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の高疲労強度隅肉溶接継手。
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