JP2005217316A - 希土類磁石及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 優れた特性を有する保護層を表面に備えており、これにより高い耐食性を発揮し得る希土類磁石及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の希土類磁石1は、希土類元素を含有する磁石素体2と、その表面上に形成された保護層4とを備えるものである。この保護層4は、芳香環を有する有機高分子化合物及び芳香環を有する無機高分子化合物を含有している。このような保護層においては、有機高分子化合物と無機高分子化合物との間にπ−π相互作用が生じており、これらは弱く結合された状態となっている。
【選択図】 図2

Description

本発明は、希土類磁石及びその製造方法、特に、表面に保護層を有する希土類磁石及びその製造方法に関する。
従来、高性能を有する永久磁石として希土類磁石が知られている。これらは、従来の空調機、冷蔵庫のような家庭用電化製品のみならず、産業機械、ロボット、燃料電池車、ハイブリッドカー等の駆動用モータへの応用が検討されており、これらの小型化、省エネルギー化を実現し得るものとして期待されている。このような希土類磁石のなかでも、R−Fe−B(Rは希土類元素)系の磁石は、特に高い磁気特性を有することから注目を集めている。かかるR−Fe−B系の希土類磁石としては、例えば、下記特許文献1や下記特許文献2に記載されたものが公知である。
これらのR−Fe−B系の希土類磁石は、25MGOeを超えるような高いエネルギー積を示す高性能磁石である。しかしながら、磁石の主成分として希土類元素及び鉄を含有していることから極めて酸化されやすく、また、温度に対する耐性が低いという性質を有していた。このため、これらの磁石は耐食性が低い傾向にあり、長期使用による経時的な磁気特性の低下を避けることが困難であった。
近年では、このようなR−Fe−B系の希土類磁石の耐食性を向上させることを目的として、磁石素体の表面に保護層を形成することが試みられている。例えば、下記特許文献3には、磁石素体の表面にめっきにより耐酸化性金属被膜を形成し、これにより磁石の耐酸化性を向上させた希土類磁石が記載されている。
また、下記特許文献4には、磁石素体の表面に樹脂被膜を形成させ、これにより磁石の耐酸化性を向上させた希土類磁石が記載されている。さらに、下記特許文献5には、磁石素体の表面にゾル−ゲル法により金属酸化物からなる緻密な被膜を形成させ、これにより磁石の耐食性や耐アルカリ性を向上させた希土類磁石が記載されている。
特開昭59−46008号公報 特開昭60−9852号公報 特開昭60−54406号公報 特開昭60−63901号公報 特開2001−76914号公報
上記従来技術による希土類磁石は、磁石素体の表面に各種の保護層を有しているため、磁石素体を単独で用いた場合に比べて高い耐食性を有するものとなる。しかし、これらの希土類磁石は、保護層そのものの特性が不十分であることに起因して耐食性が十分でなく、例えば高温条件等の厳しい条件が課される用途に対しては、未だ実用性に乏しいものであった。
例えば、上記特許文献3に記載された、めっきにより形成された金属被膜は、ピンホールを有した状態となりやすい傾向にあった。このように保護層にわずかでもピンホール等が存在すると、例えば塩水噴霧試験により磁石素体に腐食が生じる等、磁石全体の耐食性が顕著に低下する。
また、上記特許文献4に記載の希土類磁石における保護層は、樹脂によって構成されたものであることから耐透湿性が完全でなく、このため外部の水分がわずかに保護層を透過する場合があった。このように外部の水分が保護層を透過すると、この水分が磁石素体と接触して接触部位を腐食させたり、また保護層と磁石素体の間に水分が侵入して保護層の剥離を促進したりする等の不都合を誘起するおそれがある。さらに、このように樹脂により構成される保護層は耐熱性が不十分である場合が多く、このため、かかる保護層を備える磁石を高温条件で使用することは困難であった。
またさらに、上記特許文献5に記載の希土類磁石においては、保護層の形成時において膜形成用のゾル液を加熱し、これにより溶媒蒸発、重合又は熱分解反応を生じさせているが、これらの工程では、塗布されたゾル液が大きな体積収縮を生じる傾向にある。こうなると、この体積収縮によって保護層は応力を有するようになり、これにより保護層にクラックが生じやすくなる。この傾向は、特に、厚い保護層を形成させようとした場合や、磁石表面に凹凸がある場合等に大きいものとなる。このように保護層にクラックが生じると、上述したピンホールの場合と同様、希土類磁石の耐食性が極端に低いものとなる。
本発明はこれらの従来技術が有する事情にかんがみてなされたものであり、優れた特性を有する保護層を表面に備えており、これにより高い耐食性を発揮し得る希土類磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行ったところ、有機材料と無機材料とを組み合わせて用いた、いわゆる有機無機ハイブリッド材料を磁石用の保護層に適用した場合に、両者の特性を同時に具備する保護層を形成可能であり、このような保護層は、上記従来技術のように有機材料又は無機材料を単独で用いて形成させた保護層に比して優れた特性を有していることを見出した。
また、このような保護層について更に詳細な検討を行ったところ、通常知られている有機無機ハイブリッド材料のように、単に有機材料と無機材料とを混合させるだけでは、形成された保護層において有機成分と無機成分との相分離を生じる場合があることを確認した。また、このために、かかる混合物からなる保護層においては、保護層全体にわたって均一な特性が発揮され得ないことが判明した。
本発明者らはこれらの知見に基づき、有機成分と無機成分とを組み合わせた有機無機ハイブリッド材料として、両成分の間に所定の相互作用を有する化合物を含む材料を保護層に適用することにより、極めて優れた耐食性を有する希土類磁石が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、芳香環を有する有機高分子化合物及び芳香環を有する無機高分子化合物を含有しており、磁石素体の表面上に形成された保護層とを備えることを特徴とする。
保護層が含有している有機高分子化合物及び無機高分子化合物は、どちらも分子中に芳香環を有している。このため、これらの高分子化合物を混合すると、有機高分子化合物と無機高分子化合物との間に、それぞれの芳香環におけるπ電子同士の相互作用(π−π相互作用)が生じるようになる。こうなると、このπ−π相互作用によって、保護層中の有機高分子化合物と無機高分子化合物とが弱く結合した状態となる。その結果、保護層中において、これらの化合物の相分離が極めて生じ難くなり、有機高分子化合物及び無機高分子化合物が均一に分散された状態となる。このような保護層は、緻密な構造を有しており、しかも膜全体にわたって均一な特性を発揮し得るものとなる。
また、保護層は、上述の如く、有機高分子化合物及び無機高分子化合物を併せて含有していることから、以下に示すような特性を有している。例えば、保護層の形成時に溶媒蒸発や重合等を実施することにより層の体積を収縮させるような応力が発生したとしても、保護層には柔軟な有機高分子化合物が含有されているため、このような応力は十分に緩和される。こうして形成された保護層は、ピンホールやクラックの発生が極めて少ないものとなる。
さらに、保護層中には無機高分子化合物が含まれているため、この保護層は、有機高分子化合物のみで形成された保護層に比して耐熱性及び耐湿性が格段に優れるものとなる。したがって、このような保護層は、高温条件での使用にも耐え得る特性を有しており、また、水分を透過することが極めて少ない。
このように、上述の構成を有する保護層は、有機材料及び無機材料のいずれかを単独で用いて形成された従来の保護層に比して優れた耐食性を有している。また、このような効果に加え、上記保護層は希土類磁石に対して密着性が高いという特性を有している。この原因については、必ずしも明らかではないものの、次のような理由に基づくと考えられる。すなわち、磁石素体に含まれる希土類元素は、酸素との反応性が高いという特性を有している。また、上記保護層の構成成分である無機高分子化合物は、その分子中に酸素原子を有していることが多い。したがって、このような無機高分子化合物を含む保護層を、希土類磁石を含む磁石素体の保護層として適用した場合、酸素を介して希土類元素と保護層とが化学的に結合され、これにより両者の密着性が向上する。但し、作用はこれらに限定されない。
希土類磁石の保護層に含まれる有機高分子化合物が有している芳香環としては、ベンゼン環が好ましい。芳香環がベンゼン環であると、無機高分子化合物の芳香環とのπ−π相互作用が生じやすくなるとともに、有機高分子化合物の剛性も大きくなり、強度の強い保護層が得られるようになる。
より具体的には、このような有機高分子化合物としては、スチレン単位を有する重合体が例示できる。これらは他の芳香環とのπ−π相互作用を特に生じやすいという特性を有しており、これにより保護層における無機高分子化合物との相分離が一層低減される。
また、保護層に含有させる無機高分子化合物としては、金属原子と酸素原子とが交互に結合してなる主鎖を有する化合物が好ましい。このような構成を有する無機高分子化合物は安定であるという特性を有している。このため、この無機高分子化合物を含有する保護層の耐食性も向上する。
より具体的には、無機高分子化合物の主鎖を構成する金属原子としてはSiが好ましい。Siを主鎖に含む無機高分子化合物はより安定であり、保護層の耐食性を更に向上させ得る。
上記Siを主鎖に有する無機高分子化合物としては、下記式(1)で表される化合物及び/又はその加水分解生成物からなる構造単位を少なくとも有しているものが好ましい。こうして得られた無機高分子化合物は、有機高分子化合物とのπ−π相互作用を極めて生じやすいことから、得られる保護層の耐食性が更に向上する。
[化1]
Si(OR4−(n+m)…(1)
[式中、Rは芳香環を有する有機基、Rはアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示し、nは1又は2、mは0又は1である。ただし、n+mは2以下である。なお、R又はRを複数有している場合、それぞれは同一でも異なっていてもよい。]
上記式(1)で表される化合物としては、Rで表される基として置換基を有していてもよいフェニル基を含有しているものが好ましい。このような構造を有する化合物は、有機高分子化合物とのπ−π相互作用が更に生じやすく、これにより保護層における相分離が更に生じ難くなる。
本発明による希土類磁石の製造方法は、上記本発明の希土類磁石を簡易に製造するための方法であり、芳香環を有する有機高分子化合物と、芳香環を有しており重合可能な官能基が金属原子に結合してなる無機モノマー及び/又はこの無機モノマーの重合体を含む無機高分子前駆体との混合を経て塗布液を調製する塗布液調製工程、得られた塗布液を希土類元素を含有する磁石素体の表面上に塗布する塗布工程、及び、塗布液から保護層を形成する保護層形成工程を有することを特徴とする。ここで、保護層形成工程には、磁石素体への塗布と同時に保護層が形成される場合も含まれるものとする。
上記希土類磁石の製造方法においては、保護層となる塗布液を磁石素体に塗布する、いわゆる湿式法により保護層が形成される。このような方法によれば、複雑な装置等を用いることなく、温和な条件で均一な厚さを有する保護層を形成することが可能となる。
上記希土類磁石の製造方法においては、塗布液調製工程、塗布工程及び保護層形成工程のうちの少なくとも一つの工程において、上記無機高分子前駆体の重合を生じさせることが好ましい。こうすることで、無機高分子前駆体の重合反応が生じるとともに、重合体と磁石素体との相互作用が生じ、保護層と磁石素体との密着性が更に向上する傾向にある。
上記製造方法において用いる有機高分子化合物としては、上記芳香環がベンゼン環であるものが好ましい。有機高分子化合物がベンゼン環を有していると、無機高分子化合物中の芳香環とのπ−π相互作用がより生じやすくなり、これにより保護層の耐食性がさらに向上する。
より具体的には、有機高分子化合物としては、スチレン単位を有する重合体を用いることが好ましい。これらの有機高分子化合物の有している芳香環は、他の芳香環とのπ−π相互作用を極めて生じ易いという特性を有している。
また、無機高分子前駆体としては、上記金属原子がSiであるものを用いることが好ましい。このような無機高分子前駆体は、塗布液を安定化できる傾向にあり、これにより保護層の形成が容易となる。また、上述した無機高分子前駆体の重合反応を生じさせる場合には、上述の如く塗布液を安定化できるため、かかる重合反応の制御が容易となる傾向にある。
より具体的には、上記無機高分子前駆体として、下記式(1)で表される無機モノマー及び/又はその加水分解生成物を含有していることが好ましい。このような化合物から形成された無機高分子化合物は安定であるため、得られる保護層の耐食性が更に良好となる。
[化2]
Si(OR4−(n+m)…(1)
[式中、Rは芳香環を有する有機基、Rはアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示し、nは1又は2、mは0又は1である。ただし、n+mは2以下である。なお、R又はRを複数有している場合、それぞれは同一でも異なっていてもよい。]
また、上記式(1)で表される化合物におけるRで表される基としては、置換基を有していてもよいフェニル基を含有していると特に好ましい。この場合、フェニル基と有機高分子化合物における芳香環とのπ−π相互作用が極めて生じやすく、これにより保護層の耐食性が一層向上するようになる。
本発明によれば、有機高分子及び無機高分子化合物の両方の特性を併せて具備しており、しかも、両高分子化合物の相分離を生じることが少ない保護層を表面に備える希土類磁石を提供することが可能となる。この希土類磁石における保護層は、優れた耐食性を有しているため、これを備える希土類磁石も耐食性に優れるものとなる。その結果、この希土類磁石は、磁気特性の経時劣化の度合いが極めて小さいものとなる。このため、本発明の希土類磁石は、例えば燃料電池車やハイブリッドカーの駆動モータのような、高い温度条件において使用される用途に用いる永久磁石として好適である。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、図1及び図2を参照して本発明の希土類磁石の一実施形態について説明する。図1は、好適な実施形態の希土類磁石を示す斜視図である。また、図2は、図1に示される希土類磁石のII−II線に沿った断面図である。図1及び図2に示される希土類磁石1は、磁石素体2の表面上に保護層4が形成された構成を有している。以下、かかる保護層4及び磁石素体2を構成する成分についてそれぞれ説明する。
まず、保護層4の構成成分について説明する。保護層4は、芳香環を有する有機高分子化合物及び芳香環を有する無機高分子化合物を含有してなるものである。これらの間には、芳香環同士のπ−π相互作用が生じており、これにより両化合物は弱く結合された状態となっている。まず、前者の芳香環を有する有機高分子化合物について説明する。
芳香環を有する有機高分子化合物としては、分子中に芳香環を有している高分子化合物であれば特に制限なく適用できる。この有機高分子化合物は、主鎖又は側鎖のいずれに芳香環を有するものであってもよい。ここで、芳香環とは、芳香族に属する環の総称であり、例えば、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、非ベンゼン系芳香環、複素芳香環等のような、π電子が非局在化している熱力学的に安定な環状構造をいうものとする。なお、このような芳香環の定義は、後述する無機高分子化合物においても適用される。
この有機高分子化合物は、無機高分子化合物とのπ−π相互作用を良好に生じさせるため、高分子を構成している各繰り返し構造単位がそれぞれ芳香環を有していると好ましい。また、有機高分子化合物が有している芳香環としては、他の芳香環とのπ−π相互作用を強く生じる傾向にあるベンゼン環が好ましい。
このような有機高分子化合物としては、熱可塑性の有機高分子化合物及び熱硬化性の有機高分子化合物の両方を適用できる。熱可塑性の有機高分子化合物としては、ポリスチレン、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等や、これらの重合体を形成するモノマー単位を複数種類有する共重合体が挙げられる。
また、熱硬化性の有機高分子化合物としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性又は熱硬化性の有機高分子化合物は、いずれも繰り返し構造単位中に一つ以上の芳香環を有している。
特に、有機高分子化合物としては、前者の熱可塑性の有機高分子化合物が好ましい。有機高分子化合物が熱可塑性を有するものであると、これを含む保護層の可撓性が向上する傾向にあり、これにより保護層における亀裂やピンホール等の発生が少なくなる。
この熱可塑性の有機高分子化合物のなかでも、スチレン単位を有する重合体又はポリフェニレンエーテルが好ましい。スチレン単位を有する重合体としては、ポリスチレンや、スチレン系化合物とその他の重合可能なモノマーとを共重合させて得られた共重合体が挙げられる。これらは、上述した効果に優れるほか、無機高分子化合物における芳香環とのπ−π相互作用を比較的強く生じる傾向にある。
一方、無機高分子化合物は、炭素原子以外の元素により構成される主鎖(骨格)を有しており、また、分子内に芳香環を有する化合物である。無機高分子化合物は、このような主鎖を有している限り、芳香環以外の有機基を更に有していてもよい。この無機高分子化合物の主鎖は、金属原子を含有しており、好適な場合には、金属原子と酸素原子とが交互に結合してなる構造を有している。
かかる構成を有する無機高分子化合物は、主鎖又は側鎖のいずれに芳香環を有するものであってもよい。また、芳香環としては上述した定義に該当するものであれば特に制限はないが、ベンゼン環が特に好ましい。有機高分子化合物及び無機高分子化合物の両方が芳香環としてベンゼン環を有している場合、両者の間のπ−π相互作用が一層強いものとなる。
無機高分子化合物の主鎖が有している金属原子としては、Si、Al、Ti、Zr、Ta、Mo、Nb及びBからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、なかでもSiが好ましい。より具体的には、無機高分子化合物としては、−Si−O−で表される結合により主鎖が形成されたポリシロキサンが好ましい。このようなポリシロキサンは、その前駆体が比較的安定であり、しかも比較的容易に合成することが可能であるため、種々の構造を有する重合体を形成できるという利点を有している。なお、本明細書中において、金属原子にはSi及びBも含まれるものとする。
上記ポリシロキサンとしては、下記式(1)で表される化合物及び/又はその加水分解生成物からなる構造単位を少なくとも有している化合物が挙げられる。下記式(1)中、Rは芳香環を有する有機基、Rはアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示し、nは1又は2、mは0又は1である。ただし、n+mは2以下である。なお、R又はRを複数有している場合、それぞれは同一でも異なっていてもよい。
[化3]
Si(OR4−(n+m)…(1)
上記式(1)で表される化合物及び/又はその加水分解生成物からなる構造単位を少なくとも有している無機高分子化合物としては、例えばこの化合物及び/又は加水分解生成物を単独で縮合させた縮合体や、これらを含む共縮合体が挙げられる。
後者の共縮合体としては、例えば、上記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物との共縮合体が挙げられる。なお、下記式中、Rはアルキル基、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基、xは1又は2である。
[化4]
Si(OR4−x…(2)
無機高分子化合物がこれらの化合物の共重合体からなるものである場合、当該高分子化合物において、芳香環を有する構造単位、すなわち上記式(1)で表される化合物からなる構造単位が、10mol%以上含有されていることが好ましい。芳香環を有する構造単位がこのような含有量であると、芳香環を有する有機高分子化合物とのπ−π相互作用がより有効に生じる傾向にある。
上述した化合物を縮合又は共縮合させることで、側鎖にRで表される基、すなわち芳香環を有する有機基を有しており、−Si−O−で表される結合を主鎖に有するポリシロキサンが生成する。こうして得られたポリシロキサンは、優れた応力緩和性を有している。このため、このポリシロキサンを含有する保護層4は、クラック等をさらに生じ難いものとなる。
上記式(1)で表される化合物としては、Rで表される基として、フェニル基、ベンジル基、β−フェネチル基、p−トルイル基、メシチル基及びp−スチニル基からなる群より得らればれる少なくとも一種の基を有しているものが好ましい。なお、これらの官能基におけるベンゼン環は、更に他の置換基を有するものであってもよい。なかでも、Rとしてフェニル基を有する化合物が特に好ましい。このような化合物からなる構造単位を有する無機高分子化合物は安定性に優れるという特性を有しており、これにより保護層4の耐食性が一層向上する。
保護層4においては、有機高分子化合物及び無機高分子化合物は、以下に示す配合比で含有されていることが好ましい。すなわち、有機高分子化合物の含有量は、無機高分子化合物100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましい。有機高分子化合物の含有量が10質量部未満であると、得られる保護層の応力緩和性が小さくなり、保護層にクラックが生じやすくなる傾向にある。一方、有機高分子化合物の含有量が100質量部を超えると、保護層の耐熱性、耐湿性が低下する傾向にある。
なお、保護層4は、上述した有機高分子化合物及び無機高分子化合物以外に、微量成分として、Al、Mg、Ca、Zn、Si、Mn等の金属微粉末、SiO、TiO、ZrO、Al等の金属酸化物微粉末、エポキシ樹脂等の樹脂成分、モンモリロナイト等の粘土鉱物等を含有していてもよい。
次に、希土類磁石1における磁石素体2の構成材料について説明する。磁石素体2は、希土類元素を含有する永久磁石である。この場合、希土類元素とは、長周期型周期表第3周期の元素及びランタノイドに属する元素のことをいい、このような希土類元素には、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビニウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が含まれる。
磁石素体2の構成材料としては、上記希土類元素と遷移元素とを組み合わせて含有させたものが例示できる。この場合、希土類元素としては、Nd、Dy、Pr及びTbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、これらの元素にLa、Sm、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含有したものであるとより好適である。
より具体的には、磁石素体2の構成材料としては、R−Fe−B(Rは希土類元素)系やR−Co系の構造を有するものが例示できる。前者の構造を有する材料においては、RとしてはNdが好ましく、また後者の構造を有する材料においては、RとしてはSmが好ましい。
なかでも、希土類磁石1における磁石素体2の構成材料としては、R−Fe−B系の構造を有する材料が好ましい。このような材料は実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有しており、また、この主相の粒界部分に希土類元素の配合割合が高い希土類リッチ相、及びホウ素原子の配合割合が高いホウ素リッチ相を有している。これらの希土類リッチ相及びホウ素リッチ相は磁性を有していない非磁性相であり、このような非磁性相は通常、磁石構成材料中に0.5〜50体積%含有されている。また、主相の粒径は、通常1〜100μm程度である。
このような構成を有する磁石素体2の構成材料においては、希土類元素の含有量が8〜40原子%であると好ましい。希土類元素の含有量が8原子%未満である場合、主相の結晶構造がα鉄とほぼ同じ結晶構造となり、保持力(iHc)が小さくなる傾向にある。一方、40原子%を超えると希土類リッチ相が過度に形成されてしまい、残留磁束密度(Br)が小さくなる傾向にある。
また、Feの含有量は42〜90原子%であると好ましい。Feの含有量が42原子%未満であるとBrが小さくなり、また、90原子%を超えるとiHcが小さくなる傾向にある。さらに、Bの含有量は2〜28原子%であると好ましい。Bの含有量が2原子%未満であると菱面体構造が形成されやすく、これによりiHcが小さくなる傾向にあり、また28原子%を超えると、ホウ素リッチ相が過度に形成されて、これによりBrが小さくなる傾向にある。
上述した構成材料においては、R−Fe−BにおけるFeの一部が、Coで置換されていてもよい。このようにFeの一部をCoで置換すると、磁気特性を低下させることなく温度特性を向上させることができる。この場合、Coの置換量は、Feの含有量よりも大きくならない程度とすることが望ましい。Co含有量がFe含有量を超えると、磁石素体2の磁気特性が小さくなる傾向にある。
また上記構成材料におけるBの一部は、C、P、S又はCu等の元素により置換されていてもよい。このようにBの一部を置換することによって、磁石素体の製造が容易となるほか、製造コストの低減も図れるようになる。このとき、これらの元素の置換量は、磁気特性に実質的に影響しない量とすることが望ましく、構成原子総量に対して4原子%以下とすることが好ましい。
さらに、iHcの向上や製造コストの低減等を図る観点から、上記構成に加え、Al、Ti、V、Cr、Mn、Bi、Nb、Ta、Mo、W、Sb、Ge、Sn、Zr、Ni、Si、Ga、Cu、Hf等の元素を添加してもよい。これらの添加量も磁気特性に影響を及ぼさない範囲とすることが好ましく、構成原子総量に対して10原子%以下とすることが好ましい。また、その他、不可避的に混入する成分としては、O、N、C、Ca等が考えられ、これらは構成原子総量に対して3原子%程度以下の量で含有されていても構わない。
このような構成を有する磁石素体2は、粉末冶金法によって製造することができる。この方法においては、まず鋳造法やストリップキャスト法等の公知の合金製造プロセスにより所望の組成を有する合金を作製する。次に、この合金をジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いて10〜100μmの粒径となるように粉砕した後、更にジェットミル、アトライター等の微粉砕機により0.5〜5μmの粒径となるようにする。こうして得られた粉末を、好ましくは600kA/m以上の磁場強度を有する磁場のなかで、0.5〜5t/cmの圧力で成形する。
その後、得られた成形体を、好ましくは不活性ガス雰囲気又は真空下中、1000〜1200℃で0.5〜10時間焼結させた後に急冷する。さらに、この焼結体に、不活性ガス雰囲気又は真空中、500〜900℃で1〜5時間の熱処理を施した後、焼結体を所望の形状に加工して、磁石素体2を得る。
本実施形態の希土類磁石1は上述した磁石素体2の表面上に、上述した保護層4を備えた構造を有している。この希土類磁石1においては、保護層4の厚さは、0.1〜100μmであると好ましく、5〜50μmであるとより好ましい。この厚さが0.1μm未満であると、磁石表面を十分に被覆することが極めて困難となる傾向にある。一方、厚さが100μmを超えると、保護層にクラックや剥離が生じやすくなり、保護層としての信頼性が低下する傾向にある。なお、この場合の保護層4の厚さとは、磁石素体2表面に形成されている保護層4の厚さの平均をいうものとする。
また、希土類磁石1は、磁石素体2の表面上に、保護層4以外の層を1層以上備えるものであってもよい。例えば、保護層4の下地層として無機酸化物層や金属層を備えていてもよく、また、保護層4の表面上に、更に樹脂コート層等を備えていてもよい。
次いで、このように構成された希土類磁石1を製造する方法の一実施形態について説明する。希土類磁石1の製造方法は、保護層4形成用の塗布液を調製する工程(塗布液調製工程)、磁石素体2の表面上に塗布液を塗布する工程(塗布工程)、及び、この塗布液から保護層4を形成する工程(保護層形成工程)を有している。
希土類磁石1の製造においては、まず、塗布液調製工程において、原料として、芳香環を有する有機高分子化合物、及び、無機高分子前駆体を準備し、これらを所定の溶媒に溶解又は分散させた状態で混合する。ここで、無機高分子前駆体とは、芳香環を有しており重合可能な官能基が金属原子に結合してなる無機モノマー若しくはこの無機モノマーの重合生成物(オリゴマー、ポリマー等)、又は、これらの混合物である。
塗布液調製工程において用いる有機高分子化合物としては、上述した有機高分子化合物が挙げられる。これらの有機高分子化合物としては、その重量平均分子量が500〜100000であるものが好ましい。
無機高分子前駆体を構成するための無機モノマーは、重合により上述した無機高分子化合物を形成可能な化合物であり、例えば、芳香環を有しており重合可能な官能基が金属原子に結合してなる化合物が挙げられる。このような無機モノマーが有している金属原子としては、Si、Al、Ti、Zr、Ta、Mo、Nb及びBからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましい。
上記無機モノマーが有している芳香環としては、ベンゼン環が好ましく、このようなベンゼン環は、ベンジル基、β−フェネチル基、p−トルイル基、メシチル基、p−スチニル基、又はフェニル基の形で無機モノマー中に導入されていると好ましい。これらの基は、無機モノマーにおける金属原子に直接結合していてもよく、他の原子を介して金属原子に結合していてもよい。
また、無機モノマーが有している重合可能な官能基とは、当該無機モノマーによる重合反応を可能とする官能基である。このような官能基としては、水酸基やアルコキシ基が挙げられる。例えば、重合可能な官能基がアルコキシ基である場合、アルコキシ基の加水分解及び縮合反応によって無機モノマーの重合が進行する。
より具体的には、無機高分子前駆体を構成するための無機モノマーとしては、水酸基やアルコキシ基が結合されたSiからなる化合物が好適である。具体的には、下記一般式(1)で表される化合物が好適である。なお、下記式中、Rは芳香環を有する有機基、Rはアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示し、nは1又は2、mは0又は1である。ただし、n+mは2以下である。なお、R又はRを複数有している場合、それぞれは同一でも異なっていてもよい。
[化5]
Si(OR4−(n+m)…(1)
上記式(1)においてRで表される基としては、ベンジル基、β−フェネチル基、p−トルイル基、メシチル基、p−スチニル基及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基が好ましく、フェニル基がより好ましい。Rで表される基がフェニル基である場合、得られる無機高分子化合物と上述した有機高分子化合物とのπ−π相互作用が更に生じやすくなる。なお、無機高分子前駆体としては、上記式(1)で表される化合物と共縮合可能な化合物をさらに含有していてもよく、このような化合物としては、例えば上記式(2)で表される化合物が好ましい。
希土類磁石1の製造においては、上述した塗布液調製工程に続いて、磁石素体2の表面上に塗布液を塗布する塗布工程を実施する。塗布の方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して用いることができ、例えば、ディップコーティング法、スプレーコート法、スピンコート法等が挙げられる。
このとき、塗布液の塗布は、得られる保護層4の厚さが所望の値(好適な場合、0.1〜100μmである)となるように、塗布後の溶媒揮発又は体積収縮等を考慮して調整することが好ましい。例えばディップコーティング法により塗布を実施する場合には、磁石素体2を塗布液に浸漬し、その後磁石素体2を引き上げる速度及び時間を適宜設定することによって、塗布される塗布液の厚さを調整することができる。
なお、このような塗布を簡便に行い、また形成される保護層4の密着性を良好にする観点からは、塗布工程を実施する前に磁石素体2の表面に所定の処理を施しておくことが望ましい。所定の処理としては、例えば、磁石素体2の表面をバレル研磨等により平滑にした後、素体表面の脱脂処理を行い、さらに酸溶液による洗浄や水洗を実施する処理が挙げられる。これにより清浄な表面を有する磁石素体2が得られ、磁石素体2と保護層4との密着性が向上する。
そして、上記塗布工程を実施した後、保護層形成工程において、塗布された塗布液から保護層4を形成し、磁石素体2の表面上に保護層4が形成された希土類磁石1を得る。当該保護層形成工程においては、例えば、塗布液を塗布された磁石素体2を加熱するか、又は大気中に放置することにより塗布液から溶媒を揮発させ、これにより塗布液から保護層4を形成する。この場合、温度条件は室温〜300℃とし、1分〜24時間程度の処理を行うことが好ましい。
上述した形態の希土類磁石1の製造方法においては、無機高分子前駆体として、上記無機モノマー、及び/又は、当該無機モノマーの重合生成物であって更なる重合反応を生じ得るオリゴマー若しくはポリマーを含有している場合、塗布液調製工程、塗布工程、及び保護層形成工程のうちの少なくとも一つの工程において、これらの無機高分子前駆体の重合を生じさせる。
このように、少なくともいずれかの工程において無機高分子前駆体の重合反応を生じさせることで、得られる保護層4と磁石素体2との密着性が向上する。例えば、無機高分子前駆体として、上記式(1)で表される無機モノマー及び/又はその重合生成物を用いた場合、得られる無機高分子化合物は、分子中に複数の上記−ORで表される基を有するようになる。この−ORで表される基は、加水分解性を有しており、また、磁石素体2は通常、その表面に磁石の構成材料に由来する水酸基を有している。このため、希土類磁石1においては、無機高分子化合物が有している加水分解性基と磁石表面の水酸基との間で縮合反応が生じるようになり、これにより、保護層4の磁石素体2に対する密着性が顕著に良好となる。但し、作用はこれらに限定されない。
例えば、まず、無機高分子前駆体の重合反応を塗布液調製工程において行う場合には、有機高分子化合物と無機高分子前駆体との混合を行った後に、この無機高分子前駆体の重合を生じさせる。ここで、無機高分子前駆体の重合反応の一例を示すと、例えば、無機高分子前駆体として上記一般式(1)で表される無機モノマーを用いた場合に生じる重合反応は、加水分解で生じた水酸基同士、又は水酸基とORとの縮合による重縮合反応である。
このような塗布液調製工程における重合反応は、例えば、有機高分子化合物及び無機高分子前駆体を混合した後の混合液を加熱することによって生じさせることができる。この重合反応が上述した重縮合反応である場合、反応温度は、20〜150℃とすることが好ましい。また反応時間は、10分〜48時間とすることが好ましい。
また、塗布液調製工程において上記重合反応を生じさせる場合には、反応液中には更に水を添加することが好ましい。さらに、無機高分子前駆体が金属原子としてSiを含む場合には、重縮合反応の進行が遅い傾向にあるため、触媒等を更に添加することが好ましい。この場合の触媒としては、酸、塩基、有機金属化合物等が挙げられ、塩基又は有機金属塩が好適である。
一方、保護層形成工程において無機高分子前駆体を重合させる場合、その重合反応は、当該工程において塗布液が塗布された状態の磁石素体2を加熱するか、又は、これを大気中に所定時間放置することにより生じさせることができる。
保護層形成工程における重合反応を効率良く生じさせるためには、塗布液が塗布された磁石素体2を、好ましくは温度が室温〜300℃、時間が1分〜24時間の範囲で、塗布液中に含まれる成分に応じて適宜処理することが好ましい。これらの温度が低いか、または処理時間が短い場合、無機高分子前駆体の十分な重合反応が生じ難くなって無機高分子化合物が十分に生成しなくなり、これに起因して保護層4の耐熱性が低くなる傾向にある。また、処理温度が300℃を超えると有機構造単位が分解してしまい、保護層の柔軟性が低下する傾向にある。
さらに、本発明の希土類磁石の製造方法においては、塗布液調製工程及び保護層形成工程以外に、塗布工程において無機高分子前駆体の重合が生じてもよい。この場合、例えば、磁石素体2を加熱しながら塗布を行うことで更に重合反応が促進され、塗布液を磁石素体2に塗布すると同時に重合が生じるようになる。
このように、上述した無機高分子前駆体の重合反応は、塗布液調製工程、塗布工程及び保護層形成工程のいずれの工程において生じさせてもよいが、本発明の希土類磁石1の製造方法においては、少なくとも保護層形成工程で重合反応を生じさせることが好ましい。これにより、重合反応に伴って生じる水酸基等が、磁石素体2表面に存在する活性な官能基と反応して、保護層4の磁石素体2への密着性が更に向上するようになる。
そして、さらに好適な場合には、塗布液調製工程において上記縮合反応の一部を生じさせた後(すなわち、完全には縮合を進行させずに)、保護層形成工程において、塗布液調製工程で残存した、さらに重合可能な状態の無機高分子前駆体に重合を生じさせる。こうすることで、塗布液調製工程において無機高分子化合物が生じるようになり、これにより保護層を形成する際に発生する応力が小さくなる。加えて、保護層形成工程においても上記重合が生じるため、保護層4の磁石素体2への密着性が向上する効果も得られるようになる。
このように構成された希土類磁石1によれば、以下に示す効果が得られるようになる。すなわち、希土類磁石1は、磁石素体2の表面上に、有機高分子化合物及び無機高分子化合物を含有する保護層4を有しており、これらの高分子化合物の間にはπ−π相互作用が生じている。そして、このπ−π相互作用によって有機高分子化合物と無機高分子化合物は弱く結合された状態となっているため、保護層4においては両化合物の相分離が極めて生じ難く、これにより有機高分子化合物及び無機高分子化合物は均一に分散された状態となっている。
また、このように有機高分子化合物及び無機高分子化合物が均一に分散されているため、保護層4は、これらの化合物をそれぞれ単独で用いた場合に得られる特性を併せて具備するようになり、優れた耐食性を有するものとなる。例えば、このような保護層4は、有機高分子化合物のみから形成された保護層と比較して耐湿性、耐熱性に優れており、また、無機高分子化合物のみから形成された保護層と比較して、応力緩和性に優れているという特性を有している。
このように、保護層4は極めて優れた耐食性を有していることから、かかる保護層4を備えた希土類磁石1は、高温、高湿に晒される条件で使用した場合であっても磁気特性の劣化を生じることが少ないものとなる。このため、このような希土類磁石1は、燃料電池車やハイブリッドカーの駆動モータ等に用いる永久磁石として極めて好適である。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
粉末冶金法により作成した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)で表される組成を有する焼結体に、アルゴン雰囲気下、600℃、2時間の条件で熱処理を施した後、この焼結体を56mm×40mm×厚さ8mmのサイズに切り出して、磁石素体を得た。この磁石素体をアルカリ性脱脂液により洗浄し、さらに硝酸溶液による処理を実施して磁石素体表面を活性化させた後、この表面を繰り返し水洗した。
また、これとは別に、重量平均分子量2000のポリスチレン20gをテトラヒドロフラン(THF)80gに溶解させ、さらにこの溶液にフェニルトリメトキシシラン105g、0.1%アンモニア水17.5gを添加した後、50℃で5時間の熱処理を行いフェニルトリメトキシシランの重縮合反応を生じさせて、塗布液を調製した。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した後、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算することにより求めた値である。
この塗布液を、ディップコーティング法により上述した磁石素体の表面に塗布した後、150℃、20分の条件で加熱を行うことにより、磁石素体の表面に保護層を形成させ、希土類磁石を得た。
<特性評価>
得られた希土類磁石を用い、保護層の厚さの測定、表面の観察、及び加速試験による耐食性の評価を実施した。すなわち、まず、希土類磁石を幅方向(図1中、奥行き方向)の中央部分で切断し、その切断面を電子顕微鏡で観察することにより保護層の平均厚さを測定した。その結果、保護層の平均厚さは15μmであることが確認された。次に、電子顕微鏡により希土類磁石の表面を観察したところ、保護層表面にはクラック等の欠陥が形成されていないことが判明した。
次いで、この希土類磁石を80℃、90%RHの条件で処理する耐食性の加速試験を実施した。その結果、試験開始から300時間経過した後であっても、磁石素体に錆の発生は見られず、磁石素体には腐食が生じていないことが判明した。
(比較例1)
以下に示す方法で塗布液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして希土類磁石を作製した。すなわち、40gのTHFに、フェニルトリメトキシシラン105g、0.1%アンモニア水17.5gを加え、50℃で5時間反応させることにより塗布液を調製した。
得られた希土類磁石を用い、実施例1と同様にして保護層の厚さの測定、表面の観察、及び加速試験による耐食性の評価を実施した。その結果、保護層の平均厚さは15μmであり、また、希土類磁石における保護層の表面にはクラックが生じていることが確認された。さらに、加速試験においては、試験開始から300時間経過後に磁石素体に錆の発生が見られた。
(比較例2)
フェニルトリメトキシシランに代えてメチルトリメトキシシランを用いたこと以外は、実施例1と同様にして希土類磁石を作製した。
得られた希土類磁石を用い、実施例1と同様にして保護層の厚さの測定、表面の観察、及び加速試験による耐食性の評価を実施した。その結果、保護層の平均厚さは15μmであり、また、保護層表面には、相分離による1μm程度の大きさの海島構造が確認された。さらに、加速試験においては、試験開始から300時間経過後に磁石素体に錆の発生が見られた。
好適な実施形態の希土類磁石を示す斜視図である。 図1に示される希土類磁石のII−II線に沿った断面図である。
符号の説明
1…希土類磁石、2…磁石素体、4…保護層。

Claims (14)

  1. 希土類元素を含有する磁石素体と、
    芳香環を有する有機高分子化合物、及び、芳香環を有する無機高分子化合物を含有しており、前記磁石素体の表面上に形成された保護層と、
    を備えることを特徴とする希土類磁石。
  2. 前記有機高分子化合物は、前記芳香環としてベンゼン環を有していることを特徴とする請求項1記載の希土類磁石。
  3. 前記有機高分子化合物は、スチレン単位を有する重合体を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の希土類磁石。
  4. 前記無機高分子化合物は、金属原子と酸素原子とが交互に結合してなる主鎖を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の希土類磁石。
  5. 前記金属原子として、Siを含有していることを特徴とする請求項4記載の希土類磁石。
  6. 前記無機高分子化合物は、下記式(1);
    [化1]
    Si(OR4−(n+m)…(1)
    [式中、Rは芳香環を有する有機基、Rはアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示し、nは1又は2、mは0又は1である。ただし、n+mは2以下である。なお、R又はRを複数有している場合、それぞれは同一でも異なっていてもよい。]
    で表される化合物及び/又はその加水分解生成物からなる構造単位を少なくとも有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の希土類磁石。
  7. 前記Rで表される基として、置換基を有していてもよいフェニル基を含有していることを特徴とする請求項6記載の希土類磁石。
  8. 芳香環を有する有機高分子化合物と、芳香環を有しており重合可能な官能基が金属原子に結合してなる無機モノマー及び/又は該無機モノマーの重合体を含む無機高分子前駆体と、の混合を経て、塗布液を調製する塗布液調製工程と、
    前記塗布液を、希土類元素を含有する磁石素体の表面上に塗布する塗布工程と、
    前記塗布液から前記保護層を形成する保護層形成工程と、
    を有することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
  9. 前記塗布液調製工程、前記塗布工程、及び前記保護層形成工程のうちの少なくとも一つの工程において、前記無機高分子前駆体の重合を行うことを特徴とする請求項8記載の希土類磁石の製造方法。
  10. 前記有機高分子化合物として、前記芳香環がベンゼン環であるものを用いることを特徴とする請求項8又は9記載の希土類磁石の製造方法。
  11. 前記有機高分子化合物として、スチレン単位を有する重合体を用いることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
  12. 前記無機高分子前駆体として、前記金属原子がSiであるものを用いることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
  13. 前記無機高分子前駆体として、下記式(1);
    [化2]
    Si(OR4−(n+m)…(1)
    [式中、Rは芳香環を有する有機基、Rはアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示し、nは1又は2、mは0又は1である。ただし、n+mは2以下である。なお、R又はRを複数有している場合、それぞれは同一でも異なっていてもよい。]
    で表される無機モノマー及び/又はその加水分解生成物を含有させることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
  14. 前記Rで表される基として、置換基を有していてもよいフェニル基を含有していることを特徴とする請求項13記載の希土類磁石の製造方法。
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