JP2005213668A - 積層繊維集合体の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 静電紡糸法により紡糸した繊維を直接集積して製造した、平均繊維径の異なる繊維集合体層を2層以上備えた積層繊維集合体を、従来よりも簡潔に、しかも従来よりも簡素な設備で製造できる方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の静電紡糸法により紡糸した繊維を直接集積して製造した繊維集合体層を2層以上備えており、同じ樹脂からなる繊維から構成されており、かつ平均繊維径が互いに異なる、という関係を満たす2層の繊維集合体層を備えた積層繊維集合体の製造方法は、前記2層の繊維集合体層を、同じ紡糸原液を用いるとともに、紡糸空間を互いに異なる相対湿度に設定して製造する方法である。
【選択図】 図1

Description

本発明は積層繊維集合体の製造方法に関する。
繊維集合体を構成する繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れているため、繊維集合体を構成する繊維の繊維径は小さいのが好ましい。このような繊維径の小さい繊維からなる繊維集合体の製造方法として、紡糸原液をノズルから押し出すとともに、押し出した紡糸原液に電界を作用させて紡糸原液を延伸し、繊維径の小さい繊維とした後に捕集して繊維集合体とする、いわゆる静電紡糸方法が知られている。例えば、「溶媒として揮発性溶媒を用いて高分子を溶解した高分子溶液を製造する段階と、前記高分子溶液を電荷誘導紡糸工程により紡糸する段階、及びコレクタ上に累積される微細繊維状高分子ウェブを得る段階とを含む微細繊維状高分子ウェブの製造方法」が開示されている(特許文献1)。
一方、平均繊維径の異なる繊維集合体を積層することによって、前記性能を長期間にわたって発揮できることが知られている。例えば、平均繊維径の異なる繊維集合体を積層した積層繊維集合体は、液体又は気体中における固形分の分離性能を長期間にわたって維持できる、つまり、単層からなる繊維集合体と比較して、分離量を多くできることが知られている。
特開2002−249966号公報(請求項1など)
そのため、前述のような静電紡糸法により製造した、平均繊維径の異なる繊維集合体を積層すれば、前記性能を長期間にわたって発揮できることが予測された。
そして、実際に、静電紡糸法により紡糸した繊維を直接集積して第1の繊維集合体を形成した後、第1の繊維集合体上に、静電紡糸法により紡糸した繊維を直接集積し、第1の繊維集合体とは平均繊維径の異なる第2の繊維集合体を形成して、積層繊維集合体を製造することができた。しかしながら、第1の繊維集合体とは平均繊維径の異なる第2の繊維集合体を製造する際の紡糸原液として、第1の繊維集合体を形成するための紡糸原液と組成は同じであるものの分子量の異なる樹脂を用いた紡糸原液、又は第1の繊維集合体を形成するための紡糸原液と組成は同じであるものの濃度の異なる紡糸原液を使用したため、2種類の紡糸原液を調製する必要があり、製造が煩雑になる、という問題点があった。また、第1の繊維集合体を形成するための紡糸原液又は第2の繊維集合体を形成するための紡糸原液のいずれかと同じ紡糸原液を用い、他方の紡糸原液のみを別の紡糸原液に替えて、平均繊維径差の異なる積層繊維集合体を製造しようとしたところ、別の紡糸原液を供給する紡糸原液供給装置、紡糸原液供給装置からノズルまでの配管、及びノズルを洗浄するか、交換する必要が生じたため、この点でも製造が煩雑であったり、設備が大掛かりになる、という問題が生じた。
本発明は上述のような問題点を低減することを課題とするもので、静電紡糸法により紡糸した繊維を直接集積して製造した、平均繊維径の異なる繊維集合体層を2層以上備えた積層繊維集合体を、従来よりも簡潔に、しかも従来よりも簡素な設備で製造できる方法を提供することを目的とする。
本発明の請求項1にかかる発明は、「静電紡糸法により紡糸した繊維を直接集積して製造した繊維集合体層を2層以上備えており、同じ樹脂からなる繊維から構成されており、かつ平均繊維径が互いに異なる、という関係を満たす2層の繊維集合体層を備えた積層繊維集合体の製造方法であり、前記2層の繊維集合体層を、同じ紡糸原液を用いるとともに、紡糸空間を互いに異なる相対湿度に設定して製造することを特徴とする、積層繊維集合体の製造方法」である。本発明者は、紡糸空間における相対湿度によって、紡糸原液の粘度が変化するため、一定電界を紡糸原液に作用させたとしても、繊維径が変化することを見出した。そして、相対湿度による繊維径の変化を利用することにより、同じ紡糸原液を用いているにもかかわらず、平均繊維径の異なる積層繊維集合体を製造することに成功した。このように同じ紡糸原液を使用しているため、紡糸原液は1種類調製するだけで済み、また、別の積層繊維集合体を製造する際に、別の紡糸原液を供給する紡糸原液供給装置、紡糸原液供給装置からノズルまでの配管、及びノズルの洗浄や、交換する手間を省くことができるため、簡素な設備で簡潔に平均繊維径の異なる積層繊維集合体を製造することができる。
本発明の請求項2にかかる発明は、「前記関係を満たす2層の繊維集合体層を製造するために使用する紡糸原液の溶媒として、水への溶解性が100g/100ml以上のものを主体として用いるとともに、紡糸空間を相対湿度40%以下の所定の相対湿度、かつ前記所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持した状態で、それぞれの繊維集合体層を製造することを特徴とする、請求項1記載の積層繊維集合体の製造方法」である。本発明者は、水への溶解性が100g/100ml以上の溶媒は水分を取り込みやすく、取り込んだ水分は紡糸原液の樹脂の貧溶媒として作用し、樹脂の溶解度が低下し、紡糸原液の粘度が上昇し、更にゲル化や凝固が起りやすいため、相対湿度が変化し、溶媒中に取り込まれる水分量が変化することによって、紡糸原液の粘度も変化するため、一定電界をノズルから押し出した紡糸原液に作用させても、繊維径が変化しやすいが、その影響度は相対湿度が一定の範囲内にあれば一定であることも見出した。そこで、相対湿度40%以下の所定の相対湿度、かつ前記所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持することで、相対湿度による紡糸原液に与える影響を一定とし、繊維径に与える影響を一定とすることによって、繊維径の揃った、所望の平均繊維径の繊維集合体を備えた積層繊維集合体を製造することができる。
本発明の請求項3にかかる発明は、「前記紡糸原液の主体とする溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンの中から選ばれる溶媒であることを特徴とする、請求項2記載の積層繊維集合体の製造方法」である。これらの溶媒は、室温付近で飽和蒸気圧に達したとしても、爆発下限よりも十分に低い濃度にまでしかならず、静電紡糸を行っている際に、仮にスパーク放電などが起こっても、爆発の心配が少ないため好適な溶媒である。また、これらの溶媒は樹脂の溶解性が比較的高く、更に蒸気圧がそれほど高くなく、急速に揮発することもないため、好適に使用できる。
本発明の請求項4にかかる発明は、「前記関係を満たす2層の繊維集合体層以外の繊維集合体層を製造するために、前記関係を満たす2層の繊維集合体層を製造するために使用する紡糸原液とは異なる紡糸原液を用いて、静電紡糸法により繊維を紡糸し、直接集積して繊維集合体層を製造することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の積層繊維集合体の製造方法」である。このように、異なる紡糸原液を用いることによって、前記関係を満たす2層の繊維集合体層と平均繊維径の差の大きい繊維集合体層を製造することができるため、各種性能(例えば、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など)が高く、長期にわたって持続できる積層繊維集合体を製造することができる。なお、このように異なる紡糸原液を用いた場合であっても、少なくとも2層の繊維集合体層を製造するために、同じ紡糸原液を使用しているため、従来よりも簡素な設備で簡潔に平均繊維径の異なる積層繊維集合体を製造することができる。
本発明の積層繊維集合体の製造方法によれば、従来よりも簡素な設備で簡潔に平均繊維径の異なる積層繊維集合体を製造することができる。
本発明の積層繊維集合体の製造方法について、本発明の積層繊維集合体の製造方法を実施できる製造装置の概念的模式断面図である図1をもとに説明する。
図1の製造装置は、紡糸原液を第1ノズル2a及び第2ノズル2bへ供給できる紡糸原液供給装置1、紡糸原液供給装置1から供給された紡糸原液を吐出できる第1ノズル2a及び第2ノズル2b、第1ノズル2a及び第2ノズル2bから吐出され、電界によって延伸された繊維を捕集できるアースされた捕集体3、第1ノズル2a及び第2ノズル2bとアースされた捕集体3との間に電界を形成するために、第1ノズル2a及び第2ノズル2bに電圧を印加できる電圧印加装置4、第1ノズル2aを収納した第1紡糸容器6a、第2ノズル2bを収納した第2紡糸容器6b、第1紡糸容器6aへ所定相対湿度の気体を供給できる第1気体供給装置7a、第2紡糸容器6bへ所定相対湿度の気体を供給できる第2気体供給装置7b、及び積層繊維集合体をロール状に巻き取ることのできる巻取り装置8、を備えている。この製造装置においては、紡糸原液供給装置1、第1ノズル2a、捕集体3、電圧印加装置4、第1紡糸容器6a、及び第1気体供給装置7aにより第1静電紡糸部E1を構成し、紡糸原液供給装置1、第2ノズル2b、捕集体3、電圧印加装置4、第2紡糸容器6b、及び第2気体供給装置7bにより第2静電紡糸部E2を構成している。
このような製造装置を用いて2層の積層繊維集合体を製造する場合、まず、紡糸原液を用意する。図1の製造装置においては、1種類の紡糸原液を調製すれば、平均繊維径の異なる繊維集合体からなる2層の積層繊維集合体を製造することができるため、紡糸原液調製の手間を軽減できる。
この紡糸原液は静電紡糸可能な樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、或いはポリプロピレンなどを使用できる。これら例示以外の樹脂も使用可能であり、例示以外の樹脂も含め、2種以上の樹脂を溶媒に溶解させた溶液(つまり、紡糸原液)を用いることもできる。
本発明の紡糸原液を構成する溶媒は樹脂を溶解させることのできるものである限り特に限定するものではないが、紡糸原液の主体とする溶媒が、水への溶解性が100g/100ml以上の溶媒(以下、「主溶媒」ということがある)であると、紡糸原液が水分を取り込みやすく、取り込んだ水分が樹脂の貧溶媒として作用し、樹脂の溶解度を低下させ、紡糸原液の粘度が上昇し、更にゲル化や凝固が起りやすいため、相対湿度が変化し、主溶媒中に取り込まれる水分量が変化することによって、紡糸原液の粘度も変化するため、一定電界を紡糸原液に作用させても、繊維径が変化しやすい。この傾向は水への溶解性が高いものほど顕著であり、完全に水と混和する主溶媒は最も影響を受けやすい。そのため、このような主溶媒を用いた紡糸原液の場合には、後述の紡糸空間における相対湿度の管理を行うことによって、このような影響を一定とするのが好ましい。なお、「水への溶解性」は、純水100gに対して攪拌しながら溶媒を滴下していき、混合溶液が白濁したり、分離したりする直前の滴下量をいう。また、「主体としている」とは、溶媒の質量の50%以上を占めていることをいう。
本発明の紡糸原液を構成する溶媒は樹脂によっても変化するため、特に限定するものではないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸(以上、主溶媒)、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート(以上、非主溶媒)など、1種類以上から構成することができる。これらの中でも、主溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチル−2−ピロリドンは、室温付近で飽和蒸気圧に達したとしても、爆発下限よりも十分に低い濃度にまでしかならず、静電紡糸を行っている際に、仮にスパーク放電などが起こっても、爆発の心配が少なく、また、これらの溶媒は樹脂の溶解性が比較的高く、更に蒸気圧がそれほど高くなく、急速に揮発することもないため、好適に使用できる。
本発明の紡糸原液の濃度は、樹脂の組成、樹脂の分子量、溶媒等によって変化するため、特に限定するものではないが、静電紡糸への適用性の点から、粘度が10〜5000mPa・sの範囲となるような濃度であるのが好ましく、20〜4000mPa・sの範囲となるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、溶媒が蒸発せず繊維状になりにくい傾向があり、粘度が5000mPa・sを超えると、紡糸原液が延伸されにくくなり、繊維状となりにくい傾向があるためである。なお、この「粘度」は、粘度測定装置を用い、温度25℃で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
このような紡糸原液は紡糸原液供給装置1によって、まず、第1ノズル2aへ供給される。この供給された紡糸原液は第1ノズル2aから押し出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加された第1ノズル2aとの間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔する(いわゆる静電紡糸法)。そして、この飛翔した繊維は直接、捕集体3上に集積し、第1繊維集合体を形成する。
この紡糸原液供給装置1は特に限定されるものではないが、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、ディスペンサ等を使用することができる。
図1における紡糸原液の第1ノズル2aからの押し出し方向は、重力と平行な方向であるが、平行である必要はない。
この紡糸原液を押し出す第1ノズル2aの直径は、得ようとする繊維の平均繊維径によって変化するため、特に限定するものではないが、例えば、繊維の平均繊維径を0.7μm以下とする場合には、第1ノズル2aの直径(内径)は0.1〜2.0mm程度であるのが好ましい。
また、第1ノズル2aは金属製であっても、非金属製であっても良い。第1ノズル2aが金属製であれば、電圧印加装置4から電圧を印加することにより、第1ノズル2aを一方の電極として使用することができ、第1ノズル2aが非金属製である場合には、第1ノズル2aの内部に電極を設置し、この内部電極へ電圧印加装置4から電圧を印加することにより、押し出した紡糸原液に電界を作用させることができる。
図1においては、電圧印加装置4により第1ノズル2aに電圧を印加するとともに、捕集体3をアースすることにより電界を形成しているが、図1とは逆に、第1ノズル2aをアースするとともに、捕集体3に電圧を印加して電界を形成しても良いし、第1ノズル2aと捕集体3の両方に電圧を印加するものの、電位差を設けるように印加して電界を形成しても良い。なお、この電界は、繊維の平均繊維径、第1ノズル2aと捕集体3との距離、紡糸原液の溶媒、紡糸原液の粘度などによって変化するため、特に限定するものではないが、0.2〜5kV/cmであるのが好ましい。電界強度が5kV/cmを超えると、空気の絶縁破壊が生じやすい傾向があり、0.2kV/cm未満であると、紡糸原液の延伸が不十分で繊維形状となりにくい傾向があるためである。
この電圧印加装置4は特に限定されるものではないが、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を用いることができる。なお、印加電圧は前述のような電界強度とすることができれば良く、特に限定するものではないが、5〜50KV程度であるのが好ましい。
また、印加する電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであっても良いが、繊維の拡がりを抑制し、繊維が均一に分散した繊維集合体を製造しやすいように、第1ノズル2a側がプラス電位となるようにするのが好ましい。特に、電圧印加時のコロナ放電を抑制しやすいように、捕集体3をアースし、第1ノズル2aをプラスに印加して、第1ノズル2aがプラス電位となるようにするのが好ましい。
図1における捕集体3はコンベアであるが、第1ノズル2aから吐出されて形成する繊維を捕集できるものであれば、コンベアである必要はない。例えば、金属製や炭素などからなる導電性材料又は有機高分子などからなる非導電性材料からなる、不織布、織物、編物、ネット、平板、或いはロールを、捕集体3として使用することができる。場合によっては水や有機溶媒などの液体を捕集体3として使用できる。
図1のように、捕集体3を他方の電極として使用する場合には、捕集体3は体積抵抗が10Ω以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。一方、第1ノズル2a側から見て、捕集体3よりも後方に対向電極として導電性材料を配置する場合には、捕集体3は必ずしも導電性材料からなる必要はない。後者のように、捕集体3よりも後方に対向電極を配置する場合、捕集体3と対向電極とは接触していても良いし、離間していても良い。
本発明の製造方法を実施できる図1においては、第1紡糸容器6a内に設置した第1ノズル2aと捕集体3との間の第1静電紡糸空間5aを、所定相対湿度とした状態で実施することにより、所望平均繊維径の第1繊維集合体を形成できる。図1においては、第1気体供給装置7aを用いて、所定の相対湿度の気体を一定風量で第1紡糸容器6aへ供給することによって、前記第1紡糸空間5aを所定相対湿度にすることができる。
なお、紡糸原液の溶媒が、水への溶解性が100g/100ml以上の主溶媒の場合には、第1紡糸空間5aを、相対湿度40%以下の所定の相対湿度、かつ前記所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持した状態で実施するのが好ましい。水分を取り込みやすい主溶媒を使用した紡糸原液であっても、相対湿度による影響を一定とすることができ、紡糸原液に与える相対湿度の影響を一定とすることができるため、繊維径の揃った、所望平均繊維径の第1繊維集合体を製造できるためである。
このように第1紡糸空間5aを、相対湿度40%以下の所定の相対湿度、かつ前記所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持した状態で実施するために、第1気体供給装置7aから、相対湿度が40%以下の気体を供給し、紡糸原液が水分を取り込むことによる樹脂の溶解性の低下、紡糸原液の粘度上昇、及びゲル化や凝固の影響を少なくするのが好ましい。
なお、第1気体供給装置7aから供給する気体の相対湿度をどの程度とするかは、相対湿度によって繊維径が変化することに加えて、紡糸原液(つまり溶媒や樹脂)によって影響度が異なるため、紡糸しようとする紡糸原液を用い、各種相対湿度で実際に紡糸を行って、実験的に確定することができる。より具体的には、紡糸しようとする紡糸原液を相対湿度が一定(±1%)の状態下で静電紡糸を実施し、その条件で得られる平均繊維径を確認する。この操作を、相対湿度を何水準かに変えて行い、相対湿度と平均繊維径との関係を把握する。この結果から、所望の平均繊維径を得るために必要な相対湿度を決定できる。
例えば、図5に概念的模式断面図を示すような製造装置(捕集体がアルミ箔を貼ったアルミ板11であること、紡糸容器6が密閉容器であること、及び排気装置8を備えていること以外は、図1の第1静電紡糸部E1と同様)を用い、重量平均分子量42万のポリアクリロニトリルを、N,N−ジメチルホルムアミドに濃度10mass%となるように溶解させた紡糸原液を用いて、内径が0.4mmのステンレス製ノズル2から10cm離れた位置に配置した、アルミ箔を貼ったアルミ板11上に、紡糸した繊維を集積させて、繊維集合体を形成した。この繊維集合体の形成は、紡糸空間5の相対湿度を20±1%、25±1%、30±1%、35±1%、及び40±1%に維持した状態で実施した。そして、各相対湿度で製造した繊維集合体の平均繊維径を計測した。この結果は図6に示す通りであった。この図6から明らかなように、平均繊維径が0.3μmの繊維集合体を製造したい場合には、相対湿度を20.9%とし、平均繊維径が0.4μmの繊維集合体を製造したい場合には、相対湿度を37.3%にすれば良いことがわかる。なお、本発明における「平均繊維径」は、繊維集合体の表面における電子顕微鏡写真を撮影し、電子顕微鏡写真から繊維径(50本以上)を計測し、算術平均した値を意味し、繊維本数が50本に満たない場合には、2枚以上の電子顕微鏡写真を撮影し、50本以上の繊維径を計測して算術平均値を算出する。
また、紡糸原液の溶媒が、水への溶解性が100g/100ml以上の主溶媒の場合、所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持するのが好ましい。これは前述の通り、主溶媒の水への溶解性が100g/100ml以上であり、相対湿度が変化することで繊維径が変化してしまうため、水分の影響を一定とし、繊維径の揃った繊維集合体を製造できるようにするためである。このことは、前述の図6の結果から、所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持すれば、ほぼ同じ平均繊維径とすることができることが明らかである。図6の結果からも明らかなように、この相対湿度の変動が小さければ小さい程、水分の影響を一定とすることができるため、所定相対湿度の±1.5%以内とするのが好ましく、±1%以内とするのがより好ましい。このように所定相対湿度に保つには、例えば、市販の温湿度調節装置を用いて調湿した気体を第1紡糸容器6aへ一定風量で供給したり、一定圧力に加圧した気体を第1紡糸容器6aへ一定風量で供給することで達成することができる。
図1においては、第1紡糸容器6aを用いることによって、第1紡糸空間5a(つまり、第1ノズル2aと捕集体3との間の空間)を取り囲み、閉鎖的空間としているため、所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持した状態で第1静電紡糸を実施しやすい。
なお、第1紡糸容器6aへは、所定の相対湿度の気体を一定風量で供給するのが好ましい。風量に変動があると、風量の変動によって溶媒の揮発速度に差が生じ、結果として繊維径のバラツキの大きい繊維集合体となる傾向があるためである。この「一定風量」とは、風量の変化が±10%以内であることをいい、風量の変化が小さければ小さい程、繊維径のバラツキの小さい繊維集合体とすることができるため、風量の変化は±8%以内であるのが好ましく、±5%以内であるのがより好ましい。このような一定風量の所定の相対湿度の気体を供給できる方法として、例えば、流量計を通して供給する方法や、一定圧力に減圧された圧縮空気を供給する方法などを挙げることができる。なお、所定相対湿度の気体の供給個所は1ヶ所である必要はなく、2ヶ所以上から供給することができる。また、第1紡糸容器6a内に複数のノズルがある場合には、個々のノズル毎に供給することもできる。
なお、所定相対湿度の気体の供給方向は、特に限定するものではないが、図1のように、繊維の飛翔方向と所定の相対湿度の気体の供給方向とが一致するように供給すると、繊維の飛翔を妨げないため好ましい供給方向である。なお、図1において、第1ノズル2aに対して直角方向から供給しても良いし、捕集体3側から第1ノズル2aの方向へ供給しても良い。
また、第1紡糸容器6aへの所定相対湿度の気体の供給量は、押し出される紡糸原液の量と樹脂濃度によって適宜決定することができる。つまり、蒸発する溶媒量を計算し、飽和蒸気に達する気体量よりも多い気体量を供給量とすれば良い。なお、供給する所定相対湿度の気体の種類は特に制限はないが、例えば、空気、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどを使用できる。経済的見地からは空気が好ましい。
なお、第1気体供給装置7aとしては、例えば、プロペラファン、シロッコファン、エアコンプレッサー、或いは温湿度調整機能を備えた送風機などを使用することができる。
図1のような第1紡糸容器6aは第1ノズル2aを収納できるものであれば良く、特に限定するものではない。
図1においては第1紡糸容器6a内の気体を第1排気口60aを通じて排出しながら第1静電紡糸を行うことができる。これは、第1静電紡糸を行っていると、第1紡糸容器6a内における溶媒の蒸気濃度がどんどん高くなり、溶媒の蒸発が抑制され、繊維径が細くなり、繊維径のバラツキが発生しやすい傾向があり、最悪の場合には、溶媒の蒸気濃度が飽和に達してしまい、第1静電紡糸を行うことが困難となるが、気体を排出できることによって第1紡糸空間5aにおける溶媒の蒸気濃度も一定として、繊維径の揃った、所望の繊維径の繊維からなる第1繊維集合体を、安定して製造することができる。なお、図1とは異なり、第1排気口60aに排気装置(例えば、ファン)を設置し、強制的に排気しても良い。排気装置を設置した場合には、排気量は供給量と同じとし、第1紡糸空間5aにおける圧力を一定とし、溶媒の蒸発速度を一定として、繊維径のバラツキが生じないようにするのが好ましい。
以上のように第1静電紡糸部E1において第1静電紡糸を行うのと平行して、第2静電紡糸部E2において第2静電紡糸を行う。この第2静電紡糸においては、第1静電紡糸を行う際に第1気体供給装置7aから供給する気体とは異なる相対湿度の気体を第2気体供給装置7bから供給し、第2紡糸空間5bを第1紡糸空間5aとは異なる相対湿度とすることによって、第1繊維集合体とは異なる平均繊維径をもつ第2繊維集合体を、第1繊維集合体上に形成すること以外は、第1静電紡糸と全く同様である。
つまり、第1ノズル2aへ供給される紡糸原液と同じ紡糸原液は紡糸原液供給装置1によって、第2ノズル2bへ供給される。この供給された紡糸原液は第2ノズル2bから押し出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加された第2ノズル2bとの間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔し、この飛翔した繊維は捕集体3上の第1繊維集合体上に集積して第2繊維集合体を形成し、積層繊維集合体となる。
図1の製造装置においては、紡糸原液供給装置1は第1ノズル2a及び第2ノズル2bへ同じ紡糸原液を供給すれば良いため、1つの紡糸原液供給装置1だけで良い。そのため、設備が簡素になる。しかしながら、2つの紡糸原液供給装置を使用することもできる。
なお、紡糸原液の第2ノズル2bからの押し出し方向は、重力と平行な方向であるが、平行である必要はないし、第1ノズル2aからの押し出し方向と同じである必要もない。第2ノズル2bの直径や材質は第1ノズル2aと同様であることができるが、第1ノズル2aと同じであっても違っていても良い。
また、電界の形成方法、電界強度、印加電圧、極性、印加方法なども第1静電紡糸と同様であることができる。図1においては、電圧印加装置4によって第1ノズル2a及び第2ノズル2bへ同じ電圧を印加しているため、1つの電圧印加装置4を備えており、簡素な設備である。また、電圧印加装置4が1つであると、相対湿度だけを変えることによって、繊維径を変えることができるため、繊維径の制御が容易である。しかしながら、2つの電圧印加装置を使用することもできる。
図1においては、コンベアからなる捕集体3を1つだけ設けているが、第1ノズル2aから吐出されて形成する繊維を捕集できる第1捕集体と、第2ノズル2bから吐出されて形成する繊維を捕集できる第2捕集体とを使用し、別個に繊維集合体を製造した後に積層して積層繊維集合体を製造することもできる。この場合、第1捕集体及び第2捕集体は前述の捕集体3と同様のものであることができ、第1捕集体と第2捕集体とは同じであっても異なっていても良い。
第2静電紡糸を実施する場合にも、第2紡糸容器6bへ所定の相対湿度の気体(第1紡糸容器6aへ供給する気体とは異なる相対湿度の気体)を第2気体供給装置7bを用いて、一定風量で供給することによって、第2紡糸空間5bを所定相対湿度とした状態で実施することにより、所望平均繊維径の第2繊維集合体を形成できる。この風量は第1気体供給装置7aからの供給量と同じであっても異なっていても良いが、同じであるのが好ましい。
なお、紡糸原液の溶媒が主溶媒の場合には、第2紡糸空間5bを、相対湿度40%以下の所定の相対湿度、かつ前記所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持した状態で実施するのが好ましい。そのため、第1静電紡糸の場合と同様に、第2紡糸容器6bを用い、市販の温湿度調節装置を用いて調湿した気体を第2紡糸容器6bへ一定風量で供給したり、一定圧力に加圧した気体を第2紡糸容器6bへ一定風量で供給するのが好ましい。なお、第2気体供給装置7bから供給する気体の相対湿度をどの程度とするかは、第1静電紡糸の場合と全く同様に、実験的に決定することができる。
また、第2紡糸容器6bへも、所定の相対湿度の気体を一定風量で供給するために、流量計を通して供給したり、一定圧力に減圧された圧縮空気を供給するのが好ましい。所定相対湿度の気体の供給個所は1ヶ所である必要はなく、2ヶ所以上から供給することができる。また、第2紡糸容器6b内に複数のノズルがある場合には、個々のノズル毎に供給することもできる。所定相対湿度の気体の供給方向も特に限定するものではないが、図1のように、繊維の飛翔方向と所定の相対湿度の気体の供給方向とが一致するように供給するのが好ましいが、第2ノズル2bに対して直角方向から供給しても良いし、捕集体3側から第2ノズル2bの方向へ供給しても良い。なお、所定相対湿度の気体の供給方向は第1静電紡糸部E1と同じであっても良いし、異なっていても良い。
また、第2紡糸容器6bへの所定相対湿度の気体の供給量も、押し出される紡糸原液の量と樹脂濃度によって適宜決定することができ、気体としては、例えば、空気、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどを使用でき、経済的見地からは空気が好ましい。なお、第2紡糸容器6bへ供給する気体は第1紡糸容器6aへ供給する気体と同じであっても違っていても良い。
なお、第2気体供給装置7bも第1気体供給装置7aと同様のものであることができ、第1気体供給装置7aと同じであっても違っていても良い。
図1においては第2紡糸容器6b内の気体を第2排気口60bを通じて排出しながら第2静電紡糸を行うことができるが、図1とは異なり、第2排気口60bに排気装置(例えば、ファン)を設置し、強制的に排気しても良い。排気装置を設置した場合には、排気量は供給量と同じとし、第2紡糸空間5bにおける圧力を一定とし、溶媒の蒸発速度を一定として、繊維径のバラツキが生じないようにするのが好ましい。第2紡糸容器6b内の気体の排気方法は第1静電紡糸部E1と同じであっても異なっていても良い。
このようにして製造した積層繊維集積体は巻取り装置8によってロール状に巻き取られる。その後、積層繊維集積体はそのまま、或いは各種用途に適合させるための後処理が施される。
図1の製造装置は上述のように、第1紡糸容器6a及び第2紡糸容器6bを使用して閉鎖的空間を形成する態様であるが、紡糸空間を所定相対湿度にすることができる限り、図2(概念的模式断面)に示すような開放的な状態で実施することもできる。つまり、図2は図1のような第1紡糸容器6a及び第2紡糸容器6bを備えておらず、第1静電紡糸紡糸部E1においては、第1気体供給装置7aからの所定相対湿度の気体を第1緩衝箱9aを通して供給することにより、第1紡糸空間5aを所定相対湿度に維持し、第2静電紡糸紡糸部E2においては、第2気体供給装置7bからの所定相対湿度の気体を第2緩衝箱9bを通して供給することにより、第2紡糸空間5bを所定相対湿度に維持している。図2における製造装置は、第1紡糸容器6a及び第2紡糸容器6bを備えていないこと、及び第1気体供給装置7a及び第2気体供給装置7bからの所定相対湿度の気体を、それぞれ第1緩衝箱9a、第2緩衝箱9bを通して供給していること以外は、図1と全く同様であることができる。なお、第1緩衝箱9a及び第2緩衝箱9bは気体が局所的に風量が変わることがないように、つまり第1紡糸空間5a及び第2紡糸空間5bにおける風量が一定であるように調整するためのものであって、例えば、気体の供給口に、金属又は樹脂製のパンチング(穴開き)プレート、布、不織布などの多孔性材料を備えた箱から構成することができる。なお、図2においては第1静電紡糸部E1と第2静電紡糸部E2のいずれも開放的な状態にあるが、いずれか一方を図1と同様の閉鎖的な状態で行っても良い。
図2の製造装置は第1静電紡糸部E1と第2静電紡糸部E2において、それぞれ第1緩衝箱9aと第1ノズル2a、第2緩衝箱9bと第2ノズル2bとがそれぞれ離間した態様であるが、図3(概念的模式断面)に示すように、それぞれ第1緩衝箱9aと第1ノズル2a、第2緩衝箱9bと第2ノズル2bとがそれぞれ一体化した状態にあっても良い。このように一体化した状態にあると、それぞれ第1紡糸空間5a及び第2紡糸空間5bを所定の相対湿度に維持しやすい。なお、図3の製造装置は上述の点を除いて図2の製造装置と全く同様であることができる。図3においては第1静電紡糸部E1と第2静電紡糸部E2のいずれも緩衝箱とノズルとが一体化した状態にあるが、いずれか一方を図1と同様の閉鎖的な状態で行っても良いし、図2と同様に緩衝箱とノズルとが離間した状態で行っても良い。
図3の製造装置は第1静電紡糸部E1と第2静電紡糸部E2において、それぞれ第1緩衝箱9aと第1ノズル2a、第2緩衝箱9bと第2ノズル2bとが一体化した、開放的な状態にあるが、図4(概念的模式断面)に示すように、第1緩衝箱9aと第1ノズル2a、第2緩衝箱9bと第2ノズル2bとが一体化した、閉鎖的な状態にあっても良い。このように閉鎖的な状態にあると、それぞれ第1紡糸空間5a及び第2紡糸空間5bを所定の相対湿度に更に維持しやすい。図4の態様においては、閉鎖的な状態とするために、第1緩衝箱9a及び第2緩衝箱9bから捕集体3方向へ延びる第1スカート90a及び第2スカート90bをそれぞれ備えている。なお、図4の製造装置は上述の点を除いて図3の製造装置と全く同様であることができる。図4においては第1静電紡糸部E1と第2静電紡糸部E2のいずれも緩衝箱とノズルとが一体化した、閉鎖的な状態にあるが、いずれか一方を図1と同様の閉鎖的な状態で行っても良いし、図2と同様に緩衝箱とノズルとが離間した状態で行っても良いし、図3と同様に緩衝箱とノズルとが一体化した開放的な状態で行っても良い。
以上図1〜図4をもとに説明したように、同じ紡糸原液を用いるとともに、紡糸空間を互いに異なる相対湿度に設定しているため、静電紡糸法により紡糸した繊維を直接集積して製造した第1繊維集合体層(以下、「A層」ということがある)と、静電紡糸法により紡糸した第1繊維集合体層(A層)と同じ樹脂からなる繊維を直接集積して製造した、第1繊維集合体層(A層)とは平均繊維径の異なる第2繊維集合体層(以下、「B層」ということがある)とを備えた、2層の積層繊維集合体を製造することができる。この製造方法によれば、2種類の紡糸原液を調製する必要がなく、別の種類の積層繊維集合体を製造する際に、紡糸原液供給装置、紡糸原液供給装置からノズルまでの配管、及びノズルの洗浄や、交換する必要がないため、簡素な設備で簡潔に、平均繊維径の異なる積層繊維集合体を製造することができる。
しかしながら、本発明は2層の積層繊維集合体の製造方法に限定されない。つまり、上述のような2層の積層繊維集合体を備えた3層以上の積層繊維集合体を製造することができる。より具体的には、A層−B層−A層のようにA層又はB層で他方の繊維集合体層を挟み込んだ3層の積層繊維集合体、A層−A層−A層−B層のように2層以上のA層又はB層を連続的に積層し、1層のB層又はA層を積層した4層以上の積層繊維集合体、A層−A層−B層−A層のように1層のB層又はA層を中間に積層した4層以上の積層繊維集合体、A層−A層−B層−B層のように2層以上のA層と2層以上のB層を連続して積層した4層以上の積層繊維集合体、A層−B層−A層−B層のように2層以上のA層と2層以上のB層を交互に積層した4層以上の積層繊維集合体、A層−B層−B層−A層のように2層以上のB層又はA層を中間に積層した4層以上の積層繊維集合体であっても製造することができる。このような3層以上の積層繊維集合体は前述のような製造装置へ再度供給することによって製造することができる。また、積層繊維集合体の積層数に応じたノズル(静電紡糸部)を通過させて製造することもできる。この場合であっても、紡糸原液は1種類調製すれば良く、電圧印加装置も1台あれば良いため、従来よりも簡素な設備で簡潔に、積層繊維集合体を製造することができる。
本発明の製造方法は、第1繊維集合体層(A層)と第2繊維集合体層(B層)のみからなる積層繊維集合体の製造方法に限定されず、第1繊維集合体層(A層)及び第2繊維集合体層(B層)を構成する繊維と同じ樹脂からなる繊維から構成されており、かつA層、B層のいずれとも平均繊維径の異なる繊維集合体層(以下、「C層」ということがある)を、1層又は2層以上を規則的に又は不規則に備えた積層繊維集合体を製造することができる。例えば、A層−B層−C層の3層積層繊維集合体、A層−A層−B層−C層のように、A層、B層、C層のうちの少なくとも1つの層を2層以上備えた積層繊維集合体、A層−B層−C層−A層のように、A層、B層、C層のうちの1層で他の2層を挟み込んだ積層繊維集合体等を製造することができる。なお、順に平均繊維径が同じ又は大きくなるように、又は小さくなるように積層するのが好ましい。このように、本発明においては、第1繊維集合体層(A層)及び第2繊維集合体層(B層)を構成する繊維と同じ樹脂からなる繊維から構成されており、かつ互いに平均繊維径の異なる繊維集合体層3層以上からなる積層繊維集合体を製造することができる。このような3層以上の積層繊維集合体は、積層繊維集合体の積層数に応じたノズル(静電紡糸部)を通過させて製造することができる。この場合であっても、紡糸原液は1種類調製すれば良く、電圧印加装置も1台あれば良いため、従来よりも簡素な設備で簡潔に、積層繊維集合体を製造することができる。なお、同じ層を形成する場合には、再度同じノズル(静電紡糸部)を通過させて形成しても良い。
更に、本発明の製造方法は、第1繊維集合体層(A層)及び第2繊維集合体層(B層)を構成する繊維と異なる樹脂からなる繊維から構成されている繊維集合体層(以下、「D層」ということがある)を、1層又は2層以上を、規則的に又は不規則に備えた積層繊維集合体を製造することができる。このD層はA層又はB層と平均繊維径が同じであっても良いし、違っていても良い。また、D層は静電紡糸法により製造した繊維集合体であっても良いし、静電紡糸法以外の方法により製造した繊維集合体であっても良い。
D層を静電紡糸法により製造すると、A層又はB層と比較的近い平均繊維径の繊維集合体層を備えた積層繊維集合体を製造することができるため、各種性能(例えば、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など)が高く、長期にわたって持続できる積層繊維集合体を製造することができる。例えば、図6からわかるように、相対湿度を変化させることにより、平均繊維径は0.29〜0.41μm程度の範囲で変化するため、A層とB層との平均繊維径の差は最大で0.12μm程度であるが、A層又はB層と異なる樹脂を用いることによって、0.29μmよりも細いか、0.41μmよりも太い平均繊維径の繊維集合体を製造することができるため、各種性能が高く、長期にわたって維持できる積層繊維集合体を製造することができる。このようなD層はA層又はB層を製造するために使用する紡糸原液とは異なる紡糸原液を用い、静電紡糸法により繊維を紡糸し、直接集積して製造することができる。ここで、「異なる紡糸原液」とは、完全に同じではないことを意味し、例えば、組成、分子量、又は濃度の少なくとも1つが異なる紡糸原液を意味する。なお、D層はA層又はB層上にD層を直接形成して積層繊維集合体を製造しても良いし、D層の上にA層又はB層を直接形成して積層繊維集合体を製造しても良いし、D層を別途製造した後に、A層又はB層に積層して一体化して積層繊維集合体を製造しても良い。このように異なる紡糸原液を用いた場合であっても、A層及びB層を製造するために、同じ紡糸原液を使用しているため、従来よりも簡素な設備で簡潔に平均繊維径の異なる積層繊維集合体を製造することができる。
また、D層を静電紡糸法以外の方法により製造すると、積層繊維集合体の強度向上など、各種性能を付与した積層繊維集合体を製造することができる。このようなD層としては、例えば、カード法やエアレイ法の乾式不織布、湿式不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、織物、或いは編物、などを挙げることができる。このようなD層を備える積層繊維集合体は、常法により製造したD層を捕集体上に載置して搬送しながら、D層上にA層又はB層を形成して製造することができる。或いは、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布の場合には、A層又はB層を形成した後に、A層又はB層上に、スパンボンド不織布又はメルトブロー不織布を直接形成して製造することもできる。このように静電紡糸法以外の方法により製造したD層を用いた場合であっても、A層及びB層を製造するために、同じ紡糸原液を使用しているため、従来よりも簡素な設備で簡潔に平均繊維径の異なる積層繊維集合体を製造することができる。
D層を備えた積層繊維集合体の具体例としては、A層−B層−D層の3層積層繊維集合体、A層−A層−B層−D層のように、A層、B層、D層のうちの少なくとも1つの層を2層以上備えた積層繊維集合体、D層−A層−B層−D層のように、A層、B層、D層のうちの1層で他の2層を挟み込んだ積層繊維集合体、等を挙げることができる。なお、順に平均繊維径が同じ又は大きくなるように、又は小さくなるように積層するのが好ましい。また、C層を1層以上更に備えていても良いし、D層は1種類である必要はなく、2種類以上のD層を備えていても良い。
以上のようにして製造できる積層繊維集合体は、平均繊維径の異なる繊維集合体層を備えていることによって、濾過性能、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能を長期間にわたって維持できるため、例えば、気体又は液体の濾過材用途、電池用セパレータ用途、燃料電池用電解質支持体用途、傷当て材用途、等に好適に使用することができる。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
重量平均分子量42万のポリアクリロニトリルを、N,N−ジメチルホルムアミド(主溶媒)に濃度10mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:930mPa・s)を用意した。
また、図4に示すような製造装置を用意した。第1静電紡糸部E1と第2静電紡糸部E2は次の通りであった。
(第1静電紡糸部E1)
シリンジ(紡糸原液供給装置1)にポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、更に前記チューブの先端に、内径が0.4mmのステンレス製第1ノズル2aを取り付け、更に第1ノズル2aを第1緩衝箱9aに取り付けた。この第1緩衝箱9aは3mm厚のアクリル板からなる一辺の長さが10cmの立方体からなる箱で、第1ノズル取り付け面(紡糸空間5aへの気体供給面)は、直径5.5mmの穴を60°の角度で、ピッチ10mmで開けた穴開きプレートで構成されており、しかもこの第1ノズル取り付け面が閉鎖的空間となるように、第1ノズル取り付け面からの長さが40mmとなるように、アクリル板からなるスカートを取り付けたものを使用した。なお、第1ノズル2aは前記第1ノズル取り付け面の略中央に取り付けた。
次いで、前記第1ノズル2aに高電圧電源(電圧印加装置4)を接続した。更に、前記第1ノズル2aから鉛直下方に10cm離れた位置に、表面に導電フッ素加工を施したステンレス製ベルトを備えたコンベア(捕集体3、アース済み)を設置した。
また、第1緩衝箱9aの第1ノズル取り付け面に対向する面の中央部に第1気体供給装置7aを接続した。この第1気体供給装置7aは、エアコンプレッサー、中空糸膜式除湿装置、バルブ付流量計及びバブラーからなり、エアコンプレッサーのエアを中空糸膜式除湿装置に通した後、2分岐させ、それぞれをバルブ付流量計へ供給し、一方のエアは保温した水中にバブリング(バブリングエア)させ、もう一方のエア(除湿エア)はそのままの状態で、これらエアを再び混合し、調湿エアを第1緩衝箱9aへ供給できるものである。更に、第1緩衝箱9a内に湿度センサーを設置した。なお、前記調湿エアは第1緩衝箱9aの上方から供給され、第1緩衝箱9aによって均一な流れとなり、第1紡糸空間5aにおける相対湿度と風量とが一定になる。
(第2静電紡糸部E2)
第1静電紡糸部E1と共用する紡糸原液供給装置1、コンベア(捕集体3)、及び電圧印加装置4と、第1静電紡糸部E1と同様の第2ノズル2b、第2気体供給装置7b、及び第2緩衝箱9bからなる。
次いで、前記紡糸原液を前記シリンジ(紡糸原液供給装置1)に入れ、マイクロフィーダーを用いて、第1ノズル2a及び第2ノズル2bから紡糸原液を鉛直下方へ同量押し出す(いずれの押し出し量も2.5g/時間)とともに、コンベア3を一定速度(表面速度:3cm/分)で移動(図面上、左から右方向へ移動)させながら、電圧印加装置4から第1ノズル2a及び第2ノズル2bそれぞれに、+16kVの電圧を印加し、押し出した紡糸原液に電界を作用させてそれぞれ繊維化し、前記コンベア3上に集積させて、それぞれ第1繊維集合体層、第2繊維集合体層を形成し、積層繊維集合体を製造した。この積層繊維集合体の第1繊維集合体層表面における平均繊維径は0.41μmで、第2繊維集合体層表面における平均繊維径は0.29μmであった。
なお、積層繊維集合体を製造する際に、第1気体供給装置7a及び第2気体供給装置7bにおいて、それぞれの除湿エアとバブリングエアの流量を調節することにより、第1気体供給装置7aからは相対湿度40%に設定した調湿エアを、第1緩衝箱9aへ20L/分で供給(風量の変化率:±1%以下)し、第1紡糸空間5aの相対湿度を39.3〜40.9%に維持する一方で、第2気体供給装置7bからは相対湿度20%に設定した調湿エアを、第2緩衝箱9bへ20L/分で供給(風量の変化率:±1%以下)し、第2紡糸空間5bの相対湿度を19.6〜20.5%に維持した。また、第1繊維集合体及び第2繊維集合体における繊維の分散状態を均一とするために、前記第1緩衝箱9a及び第2緩衝箱9bをコンベア3の移動方向と直角方向に一定速度(移動速度:10cm/秒)で、それぞれ往復揺動させた。
このように、1種類の紡糸原液を用い、相対湿度を変えるだけで平均繊維径の異なる繊維集合体を備えた積層繊維集合体を製造できるため、簡潔に積層繊維集合体を製造することができる方法であった。
積層繊維集合体製造装置の概念的模式断面図 別の積層繊維集合体製造装置の概念的模式断面図 更に別の積層繊維集合体製造装置の概念的模式断面図 更に別の積層繊維集合体製造装置の概念的模式断面図 繊維集合体製造装置の概念的模式断面図 相対湿度と平均繊維径との関係を表すグラフ
符号の説明
1 紡糸原液供給装置
2 ノズル
2a 第1ノズル
2b 第2ノズル
3 捕集体
4 電圧印加装置
5 紡糸空間
5a 第1紡糸空間
5b 第2紡糸空間
6 紡糸容器
6a 第1紡糸容器
6b 第2紡糸容器
60a 第1排気口
60b 第2排気口
7 気体供給装置
7a 第1気体供給装置
7b 第2気体供給装置
8 巻取り装置
9a 第1緩衝箱
9b 第2緩衝箱
90a 第1スカート
90b 第2スカート
11 アルミ板(捕集体)
E1 第1静電紡糸部
E2 第2静電紡糸部

Claims (4)

  1. 静電紡糸法により紡糸した繊維を直接集積して製造した繊維集合体層を2層以上備えており、同じ樹脂からなる繊維から構成されており、かつ平均繊維径が互いに異なる、という関係を満たす2層の繊維集合体層を備えた積層繊維集合体の製造方法であり、前記2層の繊維集合体層を、同じ紡糸原液を用いるとともに、紡糸空間を互いに異なる相対湿度に設定して製造することを特徴とする、積層繊維集合体の製造方法。
  2. 前記関係を満たす2層の繊維集合体層を製造するために使用する紡糸原液の溶媒として、水への溶解性が100g/100ml以上のものを主体として用いるとともに、紡糸空間を相対湿度40%以下の所定の相対湿度、かつ前記所定の相対湿度の±2%の相対湿度に維持した状態で、それぞれの繊維集合体層を製造することを特徴とする、請求項1記載の積層繊維集合体の製造方法。
  3. 前記紡糸原液の主体とする溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンの中から選ばれる溶媒であることを特徴とする、請求項2記載の積層繊維集合体の製造方法。
  4. 前記関係を満たす2層の繊維集合体層以外の繊維集合体層を製造するために、前記関係を満たす2層の繊維集合体層を製造するために使用する紡糸原液とは異なる紡糸原液を用いて、静電紡糸法により繊維を紡糸し、直接集積して繊維集合体層を製造することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の積層繊維集合体の製造方法。
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