JP2005171220A - 塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシール - Google Patents

塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシール Download PDF

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Abstract


【課題】 ある一定範囲のブチラール化度を有するブチラール樹脂に特定種類の可塑剤を混合させたところ、その表面に凹凸形状が発現することを見い出し、この特性を利用してデザイン性に優れた絵具及びシールの開発に成功したものである。
【解決手段】 本発明塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシールは、(1)ブチラール化度50〜85mol%のポリビニルブチラールを主成分とし、(2)該ポリビニルブチラールの分子量が平均重合度表示で200〜2500の範囲であり、(3)エステル結合を有する可塑剤を、該ポリビニルブチラール100重量部に対し25〜100重量部の範囲で混合し、(4)該ポリビニルブチラールに可塑剤を加えたものの総重量が5wt%〜20wt%の範囲となるように溶剤を混合させて成ることを特徴とする。
【選択図】 図5

Description

本発明は、ポリビニルブチラール樹脂溶液の溶剤が蒸発し塗膜を形成する過程において塗膜表面に凹凸模様が出現する現象を利用して、デザイン性に優れた表現を可能とする絵具及びシールに関する。
従来、ガラス、アクリル、塩ビ板、金属板、陶器等に直接着色できる絵具としてイラステンド(商標原光化学工業(株))や、シール上に絵具で描いてそれをガラス上に貼ってステンドグラス様にする絵具としてグラスデコ(商標ヤマト株式会社)等が存在する。
又、商品化はされていないが、ステンドグラス用の絵具として、アクリル酸エステル系樹脂エマルジョンを主原料として温水中に浸漬しても顔料が溶出しない絵具(特許文献1)の提案等がある。
しかし、これら絵具は、樹脂が硬化して塗膜を形成しても、表面が均一でほぼ平滑な面となり、小学生や幼児向けには面白さはあるが、一般向けには重厚感、肉筆感に乏しいものであった。
又、肉厚に塗ることはできるが、一様には塗れずに色むらが起き易く、その色むらも表面は平滑なだけなので、表現力に乏しい等の欠点を残していた。
特開平6−172681号公報
そこで、本発明者らは、これについて鋭意研究の結果、ある一定範囲のブチラール化度を有するブチラール樹脂に特定種類の可塑剤を混合させたところ、その表面に凹凸形状が発現することを見い出し、この特性を利用してデザイン性に優れた絵具及びシールの開発に成功したものである。
上記課題を解決するため、請求項1記載の塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシールは、(1)ブチラール化度50〜85mol%のポリビニルブチラールを主成分とし、(2)該ポリビニルブチラールの分子量が平均重合度表示で200〜2500の範囲であり、(3)エステル結合を有する可塑剤を、該ポリビニルブチラール100重量部に対し25〜100重量部の範囲で混合し、(4)該ポリビニルブチラールに可塑剤を加えたものの総重量が5wt%〜20wt%の範囲となるように溶剤を混合させて成ることを特徴とする。
請求項2記載の発明は、ブチラール化度を60〜75mol%としたことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、平均重合度を600〜2000としたことを特徴とする。
請求項4記載の発明は、可塑剤をトリエチレングリコール系可塑剤としたことを特徴とする。
請求項5記載の発明は、溶剤をアルコール系溶剤としたことを特徴とする。
本発明絵具及びシールは、ステンドグラス等のガラス類、プラスチック、金属、陶器等の表面に透光性に優れた彩色の塗膜を形成でき、その際、凹凸形状を発現することで表面にディンプル状又はクレープ状の皺模様が表現され、重厚感や肉筆感が表現でき、表現力に富んだ、デザイン性に優れた表現が可能となる。
その際、ブチラール樹脂の分子量や可塑剤の選択及び溶剤の種類等により、凹凸形状の大小の選択、光沢の有無等の変化をもたらすことができ、その結果、凹凸形状の大きさや光沢、艶等を調整でき、微妙な色調や質感の変化を表現することが可能となる。
又、被膜の形成でシールによる貼着も可能であり、ブチラール樹脂を主成分とするシールは、疎水性部と親水性部が混在するので、対象となる基板との間で適度な密着を保持し、且つ、強い接着でないので剥離性も確保でき、密着性と剥離性のバランスを兼備させることができる。
更に、塗膜形成の過程で蒸発する溶剤にアルコール類を用いることで、シックハウス症候群等の恐れのない、環境、安全面にも配慮した絵具及びシールとすることが可能となる。
本発明絵具及びシールの主成分となる樹脂は、ブチラール樹脂を対象とする。
該ブチラール樹脂は、ポリビニルブチラールを指し、下記の如き化学構造式を有する樹脂である。
X=酢酸ビニル成分 Y=ビニルアルコール成分 Z=ビニルブチラール成分
即ち、ポリビニルブチラールは、親水性部となるビニルアルコール成分と、疎水性部となるビニルブチラール成分と、その中間の性質を有する酢酸ビニル成分との共重合体を形成するものである。そのなかで、親水性部と疎水性部との割合を定めたものがブチラール化度であるが、本発明者らは、後に詳述する如く、ある一定範囲のブチラール化度を有するブチラール樹脂に特定種類の可塑剤を混合させたところ、その表面に凹凸形状が発現することを見い出したものである。
そこで、先ず、そのブチラール化度と凹凸形状発現との関係を調べようと下記の試験を行った。
その結果は、表1の通りであった。
表1によって、数平均分子量及びPVB重量割合等の条件に違いはあるが、ブチラール化度50〜85mol%の範囲において、ブチラール樹脂に適正な凹凸形状の発現の可能性が見出されることが判明した。尚、表中トリエチレングリコール系可塑剤は、トリ(エチレングリコール)ビス(2−エチルヘキサノエート)をいう。
ついで、上記ブチラール化度80〜85mol%のブチラール樹脂にあって、凹凸形状の発現に対する分子量の影響を検討した。
後述する可塑剤の混入を一定割合とし、そのなかでブチラール樹脂の平均重合度とエタノール溶液濃度との関係を試験した。
その結果は、表2の通りであった。
この結果、エタノール溶液の濃度との関係もあるが、平均重合度700〜2400の間で凹凸形状の発現の可能性が認められ、特に平均重合度700〜2000付近に優れた凹凸形状の発現が見られた。
次に、該ブチラール樹脂に対して、可塑剤の投入を試みた。即ち、ブチラール樹脂は、前述の通り、親水性部と疎水性部との相反する官能基の共存する樹脂であるが、その樹脂に対して、親水性部又は疎水性部のいずれか一方に偏在的に作用する可塑剤、特に親水性部に作用する可塑剤として、エステル結合を有する可塑剤に着目した。その親水性部に可塑剤を一方的に作用させることで、ブチラール樹脂の軟化を偏在化させようと試みたものである。
該エステル結合を有する可塑剤として、トリエチレングリコール系を代表させて、凹凸形状出現の状況試験を行った。
その結果は、表3に示す通りであった。
先ず、ブチラール樹脂にブチラール化度79mol%のものを選択し、それにトリ(エチレングリコール)ビス(2−エチルヘキサノエート)を加えたエタノール溶液を調製し、ブチラール樹脂に対する可塑剤の混合比を変化させて、凹凸形状の出現の有無を観察した。
その結果、ブチラール樹脂に対し、可塑剤は90:10以下では凹凸発現が困難で、逆に50:50以上では可塑化が過剰で凹凸が弱かった。しかし、80:20〜70:30の範囲では大きな形状の発現が見られ、又、60:40では、小さな凹凸がたくさん出現し、優れた凹凸形状の発現が確認された。
次いで、上記トリエチレングリコール系可塑剤に有効性が確認されたので、可塑剤の種類を広く検討すべく、下記の試験を行った。
可塑剤の種類から、フタル酸系、アジピン酸系、ひまし油を選択し、下記の試験を行った。
この結果、大きな凹凸で光沢の強いトリエチレングリコール系の他、フタル酸系及びアジピン酸系には大きな凹凸で光沢の少ないマット調のものが、ひまし油には小さな凹凸形状で光沢のあるものが見られ、殆どのエステル結合を有する可塑剤に優れた凹凸形状の発現が認められた。
従って、エステル結合を有する可塑剤の中から種類を選択することで、デザインの趣向に適合させることが可能となる。
更に、上記ブチラール樹脂の平均重合度と種類を異にした可塑剤における凹凸形状の関係を調べようと試験した。
それが表5である。
この結果、トリエチレングリコール系可塑剤を用いれば、低重合度では小さな凹凸が、高重合度では大きな凹凸が得られた。比較的安価なひまし油を用いれば、低重合度では小さな凹凸が、高重合度では大きな凹凸が得られた。但し、高重合度の場合、トリエチレングリコール系可塑剤は光沢があるのに対し、ひまし油は光沢がないので、目的に合わせて光沢の有無を選択することができる。
更に、上記可塑剤を混入させたブチラール樹脂に対し、これを溶解すべき溶剤について、その凹凸形状発現への影響を試験した。
その結果が表6の通りである。
この結果、平均重合度の低い700では、小さな凹凸がエタノール溶液では弱く、ミックスエタノール及びイソピロピルアルコールでは強く現れ、一方、平均重合度の高い2000では、エタノールでは小さな凹凸が強く、ミックスエタノール及びイソピロピルアルコールでは大きな凹凸が強く発現した。
それぞれ、溶剤の種類及びブチラール樹脂の重合度によって、凹凸形状の発現の形態に変化が生じることが判明し、従って、溶剤の種類及びブチラール樹脂の重合度の高低を選択することによって、異なる形態の凹凸形状を得ることが可能となる。
平均重合度700のポリビニルブチラール(PVB)に可塑剤としてトリエチレングリコール系可塑剤であるトリ(エチレングリコール) ビス(2-エチルヘキサノエート)を70:30wt%の比率で混合し、エタノール溶剤で15wt%溶液とし、これに顔料カーボンブラック4wt%を添加して、黒色絵具を調製した。
該黒色絵具をガラス基板上に塗布し、乾燥を待った。
本発明絵具の凹凸形状は、目視できる大きさで、デザインの基調に変化と趣向を加えるものであるが、その物理的形態を観察すべく、約100倍の211万画素のCCDカメラにて撮影した。
それを倍率100倍にして拡大写真としたものが図3であり、この写真によれば、直径100μm〜300μm程度の周縁に凸状の山部が、その中に凹状の谷部が形成された凹凸模様が観察された。
上記凹凸形状の発現に対して、これが如何なる機構で発現するのかは、未だ正確な理論を得ていないが、発明者らは以下の如きものと推考している。
ブチラール樹脂は、親水性部となるビニルアルコール成分と、疎水性部となるビニルブチラール成分と、その中間の性質を有する酢酸ビニル成分との共重合体を形成し、該ブチラール樹脂にエステル結合を有する可塑剤を混合させると、−COO−基を備えたエステル結合は、OH基を有するアルコール成分に対して親和性を発揮し、一方のビニルブチラール基は疎水性基で親和性を示さない。
従って、可塑剤の混入で樹脂の軟質化を試みても、全体が均一に軟質化するのでなく、親水性部を有する部分に多く作用し、疎水性部には少なく作用し、中間部分には中間的な作用を果たし、その結果軟質化の程度は部位によって偏ったものとなる。
そして、これに溶剤及び顔料、染料等が加えられて絵具が完成するが、これを塗布すると、その乾燥過程にあって、先ず混合成分中揮発温度の低い溶剤から蒸散が始まる(図4(1)(2)参照)。
その溶剤は、上記可塑剤の混入によって軟質化された樹脂部に偏りのあるブチラール樹脂にあって、軟質化部が多く存在する部位で溶解作用を発揮し、その他の部位ではそれ程でないという存在に偏りが生じる。
そして、当然により多く溶剤の存在する部位で溶剤の揮散が始めるが、揮散に伴う蒸気の潜熱吸収によって周辺部位の温度が低下し、その可塑化ブチラール樹脂のガラス転移温度付近に近づくと、相転移で低温溶質部が硬化し、優先的に固着が始まる。その固着部分は相対的に窪みとなって谷部形成が進行する(図4(3)参照)。
谷部の底が固着すると、溶剤の揮散とともに周辺の溶液は、谷部中心の底部から四方へと排出される方向にベクトルが働き、逆に周縁には、軟質化の少ない疎水性の部分が残されており、ここに樹脂分が集積される(図4(4)参照)。
こうして、谷部と周囲を覆う山部との間に壁が形成され、即ち、凹凸形状が形成される(図4(5)参照)。
上記実施例1で得られた如き本発明絵具を、例えば図5に示す如きステンドグラスを基板として描く場合を説明すると、先ず、ガラス基板上に構図を描き、そこに本発明絵具の例えば12色揃えを用意し、構図に沿って彩色を施す。
このとき、光沢の有無や、凹凸の大きさの選択は、溶剤の種類及びブチラール樹脂の重合度の高低及び可塑剤の種類によって調製したものから選ぶ。
そして、その乾燥を待つと、構図に沿って描かれた部位に上記機構で説明した如き経過を経て凹凸形状が発現し、それが重厚感、肉筆感等を誘起して、図5のような特異なデザイン特性のステンドグラスとなる。
(シール作成の実施例)
平均重合度2000のポリビニルブチラール(PVB)に可塑剤としてトリエチレングリコール系可塑剤であるトリ(エチレングリコール)ビス(2−エチルヘキサノエート)を70:30wt%の比率で混合し、ミックスエタノールIP溶剤で12wt%溶液とし、シール用下地溶液を調製した。
該シール用下地溶液30mLを直径120mmのガラス製シャーレの本体底部に均一に流延し、室温にて、一晩開放系で乾燥を待った。
塗膜の形成を確認後、カッターでシャーレの外周部に沿って切れ目を入れ、捲るようにして一部に隙間を作り、冷水を張った水浴にシャーレ全体を3分間浸漬させた。
水に漬け冷やされることで、硬くなり、ガラスに対する粘着力が低下する性質を利用して、シャーレの本体底部に形成した無色透明なシールを水中でゆっくりと慎重に剥離し、ポリプロピレン製のプラスチック板上に平らに延ばし、貼り付けた。
吸い取り紙でシール表面の水分を拭き取った後、顔料入りの本発明絵具を使ってシール表面に絵付けを行い、さらに必要に応じて、該シール用下地溶液を糊として用い、絵付けしたシール表面に装飾用品(星形ビーズ)のトッピングを行った。
さらに、応用例として、該シール用下地溶液または顔料入りの本発明絵具を調製するときに、アロマオイルなどの芳香剤を適量添加して、香り付きのシールが作成できた。
その結果、直径120mmで厚み約100μmの円形シールが完成した。これを乗用車のリアウィンドウに内側から貼付したところ、生地が透明で絵付部が半透明となり、且つ、凹凸面が太陽光や夜間のライトアップで輝いて見えるという装飾性に優れたものとなった。更に、耐候性や耐久性にも優れたものであった。
本発明絵具及びシールは、ステンドグラス用の絵具及びシールとして、又、ガラス、合成樹脂、合板、タイル、金属、陶器等の表面に描く絵具及びシールとして、更にネイルアート用の絵具及びシールとして広く応用が可能である。
本発明絵具で、直径1mm以下の小さな凹凸が発現した状態の正面写真。 本発明絵具で、直径2〜3mmの大きな凹凸が発現した状態の正面写真。 本発明絵具の凹凸形状を、約100倍の211万画素のCCDカメラで撮影し、更に倍率100倍にして拡大した正面写真。 本発明絵具を塗布後の乾燥にあって凹凸形状が形成される迄の過程を示す模式図であって、(1)が塗布直後の状態、(2)が揮発温度の低い溶剤から蒸散が始まった状態、(3)が相転移後の低温溶質部に固着が始まり、窪みとなって谷部が形成される状態、(4)は、周縁に軟質化の少ない疎水性の部分が残されて樹脂分が集積される状態、(5)は谷部と周囲を覆う山部との間に壁が形成され凹凸形状が完成する状態をそれぞれ示す。 本発明絵具をガラス基板に描いてステンドグラスとした正面写真。

Claims (5)

  1. (1)ブチラール化度50〜85mol%のポリビニルブチラールを主成分とし、
    (2)該ポリビニルブチラールの分子量が平均重合度表示で200〜2500の範囲であり、
    (3)エステル結合を有する可塑剤を、該ポリビニルブチラール100重量部に対し25〜100重量部の範囲で混合し、
    (4)該ポリビニルブチラールに可塑剤を加えたものの総重量が5wt%〜
    20wt%の範囲となるように溶剤を混合させて成る
    ことを特徴とする塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシール。
  2. ブチラール化度を60〜75mol%とした請求項1記載の塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシール。
  3. 平均重合度を600〜2000とした請求項1、2いずれか記載の塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシール。
  4. 可塑剤をトリエチレングリコール系可塑剤とした請求項1〜3のうちいずれか1項記載の塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシール。
  5. 溶剤をアルコール系溶剤とした請求項1〜4のうちいずれか1項記載の塗膜表面に凹凸形状を発現させる絵具及びシール。
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