第1実施形態に用いる燃料電池システムの構成を図1に示す。
カソードに酸化剤を、アノードに燃料ガスを供給することにより発電を行う燃料電池スタック(以下、スタック)1を備える。ここでは、酸化剤として空気を、燃料ガスとして水素ガスを供給するがこの限りではない。
まず、カソードに空気を供給・排出する酸化剤系について説明する。
燃料電池システムに空気を導入するコンプレッサ20を備える。コンプレッサ20の吸気側にはエアクリーナ10、ケミカルフィルタ11、フローメータ12、サイレンサ13を、吐出側には、サイレンサ14、空気温調器15、マイクロフィルタ16を備える。また、スタック1に供給される空気を加湿するWRD(Water Recovery Device)21を備える。WRD21を、加湿対象となるガスが流れる被加湿側と、加湿源となる水含有ガスが流れる加湿側と、を備える主加湿手段とする。コンプレッサ20により導入した空気をWRD21の被加湿側に流通させ、後述するようにスタック1からのカソード排ガスを用いて加湿する。このように加湿した空気を、スタック1のカソードに備えるカソード入口マニホールド1aからスタック1に導入する。また、このWRD21とスタック1の間には、圧力センサ101と、温度センサ111を備え、スタック1に供給される空気の圧力および温度を検出する。
カソードでは発電反応(1/2O2+2H++2e−→H2O)により生成水が生じる。そこでカソード出口マニホールド1dには水セパレータ17を備え、カソードで生成された水を回収する。また、カソード排ガスの温度を検出する温度センサ112を備える。
カソード出口マニホールド1dから排出されたカソード排ガスは、WRD21の加湿側を流通する。前述したように、カソード排ガスがWRD21の加湿側を流れる際に、被加湿側を流通する空気の加湿を行う。このとき、カソード排ガスの含有する水分が十分でないと、空気を十分に加湿することができない。そこで、補助加湿手段として水インジェクタ65と、水インジェクタ65から噴出する水量を調整するための供給圧力制御弁(PRV)64を備える。水インジェクタ65は、WRD21の上流側でカソード排ガスに水を噴射する。PRV64は、カソード排ガスの状態に応じて水インジェクタ65に加える圧力、ひいては水インジェクタ65から噴出する水の流量を調整する。ここでは、WRD21の加湿側の上流からPRV64に延びる配管22を備え、カソード排ガスの圧力を参照圧としてPRV64を調整する。
WRD21の加湿側の下流には、燃焼器熱交換ASSY(燃焼装置)30を備える。WRD21と燃焼装置30との間には、カソードの圧力を調整する圧力制御弁(PCV)18を設ける。燃焼装置30は、電熱触媒(EHC)30a、触媒燃焼器(CAT)30b、熱交換器(HE)30cを備える。カソード排ガスを燃焼装置30における燃焼に用いた後、外部に排出する。排出部にはマフラー19を備える。また、EHC30aに温度センサ113を、HE30cの出口部には温度センサ114を備える。
一方、アノードに水素を供給・排出する水素系を以下のように構成する。
水素を貯蔵する水素タンク40、水素タンク40からの水素の供給を遮断するシャット弁41、供給される水素の温度を後述する冷媒を用いて調整する水素温調器42、水素ガス圧力を調整する圧力調整弁(PCV)43、水素ガス流量を検出するフローメータ44を備える。温度および圧力を調整した水素ガスは、後述するようにアノード排ガスを再循環させるイジェクタ45を介してスタック1に供給される。
アノードに備えたアノード入口マニホールド1bを介して、水素ガスをスタック1に導入する。アノードの上流側には圧力センサ102と温度センサ115を備え、供給される水素ガスの圧力及び温度を検出する。アノードに供給された水素ガスは発電反応(H2→2H++2e−)に用いられて消費される。このとき、全ての水素ガスが発電反応により消費されるわけではなく、一部の水素ガスはアノード出口マニホールド1eを介して排出される。排出されたアノード排ガスは、アノードの下流側に備えられた水セパレータ46、シャット弁47を介してイジェクタ45の吸込み口に供給され、スタック1に再供給される。
水セパレータ46とシャット弁47の間には分岐部49を備え、流量制御弁(FCV)48を介して燃焼装置30に接続する。アノードの循環路から排出されたアノード排ガスはCAT30bで燃焼処理されてから外部に排出される。
次に、スタック1の温度調整を行う冷媒系について説明する。
冷媒の貯蔵手段であるクーラントリザーバタンク51と、冷媒を循環させるクーラントポンプ52、冷媒の放熱を行うラジエータ50を備える。ラジエータ50にはラジエータファン50aを備え、通過風流量を調整することによりラジエータ50の冷却性能を制御する。クーラントポンプ52の吸入側はクーラントリザーバタンク51に、吐出側は分岐部58aに接続する。分岐部58aでは、加熱手段である燃焼装置30を循環する加熱回路である暖機ループ171とラジエータ50を循環する冷却回路である冷機ループ170とに分岐する(暖機ループ171と後述する熱交換部1hが加熱回路を形成し、冷機ループ170と熱交換部1hが冷却回路を形成する)。
暖機ループは、燃焼装置30のHE30cに接続され、HE30cでは冷媒とCAT30bで生成された燃焼ガスとの間で熱交換を行う。HE30cから排出された冷媒は三方弁53に流入する。一方、冷機ループはラジエータ50に接続して冷媒の放熱を行う。冷却された冷媒は三方弁53に流入する。冷媒温度を上昇したい場合には暖機ループに、冷媒温度を抑制したい場合には冷機ループに冷媒を流すことにより、運転状況に応じて冷媒温度を調整することができる。
温度調整をした冷媒が流入する三方弁53の残りのポートを、スタック1に備えたクーラント入口マニホールド1cに接続させる。三方弁53とスタック1の間には、電気伝導度計121、シャット弁54、温度検出手段である温度センサ119、三方弁151、温度センサ116、圧力センサ103を備える。電気伝導度計121とシャット弁54の間に、前述した空気温調器15、水素温調器42に分岐する分岐部57を構成する。空気温調器15では、冷媒とスタック1に供給される空気との間で熱交換を行う。さらに水素温調器42において、冷媒とスタック1に供給される水素ガスとの間で熱交換を行ってから、冷媒中のイオンを除去するために備えられたイオンフィルタ56を介してシャット弁54の下流側の合流部59に接続する。
合流部59とクーラント入口マニホールド1cとの間に備えられた三方弁151には、スタック1をバイパスするバイパス回路として分岐配管155が接続している。この分岐配管155はスタック1をバイパスし、スタック1のクーラント出口マニホールド1fの下流の合流部154でスタック1と熱交換を行った冷媒が流れる管路と接続する。クーラント流量制御手段である三方弁151の開度を調整することスタック1と分岐配管155へ流れる冷媒の流量を調整できる。なお、三方弁151の上流に設けた温度センサ119において、三方弁151で分流する前の冷媒温度を測定する。
クーラント入口マニホールド1cから導入された冷媒により冷媒とスタック1は熱交換部1hで熱交換を行い、スタック1の温度を調整する。その後、スタック1に備えたクーラント出口マニホールド1fから排出された冷媒は、クーラントポンプ52により再び冷媒系を循環する、または、クーラントリザーバタンク51に回収される。スタック1の下流にはスタック1から排出される冷媒温度TSOを検出する温度センサ117を備える。
次に、スタック1の加湿に用いる純水系について説明する。純水系は図示しない電気ヒータなどの熱源を備え、加熱可能となっている。スタック1停止時に凍結が予測される場合には、この純水系から水を排出することにより凍結を防止する。
水貯留手段である水タンク60内には、水ポンプ61、水タンク60内の水量、ここでは水レベルLwを検出する水レベルセンサ151、温度センサ118を備え、さらに水ポンプ61の吸込み口には、水中の粒子等を濾別するストレーナ62を備える。水ポンプ61の吐出側には、電気伝導度計122、イオンフィルタ63、前述した水インジェクタ65を備えた吐出流路72を備える。水インジェクタ65の上流側をPRV64に接続し、PRV64で吐出流路72の圧力を調整することにより水インジェクタ65から噴出する水量を制御する。また、PRV64と水タンク60とを連通する戻り流路71を備え、吐出流路72の圧力調整のためにPRV64を介して吐出流路72から取り除いた水を回収する。さらに、吐出流路72にはシャット弁66を、戻り流路71にはシャット弁67を備える。シャット弁66、67それぞれを開放したときにはこの回路から水が排出される。
また、空気出口マニホールド1dに設けた水セパレータ17と水タンク60を連通する流路を設け、これにシャット弁68を備える。これとは別に、水セパレータ17と外部とを連通する流路を設け、これにシャット弁69を備える。これにより、水セパレータ17で回収された水は、選択的に水タンク60に貯蔵される。また、水素出口マニホールド1e側に設けた水セパレータ46と外部とを連通する流路を設け、これにシャット弁70を備える。水セパレータ46において多くの水が回収される場合には、選択的に水セパレータ46の水を水タンク60に回収する回路を設けてもよい。
また、シャット弁69、70を開とすることで、水セパレータ17、46に回収された水を排出する。これにより、凍結が予測される際に純水系の水を排出することができるので、システム内の凍結を低減することができる。
このような燃料電池システムを制御するコントローラ100を備える。コントローラ100では、各センサ等の出力から各装置およびバルブ等の制御を行うことにより、スタック1の温度制御を行う。コントローラ100は複数のコントローラを組み合わせたコントロールユニットにより構成してもよいし、また、車輌を制御するコントロールユニットの一部としてもよい。
コントローラ100で行うスタック1の温度制御の一部の概略ブロックを図3に示す。
スタック1の入口温度目標生成装置において、冷媒入口目標温度Ttcinを求め、冷媒入口目標温度信号として燃料電池入口冷媒温度制御装置に入力する。また、温度センサ119において冷媒入口温度を検出し、その結果を冷媒入口温度Tcinの信号として燃料電池入口冷媒温度制御装置に入力する。冷媒入口目標温度Ttcinと冷媒入口温度Tcinとから、スタック1への冷媒量を調整する三方弁151を制御するアクチュエータ制御信号を出力し、これに従って図示しないアクチュエータを制御する。
次に、起動時におけるスタック1の温度制御の概略フローチャートを図4に示す。
まず、起動開始の指令を検出し、車輌発進に必要な電力を発生させることができる温度状態にまでスタック1を昇温したら図4の制御を開始する。図4のステップS1における純水蓄積量判断において、水レベルセンサ151により水レベルLwを検出する。水レベルLwが所定レベルLw1以上の場合には、水タンク60内に十分の水があり加湿に用いることができると判断してステップS2に進む。ステップS2において、冷媒のスタック1出口の目標上限温度であるTSOUPRを通常温度TSONORMに設定する。一方、ステップS1においてLwがLw1に満たないと判断された場合には、純水蓄積量が不十分であるのでステップS3に進み、スタック1の冷媒出口目標温度TSOUPRを通常より低い制限温度TSOLIMに設定する。これにより、スタック1が加湿不足によりドライアウトを起こす前に、加湿用水を準備して純水による加湿を開始することができる。このように冷媒出口目標温度TSOUPRを設定したら、ステップS4において冷媒の温度調整(冷媒温度制御)をすることで、スタック1の温度を調整する。
次に、本制御の詳細を図5のフローチャートを用いて説明する。
燃料電池システムの起動指令を検知したら、ステップS10において、クーラントポンプ52を駆動することにより冷媒を循環させる。ここで、システム停止中の凍結を防ぐため、冷媒として不凍液を用いる。クーラントポンプ52は図示しない二次バッテリからの電力により駆動する。このとき、冷媒の電気伝導度を電気伝導度計121によりモニタする。また、三方弁53は暖機ループとスタック1を接続するように設定する。
冷媒の電気伝導度が運転不可能な所定の電気伝導度以上の場合には、シャット弁54を閉じる。これにより、全ての冷媒がイオンフィルタ56を通り、効率良く電気伝導度を低下させることができる。冷媒の電気伝導度が所定値より小さくなったところでシャット弁54を開き、ステップS20に進む。
ステップS20では、スタック1の冷媒出口温度TSOを温度センサ117により検出する。ステップS30において、この冷媒出口温度TSOが所定温度Tsに達しているか否かを判断する。ここで、所定温度TSは、少なくとも温度TSより大きいときに、スタック1において必要な電力を発生できる温度とする。これはスタック1の性能に左右されるが、一般的には発電による生成水が再凍結しない0℃近傍より大きければ、走行に必要な出力性能を確保できる。ここではTS=0℃とする。
ステップS30において、TSOがTS以下であると判断されたら(TSO≦TS)運転に必要な電力が得られないので、ステップS40に進み、発進禁止の信号を出力する。
ステップS50において、スタック暖機制御によりスタック1の温度を上昇させてTSOを上昇させる。以下、ステップS50におけるスタック暖機制御について図6のフローチャートを用いて説明する。暖機制御は、燃焼装置30における燃焼に伴う熱を用いて行うスタック1の加熱と、スタック1自体の発電により発生する自己発熱を併用して行う。
ステップS510において、EHC30aに通電することによりCAT30bの温度を上昇させる。その温度を温度センサ113でモニタする。また、ステップ10で既にクーラントポンプ52は作動しているので、冷媒は冷媒系を循環する。この時三方弁53は暖機ループ171側へ、三方弁151は冷媒がスタック1をバイパスするように設定されている。
ステップS511において、CAT30bの温度が水素着火温度になるとコンプレッサ20を起動する。コンプレッサ20から吐出された空気は、空気温調器15、WRD21、スタック1を通り、PCV18を通って燃焼装置30に供給される。同時にシャット弁41を開いて水素タンク40に貯蔵した水素ガスをスタック1に供給する。このとき、シャット弁47を閉じておくので、水素はインジェクタ45を介して再循環せずに分岐部49を介して燃焼装置30に供給される。燃焼装置30に導入する水素流量はFCV48により調整する。水素流量をフローメータ44でモニタし、これを用いてフィードバック制御を行う。ここでは水素流量を、CAT30bにおける触媒燃焼で所定の発熱を行うために必要な水素流量と、スタック1の自己発電に必要な水素流量の和となるようにFCV48を制御する。
なお、スタック1の発電量は、補機類(例えば電気ヒータなど)で消費できる電力量であり、生成された水は凍結してもスタック1のカソードを閉塞しない生成量(電力量)である。このとき、冷媒系を加熱する電気ヒータなどの電気加熱手段を用いると、発電可能量はさらに増大してスタック自己発熱量が増大する上、電気もスタック1の加熱に使用できるので、起動時間短縮や起動のための水素消費量低減に有利となる。
また、CAT30bの燃焼温度をコントロールするため、コンプレッサ20の吐出流量が流通する水素流量に対する所定の空気流量、つまり所定の空燃比となるように制御する。燃焼ガス温度をHE30cに備えた温度センサ114を用いてモニタし、この温度が目標温度になるように空気流量をフィードバック制御する。ここでの目標温度とは、冷媒を加熱するために必要なCAT30bの温度である。
ステップS512において、三方弁151の上流に設けられた温度センサ119によって、冷媒温度Tcinを検出し、スタック1入口の目標冷媒温度Ttcinと冷媒温度Tcinとの差からスタック1入口の温度偏差(以下、入口温度偏差)dTcin(dTcin=Ttcin−Tcin)を算出する。
ステップS513において、ステップS512で算出した入口温度偏差dTcinと閾値dTc1と比較する。dTcinがdTc1よりも大きい場合は、ステップS512へ戻り、上記ステップを繰り返す。dTcinがdTc1よりも小さい場合は、ステップS514へ進む。閾値dTc1は冷媒をスタック1へ流し始めても、スタック1の発電反応を阻害しない温度であり、実験などによって予め求め設定する。ここではdTc1を負の値に設定する。つまり、目標冷媒温度よりも実際の冷媒温度が高くなるように設定する。これにより、スタック1での発電が開始された後に、温度の低い冷媒によりスタック1の温度が再び下がり、スタック1の発電を停止することがない。
ステップS514では、dTcinと閾値dTc2と比較する。dTcinがdTc2よりも大きい場合は、ステップS515へ進み、dTc2よりも小さい場合は、ステップS516へ進む。閾値dTc2は冷媒温度が温められ、スタック1へ冷媒を供給してもスタックの発電を全く阻害しない温度であり、スタック1全体を温めることのできる温度である。この閾値dTc2は実験などによって予め求め、設定する。ここではdTc2をdTc1よりも低い値に設定する。また、フィードバック制御により目標温度を達成するように温度制御を行ってもよい。
ステップS515では、ステップS512で算出したdTcinに応じて図7に示すマップから三方弁151の開度、すなわち分流比を決定する。そして三方弁151の開度を制御し、スタック1とスタック1をバイパスする分岐配管155へ流れる冷媒の流量を制御する。その後ステップS512へ戻り、上記ステップを繰り返す。図7は入口温度偏差と三方弁151の開度を記憶したマップであり、目標温度Ttcinよりも冷媒温度Tcinが高いdTc1からdTc2の範囲では、入口温度偏差dTcinが小さい、すなわち冷媒温度が高い程、スタック1へ流れる冷媒の量が多くなり、流路155を通りスタック1をバイパスする冷媒の量は少なくなる。入口温度偏差dTcinがdTc2よりも小さい場合には分流比はRvcomaxと設定され、全ての冷媒はスタック1へ流れ、偏差がdTc1よりも大きい場合には分流比はRvcominと設定され、全ての冷媒はスタック1をバイパスする。なお、このマップは予め実験などにおいて求められ、コントローラ100に記憶されている。
これにより、冷媒の温度が十分に温まっていないときには、スタック1へ流れる冷媒を遮断、もしくは冷媒の量を少なくすることができる。また一部の冷媒は、分岐部57で分岐して空気温調器15、水素温調器42を経由して合流部59に戻り、三方弁151を介して、スタック1に流れる。これよりスタック1だけでなく原料となる空気(酸素)と水素を温めることができる。
ステップ516では、HE30cで熱交換を行った冷媒の温度が十分に高くなったので、三方弁151を調整し、冷媒の全流量がスタック1へ流れるように制御する。
このように、CAT30bで発生した熱は冷媒を介してスタック1に伝えられる。よってスタック1は、自己発熱と燃焼装置30で生じる熱により、速やかに昇温することが可能である。
スタック1は熱交換部1hで冷媒と非常に効率よく熱交換されるため、スタック1のクーラント出口マニホールド1fでは、冷媒温度はほぼスタック1の温度まで低下する。従ってスタック1は速やかに熱が加えられて温度上昇し、一方、冷媒はスタック1の温度近傍となる。よって、スタック1がTSより高くならなければ、スタック1の冷媒出口温度TSOは、ほぼTSより高くならない。そこで、スタック1がTSより高いかどうかを、冷媒出口温度TSOにて判断する。スタック出口温度TSOが車輌を発進するのに必要な電力を発生できる温度TSより高くなるまで、ステップS10へ戻り上記ステップを繰り返す。
一方、ステップS30において、TSO>TSであると判断されたら、ステップS60に進み、車輌を発進する際の発進制御を行う。この状態に遷移した状態で、車輌側には走行可能をドライバーに知らせるインフォメーションがReadyランプなどで実行される。ステップS60の発進制御を図8に示したフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS600において、スタック1の冷媒出口温度TSOが走行可能な温度、つまり少なくとも氷点下以上になっているので、スタック1で生成される水が再凍結することはない。そのため冷媒が全てスタック1へ流れるように三方弁151の開度を制御する。また、これによりスタック1の温度上昇によるスタック1の乾燥を防ぐことができる。
ステップS601において、外気温度TATM、水タンクレベルLw、スタック冷媒出口温度TSO、図示しない車両制御コントローラからの要求出力Pwdを検出する。次に、ステップS602に進む。
ステップS602では、水タンクレベルLwがLw1以上かどうかを検出する。Lw1は水循環を開始可能な水タンクレベルである。水タンクレベルが低すぎる場合、水ポンプ61が水を吸い込めないといった不具合を発生する可能性がある。水タンク60内には、発電時にカソード出口マニホールド1dに備えた水セパレータ17で回収した生成水を貯蔵している。水タンク60や、戻り流路71や、このスタック1からの水配管とその配管中のバルブ68については、図示しない電気ヒータで加熱して水の再凍結を防止する。スタック1の運転中には定期的、または、水セパレータ17に溜まる水レベルなどから判断して、バルブ68を開き、水セパレータ17に回収した生成水を水タンク60に貯蔵する。
ここで、本実施形態では、システム停止中に水タンク60内の水が凍結する可能性があると判断された場合には、純水系から外部に水が排出される。よって、純水系から水が排出された場合には、次の起動の際に水を確保する必要がある。そこで、ステップS602において水タンク60の水レベルLwを検討することにより、水を確保する必要があるかどうかを判断する。
ステップS602において、水タンクレベルLwがLw1より小さく水循環が不可能の場合にはステップS603に進む。ステップS603以降では、水タンク60の水レベルLwを増大するためのスタック1の温度制御を行う。
ステップS603において、水タンク60に溜められた水の循環を禁止する指令を出力する。ステップS604で、冷媒出口目標温度TSOUPRをTSOLIMにセットする。TSOLIMは、水タンク60に水が溜まるまでに必要な時間に対するスタック1の加湿不足によるドライアウトを防止できる運転温度である。
図9にスタック1の冷媒出口温度TSOに対する、スタック1が加湿不足によりドライアウトに至るまでの時間、および、最大負荷運転を行った場合に水タンク60に水が溜められるまでの時間を示す。ここで、スタック1が水不足によりドライアウトするまでの時間より、水を溜めるのに必要な時間が短くなるようにTSOLIMを設定する。スタック1の運転温度を抑えることによってカソード排ガスの温度が抑制され、水セパレータ17に回収される水量が増大するので、貯水に必要な時間を短縮することができる。同時にスタック1の固体高分子膜に含有された水分の蒸発を防ぐことができるので、加湿不足によるスタックのドライアウトが生じるまでの時間を延長する事が可能である。
ただし、外気温度TATMが高くなるとスタック1の運転温度を車輌の走行が可能な高出力下で低温に保つことは困難である。そのため、制限温度TSOLIMをあまり低い温度に設定した場合には、外気温度がある所定値以上で、出力制限を行う必要が発生する。そこで、TSOLIMを走行に必要な出力を得ながらスタック1の温度を制限できる下限以上の温度に設定する。なお、水の凍結が予想されるような低温時にだけ、運転停止の際に排水を行うシステムにおいては、水タンク60内の水を排出してから再び起動する際には外気温度が低いこと、例えば、氷点下以下などが予想される。その場合はスタック1の運転温度を低く設定し、運転開始までの時間を短縮することができる。
ステップS604でTSOUPR=TSOLIMと設定したら、ステップS605に進み三方弁53の開度制御を行う。三方弁53の開度制御を図10に示したフローチャートを用いて説明する。なお、三方弁53の開度により、冷媒を暖機ループ側に流すか、冷機ループ側に流すか、その流量分配を調整する。
ステップS1010において、スタック1の冷媒出口温度TSOと冷媒出口目標温度TSOUPRとのスタック1の冷媒出口温度偏差(以下、出口温度偏差)dT=TSOUPR-TSOを求める。ステップS1020において、その出口温度偏差dTに応じて三方弁53の開度RV0を図11に示すようなマップで検索する。図11は、出口温度偏差dTに対して設定される冷機ループへの分流比RV0である。RV0=100%とは、循環する冷媒を全て冷機ループに流すことを意味する。出口温度偏差dTが大きい場合、RV0を最小値RV0minとすることで、ほぼ全ての冷媒を暖機ループに流して冷媒温度の上昇を促進する。ところが出口温度偏差dTが所定値dT1以下になると、分流比RV0を増大して冷機ループ側にも循環させる。出口温度偏差がdT2になると、冷機ループへの分流比RVOが最大となる。これにより、冷媒系の能力が外気温度に対して十分な場合、出口温度偏差dTはdT1からdT2の間に制御可能である。しかし、この状態で出口温度偏差dTがdT2以下になる場合、冷媒系の能力が不足して温度制御ができないことを表す。なお、ここではdT2を0近傍の正の値とする。つまり、TSOがTSOUPR未満且つその近傍の温度となった時に、冷機ループへの冷媒の分配が最大となるようにする。
このように三方弁53を制御したらステップS606に進み、冷媒流量を制御する。冷媒流量の制御を、図12に示したフローチャートを用いて行う。
まず、ステップS1210において、要求出力Pwdに対して冷媒流量のベースQcbを図13に示すようなマップにより検索する。ベースQcbは、要求出力Pwdに対する通常の必要冷媒流量であり、クーラントポンプ52の最低流量Qcminから最大値のQcmaxの間で示される。次に、ステップS1220において、図14のステップS1010で求めた出口温度偏差dTに対する冷媒流量の最小制限値Qclimを求める。ここでは、図14に示すような出口温度偏差dTに対する最小制限値Qclimのマップを予め記憶しておき、これを検索することで冷媒流量の最小制限値Qclimを求める。dTが0近傍の正の値であるdT4となった時点で、最小制限値Qclimは最大値Qcmaxとなる。つまり、検出温度TSOが目標温度TSOUPR近傍に達した時点で、最大の冷媒流量となる。
次にステップS1230において、ベース流量Qcbと最小制限値Qclimの値を比較し、これらの値の大きい方を選択して冷媒流量Qcとする。クーラントポンプ52の回転数をこの冷媒流量Qcを実現する回転数に制御する。
図11、14に示すように、Qclim=QcmaxとなるdT4は冷媒を全て冷機ループ側に循環させるRVO=RVOMAXとなるdT2より小さい値に設定される。つまり、冷機ループへの分流比RV0が先に最大値となり、それでも目標温度に制御するための冷却能力が不足する場合には、さらに全体の冷媒流量Qcを最大としてスタック1の温度を抑制する。特に、冷媒系で検出温度TSOが目標温度TSOUPRを超えている場合(dT<0)には、最大の冷媒流量が、冷機ループに最大量流れる状態となる。
次に、ステップS607においてラジエータ50に備えたラジエータファン50aの制御を行う。図15にラジエータファン動力制御のフローチャートを示す。
ステップS1510において、出口温度偏差dTに対するラジエータファン動力Pwradを求める。ここでは、予め図16に示すようなマップを記憶しておき、温度偏差dTに対してラジエータファン動力Pwradを検索する。図16に示すように、ここではdTが0近傍の正の値dT6(<dT4)でラジエータファン動力Pwradは最大となる。つまり、ラジエータ50を含む冷機ループでは、TSOがTSOUPR近傍に達したら、最大の冷却能力を発揮する。そのため、目標温度を超えている状況においては、冷却系が最大の能力を発揮していることになる。このときdT6<dT4より、クーラントポンプ52の負荷が最大となってから、ラジエータファン動力Pwradを最大とする。
次に、ステップS608に進み、スタック1の運転圧力を決定する。ここで運転圧力とは具体的にはスタック1に供給される水素ガス圧力と酸化剤圧力であって、これらは図17示した冷媒出口温度TSOに対する液水不足時参照マップに基づき、それぞれPCV43とPCV18によって制御される。尚、水素ガス圧力と酸化剤圧力は、固体高分子膜の両側の圧力を略同一に維持する必要があることから、ほぼ同圧力に制御されるため、図17のマップ一つを参照すればよい。通常運転時には、運転圧力は燃料電池運転温度を代表するTSOに対して水バランスが取れる圧力が設定されている。しかし、ステップS602において液水が不足していると判断された場合には、その通常制御時のマップより圧力の高い液水不足時参照マップを用いて検索する。この圧力は、水バランスがプラスになる圧力となっており、よりスタック1の加湿不足を防止可能とする上、加湿水が蓄積されるスピードも増大する。その結果、加湿水が溜まるまでの時間が短縮でき、運転温度制限時間も短縮可能であり、より耐久性の面で有利である。
このようにスタック1の運転圧力を決定したら、ステップS609において、冷媒出口温度TSOが所定温度TSOUPRを超えていないかどうか判断する。
超えていない場合、ステップS610に進み、スタック1の出力Pwを要求出力Pwdにセットする。つまり、出力を制限せずに要求通りの出力を発生する。よって、TSOが目標制限温度TSOUPRに満たない場合、外気温度TATMが高くても出力を制限せず、これにより出力制限を行う状況を低減することができる。
一方、ステップS609で冷媒出口温度TSOが所定温度TSOUPRを超えている場合には、ステップS611に進む。ここでは外気温度TATMに対して設定される最大出力の制限値Pwlimを、図18に示すマップを用いて検索する。外気温度TATMが高く、冷却系の能力が不足する場合には、目標温度TSOUPRを保持するために出力制限を行う。ここで、出力が最大出力Pwlim以下の場合に、冷媒出口温度TSOが目標温度TSOUPR以下となる。つまり、TATM=TATMLIMのときに冷却性能を最大とし、三方弁53を冷機ループ側に最大に開、かつ、水ポンプ60の負荷を最大、ラジエータファン50aの動力を最大として、冷媒出口温度TSOが目標温度TSOUPRに維持される。
次に、ステップS612において、要求出力Pwdと最大出力の制限値Pwlimを比較する。ここで、スタック出力Pwとして低いほうの値を選択してセットする。これにより、冷媒出口温度TSOが制限温度TSOUPR(=TSOLIM)を超える事、ひいては、スタック1が加湿不足でドライアウトすることを防ぎながら、スタック1からの出力制限が必要な状況を最小限にしている。
このようなフローが終了すると、最初に戻ってこれらの制御を繰り返す。ただし、ステップS602にて水タンクレベルLw>Lw1を検出すると、水循環に必要な液水が確保できたと判断し、ステップS613へ進む。ここで水ポンプ61を駆動して水循環を開始する。そして、ステップS614に進み通常時の運転に移行する。通常時運転への移行を図19のフローチャートを用いて説明する。
ステップS1910において、外気温度TATMと、スタック1の冷媒出口温度TSOを検出する。ステップS1920において、冷媒出口目標温度TSOUPRをTSONORMにセットする。ここで、温度TSONORMは熱水バランスが達成可能で、通常の効率を優先した運転温度である。ステップS1930〜1950において、図8のS605〜607と同様に、三方弁53の開度、冷媒流量、ラジエータファン50aの動力を設定する。ただし、ステップS605〜S607において、TSOUPRの値は、TSOLIMではなくTSONORMにセットされている。このように冷媒の冷却性能を設定したら、ステップS1960に進み、ステップS608と同様に燃料電池の運転圧力を設定する。ただし、図17においては通常時参照マップを用い、燃料電池運転温度を代表するTSOに対して水バランスが取れる圧力を設定する。このようにスタック1の運転圧力を決定したら、ステップS1970においてスタック1の出力Pwを要求出力Pwdにセットする。
このように冷却システムを調整してスタック1の温度を抑制することで、スタック1の加湿不足による劣化を抑制しつつ、スタック1からの出力を要求出力に維持できる機会を増大することができる。
次に、上記のような制御を行った際の、水タンク60内に蓄積される水量の時間変化と、スタック温度変化を図20に示す。起動開始後、スタック1において走行に必要な電力を発電可能となるまでは、冷媒温度のスタック1の入口温度に応じて三方弁151によってスタック1へ流入する冷媒量を制御し、残りの冷媒をバイパスさせ、スタック1の発電を妨げないようにする。また、バイパスすることにより、冷媒は素早く温められるので、スタック1入口の目標冷媒温度まで素早く温めることができ、スタック1が走行可能な電力を発電するまでの時間を短くすることができる。そして、走行可能、つまりスタック1の暖機が終了すると冷媒がスタック1へ流れるように三方弁151を制御し、水タンク60の水量に応じて、冷媒の温度や流量を制御する。
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
スタック1の上流に三方弁151を備え、その三方弁151からスタック1をバイパスする分岐配管155を備えることで、冷媒の温度が低い場合にスタック1へ冷媒が流入するのを中止、または、流量を制御するので、氷点下起動時に冷媒によりスタック1の温度が下がるのを防ぐことができる。また、スタック1の発電反応により生成された水が冷媒の温度が低い場合に凍結するのを防ぐことができる。
HE30cにより冷媒を温めるが、冷媒が十分に温められていないときにはスタック1をバイパスし循環するので、スタック1と熱交換を行わず、冷媒温度を下げずに冷媒全体を目標温度まで素早く加熱することができる。これにより、スタック1に目標温度に加熱された冷媒を素早く供給することができ、スタック1の暖機を素早く行うことができる。
三方弁151の開度調整によってスタック1へ流入する流量とパイパスする流量を調整することができ、簡単な構成で素早くスタック1を暖機することができ、またスタック1の発電を阻害するのを防ぐことができる。
次に、第2実施形態について説明する。燃料電池システムの構成を図21を用いて説明する。ここでは、システム停止時にも水タンク60内に純水を保持し、凍結している場合には低電力で解凍を行う燃料電池システムについて説明する。以下、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
まず、カソードに空気を供給・排出する酸化剤系について説明する。
エアクリーナ10、ケミカルフィルタ11、フローメータ12を備え、その下流側とコンプレッサ20の吸入側とを接続する。コンプレッサ20の吐出側には、サイレンサ14、マイクロフィルタ16を備え、さらに空気温調器15を備える。さらに、カソード排ガスを加湿源とするWRD21の被加湿側を介して、スタック1のカソード入口マニホールド1aに接続する。WRD21とスタック1との間には、圧力センサ101、温度センサ111を備える。スタック1のカソード出口マニホールド1dとWRD21の間には、温度センサ12と戻り経路71へ分岐する分岐部160を備える。WRD21以下は第1実施形態と同様に構成する。
次に、アノードに水素ガスを供給・排出する水素系について説明する。
水素タンク40からシャット弁41を経由して水素温調器42に接続する。圧力制御弁PCV43、フローメータ44を経てイジェクタ45に接続する。イジェクタ45からはスタック1のアノード入口マニホールド1bに接続され、その上流側にはスタック1に供給する水素圧力および温度を検出する圧力センサ102、温度センサ115を備える。アノード出口マニホールド1eはイジェクタ45に戻る水素循環路を形成している。アノード出口マニホールド1eとイジェクタ45との間に設けた分岐部49からは燃焼装置30に伸びる分岐路を構成し、流量制御弁FCV48により燃焼装置30に分岐させるアノード排ガス流量を調整する。以下、水素系については、第1実施形態と同様に構成する。
次に、スタック1の温度を制御する冷媒系について説明する。
クーラントリザーバタンク51をクーラントポンプ52の吸入側に接続する。クーラントポンプ52の吐出側は電気伝導度計121を介して、スタック1のクーラント入口マニホールド1cに接続する。ただし、電気伝導度計121とクーラントポンプ52の間には温度センサ119、分岐点153を設けており、この分岐点からスタック1をバイパスする分岐配管155が延びている。分岐配管155の途中には開度を調整することができるクーラント流量制御手段として流量制御弁152を備える。また、クーラント出口マニホールド1cの下流側にはスタック1から排出された冷媒の冷媒出口温度TSOを検出する温度センサ116を備える。その下流の合流点154で、スタック1をバイパスした分岐配管155とスタック1の熱交換部1hを通った配管は接続する。さらにその下流側で、空気温調器15と水素温調器42に分岐し、空気及び水素ガスとそれぞれ熱交換した後、再び合流する。その後、冷媒系は水タンク60内を通過する。水タンク60内に配置した冷媒系の配管を熱交換手段である熱交換部60aとし、冷媒がこの熱交換部60aを流れる際に水タンク60内に貯蔵された水との間で熱交換を行う。これにより、例えば水タンク60内の水が凍結している際に、比較的温度の高い冷媒から熱を供給することにより、水タンク60内の水の解凍を促進することができる。熱交換部60aを循環した冷媒はその後、ラジエータ50と燃焼装置30に分岐する三方弁53に接続される。三方弁53からは、第1実施形態と同様に暖機ループと冷機ループに分岐し、冷媒の温度調整を行う。暖機ループと冷機ループは合流部58bで接続し、水ポンプ52の吸入側に接続する。なお、水ポンプ52に並列して冷媒の電気伝導度を低減するイオンフィルタ56を備える。
次に、スタック1の加湿を行う純水系について説明する。
水タンク60内に、水レベルセンサ151、水ポンプ61、水ポンプ61の吸い込み口のストレーナ62を備える。水ポンプ61の吐出側は、電気伝導度計122、イオンフィルタ63を介してスタック1に接続する。スタック1内ではアノードおよびカソードと多孔質のプレートを介して水チャンネルを設ける。水チャネル内を純水が流通する際に、多孔室プレートを介して各電極に、ひいては電解質膜に水分が供給されて加湿が行われる。つまり、本実施形態では、主加湿手段としてWRD21を用いるとともに、補助加湿手段としてスタック1内を循環する純水による加湿を行う。
スタック1で加湿に使用されなかった純水は圧力制御弁PRV64を介して戻り経路71により水タンク60に戻ってくる。戻り経路71は分岐部160と水排出路161によって接続しており、水排出路161は分岐部160と戻り経路71の間にバルブ162を備える。PRV64は、スタック1のカソード出口圧を参照圧として接続する。またこの水経路およびその水経路中の部品は、図示しない電気ヒータなどの熱源によって加熱可能となっている。
なお、シャットダウン時には、発電停止後には、図示しない二次電池からの電力により、コンプレッサ20を駆動する。PCV18によりカソードの圧力を若干増大し、バルブ162を開くことで水セパレータ17内の水を水排出路161と戻り経路71を経由して水タンク60に回収する。カソード出口マニホールド1d内の排水が終了したら、シャット弁68を閉としてマニホールド1d内が排水された状態を維持する。これにより水の凍結を防止することができる。
次に、起動時のスタック温度制御を説明する。図22のフローチャートを用いて制御の概略を説明する。まず、起動開始の指令を検出し、車輌発進に必要な電力を発生させることができる温度TSまでスタック1を昇温したら図22のフローを開始する。
ステップS11において、水タンク60内の純水を解凍する必要があるかどうかを判断する。これは、水タンク60に備えた温度センサ118の出力により判断することができる。水タンク60内の純水温度Twが所定温度Tw1以上の場合には、ステップS12に進み、冷媒出口目標温度TSOUPRを通常温度TSONORMに設定する。一方、純水温度Twが所定温度Tw1に満たない場合には、ステップS13に進み、冷媒出口目標温度TSOUPRを制限温度TSOLIMに設定する。ステップS14の冷媒温度制御において、ステップS12またはS13において設定した冷媒出口目標温度TSOUPRと検出された冷媒出口温度TSOに応じて冷却系を制御する。これにより、水タンク60内の水の凍結時にスタック1の温度が抑制されるので、スタック1が加湿不足によりドライアウトを起こす前に、加湿用水を準備して純水による加湿を開始することができる。
次に、制御の詳細を説明する。以下、第1実施形態における制御と異なる部分を中心に説明する。
起動時の温度制御のメインルーチンを第1実施形態と同様に図5に示す。ステップS30において、スタック1の温度が発進に必要な電力を生じるのに必要な温度に達しているか否かを判断する。ここでは冷媒出口温度TSOがTS(=0℃)に達しているかどうかで判断する。TSに達していない場合には発進禁止指令を出力した後、ステップS50においてスタック暖機制御を行うが、ステップS30において冷媒出口温度TSOが、TSに達していない場合には、雰囲気温度が氷点下であると考えられ、水タンク60内の水が凍結している可能性があると判断できる。このときのスタック暖機制御を図23のフローチャートを用いて説明する。
ステップS2310とステップS2311は第1実施形態のステップS510とステップS511と同じ制御なのでここでの説明は省略する。なお、この時流量制御弁152は全開となっている。
ステップS2312では、分岐点153の上流に設けられた温度センサ119によって、冷媒温度Tcinを検出し、スタック1入口の目標冷媒温度Ttcinと冷媒温度Tcinとの差からスタック1入口の温度偏差(以下、入口温度偏差)dTcin(dTcin=Ttcin−Tcin)を算出する。
ステップS2313、S2314ではステップS2312で算出したdTcinと閾値を比較するが、これは第1実施形態のステップS513、S514と同じ制御なのでここでの説明は省略する。
ステップS2315では、ステップS2312で算出したdTcinに応じて図24に示すマップから流量制御弁152の開度、すなわち分流比を決定する。そして流量制御弁152の開度を制御し、スタック1とスタック1をバイパスする分岐配管155へ流れる冷媒の流量を制御する。その後ステップS2312へ戻り、上記ステップを繰り返す。図24は入口温度偏差dTcinと流量制御弁152の開度を記憶したマップであり、dTc1からdTc2の範囲では、入口温度偏差dTcinが大きい、すなわち冷媒温度が小さい程、スタック1へ流れる冷媒の量が少なく、流路155を通りスタック1をバイパスする冷媒の量は多くなる。入口温度偏差がdTc2よりも小さい場合には流量制御弁152は全閉され、冷媒のほとんどがスタック1へ流れ、偏差がdTc1よりも大きい場合には流量制御弁152は全開されており、冷媒のほとんどがスタック1をバイパスする。なお、このマップは予め実験などにおいて求められ、コントローラ100に記憶されている。
ステップ2316では、HE30cで熱交換を行った冷媒の温度が十分に高くなったので、流量制御弁152を全閉し、冷媒のほぼ全ての流量がスタック1へ流れるように制御する。
ここでは、流量制御弁152の開度を全開にしても、冷媒の一部はスタック1へ流れるが、低温時の冷媒の粘性係数は高いのでスタック1での圧力損失が大きくなり、冷媒はスタック1をバイパスする分岐配管155へ流れる。これによって冷媒が、さほど温まっていないときにはスタック1へ流れる冷媒量を少なくし、触媒燃焼器30bで温められるとスタック1へ流れる冷媒量を多くすることができ、スタック1を効率良く暖機することができる。また、スタック1をバイパスしているときにも冷媒が循環するので、冷媒を素早く温めることができる。
冷媒はスタック1の下流で水タンク60内を通っており、氷点下では凍結してる水タンク60を温め、加湿用の水を素早く確保することができる。
スタック1は冷媒と非常に効率よく熱交換されるため、スタック1のクーラント出口マニホールド1fでは、冷媒温度はほぼスタック1の温度まで低下する。従ってスタック1は速やかに熱が加えられて温度上昇し、一方、冷媒はスタック1の温度近傍となる。よって、スタック1がTSより高くならなければ、スタック1の冷媒出口温度TSOは、ほぼTSより高くならない。そこで、スタック1がTSより高いかどうかを、冷媒出口温度TSOにて判断する。スタック出口温度TSOが車輌を発進するのに必要な電力を発生できる温度TSより高くなるまで、ステップS10へ戻り上記ステップを繰り返す。
その後、スタック1が発電可能な温度に達すると、CAT30bの運転を停止し、暖機運転を終了する。つまり、ステップS30において、TSO>TSと判断されたらステップS60に進み発進制御を行う。この場合には、スタック1の発電によって発生した熱を用いて水タンク60内の純水を解凍する。本実施形態の発進制御のフローチャートを図25に示す。
まず、ステップS2500において、流量制御弁152が全閉になっていないときには、流量制御弁152を全閉とし冷媒の全てがスタック1へ流れるようにする。これによってスタック1で発生する熱と冷媒の間での熱交換量を増やし、水タンク60内の水を素早く温めることができるようになる。
本実施形態では、通常運転を開始するかどうかを水タンク60の水レベルLwではなく、水タンク60に蓄積された水の温度Twにより判断する。ここでは、水タンク60に備えた温度センサ118の出力に応じて判断する。つまり、ステップS2502では、水タンク60内の水の温度Twが所定温度Tw1より大きいかどうかにより水タンク60内の水を用いて加湿できるか否かを判断する。ここで、所定温度Tw1は、水タンク60内の水が所定量、ここでは水ポンプ61により循環させることのできる量だけ解凍したと判断できる温度とする。これは、例えば0℃近傍に予め設定することができる。ステップS2502で、Tw≦Tw1であれば、水循環を行えるほど解凍されていないと判断できるので、ステップS2503からS2512までの制御を行う。これらのステップは、第1実施形態におけるステップS603から612と同様の制御である。この制御により、スタック1と低温に設定した冷媒との間で熱交換を行い、高温となった冷媒を水タンク60の熱交換部60aに流通させる。これにより、スタック1の発電に伴う熱を用いて水タンク60内の水の解凍を行うことができる。よって、CAT30bを用いて水タンク60内の水を解凍するよりも消費する燃料が低減できる。このとき、水タンク60の温度Twが0℃を超え、水タンク60の水による加湿が可能であると判断されるまでは、スタック1が無加湿で運転可能な温度を超えることを制限する。これによって水タンク60が解凍されるまでスタック1を水不足によりドライアウトさせることなく運転することができるので、効率的な起動を行うことができる。
なお、ステップS2504において、運転温度を制限する際の冷媒出口目標温度TSOUPR(=TSOLIM)を設定する際には、図9のかわりに図26に示した冷媒出口温度に対する凍結に要する時間の関係からTSOLIMを設定する。なお、この解凍に要する時間は、第1実施形態における水が溜まるまでの時間に相当する。
一方、ステップS2502でTw>Tw1であると判断されたら、ステップS2513、S2514に進み、水ポンプ61を稼動させることで、第1実施形態のステップS611、S612と同様に通常運転を開始する。
このように制御することにより、スタック1の温度および解凍された水の量の時間変化は図27に示すようになる。
上記のような制御を行った際の、水タンク60内に蓄積される水量の時間変化と、スタック温度変化を図27に示す。起動開始後、スタック1において走行に必要な電力を発電可能となるまでは、冷媒温度のスタック1の入口温度に応じて三方弁151によってスタック1へ流入する冷媒量を制御し、残りの冷媒をバイパスさせ、スタック1の発電を妨げないようにする。また、バイパスすることにより、冷媒は素早く温められるので、水タンク60内の氷を素早く解凍することができ、更にスタック1入口の目標冷媒温度まで素早く温めることができ、スタック1が走行可能な電力を発電するまでの時間が短くすることができる。そして、走行可能、つまりスタック1の暖機が終了すると冷媒がスタック1へ流れるように三方弁151を制御し、水タンク60の水量に応じて、冷媒の温度や流量を制御する。
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
スタック1をバイパスする分岐配管155を設け、氷点下起動時にHE30cによって加熱された冷媒の温度が低いときには、分岐配管155中に設けた流量制御弁152によってスタック1へ流入する冷媒の流量を制限し、一部の冷媒がスタック1をバイパスすることでスタック1の発電を妨げることなく冷媒によってスタック1を暖機することができる。
また、このとき加湿用の水タンク60内に冷媒が通る熱交換部60aを設け、熱交換部60aでの熱交換によって凍結した水タンク60内の水を解凍することでき、スタック1の温度上昇の前に加湿用の水を準備することができ、加湿不足状態での発電によるスタック1の劣化を防止することができる。
また、スタック1をバイパスしているときにも、HE30cにおいて冷媒を温めることができ、更にこのときはスタック1において熱交換を行わないので冷媒を素早く温めることができ、水タンク60内の氷を素早く解凍することができる。
冷媒が十分に温まったときには、流量制御弁152の開度を狭く、もしくは全閉とすることによってスタック1へ冷媒を多く流すことができ、スタック1を素早く暖機することができる。
流量制御弁152を設けることで、より簡単な構成でスタック1を暖機することができ、またスタック1の発電を阻害するのを防ぐことができる。
第1実施形態では三方弁151を使用し、第2実施形態では流量制御弁152と使用したが、図2に示すように、お互いに異なる流量制御手段を用いても良い。
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。