本発明は、優れた熱電変換性能を有する酸化物系熱電変換材料に関するものである。
現在、化石燃料の燃焼等によって供給されているエネルギーのうち、廃熱として大気中に放出されるエネルギーは、全供給エネルギーの約3分の2に達しているといわれている。上記廃熱として捨てられているエネルギーを回収することができれば、エネルギーの利用効率を大幅に向上することが期待される。そこで、この廃熱を回収してエネルギーの有効利用を図る技術として、従来より、ゼーベック効果を利用した熱電変換が提案されている。
上記熱電変換は、熱エネルギーと電気エネルギーとを相互に直接変換するエネルギー変換法である。具体的には、熱電変換素子の両端の温度差によって電位差を生じさせて電力を得ることにより、上記熱電変換素子を熱発電素子として利用することができ、また、熱電変換素子に電気エネルギーを与えて熱を吸収させることにより、上記熱電変換素子を冷却用素子として利用することができる。
このように、上記熱電変換は、固体素子である熱電変換素子を用いることによって、熱エネルギーと電気エネルギーとの間の相互変換を行うため、モータやタービン等の可動部を必要としない。それゆえ、熱電変換に際して、騒音や振動がなく、小型軽量化が可能である。また、可動部を有していないので、メンテナンスの低減が可能であるとともに、熱電変換素子が劣化するまで継続的に使用が可能であり、信頼性にも優れている。さらに、発電や冷却に対して、燃焼による二酸化炭素や有毒ガス等の排ガスを発生することはないため、近年、社会問題となっている環境保全にも寄与することができる。
従って、熱電変換素子を熱発電素子として用いることにより、工場や焼却炉からの廃熱や自動車の排熱等の産業排熱を利用した発電、太陽光の熱源等の自然エネルギーを利用した宇宙用電源や僻地での発電等を実現し、エネルギーを有効利用して、エネルギーの利用効率を向上することができると考えられている。また、上記熱電変換素子を冷却用素子として用いれば、フロンを用いない冷却が可能になる。さらに、上記冷却用素子は、精密な温度制御が可能であるため、半導体素子の冷却等に用いることもできる。
上記のような熱電変換を実用化するためには、優れた熱電変換材料の開発が不可欠である。従来、熱電変換性能に優れた熱電変換材料として、Bi−Te系、Pb−Te系、Co−Sb系等の金属間化合物が提案され、該金属間化合物の電気抵抗率を低減するために、電気抵抗率の小さい金属や合金等を複合化することが試みられている(例えば、非特許文献1・2参照)。
一般に、金属間化合物の熱電変換材料(以下、金属間化合物系材料)の変換効率を評価するためには、性能指数Z
Z=P/κ=α2/(ρκ)
(式中、κは熱伝導率、Pは出力因子を表し、P=α2/ρ(α:ゼーベック係数、ρ:電気抵抗率)を満たす)が用いられる。上記式にて表されるように、ゼーベック係数が大きく、電気抵抗率が小さいほど、性能指数Zが大きな値となって、優れた熱電変換性能を示す。
そのため、上記金属間化合物系材料では、金属間化合物に金属や合金等を複合化することによって、電気抵抗率を低減させて、性能指数Zを向上することができる一方、上記複合化は、ゼーベック係数の低下ももたらすので、上記性能指数Zを大幅に向上させることは困難となっている。つまり、上記金属間化合物に金属や合金を複合化させてなる金属間化合物系材料に対しては、通常、電気抵抗率及びゼーベック係数が、金属間化合物系材料のキャリア濃度に依存するシングルキャリアモデルを適用することができる。それゆえ、上記非特許文献1・2に記載の金属間化合物系材料では、金属や合金によって、電気抵抗率の低減とともに、ゼーベック係数を低下させるので、熱電変換性能の飛躍的な向上を図ることは難しい。
また、上記非特許文献1・2に記載の金属間化合物系材料に用いられるTeやSbは、毒性を有する稀少元素であるとともに、高温条件下にて酸化しやすいため、実用化が困難であるという問題もある。
そこで、上記金属間化合物系材料に代わる新しい材料として、酸化物を用いた熱電変換材料(以下、酸化物系熱電変換材料)が注目されている。一般に、酸化物系熱電変換材料は、金属間化合物系材料に適用されるシングルキャリアモデルを適用することができない特異な熱電特性を示す場合が多い。現在のところ、酸化物系熱電変換材料におけるキャリア濃度とゼーベック係数との関係は詳細には解明されていないが、酸化物系熱電変換材料の熱電性能を向上する種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献3〜5等)。
すなわち、特許文献1には、MgIn2O4系の酸化物にマンガン成分を含有させてなる酸化物熱電変換材料を用いることによって、ゼーベック係数を顕著に増大し得ることが開示されている。
また、特許文献2には、Ca、Sr及びBaから選ばれた2種類の元素と、Bi及び希土類から選ばれた元素と、Coと、Oとを構成元素として含む複合酸化物を含む熱電変換材料によって、高いゼーベック係数と低い電気抵抗率とを実現し得ることが開示されている。さらに、特許文献3には、Bi、Pb、Sr、Ca、Coの金属元素を用い、該金属元素を焼成によって酸化物を形成してなる複合酸化物を含む熱電変換材料によって、高いゼーベック係数と低い電気抵抗率とを実現し得ることが開示されている。
また、非特許文献3には、Na
mCo
2O
4系の酸化物にて、Na原子をK、Sr、Y、Nd、Sm、Ybで部分的に置換することにより、熱電変換性能を示す性能指数Zを向上させることが開示されている。さらに、非特許文献4には、Na
mCo
2O
4系の酸化物にて、Naの含有率(上記m)、すなわちNa
mCo
2O
4系の酸化物の組成によって、熱電変換性能が変化することが開示されている。また、非特許文献5には、熱電変換性能の向上を図るために、より高い配向性を有する層状構造のNaCo
2O
4を得ることが記載されている。
特開平7−231122号公報(1995年8月29日公開)
特開2002−100814号公報(2002年4月5日公開)
特開2002−141562号公報(2002年5月17日公開)
S.Katsuyama他、Journal of Applied Physics、84巻、12号、1998年、p.6708−6712
S.Katsuyama他、Journal of Applied Physics、93巻、5号、2003年、p.2758−2764
T.Nagira他、Journal of Alloys and Compounds、348巻、2003年、p.263−269
T.Motohashi他、Applied Physics Letters、79巻、10号、2001年、p.1480−1482
S.Tajima他、Materials Science and Engineering B、86巻、2001年、p.20−25
しかしながら、上記したように、酸化物系熱電変換材料に対しては、シングルキャリアモデルが適用できない場合が多くあるため、上記従来の酸化物系熱電変換材料の熱電変換性能には、さらなる改善の余地があると考えられる。すなわち、酸化物系熱電変換材料に対し、さらなる改良を加えることによって、電気抵抗率を大きく低下させる一方、ゼーベック係数を大きく増大させ得る熱電変換材料を提供することができる可能性が高いと考えられる。
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、優れた熱電変換性能を有する新規な酸化物系熱電変換材料を提供することにある。
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、キャリア濃度に依存してゼーベック係数が低下するというシングルキャリアモデルが適用されない金属酸化物に、電気抵抗率の低い物質を複合化させることにより、電気抵抗率を顕著に低減させるとともに、ゼーベック係数(熱起電力)を増大させて、熱電変換性能を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の酸化物系熱電変換材料は、上記課題を解決するために、金属酸化物を主成分としてなる酸化物系熱電変換材料であって、金属を主成分とする金属相及び合金を主成分とする合金相のうちの少なくとも一方を含有していることを特徴としている。
また、本発明の酸化物系熱電変換材料は、上記の酸化物系熱電変換材料において、上記金属相は、貴金属類の金属を主成分として含有してなり、上記合金相は、貴金属類の金属を主成分とする合金を主成分として含有してなることことが好ましい。
さらに、本発明の酸化物系熱電変換材料は、上記の酸化物系熱電変換材料において、上記金属酸化物は、層状結晶構造を有することが好ましい。
また、本発明の酸化物系熱電変換材料は、上記の酸化物系熱電変換材料において、上記金属酸化物は、少なくともコバルトを含んでなるコバルト系酸化物であることが好ましい。
さらに、本発明の酸化物系熱電変換材料は、上記の酸化物系熱電変換材料において、上記金属酸化物は、NaxCo2O4(0.5≦x≦2)であることが好ましい。
本発明の酸化物系熱電変換材料は、以上のように、金属相及び合金相のうちの少なくとも一方を含有している。つまり、本発明の酸化物系熱電変換材料は、金属を単体(金属状態)として含有しているので、電気抵抗率を顕著に低下させるとともに、熱起電力(ゼーベック係数)を大きくすることができる。それゆえ、本発明の酸化物系熱電変換材料は、熱電変換性能を大幅に向上することができるという効果を奏する。
なお、上記特許文献1には、MgIn2O4系の酸化物にマンガン成分を含有させることが記載されているが、該マンガン成分は、単体の金属として、MgIn2O4系の酸化物中には存在していないと考えられる。すなわち、特許文献1の表1に示されるように、酸化物中のマンガン成分の組成比が増加すると、電気伝導度(σ)が低下することから、該マンガン成分は金属状態として存在するのではなく、例えば酸化マンガンとして存在していることが示唆される。これに対し、本発明の酸化物系熱電変換材料は、金属を単体として含有するものであり、この点において、上記特許文献1とは異なっている。
また、本発明の酸化物系熱電変換材料にて、上記金属相は貴金属類の金属を主成分として含有してなり、合金相は、貴金属類の金属を主成分とする合金を主成分として含有してなることが好ましい。これにより、高温条件下に長時間曝されても、優れた熱電変換性能を示す酸化物系熱電変換材料を提供することができるという効果を奏する。
また、本発明の酸化物系熱電変換材料にて、金属酸化物は、層状結晶構造を有していてもよい。さらに、上記金属酸化物は、少なくともコバルトを含んでなるコバルト系酸化物であってもよく、例えば、NaxCo2O4(0.5≦x≦2)であってもよい。
これにより、本発明の酸化物系熱電変換材料は、優れた熱電変換性能を示すことができるので、熱発電素子又は冷却用素子として好適に用いることができる可能性があるという効果を奏する。
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。すなわち、本発明の酸化物系熱電変換材料(以下、熱電変換材料と記載する)は、金属酸化物を主成分とし、さらに、金属を主成分としてなる金属相及び合金を主成分としてなる合金相のうちの少なくとも一方を含有してなるものである。ここで、上記金属相及び合金相とは、単体としての金属を、金属単体あるいは合金として含んでなるものであり、例えば、酸化金属等の化合物を主成分として含有しないものをいう。
上記の金属相又は合金相を含む本発明の熱電変換材料は、金属酸化物に、金属及び合金のうちの少なくとも一方を分散させて複合化してなるものである。より詳細には、上記熱電変換材料は、金属酸化物の相の結晶粒界及び結晶粒内に、金属相又は合金相の少なくとも一方が、微細かつ均一に分散した状態となる構造を有するものである。
ここで、上記金属相に含まれる金属は、貴金属類の金属(以下、貴金属と記載する)であることが好ましい。また、上記合金相に含まれる合金は、上記貴金属を主成分とする合金であることが好ましい。
なお、上記主成分とは、含有する全成分のうち、最も多い成分をいうものとする。すなわち、酸化物系熱電変換材料、金属相、合金相、合金のそれぞれにおける主成分とは、該酸化物系熱電変換材料、金属相、合金相、合金のそれぞれに含まれる全成分のうちの最も多い成分をいう。
上記金属酸化物としては、導電性又は半導性を示す酸化物、あるいは、還元法による酸素欠陥の導入や、元素置換法による原子価制御、伝導キャリアの導入等によって導電性又は半導性が付与された酸化物を用いればよい。
具体的には、アルカリ金属(リチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),Cs(セシウム),フランシウム(Fr))、アルカリ土類金属(ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba),ラジウム(Ra))、ビスマス(Bi)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド系元素からなる群のうちの少なくとも一つと、コバルト(Co)とを含んでなるコバルト系酸化物;アルカリ金属、アルカリ土類金属、ビスマス(Bi)、ストロンチウム(Sr)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、ランタノイド系元素からなる群のうちの少なくとも一つと、インジウム(In)とを含んでなるインジウム系酸化物;MnFe2O4等のフェライト系酸化物;酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、CuAlO2等を挙げることができる。
上記コバルト系酸化物としては、例えば、NaxCo2O4(0.5≦x≦2)、Ca3Co4O9、Ca2Co2O5等を挙げることができる。ここで、NaxCo2O4を用いる場合、xは、上記範囲内の任意の数であればよいが、xの下限値は、0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。また、xの上限値は、2以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましい。xが0.5未満であると熱電変換性能が大きく劣化するので好ましくなく、xが2.0を超えると結晶構造が変化するので好ましくない。
また、上記インジウム系酸化物としては、例えば、MgIn2O4、In2O3・SnO2、(ZnO)yIn2O3(y=3〜11)等を挙げることができる。上記金属酸化物のうち、NaxCo2O4、Ca3Co4O9、Ca2Co2O5、ZnOが好ましく、層状結晶構造を有するNaxCo2O4、Ca3Co4O9、Ca2Co2O5が特に好ましい。
ここで、層状結晶構造とは、金属酸化物に含まれる主な構成成分である金属(以下、主成分金属と記載する)とO原子が配列してなる主成分金属層と、主成分金属以外の1又は複数の金属のうちのいずれか(以下、他金属と記載する)、又は、他金属及びO原子が交互に配列した他金属層とが、交互に積層した構造をいう。すなわち、上記コバルト系酸化物における層状結晶構造とは、Co原子及びO原子が配列してなる主成分金属層と、Co以外の金属である他金属のみが配列してなる層、又は、他金属及びO原子が配列してなる層のうちのいずれかである他金属層とが、交互に積層してなる構造をいう。
なお、上記金属酸化物は、該金属酸化物を構成する金属原子の一部が他の金属原子に置換されてなるものであってもよいものとする。置換される他の金属原子としては、特に限定されないが、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、Zn等の第4周期の遷移金属元素;ランタノイド系元素;ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、Y、In、銀(Ag)等を挙げることができる。
上記金属相又は合金相に含まれる金属としては、熱酸化の影響を受け難く、上記金属酸化物中に単体の金属として安定に存在させることができるものであることが好ましく、かつ、低い電気抵抗率を有するものであることが好ましい。具体的には、上記金属として、貴金属、貴金属を主成分とする合金を挙げることができる。
このような貴金属としては、具体的には、Ag、金(Au)、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))等のうちの少なくとも1つを挙げることができる。
また、上記貴金属を主成分とする合金としては、上記した貴金属のうちの少なくとも1つと、Cu、Fe、Ni等の合金用金属のうちの少なくとも1つとの合金を挙げることができる。具体的には、Ag−Cu系、Au−Fe系、Au−Ni系、Pt−Fe系等の合金を挙げることができる。合金の組成比は、貴金属1に対して、合金用金属が0より大きく1以下であることが好ましく、0より大きく0.5以下であることがより好ましい。
さらに、上記貴金属及び合金の他、熱酸化の影響を受け難く、また低い電気抵抗率を有する化合物として、チタン二ホウ素(TiB2)等のセラミックスを用いてもよい。なお、以下では、貴金属及び/又は合金を例に挙げて詳細に説明するが、TiB2等のセラミックスや、上記金属相や合金相に、貴金属以外の金属が含まれる場合にも、同様の説明を適用することができる。
つまり、本発明の熱電変換材料は、金属酸化物中に、単体として及び/又は合金として貴金属を分散させて含有してなるものであることが好ましい。ここで、金属酸化物中に分散させる貴金属及び/又は合金の大きさが微細であるほど、熱電変換材料の熱伝導率を低減できる可能性がある。熱伝導率を低下することができれば、熱電変換材料の熱電変換性能を向上することができるため、分散させる貴金属及び/又は合金の粒径は、100μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
上記熱電変換材料に含まれる貴金属及び/又は合金中の含有量は、金属酸化物の総重量に対して、40重量%以下であることが好ましく、20%重量以下であることがより好ましく、10重量%以下であることが最も好ましい。貴金属及び/又は合金の含有量が40重量%を超えると、熱電変換性能が低下して好ましくない。
このように、本発明の熱電変換材料は、金属酸化物中に、貴金属原子を、単体又は合金として分散して複合化させることにより、ゼーベック係数を低減することなく、電気抵抗率を低減することができる。従って、熱電変換効率を評価するための性能指数Zは、式(1)
Z=α2/(ρκ) ……(1)
(式中、κは熱伝導率、αはゼーベック係数、ρは電気抵抗率を表す)に基づいて算出されるように、増加することになる。それゆえ、本発明の熱電変換材料は、熱電変換性能を向上することができる。
次に、上記熱電変換材料の製造方法について説明する。上記熱電変換材料の製造方法は、特に限定されるものではないが、固相反応法、錯体重合法やクエン酸錯体法等の溶液法に代表される液相法、気相法、ゾルゲル法、スラリー法、ガラスアニール法、メカニカルアロイング法、メカニカルグラインディング法を利用した粉末冶金法、化学蒸着法、物理蒸着法等を用いて行うことができる。すなわち、これらの製造方法にて、原料に、貴金属及び/又は合金、あるいは、貴金属及び/又は合金の含有物を添加することによって、本発明の熱電変換材料を得ることができる。
上記固相反応法を利用する場合には、まず、金属酸化物の原料物質を、所望する配合比となるように混合して、所定温度で焼成することにより、仮焼体を得る。該仮焼体を得るために行う焼成(焼結)の温度条件は、800℃〜950℃程度であればよく、空気中、酸素含有雰囲気下、酸素雰囲気下等で行えばよい。また、焼成時間は、3時間〜40時間程度とすればよい。
次いで、上記仮焼体と、貴金属及び/又は合金用金属をそれぞれ単体の粉末とを、所望する割合で混合する。このとき、単体の粉末の粒径は、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。その後、該仮焼体と単体の粉末との混合粉末を所望する形状に加圧成型して、所定の温度で焼成することにより、熱電変換材料を得ることができる。なお、該熱電変換材料を得るために行う焼成(焼結)の温度条件は、850℃〜950℃程度であればよく、空気中、酸素含有雰囲気下、酸素雰囲気下等で行えばよい。さらに、焼成時間は、3時間〜40時間程度とすればよい。
一方、上記溶液法を利用する場合には、金属酸化物の原料物質と、貴金属及び/又は合金用金属のそれぞれの含有物とを、適当な溶媒に加えて加熱濃縮を行った後、仮焼する。これにより、熱電変換材料の前駆体が粉末状で得られる。ここで、上記含有物としては、貴金属の炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、水酸化物等の塩類、あるいは、該塩類の水和物を用いることが好ましい。また、仮焼条件は、800℃〜950℃程度で、3時間〜40時間行えばよく、空気中、酸素含有雰囲気下、酸素雰囲気下等で行えばよい。
続いて、上記前駆体を所望する形状に圧縮成型した後、所定の温度で焼成することによって、熱電変換材料を得ることができる。ここで、焼成条件は、850℃〜950℃程度で、3時間〜40時間行えばよく、空気中、酸素含有雰囲気下、酸素雰囲気下等で行えばよい。
なお、金属酸化物の原料物質は、焼成によって酸化物を形成し得る化合物であればよく、例えば、該金属酸化物に含まれる金属の炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、水酸化物等の塩類、あるいは、該塩類の水和物を用いればよい。また、上記のようにして得られた熱電変換材料は、必要に応じて切断や研磨等の加工処理を行ってもよい。
このように、本発明の熱電変換材料は、一般的な熱電変換材料の製造方法にて、貴金属及び/又は合金用金属、あるいは、それらの含有物を添加するという簡便な方法で得ることができる。
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施例では、メカニカルグラインディングを利用した固相反応法により、NaxCo2O4(xは任意の数)にAgを複合化させてなる酸化物系熱電材料を作製した。
すなわち、Na2Co3粉末(純度99.99%)及びCo3O4粉末(純度99.99%)を原料として用い、これらの原料を、Na1.2Co2O4の組成となるように秤量した。秤量した原料をメノウ乳鉢で混合した後、5.6×102MPaで30秒間圧粉成型し、大気中にて1153Kで20時間仮焼して、仮焼体を得た。得られた仮焼体に、NaCo2O4に対して、Naの原子数が20%過剰となるようにNa2Co3粉末を加え、さらに、仮焼体の重量に対して、Agの重量が10%となるようにAg粉末(純度99.9%、粒径1μm)を加えて混合物を得、該混合物5gを秤量した。
その後、内容積が約29mLの66ナイロン製のミルポットに、上記混合物、及び、直径φが6.35mmの66ナイロン製のボール10個を入れて、大気中で20時間メカニカルグライディングを行って、粉末状混合物を得た。該粉末状混合物を、約20mm×6mm×3mmの大きさとなるように、5.6×102MPaで30秒間圧粉成型し、大気中にて1193Kで20時間焼結して、焼結体Aを得た。
得られた焼結体Aについて、直流4端子法によって、室温から約1100Kまで、徐々に温度を上昇させながら、大気中における電気抵抗率ρ及びゼーベック係数αを測定した。その結果を図1(a)(b)に示す。
また、算出された電気抵抗率ρ及びゼーベック係数αを用いて、出力因子Pを下式(2)
P=α2/ρ ……(2)
に従って算出した。その結果を図2に示す。
さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、焼結体Aを観察した結果を図3に示す。図3に示すように、NaxCo2O4相中に、Ag粒が均一に分散していることがわかる。
〔比較例1〕
Ag粉末を添加しない以外は、実施例1と同様の手順で比較焼結体A’を作製し、実施例1と同様の手法で、大気中における電気抵抗率ρ及びゼーベック係数αを測定した。その結果を図1(a)(b)に示す。また、式(2)に基づいて、出力因子Pを算出した結果を図2に示す。
実施例1及び比較例1の結果から、図1(a)に示されるように、Agを含んでなる焼結体Aは、全温度領域にて、NaxCo2O4からなる比較焼結体A’に比べて、著しく小さい電気抵抗率ρを有することがわかる。また、図1(b)に示されるように、Agを含んでなる焼結体Aは、全温度領域にて、NaxCo2O4からなる比較焼結体A’に比べて、全温度領域にて、ゼーベック係数αが増加することがわかる。さらに、図2に示されるように、焼結体Aの出力因子Pは、比較焼結体A’の出力因子Pに比べて、大きく向上しており、最大で70%を超える程度にまで向上することがわかった。
従って、NaxCo2O4にAgを複合化することによって、Agを複合化しない場合に比べて、性能指数Z(出力因子Pを熱伝導率κで除したもの)が改善され、熱電変換性能に優れた酸化物系熱電材料を提供できることがわかる。また、上記焼結体Aは、1000K以上の温度条件下にて20時間の焼結を行っても、優れた熱電変換性能を示すことから、Agは、熱酸化の影響を受け難いことが示唆される。
また、上記焼結体Aを用いて得られる出力因子Pの値は、従来のNaCo2O4系の熱電変換材料に比較して、優れた熱電変換性能を有している。すなわち、前記した非特許文献5の熱電変換材料では、同文献の図11に示されるように、約300K〜約1000Kにて、温度上昇とともに出力因子が増加して、約400μWm-1K-2〜約500μWm-1K-2となっている。また、特開2002−274943号公報(2002年9月25日公開)に記載の熱電変換材料では、同文献の図4に示されるように、約100K〜約800Kにて、温度上昇とともに出力因子が増加して、約50μWm-1K-2〜約450μWm-1K-2となっている。
これに対し、焼結体Aは、図2に示すように、約400K〜約1000Kにて、温度上昇に伴って、出力因子Pは、約700μWm-1K-2から約1500μWm-1K-2へと変化している。それゆえ、上記焼結体Aは、上記従来の文献に記載の熱電変換材料に比べて、優れた熱電変換性能を有していることがわかる。
本実施例では、溶液法により、NaxCo2O4(xは任意の数)にAgを複合化させてなる酸化物系熱電材料を作製した。
すなわち、クエン酸をエチレングリコールに溶解させてなるエチレングリコール溶液に、Na1.6Co2O4の組成となるように、Co(NO3)2・6H2O及びNaNO3を加え、さらに、NaCo2O4相の重量に対して、Agの重量が10%となるようにAgNO3を加え、アルミナルツボ中にて、433Kで2時間加熱して混合溶液とした。なお、上記エチレングリコール溶液は、金属イオン(Co2-、Na+の全金属イオン)1molに対して、クエン酸が4molとなり、エチレングリコールが180molとなるように、調製した。
続いて、上記混合溶液を撹拌しながら、573Kまで4時間かけて昇温させ、ポリマー錯体を形成した。この混合溶液をビーカーに移し、マントルヒータを用いて723Kまで1時間かけて昇温させて加熱濃縮した。その後、この混合溶液を1073Kで5時間仮焼し、γ-NaxCo2O4相からなる前駆体微粉末を得た。得られた前駆体微粉末を圧縮成型した後、大気中で、1153Kで20時間焼結して、Agを含むNaCo2O4の焼結体Bを得た。
得られた焼結体Bについて、直流4端子法によって、室温から約1100Kまで、徐々に温度を上昇させながら、大気中における電気抵抗率ρ及びゼーベック係数αを測定した。その結果を図4(a)(b)に示す。また、算出された電気抵抗率ρ及びゼーベック係数αを用いて、上記式(2)に従って、出力因子Pを算出した結果を図5に示す。
さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、焼結体Bを観察した結果を図6に示す。図6に示すように、NaxCo2O4相中に、Ag粒が均一に分散していることがわかる。
〔比較例2〕
Ag粉末を添加しない以外は、実施例2と同様の手順で比較焼結体B’を作製し、実施例2と同様の手法で、大気中における電気抵抗率ρ及びゼーベック係数αを測定した。その結果を図4(a)(b)に示す。また、式(2)に基づいて、出力因子Pを算出した結果を図5に示す。
実施例2及び比較例2の結果から、図4(a)に示されるように、Agを含んでなる焼結体Bは、全温度領域にて、NaxCo2O4からなる比較焼結体B’に比べて、著しく小さい電気抵抗率ρを有することがわかる。また、図4(b)に示されるように、Agを含んでなる焼結体Bは、全温度領域にて、NaxCo2O4からなる比較焼結体B’に比べて、全温度領域にて、ゼーベック係数αが増加していることがわかる。さらに、図5に示されるように、焼結体Bの出力因子Pは、比較焼結体B’の出力因子Pに比べて、大きく向上しており、最大で60%を上回る程度にまで向上することがわかった。
従って、NaxCo2O4にAgを複合化することによって、Agを複合化しない場合に比べて、性能指数Zが改善され、熱電変換性能に優れた酸化物系熱電材料を提供できることがわかる。また、上記焼結体Bは、1000K以上の温度条件下にて20時間以上の焼結を行っても、優れた熱電変換性能を示すことから、Agは、熱酸化の影響を受け難いことが示唆される。
また、上記焼結体Bを用いて得られる出力因子Pの値は、従来のNaCo2O4系の熱電変換材料に比較して、優れた熱電変換性能を有している。すなわち、特開2002−280623号公報(2002年9月27日公開)には、溶液法にて製造された熱電変換材料が開示されている。同文献の熱電変換材料は、同文献の図5に示されるように、約100K〜約800Kにて、温度上昇とともに出力因子が増加して、約50μWm-1K-2〜約450μWm-1K-2となっている。
これに対し、焼結体Bは、図5に示すように、約400K〜約1000Kにて、温度上昇に伴って、出力因子Pは、約800μWm-1K-2から約1800μWm-1K-2へと変化している。それゆえ、上記焼結体Aは、上記従来の文献に記載の熱電変換材料に比べて、優れた熱電変換性能を有していることがわかる。
本発明の酸化物系熱電変換材料は、熱電変換素子として用いることにより、熱エネルギーを電気エネルギー変換する熱発電素子として、また、電気エネルギーを与えることによって熱を吸収する冷却用素子として利用することができる。
熱電変換は、モータやタービン等の可動部を必要としないため、該可動部に依存せず、保守や補修等のメンテナンスの低減が可能な発電システムを提供することができる可能性がある。
また、工場や焼却炉からの廃熱や自動車の排熱等の産業廃熱や未使用エネルギーを利用した発電、太陽光の熱源等の自然エネルギーを利用した宇宙用電源や僻地等の特殊環境下での発電等を実現して、エネルギーの有効利用を図ることができる可能性がある。
固相反応法によって作製したAgを複合化してなるNaxCo2O4、及び、Agを含んでいないNaxCo2O4のそれぞれについて測定された測定結果であって、(a)は、電気抵抗率の温度依存性を示すグラフであり、(b)は、ゼーベック係数の温度依存性を示すグラフである。
固相反応法によって作製したAgを複合化してなるNaxCo2O4、及び、Agを含んでいないNaxCo2O4のそれぞれについて算出された出力因子の温度依存性を示すグラフである。
焼結体Aの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
溶液法によって作製したAgを複合化してなるNaxCo2O4、及び、Agを含んでいないNaxCo2O4のそれぞれについて測定された測定結果であって、(a)は、電気抵抗率の温度依存性を示すグラフであり、(b)は、ゼーベック係数の温度依存性を示すグラフである。
溶液法によって作製したAgを複合化してなるNaxCo2O4、及び、Agを含んでいないNaxCo2O4のそれぞれについて算出された出力因子の温度依存性を示すグラフである。
焼結体Bの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。