太陽電池は入射した光エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶系、アモルファス系、化合物系などに分類される。このうち、現在市場で流通しているものはほとんどが結晶系シリコン太陽電池である。
この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型、多結晶型に分類される。単結晶型のシリコン太陽電池は、太陽電池を形成する単結晶シリコン基板の品質がよいために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造が高コストになるという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は、太陽電池を形成する多結晶シリコン基板の品質が劣るために高効率化が難しいという短所はあるものの、低コストで製造できるという長所がある。また、最近では多結晶シリコン基板の品質の向上やセル化技術の進歩により、研究レベルでは18%程度の変換効率が達成されている。
一方、量産レベルの多結晶シリコン太陽電池は低コストであったため、従来から市場に流通してきたが、近年環境問題が取りざたされる中でさらに需要が増してきており、低コストでより高い変換効率が求められるようになった。
太陽電池では電気エネルギーへの変換効率を向上させるため、従来から様々な試みがなされてきた。そのひとつに太陽電池素子表面に入射する光の反射を低減する技術があり、太陽電池素子表面での光の反射を低減することで電気エネルギヘの変換効率を高めることができる。
シリコン基板を用いて太陽電池素子を形成する場合、基板の一主面側を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液でエッチングすると、基板の一主面側に微細な凹凸が形成され、反射をある程度低減できる。例えば、面方位が(100)面の単結晶シリコン基板を用いた場合、このような方法でテクスチャ構造と呼ばれるピラミッド構造を基板の一主面側に均一に形成することができる。しかしながら、アルカリ水溶液によるエッチングは結晶の面方位に依存することから、多結晶シリコン基板で太陽電池素子を形成する場合、ピラミッド構造を均一には形成できず、そのため全体の反射率も効果的には低減できないという問題がある。
このような問題を解決するために、太陽電池素子を多結晶シリコンで形成する場合に、その表面に微細な凹凸をドライエッチングの一種である反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)法で形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、多結晶シリコンにおける不規則な結晶の面方位に左右されずに微細な凹凸を均一に形成し、多結晶シリコンを用いた太陽電池素子においても反射率をより効果的に低減しようとするものである。
この方法を用いると、多結晶シリコン基板を用いた場合でも面方位の影響を受けにくく表面にほぼ均一な凹凸を形成することができ、太陽電池の変換効率を効率よく向上させることができる。
太陽電池素子に入射する光の反射を低減する別の方法として、受光面側表面に、例えばSi
3N
4(窒化シリコン)からなる反射防止膜を形成する方法がある。この反射防止膜を形成するにはいくつかの方法があるが、もっとも良く用いられているのはプラズマCVD(Chemical Vapour Deposition)と呼ばれる手法で成膜する方法である。このプラズマCVDにより成膜するには、チャンバ(装置の処理室)内を真空引きした後、原料となるガスを導入しながら所定の圧力に保持してRF電力を印加することでプラズマを発生させる。このプラズマ内で原料ガスは分解されて化学反応を起こし、基板表面に反射防止膜が堆積する。この反射防止膜により、太陽電池に照射された光が反射によって失われることを防止し、変換効率を向上させることができる。
特開平9−102625号公報
特開2002−76404号公報
上述の太陽電池素子に入射する光の反射を低減するための2つの方法、すなわち、ドライエッチング装置により基板表面に微細な凹凸を形成する方法と、プラズマCVD装置により表面に反射防止膜を形成する方法とを組み合わせることが、太陽電池素子の高効率化のためには非常に効果的である。
ここで従来は、例えばP型の導電性を有する多結晶シリコン基板の表面にドライエッチングで微細な凹凸を形成した後に、大気中でN型不純物を熱拡散させることによって、この微細な凹凸上に逆導電型の拡散層を設け、その後プラズマCVD法で反射防止膜を形成していた。このような方法によってドライエッチングでシリコン基板上に形成した凹凸は非常に微細であり、表面積が大きいため、大気中で酸化されて自然酸化膜が厚くなりやすい。このような自然酸化膜が太陽電池素子の接合間に存在すると素子特性に悪影響を与えるため、通常は、この微細な凹凸上に逆導電型不純物を含む拡散層を形成する前に、フッ酸処理を行うことによって、この自然酸化膜をある程度除去することができる。しかしながら、酸処理によって、自然酸化膜を除去したときに、シリコン基板上の微細な凹凸がなだらかになってしまい、反射率を低減させる効果を損なうという問題がある。
また、逆導電型不純物の拡散層は基板の表面形状にならって表面が微細な凹凸形状となるため、自然酸化膜が形成される。そして、不要な拡散層部をエッチングなどにより除去する必要があるため、フッ酸あるいは混酸(フッ酸と硝酸の混合溶液)などによって処理を行う必要がある。このときに微細な凹凸部の形状を崩す恐れがあるばかりか、除去しきれなかった自然酸化膜が素子特性に悪影響を及ぼす可能性がある。
さらに、上述のように真空処理装置から取り出して、酸処理や拡散処理などを行う工程の中で、意図しない不純物によって汚染され、素子特性の低下を招く危険性もあった。
なお、ドライエッチング装置およびプラズマCVD装置はいずれも、プラズマを発生させて処理を行う真空処理装置であり、安定したプラズマ反応を維持するためには、チャンバ内壁に吸着した空気や水分などが脱離する、いわゆるアウトガスを極力抑える必要がある。そのためにはプラズマ発生させる前のガス導入前に十分真空引きを行っておかなければならず、装置の処理速度、すなわちタクトが悪いという問題もあった。
これに対して、通常は、図6の従来の真空処理装置の模式図に示すように、プラズマを発生させる真空処理チャンバ21の前後に入口側予備室22、出口側予備室23を設け、それぞれのチャンバに真空ポンプ24を接続して、この予備室内で真空引き、大気開放を行うようにすれば、真空処理チャンバ21は、必要なガスを導入して所定の圧力にする以外は常に真空状態下におくことができ、大気開放をする必要がない。したがって、水分の吸着を防ぐことができるので、プラズマ処理中に真空処理チャンバ21の内壁面から発生するアウトガスを極力抑えることができ、安定した雰囲気の中でプラズマ処理を行うことができるようになる。
このように真空処理チャンバ21の前後に予備室を設けることで装置のタクトの悪化を抑えることができるが、このように構成すると今度は予備室が増えることになるため、装置のコストが増大してしまうことになる。
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、太陽電池の工程において、自然酸化膜や汚染による悪影響を極力抑えて、ドライエッチングによる凹凸の形成とプラズマCVDを用いた反射防止膜の形成とをいずれも安価で良好なタクトで形成する方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の請求項1にかかる太陽電池素子の製造方法では、一導電型を有する半導体基板の一主面側に逆導電型半導体領域と反射防止膜とを形成してなる太陽電池の製造方法において、前記逆導電型半導体領域を形成する第一の工程と、前記逆導電型半導体領域上にドライエッチングによって微細な凹凸を形成する第二の工程と、少なくとも前記微細な凹凸上に反射防止膜を形成する第三の工程とを備え、前記第二の工程および前記第三の工程は、いずれも真空プロセスで行われるとともに、大気開放せずに連続して行われることを特徴とする。
このように、先に逆導電性型半導体領域を形成してから、ドライエッチングによる微細な凹凸を形成するとともに、ドライエッチングを行う第二の工程と、例えばプラズマCVDにより反射防止膜を形成する第三の工程とを、大気開放せずに連続して行うようにしたので、ドライエッチングによって形成された微細な凹凸部に自然酸化膜が形成されることがない。したがって、自然酸化膜をエッチングする工程が必要ないから、微細な凹凸部の形状を崩すことがない。さらに、第二の工程と第三の工程とは連続して大気開放せずに実施されることから、これらの途中の工程で意図しない不純物によって汚染される可能性が少なくなるとともに、第三の工程を開始するときに、真空引きに時間をかける必要がなく、非常に効率的に短時間で処理を行うことができる。
また、本発明の請求項2にかかる太陽電池素子の製造方法では、本発明の請求項1にかかる太陽電池素子の製造方法における前記第二の工程で、ドライエッチングされる量を1cm2当り0.001mg〜0.015mgとしたので、ドライエッチングによる残渣を少なく抑え、最適量とすることができる。特に出願人は、特許文献2に開示したようにドライエッチングを行うときに、同時にエッチングする表面にエッチング残渣を再付着させて、これをエッチングのマイクロマスクとして利用することにより、効率的に凹凸構造を形成できることを見出しているが、本発明において、このエッチング残渣の量を上述の範囲とすることにより、最も効率的に最適な構造を有する微細な凹凸部を得ることができるのである。
次に、本発明の請求項3にかかる太陽電池素子の製造方法では、本発明の請求項1または2にかかる太陽電池素子の製造方法において、前記第二の工程で生成したエッチング残渣をエッチングによって除去する残渣除去工程を設けるとともに、この残渣除去工程は、前記第二の工程に連続して大気開放せずに行われるようにしたので、エッチング残渣を除去するときに、外部から意図しない不純物によって汚染される可能性が減少する。さらにこれらの工程は、連続して大気開放せずに実施されることから、真空引きに時間をかける必要がなく、効率的に短時間で処理を行うことができる。
そして、本発明の請求項4および5にかかる太陽電池素子の製造方法では、本発明の請求項1から3のいずれかにかかる太陽電池素子の製造方法における前記第三の工程の後に、熱処理を行う熱処理工程を設けることにより、第二の工程におけるドライエッチングによって太陽電池素子に蓄積した内部応力などのダメージを緩和することができる。そして、この熱処理工程を、前記第三の工程に連続して大気開放せずに行うようにすれば、効率的に短時間で処理を行うことができ、同時に意図しない不純物による太陽電池素子の汚染を防止することができる。
次に、本発明の請求項6にかかる太陽電池素子の製造方法では、本発明の請求項1から3のいずれかにかかる太陽電池素子の製造方法における前記第三の工程の後に、前記反射防止膜上に電極を形成する電極形成工程を設けるとともに、この電極形成工程は、前記第三の工程に連続して大気開放せずに行われることを特徴とする。さらに、本発明の請求項7にかかる太陽電池素子の製造方法では、本発明の請求項4または5にかかる太陽電池素子の製造方法における前記熱処理工程の後に、前記反射防止膜上に電極を形成する電極形成工程を設けるとともに、この電極形成工程は、前記熱処理工程に連続して大気開放せずに行われることを特徴とする。
このように、電極形成工程を前工程から連続して大気開放せずに行うようにしたので、効率的に短時間で処理を行うことができ、意図しない不純物の混入も少なく抑えることができる。また、電極を形成する下地の表面処理が不要となる。
また、本発明の請求項8にかかる太陽電池素子の製造方法では、本発明の請求項6または7にかかる太陽電池素子の製造方法における前記電極形成工程の後に、形成した電極を熱処理する電極熱処理工程を設けるとともに、この電極熱処理工程は、前記電極形成工程の後に連続して大気開放せずに行われることを特徴とする。このように電極を熱処理することによって、電極と半導体基板の表面とを導通させることができ、これらの界面が焼結されるので、電極強度を保つことができる。そして、電極熱処理工程を電極形成工程から連続して大気開放せずに行うようにしたので、効率的に短時間で処理を行うことができ、意図しない不純物の混入も少なく抑え、電極と半導体基板との界面のコンタクト特性を向上させることができる。
なお、本発明において、真空プロセスとは、真空蒸着・イオンプレーティング・スパッタリングなどのPVD(物理蒸着)法や、プラズマCVD・熱CVDなどのCVD(化学蒸着)法などのように、真空またはそれに近い雰囲気下で薄膜を堆積するプロセスを指すほか、反応性イオンエッチングなどのドライエッチングのように真空またはそれに近い雰囲気下で対象物を処理するプロセスをも指すものとする。いずれも真空もしくはそれに近い圧力まで減圧できる処理室(チャンバ)を備えた真空装置を用いて処理する点で共通である。
以上のように本発明の請求項1にかかる太陽電池素子の製造方法においては、ドライエッチングによって形成された微細な凹凸部に自然酸化膜が形成されることがない。したがって、自然酸化膜をエッチングする工程が必要ないから、微細な凹凸部の形状を崩すことがない。さらに、第二の工程と第三の工程とは連続して大気開放せずに実施されることから、これらの途中の工程で意図しない不純物によって汚染される可能性が少なくなるとともに、第三の工程を開始するときに、真空引きに時間をかける必要がなく、非常に効率的に短時間で処理を行うことができる。
また、本発明の請求項2にかかる太陽電池素子の製造方法では、ドライエッチングによる残渣を少なく抑え、最適量とすることができる。そして、この残渣をエッチングのマイクロマスクとして利用する際に、最も効率的に最適な構造を有する微細な凹凸部を得ることができる。
次に、本発明の請求項3にかかる太陽電池素子の製造方法では、エッチング残渣を除去するときに、外部から意図しない不純物によって汚染される可能性が減少する。さらにこれらの工程は、連続して大気開放せずに実施されることから、真空引きに時間をかける必要がなく、効率的に短時間で処理を行うことができる。
そして、本発明の請求項4および5にかかる太陽電池素子の製造方法では、ドライエッチングによって太陽電池素子に蓄積した内部応力などのダメージを緩和することができ、また大気開放せずに行うようにしたので、効率的に短時間で処理を行うことができ、同時に意図しない不純物による太陽電池素子の汚染を防止することができる。
次に、本発明の請求項6にかかる太陽電池素子の製造方法では、電極形成工程を前工程から連続して大気開放せずに行うようにしたので、効率的に短時間で処理を行うことができ、意図しない不純物の混入も少なく抑えることができる。また、電極を形成する下地の表面処理が不要となる。
また、本発明の請求項8にかかる太陽電池素子の製造方法では、電極を熱処理することによって、電極と半導体基板の表面とを導通させることができ、これらの界面が焼結されるので、電極強度を保つことができる。そして、電極熱処理工程を電極形成工程から連続して大気開放せずに行うようにしたので、効率的に短時間で処理を行うことができ、意図しない不純物の混入も少なく抑え、電極と半導体基板との界面のコンタクト特性を向上させることができる。
以下、本発明を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明にかかる太陽電池素子の製造方法で形成される太陽電池素子の構造図である。図1において、1は逆導電型半導体領域、2は半導体基板、3は微細な凹凸、4は反射防止膜、5は裏面側の高濃度拡散層(BSF:Back Surface Field)、6は表面電極、7は裏面電極を示す。
半導体基板2はp型、n型いずれでもよいが、ここでは便宜上ドーピング不純物元素としてB(ホウ素)を含有したp型の半導体シリコン基板によって説明する。
基板を切り出すインゴットとしては、CZ法・FZ法・EFG法などの方法で作られた単結晶シリコンインゴットや、キャスト法で鋳造された多結晶シリコンインゴットを用いることができる。なお、多結晶シリコンは、大量生産が可能で製造コスト面で単結晶シリコンよりもきわめて有利である。
上述の方法により、形成されたインゴットを300μm程度の厚みにスライスして、15cm×15cm程度の大きさに切断して半導体基板2を得る。
なお半導体基板2のドーピングはドーピング不純物元素単体を適量シリコンインゴット製造時に含ませてもよいし、既にドープ濃度の分かっているシリコン塊を適量含ませてもよい。
次に、太陽電池素子のPN接合部を形成するために、本発明の第一の工程として半導体基板2の一主面側に逆導電型半導体領域1を形成する。この逆導電型半導体領域1の形成は、一般に気相拡散の方法として、半導体基板2を設置した容器内に加熱しながらキャリアガスを用いてPOCl3(オキシ塩化リン)を流すことで不純物拡散源となるリンガラスを半導体基板2の表面に形成し、同時に拡散も行う。また、他の方法としては塗布拡散などがあり、これは不純物拡散源となる薄膜を半導体基板2上にスピンコートなどで塗布し、これを加熱処理によって拡散させて逆導電型半導体領域1を形成する方法である。本発明はこれらのように表面に高濃度の不純物拡散源を形成してから、あるいは同時に加熱処理を行って不純物拡散する方法のいずれの方法でも有効である。
POCl3を拡散源とした熱拡散法を用いた場合、例えば、温度700〜1000℃程度で、半導体基板2の表面にドーピング元素を拡散することによって、逆導電型半導体領域1を形成することができる。このとき拡散層厚は0.2〜1μm程度とするが、これは拡散温度と拡散時間を調節することで、所望の厚さとすることができる。
通常の拡散法では、目的とする面とは反対側の面や基板のエッジ部にも拡散領域が形成されるが、その部分は後からエッチングしたり、サンドブラストなどによって除去すればよい。あるいは、後述するように、裏面側の高濃度拡散層5をAlペーストによって形成する場合は、p型のドーピング元素であり拡散係数の高いAlを充分な濃度かつ充分な深さまで拡散させることができるので、既に拡散された浅い領域のn型の逆導電型の拡散層の影響は無視できる。
次に、裏面側の高濃度拡散層5を形成する。ドーピング元素としてはBやAlを用いることができ、ドーピング元素濃度を高濃度として、p+型とすることによって後述する裏面電極7との間にオーミックコンタクトを得ることができる。
製法としてはBBr3を拡散源とした熱拡散法を用いて温度800〜1100℃程度で形成したり、特にAlの場合はAl粉末とガラスフリット、有機溶剤、バインダーなどからなるAlペーストを印刷法で塗布したのち温度700〜850℃程度で熱処理(焼成)してAlを拡散したりする方法を用いることができる。なお、この裏面側の高濃度拡散層5を熱拡散法で形成する場合は、既に形成してある逆導電型半導体領域1の表面側には酸化膜などの拡散バリアをあらかじめ形成しておくことが望ましい。またAlペーストを印刷して焼成する方法を用いれば、印刷面だけに所望の拡散層を形成することができるだけではなく、既に述べたように逆導電型半導体領域1形成時に同時に裏面側にも形成されているn型の逆導電型の拡散層を除去する必要もなくすことができる。
引き続いて、半導体基板2の一主面側に、本発明の第二の工程として、入射する光を反射させずに有効に取り込むために微細な凹凸3をドライエッチングによって形成する。これは真空引きされたチャンバ内にガスを導入して一定圧力に保持してチャンバ内に設けられた電極にRF電力を印加することでプラズマを発生させ、生じた活性種であるイオン・ラジカルなどの作用によって基板の表面をエッチングするものである。この方法は反応性イオンエッチング(RIE)法と呼ばれる。
図2に反応性イオンエッチング装置を示す。アース13されたチャンバ14の内部を真空ポンプ11によって、十分真空引きした後、チャンバ14内にマスフローコントローラ8によって所定流量のエッチングガスを導入し、圧力調整器10により所定圧力となるように調整する。その後、RF電源12からRF電力をRF電極9に供給することによって、エッチングガスを励起分解しプラズマを発生させる。そしてイオンやラジカルを励起活性化して、RF電極9の上部に設置した半導体基板2の表面をエッチングする。
発生した活性種のうち、イオンがエッチングに作用する効果を大きくした方法を一般に反応性イオンエッチング法と呼んでいる。類似する方法にプラズマエッチングなどがあるが、プラズマの発生原理は基本的に同じであり、基板に作用する活性種の種類の分布をチャンバ構造、電極構造、あるいは発生周波数などによって異なる分布に変化させているだけである。そのため、本発明は反応性イオンエッチング法に限らず、プラズマエッチング法全般に対して有効である。また、プラズマを用いないでガスのみでエッチングを行うことも、ガス種によっては可能である。狭義にはこれをドライエッチングと呼ぶが、広義には反応性イオンエッチングも含めたプラズマエッチング、プラズマを用いないドライエッチングの両方を合わせてドライエッチングと呼ぶ。本発明はこの広義のドライエッチング全てに対して有効である。
本発明では、例えば反応性イオンエッチング装置において、塩素(Cl2)と酸素(O2)と六フッ化硫黄(SF6)を1:5:5の割合で流しながら、RF電力を印加することでプラズマを発生させて反応圧力を7Paとし、所定時間エッチングする。これによってシリコンの半導体基板2の表面には微細な凹凸3が形成される。
シリコンはエッチングすると基本的には気化するが、一部は気化しきれずに分子同士が吸着して半導体基板2の表面にエッチング残渣として残る。つまり、半導体基板2の表面を反応性イオンエッチング法および類似のドライエッチング法で粗面化する際に、エッチングされた半導体材料を主成分とするエッチング残渣を半導体基板2の表面に再付着させる速度を促進させ、これをエッチングのマイクロマスクとして利用することで半導体基板2の一主面側に微細な凹凸3を形成するものである。
また、ガス条件、反応圧力、RFパワーなどをシリコンのエッチング残渣が半導体基板2の表面に残るような条件に設定すると、微細な凹凸3を確実に形成することができる。逆に、半導体基板2の表面にエッチング残渣が残らないような条件では微細な凹凸3を形成することは困難である。
この微細な凹凸3のアスペクト比(高さ/幅)は最適化する必要があり、0.1〜2の範囲とすることが望ましい。この範囲を超えると太陽電池素子の製造過程で微細な凹凸3が破損し、太陽電池素子を形成した場合にリーク電流が多くなって良好な出力特性が得られないという問題があり、この範囲未満では、例えば波長500〜1000nmの光の平均反射率が25%程度となり基板表面での反射率が大きくなるという問題がある。
さらに、ドライエッチングによる微細な凹凸3形成の際にはエッチング残渣が半導体基板2表面に生成する。このエッチング残渣の量は、エッチング条件にもよるが、効率よく凹凸を形成できる条件においてはエッチングの量にほぼ比例した量だけ生成する。このエッチング量は、仮に残渣を除去したとした場合に0.001mg以上0.015mg以下になるように調整することが好ましい。この範囲を超えるとエッチング残渣量が多くなり過ぎ、入射した光を遮って受光面に影を作ってしまい、変換効率に悪影響を与えるという問題があり、この範囲未満では、エッチング残渣が少なくなりすぎるので、ドライエッチング時にマイクロマスクとして作用し微細な凹凸3の形成に寄与する効果が低くなる。なお、このエッチング量は、エッチングを行った基板を例えば超音波洗浄などによってエッチング残渣を除去し、エッチング前の重量との比較を行うことで確認できる。また、エッチング条件によっては、凹凸を形成するエッチングに連続して表面の残渣を除去するエッチングを加える方法を採用することも可能である。
次に本発明の第三の工程として、真空プロセスを用いて、少なくとも上述の微細な凹凸3を被覆するように反射防止膜4を形成する。この反射防止膜4の形成は、プラズマCVD法、蒸着法、スパッタ法などを用いることができる。通常は、プラズマCVD法を用いて温度400〜500℃程度で形成する。
反射防止膜4の材質としては、Si3N4膜・TiO2膜・SiO2膜・MgO膜・ITO膜・SnO2膜・ZnO膜などを用いることができる。一般的には、Si3N4膜がパッシベーション性を有することから好適に用いられ、原料ガスとしてシランとアンモニアの混合ガスをRFやマイクロ波などによってプラズマ化し、Si3N4を生成させて反射防止膜4を形成する。
なお、反射防止膜4の厚さは材料によって適宜選択され、入射光に対する無反射条件を実現するようにすればよい。即ち、材料の屈折率をnとし、無反射にしたいスペクトル領域の波長をλとすれば、(λ/n)/4=dを満たすdが反射防止膜4の最適膜厚となる。例えば、一般的に用いられるSi3N4膜(n=約2)の場合は、無反射目的波長を600nmとすれば、膜厚を75nm程度とすればよい。
ここで本発明においては、図3に示すように、本発明の第三の工程であるプラズマCVDによる反射防止膜4形成のためのチャンバ15を、上述した本発明の第二の工程のドライエッチングによる微細な凹凸3形成のチャンバ14と連続して設置する。このような構成としたので、第二の工程であるドライエッチングと第三の工程であるプラズマCVDとをいずれも真空処理装置内に保持したまま実施することができるので、ドライエッチングによって形成された微細な凹凸3部に自然酸化膜が形成されることがない。したがって、自然酸化膜をエッチングする工程が必要ないから、微細な凹凸3部の形状を崩すことがない。さらに、途中の工程で意図しない不純物によって汚染される可能性が少なくなるとともに、第三の工程であるプラズマCVDを開始するときに、真空引きに時間をかける必要がなく、非常に効率的に短時間で処理を行うことができる。
なお、ドライエッチング用のチャンバ14には入口側予備室16を設け、プラズマCVD用のチャンバ15には出口側予備室17を設けることが望ましい。この2つの予備室は真空引きおよび大気開放を行うためのもので、これがあることでドライエッチング用のチャンバ16およびプラズマCVD用のチャンバ15は通常、必要なガスを導入して所定の圧力にする以外は常に真空状態下におくことができる。したがって、装置の起動時や終了時に大気開放をする必要がないので、チャンバの内壁への水分の吸着を防ぐことができ、処理中にアウトガスの発生によるプラズマの不安定化を防ぐことができる。
さらに上述のように、ドライエッチング用のチャンバ14とプラズマCVD用のチャンバ15を連続させることで、図6のように従来の装置構成では必要であったドライエッチング用のチャンバ14の出口側予備室とプラズマCVD用のチャンバ15の入口側予備室とを省略することができ、装置のコストを低減することができる。また、予備室の数が減るため、真空引きを行うための真空ポンプ11も減らすことができ、メンテナンスコストも低減することが可能となる。
また、プラズマCVDにおいては加熱を行いながら膜の堆積を行うことが一般的である。被処理基板を載せたトレイがCVDのチャンバ15に入ってくると、元のトレイが冷えている場合には温度が安定するまでに時間を要する。このため、先のドライエッチングのチャンバ14で加熱しておいたり、またはこのドライエッチングのチャンバ14とプラズマCVDのチャンバ15の間に加熱専用のチャンバ(不図示)を設けたりすることも可能である。この場合でもチャンバ間で大気開放、真空引きを行う必要はなく、本発明が有効である。
また、上述の本発明の第三の工程において反射防止膜4を形成した後、熱処理工程を設けることが望ましい。これは、拡散により逆導電型半導体領域1を形成した後、本発明の第二の工程におけるドライエッチングで微細な凹凸3を形成するときに、この逆導電型半導体領域1にダメージが入って、太陽電池の素子特性が低下してしまうことがあり、反射防止膜4を形成した後に600〜1000℃程度の範囲で熱処理を行うことで、このダメージを緩和して太陽電池の素子特性を向上させることができる。この熱処理は、反射防止膜4を形成したチャンバ15から基板を取り出して別の装置で行っても効果があるが、同一もしくは連続したチャンバ内で行うことが好ましい。連続したチャンバ内で行う場合の装置構成の概要を図4に示す。図4は図3の構成に対して、プラズマCVD用のチャンバ15と出口側予備室17との間に熱処理室18を設けた点が異なっている。例えば、多結晶シリコン太陽電池の場合、この熱処理室18にヒーターを配し、熱処理室18の内部を真空ポンプ11によって、減圧し、真空か非酸化性の雰囲気において、半導体基板2を上述の温度で所定時間加熱してやることにより、逆導電型半導体領域1のダメージを修復し、太陽電池の素子特性を向上させることができる。
上述の本発明の第二の工程において反射防止膜4を形成した後、または熱処理工程の後に、表面電極6と裏面電極7とを形成する。これらの電極の製法としては、金属を含んだペーストを用いた印刷法などの厚膜による成膜プロセスや、スパッタ法、蒸着法などの真空プロセスを用いた成膜プロセスを用いることができるが、本発明においては、電極形成工程として、真空プロセスを用い、上述した第一の工程(ドライエッチング)および第二の工程(プラズマCVD)に引き続いて、大気開放せずに連続して行うことが望ましい。具体的には、これらの工程で用いた真空チャンバと連続した真空チャンバ内でAgなどの電極材料となる金属を半導体基板2の受光面側にマスクによって所定形状となるようにパターニングしながら蒸着やスパッタなどで堆積すればよい。
図5に図4に示した熱処理工程の後、連続したチャンバ内で電極材料を堆積する場合の装置の概略を示す。図5は図4の構成に対して、熱処理室18と出口側予備室17との間に電極形成室19を設けた点が異なっている。この電極形成室19は、スパッタや真空蒸着などの周知の真空プロセスに必要な構成を備えればよい。
表面電極6の材料は、特に限定するものではないが、Ag、Cu、Alといった低抵抗金属を少なくとも1種含む材料を用いることが望ましい。また、裏面電極7の材料についても特に限定するものではないが、シリコン系の太陽電池を用いた場合、シリコンに対して反射率の高いAgを主成分に含む金属を用いることが望ましい。これらの電極材料としては一種類に限るものではなく、目的に応じて複数の材料を積層したり、混合したりすることも可能である。例えば、電極と半導体との界面にTiを主成分とした金属層を挿入すれば、電極の接着強度を高めることができる。
また、電極材料のパターンは、太陽電池素子から集電するために一般的に用いられるパターン、例えば表面電極6の場合であれば、一般的な櫛形パターンとすればよい。さらに、電極を所定形状にするためのマスクとしては、材質・形状は特に問わず、内部の雰囲気などに大きな影響を及ぼさないものであれば使用可能である。電極パターンにあわせたマスクの加工性の面などからは金属で作製するのが簡便である。
なお、表面電極6と裏面電極7については、同一の電極材料を用いて、同時に形成してもよいし、一方を形成した後に他方を形成するようにしてもよい。さらに、同じ電極形成室19の内部で形成してもよいし、連続して大気開放せずに処理可能な第一の電極形成室と第二の電極形成室を設けて、別々に形成することもできる。また、第一の電極形成室と第二の電極形成室は、それぞれスパッタ法と蒸着法を用いるなど、別の成膜方法を用いるようにしてもよい。
本発明においては、このように前工程から連続して大気開放せずに電極を形成するようにしたため、電極を形成する基板の表面を清浄に保つことができる。したがって、電極と基板との密着性を向上させることが可能となる。
さらに、上述の電極(表面電極6、裏面電極7)を形成した後、電極形成室19内、あるいは連続したチャンバ内で電極を熱処理する電極熱処理工程を設けることが望ましい。電極の形成直後は、電極と半導体基板2との表面との接触が十分でないため密着強度が弱く、また反射防止膜4を介して接触しているため、電気的なコンタクトが十分に得られていない。ここで、電極を熱処理することによって、電極と半導体基板2との間の物質移動を促進させて密着強度が向上するとともに、電気的なコンタクトの特性を向上することができる。本発明においては、この電極熱処理工程を、電極形成室19内、あるいはこれに連続させて設けたチャンバ内で行うことにより、基板を大気にさらすことを避けることができる。したがって、電極と半導体基板2の表面との接触面が大気中の水分や不純物などにより汚染されることを避け、密着強度を向上させ、電気的なコンタクトを得やすくすることができる。例えば、多結晶シリコン太陽電池の場合、この電極形成室19内、あるいはこれに連続させて設けたチャンバ内にヒーターを配し、真空もしくは非酸化性の雰囲気下で半導体基板2を600〜1000℃の範囲で所定時間加熱してやることにより、電極と半導体基板2との密着強度を向上させることができる。
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
例えば、上述において、半導体基板2に逆導電型半導体領域1を設けた後、半導体基板2の裏面に高濃度拡散層5(BSF)を設けた例で説明したが、これに限るものではなく、例えば、プラズマCVD法などによって、水素化アモルファスシリコン膜や微結晶シリコン相を含む結晶質シリコン膜などに不純物を高濃度となるようにドーピングして基板温度400℃程度以下、膜厚は10〜200nm程度となるように成膜してもよい。このように真空プロセスを用いて成膜する場合、途中で大気開放することなく連続して成膜できるように装置を構成しておくことが望ましく、微細な凹凸3に自然酸化膜が形成されたり、途中の工程で意図しない不純物によって汚染されたりすることがなく、高品質の太陽電池素子を形成することができるという利点がある。
さらに、上述の例では、電極形成工程を真空プロセスによって成膜した例で説明したがこれに限るものではなく、電極を印刷法などの厚膜プロセスによって形成してもよい。
そして、上述の例ではバルク型の太陽電池によって説明したがこれに限るものではなく、薄膜太陽電池であってもよい。