JP2005044428A - 磁気記録媒体とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高保磁力を有し、かつ磁性結晶粒の磁気的孤立性の確保、即ちS/N比の向上と熱擾乱耐性の維持とを両立して、記録密度の向上を図った磁気記録媒体とその製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基体1上に、少なくとも非磁性金属下地層2、Co基強磁性金属からなる磁性記録層3、非磁性金属キャップ層4を順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層4形成後に、少なくとも前記下地層,磁性記録層およびキャップ層の3つの層を、真空中で加熱処理することとし、特に、非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層にTiを用いる。
【選択図】 図1
【解決手段】非磁性基体1上に、少なくとも非磁性金属下地層2、Co基強磁性金属からなる磁性記録層3、非磁性金属キャップ層4を順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層4形成後に、少なくとも前記下地層,磁性記録層およびキャップ層の3つの層を、真空中で加熱処理することとし、特に、非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層にTiを用いる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁気記録媒体、特にコンピュータ等の情報機器用記憶装置に使用される磁気記録媒体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
情報機器用記憶装置の高記録密度化が進み、磁気記録装置においても情報を読み書きする磁気ヘッドの高度化、および情報が読み書きされる磁気記録媒体の高度化により、磁気記録媒体の高記録密度化が進められている。
【0003】
磁気記録媒体の高記録密度化のためには、強磁性金属からなる磁性記録層の保磁力(Hc)を高くし、かつ情報信号の記録再生を行う際の再生信号と媒体ノイズの比率であるS/N比を高めることが必要である。
【0004】
周知のように、磁気記録媒体は、通常、複数の薄膜の積層構造を有している。図2に、一般的な磁気記録媒体の層構成の模式図を示す。一般に磁気記録媒体は、アルミ合金やガラスなどの非磁性基体1上に、結晶配向性を制御するための非磁性金属下地層2a、情報が記録される磁性記録層3a、磁気ヘッドとの摺動から磁性記録層を保護するための保護層5aを順次成膜することにより製造される。
【0005】
非磁性金属下地層2aの材料としては、一般にCrまたはCr合金に代表される金属薄膜が使用され、磁性記録層3aには、Co基強磁性金属、特にCoとCrを主たる成分とし、これに数種類の元素を添加した磁性薄膜が使用される。なお、基体1にアルミ合金を用いる場合、通常、NiPメッキがなされる。また、保護層にはカーボンなどの耐久性に優れた材料を主体とする薄膜、あるいはカーボンなどを主体とする薄膜に加えてその表面にさらに潤滑材を積層した層が使用される。
【0006】
前記各薄膜の成膜方法としては、薄膜特性の制御が容易で、かつ高品質の薄膜が得られることから、一般にスパッタリング法やCVD法が用いられる。従って、非磁性金属下地層や磁性記録層は、微小な金属結晶粒子あるいは非晶質粒子の集合体から成る。
【0007】
ところで、前記高記録密度化のために、高い保磁力(Hc)を有するものをねらいとした磁気記録媒体とその製造方法に関わり、その構成の一例として、「基板にCoCrTa膜その他の磁性膜を形成してなる磁気記録媒体において、前記CoCrTa膜その他の磁性膜がCr又はCr合金膜を挟んで複数層としてなるもの」が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
上記特許文献1の記載によれば、前記構成により、従来よりは高い保磁力を有するものが得られることが開示されているが、その保磁力は、たかだか2.3kOeであり、まだ十分とはいえず、さらなる保磁力の向上が望まれる。また、特許文献1には、高記録密度化にとって重要な前記S/N比の特性に関しては記載がない。
【0009】
前記S/N比を高めて記録密度を改善するためには、磁気記録媒体の磁化反転体積(Vact:活性化体積ともいう。)を減少させる必要がある。磁化反転体積とは、磁気的相互作用によって磁性記録層内の数個から数十個の磁性粒子により構成された最小磁化反転単位の体積を意味する。磁化反転体積の減少を行うためには、その成り立ちから磁性結晶粒の磁気的孤立化を促進することが必要で、磁性記録層内のCr偏析構造を促進することが必要である。そのため具体的には、例えば面内磁気記録媒体の場合磁性記録層内のCr量を増加する、偏析を促進する他元素を添加するなどの手法が採用されてきた。また垂直磁気記録媒体においては、これら偏析を促進することが困難であることから、磁性粒子径を減少させることで磁化反転単位を減少させることが行われてきた。しかしながら、これらの手法を用いても、磁性結晶粒の磁気的孤立度を表す指標である規格化保磁力(Hc/Hkgrain)は、垂直磁気記録媒体の場合たかだか0.2程度で、理論値の1にはほど遠いのが現状である。上記において、Hkgrainは、強磁性金属層を構成する個々の結晶粒子の異方性磁界である。
【0010】
【特許文献1】
特開平5−334648号公報(第2〜5頁、図1−2)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
記録密度をさらに高めるためには、上述のように磁性結晶粒の磁気的孤立化を促進させることが不可欠である。しかし現在発表されている媒体の規格化保磁力は、前述のように、垂直磁気記録媒体の場合、たかだか0.2程度しかない。その原因は、磁性結晶粒の一軸異方性磁界Hkgrainの値が約20kOeに比較して、比較的高い保磁力Hcを有するようにしたもの(後述)でも、Hcが約4kOeと低いためであると言える。その点で現在を上回る高保磁力媒体を作成する手法が求められている。
【0012】
一方、S/N比向上のために、磁性結晶粒の粒径を維持したままで磁気的孤立性を高めると、磁化反転単位の磁気異方性エネルギーが減少する。その結果、磁気異方性エネルギーと室温のエネルギーとが同程度となり、磁性結晶粒が磁化状態を維持できなくなる熱擾乱(もしくは熱揺らぎ)と呼ばれる現象が発生する。これを回避するためには、磁性結晶粒のKu(一軸磁気異方性定数)を増加させること、すなわち磁性結晶粒のMsもしくはHkgrainを増加させる必要がある。Msを増加させるには磁性記録層の構成元素から考えてCr濃度を減らすより他なく、このことは偏析し粒界を形成する元素の減少に繋がり、磁性結晶粒の磁気的孤立性が悪化することに直結する。
【0013】
一方Hkを増加させるには磁性記録層の構成元素から考えてPt濃度を増加するより他ない。Ptを含有しない磁性記録層ではこの手法を用いる余地はなく、Ptを含有する磁性記録層においても、Pt濃度の増加に対してPtに起因するノイズが増加する現象が報告されており、単純にPt濃度を増加する手法は高記録密度化を考えた場合コスト増加も含め現実的ではない。上記は、従来の手法では磁性結晶粒の磁気的孤立性を犠牲にすること以外では熱擾乱を抑制する手法が存在しないことを意味している。
【0014】
これは現行のプロセスでは磁性結晶粒の磁気的孤立性と熱擾乱耐性の両立が非常に困難であることを意味し、一般に、磁気的孤立性と熱擾乱耐性はトレードオフの関係があるといわれている。しかし、さらなる高記録密度化のためには、磁性結晶粒の磁気的孤立性の確保は必須であり、熱擾乱耐性の維持と磁気的孤立性の確保を両立する手法が望まれている。
【0015】
この発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、この発明の課題は、高保磁力および高Hkgrainを有し、かつ磁性結晶粒の磁気的孤立性の確保、即ちS/N比の向上と熱擾乱耐性の維持とを両立して、記録密度の向上を図った磁気記録媒体とその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するために、この発明は、非磁性基体上に、少なくとも非磁性金属下地層、Co基強磁性金属からなる磁性記録層、非磁性金属キャップ層を順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層形成後に、少なくとも前記下地層,磁性記録層およびキャップ層の3つの層を、真空中で加熱処理することとする(請求項1の発明)。
【0017】
前記製造方法によれば、詳細は後述するように、加熱処理なしの場合と比較して、前記保磁力(Hc)と結晶磁気異方性磁界(Hkgrain)、また磁気的孤立度を表す指標である規格化保磁力(Hc/Hkgrain)とが向上する。このため熱擾乱耐性の低下もそれ程大きくなく、実用上問題がない。上記のような好ましい特性が得られる理由は、前記加熱処理によって、前記非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層中の金属元素の、前記磁性記録層中の結晶粒界への拡散効果によるものと考えられる。
【0018】
なお、前記磁気記録媒体としては、面内磁気記録媒体または垂直磁気記録媒体のいずれでもよい。また、面内磁気記録媒体としては、AFC(反強磁性結合)媒体も含む。前記AFC媒体とは、Ruの超薄膜を介して反強磁性的に結合させ、高密度化を図った媒体であり、例えば、下地層,安定化層(下側磁性層),Ruスペーサー層,上側磁性層,キャップ層,保護層,液体潤滑層からなる。
【0019】
また、前記請求項1の製造方法において、前記加熱処理温度は、250℃以上とすることによりHcの向上効果が得られるので、この温度を下限値とする。また加熱処理温度の上限値は、使用する基体によって異なり、例えばガラス基板を用いる場合には500℃の軟化点、NiPメッキを施したアルミ基板の場合には290℃の磁化点が、上限温度となる。即ち、前記請求項1に記載の製造方法において、前記加熱処理温度は、250〜500℃とする(請求項2の発明)。
【0020】
さらに、前記発明における磁性記録層,非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層等の材料や膜厚などの実施態様としては、下記請求項3ないし8の発明が好ましい。即ち、前記請求項1または2に記載の製造方法において、前記磁性記録層のCo基強磁性金属は、CoとCrを主たる成分とし、六方最密構造を有するものとする(請求項3の発明)。
【0021】
また、前記請求項3に記載の製造方法において、前記Co基強磁性金属は、CoCr(Cr<25at%)、CoCrNi、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrPtBの内のいずれか1種とする(請求項4の発明)。
【0022】
さらに、前記請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法において、前記非磁性金属下地層は、少なくともTi、Ta、Ru、Cu、Pt、Cr、Mn、Si、W、Mo、Zrのいずれか1種もしくは前記元素を主成分とする合金を含むものとする(請求項5の発明)。さらにまた、請求項5に記載の製造方法において、前記非磁性金属下地層の膜厚は、少なくとも5nm以上とする(請求項6の発明)。なお、前記下地層膜厚の下限値は、後述するようにHc改善の観点から決められるが、下地層膜厚の上限値は、特性上のしきい値は特になく、製造コストなど他の要因を考慮して設計上決められる。
【0023】
また、前記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層は、少なくともTi、Ta、Ru、Cu、Pt、Cr、Mn、Si、W、Mo、Zrのいずれか1種もしくは前記元素を主成分とする合金を含むものとする(請求項7の発明)。さらに、前記請求項7に記載の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層の膜厚は、少なくとも0.5nm以上とする(請求項8の発明)。なお、前記非磁性金属キャップ層の膜厚は、後述するように、特性上は厚膜程好ましいが、製膜の安定性の理由から下限値を設定する。上限値は、製造コストなど他の要因を考慮して設計上決められる。
【0024】
また、磁気記録媒体の構成に関しては、保磁力や規格化保磁力等の特性向上の観点から、特に、下記請求項9の発明が好ましい。即ち、非磁性基体上に、少なくとも非磁性金属下地層、Co基強磁性金属からなる磁性記録層、非磁性金属キャップ層およびカーボン保護層を順次形成してなる磁気記録媒体において、前記非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層は、TiもしくはTiを主成分とする合金薄膜からなるものとする。
【0025】
【発明の実施の形態】
図面に基づき、この発明の実施例について以下にのべる。
【0026】
図1は、この発明の実施例に関わる磁気記録媒体の模式的構成断面図を示す。図1において、図2と同一機能を有する部材には同一番号を付して詳細説明を省略する。1は非磁性基体、2は下地層、3は磁性記録層、4はキャップ層(Cap層)、5はカーボン保護層であり、例えば、ガラス基板上に、非磁性金属下地層、Co合金磁性記録層、非磁性金属キャップ層、カーボン保護層が、順次DCマグネトロンスパッタにより成膜される。
【0027】
上記において、成膜装置の到達真空度は4×10−5Pa(3×10−7Torr)以下とした。本実施例においては、前記Co合金磁性層は、69at%Co−16at%Cr−15at%Ptを用いたが、CoとCrを主たる成分とし、六方最密構造(hexagonal closest packed structure, hcp)を有する磁性膜を用いることが好ましく、必要に応じて他の元素を添加したものであっても良い。具体的な磁性記録層を構成する材料としては、CoCr(Cr<25at%)、CoCrNi、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrPtB等の合金が挙げられる。
【0028】
実施例の非磁性金属下地層としては、Coの膜面垂直方向への結晶配向性を促進する純Tiを用い、膜厚は特に指定がない場合25nmとした。また、非磁性金属キャップ層としては、同様に純Tiを用い、その膜厚は特に指定がない場合5nmとした。いずれの金属薄膜についても、ターゲット組成と成膜される薄膜の組成はほぼ等しいことが確認されている。
【0029】
基板の外形は外周φ65mm−内周φ20mmのドーナツ状で、その厚さは0.635mmである。カーボン保護層の膜厚は7nmとした。スパッタ時のアルゴン圧力は0.6Pa一定とした。磁性記録層成膜前には約300℃、非磁性金属キャップ層成膜後は特に指定がない場合,340℃になるように真空中で基板加熱処理を行った。
【0030】
ところで、磁気的孤立度を表す指標としては、前述のように、規格化保磁力(Hc/Hkgrain)が用いられるが、本実施例ではHkgrainの変化幅以上にHcの変化幅が大きいため、Hcの挙動によってHc/Hkgrainの挙動を説明することは実効上問題ない。そのため一部を除きHcのみの挙動に関して述べることとする。以下に、本実施例の各種実験結果について述べる。なお、以下に述べる図3ないし図8の実験結果は、図1に示す磁気記録媒体の構成を有する。
【0031】
まず、図3について述べる。図3は、非磁性金属キャップ層成膜後に行う加熱処理温度(Tanl.)の変化に伴うHcの変化に関する実験結果を示す。図3によれば、250℃以上の加熱を行うことで、Hcの改善が見られ、300℃以上の加熱で8kOeと加熱なしの4kOeから大幅な改善がみられる。なお、上記加熱なしの4kOeの値であっても、前述の特許文献1に開示された値より大きい。これは、本件請求項9の発明のように、非磁性金属キャップ層と非磁性金属下地層にTiを用いた効果である。またこの媒体のHkgrainは27kOeと加熱なしの19kOeから大幅に増加しており、Hc/Hkgrainは加熱なしの0.21から0.3へと改善している。加えて、このHkgrainの増加によって熱擾乱耐性が高い媒体であることが確認されている。
【0032】
図3において加熱処理温度は、350℃までの実験結果を示すが、その上限温度は、前述のように、用いる基体によって制限され、ガラス基板では500℃の軟体点、NiPメッキを施したアルミ基板では290℃の磁化点がそれに相当する。従って、250℃以上で効果を発揮する本発明は基体材料を制限するものではない。
【0033】
次に、図4について述べる。図4は、非磁性金属下地層膜厚(dTi Und)とHcとの関係の実験結果を示し、本件発明に係る加熱処理した場合(図中、annealed)と、従来技術に係る加熱なしの場合とを比較して示す。図4によれば、非磁性金属キャップ層成膜後340℃の加熱処理をした場合、非磁性金属下地層膜厚が5nm以上において、Hcの向上効果が確認できる。後に詳述するが、この現象は磁性記録層に対する非磁性金属下地金属の拡散効果と考えられ、この観点から、複数の層からなる非磁性金属下地層の場合であっても、磁性記録層に接する非磁性金属下地層に関してのみ組成および膜厚を制御することにより、同様の効果が得られると考えられる。また、同様の観点から、非磁性金属下地層と基体とが連続する構成である必要はなく、他の層を挿入した場合においても、同様の効果が得られると考えられる。
【0034】
次に、図5について述べる。図5は、非磁性金属キャップ層膜厚(dTi Cap)とHcとの関係の実験結果を示す。図5によれば、膜厚0.5nm設けることで、キャップ層が0nmである従来媒体に対するHcの改善が認められる。一般にスパッタによる製膜方法の場合、5nm以下の極薄い膜を、物性,膜厚ともに安定して均一に成膜するのは困難である。特に、0.5nm未満の領域は、それが顕著となることから、本件発明においては、0.5nm未満を適用外とした。膜厚0.5nm以上では、生産性の点を考慮すればより厚膜であることが好ましく、必要とされる改善幅に応じて非磁性金属キャップ膜厚を適宜選択することが好ましい。同様に、前述の非磁性金属下地層膜厚に関しても、生産性を維持し得る範囲での厚膜であることが好ましい。
【0035】
次に、図6について述べる。図6は、磁性記録層膜厚(dmag eff)と規格化保磁力(Hc/Hkgrain)との関係の実験結果を示し、本件発明に係る加熱処理した場合(図中、annealed)と、加熱なしの場合とを比較して示す。なお、図6の規格化保磁力は、純Ti(25nm)/CoCrPt/純Ti(5nm)成膜後340℃の加熱を施した媒体の規格化保磁力を、加熱なしの場合と比較して示す。
【0036】
図6によれば、種々の磁性記録層膜厚に対し、加熱なしの媒体より本件発明に係る規格化保磁力の値は、それぞれ0.1程度大きな値を示し、また、磁性記録層膜厚(dmag eff)が25nmの場合に規格化保磁力は最大で、その値は、0.3を示すことが確認できる。
【0037】
次に、図7について述べる。図7は、磁性記録層膜厚(dmag eff)と磁化反転体積(Vact)との関係の実験結果を示し、本件発明に係る加熱処理した場合(図中、annealed)と、加熱なしの場合とを比較して示す。図7によれば、加熱処理した場合、加熱なしの場合よりも、Vactは約1/2と小さく、これにより、高保磁力化による規格化保磁力の改善が磁化反転体積の減少に繋がっていることが確認できる。
【0038】
次に、図8について述べる。図8は、磁気記録媒体の磁化反転体積径(GDact)とX線回折より求めた磁性結晶粒径(GDphys.)との関係の比較を示す。加熱処理した場合、加熱なしとは異なり、磁化反転体積径が磁性結晶粒径と等しいラインに接近していることが確認される。このことは、非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層中のTiが、加熱処理によって磁性記録層に拡散しているということで説明できる。
【0039】
またこの状態は、磁性結晶粒の孤立化が進み、各々の磁性結晶粒が最小磁化反転単位となっている理想状態に近づいていることを示している。さらに、熱擾乱耐性を示す指標であるKuVact/kTは、加熱なしの媒体が180であるのに対し、非磁性キャップ層の導入およびその後の加熱を行った媒体はHkgrainの増加によって150とわずかな減少幅に留まっていることが、別途実験の結果判明しており、実用下限とされる80にはまだ十分のマージンを有している。なお、上記KuVact/kTにおいて、Vactは前記磁化反転体積、Kuは磁性粒子の異方性エネルギー、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。
【0040】
以上のように、非磁性金属キャップ層の挿入およびその後の加熱処理による磁化反転体積の減少により、熱擾乱耐性をそれ程劣化させることなく磁性結晶粒の孤立化が促進できる。なお、本発明に係る磁気記録媒体を作製する場合、前述のように、非磁性金属下地層および磁性記録層および非磁性金属キャップ層を成膜する成膜室の到達真空度を10−5Pa台(10−7Torr台)とする現行量産機で用いられている真空度の成膜室を用いることができるが、当然ながら、超清浄プロセス(UCプロセス)、即ち、成膜室の到達真空度を10−7Pa台(10−9Torr台)とし、成膜用ガスの不純物濃度を1ppb以下とするような超クリーンなプロセスを用いることもでき、またその方が、特性向上の観点からは望ましい。
【0041】
【発明の効果】
上記のとおり、この発明によれば、非磁性基体上に、少なくとも非磁性金属下地層、Co基強磁性金属からなる磁性記録層、非磁性金属キャップ層を順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層形成後に、少なくとも前記下地層,磁性記録層およびキャップ層の3つの層を、真空中で加熱処理することとし、特に、非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層にTiを用いることにより、高保磁力を有し、かつ磁性結晶粒の磁気的孤立性の確保、即ちS/N比の向上と熱擾乱耐性の維持とを両立して、記録密度の向上を図った磁気記録媒体とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例に関わる磁気記録媒体の模式的構成断面図
【図2】従来の磁気記録媒体の一例の模式的構成断面図
【図3】加熱処理温度とHcとの関係の実験結果を示す図
【図4】非磁性金属下地層膜厚とHcとの関係の実験結果を示す図
【図5】非磁性金属キャップ層膜厚とHcとの関係の実験結果を示す図
【図6】磁性記録層膜厚と規格化保磁力との関係の実験結果を示す図
【図7】磁性記録層膜厚と磁化反転体積との関係の実験結果を示す図
【図8】磁気記録媒体の磁化反転体積径とX線回折より求めた磁性結晶粒径との関係の比較実験結果を示す図
【符号の説明】
1:非磁性基体、2:下地層、3:磁性記録層、4:キャップ層、5:カーボン保護層。
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁気記録媒体、特にコンピュータ等の情報機器用記憶装置に使用される磁気記録媒体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
情報機器用記憶装置の高記録密度化が進み、磁気記録装置においても情報を読み書きする磁気ヘッドの高度化、および情報が読み書きされる磁気記録媒体の高度化により、磁気記録媒体の高記録密度化が進められている。
【0003】
磁気記録媒体の高記録密度化のためには、強磁性金属からなる磁性記録層の保磁力(Hc)を高くし、かつ情報信号の記録再生を行う際の再生信号と媒体ノイズの比率であるS/N比を高めることが必要である。
【0004】
周知のように、磁気記録媒体は、通常、複数の薄膜の積層構造を有している。図2に、一般的な磁気記録媒体の層構成の模式図を示す。一般に磁気記録媒体は、アルミ合金やガラスなどの非磁性基体1上に、結晶配向性を制御するための非磁性金属下地層2a、情報が記録される磁性記録層3a、磁気ヘッドとの摺動から磁性記録層を保護するための保護層5aを順次成膜することにより製造される。
【0005】
非磁性金属下地層2aの材料としては、一般にCrまたはCr合金に代表される金属薄膜が使用され、磁性記録層3aには、Co基強磁性金属、特にCoとCrを主たる成分とし、これに数種類の元素を添加した磁性薄膜が使用される。なお、基体1にアルミ合金を用いる場合、通常、NiPメッキがなされる。また、保護層にはカーボンなどの耐久性に優れた材料を主体とする薄膜、あるいはカーボンなどを主体とする薄膜に加えてその表面にさらに潤滑材を積層した層が使用される。
【0006】
前記各薄膜の成膜方法としては、薄膜特性の制御が容易で、かつ高品質の薄膜が得られることから、一般にスパッタリング法やCVD法が用いられる。従って、非磁性金属下地層や磁性記録層は、微小な金属結晶粒子あるいは非晶質粒子の集合体から成る。
【0007】
ところで、前記高記録密度化のために、高い保磁力(Hc)を有するものをねらいとした磁気記録媒体とその製造方法に関わり、その構成の一例として、「基板にCoCrTa膜その他の磁性膜を形成してなる磁気記録媒体において、前記CoCrTa膜その他の磁性膜がCr又はCr合金膜を挟んで複数層としてなるもの」が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
上記特許文献1の記載によれば、前記構成により、従来よりは高い保磁力を有するものが得られることが開示されているが、その保磁力は、たかだか2.3kOeであり、まだ十分とはいえず、さらなる保磁力の向上が望まれる。また、特許文献1には、高記録密度化にとって重要な前記S/N比の特性に関しては記載がない。
【0009】
前記S/N比を高めて記録密度を改善するためには、磁気記録媒体の磁化反転体積(Vact:活性化体積ともいう。)を減少させる必要がある。磁化反転体積とは、磁気的相互作用によって磁性記録層内の数個から数十個の磁性粒子により構成された最小磁化反転単位の体積を意味する。磁化反転体積の減少を行うためには、その成り立ちから磁性結晶粒の磁気的孤立化を促進することが必要で、磁性記録層内のCr偏析構造を促進することが必要である。そのため具体的には、例えば面内磁気記録媒体の場合磁性記録層内のCr量を増加する、偏析を促進する他元素を添加するなどの手法が採用されてきた。また垂直磁気記録媒体においては、これら偏析を促進することが困難であることから、磁性粒子径を減少させることで磁化反転単位を減少させることが行われてきた。しかしながら、これらの手法を用いても、磁性結晶粒の磁気的孤立度を表す指標である規格化保磁力(Hc/Hkgrain)は、垂直磁気記録媒体の場合たかだか0.2程度で、理論値の1にはほど遠いのが現状である。上記において、Hkgrainは、強磁性金属層を構成する個々の結晶粒子の異方性磁界である。
【0010】
【特許文献1】
特開平5−334648号公報(第2〜5頁、図1−2)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
記録密度をさらに高めるためには、上述のように磁性結晶粒の磁気的孤立化を促進させることが不可欠である。しかし現在発表されている媒体の規格化保磁力は、前述のように、垂直磁気記録媒体の場合、たかだか0.2程度しかない。その原因は、磁性結晶粒の一軸異方性磁界Hkgrainの値が約20kOeに比較して、比較的高い保磁力Hcを有するようにしたもの(後述)でも、Hcが約4kOeと低いためであると言える。その点で現在を上回る高保磁力媒体を作成する手法が求められている。
【0012】
一方、S/N比向上のために、磁性結晶粒の粒径を維持したままで磁気的孤立性を高めると、磁化反転単位の磁気異方性エネルギーが減少する。その結果、磁気異方性エネルギーと室温のエネルギーとが同程度となり、磁性結晶粒が磁化状態を維持できなくなる熱擾乱(もしくは熱揺らぎ)と呼ばれる現象が発生する。これを回避するためには、磁性結晶粒のKu(一軸磁気異方性定数)を増加させること、すなわち磁性結晶粒のMsもしくはHkgrainを増加させる必要がある。Msを増加させるには磁性記録層の構成元素から考えてCr濃度を減らすより他なく、このことは偏析し粒界を形成する元素の減少に繋がり、磁性結晶粒の磁気的孤立性が悪化することに直結する。
【0013】
一方Hkを増加させるには磁性記録層の構成元素から考えてPt濃度を増加するより他ない。Ptを含有しない磁性記録層ではこの手法を用いる余地はなく、Ptを含有する磁性記録層においても、Pt濃度の増加に対してPtに起因するノイズが増加する現象が報告されており、単純にPt濃度を増加する手法は高記録密度化を考えた場合コスト増加も含め現実的ではない。上記は、従来の手法では磁性結晶粒の磁気的孤立性を犠牲にすること以外では熱擾乱を抑制する手法が存在しないことを意味している。
【0014】
これは現行のプロセスでは磁性結晶粒の磁気的孤立性と熱擾乱耐性の両立が非常に困難であることを意味し、一般に、磁気的孤立性と熱擾乱耐性はトレードオフの関係があるといわれている。しかし、さらなる高記録密度化のためには、磁性結晶粒の磁気的孤立性の確保は必須であり、熱擾乱耐性の維持と磁気的孤立性の確保を両立する手法が望まれている。
【0015】
この発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、この発明の課題は、高保磁力および高Hkgrainを有し、かつ磁性結晶粒の磁気的孤立性の確保、即ちS/N比の向上と熱擾乱耐性の維持とを両立して、記録密度の向上を図った磁気記録媒体とその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するために、この発明は、非磁性基体上に、少なくとも非磁性金属下地層、Co基強磁性金属からなる磁性記録層、非磁性金属キャップ層を順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層形成後に、少なくとも前記下地層,磁性記録層およびキャップ層の3つの層を、真空中で加熱処理することとする(請求項1の発明)。
【0017】
前記製造方法によれば、詳細は後述するように、加熱処理なしの場合と比較して、前記保磁力(Hc)と結晶磁気異方性磁界(Hkgrain)、また磁気的孤立度を表す指標である規格化保磁力(Hc/Hkgrain)とが向上する。このため熱擾乱耐性の低下もそれ程大きくなく、実用上問題がない。上記のような好ましい特性が得られる理由は、前記加熱処理によって、前記非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層中の金属元素の、前記磁性記録層中の結晶粒界への拡散効果によるものと考えられる。
【0018】
なお、前記磁気記録媒体としては、面内磁気記録媒体または垂直磁気記録媒体のいずれでもよい。また、面内磁気記録媒体としては、AFC(反強磁性結合)媒体も含む。前記AFC媒体とは、Ruの超薄膜を介して反強磁性的に結合させ、高密度化を図った媒体であり、例えば、下地層,安定化層(下側磁性層),Ruスペーサー層,上側磁性層,キャップ層,保護層,液体潤滑層からなる。
【0019】
また、前記請求項1の製造方法において、前記加熱処理温度は、250℃以上とすることによりHcの向上効果が得られるので、この温度を下限値とする。また加熱処理温度の上限値は、使用する基体によって異なり、例えばガラス基板を用いる場合には500℃の軟化点、NiPメッキを施したアルミ基板の場合には290℃の磁化点が、上限温度となる。即ち、前記請求項1に記載の製造方法において、前記加熱処理温度は、250〜500℃とする(請求項2の発明)。
【0020】
さらに、前記発明における磁性記録層,非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層等の材料や膜厚などの実施態様としては、下記請求項3ないし8の発明が好ましい。即ち、前記請求項1または2に記載の製造方法において、前記磁性記録層のCo基強磁性金属は、CoとCrを主たる成分とし、六方最密構造を有するものとする(請求項3の発明)。
【0021】
また、前記請求項3に記載の製造方法において、前記Co基強磁性金属は、CoCr(Cr<25at%)、CoCrNi、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrPtBの内のいずれか1種とする(請求項4の発明)。
【0022】
さらに、前記請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法において、前記非磁性金属下地層は、少なくともTi、Ta、Ru、Cu、Pt、Cr、Mn、Si、W、Mo、Zrのいずれか1種もしくは前記元素を主成分とする合金を含むものとする(請求項5の発明)。さらにまた、請求項5に記載の製造方法において、前記非磁性金属下地層の膜厚は、少なくとも5nm以上とする(請求項6の発明)。なお、前記下地層膜厚の下限値は、後述するようにHc改善の観点から決められるが、下地層膜厚の上限値は、特性上のしきい値は特になく、製造コストなど他の要因を考慮して設計上決められる。
【0023】
また、前記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層は、少なくともTi、Ta、Ru、Cu、Pt、Cr、Mn、Si、W、Mo、Zrのいずれか1種もしくは前記元素を主成分とする合金を含むものとする(請求項7の発明)。さらに、前記請求項7に記載の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層の膜厚は、少なくとも0.5nm以上とする(請求項8の発明)。なお、前記非磁性金属キャップ層の膜厚は、後述するように、特性上は厚膜程好ましいが、製膜の安定性の理由から下限値を設定する。上限値は、製造コストなど他の要因を考慮して設計上決められる。
【0024】
また、磁気記録媒体の構成に関しては、保磁力や規格化保磁力等の特性向上の観点から、特に、下記請求項9の発明が好ましい。即ち、非磁性基体上に、少なくとも非磁性金属下地層、Co基強磁性金属からなる磁性記録層、非磁性金属キャップ層およびカーボン保護層を順次形成してなる磁気記録媒体において、前記非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層は、TiもしくはTiを主成分とする合金薄膜からなるものとする。
【0025】
【発明の実施の形態】
図面に基づき、この発明の実施例について以下にのべる。
【0026】
図1は、この発明の実施例に関わる磁気記録媒体の模式的構成断面図を示す。図1において、図2と同一機能を有する部材には同一番号を付して詳細説明を省略する。1は非磁性基体、2は下地層、3は磁性記録層、4はキャップ層(Cap層)、5はカーボン保護層であり、例えば、ガラス基板上に、非磁性金属下地層、Co合金磁性記録層、非磁性金属キャップ層、カーボン保護層が、順次DCマグネトロンスパッタにより成膜される。
【0027】
上記において、成膜装置の到達真空度は4×10−5Pa(3×10−7Torr)以下とした。本実施例においては、前記Co合金磁性層は、69at%Co−16at%Cr−15at%Ptを用いたが、CoとCrを主たる成分とし、六方最密構造(hexagonal closest packed structure, hcp)を有する磁性膜を用いることが好ましく、必要に応じて他の元素を添加したものであっても良い。具体的な磁性記録層を構成する材料としては、CoCr(Cr<25at%)、CoCrNi、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrPtB等の合金が挙げられる。
【0028】
実施例の非磁性金属下地層としては、Coの膜面垂直方向への結晶配向性を促進する純Tiを用い、膜厚は特に指定がない場合25nmとした。また、非磁性金属キャップ層としては、同様に純Tiを用い、その膜厚は特に指定がない場合5nmとした。いずれの金属薄膜についても、ターゲット組成と成膜される薄膜の組成はほぼ等しいことが確認されている。
【0029】
基板の外形は外周φ65mm−内周φ20mmのドーナツ状で、その厚さは0.635mmである。カーボン保護層の膜厚は7nmとした。スパッタ時のアルゴン圧力は0.6Pa一定とした。磁性記録層成膜前には約300℃、非磁性金属キャップ層成膜後は特に指定がない場合,340℃になるように真空中で基板加熱処理を行った。
【0030】
ところで、磁気的孤立度を表す指標としては、前述のように、規格化保磁力(Hc/Hkgrain)が用いられるが、本実施例ではHkgrainの変化幅以上にHcの変化幅が大きいため、Hcの挙動によってHc/Hkgrainの挙動を説明することは実効上問題ない。そのため一部を除きHcのみの挙動に関して述べることとする。以下に、本実施例の各種実験結果について述べる。なお、以下に述べる図3ないし図8の実験結果は、図1に示す磁気記録媒体の構成を有する。
【0031】
まず、図3について述べる。図3は、非磁性金属キャップ層成膜後に行う加熱処理温度(Tanl.)の変化に伴うHcの変化に関する実験結果を示す。図3によれば、250℃以上の加熱を行うことで、Hcの改善が見られ、300℃以上の加熱で8kOeと加熱なしの4kOeから大幅な改善がみられる。なお、上記加熱なしの4kOeの値であっても、前述の特許文献1に開示された値より大きい。これは、本件請求項9の発明のように、非磁性金属キャップ層と非磁性金属下地層にTiを用いた効果である。またこの媒体のHkgrainは27kOeと加熱なしの19kOeから大幅に増加しており、Hc/Hkgrainは加熱なしの0.21から0.3へと改善している。加えて、このHkgrainの増加によって熱擾乱耐性が高い媒体であることが確認されている。
【0032】
図3において加熱処理温度は、350℃までの実験結果を示すが、その上限温度は、前述のように、用いる基体によって制限され、ガラス基板では500℃の軟体点、NiPメッキを施したアルミ基板では290℃の磁化点がそれに相当する。従って、250℃以上で効果を発揮する本発明は基体材料を制限するものではない。
【0033】
次に、図4について述べる。図4は、非磁性金属下地層膜厚(dTi Und)とHcとの関係の実験結果を示し、本件発明に係る加熱処理した場合(図中、annealed)と、従来技術に係る加熱なしの場合とを比較して示す。図4によれば、非磁性金属キャップ層成膜後340℃の加熱処理をした場合、非磁性金属下地層膜厚が5nm以上において、Hcの向上効果が確認できる。後に詳述するが、この現象は磁性記録層に対する非磁性金属下地金属の拡散効果と考えられ、この観点から、複数の層からなる非磁性金属下地層の場合であっても、磁性記録層に接する非磁性金属下地層に関してのみ組成および膜厚を制御することにより、同様の効果が得られると考えられる。また、同様の観点から、非磁性金属下地層と基体とが連続する構成である必要はなく、他の層を挿入した場合においても、同様の効果が得られると考えられる。
【0034】
次に、図5について述べる。図5は、非磁性金属キャップ層膜厚(dTi Cap)とHcとの関係の実験結果を示す。図5によれば、膜厚0.5nm設けることで、キャップ層が0nmである従来媒体に対するHcの改善が認められる。一般にスパッタによる製膜方法の場合、5nm以下の極薄い膜を、物性,膜厚ともに安定して均一に成膜するのは困難である。特に、0.5nm未満の領域は、それが顕著となることから、本件発明においては、0.5nm未満を適用外とした。膜厚0.5nm以上では、生産性の点を考慮すればより厚膜であることが好ましく、必要とされる改善幅に応じて非磁性金属キャップ膜厚を適宜選択することが好ましい。同様に、前述の非磁性金属下地層膜厚に関しても、生産性を維持し得る範囲での厚膜であることが好ましい。
【0035】
次に、図6について述べる。図6は、磁性記録層膜厚(dmag eff)と規格化保磁力(Hc/Hkgrain)との関係の実験結果を示し、本件発明に係る加熱処理した場合(図中、annealed)と、加熱なしの場合とを比較して示す。なお、図6の規格化保磁力は、純Ti(25nm)/CoCrPt/純Ti(5nm)成膜後340℃の加熱を施した媒体の規格化保磁力を、加熱なしの場合と比較して示す。
【0036】
図6によれば、種々の磁性記録層膜厚に対し、加熱なしの媒体より本件発明に係る規格化保磁力の値は、それぞれ0.1程度大きな値を示し、また、磁性記録層膜厚(dmag eff)が25nmの場合に規格化保磁力は最大で、その値は、0.3を示すことが確認できる。
【0037】
次に、図7について述べる。図7は、磁性記録層膜厚(dmag eff)と磁化反転体積(Vact)との関係の実験結果を示し、本件発明に係る加熱処理した場合(図中、annealed)と、加熱なしの場合とを比較して示す。図7によれば、加熱処理した場合、加熱なしの場合よりも、Vactは約1/2と小さく、これにより、高保磁力化による規格化保磁力の改善が磁化反転体積の減少に繋がっていることが確認できる。
【0038】
次に、図8について述べる。図8は、磁気記録媒体の磁化反転体積径(GDact)とX線回折より求めた磁性結晶粒径(GDphys.)との関係の比較を示す。加熱処理した場合、加熱なしとは異なり、磁化反転体積径が磁性結晶粒径と等しいラインに接近していることが確認される。このことは、非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層中のTiが、加熱処理によって磁性記録層に拡散しているということで説明できる。
【0039】
またこの状態は、磁性結晶粒の孤立化が進み、各々の磁性結晶粒が最小磁化反転単位となっている理想状態に近づいていることを示している。さらに、熱擾乱耐性を示す指標であるKuVact/kTは、加熱なしの媒体が180であるのに対し、非磁性キャップ層の導入およびその後の加熱を行った媒体はHkgrainの増加によって150とわずかな減少幅に留まっていることが、別途実験の結果判明しており、実用下限とされる80にはまだ十分のマージンを有している。なお、上記KuVact/kTにおいて、Vactは前記磁化反転体積、Kuは磁性粒子の異方性エネルギー、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。
【0040】
以上のように、非磁性金属キャップ層の挿入およびその後の加熱処理による磁化反転体積の減少により、熱擾乱耐性をそれ程劣化させることなく磁性結晶粒の孤立化が促進できる。なお、本発明に係る磁気記録媒体を作製する場合、前述のように、非磁性金属下地層および磁性記録層および非磁性金属キャップ層を成膜する成膜室の到達真空度を10−5Pa台(10−7Torr台)とする現行量産機で用いられている真空度の成膜室を用いることができるが、当然ながら、超清浄プロセス(UCプロセス)、即ち、成膜室の到達真空度を10−7Pa台(10−9Torr台)とし、成膜用ガスの不純物濃度を1ppb以下とするような超クリーンなプロセスを用いることもでき、またその方が、特性向上の観点からは望ましい。
【0041】
【発明の効果】
上記のとおり、この発明によれば、非磁性基体上に、少なくとも非磁性金属下地層、Co基強磁性金属からなる磁性記録層、非磁性金属キャップ層を順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層形成後に、少なくとも前記下地層,磁性記録層およびキャップ層の3つの層を、真空中で加熱処理することとし、特に、非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層にTiを用いることにより、高保磁力を有し、かつ磁性結晶粒の磁気的孤立性の確保、即ちS/N比の向上と熱擾乱耐性の維持とを両立して、記録密度の向上を図った磁気記録媒体とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例に関わる磁気記録媒体の模式的構成断面図
【図2】従来の磁気記録媒体の一例の模式的構成断面図
【図3】加熱処理温度とHcとの関係の実験結果を示す図
【図4】非磁性金属下地層膜厚とHcとの関係の実験結果を示す図
【図5】非磁性金属キャップ層膜厚とHcとの関係の実験結果を示す図
【図6】磁性記録層膜厚と規格化保磁力との関係の実験結果を示す図
【図7】磁性記録層膜厚と磁化反転体積との関係の実験結果を示す図
【図8】磁気記録媒体の磁化反転体積径とX線回折より求めた磁性結晶粒径との関係の比較実験結果を示す図
【符号の説明】
1:非磁性基体、2:下地層、3:磁性記録層、4:キャップ層、5:カーボン保護層。
Claims (9)
- 非磁性基体上に、少なくとも非磁性金属下地層、Co基強磁性金属からなる磁性記録層、非磁性金属キャップ層を順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層形成後に、少なくとも前記下地層,磁性記録層およびキャップ層の3つの層を、真空中で加熱処理することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 請求項1に記載の製造方法において、前記加熱処理温度は、250〜500℃とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 請求項1または2に記載の製造方法において、前記磁性記録層のCo基強磁性金属は、CoとCrを主たる成分とし、六方最密構造を有するものとすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 請求項3に記載の製造方法において、前記Co基強磁性金属は、CoCr(Cr<25at%)、CoCrNi、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrPtBの内のいずれか1種とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法において、前記非磁性金属下地層は、少なくともTi、Ta、Ru、Cu、Pt、Cr、Mn、Si、W、Mo、Zrのいずれか1種もしくは前記元素を主成分とする合金を含むものとすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 請求項5に記載の製造方法において、前記非磁性金属下地層の膜厚は、少なくとも5nm以上とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層は、少なくともTi、Ta、Ru、Cu、Pt、Cr、Mn、Si、W、Mo、Zrのいずれか1種もしくは前記元素を主成分とする合金を含むものとすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 請求項7に記載の製造方法において、前記非磁性金属キャップ層の膜厚は、少なくとも0.5nm以上とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 非磁性基体上に、少なくとも非磁性金属下地層、Co基強磁性金属からなる磁性記録層、非磁性金属キャップ層およびカーボン保護層を順次形成してなる磁気記録媒体において、前記非磁性金属下地層および非磁性金属キャップ層は、TiもしくはTiを主成分とする合金薄膜からなることを特徴とする磁気記録媒体。
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JP2010102757A (ja) * | 2008-10-21 | 2010-05-06 | Showa Denko Kk | 磁気記憶媒体、磁気記憶媒体製造方法および情報記憶装置 |
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2003
- 2003-07-28 JP JP2003202170A patent/JP2005044428A/ja active Pending
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