JP4534347B2 - 磁気記録媒体およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンピュータの外部記憶装置およびAV−HDDをはじめとする各種磁気記録媒体装置に用いられる磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
より高い記録密度と低ノイズの要求が、近年急速になされている磁気記録媒体に対し、従来から様々な磁性層の組成および構造、ならびに非磁性下地層およびSeed層の材料などが提案されている。特に近年、一般にグラニュラー磁性層と呼ばれる、磁性結晶粒の周囲を酸化物や窒化物のような非磁性非金属物質で囲んだ構造をもつ磁性層が提案されている。
【0003】
例えば、特開平8−255342号公報には、非磁性基板上に非磁性膜、強磁性膜、非磁性膜を順次積層した後、加熱処理を行うことにより、非磁性膜中に強磁性の結晶粒が分散したグラニュラー記録層を形成することによって低ノイズ化を図ることが記載されている。この場合の磁性層としてはコバルトまたはコバルトを主成分とする合金が用いられており、非磁性膜としては、金属、酸化物、窒化物、炭素または炭化物などが用いられている。また、USP5,679,473号には、SiO2などの酸化物が添加されたCoNiPtターゲットを用い、RF(radio frequency)スパッタリングを行うことによって磁性結晶粒が、非磁性の酸化物で囲まれて個々に分離した構造をもつグラニュラー記録膜が形成でき、高いHcと低ノイズ化が実現されることが記載されている。
【0004】
このようなグラニュラー磁性膜は、非磁性非金属の粒界相が磁性粒子を物理的に分離するため、磁性粒子間の磁気的な相互作用が低下し、記録ビットの遷移領域に生じるジグザグ磁壁の形成を抑制するので、低ノイズ特性が得られると考えられている。
【0005】
記録媒体のノイズの起因は、媒体を構成する磁性粒子のサイズおよび磁気的な粒子間相互作用による磁化の揺らぎである。記録密度の向上にあわせ高SNRを維持するためには、1ビットセル当たりの磁性粒子数を一定値以上に保つこと、つまり磁性粒子の微細化が必要である。しかし、磁性粒子間に大きな交換相互作用が働く状態では、結晶粒子の微細化が必ずしも磁化反転単位の微細化を意味しないことが多い。このため、活性化磁気モーメントで示される磁化反転単位そのものを小さくするために、粒子間交換相互作用を抑圧することもあわせて必要となる。さらに微細化に際し、超常磁性状態に陥らず、高分解能記録に必須の磁気特性(Hc/Mrtを大きく)を得られるように、磁性粒子自体にある程度大きな磁気異方性エネルギーが必要となる。非磁性マトリクス中に高磁気異方性エネルギーの磁性粒子を分散させるグラニュラー構造の狙いは、高SNR化の為に上述の厳しい要求をすべて満足することにある。
【0006】
従来用いられていたCoCr系金属磁性膜は、高温で成膜することによりCrがCo系磁性粒から偏析することで粒界に析出し、磁性粒子間の磁気的相互作用を低減させている。一方、グラニュラー磁性層の場合はこの粒界相として非磁性非金属の物質を用いるため、従来のCrに比べて偏析し易く、比較的容易に磁性粒の孤立化が促進できるという利点がある。特に、従来のCoCr系金属磁性層の場合は成膜時の基板温度を200℃以上に上昇させることがCrの十分な偏析に必要不可欠なのに対し、グラニュラー磁性層の場合は加熱なしでの成膜においても、その非磁性非金属の物質は偏析を生じるという利点もある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、グラニュラー磁性膜を有する磁気記録媒体は所望の磁気特性、特に高保磁力Hcを実現するために比較的多量のPtをCo合金に添加する必要が生じる。前述のUSP5,679,473号でも、2400Oe程度のHcを実現するために11at%もの高価なPtを必要としている。これに対し、従来のCoCr系金属磁性膜で同程度のHcを実現するためには、5at%程度のPtが必要なだけである。また、一般に2800Oe程度のHcを実現するために16at%ものPtを必要とし、これに対して、従来のCoCr系金属磁性膜では同程度のHcを実現するためには、8at%程度のPtが必要なだけである。近年、磁気記録の高密度化に伴い3000Oe以上の非常に高いHcがますます要求されていることから、高価なPtを多量に必要とするグラニュラー磁性膜は、製造コストの増加という意味で問題を生じている。また、高密度化に伴い媒体ノイズもさらなる低下が求められており、グラニュラー磁性層の磁性結晶粒径や偏析構造などの微細構造を細密に制御する必要性が高まっている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述したような、グラニュラー磁性膜の高Hc化、低コスト化、およびさらなる低ノイズ化のために鋭意検討した結果、グラニュラー磁性層と非磁性下地層との間に、結晶構造が六方最密充填(hcp)構造である非磁性金属あるいはその合金からなる、非磁性金属中間層を形成することで、高価なPtを増加させることなく高Hc化および低媒体ノイズ化が図られることが明らかとなった。
【0009】
さらに好ましくは、非磁性金属中間層を二層化することにより、磁性層における平均結晶粒径およびそのばらつきを小さくすることができて、より好ましい結果が得られることがわかった。
【0010】
また、非磁性金属中間層を用いることによって、容易に高いHcが得られることから、本発明の媒体を成膜するにあたっては基板加熱を行う必要もなくなり、製造プロセスの簡易化と低コスト化が図れると同時に、従来のAlやガラス基板以外にも、安価なプラスチックを基板として使用することも可能となった。
【0011】
具体的には本発明の磁気記録媒体は、非磁性基体上に少なくとも非磁性下地層、非磁性金属中間層、磁性層、保護膜、および液体潤滑剤層が順次積層された磁気記録媒体であって、前記磁性層がCoPt系合金からなる強磁性を有する結晶粒と該結晶粒を取り巻く金属酸化物からなる非磁性粒界とからなり、かつ前記非磁性金属中間層が、結晶構造が六方最密充填構造を有する非磁性の金属または合金の単層または複数層からなる
【0012】
ここで、前述の非磁性金属中間層が単層より形成される場合は、非磁性金属中間層がTi、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、およびHf合金よりなる群から選択された金属からなることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の非磁性金属中間層は、IrおよびRhよりなる群から選択された金属と、Cr、Mo、およびWよりなる群から選択された金属とを含有する合金であること、または、Ptと、Cr、Ni、V、NbおよびTaよりなる群から選択された金属とを含有する合金であることが好ましい。これらの組成の非磁性金属中間層は、D019型またはB19型の規則格子構造を有するとさらに好ましい。
【0014】
前述の非磁性金属中間層が異なる2層からなる場合では、Ti、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、およびHf合金よりなる群から選択された異なる金属からなる2層の積層であるか、Ti、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、およびHf合金よりなる群から選択された金属よりなる層と、Crを30%から50%含むCoCr合金である層との積層であることが好ましい。
【0015】
さらに、前述の非磁性金属中間層は、異なる金属または合金からなる2層が積層された構造をしており、2層のうち前記磁性層に接していない下層がCrを30%から50%含むCoCr合金からなる層であり、前記磁性層に接している上層がTi、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、およびHf合金よりなる群から選択された金属からなる層であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の前記磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基体上に、CrまたはCr合金を用い、非加熱下のDCマグネトロンスパッタ法により非磁性下地層を積層する工程と、前記非磁性下地層上に、六方最密充填構造の結晶構造を有する金属または合金を用い、非加熱下のDCマグネトロンスパッタ法により、非磁性金属中間層の単層または複数層を積層する工程と、前記非磁性金属中間層上に、CoPt系合金と金属酸化物とを用い、非加熱下のRFスパッタ法により、強磁性層を有する結晶粒と該結晶粒を取り巻く非磁性粒界とからなる磁性層を積層する工程と、前記磁性層上に、保護膜を積層する工程と、前記保護膜上に、液体潤滑剤層を積層する工程と、を具える。
【0017】
ここで、非磁性金属中間層を積層する工程は、Ti、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、およびHf合金よりなる群から選択された金属からなる層を設ける工程を含む。
【0018】
また、非磁性金属中間層を積層する工程は、さらにCrを30%から50%含むCoCr合金からなる層を設ける工程を含んでもよい。
【0019】
特に、非磁性金属中間層を積層する工程は、非磁性下地層の上に、Crを30%から50%含むCoCr合金からなる層を設ける工程と、該CoCr合金からなる層の上に、Ti、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、およびHf合金よりなる群から選択される金属からなる層を設ける工程と、を含むことが好ましい。
【0020】
他に前述の非磁性金属中間層を積層する工程は、非磁性下地層の上に、IrおよびRhよりなる群から選択された金属と、Cr、Mo、およびWよりなる群から選択された金属とを含有する合金からなる層を設ける工程であること、または非磁性下地層の上に、Ptと、NbおよびVよりなる群から選択された金属とを含有する合金からなる層を設ける工程であることが好ましく、D019型またはB19型の規則格子構造を有する合金からなる層を設ける工程であることが特に好ましい。
【0021】
本発明に用いられる磁性層中の非磁性粒界は、Cr、Co、Si、Al、Ti、Ta、Hf、およびZrよりなる群から選択された少なくとも1つの金属の酸化物からなり、磁性層中の強磁性を有する結晶は、CoPt合金に、Cr、Ni、およびTaよりなる群から選択された少なくとも1つの金属を添加した合金からなることが好ましい。
【0022】
また、本発明に用いる非磁性下地層は、CrまたはCr合金からなることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明に用いる非磁性基体は、結晶化ガラス、化学強化ガラス、またはプラスチックであることが好ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について図1および図2を参照しながらより詳細に説明する。
【0025】
図1および図2は、本発明の一例である磁気記録媒体の断面略図を示す。図1に示す磁気記録媒体は、非磁性基体1の上に非磁性下地層2、非磁性金属中間層3、磁性層4、保護膜5、および液体潤滑剤層6が順に形成された構造を有している。また、図2に示す磁気記録媒体は、図1に示す磁気記録媒体の非磁性金属中間層3が異なる材料よりなる下層3aおよび上層3bの2層からなる構造をしている。
【0026】
非磁性基体1としては、通常の磁気記録媒体用に用いられる、NiPメッキを施したAl合金や強化ガラス、結晶化ガラスなどを用いることができるほか、本発明では基体加熱を必要としないことから、ポリカーボネート、ポリオレフィンやその他の樹脂を射出成形することで作製した基体も用いることができる。
【0027】
この非磁性基体1の上に、非磁性下地層2を電子ビーム蒸着法やスパッタ法など従来の方法を用いて設ける。この非磁性下地層2は、NiAl、Crなどを含む非磁性体より構成される。非磁性下地層2としてCrまたはCr合金を用いると、非磁性金属中間層3を用いたことによる効果を高めることになり、好ましい。Cr合金としては、CrMo、CrTi、CrV、およびCrW合金などが好ましい。また、非磁性下地層2の膜厚は特に制限されないが、約5nmから約50nmが良好な記録再生特性を得るためには好ましい。
【0028】
次に該非磁性下地層2の上に、非磁性金属中間層3を設ける。本発明における磁気記録媒体では、非磁性金属中間層3が単層からなる場合(図1)と下層3aおよび上層3bの2層からなる場合(図2)が考えられる。
【0029】
まず、非磁性金属中間層3が単層からなる場合(図1)を説明する。この非磁性金属中間層3は、結晶構造が六方最密充填(hcp)構造である金属または合金である。例えば、非磁性金属中間層3として、Crを約30%から50%含むhcp構造をしたCoCr合金を用いた場合は、高Hc化とそれに伴う添加Pt量の低下、および低ノイズ化という、所望の効果を得ることができる。また、hcp構造を有する金属または合金の中でも、Ti、Ti合金、Zr、Zr合金、Hf、およびHf合金よりなる群から選択された物質を非磁性金属中間層3として使用した場合も、大きな効果が得られる。これは、hcp構造を有する非磁性金属中間層3が磁性層形成時に存在することにより、同じくhcp構造を持つ磁性層中の強磁性結晶の成長がエピタキシャル成長となって結晶性が増す効果に加え、Ti、Zr、Hfが酸素を膜中にとりこみやすい金属であることから、磁性層中の酸化物粒界の初期成長を好ましく制御するためである。
【0030】
このような非磁性金属中間層3は上述したような材料をターゲットとしたDCマグネトロンスパッタ法により成膜することができるが、これに制限されない。非磁性金属中間層3の膜厚は特に制限されるものではないが、1nmから20nmが優れた磁気特性を得るために好適である。
【0031】
また、好ましい非磁性金属中間層3は、上述の材料以外に、例えばIrおよびRhよりなる群から選択される金属と、Cr、Mo、およびWよりなる群から選択される金属との合金よりなる層、またはPtと、NbおよびVよりなる群から選択される金属との合金よりなる層を用いることによっても、高Hc化およびそれに伴う磁性層への添加Pt量の低下、ならびに低ノイズ化という所望の効果を得ることができる。
【0032】
さらに、これらの材料を用いた非磁性金属中間層3として、D019型(Ni3Sn型ともいう)またはB19型(AuCd型ともいう)の規則格子構造を有する合金を用いることができる。このような規則格子構造を有する合金を用いることで、さらなる大きな効果を得ることができる。これは、hcp構造を有する中間層が磁性層形成時に存在することによって、同じくhcp構造を有する強磁性結晶の成長がエピタキシャル成長となって結晶性が増す効果に加え、磁性層の初期成長を好ましく制御するためである。
【0033】
このような非磁性金属中間層3は、上述したような材料、つまり、IrおよびRhよりなる群から選択される金属と、Cr、Mo、およびWよりなる群から選択される金属との合金、またはPtと、NbおよびVよりなる群から選択される金属との合金をターゲットとしたDCマグネトロンスパッタ法により成膜することができるが、これに制限されない。
【0034】
このような非磁性金属中間層3を有する場合の膜厚は、1nmから50nmが好ましいが、これらに限定されない。
【0035】
次に、非磁性金属中間層3が下層3aおよび上層3bの積層よりなる場合(図2)を説明する。積層する異なる非磁性金属中間層3aおよび3bは、その各層の結晶構造がhcp構造である金属または合金であることが必要である。例えば、これらの異なる2層からなる非磁性金属中間層は、hcp構造を有するTi、Ti合金、Zr、Zr合金、HfまたはHf合金のうち、異なる非磁性金属または合金を2層積層したものが挙げられる。他には、非磁性金属中間層の下層3aとして、Ti、Ti合金、Zr、Zr合金、Hf、またはHf合金層を形成し、非磁性金属中間層の上層3bとして、Crを30%から50%含むCoCr合金層を形成した場合などがあり、これらは高Hc化とともに添加Pt量の低下、および低ノイズ化という所望の効果を得ることができる。さらに、この2層に積層された非磁性金属中間層3において、下層3aがCrを30%から50%含むCoCr合金層から形成され、上層3bがTi、Ti合金、Zr、Zr合金、Hf、またはHf合金層から形成された場合は、さらに大きな効果が得られる。これらは非磁性金属中間層が1層の場合(図1)と同様に、hcp構造を有する中間層が磁性層形成時に存在することにより、同じくhcp構造を持つ磁性層中の強磁性結晶の成長がエピタキシャル成長となって結晶性が増す効果に加え、Ti、ZrおよびHfが、酸素を膜中に取り込みやすい金属であることから、磁性層中の酸化物粒界の初期成長を好ましく制御するためである。
【0036】
さらに、非磁性金属中間層が2層からなる場合(図2)は、上述したような磁性層中の強磁性を有する結晶粒の結晶性および酸化物粒界の初期成長を制御するだけではなく、同じくhcp構造を有する磁性層4に接する非磁性金属中間層の上層3bにおける結晶性や結晶粒径の微細化をも、同じhcp構造を有する非磁性金属中間層の下層3aをもう1層設けることによって達成される。その結果としてより好ましく磁性層4を制御することできる。
【0037】
非磁性金属中間層の下層3aおよび上層3bは、上述したような材料をターゲットとしたDCマグネトロンスパッタ法により成膜することができるが、これに制限されない。非磁性金属中間層の下層3aおよび上層3bのそれぞれの膜厚は特に制限されるものではないが、1nmから20nmが優れた磁気特性を得るために好適である。
【0038】
次に、非磁性金属中間層3の上に磁性層4を形成する。磁性層4は、強磁性を有する結晶粒と、それを取り巻く非磁性粒界とからなり、かつ非磁性粒界が金属の酸化物または窒化物からなる、いわゆるグラニュラー磁性層である。このような磁性層4の構造は、例えば非磁性粒界を構成する金属酸化物を含有する強磁性金属をターゲットとして、スパッタリングにより成膜して得られる。または、強磁性金属をターゲットとして酸素を含有するArガス中で反応性スパッタリングにより成膜することによってグラニュラー構造の磁性層4を得ることができるが、これらに制限されない。ここで、前述した非磁性金属中間層3を設けることによって、磁性層を形成する際に、非磁性基板1を予め加熱する必要がなく磁性層4を形成することができる。
【0039】
強磁性を有する結晶を構成する材料としては、CoPt系合金が好適に用いられるが、これに限定されない。特に、CoPt合金にCr、Ni、およびTaよりなる群から少なくとも1つ選択された金属を添加することが、媒体ノイズの低減のために望ましく、本発明における非磁性金属中間層3を設けることによる効果が最も発揮される。非磁性粒界を構成する材料としては、Cr、Co、Si、Al、Ti、Ta、Hf、およびZrよりなる群から選択された少なくとも1つの金属の酸化物を用いることが、安定なグラニュラー構造を形成するために、特に好ましい。磁性層の膜厚は特に制限されるものでなく、記録再生時に十分なヘッド再生出力を得るための膜厚が必要とされる。
【0040】
次いで、該磁性層4の上に保護膜5、および液体潤滑剤層6を順次形成する。保護膜5および液体潤滑剤層6としては、従来のものを用いることができる。例えば保護膜5としては、カーボンを主体とする薄膜が用いられ、液体潤滑剤層6としてはパーフルオロポリエーテル系の潤滑剤を用いることができるが、これに限定されない。保護膜5は、スパッタ法などの従来の方法を用いて成膜することができ、液体潤滑剤層6は、液体潤滑剤を塗布するなど従来の方法を用いて成膜することができる。
【0041】
このようにして上述したような積層構造を有する本発明の磁気記録媒体は、その製造工程に従来の磁気記録媒体のような基体加熱工程を省略しても、高いHc化と低触媒ノイズ化を図る事が可能となり、製造工程の簡略化に伴う製造コストの低下も図ることができる。
【0042】
【実施例】
以下に、本発明の磁気記録媒体において実施例および比較例によって、より具体的に説明する。
【0043】
[実施例1〜4および比較例1〜3]
非磁性基体1として、表面が平滑な化学強化ガラス基板(HOYA社製N−10ガラス基板)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入し、基板の加熱を行わずにArガス圧5mTorr下で、Moを含むCr合金のターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタ法によってCr−20at%Mo(Moを20at%含むCr合金)からなる膜厚15nmの非磁性下地層2を形成した。
【0044】
次いで、Arガス圧5mTorr下で、Ti(実施例1)、Zr(実施例2)、Ti−10at%Cr(実施例3)、Co−40at%Cr(実施例4(参考))、Cr(比較例1)、Ni−50at%Al(比較例2)の組成のターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタ法によってそれぞれ0超から20nmの範囲の膜厚に変化させて、ターゲットと同じ組成の非磁性金属中間層3を形成した。また、比較例3として、非磁性金属中間層3の膜厚0、つまり非磁性金属中間層3を設けないものも用意した。
【0045】
次いで、それぞれの非磁性金属中間層3または非磁性下地層2(比較例3の場合のみ)の上に、SiO2を10mol%添加したCo76Cr12Pt12ターゲットを用いて、スパッタ法によりArガス圧3mTorr下で膜厚20nmのグラニュラー磁性層4を形成した。このとき磁性層中に含まれるPt量は約11%であった。
【0046】
引き続き、スパッタ法により、各グラニュラー磁性層4の上に膜厚10nmのカーボン保護膜5を積層して、真空中のスパッタ装置内から取り出した。
【0047】
そして、パーフルオロポリエーテルよりなる液体潤滑剤を、各カーボン保護膜5上に塗布し、膜厚1.5nmの液体潤滑剤層6を形成した。
【0048】
このようにして、図1に示すような磁気記録媒体を製造した。
【0049】
なお、上述した成膜に先立って非磁性基体1の加熱は行っていない。
【0050】
図3に、各非磁性金属中間層ごとに、その膜厚の変化に伴う保磁力Hcの変化を示した。これらの磁気記録媒体の残留磁束密度・膜厚積Brδは、非磁性金属中間層を付与していない媒体(比較例3)が91Gμmであった以外は、全て67から73Gμmの間であった。
【0051】
ここに示したHcおよびBrδの値は、いずれも振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定したものである。
【0052】
図3より、非磁性金属中間層のない場合(比較例3)のHcが約2000Oeであるのに対し、実施例4のように、hcp構造を有する非磁性のCo−40at%Crを非磁性金属中間層として2〜6nm程度設けることで、約2500Oe以上の高いHcが得られることが分かる。さらに、実施例1〜3のように、hcp構造を有する非磁性金属および合金であるTi、Zr、およびTi−10at%Crを非磁性金属中間層として設けた場合には、中間層膜厚の増加に伴いHcは大きく増加し、約3300Oeにまで達することが分かる。一方、比較例1および2のように、CrおよびNi−50at%Alといったhcp構造ではない結晶構造、つまり体心立方格子構造をもつ材料を非磁性金属中間層3とした場合には、急激なHcの低下が見られた。このように、hcp構造を有する非磁性金属、特にTi、Zr、Hf、およびその合金を非磁性金属中間層3として使用した場合に、非常に高いHcを得ることができることがわかる。
【0053】
[実施例5〜10および比較例4〜7]
非磁性金属中間層3として、Ti(実施例5)、Zr(実施例6)、Hf(実施例7)、Ti−10at%Cr(実施例8)、Zr−10at%Cr(実施例9)、Co−40at%Cr(実施例10(参考))、中間層なし(比較例3)、Cr(比較例4)、Ni−50at%Al(比較例5)、Cu(比較例6)、またはNi−20at%P(比較例7)からなる非磁性材料をArガス圧5mTorr下で4nmの膜厚に形成した以外は、実施例1と同様にして、図1に示すような磁気記録媒体を製造した。
【0054】
得られた各磁気記録媒体について、VSMにより保磁力Hcおよび残留磁束密度・膜厚積Brδを測定し、GMRヘッドを用いたスピンスタンドテスターにより孤立再生波形の再生出力を測定し、線記録密度270kFClにより媒体ノイズおよびその対信号雑音比SNRを測定した。得られた結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
Figure 0004534347
【0056】
非磁性金属中間層3を形成しない場合(比較例3)は前述した通り、Hcは約2000Oeであり、このときのSNRは16.11dBであった。これに対し、hcp構造を有する非磁性のCo−40at%Crを4nm設ける(実施例10(参考))では、Hcが向上すると共にSNR値も18.21dBと大きく向上する。
【0057】
さらにhcp構造を有する非磁性金属のTi(実施例5)、Zr(実施例6)、およびHf(実施例7)を非磁性金属中間層3としてそれぞれ設けた場合には、さらなるHcの向上とSNRの向上が見られ、SNR値としては19.3〜19.8dB程度が得られた。
【0058】
また、TiまたはZrを含み、hcp構造を有する合金であるTi−10at%Cr(実施例8)やZr−10%Cr(実施例9)を使用した場合でも、同様なHcおよびSNRの向上が見られることがわかる。
【0059】
一方、結晶構造が体心立方(bcc)格子構造や面心立方(fcc)格子構造である材料を非磁性金属中間層3とした場合(比較例4から6)は、HcおよびSNRが非常に劣化した。また、アモルファス構造であるNiPを非磁性金属中間層3とした場合(比較例7)は、Hcは中間層を設けない場合に比べて増加するものの、SNRの向上は見られないという結果となった。
【0060】
[実施例11〜15および比較例8〜11]
非磁性基体1として、射出成形されたポリカーボネート基板(径3.5インチのディスク形状)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入し、基板の加熱を行わずにArガス圧5mTorr下で、Moを含むCr合金のターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタ法によって、Cr−20at%Moからなる膜厚15nmの非磁性下地層2を形成した。
【0061】
次いで、Arガス圧5mTorr下で、Mo−40at%Ir(実施例11)、Cr−30at%Ir(実施例12)、Cr−35at%Rh(実施例13)、Mo−70at%Ir(実施例14)、V−50at%Pt(実施例15)、Cr(比較例9)、Cu(比較例10)、またはNi−20at%P(比較例11)の組成のターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタ法によってそれぞれ30nmの膜厚でターゲットと同じ組成の非磁性金属中間層3を形成した。また、比較例8として、非磁性金属中間層3の膜厚が0、つまり非磁性金属中間層3を設けないものも用意した。
【0062】
次いで、それぞれの非磁性金属中間層3または非磁性下地層2(比較例8の場合のみ)の上に、SiO2を10mol%添加したCo76Cr12Pt12ターゲットを用いて、RFスパッタ法によりArガス圧5mTorr下で膜厚20nmのグラニュラー磁性層4を形成した。このとき磁性層中に含まれるPt量は約11%であった。
【0063】
引き続き、スパッタ法により、各グラニュラー磁性層4の上に膜厚10nmのカーボン保護膜5を積層して、真空中のスパッタ装置内から取り出した。
【0064】
そして、パーフルオロポリエーテルよりなる液体潤滑剤を、各カーボン保護膜5上に塗布し、膜厚1.5nmの液体潤滑剤層6を形成した。
【0065】
このようにして、図1に示すような磁気記録媒体を製造した。
【0066】
なお、上述した成膜に先立って非磁性基体1の加熱は行っていない。
【0067】
得られた各磁気記録媒体について、VSMにより保磁力Hcおよび残留磁束密度・膜厚積Brδを測定し、GMRヘッドを用いたスピンスタンドテスターにより孤立再生波形の再生出力を測定し、線記録密度270kFClにおける媒体ノイズおよびその対信号雑音比SNRを測定した。得られた結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
Figure 0004534347
【0069】
中間層を付与しない場合(比較例8)のHcは、約2000Oeであり、このときのSNRは16.11dBであった。一方、hcp構造を有する非磁性のMo−Ir(実施例11)、Cr−Ir(実施例12)、またはCr−Rh(実施例13)中間層を20nm付与することによって、非磁性金属中間層を付与しない場合と比較してHcが約700〜1000Oe向上すると共にSNR値も約19dBとなっており、非磁性金属中間層3を付与しない場合と比較して約3dB以上向上した。
【0070】
さらに、hcp構造でかつ規則格子構造であるD019型(実施例14)またはB19型(実施例15)の結晶構造を有する非磁性合金を付与した場合は、さらなるHcとSNRの向上がみられ、Hcにおいては3100Oe以上、SNRにおいては約21dBが得られた。
【0071】
また、bbc、fccである材料を非磁性金属中間層3とした場合(比較例9および10)、およびアモルファス構造であるNiPを非磁性金属中間層3とした場合(比較例11)と比べても、HcおよびSNR両方の向上が見られた。
【0072】
[実施例16および17、ならびに比較例12]
非磁性基体1として、表面が平滑な化学強化ガラス基板(HOYA社製N−10ガラス基板)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入し、基板の加熱を行わずにArガス圧25mTorr下で、Wを含むCr合金のターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタ法によってCr−16at%Wからなる膜厚8nmの非磁性下地層2を形成した。
【0073】
次いで、非磁性金属中間層3として、Arガス圧25mTorr下で、Ti−10at%Cr(実施例16)、およびCo−40at%Cr(実施例17(参考))の組成のターゲットをそれぞれ用いて、DCマグネトロンスパッタ法によって0超から12nmまで膜厚を変化させて、ターゲットと同じ組成の非磁性金属中間層3を形成した。ここで、非磁性中間層の膜厚が0のもの、つまり非磁性金属中間層を設けないものを比較例12として用意した。
【0074】
さらに引き続き、各非磁性金属中間層3および非磁性下地層2(比較例12の場合)の上に、SiO2を6mol%添加したCo74Cr10Pt16ターゲットを用いて、RFスパッタ法によりArガス圧5mTorr下で膜厚20nmのグラニュラー磁性層4を形成した。このときに磁性層中に含まれるPt量は16at%であった。
【0075】
次いで、スパッタ法により、グラニュラー磁性層4の上に膜厚10nmのカーボン保護膜5を積層して、真空中のスパッタ装置内から取り出した。
【0076】
そして、パーフルオロポリエーテルよりなる液体潤滑剤を、カーボン保護膜5上に塗布し、膜厚1.5nmの液体潤滑剤層6を形成した。
【0077】
このようにして、図1に示すような磁気記録媒体を製造した。得られた各磁気記録媒体について、それぞれ振動試料型磁力計(VSM)により保磁力Hcおよび残留磁束密度・膜厚積Brδを測定し、GMRヘッドを用いたスピンスタンドテスターにより孤立再生波形の再生出力を測定し、線記録密度270kFClにより媒体ノイズおよびその対信号雑音比SNRを測定した。表3に各非磁性金属中間層3の膜厚が8nmの場合(比較例8の場合は0nm)の磁気記録媒体についての測定結果を示す。
【0078】
また、比較例12および実施例16のTi−10at%Crからなる非磁性金属中間層3の膜厚を変えたときの保磁力Hcの変化を図4に示す。
【0079】
[実施例18(参考)
本実施例では、実施例16および実施例17の非磁性金属中間層3が2層からなる場合の磁気記録媒体を製造した。
【0080】
非磁性基体1として、表面が平滑な化学強化ガラス基板(HOYA社製N−10ガラス基板)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入し、基板の加熱を行わずにArガス圧25mTorr下で、Wを含むCr合金のターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタ法によってCr−16at%Wからなる膜厚8nmの非磁性下地層2を形成した。
【0081】
次いで、Arガス圧25mTorr下で、Ti−10at%Crの組成のターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタ法によって0〜12nmに膜厚を変化させて、ターゲットと同じ組成の非磁性金属中間層の下層3aを形成した。同様にして、Co−40at%Crの組成のターゲットを用いて、ターゲットと同じ組成の膜厚4nmの非磁性金属中間層の上層3bを形成し、2層からなる非磁性金属中間層3を設けた。
【0082】
さらに引き続き、SiO2を6mol%添加したCo74Cr10Pt16ターゲットを用いて、RFスパッタ法によりArガス圧5mTorr下で膜厚20nmのグラニュラー磁性層4を形成した。このときに磁性層中に含まれるPt量は16at%であった。
【0083】
次いで、スパッタ法により、グラニュラー磁性層4の上に膜厚10nmのカーボン保護膜5を積層して、真空中のスパッタ装置内から取り出した。
【0084】
そして、パーフルオロポリエーテルよりなる液体潤滑剤を、カーボン保護膜5上に塗布し、膜厚1.5nmの液体潤滑剤層6を形成した。
【0085】
このようにして、図2に示すような磁気記録媒体を製造した。得られた各磁気記録媒体について、残留磁束密度・膜厚積Brδおよび保磁力Hcを振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。残留磁束密度・膜厚積Brδは67から73Gμmの間であった。図4に非磁性金属中間層の下層3aのTi−10at%Crの膜厚の変化に伴う保磁力Hcの変化を示した。
【0086】
また、各磁気記録媒体について、VSMにより保磁力Hcおよび残留磁束密度・膜厚積Brδを測定し、GMRヘッドを用いたスピンスタンドテスターにより孤立再生波形の再生出力を測定し、線記録密度270kFClにより媒体ノイズおよびその対信号雑音比SNRを測定した。表3に下層3aのTi−10at%Crの膜厚が8nmの場合の磁気記録媒体についての測定結果を示す。
【0087】
[実施例19〜22]
非磁性金属中間層3aにおいて、Co−40at%Crの組成のターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタ法によってターゲットと同じ組成の膜厚4nmの非磁性金属中間層の下層3aを形成し、その上に、Ti−10at%Cr(実施例19)、Ti(実施例20)、Zr(実施例21)、およびHf(実施例22)の組成のターゲットを用いて、それぞれ0〜12nmに膜厚を変化させて、ターゲットと同じ組成の非磁性金属中間層の上層3bを形成した以外は実施例18(参考)と同様にして、図2に示すような磁気記録媒体を製造した。
【0088】
得られた各磁気記録媒体について実施例18(参考)と同様にして各特性を測定した。表3に非磁性金属中間層の上層3bの膜厚が8nmの場合の各特性を示した。また、実施例19については、図4に非磁性金属中間層の上層3aのTi−10at%Crの膜厚に伴う保磁力Hcを、実施例16および実施例18(参考)の結果と共に示した。これらの磁気記録媒体のHcおよびBrδの値は、67〜73Gmの間であった。
【0089】
図4より、非磁性金属中間層3がない(比較例12)場合、Hcが約1950Oeであるのに対し、非磁性金属中間層3としてTi−10at%Crの単層を2〜6nm設ける(実施例16)ことで約2500Oe以上の保磁力Hcが得られることがわかる。しかし、非磁性金属中間層3を下層3aおよび上層3bからなる2層にした実施例18(参考)および実施例19では、さらなる高い保磁力が得られることが分かる。特に、下層3aがCo−40at%Crで上層3bがTi−10at%Crである非磁性金属中間層3を設けた実施例19では、約3000Oeという高い保磁力Hcが得られたことがわかる。このような保磁力Hcの向上は、非磁性金属中間層の上層3bにTi(実施例20)、Zr(実施例21)、およびHf(実施例22)を設けた場合にも同じであった。
【0090】
[実施例23]
実施例16で示したSiO2を6mol%添加したCo74Cr10Pt16ターゲットの代わりに、SiO2を6mol%添加したCo78Cr10Pt12ターゲットを用いて磁性層4を形成した以外は、実施例16と同様にして図1に示す磁気記録媒体を製造した。このとき磁性層中に含まれるPt量は12at%であった。
【0091】
得られた磁気記録媒体において、実施例16と同様に各特性を調べ、非磁性金属中間層3の膜厚が4nmのときの保磁力を図5に、各磁気特性を表3に示す。
【0092】
[実施例24]
実施例19で示したSiO2を6mol%添加したCo74Cr10Pt16ターゲットの代わりに、SiO2を6mol%添加したCo78Cr10Pt12ターゲットを用いて磁性層4を形成した以外は、実施例19と同様にして、図2に示すような磁気記録媒体を製造した。このとき磁性層中に含まれるPtの量は12at%であった。
【0093】
得られた各磁気記録媒体において、実施例18(参考)と同様にして各特性を測定し、表3に非磁性金属中間層の上層3bの膜厚が8nmの場合の各特性を示した。また、非磁性金属中間層3bのTi−10at%Crの膜厚の変化に伴う保磁力Hcの変化を図5に示した。
【0094】
図5および表3からわかるように、Pt量が低下した場合でもTi−10at%Cr単層(実施例23)では保磁力Hcが2134Oeとなり、非磁性金属中間層を設けなかった場合(比較例12)よりも保磁力が増加した。さらに、Co−40at%Crを下層3aとして設けて非磁性金属中間層3を二層化した実施例24では、保磁力Hcが2748Oeとなり大きな増加をみせた。
【0095】
また、Pt量が多いターゲットCo74Cr10Pt16使用時で非磁性金属中間層が単層から二層化したときの保磁力の向上よりも、Co78Cr10Pt12使用時で単層から二層化したときの保磁力の向上の方が、大きい(約600Oe)こともわかる。
【0096】
[比較例13]
非磁性金属中間層の下層3aとして結晶構造が体心立方(bcc)格子構造であるCrからなる層を設け、上層3bとして結晶構造がhcpであるTi−10at%Crからなる層を設けること以外は、実施例18(参考)と同様にして、図2に示すような磁気記録媒体を製造した。得られた磁気記録媒体について実施例18(参考)と同様にして各特性を調べた。下層3aの膜厚が4nmであり、上層3bの膜厚が8nmである場合の各特性を表3に示す。
【0097】
【表3】
Figure 0004534347
【0098】
表3より、中間層を設けない場合(比較例12)では上述した通り、Hcは1950Oe程度であり、このときのSNRは7.73dBであった。これに対し、非磁性金属中間層3として単層でhcp構造を有するTi−10at%Cr、またはCo−40at%Crを8nm設けたことで、Co−40at%Cr(実施例17(参考))の場合は、Hcが2201Oeと約500Oe向上し、SNRも8.12dBと若干向上している。一方Ti−10at%Cr(実施例16)ではHcが約2500Oeと格段に大きくなり、かつSNRが9.94dBであると共に効果が見られた。
【0099】
さらに、非磁性金属中間層を2層とした場合、下層3aとして、Ti−10at%Crを8nm、上層3bとしてCo−40at%Crを4nmを設けた磁気記録媒体(実施例18(参考))では、Hcは2769Oeと非磁性金属中間層が単層の媒体と比べて大きな向上は見られないものの、SNRが10.65dBと+1dB近くもの低ノイズ化が達成されていることがわかった。
【0100】
また、下層3aとしてCo−40at%Crを4nm形成し、上層3bとしてTi−10at%Crを8nm設けた磁気記録媒体(実施例19)はHcが2951Oe、SNRが10.81dBとなり、非磁性金属中間層が単層の媒体に比べ、高Hc、低ノイズ化の両方に対する効果が明確であった。
【0101】
同じくhcp構造を有する非磁性金属のTi(実施例20)、Zr(実施例21)、Hf(実施例22)においても同様な効果がみられ、Hcが向上すると共にSNRも約10.7dB得られる。
【0102】
一方、下層に結晶構造が上述のhcp構造以外bcc構造やfcc構造を有する材料を非磁性金属中間層材料として用いて2層構造とした場合(比較例13)は、磁気特性およびSNRが非常に劣化した。
【0103】
また、磁性層ターゲットのPt量を減らした、SiO2を6mol%添加したCo78Cr10Pt12ターゲットを用いても、非磁性金属中間層Ti−10at%Crを一層設けた(実施例23)ことにより非磁性金属中間層を設けずにCo74Cr10Pt16ターゲットを用いて磁性層を形成した磁気記録媒体(比較例12)よりも高い保磁力およびSNRを有することがわかる。さらに、実施例19と同じく、下層としてCo−40at%Crを4nmに形成し、上層にTi−10at%Cr8nmを設けた磁気記録媒体(実施例24)では、Hcが2748Oeと格段によくなったと同時に、SNRが11.21dBと、低Pt量を反映している。そして、実施例24から、非磁性金属中間層を二層化したことによるさらなるHcの向上は、磁性層のPt含有量が少ないときの方が大きいことがわかる。
【0104】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、グラニュラー磁性層と非磁性下地層との間に、結晶構造がhcp構造である非磁性金属または合金、特にTi、Ti合金、Zr、Zr合金、HfおよびHf合金よりなる群から選択される材料からなる非磁性金属中間層を形成することで、高Hcおよび低媒体ノイズ化を実現することができる。
【0105】
また、非磁性金属中間層を2層化させることで、より高いHc化および低ノイズ化を実現することができる。加えて、磁性層ターゲットのPt量を減らしても、高いHcが容易に得られることから、低いPt量に伴った更なる低ノイズ化が可能となる。
【0106】
さらに、結晶構造がhcp構造である非磁性金属または合金として、IrおよびRhよりなる群から選択された金属と、Cr、Mo、およびWよりなる群から選択された金属との合金、またはPtと、NbおよびVよりなる群から選択された金属との合金を用いた非磁性金属中間層を付与しても、所望する効果が得られる。そして、これらの合金の中でも、D019型またはB19型の規則格子構造を有する合金を用いることで特に高Hc化および低媒体ノイズ化を実現することができる。
【0107】
また、グラニュラー磁性層中の非磁性金属物質として、Cr、Co、Si、Al、Ti、Ta、Hf、およびZrよりなる群から選択された少なくとも1つの金属の酸化物を用いること、グラニュラー磁性層中の強磁性を有する結晶としてCoPt合金にCr、Ni、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1つの金属を添加した合金を使用すること、そして非磁性下地層として、CrまたはCr合金を用いることでさらに非磁性金属中間層を設けたことによる効果を高めることが可能となる。さらに、従来のグラニュラー磁性層中に含有させたPtの量を増加させることなく保磁力を増加させることができる。
【0108】
さらに、この非磁性金属中間層3を用いることで、本発明の媒体を成膜するときに非磁性基体を加熱する必要なしに容易に高Hcが得られることから、従来のAlやガラス基板以外にも安価なプラスチックを基板として使用することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一例である磁気記録媒体の断面略図を示す図であり、非磁性金属中間層が単層の場合を示す図である。
【図2】本発明の一例である磁気記録媒体の断面略図を示す図であり、非磁性金属中間層が単層の場合を示す図である。
【図3】種々の組成の非磁性金属中間層において、膜厚(nm)の変化に伴う保磁力Hc(Oe)の変化を示す図である。
【図4】磁性層ターゲットとしてCo74Cr10Pr16を使用し、非磁性金属中間層のTi−10at%Crの膜厚の変化に伴う保磁力Hcの変化を示した図である。
【図5】磁性層ターゲットとしてCo78Cr10Pr12を使用し、非磁性金属中間層のTi−10at%Crの膜厚の変化に伴う保磁力Hcの変化を示した図である。
【符号の説明】
1 非磁性基体
2 非磁性下地層
3 非磁性金属中間層
3a 非磁性金属中間層の下層
3b 非磁性金属中間層の上層
4 磁性層
5 保護膜
6 液体潤滑剤層

Claims (10)

  1. 非磁性基体上に少なくとも非磁性下地層、非磁性金属中間層、磁性層、保護膜、および液体潤滑剤層が順次積層された磁気記録媒体であって、
    前記磁性層が、16at%以下のPtを含むCoPt系合金からなる強磁性を有する結晶粒と、該結晶粒を取り巻く金属酸化物からなる非磁性粒界とからな、前記非磁性金属中間層が、結晶構造が六方最密充填構造を有する非磁性の金属または合金の単層または複数層からなり、前記磁性層に接する層がTi、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、Hf合金、IrまたはRhとCr、MoまたはWとの合金、PtとCr、Ni、V、NbまたはTaとの合金、ならびにD0 19 型またはB19型の規則格子構造を有する前記合金よりなる群から選択される非磁性の金属または合金からなることを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 前記磁性層を構成する強磁性を有する結晶粒が、CoPt合金に、Cr、Ni、およびTaよりなる群から選択された少なくとも1つの金属を添加したCoPt系合金からなることを特徴とする請求項に記載の磁気記録媒体。
  3. 前記強磁性を有するCoPt系合金が、Co 76 Cr 12 Pt 12 、Co 78 Cr 10 Pt 12 またはCo 74 Cr 10 Pt 16 であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
  4. 前記磁性層を構成する非磁性粒界は、Cr、Co、Si、Al、Ti、Ta、Hf、およびZrよりなる群から選択された少なくとも1つの金属の酸化物からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
  5. 前記非磁性金属中間層は、異なる金属または合金からなる2層が積層された構造をしており、2層のうち前記磁性層に接していない下層がCrを30%から50%含むCoCr合金からなり、前記磁性層に接している上層がTi、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、およびHf合金よりなる群から選択された金属または合金からなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
  6. 前記非磁性下地層、CrまたはCr合金からなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
  7. 前記非磁性基体、結晶化ガラス、化学強化ガラス、またはプラスチックからなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
  8. 請求項1ないし7のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
    非磁性基体上に、CrまたはCr合金を用い、非加熱下のDCマグネトロンスパッタ法により非磁性下地層を積層する工程と、
    前記非磁性下地層上に、六方最密充填構造の結晶構造を有する金属または合金を用い、非加熱下のDCマグネトロンスパッタ法により、非磁性金属中間層の単層または複数層を積層する工程と、
    前記非磁性金属中間層上に、CoPt系合金と金属酸化物とを用い、非加熱下のRFスパッタ法により、強磁性層を有する結晶粒と該結晶粒を取り巻く非磁性粒界とからなる磁性層を積層する工程と、
    前記磁性層上に、保護膜を積層する工程と、
    前記保護膜上に、液体潤滑剤層を積層する工程と、
    を具えことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
  9. 前記非磁性金属中間層を積層する工程が、非磁性下地層上にTi、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金、Hf合金、IrまたはRhとCr、MoまたはWとの合金、PtとCr、Ni、V、NbまたはTaとの合金、もしくは、D0 19 型またはB19型の規則格子構造を有する前記合金からなる層を設ける工程からなることを特徴とする請求項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  10. 前記非磁性金属中間層を積層する工程が、非磁性下地層上にCrを30%から50%含むCoCr合金層と、該CoCr合金層上にTi、Zr、Hf、Ti合金、Zr合金およびHf合金よりなる群から選択される非磁性の金属層または合金層を設ける工程からなることを特徴とする請求項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
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