以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付することとし、重複する説明は省略する。
(円筒状基材の処理方法)
本実施形態においては、以下に説明する装置を用いて円筒状基材の外周面を、pH9以上の電気分解アルカリ性水を用いて処理する(電気分解アルカリ性水処理工程)。
図1は、本発明の処理方法に好適に使用される循環型処理装置の一例を示す概略構成図である。図1に示した循環型処理装置100は、電気分解アルカリ性水20が収容された処理槽25と、送液ラインL1を介して処理槽25に連結されたフィルター30と、送液ラインL2を介してフィルター30に連結された油水分離装置35と、送液ラインL3を介して油水分離装置35に連結された貯留槽40と、貯留槽40と処理槽25とを連結する送液ラインL4に設けられた送液ポンプ45と、を備える。
上述の循環システムにより、処理槽25には貯留槽40からの電気分解アルカリ性水20が順次供給される。処理槽25の上面は開口しており、処理槽25内部はその開口端まで電気分解アルカリ性水20で満たされている。
電気分解アルカリ性水20は、NaOH、アンモニア等のアルカリの添加によらず、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リン酸イオン、ケイ酸イオン、乳酸イオン、ピロリン酸イオン、フッ素イオン、塩素イオン等のイオンを主として含むアルカリ性水であり、他の構成成分は水である。
電気分解アルカリ性水20は、電気分解アルカリ性水20の原液をイオン交換水で希釈したものである。原液中に含まれる水以外のイオンの合計量は、好ましくは0.4〜3.4wt%であり、より好ましくは1.1〜3.4wt%である。なお、電気分解アルカリ性水の原液としては、例えば特開平11−217598号公報に開示された原液が使用可能である。また、電気分解アルカリ性水の原液として、市販品(例えば日本電子アクティブ社製ルミックEKO−13AL)を使用してもよい。
電気分解アルカリ性水の原液をイオン交換水で希釈する際には、原液に対して1〜5倍、好ましくは1〜3倍の量のイオン交換水で希釈する。イオン交換水としては、電子写真感光体の塗膜欠陥の原因となり得る、水しみ、水垢、さび等の異物が基材1に付着するのを防止するために、導電率1〜2μS/cm以下のイオン交換水を除菌グレードのフィルターに通したものが好ましい。また、イオン交換水の代わりに超純水を用いてもよい。
電気分解アルカリ性水20は、処理槽25内において、pH9以上に保たれている。電気分解性アルカリ性水20のpHが9未満であると基材1表面の異物の除去が不充分となる。また、電気分解性アルカリ性水20の温度は、70℃以下(より好ましくは、30〜40℃)に保たれていることが好ましい。温度が70℃を超えると、円筒状基材1の外周面における腐食の進行が促進される傾向にある。電気分解アルカリ性水20の温度制御は、処理槽25が備える温度制御装置(図示せず)により行われる。また、後述するように、処理槽25への供給前に、貯留槽40においても予め電気分解アルカリ性水20の温度制御が行われる。
被処理体である円筒状基材1は、浸漬装置(図示せず)により開口部から矢印Bの方向に引き下げられ、電気分解アルカリ性水20に浸漬されて所定条件で処理された後、矢印Aの方向に引き上げられる。
かかる浸漬処理の際には、処理槽25の底部に配置された超音波振動子29により、電気分解アルカリ性水20に超音波を加えてもよい。これにより、基材1からの異物の除去が促進され、基材の処理をより効率的に行なうことができる。
循環型処理装置100の場合、処理槽25には貯留槽40からの電気分解アルカリ性水20が順次供給されるため、余剰の電気分解アルカリ性水20は、処理槽25外周側の開口部近傍に設けられたオーバーフロートラフ27に貯留される。また、上記浸漬処理の際にオーバーフローした電気分解アルカリ性水20もオーバーフロートラフ27に貯留される。貯留された電気分解アルカリ性水20は、使用済みの電気分解アルカリ性水として、送液ラインL1を通って以下の再生処理に供される。
先ず、フィルター30において、電気分解アルカリ性水20に含まれる基材1から剥離した異物(例えば、粒子状の異物)の除去が行われる。次いで、油水分離装置35において、電気分解アルカリ性水20に含まれる油分が除去される。なお、フィルター30及び油水分離装置35の配置は特に制限されず、例えば油水分離装置35の後段(下流側)にフィルターを配置してもよい。
このようにして再生された電気分解アルカリ性水20は、送液ラインL3を通って貯留槽40に送液され、さらに送液ラインL4を通って処理槽25に戻される。貯留槽40にはヒーター41が内蔵されており、これにより処理槽25に供給される電気分解アルカリ性水20の温度を予め調節することができる。
本実施形態においては、円筒状基材1を、処理槽25内のpH9以上の電気分解アルカリ性水20中に浸漬して所定時間処理し、所定の処理時間が経過した後に円筒状基材1を電気分解アルカリ性水20から取り出すことで処理された基材1が得られる。この処理は、基材の外周面に腐食が発生せず、異物が略完全に除去されるので、基材の洗浄処理として有効である。なお、かかる処理は、pH9以上且つ温度70℃以下の電気分解アルカリ性水20中に浸漬し、処理時間300秒以下(10〜30秒が好ましい)で処理することが好ましい。処理時間が300秒を超えると、基材1の処理と同時に腐食が促進される傾向にある。
電気分解アルカリ性水20による処理においては、基材1を電気分解アルカリ性水20中に浸漬しているときに、超音波振動子29から超音波(周波数は、36〜200KHzが好ましく、70〜200KHzが特に好ましい。)振動が加えられることが好ましい。また、この場合には、基材1を処理槽3内で上下方向(矢印AB方向)に振動させ、上下方向の超音波の当り具合を均一化させることが好ましい。この振動は、毎分10〜30回が好ましく、毎分15〜20回がより好ましい。
ここで、処理される円筒状基材1としては、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル、鉄、亜鉛、チタン等の金属又はそれらの合金からなるドラム状、シート状の基材が挙げられる。なお、基材の外周面を鏡面切削等の加工を行った場合には、加工後の基材に対して、上記本発明の処理方法を適用することによって、当該基材を用いて得られる電子写真感光体の電子写真特性をより高めることができる。
また、処理される円筒状基材1としては、これらのドラム状、シート状の基材を粗面化処理したものでもよく、あるいは粗面化処理を施したプラスチック、紙等の支持体の表面に、アルミニウム、チタン等の金属又はそれらの合金を真空蒸着法により、被膜を形成させたものでも良い。すなわち、電気分解アルカリ性水処理工程の前段に、円筒状基材1の外周面を粗面化する粗面化処理工程を行ってもよい。かかる粗面化処理により、脱脂洗浄処理工程を省略することが可能となる。
基材1の粗面化処理としては湿式ホーニング処理が好ましい。湿式ホーニング処理により、短時間の加工で容易に、また安定的に、基材表面を粗面化することができ、所望の粗さを正確に得ることができる。このような湿式ホーニング処理後の基材に対して上記本発明の処理方法を適用することによって、当該基材を用いて得られる電子写真感光体の電子写真特性をより高めることができる。また、本発明の処理方法に供される基材にさらに湿式ホーニング処理を行なうことは、塗膜欠陥の原因となる異常凹凸部が極めて少ない均一な粗さを持つ粗面が得られる点、生産上の観点、さらに、黒斑点や干渉縞模様に対する画質安定性の点からも好ましい。
湿式ホーニング処理に用いる研磨材としては、従来公知のものが使用され、例えば、酸化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素又は窒化硼素等の無機化合物、ポリメチルメタクリレート、ポリ弗化ビニリデン、ポリウレタン系樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等のポリマー微粉末が挙げられる。また、湿式ホーニング処理は、水等の液体に粉末状の研磨材(砥粒)を懸濁させ、かかる懸濁液を高速度で基材表面に吹き付けて粗面化する方法であり、表面粗さは、吹き付け圧力、速度、懸濁液の温度、或いは研磨材の量、種類、形状、大きさ、硬度又は比重等により制御することができる。
以上述べたように、電気分解アルカリ性水20による処理を特定条件下で行なうことにより、基材1の表面における腐食の発生を十分に抑制しつつ、基材1の表面を十分に洗浄することができ、さらには基材1から除去した異物の再付着を抑制することができる。従って、当該処理方法によって、表面が高度に洗浄された円筒状基材を容易に且つ確実に得ることが可能となる。
また、フィルター30、油水分離装置35、貯留槽40及び送液ポンプ45を用いて、使用済み電気分解アルカリ性水20を再生し、基材1の処理に繰り返し供することにより、効率的な再利用が可能であり、コストの低減を図ることもできる。また、廃液処理が不要となることから、環境への負荷を低減することも可能である。
すなわち、基材1の処理に使用された後の電気分解アルカリ性水20は、処理槽25内部からオーバーフローするとオーバーフロートラフ27に貯まり、その後、フィルター30、油水分離装置35を通ることにより、異物と油分が除去されることで再生する。なお、基材の処理に使用された後の電気分解アルカリ性水20中の異物はフィルター30でトラップされ、油分は油水分離装置35でトラップされる。
本実施形態においては、再生した電気分解アルカリ性水20は、貯留槽40内で所定温度に調節され、送液ポンプ45により処理槽25へと供給され、繰り返し使用される。
電気分解アルカリ性水により処理された基材1には、更に、濯ぎ処理及び水切り処理を行なうことが好ましい。以下、濯ぎ処理及び水切り処理について詳述する。
図2は、濯ぎ処理に好適に使用される循環型濯ぎ装置の一例を示す概略構成図である。図2に示した循環型濯ぎ装置100aは、循環型処理装置100における処理槽25の代わりに電気分解アルカリ性水20で処理された基材1を濯ぐための濯ぎ槽25aを備える点、並びに油水分離装置30を有さない点が異なるだけで、それ以外は図1に示した循環型処理装置100と同様の構成を有している。なお、循環型濯ぎ装置100aにおいては、油水分離装置30を有さないため、フィルター30と貯留槽40とが送液ラインL5を介して接続されている。
濯ぎ槽25aは、その内部にイオン交換水20aが収容されている以外は、処理槽25と同様の構成を有する。
イオン交換水20aとしては、電子写真感光体の塗膜欠陥の原因となり得る、水しみや、水垢、さび等の異物が基材1に付着するのを防止するために、導電率1〜2μS/cm以下のイオン交換水を、除菌グレードのフィルターに通したものが好ましい。また、超純水を用いても良い。
濯ぎ槽25a内のイオン交換水20aの温度は、70℃以下が好ましく、30℃〜40℃が特に好ましい。
また、循環型濯ぎ装置100aにおいては、使用済みイオン交換水20aは、フィルター30で異物が除去されることで再生することができる。再生したイオン交換水20aは、貯留槽40内で温度調節され、送液ポンプ45により送液ラインL4を通って濯ぎ槽25a内に導入される。このように循環型濯ぎ装置100aにおいては、使用済みイオン交換水20aを再生し、再生したイオン交換水20aを繰り返し使用できる構成となっている。
濯ぎ処理は、処理された円筒状基材1を、濯ぎ槽25a中のイオン交換水20a中に浸漬させて、基材1の表面に付着した電気分解アルカリ性水20をイオン交換水20aで濯ぐことで行われる。
濯ぎ時間は300秒以下が好ましく、10〜30秒が特に好ましい。また、この濯ぎ処理においては、基材1をイオン交換水20a中に浸漬しているときに、超音波振動子29aから超音波(周波数は、36〜200KHzが好ましく、70〜200KHzが特に好ましい。)振動が加えられることが好ましい。また、この場合には、濯ぎ槽25a内で基材1を上下に振動させることが好ましく、この振動は毎分10回〜30回が好ましく、毎分15回〜20回がより好ましい。
次に、濯ぎ処理の後に行われる水切り処理について説明する。図3は、水切り処理に好適に使用される循環型水切り装置の一例を示す概略構成図である。
図3に示すように、循環型水切り装置100bは、循環型濯ぎ装置100aにおける濯ぎ槽25aが水切り槽25bとなったこと以外は、循環型濯ぎ装置100aと同様の構成である。
水切り槽25bは、濯ぎ槽25aと同様に、その内部にイオン交換水20bが収容されている。このイオン交換水20bは、濯ぎ槽25aのイオン交換水20aと同様のものを用いることができるが、温度は30〜50℃が好ましい。なお、水切り槽25bは、超音波振動子29aを備えていないこと以外は、濯ぎ槽25aと同様の構成を有する。
また、循環型水切り装置100bにおいては、使用済みイオン交換水20bは、フィルター30で異物が除去されることで再生し、再生したイオン交換水20bは、貯留槽40内で温度調節され、送液ポンプ45により送液ラインL4を通って水切り槽25b内に導入される。このように循環型水切り装置100bにおいては、使用済みイオン交換水20bを再生し、再生したイオン交換水20bを繰り返し使用できる構成となっている。
水切り処理は、濯ぎ処理がされた円筒状基材1を、水切り槽25b中のイオン交換水20b中に浸漬させて、基材1をイオン交換水20bで水切りすることで行われる。水切り時間は20〜60秒が好ましい。基材1の引上げ速度は、300〜1200mm/minが好ましい。また、基材1を水切り槽25bから取り出した後に、熱風で乾燥させることが好ましい。
このように、電気分解アルカリ性水による処理が施され、さらに濯ぎ処理及び水きり処理が施された円筒状基材は、基材表面に腐食が無く、異物が完全に除去されており、電子写真感光体の基材として好適である。
また、電気分解アルカリ性水により処理された基材1、すなわち電気分解アルカリ性水処理工程の後段には、さらに、粗面化処理を行ってもよい。なお、粗面化処理は、電気分解アルカリ性水処理に濯ぎ処理又は水切り処理を組み合わせる場合には、それらの前段又は後段に行ってもよい。かかる粗面化処理としては湿式ホーニング処理が好ましく、上述した湿式ホーニング処理と同様に行うことができる。pH9以上の電気分解アルカリ性水を用いて電気分解アルカリ性水処理を行うと、特に円筒状基材がアルミニウムを主成分とするものである場合には、円筒状基材の表面にクボミが発生して、電子写真感光体の支持体として適用すると画質欠陥の原因となるため、その適用が困難になることがある。しかし、このように電気分解アルカリ性水処理の後段に粗面化処理を施すことで、かかるクボミの影響を緩和することが可能となり、より確実に電子写真感光体の支持体に適用することが可能となる。
(電子写真感光体)
本発明の電子写真感光体は、基材として、本発明の円筒状基材を用いたものである。
図4〜8は、本発明の電子写真感光体の好適な一実施形態を示す模式断面図であり、図4〜6に示す電子写真感光体10は、電荷発生材料を含有する層(電荷発生層5)と電荷輸送材料を含有する層(電荷輸送層6)とに機能が分離された感光層3を備えるものであり、図7〜8に示す電子写真感光体10は電荷発生物質と電荷輸送物質とを同一の層(単層型感光層8)に含有するものである。
図4に示す電子写真感光体10は、円筒状基材1上に下引き層4、電荷発生層5、電荷輸送層6が順次積層された構造;図5に示す電子写真感光体10は、円筒状基材1上に下引き層4、電荷発生層5、電荷輸送層6、保護層7が順次積層された構造;図6に示す電子写真感光体10は、円筒状基材1上に下引き層4、電荷輸送層6、電荷発生層5、保護層7が順次積層された構造;をそれぞれ有している。
また、図7に示す電子写真感光体10は、円筒状基材1上に下引き層4、単層型感光層8が順次積層された構造;図8に示す電子写真感光体10は、円筒状基材1上に下引き層4、単層型感光層8、保護層7が順次積層された構造、をそれぞれ有している。
以下、電子写真感光体10の各要素について詳述する。
円筒状基材1は導電性を有するものであり、上述した電気分解アルカリ性水により外周面が処理されたもの(以下、場合により「導電性支持体1」という)である。円筒状基材の各構成については、上述した通りである。
本発明の電子写真感光体は、図4〜8に示すように導電性支持体1上に下引き層4を備えることが好ましい。
下引き層4の材料としては、有機金属化合物及びシランカップリング剤が挙げられ、結着樹脂を含んでいてもよい。
有機金属化合物としては、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムカップリング剤等の有機ジルコニウム化合物、チタンキレート化合物、チタンアルコキシド化合物、チタネートカップリング剤等の有機チタン化合物、アルミニウムキレート化合物、アルミニウムカップリング剤等の有機アルミニウム化合物、アンチモンアルコキシド化合物、ゲルマニウムアルコキシド化合物、インジウムアルコキシド化合物、インジウムキレート化合物、マンガンアルコキシド化合物、マンガンキレート化合物、スズアルコキシド化合物、スズキレート化合物、アルミニウムシリコンアルコキシド化合物、アルミニウムチタンアルコキシド化合物、アルミニウムジルコニウムアルコキシド化合物等が挙げられるが、これらの中でも、有機ジルコニウム化合物、有機チタニル化合物、有機アルミニウム化合物は残留電位が低く良好な電子写真特性を示すため好ましく使用される。
シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス2−メトキシエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−2−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプロプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、β−3,4,−エポキシシクロヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
結着樹脂としては、従来より下引き層に用いられるポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリ−N−ビニルイミダゾール、ポリエチレノキシド、エチルセルロース、メチルセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリアミド、ポリイミド、カゼイン、ゼラチン、ポリエチレン、ポリエステル、フェノール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリウレタン、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸等を用いることもできる。上記の材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、下引き層4は、上記の材料中に電子輸送性顔料を混合、分散したものであってもよい。電子輸送性顔料としては、ペリレン顔料、ビスベンズイミダゾールペリレン顔料、多環キノン顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料;シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子等の電子吸引性の置換基を有するビスアゾ顔料;フタロシアニン顔料等の有機顔料;酸化亜鉛、酸化チタン等の無機顔料、等が挙げられる。これらの電荷輸送性顔料の中でも、ペリレン顔料、ビスベンズイミダゾールペリレン顔料及び多環キノン顔料は高い電子移動性を有しているので好ましく使用される。これらの電子輸送性顔料の含有量は、下引き層4中の固形分全量を基準として、好ましくは95重量%以下であり、より好ましくは90重量%以下である。下引き層4中の電子輸送性顔料の含有量が前記上限値を超えると、下引き層4の強度が低下して塗膜欠陥が生じやすくなる傾向にある。
下引き層4は、上記材料を用いて下引き層形成用塗布液を調製し、その塗布液を用いて形成される。
なお、電荷輸送性顔料を下引き層4中に混合、分散させる方法としては、上記下引き層4の材料を含む下引き層形成用塗布液に電子輸送性顔料を分散させる方法;電子輸送性顔料を分散させた溶液に上記下引き層4の材料を添加し混合する方法;樹脂に電子輸送性顔料を分散させた液に上記下引き層4の材料を添加し混合する方法;樹脂溶液に上記下引き層4の材料を添加し混合した後電子輸送性顔料を分散させる方法;電子輸送性顔料に上記下引き層4の材料を添加し混合した後樹脂溶液に分散させる方法、等が挙げられるが、混合/分散液においてゲル化や凝集等の発生を抑制することが重要である。
また、電子輸送性顔料を混合、分散する際には、ボールミル、ロールミル、サンドミル、アトライター、超音波等を用いることができる。この混合/分散工程は有機溶剤中で行われる。有機溶剤としては、有期金属化合物や樹脂を溶解し、また、電子輸送性顔料を混合、分散したときにゲル化や凝集を起こさないものであれば特に制限されない。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
このようにして調製された下引き層形成用塗布液を導電性支持体1上に塗布し、溶剤を蒸発させた後、乾燥させることによって下引き層4を成膜することができる。下引き層形成用塗布液の塗布方法としては、ブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられる。また、乾燥工程における温度は好ましくは80〜170℃である。
このようにして得られる下引き層4の膜厚は、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.2〜10μmである。
また、下引き層4の膜厚は、通常よりも厚い厚膜としてもよい。円筒状基材を電気分解アルカリ性水処理と粗面化処理とを組み合わせて処理した場合には、電荷発生層5や電荷輸送層6などの上層を形成する際に、円筒状基材表面の凹凸形状が塗膜欠陥や膜厚の均一性に影響することがあるが、下引き層4を厚膜化することでその影響を低減することが可能となる。
また、このような導電性支持体1上に下引き層4を設けると、下記(i)〜(vi)に示す効果が得られる。
(i)導電性支持体から感光層への不必要なキャリアの注入が防止されて画質が向上する;
(ii)電子写真感光体の光減衰曲線の環境依存性(温度、湿度等)が低減して安定した画質が得られる;
(iii)適度な電荷輸送能により、長期にわたって繰り返し使用する場合にも電荷が蓄積されず、感度変動の発生が抑制される;
(iv)帯電電圧に対する適度な耐圧性により、絶縁破壊に起因する画像欠陥の発生が防止される;
(v)接着層として、感光層を支持体に一体的に保持することができる;
(vi)支持体の光反射が防止される。
電荷発生層5は、電荷発生材料、及び結着樹脂を含んで構成される。
電荷発生材料としては、多環キノン顔料、ぺリレン系顔料、アゾ系顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料等の公知の有機系顔料が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、無金属フタロシアニン顔料、チタニルフタロシアニン顔料、銅フタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料、バナジルフタロシアニン顔料、クロロインジウムフタロシアニン顔料、ジクロロスズフタロシアニン顔料等が挙げられる。
結着樹脂としては、具体的には、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
また、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン等の有機光導電性ポリマーを結着樹脂として用いることもできる。なお、電荷発生層5の成膜後に他の層(電荷輸送層6等)を更に積層する場合、電荷発生層5の上に積層される層の塗布液の溶剤に溶解する樹脂は好ましくない。
電荷発生層5における電荷発生材料と結着樹脂との配合比は、それぞれの種類に応じて適宜選択されるものであるが、重量比で40:1〜1:4であることが好ましく、20:1〜1:2であることがより好ましい。電荷発生材料の配合量が結着樹脂の配合量の40倍(重量換算値)を超えると、電荷発生層5の成膜に用いる電荷発生層形成用塗布液の安定性が不十分となる傾向にある。他方、電荷発生材料の配合量が結着樹脂の配合量の1/4倍(重量換算値)未満であると、電子写真感光体の感度が不十分となる傾向にある。
電荷発生層5は、電荷発生材料と結着樹脂とを所定の溶剤に分散させて得られる電荷発生層形成用塗布液を所定の層(導電性支持体1、電荷輸送層6、下引き層4等)上に塗布し、乾燥させることによって好適に得ることができる。
ここで、電荷発生層5の形成に用いる有機溶剤としては、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等が挙げられる。これらの有機溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、これらの有機溶剤に電荷発生材料と結着樹脂とを分散させる方法としては、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ボールミル、ダイノーミル、高圧ホモジナイザー、超音波分散機、コボールミル、ロールミル、高圧ジェットミル等が挙げられるが、この際、分散によって電荷発生材料の結晶型が変化しない条件で行なうことが好ましい。
また、上記の電荷発生層形成用塗布液を塗布する方法としては、ブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられる。
このようにして得られる電荷発生層5の膜厚は、好ましくは0.01〜5μm、より好ましくは0.03〜2μmである。電荷発生層5の膜厚が前記下限値未満であると成膜性が低下すると共に十分な機械的強度が得られにくくなる傾向にある。他方、電荷発生層5の膜厚が前記上限値を超えると電気特性上十分な光減衰が得られにくくなる傾向にある。
電荷輸送層6は、電荷輸送材料及び結着樹脂を含んで構成される。
電荷輸送材料としては、電荷を輸送する機能を有するものであれば特に制限されるものではないが、具体的には、p−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノビニル系化合物、エチレン系化合物等の電子輸送性化合物;トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物等の正孔輸送性化合物、等が挙げられる。これらの電荷輸送材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの電荷輸送材料の中でも、トリフェニルアミン系化合物及びベンジジン系化合物は、高い電荷(正孔)輸送能と優れた安定性とを有しているので特に好ましい。
また、電荷輸送材料として、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等の電荷輸送性を有する高分子電荷輸送材料を用いることができる。特に、特開平8−176293号公報や特開平8−208820号公報に開示されているポリエステル系高分子電荷輸送材料は高い電荷輸送性を有しており、特に好ましいものである。なお、電荷輸送材料として高分子電荷輸送材料を用いる場合には結着樹脂を用いずとも電荷輸送層6の成膜が可能であるが、高分子電荷輸送材料と後述する結着樹脂との混合物を用いて成膜してもよい。
結着樹脂としては、具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリスルホン、ポリメタクリル酸エステル、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、ポリオレフィン等が挙げられる。これらの結着樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電荷輸送層6は、電荷輸送材料及び結着樹脂を所定の溶剤に分散させて得られる電荷輸送層形成用塗布液を、所定の層(導電性支持体1、下引き層4、電荷発生層5等)上に塗布し、乾燥させることによって得ることができる。ここで、電荷輸送層形成用塗布液中の電荷輸送材料と結着樹脂との配合比(重量比)は、5:1〜1:5であることが好ましく、3:1〜1:3であることがより好ましい。電荷輸送材料の配合量が、結着樹脂の配合量の5倍(重量換算値)を超えると、電荷輸送層6の機械的強度が低下する傾向にある。他方、電荷輸送材料の配合量が結着樹脂の配合量の1/5倍(重量換算値)未満であると、光感度が低下する傾向にある。
また、電荷輸送層形成用塗布液に用いる溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロンゲン化脂肪族炭化水素類;テトラヒドロフラン、エチルエーテル等の環状もしくは直鎖状のエーテル類、等有機溶剤の1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
さらに、電荷輸送層形成用塗布液の塗布方法としては、ブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられる。
このようにして得られる電荷輸送層6の厚みは、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜40μmである。
図7〜8に示す電子写真感光体の単層型感光層8は、前述の電荷発生材料、電荷輸送材料、及び結着樹脂を含んで構成される。電荷発生材料、電荷輸送材料及び結着樹脂としては、電荷発生層5及び電荷輸送層6の説明において例示された電荷発生材料、電荷輸送材料、結着樹脂が挙げられる。
単層型感光層8中における電荷発生材料と電荷輸送材料との配合比は、重量比で1:10〜10:1であることが好ましく、5:1〜1:20であることがより好ましく、また、電荷発生材料と結着樹脂との配合比は、重量比で5:1〜1:20であることが好ましい。
単層型感光層8の成膜工程においては、電荷発生層5や電荷輸送層6と同様にして感光層形成用塗布液を調製し、その塗布液を塗布し、乾燥させることによって単層型感光層8を形成することができる。
このようにして得られる単層型感光層8の膜厚は、5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。
本発明にかかる電子写真感光体においては、図5、6、8に示すように保護層7を設けることが好ましい。電子写真感光体が保護層7を備えている場合には、熱、電気、化学物質等に対する安定性と機械的強度との双方がより高められるとともに、水、放電生成物、トナー等による汚染防止効果がより向上する傾向にある。また、保護層7は電子写真感光体に安定性や機械的強度を付与したり汚染物質の表面への付着を防止したりする機能に加えて、電荷輸送層6としての機能をも有するので、この保護層7をそのまま積層型感光体の電荷輸送層6として用いることもできる。
保護層7の材料としては、上記下引き層4の説明において例示された有機金属化合物、シランカップリング剤、結着樹脂等、更に上記電荷輸送層6の説明において例示された電荷輸送材料が挙げられる。
保護層7は、上記の材料を所定の溶剤に分散させて得られる保護層形成用塗布液を、所定の層(電荷発生層5、電荷輸送層6等)上に塗布し、乾燥させることによって得ることができる。
ここで、保護層形成用塗布液に用いる溶剤及び塗布方法としては、それぞれ上記電荷輸送層6の説明において例示された溶剤及び塗布方法が挙げられる。
このようにして得られる保護層7の膜厚は、電子写真感光体の感光特性を損なわない限りにおいて特に制限されないが、例えば、電荷輸送層6上に保護層7を設ける場合、0.5〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。
上述した電子写真感光体は、例えば、以下に説明する電子写真装置に使用される。
図9は、本発明の電子写真感光体が適用可能な電子写真装置の一例を示す概略構成図である。図9においては、本発明の電子写真感光体10が支持体209によって保持されており、電子写真感光体10は支持体209を中心として矢印の方向に所定の回転速度で回転可能となっている。
そして、電子写真感光体10の回転方向に沿って、帯電装置202、露光装置203、現像装置204、転写装置205、クリーニング装置207がこの順で配置されている。また、当該装置200は像定着装置206を備えており、被転写媒体211は転写装置205を経て像定着装置206へと搬送される。なお、回転過程において、電源(図示せず)から電圧の供給を受けた帯電装置202により、電子写真感光体10はその周面に正又は負の所定電位の均一帯電を受ける。
電子写真感光体10は、帯電装置202にて露光を受け、その外周面に露光像に対応した静電潜像が形成される。その後、現像装置204にて現像剤によりトナー像が形成され、転写装置205にてトナー像が被転写体211に転写される。トナー像が転写された後の被転写体211は像定着装置206にて像定着を受けて複写物としてプリントアウトされる。転写工程後の電子写真感光体10はクリーニング装置207にてその周面に残存したトナーの除去を受け、清浄面化されて繰り返し像形成に使用される。
帯電装置202としては、例えばローラー状、ブラシ状、フィルム状又はピン電極状の導電性又は半導電性の帯電部材を用いた接触型帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器等の非接触型帯電器等が挙げられる。
上記接触型帯電器としてローラー状帯電部材を備えるものを用いる場合、ローラー状帯電部材を電子写真感光体10に接触させることによって、駆動手段を設けることなくローラー状帯電部材を電子写真感光体と同じ周速度で回転させることができる。また、ローラー状帯電部材に所定の駆動手段を取り付け、電子写真感光体10の周速度と異なる周速度で回転させても良い。
ローラー状帯電部材の芯材としては、鉄、銅、真鍮、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等の導電性を有する材料や、導電性粒子等を分散した樹脂成形品等を用いることができる。また、ローラー状帯電部材の弾性層の材料としては、EPDM、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソブチレン、SBR、CR、NBR、シリコンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、SBS、熱可塑性エラストマー、ノルボーネンゴム、フロロシリコーンゴム、エチレンオキシドゴム等のゴム材に、カーボンブラック、亜鉛、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタニウム等の金属、ZnO−Al2O3、SnO2−Sb2O3、In2O3−SnO2、ZnO−TiO2、MgO−Al2O3、FeO−TiO2、TiO2、SnO2、Sb2O3、In2O3、ZnO、MgO等の金属酸化物、等の導電性粒子あるいは半導電性粒子を分散した材料が好ましく用いられる。
さらに、ローラー状帯電部材の抵抗層及び保護層の材料としては、上記の導電性粒子あるいは半導電性粒子をアクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、メトキシメチル化ナイロン、エトキシメチル化ナイロン、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリチオフェン樹脂、PFA、FEP、PET等のポリオレフィン樹脂、スチレンブタジエン樹脂に分散し、その抵抗を制御したものが好ましく用いられる。
なお、抵抗層及び保護層の抵抗率は、好ましくは103〜1014Ωcm、より好ましくは106〜1012Ωcm、さらに好ましくは107〜1012Ωcmである。また、抵抗層及び保護層の膜厚はそれぞれ好ましくは0.01〜1000μm、より好ましくは0.1〜500μm、さらに好ましくは0.5〜100μmである。さらに、抵抗層及び保護層には、必要に応じてヒンダードフェノール、ヒンダードアミン等の酸化防止剤、クレー、カオリン等の充填剤や、シリコーンオイル等の潤滑剤を添加することができる。これらの層を形成する手段としてはブレードコーティング法、マイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等を用いることができる。
上記の接触型帯電器を用いて電子写真感光体を帯電させる場合、ローラー状帯電部材に電圧が印加されるが、印加電圧は直流電圧又は直流電圧に交流電圧を重畳したものが好ましい。電圧の範囲としては、直流電圧は要求される感光体帯電電位に応じて正又は負の50〜2000Vであることが好ましく、100〜1500Vであることがより好ましい。他方、直流電圧に交流電圧を重畳する場合は、ピーク間電圧が400〜1800Vであることが好ましく、800〜1600Vであることがより好ましく、1200〜1600Vであることがさらに好ましい。また、重畳する交流電圧の周波数は好ましくは50〜20000Hz、より好ましくは100〜5000Hzである。
また、露光装置203としては、電子写真感光体10表面に、半導体レーザー、LED(light emitting diode)、液晶シャッター等の光源を所望の像様に露光できる光学系装置等;現像装置204としては、一成分系、二成分系等の正規又は反転現像剤を用いた従来より公知の現像装置等;転写装置205としては、ベルト、ローラー、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等、が挙げられる。
なお、図9には示していないが、電子写真装置200は中間転写手段を備えるものであってもよい。中間転写手段としては、導電性支持体上にゴム、エラストマー、樹脂等を含む弾性層と少なくとも1層の被服層とが積層された構造を有するものを使用することができ、その材料としては使用される材料は、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、フッ素樹脂等の樹脂に対して、導電性のカーボン粒子や金属粉等を分散混合させたもの等が挙げられる。また、中間転写手段の形状としては、ローラー状、ベルト状等が挙げられる。
(無端ベルトの製造方法)
以下、本発明の無端ベルトの製造方法について説明する。
本実施形態の無端ベルトの製造方法では、先ず、本発明の処理方法により処理された円筒状基材を芯体として準備する。次に、後述する塗布装置を用いて、かかる円筒状基材の外周面上に、全周にわたって所定の樹脂を含む塗布液を塗布して成膜し、その被膜を円筒状基材から剥離して無端ベルトを得る。ここで、無端ベルトとは、ベルトに継ぎ目(シーム)がないベルトである。
図10は、無端ベルトの製造方法を説明するための説明図であり、円筒状基材及び塗布装置の縦断面構成を示している。無端ベルトの製造に使用される塗布装置300は、塗布液301が収容された塗布槽310と、塗布液301の塗布量を制御して無端ベルトの膜厚を制御可能な環状体320とを備えている。
塗布槽310は、略円筒状の有底容器であり、その底部の中央には環状の孔が形成されている。塗布槽310の底部には、上記環状の孔の一部を塞ぐように、環状シール材312が取り付けられている。環状シール材312は円板状であり、その中央に孔が形成されている。環状シール材312の材質としては、例えば、硬質ポリエチレンが挙げられる。さらに、環状シール材312の孔には、中間体314が嵌められている。中間体314は、芯体に塗布液301を塗布しないときに、塗布液301の流出を防止するために嵌めるものである。また、中間体314は、円筒状であり、その外径が円筒状基材1の外径と略同じものである。また、中間体314は、図10に示されるように、円筒状基体1の少なくとも一端の開口部に嵌合しており、円筒状基材1を移動させる際に有効に機能する。すなわち、円筒状基材1の両端の開口部に中間体314を嵌合させ、中間体314の両端に円筒状基材1を嵌めることで連続的に円筒状基材1に塗布液301を塗布することができる。また、円筒状基材1の上端に嵌合している中間体314は、円筒状基材1を保持する機能も有する。
塗布槽310に収容される塗布液301は、所定の樹脂を含む溶液である。より具体的には、塗布液301は、無端ベルトの原料となる樹脂材料及び/又はこれらの前駆体(以下、「樹脂材料等」という)を所定の溶媒に溶解させたものである。樹脂材料等としては、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール、フタル酸系ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。これらの中では、得られる無端ベルトの強度や寸法安定性の面でPIやPAIが好ましい。樹脂材料等を含有する塗布液301の固形分濃度は、10〜50%程度が好ましく、粘度は10〜1000Pa・sが好ましい。
また、得られる無端ベルトを接触帯電フィルムのような帯電体、又は転写ベルトとして使用する場合、樹脂材料等の中に必要に応じて導電剤を分散させる。導電剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンブラックを造粒したカーボンビーズ、カーボンファイバー、グラファイト、カーボンナノチューブ等の炭素系物質;銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金;酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、SnO2・In2O3複合酸化物等の導電性金属酸化物;チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー等が挙げられる。導電剤を分散した塗布液301は、組成のむらを生じやすいので、環状体320を回転させて撹拌することも有効である。
塗布槽310に収容された塗布液301上には、環状体320が自由移動可能な状態で、その上端面が完全に浸漬しないように配置される。環状体320は、円筒状であり、円筒状基材1の外径よりも大きな内径の円孔321が形成されている。より詳しく説明すると、環状体320の円孔321は、液面を基準として上方の開口部321aの内径が下方の開口部321bの内径よりも小さく、その内壁面は外壁面と比較して傾斜面となっており、いわゆるテーパ状に形成されている。
以下、本実施形態では、環状体320の最小内径部分(上方の開口部321a)と円筒状基材1との空間を「間隙」という。なお、間隙は、無端ベルトの目的の膜厚により調整される。以上説明した環状体320の材質は、塗布液301によって侵され難いものが好ましく、種々の金属、プラスチック等から選ばれる。なお、環状体320は、軽量化のためにその壁部が中空構造となっていてもよい。
環状体320は塗布液301上に配置されて塗布液から浮力を受けるが、その浮力が不足する場合には、環状体320の底部が塗布槽310の底部又は環状シール材312に接触することがある。そうなると、塗布液301を塗布する際に環状体320が上昇し難くなるので、環状体320と、塗布槽310の底部又は環状シール材312とが密着しないように、その間には塗布液が介在する隙間を設けておくことが好ましい。
本実施形態では、図10に示すように、環状体320の上端面に環状体320を所定の位置に保持するアーム324を設けることが好ましい。環状体320の塗布液301への沈没を防止する沈没防止部材としてのアーム324は、例えば、環状体320が塗布液301にある程度浸る高さで保持されるように塗布槽310の側壁の上端面に当接可能な形状であることが好ましい。
また、アーム324の代わりに環状体320の底部又は塗布槽310にピン(図示せず)を設けて、環状体320を所定の位置に保持可能となるようにしてもよい。また、ピンは環状体320の底部又は塗布槽310の底部以外の箇所に、環状体320が塗布液301にある程度沈むとそれ以上沈まないように設けられてもよい。なお、沈没防止部材の構成は、アーム324やピンに限らず、環状体320の沈没を防止する構成であれば、例えば、板状、突起状、リング状の如何なる構成のものであってもよい。
次に、上述した塗布装置300を用いた無端ベルトの製造方法について説明する。図10に示すように、中間体314の外周には円筒状基材1が嵌められている。ここで、円筒状基材1は、上述した本発明の処理方法により、電気分解アルカリ性水処理が施されたものであるが、さらに離型剤が塗布されていてもよい。なお、図10では、円筒状基材1が中間体314に1つ嵌められているが、中間体314の下方にさらに複数の円筒状基材1が嵌められていてもよい。その場合、中間体314と円筒状基材1とは交互に連なり、円筒状基材1の端部間に中間体314が配置される。
塗布液301を円筒状基材1に塗布する際には、環状体320の円孔321を通るように、円筒状基材1を液面に対して相対的に上昇させる。このとき、円筒状基材1と円孔321との間隙により、塗膜305の膜厚が制限され無端ベルトの膜厚は制御される。そのため、高粘度の塗布液であっても、均一な膜厚に塗布することができる。なお、円筒状基材1の上昇は、円筒状基材1のみを上昇させてもよく、中間体314と一緒に上昇させてもよい。中間体314に複数の円筒状基材1が嵌められている場合には、中間体314を上昇させることにより、複数の円筒状基材1に連続的に塗布を行うことができる。
環状体320の円孔321を通して円筒状基材1を上昇させると、円筒状基材1と環状体320との間隙には塗布液301の介在により摩擦抵抗が発現して、環状体320には上昇力が作用し、環状体320は液面より上方に持ち上げられる。その際、環状体320は円筒状基材1との摩擦抵抗が周方向で一定になるように水平方向に移動し、間隙が周方向で一定になる。従って、均一な膜厚の塗膜305を得ることができる。
塗布する際の円筒状基材1の上昇速度は、0.1〜1.5m/min程度が好ましい。また、作製される無端ベルトの膜厚は、25〜200μm程度になるように制御することが好ましい。
次に、円筒状基材1の外周面上に成膜された塗膜305を、所定時間乾燥する。なお、乾燥時に塗布液が下方に垂れる場合には、円筒状基材1を横にして回転させながら乾燥させてもよい。
図11は、無端ベルトの製造方法を用いて無端ベルトを製造している手順の一例を示す工程図である。図11(a)は、乾燥処理後の外周面上に塗膜305が形成された円筒状基材1を示す斜視図である。乾燥処理後、塗膜305が形成された円筒状基材1を所定温度で加熱すると樹脂材料等が反応(硬化)し、図11(b)に示すように塗膜305が被膜306となる。その後、図11(c)に示すように被膜306を円筒状基材1から剥離して、かかる被膜306を所定形状に加工することで、無端ベルトは得られる。
このようにして得られる無端ベルトは、電子写真装置に使用される感光体ベルト、転写ゲルト、及び定着ベルト等のベルト部材として好適である。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「部」は重量部を意味する。
(実施例1)
(基材)
1mm厚×84mmφ×340mmLのアルミニウムパイプ(円筒状基材)にダイヤモンドバイトを用いた鏡面旋盤により鏡面切削加工を行い、表面粗さ(Ra(JIS B0601に規定されている中心線平均粗さ):0.02μm、Rmax:0.2μm)の平滑面に仕上げた。
(洗浄処理)
次に、円筒状基材を、図1〜3に示した循環型処理装置100、循環型濯ぎ装置100a、及び循環型水切り装置100bと同様の構成の装置を用いて処理した。
先ず、電気分解アルカリ性水を用いて基材を洗浄(電気分解アルカリ性水処理)した。処理槽に供給・循環される電気分解アルカリ性水としては、水以外のイオンを3.4wt%含む原液(商品名:ルミックEKO−13AL、日本電子アクティブ社製)を、イオン交換水にて3倍に希釈したもの(pH11)を用いた。電気分解アルカリ性水の原液を希釈するためのイオン交換水としては、比抵抗5(MΩ・cm)のものを用いた。
また、電気分解アルカリ性水の温度は35℃に設定され、上下揺動回数15回/minで、30sec間、基材を洗浄した。なお、処理槽で照射した超音波の周波数は133kHzであった。
また、使用済み電気分解アルカリ性水に含まれる油分は、油水分離装置として超極細繊維フィルター(商品名:ユーテックTH、旭化成社製)を用いて分離した。
次に、濯ぎ処理を行った。濯ぎ処理に用いた循環型濯ぎ装置における濯ぎ槽では、比抵抗5(MΩ・cm)のイオン交換水を使用した。また、イオン交換水の温度は35℃に設定された。また、濯ぎ処理の際には、上下揺動回数15回/minで、30sec間、基材を濯いだ。なお、濯ぎ槽で照射した超音波の周波数は133kHzであった。
最後に、水切り処理を行った。水切り処理に用いた循環型水切り装置における水切り槽では、比抵抗5(MΩ・cm)のイオン交換水を、液温50℃に設定して使用した。基材を水切り槽25b内に30sec浸漬した後、300mm/minで引き上げた。その後、135℃の熱風で乾燥した。
(電子写真感光体)
以上の洗浄処理を行なった基材を用いて、電子写真感光体を作製した。洗浄処理を行った基材上に、有機ジルコニウム化合物(商品名:オルガチックスZC540、松本製薬(株)製)10部、シランカップリング剤(商品名:A1100、日本ユニカー(株)製)1部、イソプロピルアルコール40部、及びn−ブチルアルコール20部からなる混合溶液を用意し、浸漬塗布により基材上に上記混合溶液を塗布した。その後、乾燥機に入れ、150℃において10分間加熱乾燥して、基材上に膜厚0.1μmの下引き層を形成した。
次に、ジブロモアントアントロン顔料(商品名:モノライトレッド2Y、ICI製)8部とポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学(株)製)1部をシクロヘキサノン19部に添加混合し、サンドミル装置で、顔料を分散させた。得られた分散液にさらにシクロヘキサノンを加えて、固形分濃度が約10重量%の塗布液を用意した。この塗布液を浸漬塗布により基材上の下引き層の上に塗布した後、100℃において10分間加熱乾燥し、膜厚0.8μmの電荷発生層を形成した。
次に、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4−ジアミン4部とポリ(4,4−シクロヘキシリデンフェニレンカーボネート)樹脂6部とをモノクロロベンゼン40部に溶解した。得られた塗布液を浸漬塗布により電荷発生層の上に塗布した後、110℃において1時間加熱乾燥して、膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。以上のようにして、実施例1の電子写真感光体を得た。
(実施例2)
実施例1における洗浄処理で、洗浄に用いた電気分解アルカリ性水の代わりに、pH9の電気分解アルカリ性水(pH以外は、実施例1と同様のもの)を用いた以外は、実施例1と同様にして基材の洗浄処理を行った。得られた基材を用いて、実施例1と同様にして、実施例2の電子写真感光体を得た。
(実施例3)
実施例1における洗浄処理で、洗浄に用いた電気分解アルカリ性水の温度を70℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして基材の洗浄処理を行った。得られた基材を用いて、実施例1と同様にして、実施例3の電子写真感光体を得た。
(比較例1)
実施例1における洗浄処理で、基材の洗浄に用いた電気分解アルカリ性水の代わりに、pH7の水系洗剤を用いた以外は、実施例1と同様にして基材の洗浄処理を行った。得られた基材を用いて、実施例1と同様にして、比較例1の電子写真感光体を得た。
(実施例4)
(基材及び基材処理)
実施例1の洗浄処理において、水切り処理後の熱風乾燥を省略した以外は、実施例1と同様にして基材を洗浄処理した。
次に、得られた基材に対して、湿式ホーニング装置により粗面化処理を行なった。個数平均粒径35μmの酸化アルミニウム製の研摩材(商品名:アルナビーズCBA−35S、昭和タイタニウム社製)を水に分散した研摩材濃度が27重量%の研摩液を、10L/minの流量で湿式ホーニングガンに送り、所定の圧縮空気圧(0.1〜0.2MPa)で吹付けた。ホーニングガンは、500mm/minで基材の軸方向に移動させ、基材は100rpmで回転させ、所望の表面粗さ(Ra:0.2μm、Rmax:2μm)になるように仕上げた。
湿式ホーニング後の基材を、洗浄水として水を使用するスプレー洗浄槽に移し、基材外面に付着する多量の研磨材を洗い流した。スプレー洗浄槽内では、基材を回転させながら、スプレーノズルから水を吹付けた。スプレー洗浄で用いた水は、導電率1μS/cmのイオン交換水であった。
次に、実施例1の洗浄処理と同様に基材の洗浄処理を行い、基材を得た。
(電子写真感光体)
得られた基材を用いて、以下の手順で電子写真感光体を作製した。洗浄処理を行った基材上に、有機ジルコニウム化合物(商品名:オルガチックスZC540、松本製薬社製)100部、シランカップリング剤(商品名:A1100、日本ユニカー社製)10部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−S、積水化学社製)10部、及びn−ブチルアルコール130部を混合し、得られた下引き層形成用塗布液を浸漬塗布法により塗布し、140℃で15分間加熱して、1.0μmの下引き層を形成した。
次に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学(株)製)の2%シクロヘキサノン溶液に、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料(特開平5−263007号公報に記載のもの)を、顔料と樹脂との比2:1で混合し、次いでサンドミルにより3時間分散処理を行なった。得られた電荷発生層形成用塗布液を、さらに酢酸n−ブチルで希釈して下引き層上に浸漬塗布し、0.15μmの電荷発生層を形成した。
次に、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(m−トリル)ベンジジン4部及びポリカーボネートZ樹脂6部を、モノクロロベンゼン36部に溶解させた電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布し、115℃で40分間乾燥して、24μm厚の電荷輸送層を形成した。以上のようにして、実施例4の電子写真感光体を得た。
(実施例5)
実施例4において、湿式ホーニング後の基材の洗浄に用いた電気分解アルカリ性水の代わりに、pH9の電気分解アルカリ性水(pH以外は、実施例4と同様のもの)を用いた以外は、実施例4と同様にして基材の洗浄処理を行った。得られた基材を用いて、実施例4と同様にして、実施例5の電子写真感光体を得た。
(実施例6)
実施例4において、湿式ホーニング後の基材の洗浄に用いた電気分解アルカリ性水の温度を70℃に変えたこと以外は、実施例4と同様にして基材の洗浄処理を行った。得られた基材を用いて、実施例4と同様にして、実施例6の電子写真感光体を得た。
(実施例7)
(基材及び基材処理)
1mm厚×84mmφ×340mmLのアルミニウムパイプ(円筒状基材)にダイヤモンドバイトを用いた鏡面旋盤により鏡面切削加工を行い、表面粗さ(Ra(JIS B0601に規定されている中心線平均粗さ):0.02μm、Rmax:0.2μm)の平滑面に仕上げた。
切削後の基材に対して、脱脂洗浄工程、濯ぎ工程、水切り工程の順で処理を行った。脱脂洗浄工程、濯ぎ工程、及び水切り工程における洗浄方法は、全て従来行われている方法に従って行った。なお、脱脂洗浄工程(2槽)、及び濯ぎ工程(2槽)に用いた装置には、超音波振動子が設置してあり、各洗浄の際、基材に超音波を印加した。また、水切り工程は、温水引上げ法で行った。
脱脂洗浄工程で使用する界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、洗剤濃度は第1脱脂洗浄槽では10〜20%、第2脱脂洗浄槽では1〜2%とした。脱脂洗浄工程、濯ぎ工程、及び水切り工程で使用した水は、導電率1μS/cmのイオン交換水であった。
脱脂洗浄後の基材に対し、実施例4と同様に湿式ホーニング装置により粗面化処理を行なった。
実施例4において、湿式ホーニング後の基材の洗浄に用いた電気分解アルカリ性水の代わりに、pH9の電気分解アルカリ性水(pH以外は、実施例4と同様のもの)を用いた以外は、実施例4と同様にして基材の洗浄処理を行った。得られた基材を用いて、実施例4と同様にして、実施例7の電子写真感光体を得た。
(欠陥評価試験)
実施例1〜7及び比較例1の電子写真感光体を各々50000本連続生産した。そして、生産最初及び最後の各々1000本の電子写真感光体に関して、CCDカメラ、画像処理装置、及び観察顕微鏡で構成される、表面欠陥検出装置により、基材洗浄に起因する大きさ10μm以上の欠陥を検出し、検査本数1000本当りの欠陥発生率を求めた。
実施例1〜7では基材洗浄処理に起因する欠陥発生率が2%以下であることが確認された。他方、比較例1では欠陥発生率が5%以上であることが確認された。
(実施例8)
(基材及び基材処理)
アルミニウム素管(A6063)を、ダイヤモンドバイトを用いた旋盤により鏡面切削加工し、厚さ1mm、外径30mm、長さ340mmの円筒状基材とした。その円筒状基材の表面を、中心線平均粗さRa(JIS B0601に規定されている中心線平均粗さ)が0.04μmとなるように平滑面に仕上げた。なお、上記表面粗さの測定は、表面粗さ測定機サーフコム(東京精密社製)を用いて行った。
次に、得られた円筒状基材に対して脱脂洗浄処理を行った。脱脂洗浄処理は、2つの洗浄槽に円筒状基材を順次浸漬して行った。各洗浄槽は、底部から界面活性剤をイオン交換水に溶解させた洗浄液を供給し、洗浄槽の上部から洗浄液がオーバーフローする構成のものを用いた。かかる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤(ライオン(株)製:LH?600F)を用い、洗浄液中の界面活性剤の濃度は、1つ目の洗浄槽では10〜20質量%の範囲とし、2つ目の洗浄槽では1〜2質量%の範囲とした。また、洗浄液のイオン交換水としては、電気伝導度が0.1μS/cm以下のものを使用した。さらに、洗浄時には円筒状基材に対して超音波発振機により洗浄液を介して超音波を印加した。
円筒状基材の脱脂洗浄処理後、円筒状基材の濯ぎ洗浄処理を行った。濯ぎ洗浄処理は、洗浄液の代わりにイオン交換水のみを用いた以外は、脱脂洗浄処理と同様にして行った。なお、このときにも、円筒状基材には超音波発振機により超音波を印加した。
このように脱脂洗浄処理、濯ぎ洗浄処理が施された円筒状基材の表面に対し、湿式ホーニング処理装置を用いて、粗面化処理を行った。
粗面化処理では、研磨材5.7kgを水51Lに懸濁させた懸濁液を研磨液とした。そして、この研磨液を10リットル/minの流量でホーニング処理用ガンに送り込み、圧縮空気圧を0.1〜0.2MPaの範囲、円筒状基材の回転数を300rpmとして円筒状基材に吹き付け、中心線平均粗さRaが0.2μmの範囲となるように行った。なお、上記研磨材としては、粒径35μmの酸化アルミニウム(昭和タイタニウム社製:アルミナビーズ(CB−A35S))を用いた。その後、円筒状基材を1h静地保管した。
実施例1と同様の循環型処理装置を3つ用意し、粗面化処理が施された円筒状基材をそれらの第1、第2及び第3の処理槽に順次浸漬させて電気分解アルカリ性水処理を施した。かかる電気分解アルカリ性水処理の際には、電気分解アルカリ性水としては、pH10.4であり、日本電子アクティブ株式会社製EKO−13を純水にて希釈したものを用いた。また、かかる電気分解アルカリ性水の温度は、50℃に制御し、それぞれの浸漬時間は60秒間ずつとした。
(電子写真感光体)
次に、上記のようにして処理が施された円筒状基材を用いて電子写真感光体を作製した。有機ジルコニウム化合物(商品名:オルガチックスZC540、松本製薬(株)製)100部、シランカップリング剤(商品名:A1100、日本ユニカー(株)製)10部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−S、積水化学(株)製)10部及びn−ブチルアルコール130部を混合して下引き層形成用塗布液を調製した。得られた塗布液を、浸漬塗布法により円筒状基材上に塗布して140℃で15分間加熱し、膜厚1.0μmの下引き層を形成した。
次に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学(株)製)の2%シクロヘキサノン溶液に、ヒドロキシガリウムフタロシアノン顔料(特開平5−263007号公報に記載のもの)を混合した。なお、ヒドロキシガリウムフタロシアノン顔料とポリビニルブチラール樹脂との比は2:1(質量比)とした。かかる溶液をサンドミルを用いて、3時間分散処理を行なった。得られた分散液を酢酸n−ブチルで希釈して電荷発生層形成用塗布液を調製した。得られた塗布液を、下引き層上に浸漬塗布し、膜厚0.15μmの電荷発生層を形成した。
次に、N,N’?ジフェニル?N,N’−ビス(m−トリル)ベンジジン4部及びビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂6部を、モノクロロベンゼン36部に溶解して電荷輸送層形成用塗布液を調製した。得られた塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布して115℃で40分間乾燥し、膜厚24μmの電荷輸送層を形成した。以上のようにして、実施例8の電子写真感光体を得た。
(実施例9)
実施例8と同様にアルミニウム素管を準備し、鏡面切削加工、脱脂洗浄処理、濯ぎ洗浄処理、粗面化処理及び電気分解アルカリ性水処理を行った。なお、上記各処理は、電気分解アルカリ性水処理の際にpH9.1の電解アルカリ性水(pH以外は、実施例8と同様のもの)を用いた以外は、実施例8と同様に行った。上記各処理が施された円筒状基材を用いたこと以外は、実施例8と同様にして円筒状基材上に、下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層を形成し、実施例9の電子写真感光体を得た。
(実施例10)
実施例8と同様にアルミニウム素管を準備し、鏡面切削加工、脱脂洗浄処理、濯ぎ洗浄処理、粗面化処理及び電気分解アルカリ性水処理を行った。なお、上記各処理は、電気分解アルカリ性水処理の際に、第1及び第2の処理槽において円筒状基材に対し70kHzの超音波を印加したこと以外は、実施例8と同様に行った。上記各処理が施された円筒状基材を用いたこと以外は、実施例8と同様にして円筒状基材上に、下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層を形成し、実施例10の電子写真感光体を得た。
(比較例2)
実施例8と同様にアルミニウム素管を準備し、鏡面切削加工、脱脂洗浄処理、濯ぎ洗浄処理、及び粗面化処理を行った。さらに、粗面化処理後に、実施例1と同様の循環型濯ぎ処理装置を3つ用意し、pH6.8のイオン交換水が収容された第1、第2及び第3の濯ぎ槽に順次浸漬させて濯ぎ処理を行った。上記各処理が施された円筒状基材を用いたこと以外は、実施例8と同様にして円筒状基材上に、下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層を形成し、比較例2の電子写真感光体を得た。
(比較例3)
実施例8と同様にアルミニウム素管を準備し、鏡面切削加工、脱脂洗浄処理、濯ぎ洗浄処理、及び粗面化処理を行った。さらに、粗面化処理後に、実施例1と同様の循環型濯ぎ処理装置を3つ用意し、pH6.8のイオン交換水が収容された第1、第2及び第3の濯ぎ槽に順次浸漬させて濯ぎ処理を行った。なお、比較例3では、第1及び第2の処理槽において円筒状基材に対し70kHzの超音波を印加した。上記各処理が施された円筒状基材を用いたこと以外は、実施例8と同様にして円筒状基材上に、下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層を形成し、比較例3の電子写真感光体を得た。
(欠陥評価試験)
実施例8〜10及び比較例2〜3により得られた電子写真感光体を、それぞれ10本用意した。それらの電子写真感光体に対して、特開平9−325169にて紹介されている低絶縁耐圧欠陥検査装置を用いて欠陥を検査した。
その結果、比較例2の電子写真感光体のみに塗膜ピンホール欠陥が発生していることが確認された。
次に、比較例2を除く実施例8〜10及び比較例3の電子写真感光体をそれぞれ1000本生産した。生産した電子写真感光体に対して、CCDカメラと顕微鏡とからなる表面欠陥評価装置(富士ゼロックス社内製)を用いて、感光体表面の異物欠陥数を測定し、欠陥発生率を算出した。
その結果、欠陥発生率は、実施例8〜10では5%以下であることが確認された。他方、比較例3では15%以上であることが確認された。
実施例8〜10及び比較例2〜3の欠陥評価試験の結果からわかるように、本発明によれば、従来の水系洗浄剤を用いた洗浄では、剥離し難い基材にこびりついた研磨材砥粒及び異物を、ピックアップと呼ばれる多数の基材欠陥を発生させずに剥離させる円筒状基材の処理方法(洗浄方法)を提供できる。
(実施例11)
(基材及び基材処理)
アルミニウム素管(JIS A1050)を、ダイヤモンドバイトを用いて鏡面切削加工することにより、厚さ0.75mm、外径30mm、長さ340mmの円筒状基材とした。その円筒状基材の表面を、中心線平均粗さRaが0.03〜0.04μmの平滑面に仕上げた。
次に、円筒状基材に対して電気分解アルカリ性水処理を行った。かかる処理は、実施例1と同様の循環型処理装置を用意し、円筒状基材を処理槽に浸漬させて行った。かかる処理の際には、電気分解アルカリ性水として、pH10.5であり、日本電子アクティブ株式会社製EKO−13を純水にて希釈したものを用いた。また、かかる電気分解アルカリ性水の温度は、70℃に制御し、処理時間は1分とした。また、かかる処理の際には、円筒状基材に対して、超音波発振機により電解アルカリ性水を介して超音波を印加した。
次に、円筒状基材に対して濯ぎ処理を行った。かかる処理は、実施例1と同様の循環型濯ぎ装置を用意し、円筒状基材を濯ぎ槽に浸漬させて行った。なお、濯ぎ処理には、イオン交換水(電気伝導度が0.1μS/cm以下のもの)を使用した。
このように電気分解アルカリ性水処理、濯ぎ処理が施された円筒状基材の表面に対し、湿式ホーニング装置を用いて、粗面化処理を行った。
粗面化処理では、研磨材5.7kgを水51リットルに懸濁させた懸濁液を研磨液とした。そして、この研磨液を10リットル/minの流量でホーニング処理用ガンに送り込み、圧縮空気圧を0.1〜0.2MPaとして円筒状基材に吹き付け、表面粗さRaが0.1〜0.3μmになるように、粗面化処理を行った。なお、上記研磨材としては、粒径35μmの酸化アルミニウム(昭和タイタニウム社製アルナビーズ(CB?A35S))を用いた。
次に、粗面化処理した円筒状基材に対して、以下の押付処理を行った。すなわち、粗面化処理した円筒状基材に対し、25L/minで60秒間井戸水を吹きかけながら、押付ブラシを円筒状基材に押し付けた。押付ブラシとしては、棒状の軸部材と、軸部材に放射状に取り付けられた多数のナイロン製ブラシとから構成されるものを用いた。また、押付ブラシは、ブラシの線径が65μmであり、ブラシ部分の外径が130mmであり、ブラシの長さが30mmであるものであり、軸部材が円筒状基材の回転軸と平行になるように且つブラシの先端が円筒状基材の表面に接触するように配置した。押付処理は、円筒状基材及び押付ブラシの回転方向を同じ方向とし、回転速度を100rpmにして60秒間行った。
押付処理が施された円筒状基材について、以下のようにして表面油分付着量を算出した。すなわち、先ず超音波槽内に550mlの油分抽出溶媒(商品名:S?316、堀場製作所製)を入れ、5分間超音波をかけた。そして、その抽出溶媒30mlを採取し、油分濃度A(単位:mg/l)を油分濃度測定機(OCMA?220、堀場製作所製)により測定した。こうして油分抽出液に予め含まれている油分濃度(バックグラウンド)を測定した。
次に、上記超音波槽内に収容されたXmlの油分抽出液中に、円筒状基材を完全に浸漬させ、5分間超音波をかけた。そして、その油分抽出液を30ml採取し、油分濃度B(単位:mg/l)を上記と同様にして測定した。得られた油分濃度A及びBを下記式(1)に代入し、表面油分付着量を算出した。
表面油分付着量=(油分濃度B−油分濃度A)× X /(1000×円筒状基材の表面積〔m2〕) …(1)
合計10本の円筒状基材の表面油分付着量を測定し、その結果、バラツキはあったものの全て1×10−4g/m2以下であることが確認された。
(電子写真感光体)
次に、上記のようにして処理が施された円筒状基材を用いて電子写真感光体を作製した。有機ジルコニウム化合物(商品名:オルガチックスZC540、松本製薬(株)製)10部、シランカップリング材(商品名:A1100、日本ユニカー(株)製)1部、イソプロピルアルコール40部、及びn−ブチルアルコール20部からなる混合溶液を下引き層形成用塗布液とした。かかる塗布液を、浸漬塗布により円筒状基材上に塗布した。その後、公知の技術を用いて浸漬塗布によって発生した余剰塗膜を除去した。その後、乾燥機を用いて150℃で10分間加熱乾燥して、円筒状基材上に膜厚0.1μmの下引き層を形成した。
次に、ジブロモアントアントロン顔料(商品名:モノライトレッド2Y、ICI製)8部及びポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学(株)製)1部を、シクロヘキサノン19部に添加混合し、かかる顔料をサンドミル装置を用いて分散させた。得られた分散液に、さらにシクロヘキサノンを加えて、固形分濃度が約10重量%の電荷発生層形成用塗布液を調製した。この塗布液を、浸漬塗布により下引き層上に塗布した後、公知の技術を用いて浸漬塗布によって発生する余剰塗膜を除去した。その後、100℃で10分間加熱乾燥し、膜厚0.8μmの電荷発生層を形成した。
次に、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4−ジアミン4部及びポリ(4,4−シクロヘキシリデンフェニレンカーボネート)樹脂6部を、モノクロロベンゼン40部に溶解し、電荷輸送層形成用塗布液を得た。得られた塗布液を、浸漬塗布により電荷発生層上に塗布した後、公知の技術を用いて浸漬塗布によって発生する余剰塗膜を除去した。その後、110℃で1時間加熱乾燥して、膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。以上のようにして、実施例11の電子写真感光体を得た。
(実施例12)
実施例11と同様にアルミニウム素管を準備し、電気分解アルカリ性水処理、濯ぎ処理、粗面化処理及び押付処理を行った。なお、上記各処理は、電気分解アルカリ性水処理の際にpH9.1の電気分解アルカリ性水(pH以外は、実施例11と同様のもの)を用いた以外は、実施例11と同様に行った。また、実施例11と同様に、押付処理まで施された円筒状基材の表面油分付着量を算出した。合計10本の円筒状基材の表面油分付着量を測定し、その結果、バラツキはあったものの全て1×10−4g/m2以下であることが確認された。
上記各処理が施された円筒状基材を用いたこと以外は、実施例11と同様にして円筒状基材上に、下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層を形成し、実施例12の電子写真感光体を得た。
(比較例4)
実施例11と同様にアルミニウム素管を準備し、濯ぎ処理、粗面化処理及び押付処理を行った。なお、濯ぎ処理は、先ず、pH6.8、70℃のイオン交換水を用いて、次に、イオン交換水(電気伝導度が0.1μS/cm以下のもの)を用いて行った。また、実施例11と同様に、押付処理まで施された円筒状基材の表面油分付着量を算出した。合計10本の円筒状基材の表面油分付着量を測定し、その結果、バラツキはあったものの全て2×10−4g/m2以上であることが確認された。そのため、比較例4においては、電子写真感光体は作成しなかった。
(欠陥評価試験)
実施例11〜12により得られた電子写真感光体を、それぞれ10本用意した。それらの電子写真感光体に対して、CCDカメラと顕微鏡とからなる表面欠陥評価装置を用いて、塗膜の欠陥を検査した。その結果、実施例11〜12の電子写真感光体では電荷発生層には塗布欠陥は確認されなかった。
実施例11〜12の欠陥評価試験の結果からわかるように、アルミニウムを主成分とする基材を、pH9以上の電解アルカリ性水により処理した後に、粗面化処理を行うことによって、好適な円筒状基材が得られることが確認された。また、かかる処理方法は、環境に優しい界面活性剤レスの処理方法である。
(実施例13)
(基材及び基材処理)
外径30mm、長さ400mmのアルミニウム製の円筒状基材を用意し、球形アルミナ粒子(不二製作所社製、粒径105〜125μm)によるブラスト処理により、表面をRa0.8μmに粗面化した。さらに、その表面にシリコーン系離型剤(商品名:KS700、信越化学工業(株)製)を塗布して、300℃で1時間、焼き付け処理を施した。
円筒状基材を、図1〜3に示した循環型処理装置100、循環型濯ぎ装置100a、及び循環型水切り装置100bと同様の構成の装置を用いて処理した。
先ず、電気分解アルカリ性水を用いて基材を洗浄した。処理槽に供給・循環される電気分解アルカリ性水としては、水以外のイオンを3.4wt%含む原液(商品名:ルミックEKO−13AL、日本電子アクティブ社製)を、イオン交換水にて希釈したもの(pH9)を用いた。電気分解アルカリ性水の原液を希釈するためのイオン交換水としては、比抵抗5(MΩ・cm)のものを用いた。
また、電気分解アルカリ性水の温度は35℃に設定され、上下揺動回数15回/minで、30sec間、基材を洗浄した。この際、超音波の照射は行わず、また、油水分離装置は使用しなかった。
次に、濯ぎ処理を行った。濯ぎ処理に用いた循環型濯ぎ装置における濯ぎ槽では、比抵抗5(MΩ・cm)のイオン交換水を使用した。また、イオン交換水の温度は35℃に設定された。また、濯ぎ処理の際には、上下揺動回数15回/minで、30sec間、基材を濯いだ。この際、超音波の照射は行わなかった。
最後に、水切り処理を行った。水切り処理に用いた循環型水切り装置における水切り槽では、比抵抗5(MΩ・cm)のイオン交換水を、液温50℃に設定して使用した。基材を水切り槽内に30sec浸漬した後、300mm/minで引き上げた。その後、135℃の熱風で乾燥した。
(無端ベルトの製造)
ポリイミド前駆体のN−メチルピロリドン溶液(商品名:UワニスS、宇部興産(株)製)を塗布液とした。固形分濃度は18%、粘度は約5Pa・sであった。これを図10に示すような内径70mm、高さ50mmの塗布槽に入れた。なお、塗布槽の中央には内径29mmの穴を設けた0.5mm厚の硬質ポリエチレン製の環状シール材を取り付け、その穴に、外径30mm、長さ50mmのポリアセタール樹脂製の中間体を嵌めた。
次に、環状体として、高さが25mm、外径が60mmで、最も狭い部分の内径が31.2mmの円孔を設けたポリアセタール樹脂製の中空体を作製した。その内壁面は傾斜面であり、また、円孔の真円度は13μmであった。環状体の壁部の上端面には、長さ30mm、太さ1mmのステンレス棒材からなるアームを3本、等間隔に取り付けた。
次いで、アームを塗布槽の上端面に載せるようにして、環状体を塗布液上に設置した。かかる塗布装置に円筒状基材を設置し、0.7m/minの速度で円筒状基材を上昇させ、円筒状基材表面(外周面)に濡れ膜厚が約600μmの塗膜を形成した。
その後、円筒状基材の長軸方向を水平にして20rpmで回転させながら、120℃で60分間乾燥した。次いで、基材を縦にして200℃で30分間、380℃で1時間加熱して樹脂を反応させ、被膜を形成した。室温に冷えてから被膜を剥離することにより、ポリイミド樹脂製の無端ベルトを得た。
(実施例14)
円筒状基材を洗浄処理し、その円筒状基材を用いて実施例13と同様にして無端ベルトを製造した。なお、洗浄処理は、循環型処理装置での電気分解アルカリ性水処理及び循環型濯ぎ装置での濯ぎにおいて周波数133kHzの超音波照射を行ったこと以外は、実施例13と同様にして行った。
(実施例15)
円筒状基材を洗浄処理し、その円筒状基材を用いて実施例13と同様にして無端ベルトを製造した。なお、洗浄処理は、循環型処理装置の使用済み電気分解アルカリ性水に含まれる油分を、油水分離装置として超極細繊維フィルター(商品名:ユーテックTH、旭化成社製)を用いて分離したこと以外は、実施例14と同様にして行った。
(比較例5)
円筒状基材を洗浄処理し、その円筒状基材を用いて実施例13と同様にして無端ベルトを製造した。なお、洗浄処理は、電気分解アルカリ性水処理の際に用いた電気分解アルカリ性水の代わりに、pH7の電気分解アルカリ性水を用いたこと以外は、実施例13と同様にして行った。
(比較例6)
円筒状基材を洗浄処理し、その円筒状基材を用いて実施例13と同様にして無端ベルトを製造した。なお、洗浄処理は、電気分解アルカリ性水処理の際に用いた電気分解アルカリ性水の代わりに、pH7の水系洗剤を用いたこと以外は、実施例13と同様にして行った。
(無端ベルトの表面欠陥評価試験)
実施例13〜15及び比較例5〜6の無端ベルトを各々1000本連続生産した。そして、CCDカメラ、画像処理装置、及び観察顕微鏡で構成される、表面欠陥検出装置により、基材洗浄に起因する大きさ20μm以上の、へこみやぶつ等の欠陥を検出し、ベルト1000本当りの欠陥発生率を求めた。得られた結果を、表1に示す。
表1に示した結果からわかるように、実施例13では、洗浄処理に起因する欠陥発生率が5%以下であることが確認された。また、実施例13では、異物の再付着がなく、こびりつきの強い異物も除去された。また、基材表面に腐食は発生しなかった。
また、実施例14では、欠陥発生率は3%であった。電気分解アルカリ性水処理及び濯ぎ処理において超音波を印加したことにより、基材表面からの異物の除去が促進されたと考えられる。また、実施例15では、油分が混じった洗浄処理水から油分を分離した結果、電解アルカリ性水の性能が回復・維持され、欠陥発生率は1%まで低減できた。一方、比較例5及び比較例6では、欠陥発生率が10%以上であることが確認された。
実施例13〜15及び比較例5〜6の結果からわかるように、本発明によれば、基材から除去した異物が再付着せず、基材表面に腐食が発生しない円筒状基材の処理方法を提供できる。また、その処理方法で処理された円筒状基材は、腐食がなく、異物がほぼ完全に除去されたものである。また、その処理方法で処理された円筒状基材を用いることで、基材表面の異物残存による塗膜欠陥が生じ難い、無端ベルトの製造方法を提供することができる。
1…円筒状基材、10…電気分解アルカリ性水、25…処理槽、30…フィルター、35…油水分離装置、40…貯留槽、45…送液ポンプ、100…循環型処理装置、300…塗布装置、310…塗布槽、320…環状体。