JP2005036858A - 冠型保持器及び転がり軸受 - Google Patents

Abstract

【課題】保持器の半径方向の動き量を抑制すると共に、保持器底の剛性を確保することにより、極低温時における異音防止を可能とする冠型保持器及び転がり軸受を提供する。
【解決手段】円環状に形成されると共に、円周方向の複数箇所に転動体４を収容保持するポケット６を設け、該ポケット６は、転動体４の直径より大きなポケット面６ａを有すると共に、各ポケット６の軸方向の一方側に前記転動体４の直径より開口幅の小さい開口部６ｅを設けた冠型保持器において、ポケット６の内径側縁６ｂと外径側縁６ｃの少なくともいずれか一方の一部に保持器５の半径方向ｒの動きを抑制する係り部を設け、且つポケット６の底厚をＴ、玉径をＤａとした時に、Ｔ／Ｄａが８％〜１８％とした。
【選択図】 図２

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばエアコンファンモータ等の一般電化製品に組み込まれるモータ、或いは自動車部品用小型モータ等の回転支持部分を構成する転がり軸受に関し、特に、極低温条件下において使用するのに好適な転がり軸受の改良に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
転がり玉軸受は、内輪と外輪の間に冠型保持器を介して複数個の玉が周方向に転動可能に配置されており、図７に示すように、冠型保持器１００には前記複数の玉を周方向に等間隔に配置するポケット２００が設けられている。
ところで、自動車用エアコンファンモータ等の小型モータや自動車用プーリ、ファンなどの回転支持部に組み込まれる転がり玉軸受は、極低温条件下（例えば−２０℃〜−４０℃）においても使用されることがある。
このように極低温条件下において使用される場合、特に回転初期において異音を発生することがある。これは、極低温条件下において、軸受に封入されるグリースの流動性が常温に比して著しく低下し、冠型保持器ポケット面と玉との潤滑が枯渇し、両者の摩擦により冠型保持器が半径方向に振動するものと考えられている。
【０００３】
この改善策として、保持器の半径方向の動き量を抑制する手段が講じられている。
従来の対策▲１▼
保持器ポケットの内径側縁と外径側縁の少なくともいずれか一方の一部に、保持器の半径方向の動きを抑制する係り部を設けることで、半径方向の動き量を抑制するものが提供されている（例えば、特許文献１参照。）。
従来の対策▲２▼
保持器ポケットを通るＰ．Ｃ．Ｄ．（Ｐｉｔｃｈ Ｃｉｒｃｌｅ Ｄｉａｍｅｔｅｒ ピッチ円直径ともいう。）を、玉のＰ．Ｃ．Ｄ．に対して大きくあるいは小さくすることで、半径方向の動き量を抑制するものが提供されている（例えば、特許文献２参照。）。
【０００４】
【特許文献１】
特開平９−１５８９５１号
【特許文献２】
実開昭５８―１９５１１８号
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記▲１▼又は▲２▼の夫々の対策では、極低温時において、保持器が変形を伴うほどの力が玉から与えられた場合、保持器ポケット底の厚さによっては、ポケット爪先端部が開くことにより、本来の効果が得られず、異音が発生する場合がある。
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、保持器の半径方向の動き量を抑制すると共に、保持器底の剛性を確保することにより、極低温時における異音防止を可能とする冠型保持器及び転がり軸受を提供することである。
【０００６】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するために本発明がなした技術的手段は、ポケットの内径側縁と外径側縁の少なくともいずれか一方の一部に保持器の半径方向の動きを抑制する係り部を設け、且つポケットの底厚が玉径の８％〜１８％とした構成或いは、ポケットを通るＰ．Ｃ．Ｄ．が玉のＰ．Ｃ．Ｄ．に対して大きく或いは小さくし、該保持器の底厚が玉径の８％〜１８％とした構成の冠型保持器とした。
保持器の半径方向動き量は、前記ポケット係り部、或いはポケット内外径面によって抑制される。
また、極低温条件下での回転の場合、保持器には、玉から変形を伴うほどの力が与えられることがある。その場合、内径側縁の係り部に力が加わり、ポケットの爪先端が開き易くなる。これは、剛性の弱い保持器ポケット底面が変形することによりおこるが、本発明では、ポケットの底厚を玉径の８％〜１８％とすることにより、保持器の変形を抑制することが出来る。
【０００７】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図に基づいて説明する。なお、本実施形態は、本発明の一実施形態にすぎずなんらこれらに限定して解釈されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【０００８】
図１は、例えばエアコンファンモータ等の一般電化製品に組み込まれるモータ、或いは自動車部品用小型モータ等の回転支持部分を構成する本発明の転がり軸受の一実施形態を示す。なお、本実施形態の転がり軸受は、その配設箇所に限定はされないが、特に、極低温条件下において使用される。
転がり軸受１は、例えば、内径８ｍｍ、外径２２ｍｍの軸受で、相対回転可能に配設した一対の軌道輪（外輪２と内輪３）と、該軌道輪２，３間に組み込まれる複数個の転動体（玉）４と、該転動体４を収容保持する冠型保持器５とで構成されている。転がり軸受１は、少なくとも前記構成からなるものであればよく、密封板などその他の構成を追加・変更等することは本発明の範囲内で可能である。本発明は、冠型保持器５に特徴的な構成を有し、その他の構成、例えば外輪２、内輪３、転動体４等については特に限定解釈されないため、以下冠型保持器５についての説明に留め、その他の構成についての説明は省略する。
【０００９】
図２に示すように、冠型保持器５は、円環状に形成されると共に、円周方向の複数箇所に転動体４を収容保持するポケット６を設けて構成されている。
ポケット６は、外径面５ａと内径面５ｂにわたって貫通せしめて形成すると共に、各ポケット６の保持器軸方向の一方側に転動体４の直径Ｄａより開口幅の小さい開口部６ｅを設けて構成されている。
ポケット６は、例えば、貫通方向（保持器軸心Ｏから半径方向ともいう）ｈに円筒形のポケット面６ａを有するか、あるいは転動体４の直径Ｄａより僅かに大きな球面（例えば単一球面）のポケット面６ａを有する。なお、ポケット面６ａ形状に何等限定されるものではなく本発明の範囲内で他の形状を選択可能である。
【００１０】
ポケット６は、図２，３，５に示すように、内径側縁６ｂと外径側縁６ｃの少なくともいずれか一方の一部に、保持器半径方向ｒ（図３，５参照）の動きを抑制する係り部７を設けている。
係り部７は、例えばポケット６の相対向する爪６ｄ，６ｄの先端近傍の内径側縁６ｂ所望範囲に、保持器５の軸心Ｏに向かって閉じる方向に円すい形に突出形成されている（図２，３参照）。
また、係り部７は、例えば上述のように爪６ｄの先端近傍に形成した係り部７と対向するポケット外径側縁６ｃの所望範囲に、保持器５の軸心Ｏに向かって開く方向に円すい形に突出形成するものであってもよい（図５参照）。
図２，３，５中、７ａは円すい面を示す。
係り部７の大きさ・形状・配設数量などは、図示例に特に限定されず任意に設定可能である。すなわち、本実施形態では、ポケット６の相対向する爪６ｄ，６ｄの先端近傍の内径側縁６ｂ若しくは外径側縁６ｃのいずれかに、所望範囲にわたり相対向して一対の係り部７，７を形成しているが、複数個ずつ相対向して形成しても良く、また上記係り部７を内径側縁６ｂと外径側縁６ｃの双方に形成してもよい。
【００１１】
ポケット６の底厚は、保持器５の変形を抑制するため、玉径の８％〜１８％とする（Ｔ／Ｄａ＝８％〜１８％、Ｔ：保持器ポケットの底厚（保持器ポケット底の最も薄い位置の厚さ）、Ｄａ：玉直径）。
本実施形態では、ポケット底厚（Ｔ）と玉径（Ｄａ）の比Ｔ／Ｄａ＝８％〜１８％としているが、保持器成形時の金型のアキシアルドローにより、保持器爪の変形或いは割れに対しある程度の弾性域を設ける必要があるため、より好ましくは、１５％以下とすると良い（Ｔ／Ｄａ＝８％〜１５％）。
更に、高速の条件（例えば５万回転）では、玉から保持器に加わる力と共に、遠心力の影響から保持器の変形がおこるため、より好ましくはポケット底厚（Ｔ）と玉径（Ｄａ）の比Ｔ／Ｄａ＝１０％以上とすると良い（Ｔ／Ｄａ＝１０％〜１８％、或いは１０％〜１５％）。
【００１２】
ここで、保持器５のポケット底厚と保持器の剛性値について検討する。
図４に、保持器５のポケット底厚（Ｔ）を玉径（Ｄａ）の５％〜２０％まで変化させ、底厚比Ｔ／Ｄａと、保持器内径側係り部７に一定の力を加えた時の保持器ポケット６の変形比との関係を解析により求めた結果を示す。
ここで変形比を、Ｔ／Ｄａ＝５％の時の変形を１とすると、底厚比を上げていけば変形は抑えられ、Ｔ／Ｄａ＝８％以上から変形が一定に近づくため、本発明の範囲はＴ／Ｄａ＝８％以上とする。
一方、更に底厚を厚くした場合、軸受の幅寸法、密封板形状にもよるが、密封板との干渉が起こる為、２０％以下とし、好ましくは１８％とする。
したがって本実施形態では、保持器５全体の半径方向ｒの動きは前記保持器ポケット係り部７で抑制されると共に、ポケット底厚と玉径の比Ｔ／Ｄａを８％〜１８％とすることで保持器５の変形を防ぎ、極低温時における異音の発生を抑制することが出来る。
【００１３】
図６（ａ）（ｂ）は、本発明冠型保持器の他の実施形態を示す。
例えば、単一球面のポケット面６ａを有するポケット６の場合、係り部７を設ける構成に代えて、ポケット６の中心を通るＰ．Ｃ．Ｄ．を、玉４のＰ．Ｃ．Ｄ．に対して大きく或いは小さくさせる構成（偏心構成）を採用することで、保持器半径方向ｒの動きを抑制することができる。なお、ポケット底厚と玉径の比Ｔ／Ｄａは上述の実施形態の説明を援用する。
すなわち、ポケット６のＰ．Ｃ．Ｄ．を、玉４のＰ．Ｃ．Ｄ．に対し、保持器内径ｄ１側に偏在（図６（ｂ））させるか、若しくは外径ｄ２側に偏在（図６（ａ））させる。
図６（ａ）のように保持器外側ｄ２側に偏在させた場合、保持器５全体の半径方向ｒの動きが、保持器ポケット６の内径側縁６ｂで抑制される。また、図６（ｂ）のように保持器内径ｄ１側に偏在させた場合、保持器５全体の半径方向ｒの動きが、保持器ポケット６の外径側縁６ｃで抑制される。
保持器５の変形を防ぎ、極低温時における異音の発生を抑制する作用効果については上述した図２乃至５に開示の実施形態と同様である。
なお、ポケット６のＰ．Ｃ．Ｄ．を玉４のＰ．Ｃ．Ｄ．に対し、保持器内径ｄ１側若しくは外径ｄ２側に偏在させるにあたり、その偏在の程度は特に限定されず、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【００１４】
【発明の効果】
本発明によれば、保持器の半径方向の動き量を抑制すると共に、保持器底の剛性を確保することにより、極低温時における異音防止を可能とする冠型保持器及び転がり軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明転がり軸受の一実施形態を一部切り欠いて示す全体斜視図。
【図２】本発明冠型保持器の第一実施例を示す全体斜視図。
【図３】図２の一部断面概略図。
【図４】保持器のポケット底厚と保持器変形の関係図。
【図５】本発明冠型保持器の他の実施形態の一部断面概略図。
【図６】（ａ）は本発明冠型保持器の他の実施形態の一部断面概略図、（ｂ）は冠型保持器の他の実施形態の一部断面概略図。
【図７】従来の冠型保持器の一例を示す全体斜視図。
【符号の説明】
１：転がり軸受
２：外輪（軌道輪）
３：内輪（軌道輪）
４：転動体（玉）
５：冠型保持器
６：ポケット
６ａ：ポケット面
６ｂ：内径側縁
６ｃ：外径側縁
７：係り部
Ｄａ：玉径
Ｔ：ポケット底厚
Ｏ：保持器軸心

Claims (4)

1. 円環状に形成されると共に、円周方向の複数箇所に転動体を収容保持するポケットを設け、該ポケットは、転動体の直径より大きなポケット面を有すると共に、各ポケットの軸方向の一方側に前記転動体の直径より開口幅の小さい開口部を設けた冠型保持器において、
   前記ポケットの内径側縁と外径側縁の少なくともいずれか一方の一部に、保持器半径方向の動きを抑制する係り部を設けると共に、ポケット底厚を玉径の８％〜１８％としたことを特徴とする冠型保持器。
2. 円環状に形成されると共に、円周方向の複数箇所に転動体を収容保持するポケットを設け、該ポケットは、転動体の直径より僅かに大きな球面を有するポケット面を有すると共に、各ポケットの軸方向の一方側に前記転動体の直径より開口幅の小さい開口部を設けた冠型保持器において、
   前記ポケットを通るＰ．Ｃ．Ｄ．を玉のＰ．Ｃ．Ｄ．に対して大きく或いは小さく構成すると共に、ポケット底厚を玉径の８％〜１８％としたことを特徴とする冠型保持器。
3. 相対回転可能に配設した一対の軌道輪と、該軌道輪間に組み込まれる複数個の転動体と、円環状に形成されると共に、円周方向の複数箇所に転動体を収容保持するポケットを設け、該ポケットは、転動体の直径より大きなポケット面を有すると共に、各ポケットの軸方向の一方側に前記転動体の直径より開口幅の小さい開口部を設けた冠型保持器とを少なくとも有してなる転がり軸受であって、
   前記冠型保持器は、ポケットの内径側縁と外径側縁の少なくともいずれか一方の一部に、保持器半径方向の動きを抑制する係り部を設けると共に、ポケット底厚を玉径の８％〜１８％としたことを特徴とする転がり軸受。
4. 相対回転可能に配設した一対の軌道輪と、該軌道輪間に組み込まれる複数個の転動体と、円環状に形成されると共に、円周方向の複数箇所に転動体を収容保持するポケットを設け、該ポケットは、転動体の直径より僅かに大きな球面を有するポケット面を有すると共に、各ポケットの軸方向の一方側に前記転動体の直径より開口幅の小さい開口部を設けた冠型保持器とを少なくとも有してなる転がり軸受であって、
   前記冠型保持器は、ポケットを通るＰ．Ｃ．Ｄ．を玉のＰ．Ｃ．Ｄ．に対して大きく或いは小さく構成すると共に、ポケット底厚を玉径の８％〜１８％としたことを特徴とする転がり軸受。

Images