JP2005023357A - 溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、母材は、C:0.001〜0.10%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cu:0.05〜1.0%、Cr:15〜30%、Ni:8〜30%およびN:0.001〜0.15%を含有し、残部はFeおよび不純物(P:0.05%以下、S:0.05%以下)であるステンレス鋼で、溶接金属は、δフエライト組織率Ndが10%以下で、かつ下記▲1▼式を満足する鋼である溶接継手。さらに、Mo(0.05〜3.0%)と、Ti、Nb、V、Zrの中のいずれか1種以上(0.001〜0.5%)と、Ca(0.0003〜0.010%)の三つのグループのうちの何れか一以上のグループに属する元素が含まれていてもよい。
Cu(%)≦(2/Nd)2/3+0.2 ・・▲1▼
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学プラント、海水を扱うプラント、原子力プラント等の各種のプラントにおける装置類、配管などの溶接構造物の建造に欠かせない溶接継手であって、特に、溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
オーステナイト系ステンレス鋼は優れた耐食性を有することから、化学プラント、海水を扱うプラント、原子力プラント等の各種のプラントをはじめ、広範な用途に使用されている。これらのステンレス鋼が構造用あるいは配管用の部材として使用される場合、溶接によって施工されることが多い。その際、これら部材を幾つも継ぎ合わせて溶接し、溶接構造物とするので、個々の溶接継手の工作における施工性は極めて重要である。そのため、溶接される母材に対してはもちろんのこと、溶接材料に対しても良好な溶接性が求められる。
【0003】
ステンレス鋼の溶接性の向上については、従来から数多くの技術的検討がなされている。例えば、特許文献1には、薄板のTIG溶接に際し、高速溶接を可能にするため、Cu含有量を所定の範囲とし、SiとMnとSの含有量の関係を規定した、センター落ちおよびアンダーカット等の欠陥のほとんど生じない、優れた溶接性を有するオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。さらに、特許文献2には、開先近傍へのCu、Cu合金付着に起因する溶接熱影響部での割れ感受性を低減するために、Cu含有量を0.08%以下と低く制限するとともに、Niバランスを所定の範囲内に規定したオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。
【0004】
また、溶接材料に関しては、特許文献3に、特にMoの含有量を適正化するとともに、MnとSの含有量の関係、AlとO(酸素)の含有量の関係を規定した、高温で使用される高強度、高耐食フエライト鋼用の溶接施工性に優れた溶接材料が開示されている。
【0005】
一方、溶接時の高温割れを防止するため、溶接金属中に生成するδフェライトの比率を高くすることが知られているが、δフエライトが生成すると、δフエライトそのものによる低温靭性の低下、成分元素の分配、偏析による耐食性の劣化などが懸念される。これに対して、特許文献4では、溶接金属のNi等量とCr等量の和を制限し(但し、Mnを除く)、かつMnを適正量添加することにより、溶接金属中にδフエライトを生成させることなく高温割れが抑制され、低温靭性および高温脆化が改善された溶接金属が得られるオーステナイト系ステンレス鋼用の溶接材料が開示されている。
【0006】
しかし、前記溶接性が改善されたオーステナイト系ステンレス鋼が使用され、あるいは溶接時に前記特定の溶接材料が用いられても、その適用対象が化学プラントや原子力プラント等の配管の場合、それに要求される円周溶接性については必ずしも十分ではない。前記特許文献1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼は厚さ2mm以下の薄鋼板で、プラント用配管とは溶接条件が異なり、特許文献2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼は溶接熱影響部の割れ感受性を低下させた鋼で、溶接性は考慮されていない。特許文献4に記載の溶接材料も溶接施工性を改善するという視点からの検討はなされていない。また、特許文献3に記載の溶接材料は溶接部に母材に匹敵する高温強度と耐高温腐食性を付与し、しかも優れた溶接施工性を有しているが、後に示す本発明の特徴であるCuの特有の作用およびオーステナイト組織の熱収縮を利用するものではない。
【0007】
ステンレス鋼がプラント用の配管として使用される場合、優れた耐食性に加えて、前記円周溶接性に優れることが要求される。「円周溶接性」とは、管材を溶接する際に高温割れやアンダーカットなどの溶接欠陥が生じないことはもちろん、健全な溶接ビードが容易に得られるという溶接施工性を意味する。具体的には、ビード幅の均−な裏ビードが形成され易いという特性である。
【0008】
この溶接施工性の改善を図るべく、特許文献5では、溶接時のビード幅の均一性を確保するためにSの上限を規定し、S低減に伴う裏ビード形成能の低下を溶融池のO(酸素)およびAlの含有量の関係を規定した溶接施工性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼および溶接材料が開示されている。しかし、S含有量は0.005%以下、Al含有量は0.010%以下と低く抑えられており、実用上は上限の緩和が望まれる。
【0009】
【特許文献1】
特開昭63−60260号公報
【特許文献2】
特開昭59−153870号公報
【特許文献3】
特開平8−294793号公報
【特許文献4】
特開平7−314178号公報
【特許文献5】
特開平9−137255号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような状況に鑑みなされたもので、その目的は、プラント用の配管として使用される際に、健全な溶接ビードが容易に得られる(具体的には、ビード幅の均−な裏ビードが形成され易い)溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明者らは、厳しい腐食環境における耐食性を備え、かつ溶接施工性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼についての研究を行った。その結果、下記(a)〜(d)の知見を得た。
【0012】
(a) Sは鋼中の裏ビード形成能を高めるが、耐食性や溶接ビード幅の均一性を悪くするため、通常は、S含有量を極力低減する。このS含有量の低減によって低下する裏ビード形成能は、Cuを含有させることにより改善できる。これは、本発明者らが新たに知見した効果で、Cuを0.05%以上含有させると、例えば、図1(イ)に示すように、母材1を突合わせ溶接する際に形成される溶融池2で、内向き対流3が促進され、ビード幅Wbが小さくなり、溶融金属の重力による垂れ落ちが抑制されるため、健全な裏ビードが形成される。図1(ロ)は溶融池2で外向き対流4が促進されている場合で、母材1の溶融が進行し易くビード幅Wbが大きくなり、溶融金属の重力による垂れ落ち5が生じて裏ビード形状が悪くなる。
【0013】
(b) 溶接金属部のδフェライト組織とオーステナイト組織の線膨張係数の差を利用することにより、健全な裏ビードが形成される。
【0014】
オーステナイト組織はδフエライト組織と比べると線膨張係数が大きい。そのため、溶接金属部におけるオーステナイト組織の比率が100%であれば、溶接後の冷却時にビードが適度に熱収縮し、溶融池が保持され(溶融金属の垂れ落ちが抑制され)るため健全な裏ビードが形成される。しかし、溶接金属部におけるδフェライト組織の比率が多くなると、ビードの熱収縮が小さくなって溶融池を保持できなくなるとともに、オーステナイト組織とδフェライト組織の局部的な熱収縮の差が大きくなって、裏ビード形状が悪くなる。
【0015】
(c) 前記(a)に記載した溶融池での内向き対流の促進によるCuの裏ビード形成能はSと比べると小さいが、Cuはオーステナイト形成元素として線膨張係数の大きいオーステナイト相を安定化させるので、Cuを添加することにより溶接金属部におけるδフェライト組織率(オーステナイト組織に対するδフェライト組織の面積率)が適正化され、前記のように溶融池が保持されて健全な裏ビードが形成される。すなわち、母材であるオーステナイト系ステンレス鋼に優れた溶接施工性を付与することが可能になる。
【0016】
(d) Cuの添加は母材の耐食性改善に対しても効果がある。
【0017】
本発明はこれらの知見に基づきなされたもので、その要旨は、下記の溶接継手にある。なお、合金元素の「%」は「質量%」を意味する。
【0018】
『母材と溶接金属とを備える溶接継手であって、母材は、C:0.001〜0.10%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cu:0.05〜1.0%、Cr:15〜30%、Ni:8〜30%およびN:0.001〜0.15%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のPが0.05%以下、Sが0.05%以下であるステンレス鋼であり、溶接金属は、δフエライト組織率Ndが10%以下で、かつ下記▲1▼式
Cu(%)≦(2/Nd)2/3+0.2 ・・▲1▼
を満足する鋼である溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手。』
前記溶接継手は、母材が、前記の成分に加えて、さらに、Mo:0.05〜3.0%(これを「第1グループ」という)、Ti、Nb、VおよびZrの中のいずれか1種以上:0.001〜0.5%(これらを「第2グループ」という)、および、Ca:0.0003〜0.010%(これを「第3グループ」という)、の三つのグループのうちの何れか一以上のグループに属する元素(成分)を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のPが0.05%以下、Sが0.05%以下であるステンレス鋼であり、溶接金属が、δフエライト組織率Ndが10%以下で、かつ前記▲1▼式を満足する鋼であってもよい。
【0019】
なお、前記▲1▼式の「Cu(%)」は、母材のCu含有量(質量%)を表し、「Nd」は、溶接金属部におけるδフェライト組織率(オーステナイト組織に対するδフェライト組織の面積率(%))を意味する。
【0020】
また、ここでいうステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼で、具体的に例示すると、SUS304、SUS316、SUS310、SUS347等を指す。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手に含まれる各成分の作用効果とその含有量の限定理由について詳細に説明する。なお、母材の化学組成と溶接金属のそれとはほとんど同じなので、ここでは区別せずに説明する。
【0022】
C:0.001〜0.10%
Cはオーステナイト形成元素としてオーステナイト相の安定に寄与する。しかし、過剰に含有させると炭化物を形成し、耐食性の劣化を招く。特に、溶接熱影響部ではCr炭化物の析出に起因して粒界腐食感受性が高くなり(鋭敏化され)、耐食性の劣化が顕著になる。この鋭敏化を防止するにはC含有量をできる限り低くするのが有効であり、C含有量は0.10%以下とする。望ましくは、0.05%未満である。過度に低減させようとすると製造コストが増大するので、C含有量の下限は0.001%とする。
【0023】
Si:0.1〜1.0%
Siは脱酸剤として添加されるが、過剰に含まれると溶接時の高温割れ感受性が増大するので、Si含有量の上限は1.0%とする。望ましくは、実用鋼としての価格の面から、0.60%である。脱酸剤としての作用効果を得るため、下限は0.1%とする。
【0024】
Mn:0.1〜2.0%
Mnは脱酸剤として添加され、熱間加工性の向上、オーステナイト相の安定にも寄与する。また、溶接時に、Sを固定化して高温割れ防止に主要な役割を果たす元素である。しかし、過剰に含有させると、溶接部表面に硫化物が優先的に濃化し、鋼材の耐食性を低下させるとともに、溶接作業性の低下、ヒュームの発生などの問題が生じる。従って、Mn含有量の上限は2.0%とする。望ましくは、1.5%である。前記の諸効果を得るため、下限は0.1%とする。
【0025】
Cu:0.05〜1.0%
Cuは、前述したように、溶接時に形成される溶融池での内向き対流を促進させ、ビード幅を小さくして溶融金属の重力による垂れ落ちを抑制し、健全な裏ビード形成に寄与する。さらに、Cuを添加することにより溶接金属部におけるδフェライト組織率を適正に維持し、母材鋼に優れた溶接施工性を付与することができる。オーステナイト組織はδフェライト組織と比べると溶接後の熱収縮が大きく、溶融池が保持されるので健全な裏ビードが形成されるが、Cuはオーステナイト形成元素としてオーステナイト相を安定化させるからである。また、Cuの添加は母材の耐食性の改善にも効果がある。
【0026】
前記内向き対流の促進はCu含有量が0.05%未満では十分に行われないので、Cu含有量の下限は0.05%とする。望ましくは0.15%である。一方、Cuが過剰に含まれると、溶接時の高温割れ感受性が高くなるので、Cu含有量の上限は1.0%とする。望ましくは0.8%である。さらに望ましくは0.5%である。
【0027】
Cr:15〜30%
Crは溶接部の耐酸化性および耐食性の確保に不可欠な元素である。Cr含有量が15%未満ではこの効果が十分に得られない。一方、30%を超えて含まれると、加工性が低下し、また実用鋼としての価格の面で不利になる。従って、Cr含有量は、15〜30%とする。望ましくは、16%以上25%未満である。
【0028】
Ni:8〜30%
Niはオーステナイト相を安定させ、良好な耐食性を確保するために重要な元素である。オーステナイト相を安定させるという観点から、最低8%は必要である。Ni含有量の上限は、溶接性の観点からCr含有量との相関があり、30%とする。従って、Ni含有量は、8〜30%、望ましくは、8〜25%、より望ましくは、8〜20%である。
【0029】
N:0.001〜0.15%
Nはオーステナイト相を安定化させ、同時に溶接金属の強度を高めるのに有効な元素であるが、過剰に含有させると裏ビード形成能を劣化させる。さらに、鋼中のCrと結合してCr窒化物を形成し、粒界耐食性を低下させる。従って、N含有量は0.001〜0.15%とする。望ましくは、0.005〜0.10%である。
【0030】
本発明の溶接継手を構成する母材と溶接金属は、前記の成分以外、残部はFeと不純物からなるものである。不純物としては、PおよびSの上限を抑えることが必要である。
【0031】
P:0.05%以下
Pは多量に存在すると溶接部の加熱脆化を招くので、できるだけ少ないことが望ましい。従って、その含有量は0.05%以下とする。
【0032】
S:0.05%以下
Sは溶融池の溶け込み深さを深くし、裏ビード形成能を向上させるのに有用な元素である。しかし、過剰に添加すると、形成された硫化物が耐食性を劣化させたり、加工時のキズ発生の原因となる。さらに、溶接時の高温割れ感受性が高くなる。従って、その含有量は0.05%以下とする。望ましくは、0.01%以下である。
【0033】
その他の不純物としては、Alの上限を抑えることも重要である。Alは強力な脱酸剤で、溶製時に添加されるが、窒化物や酸化物として析出し、溶接部の性状を悪化させるとともに、耐食性を低下させる。従って、その含有量は0.04%以下とするのが望ましい。
【0034】
本発明の溶接継手(母材および溶接金属)は、さらに、前記第1グループ(Mo:0.05〜3.0%)、前記第2グループ(Ti、Nb、VおよびZrの中のいずれか1種以上:0.001〜0.5%)、および、前記第3グループ(Ca:0.0003〜0.010%)、の三つのグループのうちの何れか一以上のグループに属する成分を含むものであってもよい。これらの成分の作用効果と含有量の適正範囲は下記のとおりである。
【0035】
Mo:0.05〜3.0%
Moは不働態皮膜の安定化に効果があり、耐孔食性や耐全面腐食性を確保するためには有効な元素なので添加してもよい。しかし、その含有量が0.05%未満では前記効果は小さいので、添加する場合には、その含有量が0.05%以上となるように添加する。一方、フエライト形成元素としてフエライト相の安定に寄与するので、過剰な添加は溶接施工性を劣化させるとともに、Fe、Ni、Cr等とともに金属間化合物として粒界に析出すると、粒界における耐食性を低下させる。従って、Mo含有量の上限は、3.0%とする。望ましくは、2.5%である。
【0036】
Ti、Nb、VおよびZrの中のいずれか1種以上:0.001〜0.5%
Ti、Nb、VおよびZrはいずれも鋼中のCと結びつき、粒内に炭化物を形成する。これにより、溶接熱影響部におけるCr炭化物の析出に起因するCr欠乏層の形成が抑制され、溶接継手の耐食性が改善される。従って、Ti、Nb、VおよびZrの中のいずれか1種以上を必要に応じて添加してもよい。添加する場合、前記の作用効果を十分に発揮させるために、これらの元素の中のいずれか1種以上を0.001%以上含有させる必要がある。一方、過剰に含有させると溶接施工性や熱間加工性が低下するので、前記含有量の上限は、0.5%とする。
【0037】
Ca:0.0003〜0.010%
Caは鋼の熱間加工性を改善するので、必要に応じて添加してもよい。添加する場合、その作用効果を十分に発揮させるために0.0003%以上含有させる必要がある。但し、過剰に含有させると耐食性が低下するので、その含有量の上限は0.010%とする。
【0038】
本発明の溶接継手を構成する母材と溶接金属は、前記の成分を含むものであるが、溶接金属にあっては、さらに、δフエライト組織率Nd(すなわち、オーステナイト組織に対するδフェライト組織の面積率(%))が10%以下で、かつ下記▲1▼式を満足する鋼であることが必要である。
【0039】
Cu(%)≦(2/Nd)2/3+0.2 ・・▲1▼
前記のδフエライト組織率Ndを10%以下とするのは、次の理由による。すなわち、先に述べたように、オーステナイト組織は線膨張係数が大きく、溶接金属部のオーステナイト組織の比率が仮に100%であれば、溶接施工後の冷却時にビードが適度に熱収縮し、溶融池が保持されるため健全な裏ビードが形成されるが、δフェライト組織の比率が高くなると、ビードの熱収縮が小さくなって溶融池を保持できなくなり、裏ビード形状が悪くなる。前記溶融池の保持が可能か否かの境界をなすδフエライト組織率Ndが10%で、Ndが10%以下であれば、健全な裏ビードが形成される。なお、δフエライト組織率Ndは、ミクロ組織観察により、オーステナイト組織の面積とδフェライト組織の面積を求め、下記▲2▼式により算出される比率(%)である。
【0040】
Nd=(δフェライト組織の面積/オーステナイト組織の面積)×100・・▲2▼
また、δフエライト組織率Ndが前記▲1▼式を満たすことが必要とされるのは、後述する実施例に示した試験結果によるものである。
【0041】
図2は、溶接金属のCu含有量と溶接金属のδフエライト組織率Ndとの関係を示す図である。図中の○印が本発明例で、図中に示した曲線Aが、式:Cu(%)=(2/Nd)2/3+0.2 で表される曲線である。
【0042】
この図から、良好な溶接施工性を得る(つまり、本発明例である)ためには、溶接金属がこの曲線Aよりも左方、すなわち、前記の▲1▼式を満たす必要があることがわかる。なお、図中に示した破線BはNdの上限10%であり、破線Cおよび破線DはそれぞれCu含有量の下限0.05%および上限1.0%で、溶接金属が満たすべき他の条件の境界値を表している。従って、本発明の溶接継手を構成する溶接金属は、NdとCu含有量については、曲線A、破線B、CおよびDで囲まれる領域内の値を示すものであることが必要となる。
【0043】
本発明の溶接継手を作製するに際し、溶接法としては、ステンレス鋼の溶接において通常使用されている溶接法であればいずれも適用できる。アーク溶接法が一般的である。その中でも、TIG溶接法、MIG溶接法等が好適である。
【0044】
溶加材(溶接材料)としては、被溶接材である母材をそのまま溶接材料として使用する共金溶接材料が母材と溶接金属の化学組成をほぼ同じにし得るので望ましいが、溶接金属の化学組成が本発明で規定する母材の化学組成の範囲内に入るのであれば、高Ni合金用の溶接材料、その他の溶接材料であってもよい。
【0045】
本発明の溶接継手は、母材ステンレス鋼が優れた溶接施工性を有しているので、特に、プラント用配管等に使用する場合、ビード幅の均一な裏ビードが形成され易く、健全な溶接ビードを容易に得ることができる。
【0046】
【実施例】
表1に示す化学組成のステンレス鋼(18種類)を溶製し、それぞれについて、熱間押出、冷間引き抜き加工、溶体化処理の各工程を経て、外径200mm、肉厚20mmの鋼管に成形した。なお、表1において、「−」印は、その成分を添加していないことを示す。
【0047】
【表1】
【0048】
これらの鋼管の端面を機械加工によりRmax(JIS B 0601(1982年制定)に規定される最大高さ)で100μmに仕上げ、ルート間隔OmmのI開先で突き合わせて、円周自動TIG溶接機により、平均入熱量が約5kJ/cmになる条件で溶接継手を作製し、そのときの溶接施工性および各継手の溶接金属部のδフェライト組織率を調査した。
【0049】
溶接施工性については、「溶接ビードの均一性」と「裏ビード形成能」を調査した。溶接ビードの均一性の調査においては、得られた溶接ビードの定常幅を円周方向に3mmの等間隔で測定し、最大ビード幅と最小ビード幅の差が2mm以下であれば「良好」、2mm超のときは「不芳」と評価した。また、裏ビード形成能の調査においては、管内面側を観察し、裏ビードが100%形成されていれば「良好」、そうでなければ「不芳」と評価した。
【0050】
溶接金属部のδフェライト組織率Ndについては、作製した溶接継手から溶接金属部断面のミクロ試験片を採取し、ミクロ組織観察の画像処理により溶接金属部のδフェライト組織およびオーステナイト組織の面積をそれぞれ求め、前記▲2▼式、すなわち、Nd=(δフェライト組織の面積/オーステナイト組織の面積)×100によりNdを求めた。
【0051】
溶接施工性(溶接ビードの均一性および裏ビード形成能)の調査結果を表2に示す。表2において、○印は「良好」であることを、×印は「不芳」であることを表す。また、δフエライト組織率Ndとそれを代入して求められる前記▲1▼式の右辺の計算値を表1に併せて示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表1から明らかなように、本発明例No.1〜12に示したステンレス鋼は、それを用いて作製した溶接継手の溶接金属がδフェライト組織率Ndおよび▲1▼式の規定を満たしており、表2に示すように、溶接ビードの均一性、裏ビード形成能のいずれも良好で、溶接施工性に優れている。
【0054】
一方、比較例No.13〜15に示したステンレス鋼は、Cu含有量が本発明で規定する範囲から外れ、溶接継手の溶接金属がδフェライト組織率Ndおよび▲1▼式の規定のいずれかを満足せず、比較例No.16〜18に示したステンレス鋼は、化学組成は本発明の規定範囲内であるが、継手の溶接金属がやはりδフェライト組織率Ndおよび▲1▼式の規定のいずれかを満足せず、表2に示すように、いずれも溶接ビードの均一性および裏ビード形成能の両方が不芳か、または裏ビード形成能が不芳で、溶接施工性が劣った。
【0055】
【発明の効果】
本発明の溶接継手は、母材ステンレス鋼が優れた溶接施工性を有しているので、特に、プラント配管等に使用する場合、健全な溶接ビードを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接時に溶融池で生じる対流を模式的に示す図で、(イ)は内向き対流が生じている場合、(ロ)は外向き対流が生じている場合である。
【図2】実施例の結果で、溶接金属のCu含有量と溶接金属のδフエライト組織率Ndとの関係を示す図である。
【符号の説明】
1:母材
2:溶融池
3:内向き対流
4:外向き対流
5:重力による垂れ落ち
Wb:ビード幅
Claims (4)
- 母材と溶接金属とを備える溶接継手であって、質量%で、母材は、C:0.001〜0.10%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cu:0.05〜1.0%、Cr:15〜30%、Ni:8〜30%およびN:0.001〜0.15%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のPが0.05%以下、Sが0.05%以下であるステンレス鋼であり、溶接金属は、δフエライト組織率Ndが10%以下で、かつ下記▲1▼式を満足する鋼であることを特徴とする溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手。
Cu(%)≦(2/Nd)2/3+0.2 ・・▲1▼ - 前記母材が、請求項1に記載の成分に加えて、さらに、質量%で、Mo:0.05〜3.0%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のPが0.05%以下、Sが0.05%以下であるステンレス鋼であり、溶接金属は、δフエライト組織率Ndが10%以下で、かつ下記▲1▼式を満足する鋼であることを特徴とする溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手。
Cu(%)≦(2/Nd)2/3+0.2 ・・▲1▼ - 前記母材が、請求項1または2に記載の成分に加えて、さらに、質量%で、Ti、Nb、VおよびZrの中のいずれか1種以上を0.001〜0.5%含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のPが0.05%以下、Sが0.05%以下であるステンレス鋼であり、溶接金属は、δフエライト組織率Ndが10%以下で、かつ下記▲1▼式を満足する鋼であることを特徴とする溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手。
Cu(%)≦(2/Nd)2/3+0.2 ・・▲1▼ - 前記母材が、請求項1〜3のいずれかに記載の成分に加えて、さらに、質量%で、Ca:0.0003〜0.010%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のPが0.05%以下、Sが0.05%以下であるステンレス鋼であり、溶接金属は、δフエライト組織率Ndが10%以下で、かつ下記▲1▼式を満足する鋼であることを特徴とする溶接施工性に優れたステンレス鋼を用いた溶接継手。
Cu(%)≦(2/Nd)2/3+0.2 ・・▲1▼
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