JP2005008739A - ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法及びポリスチレン系樹脂押出発泡板 - Google Patents
ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法及びポリスチレン系樹脂押出発泡板 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】少なくともポリスチレン系樹脂、難燃剤及び発泡剤が混練されてなる発泡性溶融樹脂組成物を押出発泡することにより、見掛け密度22〜60kg/m3、厚み10〜150mmの発泡板を製造する方法において、難燃剤として臭素化ビスフェノールS及び/又はハロゲン化燐酸エステル、又は臭素化ビスフェノールS及び/又はハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケンを、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5〜10重量部の割合で添加することを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法である。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば建築物の壁、床、屋根等の断熱材や畳芯材等に使用されるポリスチレン系樹脂押出発泡板及びその製造方法に関し、更に詳しくは難燃性に優れるポリスチレン系樹脂押出発泡板及び押出安定性に優れる難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリスチレン系樹脂押出発泡板は,優れた断熱性及び好適な機械的強度を有することから、一定幅の板状に成形されたものが断熱材として広く使用されてきた。かかる発泡板の製造方法として、ポリスチレン系樹脂材料に気泡調整剤を加え、加熱溶融混練後、物理発泡剤を添加し、これらの混合物を高圧域から低圧域に押し出して発泡させる方法、更に必要に応じて押出機のダイ出口に賦形装置を連結して高厚みの発泡板を得る方法等が知られている。
【0003】
上記発泡板には、JIS A 9511(1995)記載の押出ポリスチレンフォーム保温板の燃焼性規格を満足させるために、難燃剤が添加されている。その難燃剤としてヘキサブロモシクロドデカン(以下、HBCDという。)が広く用いられている。HBCDは、他の主な難燃剤に比べて比較的分解開始温度が低いため、燃焼時に熱分解により臭化水素が発生しやすく、活性ラジカルのトラップ効果を発現しやすい。よって、比較的少量の添加で難燃効果が得られることから、好適に用いられている。
【0004】
しかしながらHBCDの分解開始温度の低さが使用上の欠点にもなっており、ポリスチレン系樹脂押出発泡板製造過程で該難燃剤の一部が分解し、生じた臭化水素によって押出機が損傷を受けたり、押出条件によっては難燃剤が多量に分解して有効量が減少し、期待される十分な難燃効果を得ることができないなどの問題が発生する虞れがあった。また、製品を粉砕、溶融、ペレット化して再度ポリスチレン系樹脂原料としてリサイクルする場合の難燃剤の熱履歴の増加を考慮すると、上記難燃が熱分解する可能性は増大すると考えられる。さらに、HBCDの分解によって発生するガスは、発泡板製造時の押出発泡の安定性にも悪影響を及ぼす場合もある。
【0005】
一方、発泡板の製造に使用する発泡剤として、従来はジクロロジフルオロメタン等の塩化フッ化炭化水素(以下、CFCという。)が広く使用されてきた。しかし、CFCはオゾン層を破壊する虞が大きいことから、近年、オゾン破壊係数が小さい水素原子含有塩化フッ化炭化水素(以下、HCFCという)が、CFCに替わって用いられてきた。
【0006】
しかし、HCFCもオゾン破壊係数は0ではないことから、オゾン層を破壊する虞が全くないわけではない。そこでオゾン破壊係数が0であり、分子中に塩素原子を持たないフッ化炭化水素(以下、HFCという。)や飽和炭化水素等を発泡剤として製造されるポリスチレン系樹脂押出発泡板が検討されているが、特に飽和炭化水素等の可燃性の発泡剤を用いた場合、ポリスチレン系樹脂押出発泡板に十分な難燃性を付与するためには、HCFC等の不燃性発泡剤を用いた場合よりも多くのHBCDを添加しなければならない。しかしながら、多量のHBCDを添加すると押出発泡の安定性が著しく損なわれたり、得られた発泡板の性状が損なわれる虞があった(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−237210号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリスチレン系樹脂押出発泡板が有する前記課題を解決するためになされたものであって、押出機内部の金属腐食を抑制し、押出発泡の安定性にも優れるポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法及び優れた難燃性と環境適性を有するポリスチレン系樹脂押出発泡板を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定の難燃剤を使用すること、発泡板の気泡径及び残存発泡剤の種類及び量を特定の値とすることにより本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、以下に示すポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法及びポリスチレン系樹脂押出発泡板を提供するものである。
(1)少なくともポリスチレン系樹脂、難燃剤及び発泡剤が混練されてなる発泡性溶融樹脂組成物を押出発泡することにより、見掛け密度22〜60kg/m3、厚み10〜150mmの発泡板を製造する方法において、該難燃剤が下記(i)〜(vi)のいずれかより選択されるものであって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5〜10重量部の割合で添加されることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
(i)臭素化ビスフェノールS。
(ii)臭素化ビスフェノールSと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(iii)ハロゲン化燐酸エステル。
(iv)ハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(v)臭素化ビスフェノールSとハロゲン化燐酸エステル。
(vi)臭素化ビスフェノールS及びハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
【0011】
(2)難燃剤が、臭素化ビスフェノールS及び/又はハロゲン化燐酸エステルからなる臭素系難燃剤と、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケンとであり、該臭素系難燃剤100重量部に対して、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケンが合計で0〜300重量部の割合で配合されていることを特徴とする前記(1)記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【0012】
(3)発泡剤が、(a)炭素数3〜5の飽和炭化水素10〜80モル%と、(b)炭素数1又は2の塩化アルキル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メタノール、エタノール、水、二酸化炭素の中から選択される1種又は2種以上の発泡剤90〜20モル%(但し、発泡剤(a)と発泡剤(b)との合計量は100モル%)からなることを特徴とする前記(1)または(2)記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【0013】
(4)発泡剤が、(a)1,1,1,2−テトラフルオロエタン5〜70モル%と、(b)炭素数3〜5の飽和炭化水素0〜70モル%と、(c)炭素数1又は2の塩化アルキル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メタノール、エタノール、水、二酸化炭素の中から選択される1種又は2種以上の発泡剤10〜90モル%(但し、発泡剤(a)と発泡剤(b)と発泡剤(c)との合計量は100モル%)からなることを特徴とする前記(1)または(2)記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【0014】
(5)見掛け密度22〜60kg/m3、厚み10〜150mmのポリスチレン系樹脂押出発泡板において、厚み方向の平均気泡径が0.05〜0.5mm、発泡板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素含有量が発泡板1kg当り0.10〜0.90モルであり、発泡板中に下記(i)〜(vi)のいずれかより選択される難燃剤を含有していることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。
(i)臭素化ビスフェノールS。
(ii)臭素化ビスフェノールSと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(iii)ハロゲン化燐酸エステル。
(iv)ハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(v)臭素化ビスフェノールSとハロゲン化燐酸エステル。
(vi)臭素化ビスフェノールS及びハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
【0015】
(6)見掛け密度22〜60kg/m3、厚み10〜150mmのポリスチレン系樹脂押出発泡板において、厚み方向の平均気泡径が0.05〜0.4mm、発泡板中の1,1,1,2−テトラフルオロエタン含有量が発泡板1kg当り0.05〜0.80モル、発泡板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素含有量が発泡板1kg当り0〜0.80モルであり、発泡板中に下記(i)〜(vi)のいずれかより選択される難燃剤を含有していることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。
(i)臭素化ビスフェノールS。
(ii)臭素化ビスフェノールSと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(iii)ハロゲン化燐酸エステル。
(iv)ハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(v)臭素化ビスフェノールSとハロゲン化燐酸エステル。
(vi)臭素化ビスフェノールS及びハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板(以下、単に、押出発泡板という。)の製造方法は、従来のポリスチレン系樹脂押出発泡体と同様に、押出機内で調整した発泡性ポリスチレン系樹脂溶融物を、フラットダイを通して高圧の押出機内より低圧域に押出して発泡させ、該ダイの出口に配置された成形金型(平行あるいは入口から出口に向かって緩やかに拡大するよう設置された上下2枚のポリテトラフルオロエチレン樹脂等のフッ素樹脂からなる板で構成されるもの(以下、ガイダーと言う。)など)や成形ロール等の成形具を通過させることによって発泡板を得る方法を採用することができる。発泡性ポリスチレン系樹脂溶融物は、押出機内にポリスチレン系樹脂を供給して溶融し、発泡剤、難燃剤、必要に応じてその他の添加剤を添加して混練したものを、冷却(使用するポリスチレン系樹脂の種類、流動性向上剤の添加の有無、流動性向上剤の種類や量、更には混合発泡剤の添加量や発泡剤の成分等によっても異なるが、通常のポリスチレン系樹脂の場合、一般には110〜130℃に冷却する)して発泡に好適な溶融粘度に調整した後、押出機内から押出すことにより発泡させることができる。
【0017】
本発明の方法は、上記発泡性ポリスチレン系樹脂溶融物に添加される難燃剤として、HBCDを使用することなく下記の(i)〜(vi)のいずれかより選択される難燃剤を使用することを主な特徴とするものである。
(i)臭素化ビスフェノールS。
(ii)臭素化ビスフェノールSと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(iii)ハロゲン化燐酸エステル。
(iv)ハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(v)臭素化ビスフェノールSとハロゲン化燐酸エステル。
(vi)臭素化ビスフェノールS及びハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
【0018】
本発明において押出機に供給されるポリスチレン系樹脂としては、例えばスチレン単独重合体やスチレンを主成分とするスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体等が挙げられる。上記スチレン系共重合体におけるスチレン単位成分含有量は50モル%以上が好ましく、特に好ましくは80モル%以上である。
【0019】
また、上記ポリスチレン系樹脂としては、本発明の目的、作用、効果が達成される範囲内において、その他の重合体を混合したものであってもよい。その他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂(エチレン単独重合体及びエチレン単位成分含有量が50モル%以上のエチレン共重合体の群から選択される2以上の混合物)、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体及びプロピレン単位成分含有量が50モル%以上のプロピレン共重合体の群から選択される2以上の混合物)、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体水添物、スチレン−エチレン共重合体等が挙げられ、これらその他の重合体は、ポリスチレン系樹脂中で50重量%未満となるように、好ましくは30重量%未満となるように、特に好ましくは0〜10重量%となるように、目的に応じて混合することができる。
【0020】
尚、上記ポリスチレン系樹脂はメルトフローレイト(以下、MFRという。)が0.5〜30g/10分、更に1〜10g/10分(但し、JIS K7210−1976のA法の試験条件8により測定されるMFR)の範囲のものを用いることが、押出発泡板を製造する際の押出発泡成形性に優れ、外観、発泡性等の優れた押出発泡板が得られると共に、機械的強度においても優れたものが得られる点から好ましい。
【0021】
次に、本発明において使用される難燃剤について詳述する。本発明においては、HBCDの分解開始温度の低さに起因した前記欠点を改善でき、難燃性においても十分な効果を発現する新たな難燃剤が使用される。
樹脂の難燃加工法には幾つかの方法が挙げられるが、特に気泡構造を有する樹脂発泡体の場合には、気泡内のガス、気泡構造による樹脂表面積の増大などの要因により難燃性の付与をより難しくしている。
【0022】
ポリスチレン系樹脂押出発泡板においては、従来不燃性のガスであるCFC等を発泡剤として使用して得られるものであったため、難燃性に関して気泡内のガスの影響は考慮する必要性は低く、気泡構造による樹脂表面積の増大を考慮するぐらいでHBCDを難燃剤として使用する限り難燃加工はさほど困難なものではなかった。また、CFCやHCFC発泡剤は好適な見掛け密度のポリスチレン系樹脂発泡板を製造するために必要なポリスチレン系樹脂の押出発泡適正温度範囲が比較的広く、押出発泡時における難燃剤の分解による押出安定性に及ぼす押出圧力変動等の影響は特に問題にされていなかった。これらの理由からポリスチレン系樹脂押出発泡板を製造する場合には、単に難燃性効果における優位性により難燃剤としてHBCDが採用されていた。しかしながら、オゾン層破壊の虞のないHFCや飽和炭化水素を発泡剤として用いた場合、押出発泡の安定性が損なわれる虞があり、特に可燃性の飽和炭化水素を用いた場合には十分な難燃性を得るために多量のHBCDを添加する必要がある。熱分解温度が比較的低いHBCDは、サーマルリサイクルする際の再加熱や再々加熱により熱分解を起こし、着色し、押出発泡の安定性が著しく損なわれる等の虞があった。
【0023】
本発明は、難燃剤として、臭素化ビスフェノールS及び/又はハロゲン化燐酸エステルからなる臭素系難燃剤を含むものを使用することにより、上記の問題を解決したものである。
本発明において難燃剤として用いる臭素化ビスフェノールSは、下記式(1)に示される、テトラブロモビスフェノールS又はビスフェノールS誘導体の臭素化物である。臭素化ビスフェノールSは、構造式中に臭素化ビスフェノールS骨格を有することで、難燃効果を発揮する臭化水素をポリスチレン系樹脂分解温度において、効率的に発生させることが可能となり、燃焼時に該難燃剤から生成する臭化水素が、ポリスチレン系樹脂分解時に発生する活性ラジカルと反応することでその量を下げる効果をもたらし、燃焼を継続させる活性ラジカル生成の連鎖反応を停止させ、また、臭素ガスによる遮蔽効果も作用して優れた難燃性を発揮させることが可能となる。
【0024】
【化1】
[式中、R1,R2は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、−Y−Xで表される有機基(式中,Yは炭素数1〜6のアルキレン基、Xはエポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、フェニル基である)、およびフェニル基のうちから選ばれるもの、および、これらの原子及び原子団のうち、少なくとも1つの水素原子が臭素原子に置換されているものである。尚、R1,R2の原子及び原子団は相互に異なるものであっても同じものであってもよい。]
【0025】
上記臭素化ビスフェノールSの具体例としては、テトラビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(1−ブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2−ハイドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ジグリシジルエーテル、等が挙げられる。また、上記のテトラブロモビスフェノールS誘導体の中で特に、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)は、ポリスチレン系樹脂との相溶性が良好であり、分解開始温度が約300℃、融点が約100℃であるために発泡板製造時における取扱いが容易で、ポリスチレン系樹脂との混練時において分解する可能性も小さく、極めて高い難燃効果が容易に発現されるため好ましい。尚、本発明における臭素化ビスフェノールSとしては、上記式(1)にて示されるものの内、1種又は2種以上のものをポリスチレン系樹脂に添加することができる。また、ハロゲン化燐酸エステルと三酸化アンチモン等の他の難燃剤(臭素化ビスフェノールS、ジフェニルアルカン及びジフェニルアルケン以外の難燃剤)とを併用してポリスチレン系樹脂に添加することもできる。
【0026】
上記、臭素化ビスフェノールS(難燃剤(i))はポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5〜10重量部の割合となるように配合される。該難燃剤のポリスチレン系樹脂への配合方法としては、所定割合の難燃剤をポリスチレン系樹脂と共に押出機上流に設けられている供給部に供給し、押出機中にて混練する方法を採用することができる。その他、押出機途中に設けられた難燃剤供給部より溶融ポリスチレン樹脂中に難燃剤を供給する方法も採用することができる。
尚、難燃剤を押出機に供給する場合、難燃剤とポリスチレン系樹脂とをドライブレンドしたものを押出機に供給する方法、難燃剤とポリスチレン系樹脂をニーダー等により混練した溶融混練物を押出機に供給する方法、予め加熱溶融させた液状の難燃剤を押出機内に供給する方法や難燃剤マスターバッチを作製し押出機に供給する方法を採用することができ、特に、分散性の点から難燃剤マスターバッチを作製し押出機に供給する方法を採用することが好ましい。難燃剤マスターバッチの調整は、ベースレジンにMFR0.5〜30g/10分のポリスチレン系樹脂を使用して難燃剤が10〜70重量%(ベースレジンと難燃剤との総和を100重量%としたとき)含有されるように調整することが好ましい。
【0027】
本発明において、ハロゲン化燐酸エステルとは下記式(2)で示される、トリエチルフォスフェート又は燐酸エステルの臭素化物である。該ハロゲン化燐酸エステルは、構造式中にハロゲン及び燐酸骨格を有することで、難燃効果を発揮するハロゲン化水素をポリスチレン系樹脂分解温度において、効率的に発生させることが可能となり、燃焼時に該難燃剤から生成するハロゲン化水素が、ポリスチレン系樹脂分解時に発生する活性ラジカルと反応することでその量を下げる効果をもたらし、燃焼を継続させる活性ラジカル生成の連鎖反応を停止させ、また、ハロゲンガスによる遮蔽効果も作用して優れた難燃性を発揮させることが可能となる。さらに、燐酸基が酸化反応により酸を生成し、加熱による重合の進行とポリリン酸の生成と、生成する燐酸の脱水炭化作用により安定な断熱遮断層を形成するため、優れた難燃性を発揮させることが可能となる。
また、ハロゲン化燐酸エステルは気泡径を小さくする効果があり、断熱性を良化させられる。
【0028】
【化2】
[式中,R3,R4,R5は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、−Y−Xで表される有機基(式中,Yは炭素数1〜6のアルキレン基、Xはエポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、フェニル基である)、およびフェニル基のうちから選ばれるもの、および、これらの原子及び原子団のうち、少なくとも1つの水素原子が臭素原子に置換されているものである。尚、R3,R4,R5の原子及び原子団は相互に異なるものであっても同じものであってもよい。]
【0029】
式(2)で示されるハロゲン化燐酸エステルの具体例としては、トリス(クロロエチル)フォスフェート、トリス(クロロプロピル)フォスフェート、トリス(ジクロロプロピル)フォスフェート、トリス(ブロモエチル)フォスフェート、トリス(ブロモプロピル)フォスフェート、トリス(ジブロモプロピル)フォスフェート、トリス(トリブロモプロピル)フォスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)フォスフェート等が挙げられる。また、上記のハロゲン化燐酸エステルの中で特に、トリス(トリブロモネオペンチル)フォスフェートが、ポリスチレン系樹脂との相溶性が良く、分解開始温度が約310℃、融点が約188℃であって発泡板製造時における取扱いが容易で、ポリスチレン系樹脂との混練時において分解する可能性も小さく、難燃効果も高く発現し易いため好ましい。尚、本発明におけるハロゲン化燐酸エステルとしては上記式(2)にて示されるものの内、1種又は2種以上のものであってもよい。
【0030】
本発明では、難燃剤として前記式(1)で示される臭素化ビスフェノールS(難燃剤(i))又は式(2)で示されるハロゲン化燐酸エステル(難燃剤(iii))を単独で用いることができるが、臭素化ビスフェノールS又はハロゲン化燐酸エステルと、後述するジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケンとの難燃剤(難燃剤(ii)又は(iv))も用いることができる。また前記臭素化ビスフェノールSと前記ハロゲン化燐酸エステルを併用する難燃剤(難燃剤(v))や、後述するジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケンを併用する難燃剤(難燃剤(vi))も用いることができる。上記難燃剤(i)〜(vi)も、更に三酸化アンチモン等の別の難燃剤(臭素化ビスフェノールS、ハロゲン化燐酸エステル、ジフェニルアルカン及びジフェニルアルケン以外の難燃剤)を併用してポリスチレン系樹脂に添加することができる。尚、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケン、三酸化アンチモン等は、一般に難燃助剤と称される物質であるが、本発明では、これら難燃助剤は、難燃剤と共に使用されて難燃効果を高めているので、難燃剤として併用される場合には難燃剤として取り扱うものとする。
【0031】
上記、臭素化ビスフェノールSと、ハロゲン化燐酸エステル、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケンとの難燃剤(難燃剤(i)〜(vi))もポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5〜10重量部(別の難燃剤を更に併用する場合であっても、難燃剤(i)〜(vi)のみの配合割合を意味する。)の割合となるように配合される。難燃剤のポリスチレン系樹脂への配合方法等については、前記した臭素化ビスフェノールSについて詳述した方法と同様の方法等が採用できる。難燃剤(i)〜(vi)と併用することができる別の難燃剤としては、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、トリフェニルフォスフェート等の非ハロゲンリン酸エステル単量体等のリン系化合物等が挙げられる。
【0032】
本発明おいて、上記臭素化ビスフェノールSやハロゲン化燐酸エステルと混合して用いられるジフェニルアルカンは下記式(3)で示される化合物であり、ジフェニルアルケンは下記式(4)に示される化合物である。尚、式(4)はジフェニルアルケンの構造の一例を示したものであり、式(4)に示した構造におけるアルケンの二重結合位置の異なる異性体も、本発明において用いることができる。
【0033】
【化3】
[R6、R7、R8、R9は、炭素数1〜3のアルキル基であって、相互に異なるものであっても同じものであってもよい。]
【0034】
【化4】
[R10、R11は、炭素数1〜3のアルキル基であって、相互に異なるものであっても同じものであってもよい。]
【0035】
上記式(3)で示されるジフェニルアルカンや、式(4)等で示されるジフェニルアルケンの具体例としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等が挙げられる。また、上記のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン中で、特に2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンが、ポリスチレン系樹脂との相溶性が良く、分解開始温度が250〜300℃である点から発泡板製造時における取扱いが容易で、ポリスチレン系樹脂との混練時において分解する可能性も小さく、難燃効果も高く発現し易いため好ましい。尚、本発明においてジフェニルアルカンは上記式(3)にて示されるものの内、1種又は2種以上のものを用いることができ、ジフェニルアルケンも上記式(4)にて示されるものの内、1種又は2種以上のものを用いることができる。
【0036】
上記したジフェニルアルカンやジフェニルアルケンは、臭素系難燃剤と併用すると臭素系難燃剤の難燃効果を向上する作用があり、その結果、臭素系難燃剤の添加量を低減できる効果がある。その理由は、明確ではないが、ジフェニルアルカンやジフェニルアルケンが分解して生成したラジカルが、ポリスチレン系樹脂から水素原子を引き抜いてポリマーラジカルを発生させ、該ポリマーラジカル同士の結合による炭化皮膜の形成を促進させる物質として作用する難燃助剤の役割を果すものと推察される。臭素系難燃剤の添加量低減により、押出発泡板製造時の落圧を低減することができ、ダイ圧力や発泡剤の注入圧力等の押出安定性を更に向上することが可能となり、より見掛け密度が均一で外観良好な発泡板を得ることができる。
【0037】
臭素化ビスフェノールS及び/又はハロゲン化燐酸エステルからなる臭素系難燃剤と併用されるジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケンは、該臭素系難燃剤100重量部に対して、ジフェニルアルカンとジフェニルアルケンとの合計量が0〜300重量部、好ましくは0.3〜250重量部、更に好ましくは0.5〜200重量部の割合となるように配合される。臭素系難燃剤に対するジフェニルアルカン、ジフェニルアルケンの合計の添加量が300重量部を超える場合には、臭素系難燃剤の添加量低減化の効果が頭打ちとなる。また、ジフェニルアルカンやジフェニルアルケンは、これらの合計の添加量が、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.03〜2重量部の割合となるように配合されることが好ましい。
該臭素系難燃剤と、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケンとからなる難燃剤のポリスチレン系樹脂への配合方法等については、前記した臭素化ビスフェノールSについて詳述した方法と同様の方法等が採用できる。
【0038】
本発明では、上記した難燃剤(i)〜(vi)のいずれかを、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5〜10重量部が添加されるが、好ましくは、1.5〜8重量部、更に好ましくは、1.5〜6重量部である。難燃剤の添加量が0.5重量部未満では、十分な難燃効果が得られ難い。一方、難燃剤の添加量が10重量部を超える場合は、流動性が大きくなり過ぎ、製造時にダイス内で内部発泡を起こしやすくなり、表面状態の良好な発泡板を得ることができなくなる虞があるばかりか、得られる発泡板の圧縮、曲げ等の機械物性が低くなる虞がある。
【0039】
本発明の方法で得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板は、前記特定の難燃剤を含有することにより難燃性に優れるが、特定の難燃剤の使用と、後述する発泡板の気泡構造、発泡板中の残存発泡剤組成との組合せによる相乗効果により、JIS A 9511(1995)記載の押出ポリスチレンフォーム保温板の燃焼性規格を満足するポリスチレン系樹脂押出発泡板を得ることが可能となる。
【0040】
本発明において使用される発泡剤としては、塩化メチル、プロパン、ブタン、HFC、水等の周知の物理発泡剤が挙げられる。また、発泡板の気泡径を小さく調整する気泡調整作用も兼ねてアゾジカルボンアミド等の周知の化学発泡剤を併用することもできる。
【0041】
本発明において使用され得る物理発泡剤の内、好ましいものとしては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン等の炭素数3〜5の飽和炭化水素、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン等のHFC、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル、メタノール、エタノール等の低級アルコール、塩化メチル、塩化エチル等の炭素数1又は2の塩化アルキル、二酸化炭素、窒素、水等の無機ガスが挙げられる。
【0042】
低い見掛け密度の発泡板を得るためには、上記物理発泡剤の中でも、ポリスチレン系樹脂に対する溶解性が良好で、ポリスチレン系樹脂に対する可塑化効果が極端に大きくない炭素数3〜5の飽和炭化水素が好ましい。更に、高い断熱性を示す発泡板を得るためには、ポリスチレン系樹脂に対する溶解性が良好で低い見掛け密度のものが得られ、発泡板中に長期に亘り残存するイソブタン、イソペンタンが好ましい。しかしながら、炭素数3〜5の飽和炭化水素は低い見掛け密度の発泡板を得るためには好適なものではあるが、可燃性ガスであり難燃性の点においては好ましいものではない。更に、イソブタン、イソペンタンは高い断熱性を示す発泡板を得るためには好適なものではあるが、可燃性ガスであり長期に亘り発泡板中に残存するため難燃性の点においては好ましいものではない。
【0043】
したがって、本発明においては発泡力に富む、炭素数1又は2の塩化アルキル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メタノール、エタノール、二酸化炭素、水の中から選ばれる単体又は2種以上の発泡剤(以下、早期逸散発泡剤という。)と、炭素数3〜5の飽和炭化水素とからなる発泡剤が好ましく使用される。上記した早期逸散発泡剤を併用することが好ましい理由は、早期逸散発泡剤が押出発泡直後、或いは押出発泡後の早い時期に発泡体中から逸散するため、発泡剤として押出発泡時の発泡に寄与して発泡板の見掛け密度の低下をもたらし、かつ、可燃性ガスである炭素数3〜5の飽和炭化水素の使用量の低減に寄与して難燃性の向上をもたらすためである。このことにより、得られる発泡板の断熱性能及び難燃性能を早期に安定化させることができる。
【0044】
本発明において、発泡剤は、(a)炭素数3〜5の飽和炭化水素10〜80モル%と、(b)炭素数1又は2の塩化アルキル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メタノール、エタノール、水、二酸化炭素の中から選択される1種又は2種以上の発泡剤90〜20モル%(ただし、発泡剤(a)と発泡剤(b)との合計量は100モル%)の組合わせ、又は(a)1,1,1,2−テトラフルオロエタン5〜70モル%、(b)炭素数3〜5の飽和炭化水素0〜70モル%と、(c)炭素数1又は2の塩化アルキル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メタノール、エタノール、水、二酸化炭素の中から選択される1種又は2種以上の発泡剤10〜90モル%(ただし、発泡剤(a)と発泡剤(b)と、発泡剤(c)との合計量は100モル%)の組合わせが、発泡倍率が高く、断熱性に富み難燃性性能を早期に安定化させるなどの観点から好ましいものである。
【0045】
なお、上記発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とする発泡板の見掛け密度、ポリスチレン系樹脂の種類等により増減するものであり特定することが難しいが、物理発泡剤の場合は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して概ね0.7〜2.5モル(尚、複数の物理発泡剤を併用する場合は構成発泡剤の合計モル数。)、好ましくは0.85〜2.0モル(尚、複数の物理発泡剤を併用する場合は構成発泡剤の合計モル数。)の範囲で添加される。また、化学発泡剤と物理発泡剤とを併用する場合は、物理発泡剤の添加量は物理発泡剤のみを添加する場合と略同じ範囲で添加され、化学発泡剤はポリスチレン系樹脂100重量部に対して概ね0.1〜10重量部の範囲で添加される。
【0046】
本発明の製造方法において、発泡性溶融樹脂組成物には、難燃剤以外に、押出発泡板の平均気泡径を調整するために気泡調整剤を添加することができる。気泡調整剤としては、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物が例示される。また、本発明において該気泡調整剤は2種以上組合せて用いることもできる。前記各種の気泡調整剤の中で、得られる発泡板の気泡径の調整が容易で気泡径を小さくし易いと共に難燃性向上効果が期待できること等の理由でタルクが好適に用いられ、特に、粒子径の細かい平均粒径(光透過遠心沈降法による50%粒径)が0.5〜10μmのタルクが好ましい。
また、該気泡調整剤の添加量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜7.5重量部、更に0.3〜5重量部の割合で添加されることが好ましい。
【0047】
本発明の製造方法においては、前記気泡調整剤、難燃剤以外にも、本発明の目的、効果を妨げない範囲において、グラファイトやアルミニウム等の断熱性向上剤、着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種添加剤を適宜添加することができる。
尚、上記気泡調整剤、着色剤等の各種添加剤の押出発泡工程における添加方法としては、前記難燃剤の添加方法と同様の添加方法が採用できる。
【0048】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板について説明する。尚、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板としては、発泡板中に特定量の炭素数3〜5の飽和炭化水素を含有してなる発泡板(以下、第1発明発泡板という。)と、発泡板中に特定量の1,1,1,2−テトラフルオロエタン及び炭素数3〜5の飽和炭化水素を含有してなる発泡板(以下、第2発明発泡板という。)とがそれぞれ提供される。
【0049】
本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板の見掛け密度は22〜60kg/m3であり、好ましくは30〜50kg/m3のものである。見掛け密度が22kg/m3未満の場合、そのような見掛け密度の押出発泡板を製造すること自体がかなり困難なものである上に、得られる押出発泡板の機械的物性においても従来の発泡断熱板と比較して不十分なものとなるので使用できる用途が限定される。一方、見掛け密度が60kg/m3を超える場合は、厚みを必要以上に厚くしない限り十分な断熱性を発揮させることが難しく、軽量性の点において不十分なものとなる虞れがある。
また、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板の厚みは10〜150mmであり、好ましくは20〜100mmのものである。厚みが150mmを超える場合は、厚み方向の気泡径が大きくなりやすいことから、十分な断熱性を確保できない虞れがあるほか、安定して発泡板の製造を行うには大型の押出機が必要となる。一方、厚みが10mm未満の場合は,製造に困難性を伴い絶対的な、機械的強度及び断熱性が不十分となる虞がある。
【0050】
本発明の第1発明発泡板においては、発泡板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素含有量は該発泡板1kg当り0.10〜0.90モルであり、好ましくは0.15〜0.75モル、更に好ましくは0.20〜0.65モルである。炭素数3〜5の飽和炭化水素の含有量が上記範囲内にあることにより、高断熱性の断熱材となる。具体的には、後述する発泡板の厚み方向の平均気泡径の構成を兼備することによって、JIS A9511(1995)の4.7項記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、平均温度20℃)による熱伝導率が0.034W/mK以下の押出発泡板を得ることが可能となる。炭素数3〜5の飽和炭化水素含有量が0.10モル未満の場合は、十分に高い断熱性を得ることが難しくなり、炭素数3〜5の飽和炭化水素含有量が0.90モルを超える場合は、建築材料として十分な難燃性を得ることができない虞がある。
【0051】
本発明の第2発明発泡板においては、発泡板中の1,1,1,2−テトラフルオロエタン含有量が該発泡板1kg当り0.05〜0.80モル、炭素数3〜5の飽和炭化水素化合物の含有量が該発泡板1kg当り0〜0.80モルである。発泡剤の含有量が上記範囲内にあることにより、高断熱性の断熱材となる。具体的には、後述する発泡板の、厚み方向の平均気泡径の構成を兼備することによって、JIS A9511(1995)の4.7項記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、平均温度20℃)による熱伝導率が0.034W/mK以下の押出発泡板を得ることが可能となる。尚、発泡板中の1,1,1,2−テトラフルオロエタンの含有量は、発泡板1kg当り好ましくは0.10〜0.70モル、更に好ましくは0.15〜0.60モルであり、炭素数3〜5の飽和炭化水素化合物の含有量は、発泡板1kg当り好ましくは0.10〜0.70モル、更に好ましくは0.15〜0.65モルである。1,1,1,2−テトラフルオロエタンの含有量が0.05モル未満の場合には、十分に高い断熱性を得ることが難しくなり、1,1,1,2−テトラフルオロエタンの含有量が0.80モルを超える場合は、製造時にダイス内で内部発泡を起こしやすくなり表面状態の良好な発泡板を得ることができなくなる虞がある。また、炭素数3〜5の飽和炭化水素化合物の含有量が0.80モルを超える場合は、建築材料として十分な難燃性を得ることができない虞がある。
【0052】
本明細書における発泡剤の含有量は、ガスクロマトグラフを用いて測定される。具体的には,押出発泡板の中央部から切り出したサンプルをトルエンの入った蓋付きの試料ビンの中に入れ、蓋を閉めた後、十分に攪拌し該押出発泡板中の発泡剤をトルエンに溶解させたものを測定試料とし、該試料についてガスクロマトグラフィー分析を行ない内部標準法により定量することより発泡板に含有されるイソブタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン等の含有量を求めることができる。
【0053】
本発明の発泡板における上記発泡剤含有量の調整は、前述した本発明の製造方法において物理発泡剤を押出機に供給する際に、発泡剤のポリスチレン系樹脂への溶解性、ガス透過速度を考慮して、供給量を決めることによりなされる。例えば、イソブタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン等の発泡剤は、ポリスチレン系樹脂への溶解性は大きくガス透過速度は遅いことから、断熱性を維持するために必要とされる量を押出機に供給すると、供給した発泡剤量の略全量が得られる発泡板中の発泡剤含有量となる。尚、発泡板中の発泡剤含有量の調整に殆ど影響を与えずに発泡板の見掛け密度の調整を行うためには、水、二酸化炭素、ジメチルエーテル等の前述したポリスチレン系樹脂に対するガス透過速度の速い発泡剤(早期逸散発泡剤)を物理発泡剤として選択する。これによって、特定の発泡剤の含有量が調整され、かつ、見掛け密度が調整された、本発明発泡板は、ポリスチレン系樹脂に対する、ガス透過速度の速い発泡剤とガス透過速度の遅い発泡剤の組み合わせによって得ることができる。
【0054】
また、本発明の発泡板は、厚み方向の平均気泡径が0.05〜0.5mmのものであり、好ましくは0.06〜0.4mm、更に好ましくは0.06〜0.3mmのものである。平均気泡径が上記範囲内にあることにより、発泡剤組成を変えることなく、より高い断熱性を有する発泡板を得ることができる。該気泡径が0.05mm未満のものでは、厚みが厚く、小さな見掛け密度の発泡板を得ること自体が難しい。一方、0.5mmを超える場合には、目的とする断熱性を有する発泡板を得ることができない虞がある。尚、JIS A9511(1995)の4.7項記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、平均温度20℃)による熱伝導率が0.034W/mK以下を示すような高度な断熱性を示す発泡板とするためには、上記平均気泡径の条件を満足するものであると共に、前記したように発泡板中のイソブタン含有量や1,1,1,2−テトラフルオロエタン含有量の条件を同時に満足するものであることが重要である。このことにより、HFCの使用量の削減、可燃性ガスの使用量削減に繋がり、各環境適性の良化、難燃性の向上の効果をもたらす。
【0055】
本明細書における平均気泡径の測定方法は次の通りである。発泡板厚み方向の平均気泡径(DT:mm)及び発泡板幅方向の平均気泡径(DW:mm)は発泡板の幅方向垂直断面(発泡板の押出方向と直交する垂直断面)を、発泡板長手方向の平均気泡径(DL:mm)は、発泡板の長手方向垂直断面(発泡板を幅方向に二等分し、且つ、発泡板の幅方向と直交する垂直断面)を顕微鏡等を用いてスクリーンまたはモニター等に拡大投影し、投影画像上において測定しようとする方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(但し、この長さは拡大投影した投影画像上の直線の長さではなく、投影画像の拡大率を考慮した真の直線の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、各々の方向における平均気泡径を求める。
【0056】
但し、厚み方向の平均気泡径(DT:mm)の測定は幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所に厚み方向に全厚みに亘る直線を引き各々の直線の長さと該直線と交差する気泡の数から各直線上に存在する気泡の平均径(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を厚み方向の平均気泡径(DT:mm)とする。
幅方向の平均気泡径(DW:mm)は幅方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の発泡板を厚み方向に二等分する位置に、長さ3000μmの直線を幅方向に引き、長さ3000μmの直線と(該直線と交差する気泡の数−1)から各直線上に存在する気泡の平均径(3000μm/(該直線と交差する気泡の数−1))を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を幅方向の平均気泡径(DW:mm)とする。
長手方向の平均気泡径(DL:mm)は長手方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の発泡板を厚み方向に二等分する位置に,長さ3000μmの直線を長手方向に引き、長さ3000μmの直線と(該直線と交差する気泡の数−1)から各直線上に存在する気泡の平均径(3000μm/(該直線と交差する気泡の数−1))を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を長手方向の平均気泡径(DL:mm)とする。また、発泡板の水平方向の平均気泡径(DH:mm)は、DWとDLの相加平均値である。
【0057】
更に本発明の押出発泡板においては、気泡変形率が0.7〜2.0であることが好ましい。気泡変形率とは,上記測定方法により求められたDTをDHで除すことにより算出された値(DT/DH)をいい、該気泡変形率が1よりも小さいほど気泡は偏平であり、1よりも大きいほど縦長である。気泡変形率が0.7未満の場合は、気泡が偏平なので圧縮強度が低下する虞れがあり、偏平な気泡は円形に戻ろうとする傾向が強いので、押出発泡板の寸法安定性も低下する虞がある。気泡変形率が2.0を超えると、厚み方向における気泡数が少なくなるので、目的とする高い断熱性が得られない虞がある。そのような観点から、上記気泡変形率は、0.8〜1.5であることが好ましく、0.8〜1.2であることがより好ましい。気泡変形率が上記範囲内にあることにより、高い断熱性を有する発泡板を得ることができる。
【0058】
本発明の発泡板において上記のように平均気泡径を小さく調整したものを得るための方法としては、前述の気泡調整剤を添加する方法が挙げられるが、単に気泡調整剤の添加量を増量して気泡径を小さく調整しても発泡板の連続気泡率が増加してしまい、その結果、目的とする高い断熱性を示すものは容易に得られない。よって、例えば、ポリスチレン系樹脂のMFRと溶融粘度との関係を考慮して、上記連続気泡化が起きないような、溶融粘度が高くてもMFRがさほど小さくならないポリスチレン系樹脂を選択して気泡調整剤の添加量を増量すること、或いは、過剰な気泡調整剤の添加を避け物理発泡剤として二酸化炭素等の無機物理発泡剤を併用すること等により、平均気泡径の小さな発泡板を得ることができる。尚、発泡板の上記気泡変形率は、例えば、特願2001−183249記載の方法により調整することができる。
【0059】
本発明の押出発泡板は、主に断熱板として使用されるためJIS A9511(1995)記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足するものであることが特に好ましい。即ち、JIS A9511(1995)に記載されている4.13.1「測定方法A」の燃焼性の測定を行った場合、炎が3秒以内に消え、残じんがなく、燃焼限界支持線を越えて燃焼することがないものであることが好ましい。そのような押出発泡板は、着火した場合であっても、火が燃え広がる可能性が小さいので、建材用の押出ポリスチレンフォーム保温板として要求される安全性を備えるものである。
【0060】
本発明の押出発泡板は前述の通り断熱性向上の点、更に機械的強度向上の点から、独立気泡率が90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。独立気泡率が高いほど断熱性能を高く、そして長い期間維持できる。
本明細書において発泡板の独立気泡率は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(押出発泡板から25mm×25mm×20mmのサイズに切断された成形表皮を持たないカットサンプルをサンプルカップ内に収容して測定する。ただし、厚みが薄く、厚み方向に20mmのカットサンプルが切り出せない場合には、例えば、25mm×25mm×10mmのサイズのカットサンプルを2枚同時にサンプルカップ内に収容して測定すればよい。)された押出発泡板(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算し,N=3の平均値で求めた。
【0061】
【数1】
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(VA−W/ρ) (1)
Vx:上記方法で測定されたカットサンプルの真の体積(cm3)であり、押出発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm3)。
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)。
ρ:押出発泡板を構成する樹脂の密度(g/cm3)。
【0062】
【実施例】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0063】
実施例1〜6、比較例1〜4
[原料及び配合比]
原料は、ポリスチレン(東洋スチレン社製G330C)100重量部に対して、気泡調整剤としてタルクマスターバッチ(上記ポリスチレン69重量%と、タルク(松村産業株式会社製ハイフィラー#12)30重量%と、ステアリン酸亜鉛1重量%とからなるマスターバッチ)、難燃剤を表1(実施例)及び表2(比較例)に示す割合で配合し、発泡剤としてブタンと塩化メチルを表1、表2に示す割合で混合した混合物を表1、表2に示す量(ポリスチレン1kg当たりの発泡剤注入量(mol/kg)として表記)を用いた。難燃剤は、臭素化ビスフェノールSとしてはテトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)を、ハロゲン化燐酸エステルとしてはトリス(トリブロモネオペンチル)フォスフェートを用い、ジフェニルアルカンとしては2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンを用いた。難燃剤は表1、表2に示す割合で適宜混合して用いた。
【0064】
[押出装置]
押出機は、口径65mmの押出機(以下、「第一押出機」という。)と口径90mmの押出機(以下、「第二押出機」という。)と口径150mm押出機(以下、「第三押出機」という。)とを直列に連結したものを使用し、上記混合発泡剤を第一押出機の先端付近において溶融樹脂中に圧入混練した。ダイリップは、先端に幅115mm、間隙1.5mm(長方形横断面)の樹脂排出口を備えたものを使用した。
【0065】
[押出条件]
上記装置を用いて、ポリスチレン系樹脂等の原料を第一押出機に供給し、220℃まで加熱し、溶融混練し、第一押出機の先端付近で混合発泡剤を圧入して発泡性溶融樹脂混合物とし、続く第二押出機及び第三押出機で樹脂温度をダイリップが取付けられたアダプター部での樹脂圧力が40kgf/cm2になるように調整した後、発泡適性温度に調整した発泡性溶融樹脂混合物を、ダイリップから大気中に押出した。
ダイリップから押出された発泡性溶融樹脂混合物を、発泡させながら前記ガイダーを通過させることにより、発泡させながら圧縮し、次に成形装置に充満させながら板状に形成し、押出発泡板を製造した。
得られた押出発泡板の見掛け密度、厚み、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、気泡変形率、熱伝導率、燃焼性、成形性、発泡剤残存量を表1、2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
実施例7〜9
タルクマスターバッチ、難燃剤及びその配合比を表3の通りとし、発泡剤組成をイソブタン、ジメチルエーテル、二酸化炭素の混合系に変更した以外は,実施例1と同様にして押出発泡板を製造した。得られた押出発泡板の見掛け密度、厚み、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、気泡変形率、熱伝導率、燃焼性、成形性、発泡剤残存量を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例10〜14
タルクマスターバッチ、難燃剤及びその配合比を表4の通りとし、実施例14は断熱性向上剤の黒鉛を3重量部添加し、発泡剤組成をイソブタンと塩化メチルの混合系に変更した以外は、実施例1と同様にして押出発泡板を製造した。得られた押出発泡板の見掛け密度、厚み、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、気泡変形率、熱伝導率、燃焼性、成形性、発泡剤残存量を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
実施例15〜16
タルクマスターバッチ、難燃剤及びその配合比を表5の通りとし、発泡剤組成を1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ブタン、塩化メチル混合系に変更した以外は,実施例1と同様にして押出発泡板を製造した。得られた押出発泡板の見掛け密度、厚み、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、気泡変形率、熱伝導率、燃焼性、成形性、発泡剤残存量を表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
実施例17〜19
タルクマスターバッチ、難燃剤及びその配合比を表6の通りとし、発泡剤組成をエタノール、二酸化炭素の混合系に変更した以外は,実施例1と同様にして押出発泡板を製造した。得られた押出発泡板の見掛け密度、厚み、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、気泡変形率、熱伝導率、燃焼性、成形性、発泡剤残存量を表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
実施例20〜21
タルクマスターバッチ、難燃剤及びその配合比を表7の通りとし、発泡剤組成をイソブタン、ジメチルエーテル、二酸化炭素の混合系に変更した以外は,実施例1と同様にして押出発泡板を製造した。得られた押出発泡板の見掛け密度、厚み、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、気泡変形率、熱伝導率、燃焼性、成形性、発泡剤含有量を表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
表1〜7における見掛け密度は、JIS K7222(1985)に基づいて測定された値である。
【0079】
表1〜7における厚みは、幅方向を4等分する位置の3箇所で測定し、それらを相加平均した値である。
【0080】
表1〜7における厚み方向平均気泡径及び気泡変形率は、前記の方法で測定された値である。
【0081】
表1〜7における独立気泡率は、押出発泡板から25mm×25mm×20mmのサイズに切断された成形表皮を持たないカットサンプルを使用して前記方法で測定された値である。
【0082】
表1〜7における熱伝導率は、製造直後に気温23℃、相対湿度50%の部屋に移し、その部屋で4週間経過した押出発泡板から切り出した縦20cm、横20cm、押出発泡板厚みの試験片について、JIS A 9511(1995)4.7の記載により、英弘精機株式会社製の熱伝導率測定装置「オートΛ HC−73型」を使用して、JIS A 1412(1994)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、平均温度20℃)に基づいて測定した。
【0083】
表1〜7における燃焼性は、製造直後に気温23℃、相対湿度50%の部屋に移し、その部屋で4週間経過した押出発泡板を対象にJIS A9511(1995)の4.13.1「測定方法A」に基づいて測定した。尚、該測定は一つの発泡板に対して試験片を10個切り出して(n=10)下記の評価基準にて評価した。
◎:全ての試験片において3秒以内で消え、且つ、10個の試験片の平均燃焼時間が2秒以内である。
○:全ての試験片において3秒以内で消え、且つ、10個の試験片の平均燃焼時間が2秒を越え3秒以内である。
×:10個の試験片の平均燃焼時間が3秒を越える。
【0084】
表1〜7における成形性は、下記の評価基準にて評価した。
○:断面にボイドがなく、かつ表面にしわや突起が見られず外観良好な発泡板であり、製造時の安定性も良い。
×:発泡板断面にボイド及び/又は,表面にしわや突起が顕著に存在し、外観が悪い発泡板であり、製造時の安定性に欠ける。
【0085】
表1〜7における発泡剤残存量(発泡板1kg当たりの発泡剤の含有量)の測定は、押出発泡後4週間経過した発泡板を対象として、株式会社島津製作所製、島津ガスクロマトグラフGC−14Bを使用しシクロペンタンを内標準物質として前記方法に基づいて測定した。
ガスクロマトグラフ分析の測定条件は以下の通りである。
カラム:信和化工株式会社製、Silicone DC550 20%,カラム長さ4.1m、カラム内径3.2mm、サポート:Chromosorb AW−DMCS、メッシュ60〜80
カラム温度:40℃
注入口温度:200℃
キャリヤーガス:窒素
キャリヤーガス速度:3.5ml/min
検出器:FID
検出器温度:200℃
定量:内部標準法
【0086】
尚、4週間経過後の発泡板に対して各種試験を行なう理由は次の通りである。塩化メチル、ジメチルエーテル、二酸化炭素、エタノール等のポリスチレン樹脂に対して易透過性の発泡剤は、製造後のポリスチレン系樹脂発泡板から比較的早期に大部分が抜け出すものであるが、通常は、断熱性能及び難燃性能を安定化させるため、養生してこれら易透過性の発泡剤を発泡板から気散させてから出荷される。易透過性の発泡剤は、種類にもより多少異なるが、通常は気温23℃、相対湿度50%の部屋で4週間ほど養生すると発泡板から大部分が気散して断熱性能及び難燃性能が安定化することを勘案して4週間経過後の発泡板を使用して各種試験を行なった。
【0087】
実施例と比較例の結果は次のことを示している。
実施例1〜22の結果は、いずれも本発明の難燃剤を本発明の範囲内で使用して低密度で厚物のポリスチレン系樹脂押出発泡板を製造した例を示すものであるが、押出安定性に優れると共に得られた発泡板は難燃性が良好であることが分る。
【0088】
実施例1〜6は、発泡剤組成をブタンと塩化メチルの混合系とした例を示す。実施例1、2及び4は、難燃剤として臭素化ビスフェノールS又はハロゲン化燐酸エステルを単独で使用した例であるが、押出成形性の優れた押出発泡板が得られていることが分かる。また、得られた発泡板は、可燃性気体がいくらか残存しているにもかかわらず、高い難燃性を有していることが分かる。また、実施例3と5のように、更に2,3−ジメチルー1,3−ジフェニルブタンを併用することで臭素化ビスフェノールS又はハロゲン化燐酸エステルの添加量を減量しても得られた発泡板は高い難燃性が確保できていることが分かる。また、実施例6からは、臭素化ビスフェノールSとハロゲン化燐酸エステルの臭素系難燃剤同士を併用すると、難燃剤の総量を少なくしても高い難燃性を確保できることが分かる。
【0089】
一方、比較例1は実施例1と、比較例2は実施例4とそれぞれ対比されるものであって、比較例1及び比較例2は、難燃剤の使用量が本発明の下限を下回る例を示すものである。このようにして得られた押出発泡板は、成形安定性や熱伝導率等は問題ないが、高い難燃性を兼備することができない。
【0090】
また比較例3は実施例3と、比較例4は実施例5とそれぞれ対比されるものであって、難燃剤の添加量を本発明の上限を超えて使用した例を示す。その結果、押出安定性へ及ぼす押出圧力変動等の影響により、押出発泡の安定性が著しく損なわれるものとなった。実施例7〜9は発泡剤組成をイソブタン、ジメチルエーテル、二酸化炭素の混合系で使用した例を示す。得られた発泡板は、特定量のイソブタンが残存しているため、大きく断熱性が向上していることが分かる。また、残存する可燃性気体(イソブタン)の量が多いにもかかわらず、十分な燃焼性が確保できていることが分かる。
【0091】
実施例10〜14は、発泡剤組成をイソブタンと塩化メチルの混合系で使用した結果である。実施例7〜9との違いは、発泡剤のジメチルエーテル、二酸化炭素の代わりに塩化メチルを使用していること及び断熱性を向上させる黒鉛が添加されていることである。得られた発泡板は、特定量のイソブタンの量が残存しているため、高い断熱性が得られていることが分かる。また、残存する可燃性気体の量が多いにもかかわらず、十分な難燃性を確保できていることが分かる。また、実施例7〜9との対比において、黒鉛粉末の添加が同じイソブタン残存量の発泡板と比較して断熱性がより向上していることが分る。
【0092】
実施例15〜16は、発泡剤組成を1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ブタン、塩化メチル混合系で使用した例を示す。1,1,1,2−テトラフルオロエタンは、長期に亘る高い断熱性を得るために使用している。このため、高い断熱性が得られていることが分かる。また、可燃性気体が存在しているにもかかわらず、高い難燃性を確保されていることが分かる。
【0093】
実施例17〜19は、発泡剤組成をエタノール、二酸化炭素の混合系で使用した例を示す。得られた発泡板は、少量のエタノールを含むものの、十分な難燃性を確保できていることが分かる。
【0094】
実施例20〜22は、イソブタン、ジメチルエーテル、二酸化炭素の混合系で使用した例を示す。実施例17〜19との違いはイソブタンが追加されたことである。特定量のイソブタンが残存しているため、大きく断熱性が向上していることが分かる。また、残存する可燃性気体の量が多いにもかかわらず、十分な燃焼性が確保できていることが分かる。
【0095】
【発明の効果】
本発明方法はHBCDより高い分解開始温度を有する臭素化ビスフェノールSやハロゲン化燐酸エステルからなる臭素系難燃剤や、臭素系難燃剤との併用により難燃効果を向上させるジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケンを、臭素系難燃剤と併用することで、リサイクル性・成形性に優れ、かつJIS A9511(1995)に記される難燃性・断熱性を確保するポリスチレン系樹脂押出発泡板を提供することができる。
【0096】
特に、ジフェニルアルカンを使用することにより、臭素化ビスフェノールSやハロゲン化燐酸エステルの添加量を減量することができ、製造時の成形性を向上でき機械的強度にも優れた発泡板を提供することができる。
【0097】
また、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板は、厚み方向の平均気泡径が0.05〜0.5mm、見掛け密度が22〜60kg/m3の難燃性、断熱性、軽量性、寸法安定性も優れたものである。
【0098】
本発明の方法においては、特定の発泡剤を組み合わせることにより、オゾン破壊係数が0で、かつ地球温暖化係数をなるべく低く抑えた発泡剤を用いた発泡板を提供することができる。
Claims (6)
- 少なくともポリスチレン系樹脂、難燃剤及び発泡剤が混練されてなる発泡性溶融樹脂組成物を押出発泡することにより、見掛け密度22〜60kg/m3、厚み10〜150mmの発泡板を製造する方法において、該難燃剤が下記(i)〜(vi)のいずれかより選択されるものであって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.5〜10重量部の割合で添加されることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
(i)臭素化ビスフェノールS。
(ii)臭素化ビスフェノールSと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(iii)ハロゲン化燐酸エステル。
(iv)ハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(v)臭素化ビスフェノールSとハロゲン化燐酸エステル。
(vi)臭素化ビスフェノールS及びハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。 - 難燃剤が臭素化ビスフェノールS及び/又はハロゲン化燐酸エステルからなる臭素系難燃剤と、ジフェニルアルカン及び/ジフェニルアルケンからなり、該臭素系難燃剤100重量部に対して、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケンが合計で0〜300重量部の割合で配合されていることを特徴とする請求項1記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
- 発泡剤が、(a)炭素数3〜5の飽和炭化水素10〜80モル%と、(b)炭素数1又は2の塩化アルキル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メタノール、エタノール、水、二酸化炭素の中から選択される1種又は2種以上の発泡剤90〜20モル%(但し、発泡剤(a)と発泡剤(b)との合計量は100モル%)からなることを特徴とする請求項1または2記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
- 発泡剤が、(a)1,1,1,2−テトラフルオロエタン5〜70モル%と、(b)炭素数3〜5の飽和炭化水素0〜70モル%と、(c)炭素数1又は2の塩化アルキル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メタノール、エタノール、水、二酸化炭素の中から選択される1種又は2種以上の発泡剤10〜90モル%(但し、発泡剤(a)と発泡剤(b)と発泡剤(c)との合計量は100モル%)からなることを特徴とする請求項1または2記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
- 見掛け密度22〜60kg/m3、厚み10〜150mmのポリスチレン系樹脂押出発泡板において、厚み方向の平均気泡径が0.05〜0.5mm、発泡板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素含有量が発泡板1kg当り0.10〜0.90モルであり、発泡板中に下記(i)〜(vi)のいずれかより選択される難燃剤を含有していることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。
(i)臭素化ビスフェノールS。
(ii)臭素化ビスフェノールSと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(iii)ハロゲン化燐酸エステル。
(iv)ハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(v)臭素化ビスフェノールSとハロゲン化燐酸エステル。
(vi)臭素化ビスフェノールS及びハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。 - 見掛け密度22〜60kg/m3、厚み10〜150mmのポリスチレン系樹脂押出発泡板において、厚み方向の平均気泡径が0.05〜0.4mm、発泡板中の1,1,1,2−テトラフルオロエタン含有量が発泡板1kg当り0.05〜0.80モル、発泡板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素含有量が発泡板1kg当り0〜0.80モルであり、発泡板中に下記(i)〜(vi)のいずれかより選択される難燃剤を含有していることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。
(i)臭素化ビスフェノールS。
(ii)臭素化ビスフェノールSと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(iii)ハロゲン化燐酸エステル。
(iv)ハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
(v)臭素化ビスフェノールSとハロゲン化燐酸エステル。
(vi)臭素化ビスフェノールS及びハロゲン化燐酸エステルと、ジフェニルアルカン及び/又はジフェニルアルケン。
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