JP2005008555A - ムスコンのアセタール付加体、その調製方法、並びに(±)−ムスコンの光学分割方法 - Google Patents

ムスコンのアセタール付加体、その調製方法、並びに(±)−ムスコンの光学分割方法 Download PDF

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Abstract

【課題】異性体間において大きな溶解度の差が生じるラセミ体の(±)−ムスコンのジアステレオマー、ジアステレオマー化方法、並びに(±)−ムスコンから(R)−(−)体ムスコン、又は(S)−(+)体ムスコンを光学分割する方法を提供することである。
【解決手段】(R)−(−)体と(S)−(+)体とからなるラセミ体である(±)ムスコンと、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド又はN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドとを、所定の条件下で反応させアセタール結合を生成させて得られる(±)ムスコンのジアステレオマー、当該ジアステレオマーの調製方法、並びに当該ジアステレオマーを用いたムスコンの光学分割方法である。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、天然型である(R)−(−)−ムスコンにN,N’−ジベンジル−L−酒石酸アミドをアセタール反応により付加させて得られるN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド、非天然型である(S)−(+)−ムスコンにN,N’−ジベンジル−D−酒石酸アミドをアセタール反応により付加させて得られるN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド、及びそれらの調製方法、並びにラセミ体の(±)−ムスコンから(R)−(−)−ムスコン又は(S)−(+)−ムスコンを光学分割する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
麝香(ジャコウ)鹿の包皮腺から分泌される麝香(ジャコウ)は、動物由来の高貴な香気成分や、保香剤、医薬品として、太古の昔から広く珍重されて来た。近年、絶滅の恐れのある野生動物の取引禁止に関するワシントン条約による規制によって、天然産の麝香の入手が次第に困難となっており、そのため麝香鹿の飼育も実施されている。
麝香中の香気成分の構造の解析は、1930年代にスイスのRuzicka博士等によって行われ、その主な香気成分は飽和の大環状ケトンである(R)−(−)−3−メチル−シクロペンタデカノン(C1630O)と決定され、ムスコン(muscone)と命名された。それは下記式(III)の構造を有する光学活性物質である。
【化3】
Figure 2005008555
【0003】
上記の構造が決定されて以来、天然型ムスコンを直接、不斉合成しようとする種々の試みがなされて来たが、不斉合成による天然型(R)−(−)−ムスコンの工業的製法は未だ確立されていない。
【0004】
そこで合成が容易で安価に製造が可能なラセミ体(±)ムスコンを先ず製造し、これを光学分割することによって天然型(R)−(−)−ムスコンを分離する方法が検討されている。
例えば、加水分解酵素であるリパーゼAKを用い、原料として3−メチルシクロペンタデカン−1−オールの不斉エステル化反応を経由して、高い光学純度で(R)−(−)−ムスコンを得ることが可能な酵素法による光学分割が提案されている(非特許文献1参照)。
さらに、原料として3−メチルシクロペンタデカン−1−オールを用い細菌由来の加水分解酵素を触媒として不斉エステル化後、加水分解し、次いで酸化を行う光学活性ムスコンの製造方法も提案されている(特許文献1参照)。
また、本願発明における分割剤とは異なるが、光学分割剤としてトレイトール(threitol)誘導体を用いたムスコンの光学分割方法も提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、従来は香料の原料としてそれほど注目されていなかったもう一方の鏡像異性体(S)−(+)−ムスコンに関しても、最近の消費者の嗜好の多様化等を背景とする新たな香料分野への展開、或いは香料以外、例えば医薬品分野などへの応用が検討され始めている。
ムスコンのR体とS体とでは香気の質が相当異なるので、香料としてムスコンを利用する場合に、(±)ムスコンからR体とS体を分離すること、さらに分離したR体の光学純度を高めることが不可欠となる。
【0006】
鏡像異性体(エナンチオマー)の等モル(50:50)混合物であるラセミ体(ラセミ混合物ともいう)を光学分割する方法のうち、最も一般的で簡便かつ効率的な方法はジアステレオマー法である。この方法は、鏡像異性体の混合物に、別の光学活性体、つまり光学分割剤を結合させて、ジアステレオマーと称される物性の異なる2種類の化合物に誘導して結晶化等により分離した後、その分離物を元の鏡像異性体に再変換する方法である。通常、2つのジアステレオマーは結晶形、融点、溶解性などが異なり、それぞれの結晶を播種するか、又は自然起晶によりいずれか一方の結晶を析出させることができる。
【0007】
ジアステレオマーを形成させる光学分割剤に関しては、天然の光学活性有機酸類、又は植物のアルカロイド由来のアミン類が塩形成に使用される(詳しくは「季刊化学総説No.6 光学異性体の分離」日本化学会編、学会出版センター(1989年)を参照)。
しかしながら、(±)ムスコンは大環状ケトンであり、しかも中性の分子であるため直接には塩を形成できないという問題点がある。
また、ジアステレオマーに誘導したムスコンを、クロマトグラフィーを用いて分離する方法では、分離設備が大型化しコスト高となってしまう。
そこで、簡便で高純度に分離可能な光学分割方法が産業界から強く要望されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−189号公報
【特許文献2】
韓国特許公開番号20000049980 A
【非特許文献1】
高部圀彦、外3名、「酵素法によるムスコン誘導体の光学分割」、第39回香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会 講演要旨集、主催日本化学会、平成7年10月2日〜4日、p. 177−178
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ジアステレオマー相互間において大きな溶解性の差があるため容易に光学分割することが可能なムスコンのジアステレオマー化物の提供、並びに当該ジアステレオマー化物の調製方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明はラセミ体ムスコンから(R)−(−)−ムスコン又は(S)−(+)−ムスコンの一方だけを効率的且つ経済的に光学分割する方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、光学分割剤としてN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドをラセミ体である(±)−ムスコンに反応させた場合に、ムスコンと当該酒石酸ジアミドとの間に環状アセタールが形成されてN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドとそのジアステレオマーが生成され、それぞれの立体構造に基づく溶解性の差から前者を優先的に結晶化させて分離可能であることを見出し、簡便且つ効率的に(R)−(−)−ムスコンを光学分割する方法を確立し、本発明の完成に至った。
一方、光学分割剤としてN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドをラセミ体ムスコンに反応させた場合には、ムスコンと当該酒石酸ジアミドとの間に環状アセタールが形成されてN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドとそのジアステレオマーが生成され、それぞれのジアステレオマー間の立体構造に基づく溶解性の差から前者を優先的に結晶化させて分離可能であることを見出し、簡便且つ効率的に(R)−(−)−ムスコンを光学分割する方法を確立し、本発明を完成するに至った。
【0011】
なお、(±)ムスコンの光学分割において、簡便な分離手段として、本発明のような優先的結晶化法を適用した例は、本発明者らによる特願2003−95454号明細書(分割剤として酒石酸ジベンジルエステルを使用)における提唱が初めてである。その発明内容は、(±)−ムスコンと、L−酒石酸ジベンジルエステル又はD−酒石酸ジベンジルエステルとを反応させてジアステレオマー混合物を得、溶解度の差を利用して、ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキシラート、又はジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキシラートを優先結晶させて分離し、最後に加水分解により酒石酸ジベンジルエステルを脱離させて、(R)−(−)−ムスコン又は(S)−(+)−ムスコンを得る方法である。
【0012】
すなわち、本発明は、下記式(I)で表されるN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドである。
【化4】
Figure 2005008555
【0013】
また、本発明は、下記式(II)で表されるN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドである。
【化5】
Figure 2005008555
【0014】
また、本発明は、(R)−(−)体と(S)−(+)体とからなるラセミ体(±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとを、不活性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてアセタール結合を生成させることを特徴とするN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーの調製方法である。
【0015】
また、(R)−(−)体と(S)−(+)体とからなるラセミ体(±)ムスコンと、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドとを、不活性溶媒中で、酸性触媒の存在下及び脱水条件下で反応させてアセタール結合を生成させることを特徴とするN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーの調製方法である。
【0016】
さらに、上記発明において、
酸性触媒が、好ましくは有機スルホン酸、又は希土類金属トリフルオロメタンスルホナートから選ばれる触媒であること、
有機スルホン酸が、特に好ましくはカンファースルホン酸又はp−トルエンスルホン酸であること、
希土類金属トリフルオロメタンスルホナートが、特に好ましくはスカンジウムトリフルオロメタンスルホナート又はイッテルビウムトリフルオロメタンスルホナートであること、
脱水条件が、好ましくは脱水剤の使用であること、特に好ましくはオルトギ酸トリアルキルであり、とりわけオルトギ酸トリメチル又はオルトギ酸トリエチルが好適であること、
不活性溶媒が、好ましくはN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドに対して溶解性のある溶媒、特に好ましくはアセトニトリル又はジオキサンであること、
をそれぞれ特徴とする。
【0017】
さらに本発明は、下記の第1工程及び第2工程から成ることを特徴とするN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの調製及び分離方法である。
〔第1工程〕 (±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとを、不活性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーを生成させる工程、
〔第2工程〕 溶媒中で、第1工程で生成されたジアステレオマー混合物を、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの融点未満の温度条件に保持して当該ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離する工程。
【0018】
さらに本発明は、下記の第1工程及び第2工程から成ることを特徴とするN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの調製及び分離方法である。
〔第1工程〕(±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドとを、疎水性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーを生成させる工程、
〔第2工程〕 溶媒中で、第1工程で生成されたジアステレオマー混合物を、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの融点未満の温度条件に保持して当該ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離する工程。
【0019】
さらに、本発明は、下記の第1〜第3工程から成ることを特徴とする(±)−ムスコンラセミ体から(R)−(−)−ムスコンを光学分割する方法である。
〔第1工程〕 (±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとを、不活性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーを生成させる工程、
〔第2工程〕 溶媒中で、第1工程で生成されたジアステレオマー混合物を、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの融点未満の温度条件に保持して当該ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離する工程、
〔第3工程〕 酸性条件下かつ含水溶媒中で、第2工程で分離したN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドからN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを脱離させて(R)−(−)−ムスコンを生成させる工程。
【0020】
さらに、本発明は、下記の第1〜第3工程から成ることを特徴とする(±)−ムスコンラセミ体から(S)−(+)−ムスコンを光学分割する方法である。
〔第1工程〕 (±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドとを、疎水性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーを生成させる工程、
〔第2工程〕 溶媒中で、第1工程で生成されたジアステレオマー混合物を、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの融点未満の温度条件に保持して当該ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離する工程、
〔第3工程〕 酸性条件下かつ含水溶媒中で、第2工程で分離したジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドからN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを脱離させて(S)−(+)−ムスコンを生成させる工程。
【0021】
また、上記第2工程で使用する溶媒が、好ましくはメタノール又はエタノールであること、上記第3工程における含水溶媒が、好ましくはジオキサンと水の混合溶媒、又はテトラヒドロフランと水の混合溶媒であること、をそれぞれ特徴とする。
【0022】
【発明の実施の形態】
〔1〕ムスコン
本発明の適用対象であるムスコンは、主として化学合成によって調製された下記式(IV)で表されるラセミ体(±)−ムスコンである。
【化6】
Figure 2005008555
【0023】
ラセミ体ムスコンの合成品は、現在、例えばドイツのFirmenich社によって製造されている。しかし、簡便で安価な分割方法が無いために、ラセミ体から(R)−(−)−ムスコン又は(S)−(+)−ムスコンを光学分割して(R)−(−)−ムスコンのみを商業生産することは行われていない。
ラセミ体ムスコンには、メチル基側鎖の結合方向が対掌的である2個の光学異性体であるR体とS体とが共存し、それぞれ−(左旋性)及び+(右旋性)の旋光性を示し、うち天然型は(R)−(−)−ムスコンであり、その比旋光度は[α] 25−12.3°である。また、非天然型は(S)−(+)−ムスコンであり、その比旋光度は[α] 25+12.4°である〔文献T. Yamamoto et al., Tetrahedron, 58, 9209(2002)〕。
天然型のR体と非天然型のS体とでは香気の質が異なり、更に最低検知濃度すなわち閾値も、それぞれ3ppm、8ppmと異なる。
R体とS体は、溶媒中で同じ溶解度を持ち、しかも融点、沸点が同じなので、そのままでは結晶化や蒸留等の方法で分離することはできない。
【0024】
〔2〕光学分割剤
▲1▼(R)−(−)−ムスコンの光学分割剤
本発明において、ラセミ体ムスコンから(R)−(−)−ムスコンを分離するために用いられる光学分割剤は、下記式(V)で表されるN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(IUPAC名:N,N’−ジベンジル(2R,3R)−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ブタンアミド)である。この化合物は、vicinalなヒドロキシル基を有するキラルなジアミドであることに特徴を有する。
【化7】
Figure 2005008555
【0025】
上記N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドは、その2個のヒドロキシル基がムスコンのカルボニル基と反応して環状アセタールを生成する。このアセタール結合は、p−トルエンスルホン酸等の酸触媒作用で簡単に加水分解される。その結果、上記N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドがムスコンから脱離するので、目的とする(R)−(−)−ムスコンを分離し再生することが可能となる。
【0026】
N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドの原料となる酒石酸には、ラセミ体、L−(+)体、D−(−)体、メソ体の4種類が存在する。これらの中で、上記ムスコンとの間に環状アセタールを形成させ、その立体構造ゆえに溶解度差の大きなジアステレオマーの生成を可能にするものはL−(+)−酒石酸、すなわち(2R,3R)−(+)−酒石酸に限られる。
なお、かかるL−(+)−酒石酸は葡萄酒醸造の際に得られる生酒石を酸性化して製造されており、非天然型のD−(−)体よりも安価である。
【0027】
N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドは、まずL−(+)−(2R,3R)−酒石酸と低級アルコール(例えばメタノール、エタノール)とからL−酒石酸ジアルキルエステル(例えば、酒石酸ジメチルエステル、酒石酸ジエチルエステル)を調製し、次いで、得られた酒石酸ジエステル1当量にベンジルアミン2当量を反応させてアミド化することにより調製することができる。
上記L−酒石酸ジアルキルエステルは、例えばL−酒石酸と過剰の低級アルコールを混合し、酸性の触媒としてp−トルエンスルホン酸を加えて、トルエン溶媒中で還流脱水することにより合成される。また、次工程のアミド化は、例えば酒石酸ジエチルエステルの場合は、メタノール溶媒中で炭酸カリウムを加えた塩基性条件下で還流して行うことが適当であり、また、酒石酸ジメチルエステルの場合は、メタノール溶媒中で還流して行うことが適当である。
調製された結晶状のN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドは、さらに再結晶操作によって精製し不純物を除去してから光学分割剤として使用することが好ましい。
【0028】
▲2▼(S)−(+)−ムスコンの光学分割剤
ラセミ体ムスコンから(S)−(+)−ムスコンを分離するために用いられる光学分割剤は、下記式(VI)で表されるN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミド(IUPAC名:N,N’−ジベンジル(2S,3S)−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ブタンアミド)である。
【化8】
Figure 2005008555
【0029】
上記N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドは、D−(−)酒石酸と低級アルコールとからD−酒石酸アルキルエステルを合成し、次いで当該エステルとベンジルアミンを原料として前記L体と同様の方法にて製造することができる。
なお、S体の分離の場合も、4種の酒石酸の中で、ムスコンとの間に環状アセタールを形成させ、その立体構造ゆえに溶解度差の大きなジアステレオマーの生成を可能にするものは、D−(−)酒石酸に限られる。
【0030】
〔3〕ラセミ体ムスコンのジアステレオマー化
▲1▼N,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーの合成:
(R)−(−)−ムスコンと(S)−(+)−ムスコンとの混合物であるラセミ体ムスコンに、上述したN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを反応させて、ムスコンのカルボニル基と、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドが有する2個のヒドロキシル基とによって環状アセタールを形成させると、ラセミ体中の各エナンチオマー、すなわち(R)−(−)−ムスコンと(S)−(+)−ムスコンがそれぞれジアステレオマー化されてジアステレオマー誘導体の混合物が生成される。
(R)−(−)−ムスコンからは溶解性が小さく結晶性で融点が137〜137.8℃である下記式(I)のN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド(以下、「(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物」と略称することがある)が生成され、一方、(S)−(+)−ムスコンからは溶解性が大きいそれのジアステレオマー(以下、「(S)ムスコン−(L)酒石酸付加物」と略称することがある)が生成される。
【化9】
Figure 2005008555
【0031】
▲2▼N,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドおよびそのジアステレオマーの合成:
ラセミ体ムスコンに、上述したN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを作用させて、ラセミ体ムスコンのカルボニル基とN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドが有する2個のヒドロキシル基とによって環状アセタールを形成させると、ラセミ体中の各エナンチオマー、すなわち(S)−(+)−ムスコンと(R)−(−)−ムスコンがそれぞれジアステレオマー化されてジアステレオマー誘導体の混合物が生成される。
(S)−(+)−ムスコンからは溶解性が小さく結晶性で融点が137〜138.2℃である下記式(II)のN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド(以下、「(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物」と略称することがある)が生成され、一方、(R)−(−)−ムスコンからは溶解性が大きなジアステレオマー(以下、「(R)ムスコン−(D)酒石酸付加物」と略称することがある)が生成される。
【化10】
Figure 2005008555
【0032】
▲3▼ジアステレオマー化の条件
ラセミ体ムスコンのジアステレオマー化のためのアセタール形成、すなわち5員環の1,3−ジオキソランを生成させる反応には、酸性触媒が必要である。この酸性触媒は、酸の強度、及び有機反応溶媒への溶解性を考慮して、好ましくは有機スルホン酸、又は希土類金属トリフルオロメタンスルホナートから選ばれる。
有機スルホン酸としては、特にカンファー−10−スルホン酸(下記化学式参照)、p−トルエンスルホン酸(p−TsOH・HO)又はポリスチレンスルホン酸(カチオン交換樹脂)等のプロトン酸が好ましい。
【化11】
Figure 2005008555
【0033】
また、希土類金属トリフルオロメタンスルホナートとしては、特にスカンジウムトリフルオロメタンスルホナート(以下「Sc(OTf)」と略称する)、イッテルビウムトリフルオロメタンスルホナート(以下「Yb(OTf)」と略称する)等のルイス酸が好適である。なお、それらを粉末状のマイクロカプセル化したものであっても良い。
アセタール生成反応は可逆反応であるので、効率的に反応を進めるには、反応時に生成する水を除去する脱水条件下で行う必要がある。従って、反応を十分に完結させるためには、例えば沸騰条件下のような高温度で反応を進め生成する水を蒸発によって除去する高温脱水法によるか、或いは、脱水剤を用いて常温で反応を進める常温反応法による必要がある。
【0034】
常温反応法における脱水剤としては、低分子量の有機酸であるギ酸又は酢酸と、低分子量のアルコールであるメタノール又はエタノールとから得られるオルトエステルが好適である。
これらの化合物は水1モルを吸収し、アルコール2モルを放出して通常のエステルに戻る。副生したアルコールは、減圧蒸留によって分離される。
分子量の小さいオルトエステルが単位重量当たりの水の吸収容量が大きいので好ましく、オルトギ酸トリアルキル〔HC(OR);好適にはアルキル炭素数が1〜4〕、中でもオルトギ酸トリメチル〔HC(OCH〕又はオルトギ酸トリエチル〔HC(OCHCH〕が最も効率がよい。
【0035】
沸騰条件下でアセタール反応を進める高温脱水法では、系の温度が、生成するジアステレオマーの融点以上では結晶の析出はない。
一方、常温反応法では、(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物はそのジアステレオマーの(S)ムスコン−(L)酒石酸付加物よりも溶解度が低く、また、(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物はそのジアステレオマーの(R)ムスコン−(D)酒石酸付加物よりも溶解度が低く、それぞれのジアステレオマーとの共晶が生成することもなく、生成すると直ちに結晶化するので高純度な結晶が析出することになる。
従って、分離が容易で工程全体の簡略化に寄与できる点で、常温で脱水剤を使用してアセタール化を行う常温反応法が好ましい。
【0036】
ラセミ体ムスコンのアセタール化は、不活性溶媒、好ましくはN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドに対して溶解性のある溶媒を用いて行う。かかる溶媒の中でも、ジオキサン(1,4−ジオキサン)又はアセトニトリルが好適であり、特にアセトニトリルが好適である。
【0037】
反応の当量比は、D−又はL−のN,N’−ジベンジル−酒石酸ジアミド/(±)−ムスコンが0.5〜2が適当であり、過剰の未反応の酒石酸ジアミドはそのまま残存する。
後述の結晶化・分離を効率的に行うには、酒石酸ジアミド/(±)−ムスコンが1/2から1/1の当量比が良い。また、収率、純度および反応温度の点から、酸性触媒としては希土類金属トリフルオロメタンスルホナートが好ましく、特にSc(OTf)が好適である。
【0038】
〔4〕ラセミ体ムスコンの光学分割方法
光学分割方法は、上述のジアステレオマー化を第1工程として、それに続く以下の第2工程(結晶化・分離)及び第3工程(光学分割剤の脱離)から構成される。
▲1▼第2工程
前述のとおりラセミ体ムスコンにN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを反応させて生成される(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物と(S)ムスコン−(L)酒石酸付加物との混合物においては、アセタール結合によって生成した1,3−ジオキソラン環とムスコンの側鎖メチル基の立体配置の関係から、(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物が溶媒に対する溶解性が小さく結晶化し易い物質であるのに対して、同時に生成するそのジアステレオマーの(S)ムスコン−(L)酒石酸付加物は溶解性が大きく結晶化しにくい。
従って、ジアステレオマー混合物のうち(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物は、その融点以下、好ましくは50℃未満、特に好ましくは0〜35℃、とりわけ好ましくは10〜20℃の温度条件下で優先的に結晶化する。
【0039】
このようにして晶出した(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物は、一般的な分離手段である濾過又は遠心分離方法によってそのジアステレオマーとの分離が可能となる。設備費、静電気発生、火災の可能性に鑑みれば、濾過による分離が好ましい。
また、結晶化させるときの溶媒は、上記ジアステレオマーの溶解性および後処理の観点から、沸点が50〜120℃の低沸点炭化水素溶媒およびアルコール類、特に低沸点アルコール溶媒が好ましく、中でもメタノール又はエタノールが好ましい。
【0040】
一方、ラセミ体ムスコンにN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを反応させて生成される(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物と(R)ムスコン−(D)酒石酸付加物との混合物においては、アセタール結合によって生成した1,3−ジオキソラン環とムスコンの側鎖メチル基の立体配置の関係から、(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物は溶媒に対する溶解性が小さく結晶化しやすい物質であるのに対して、同時に生成するそのジアステレオマーの(R)ムスコン−(D)酒石酸付加物は溶解性が大きく結晶化しにくい。
【0041】
従って、ジアステレオマー混合物のうち(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物は、その融点以下、好ましくは50℃未満、特に好ましくは0〜35℃、とりわけ好ましくは10〜20℃の温度条件下で優先的に結晶化する。
このようにして晶出した(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物は、一般的な濾過又は遠心分離方法、好ましくは濾過によってそのジアステレオマーとの分離が可能となる。
また、結晶化させるときの溶媒は、ジアステレオマーの溶解性および後処理の観点から沸点が50〜120℃の低沸点炭化水素溶媒およびアルコール、特に低沸点アルコール溶媒が好ましく、中でもメタノール又はエタノールが好ましい。
【0042】
結晶化をより効率的に行うためには、結晶化に先立って、第1工程で得られた(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物と(S)ムスコン−(L)酒石酸付加物とのジアステレオマー混合物、又は(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物と(R)ムスコン−(D)酒石酸付加物との混合物からクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル=90:10)によって不純物を除去しておくこと、すなわち生成されたジアステレオマー混合物を精製しておくことが好ましい。
【0043】
▲2▼第3工程
第2工程では、それぞれのジアステレオマー混合物から分離された(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物、又は(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物から酒石酸ジアミドを脱離させる、つまりアセタール結合を切断させることによって最終目的物である(R)−(−)−ムスコン、又は(S)−(+)−ムスコンを得ることができる。
【0044】
具体的には酸性条件下かつ含水溶媒中で、D−又はL−のN,N’−ジベンジル−酒石酸ジアミドと(R)又は(S)ムスコンとの間に形成された環状アセタールを加水分解させる。このときの含水溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)/水、又はジオキサン/水の混合物が好適である。
具体的には、(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物、又は(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物を、上記含水溶媒に溶解して、p−トルエンスルホン酸等の触媒を加えて沸騰条件下で加水分解する。
【0045】
この加水分解の際に脱離するN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド、又はN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドの一部も同時に加水分解されてしまう。しかしながら、加水分解物を減圧分留すると、酒石酸ジアミドは結晶化するが、(R)−(−)−ムスコン又は(S)−(+)−ムスコンは液体として得られるので両者の分離が可能である。
【0046】
光学純度の極めて高い(R)−(−)−ムスコン又は(S)−(+)−ムスコンを得るためには、第3工程に先立って、第2工程で結晶化させ分離した(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物、又は(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物を、さらに少なくとも1回、再結晶させて、粗生成物中に僅かに含まれるそれぞれのジアステレオマーを除去し、光学純度を高めた後、第3工程を行うことが好ましい。
【0047】
再結晶操作は、高純度、好ましくはジアステレオマー過剰率が99%以上の(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物、又は(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物を種結晶として用いることが効果的である。
再結晶とそれに伴う再溶解は、メタノール又はエタノール溶媒中で行うことが望ましい。溶媒の選定は結晶の析出速度、純度、分離の際の収率等に重大な影響があるからである。
【0048】
再結晶操作の際、結晶が生じたもとの溶液である母液には、未だアセタール化されたジアステレオマー混合物が含まれている。従って、ラセミ体ムスコンの光学分割を工業的に無駄のない態様で行うムスコンの製造においては、かかる母液中のムスコンを取り出すことが好ましい。すなわち、さらに母液を濃縮し乾燥して得られるアセタール化されたジアステレオマー混合物を再結晶操作に付し、ジアステレオマー過剰率が極めて高い(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物、又は(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物を結晶として取り出す操作を行う。
【0049】
再結晶操作によってジアステレオマー過剰率(diastereomer excess; 略称はd.e.)を高めることができる。このd.e.値は、下記の式で定義され、光学異性体分割の尺度となる。一般的には、d.e.値は光学純度と同じ値である。従って、d.e.値が高いほど光学純度が高いことを意味する。
【数1】
Figure 2005008555
【0050】
上述したラセミ体ムスコンの天然型ムスコン光学分割の概要は、以下のとおりである。なお、加水分解で分離された酒石酸ジアミドは、ラセミ体ムスコンのアセタール化反応にリサイクル使用される。
【化12】
Figure 2005008555
【0051】
【実施例】
以下、実施例、並びに比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を限定するものではない。
〔参考例1〕(N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドの合成例1)
(1)L−(+)−酒石酸からL−酒石酸ジエチルエステルを合成する工程
50mLナス型フラスコにL−(+)−酒石酸(1.01g, 6.73mmol, 1eq)を入れ、トルエン(13.4mL, 0.50M)の溶液にした。これにエタノール(3.80mL, 65.2mmol, 9.7eq)を加えた。
次にp−トルエンスルホン酸・一水和物(p−TsOH・HO; 64.2mg, 0.338mmol, 0.050eq)を加え、130℃にて加熱還流した。13時間後、加熱還流を停止し、室温まで冷却した。
これを溶媒留去した結果、粗生成物(1.50g)を得た。この粗生成物を減圧蒸留(2mmHg、bath temp. 172℃)し、精製した結果、無色で粘性の液体である酒石酸ジエチルエステル(0.989g, 収率(y.) 71.2%)を得た。
【0052】
得られた酒石酸ジエチルエステルの分析結果は以下のとおりである。
(a) CAS登録番号 88393−56−0
(b) 分子量等
分子式:C14, M.W.: 206.19
(c) 液体クロマトグラフィー分析
=0.32 (ヘキサン/酢酸エチル=30/70)
【0053】
(2)L−酒石酸ジエチルエステルからN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを合成する工程
【化13】
Figure 2005008555
【0054】
20mLナス型フラスコに 上記工程(1)で得られたL−酒石酸ジエチルエステル(2.017g, 9.78mmol, 1eq)を入れ、炭酸カリウム(76.6mg, 0.554mmol, 0.057eq)を入れ、メタノール(9.80mL, 1M)の溶液にした。これに、ベンジルアミン(2.55mL, 2.41mmol, 2.5eq)を加え80℃にて還流した。
7時間後、薄層クロマトグラフィー(TLC)上にて原料の酒石酸ジエチルエステルのスポットの消失を確認し、室温まで冷却した。反応の進行とともに生成物は結晶として析出し、冷却後、析出した結晶を目皿で濾過した。結晶は、洗浄溶媒としてのメタノール(20mL)にて洗浄した。
こうして得られた結晶を減圧下、真空乾燥した。その結果、目的生成物である光沢を有する白色結晶のN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(2.47g)を得た。
また、母液は濃縮し、水(2.5mL)を加えると、さらに白色結晶が析出した。このようにして得られた結晶をエタノール/水=1/1(15mL, 60℃)にて再結晶した結果、得られた結晶は0.511gであった。最終的に目的生成物は2.560g、 収率(y.) 80%で得られた。
【0055】
得られたN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドの分析結果は以下のとおりである。
(a) CAS登録番号 13811−71−7
(b) 分子量等
分子式:C1820, M.W.: 328.36
(c) クロマトグラフィー分析
=0.55 (ヘキサン/酢酸エチル=30/70)
【0056】
〔参考例2〕(N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドの合成例2)
(1)L−(+)−酒石酸からL−酒石酸ジメチルを合成する工程
【化14】
Figure 2005008555
【0057】
L−(+)−酒石酸(2.0g, 1.33mmol, 1eq)のトルエン(15mL, 0.1M)溶液にメタノール(0.54mL, 13.3mmol, 10eq)を加え、23時間還流した。
溶媒を留去し、粗生成物を得た。次にカラムクロマトグラフィー(SiO 80g/ヘキサン : 酢酸エチル=40:60)で精製を行い、L−酒石酸ジメチル (1.38g, 収率(y.) 58%, colorless liquid)を得た。なお、クロマトグラフィーでなく蒸留による精製も可能である。
【0058】
得られたL−酒石酸ジメチルの分析結果は以下のとおりである。
(a) 分子量等
分子式:C10 ;M.W.:178.14
(b) 液体クロマトグラフィー分析
=0.45 (ヘキサン/酢酸エチル=40/60)
(c) H NMR分析
H NMR (60 M Hz, CDCl) δ 3.81 (s, 6H, −OCH),4.53
(s, 2H, −CH).
【0059】
(2)L−酒石酸ジメチルからN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを合成する工程
【化15】
Figure 2005008555
【0060】
上記工程(1)で得られたL−酒石酸ジメチル(500mg, 2.81mmol, 1eq)の乾燥メタノール(14mL, 0.4M)溶液にベンジルアミン(0.614mL, 5.62mmol, 2eq)を加え、2日間攪拌した。析出した固体を取り出し、メタノールで再結晶し、白色固体のN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド (434mg, 収率(y.) 48%, white
solid)を得た。
【0061】
得られたN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドの分析結果は以下のとおりである。
(a) 分子量等
分子式:C1820 ;M.W.:328.36
(b) クロマトグラフィー分析
=0.29 (ヘキサン/酢酸エチル=10/90)
(c) H NMR分析
H NMR (90 M Hz, CDOD) δ 4.43 (s, 4H, −CH), 4.52
(s, 2H, −CH), 4.97 (s, 2H, −NH), 7.20−7.24 (m, 10H, −Ph).
(d) 赤外吸収分析
IR (KBr) 3360, 3317 (OH, NH伸縮振動), 1630 (CO 伸縮振動),
1600 (C−C 環伸縮振動), 1370 (CH 変角振動) cm−1
【0062】
〔実施例1〕(天然型(R)−(−)−ムスコンの光学分割)
(1)ラセミ体ムスコンをジアステレオマー化する工程
【化16】
Figure 2005008555
【0063】
10mLナス型フラスコにラセミ体(±)−ムスコン(337mg, 1.42mmol, 1eq)、上記参考例で得られたN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド (386mg, 1.18mmol, 0.83eq)を入れ、アセトニトリル(2.8mL, 0.5M)の溶液にした。
これにオルトギ酸トリメチル(0.160mL, 1.46mmol, 1eq)を入れ攪拌した。さらに、Sc(OTf)(55.6mg, 0.113mmol, 0.08eq)を加え、2.5時間加熱還流した。
反応終了後、溶媒を留去し、真空乾燥させた。この乾燥物を、あらかじめ冷却しておいたヘキサン(20mL)で洗浄し、目皿で濾過した。
こうして得られた結晶を水(50mL)で洗浄し、真空乾燥した結果、目的のN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物(0.708g, 9.37%de (S))を得た。
【0064】
(2)ジアステレオマー混合物からN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドを結晶化・分離する工程
【化17】
Figure 2005008555
【0065】
上記の工程(1)で得られた結晶を、温度を一定にした水浴中(52℃)で再結晶 (メタノール; 16.1mL, 0.080M)した。3時間後の析出結晶を濾過し、得られた結晶を真空乾燥させた結果、N,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド(94.5mg, y.15%, >99%de (R))を得た。このときの母液を母液1という。
母液1を濃縮し、乾燥してアセタールジアステレオマー混合物(0.506g, 収率(y.) 78.5%, 28.4%de (S))を得た。この母液1の濃縮物のアセタールジアステレオマー混合物を、温度一定にした水浴中 (54℃)で再結晶(メタノール; 11.0mL, 0.083M)をした結果、ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの結晶(67mg, 収率(y.) 10.4%, 97.9%de (R))と母液2(0.434g, 収率(y.) 67.3%, 51.7%de (S))をそれぞれ得た。
母液2(ムスコンのヘキサン溶液)は減圧下、濃縮して粗生成物 (0.171g)を得た。これをカラムクロマトグラフィー (SiO; 5.1g, ヘキサン/酢酸エチル=70/30)により単離、精製した結果、未反応ムスコン (67.6mg)が回収された。このことから、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドは97%反応したことになる。
【0066】
得られたN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの分析結果は以下のとおりである。 (a) CAS登録番号 不明
(b) 分子量等
分子式: C3448; M. W.: 548.76
融点 137〜137.8℃
(c) 液体クロマトグラフィー分析
=0.37 (ヘキサン/酢酸エチル=70/30)
(d) 比旋光度
[α] 18.1 −9.71° (c. 0.780, CHCl
(e) H NMR分析
H NMR (CDCl, 90 MHz) δ0.842 (3H, d, J=6.03 Hz, CHCH),
1.1−2.20 (24H, m, −CH− and CHCHCO and CHCH),4.47 (2H, d,
J=3.78 Hz, −OCHCHO−), 4.59 (2H, t, J=4.86 Hz, 2×−CONH−),
4.64 (4H, d, J=2.43 Hz, 2×−CH−Ph), 7.34 (10H, s, 2×−Ph)
(f) 赤外吸収分析
IR (KBr) 3363.6 (−CONH−伸縮振動), 2927.7 (−CH−伸縮振動),
2856.4 (C伸縮振動), 1685.7, 1672.2 (−C=O伸縮振動),
1525.6 (−CONH−変角振動), 698.2 (NH面外変角振動)
【0067】
(g) 13C NMR分析
13C NMR (22.4 MHz, CDCl) δ169.5, 137.7, 128.7, 127.7, 116.8, 78.82, 78.40, 77.99, 77.66, 77.45, 77.18, 77.00, 76.14, 43.79, 36.22, 35.95, 29.98, 28.19, 27.92, 27.71, 27.47, 27.09, 26.70, 26.31, 26.16, 26.04, 25.95, 25.27, 24.85, 22.34, 21.12
(h) 質量分析
MS (EI) m/z 548 (M , 0.35), 379 (2.11), 310 (6.27), 176 (35.62), 106 (32.53), 91 (100).
Anal. Found: C, 74.36; H, 9.13; N, 4.84. Calcd. For C3448: C, 74.42; H, 8.82; N, 5.10.
(i) 高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC)
【0068】
再結晶前の結晶、すなわち前記工程(1)で得られた生成物(0.708 g, const., 9.37%de (S))のクロマトグラムを図1に示す。
本工程における再結晶後の結晶 (94.5mg, 収率(y.) 14.7%, >99%de (R)) のクロマトグラムを図2に示す。
本工程における再結晶後の母液1の濃縮物(0.506g, 収率(y.) 79%, 28.4%de (S)) のクロマトグラムを図3に示す。
本工程における母液1濃縮物を再結晶させて得られた結晶 (67mg, 収率(y.) 10.4%, 97.85%de (R)) のクロマトグラムを図4に示す。
本工程における母液1を再結晶させた後の母液2の濃縮物(0.4343g, 収率(y.) 67.3%, 51.7%de (S)) のクロマトグラムを図5に示す。
【0069】
(3)光学分割剤を脱離させる工程
【化18】
Figure 2005008555
【0070】
10mLナス型フラスコに上記工程(2)で得られたN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド(82.8mg, 0.151mmol, 1eq)をジオキサン/水=8/1(1.50mL, 0.10M)の溶液にした。これにp−トルエンスルホン酸・HO(67.8mg, 0.356mmol, 2.36eq)を加え、還流冷却管を用いて加熱還流した。5.5時間後、TLC上で原料アセタールのスポットの消失を確認した後、溶媒を留去した。これを冷却したヘキサン (10mL)で洗浄した。そのまま、受け器のみを換え、水 (5mL)で洗浄した後、母液(へキサン溶液)と結晶を分離した。こうして得られた結晶はTLCによる比較から光学分割剤のN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド (25mg, 収率(y.) 50%)であることを確認した。
母液(へキサン溶液)はカラムクロマトグラフィー (SiO: 1.5g, ヘキサン/酢酸エチル=80/20)により単離し、精製した結果、天然型(R)−(−)−ムスコン(33.5mg, 収率(y.) 93%, [α] 25 −12.1°)を得た。
【0071】
得られた天然型ムスコンの分析結果は以下のとおりである。
(a) CAS登録番号 10403−00−6
(b) 分子量等
分子式: C1630O; M. W.: 238.41
(c) 液体クロマトグラフィー分析
=0.80 (ヘキサン/酢酸エチル=70/30)
(d) 比旋光度
[α] 25 −12.1° (c. 0.96, メタノール)
(e) ガスクロマトグラフィー分析
GC analysis (INJ.200℃, DET.T. 220℃, Initial temp.; 180℃,
Initial time; 20 min, PROG Rate; 1℃/min, Final temp.; 200℃,
Final time; 20 min)
クロマトグラムを図6に示す。
【0072】
〔実施例2〕(非天然型(S)−(+)−ムスコンの光学分割)
(1)ラセミ体ムスコンをジアステレオマー化する工程
【化19】
Figure 2005008555
【0073】
D−(−)−酒石酸を原料にした以外は参考例と同様の条件にて、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを合成した。
10mLナス型フラスコにN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミド(424mg, 1.29mmol, 0.83eq)を入れ、(±)ムスコン(372mg, 1.56mmol, 1eq)のアセトニトリル (3.1mL, 0.50M) 溶液にした。
これに、HC(OCH (0.170mL, 1.55mmol, 0.99eq)を加え、攪拌した。これにSc(OTf) (52.5mg, 0.107mmol, 0.07eq)を加え、80℃にて加熱還流した。TLC上で分割剤のスポットが消失したことを確認した後、これを、速やかに濃縮した。
この濃縮物をさらに冷却したヘキサン (20mL)で洗浄後、結晶を濾過した。
次いで、結晶を水 (45mL)で洗浄し、乾燥した結果、N,N−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサアミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物(0.694g, 収率(y.) 98%, 8.99%de (S))を得た。
母液 (ムスコンのへキサン溶液)は濃縮し、カラムクロマトグラフィー (SiO: 5.1g, ヘキサン/酢酸エチル=70/30)により単離、精製した結果、未反応ムスコン (86.5mg)を回収した。このことからN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドは89%反応したことになる。
【0074】
(2)ジアステレオマー混合物からN,N−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドを結晶化・分離する工程
次に上記工程(1)で得られたジアステレオマー混合物(0.694g, 収率(y.) 98%, 8.99%de (S))の再結晶を行った。
【化20】
Figure 2005008555
【0075】
温度を一定 (57℃)に保った水浴中で再結晶(メタノール; 15mL, 0.080M)を行った。17時間後の析出結晶を濾過し、得られた結晶を真空乾燥させた結果、N,N−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド(136mg, y.19%, >99%de (S))を得た。このとき、母液を濃縮し、乾燥するとアセタールジアステレオマー混合物(0.507g, 収率(y.) 72%, 66.5%de (R))を得た。
【0076】
得られたジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの分析結果は以下のとおりであった。
(a) CAS登録番号 不明
(b) 分子量等
分子式: C3448; M. W.: 548.76
融点 137〜138.2℃
(c) 液体クロマトグラフィー分析結果
=0.37 (ヘキサン/酢酸エチル=70/30)
(d) 高速液体クロマトグラフィー分析(HPLC)
再結晶前の結晶 すなわち工程(1)で得られた生成物(0.694g, 収率 (y.) 98%, 8.99%de (S))のクロマトグラムを図7に示す。
本工程における再結晶後の結晶 (0.136g, 収率(y.) 19%, >99%de (S)) のクロマトグラムを図8に示す。
本工程における再結晶後の母液 (0.507g, 収率(y.) 71.6%, 66.5% de (R))のクロマトグラムを図9に示す。
【0077】
(3)光学分割剤を脱離させる工程
【化21】
Figure 2005008555
【0078】
10mLナス型フラスコに上記工程(2)で得られたジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド(100mg, 0.183mmol, 1eq)をジオキサン/HO=8/1(1.9mL, 0.1M)の溶液にした。これに、p−トルエンスルホン酸・HO(87.6mg, 0.461mmol, 2.5eq)を加え、還流冷却管をつけ、80℃にて加熱還流した。3.5時間後、TLC上で原料アセタールのスポットの消失を確認した後、濃縮した。これを、冷却したヘキサン (15mL)で洗浄し、結晶を目皿で濾過し、得られた結晶 (0.123g)は少量の原料アセタールを含んだ分割剤N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドであった。
また、母液 (ムスコンのへキサン溶液)は濃縮後、カラムクロマトグラフィー(SiO; 1.2g, ヘキサン/酢酸エチル=95/5)にて単離、精製した結果、目的の非天然型ムスコンである(S)−(+)−ムスコン(36.5mg, 収率(y.) 84%)を得た。この非天然型ムスコンの比旋光度を測定した結果、[α] 25 +11.8° (c.0.85, メタノール)であった。
【0079】
得られた非天然型ムスコンの分析結果は以下のとおりである。
(a) CAS登録番号 63975−98−4
(b) 分子量等
分子式: C1630O; M. W.: 238.41
(c) 液体クロマトグラフィー分析
=0.80 (ヘキサン/酢酸エチル=70/30)
(d) 比旋光度
[α] 25 +11.8° (c. 0.85, メタノール)
(e) ガスクロマトグラフィー分析
GC analysis (INJ.200℃, DET.T. 220℃, Initial temp.; 180℃,
Initial time; 20 min, PROG Rate; 1℃/min, Final temp.; 200℃,
Final time; 20 min)
本実施例の原料に使用したラセミ体ムスコンのクロマトグラムを図10に、本実施例で得られた非天然型ムスコンのクロマトグラムを図11に示す。
【0080】
〔実施例3〕(触媒にp−トルエンスルホン酸一水和物を用いたラセミ体ムスコンのジアステレオマー化)
【化22】
Figure 2005008555
【0081】
窒素雰囲気下、10mLナス型フラスコにラセミ体(±)−ムスコン(108.4mg, 0.455mmol, 1eq)、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(117.1mg, 0.357mmol,
0.78eq)をアセトニトリル (0.850mL, 0.53M)の溶液にした。
これに、オルトギ酸トリメチル (0.050mL, 0.457mmol, 1eq)を加え、p−トルエンスルホン酸一水和物(p−TsOH・HO; 10.1mg, 0.0531mmol, 0.12eq)を加え、80℃にて加熱還流した。5時間後、反応溶液を減圧下で濃縮し、エーテル (6mL)にて希釈した。これを、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (2×4mL)で洗浄し、エーテル (2×5mL)で抽出した。飽和食塩水 (1×5mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。
吸引濾過後、溶媒を留去し、粗生成物 (0.325g)を得た。これをカラムクロマトグラフィー (SiO:10.0g, ヘキサン/酢酸エチル=90/10)にて精製した結果、白色固体のN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物(95.1mg, 収率(y.) 48.5%, 2.70%de (S))を得た。
得られた結晶を前記実施例1の第2工程と同様にしてジアステレオマー混合物からN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドを結晶化・分離した。
【0082】
〔実施例4〕(触媒にカンファー−10−スルホン酸を用いたラセミ体ムスコンのジアステレオマー化)
【化23】
Figure 2005008555
【0083】
窒素雰囲気下、10mLナス型フラスコにラセミ体(±)−ムスコン(98.4mg, 0.413mmol, 1eq)、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(114.1mg, 0.347mmol, 0.84eq)をアセトニトリル (0.850mL, 0.49M)の溶液にした。これにオルトギ酸トリメチル (0.050mL, 0.457mmol, 1.1eq)を加えた。最後に、カンファー−10−スルホン酸 (11.2mg, 0.0228mmol, 0.055eq)を加え、80℃にて加熱還流した。
【0084】
8時間後、室温まで冷却し、析出してきたアセタール化物、及び、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドをメタノール (5mL)で洗浄し、固体を目皿で濾過した。このときの母液を濃縮した結果、粗生成物 (0.207g)を得た。これをカラムクロマトグラフィー (SiO: 6.2g, ヘキサン/酢酸エチル=7/3)にて精製した結果、白色固体のジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物 (133.2mg, 収率(y.) 70.0%, 13.05%de (S))を得た。
【0085】
〔実施例5〕
ラセミ体ムスコンをジアステレオマー化するアセタール化反応に関し、種々の反応条件で検討を行った。結果を表1に示す。
【化24】
Figure 2005008555
【0086】
【表1】
Figure 2005008555
【0087】
酒石酸アミドによるムスコンのアセタール化においては、触媒としては、p−トルエンスルフォン酸、カンファースルフォン酸、Yb(OTf)も使用可能であることが明らかとなった。
【0088】
〔実施例6〕(ジオキサン溶媒中でのラセミ体ムスコンのジアステレオマー化)
【化25】
Figure 2005008555
【0089】
10mLナス型フラスコにラセミ体(±)−ムスコン(106.8mg, 0.448mmol, 1eq)とN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(112.1mg, 0.341mmol, 0.76eq)を1,4−ジオキサン (0.850mL, 0.53M)の溶液にした。
これに、オルトギ酸トリメチル (0.050mL, 0.457mmol, 1.0eq)を入れ、撹拌した。これに、Sc(OTf) (12.1mg, 0.0246mmol, 0.055eq)を加え、100℃にて加熱還流した。
3.5時間後、TLC上で原料ムスコンのスポットが消え、副生成物と思われるスポットが大きくなってきたので、ここで還流を止め、室温まで冷却した。これを、減圧下、濃縮し、エーテル (5mL)にて希釈した。未反応のN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを濾過し、母液を濃縮した結果、粗生成物 (0.3972g)を得た。
カラムクロマトグラフィー (SiO: 16g, ヘキサン/酢酸エチル=90/10)にて分離し、目的のN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物(111.2mg, 収率(y.)59.4%, 0.341%de (S))を得た。
【0090】
〔実施例7〕(脱水剤としてオルトギ酸トリエチルを用いたラセミ体ムスコンのジアステレオマー化)
【化26】
Figure 2005008555
【0091】
10mLナス型フラスコにラセミ体(±)−ムスコン (102.3mg, 0.429mmol, 1eq)とN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(111.8mg, 0.340mmol, 0.79eq)をアセトニトリル(0.850mL, 0.50M)の溶液にした。これに、オルトギ酸トリエチル (0.070mL, 0.422mmol, 0.98eq)を入れ、撹拌した。これに、Sc(OTf) (17.9mg, 0.0364mmol, 0.085eq)を加え、80℃にて加熱還流した。2.5時間後、反応を停止し室温まで冷却した。これを、減圧下、濃縮した。
得られた粗生成物 (0.2233g)をカラムクロマトグラフィー (SiO: 11.2 g, ヘキサン/酢酸エチル=70/30)にて分離した結果、目的のN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物(0.1495g, 収率(y.)80.0%, 1.04%de (S))を得た。
【0092】
〔実施例8〕(酸性触媒としてYb(OTf)を用いたラセミ体ムスコンのジアステレオマー化)
【化27】
Figure 2005008555
【0093】
10mLナス型フラスコにラセミ体(±)−ムスコン(196mg, 0.820mmol, 1eq)、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(231mg, 0.704mmol, 0.86eq)を入れ、アセトニトリル (1.70mL, 0.48M)の溶液にした。これにオルトギ酸トリメチル (0.090mL, 0.823mmol, 1.0eq)を入れ、攪拌した。イッテルビウムトリフルオロメタンスルホナート(Yb(OTf) )(33.3mg, 0.0537mmol, 0.065eq)をこれに加え、80℃にて加熱還流した。
17時間後、反応容器を室温まで冷却した。溶媒留去し、完全にアセトニトリルを除去した後、エーテル (5mL) で希釈した。既存の白色固体を目皿で濾過し、固体はエーテル (10mL) にて洗浄した。母液を濃縮し、粗生成物 (0.489g)を得た。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO: 15g, ヘキサン/酢酸エチル=100/0)より、分離した結果、目的のN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物(0.191g, 収率(y.)50%, 0.446%de (R))を得た。
【0094】
〔実施例9〕(酸性触媒としてSc(OTf)マイクロカプセルを用いたラセミ体ムスコンのジアステレオマー化)
【化28】
Figure 2005008555
【0095】
10mLナス型フラスコにラセミ体(±)−ムスコン(102mg, 0.427mmol, 1eq)、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(121mg, 0.369mmol, 0.86eq)を入れ、アセトニトリル (0.850mL, 0.50M)の溶液にした。これにオルトギ酸トリメチル (0.050mL, 0.457mmol, 1.1eq)を入れ、攪拌した。
和光純薬工業製のスカンジウムトリフルオロメタンスルホナート(Sc(OTf) )のマイクロカプセル (43.3mg (6.50mg (15wt%);), 0.0132mmol, 0.031eq)をこれに加え、50℃にて加熱還流した。
24時間後、反応容器を室温まで冷却した。結晶を含有した反応溶液を濾過し、結晶、及びマイクロカプセルをアセトニトリル (16mL)で洗浄した。母液について、溶媒留去後、完全にアセトニトリルを除去した。この粗結晶 (0.210g) を酢酸エチル (2mL) で加温溶解した。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO: 10.5g, ヘキサン/酢酸エチル=80/20)より、分離した結果、目的のN,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物(0.143g, 収率(y.)70%)を得た。このとき、Sc(OTf) マイクロカプセル 48.4mgを回収した。
【0096】
〔実施例10〕(エタノールを用いた再結晶化操作)
【化29】
Figure 2005008555
【0097】
(1) 実施例1と同様な方法で、ラセミ体(±)−ムスコンにN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを反応させて環状アセタールを形成させ、N,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物(222mg, 20.3%de (R))を得た。
これを50mLナス型フラスコに入れ、エタノール (2.5mL, 0.16M)を少しずつ加えてゆき、バス温65℃にて加温溶解した。24時間後析出した結晶を濾過し、結晶はエタノール (10mL)で洗浄した。こうして得られた結晶と母液を減圧下、濃縮し、乾燥した結果、N,N−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの結晶 (48.4mg, 収率(y.)22%, 92%de (R))と母液 (184mg, 78%, 35%de (S))を得た。
【0098】
(2) ラセミ体(±)−ムスコンにN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを反応させて環状アセタールを形成させ、N,N−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物を得た。
上記(1)と同様の条件にて、エタノールを用いて再結晶操作を行い、N,N−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの結晶と母液を得た。
【0099】
〔実施例11〕(テトラヒドロフラン/水混合溶媒中での加水分解反応)
【化30】
Figure 2005008555
【0100】
実施例1と同様な方法で、ラセミ体(±)−ムスコンにN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを反応させて環状アセタールを形成させ、N,N−ジベンジル(2R, 3R, 7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーすなわちジアステレオマー混合物を得た。
かかるジアステレオマー混合物から、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離した。
得られたジカルボキサミド(92.8mg, 0.169mmol, 1eq)を10mLナス型フラスコに入れ、テトラヒドロフランと水の混合溶媒〔THF/HO=8/1(1.82mL, 0.093M)〕の溶液にした。これに、p−トルエンスルホン酸・HO (32.3mg, 0.170mmol, 1eq)を加え、80〜95℃にて加熱還流した。30時間後、減圧下溶媒留去し、粗生成物 (0.131g)を得た。これをカラムクロマトグラフィー (SiO: 8.1g, ヘキサン/酢酸エチル=70/30, 酢酸エチル/メタノール=1/1)にて単離、精製した結果、(R)−(−)−ムスコン (33.6mg, y.84%)を得た。なお、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミド(48.1mg, 収率(y.)87%)を回収した。
【0101】
【発明の効果】
〔1〕ラセミ体ムスコンに、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを反応させジアステレオマー化して得られる(R)ムスコン−(L)酒石酸付加物は、同時に生成するそれのジアステレオマーである(S)ムスコン−(L)酒石酸付加物よりも溶媒、例えばメタノール又はエタノールに対する溶解性が低く結晶化し易いので濾過等によって簡便かつ効率的に分離することができので、ラセミ体ムスコンから天然型の(R)−(−)ムスコンを光学分割するに際して極めて有用である。
【0102】
一方、ラセミ体ムスコンに、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを反応させジアステレオマー化して得られる(S)ムスコン−(D)酒石酸付加物は、同時に生成されるそれのジアステレオマーである(R)ムスコン−(D)酒石酸付加物よりも溶媒、例えばメタノール又はエタノールに対する溶解性が低く結晶化し易いので濾過等によって簡便かつ効率的に分離することができ、ラセミ体ムスコンから非天然型の(S)−(+)ムスコンを光学分割するに際して極めて有用である。
【0103】
〔2〕本発明のラセミ体ムスコンの光学分割方法によれば、D−又はL−のN,N’−ジベンジル−酒石酸ジアミドを反応させて生成するジアステレオマー混合物において、一方のジアステレオマーと他方のジアステレオマーとは溶媒に対する溶解性に大きな差異があるので、一方を優先的に結晶化させて工業生産に適した分離手段である濾過や遠心分離等を適用することにより、結晶の分別が可能となる。また、結晶化操作も常温で可能であり、その際用いる溶媒も入手し易いものなので、少エネルギー型で経済性に優れる。
従って、従来用いられているクロマトグラフィーによる光学分割法に比べて非常に経済的で工業上有利な方法であり、極めて希少価値の高い(R)−(−)−ムスコン又は(S)−(+)−ムスコンを大量生産して安価かつ安定的に市場に供給することができる。
【0104】
〔3〕得られる結晶は濾過時の抵抗も少ないので濾過による分離操作を容易に行うことができる。従って、光学純度を高めるための再結晶操作も容易であり、再結晶を反復して行い、極めて高純度の(R)−(−)−ムスコン又は(S)−(+)−ムスコンを得ることができる。
また、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを用いて(R)−(−)−ムスコンを結晶化させ分離した残液には、当然(S)−(+)−ムスコンのジアステレオマー誘導体が多くを占めている。(S)−(+)−ムスコンのジアステレオマー誘導体が高濃度で含まれる母液の再ラセミ化反応(異性化)は簡単には進行しないため、この溶液はそのまま、別種の新規のムスコン誘導体として、香料業界等にて使用が可能となるという利点もある。
【0105】
さらに、(S)−(+)−ムスコンのジアステレオマー誘導体からN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを酸性条件下での加水分解で脱離させれば(S)−(+)−ムスコンを得ることができる。
なお、こうした利点は、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを用いてラセミ体ムスコンから(S)−(+)−ムスコンを分離した場合も同様である。
また、脱離後、回収された光学分割剤のD−又はL−のN,N’−ジベンジル−酒石酸ジアミドは、繰り返し再使用が可能であるのでこの点においても経済的である。
【0106】
〔4〕光学分割剤のD−又はL−のN,N’−ジベンジル−酒石酸ジアミドは、D−又はL−酒石酸ジベンジルエステルに較べて、アセタール化ムスコンの加水分解(第3工程)において極めて安定であり、ほとんど回収可能で再使用できる。また、酒石酸ジアミドが付加されたアセタール化ムスコンは、酒石酸ジベンジルエステルが付加されたアセタール化ムスコンに比較して結晶性が良いので光学分割剤として効率的である。
【0107】
〔5〕希少価値の高い天然型ムスコンを香料業界等に安価且つ安定的に供給することができれば、希少動物であるジャコウ鹿の保護にも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の工程(2)の再結晶前の結晶(すなわち工程(1)で得られた生成物;9.37%de (S))のHPLCクロマトグラムである。
【図2】実施例1の工程(2)における再結晶後の結晶(>99%de (R))のHPLCクロマトグラムである。
【図3】実施例1の工程(2)における再結晶後の母液1の濃縮物(28.4%de (S))のHPLCクロマトグラムである。
【図4】実施例1の工程(2)における母液1濃縮物の再結晶後の結晶(97.85%de (R))のHPLCクロマトグラムである。
【図5】実施例1の工程(2)における母液1濃縮物を再結晶させた後の母液2(51.7%de (S))のHPLCクロマトグラムである。
【図6】実施例1で得られた天然型ムスコンのガスクロマトグラフィークロマトグラムである。
【図7】実施例2の工程(2)の再結晶前の結晶(すなわち工程(1)で得られた生成物;8.99%de (S))のHPLCクロマトグラムである。
【図8】実施例2の工程(2)における再結晶後の結晶(>99%de (S))のHPLCクロマトグラムである。
【図9】実施例2の工程(2)における再結晶後の母液(66.5%de (R))のHPLCクロマトグラムである。
【図10】実施例2で使用した原料のラセミ体ムスコンのガスクロマトグラフィークロマトグラムである。
【図11】実施例2で得られた非天然型ムスコンのガスクロマトグラフィークロマトグラムである。

Claims (18)

  1. 下記式(I)で表されるN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド。
    Figure 2005008555
  2. 下記式(II)で表されるN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド。
    Figure 2005008555
  3. (R)−(−)体と(S)−(+)体とからなるラセミ体(±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとを、不活性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてアセタール結合を生成させることを特徴とする、N,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーの調製方法。
  4. (R)−(−)体と(S)−(+)体とからなるラセミ体(±)ムスコンと、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドとを、不活性溶媒中で、酸性触媒の存在下及び脱水条件下で反応させてアセタール結合を生成させることを特徴とする、N,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーの調製方法。
  5. 酸性触媒が、有機スルホン酸、又は希土類金属トリフルオロメタンスルホナートから選ばれる触媒であることを特徴とする請求項3又は4記載の調製方法。
  6. 有機スルホン酸が、カンファー−10−スルホン酸又はp−トルエンスルホン酸であることを特徴とする請求項5記載の調製方法。
  7. 希土類金属トリフルオロメタンスルホナートが、スカンジウムトリフルオロメタンスルホナート又はイッテルビウムトリフルオロメタンスルホナートであることを特徴とする請求項5記載の調製方法。
  8. 脱水条件が、脱水剤の使用であることを特徴とする請求項3又は4記載の調製方法。
  9. 脱水剤が、オルトギ酸トリアルキルであることを特徴とする請求項8記載の調製方法。
  10. オルトギ酸トリアルキルが、オルトギ酸トリメチル又はオルトギ酸トリエチルであることを特徴とする請求項9記載の調製方法。
  11. 不活性溶媒が、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドに対して溶解性のある溶媒であることを特徴とする請求項3又は4記載の調製方法。
  12. 不活性溶媒が、アセトニトリル又はジオキサンであることを特徴とする請求項3又は4記載の調製方法。
  13. 下記の第1工程及び第2工程から成ることを特徴とするN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの調製及び分離方法。
    〔第1工程〕 (±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとを、不活性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーを生成させる工程、
    〔第2工程〕 溶媒中で、第1工程で生成されたジアステレオマー混合物を、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの融点未満の温度条件に保持して当該ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離する工程。
  14. 下記の第1工程及び第2工程から成ることを特徴とするN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの調製及び分離方法。
    〔第1工程〕(±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドとを、疎水性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーを生成させる工程、
    〔第2工程〕 溶媒中で、第1工程で生成されたジアステレオマー混合物を、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの融点未満の温度条件に保持して当該ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離する工程。
  15. 下記の第1〜第3工程から成ることを特徴とする(±)−ムスコンラセミ体から(R)−(−)−ムスコンを光学分割する方法。
    〔第1工程〕 (±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドとを、不活性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーを生成させる工程、
    〔第2工程〕 溶媒中で、第1工程で生成されたジアステレオマー混合物を、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの融点未満の温度条件に保持して当該ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離する工程、
    〔第3工程〕 酸性条件下かつ含水溶媒中で、第2工程で分離したN,N’−ジベンジル(2R,3R,7R)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドからN,N’−ジベンジル−L−酒石酸ジアミドを脱離させて(R)−(−)−ムスコンを生成させる工程。
  16. 下記の第1〜第3工程から成ることを特徴とする(±)−ムスコンラセミ体から(S)−(+)−ムスコンを光学分割する方法。
    〔第1工程〕(±)−ムスコンと、N,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドとを、疎水性溶媒中で、酸性触媒の存在下かつ脱水条件下で反応させてN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミド及びそのジアステレオマーを生成させる工程、
    〔第2工程〕 溶媒中で、第1工程で生成されたジアステレオマー混合物を、それに含まれるN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドの融点未満の温度条件に保持して当該ジカルボキサミドを優先的に結晶化させて分離する工程、
    〔第3工程〕 酸性条件下かつ含水溶媒中で、第2工程で分離したN,N’−ジベンジル(2S,3S,7S)−7−メチル−1,4−ジオキサスピロ[4.14]ノナデカン−2,3−ジカルボキサミドからN,N’−ジベンジル−D−酒石酸ジアミドを脱離させて(S)−(+)−ムスコンを生成させる工程。
  17. 第2工程で使用する溶媒が、メタノール又はエタノールであることを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
  18. 第3工程における含水溶媒が、ジオキサンと水の混合溶媒、又はテトラヒドロフランと水の混合溶媒であることを特徴とする請求項16又は請求項17記載の方法。
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