JP2005003101A - 無段変速機の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】無段変速機における滑り開始時期および入力トルクに釣り合う限界挟圧力を精度良く検出する。
【解決手段】挟圧力に応じてトルク容量が設定され、かつそのトルク容量が入力トルクと釣り合う限界挟圧力を、検出された滑りの状態に基づいて設定する無段変速機の制御装置であって、前記滑りを検出する滑り検出手段(ステップS106)と、その滑り検出手段で滑りが検出される以前の実変速比と推定変速比とに基づいて前記滑りの開始時期を推定する滑り開始時期推定手段と、その滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期における前記挟圧力に基づいて前記限界挟圧力を求める挟圧力決定手段とを備えている。
【選択図】 図1
【解決手段】挟圧力に応じてトルク容量が設定され、かつそのトルク容量が入力トルクと釣り合う限界挟圧力を、検出された滑りの状態に基づいて設定する無段変速機の制御装置であって、前記滑りを検出する滑り検出手段(ステップS106)と、その滑り検出手段で滑りが検出される以前の実変速比と推定変速比とに基づいて前記滑りの開始時期を推定する滑り開始時期推定手段と、その滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期における前記挟圧力に基づいて前記限界挟圧力を求める挟圧力決定手段とを備えている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、挟圧力に応じてトルク容量の変化する無段変速機を対象とした制御装置に関し、特にその挟圧力を滑りの状態に応じて制御する制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベルト式無段変速機やトラクション式無段変速機は、ベルトとプーリーとの間の摩擦力や、ディスクとローラとの間のトラクションオイルのせん断力を利用してトルクを伝達している。したがってこれらの無段変速機のトルク容量は、そのトルクの伝達が生じる箇所に作用する圧力に応じて設定される。
【0003】
無段変速機における上記の圧力は挟圧力と称され、その挟圧力を高くすれば、トルク容量を増大させて滑りを回避できるが、その反面、高い圧力を生じさせるために動力を必要以上に消費したり、あるいは動力の伝達効率が低下するなどの不都合がある。そのため、一般的には、意図しない滑りが生じない範囲で、挟圧力を可及的に低く設定している。
【0004】
例えば、無段変速機を搭載した車両では、エンジンの回転数を無段変速機によって制御して燃費の向上を図ることができるので、その利点を損なわないために、無段変速機での動力伝達効率を可及的に向上させるべく、挟圧力を、滑りが生じない範囲で可及的に低く設定するように制御されている。そのためには、滑りの生じ始める圧力(すなわち滑り限界圧)を検出する必要があり、従来では、種々の方法で滑りを検出し、また滑り限界圧力を検出している。
【0005】
その一例を挙げると、特許文献1には、円錐円板対と巻き掛け伝動節とを有する変速機であって、その円錐円板対が巻き掛け伝動節を挟み付ける圧着力を変化させてスリップ限界を決定し、そのスリップ限界を超えないように圧着力を調整するように構成された変速機が記載されている。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−12593号公報(請求項1,2,6,7)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特許文献1に記載された変速機における圧着力は、その変速機のトルク容量を設定するためのものであるから、これを低下させると、変速機のトルク容量が入力トルクに対して相対的に低くなるので、滑り状態が変化する。具体的には円錐円板対と巻き掛け伝動節との間の滑り量が増大する。上記の特許文献1に記載された発明では、摩擦効率の増大を例えば油温の上昇によって検出し、その油温が上昇したことをもってスリップを検出している。
【0008】
油温などの温度の上昇は、滑りによって運動エネルギが熱エネルギに変換されて生じるが、その過程ではある程度の時間が経過し、さらに滑り以外の要因による油温の上昇と滑りによる油温の上昇とを判別できる程度に温度が高くなるまでには更に時間が掛かる。結局、滑りの検出時点と実際に滑りが開始した時点との間にはかなりの時間差が生じてしまう。
【0009】
一方、変速機における各種の回転数は適宜のセンサーで検出できるから、その検出した回転数に基づいて滑り量を求めることができる。そして、その滑り量が所定のしきい値を超えたことにより、滑りが発生したことを検出できる。しかしながら、上記の変速機における滑り量は、要は、円錐円板対と巻き掛け伝動節との相対速度の偏差であり、その偏差は、変速機における各種の回転ムラやトルク変動などが原因となって常時変化している。したがって滑りに起因しない上記の偏差に基づく滑りの誤検出を避けるために、上記のしきい値をある程度大きい値に設定せざるを得ない。そのため、変速機に実際に滑りが生じた時点に対して、滑りの検出がおこなわれる時点までに、不可避的な時間の遅れが生じる。
【0010】
したがって滑りが検出された時点では、実際の滑りがある程度増大しており、また圧着力は、入力トルクに釣り合う圧力よりもある程度相対的に低くなっている。そこで、実際の滑りの開始時点あるいは実際の滑りに釣り合う圧着力を求めるために、上記のしきい値に基づく滑り検出時点よりも前の時点を滑り開始時点とし、またその滑り開始時点の圧着力を検出することが考えられる。しかしながら、滑りの状態あるいは滑りを示すものとして検出されるデータ(物理量)は、上述したように変動しているから、しきい値に基づく滑りの検出時点から一定時間前の時点を、実際の滑りの開始時点とすることができないのであり、上記の特許文献1には、滑りが実際に開始した時点を求める手段が示されていない。また、スリップ限界として決定された圧着力の制御の仕方が示されていない。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、無段変速機における滑りの開始時期を正確に推定でき、またその滑り開始時期に基づく挟圧力の制御をおこなうことのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、滑りに関連する物理量を、滑り検出時点から過去に遡って評価することにより、滑りが実際に開始した時点を推定するように構成したことを特徴とするものである。すなわち、請求項1の発明は、挟圧力に応じてトルク容量が設定され、かつそのトルク容量が入力トルクと釣り合う限界挟圧力を、検出された滑りの状態に基づいて設定する無段変速機の制御装置において、前記滑りを検出する滑り検出手段と、その滑り検出手段で滑りが検出される以前の実変速比と推定変速比とに基づいて前記滑りの開始時期を推定する滑り開始時期推定手段と、その滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期における前記挟圧力に基づいて前記限界挟圧力を求める挟圧力決定手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0013】
したがって請求項1の発明では、先ず、滑りが検出される。これは、例えば適宜の実測値もしくはその実測値に基づく演算値としきい値との比較によっておこなうことができる。その検出時点より以前の実変速比と推定変速比とに基づいて滑りの開始時期が推定される。なお、実変速比とは、無段変速機における所定の回転数に基づいて演算される変速比であり、また推定変速比とは、所定の時点の実際の変速比や回転数等の実際値と変化率などとを用いて推定することにより得られる滑りが生じていないとした場合の変速比である。そして、その滑り開始時期における挟圧力に基づいて、入力トルクに釣り合う限界挟圧力が求められる。その結果、滑りが開始した時期が正確に推定され、それに伴って正確に限界挟圧力が求められる。
【0014】
また、請求項2の発明は、請求項1における前記滑り開始時期推定手段が、前記実変速比と推定変速比との偏差を前記滑り検出手段が前記滑りを検出した時点より順次過去に遡って判定することにより、その偏差の変動が収束しかつその偏差が最小の値となる時点を前記滑りの開始時期と推定するように構成されていることを特徴とする制御装置である。
【0015】
したがって請求項2の発明では、滑りが検出された時点から順次過去に遡って、実変速比と推定変速比との偏差が求められる。そして、その偏差の変動が、過去に遡るに従って収束し、かつ最小となった時点が滑り開始時点として推定される。すなわち、実変速比に変動が生じており、それに伴って前記偏差が変動していても、滑りの開始時期が正確に推定される。
【0016】
さらに、請求項3の発明は、挟圧力に応じてトルク容量が設定され、かつそのトルク容量が入力トルクと釣り合う限界挟圧力を、検出された滑りの状態に基づいて設定する無段変速機の制御装置において、前記滑りを検出する滑り検出手段と、実変速比のフィルタ処理値を前記滑り検出手段で滑りが検出された時点より順次過去に遡って判定することにより、そのフィルタ処理値が所定値以下となる時点を滑り開始時期と推定する滑り開始時期推定手段と、その滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期における前記挟圧力に基づいて前記限界挟圧力を求める挟圧力決定手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0017】
したがって請求項3の発明では、先ず、滑りが検出される。これは、例えば適宜の実測値もしくはその実測値に基づく演算値としきい値との比較によっておこなうことができる。その検出時点より以前の実変速比のフィルタ処理値が求められるとともに過去に遡って判定され、そのフィルタ処理値が所定値以下となる時点、より正確には滑り検出時点から順次過去に遡った場合に最初に所定値以下となる時点が滑り開始時期として推定される。そして、その滑り開始時期における挟圧力に基づいて、入力トルクに釣り合う限界挟圧力が求められる。その結果、実変速比に含まれる滑り以外の要因による変動が除去されるから、実変速比の検出値に変動があっても、滑りが開始した時期が正確に推定され、それに伴って正確に限界挟圧力が求められる。
【0018】
そして、請求項4の発明は、トルク容量を設定する挟圧力を低下させることに伴う滑り状態に基づいて、前記トルク容量が入力トルクに釣り合う限界挟圧力を設定する無段変速機の制御装置において、前記挟圧力の低下に基づく滑りを検出する滑り検出手段と、その滑りが実際に発生した時点を推定する滑り開始時期推定手段と、前記滑り検出手段が前記滑りを検出した時点と前記滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期との時間間隔に基づいて、前記低下させた挟圧力を増大させる制御内容を変更する挟圧力制御手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0019】
したがって請求項4の発明では、トルク容量を設定する挟圧力を次第に低下させて滑り状態を変化させ、その滑り状態に基づいて、入力トルクに釣り合うトルク容量を設定する限界挟圧力を求めるにあたり、先ず、滑りが検出される。これは、例えば適宜の実測値もしくはその実測値に基づく演算値としきい値との比較によっておこなうことができる。また、その検出時点より以前の滑りが開始した時期が推定される。その推定は、実変速比と推定変速比との偏差に基づいておこなうことができ、また実変速比のフィルタ処理値に基づいておこなうことができる。そして、これらの滑りの検出時点と推定された滑り開始時期との時間差に基づいて、低下させた挟圧力の増大制御の制御内容が変更され、もしくは設定される。その結果、挟圧力を低下させることにより生じた滑りを収束させるのに適した挟圧力の増大制御が実行され、滑りが速やかに収束される。
【0020】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機を含む駆動機構について説明すると、この発明は、車両に搭載される無段変速機を対象とすることができ、その無段変速機は、ベルトをトルク伝達部材としたベルト式の無段変速機や、パワーローラをトルク伝達部材とするとともにオイル(トラクション油)のせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(トラクション式)無段変速機である。図10には、ベルト式無段変速機1を含む車両用駆動機構の一例を模式的に示しており、この無段変速機1は、前後進切換機構2およびトルクコンバータ3を介して、動力源4に連結されている。
【0021】
その動力源4は、一般の車両に搭載されている動力源と同様のものであって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関や、電動機、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせた機構などを採用することができる。なお、以下の説明では、動力源4をエンジン4と記す。
【0022】
エンジン4の出力軸に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン4の出力軸が連結されたフロントカバー5にポンプインペラー6が一体化されており、そのポンプインペラー6に対向するタービンランナー7が、フロントカバー5の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー6とタービンランナー7とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー6が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー7に送ることによりタービンランナー7にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0023】
また、ポンプインペラー6とタービンランナー7との間でこれらの内周側の位置には、タービンランナー7から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラー6に流入させるステータ8が配置されている。このステータ8は、一方向クラッチ9を介して所定の固定部10に連結されている。
【0024】
このトルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ11を備えている。ロックアップクラッチ11は、ポンプインペラー6とタービンランナー7とステータ8とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー5の内面に対向した状態で前記タービンランナー7に保持されており、油圧によってフロントカバー5の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー5から出力部材であるタービンランナー7に直接、トルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ11のトルク容量を制御できる。
【0025】
前後進切換機構2は、エンジン4の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図10に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
【0026】
すなわち、サンギヤ12と同心円上にリングギヤ13が配置され、これらのサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛合したピニオンギヤ14とそのピニオンギヤ14およびリングギヤ13に噛合した他のピニオンギヤ15とが配置され、これらのピニオンギヤ14,15がキャリヤ16によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ12とキャリヤ16と)を一体的に連結する前進用クラッチ17が設けられ、またリングギヤ13を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ18が設けられている。
【0027】
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリー19と従動プーリー20とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ21,22によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリー19,20の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリー19,20に巻掛けたベルト23の巻掛け半径(プーリー19,20の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリー19が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ16に連結されている。これらの各プーリー19,20およびベルト23が無段変速部を構成している。
【0028】
なお、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリー20における各シーブがベルト23を挟み付けることにより、ベルト23に張力が付与され、各プーリー19,20とベルト15との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリー19における油圧アクチュエータ21には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0029】
無段変速機1の出力部材である従動プーリー20がギヤ対24およびディファレンシャル25に連結され、さらにそのディファレンシャル25が左右の駆動輪26に連結されている。
【0030】
上記の無段変速機1およびエンジン4を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、エンジン4の出力軸回転速度(ロックアップクラッチ11の入力軸回転速度)Ne を検出して信号を出力するエンジン回転速度センサー27、タービンランナー7の回転速度を検出して信号を出力するタービン回転速度センサー28、駆動プーリー19の回転速度Ninを検出して信号を出力する入力軸回転速度センサー29、従動プーリー20の回転速度Nout を検出して信号を出力する出力軸回転速度センサー30などが設けられている。
【0031】
上記の前進用クラッチ17および後進用ブレーキ18の係合・解放の制御、および前記ベルト23の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ11の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)31が設けられている。この電子制御装置31は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。また、エンジン4を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)32が設けられ、これらの電子制御装置31,32の間で相互にデータを通信するようになっている。
【0032】
前述したように無段変速機における挟圧力は、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い圧力であることが好ましい。そこで上記の無段変速機1を対象とするこの発明の制御装置は、前記従動プーリー20側のアクチュエータ22に供給する油圧に基づく挟圧力を低下させ、その結果生じた滑りを検出し、その滑り検出時点より前の滑り開始時点を推定し、その時点の挟圧力を滑り限界圧(すなわち入力トルクに釣り合う限界挟圧力)とて求めるように構成されている。その制御の具体例を以下に説明する。
【0033】
図1および図2はその一例を示すフローチャートであり、また図3はそのフロチャートに示す制御を実施した場合のタイムチャートである。図1において、先ず、フラグF1 が“1”か否かが判断される(ステップS101)。このフラグF1 は、無段変速機1での滑り、すなわちベルト23といずれかのプーリー19,20と間に滑りが生じていることが検出され、それに伴って限界挟圧力が検出される場合に“1”にセットされるいわゆる限界挟圧力検出フラグであり、当初“0”にセットされている。したがって制御の開始当初は、ステップS101で否定的に判断され、その場合、制御の開始条件が成立しているか否かが判断される(ステップS102)。
【0034】
ここで説明している具体例は、無段変速機1の挟圧力を低下させ、その際の滑りを検出するとともに、その検出結果に基づいて限界挟圧力を設定する例であり、したがって無段変速機1に作用するトルクが安定している必要がある。ステップS102はそのようなトルクの安定状態を判断するためのものであり、具体的には、スロットル開度の変化幅が所定範囲以内であり、かつ車速が中高速状態にほぼ一定しているいわゆる定常走行状態あるいは準定常走行状態か否かが、制御に開始条件とされる。また、油圧制御が正常に実行でき、またエンジン4が正常に動作しているなどの条件が開始条件とされており、したがってエンジン水温が所定値以上、無段変速機1の油温が所定値以上、バッテリ電圧が所定値以上などが成立しているか否かが判断される。さらに、その時点の入力トルク領域についての限界挟圧力が得られていないことも開始条件とされる。
【0035】
このステップS102で否定的に判断された場合には、特に制御をおこなうことなくこのルーチンを一旦終了する。すなわちリターンする。これとは反対にステップS102で肯定的に判断された場合にはステップS103に進んで、エンジン回転数Ne 、無段変速機1の入力回転数Nin、および出力回転数Nout が、前述した各センサー27,28,29によって計測される。またその時点における従動プーリー20側の油圧アクチュエータ22の実油圧Pdactが計測される。これは、その油圧アクチュエータ22に連通する油圧回路の所定箇所にセンサー(図示せず)を接続しておくことにより計測することができる。
【0036】
ついで、その計測された入力回転数Ninと出力回転数Nout とからその時点の実変速比γ(i) および推定変速比γpre(i)が算出される(ステップS104)。その推定変速比γpre(i)は必要に応じて種々の演算によって求めることができ、例えばその時点より前の所定の時間間隔の間における実変速比の変化量の平均を求め、その時点の直前の時点における変速比と、変速比変化量の平均値とに基づいて推定変速比γpre(i)を求めることができる。したがって推定変速比γpre(i)は滑りが生じていないとした場合の変速比に相当する。
【0037】
そして、油圧(挟圧力)が次第に低下させられる(ステップS105)。具体的には、油圧の低下勾配ΔPdswpを予め設定しておき、直前の時点(i−1)における油圧指令値Pdtgt(i−1) から低下勾配ΔPdswpの値を減算して現在時点の油圧指令値Pdtgt(i) が求められる。すなわち図1および図2に示すルーチンを繰り返し実行する時間間隔Tsp毎に、油圧指令値が上記の低下勾配ΔPdswpずつ低下させられ、実油圧がその指令値に追従するように次第に低下する。なおここで、油圧指令値あるいは実油圧は、上述した従動プーリー20側の油圧アクチュエータ22の油圧について指令値であり、またその計測された実際の油圧である。
【0038】
挟圧力が低下すると、無段変速機1でのトルク容量が低下し、そのトルク容量が入力トルク以下となれば、無段変速機1での滑りの状態が変化する。すなわち滑り量が増大する。そこで、そのような滑り状態の変化(具体的には滑り量の増大)が検出される(ステップS106)。これは、例えば前述した実変速比γ(i) と推定変速比γpre(i)との偏差が予め定めたしきい値を超えたことによって検出することができる。
【0039】
油圧が低下の程度が小さい状態では、無段変速機1のトルク容量が入力トルクに対して相対的に大きいから、ベルト滑りが発生することがなく、その状態ではステップS106で否定的に判断される。その場合、その時間の変速比γ(i) 、推定変速比γpre(i)、実油圧(実挟圧力)Pdact(i) 、油圧指令値Pdtgt(i) が保存される(ステップS108)。その後、リターンする。これに対して挟圧力の低下が進行すると、ベルト滑りが発生し、ステップS106で肯定的に判断される。これは、図3のタイムチャートではT1 時点として示されている。この場合は、フラグF1 が“1”にセットされる(ステップS107)。その後、滑りの開始時期が推定され、また滑りに対応した制御が実行される。
【0040】
図2は滑り開始時期を推定するためのルーチンを示すフローチャートであって、先ず、実変速比γ(i) と推定変速比γpre(i)との偏差(以下、仮に変速比偏差と記す)の仮データD(b) と、時期を示す指標iと、フラグjとがそれぞれゼロリセットされる(ステップS301)。ついで、滑り検出時点T1 から過去に遡る所定の時間間隔Tpreslpを、図1および図2に示すルーチンを繰り返し実行する時間間隔(すなわちサイクルタイム)Tspで除して得られる商と、そのサイクルタイムを“1”として滑り検出時点T1 から過去に遡る繰り返しの積算数iとが比較される(ステップS302)。すなわち、その積算数iが、前記商に負の符号を付した値以下か否かが判断される。なお、前記所定の時間間隔Tpreslpは、実際に滑りが開始した時点から滑りが検出されるまでの時間より充分長い時間として設定されている。
【0041】
その積算数iは、ステップS301でゼロリセットされていて、図2のルーチンが繰り返される毎に“1”ずつ積算されるから、当初はステップS302で否定的に判断される。その場合は、現在時点における変速比偏差が算出され、これが仮データD(a) とされる(ステップS303)。最初の仮データD(a) は、時間指標iがゼロであるから、滑り検出時点T1 における変速比偏差となる。
【0042】
ついで、その時点の実際の挟圧力Pdact(i) が挟圧力保存データPdact(a) とされ、かつその時点を示す時間指標iが時間保存データTspreとされる(ステップS304)。その後、フラグjがゼロか否かが判断される(ステップS305)。このステップS305は、ステップS302以降の制御が開始された直後か否か、言い換えれば最初のデータの算出もしくは保存であるか否かを判断するためのものである。したがって制御開始当初はフラグjがゼロであるから、ステップS305で肯定的に判断され、その場合は、ステップS306を飛ばしてステップS307に進み、変速比偏差仮データD(a) が他の仮データD(b) とされ、かつ挟圧力保存データPdact(a) が他の保存データPdact(b) とされ、また時間保存データTspreが他の時間保存データTS とされ、そしてフラグjが“1”にセットされる。このステップS307は、既に求められている変速比偏差の最小値、その時の挟圧力、時間を一次的に格納するためのものであり、したがってこれに続くステップS308でこれらのデータD(b) ,Pdact(b) ,TS が記憶される。
【0043】
その後、時間指標iから“1”を減算して(ステップS309)、前述したステップS302に戻る。すなわちルーチンのサイクルタイムTspだけ過去に遡り、その遡った時点における変速比偏差、挟圧力、時間が求められる。具体的に説明すると、滑り検出時点T1 から遡る時間が短い時点では、ステップS302で否定的に判断され、その結果、その遡った時点の変速比偏差が仮データD(a) とされ(ステップS303)、またその遡った時点の挟圧力が保存データPdact(a) とされ、その時点の時間が時間保存データTspreとされる(ステップS304)。
【0044】
これらのデータの算出が二回目以降であれば、フラグjが既に“1”にセットされていることにより、ステップS305で否定的に判断される。その場合、新たな変速比偏差仮データD(a) と既に記憶されている変速比偏差仮データD(b) とが比較され、前者の仮データD(a) が後者の仮データD(b) より小さいか否かが判断される(ステップS306)。滑り検出時点T1 の直前の時点では、実変速比γが増大して変速比偏差が増大したために所定のしきい値を超えて滑り検出されたのであるから、このステップS306では肯定的に判断される。直前の変速比偏差の方が小さいからである。しかしながら、実変速比γはステックスリップや他の要因による回転変動、あるいは電気的な外乱信号などによって大小に変動(もしくは脈動)しているから、変速比偏差も大小に変動(もしくは脈動)している。そのため、記憶されている仮データD(b) が極小値であれば、その直前の変速比偏差仮データD(a) の方が大きくなる場合がある。
【0045】
滑り検出時点T1 から遡る時間が短い間では、変速比偏差が滑り検出時点T1 に向けて増大しているから、ステップS306では肯定的に判断される。その場合、上述したステップS307ないしステップS309が繰り返し実行される。すなわち、変速比偏差仮データD(b) が新たな小さい値に更新され、それに対応する挟圧力保存データPdact(b) に更新され、さらに時間保存データTS が更新され、そしてフラグjが“1”にセットされ、これらが記憶される。その後、時間指標iが過去に向けて“1”だけ戻される。
【0046】
すなわち、このようにして過去に順次遡る間において、それぞれの時点に対する直前の時点における変速比偏差の方が小さい場合には、記憶されるデータが逐一更新される。言い換えれば、より小さい値の変速比偏差が繰り返し求められる。
【0047】
変速比偏差の極小値すなわち実変速比γの極小値にまで時間が遡って達すると、その直前の時点における変速比偏差が相対的に大きく、変速比偏差は過去に向けて増大している。これは、図3にB1 で示す極小値に対するその直前の値S1 の関係である。したがってこの場合は、ステップS306で否定的に判断される。その場合、新たに求められた変速比偏差仮データD(a) が既に得られている値のうちで最も小さい極小値である変速比偏差仮データD(b) より所定値αを超えて大きいか否かが判断される(ステップS310)。
【0048】
このステップS310で肯定的に判断された場合には、既に記憶されている変速比偏差仮データD(b) が極小値であることが明確になるので、その極小値D(b) が第三の変速比偏差仮データD(c) とされ、かつその極小値D(b) に対応する挟圧力保存データPdact(b) が第三の挟圧力保存データPdact(c) とされ、かつそれに対応して記憶してある時間保存データTS が他の時間保存データTS1とされる(ステップS311)。そして、これらの新たに書き換えられた各保存データD(c) ,Pdact(c) ,TS1がそれぞれ記憶され(ステップS312)、その後、ステップS309に進んで時間指標iが一サイクル分過去に戻される。
【0049】
なお、ステップS310で否定的に判断された場合、すなわち既に記憶されている変速比偏差仮データD(b) が極小値であることの判断が成立しない場合には、直ちにステップS309に進んで、時間指標iを一サイクル分過去に戻し、かつ従前のルーチンを繰り返す。
【0050】
このように、上記のステップS302からステップS312までの各ステップを、過去に遡りつつ順次繰り返し実行することにより、既に記憶されている変速比偏差仮データD(b) より小さい変速比偏差が求められると、記憶されている変速比偏差仮データD(b) がその値によって置き換えられ、かつこれが極小値であれば、第三の変速比偏差仮データD(c) をその値によって更新することになる。これを図3にB2 およびB3 の符号によって示してある。なお、図3におけるS2 およびS3 の各点は、上記のB2 およびB3 の各点に対する過去の時点であって、変速比偏差がB2 およびB3 の各点での値より所定値αを超えて大きい時点を示す。
【0051】
図3に示すように、S3 時点より左側すなわち過去の時点においても実変速比γが変動(脈動)していて変速比偏差が、時間的に前後の各時点よりも小さくなる点が現れるが、変速比偏差の変化幅が上記の所定値αを超えないために、図3におけるS3 時点より過去の変速比偏差は、その値が小さくても第三の変速比偏差仮データD(c) とされることはない。すなわち、上記の所定値αは、変速比偏差もしくは実変速比γの変動(脈動)の有無を判断するしきい値となっており、したがって上記のステップS310で否定的に判断された場合には、変速比偏差もしくは実変速比γが変動(脈動)していないと判断されたことになる。そのため、第三の変速比偏差仮データD(c) などのステップS311で記憶される値は、ベルト滑りが検出された時点T1 から過去に順に遡った場合における変速比偏差もしくは実変速比γの変動(脈動)が収束する間における最小値およびそれに関連する値となる。
【0052】
そして、ステップS302からステップS312までの各ステップの切り返し回数が、滑り検出時点T1 から過去に遡る所定の時間間隔Tpreslpを前記サイクルタイムTspで除した回数になると(T3 時点に達すると)、ステップS302で肯定的に判断される。このステップS302で肯定的に判断された場合には、前記所定の時間間隔Tpreslpの間のデータの全てについて検討したことになるので、その間に記憶されている最小値である第三の変速比偏差仮データD(c) に対応する第三の挟圧力保存データPdact(c) が、入力トルクに釣り合う限界挟圧力とされ、またその時点T2 を示す時間に関する記憶値TS1が、滑り開始時点(すなわち滑り検出時点T1 から滑り開始時点までの時間間隔)Tpredetとして設定される(ステップS313)。
【0053】
上記の変速比偏差は、実変速比γと推定変速比γpre(i)との差であるから、滑り開始時期は、結局、実変速比γと推定変速比γpre(i)とに基づいて推定されることになり、その滑り開始時点Tpredetにおける挟圧力が限界挟圧力として求められる。
【0054】
上述のようにして挟圧力を低下させることによる無段変速機1での滑りが検出され、かつその滑りの開始時点(滑りの開始から検出までの遅れ時間もしくは時間間隔)Tpredetが求められると、挟圧力をそれ以上に低下させる必要がないのみならず、滑りを収束させる必要があるので、挟圧力の増大制御が実行される。その場合、先ず、挟圧力の増大を開始するまでの時間(あるいは遅れ時間)Tdeley が、上記の滑り開始時点Tpredetとエンジン回転数Ne(i)とに基づいて求められる(ステップS110)。この遅れ時間Tdeley は、挟圧力がベルト滑り開始時点の挟圧力に復帰するタイミングと、後述する入力トルク(エンジントルク)を低下させた後に復帰するタイミングとを同期させるための時間であり、予め定めた関数f1 によって演算することができ、また予め定めたマップから求めることができる。
【0055】
図1に示すように、この遅れ時間Tdeley を求めた後にベルト滑りが収束したか否かが判断される(ステップS111)。この判断は、前述した変速比偏差が所定値以内に低下したか否かによっておこなうことができる。このステップS111で否定的に判断された場合、すなわちベルト滑りが継続している場合には、エンジン(E/G)トルクダウン制御が実行される(ステップS112)。この制御は、要は、無段変速機1に対する入力トルクを低下させる制御であり、ガソリンエンジンにおいてはその点火時期を遅角させることによりおこなうことができ、また内燃機関とモータ・ジェネレータとを備えたハイブリッド車ではそのモータ・ジェネレータを制御すればよい。そして、その制御は、前述した変速比偏差に基づいてトルクを低下させることによりおこなうことができる。エンジントルク低下のための点火時期の遅角指令値を図4のタイムチャートにΔCA で示してある。
【0056】
ついで、トルクダウンの開始からの経過時間が、ステップS110で求められた遅れ時間Tdeley に達したか否かが判断される(ステップS113)。具体的には、エンジントルクダウン制御開始後における上記ルーチンの繰り返し回数を計数するカウンターCのカウント値が、上記の遅れ時間Tdeley を前記サイクルタイムTspで割った値以上になったか否かが判断される。このステップS113で否定的に判断された場合には、カウンターCをインクリメントし(ステップS118)、一旦このルーチンを終了する。なお、滑りが収束していてステップS111で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS113に進む。滑りを収束させるためのエンジントルクダウンをおこなう必要がないからである。また、ステップS118でカウンターCをインクリメントしてリターンした場合、前記フラグF1 が“1”にセットされていることにより、直ちにステップS110に進み、上述した各制御を継続しておこなう。
【0057】
ベルト滑りの検出後、滑りが生じている場合には、図4のタイムチャートに示すように、挟圧力の指令値Pdtgtは従前の値に維持され、エンジントルクの低下制御が実行される。そして、時間が経過することによりステップS113で肯定的に判断され、その場合には、挟圧力を設定する油圧のアップ制御が実行される(ステップS114)。これは、一例として、油圧指令値Pdtgtを予め定めた値Pdup だけ増大させることにより実行される。
【0058】
このように挟圧力を滑り検出時の圧力に維持した状態で、無段変速機1の入力トルクを低下させるためのエンジントルクの低減制御が実行されるので、無段変速機1の滑りが次第に収束に向けて変化する。したがってステップS114に続けて、再度、ベルト滑りが生じたか否かが判断される(ステップS115)。
【0059】
挟圧力を増大させる指令を出力し、またエンジントルクダウン制御を実行している過程で変速比偏差が予め定めた所定値Δγend 以下となると、低下させたエンジントルク(無段変速機1の入力トルク)を戻す復帰制御が実行され、エンジントルク(無段変速機1の入力トルク)が次第に復帰する。また、上記の遅れ時間を経過した時点で挟圧力の指令値が増大させられているので、挟圧力が次第に上昇する。その状態を図4に示してある。
【0060】
その結果、変速比偏差がほぼゼロになって滑りが収束する滑り終了時点に、挟圧力Pdactが滑り開始時の圧力(すなわち限界挟圧力)に復帰し、同時にエンジントルクの復帰が完了する。その結果、無段変速機1の滑りが再度発生することがなく、あるいは出力軸トルクの急激な変化やそれに伴うショックなどが生じることがない。このようにして滑りが収束するとステップS115で肯定的に判断され、フラグF1 およびカウンターCがゼロリセットされる(ステップS116,S117)。
【0061】
上述した図1および図2に示す制御を実行するように構成したこの発明の制御装置によれば、無段変速機1における滑りが検出された場合、その時点よりも過去の時点の変速比偏差に基づいて滑りの開始時点を推定し、その推定された滑り開始時点における挟圧力を、入力トルクの釣り合う限界挟圧力とするので、限界挟圧力を正確に求めることができる。特にこの発明の制御装置は、上記の具体例で示したように、変速比偏差の変動が収束した状態での最小値を、滑り検出時点から過去に順次遡って求め、その最小値の時点を滑り開始時点とするとともに、その時点の挟圧力を限界挟圧力とするので、限界挟圧力を精度良く求めることができる。そして、その限界挟圧力は、その後の定常走行状態もしくは準定常走行状態における挟圧力に反映させることができるので、定常走行状態もしくは準定常走行状態における挟圧力を可及的に低下させて、車両の燃費や無段変速機1の耐久性を向上させることができる。
【0062】
ところで、上述した具体例では、滑り開始時点を、変速比偏差の変動が過去に遡って収束し、かつその変速比偏差が最小値となる時点としたが、この発明では、実変速比γのフィルタ処理値を利用して滑り開始時期を推定するように構成することもできる。その例を図5および図6に示してある。
【0063】
図5は、前述した図2に示すフローチャートに置き換わる部分的なフローチャートであって、図1におけるステップS107の後に、実変速比γのバンドパス積算値仮データE(b) および時間指標iならびにフラグjがゼロリセット(初期化)される(ステップS401)。このフラグjは、滑りの開始時期の推定が完了した場合に“1”にセットされるフラグである。
【0064】
ついで、そのフラグjが“0”か否かが判断される(ステップS402)。制御の開始当初はこのステップS402で否定的に判断されるので、滑り検出時点T1 から所定時間Tpreslp遡った時点までの間におけるデータについての判定が終了したか否かが判断される(ステップS403)。すなわち、滑り検出時点T1 から過去に遡る所定の時間間隔Tpreslpを、ルーチンを繰り返し実行する時間間隔(すなわちサイクルタイム)Tspで除して得られる商と、そのサイクルタイムを“1”として滑り検出時点T1 から過去に遡る繰り返しの積算数iとが比較される。これは、前述した図2のステップS302と同様の判断ステップである。
【0065】
このステップS403で否定的に判断された場合には、その時点における実変速比γのバンドパス積算値Fbps(i)がバンドパス積算値仮データE(a) とされる(ステップS404)。また、その時点の実際の挟圧力Pdact(i) が挟圧力保存データPdact(a) とされ、かつその時点を示す時間指標iが時間保存データTspreとされる(ステップS404)。これは、図2に示すステップS304と同様の処理である。
【0066】
実変速比γのバンドパス積算値Fbps は、変速による変化成分や外乱信号などによる変化成分などを除去した値を積算したものであり、主としてベルト滑りに起因する変化成分を積算したものである。したがってその値はベルト滑りが生じることにより急激に増大し始めるから、その変化の生じる時点を推定するために、前記バンドパス積算値仮データE(a) が予め定めたしきい値Tbps より小さいか否かが判断される(ステップS406)。
【0067】
図1を参照して説明したように、滑りが生じたことの判定は、滑りがある程度進行した状態で成立するので、滑り検出時点T1 でのバンドパス積算値Fbps はある程度大きい値となっている。したがってその時点を僅か遡った時点では、バンドパス積算値仮データE(a) が相対的に大きい値となっているから、ステップS406で否定的に判断される。その場合、過去に遡ってバンドパス積算値Fbps を求め、その判定をおこなうために、時間指標iを“1”だけ減じて、1サイクルタイム分過去に戻る(ステップS409)。そして、ステップS402以降の制御を再度実行する。
【0068】
実変速比γのバンドパス積算値Fbps は、過去に遡るほど小さくなるから、図5のルーチンを複数回繰り返した場合に、過去の所定時点におけるバンドパス積算値Fbps およびその仮データE(a) が前記しきい値Tbps より小さくなり、その結果、ステップS406で肯定的に判断される。これは、図6のタイムチャートにおけるT2 時点であり、この時点を滑り開始時点と推定する。
【0069】
その場合は、バンドパス積算値仮データE(a) が他の仮データE(b) とされ、かつ挟圧力保存データPdact(a) が他の保存データPdact(b) とされ、また時間保存データTspreが他の時間保存データTS とされ、そしてフラグjが“1”にセットされる(ステップS407)。このステップS407は、しきい値Tbps を下回るバンドパス積算値、その時の挟圧力、時間を一次的に格納するためのものであり、したがってこれに続くステップS408でこれらのデータE(b) ,Pdact(b) ,TS が記憶される。
【0070】
その後にステップS402に戻るが、その時点ではしきい値Tbps を下回るバンドパス積算値が既に求められてフラグjが“1”にセットされているので、ステップS402で否定的に判断される。その場合は、しきい値Tbps を下回ったバンドパス積算値に対応する挟圧力保存データPdact(b) が限界挟圧力とされ、またその時点を示す時間に関する記憶値TS が、滑り開始時点(すなわち滑り検出時点T1 から滑り開始時点までの時間間隔)Tpredetとして設定される(ステップS411)。その後、図1のステップS110に進む。
【0071】
他方、滑り検出時点T1 から所定時間Tpreslpの間遡るまでに前記しきい値Tbps を下回るバンドパス積算値がなかった場合、ステップS402で肯定的に判断されるとともに、ステップS403で肯定的に判断される。その場合、滑り検出時点T1 から所定時間Tpreslp遡った時点(i時点)の挟圧力Pdact(i) が限界挟圧力とされ、また滑り開始から滑り検出までの時間Tpredetが“0”に設定される(ステップS410)。その後、図1のステップS110に進む。
【0072】
実変速比γのバンドパス積算値Fbsp は、無段変速機1での滑りの程度に応じて変化し、その他の変化成分が捨象されたものであるから、滑りが検出された場合に、それより以前の時点に順に遡ってバンドパス積算値Fbsp を評価し、初めてしきい値Tbps を下回った時点を滑り開始時点と推定することにより、滑り開始時期を正確に推定することができる。なお、滑りの検出を、実変速比γに替えてそのバンドパス積算値に基づいておこなうようにしてもよい。
【0073】
ところで、上述した各具体例は、滑り検出時点から過去の時点に順に遡って滑り開始時点を推定し、またその時点の挟圧力を検出するように構成された例であるが、これに替えて滑り検出時点に対して所定時間前の時点から滑り検出時点に向けて時間を追って(時間を進めて)データを判定することにより、滑り開始時期点を推定し、かつその推定された滑り開始時点の挟圧力を検出するように構成してもよい。その例を図7および図8に示してある。
【0074】
図7に示すフローチャートは、前述した図2に示すフローチャートもしくは図5に示すフローチャートに替わるものであって、図1におけるステップS107に続けて実行される。図7において、先ず、実変速比γと推定変速比γpre との偏差(以下、仮に、その偏差を変速比偏差と記す)の仮データG(b) およびフラグjがゼロリセット(初期化)され、かつ時間指標iが設定される(ステップS501)。このフラグjは、滑り開始時期が推定された場合に“1”にセットされるフラグである。また、時間指標iは、ルーチンの繰り返し実行回数の積算値であり、予め定めた時間Tpreslpを前記サイクルタイムTspで割った値に負の符号を付けた値に設定される。すなわち、滑りの検出時点T1 を基点(ゼロ点)とした所定時間Tpreslp前の時点(図8のT3 時点)を負の値の起算点として設定し、ルーチンを一回実行する毎にその絶対値を減じてゼロまでカウントするようになっている。
【0075】
ついで、そのフラグjが“0”か否かが判断される(ステップS502)。制御の開始当初はこのステップS502で否定的に判断される。そして、時間指標iが“0”以上か否かが判断される(ステップS503)。この時間指標iは、負の値からゼロに向けてカウントするものであるから、当初はゼロより小さく、したがってステップS503で否定的に判断される。その場合、その時点(i時点)における実変速比γ(i) と推定変速比Ppre(i)との偏差が算出され、これが変速比偏差仮データG(a) とされる(ステップS504)。また、その時点の実際の挟圧力Pdact(i) が挟圧力保存データPdact(a) とされ、かつその時点を示す時間指標iが時間保存データTspreとされる(ステップS505)。これは、図2に示すステップS304や図5に示すステップS405と同様の処理である。
【0076】
変速比偏差は、滑り検出時点T1 より充分以前の時点ではほぼゼロである。前述したように挟圧力を次第に低下させて無段変速機1のトルク容量を低下させれば、入力トルクや出力側から入力されるトルクの変動などによって実変速比γの変動が僅か大きくなり、それに併せて変速比偏差が変動する。このような変動があっても、滑り(いわゆるマクロスリップ)が開始する以前では、変速比偏差が小さい値となる。したがって上記のステップS505に続くステップS506で変速比偏差仮データG(a) が予め定めたしきい値Tf より大きいか否かを判断した場合、否定的に判断される。その場合、過去の時点から滑り検出時点T1 に向けて時間を追って変速比偏差を求め、その判定をおこなうために、時間指標iを“1”だけ加算して、1サイクルタイム分時間を進める(ステップS509)。そして、ステップS502以降の制御を再度実行する。
【0077】
変速比偏差は、挟圧力が過去の所定時点から滑り検出時点T1 に向けて時間を追う毎に低下させられていることにより、過去の時点から時間を所定量進めた時点から増大し始める。そのため、図7のルーチンを複数回繰り返した場合に、過去の所定時点における変速比偏差がしきい値Tf より大きくなり、その結果、ステップS506で肯定的に判断される。これは、図8のタイムチャートにおけるT2 時点であり、この時点が滑り開始時点と推定される。
【0078】
その場合は、変速比偏差仮データG(a) が他の仮データG(b) とされ、かつ挟圧力保存データPdact(a) が他の保存データPdact(b) とされ、また時間保存データTspreが他の時間保存データTS とされ、そしてフラグjが“1”にセットされる(ステップS507)。このステップS507は、しきい値Tf を上回る変速比偏差、その時の挟圧力、時間を一次的に格納するためのものであり、したがってこれに続くステップS508でこれらのデータG(b) ,Pdact(b) ,TS が記憶される。
【0079】
その後にステップS502に戻るが、その時点ではしきい値Tf を上回る変速比偏差が既に求められてフラグjが“1”にセットされているので、ステップS502で否定的に判断される。その場合は、しきい値Tf を上回った変速比偏差に対応する挟圧力保存データPdact(b) が限界挟圧力とされ、またその時点を示す時間に関する記憶値TS が、滑り開始時点(すなわち滑り検出時点T1 から滑り開始時点までの時間間隔)Tpredetとして設定される(ステップS511)。その後、図1のステップS110に進む。
【0080】
他方、滑り検出時点T1 から所定時間Tpreslpの間に前記しきい値Tf を上回る変速比偏差がなかった場合、ステップS502で肯定的に判断されるとともに、ステップS503で肯定的に判断される。その場合、滑り検出時点T1 (i時点)の挟圧力Pdact(i) が限界挟圧力とされ、また滑り開始から滑り検出までの時間Tpredetとして前記所定時間Tpreslpが設定される(ステップS510)。その後、図1のステップS110に進む。
【0081】
したがって図7に示す例では、滑り検出時点T1 から滑りの開始していない所定時間Tpreslp前までの間において、滑りの開始していない状態から時間を進めて変速比偏差を判定し、その変速比偏差がしきい値Tf を初めて超えた時点を滑り開始時点として推定し、その時点の挟圧力を限界挟圧力とする。すなわち、その推定された滑り開始時点の変速比偏差は、滑りの検出のためには、外乱などとの区別が困難になる程度に小さいが、滑りが既に検出されていてその滑りに繋がる変速比偏差の増大と見なし得るので、これをもって滑りの開始と推定することとしてある。言い換えれば、滑りが既に検出されていることにより、外乱などと峻別することができ、誤りのない滑り開始時点の推定となる。
【0082】
なお、上述した図1に示す例では、挟圧力の復帰タイミングを入力トルクの復帰タイミングに同期させるために遅れ時間を制御するように構成したが、この発明では、挟圧力を復帰させる際のアップ指令値Pdup を制御するように構成してもよい。その例を図9に示してある。この図9に示す例は、前述した図1に示すフローチャートにおけるステップS110ないしステップS118を変更したものであり、他の各ステップの内容は図1と同じであるから、図1と異なる部分のみ説明し、図1と同じ部分には図1と同じステップ番号を付してその説明を省略する。
【0083】
図9において、フラグF1 が“1”にセットされていることによりステップS101で肯定的に判断された場合、または前述した図2あるいは図5もしくは図7で限界挟圧力が求められた場合、油圧指令値Pdtgtのアップ量Pdup が、推定された滑り開始時点T2 から滑り検出時点T1 までの遅れ時間Tpredetとエンジン回転数Ne(i)とに基づいて算出される(ステップS210)。このアップ量Pdup は、挟圧力がベルト滑り開始時点の挟圧力に復帰するタイミングと、入力トルク(エンジントルク)を低下させた後に復帰するタイミングとを同期させるための時間であり、予め定めた関数f2 によって演算することができ、また予め定めたマップから求めることができる。
【0084】
図9に示すように、このアップ量Pdup を求めた後にベルト滑りが収束したか否かが判断される(ステップS211)。この判断は、前述した変速比偏差が所定値以内に低下したか否かによっておこなうことができる。このステップS211で否定的に判断された場合、すなわちベルト滑りが継続している場合には、エンジン(E/G)トルクダウン制御が実行される(ステップS212)。ついで油圧アップ制御が実行される(ステップS213)。これらステップS211,S213,S213の各制御は、図1におけるステップS111,S112,S114の各制御と同様である。なお、ベルト滑りが収束していてステップS211で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS213に進む。
【0085】
その後、再度、ベルト滑りが収束しているか否かが判断される(ステップS214)。図1を参照して説明したように、エンジントルクダウン制御と挟圧力の増大指令とをおこなっていることにより、ベルト滑りが次第に収束し、当初はステップS214で否定的に判断されてリターンするものの、時間が経過することによって滑り収束の判断が成立してステップS214で肯定的に判断され、その場合には、フラグF1 がゼロリセットされる(ステップS215)。
【0086】
ここで上記の各具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS106の機能的手段が、この発明の滑り検出手段に相当し、またステップS306,S307,S310,S311の機能的手段が、この請求項1および2ならびに4の発明における滑り開始時期推定手段および挟圧力決定手段に相当する。さらにステップS406,S407の機能的手段が、請求項3の発明における滑り開始時期推定手段および挟圧力決定手段に相当する。そして、ステップS110,S210の機能的手段が、請求項4の発明における挟圧力制御手段に相当する。
【0087】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、ベルト式無段変速機以外にトラクション式の無段変速機を対象とする制御装置にも適用することができる。
【0088】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、滑り検出時点より以前の実変速比と推定変速比とに基づいて滑りの開始時期が推定され、その滑り開始時期における挟圧力に基づいて、入力トルクに釣り合う限界挟圧力が求められるので、滑りが開始した時期を正確に推定することができるともに、入力トルクに釣り合う挟圧力である限界挟圧力を正確に求めることができる。
【0089】
また、請求項2の発明によれば、滑りが検出された時点から順次過去に遡って、実変速比と推定変速比との偏差が求められ、その偏差の変動が、過去に遡るに従って収束し、かつ最小となった時点が滑り開始時点として推定されるので、実変速比や変速比偏差に変動が生じていても、滑りが開始した時期を正確に推定することができるともに、入力トルクに釣り合う挟圧力である限界挟圧力を正確に求めることができる。
【0090】
さらに、請求項3の発明によれば、滑り検出時点より以前の実変速比のフィルタ処理値が求められるとともに過去に遡って判定され、そのフィルタ処理値が、滑り検出時点から順次過去に遡った場合に最初に所定値以下となる時点が、滑り開始時期として推定され、その滑り開始時期における挟圧力に基づいて、入力トルクに釣り合う限界挟圧力が求められるので、実変速比の検出値に変動があっても、滑りが開始した時期を正確に推定することができ、またそれに伴って正確に限界挟圧力を求めることができる。
【0091】
そして、請求項4の発明によれば、滑り検出時点より以前の滑りが開始した時期が推定され、これらの滑りの検出時点と推定された滑り開始時期との時間差に基づいて、低下させた挟圧力の増大制御の制御内容が変更され、もしくは設定されるから、挟圧力を低下させることにより生じた滑りを収束させるのに適した挟圧力の増大制御を実行でき、滑りを速やかに収束させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の制御装置による制御の一例における滑り検出までの制御および滑りを収束させるための制御を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1に示すフローチャートに続くステップであって滑り開始時期を推定するための制御を説明するためのフローチャートである。
【図3】図2の制御に対応するタイムチャートである。
【図4】図1の制御に対応するタイムチャートである。
【図5】図2のフローチャートで示す制御に替わる他の制御を示すフローチャートである。
【図6】図5の制御に対応するタイムチャートである。
【図7】図2あるいは図5のフローチャートで示す制御に替わる他の制御を示すフローチャートである。
【図8】図7の制御に対応するタイムチャートである。
【図9】図1のフローチャートで示す制御に替わる他の制御を示すフローチャートである。
【図10】この発明で対象とする無段変速機を含む駆動系統の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機、 4…エンジン(動力源)、 19…駆動プーリー、 20…従動プーリー、 23…ベルト、 29…入力軸回転速度センサー、 30…出力軸回転速度センサー、 31…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。
【発明の属する技術分野】
この発明は、挟圧力に応じてトルク容量の変化する無段変速機を対象とした制御装置に関し、特にその挟圧力を滑りの状態に応じて制御する制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベルト式無段変速機やトラクション式無段変速機は、ベルトとプーリーとの間の摩擦力や、ディスクとローラとの間のトラクションオイルのせん断力を利用してトルクを伝達している。したがってこれらの無段変速機のトルク容量は、そのトルクの伝達が生じる箇所に作用する圧力に応じて設定される。
【0003】
無段変速機における上記の圧力は挟圧力と称され、その挟圧力を高くすれば、トルク容量を増大させて滑りを回避できるが、その反面、高い圧力を生じさせるために動力を必要以上に消費したり、あるいは動力の伝達効率が低下するなどの不都合がある。そのため、一般的には、意図しない滑りが生じない範囲で、挟圧力を可及的に低く設定している。
【0004】
例えば、無段変速機を搭載した車両では、エンジンの回転数を無段変速機によって制御して燃費の向上を図ることができるので、その利点を損なわないために、無段変速機での動力伝達効率を可及的に向上させるべく、挟圧力を、滑りが生じない範囲で可及的に低く設定するように制御されている。そのためには、滑りの生じ始める圧力(すなわち滑り限界圧)を検出する必要があり、従来では、種々の方法で滑りを検出し、また滑り限界圧力を検出している。
【0005】
その一例を挙げると、特許文献1には、円錐円板対と巻き掛け伝動節とを有する変速機であって、その円錐円板対が巻き掛け伝動節を挟み付ける圧着力を変化させてスリップ限界を決定し、そのスリップ限界を超えないように圧着力を調整するように構成された変速機が記載されている。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−12593号公報(請求項1,2,6,7)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特許文献1に記載された変速機における圧着力は、その変速機のトルク容量を設定するためのものであるから、これを低下させると、変速機のトルク容量が入力トルクに対して相対的に低くなるので、滑り状態が変化する。具体的には円錐円板対と巻き掛け伝動節との間の滑り量が増大する。上記の特許文献1に記載された発明では、摩擦効率の増大を例えば油温の上昇によって検出し、その油温が上昇したことをもってスリップを検出している。
【0008】
油温などの温度の上昇は、滑りによって運動エネルギが熱エネルギに変換されて生じるが、その過程ではある程度の時間が経過し、さらに滑り以外の要因による油温の上昇と滑りによる油温の上昇とを判別できる程度に温度が高くなるまでには更に時間が掛かる。結局、滑りの検出時点と実際に滑りが開始した時点との間にはかなりの時間差が生じてしまう。
【0009】
一方、変速機における各種の回転数は適宜のセンサーで検出できるから、その検出した回転数に基づいて滑り量を求めることができる。そして、その滑り量が所定のしきい値を超えたことにより、滑りが発生したことを検出できる。しかしながら、上記の変速機における滑り量は、要は、円錐円板対と巻き掛け伝動節との相対速度の偏差であり、その偏差は、変速機における各種の回転ムラやトルク変動などが原因となって常時変化している。したがって滑りに起因しない上記の偏差に基づく滑りの誤検出を避けるために、上記のしきい値をある程度大きい値に設定せざるを得ない。そのため、変速機に実際に滑りが生じた時点に対して、滑りの検出がおこなわれる時点までに、不可避的な時間の遅れが生じる。
【0010】
したがって滑りが検出された時点では、実際の滑りがある程度増大しており、また圧着力は、入力トルクに釣り合う圧力よりもある程度相対的に低くなっている。そこで、実際の滑りの開始時点あるいは実際の滑りに釣り合う圧着力を求めるために、上記のしきい値に基づく滑り検出時点よりも前の時点を滑り開始時点とし、またその滑り開始時点の圧着力を検出することが考えられる。しかしながら、滑りの状態あるいは滑りを示すものとして検出されるデータ(物理量)は、上述したように変動しているから、しきい値に基づく滑りの検出時点から一定時間前の時点を、実際の滑りの開始時点とすることができないのであり、上記の特許文献1には、滑りが実際に開始した時点を求める手段が示されていない。また、スリップ限界として決定された圧着力の制御の仕方が示されていない。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、無段変速機における滑りの開始時期を正確に推定でき、またその滑り開始時期に基づく挟圧力の制御をおこなうことのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、滑りに関連する物理量を、滑り検出時点から過去に遡って評価することにより、滑りが実際に開始した時点を推定するように構成したことを特徴とするものである。すなわち、請求項1の発明は、挟圧力に応じてトルク容量が設定され、かつそのトルク容量が入力トルクと釣り合う限界挟圧力を、検出された滑りの状態に基づいて設定する無段変速機の制御装置において、前記滑りを検出する滑り検出手段と、その滑り検出手段で滑りが検出される以前の実変速比と推定変速比とに基づいて前記滑りの開始時期を推定する滑り開始時期推定手段と、その滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期における前記挟圧力に基づいて前記限界挟圧力を求める挟圧力決定手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0013】
したがって請求項1の発明では、先ず、滑りが検出される。これは、例えば適宜の実測値もしくはその実測値に基づく演算値としきい値との比較によっておこなうことができる。その検出時点より以前の実変速比と推定変速比とに基づいて滑りの開始時期が推定される。なお、実変速比とは、無段変速機における所定の回転数に基づいて演算される変速比であり、また推定変速比とは、所定の時点の実際の変速比や回転数等の実際値と変化率などとを用いて推定することにより得られる滑りが生じていないとした場合の変速比である。そして、その滑り開始時期における挟圧力に基づいて、入力トルクに釣り合う限界挟圧力が求められる。その結果、滑りが開始した時期が正確に推定され、それに伴って正確に限界挟圧力が求められる。
【0014】
また、請求項2の発明は、請求項1における前記滑り開始時期推定手段が、前記実変速比と推定変速比との偏差を前記滑り検出手段が前記滑りを検出した時点より順次過去に遡って判定することにより、その偏差の変動が収束しかつその偏差が最小の値となる時点を前記滑りの開始時期と推定するように構成されていることを特徴とする制御装置である。
【0015】
したがって請求項2の発明では、滑りが検出された時点から順次過去に遡って、実変速比と推定変速比との偏差が求められる。そして、その偏差の変動が、過去に遡るに従って収束し、かつ最小となった時点が滑り開始時点として推定される。すなわち、実変速比に変動が生じており、それに伴って前記偏差が変動していても、滑りの開始時期が正確に推定される。
【0016】
さらに、請求項3の発明は、挟圧力に応じてトルク容量が設定され、かつそのトルク容量が入力トルクと釣り合う限界挟圧力を、検出された滑りの状態に基づいて設定する無段変速機の制御装置において、前記滑りを検出する滑り検出手段と、実変速比のフィルタ処理値を前記滑り検出手段で滑りが検出された時点より順次過去に遡って判定することにより、そのフィルタ処理値が所定値以下となる時点を滑り開始時期と推定する滑り開始時期推定手段と、その滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期における前記挟圧力に基づいて前記限界挟圧力を求める挟圧力決定手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0017】
したがって請求項3の発明では、先ず、滑りが検出される。これは、例えば適宜の実測値もしくはその実測値に基づく演算値としきい値との比較によっておこなうことができる。その検出時点より以前の実変速比のフィルタ処理値が求められるとともに過去に遡って判定され、そのフィルタ処理値が所定値以下となる時点、より正確には滑り検出時点から順次過去に遡った場合に最初に所定値以下となる時点が滑り開始時期として推定される。そして、その滑り開始時期における挟圧力に基づいて、入力トルクに釣り合う限界挟圧力が求められる。その結果、実変速比に含まれる滑り以外の要因による変動が除去されるから、実変速比の検出値に変動があっても、滑りが開始した時期が正確に推定され、それに伴って正確に限界挟圧力が求められる。
【0018】
そして、請求項4の発明は、トルク容量を設定する挟圧力を低下させることに伴う滑り状態に基づいて、前記トルク容量が入力トルクに釣り合う限界挟圧力を設定する無段変速機の制御装置において、前記挟圧力の低下に基づく滑りを検出する滑り検出手段と、その滑りが実際に発生した時点を推定する滑り開始時期推定手段と、前記滑り検出手段が前記滑りを検出した時点と前記滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期との時間間隔に基づいて、前記低下させた挟圧力を増大させる制御内容を変更する挟圧力制御手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0019】
したがって請求項4の発明では、トルク容量を設定する挟圧力を次第に低下させて滑り状態を変化させ、その滑り状態に基づいて、入力トルクに釣り合うトルク容量を設定する限界挟圧力を求めるにあたり、先ず、滑りが検出される。これは、例えば適宜の実測値もしくはその実測値に基づく演算値としきい値との比較によっておこなうことができる。また、その検出時点より以前の滑りが開始した時期が推定される。その推定は、実変速比と推定変速比との偏差に基づいておこなうことができ、また実変速比のフィルタ処理値に基づいておこなうことができる。そして、これらの滑りの検出時点と推定された滑り開始時期との時間差に基づいて、低下させた挟圧力の増大制御の制御内容が変更され、もしくは設定される。その結果、挟圧力を低下させることにより生じた滑りを収束させるのに適した挟圧力の増大制御が実行され、滑りが速やかに収束される。
【0020】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機を含む駆動機構について説明すると、この発明は、車両に搭載される無段変速機を対象とすることができ、その無段変速機は、ベルトをトルク伝達部材としたベルト式の無段変速機や、パワーローラをトルク伝達部材とするとともにオイル(トラクション油)のせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(トラクション式)無段変速機である。図10には、ベルト式無段変速機1を含む車両用駆動機構の一例を模式的に示しており、この無段変速機1は、前後進切換機構2およびトルクコンバータ3を介して、動力源4に連結されている。
【0021】
その動力源4は、一般の車両に搭載されている動力源と同様のものであって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関や、電動機、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせた機構などを採用することができる。なお、以下の説明では、動力源4をエンジン4と記す。
【0022】
エンジン4の出力軸に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン4の出力軸が連結されたフロントカバー5にポンプインペラー6が一体化されており、そのポンプインペラー6に対向するタービンランナー7が、フロントカバー5の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー6とタービンランナー7とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー6が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー7に送ることによりタービンランナー7にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0023】
また、ポンプインペラー6とタービンランナー7との間でこれらの内周側の位置には、タービンランナー7から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラー6に流入させるステータ8が配置されている。このステータ8は、一方向クラッチ9を介して所定の固定部10に連結されている。
【0024】
このトルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ11を備えている。ロックアップクラッチ11は、ポンプインペラー6とタービンランナー7とステータ8とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー5の内面に対向した状態で前記タービンランナー7に保持されており、油圧によってフロントカバー5の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー5から出力部材であるタービンランナー7に直接、トルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ11のトルク容量を制御できる。
【0025】
前後進切換機構2は、エンジン4の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図10に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
【0026】
すなわち、サンギヤ12と同心円上にリングギヤ13が配置され、これらのサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛合したピニオンギヤ14とそのピニオンギヤ14およびリングギヤ13に噛合した他のピニオンギヤ15とが配置され、これらのピニオンギヤ14,15がキャリヤ16によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ12とキャリヤ16と)を一体的に連結する前進用クラッチ17が設けられ、またリングギヤ13を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ18が設けられている。
【0027】
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリー19と従動プーリー20とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ21,22によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリー19,20の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリー19,20に巻掛けたベルト23の巻掛け半径(プーリー19,20の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリー19が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ16に連結されている。これらの各プーリー19,20およびベルト23が無段変速部を構成している。
【0028】
なお、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリー20における各シーブがベルト23を挟み付けることにより、ベルト23に張力が付与され、各プーリー19,20とベルト15との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリー19における油圧アクチュエータ21には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0029】
無段変速機1の出力部材である従動プーリー20がギヤ対24およびディファレンシャル25に連結され、さらにそのディファレンシャル25が左右の駆動輪26に連結されている。
【0030】
上記の無段変速機1およびエンジン4を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、エンジン4の出力軸回転速度(ロックアップクラッチ11の入力軸回転速度)Ne を検出して信号を出力するエンジン回転速度センサー27、タービンランナー7の回転速度を検出して信号を出力するタービン回転速度センサー28、駆動プーリー19の回転速度Ninを検出して信号を出力する入力軸回転速度センサー29、従動プーリー20の回転速度Nout を検出して信号を出力する出力軸回転速度センサー30などが設けられている。
【0031】
上記の前進用クラッチ17および後進用ブレーキ18の係合・解放の制御、および前記ベルト23の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ11の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)31が設けられている。この電子制御装置31は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。また、エンジン4を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)32が設けられ、これらの電子制御装置31,32の間で相互にデータを通信するようになっている。
【0032】
前述したように無段変速機における挟圧力は、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い圧力であることが好ましい。そこで上記の無段変速機1を対象とするこの発明の制御装置は、前記従動プーリー20側のアクチュエータ22に供給する油圧に基づく挟圧力を低下させ、その結果生じた滑りを検出し、その滑り検出時点より前の滑り開始時点を推定し、その時点の挟圧力を滑り限界圧(すなわち入力トルクに釣り合う限界挟圧力)とて求めるように構成されている。その制御の具体例を以下に説明する。
【0033】
図1および図2はその一例を示すフローチャートであり、また図3はそのフロチャートに示す制御を実施した場合のタイムチャートである。図1において、先ず、フラグF1 が“1”か否かが判断される(ステップS101)。このフラグF1 は、無段変速機1での滑り、すなわちベルト23といずれかのプーリー19,20と間に滑りが生じていることが検出され、それに伴って限界挟圧力が検出される場合に“1”にセットされるいわゆる限界挟圧力検出フラグであり、当初“0”にセットされている。したがって制御の開始当初は、ステップS101で否定的に判断され、その場合、制御の開始条件が成立しているか否かが判断される(ステップS102)。
【0034】
ここで説明している具体例は、無段変速機1の挟圧力を低下させ、その際の滑りを検出するとともに、その検出結果に基づいて限界挟圧力を設定する例であり、したがって無段変速機1に作用するトルクが安定している必要がある。ステップS102はそのようなトルクの安定状態を判断するためのものであり、具体的には、スロットル開度の変化幅が所定範囲以内であり、かつ車速が中高速状態にほぼ一定しているいわゆる定常走行状態あるいは準定常走行状態か否かが、制御に開始条件とされる。また、油圧制御が正常に実行でき、またエンジン4が正常に動作しているなどの条件が開始条件とされており、したがってエンジン水温が所定値以上、無段変速機1の油温が所定値以上、バッテリ電圧が所定値以上などが成立しているか否かが判断される。さらに、その時点の入力トルク領域についての限界挟圧力が得られていないことも開始条件とされる。
【0035】
このステップS102で否定的に判断された場合には、特に制御をおこなうことなくこのルーチンを一旦終了する。すなわちリターンする。これとは反対にステップS102で肯定的に判断された場合にはステップS103に進んで、エンジン回転数Ne 、無段変速機1の入力回転数Nin、および出力回転数Nout が、前述した各センサー27,28,29によって計測される。またその時点における従動プーリー20側の油圧アクチュエータ22の実油圧Pdactが計測される。これは、その油圧アクチュエータ22に連通する油圧回路の所定箇所にセンサー(図示せず)を接続しておくことにより計測することができる。
【0036】
ついで、その計測された入力回転数Ninと出力回転数Nout とからその時点の実変速比γ(i) および推定変速比γpre(i)が算出される(ステップS104)。その推定変速比γpre(i)は必要に応じて種々の演算によって求めることができ、例えばその時点より前の所定の時間間隔の間における実変速比の変化量の平均を求め、その時点の直前の時点における変速比と、変速比変化量の平均値とに基づいて推定変速比γpre(i)を求めることができる。したがって推定変速比γpre(i)は滑りが生じていないとした場合の変速比に相当する。
【0037】
そして、油圧(挟圧力)が次第に低下させられる(ステップS105)。具体的には、油圧の低下勾配ΔPdswpを予め設定しておき、直前の時点(i−1)における油圧指令値Pdtgt(i−1) から低下勾配ΔPdswpの値を減算して現在時点の油圧指令値Pdtgt(i) が求められる。すなわち図1および図2に示すルーチンを繰り返し実行する時間間隔Tsp毎に、油圧指令値が上記の低下勾配ΔPdswpずつ低下させられ、実油圧がその指令値に追従するように次第に低下する。なおここで、油圧指令値あるいは実油圧は、上述した従動プーリー20側の油圧アクチュエータ22の油圧について指令値であり、またその計測された実際の油圧である。
【0038】
挟圧力が低下すると、無段変速機1でのトルク容量が低下し、そのトルク容量が入力トルク以下となれば、無段変速機1での滑りの状態が変化する。すなわち滑り量が増大する。そこで、そのような滑り状態の変化(具体的には滑り量の増大)が検出される(ステップS106)。これは、例えば前述した実変速比γ(i) と推定変速比γpre(i)との偏差が予め定めたしきい値を超えたことによって検出することができる。
【0039】
油圧が低下の程度が小さい状態では、無段変速機1のトルク容量が入力トルクに対して相対的に大きいから、ベルト滑りが発生することがなく、その状態ではステップS106で否定的に判断される。その場合、その時間の変速比γ(i) 、推定変速比γpre(i)、実油圧(実挟圧力)Pdact(i) 、油圧指令値Pdtgt(i) が保存される(ステップS108)。その後、リターンする。これに対して挟圧力の低下が進行すると、ベルト滑りが発生し、ステップS106で肯定的に判断される。これは、図3のタイムチャートではT1 時点として示されている。この場合は、フラグF1 が“1”にセットされる(ステップS107)。その後、滑りの開始時期が推定され、また滑りに対応した制御が実行される。
【0040】
図2は滑り開始時期を推定するためのルーチンを示すフローチャートであって、先ず、実変速比γ(i) と推定変速比γpre(i)との偏差(以下、仮に変速比偏差と記す)の仮データD(b) と、時期を示す指標iと、フラグjとがそれぞれゼロリセットされる(ステップS301)。ついで、滑り検出時点T1 から過去に遡る所定の時間間隔Tpreslpを、図1および図2に示すルーチンを繰り返し実行する時間間隔(すなわちサイクルタイム)Tspで除して得られる商と、そのサイクルタイムを“1”として滑り検出時点T1 から過去に遡る繰り返しの積算数iとが比較される(ステップS302)。すなわち、その積算数iが、前記商に負の符号を付した値以下か否かが判断される。なお、前記所定の時間間隔Tpreslpは、実際に滑りが開始した時点から滑りが検出されるまでの時間より充分長い時間として設定されている。
【0041】
その積算数iは、ステップS301でゼロリセットされていて、図2のルーチンが繰り返される毎に“1”ずつ積算されるから、当初はステップS302で否定的に判断される。その場合は、現在時点における変速比偏差が算出され、これが仮データD(a) とされる(ステップS303)。最初の仮データD(a) は、時間指標iがゼロであるから、滑り検出時点T1 における変速比偏差となる。
【0042】
ついで、その時点の実際の挟圧力Pdact(i) が挟圧力保存データPdact(a) とされ、かつその時点を示す時間指標iが時間保存データTspreとされる(ステップS304)。その後、フラグjがゼロか否かが判断される(ステップS305)。このステップS305は、ステップS302以降の制御が開始された直後か否か、言い換えれば最初のデータの算出もしくは保存であるか否かを判断するためのものである。したがって制御開始当初はフラグjがゼロであるから、ステップS305で肯定的に判断され、その場合は、ステップS306を飛ばしてステップS307に進み、変速比偏差仮データD(a) が他の仮データD(b) とされ、かつ挟圧力保存データPdact(a) が他の保存データPdact(b) とされ、また時間保存データTspreが他の時間保存データTS とされ、そしてフラグjが“1”にセットされる。このステップS307は、既に求められている変速比偏差の最小値、その時の挟圧力、時間を一次的に格納するためのものであり、したがってこれに続くステップS308でこれらのデータD(b) ,Pdact(b) ,TS が記憶される。
【0043】
その後、時間指標iから“1”を減算して(ステップS309)、前述したステップS302に戻る。すなわちルーチンのサイクルタイムTspだけ過去に遡り、その遡った時点における変速比偏差、挟圧力、時間が求められる。具体的に説明すると、滑り検出時点T1 から遡る時間が短い時点では、ステップS302で否定的に判断され、その結果、その遡った時点の変速比偏差が仮データD(a) とされ(ステップS303)、またその遡った時点の挟圧力が保存データPdact(a) とされ、その時点の時間が時間保存データTspreとされる(ステップS304)。
【0044】
これらのデータの算出が二回目以降であれば、フラグjが既に“1”にセットされていることにより、ステップS305で否定的に判断される。その場合、新たな変速比偏差仮データD(a) と既に記憶されている変速比偏差仮データD(b) とが比較され、前者の仮データD(a) が後者の仮データD(b) より小さいか否かが判断される(ステップS306)。滑り検出時点T1 の直前の時点では、実変速比γが増大して変速比偏差が増大したために所定のしきい値を超えて滑り検出されたのであるから、このステップS306では肯定的に判断される。直前の変速比偏差の方が小さいからである。しかしながら、実変速比γはステックスリップや他の要因による回転変動、あるいは電気的な外乱信号などによって大小に変動(もしくは脈動)しているから、変速比偏差も大小に変動(もしくは脈動)している。そのため、記憶されている仮データD(b) が極小値であれば、その直前の変速比偏差仮データD(a) の方が大きくなる場合がある。
【0045】
滑り検出時点T1 から遡る時間が短い間では、変速比偏差が滑り検出時点T1 に向けて増大しているから、ステップS306では肯定的に判断される。その場合、上述したステップS307ないしステップS309が繰り返し実行される。すなわち、変速比偏差仮データD(b) が新たな小さい値に更新され、それに対応する挟圧力保存データPdact(b) に更新され、さらに時間保存データTS が更新され、そしてフラグjが“1”にセットされ、これらが記憶される。その後、時間指標iが過去に向けて“1”だけ戻される。
【0046】
すなわち、このようにして過去に順次遡る間において、それぞれの時点に対する直前の時点における変速比偏差の方が小さい場合には、記憶されるデータが逐一更新される。言い換えれば、より小さい値の変速比偏差が繰り返し求められる。
【0047】
変速比偏差の極小値すなわち実変速比γの極小値にまで時間が遡って達すると、その直前の時点における変速比偏差が相対的に大きく、変速比偏差は過去に向けて増大している。これは、図3にB1 で示す極小値に対するその直前の値S1 の関係である。したがってこの場合は、ステップS306で否定的に判断される。その場合、新たに求められた変速比偏差仮データD(a) が既に得られている値のうちで最も小さい極小値である変速比偏差仮データD(b) より所定値αを超えて大きいか否かが判断される(ステップS310)。
【0048】
このステップS310で肯定的に判断された場合には、既に記憶されている変速比偏差仮データD(b) が極小値であることが明確になるので、その極小値D(b) が第三の変速比偏差仮データD(c) とされ、かつその極小値D(b) に対応する挟圧力保存データPdact(b) が第三の挟圧力保存データPdact(c) とされ、かつそれに対応して記憶してある時間保存データTS が他の時間保存データTS1とされる(ステップS311)。そして、これらの新たに書き換えられた各保存データD(c) ,Pdact(c) ,TS1がそれぞれ記憶され(ステップS312)、その後、ステップS309に進んで時間指標iが一サイクル分過去に戻される。
【0049】
なお、ステップS310で否定的に判断された場合、すなわち既に記憶されている変速比偏差仮データD(b) が極小値であることの判断が成立しない場合には、直ちにステップS309に進んで、時間指標iを一サイクル分過去に戻し、かつ従前のルーチンを繰り返す。
【0050】
このように、上記のステップS302からステップS312までの各ステップを、過去に遡りつつ順次繰り返し実行することにより、既に記憶されている変速比偏差仮データD(b) より小さい変速比偏差が求められると、記憶されている変速比偏差仮データD(b) がその値によって置き換えられ、かつこれが極小値であれば、第三の変速比偏差仮データD(c) をその値によって更新することになる。これを図3にB2 およびB3 の符号によって示してある。なお、図3におけるS2 およびS3 の各点は、上記のB2 およびB3 の各点に対する過去の時点であって、変速比偏差がB2 およびB3 の各点での値より所定値αを超えて大きい時点を示す。
【0051】
図3に示すように、S3 時点より左側すなわち過去の時点においても実変速比γが変動(脈動)していて変速比偏差が、時間的に前後の各時点よりも小さくなる点が現れるが、変速比偏差の変化幅が上記の所定値αを超えないために、図3におけるS3 時点より過去の変速比偏差は、その値が小さくても第三の変速比偏差仮データD(c) とされることはない。すなわち、上記の所定値αは、変速比偏差もしくは実変速比γの変動(脈動)の有無を判断するしきい値となっており、したがって上記のステップS310で否定的に判断された場合には、変速比偏差もしくは実変速比γが変動(脈動)していないと判断されたことになる。そのため、第三の変速比偏差仮データD(c) などのステップS311で記憶される値は、ベルト滑りが検出された時点T1 から過去に順に遡った場合における変速比偏差もしくは実変速比γの変動(脈動)が収束する間における最小値およびそれに関連する値となる。
【0052】
そして、ステップS302からステップS312までの各ステップの切り返し回数が、滑り検出時点T1 から過去に遡る所定の時間間隔Tpreslpを前記サイクルタイムTspで除した回数になると(T3 時点に達すると)、ステップS302で肯定的に判断される。このステップS302で肯定的に判断された場合には、前記所定の時間間隔Tpreslpの間のデータの全てについて検討したことになるので、その間に記憶されている最小値である第三の変速比偏差仮データD(c) に対応する第三の挟圧力保存データPdact(c) が、入力トルクに釣り合う限界挟圧力とされ、またその時点T2 を示す時間に関する記憶値TS1が、滑り開始時点(すなわち滑り検出時点T1 から滑り開始時点までの時間間隔)Tpredetとして設定される(ステップS313)。
【0053】
上記の変速比偏差は、実変速比γと推定変速比γpre(i)との差であるから、滑り開始時期は、結局、実変速比γと推定変速比γpre(i)とに基づいて推定されることになり、その滑り開始時点Tpredetにおける挟圧力が限界挟圧力として求められる。
【0054】
上述のようにして挟圧力を低下させることによる無段変速機1での滑りが検出され、かつその滑りの開始時点(滑りの開始から検出までの遅れ時間もしくは時間間隔)Tpredetが求められると、挟圧力をそれ以上に低下させる必要がないのみならず、滑りを収束させる必要があるので、挟圧力の増大制御が実行される。その場合、先ず、挟圧力の増大を開始するまでの時間(あるいは遅れ時間)Tdeley が、上記の滑り開始時点Tpredetとエンジン回転数Ne(i)とに基づいて求められる(ステップS110)。この遅れ時間Tdeley は、挟圧力がベルト滑り開始時点の挟圧力に復帰するタイミングと、後述する入力トルク(エンジントルク)を低下させた後に復帰するタイミングとを同期させるための時間であり、予め定めた関数f1 によって演算することができ、また予め定めたマップから求めることができる。
【0055】
図1に示すように、この遅れ時間Tdeley を求めた後にベルト滑りが収束したか否かが判断される(ステップS111)。この判断は、前述した変速比偏差が所定値以内に低下したか否かによっておこなうことができる。このステップS111で否定的に判断された場合、すなわちベルト滑りが継続している場合には、エンジン(E/G)トルクダウン制御が実行される(ステップS112)。この制御は、要は、無段変速機1に対する入力トルクを低下させる制御であり、ガソリンエンジンにおいてはその点火時期を遅角させることによりおこなうことができ、また内燃機関とモータ・ジェネレータとを備えたハイブリッド車ではそのモータ・ジェネレータを制御すればよい。そして、その制御は、前述した変速比偏差に基づいてトルクを低下させることによりおこなうことができる。エンジントルク低下のための点火時期の遅角指令値を図4のタイムチャートにΔCA で示してある。
【0056】
ついで、トルクダウンの開始からの経過時間が、ステップS110で求められた遅れ時間Tdeley に達したか否かが判断される(ステップS113)。具体的には、エンジントルクダウン制御開始後における上記ルーチンの繰り返し回数を計数するカウンターCのカウント値が、上記の遅れ時間Tdeley を前記サイクルタイムTspで割った値以上になったか否かが判断される。このステップS113で否定的に判断された場合には、カウンターCをインクリメントし(ステップS118)、一旦このルーチンを終了する。なお、滑りが収束していてステップS111で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS113に進む。滑りを収束させるためのエンジントルクダウンをおこなう必要がないからである。また、ステップS118でカウンターCをインクリメントしてリターンした場合、前記フラグF1 が“1”にセットされていることにより、直ちにステップS110に進み、上述した各制御を継続しておこなう。
【0057】
ベルト滑りの検出後、滑りが生じている場合には、図4のタイムチャートに示すように、挟圧力の指令値Pdtgtは従前の値に維持され、エンジントルクの低下制御が実行される。そして、時間が経過することによりステップS113で肯定的に判断され、その場合には、挟圧力を設定する油圧のアップ制御が実行される(ステップS114)。これは、一例として、油圧指令値Pdtgtを予め定めた値Pdup だけ増大させることにより実行される。
【0058】
このように挟圧力を滑り検出時の圧力に維持した状態で、無段変速機1の入力トルクを低下させるためのエンジントルクの低減制御が実行されるので、無段変速機1の滑りが次第に収束に向けて変化する。したがってステップS114に続けて、再度、ベルト滑りが生じたか否かが判断される(ステップS115)。
【0059】
挟圧力を増大させる指令を出力し、またエンジントルクダウン制御を実行している過程で変速比偏差が予め定めた所定値Δγend 以下となると、低下させたエンジントルク(無段変速機1の入力トルク)を戻す復帰制御が実行され、エンジントルク(無段変速機1の入力トルク)が次第に復帰する。また、上記の遅れ時間を経過した時点で挟圧力の指令値が増大させられているので、挟圧力が次第に上昇する。その状態を図4に示してある。
【0060】
その結果、変速比偏差がほぼゼロになって滑りが収束する滑り終了時点に、挟圧力Pdactが滑り開始時の圧力(すなわち限界挟圧力)に復帰し、同時にエンジントルクの復帰が完了する。その結果、無段変速機1の滑りが再度発生することがなく、あるいは出力軸トルクの急激な変化やそれに伴うショックなどが生じることがない。このようにして滑りが収束するとステップS115で肯定的に判断され、フラグF1 およびカウンターCがゼロリセットされる(ステップS116,S117)。
【0061】
上述した図1および図2に示す制御を実行するように構成したこの発明の制御装置によれば、無段変速機1における滑りが検出された場合、その時点よりも過去の時点の変速比偏差に基づいて滑りの開始時点を推定し、その推定された滑り開始時点における挟圧力を、入力トルクの釣り合う限界挟圧力とするので、限界挟圧力を正確に求めることができる。特にこの発明の制御装置は、上記の具体例で示したように、変速比偏差の変動が収束した状態での最小値を、滑り検出時点から過去に順次遡って求め、その最小値の時点を滑り開始時点とするとともに、その時点の挟圧力を限界挟圧力とするので、限界挟圧力を精度良く求めることができる。そして、その限界挟圧力は、その後の定常走行状態もしくは準定常走行状態における挟圧力に反映させることができるので、定常走行状態もしくは準定常走行状態における挟圧力を可及的に低下させて、車両の燃費や無段変速機1の耐久性を向上させることができる。
【0062】
ところで、上述した具体例では、滑り開始時点を、変速比偏差の変動が過去に遡って収束し、かつその変速比偏差が最小値となる時点としたが、この発明では、実変速比γのフィルタ処理値を利用して滑り開始時期を推定するように構成することもできる。その例を図5および図6に示してある。
【0063】
図5は、前述した図2に示すフローチャートに置き換わる部分的なフローチャートであって、図1におけるステップS107の後に、実変速比γのバンドパス積算値仮データE(b) および時間指標iならびにフラグjがゼロリセット(初期化)される(ステップS401)。このフラグjは、滑りの開始時期の推定が完了した場合に“1”にセットされるフラグである。
【0064】
ついで、そのフラグjが“0”か否かが判断される(ステップS402)。制御の開始当初はこのステップS402で否定的に判断されるので、滑り検出時点T1 から所定時間Tpreslp遡った時点までの間におけるデータについての判定が終了したか否かが判断される(ステップS403)。すなわち、滑り検出時点T1 から過去に遡る所定の時間間隔Tpreslpを、ルーチンを繰り返し実行する時間間隔(すなわちサイクルタイム)Tspで除して得られる商と、そのサイクルタイムを“1”として滑り検出時点T1 から過去に遡る繰り返しの積算数iとが比較される。これは、前述した図2のステップS302と同様の判断ステップである。
【0065】
このステップS403で否定的に判断された場合には、その時点における実変速比γのバンドパス積算値Fbps(i)がバンドパス積算値仮データE(a) とされる(ステップS404)。また、その時点の実際の挟圧力Pdact(i) が挟圧力保存データPdact(a) とされ、かつその時点を示す時間指標iが時間保存データTspreとされる(ステップS404)。これは、図2に示すステップS304と同様の処理である。
【0066】
実変速比γのバンドパス積算値Fbps は、変速による変化成分や外乱信号などによる変化成分などを除去した値を積算したものであり、主としてベルト滑りに起因する変化成分を積算したものである。したがってその値はベルト滑りが生じることにより急激に増大し始めるから、その変化の生じる時点を推定するために、前記バンドパス積算値仮データE(a) が予め定めたしきい値Tbps より小さいか否かが判断される(ステップS406)。
【0067】
図1を参照して説明したように、滑りが生じたことの判定は、滑りがある程度進行した状態で成立するので、滑り検出時点T1 でのバンドパス積算値Fbps はある程度大きい値となっている。したがってその時点を僅か遡った時点では、バンドパス積算値仮データE(a) が相対的に大きい値となっているから、ステップS406で否定的に判断される。その場合、過去に遡ってバンドパス積算値Fbps を求め、その判定をおこなうために、時間指標iを“1”だけ減じて、1サイクルタイム分過去に戻る(ステップS409)。そして、ステップS402以降の制御を再度実行する。
【0068】
実変速比γのバンドパス積算値Fbps は、過去に遡るほど小さくなるから、図5のルーチンを複数回繰り返した場合に、過去の所定時点におけるバンドパス積算値Fbps およびその仮データE(a) が前記しきい値Tbps より小さくなり、その結果、ステップS406で肯定的に判断される。これは、図6のタイムチャートにおけるT2 時点であり、この時点を滑り開始時点と推定する。
【0069】
その場合は、バンドパス積算値仮データE(a) が他の仮データE(b) とされ、かつ挟圧力保存データPdact(a) が他の保存データPdact(b) とされ、また時間保存データTspreが他の時間保存データTS とされ、そしてフラグjが“1”にセットされる(ステップS407)。このステップS407は、しきい値Tbps を下回るバンドパス積算値、その時の挟圧力、時間を一次的に格納するためのものであり、したがってこれに続くステップS408でこれらのデータE(b) ,Pdact(b) ,TS が記憶される。
【0070】
その後にステップS402に戻るが、その時点ではしきい値Tbps を下回るバンドパス積算値が既に求められてフラグjが“1”にセットされているので、ステップS402で否定的に判断される。その場合は、しきい値Tbps を下回ったバンドパス積算値に対応する挟圧力保存データPdact(b) が限界挟圧力とされ、またその時点を示す時間に関する記憶値TS が、滑り開始時点(すなわち滑り検出時点T1 から滑り開始時点までの時間間隔)Tpredetとして設定される(ステップS411)。その後、図1のステップS110に進む。
【0071】
他方、滑り検出時点T1 から所定時間Tpreslpの間遡るまでに前記しきい値Tbps を下回るバンドパス積算値がなかった場合、ステップS402で肯定的に判断されるとともに、ステップS403で肯定的に判断される。その場合、滑り検出時点T1 から所定時間Tpreslp遡った時点(i時点)の挟圧力Pdact(i) が限界挟圧力とされ、また滑り開始から滑り検出までの時間Tpredetが“0”に設定される(ステップS410)。その後、図1のステップS110に進む。
【0072】
実変速比γのバンドパス積算値Fbsp は、無段変速機1での滑りの程度に応じて変化し、その他の変化成分が捨象されたものであるから、滑りが検出された場合に、それより以前の時点に順に遡ってバンドパス積算値Fbsp を評価し、初めてしきい値Tbps を下回った時点を滑り開始時点と推定することにより、滑り開始時期を正確に推定することができる。なお、滑りの検出を、実変速比γに替えてそのバンドパス積算値に基づいておこなうようにしてもよい。
【0073】
ところで、上述した各具体例は、滑り検出時点から過去の時点に順に遡って滑り開始時点を推定し、またその時点の挟圧力を検出するように構成された例であるが、これに替えて滑り検出時点に対して所定時間前の時点から滑り検出時点に向けて時間を追って(時間を進めて)データを判定することにより、滑り開始時期点を推定し、かつその推定された滑り開始時点の挟圧力を検出するように構成してもよい。その例を図7および図8に示してある。
【0074】
図7に示すフローチャートは、前述した図2に示すフローチャートもしくは図5に示すフローチャートに替わるものであって、図1におけるステップS107に続けて実行される。図7において、先ず、実変速比γと推定変速比γpre との偏差(以下、仮に、その偏差を変速比偏差と記す)の仮データG(b) およびフラグjがゼロリセット(初期化)され、かつ時間指標iが設定される(ステップS501)。このフラグjは、滑り開始時期が推定された場合に“1”にセットされるフラグである。また、時間指標iは、ルーチンの繰り返し実行回数の積算値であり、予め定めた時間Tpreslpを前記サイクルタイムTspで割った値に負の符号を付けた値に設定される。すなわち、滑りの検出時点T1 を基点(ゼロ点)とした所定時間Tpreslp前の時点(図8のT3 時点)を負の値の起算点として設定し、ルーチンを一回実行する毎にその絶対値を減じてゼロまでカウントするようになっている。
【0075】
ついで、そのフラグjが“0”か否かが判断される(ステップS502)。制御の開始当初はこのステップS502で否定的に判断される。そして、時間指標iが“0”以上か否かが判断される(ステップS503)。この時間指標iは、負の値からゼロに向けてカウントするものであるから、当初はゼロより小さく、したがってステップS503で否定的に判断される。その場合、その時点(i時点)における実変速比γ(i) と推定変速比Ppre(i)との偏差が算出され、これが変速比偏差仮データG(a) とされる(ステップS504)。また、その時点の実際の挟圧力Pdact(i) が挟圧力保存データPdact(a) とされ、かつその時点を示す時間指標iが時間保存データTspreとされる(ステップS505)。これは、図2に示すステップS304や図5に示すステップS405と同様の処理である。
【0076】
変速比偏差は、滑り検出時点T1 より充分以前の時点ではほぼゼロである。前述したように挟圧力を次第に低下させて無段変速機1のトルク容量を低下させれば、入力トルクや出力側から入力されるトルクの変動などによって実変速比γの変動が僅か大きくなり、それに併せて変速比偏差が変動する。このような変動があっても、滑り(いわゆるマクロスリップ)が開始する以前では、変速比偏差が小さい値となる。したがって上記のステップS505に続くステップS506で変速比偏差仮データG(a) が予め定めたしきい値Tf より大きいか否かを判断した場合、否定的に判断される。その場合、過去の時点から滑り検出時点T1 に向けて時間を追って変速比偏差を求め、その判定をおこなうために、時間指標iを“1”だけ加算して、1サイクルタイム分時間を進める(ステップS509)。そして、ステップS502以降の制御を再度実行する。
【0077】
変速比偏差は、挟圧力が過去の所定時点から滑り検出時点T1 に向けて時間を追う毎に低下させられていることにより、過去の時点から時間を所定量進めた時点から増大し始める。そのため、図7のルーチンを複数回繰り返した場合に、過去の所定時点における変速比偏差がしきい値Tf より大きくなり、その結果、ステップS506で肯定的に判断される。これは、図8のタイムチャートにおけるT2 時点であり、この時点が滑り開始時点と推定される。
【0078】
その場合は、変速比偏差仮データG(a) が他の仮データG(b) とされ、かつ挟圧力保存データPdact(a) が他の保存データPdact(b) とされ、また時間保存データTspreが他の時間保存データTS とされ、そしてフラグjが“1”にセットされる(ステップS507)。このステップS507は、しきい値Tf を上回る変速比偏差、その時の挟圧力、時間を一次的に格納するためのものであり、したがってこれに続くステップS508でこれらのデータG(b) ,Pdact(b) ,TS が記憶される。
【0079】
その後にステップS502に戻るが、その時点ではしきい値Tf を上回る変速比偏差が既に求められてフラグjが“1”にセットされているので、ステップS502で否定的に判断される。その場合は、しきい値Tf を上回った変速比偏差に対応する挟圧力保存データPdact(b) が限界挟圧力とされ、またその時点を示す時間に関する記憶値TS が、滑り開始時点(すなわち滑り検出時点T1 から滑り開始時点までの時間間隔)Tpredetとして設定される(ステップS511)。その後、図1のステップS110に進む。
【0080】
他方、滑り検出時点T1 から所定時間Tpreslpの間に前記しきい値Tf を上回る変速比偏差がなかった場合、ステップS502で肯定的に判断されるとともに、ステップS503で肯定的に判断される。その場合、滑り検出時点T1 (i時点)の挟圧力Pdact(i) が限界挟圧力とされ、また滑り開始から滑り検出までの時間Tpredetとして前記所定時間Tpreslpが設定される(ステップS510)。その後、図1のステップS110に進む。
【0081】
したがって図7に示す例では、滑り検出時点T1 から滑りの開始していない所定時間Tpreslp前までの間において、滑りの開始していない状態から時間を進めて変速比偏差を判定し、その変速比偏差がしきい値Tf を初めて超えた時点を滑り開始時点として推定し、その時点の挟圧力を限界挟圧力とする。すなわち、その推定された滑り開始時点の変速比偏差は、滑りの検出のためには、外乱などとの区別が困難になる程度に小さいが、滑りが既に検出されていてその滑りに繋がる変速比偏差の増大と見なし得るので、これをもって滑りの開始と推定することとしてある。言い換えれば、滑りが既に検出されていることにより、外乱などと峻別することができ、誤りのない滑り開始時点の推定となる。
【0082】
なお、上述した図1に示す例では、挟圧力の復帰タイミングを入力トルクの復帰タイミングに同期させるために遅れ時間を制御するように構成したが、この発明では、挟圧力を復帰させる際のアップ指令値Pdup を制御するように構成してもよい。その例を図9に示してある。この図9に示す例は、前述した図1に示すフローチャートにおけるステップS110ないしステップS118を変更したものであり、他の各ステップの内容は図1と同じであるから、図1と異なる部分のみ説明し、図1と同じ部分には図1と同じステップ番号を付してその説明を省略する。
【0083】
図9において、フラグF1 が“1”にセットされていることによりステップS101で肯定的に判断された場合、または前述した図2あるいは図5もしくは図7で限界挟圧力が求められた場合、油圧指令値Pdtgtのアップ量Pdup が、推定された滑り開始時点T2 から滑り検出時点T1 までの遅れ時間Tpredetとエンジン回転数Ne(i)とに基づいて算出される(ステップS210)。このアップ量Pdup は、挟圧力がベルト滑り開始時点の挟圧力に復帰するタイミングと、入力トルク(エンジントルク)を低下させた後に復帰するタイミングとを同期させるための時間であり、予め定めた関数f2 によって演算することができ、また予め定めたマップから求めることができる。
【0084】
図9に示すように、このアップ量Pdup を求めた後にベルト滑りが収束したか否かが判断される(ステップS211)。この判断は、前述した変速比偏差が所定値以内に低下したか否かによっておこなうことができる。このステップS211で否定的に判断された場合、すなわちベルト滑りが継続している場合には、エンジン(E/G)トルクダウン制御が実行される(ステップS212)。ついで油圧アップ制御が実行される(ステップS213)。これらステップS211,S213,S213の各制御は、図1におけるステップS111,S112,S114の各制御と同様である。なお、ベルト滑りが収束していてステップS211で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS213に進む。
【0085】
その後、再度、ベルト滑りが収束しているか否かが判断される(ステップS214)。図1を参照して説明したように、エンジントルクダウン制御と挟圧力の増大指令とをおこなっていることにより、ベルト滑りが次第に収束し、当初はステップS214で否定的に判断されてリターンするものの、時間が経過することによって滑り収束の判断が成立してステップS214で肯定的に判断され、その場合には、フラグF1 がゼロリセットされる(ステップS215)。
【0086】
ここで上記の各具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS106の機能的手段が、この発明の滑り検出手段に相当し、またステップS306,S307,S310,S311の機能的手段が、この請求項1および2ならびに4の発明における滑り開始時期推定手段および挟圧力決定手段に相当する。さらにステップS406,S407の機能的手段が、請求項3の発明における滑り開始時期推定手段および挟圧力決定手段に相当する。そして、ステップS110,S210の機能的手段が、請求項4の発明における挟圧力制御手段に相当する。
【0087】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、ベルト式無段変速機以外にトラクション式の無段変速機を対象とする制御装置にも適用することができる。
【0088】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、滑り検出時点より以前の実変速比と推定変速比とに基づいて滑りの開始時期が推定され、その滑り開始時期における挟圧力に基づいて、入力トルクに釣り合う限界挟圧力が求められるので、滑りが開始した時期を正確に推定することができるともに、入力トルクに釣り合う挟圧力である限界挟圧力を正確に求めることができる。
【0089】
また、請求項2の発明によれば、滑りが検出された時点から順次過去に遡って、実変速比と推定変速比との偏差が求められ、その偏差の変動が、過去に遡るに従って収束し、かつ最小となった時点が滑り開始時点として推定されるので、実変速比や変速比偏差に変動が生じていても、滑りが開始した時期を正確に推定することができるともに、入力トルクに釣り合う挟圧力である限界挟圧力を正確に求めることができる。
【0090】
さらに、請求項3の発明によれば、滑り検出時点より以前の実変速比のフィルタ処理値が求められるとともに過去に遡って判定され、そのフィルタ処理値が、滑り検出時点から順次過去に遡った場合に最初に所定値以下となる時点が、滑り開始時期として推定され、その滑り開始時期における挟圧力に基づいて、入力トルクに釣り合う限界挟圧力が求められるので、実変速比の検出値に変動があっても、滑りが開始した時期を正確に推定することができ、またそれに伴って正確に限界挟圧力を求めることができる。
【0091】
そして、請求項4の発明によれば、滑り検出時点より以前の滑りが開始した時期が推定され、これらの滑りの検出時点と推定された滑り開始時期との時間差に基づいて、低下させた挟圧力の増大制御の制御内容が変更され、もしくは設定されるから、挟圧力を低下させることにより生じた滑りを収束させるのに適した挟圧力の増大制御を実行でき、滑りを速やかに収束させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の制御装置による制御の一例における滑り検出までの制御および滑りを収束させるための制御を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1に示すフローチャートに続くステップであって滑り開始時期を推定するための制御を説明するためのフローチャートである。
【図3】図2の制御に対応するタイムチャートである。
【図4】図1の制御に対応するタイムチャートである。
【図5】図2のフローチャートで示す制御に替わる他の制御を示すフローチャートである。
【図6】図5の制御に対応するタイムチャートである。
【図7】図2あるいは図5のフローチャートで示す制御に替わる他の制御を示すフローチャートである。
【図8】図7の制御に対応するタイムチャートである。
【図9】図1のフローチャートで示す制御に替わる他の制御を示すフローチャートである。
【図10】この発明で対象とする無段変速機を含む駆動系統の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機、 4…エンジン(動力源)、 19…駆動プーリー、 20…従動プーリー、 23…ベルト、 29…入力軸回転速度センサー、 30…出力軸回転速度センサー、 31…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。
Claims (4)
- 挟圧力に応じてトルク容量が設定され、かつそのトルク容量が入力トルクと釣り合う限界挟圧力を、検出された滑りの状態に基づいて設定する無段変速機の制御装置において、
前記滑りを検出する滑り検出手段と、
その滑り検出手段で滑りが検出される以前の実変速比と推定変速比とに基づいて前記滑りの開始時期を推定する滑り開始時期推定手段と、
その滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期における前記挟圧力に基づいて前記限界挟圧力を求める挟圧力決定手段と
を備えていることを特徴とする無段変速機の制御装置。 - 前記滑り開始時期推定手段は、前記実変速比と推定変速比との偏差を前記滑り検出手段が前記滑りを検出した時点より順次過去に遡って判定することにより、その偏差の変動が収束しかつその偏差が最小の値となる時点を前記滑りの開始時期と推定するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
- 挟圧力に応じてトルク容量が設定され、かつそのトルク容量が入力トルクと釣り合う限界挟圧力を、検出された滑りの状態に基づいて設定する無段変速機の制御装置において、
前記滑りを検出する滑り検出手段と、
実変速比のフィルタ処理値を前記滑り検出手段で滑りが検出された時点より順次過去に遡って判定することにより、そのフィルタ処理値が所定値以下となる時点を滑りか開始時期と推定する滑り開始時期推定手段と、
その滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期における前記挟圧力に基づいて前記限界挟圧力を求める挟圧力決定手段と
を備えていることを特徴とする無段変速機の制御装置。 - トルク容量を設定する挟圧力を低下させることに伴う滑り状態に基づいて、前記トルク容量が入力トルクに釣り合う限界挟圧力を設定する無段変速機の制御装置において、
前記挟圧力の低下に基づく滑りを検出する滑り検出手段と、
その滑りが実際に発生した時点を推定する滑り開始時期推定手段と、
前記滑り検出手段が前記滑りを検出した時点と前記滑り開始時期推定手段で推定された滑りの開始時期との時間間隔に基づいて、前記低下させた挟圧力を増大させる制御内容を変更する挟圧力制御手段と
を備えていることを特徴とする無段変速機の制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003167600A JP2005003101A (ja) | 2003-06-12 | 2003-06-12 | 無段変速機の制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003167600A JP2005003101A (ja) | 2003-06-12 | 2003-06-12 | 無段変速機の制御装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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ID=34093366
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JP (1) | JP2005003101A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2022085680A1 (ja) | 2020-10-22 | 2022-04-28 | 京都府公立大学法人 | ヒト角膜内皮細胞及び/又はヒト角膜内皮前駆細胞の保存方法 |
-
2003
- 2003-06-12 JP JP2003167600A patent/JP2005003101A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2022085680A1 (ja) | 2020-10-22 | 2022-04-28 | 京都府公立大学法人 | ヒト角膜内皮細胞及び/又はヒト角膜内皮前駆細胞の保存方法 |
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