JP2005002445A - 球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】焼戻し処理を廃止して、熱処理にかかる費用の低減を図ることができると共に、熱処理時間の短縮化を図ることの可能な球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法を提供する。
【解決手段】ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の内周側に冷却装置13を配置し、筒状部14の外周側に高周波誘導加熱装置12の高周波誘導加熱用コイル12aを配置した状態で、冷却装置13の噴射孔13aから冷却水を噴射して内周部14bを冷却すると共に、高周波誘導加熱装置12により外周部14aを高周波誘導加熱する。このとき、常温から1100℃の加熱温度となるまで加熱時間11.5秒で一気に高周波誘導加熱する。そして、加熱温度が1100℃に到達すると同時に高周波誘導加熱を終了し、3.5秒後に高周波誘導加熱用コイル12aと一体化された冷却装置の噴射孔からも冷却水を噴射して筒状部14の両側から外周部14aを冷却する。
【選択図】 図1
【解決手段】ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の内周側に冷却装置13を配置し、筒状部14の外周側に高周波誘導加熱装置12の高周波誘導加熱用コイル12aを配置した状態で、冷却装置13の噴射孔13aから冷却水を噴射して内周部14bを冷却すると共に、高周波誘導加熱装置12により外周部14aを高周波誘導加熱する。このとき、常温から1100℃の加熱温度となるまで加熱時間11.5秒で一気に高周波誘導加熱する。そして、加熱温度が1100℃に到達すると同時に高周波誘導加熱を終了し、3.5秒後に高周波誘導加熱用コイル12aと一体化された冷却装置の噴射孔からも冷却水を噴射して筒状部14の両側から外周部14aを冷却する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、球状黒鉛鋳鉄部材の耐摩耗性や強度を向上させるために、球状黒鉛鋳鉄部材に対して高周波焼入れ処理を施すことが行われており、該高周波焼入れ処理の前に、球状黒鉛鋳鉄部材に対して焼入れ処理と焼戻し処理との2工程の熱処理を施す熱処理方法が知られている(特許文献1参照)。この特許文献1には、球状黒鉛鋳鉄部材をA1変態点以上の800〜900℃程度に加熱した後に急冷して焼入れ処理することで球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織のフェライトを消失させ、次いで、球状黒鉛鋳鉄部材をA1変態点未満の温度に加熱した後に徐冷して焼戻し処理し、この焼入れ処理と焼戻し処理とにより球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織をソルバイトとした後に、該球状黒鉛鋳鉄部材に高周波焼入れ処理を施して高周波焼入れ層を形成することが記載されています。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−68261号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来技術では、球状黒鉛鋳鉄部材に対して高周波焼入れ処理を施す前に、焼入れ処理及び焼戻し処理の2工程の熱処理が必要不可欠であるため、熱処理時間が長くなってしまうと同時に、熱処理にかかる費用も嵩んでしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼戻し処理を廃止して、熱処理時間の短縮化を図ることができると共に、熱処理にかかる費用の低減を図ることの可能な球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した実情に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、基地組織にフェライトの多い球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの分布が不均一な球状黒鉛鋳鉄からなる球状黒鉛鋳鉄部材に対して従来技術のような熱処理(特に焼戻し処理)を施さなくても、球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上にすることのできる熱処理方法を見出すと共に、当該熱処理を施して基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上とした球状黒鉛鋳鉄部材に対して更に高周波焼入れ処理を施すと耐摩耗性や強度が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の発明における球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法は、フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、前記部材の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱した部材の加熱部位を冷却して、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることをその要旨としている。
【0008】
ここで、高周波誘導加熱の加熱時間を8〜15秒と設定したのは、8秒未満の場合、加熱時間が短すぎて球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位における基地組織のオーステナイト化が不十分となってしまうおそれがあり、15秒を超える場合、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位が部分的に溶損してしまうおそれがあるからである。また、加熱温度の上限値を1050〜1150℃の温度に設定した理由は、上限値が1050℃未満の温度では、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位の基地組織が十分にオーステナイト化されないおそれがあり、上限値が1150℃を超える温度では、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位が部分的に溶損してしまうおそれがあるからである。更に、加熱温度の上限値が1150℃を超える場合には、高周波誘導加熱する際に使用する高周波誘導加熱装置の耐久性及び信頼性の著しい低下を招くおそれもある。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の少なくとも一部である加熱部位が8〜15秒の加熱時間内で常温から加熱温度上限値の1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱される。このとき、高周波誘導加熱された球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位は、部分的に溶損することなく、その基地組織は十分にオーステナイト化される。この後、基地組織のオーステナイト化された加熱部位が冷却されることにより、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上にすることが可能となる。以上のように、球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるように熱処理することで、球状黒鉛鋳鉄部材の所望部位(基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった部位)において耐摩耗性や強度を向上させるための事後処理である高周波焼入れ処理を良好な状態で行うことが可能となる。
【0010】
また、請求項1に記載の発明によれば、従来技術の場合と異なり、焼戻し処理を施さなくても、事後処理の高周波焼入れ処理を施すことの可能な球状黒鉛鋳鉄部材とすることができるため、従来技術と比較して熱処理時間を短縮させることができると共に、熱処理にかかる費用を低減させることができる。更に、請求項1に記載の発明では、加熱時間が8〜15秒という短時間で行われるため、球状黒鉛鋳鉄部材(加熱部位)には表面酸化(錆)や脱炭が発生しにくい。
【0011】
請求項2に記載の発明における球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法は、フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、前記部材は少なくとも筒状部を有しており、該筒状部の外周側及び内周側のうちの一方の側から該筒状部を冷却すると共に、他方の側から該筒状部の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱を直ちに終了し、次いで前記高周波誘導加熱した筒状部の加熱部位を筒状部の外周側と内周側との両側から冷却して、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることをその要旨としている。ここで、高周波誘導加熱の加熱時間を8〜15秒と設定した理由や、加熱温度の上限値を1050〜1150℃の温度に設定した理由は、既述した請求項1での理由と同じである。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部における外周側及び内周側のうちの他方の側から筒状部の少なくとも一部を高周波誘導加熱する際に、筒状部の外周側及び内周側のうちの一方の側から筒状部を冷却した状態で高周波誘導加熱が行われることとなる。この場合、筒状部においては、高周波誘導加熱される側が筒状部の外周側(外周部の側)となるときには、冷却される側(高周波誘導加熱されない側)は筒状部の内周側(内周部の側)となり、逆に、高周波誘導加熱される側が筒状部の内周側(内周部の側)となるときには、冷却される側(高周波誘導加熱されない側)は筒状部の外周側(外周部の側)となる。すなわち、請求項2に記載の発明によれば、高周波誘導加熱されない側の筒状部が冷却された状態で、高周波誘導加熱される側の筒状部の少なくとも一部の加熱部位が8〜15秒後の加熱時間内で常温から加熱温度上限値の1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱されると同時に、該高周波誘導加熱は直ちに終了される。このとき、高周波誘導加熱された球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部における加熱部位では、部分的に溶損することなく、その基地組織は十分にオーステナイト化されるが、高周波誘導加熱された加熱部位の反対側(裏側)の部位(冷却された部位)では、その基地組織はオーステナイト化されずにフェライトや面積率20%以下のパーライトのままとなる。このような現象が起こる理由は、高周波誘導加熱によって加熱部位に付与された熱が加熱部位の反対側の部位まで伝導しないように、加熱部位の反対側(裏側)の部位が高周波誘導加熱時に冷却されているからである。
【0013】
次に、加熱部位の基地組織がオーステナイト化された後、加熱部位が筒状部の外周側と内周側との両側から直接的及び間接的に冷却されることにより、該加熱部位は、確実かつ効率良く冷却されることとなり、その基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上にすることが可能となる。請求項2に記載の発明によれば、筒状部の外周部及び内周部のうちの一方を冷却した状態で、筒状部の外周部及び内周部のうちの他方の少なくとも一部を高周波誘導加熱しているため、筒状部の外周部又は内周部の部位の少なくとも一部分のみ、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上とすることが可能である。以上のように、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部における少なくとも一部の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるように熱処理することで、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の所望部位(基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった筒状部の外周部又は内周部の少なくとも一部)において耐摩耗性や強度を向上させるための事後処理である高周波焼入れ処理を良好な状態で行うことが可能となる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、従来技術の場合と異なり、焼戻し処理を施さなくても、事後処理の高周波焼入れ処理を施すことの可能な球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の一部とすることができるため、従来技術と比較して熱処理時間を短縮させることができると共に、熱処理にかかる費用を低減させることができる。更に、請求項2に記載の発明では、加熱時間が8〜15秒という短時間で行われるため、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部(加熱部位)には表面酸化(錆)や脱炭が発生しにくい。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法において、前記冷却は冷却水を用いた水冷により行われ、該冷却水は防錆成分を含有していることをその要旨としている。
【0016】
上記請求項3に記載の発明によれば、請求項1,請求項2に記載の発明の作用効果に加えて、冷却が防錆成分を含有した冷却水の水冷により行われるため、冷却時及び乾燥後の球状黒鉛鋳鉄部材の表面には防錆成分が付着することとなり、球状黒鉛鋳鉄部材の防錆機能が発揮されるようになる。これにより、事後処理の高周波焼入れを行う場合に、球状黒鉛鋳鉄部材の表面酸化がより確実に抑制されることとなる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法において、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対し、更に高周波焼入れ処理を施すことをその要旨としている。
【0018】
上記請求項4に記載の発明によれば、請求項1,請求項2,請求項3に記載の発明の作用効果に加えて、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対し、事後処理の高周波焼入れ処理を施すことで、当該部位は、その基地組織がマルテンサイト化されて耐摩耗性や強度が向上されるようになる。従って、耐摩耗性や強度が必要とされる球状黒鉛鋳鉄部材の部位をマルテンサイト化するように設定することで、球状黒鉛鋳鉄部材を摺動部品や回転部品等の耐磨耗性や強度の要求される部品に適用することが可能となる。また、本発明によれば、上述した球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位における基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにする処理と、請求項4に記載の高周波焼入れ処理とを同一の装置(例えば高周波誘導加熱装置及び冷却装置)を用いて行うことも可能となる。これにより、熱処理に係る設備コストの増大が抑制されたり、熱処理時の作業性の低下が抑制されたり等する。
【0019】
なお、上述した請求項1又は請求項2において、「前記高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始すること」は好ましい。高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始する理由は、2秒未満の場合、加熱部位の基地組織が不均一なマルテンサイトになってしまうおそれがあり、5秒を超える場合、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上とならない場合が生じるおそれがあるからである。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明における球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法について、詳述する。
【0021】
本発明の熱処理方法を施す前の球状黒鉛鋳鉄部材としては、基地組織にフェライトの多い球状黒鉛鋳鉄(フェライト球状黒鉛鋳鉄)、又は、基地組織のパーライトの分布が不均一な球状黒鉛鋳鉄(基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄)にて形成された球状黒鉛鋳鉄部材を用いる必要がある。ここで、球状黒鉛鋳鉄としては、FCD400、FCD450等を例示することができる。なお、本明細書中において、「基地組織のパーライトの面積率」とは、球状黒鉛鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄部材)の基地組織の全体面積に対して基地組織中のパーライトが占める面積の割合を意味する。
【0022】
球状黒鉛鋳鉄部材の形状は、特に限定されるものではなく、盤状や環状をなしていたり、部材の少なくとも一部に筒状部を有していたり、部材の少なくとも一部に板状部を有していたり等してもよい。球状黒鉛鋳鉄部材としては、例えば、車両部品のケースリングギヤマウンティング11(図1参照)、デフケース21(図2参照)、シャフトローター等が挙げられる。ケースリングギヤマウンティングは、急なハンドル操作や滑りやすい路面でのコーナリング時に発生する車両の横滑りをセンサーが感知して各輪のブレーキ及びエンジン出力を自動的にコントロールするVSC(Vehicle Stability Control)の一部品である。また、デフケースは、ディファレンシャルギヤのサイドギヤとピニオンの入っているケースのことであり、図2に示したデフケース21においては、その耐摩耗性や強度が必要とされる部位は筒状部22の内周部22aとなっている。
【0023】
上述した球状黒鉛鋳鉄部材を高周波誘導加熱する際には、高周波誘導加熱装置を用い、この高周波誘導加熱装置は、高周波による誘導電流を流して高周波誘導加熱することの可能な高周波誘導加熱用コイルを備えている。この高周波誘導加熱装置としては、図1に示すような高周波誘導加熱装置12を例示でき、この高周波誘導加熱装置12は、筒状部を有する球状黒鉛鋳鉄部材に対応したものである。図1は、球状黒鉛鋳鉄部材としてのケースリングギヤマウンティング11を熱処理する高周波誘導加熱装置12及び冷却装置13の断面を簡略化して示した図である。図1に示した高周波誘導加熱装置12は、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周部14aを囲繞するような円環状の高周波誘導加熱用コイル12aを備えており、この高周波誘導加熱用コイル12aに高周波による誘導電流を流すことにより、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周部14aを高周波誘導加熱するようになっている。図1の高周波誘導加熱装置12は、加熱部位に対して高周波誘導加熱用コイル12aを動かさずに高周波誘導加熱を行う固定式のものであるが、高周波誘導加熱装置として、加熱部位に対して高周波誘導加熱用コイルを動かしながら高周波誘導加熱を行う移動式のものを採用するようにしてもよい。
【0024】
高周波誘導加熱装置を用いて球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位を高周波誘導加熱する加熱時間は、8〜15秒の時間内に設定する必要がある。この加熱時間は、9〜14秒、10〜13秒に設定することが好ましく、11〜12秒、11.5秒に設定することがより好ましい。また、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位を高周波誘導加熱する加熱温度は、下限値の常温から上限値の1050〜1150℃の温度範囲に設定する必要がある。加熱温度の上限値は、1055〜1145℃、1060〜1140℃、1065〜1135℃の温度が好ましく、1070〜1130℃、1075〜1125℃、1080〜1120℃の温度がより好ましく、1085〜1115℃、1090〜1110℃、1095〜1105℃、1100℃の温度が更に好ましい。常温から上限値の温度まで高周波誘導加熱する際には、一気に、すなわち一定の加熱速度で加熱する必要がある。なお、上述した加熱時間は、高周波誘導加熱したときに、常温から上限値の温度に到達するまでに要した時間に相当する。
【0025】
上述したように高周波誘導加熱の加熱温度が上限値の温度に到達した後、その高周波誘導加熱を直ちに終了しなければならない。高周波誘導加熱を終了する場合には、高周波誘導加熱装置を球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位から離間させたり、高周波誘導加熱装置の高周波誘導加熱用コイルに高周波による誘導電流が流れないようにしたり等することにより行うことができる。以上のように高周波誘導加熱を直ちに終了することで、加熱温度が設定した上限値の温度を超えることはない。なお、球状黒鉛鋳鉄部材が少なくとも筒状部を有しており、該筒状部の外周部及び内周部のうちの一方の部位を高周波誘導加熱する場合には、該筒状部の外周部及び内周部のうちの他方の部位を冷却した状態で高周波誘導加熱するようにしてもよい。また、球状黒鉛鋳鉄部材が少なくとも板状部を有しており、該板状部の表面部位及び裏面部位のうちの一方の部位を高周波誘導加熱する場合には、該板状部の表面部位及び裏面部位のうちの他方の部位を冷却した状態で高周波誘導加熱するようにしてもよい。
【0026】
高周波誘導加熱を終了した後、加熱部位をA1変態未満の温度になるまで冷却することにより、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるようにする。このように高周波誘導加熱した加熱部位を冷却するには、急冷する必要があり、本発明では、焼入れしなければならない。焼入れ方法としては、水焼入れ、油焼入れ、塩水焼入れ、熱浴焼入れ、塩浴焼入れ、空気焼入れ、衝風焼入れ、ガス焼入れ、噴霧焼入れ、噴射焼入れ、接触焼入れ等の方法が挙げられる。要は、焼入れ後に(加熱部位の冷却後に)、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上になるのであれば、どのような焼入れ方法(冷却方法)を採用してもよい。なお、本明細書中において、「基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率」とは、球状黒鉛鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄部材)の基地組織の全体面積に対して基地組織中のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの合計が占める面積の割合を意味する。
【0027】
焼入れ方法としては、コスト、実用性、作業性等を考慮した場合、冷却水を用いて行う水冷による焼入れ方法を採用することが好ましい。また、冷却水には、焼入れ時の割れ等を防止するための添加剤(添加液)を含有していることが好ましい。添加剤(添加液)としては、ソリュブルクエンチ TY−300(大同化学工業株式会社製)やダフニー プラスチッククエンチIH(出光興産株式会社製)等を例示できる。このソリュブルクエンチ TY−300(大同化学工業株式会社製)は、ポリアルキレングリコール、防錆剤、防黴剤、防蝕剤、消泡剤、水からなり、防錆成分(防錆剤)も含有している。
【0028】
なお、上述した冷却(焼入れ)を行う場合には、前記高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始することが好ましく、3〜4秒後の時間内で冷却を開始することがより好ましく、3.5秒後に冷却を開始することが更に好ましい。高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始する理由は、2秒未満の場合、加熱部位の基地組織が不均一なマルテンサイトになってしまうおそれがあり、5秒を超える場合、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上とならない場合が生じるおそれがあるからである。高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始するということを言い換えれば、高周波誘導加熱された加熱部位は、高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒間そのまま放置され、その直後に急冷されて焼入れされるということである。
【0029】
上述した球状黒鉛鋳鉄部材を冷却する冷却装置としては、水浴、油浴、塩浴、熱浴、流体噴射装置等が挙げられる。冷却装置としては、図1に示した流体噴射装置を例示することができる。図1に示すように、冷却装置13は、複数の噴射孔13aを備えており、この噴射孔13aから冷却水が噴射されるように設定されている。また、図1では、図示しなかったが、高周波誘導加熱装置12の高周波誘導加熱用コイル12aには、冷却装置13と同等の冷却装置が設けられており、この冷却装置と高周波誘導加熱用コイル12aは一体化されている。なお、図1においては、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周側及び内周側の両側から冷却水を噴射して筒状部14を冷却することが可能となっており、噴射された冷却水は、筒状部14の壁面に沿って下方に流れ落ちるため、この流れ落ちた冷却水を回収することが好ましい。また、回収した冷却水を再び冷却水として使用するために冷却水を循環させるようにすることがより好ましい。冷却水を回収したり、冷却水を循環させたりすることにより、冷却水の有効利用を図ることができる。
【0030】
以上のように、高周波誘導加熱した加熱部位を冷却して当該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となる場合、該基地組織は、パーライトのみで50%以上の状態、ソルバイトのみで50%以上の状態、トルースタイトのみで50%以上の状態、パーライト及びソルバイトの合計で50%以上の状態、パーライト及びトルースタイトの合計で50%以上の状態、ソルバイト及びトルースタイトの合計で50%以上の状態、パーライト、ソルバイト及びトルースタイトの合計で50%以上の状態とからなる複数の状態のうちの1つの状態となっている。ここで、上述した加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0031】
加えて、上述したように加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対し、更に高周波誘導加熱することが好ましい。このように高周波誘導加熱することで、所定部位の基地組織をマルテンサイト化して、耐摩耗性や強度を向上させることができる。マルテンサイト化のための高周波焼入れ処理を施す場合にも、上述した加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上とするときに用いた高周波誘導加熱装置及び冷却装置と同一の装置を用いてもよい。このように同一の装置を用いることにより、熱処理に係る設備コストの増大を抑制したり、熱処理時の作業性の低下を抑制したり等することができるようになる。
【0032】
高周波焼入れ処理を行う方法は、特に限定されるものではない。例えば、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位を常温から上限値の1050〜1150℃の加熱温度となるまで一定の加熱速度で加熱して常温から1050〜1150℃の加熱温度となるまでに要する加熱時間を3〜5秒の時間内で行い、次いで、加熱温度が1050〜1150℃に到達すると同時に(加熱時間3〜5秒後に)高周波誘導加熱を終了し、更に、その高周波誘導加熱の終了と同時に当該加熱部位をA1変態未満の温度となるように冷却(焼入れ)する。要は、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対して高周波焼入れ処理を施して、当該部位が(均一に)マルテンサイト化されるようになるのであれば、どのような高周波焼入れ処理を施すようにしてもよい。
【0033】
本発明の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法は、筒状部や板状部等の肉厚が薄い部位(例えば、肉厚2〜5mm)において、一方の部位(表面部位又は裏面部位)のみを該基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにして、他方の部位(裏面部位又は表面部位)の基地組織をフェライトや面積率20%以下のパーライトのままとするような場合に適している。換言すれば、本発明の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法によれば、肉厚が薄い部位の肉厚方向において、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上の部分と、基地組織がフェライトや面積率20%以下のパーライトの部分とをより確実に形成することができる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明を更に具体化した実施例1について、図1,図3,図4を併せ参照して説明する。
【0035】
まず、球状黒鉛鋳鉄部材として、FCD450相当の球状黒鉛鋳鉄からなる図1に示したケースリングギヤマウンティング11を準備すると共に、図1に示した高周波誘導加熱装置12(100KHz)及び冷却装置13を準備した。このケースリングギヤマウンティング11は、鋳造後に切削加工等して得られたものであり、先端部(上部)には筒状部14を有している。そして、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の内周側に冷却装置13を配置し、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周部14aを囲繞するように該筒状部14の外周側に高周波誘導加熱装置12の高周波誘導加熱用コイル12aを配置する。なお、熱処理前のケースリングギヤマウンティング11の筒状部14における外周部14aを観察したところ、図3に示したような組織が観察され、基地組織を占めるパーライトの面積率が7%であることを確認できた。
【0036】
次に、上述したように冷却装置13及び高周波誘導加熱装置12を所定位置に配置した状態で、冷却装置13の噴射孔13aから冷却水を噴射して筒状部14の内周部14bを内周側から冷却すると共に、高周波誘導加熱装置12の高周波誘導加熱用コイル12aによって筒状部14の外周部14a(加熱部位)を外周側から高周波誘導加熱する。このように高周波誘導加熱を行う場合、常温から1100℃の加熱温度となるまで一定の加熱速度で加熱して、常温から1100℃の加熱温度となるまでに要する加熱時間を11.5秒で行った。そして、加熱温度が1100℃に到達すると同時に(加熱時間11.5秒後に)高周波誘導加熱を終了し、その高周波誘導加熱を終了してから3.5秒後に、高周波誘導加熱用コイル12aと一体化された冷却装置の噴射孔からも冷却水を噴射して加熱部位をA1変態未満の温度となるように筒状部14の外周側及び内周側の両側から直接的及び間接的に冷却(焼入れ)する。なお、冷却水としては、ソリュブルクエンチ TY−300(大同化学工業株式会社製)を含有した水を用いた。
【0037】
その後、ケースリングギヤマウンティング11を乾燥してから該筒状部14の外周部14a(加熱部位)を観察したところ、図4に示したような組織が観察され、基地組織を占めるパーライトの面積率が70%であることを確認できた。また、筒状部14の外周部14aには、錆や脱炭の発生も観察されなかった。更に、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の内周部14bも観察したところ、図3に示した組織と同等の組織が観察された。以上のように、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周部14aに対して上述した条件の熱処理を施すことにより、事後処理の高周波焼入れ処理を行うことの可能なパーライトの面積率50%以上の筒状部14の外周部14a(パーライトの面積率:70%)が得られることがわかった。
【0038】
最後に、パーライトの面積率が70%となった筒状部14の外周部14aに対し、高周波焼入れを施す。このように高周波焼入れを行う場合、筒状部14の内周部14bを冷却装置13によって冷却した状態で、筒状部14の外周部14aを常温から1100℃の加熱温度となるまで一定の加熱速度で加熱して常温から1100℃の加熱温度となるまでに要する加熱時間を4.7秒で行い、次いで、加熱温度が1100℃に到達すると同時に(加熱時間4.7秒後に)高周波誘導加熱を終了し、更に、その高周波誘導加熱の終了と同時に、高周波誘導加熱用コイル12aと一体化された冷却装置の噴射孔からも冷却水を噴射して加熱部位をA1変態未満の温度となるように筒状部14の外周側及び内周側の両側から直接的及び間接的に冷却(焼入れ)する。このように高周波焼入れ処理を施すことにより、最終製品としてのケースリングギヤマウンティング11を得た。この得られたケースリングギヤマウンティング11に対して確認実験を行ったところ、その筒状部14の外周部14aのみが均一にマルテンサイト化されて、所望とする耐摩耗性及び強度を有していることを確認することができた。
【0039】
他に、特許請求の範囲の各請求項に記載されないものであって、前記実施の形態等から把握される技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0040】
(a)フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、
前記部材の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一定の加熱速度で高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱を直ちに終了し、次いで前記高周波誘導加熱した部材の加熱部位に対し2〜5秒後の時間内で冷却を開始して当該加熱部位を冷却することにより、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法。
【0041】
ここで、高周波誘導加熱の加熱時間を8〜15秒と設定した理由や、加熱温度の上限値を1050〜1150℃の温度に設定した理由は、既述した請求項1での理由と同じである。また、高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始する理由は、2秒未満の場合、加熱部位の基地組織が不均一なマルテンサイトになってしまうおそれがあり、5秒を超える場合、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上とならない場合が生じるおそれがあるからである。
【0042】
このようにした場合、請求項1に記載の発明の効果をより確実に奏することができる。
【0043】
(b)フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、
前記部材は少なくとも筒状部を有しており、該筒状部の外周側及び内周側のうちの一方の側から該筒状部を水冷すると共に、他方の側から該筒状部の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一定の加熱速度で高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱を直ちに終了し、次いで2〜5秒後の時間内で前記筒状部の外周側及び内周側のうちの他方の側からも水冷を開始して前記高周波誘導加熱した加熱部位を筒状部の外周側と内周側との両側から水冷することにより、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法。
【0044】
ここで、高周波誘導加熱の加熱時間を8〜15秒と設定した理由や、加熱温度の上限値を1050〜1150℃の温度に設定した理由は、既述した請求項2での理由と同じである。また、高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で水冷を開始する理由は、2秒未満の場合、加熱部位の基地組織が不均一なマルテンサイトになってしまうおそれがあり、5秒を超える場合、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上とならない場合が生じるおそれがあるからである。
【0045】
このようにすれば、請求項2に記載の発明の効果をより確実に奏することができる。また、水冷により焼入れが行われるため、他の焼入れ方法と比較してコスト、実用性、作業性等に優れている。
【0046】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、従来技術の焼戻し処理を廃止して、熱処理時間の短縮化を図ることができると共に、熱処理にかかる費用の低減を図ることができる。また、請求項1に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるように熱処理できるため、球状黒鉛鋳鉄部材の所望部位(基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった部位)において耐摩耗性や強度を向上させるための事後処理である高周波焼入れ処理を良好な状態で行うことができるようになる。更に、請求項1に記載の発明によれば、加熱時間が8〜15秒という短時間で行われるため、球状黒鉛鋳鉄部材の表面酸化(錆)や脱炭の発生を抑制することができる。
【0047】
請求項2に記載の発明によれば、従来技術の焼戻し処理を廃止して、熱処理時間の短縮化を図ることができると共に、熱処理にかかる費用の低減を図ることができる。また、請求項2に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の一部の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるように熱処理できるため、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の所望部位(基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった部位)において耐摩耗性や強度を向上させるための事後処理である高周波焼入れ処理を良好な状態で行うことができるようになる。更に、請求項2に記載の発明によれば、加熱時間が8〜15秒という短時間で行われるため、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の表面酸化(錆)や脱炭の発生を抑制することができる。
【0048】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1,請求項2に記載の発明の効果に加えて、冷却時及び乾燥後の球状黒鉛鋳鉄部材の表面に防錆成分を付着させることができるため、球状黒鉛鋳鉄部材は、その防錆機能を十分に発揮することができるようになる。そのため、事後処理の高周波焼入れを行う場合に、球状黒鉛鋳鉄部材の表面酸化をより確実に抑制することができる。
【0049】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1,請求項2,請求項3に記載の発明の効果に加えて、高周波焼入れ処理を施した部位の基地組織をマルテンサイト化して、耐摩耗性や強度を向上させることができる。また、請求項4に記載の発明によれば、耐摩耗性や強度が必要とされる球状黒鉛鋳鉄部材の部位をマルテンサイト化するように設定することで、球状黒鉛鋳鉄部材を摺動部品や回転部品等の耐磨耗性や強度の要求される部品に適用することができる。更に、請求項4に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位における基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにする処理と、高周波焼入れ処理とを同一の装置(例えば高周波誘導加熱装置及び冷却装置)を用いて行うことも可能となる。これにより、熱処理に係る設備コストの増大を抑制したり、熱処理時の作業性の低下を抑制したり等することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ケースリングギヤマウンティングを熱処理する高周波誘導加熱装置及び冷却装置を簡略化して示す断面図である。
【図2】デフケースを示す断面図である。
【図3】熱処理前のケースリングギヤマウンティングの筒状部における外周部の組織を100倍に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図4】熱処理後のケースリングギヤマウンティングの筒状部における外周部の組織を100倍に拡大して示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
11 ケースリングギヤマウンティング
12 高周波誘導加熱装置
12a 高周波誘導加熱用コイル
13 冷却装置
13a 噴射孔
14 筒状部
14a 外周部
14b 内周部
21 デフケース
22 筒状部
22a 内周部
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、球状黒鉛鋳鉄部材の耐摩耗性や強度を向上させるために、球状黒鉛鋳鉄部材に対して高周波焼入れ処理を施すことが行われており、該高周波焼入れ処理の前に、球状黒鉛鋳鉄部材に対して焼入れ処理と焼戻し処理との2工程の熱処理を施す熱処理方法が知られている(特許文献1参照)。この特許文献1には、球状黒鉛鋳鉄部材をA1変態点以上の800〜900℃程度に加熱した後に急冷して焼入れ処理することで球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織のフェライトを消失させ、次いで、球状黒鉛鋳鉄部材をA1変態点未満の温度に加熱した後に徐冷して焼戻し処理し、この焼入れ処理と焼戻し処理とにより球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織をソルバイトとした後に、該球状黒鉛鋳鉄部材に高周波焼入れ処理を施して高周波焼入れ層を形成することが記載されています。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−68261号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来技術では、球状黒鉛鋳鉄部材に対して高周波焼入れ処理を施す前に、焼入れ処理及び焼戻し処理の2工程の熱処理が必要不可欠であるため、熱処理時間が長くなってしまうと同時に、熱処理にかかる費用も嵩んでしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼戻し処理を廃止して、熱処理時間の短縮化を図ることができると共に、熱処理にかかる費用の低減を図ることの可能な球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した実情に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、基地組織にフェライトの多い球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの分布が不均一な球状黒鉛鋳鉄からなる球状黒鉛鋳鉄部材に対して従来技術のような熱処理(特に焼戻し処理)を施さなくても、球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上にすることのできる熱処理方法を見出すと共に、当該熱処理を施して基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上とした球状黒鉛鋳鉄部材に対して更に高周波焼入れ処理を施すと耐摩耗性や強度が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の発明における球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法は、フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、前記部材の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱した部材の加熱部位を冷却して、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることをその要旨としている。
【0008】
ここで、高周波誘導加熱の加熱時間を8〜15秒と設定したのは、8秒未満の場合、加熱時間が短すぎて球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位における基地組織のオーステナイト化が不十分となってしまうおそれがあり、15秒を超える場合、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位が部分的に溶損してしまうおそれがあるからである。また、加熱温度の上限値を1050〜1150℃の温度に設定した理由は、上限値が1050℃未満の温度では、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位の基地組織が十分にオーステナイト化されないおそれがあり、上限値が1150℃を超える温度では、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位が部分的に溶損してしまうおそれがあるからである。更に、加熱温度の上限値が1150℃を超える場合には、高周波誘導加熱する際に使用する高周波誘導加熱装置の耐久性及び信頼性の著しい低下を招くおそれもある。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の少なくとも一部である加熱部位が8〜15秒の加熱時間内で常温から加熱温度上限値の1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱される。このとき、高周波誘導加熱された球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位は、部分的に溶損することなく、その基地組織は十分にオーステナイト化される。この後、基地組織のオーステナイト化された加熱部位が冷却されることにより、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上にすることが可能となる。以上のように、球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるように熱処理することで、球状黒鉛鋳鉄部材の所望部位(基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった部位)において耐摩耗性や強度を向上させるための事後処理である高周波焼入れ処理を良好な状態で行うことが可能となる。
【0010】
また、請求項1に記載の発明によれば、従来技術の場合と異なり、焼戻し処理を施さなくても、事後処理の高周波焼入れ処理を施すことの可能な球状黒鉛鋳鉄部材とすることができるため、従来技術と比較して熱処理時間を短縮させることができると共に、熱処理にかかる費用を低減させることができる。更に、請求項1に記載の発明では、加熱時間が8〜15秒という短時間で行われるため、球状黒鉛鋳鉄部材(加熱部位)には表面酸化(錆)や脱炭が発生しにくい。
【0011】
請求項2に記載の発明における球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法は、フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、前記部材は少なくとも筒状部を有しており、該筒状部の外周側及び内周側のうちの一方の側から該筒状部を冷却すると共に、他方の側から該筒状部の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱を直ちに終了し、次いで前記高周波誘導加熱した筒状部の加熱部位を筒状部の外周側と内周側との両側から冷却して、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることをその要旨としている。ここで、高周波誘導加熱の加熱時間を8〜15秒と設定した理由や、加熱温度の上限値を1050〜1150℃の温度に設定した理由は、既述した請求項1での理由と同じである。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部における外周側及び内周側のうちの他方の側から筒状部の少なくとも一部を高周波誘導加熱する際に、筒状部の外周側及び内周側のうちの一方の側から筒状部を冷却した状態で高周波誘導加熱が行われることとなる。この場合、筒状部においては、高周波誘導加熱される側が筒状部の外周側(外周部の側)となるときには、冷却される側(高周波誘導加熱されない側)は筒状部の内周側(内周部の側)となり、逆に、高周波誘導加熱される側が筒状部の内周側(内周部の側)となるときには、冷却される側(高周波誘導加熱されない側)は筒状部の外周側(外周部の側)となる。すなわち、請求項2に記載の発明によれば、高周波誘導加熱されない側の筒状部が冷却された状態で、高周波誘導加熱される側の筒状部の少なくとも一部の加熱部位が8〜15秒後の加熱時間内で常温から加熱温度上限値の1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱されると同時に、該高周波誘導加熱は直ちに終了される。このとき、高周波誘導加熱された球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部における加熱部位では、部分的に溶損することなく、その基地組織は十分にオーステナイト化されるが、高周波誘導加熱された加熱部位の反対側(裏側)の部位(冷却された部位)では、その基地組織はオーステナイト化されずにフェライトや面積率20%以下のパーライトのままとなる。このような現象が起こる理由は、高周波誘導加熱によって加熱部位に付与された熱が加熱部位の反対側の部位まで伝導しないように、加熱部位の反対側(裏側)の部位が高周波誘導加熱時に冷却されているからである。
【0013】
次に、加熱部位の基地組織がオーステナイト化された後、加熱部位が筒状部の外周側と内周側との両側から直接的及び間接的に冷却されることにより、該加熱部位は、確実かつ効率良く冷却されることとなり、その基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上にすることが可能となる。請求項2に記載の発明によれば、筒状部の外周部及び内周部のうちの一方を冷却した状態で、筒状部の外周部及び内周部のうちの他方の少なくとも一部を高周波誘導加熱しているため、筒状部の外周部又は内周部の部位の少なくとも一部分のみ、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上とすることが可能である。以上のように、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部における少なくとも一部の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるように熱処理することで、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の所望部位(基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった筒状部の外周部又は内周部の少なくとも一部)において耐摩耗性や強度を向上させるための事後処理である高周波焼入れ処理を良好な状態で行うことが可能となる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、従来技術の場合と異なり、焼戻し処理を施さなくても、事後処理の高周波焼入れ処理を施すことの可能な球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の一部とすることができるため、従来技術と比較して熱処理時間を短縮させることができると共に、熱処理にかかる費用を低減させることができる。更に、請求項2に記載の発明では、加熱時間が8〜15秒という短時間で行われるため、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部(加熱部位)には表面酸化(錆)や脱炭が発生しにくい。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法において、前記冷却は冷却水を用いた水冷により行われ、該冷却水は防錆成分を含有していることをその要旨としている。
【0016】
上記請求項3に記載の発明によれば、請求項1,請求項2に記載の発明の作用効果に加えて、冷却が防錆成分を含有した冷却水の水冷により行われるため、冷却時及び乾燥後の球状黒鉛鋳鉄部材の表面には防錆成分が付着することとなり、球状黒鉛鋳鉄部材の防錆機能が発揮されるようになる。これにより、事後処理の高周波焼入れを行う場合に、球状黒鉛鋳鉄部材の表面酸化がより確実に抑制されることとなる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法において、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対し、更に高周波焼入れ処理を施すことをその要旨としている。
【0018】
上記請求項4に記載の発明によれば、請求項1,請求項2,請求項3に記載の発明の作用効果に加えて、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対し、事後処理の高周波焼入れ処理を施すことで、当該部位は、その基地組織がマルテンサイト化されて耐摩耗性や強度が向上されるようになる。従って、耐摩耗性や強度が必要とされる球状黒鉛鋳鉄部材の部位をマルテンサイト化するように設定することで、球状黒鉛鋳鉄部材を摺動部品や回転部品等の耐磨耗性や強度の要求される部品に適用することが可能となる。また、本発明によれば、上述した球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位における基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにする処理と、請求項4に記載の高周波焼入れ処理とを同一の装置(例えば高周波誘導加熱装置及び冷却装置)を用いて行うことも可能となる。これにより、熱処理に係る設備コストの増大が抑制されたり、熱処理時の作業性の低下が抑制されたり等する。
【0019】
なお、上述した請求項1又は請求項2において、「前記高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始すること」は好ましい。高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始する理由は、2秒未満の場合、加熱部位の基地組織が不均一なマルテンサイトになってしまうおそれがあり、5秒を超える場合、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上とならない場合が生じるおそれがあるからである。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明における球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法について、詳述する。
【0021】
本発明の熱処理方法を施す前の球状黒鉛鋳鉄部材としては、基地組織にフェライトの多い球状黒鉛鋳鉄(フェライト球状黒鉛鋳鉄)、又は、基地組織のパーライトの分布が不均一な球状黒鉛鋳鉄(基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄)にて形成された球状黒鉛鋳鉄部材を用いる必要がある。ここで、球状黒鉛鋳鉄としては、FCD400、FCD450等を例示することができる。なお、本明細書中において、「基地組織のパーライトの面積率」とは、球状黒鉛鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄部材)の基地組織の全体面積に対して基地組織中のパーライトが占める面積の割合を意味する。
【0022】
球状黒鉛鋳鉄部材の形状は、特に限定されるものではなく、盤状や環状をなしていたり、部材の少なくとも一部に筒状部を有していたり、部材の少なくとも一部に板状部を有していたり等してもよい。球状黒鉛鋳鉄部材としては、例えば、車両部品のケースリングギヤマウンティング11(図1参照)、デフケース21(図2参照)、シャフトローター等が挙げられる。ケースリングギヤマウンティングは、急なハンドル操作や滑りやすい路面でのコーナリング時に発生する車両の横滑りをセンサーが感知して各輪のブレーキ及びエンジン出力を自動的にコントロールするVSC(Vehicle Stability Control)の一部品である。また、デフケースは、ディファレンシャルギヤのサイドギヤとピニオンの入っているケースのことであり、図2に示したデフケース21においては、その耐摩耗性や強度が必要とされる部位は筒状部22の内周部22aとなっている。
【0023】
上述した球状黒鉛鋳鉄部材を高周波誘導加熱する際には、高周波誘導加熱装置を用い、この高周波誘導加熱装置は、高周波による誘導電流を流して高周波誘導加熱することの可能な高周波誘導加熱用コイルを備えている。この高周波誘導加熱装置としては、図1に示すような高周波誘導加熱装置12を例示でき、この高周波誘導加熱装置12は、筒状部を有する球状黒鉛鋳鉄部材に対応したものである。図1は、球状黒鉛鋳鉄部材としてのケースリングギヤマウンティング11を熱処理する高周波誘導加熱装置12及び冷却装置13の断面を簡略化して示した図である。図1に示した高周波誘導加熱装置12は、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周部14aを囲繞するような円環状の高周波誘導加熱用コイル12aを備えており、この高周波誘導加熱用コイル12aに高周波による誘導電流を流すことにより、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周部14aを高周波誘導加熱するようになっている。図1の高周波誘導加熱装置12は、加熱部位に対して高周波誘導加熱用コイル12aを動かさずに高周波誘導加熱を行う固定式のものであるが、高周波誘導加熱装置として、加熱部位に対して高周波誘導加熱用コイルを動かしながら高周波誘導加熱を行う移動式のものを採用するようにしてもよい。
【0024】
高周波誘導加熱装置を用いて球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位を高周波誘導加熱する加熱時間は、8〜15秒の時間内に設定する必要がある。この加熱時間は、9〜14秒、10〜13秒に設定することが好ましく、11〜12秒、11.5秒に設定することがより好ましい。また、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位を高周波誘導加熱する加熱温度は、下限値の常温から上限値の1050〜1150℃の温度範囲に設定する必要がある。加熱温度の上限値は、1055〜1145℃、1060〜1140℃、1065〜1135℃の温度が好ましく、1070〜1130℃、1075〜1125℃、1080〜1120℃の温度がより好ましく、1085〜1115℃、1090〜1110℃、1095〜1105℃、1100℃の温度が更に好ましい。常温から上限値の温度まで高周波誘導加熱する際には、一気に、すなわち一定の加熱速度で加熱する必要がある。なお、上述した加熱時間は、高周波誘導加熱したときに、常温から上限値の温度に到達するまでに要した時間に相当する。
【0025】
上述したように高周波誘導加熱の加熱温度が上限値の温度に到達した後、その高周波誘導加熱を直ちに終了しなければならない。高周波誘導加熱を終了する場合には、高周波誘導加熱装置を球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位から離間させたり、高周波誘導加熱装置の高周波誘導加熱用コイルに高周波による誘導電流が流れないようにしたり等することにより行うことができる。以上のように高周波誘導加熱を直ちに終了することで、加熱温度が設定した上限値の温度を超えることはない。なお、球状黒鉛鋳鉄部材が少なくとも筒状部を有しており、該筒状部の外周部及び内周部のうちの一方の部位を高周波誘導加熱する場合には、該筒状部の外周部及び内周部のうちの他方の部位を冷却した状態で高周波誘導加熱するようにしてもよい。また、球状黒鉛鋳鉄部材が少なくとも板状部を有しており、該板状部の表面部位及び裏面部位のうちの一方の部位を高周波誘導加熱する場合には、該板状部の表面部位及び裏面部位のうちの他方の部位を冷却した状態で高周波誘導加熱するようにしてもよい。
【0026】
高周波誘導加熱を終了した後、加熱部位をA1変態未満の温度になるまで冷却することにより、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるようにする。このように高周波誘導加熱した加熱部位を冷却するには、急冷する必要があり、本発明では、焼入れしなければならない。焼入れ方法としては、水焼入れ、油焼入れ、塩水焼入れ、熱浴焼入れ、塩浴焼入れ、空気焼入れ、衝風焼入れ、ガス焼入れ、噴霧焼入れ、噴射焼入れ、接触焼入れ等の方法が挙げられる。要は、焼入れ後に(加熱部位の冷却後に)、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上になるのであれば、どのような焼入れ方法(冷却方法)を採用してもよい。なお、本明細書中において、「基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率」とは、球状黒鉛鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄部材)の基地組織の全体面積に対して基地組織中のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの合計が占める面積の割合を意味する。
【0027】
焼入れ方法としては、コスト、実用性、作業性等を考慮した場合、冷却水を用いて行う水冷による焼入れ方法を採用することが好ましい。また、冷却水には、焼入れ時の割れ等を防止するための添加剤(添加液)を含有していることが好ましい。添加剤(添加液)としては、ソリュブルクエンチ TY−300(大同化学工業株式会社製)やダフニー プラスチッククエンチIH(出光興産株式会社製)等を例示できる。このソリュブルクエンチ TY−300(大同化学工業株式会社製)は、ポリアルキレングリコール、防錆剤、防黴剤、防蝕剤、消泡剤、水からなり、防錆成分(防錆剤)も含有している。
【0028】
なお、上述した冷却(焼入れ)を行う場合には、前記高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始することが好ましく、3〜4秒後の時間内で冷却を開始することがより好ましく、3.5秒後に冷却を開始することが更に好ましい。高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始する理由は、2秒未満の場合、加熱部位の基地組織が不均一なマルテンサイトになってしまうおそれがあり、5秒を超える場合、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上とならない場合が生じるおそれがあるからである。高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始するということを言い換えれば、高周波誘導加熱された加熱部位は、高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒間そのまま放置され、その直後に急冷されて焼入れされるということである。
【0029】
上述した球状黒鉛鋳鉄部材を冷却する冷却装置としては、水浴、油浴、塩浴、熱浴、流体噴射装置等が挙げられる。冷却装置としては、図1に示した流体噴射装置を例示することができる。図1に示すように、冷却装置13は、複数の噴射孔13aを備えており、この噴射孔13aから冷却水が噴射されるように設定されている。また、図1では、図示しなかったが、高周波誘導加熱装置12の高周波誘導加熱用コイル12aには、冷却装置13と同等の冷却装置が設けられており、この冷却装置と高周波誘導加熱用コイル12aは一体化されている。なお、図1においては、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周側及び内周側の両側から冷却水を噴射して筒状部14を冷却することが可能となっており、噴射された冷却水は、筒状部14の壁面に沿って下方に流れ落ちるため、この流れ落ちた冷却水を回収することが好ましい。また、回収した冷却水を再び冷却水として使用するために冷却水を循環させるようにすることがより好ましい。冷却水を回収したり、冷却水を循環させたりすることにより、冷却水の有効利用を図ることができる。
【0030】
以上のように、高周波誘導加熱した加熱部位を冷却して当該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となる場合、該基地組織は、パーライトのみで50%以上の状態、ソルバイトのみで50%以上の状態、トルースタイトのみで50%以上の状態、パーライト及びソルバイトの合計で50%以上の状態、パーライト及びトルースタイトの合計で50%以上の状態、ソルバイト及びトルースタイトの合計で50%以上の状態、パーライト、ソルバイト及びトルースタイトの合計で50%以上の状態とからなる複数の状態のうちの1つの状態となっている。ここで、上述した加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0031】
加えて、上述したように加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対し、更に高周波誘導加熱することが好ましい。このように高周波誘導加熱することで、所定部位の基地組織をマルテンサイト化して、耐摩耗性や強度を向上させることができる。マルテンサイト化のための高周波焼入れ処理を施す場合にも、上述した加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上とするときに用いた高周波誘導加熱装置及び冷却装置と同一の装置を用いてもよい。このように同一の装置を用いることにより、熱処理に係る設備コストの増大を抑制したり、熱処理時の作業性の低下を抑制したり等することができるようになる。
【0032】
高周波焼入れ処理を行う方法は、特に限定されるものではない。例えば、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位を常温から上限値の1050〜1150℃の加熱温度となるまで一定の加熱速度で加熱して常温から1050〜1150℃の加熱温度となるまでに要する加熱時間を3〜5秒の時間内で行い、次いで、加熱温度が1050〜1150℃に到達すると同時に(加熱時間3〜5秒後に)高周波誘導加熱を終了し、更に、その高周波誘導加熱の終了と同時に当該加熱部位をA1変態未満の温度となるように冷却(焼入れ)する。要は、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対して高周波焼入れ処理を施して、当該部位が(均一に)マルテンサイト化されるようになるのであれば、どのような高周波焼入れ処理を施すようにしてもよい。
【0033】
本発明の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法は、筒状部や板状部等の肉厚が薄い部位(例えば、肉厚2〜5mm)において、一方の部位(表面部位又は裏面部位)のみを該基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにして、他方の部位(裏面部位又は表面部位)の基地組織をフェライトや面積率20%以下のパーライトのままとするような場合に適している。換言すれば、本発明の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法によれば、肉厚が薄い部位の肉厚方向において、基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上の部分と、基地組織がフェライトや面積率20%以下のパーライトの部分とをより確実に形成することができる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明を更に具体化した実施例1について、図1,図3,図4を併せ参照して説明する。
【0035】
まず、球状黒鉛鋳鉄部材として、FCD450相当の球状黒鉛鋳鉄からなる図1に示したケースリングギヤマウンティング11を準備すると共に、図1に示した高周波誘導加熱装置12(100KHz)及び冷却装置13を準備した。このケースリングギヤマウンティング11は、鋳造後に切削加工等して得られたものであり、先端部(上部)には筒状部14を有している。そして、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の内周側に冷却装置13を配置し、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周部14aを囲繞するように該筒状部14の外周側に高周波誘導加熱装置12の高周波誘導加熱用コイル12aを配置する。なお、熱処理前のケースリングギヤマウンティング11の筒状部14における外周部14aを観察したところ、図3に示したような組織が観察され、基地組織を占めるパーライトの面積率が7%であることを確認できた。
【0036】
次に、上述したように冷却装置13及び高周波誘導加熱装置12を所定位置に配置した状態で、冷却装置13の噴射孔13aから冷却水を噴射して筒状部14の内周部14bを内周側から冷却すると共に、高周波誘導加熱装置12の高周波誘導加熱用コイル12aによって筒状部14の外周部14a(加熱部位)を外周側から高周波誘導加熱する。このように高周波誘導加熱を行う場合、常温から1100℃の加熱温度となるまで一定の加熱速度で加熱して、常温から1100℃の加熱温度となるまでに要する加熱時間を11.5秒で行った。そして、加熱温度が1100℃に到達すると同時に(加熱時間11.5秒後に)高周波誘導加熱を終了し、その高周波誘導加熱を終了してから3.5秒後に、高周波誘導加熱用コイル12aと一体化された冷却装置の噴射孔からも冷却水を噴射して加熱部位をA1変態未満の温度となるように筒状部14の外周側及び内周側の両側から直接的及び間接的に冷却(焼入れ)する。なお、冷却水としては、ソリュブルクエンチ TY−300(大同化学工業株式会社製)を含有した水を用いた。
【0037】
その後、ケースリングギヤマウンティング11を乾燥してから該筒状部14の外周部14a(加熱部位)を観察したところ、図4に示したような組織が観察され、基地組織を占めるパーライトの面積率が70%であることを確認できた。また、筒状部14の外周部14aには、錆や脱炭の発生も観察されなかった。更に、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の内周部14bも観察したところ、図3に示した組織と同等の組織が観察された。以上のように、ケースリングギヤマウンティング11の筒状部14の外周部14aに対して上述した条件の熱処理を施すことにより、事後処理の高周波焼入れ処理を行うことの可能なパーライトの面積率50%以上の筒状部14の外周部14a(パーライトの面積率:70%)が得られることがわかった。
【0038】
最後に、パーライトの面積率が70%となった筒状部14の外周部14aに対し、高周波焼入れを施す。このように高周波焼入れを行う場合、筒状部14の内周部14bを冷却装置13によって冷却した状態で、筒状部14の外周部14aを常温から1100℃の加熱温度となるまで一定の加熱速度で加熱して常温から1100℃の加熱温度となるまでに要する加熱時間を4.7秒で行い、次いで、加熱温度が1100℃に到達すると同時に(加熱時間4.7秒後に)高周波誘導加熱を終了し、更に、その高周波誘導加熱の終了と同時に、高周波誘導加熱用コイル12aと一体化された冷却装置の噴射孔からも冷却水を噴射して加熱部位をA1変態未満の温度となるように筒状部14の外周側及び内周側の両側から直接的及び間接的に冷却(焼入れ)する。このように高周波焼入れ処理を施すことにより、最終製品としてのケースリングギヤマウンティング11を得た。この得られたケースリングギヤマウンティング11に対して確認実験を行ったところ、その筒状部14の外周部14aのみが均一にマルテンサイト化されて、所望とする耐摩耗性及び強度を有していることを確認することができた。
【0039】
他に、特許請求の範囲の各請求項に記載されないものであって、前記実施の形態等から把握される技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0040】
(a)フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、
前記部材の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一定の加熱速度で高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱を直ちに終了し、次いで前記高周波誘導加熱した部材の加熱部位に対し2〜5秒後の時間内で冷却を開始して当該加熱部位を冷却することにより、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法。
【0041】
ここで、高周波誘導加熱の加熱時間を8〜15秒と設定した理由や、加熱温度の上限値を1050〜1150℃の温度に設定した理由は、既述した請求項1での理由と同じである。また、高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で冷却を開始する理由は、2秒未満の場合、加熱部位の基地組織が不均一なマルテンサイトになってしまうおそれがあり、5秒を超える場合、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上とならない場合が生じるおそれがあるからである。
【0042】
このようにした場合、請求項1に記載の発明の効果をより確実に奏することができる。
【0043】
(b)フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、
前記部材は少なくとも筒状部を有しており、該筒状部の外周側及び内周側のうちの一方の側から該筒状部を水冷すると共に、他方の側から該筒状部の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一定の加熱速度で高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱を直ちに終了し、次いで2〜5秒後の時間内で前記筒状部の外周側及び内周側のうちの他方の側からも水冷を開始して前記高周波誘導加熱した加熱部位を筒状部の外周側と内周側との両側から水冷することにより、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法。
【0044】
ここで、高周波誘導加熱の加熱時間を8〜15秒と設定した理由や、加熱温度の上限値を1050〜1150℃の温度に設定した理由は、既述した請求項2での理由と同じである。また、高周波誘導加熱を終了してから2〜5秒後の時間内で水冷を開始する理由は、2秒未満の場合、加熱部位の基地組織が不均一なマルテンサイトになってしまうおそれがあり、5秒を超える場合、加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上とならない場合が生じるおそれがあるからである。
【0045】
このようにすれば、請求項2に記載の発明の効果をより確実に奏することができる。また、水冷により焼入れが行われるため、他の焼入れ方法と比較してコスト、実用性、作業性等に優れている。
【0046】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、従来技術の焼戻し処理を廃止して、熱処理時間の短縮化を図ることができると共に、熱処理にかかる費用の低減を図ることができる。また、請求項1に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるように熱処理できるため、球状黒鉛鋳鉄部材の所望部位(基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった部位)において耐摩耗性や強度を向上させるための事後処理である高周波焼入れ処理を良好な状態で行うことができるようになる。更に、請求項1に記載の発明によれば、加熱時間が8〜15秒という短時間で行われるため、球状黒鉛鋳鉄部材の表面酸化(錆)や脱炭の発生を抑制することができる。
【0047】
請求項2に記載の発明によれば、従来技術の焼戻し処理を廃止して、熱処理時間の短縮化を図ることができると共に、熱処理にかかる費用の低減を図ることができる。また、請求項2に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の一部の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となるように熱処理できるため、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の所望部位(基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった部位)において耐摩耗性や強度を向上させるための事後処理である高周波焼入れ処理を良好な状態で行うことができるようになる。更に、請求項2に記載の発明によれば、加熱時間が8〜15秒という短時間で行われるため、球状黒鉛鋳鉄部材の筒状部の表面酸化(錆)や脱炭の発生を抑制することができる。
【0048】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1,請求項2に記載の発明の効果に加えて、冷却時及び乾燥後の球状黒鉛鋳鉄部材の表面に防錆成分を付着させることができるため、球状黒鉛鋳鉄部材は、その防錆機能を十分に発揮することができるようになる。そのため、事後処理の高周波焼入れを行う場合に、球状黒鉛鋳鉄部材の表面酸化をより確実に抑制することができる。
【0049】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1,請求項2,請求項3に記載の発明の効果に加えて、高周波焼入れ処理を施した部位の基地組織をマルテンサイト化して、耐摩耗性や強度を向上させることができる。また、請求項4に記載の発明によれば、耐摩耗性や強度が必要とされる球状黒鉛鋳鉄部材の部位をマルテンサイト化するように設定することで、球状黒鉛鋳鉄部材を摺動部品や回転部品等の耐磨耗性や強度の要求される部品に適用することができる。更に、請求項4に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄部材の加熱部位における基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにする処理と、高周波焼入れ処理とを同一の装置(例えば高周波誘導加熱装置及び冷却装置)を用いて行うことも可能となる。これにより、熱処理に係る設備コストの増大を抑制したり、熱処理時の作業性の低下を抑制したり等することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ケースリングギヤマウンティングを熱処理する高周波誘導加熱装置及び冷却装置を簡略化して示す断面図である。
【図2】デフケースを示す断面図である。
【図3】熱処理前のケースリングギヤマウンティングの筒状部における外周部の組織を100倍に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図4】熱処理後のケースリングギヤマウンティングの筒状部における外周部の組織を100倍に拡大して示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
11 ケースリングギヤマウンティング
12 高周波誘導加熱装置
12a 高周波誘導加熱用コイル
13 冷却装置
13a 噴射孔
14 筒状部
14a 外周部
14b 内周部
21 デフケース
22 筒状部
22a 内周部
Claims (4)
- フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、
前記部材の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱した部材の加熱部位を冷却して、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法。 - フェライト球状黒鉛鋳鉄、又は、基地組織のパーライトの面積率が20%以下の球状黒鉛鋳鉄からなる部材に熱処理を施す方法であって、
前記部材は少なくとも筒状部を有しており、該筒状部の外周側及び内周側のうちの一方の側から該筒状部を冷却すると共に、他方の側から該筒状部の少なくとも一部を8〜15秒の加熱時間内で常温から1050〜1150℃の温度となるまで一気に高周波誘導加熱した後、該高周波誘導加熱を直ちに終了し、次いで前記高周波誘導加熱した筒状部の加熱部位を筒状部の外周側と内周側との両側から冷却して、該加熱部位の基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計を50%以上となるようにすることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法。 - 前記冷却は冷却水を用いた水冷により行われ、該冷却水は防錆成分を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法。
- 基地組織のパーライト、ソルバイト及びトルースタイトの面積率の合計が50%以上となった球状黒鉛鋳鉄部材の部位に対し、更に高周波焼入れ処理を施すことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の球状黒鉛鋳鉄部材の熱処理方法。
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Legal Events
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Effective date: 20051122 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 |
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Effective date: 20080902 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 |
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Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20090106 |