JP6693241B2 - 熱処理方法、及び、軸受軌道輪の製造方法 - Google Patents
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Description
そこで、軸受軌道輪では、表層部の硬度を高くしつつ、内層部を表層部よりも低硬度とすることにより、軸受軌道輪全体としての靱性を確保し、軸受軌道輪の耐衝撃性を向上させることが行われている。
このような硬度分布を有する軸受軌道輪としては、例えば、浸炭焼入れ処理されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
また、上述した冷却処理は、通常、複数個のワークを同時に油槽内に投入して行う。そのため、上記の冷却処理は、少量生産品の処理には不向きであった。
(A)上記ワークをオーステナイト化温度以上に加熱する加熱工程と、
(B)加熱したワークに冷却媒体を噴射して上記ワークを冷却する冷却工程と
を行う焼入れ処理を含み、
上記工程(B)において、上記冷却媒体を噴射する条件を経時的に変化させることによって、マルテンサイトからなる表層部と、上記表層部に周囲を囲まれ、少なくとも一部にパーライト及び/又はベイナイトを含む内層部とを有する熱処理されたワークを得る、
ことを特徴とする。
そのため、上記冷却工程では、冷却条件を経時的に変化させる。具体的には、冷却初期には高い冷却能を発揮する条件で冷却媒体を噴射してワークの表面付近を急速に冷却し、その後は、冷却初期に比べて相対的に低い冷却能を発揮する条件で冷却媒体を噴射してワークの内部をゆっくりと冷却する。
これにより、熱処理されたワークは、マルテンサイトからなる表層部と、少なくとも一部にパーライト及び/又はベイナイトを含む内層部とを備えるワークとなる。
そのため、本発明の熱処理方法によって処理されたワークは、表層部の硬度が高く、内層部が上記表層部よりも低硬度で、耐衝撃性に優れたワークとなる。
また、冷却溶媒としてミスト状の気液混合物を使用した場合、冷却ムラなく均一に、かつ、効率よくワークを冷却することができる。更には、上記ミスト状の気液混合物を使用することにより、熱処理されたワークにおける歪の発生を低減することができる。
上記工程(B)において、上記ワークの表面温度がマルテンサイト変態開始温度を下回った後は、上記表面温度が上記焼戻し処理における焼戻し温度以上に復温しないように上記ワークを冷却することが好ましい。
これに対して、上記工程(B)において、上記ワークの表面温度がマルテンサイト変態開始温度を下回った後は、上記表面温度が上記焼戻し温度以上に復温しないように上記ワークを冷却することで、上述したようなワーク表面の再昇温による不都合を回避し、確実に上記ワークの表面硬度を高めることができる。
(1)炭素鋼又は合金鋼を加工して軸受軌道輪の素形材を作製する工程、
(2)上記素形材に本発明の熱処理方法によって、熱処理を施す工程、及び、
(3)上記熱処理後の中間素材に仕上げ加工を施す工程、
を含むことを特徴とする。
本発明の製造方法によれば、浸炭焼入れ処理を行うことなく、高硬度の表層部と、上記表層部よりも低硬度の内層部とを備え、耐衝撃性に優れた軸受軌道輪を製造することができる。
本発明の製造方法によれば、高硬度の表層部と、上記表層部よりも低硬度の内層部とを備え、耐衝撃性に優れた軸受軌道輪を製造することができる。
本発明は、高硬度の表層部と、上記表層部に周囲を囲まれた、上記表層部よりも低硬度の内層部とを有するワークを得るための熱処理方法である。ここで、ワークの表層部とは、処理対象となるワークの肉厚をtとし、上記表層部の深さをdとした際に、表層部の深さdが下記式(1)を満たす部分とする。
d≦t/3・・・(1)
つまり、上記熱処理されたワークが備える表層部は、その深さdを最大で肉厚tの1/3とする。従って、上記表層部の深さはワークの肉厚tの1/4や1/5であってもよい。一方、上記熱処理されたワークにおいて、ワーク表面からの距離(深さ)が肉厚tの1/3を超える部分は少なくとも内層部となる。
なお、上記表層部の深さdの最小値は、ワークの表面が表層部であればよいため、d>0であればよいが、0.09mmを上記表層部の深さの最小値とすることが好ましい。
また、ワークの肉厚とは、例えば、ワークが環状である場合にはその径方向に沿った断面の径方向寸法をいい、例えば、ワークが円柱状である場合にはその直径をいう。
本実施形態では、軸受軌道輪(円錐ころ軸受の外輪)を製造するための環状ワーク(以下、単にワークともいう)を処理対象とする。ここでは、上記熱処理方法を経て、円錐ころ軸受の外輪を製造する方法について、工程順に説明する。
図1は、本実施形態における軸受軌道輪の製造工程を説明するための工程図である。図2は、図1におけるワークW2の肉厚を説明するための図である。
ワークW2は、炭素鋼又は合金鋼で構成されている。上記炭素鋼又は合金鋼としては、炭素量が0.4〜1.1%のものが好適である。
上記炭素鋼又は合金鋼の具体例としては、例えば、JIS SUJ2、JIS SUJ3などの高炭素クロム軸受鋼などが挙げられる。
ここで、上記焼入れ処理及び上記焼戻し処理は、本発明の実施形態に係る熱処理方法により行う。
上記焼入れ処理では、まず、(a)ワークW2をオーステナイト化温度以上(例えば、800〜1000℃)に加熱する加熱工程を行う。
このとき、ワークW2は、全体をオーステナイト化温度以上に加熱してもよいし、ワークW2の内部にオーステナイト化温度に達しない部分が存在するように加熱してもよい。
但し、本実施形態では、マルテンサイトからなる表層部と、パーライト及び/又はベイナイトを含む内層部とを有する熱処理されたワークを得るため、上記表層部となる部分及び上記内層部となる部分の少なくとも一部は、オーステナイト化温度以上に加熱する必要がある。
本加熱工程における加熱方法は特に限定されず、例えば、誘導加熱、炉加熱等の従来公知の加熱方法を採用することができる。
本実施形態におけるワークW2(円錐ころ軸受の外輪を製造するためのワーク)の肉厚t1は、下記式(2)により算出する(図2参照)。
t1=(外径φDo−軌道部12の最小内径φDi)×0.50・・・(2)
つまり、ワークW2の肉厚t1は、ワークW2の外径φDoと、軌道部12の最小内径φDiとに基づいて定められる。
本冷却工程(b)では、オーステナイトがマルテンサイトに変態した表層部と、オーステナイトがパーライト及び/又はベイナイトに変態した部分を含む内層部とが得られるように冷却条件を経時的に変化させながらワークW2を冷却する。
図4は、本実施形態の冷却工程(b)における、ワークの温度履歴(冷却時間に対する温度変化)とワークに生じる組織との関係を説明するための図である。図4において、Msはマルテンサイト変態開始線、Bsはベイナイト変態開始線、Psはパーライト変態開始線、pはパーライトノーズを示す。
上記噴射ノズルは、環状のワークW2の各面(外周面11、内周面12及び側面15)ごとに周方向に沿って複数個(例えば、等間隔に8個や16個等)配置されている。
本冷却工程(b)では、噴射ノズルN1〜N3を用いて冷却媒体Cを噴射する際の条件を時間経過ともに変化させて、表層部14と内層部15とを有する熱処理されたワークを得る。
このとき、線(3)は、パーライトノーズpの先端でパーライト変態開始線(Ps)と交差してもよい。
また、上記冷却工程(b)では、冷却されるワークの内部に、ベイナイト変態開始線(Bs)と交差する温度履歴を示す部分、パーライト変態開始線(Ps)と交差する温度履歴を示す部分、並びに、パーライト変態開始線(Ps)及びベイナイト変態開始線(Bs)の両方を通過する温度履歴を示す部分が混在していてもよい。
また、本実施形態で得られる内層部15は、その硬さを従来の浸炭焼入れ処理が行われたワーク内部の低炭素マルテンサイトの硬さに近づけるために、パーライトよりもベイナイトを含むことが好ましい。
上記気水比は、冷却液の体積に対する冷却ガスの体積の比(冷却ガスの体積/冷却液の体積)であり、気水比が小さいと上記気液混合物中の冷却液の占める割合が高く、気水比が大きいと上記気液混合物中の冷却液の占める割合が低くなる。そのため、気水比以外の条件が同一の冷却媒体をワーク噴射した場合、気水比の小さい冷却媒体は冷却能が高く、気水比の大きい冷却媒体は冷却能が低くなる。
上記冷却液としては、水、焼入油などの油、PAG(ポリアルキレングリコール)などの水溶性ポリマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。上記水溶性ポリマーは、水に溶解させた水溶液として用いることができる。このとき、水溶性ポリマーの濃度は、水溶性ポリマーの種類等に応じて適宜設定すればよい。
上記冷却工程(b)では、例えば、図5に示すように、上記気液混合物の総量(総体積)を保ったまま、気水比を段階的に大きくしていく。このように上記気水比を段階的に大きくすると、冷却初期にはワークに噴射される冷却液の量が多く(冷却ガスの量が少なく)、時間の経過とともにワークに噴射される冷却液の量が少なく(冷却ガスの量が多く)なっていく。
このように、ワークに噴射する冷却媒体中の冷却液の量を段階的に減らしていく(気水比を大きくしていく)と、上記冷却媒体による冷却能は時間の経過とともに低くなる。そのため、上述したようなワークW2の表面側は短時間で冷却し、ワークW2の内部はワークの表面に比べてゆっくりと冷却する冷却条件を達成することができる。つまり、上記気液混合物の気水比を段階的に大きくすることにより、ワークW2が上述した温度履歴を経ることとなる。
そのため、得られたワークは、高硬度の表層部14と、表層部14に周囲を囲まれ、表層部14に比べて低硬度で靱性の高い内層部15とを有するものとなる。
また、上記気水比を時間の経過とともに変化させる場合、必ずしも気液混合物の総量を維持したまま気水比を変化させる必要はなく、冷却ガス及び冷却液のいずれか一方の量のみを変化させて上記気水比を変化させてもよいし、上記気液混合物の総量を変化させつつ、冷却ガス及び冷却液の両方の量を変化させてもよい。
また、上記気水比を経時的に大きくしながら冷却媒体をワークに噴射する場合、冷却の開始時には冷却液のみを噴射してもよく、また、冷却の最終段階では冷却ガスのみを噴射してもよい。
また、上記冷却工程(b)において、冷却媒体をワークW2に噴射する際の冷却媒体の流量や圧力、温度等は何ら限定されず、ワークW2が所望の温度履歴を経て冷却されるように適宜選択すればよい。
また、上記冷却工程(b)では複数の噴射ノズルを用いて冷却媒体を噴射するが、このとき、同一時間経過時における各噴射ノズルの冷却媒体を噴射する条件は全て同一であってもよいし、噴射ノズルごとに異なっていてもよい。
熱処理されたワーク表面の高硬度化を確実に達成するためである。
ここでは、焼入れ処理が施されたワークに焼戻し処理を行う。
上記焼戻し処理における処理条件(加熱条件及び冷却条件)は特に限定されず、例えば従来、高炭素クロム軸受鋼に採用されている処理条件等を採用することができる。
上記焼戻し温度は、例えば、150〜300℃とすればよい。
次に、ワーク(中間素材)W3に対して、研磨仕上げ加工を施す(図1(e)参照)。
このような工程を経ることにより、外輪(軸受軌道輪)10を作製することができる。
第1実施形態では、円錐ころ軸受の外輪を製造するための環状ワークを処理対象としたが、本実施形態では、円錐ころ軸受の内輪を製造するための環状ワークを処理対象とする。この場合、第1実施形態と同様にして各工程を行えばよい。
なお、円錐ころ軸受の内輪を製造するための環状ワークの肉厚t2については、下記のように定めればよい。
図6は、本実施形態で処理対象となる環状ワークの肉厚を説明するための図である。
環状のワークW12(円錐ころ軸受の内輪を製造するためのワーク)の肉厚t2は、下記式(3)により算出する(図6参照)。
t2=(軌道部22の最大外径φDo−内径φDi)×0.5・・・(3)
つまり、ワークW12の肉厚t2は、ワークW12の軌道部22の最大外径φDoと、内径φDiとに基づいて定めればよい。
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜変更することができる。
本発明の実施形態において、冷却媒体を噴射する噴射ノズルの位置は、図3に示した位置に限定されるわけではなく、処理対象のワークの形状に応じて適宜設定すればよい。
その他、ハブユニットの内軸や外輪、ステアリング装置のラックバーやピニオンシャフト、CVJ(等速ジョイント)の中間シャフトやアウターなどの種々の部材を処理対象とすることができる。
Claims (5)
- 炭素鋼又は合金鋼からなる環状のワークに対して、
(A)ワークをオーステナイト化温度以上に加熱する加熱工程と、
(B)加熱したワークに冷却媒体を噴射して前記ワークを冷却する冷却工程と
を行う焼入れ処理を含み、
前記工程(B)において、前記冷却媒体を噴射する条件を経時的に変化させることによって、マルテンサイトからなる表層部と、前記表層部に周囲を囲まれ、少なくとも一部にパーライト及び/又はベイナイトを含む内層部とを有する熱処理されたワークを得る熱処理方法であって、
前記工程(B)において、
前記冷却媒体として冷却ガスと冷却液とを含むミスト状の気液混合物を使用し、
前記気液混合物を噴射するための噴射ノズルを前記ワークの周方向に沿って複数個配置し、
複数の前記噴射ノズルを用いて前記ワークの外周面、内周面、及び側面に前記気液混合液を噴射し、
前記気液混合物における冷却ガスと冷却液との混合割合を経時的に変化させる、
ことを特徴とする熱処理方法。 - 前記工程(B)において、
冷却工程の初期には高い冷却能を発揮し、冷却工程の初期の後には前記冷却工程の初期に比べて低い冷却能を発揮するように、前記気液混合物における冷却ガスと冷却液との混合割合を経時的に変化させる、請求項1に記載の熱処理方法。 - 前記工程(B)において、
前記気液混合物における冷却ガスと冷却液との混合割合は、前記冷却工程の初期の冷却液の割合よりも、前記冷却工程の初期の後の冷却液の割合を低くする、請求項2に記載の熱処理方法。 - 前記焼入れ処理の後に行う焼戻し処理を含み、
前記工程(B)において、前記ワークの表面温度がマルテンサイト変態開始温度を下回った後は、前記表面温度が前記焼戻し処理における焼戻し温度以上に復温しないように前記ワークを冷却する、請求項1〜3のいずれかに記載の熱処理方法。 - (1)炭素鋼又は合金鋼を加工して軸受軌道輪の素形材を作製する工程、
(2)前記素形材に請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理方法によって、熱処理を施す工程、及び、
(3)前記熱処理後の中間素材に仕上げ加工を施す工程、
を含むことを特徴とする軸受軌道輪の製造方法。
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