JP2004532419A - ポリペプチドの特徴分析方法 - Google Patents
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Abstract
(a)任意の工程として、ポリペプチド中にジスルフィッド結合が存在する場合はこれを還元し、ポリペプチド中に遊離チオールが存在する場合はこれを防護し、(b)1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン残基のC末端側で1以上のポリペプチドを開裂する開裂試薬に接触せしめてペプチド断片を生成し、(c)任意の工程として開裂試薬を不活性化し、(d)該試料をリジン反応剤と接触せしめてεアミノ基を防護し、(e)εアミノ基が防護されたペプチドを除去し、かつ(e)C末端ペプチドを回収する、の工程を包含する方法が提供されている。
Description
【0001】
本発明は、群中の各タンパク質から単一のC末端ペプチドを単離する方法に関する。本発明は更に、組織、細胞又は細胞画分でのタンパク質発現の決定方法における、あるいは大型タンパク質複合体の分析における上記方法の使用に関する。また本発明は、クロマトグラフィーにより分離されたタンパク質分画又は親和捕捉によって単離されたタンパク質混合物を分析するために上記のC末端ペプチド単離法を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質をプロファイルする、すなわち組織中タンパク質の実体と量を目録化する技法は、自動化又は高処理性能の点で十分に進展していない。多数のタンパク質をプロファイルする典型的な方法は二次元電気泳動法である(非特許文献1)。この方法では生物サンプルから抽出したタンパク質試料を幅の狭いゲルの帯上で分離する。通常この最初の分離ではタンパク質はそれらの等電点に基づいて分離される。次に帯全体を直行方向のゲルの一端に配置する。次に帯の中で分離されたタンパク質をそれらのサイズに基づいて電気泳動により第二ゲルの中で分離する。この方法は緩慢なので自動化が困難である。またその簡便な実施例では比較的に感度が悪い。2-Dゲル電気泳動法によるタンパク質の分離度を高め、かつその分析系の感度を向上するための多数の改良がなされてきた。2-Dゲル電気泳動法の感度と分離度を向上する一つのアプローチは、ゲル上の特定の点でタンパク質を質量分析法により分析することである(非特許文献2)。質量分析法での一例では、ゲル中でトリプシン消化後にトリプシン断片を質量分析法により分析し、ペプチドの質量指紋を作成する。配列情報が必要な場合にはタンデム質量分析法を実施することができる。
【0003】
更に最近では、液体クロマトグラフィー又は毛細管電気泳動によって分画したホールのタンパク質を質量分析法を利用して分析する試みがなされている(非特許文献3)。毛細管電気泳動法での質量分析法を利用するインライン系が検討されている。しかし、質量分析法によるホールのタンパク質の分析には多数の困難がある。第一の困難は、個々のタンパク質は多くのイオン化状態に到達可能であるために解析すべき質量スペクトルが複雑になることである。第二の主要な欠点は、質量分析法は分子量の高いイオン種、例えば約4キロダルトン(kDa)以上のイオンに対しては質量解像性が貧弱なことであり、質量の接近したタンパク質を解像することは困難である。第三の欠点は、ホールのタンパク質の断片パターンは非常に複雑で解析困難であるためにタンデム質量分析法によりホールのタンパク質を更に分析するのは困難であることである。
【0004】
タンパク質をホールで分析するのに困難があるために、技法としてはタンパク質由来のペプチドの分析に依拠するが好ましい。上記のごとくゲルで分離したタンパク質の分析にはペプチドの質量指紋解析が使用されている。しかし、この方法は1個のタンパク質又は非常に簡素なタンパク質混合物を分析する場合にのみ適切である。代表的なタンパク質はトリプシンで開裂すると20から30個のペプチドが生成する。ペプチド質量のパターンは単純タンパク質の同定には有用であるが、タンパク質混合物をトリプシン消化したものの質量スペクトルは混合物中のタンパク質数が増加するのに伴って複雑さが急上昇する。すなわち、ペプチド質量のタンパク質帰属に誤謬が生ずる危険が増大する。したがって同時に分析可能なタンパク質数は限定される。この結果、混合物状態の各タンパク質から特定のペプチドを単離する新しいタンパク質解析方法が開発の途上にある。
【0005】
非特許文献4に、「同位元素をコードした親和タグ」を使用してタンパク質由来ペプチドを捕捉し、それによりタンパク質発現の分析を可能にすることが開示されている。この論文で筆者らは、チオールに反応するビオチンリンカーを使用しチオール中のシステインでペプチドを捕捉すると記述している。1個の起源に由来するタンパク質試料であればビオチンリンカーと反応し、エンドペプチダーゼで開裂する。ビオチニル化したシステイン含有ペプチドは次にアビジン化ビーズ上に単離され、続いて質量分析法により分析される。一つの試料をビオチンリンカーで標識し、第二の試料をビオチンリンカーの重水素化形で標識すれば、二つの試料を定量的に比較することができる。試料中の各ペプチドは質量スペクトルで1対のピークとして表現されるので、そのピークの相対的な高さによって発現の相対的なレベルが標示される。
【0006】
この「同位元素コード」法には多数の制限がある。第一はタンパク質中にチオールが確実に存在するかである。すなわち、チオールを数個有するのもあるが、有さないタンパク質は多数ある。この方法に変形として他の側鎖、例えばアミンと反応するようにリンカーを加工することは可能である。しかし、多数のタンパク質は二以上のリジン残基を含有しているので、通常このアプローチにより単離されるペプチド数は1タンパク質当り相当な数になると推測される。したがって、このアプローチでは質量分析法による分析に十分な程度に試料の複雑さが減少することはないと思われる。非常に多数の種を含有する試料では「イオン抑制」を受ける可能性があり、その場合には比較的に複雑でない試料の質量スペクトルで通常に出現する筈の種よりも或る別の種が優先して特別にイオン化してしまう。一般に側鎖によりタンパク質を捕捉すると1タンパク質当りに非常に多数のペプチドが生ずる可能性があり、あるいは或るタンパク質が見失われたりする。
【0007】
このアプローチの第二の制約は、別の試料に由来するタンパク質の発現レベルを比較するのに使用する方法である。別の同位元素による親和タグ変形体で各試料を標識すれば質量スペクトルには各試料中の各ペプチドに対応する追加のピークが現れる。このことは、もし二つの試料を一緒に分析するとスペクトル中のピーク数は2倍になることを意味する。同様に、三つの試料を一緒に分析すればスペクトルは1個の試料だけの場合よりも3倍複雑になる。ピークの数は増加する一方であり、質量スペクトル上で二つの異なるペプチドのピークが重なる可能性は増大するので、このアプローチには明らかに制限がある。
【0008】
上記論文の筆者らが報告している更なる制限は、タグに起因する移動度の変化である。重水素化ビオチンタグで標識したペプチドは重水素化してないタグで標識した同一のペプチドに少し遅れて溶出すると筆者らは報告している。
【0009】
特許文献1には、タンパク質の集団をプロファイルするために、その集団の各タンパク質の一つの末端に由来する単一のペプチドを単離する方法が開示されている。第一の態様としてその発明には次の工程が包含される。
1. タンパク質集団をその集団の各タンパク質の一つの末端によって固相担体上に捕捉し、
2. 捕捉したタンパク質を配列特異的な開裂試薬で開裂し、
3. 開裂試薬によって生成し固相担体上に残留していないペプチドを洗去し、
4. 固相担体上に残留する末端ペプチドを遊離し、かつ
5. 遊離した末端ペプチドを分析し、好ましくは該混合物中の各ペプチドの同定と定量を行う。この分析は質量分析法により実施するのが好ましい。
【0010】
この出願では、N末端は封鎖されることが多いので、タンパク質集団を捕捉する末端としてはC末端がより好ましいと述べられている。C末端によってタンパク質集団を捕捉するには、C末端カルボキシル基がタンパク質上の他の反応性基とは識別され、かつ固定化能のある試薬と特異的に反応する必要がある。C末端配列の化学操作では、C末端カルボキシル基を活性化しC末端にオキサゾロン基を促進的に形成することが多い。C末端カルボキシル基の活性化の過程では側鎖のカルボキシル基も活性化されるが、これらはオキサゾロン基を形成することができない。報告によれば、C末端オキサゾロンは塩基性下では求核試薬への反応性が活性化側鎖カルボキシル基よりも少ないので、これにより側鎖カルボキシル基を選択的に防護する方法が提供されている(非特許文献5)。反応性の多い他の側鎖はカルボキシル基の活性化以前に各種従来試薬を使用して防護することができる。この方法では反応性側鎖は全て防護可能であり、C末端を特異的に標識することができる。
【0011】
特許文献2及び特許文献3には、C末端ペプチドをタンパク質から単離する方法が、N末端配列決定試薬を使用してそのC末端ペプチドの配列決定を可能にする方法の中で説明されている。この方法では、問題のタンパク質はリジン残基のC末端側を開裂するエンドプロテアーゼにより消化されている。得られるペプチドは全ての遊離アミノ基と反応するジイソチオシアナト(DITC)ポリスチレンと反応する。DITCポリスチレンと反応したN末端アミノ基はトリフルオロ酢酸(TFA)で開裂され全てのペプチドのN末端が遊離する。しかし、リジンのεアミノ基は開裂されないので、非末端ペプチドは全て担体上に残留し、C末端ペプチドのみが遊離する。この特許によれば、そのC末端ペプチドはミクロでの配列決定用に回収される。
【0012】
非特許文献6及び特許文献4には、N末端ペプチドをタンパク質から単離するために、タンパク質中の全ての遊離アミノ基と反応する防護試薬とそのタンパク質を反応させる方法が説明されている。そのタンパク質は次に開裂されるが、トリプシンを使用した場合にはアルギニン残基でのみ開裂が起こる。したがって、トリプシンで開裂すると非N末端ペプチドのαアミノ基が露出する。上記の最初の開示(非特許文献6)によれば、このαアミノ基はジニトロフルオロベンゼン(DNF)と反応するので、これにより非N末端ペプチドはポリスチレン樹脂上にアフィニティークロマトグラフィーにより捕捉可能となり、他方、N末端ペプチドは妨害されずに流過する。特許文献4によれば、εアミノ基を開裂前にアシル化剤と反応させる。この方法で開裂すると非N末端ペプチド上のαアミノ基はアミン反応性固相担体、例えばジイソチオシアナトガラスと反応し、N末端ペプチドは溶液中に放出される。
【0013】
これらN末端単離法は全てアシル化剤を使用することが主要な欠点であり、アシル化剤はリジン修飾に必要なpHでは水溶液中で不安定となる傾向がある。この結果、大過剰の試薬を使用する必要があり、特にヒスチジン残基と副反応を起こす可能性がある。また非特許文献6の方法では、N末端ペプチドにDNF基が含有されている場合には、N末端ペプチドを単離する前にチオール分解してDNF基をヒスチジン及びチロシンから除去する必要がある。この余分な工程には格別な労力が必要であり、完璧に到る可能性はない。非特許文献6の開示ではタンパク質と末端ペプチドを質量分析法により分析しておらず、したがってリジンのεアミノ基の防護が完璧であるか否かは判らない。
【0014】
【特許文献1】
国際公開第98/32876号パンフレット
【特許文献2】
ヨーロッパ特許出願公開第0594164号明細書
【特許文献3】
ヨーロッパ特許第0333587号
【特許文献4】
独国特許出願公開第4344425号明細書
【0015】
【非特許文献1】
R.A.Van Bogelen、E.R.Olson「バイオテクノロジーにおける二次元タンパク質ゲルの利用」Biotechnol. Annu.Rev.1、69-103、1995
【非特許文献2】
Jungblut P、Thiede B「MALDI質量分析法による2-Dゲルタンパク質同定」Mass Spectrom.Rev.16, 145-162, 1997
【非特許文献3】
Dolnik V.「タンパク質の毛細管領域での電気泳動」Electrophoresis 18, 2353-2361, 1997
【非特許文献4】
Nature Biotechnology 17, 994-999(1999)
【非特許文献5】
V.L.Boydら,「Methods in Protein Structure Analysis 109-118, Plenum Press, 編集M.Z.Atassi及び E.Appella,1995
【非特許文献6】
Anal. Biochem.132:384-388(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は上述した公知方法に付随する諸問題の解決である。したがって本発明の目的は、各タンパク質由来の単一C末端ペプチドをポリペプチドの混合物中で単離する改良方法の提供であり、この目的のために水中で安定であり、リジンに対し選択性があり、かつ温和な反応条件下でも機能して自ら分解することのないタンパク質反応性試薬を使用する。またこれらの反応が比較的に短時間で、例えば数時間で実質的に完璧に進行することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以上にかんがみ、本発明は、ポリペプチドの特徴を分析(キャラクタライジング)する方法であって、
(a)1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン残基のC末端側で1以上のポリペプチドを開裂する開裂試薬に接触せしめてペプチド断片を生成する工程、
(b)任意の工程として開裂試薬を不活性化する工程、
(c)該試料をリジン反応剤と接触せしめてεアミノ基を防護する工程、
(d)εアミノ基が防護されたペプチド断片を除去する工程、及び
(e)C末端ペプチド断片を回収する工程、
を包含するポリペプチドの特徴分析方法を提供する。
【0018】
本発明方法では、検討するポリペプチドを開裂可能であればどのような開裂試薬でも使用することができる。開裂試薬は配列に特異的な開裂試薬、例えばペプチダーゼであるのが好ましい。また好ましくはペプチダーゼには例えばLys-Cが挙げられる。他の好ましい実施例として、簡単な化学物質、例えば臭化シアン(CNBr)を開裂試薬に挙げてもよい。CNBrは膜タンパク質の検討には特に好ましい。
【0019】
本発明方法の工程(a)及び(c)は、C末端ペプチド断片が単離できるのであれば、どのような順序で実施することもできる。したがって、ある実施例ではペプチドを防護前に開裂することができ、また他の実施例ではポリペプチドの部分を形成中に残基を防護し、続いてそのポリペプチドを開裂することができる。後者の実施例では、開裂試薬はリジン残基のC末端側を開裂することができる。そしてこれはこれらの残基が防護された後であってもである。
【0020】
防護されたεアミノ基を含有するペプチド断片は、これらの断片を捕捉することによって、例えば固相上に補足して、除去するのが好ましい。この実施例ではリジン反応性試薬はリジン選択的捕捉剤である。選択的捕捉は、リジン反応剤に捕捉基(例えばビオチン)を付加することにより達成してよい。防護後にその捕捉基によってリジン反応剤は防護されたペプチド断片と共に確実に固相(例えばアビジン化固相)に結合する。別の実施例では、リジン反応剤は、防護が行われる前に固相に結合してもよく、その結果、ペプチド断片は防護反応により自動的に固相上に捕捉される。
【0021】
防護された断片を試料から分離するには、試料を固相から分離することで達成され、C末端断片は試料中に残された唯一のペプチド断片となる。次にこれらC末端断片を分析し元の試料中に存在するポリペプチドを決定する。
【0022】
この方法によれば、低濃度の試薬を比較的に高いpHで使用することができる。この二つの因子はリジン反応の選択性と完全性を向上することを本発明者らは見出している。以下の説明でリジンアミノ基はイプシロンアミノ(εアミノ)基と呼ぶ。
【0023】
リジン反応剤は立体障害のあるミカエル試薬であるのが好ましい。ミカエル試薬の一般式は以下のごとくであり、
【0024】
【化5】
【0025】
上記式中、Xは陰電荷を安定化可能な電子吸引基である。官能基Xは下の表1にリストされるものから選択されるのが好ましい。
【0026】
【表1】
【0027】
R1はどのようなアルキル基又は芳香族基でもよいが、好ましくは電子吸引基であり、更に好ましくは環状又は複素環状の芳香環又は縮合環である。環構造は電子吸引性であるのが好ましい。更に好ましくは、R1は小さな環又は縮合環、例えばフェニル、ピリジル、ナフチル又はキノリル環構造である。環構造は適当な電子吸引基、例えばフッ素等のハロゲン又はニトロ基で置換されているのが好ましい。ピリジル環及びナフチル環等の環構造は水溶性を向上させるので好ましい。Xがアミドである場合はR1基の一つ又は両方が水素原子であってよい。Xがニトリルの場合は好ましい化合物としてクロトニトリル、例えばトリフルオロクロトニトリルが挙げられる。R1は更に親和捕捉官能基へのリンカー、例えばビオチン、あるいは固相担体へのリンカーを含有してよい。
【0028】
式中、R2は水素原子、又はそれが電子吸引基及び/又は親和捕捉官能基へのリンカー、あるいは固相担体へのリンカーを含有してよい。R2は、Sub基の定義中で以下にリストする更に特定の基であってもよい。
【0029】
本発明の「立体障害のある」ミカエル試薬となるためには、R基の少なくとも1が水素ではなく、立体障害基であるとみなされなければならない。少なくとも1のR基はアルキル基又は芳香族基、例えばメチル基又はフェニル基であってよい。更に好ましくは、R基の少なくとも1は電子吸引性であり、ハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基、例えばフルオロメチル、ジフルオロメチル又はトリフルオロメチル基、あるいはハロゲン又はニトロ基等の電子吸引性置換基を有するフェニル環であってよい。反対に、本発明での「立体障害のない」ミカエル試薬であるためにはR基は両方が水素である。
【0030】
好ましい実施例では、X−、R−、R1−及びR2−基の1以上、好ましくは唯1は親和捕捉官能基へのリンカー、例えばビオチン、あるいは固相担体へのリンカーを含有する。
【0031】
ある実施例では、X基がR基の一つに連結して環を形成してもよい。このタイプの好ましい化合物には下記式のマレイミドが挙げられる。
【0032】
【化6】
【0033】
式中Rは前記と同義であり、R’は炭化水素基又は電子供与基である。好ましいRはアルキル基又はアリール基であり、特に好ましいRはC1−C6アルキル基、例えばメチル基又はエチル基である。
【0034】
上の式でSub基は、このミカエル試薬がεアミノ基と反応可能であるかぎり、特に限定はない。本発明の好ましい実施例ではSubにはアルキル基又はアリール基等の炭化水素基、又はシアノ基(CN)、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ハロゲン含有基等の電子吸引基が挙げられる。最も好ましい実施例ではSubには水素又はC1−C6アルキル基、例えばメチル基又はエチル基が挙げられる。特に好ましい化合物では、SubとRが共にHであり、R’がメチル基又はエチル基である。
【0035】
本発明において、リジン選択性試薬の語は、その試薬がリジンのεアミノ基と全てのアミノ酸のαアミノ基、特にペプチドのN末端アミノ酸残基のαアミノ基との間を識別することができることを言う。本発明の試薬がヒスチジンのイミダゾール環等の側鎖官能基、及びセリン、スレオニン、チロシンに存在するヒドロキシル官能基と反応しないことも好ましい。
【0036】
本発明において、捕捉試薬の語はその試薬が分子を固相担体上に捕捉する能力を言う。したがって、前述のごとく、捕捉試薬には、固相担体に共有結合した反応性官能基が包含されてもよいし、あるいは固相担体に化学的に結合可能な官能基に結合した反応性官能基が包含されてもよいし、あるいはアフィニティーカラムの捕捉官能基に結合した反応性官能基、すなわち固相担体に結合している特異なリガンドとの相互作用により固相担体に補足可能な反応性官能基が包含されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の各種態様を以下に詳細に説明する。
本発明の一実施例では、C末端ペプチドの集団をポリペプチド試料から単離する方法であって、以下の工程を包含する方法が提供される。
1. リジン残基のC末端側のアミド結合を開裂する配列特異的な開裂試薬でポリペプチド試料を完全に消化する。
2. 得られた防護ペプチドをリジン選択性捕捉試薬に接触して非C末端ペプチドを全て捕捉する。及び、
3. 溶液として放出されたC末端ペプチドを回収する。このペプチドには固相担体又は捕捉試薬と反応する遊離εアミンがないのが望ましい。
【0038】
本発明の本実施例及び他の実施例において、ジスルフィッド結合が存在する場合には更に任意の工程を実施してもよい。この工程にはポリペプチドのジスルフィッド結合を還元し、得られる遊離チオール(及び/又は最初から存在する遊離チオール)を防護する。所望であれば、試料を開裂剤で消化する前にこの工程を実施してもよい。例えば、
1. 任意の工程として、ポリペプチド中にジスルフィッド結合が存在する場合はそれらを還元し、ポリペプチド中に遊離チオールがあればそれらを防護する。
2. リジン残基のC末端側のアミド結合を開裂する配列特異的な開裂試薬でポリペプチド試料を完全に消化する。
3. 得られた防護ペプチドをリジン選択性捕捉試薬に接触して非C末端ペプチドを全て捕捉する。及び、
4. C末端ペプチドを溶液中に回収する。このペプチドには固相担体又は捕捉試薬と反応するεアミノ基がないのが望ましい。
【0039】
更なる態様で本発明により、試料の発現プロファイルを決定する方法であって、前記方法に従って1以上のポリペプチド混合物の特徴を明らかにすることを特徴とする方法が提供される。すなわち、本発明のこの態様では少なくとも1のポリペプチド混合物の発現プロファイルを決定する方法が提供され、それは混合物中の各ポリペプチドを同定し好ましくは定量する方法である。この方法には以下の工程が包含される。
【0040】
1. 本発明の前記実施例の第一の実施例に従って末端ペプチドを少なくとも1のポリペプチド混合物から単離する。
2. 任意の工程として、各試料由来の回収C末端ペプチドの遊離αアミノ基を別々の質量マーカーで標識する。
3. 任意の工程として、C末端ペプチドを電気泳動又はクロマトグラフィーにより分離する。
4. 該ペプチドを質量分析法により探知する。
【0041】
更に別の実施例では、本発明により、リジン選択性のタンパク質標識試薬が提供され、これには下記式を有するアミノ反応性で立体障害のあるアルケニルスルフォン化合物が包含される。
【0042】
【化7】
【0043】
式中、R1はどのようなアルキル基又は芳香族基でもよいが、好ましくは電子吸引基であり、更に好ましくは環状又は複素環状の芳香環又は縮合環である。環構造は電子吸引性であるのが好ましい。更に好ましくは、R1は小さな環又は縮合環、例えばフェニル、ピリジル、ナフチル又はキノリル環構造である。環構造は適当な電子吸引基、例えばフッ素等のハロゲン又はニトロ基で置換されているのが好ましい。ピリジル環及びナフチル環等の環構造は水溶性を向上させるので好ましい。Xがアミドである場合はR1基の一つ又は両方が水素原子であってよい。Xがニトリルの場合は好ましい化合物としてクロトニトリル、例えばトリフルオロクロトニトリルが挙げられる。R1は更に親和捕捉官能基へのリンカー、例えばビオチン、あるいは固相担体へのリンカーを含有してよい。
【0044】
式中、R2は水素原子、又はそれが電子吸引基及び/又は親和捕捉官能基へのリンカー、あるいは固相担体へのリンカーを含有してよい。
【0045】
X−、R−、R1−及びR2−基の好ましくは1個、更に好ましくは唯1個が親和捕捉官能基へのリンカー、例えばビオチン、あるいは固相担体へのリンカーを含有する。
【0046】
図2a、2b、2c及び2dを詳細に説明する。図2aから2dには本発明の第一態様の実施例が図示されており、ポリペプチド試料からC末端ペプチドの集団を単離する方法が提示されている。図2aにはこの工程の任意ではあるが好ましい第一工程が図示されており、その工程では二つの短いポリペプチドを還元し、遊離チオールを防護する。図示を解り易くするために、複合混合物としてではない二つのペプチド、カルシトニンH及びカルシトニンSが示されている。
【0047】
図2bには、本発明の当実施例の第二工程が図示されており、その工程ではリジン残基のC末端側のアミド結合を開裂する配列特異的な開裂試薬でポリペプチドを開裂する。図ではこの工程をLys−Cでおこなっている。開裂反応により新たなαアミノ基が各切断のC末端側に産生したペプチドに生成する。
【0048】
図2cには、本発明の当実施例の第三工程が図示されており、その工程では開裂されたペプチドのεアミノ基に捕捉剤を反応させる。図ではこの試薬には立体障害のあるアルケニルスルフォン試薬に結合した親和捕捉剤ビオチンが挙げられており、このアルケニルスルフォン試薬がリジンに選択的に反応する。非C末端ペプチドには全て遊離のεアミノ基があるので、これらのペプチドは捕捉剤と反応する。C末端ペプチドはリジン基がないので捕捉されない。
【0049】
図2dには、本発明の当実施例の第三工程が図示されており、その工程では液相にアフィニティーカラムを通過させることによりC末端ペプチドを非C末端ペプチドから分離する。ビオチンに対し高度に選択的な対リガンドであるアビジンをカラムの樹脂に導入する。C末端ペプチドはビオチニル化されていないので、溶液中に残留し、更に分析することができる。留意すべきこととして、Lys−Cで開裂すると遊離αアミノ基は各C末端ペプチドに残る。この基は所望であれば標識と反応させることができる。
【0050】
図3a、3b及び3cを詳細に説明する。図3aから3cには本発明の第一実施例が図示されており、ポリペプチド試料からC末端ペプチドの集団を単離する方法が提示されている。図3aにはこの工程の任意ではあるが好ましい第一工程が図示されており、その工程では二つの短いポリペプチドを還元し、遊離チオールを防護する。図示を解り易くするために、複合混合物としてではない二つのペプチド、カルシトニンH及びカルシトニンSが示されている。
【0051】
図3bには、本発明の当実施例の第二工程が図示されており、その工程ではリジン残基のC末端側のアミド結合を開裂する配列特異的な開裂試薬でポリペプチドを開裂する。図ではこの工程をLys−Cでおこなっている。開裂反応により新たなαアミノ基が各切断のC末端側に産生したペプチドに生成する。
【0052】
図3cには、本発明の当実施例の第三工程が図示されており、その工程では開裂されたペプチドのεアミノ基に捕捉剤を反応させる。図ではこの試薬には立体障害のあるアルケニルスルフォン試薬を導入したビーズが挙げられており、このアルケニルスルフォン試薬がリジンに選択的に反応する。非C末端ペプチドには全て遊離のεアミノ基があるので、これらのペプチドは捕捉剤と反応する。C末端ペプチドはリジン基がないので捕捉されない。
【0053】
また図3Cには、本発明の当実施例の最終工程が図示されており、その工程では液相をビーズから分離することによりC末端ペプチドを非C末端ペプチドから分離する。C末端ペプチドは溶液として残留し、更に分析することができる。留意すべきこととして、Lys−Cで開裂すると遊離αアミノ基は各C末端ペプチドに残る。この基は所望であれば標識と反応させることができる。
【0054】
本発明方法で使用するリジン反応性(リジン選択性)試薬を更に詳細に説明する。
当分野で公知のアミン選択性タンパク質反応性試薬は多数ある。これらの試薬にはある程度の識別力があり、高pHでリジンと反応するが、十分な識別力がありほぼ独占的にリジンを標識することができるものは多くない。多数のリジン選択性試薬が当分野で記述されており、これらは全て、特にその環状無水物は本発明での使用に適している。ピロメリト酸無水物及びo−スルフォ安息香酸無水物はリジン選択性アシル化試薬であると報告されている(Bagreeら、FEBS Lett.120(2):275-277,1980)。同様にフタール酸無水物は構造、反応性がピロメリト酸無水物に類似しているのでリジン選択性があると期待される。フタール酸無水物は他のアミノ酸との副反応が少ないと報告されている(Palacian Eら、Mol Cell Biochem.97(2):101-111,1990)。しかし、リジンとの反応に広く使用される多くの試薬、特に活性エステル、例えばカルボン酸無水物、N−ヒドロキシサクシニミドエステル及びペンタフルオロフェニルエステルは高pHで安定でない。これらの試薬は大過剰に使用する必要があり、過剰の結果かえって反応の選択性が欠如する。
【0055】
ミカエル試薬にはタンパク質反応にとって魅力的な特性が多数あるので広く使用される(Friedman M & Wall J.S.、J.Org.Chem.31,2888-2894,「アミノ基とα−、β−不飽和化合物との反応速度論における線形自由エネルギーの相加的関係」1966; Morpurgo M & Veronese F.M.& Kachensky D & Harris J.M., Bioconjug. Chem.7(3)363-368、「ポリ(エチレングリコール)ビニルスルフォンの製造とキャラクテリゼーション」1996;Friedman M. & Finley J.M.,Int.J.Pept.Protein Res.7(6)481-486,「タンパク質とエチルビニルスルフォンの反応」1975;Masri M.S. & Friedman M., J.Protein Chem.7(1)49-54、「メチル及びエチルビニルスルフォンとタンパク質の反応」1988;Graham L. & Mechanic G.L.Anal.Biochem.153(2)354-358「[14C]アクリロニトリル:安定なトシル中間体を経由する製造及びコラーゲン中のアミン残基との定量的反応」1986;Esterbauer H. & Zollner H & Scholz N.,Z. Naturforsch[C]30(4)466-473,「グルタチオンと共役カルボニルの反応」1975)。
【0056】
多数のこれら試薬は水溶液で比較的に安定であり、反応性及び選択性の程度を各種用意するためにこれら化合物の構造を広い範囲に改変することができる。タンパク質の標識に使用される他の試薬は水中で安定ではなく、修飾は容易でない。特に、タンパク質中アミノ基との反応はしばしば活性エステルで行われるが、これらは加水分解を受けやすい。スルフォンに基づく試薬は、広汎に使用されている活性エステルに比較するとアミノ基の標識には便利で有効である。タンパク質と共に使用されているミカエル試薬には、例えばアクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルピリジン、メチルビニルスルフォン、メチルビニルケトン等の化合物が挙げられる。これら化合物の反応性を比較し(Friedman M & Wall J.S.上記)、これら構造的に類似の化合物の反応速度に直線関係があることが観察されている。直線関係があることから、このクラスの化合物の反応は、速度は異なるがメカニズムは同じであることが判る。スルフォンとケトンの化合物が最も反応的な試薬であるとその著者は見出した。ビニル化合物、例えばアクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルピリジン、メチルビニルスルフォン、メチルビニルケトンは広く基質ごとに反応速度は相対的に同じであるが、全体の反応速度は相互に異なる。これらに直線関係があることからすると、このクラスの化合物は同じメカニズムで反応し、かつクラス全部の化合物において置換体への変化、特に反応性の二重結合のベータ位置で変化があると、同様な挙動をもって変化をすると考えるのが合理的である。例えば、アクリロニトリルを比較対照としたクロトノニトリルと一連の基質との反応の相対的な反応速度の変化は、メチルビニルスルフォンを比較対照としたメチルプロペニルスルフォンと一連の基質との反応の相対的な反応速度の変化と本質的には同じであると推測される。このことは、メチルプロペニルスルフォンの特性はクロトノニトリルと本質的に同じであり、スルフォンの方が反応速度は大きいというだけである。
【0057】
本発明の目的に合うミカエル試薬の選択は、反応速度、ミカエル付加とは別の副反応の可能性、各種化合物の合成の難易に依る。例えば、ビニルケトンはミカエル付加以外の他の反応、特にミカエル付加後のケトンの求核攻撃を受けやすい。このケトンの官能基は各種求核剤、例えば通常の生化学的求核剤との更なる反応を受ける。同様に、ニトリル化合物はカルボン酸へのニトリル官能基が加水分解を受けやすい。ただし、ほとんどの生化学的測定の条件下ではこの加水分解は通常は起こらない。代表的な生化学的測定の条件下ではアルケニルスルフォンはミカエル付加以外の反応を受けない。一般に、アルケニルスルフォンは生化学的求核剤と急速に反応する。各種形態のアルケニルスルフォンの合成に関して文献は包括的である。これらの理由から、アルケニルスルフォンは本発明の生化学的測定で使用するミカエル試薬として好ましい。N−エチルマレイミド等のマレイミド化合物もミカエル付加によりタンパク質と急速に反応し、タンパク質を標的する条件下で適切に安定である。ただし、これらの試薬をポリマーに結合するとアルカリ加水分解が見られる。以上よりマレイミド化合物も本発明の生化学的測定で使用するミカエル試薬として好ましい。ニトリル試薬も、対応するスルフォンに比較すると反応が遅い傾向があるが試薬として好ましい。同様に、アクリルアミドの反応は更に遅い。これらが好ましいからといって、入手可能な他のミカエル試薬が本発明に不適であるという意味ではないが、これら試薬の反応が速いということは大部分の目的にとって好ましい。適切な条件下であればほぼ全てのミカエル試薬は本発明方法で使用できる筈である。
【0058】
本発明で使用するのに好ましいクラスのリジン選択性試薬は立体障害のあるアルケニルスルフォンであり、本発明の一実施例で提示した。適当に緩和な条件でこれら試薬を組み合わせれば、アミンを標識する反応の際にαアミノ基とリジンのεアミノ基との間の識別が高い程度に可能になる。ビニルスルフォンは1級アミンと容易に反応してジアルキル化体を生成することが知られている。本発明者らが示していることであるが、これらの試薬は高pH(>9.0)でαアミノ基よりもεアミノ基の方に急速に反応するが、立体障害のないスルフォンの識別力は適切ではあるが特別に顕著ではない。立体障害が比較的大きいアルケニルスルフォン、例えばプロペニルスルフォン及びブテニルスルフォンは、ビニルスルフォンに比べてεアミノ基への識別力が大きく増大しており、したがって好ましい。更にこれらの立体障害のある試薬によりモノアルキル化体がほぼ独占的に生成する。
【0059】
立体障害のあるスルフォンによりこの識別が可能ということは、緩和な水溶液条件下でεアミノ基はαアミノ基に優先して簡便安全な水溶性試薬で選択的に標識可能であるという意味である。本発明の目的には、リジン選択的捕捉試薬が必要である。この捕捉試薬には固相担体に共有結合した本発明の立体障害のあるアルケニルスルフォン官能基が含有されていてもよい。あるいは、本発明の立体障害のあるアルケニルスルフォン官能基を親和捕捉官能基、例えばビオチン又はジゴキシゲニンに結合することによって親和捕捉試薬を形成することができる。更に別の方法として、立体障害のあるアルケニルスルフォン官能基を適切な導入をした固相担体と反応する二番目の反応基に共有結合させてもよい。ボロン酸は、隣接シス型ジオール及び化学的に類似のリガンドと選択的に反応すると知られている。サリチルヒドロキサミン酸を導入した固相担体上にタンパク質を捕捉するために、ボロン酸を含有する試薬が開発されている(Stolowitz M.I.ら Bioconjug Chem. 12(2):229-239「フェニルボロン酸−サリチルヒドロキサミン酸バイオ複合体。1.タンパク質固定化のための新規ボロン酸複合体」2001;Wiley J.Pら. Bioconjug Chem. 12(2):240-250「フェニルボロン酸−サリチルヒドロキサミン酸バイオ複合体。2.アフィニティークロマトグラフィー用タンパク質リガンドの多価固定化」2001、Prolinx, Inc, Washington State,USA)。フェニルボロン酸官能基を立体障害のあるアルケニルスルフォン官能基に結合することによって選択的化学反応により捕捉可能な捕捉試薬を形成することは比較的に簡単であると予測される。この種の化学を利用しても、タンパク質が隣接シス型ジオール含有糖を把持することに直ちに至らないが、これらの糖をフェニルボロン酸又は関連試薬で封鎖してから、ボロン酸導入リジン選択性試薬と反応させる。液相補足試薬は、固相担体上に捕捉してもよいが、有利である。理由は、リジン反応は液相で行われるのがよく、大過剰の試薬によって反応が迅速完璧に進行するからである。
【0060】
立体障害のあるアルケニルスルフォンの合成法は当分野で多数公知である。アルファ−、ベータ−不飽和スルフォンの合成に使用されている合成法を概観するには、Shimpkins N.,Tetrahedron 46, 6951-6984「ビニルスルフォンの化学」1990、Puchs P.L.,Braish T.F. Chem.Rev.86,903-917「シクロアルケニルスルフォンへの多重収束合成と共役付加反応」1986、を参照。
【0061】
本発明の好ましい立体障害のあるアルケニルスルフォン化合物の式は以下である。
【0062】
【化8】
【0063】
式中、R1はどのようなアルキル基又は芳香族基でもよいが、好ましくは電子吸引基であり、更に好ましくは環状又は複素環状の芳香環又は縮合環である。環構造は電子吸引性であるのが好ましい。更に好ましくは、R1は小さな環又は縮合環、例えばフェニル、ピリジル、ナフチル又はキノリル環構造である。環構造は適当な電子吸引基、例えばフッ素等のハロゲン又はニトロ基で置換されているのが好ましい。ピリジル環及びナフチル環等の環構造は水溶性を向上させるので好ましい。R1は更に親和捕捉官能基へのリンカー、例えばビオチン、あるいは固相担体へのリンカーを含有してよい。
【0064】
式中、R2は水素原子、又はそれが電子吸引基及び/又は親和捕捉官能基へのリンカー、あるいは固相担体へのリンカーを含有してよい。
【0065】
本発明による「立体障害のある」ミカエル試薬であるためには、R基の少なくとも1が水素ではなく、立体障害基であるとみなされなければならない。少なくとも1のR基はアルキル基又は芳香族基、例えばメチル基又はフェニル基であってよい。更に好ましくは、R基の少なくとも1は電子吸引性であり、ハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基、例えばフルオロメチル、ジフルオロメチル又はトリフルオロメチル基、あるいはハロゲン又はニトロ基等の電子吸引性置換基を有するフェニル環であってよい。反対に、本発明での「立体障害のない」ミカエル試薬であるためにはR基は両方が水素である。
【0066】
X−、R−、R1−及びR2−基の1個、好ましくは唯1個は親和捕捉官能基へのリンカー、例えばビオチン、あるいは固相担体へのリンカーを含有する。
【0067】
アルケニルスルフォンの合成に各種の点を工夫し、本発明での使用に適するような置換をした化合物を製造するのがよい。アルドール縮合型の反応を使用できる。メチルフェニルスルフォンは各種のケトン及びアルデヒドと反応して立体障害のあるアルケニルスルフォンを生成することができる(図1及び上記概観を参照)。適切なケトンにはアセトン、ヘキサフルオロアセトンがあげられる。アルデヒドにはベンツアルデヒド、フルオロベンツアルデヒド、ジフルオロベンツアルデヒド、トリフルオロメチルベンツアルデヒド、ニトロベンツアルデヒドが挙げられる。4−(メチルスルフォニル)安息香酸は、安息香酸を介して固相又は親和捕捉試薬に結合可能な立体障害のあるスルフォンを合成する出発点を提供する。アミノ導入ポリスチレンはSigma-Aldrich,UK等の各種起源から入手可能である。官能基のある安息香酸がカルボジイミド結合し固相にアミド架橋を形成すれば、適切なアルケニルスルフォンを導入した固相担体を作成するのに十分である。アミノ官能化ビオチンの各種形態はPierce Chemical Company, IL,USAから入手可能である。これによれば各種アルケニルスルフォンを導入シタビオチン化合物の合成が可能となる。
【0068】
フェニル−プロペニル、ピリジン−1−プロペニル、フェニル−1−イソブテニル、ピリジン−1−イソブテニルスルフォンの製造用合成経路は後記実施例に記述される。1,1,1−トリフルオロ−3−フェニルスルフォニルプロペンの製造用合成経路は、Tsuge H.J.Chem.Soc.Perkin Trans、1:2761-2766,1995に開示されている。この試薬もAldrich(Sigma-Aldrich,Dorset,UK)から入手可能である。
【0069】
本発明で使用するのに好ましい第二のクラスの試薬はマレイミド化合物である。適当に緩和な条件でこれら試薬を組み合わせれば、アミンを標識する反応の際にαアミノ基とリジンのεアミノ基との間の識別が高い程度に可能になる。マレイミド化合物は1級アミンと容易に反応してモノアルキル化体を生成することが知られている。本発明者らが示していることであるが、マレイミド(マレイミドブチラミドポリスチレン、Fluka)を導入した固相担体は塩基性条件下でαアミノ基よりもεアミノ基の方に急速に反応する。しかし、この試薬は水溶液条件では安定ではないので、ペプチドとこの担体との反応は無水の非プロトン性有機溶媒で実施する必要がある。疎水性タンパク質、例えば細胞膜中、及びそのようなものとしてこのクラスのタンパク質の分析に多分有用なマレイミドブチラミドポリスチレン中に埋没しているタンパク質には有機溶媒の使用が容認できる。
【0070】
立体障害の比較的に少ないミカエル試薬、例えばN−エチルマレイミド(NEM)及びプロペニルスルフォンはプロリンのαアミノ基と極めて急速に反応する。しかし本発明の大部分の態様ではこれは問題にならない。理由は、プロリンは普遍的でなく、大部分のエンドプロテアーゼはプロリン結合部を開裂しないからである。本発明の第一の実施例は、C末端ペプチドを単離する方法の提供であり、Lys−C型酵素によるタンパク質及びポリペプチドの開裂を基礎にしている。このクラスの既知酵素の大部分はリジン−プロリン結合を開裂しないので、プロリンの遊離αアミノ基の存在は問題にならない。固相担体に結合したマレイミドもプロリンを効果的に識別する。マレイミドは、液相試薬として使用した場合には、αアミノ基よりもεアミノ基を識別する力は適度なものに過ぎないが、固相化試薬とした場合には識別力が大幅に上昇するということは留意に値する。他の試薬が、液相では適度の識別力しか示さないが、固相担体上に固定化された場合には上昇した識別力を示すことは予測される。
【0071】
本発明の第一実施例にはC末端ペプチドを全てポリペプチドから単離する方法が記載されているが、ここでは立体障害のあるスルフォンの識別力を利用してεアミノ基を有するペプチドを捕捉する。この実施例の第一工程では、配列特異的な開裂試薬、例えばLys−Cをもってポリペプチド試料をリジン残基のC末端側アミド結合で開裂する。ポリペプチド混合物を開裂すると、リジンεアミノ基を有するペプチドの混合物がC末端ペプチド以外の全てのペプチドに産生する。これらのεアミノ基は本発明の立体障害のあるスルフォン試薬と反応するが、これは捕捉試薬、例えばビオチンに結合しているか、又は固相担体に結合している。この工程により、非C末端ペプチドは全て捕捉され、C末端ペプチドは溶液として放出される。これらのC末端ペプチドには遊離のαアミノ基があるので、次にこれを更に標識してもよいし、及び適切な技術、特に質量分析法により分析してもよい。
【0072】
本発明の別の実施例では、ポリペプチド混合物の「発現プロファイル」を決定する方法、すなわち混合物中の各ポリペプチドを同定し、好ましくは定量もする方法が提示される。これらの方法には、本発明の最初の三つの態様に従ってペプチドを単離すること、任意の工程としてそのペプチドを質量マーカーで標識すること、及びそのペプチドを質量分析法で分析することが包含される。本発明で使用するのに好ましい標識はPCT/GB01/01122に開示されており、それには選択した反応モニタリング方法により分析される有機分子質量マーカーが開示されている。この出願には衝突によって開裂可能な基によって連結した二成分系質量マーカーが開示されている。数組のタグを合成するが、この場合に作成されるマーカーの全質量は二成分の質量の合計と同じになる。質量マーカーはそれらの被検体から開裂後に分析してもよいし、あるいは被検体に結合のまま探知してもよい。本発明では質量マーカーは同定中のペプチドに結合させたまま探知する。タンデム機器の第一質量分析装置が質量マーカーとそれが関連するペプチドの質量を選定することにより、マークの付いたペプチドを背景から浮き上がらせることができる。第二工程の機器中でマーカーが衝突することにより、タグの二成分は互いに分離する。これら成分の中の1個のみを第三質量分析装置で探知する。これにより、第一質量分析装置で選定されたピークは質量マークを付けたペプチドであるとの確認が可能になる。このプロセス全体により、分析のシグナル対ノイズ比が大幅に引き上げられ、感度が向上する。質量マーカーをこのようにデザインすれば、並列する質量マーカーが展開する質量範囲が圧縮される。更に、化学的に同一であり、質量も同一であるが質量分析法により解像可能なマーカーをデザインすることができる。これは分析技術、例えば液体クロマトグラフィー質量分析法(LC−MS)にとって必須である。すなわち、異なるマーカーが異なるペプチド試料の移動度に及ぼす影響を最小にする必要があり、そうすれば、各試料由来の対応ペプチドを質量分析計に一緒に流入することにより対応ペプチドの比率を測定することができる。したがって、これらのマーカーは、高い選択性をもった探知能を利用しておりかつ構造が密接に関連しているので、本発明の目的には最も好ましい。ただし、他のマーカーも利用可能である。
【0073】
本発明の試薬は遊離チオールと反応性がある。本発明方法において遊離チオールによる妨害を防止し、ポリペプチドにおいてジスルフィッド架橋に関連する問題を回避するために、ジスルフィッド架橋を遊離チオールに還元し、かつ本発明方法を適用する前にチオール部分を防護するのが好ましい。チオールはタンパク質中の他の側鎖よりも反応性が大きいので、この工程は高い選択性をもって達成することができる。チオールとεアミノ基の間の識別はpHの制御によって効果的に達成される。チオールの反応はpH7でほぼ独占的に進行するが、εアミンが反応する場合には、いかなる反応にせよ意味のある速度で進行するには9以上のpHが必要である
【0074】
ジスルフィッド結合の還元には各種の還元剤が使用されてきた。その試薬の選択は費用、反応効率、チオール防護に使用する試薬との両立性に基づいて決定してよい(これら試薬及び使用に関する概説には、Jocelyn P.C. Methods Enzymol. 143、246-256、「ジスルフィッドの化学還元」1987参照)。
【0075】
代表的な防護剤には、N−エチルマレイミド、ヨードアセタミド、ビニルピリジン、4−ニトロスチレン、メチルビニルスルフォン、エチルビニルスルフォンが挙げられる(例えば、Krull L.H.& Gibbs D.E. & Friedman M., Anal Biochem. 40(1):80-85,「2-ビニルキノリン:タンパク質スルフヒドリル基の分光光度法測定試薬」1971;Masri M.S. & Windle J.J. & Friedman M.Biochem Biophys.Res.Commun.47(6):1408-1413「p-ニトロスチレン:還元可溶性タンパク質及びケラチン中スルフヒドリル基の新アルキル化剤」1972;Friedman M. & Zahnley J.C. & Wagner J.R., Anal. Biochem. 106(1):27-34「トリプシン阻害剤のジスルフィッド含量をS−ベータ−(2−ピリジルエチル)−L−システインとして測定」1980参照)。
【0076】
代表的な還元剤にはメルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、水素化ホウ素ナトリウム、フォスフィン、例えばトリブチルフォスフィン(Ruegg U.T. & Rudinger J., Methods Enzymol. 47, 111-116によるシステインジスルフィッドの還元的開裂」1977参照)及びトリス(カルボキシエチル)フォスフィン(Burns J.A.ら, J. Org. Chem. 56, 2648-2650「トリス(2−カルボキシエチル)フォスフィンによるジスルフィッドの選択的還元」1991)が挙げられる。メルカプトエタノール及びDTTは、これら自身がチオールを含有しているのでチオール反応性防護剤と使用するのに比較的好ましくない。フォスフィンを基礎とする還元剤はビニルスルフォン試薬と両立可能である(Masri M.S. & Friedman M., J. Protein Chem. 7(1),49-54「メチル及びエチルビニルスルフォンとのタンパク質反応」1988)。
【0077】
本発明の第一実施例では、リジン残基のC末端側アミド結合でポリペプチド又はペプチドを切断する開裂試薬でポリペプチド集団を完璧に消化する。この特性を有する各種酵素は市販品で入手可能であり、例えばLysobacter enzymogenes由来エンドプロテナーゼLys−Cである(以前はBoehringer Mannheimから、現在はRoche Biochemicalsから入手可能)。
【0078】
タンパク質とペプチドの分画
本発明方法を使用して多様に生成したタンパク質をプロファイルすることができる。酵母等の微生物に由来する未精製のタンパク質抽出物を直接に本発明方法を使用して分析するのも可能である。比較的大きなプロテオームを有する微生物では組織から未精製のタンパク質抽出物を分画する必要があるかもしれない。或る種の特徴を基礎にしてタンパク質を仕分ける各種の分画技術がある。例えば、哺乳動物の組織から抽出したタンパク質は相当数の明瞭なタンパク質種を含有している。ヒトの平均的な細胞では10000の水準で転写物が発現され、それらの中には多数の遺伝子由来の別途にスプライスされた産生物も含まれていると考えられ (Iyer V.R.ら Science 283(5398)83-87「ヒト繊維芽細胞の血清に対する応答における転写プログラム」1999)、また2Dゲルでの実験によると特定組織から抽出したタンパク質のゲルにもそれと類似の数のタンパク質スポットがあると判っている(Klose J., Kobalz U., Electrophoresis 16(6)1034-59「タンパク質の二次元電気泳動:ゲノムの官能分析のための最新のプロトコール及び意義」1995)。ヒト組織から単離したような複雑なタンパク質試料は、本発明を実施する前に分画するのが望ましく、そうすれば分析を簡素化でき、あるいは追加の情報、例えば翻訳後に改変のあったタンパク質を同定する、等が得られる。本発明方法を使用してタンパク質から単離した末端ペプチドを分画してから次の操作又は分析をするのも望ましいと思われる。
【0079】
分画工程を使用すれば、タンパク質を多数の小集団に分割するのでタンパク質郡の複雑さを減少することができる。これは、広範で連続的な範囲に渉って変動するタンパク質の包括的な特性、例えばサイズとか表面電荷を基礎にして分離すれば最も容易に達成される。これらの特性は2-Dゲル電気泳動で最も効果的に利用されている特性である。この分離は液体クロマトグラフィーを利用すればゲル電気泳動よりも更に急速に達成可能である。液体クロマトグラフィー分離を繰り返すことによりタンパク質は任意の程度に分割することができる。ただし、多数の連続的クロマトグラフィー分離工程を経ると、タンパク質又はペプチドが様々なクロマトグラフィーのマトリックスに非特異的に付着するので試料損失や他の副生物が生ずる結果となる。
【0080】
細胞分画
タンパク質は細胞内の区分で仕分けられている。細胞内区分を基礎にしてタンパク質を分画する技法は当分野で各種知られている。分画のプロトコールには細胞分解の各種技法、例えば超音波、界面活性剤あるいは物理手段による細胞分解及びこれらに続く分画技法、例えば遠心分離が包含される。膜タンパク質、細胞質ゾルタンパク質、及び主要な膜結合細胞内区分、例えば核及びミトコンドリアに分離するのが標準的なプラクチスである。したがって或るクラスのタンパク質は、効率的に無視してよくあるいは特定分析が可能である。特定タンパク質が多数の細胞内領域に存在する場合には、この形式の分画は極めて有用な情報を提供する。すなわちそのタンパク質の機能に関する情報はその所在から明らかになる可能性があるからである。
【0081】
タンパク質とペプチドの分画
タンパク質は高度に不均質な分子であるから、可能な分離技法は多数ある。サイズ、疎水性、表面電荷を基礎にして、及び/又は特定配位子への親和性によってタンパク質を分離することができる。分離は、各種の官能基を導入した固相マトリックスを分割することによりなされるが、このマトリックスはカラムを流れるタンパク質を特性に基づいて付着し、流速を下げる。疎水性部分を導入したマトリックスを使用するとそれの疎水性に基づいてタンパク質を分離することができ、また帯電樹脂を使用するとその電荷に基づいてタンパク質を分離することができる。代表的なクロマトグラフィー分離では、固相マトリックスへの付着に有利な緩衝液又は溶媒の中にあるこれら導入樹脂を充填したカラムに被検分子を注入する。続いてカラムを確実に増量した溶出に有利な第二の緩衝液又は溶媒で洗浄する。マトリックスとの相互作用が最も弱いタンパク質が最初に溶出する。
【0082】
本発明方法を使用して末端ペプチドを単離した後に、得られたペプチドを分析するのが望ましい。本発明方法で生成した末端ペプチドを分画するのは任意であるが、多数のペプチドを含有する集団では分析的な分離工程を経ることにより探知と同定が大幅に容易になる。ペプチド分離には液体クロマトグラフィーの各種の技法が使用されてきた。好ましい技法は高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)であり、この技法は小容積の被検溶液の迅速な分離とペプチドの極めて良好な解像達成を併せ持つ。HPLCではマトリックスは高度に圧縮強固にデザインしてあるので、極めて高圧でのクロマトグラフィー分離の実行が可能であり、このことは迅速かつ明瞭な分離に有利である。これらの特徴からHPLCは、ペプチドの探知技術として使用するのが好ましい質量分析法との使用にとって魅力的である。液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)は十分に開発された分野である。一線に連結したHPLCシステムと電子スプレー式質量分析法は広汎に使用されている。HPLCは本発明方法により生成したペプチド試料を分割する迅速かつ効果的な方法である。
【0083】
使用する質量分析法の状況次第では、質量分析の前に末端ペプチドを分析する一部として他の分画手順を使用してもよい。例えば、イオン交換クロマトグラフィーによりペプチドを分割することは有利である。短いペプチドであれば殆んどその配列に基づいて分離することができるからである。すなわちイオン化可能なアミノ酸のpKa値は既知であるから、ペプチドの特定pHでのカラム溶出に基づいてその配列中に特定アミノ酸が存在するか否かが判る。例えば、アスパラギン酸残基のpKaは3.9であり、グルタミン酸残基のそれは4.3である。pH4.3でタンパク質が溶出すれば、そのペプチド中にグルタミン酸残基が存在することが判る。これらの効果は大きなタンパク質では時々埋没するが、短いペプチドでは明確である。画分は、レーザー脱着分析(後記)による後続の分析用標的上にスポットすることにより分析可能である。あるいは、「オートサンプラー」を使用して、クロマトグラフィー分離からの画分を電子スプレー式イオン化質量分析法システムに注入することができる。
【0084】
アフィニティーによる分画
タンパク質はアフィニティー法により分画することができる。この種の分画法はタンパク質又はあるクラスのタンパク質と特定リガンドとの間の特異的相互反応に依存する。
【0085】
例えば、他のタンパク質との複合体として存在するタンパク質は多く、そのような複合体の分析はしばしば困難である。複合体の構成員と推定されるクローン化タンパク質を利用すると、そのクローン化タンパク質がアフィニティーリガンドとして機能するアフィニティーカラムを作成することができ、これによって他のタンパク質はこれに結合して捕捉される。本発明はこのように捕捉されたタンパク質複合体の分析に極めて適合している。
【0086】
翻訳後に修飾されたタンパク質の単離
特定の目的、例えば翻訳後に修飾されたタンパク質の単離のためのアフィニティーリガンドが多数市販品として入手可能である。多数のタグ付け手順も知られており、その手順によりビオチン等のアフィニティータグを翻訳後に修飾されたタンパク質に導入することができる。ビオチン−アビジンアフィニティークロマトグラフィーを使用すればそのタグによってタンパク質は捕捉可能となる。
【0087】
炭水化物修飾タンパク質の単離
炭水化物はタンパク質の翻訳後修飾体としてしばしば存在する。この種のタンパク質の単離のために各種のアフィニティークロマトグラフィーが知られている(概説のために、Gerard C., Methods Enzymol. 182, 529-539「糖タンパク質の精製」1990参照)。炭水化物に対する各種天然タンパク質受容体が知られている。受容体のこのクラスの構成員はレクチンとして知られており、特定の炭水化物官能基に対して高度の選択性がある。特定のレクチンを導入したアフィニティーカラムを使用すれば、特定の炭水化物で修飾されたタンパク質を単離することができる。他方、各種の異なるレクチンを含有するアフィニティーカラムを使用すれば、各種の異なる炭水化物で修飾されたタンパク質を単離することができる。隣接−ジオール基、すなわち隣接する炭素上に存在するヒドロキシル基を有する炭水化物は多数ある。1,2−シスジオール立体配位に隣接ジオールを含有するジオール含有炭水化物はボロン酸誘導体と反応して環状エステルを形成する。この反応は塩基性pHでは優勢であるが、酸性pHでは容易に逆転する。 シス−ジオール含有炭水化物を有するタンパク質を親和捕捉するリガンドとして、樹脂に固定化されたフェニルボロン酸誘導体が使用されている。隣接−ジオールはまた、例えばシアール酸において、過ヨード酸塩で酸化的に開裂するとカルボニル基に変換することができる。末端にガラクトース又はガラクトサミンを有する糖をガラクトース酸化酵素で酵素的に酸化することによっても、これらの糖のヒドロキシル基をカルボニル基に変換することができる。複合炭水化物も炭水化物開裂酵素、例えばノイラミダーゼで処理すると、この酵素により特定の糖修飾体は除去し、酸化可能な糖は後に残すことができる。これらのカルボニル基にタグを付ければ、上記の修飾をしたタンパク質を探知又は単離することができる。ビオシチンヒドラジッド(Pierce & Warriner Ltd., Chester,UK)はカルボニル含有炭水化物種中のカルボニル基と反応する(E.A.Bayerら Anal.Biochem.170, 271-281「ビオシチンヒドラジッド−アビジンビオチン技法を利用する糖複合体中のシアール酸、ガラクトース及び他の糖のための選択的標識」1988)。あるいはまた、カルボニル基にアミン修飾ビオチン、例えばBiocytin及びEZ−Link(商標)PEO−Biotin(Pierce & Warriner Ltd., Chester,UK)のタグを還元的アルキル化(Means G.E., Methods Enzymol 47, 469-478「アミノ基の還元的アルキル化」1977;Rayment L., Methods Enzymol 276: 171-179「リジン残基を還元的アルキル化してタンパク質の結晶特性を変更」1997)を利用して付けることができる。したがって、隣接−ジオール含有炭水化物修飾体を有する複合体混合物中タンパク質をビオチニル化することができる。ビオチニル化した、したがって炭水化物を修飾したタンパク質はアビジン化固相担体を使用して単離することができる。
【0088】
次に、炭水化物を有する捕捉されたタンパク質から末端ペプチドを上記方法及び当分野で公知の他の方法を利用して単離すればよい。
【0089】
リン酸化タンパク質の単離
リン酸化は翻訳後における普遍的な可逆修飾であり、ほとんど全ての微生物のシグナル経路の大半において出現する。これは重要な研究領域であり、リン酸化動力学の解析を可能にするツールは細胞の刺激応答、例えば細胞の薬物応答を完全に理解するのに必須である。
【0090】
各種広汎のタンパク質に存在するリン酸チロシン残基に結合する抗体を産生することについて報告している研究グループは多い(例えば、A.R.Frackeltonら Method Enzymol.201, 79-92「抗リン酸チロシンモノクロナール抗体及びリン酸チロシン含有タンパク質のアフィニティー精製への利用」1991及びMethod Enzymol 同号中の他の論文参照)。このことは、翻訳後にチロシンがリン酸化修飾を受けたタンパク質のかなり多数のものは、これら抗体をアフィニティーカラムのリガンドとして使用するアフィニティークロマトグラフィーによって単離されることを意味する。
【0091】
リン酸チロシンに結合する抗体を本発明において使用すれば、リン酸チロシン残基を含有するタンパク質から末端ペプチドを単離することができる。複合体混合物中のチロシンリン酸化タンパク質は、抗リン酸チロシン抗体アフィニティーカラムを使用して単離することができる。したがって燐タンパク質の分画混合物由来のN末端ペプチドは本発明方法に従って単離することができる。
【0092】
リン酸セリン及びリン酸スレオニン含有ペプチドの分析技術も知られている。それらの方法のあるクラスはリン酸塩のベータ除去のための公知反応を基礎にしている。その反応の結果、リン酸セリン及びリン酸スレオニンからデヒドロアラニン及びメチルデヒドロアラニンが形成され、それらは共にミカエル受容体でありチオールと反応する。これを利用してアフィニティークロマトグラフィー用の疎水基を導入している(例えば、Holmes C.F., FEBS Lett. 215(1),21-24「リン酸セリン含有ペプチドの選択的単離の新方法」1987参照)。またジチオールのリンカーも使用されており、これによりリン酸セリン及びリン酸スレオニン含有ペプチドにフルオレッセイン及びビオチンを導入している(Fadden P, Haystead TA, Anal. Biochem. 225(1), 81-8,「ペプチド及びタンパク質上のリン酸セリンを定量的及び選択的に発蛍光団標識する:毛細管電気泳動及びレーザー誘導蛍光によってアットモルの水準で特徴化」1995;Yoshida O. Nature Biotech 19, 379-382「リン酸プロテオームをプローブ化するツールとしてのリン酸化タンパク質の濃縮分析」2001)。末端ペプチドのみを分析する必要があるので、セリン及びスレオニンでリン酸化したタンパク質をビオチンの使用によりアフィニティー濃縮すれば、これを本発明方法と共に利用できる。同様に抗フルオレッセイン抗体が知られており、フルオレッセインをタグしたペプチドをこの抗体によるアフィニティークロマトグラフィーをもって単離することができる。末端ペプチドはその後に本発明方法に従って単離することができる。
【0093】
リンタンパク質を単離する化学手順も公開されている(Zhou H.ら、 Nature Biotech 19, 375-378「タンパク質リン酸化分析への系統的アプローチ」2001.)。この手順は、フォスフォールアミデートは酸性条件下で容易に加水分解するという事実に基づいている。この手順には、タンパク質混合物中の遊離アミンを全て防護し、次にアミン官能基を含有する防護剤で遊離リン酸基とカルボン酸基とを結合して封鎖し、対応するフォスフォールアミデート及びアミドを形成することが包含される。次に封鎖タンパク質を酸で処理してリン酸基の封鎖を解除する。次にチオールが保護された第二番目のアミン試薬でペプチドを処理する。この工程でリン酸基は再び封鎖される。保護チオールを脱保護し、チオール反応性樹脂上でリンペプチドを選択的に捕捉するのに使用する。樹脂を十分に洗浄後にこれらのペプチドを酸加水分解により溶出する。この手順はリン酸基全てに適用可能であるとクレームされているが、リン酸チロシンは酸に不安定であるので、この方法はリン酸チロシンには適用できない可能性がある。
【0094】
固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)はリン酸タンパク質及びリン酸ペプチドを単離する別の技術を代表する。リン酸塩は三価金属イオンを含有する樹脂、特にガリウム(III)イオンに付着する(Posewitch, M.C.,Tempst, P., Anal. Chem., 71:2883-2892「リン酸ペプチドの固定化ガリウム(III)アフィニティークロマトグラフィー」1999)。この技術は有利である。理由は、セリン/スレオニンリン酸化及びチロシンリン酸化したペプチド及びタンパク質を同時に単離することができるからである。
【0095】
したがって、IMACはリン酸化タンパク質試料の分析に本発明においても使用することができる。本発明第二態様の別の実施例では、リン酸化タンパク質試料を分析するに当たり、まずリン酸化タンパク質を単離し、次にリン酸タンパク質のC末端ペプチドを分析してもよい。リン酸化タンパク質含有タンパク質試料を分析するプロトコールには以下の工程が包含される。
1. タンパク質試料を固定化金属イオン含有アフィニティーカラムに通し、リン酸化タンパク質のみを単離する、
2. 捕捉されたリン酸化タンパク質からC末端ペプチドを本発明方法を利用して単離する、
3. タグの付いたペプチドをLC−MS−MSにより分析する。
【0096】
タンパク質の他の翻訳後修飾
ユビキチン化、リポイル化及び他の翻訳後修飾によって修飾されたタンパク質もクロマトグラフィー技術 (Gibson J.C., Rubinstein A., Ginsberg H.N. & Brown W.V. Methods Enzymol 129, 186-198,「免疫アフィニティークロマトグラフィーによるアポリポタンパク質E含有リポタンパク質の単離」1986;Tadey T. & Purdy W.C. J.Chromatogr. B.Biomed. Appl. 671(1-2)237-253、「リポタンパク質を単離及び精製するクロマトグラフィー技術」1995)、又はアフィニティーリガンドを基礎とする技術、例えば免疫沈降(Hershko A. Bytan E. Ciechanover A. & Haas A. L.、 J.Biol.Chem. 257(23),13964-13970「生細胞でのユビキチン−タンパク質複合体代謝回転の免疫化学的分析」1982)により単離又は濃縮することができる.。これらの修飾をしたタンパク質は全て本発明方法により分析することができる。
【0097】
質量分析法を使用するペプチド分析
質量分析法の基本的な特徴は以下のごとくである。
【0098】
導入系→イオン源→質量分析器→イオン探知器→データ捕捉系
【0099】
ペプチド分析の目的に好ましい導入系、イオン源及び質量分析器がある。
【0100】
導入系
本発明の全ての態様において質量分析法による分析を行う前にクロマトグラフィー又は電気泳動による分離法を利用して試料の複雑さを減少しておくのがよい。各種の質量分析法の技術は分離技術、特に毛細管ゾーン電気泳動及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と両立する。ただし、分離が必要な場合にイオン化源の選択はある程度限定してもよい。理由は、MALDI及びFAB等のイオン化技術は固体表面から物質を削除するのでクロマトグラフィー分離には比較的適さないからである。これらの技術の一つによりクロマトグラフィー分離と質量スペクトル分析とを一線に連結することは困難である。動的FAB及びスプレーを基礎とするイオン化技術、例えば電子スプレー、熱スプレー、APCIは全てインラインでのクロマトグラフィー分離と両立する。
【0101】
イオン化技術
質量分析法の生物学への応用には、いわゆる「ソフト」イオン化技術を利用することが多い。それらの技術によりタンパク質及び核酸等の大型分子を本質的に原型のままイオン化することができる。液相技術を使用すれば大型の生物分子を緩和なpHの溶液状態でかつ低濃度で質量分析計に導入することができる。電子スプレーイオン化質量分析法(ESI−MS)、高速原子衝突イオン化法(FAB)、マトリックス支援レーザー脱着イオン化質量分析法(MALDI−MS)、大気圧化学的イオン化質量分析法(APCI−MS)等の多数の技術が本発明と共に使用するのに適している。ただしこれらに限定されない。
【0102】
電子スプレーイオン化
電子スプレーでイオン化するには、検体分子の希釈溶液を分析器中に「噴霧する」、すなわち微細なスプレー状態で注入することが必要である。例えば、溶液を荷電針の先端から乾燥窒素の気流及び静電界に噴霧する。イオン化のメカニズムは十分に解明されていないが、次のように考えられている。窒素気流中に溶媒が気化する。小滴になると共に検体分子が濃縮される。大部分の生物分子には正味の電荷があるとすると、溶解した分子の静電的な反撥力が増大する。気化を続けるに従いその反撥力は最終的には滴の表面張力より大きくなるので、その滴は更に小さな滴に崩壊する。このプロセスは時々「クーロン破裂」と言われる。静電界が加わると滴の表面張力は更に打破されて噴霧過程は支援される。更に小さな滴からの気化が続くと滴は破裂を繰り返し、遂には溶媒だけの蒸気相に本質的には生物分子が存在する。この技術は質量標識を使用する場合には特に重要である。すなわちこの技術では、イオン化の過程でイオンに賦課されるエネルギー量が比較的に小さく、かつ群の中でのエネルギー分布の範囲が他の技術に比較すると狭い傾向にある。電極を適切に配置してセットアップした電界を使用するとイオン化チャンバからイオンが加速されて出てくる。電界の極性を変えて負又は正のイオンを抽出してもよい。電極間の電位差により、質量分析器を通過するイオンの正負が決まり、またイオンが質量分析計に入るための運動エネルギーも決まる。このことは質量分析計でのイオンの分裂を考察する際に重要である。イオンに賦課されるエネルギーが多いほど、検体分子が供給源に存在する浴ガスとの衝突を介して分裂が起こる可能性が大きくなる。電界を調節してイオン化チャンバからイオンを加速すれば、イオンの分裂を制御することができる。これは、標識した生物分子からタグを除去する手段としてイオンの分裂を利用する必要がある場合には有利である。
【0103】
マトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)
MALDIでは、生物分子の溶液を大過剰モルの光励起「マトリックス」に埋設する必要がある。適切な振動数ノレーザー光を当てると、マトリックスが励起し、次に閉じ込めた生物分子と一緒にマトリックスが迅速に気化する。酸性マトリックスから生物分子にプロトンが移動して生物分子のプロトン形が生じ、これは陽イオン質量分析法により探知することができる。この技術ではかなりの量の翻訳エネルギーがイオンに賦課されるが、過剰の分裂を誘導する傾向はない。しかし、電圧を上げると再びこの技術で分裂を制御することができる。
【0104】
高速原子衝突イオン化法
高速原子衝突イオン化法(FAB)では、比較的に揮発しにくい分子を気化しイオン化する技術が多数記述されている。これらの技術では、試料と高エネルギー光線のキセノン原子又はセシウムイオンとの衝突により試料が表面から脱着する。簡単なマトリックス、通常は非揮発性物質、例えばm−ニトロベンジルアルコール(NBA)又はグリセロールで試料を表面上にコートする。これらの技術も液相導入システムと両立する。毛細管電気泳動導入システム又は高圧液体クロマトグラフィーシステムから溶出する液体が半溶ガラスを通過し、本質的にその半溶ガラスの表面を検体溶液がコートし、それを原子衝突によりその半溶ガラスの表面からイオン化する。
【0105】
質量分析器
大抵の場合に、各ペプチドの質量が決定すれば、そのペプチドが由来したタンパク質を同定するには十分である。質量分析器の簡単な結合構造の一つ、例えば飛行時間、四重極及びイオン捕捉の装置を使用して全く経済的に質量測定を実行することができる。衝突誘導解離によるペプチド分裂を利用すれば、末端ペプチドの質量だけでは同定されないタンパク質を同定することができる。ペプチドに関し更なる情報が必要な場合には、質量分析器の更に複雑な結合構造が必要かもしれないが、イオン捕捉装置はこの目的の場合にも十分である。
【0106】
ペプチドのMS/MS及びMSn分析
タンデムの質量分析計によって、質量対電荷の比を予め決めてあるイオンが衝突誘導解離(CID)によって選択され分裂される。次に分裂断片を探知することにより、選択されたイオンに関する構造情報が得られる。タンデム質量分析計でCIDによりペプチドを分析すると、特徴的な開裂パターンが観察され、このパターンによってペプチドの配列を決定することができる。一般に天然ペプチドはペプチド骨格のアミド結合の位置で無作為に分裂し、そのペプチドに特徴的なイオンシリーズが得られる。イオンの電荷がイオンのN末端断片に保持される場合には、n番目のペプチド結合での開裂に対するCID断片シリーズはan、bn、cn、等と表示される。同様に、電荷がイオンのC末端断片に保持される場合には断片シリーズはxn、yn、zn、等と表示される。
【0107】
【化9】
【0108】
トリプシンとトロンビンは、タンデム質量分析法にとって好ましい開裂剤である。理由は、これらは分子の両末端に塩基性基、すなわちN末端にαアミノ基、C末端にリジン又はアルギニン側鎖を持ったペプチドを産生するからである。これは二重荷電イオンの形成に有利であり、このイオンでは荷電中心が分子の反対末端にある。CIDをすると、これら二重荷電イオンからC末端イオンシリーズ及びN末端イオンシリーズが産生する。これを手がかりにしてペプチドの配列を決定する。一般的に言うと、所与のペプチドのCIDスペクトルには可能なイオンシリーズの唯1個又は2個が観察される。四重極装置に特徴的な低エネルギー衝突ではbシリーズのN末端断片又はyシリーズのC末端断片が優勢である。二重荷電イオンを分析する場合には両方のシリーズがしばしば探知される。一般に、yシリーズイオンはbシリーズより優勢である。
【0109】
タンデム質量分析計の代表的な結合構造は四重極の三連式であり、衝突チャンバで分離された2個の四重極質量分析器と1個の四重極を含有している。この衝突四重極は二つの質量分析器四重極の間のイオンガイドとして機能し、これら質量分析器四重極の中にガスが導入されると第一の質量分析器からのイオン気流と衝突することができる。第一の質量分析器によりイオンはその質量/電荷の比を基礎にして選択され、通過する衝突セルで分裂する。分裂の程度は、イオンを加速する電界を変えることによって、あるいは衝突セルのガスを変えることによって制御してよい。例えばヘリウムをネオンに置換することができる。断片イオンを第三の四重極で分離し探知する。タンデム質量分析計以外の結合構造で誘導開裂を実行してもよい。ガスがトラップに導入される過程で、イオン捕捉質量分析計により分裂は促進される。すなわち、トラップで捕捉されたイオンは加速されて衝突することができる。イオントラップには通常は浴ガス、例えばヘリウムが含有されているが、例えばネオンを追加すると分裂が促進される。同様に、フォトン誘導分裂を捕捉されたイオンに適用することができる。他の好ましい結合構造は四重極/直交飛行時間式タンデム装置であり、これでは高走査速度の四重極と高感度のレフレクトロンTOF質量分析器とを結合して分裂産生物を同定する。
【0110】
従来の「セクター」方式装置はタンデム質量分析法で普通に使用する結合構造である。セクター質量分析器は二つの別々の「セクター」を包含しており、電気セクターがイオン光線に焦点を合わせると供給源が電界を使用して同一の運動エネルギーを持つイオン流の中に放置される。磁気セクターはイオンをその質量に基づいて分離し探知器でスペクトルが形成される。タンデム質量分析法には、この種の二つのセクターからなる質量分析器を使用することができ、その分析器では電気セクターが第一質量分析器に、磁気セクターが第二質量分析器に、二つのセクター間に置かれる衝突セルを提供する。この結合構造は質量標識の付いた核酸から標識を開裂するのに極めて効果と思われる。衝突セルで分離された二つの完全セクターからなる質量分析器は質量標識した核酸の分析にも使用することができる。
【0111】
イオン捕捉器
イオン捕捉質量分析計は四重極スペクトル計の親類である。一般にイオン捕捉器には3個の電極からなる構造をしており、すなわち各端に「キャップ」電極があり、それらによって空洞が形成されている円筒状電極である。円筒状電極には交流高周波電位を与え、キャップ電極にはDC又はAC電位でバイアスを架ける。空洞に注入されたイオンは円筒状電極の振動電界により捕捉器内の安定な軌道に拘束される。しかし、与えられた振幅の振動電位に対してある種のイオンは不安定な軌道をとり、捕捉きから放出される。振動高周波電位を変化することによって、捕捉器に注入したイオン試料をそれらの質量/電荷比に応じて捕捉きから連続的に放出させることができる。次に放出されたイオンを探知することによって質量スペクトルが得られる。
【0112】
一般にイオン捕捉器は、イオン捕捉器の空洞に存在する少量の「浴ガス」、例えばヘリウムで操作される。これにより装置の解像度と感度の両方が増加する。その理由は、捕捉器に入ったイオンは本質的には浴ガスとの衝突を経て浴ガスの環境温度にまで冷却されるからである。衝突すると、試料を捕捉器に導入した時のイオン化は増加するが、それと共にイオン軌道の振幅と速度は落着しイオン軌道は捕捉器の中央近傍に保持される。このことは、振動電位を変更することにより軌道が不安定になったイオンは落着している回流イオンに比べると急速にエネルギーを獲得し、緊密な束となって捕捉器から飛び出し、その結果、ピークが狭く大きくなる。
【0113】
イオン捕捉器は、タンデム質量分析計の結合構造を模倣することができ、実際に多重質量分析計の結合構造を模倣することにより、捕捉イオンの複雑な分析が可能になっている。試料から選定したある質量対電荷比の種を単一の種として捕捉器に保持し、その他の種は全て捕捉器から放出させることができる。保持した種は、第一振動周波の上に第二振動周波を超負荷することにより励起することができる。次に励起されたイオンは浴ガスと衝突し、十分に励起されると分裂する。次に得られた断片は更に分析することができる。更なる分析をする断片イオンは、分析を所望しないイオンを捕捉器から排出することによってに保持することができる。保持した断片を再び励起し、更なる分裂を誘導してもよい。十分な試料が存在する限りこのプロセスを反復することにより、更なる分析が可能になる。留意すべきこととして、これらの機器は一般に誘導分裂後の断片イオンを高い存在割合で保持する。これらの機器及びFTICR質量分析計(後記)は、線形質量分析計に存在する空間的に解決されタンデム質量分析法というもむしろ一時的に解決されたタンデム質量分析法の形態を代表するものである。
【0114】
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FTICR MS)
FTICR質量分析計には、イオン試料が空洞内に保持されるという点でイオン捕捉器と類似の特徴があるが、FTICR MSではイオンは交差電磁界により高真空チャンバに補足される。電界は箱の二つの側面を形成する一対の平板電極によって形成される。この箱は磁石の磁界に含まれる。この磁石は、電界を形成しかつ捕捉平板と呼ばれる二枚の平板に連結しており、捕捉平板の間にあってかつ架けた磁界に直交する安定な円形軌道に注入イオンを拘束する。箱の他の対立側を形成する二枚の「送信板」に高周波パルスを架けるとイオンはより広い軌道の中に励起される。イオンの円形運動によりそれに対応する電界が、「受信板」を含む箱の残りの二つの対立側に発生する。励起パルスによりイオンはより大きな軌道に励起されるが、衝突を経てイオンの固有運動が失われるに従いこの軌道は崩壊する。受信板が探知した対応シグナルはフーリエ変換解析により質量スペクトルに変換する。
【0115】
誘起分裂実験のために、これらの機器は、イオン捕捉器と類似の方法、すなわち問題の単一種を除く全てのイオンが捕捉器から排出可能となるという方法で動作することができる。衝突ガスを捕捉器に導入して分裂を誘起することができる。その後に断片イオンを分析することができる。一般に分裂産生物と浴ガスとが結合すると、「受信板」が探知したシグナルのFTによって分析する場合に解像性が貧しくなる。しかし、断片イオンを空洞から放出させ、例えば四重極のあるタンデム構成の中で分析することができる。
【実施例】
【0116】
実施例1
非C末端ペプチドを固相担体上に捕捉することによってC末端ペプチドを単離
【0117】
本発明の態様では、トリプシン又はLys−Cでのプロテアーゼ消化を行った後に、タンパク質混合物からC末端ペプチドを単離する方法が提供されている。消化すると、得られるペプチド混合物において、C末端ペプチドはαアミノ基のみを有するが、それ以外は全てαアミノ基とεアミノ基を含有する。したがって、εアミノ基と優先的に反応する任意の化合物を使用すれば、これらのペプチドをC末端ペプチドから単離することができる。ペプチドを「遊離」マレイミドで標識した初期の実験によると、マレイミドはεアミノ基と確実に反応しαアミノ基には多少選択的に反発することが判っており、またポリスチレンに固定化したマレイミドが市販品として入手可能であることから(Fluka, Gillingham, Dorset, UK)、マレイミドのC末端ペプチド単離用試薬としての適性を検討した。
【0118】
試薬
4−(マレイミドブチラミドメチル)-ポリスチレンビーズをFlukaから入手した。これらビーズの容量は約0.4mmolマレイミド/gビーズである。
【0119】
モデルペプチドとして次のペプチド対を選択した。
a:pro−phe−gly−lys− これにはαアミノ基及びεアミノ基がある。
c:val−gly−ser−glu− これにはαアミノ基のみがあり、C末端ペプチドに該当する。
【0120】
このC末端ペプチド単離プロトコールの原理が証明されるためには、「a」ペプチドはビーズに結合し、「c」ペプチド(C末端ペプチド)は溶液中に残されなければならない。
【0121】
最初の実験
以下の実験を行って、固定化マレイミドがαアミノ基と反応する選択性を求めた。使用条件は次のとおり。
各ペプチド(a及びb)400nmolを4000又は12000nmolマレイミド当量のビーズと別々に混合した。
【0122】
反応液を25%アセトニトリル含有12.5mMホウ酸ナトリウムpH9.5中で室温にて振とうした。
【0123】
0、2、4時間及び終夜の間隔で試料10μlを採った。
【0124】
この後にペプチドをTLC(メタノール:酢酸:酢酸エチル 1:1:2)により分離し、ニンヒドリン染色してペプチドの存在量を測定した。
【0125】
結果
図4のTLCプレートから見られるように、a又はcペプチドは全時間に渉り大きく変化していない。しかし、両ペプチドの量は僅かに減少しており、これはこれらペプチドとビーズの非特異的な結合の結果と推定される。これらの結果から、「a」ペプチドは上記条件ではビーズと反応しないことが示唆される。
【0126】
マレイミドはアルカリ水性条件では加水分解することが知られており、重合体に結合したマレイミドは上記条件では「a」ペプチドと反応するよりも速く加水分解する可能性がある。それゆえ、この問題を検討するために非プロトン有機溶媒を有する非水性条件下で反応を繰り返した。
【0127】
非水性反応
プロテアーゼ消化を模擬するために、ペプチドa及びcを等量で混合し、次の方法で反応させた。
【0128】
各ペプチド(a及びb)400nmolを4000又は12000nmolマレイミド当量のビーズと共に混合し、全てを10%トリエチルアミン含有DMFに溶解した。
【0129】
反応液を室温で振とうし、試料を0及び2時間及び終夜に採った。
【0130】
この後にペプチドをTLC(メタノール:酢酸:酢酸エチル 1:1:2)により分離し、ニンヒドリン染色してペプチドの存在量を測定した。
【0131】
結果
図5のTLCプレートから見られるように、cペプチドは、4000nmol当量マレイミドと混合した場合に全時間にわたり量が減少しない、しかし、12000nmol当量マレイミドと混合した場合には終夜反応後に減少する。これは、他方の反応よりマレイミド量が3倍あるので、多分ペプチドとビーズの非特異的な結合の結果と思われる。また、非特異的結合を減少したり、あるいは試料採取時にビーズから非特異的結合タンパク質を洗浄したりということは行わなかった。全反応液を採り、ビーズを適当な溶媒で洗浄すれば、上記の損失は回収されると推測される。しかし、PSTプロセスの機能を停止はせず、シグナル強度を減らしただけであった。
【0132】
「a」ペプチドは、ビーズ上のマレイミド4000nmolと反応した場合には2時間後に量が減少し、12000nmolでほぼ完全に除去された事実は最も重要である。両反応と共に「a」ペプチドは終夜インキュベーション後には完全に除去されたようである。
【0133】
「a」ペプチドは、ビーズと反応し、ビーズにより除去され、「c」ペプチドの量はこの反応によりおおむね影響されないように見える。したがって、これらの観察から、非水性条件下でポリスチレンビーズに結合したマレイミドを使用することはC末端ペプチドを単離するための実行可能なアプローチであることを示唆していた。
【0134】
立体障害のあるアルケニルスルフォン試薬を導入した固相担体は水性条件で安定であり、またC末端ペプチドを水溶液から単離することは可能であると推測される。同様に反応性官能基を有し、立体障害のあるアルケニルスルフォンを含有するビオチン試薬も水性条件に適する。
【0135】
加水分解によりペプチドとの反応が防止される前にマレイミドビーズはどれ程の水量に耐えることができるかを決定する実験
マレイミドビーズが或る量の水(ペプチドの溶解を助ける)に耐えられるならば、その方が実用的と思われるので、次の反応を行った。
【0136】
各ペプチド(a及びb)400nmolを12000nmolマレイミド当量のビーズと共に混合し、全てを10%トリエチルアミン及び0、10、30又は48%水を含有するDMFに溶解した。
【0137】
反応液を室温で振とうし、試料を0及び2時間に採った。
【0138】
この後にペプチドをTLC(メタノール:酢酸:酢酸エチル 1:1:2)により分離し、ニンヒドリン染色してペプチドの存在量を測定した。
【0139】
結果
図6のTLCプレートで見られるように、「a」ペプチドの量は、0%及び10%水で2時間後に減少しているが、30%及び48%ではほとんど変化していない。「c」ペプチドの量は10%水で2時間から変化が見られない。これは、この特定試料はTLCの前に十分に凍結乾燥しておらず、したがって使用時の容積が大きく、その結果「c」ペプチドの拡散が大きかったという事実によって多分説明できる。
【0140】
上記の結果から、使用した条件下ではこの反応において耐えられる水の量は少ないことが示唆される。より最適な条件下であれば、より大量の水に耐えられるかを評価するには更なる検討が必要である。
【0141】
実施例2
ピリジルプロペニルスルフォンビオチンの合成
【0142】
ピリジル−1−プロペニルスルフォンの合成:
ピリジン−3−スルフォニルクロライドの製造:ピリジン−3−スルフォン酸(C5H5NSO3)3.18g(0.02mol)をPCl5 8.34g(0.04mol)と乾燥フラスコ中で混合した。フラスコを湿気から防護し、130〜140℃で加熱還流して2時間撹拌した(攪拌しながら130〜140℃で2時間加熱還流した)。次に反応混合物を冷却した。冷却で固化した反応混合物をCHCl3で磨り潰してPCl5及びPOCl5を除去した。上澄液を除去した。新しいCHCl3を使用して磨り潰し工程を反復し、最終的には塩化水素で飽和したCHCl3で磨り潰した。この塩化水素は滴下ロートから濃硫酸(H2SO4)を丸底フラスコの塩化ナトリウムにゆっくり加えて調製し、丸底フラスコを磨り潰し反応容器にゴムチューブで連結した。白色粉末が形成され、ろ過し、CHCl3で洗浄し、最後は真空乾燥した。このプロセスにより、3−ピリジンスルフォニルクロライド塩酸塩(収量3.05g、85%)が得られた。C5H4NSO2Cl(融点141〜143℃)。以上の手順はReinhart F.E., J.Franklin.Ind. 236, 316-320(1943)により記述されている。
【0143】
ピリジン−3−(2−ヒドロキシプロピル)スルフォンの調製:
水50ml中にNa2SO3 3.52g(0.028mol)及びNaHCO3 4.36g(0.052mol)の沸騰溶液に3−ピリジンスルフォニルクロライド塩酸塩2.828g(0.014mol)を少しずつ添加した。添加を完了後、更に5分間加熱し、ろ過し、ろ液を蒸留乾燥した。十分に粉末化した残渣を無水ジメチルフォルムアミド100mlに懸濁し、テトラブチルアンモニウムブロマイド1g(3mmol)(転移触媒として機能)及び上記のごとく調整した1−クロロ−2−プロパノール2.22g(0.028mol)と共に加熱した。反応混合物を24時間還流した。固体をろ過後、ろ液を蒸留乾燥し、残渣の油をシリカゲルカラムから酢酸エチル/メタノール(80/20 v/v)で溶出した。
【0144】
ピリジン−3−(2−ヒドロキシプロピル)スルフォンをメシル化し、メシル化水酸基を除去してピリジン−1−プロペニルスルフォンを得る:
テトラヒドロフラン(THF)25ml中のピリジン−3−(2−ヒドロキシプロピル)スルフォン2.0g(0.00995mol)及びトリエチルアミン2.0g(0.0199mol)の混合物を0℃に冷却した。これにメタンスルフォニルクロライド2.23g(0.0149mol)を添加した。反応混合物を0℃で6時間撹拌し、室温で6時間撹拌した。トリエチルアンモニウムクロライドの沈殿をろ去し、溶媒を留去した。次に残渣油をトリエチルアミン1.5g(0.0149mol)で処理し、室温で48時間撹拌放置した。次にTHF25mlを加え、沈殿をろ去した。溶媒を留去後、残渣をシリカゲルカラムから酢酸エチル75%とn−ヘキサン25%を含有する溶媒で溶出し、無色の油を得た。これは冷却すると固化しピリジン−1−プロペニルスルフォン1.5g(収率83%)を得た。
【0145】
N−(+)−ビオチン−6−アミドヘキシル−1−ヨウダイドの合成手順
N−(+)−ビオチン−6−アミドヘキシル−1−ヨーダイドの合成を図1の最初の二工程に示ごとく二工程で行った。第一工程ではD−(+)−ビオチンを6−アミノ−1−ヘキサノールと結合させ、N−(+)−ビオチン−6−アミド−1−ヘキサノールを形成した。第二工程ではN−(+)−ビオチン−6−アミド−1−ヘキサノールのヒドロキシ基をヨウ化物で置換した。
【0146】
1)N−(+)−ビオチン−6−アミド−1−ヘキサノールの合成
ジフェニルフォスフィン酸クロライドを使用してビオチンを6−アミノ−1−ヘキサノールに結合させて(「シクロスポリン類似体の合成」I.J. Galpin, A.Karim, A. Mohammed及びA. Patel, Tetrahedron Letters Vol.28,No.51,p6517-6520,1987;「シクロスポリン類似体の合成研究」I.J. Galpin, A.Karim, A. Mohammed及びA. Patel, Tetrahedron Vol.44,No.6,p1783-1794,1988)、ビオチンの遊離カルボキシル基を活性化し、混合無水物を形成した。蒸留した乾燥ジメチルフォルムアミド20ml中のD−(+)−ビオチン0.976g(4mmol)及びトリエチルアミン0.606g(6mmol)を氷塩浴中で−5℃に冷却した。これにジフェニルフォスフィン酸クロライド1.416g(6mmol)を加えた。反応混合液を−5℃、20分間撹拌し、次に6−アミノ−1−ヘキサノール0.702g(6mmol)を加えた。反応混合液を0℃で1時間、更に室温で24時間撹拌した。沈殿した塩酸トリエチルアンモニウムをろ過して除去し、溶媒を高真空で除去した。溶媒を留去後に得られた残渣を強塩基性樹脂(Dowex 550A OH 陰イオン交換樹脂)が充填されているイオン交換カラムで一部を精製した。樹脂をまずメタノール(2床容積)で洗浄し、次に4モル水酸化ナトリウム(1床容積)で洗浄し、最後に水性メタノール(20%メタノール)で洗浄してpH8−9を得た。N−(+)−ビオチン−6−アミド−1−ヘキサノールの粗製固体残渣をメタノール5mlに溶解した。メタノール溶液をカラムに導入した。生成物をメタノールで連続的に溶出し、完全に溶出した(TLCでモニター)。溶媒を回転留去した。得られた固体残渣を、75%酢酸エチル及び25%メタノールの混合溶媒にて溶出するシリカゲルカラム上で更に精製した。溶媒を留去後、固体残渣をメタノール/エーテルから再結晶してN−(+)−ビオチン−6−アミド−1−ヘキサノールの微細な針状結晶(融点170〜172℃)を得た (1.16g、86%収率)。生成物を1H NMR、化学イオン化質量分析法及びミクロ分析(C、H及びN)により同定した。
【0147】
2)N−(+)−ビオチン−6−アミドヘキシル−1−ヨウダイドの合成
N−(+)−ビオチン−6−アミド−1−ヘキサノールのヒドロキシル基をヨウ化物で置換してN−(+)−ビオチン−6−アミドヘキシル−1−ヨウダイドを形成した。これにはOlahらの方法(J.Org.Chem44(8):1217、1979)に多少の改良を加えて以下のように実施した。N−(+)−ビオチン−6−アミド−1−ヘキサノール1.029g(3mmol)をアセトニトリル(予め精留したHPLCグレード)15mlに溶解した。次に、溶液を湿気から防護し窒素の連続流で10分間清浄した。次にアセトニトリル5ml中のヨウ化ナトリウム0.9g(2×3mmol)を加えた。その後、窒素の連続流中に撹拌しながらクロロトリメチルシラン0.561g(2×3mmol)を徐々に加えた。生成物の形成を(75%酢酸エチル及び25%メタノール)の混合溶媒で展開するシリカゲル上の薄層クロマトグラフィーによりモニターした。5時間後に出発物質の完全な消去が観察されたが、撹拌しながら反応を17時間放置し、確実にヒドロキシル基を完全置換した。完了後、赤い沈殿物をろ去して保存し、ろ液を蒸留乾固した。得られた赤い残渣をろ液からの沈殿物に加えた。次に集めた固体をメタノール(20ml)に完全に溶解し、10%(w/w)チオ硫酸ナトリウム20mlと共に撹拌して溶液の色が完全に消失するのを観察した。この乳化液に水100mlを加え、氷上に1時間放置した。次に沈殿をろ過し、水で数回洗浄し、真空下で乾燥した。生成物をメタノール/エーテルから再結晶してN−(+)−ビオチン−6−アミドヘキシル−1−ヨウダイド1.082gを淡黄色固体として得た(収率79%、融点146〜147℃)。生成物を1H NMR、化学イオン化質量分析法及びミクロ分析(C、H及びN)により同定した。
【0148】
N−(+)−ビオチン−6−アミドヘキシル−1−ピリジニウム−3−プロップ−1−エン−スルフォン ヨウダイドの合成
ジメチルスルフォキサイド(DMSO)5ml中のN−(+)−ビオチン−6−アミドヘキシル−1−ヨウダイド453mg(1mmol)及びピリジル−1−プロペニルスルフォン201mg(1mmol)を油浴にて100℃で24時間加熱した。生成物の形成を薄層クロマトグラフィーによりモニターした。DMSOを高真空で留去し、残渣を水25mlに溶解した。次に水溶液をクロロフォルムで2回洗浄した。水を留去後、残渣をジエチルエーテルで2回洗浄した。次に残渣をメタノールに溶解し蒸発乾固した。得られた黄色固体(収率252mg、38%)は、N−(+)−ビオチン−6−アミドヘキシル−1−ピリジニウム−3−プロップ−1−エン−スルフォン ヨウダイドであり、図1に示すピリジルプロペニルスルフォンビオチンとも呼ばれる。後にこの化合物40mgをセファデックスカラム(SephadexG15)上に水を溶出液として精製し、更に純度の高い試料を得た。
【0149】
実施例3
酵素開裂及びピリジルプロペニルスルフォンビオチンを使用して単一ポリペプチドからC末端ペプチドの単離
この実施例では、小さなポリペプチド、E.coli Thioredox(108 AA;Sigma-Aldrich, Dorset, UKから入手可能)を本発明手順で処理し、これのC末端ペプチドを単離した。このタンパク質には2個のシステインチオール基があり、3番目のペプチド断片上にジスルフィッド架橋として存在している。これからは交差断片が産生しないので、このチオール基の還元及びアルキル化は行わなかった。ただしチオールを防護するのは一般的には好ましい。このタンパク質(17nmol、Calbiochem Novabiochem、Nottingham、UKから入手可能)をTEAA25mM、EDTA1mM、尿素0.3M、チオ尿素0.15M、10%アセトニトリル含有pH8のTEAA緩衝液390μlに溶解した。次にこの溶液にエンドプロテナーゼLys−C(TEAA25mM、pH8の10μl中に10μg、Roche Diagnostic GmbH、Mannheim、ドイツから入手)を加え、終夜放置して酵素反応をさせた。開裂の結果として、非C末端ペプチドには全てεアミノ基が保持されたが、C末端ペプチドにはεアミノ基はないままであった。次に非C末端ペプチドの遊離εアミノ基をピリジルプロペニルスルフォンビオチンで防護した。次にアセトニトリル/エタノール(4:1)22.5μlに溶解したビオチン部分(2.25μmol)を消化した溶液に加え、溶液のpHを11.8に変更し、撹拌しながら室温で8時間放置してタグ化反応した。
【0150】
次に反応混合物をStrep−Tactin(商標)Sepharoseビーズ(IBA GmbH、Goettingen、ドイツ)と共にインキュベートし、ビオチニル化非C末端ペプチドを固相担体上に捕捉し、C末端ペプチドのみを遊離のままにした。タグ化反応からの一部の溶液(6.5nmol)を、予め水4mlで2回洗浄したStrep−Tactin(商標)Sepharose(10mL、容量340nmol/μl懸濁ビーズ)と共にインキュベートした。次にカラムを1時間激しく撹拌し、C末端ペプチドを水10mlで溶出した。
【0151】
ペプチド混合物の試料を各種の時点で液体クロマトグラフィー質量分析法により分析した。使用機器は、Finnigan LCQ Deca及びFinnigan Surveyor HPLC(カラム:50×2.1mm、5μm HyPURITY(商標)Elite C18;流速:0.2mL/分;1時間勾配:A液:0.05%TFA含有メタノール、B液:0.05%TFA含有水)である。スペクトルを図7及び8に示す。図7は、ビオチン標識後のペプチド混合物の電子スプレーでのスペクトルを示す。標識されていないC末端ペプチドを、予想されたビオチン標識ペプチドのピークの間に容易に見出すことができる。図8は、ストレプタクチンビーズとインキュベートした後のペプチド混合物のHPLC/MS分析におけるイオン流の跡を示す。C末端ペプチドが大幅に潤沢になっているのが見られる。ビオチン標識と完全には反応しなかった非C末端ペプチドに対応する小さな追加ピークも多少見られる。
【0152】
実施例4
集団の中の各ペプチドから1個のC末端ペプチドを単離する方法を拡張して、集団の中の各ペプチドから数個のペプチドを単離することが可能である。これは、比較的珍しい切断をする配列特異的な開裂試薬、例えばメチオニン残基部位で切断する臭化シアンを使用してポリペプチドの出発集団を開裂することによって達成可能である。これにより、より小さなポリペプチドからなる第二のより大きな集団が効率的に生産される。次に、本出願に記載のC末端ペプチド単離プロセスを各開裂ペプチドに適用することによって、これら比較的に小さな各ポリペプチドから1個のC末端ペプチドを単離することができる。この方式で、元の試料中の各ポリペプチドに対する数個のペプチドを単離する。
【0153】
更に具体的な実施例として、「親」ポリペプチドの集団を臭化シアンによりメチオニン部位で開裂することにより、「娘」ポリペプチドの集団を得ることができる。臭化シアンで開裂する前か後に、親ポリペプチドのシステインチオールを標準的な方法、例えばヨウドアセタミドとの反応を利用して任意の工程として防護する。これら娘ポリペプチドをLys−Cで開裂すると別のペプチド集団が得られる。このペプチド集団において、娘ポリペプチドのC末端断片にはεアミノ基がなく、他方この娘ポリペプチドの非C末端断片には全て遊離εアミノ基が存在する。理由は、C末端が直接リジン残基に連結するアミド結合をLys−Cが開裂するからである。次にプロペニルスルフォン官能基を導入した固相担体に非C末端ペプチドを反応させて娘ポリペプチド由来のC末端ペプチドは溶液中に遊離させたままで、非C末端ペプチドを担体上に捕捉できる。あるいはまた、非C末端ペプチドをピリジルプロペニルスルフォンビオチン試薬と反応させ、非C末端ペプチドをアビジン化固相担体上に捕捉し、C末端ペプチドを溶液中に遊離させたままにすることができる。次に溶液中に残されたC末端ペプチドを例えば液体クロマトグラフィー質量分析法により分析すれば、溶液中に残された全てのペプチドの配列を決定することができる。
【0154】
臭化シアンでの開裂を利用するのは有利なことである。理由は、多くの疎水性タンパク質は単離操作の間に凝集するが、これら凝集体はCNBrでの開裂により簡単に分離され、したがってこの凝集化タンパク質を可溶化することができるからである。更に、1タンパク質から1を超えるペプチドが単離されるので、ポリペプチド集団をCNBrで予め開裂すると、分析サンプルの複雑さが増すという犠牲はあるが、各ポリペプチドの同定における多重確認が多少得られる。この多重確認により、タンパク質がそれから単離された少なくとも1のペプチドによって特異に同定されるという可能性が増大する。
【0155】
酵母プロテオーム由来の6310個のタンパク質を生物情報的に分析すると、CNBrで開裂後に娘ポリペプチドからN末端ペプチドを単離することにより、長さがアミノ酸の数で3ないし40個のペプチドが5855個のタンパク質から総計43710個生ずることが判る。このことは、455個のタンパク質にはCNBrの開裂部位がないか又は長さが所望の範囲内にあるペプチドが産生しないことを意味する。質量スペクトル分析に適するペプチドの数を示す指標として長さ範囲が選択される。このことは、このプロセスによると、1個のタンパク質から約7.5個のペプチドが産生することを意味する。更に分析すると、酵母タンパク質の86.8%には特異な配列を持ったペプチドが少なくとも1個あることが判る。これを、システインを有するトリプシンペプチドが捕捉されるICATプロセスと比較することができる。 同一の長さ制限を付してこのプロセスを行うと、酵母タンパク質の84.9%に特異な配列を持ったペプチドが少なくとも1個あることになる。しかし、ICATプロセスでは、1個のタンパク質から平均4.7個のペプチドが産生するだけである。
【0156】
以上のデータから、タンパク質及びポリペプチドの試料を特徴分析するためのN末端ペプチドの単離における本発明の有用性が確認される。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】図1は、本発明と共に使用する立体障害のある好ましいアルケニルスルフォン試薬の選択例を示す。これらの中のある試薬を製造するための合成手順は実施例2に記述されている。
【図2a】図2aは、カルシトニンH及びカルシトニンSを引例に使用して本発明の第一態様の一実施例を図示する第1頁である。
【図2b】図2bは、カルシトニンH及びカルシトニンSを引例に使用して本発明の第一態様の一実施例を図示する第2頁である。
【図2c】図2cは、カルシトニンH及びカルシトニンSを引例に使用して本発明の第一態様の一実施例を図示する第3頁である。
【図2d】図2dは、カルシトニンH及びカルシトニンSを引例に使用して本発明の第一態様の一実施例を図示する第4頁である。
【図3a】図3aは、カルシトニンH及びカルシトニンSを引例に使用して本発明の第一態様の二番目実施例を図示する第1頁である。
【図3b】図3bは、カルシトニンH及びカルシトニンSを引例に使用して本発明の第一態様の二番目実施例を図示する第2頁である。
【図3c】図3cは、カルシトニンH及びカルシトニンSを引例に使用して本発明の第一態様の二番目実施例を図示する第3頁である。
【図4】図4は、薄層クロマトグラフィーのプレートを示し、ポリスチレンに結合したマレイミドを使用してペプチド混合物からリジン含有ペプチドを除去する実験の結果を明らかにする。この実験は水性条件で行った。
【図5】図5は、薄層クロマトグラフィーのプレートを示し、ポリスチレンに結合したマレイミドを使用してペプチド混合物からリジン含有ペプチドを除去する実験の結果を明らかにする。この実験は非水性条件で行った。
【図6】図6は、薄層クロマトグラフィーのプレートを示し、ポリスチレンに結合したマレイミドを使用してペプチド混合物からリジン含有ペプチドを除去する実験の結果を明らかにする。この実験はマレイミド樹脂が耐容可能な水の量を決定するために行った。
【図7】図7は、ビオチン標識後のペプチド混合物の電子スプレーでのスペクトルである。
【図8−1】図8−1は、ペプチド混合物のHPLC分析スペクトルである。
【図8−2】図8−2は、ペプチド混合物のMS分析スペクトルである。
Claims (42)
- 1又は複数のポリペプチドの特徴を分析する方法であって、
(a)1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン残基のC末端側で1以上のポリペプチドを開裂する開裂試薬に接触せしめてペプチド断片を生成する工程、
(b)任意の工程として開裂試薬を不活性化する工程、
(c)該試料をリジン反応剤と接触せしめてεアミノ基を防護する工程、
(d)εアミノ基が防護されたペプチド断片を除去する工程、及び
(e)C末端ペプチド断片を回収する工程、
を包含することを特徴とするポリペプチドの特徴分析方法。 - εアミノ基が防護されたペプチド断片が固相に捕捉されて除去され、C末端ペプチドが溶液に回収される請求項1に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- リジン反応剤が固相に共有結合で付着する請求項2に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- εアミノ基が防護されたペプチド断片が親和捕捉により除去され、かつリジン反応剤がビオチンを含み、固相がアビジン化固相である請求項2に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- リジン反応剤が立体障害のあるミカエル試薬を含む請求項1から4のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 立体障害のあるミカエル試薬が次の構造を有する化合物を含む請求項1から5のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 一つのRがメチル基及びフェニル基のいずれかを包含する請求項6に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 少なくとも1のRが電子吸引基を包含する請求項6又は7に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 少なくとも1のRが環状及び複素環状のいずれかの芳香環及び縮合環のいずれかを包含する請求項6から8のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- Xが−SO2R1であり、ここでR1はアルキル基及び、芳香族基、環状基、縮合環状基及び複素環状基を含むアリール基のいずれかを包含する請求項6から9のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- R1が電子吸引基を包含する請求項10に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 環がフェニル、ピリジル、ナフチルキノリル、ピラジン、ピリミジン、及びトリアジン環のいずれかを包含する請求項10又は11に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- X基が電子吸引基で置換される請求項6から12のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 電子吸引基がフッ素、塩素、臭素及びヨウ素を含むハロゲン、及びニトロ基及びニトリル基から選択される請求項13に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- X基が水溶性を向上可能な構造を包含する請求項6から14のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 開裂試薬が配列特異的な開裂試薬を包含する請求項1から15のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 開裂試薬がペプチダーゼ、又は臭化シアンを包含する請求項1から16のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- ペプチダーゼがLys-Cを包含する請求項17に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 工程(a)の試料が細胞画分を包含する請求項1から18のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 更に液体クロマトグラフィーにより工程(a)の試料を調製する工程を含む請求項1から19のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- テスト試料中の1以上の特定ポリペプチドを分析する方法であって、請求項1から20のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法を実行し、得られたC末端を既定のC末端アミノ酸残基配列について分析して該特定ポリペプチドの配列を決定することを特徴とする特定ポリペプチド分析方法。
- ポリペプチドの1以上の混合物の特徴を分析する方法であって、
(a)請求項1から20のいずれかに記載の1以上の方法を使用して該混合物から1以上のC末端ペプチドを回収する工程と
(b)該ペプチドを質量分析法により探知する工程
とを包含することを特徴とする特徴分析方法。 - 試料中の発現プロファイルを決定する方法であって、請求項22に記載の方法に従いポリペプチドの1以上の混合物の特徴を分析することを包含することを特徴とする発現プロファイル決定方法。
- 質量分析法により探知した各ペプチドを同定することを包含する請求項22又は23に記載の方法。
- 質量分析法により探知した各ペプチドの量を確定することを包含する請求項22から24のいずれかに記載の方法。
- ポリペプチドの特徴を分析する方法であって、1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン反応剤と接触せしめてεアミノ基に該反応剤を付着させるにあたり、該リジン剤が立体障害のあるミカエル試薬を含むことを特徴とするポリペプチドの特徴分析方法。
- 立体障害のあるミカエル試薬が請求項6から15のいずれかに記載の化合物である請求項26に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 次の構造を有することを特徴とする化合物。
- 少なくとも1のR基がメチル基及びフェニル基のいずれかを包含する請求項28に記載の化合物。
- 少なくとも1のR基が電子吸引基を包含する請求項28又は29に記載の化合物。
- 少なくとも1のR基がハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、及び1以上の電子吸引基を有するフェニル基のいずれかを包含する請求項30に記載の化合物。
- ポリペプチドの特徴を分析するキットであって、
(a)εアミノ基防護用のリジン反応剤、
(b)C末端ペプチドを回収又は単離する手段、
(c)任意の要素としてαアミノ基標識用のアミン反応試薬、及び
(d)任意の要素としてペプチド断片生成用の開裂試薬、
を含有することを特徴とするポリペプチドの特徴分析キット。 - リジン反応剤が次の構造を有する化合物を包含する請求項32に記載のポリペプチドの特徴分析キット。
- リジン反応剤が請求項28から31のいずれかに記載の化合物を包含する請求項33に記載のポリペプチドの特徴分析キット。
- C末端ペプチドを回収又は単離する手段がリジン反応剤に付着した親和補足剤及びリジン反応剤に共有結合で結合した固相のいずれかを包含する請求項32から34のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析キット。
- ペプチド及びポリペプチドのεアミノ基を保護するために、次の構造を有する化合物の使用。
- R1がピリジル環、キノリル環、ピラジン環、ピリミジン環及びトリアジン環のいずれかの構造を包含することを特徴とする請求項36に記載の使用。
- 少なくとも1のR基がメチル基及びフェニル基のいずれかを包含することを特徴とする請求項36又は37に記載の使用。
- 少なくとも1のR基が電子吸引基を包含することを特徴とする請求項36から38のいずれかに記載の使用。
- 少なくとも1のR基がハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、及び1以上の電子吸引基を有するフェニル基のいずれかを包含することを特徴とする請求項39に記載の使用。
- 保護が、エドマン試薬、捕捉剤及びαアミノ基と反応可能な試薬とεアミノ基の更なる反応からの保護であることを特徴とする請求項36から40のいずれかに記載の使用。
- エドマン試薬がイソチオシアネート及びイソシアネートのいずれかを包含し、捕捉剤がN−ヒドロキシサクシニミジルビオチンを包含し、及びαアミノ基と反応可能な試薬がN−ヒドロキシサクシニミド酢酸エステルを包含することを特徴とする請求項41記載の使用。
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