JP2004529364A - ポリペプチドの特徴分析 - Google Patents
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Abstract
(a)1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン反応剤に接触せしめてεアミノ基を防護し、(b)任意の工程として該ポリペプチド試料をアミン反応試薬と反応させてαアミノ基を封鎖し、(c)該ポリペプチド試料を開裂試薬で消化してペプチド断片を生成し、(d)任意の工程として開裂試薬を不活性化し、(e)アミノ基が未防護又は未封鎖であるペプチド断片を除去し、かつ(f)N末端のペプチドを回収する、の工程を包含する方法が提供されている。
Description
【0001】
本発明は、群中の各タンパク質から単一の末端ペプチドを単離する方法に関する。本発明は更に、組織、細胞又は細胞画分でのタンパク質発現の決定方法における、あるいは大型タンパク質複合体の分析における上記方法の使用に関する。詳細には、本発明はペプチド中のαアミノ基とリジン残基中のεアミノ基の間の識別に関するものであり、もしこの識別がなければ特徴分析操作は阻害される可能性がある。
【背景技術】
【0002】
タンパク質をプロファイルする、すなわち組織中タンパク質の実体と量を目録化する技法は、自動化又は高処理性能の点で十分に進展していない。多数のタンパク質をプロファイルする典型的な方法は二次元電気泳動法である(非特許文献1)。この方法では生物サンプルから抽出したタンパク質試料を幅の狭いゲルの帯上で分離する。通常この最初の分離ではタンパク質はそれらの等電点に基づいて分離される。次に帯全体を長方形のゲルの一端に配置する。次に帯の中で分離されたタンパク質をそれらのサイズに基づいて電気泳動により第二ゲルの中で分離する。この方法は緩慢なので自動化が困難である。またそのもっとも単純な態様では比較的に感度が悪い。2-Dゲル電気泳動法によるタンパク質の分離度を高め、かつその分析系の感度を向上するための多数の改良がなされてきた。2-Dゲル電気泳動法の感度と分離度を向上する一つのアプローチは、ゲル上の特定の点でタンパク質を質量分析法により分析することである(非特許文献2)。質量分析法での一例では、ゲル中でトリプシン消化後にトリプシン切断断片を質量分析法により分析し、ペプチド・マス・フィンガープリントを作成する。配列情報が必要な場合にはタンデム質量分析法を実施することができる。
【0003】
更に最近では、液体クロマトグラフィー又はキャピラリー電気泳動によって分画したタンパク質全体を質量分析法を利用して分析する試みがなされている(非特許文献3)。キャピラリー電気泳動法での質量分析法を利用するインライン系が検討されている。しかし、質量分析法によるタンパク質全体の分析には多数の困難がある。第一の困難は、個々のタンパク質は複数のイオン化状態に到達可能であるために解析すべき質量スペクトルが複雑になることである。第二の主要な欠点は、質量分析法は分子量の高いイオン種、例えば約4キロダルトン(kDa)以上のイオンに対しては質量分解能が貧弱なことであり、質量の接近したタンパク質を分離することは困難である。第三の欠点は、タンパク質全体の断片パターンは非常に複雑で解析困難であるためにタンデム質量分析法によりタンパク質全体を更に分析するのは困難であることである。
【0004】
タンパク質全体を分析するのに困難があるために、技法としてはタンパク質由来のペプチドの分析に依拠するが好ましい。上記のごとくゲルで分離したタンパク質の分析にはペプチド・マス・フィンガープリンティングが使用されている。しかし、この方法は1個のタンパク質又は非常に簡素なタンパク質混合物を分析する場合にのみ適切である。代表的なタンパク質はトリプシンで開裂すると20から30個のペプチドが生成する。ペプチド質量のパターンは1種類のタンパク質の同定には有用であるが、タンパク質混合物をトリプシン消化したものの質量スペクトルは混合物中のタンパク質数が増加するのに伴って複雑さが急上昇する。すなわち、ペプチド質量のタンパク質帰属に誤謬が生ずる危険が増大する。したがって同時に分析可能なタンパク質数は限定される。この結果、混合物状態の各タンパク質から特定のペプチドを単離する新しいタンパク質解析方法が開発の途上にある。
【0005】
非特許文献4に、「同位元素をコードした親和タグ」を使用してタンパク質由来ペプチドを捕捉し、それによりタンパク質発現の分析を可能にすることが開示されている。この論文で筆者らは、チオールに反応するビオチンリンカーを使用し、タンパク質中のシステインを有するペプチドを捕捉すると記述している。1個の起源に由来するタンパク質試料をビオチンリンカーと反応させ、エンドペプチダーゼで開裂する。ビオチニル化したシステイン含有ペプチドは次にアビジン化ビーズ上に単離され、続いて質量分析法により分析される。一つの試料をビオチンリンカーで標識し、第二の試料をビオチンリンカーの重水素化形で標識すれば、二つの試料を定量的に比較することができる。試料中の各ペプチドは質量スペクトルで1対のピークとして表現されるので、そのピークの相対的な高さによって発現の相対的なレベルが標示される。
【0006】
この「同位元素コード」法には多数の制限がある。第一はタンパク質中にチオールが存在するか否かに依存することである。すなわち、チオールを数個有するのもあるが、有さないタンパク質は多数ある。この方法に変形として他の側鎖、例えばアミンと反応するようにリンカーを加工することは可能である。しかし、多数のタンパク質は二以上のリジン残基を含有しているので、通常このアプローチにより単離されるペプチド数は1タンパク質当り相当な数になると推測される。したがって、このアプローチでは質量分析法による分析に十分な程度に試料の複雑さが減少することはないと思われる。非常に多数の種を含有する試料では「イオン抑制」を受ける可能性がある。イオン抑制とは、比較的に複雑でない試料の質量スペクトルで通常に出現する筈の種よりも或る別の種が優先して特別にイオン化してしまう現象である。一般に側鎖によりタンパク質を捕捉する方法は、1タンパク質当りに非常に多数のペプチドが生ずるか、あるいは或るタンパク質が見失われたりする可能性がある。
【0007】
このアプローチの第二の制約は、異なる試料に由来するタンパク質の発現レベルを比較するのに使用する方法である。異なる同位元素による別個の親和タグで各試料を標識すれば質量スペクトルには各試料中の各ペプチドについて追加のピークが現れる。このことは、もし二つの試料を一緒に分析するとスペクトル中のピーク数は2倍になることを意味する。同様に、三つの試料を一緒に分析すればスペクトルは1個の試料だけの場合よりも3倍複雑になる。ピークの数は増加する一方であり、質量スペクトル上で二つの異なるペプチドのピークが重なる可能性は増大するので、このアプローチには明らかに制限がある。
【0008】
上記論文の筆者らが報告している更なる制限は、タグに起因する移動度の変化である。重水素化ビオチンタグで標識したペプチドは重水素化してないタグで標識した同一のペプチドに少し遅れて溶出すると筆者らは報告している。
【0009】
特許文献1には、タンパク質の集団を分析するために、その集団の各タンパク質の一つの末端に由来する単一のペプチドを単離する方法が開示されている。第一の態様としてその発明には次の工程が包含される。
1. タンパク質集団をその集団の各タンパク質の一つの末端によって固相担体上に捕捉し、
2. 捕捉したタンパク質を配列特異的な開裂試薬で開裂し、
3. 開裂試薬によって生成し固相担体上に残留していないペプチドを洗去し、
4. 固相担体上に残留する末端ペプチドを遊離し、かつ
5. 遊離した末端ペプチドを分析し、好ましくは該混合物中の各ペプチドの同定と定量を行う。この分析は質量分析法により実施するのが好ましい。
【0010】
この出願では、N末端は封鎖されることが多いので、タンパク質集団を捕捉する末端としてはC末端がより好ましいと述べられている。C末端によってタンパク質集団を捕捉するには、C末端カルボキシル基がタンパク質上の他の反応性基とは識別され、かつ固定化能のある試薬と特異的に反応する必要がある。C末端配列の化学操作では、C末端カルボキシル基を活性化しC末端にオキサゾロン基を促進的に形成することが多い。C末端カルボキシル基の活性化の過程では側鎖のカルボキシル基も活性化されるが、これらはオキサゾロン基を形成することができない。報告によれば、C末端オキサゾロンは塩基性下では求核試薬への反応性が活性化側鎖カルボキシル基よりも少ないので、これにより側鎖カルボキシル基を選択的に防護する方法が提供されている(非特許文献5)。反応性の多い他の側鎖はカルボキシル基の活性化以前に各種従来試薬を使用して防護することができる。この方法では反応性側鎖は全て防護可能であり、C末端を特異的に標識することができる。
【0011】
特許文献2及び特許文献3には、C末端ペプチドをタンパク質から単離する方法が、N末端配列決定試薬を使用してそのC末端ペプチドの配列決定を可能にする方法の中で説明されている。この方法では、問題のタンパク質はリジン残基のC末端側を開裂するエンドプロテアーゼにより消化されている。得られるペプチドは全ての遊離アミノ基と反応するジイソチオシアナト(DITC)ポリスチレンと反応する。DITCポリスチレンと反応したN末端アミノ基はトリフルオロ酢酸(TFA)で開裂され全てのペプチドのN末端が遊離する。しかし、リジンのεアミノ基は開裂されないので、非末端ペプチドは全て担体上に残留し、C末端ペプチドのみが遊離する。この特許によれば、そのC末端ペプチドはミクロでの配列決定用に回収される。
【0012】
非特許文献6及び特許文献4には、N末端ペプチドをタンパク質から単離するために、タンパク質中の全ての遊離アミノ基と反応する防護試薬とそのタンパク質を反応させる方法が説明されている。そのタンパク質は次に開裂されるが、トリプシンを使用した場合にはアルギニン残基でのみ開裂が起こる。したがって、トリプシンで開裂すると非N末端ペプチドのαアミノ基が露出する。上記の最初の開示(非特許文献6)によれば、このαアミノ基はジニトロフルオロベンゼン(DNF)と反応するので、これにより非N末端ペプチドはポリスチレン樹脂上にアフィニティークロマトグラフィーにより捕捉可能となり、他方、N末端ペプチドは妨害されずに流過する。特許文献4によれば、εアミノ基を開裂前にアシル化剤と反応させる。この方法で開裂すると非N末端ペプチド上のαアミノ基はアミン反応性固相担体、例えばジイソチオシアナトガラスと反応し、N末端ペプチドは溶液中に放出される。
【0013】
これらN末端単離法は全てアシル化剤を使用することが主要な欠点であり、アシル化剤はリジン修飾に必要なpHでは水溶液中で不安定となる傾向がある。この結果、大過剰の試薬を使用する必要があり、特にヒスチジン残基と副反応を起こす可能性がある。また非特許文献6の方法では、N末端ペプチドにDNF基が含有されている場合には、N末端ペプチドを単離する前にチオール分解してDNF基をヒスチジン及びチロシンから除去する必要がある。この余分な工程には格別な労力が必要であり、完璧とはならない可能性がある。非特許文献6の開示ではタンパク質と末端ペプチドを質量分析法により分析しておらず、したがってリジンのεアミノ基の防護が完璧であるか否かは判らない。
【0014】
【特許文献1】
国際公開第98/32876号パンフレット
【特許文献2】
ヨーロッパ特許出願公開第0594164号明細書
【特許文献3】
ヨーロッパ特許第0333587号
【特許文献4】
独国特許出願公開第4344425号明細書
【0015】
【非特許文献1】
R.A.Van Bogelen、E.R.Olson「バイオテクノロジーにおける二次元タンパク質ゲルの利用」Biotechnol. Annu.Rev.1、69-103、1995
【非特許文献2】
Jungblut P、Thiede B「MALDI質量分析法による2-Dゲルタンパク質同定」Mass Spectrom.Rev.16, 145-162, 1997
【非特許文献3】
Dolnik V.「タンパク質のキャピラリーゾーン電気泳動」Electrophoresis 18, 2353-2361, 1997
【非特許文献4】
Nature Biotechnology 17, 994-999(1999)
【非特許文献5】
V.L.Boydら,「Methods in Protein Structure Analysis 109-118, Plenum Press, 編集M.Z.Atassi及び E.Appella,1995
【非特許文献6】
Anal. Biochem.132:384-388(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は上述した公知方法に付随する諸問題の解決である。したがって本発明の目的は、各タンパク質由来の単一末端ペプチドをポリペプチドの混合物中で単離する改良方法の提供であり、この目的のために水中で安定であり、リジンに対し選択性があり、かつ温和な反応条件下でも機能して自ら分解することのないタンパク質反応性試薬を使用する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以上にかんがみ、本発明は、ポリペプチドの特徴を分析(キャラクタライジング)する方法であって、
(a)1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン反応剤に接触せしめてεアミノ基を防護する工程、
(b)任意の工程として該ポリペプチド試料をアミン反応試薬と反応させてαアミノ基を封鎖する工程、
(c)該ポリペプチド試料を開裂試薬で消化してペプチド断片を生成する工程、
(d)任意の工程として開裂試薬を不活性化する工程、
(e)アミノ基が未防護又は未封鎖であるペプチド断片を除去する工程、及び
(f)N末端のペプチドを回収する工程、
を包含するポリペプチドの特徴分析方法を提供する。
この方法によれば比較的低濃度の試薬を比較的高pHで使用することができる。本発明者らは、これらの両要因によりリジン反応の選択性と完璧性が向上することを見出した。以下の説明でリジンのアミノ基をイプシロンアミノ基(εアミノ基)と呼ぶ。
【0018】
本発明方法では、検討するポリペプチドを開裂可能であればどのような開裂試薬でも使用することができる。開裂試薬は配列に特異的な開裂試薬、例えばペプチダーゼであるのが好ましい。また好ましくはペプチダーゼには例えばトリプシン、Lys-C、Arg-C、臭化シアン、あるいはBNPS−スカトールが挙げられる。他の好ましい実施例として、簡単な化学物質、例えば臭化シアン(CNBr)を開裂試薬に挙げてもよい。CNBrは膜タンパク質の検討には特に好ましい。
【0019】
リジン反応剤は立体障害のあるミカエル試薬であるのが好ましい。ミカエル試薬の一般式は以下のごとくであり、
【化5】
【0020】
上記式中、Xは陰電荷を安定化可能な電子吸引基である。官能基Xは下の表1にリストされるものから選択されるのが好ましい。
【表1】
【0021】
R1はどのようなアルキル基又は芳香族基でもよいが、好ましくは電子吸引基であり、更に好ましくは環状又は複素環状の芳香環又は縮合環である。環構造は電子吸引性であるのが好ましい。更に好ましくは、R1は小さな環又は縮合環、例えばフェニル、ピリジル、ナフチル又はキノリル環構造である。環構造は適当な電子吸引基、例えばフッ素等のハロゲン又はニトロ基で置換されているのが好ましい。ピリジル環及びナフチル環等の環構造は水溶性を向上させるので好ましい。Xがアミドである場合はR1基の一つ又は両方が水素原子であってよい。Xがニトリルの場合は好ましい化合物としてクロトンニトリル、例えばトリフルオロクロトンニトリルが挙げられる。
【0022】
本発明の「立体障害のある」ミカエル試薬となるためには、R基の少なくとも1が水素ではなく、立体障害基であるとみなされるものでなければならない。少なくとも1のR基はアルキル基又は芳香族基、例えばメチル基又はフェニル基であってよい。更に好ましくは、R基の少なくとも1は電子吸引性であり、ハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基、例えばフルオロメチル、ジフルオロメチル又はトリフルオロメチル基、あるいはハロゲン又はニトロ基等の電子吸引性置換基を有するフェニル環であってよい。反対に、本発明での「立体障害のない」ミカエル試薬であるためにはR基は両方が水素である。
【0023】
いくつかの実施例では、X基がR基の一つに連結して環を形成してもよい。このタイプの好ましい化合物には下記式のマレイミドが挙げられる。
【化6】
式中Rは前記と同義であり、R’は炭化水素基又は電子供与基である。好ましいRはアルキル基又はアリール基であり、特に好ましいRはC1−C6アルキル基、例えばメチル基又はエチル基である。
【0024】
上の式でSub基は、このミカエル試薬がεアミノ基と反応可能であるかぎり、特に限定はない。本発明の好ましい実施例ではSubにはアルキル基又はアリール基等の炭化水素基、又はシアノ基(CN)、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ハロゲン含有基等の電子吸引基が挙げられる。最も好ましい実施例ではSubには水素又はC1−C6アルキル基、例えばメチル基又はエチル基が挙げられる。特に好ましい化合物では、SubとRが共にHであり、R’がメチル基又はエチル基である。
【0025】
本発明において、リジン選択性試薬という語は、その試薬がリジンのεアミノ基と全てのアミノ酸のαアミノ基、特にペプチドのN末端アミノ酸残基のαアミノ基との間を識別することができることを言う。本発明の試薬がヒスチジンのイミダゾール環等の側鎖官能基、及びセリン、スレオニン、チロシンに存在するヒドロキシル官能基と反応しないことも好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の各種態様を以下に詳細に説明する。
本発明の一実施例では、天然に封鎖及び未封鎖のN末端ペプチドをポリペプチド試料から単離する方法であって、以下の工程を包含する方法が提供される。
1. ポリペプチド試料をリジン選択性で立体障害のあるミカエル試薬と反応させてポリペプチド中のεアミノ基を全て該試薬で防護する。ポリペプチド中の各εアミノ基には該アルキル化性ミカエル試薬の唯1分子が反応するのが好ましい。
2. 該ポリペプチド試料をアミン反応性試薬と反応させる。この試薬は天然で未封鎖のαアミノ基(例えば天然で未封鎖のN末端)を封鎖する。
3. 該ポリペプチド試料を配列特異的な開裂試薬で完璧に消化する。
4. 得られた防護ペプチドを以下のいずれかと接触させる。
(a)固相担体
(b)捕捉試薬
これは1級アミノ基と反応するので、天然で未封鎖のN末端ペプチドの遊離αアミノ基、開裂試薬によって露出された遊離αアミノ基、又は第一反応工程で封鎖されなかったεアミノ基がこれにより捕捉される。
5. 封鎖されεアミノ基が防護されたN末端ペプチドを回収する。このペプチドには固相担体あるいは捕捉試薬と反応する遊離アミンは存在しないのが望ましい。
【0027】
以下に説明する本発明実施例で回収されたN末端ペプチドは質量分析法を使用して同定されるのが好ましい。この理由により、各εアミノ酸残基には唯1個のミカエル試薬が反応するのが好ましい。その場合には質量スペクトルにおいてこの残基に対し確実に1個のピークのみが出現し、全体のスペクトルが簡潔となり、N末端残基の同定が容易になる。立体障害のあるミカエル試薬を使用すれば、確実にεアミノ酸残基との1対1の反応が進行する。したがって、本発明において「立体障害がある」とは、リジン残基のεアミノ基との1対1反応を進行させるのに十分な程度に立体障害があることを意味する。
【0028】
本発明プロトコールの概要図を示すにあたり、最初の手順をスキーム1にまとめてある。
【化7】
【0029】
本発明の他の実施態様は天然に既封鎖のN末端ペプチドのみに関し、これはαアミノを封鎖する工程2を使用しない。この態様では天然に既封鎖のN末端ペプチドをポリペプチド試料から単離する方法が提供され、以下の工程を包含する。
【0030】
1. ポリペプチド試料をリジン選択性で立体障害のあるミカエル試薬と反応させてポリペプチド中のεアミノ基を全て該試薬で防護する。ポリペプチド中の各εアミノ基には該アルキル化性ミカエル試薬の唯1分子が反応するのが好ましい。
2. 該ポリペプチド試料を配列特異的な開裂試薬で完璧に消化する。
3. 得られた防護ペプチドを以下のいずれかと接触させる。
(a)固相担体
(b)捕捉試薬
これは1級アミノ基と反応するので、天然で未封鎖のN末端ペプチドの遊離αアミノ基、開裂試薬によって露出された遊離αアミノ基、又は第一反応工程で封鎖されなかったεアミノ基がこれにより捕捉される。
4. 封鎖されεアミノ基が防護されたN末端ペプチドを回収する。これには固相担体あるいは捕捉試薬と反応する遊離アミンは存在しないのが望ましい。
【0031】
この実施例の更なる態様で、本発明により未封鎖のN末端ペプチドをポリペプチド試料から単離する方法が提供され、以下の工程を包含する。
【0032】
1. ポリペプチド試料をリジン選択性で立体障害のあるミカエル試薬と反応させてポリペプチド中のεアミノ基を全て該試薬で防護する。ポリペプチド中の各εアミノ基には該アルキル化性ミカエル試薬の唯1分子が反応するのが好ましい。
2. 得られた防護ポリペプチドを1級アミン反応性捕捉試薬又は固相担体に接触させ、該ポリペプチドのN末端にある未封鎖遊離αアミノ基と反応させる。
3. 該ポリペプチド試料を配列特異的な開裂試薬で完璧に消化する。
4. 未封鎖でεアミノ基が防護されているN末端ペプチドであって、捕捉試薬が導入されているものを回収する。
【0033】
更なる実施例で本発明により、少なくとも1のポリペプチド混合物の発現プロファイルを決定する方法、すなわち、混合物中の各ポリペプチドを同定し好ましくは定量もする方法が提供される。この方法には以下の工程が包含される。
【0034】
1. 本発明の前記実施例のいずれかに従って末端ペプチドを少なくとも1のポリペプチド混合物から単離する。
2. 任意の工程として、各試料由来の回収C末端ペプチドの遊離αアミノ基を別々の質量マーカーで標識する。
3. 任意の工程として、C末端ペプチドを電気泳動又はクロマトグラフィーにより分離する。
4. 該ペプチドを質量分析法により探知する。
【0035】
更に別の実施例では、本発明により、リジン選択性のタンパク質標識試薬が提供され、これには下記式を有するアミノ反応性で立体障害のあるアルケニルスルフォン化合物が包含される。
【化8】
【0036】
式中、R1はどのようなアルキル基又は芳香族基でもよいが、好ましくは電子吸引基であり、更に好ましくは環状又は複素環状の芳香環又は縮合環である。環構造は電子吸引性であるのが好ましい。更に好ましくは、R1は小さな環又は縮合環、例えばフェニル、ピリジル、ナフチル又はキノリル環構造である。環構造は適当な電子吸引基、例えばフッ素等のハロゲン又はニトロ基で置換されているのが好ましい。ピリジル環及びナフチル環等の環構造は水溶性を向上させるので好ましい。
【0037】
R基の少なくとも1は水素ではなく、立体障害基とみなされるものである。少なくとも1のR基はアルキル基又は芳香族基、例えばメチル基又はフェニル基であってよい。更に好ましくは、R基の少なくとも1は電子吸引性であり、ハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基、例えばフルオロメチル、ジフルオロメチル又はトリフルオロメチル基、あるいはハロゲン又はニトロ基等の電子吸引性置換基を有するフェニル環であってよい。反対に、本発明での「立体障害のない」ミカエル試薬であるためにはR基は両方が水素である。
【0038】
上の式でSub基は、このミカエル試薬がεアミノ基と反応可能であるかぎり、特に限定はない。本発明の好ましい実施例ではSubにはアルキル基又はアリール基等の炭化水素基、又はシアノ基(CN)、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ハロゲン含有基等の電子吸引基が挙げられる。最も好ましい実施例ではSubには水素又はC1−C6アルキル基、例えばメチル基又はエチル基が挙げられる。特に好ましい化合物では、SubとRが共にHであり、R’がメチル基又はエチル基である。
【0039】
以下の図面を参照しながら実施例のみにより本発明を更に詳細に説明する。
【0040】
図2、3及び4を詳細に説明する。図2aから2cには本発明の一実施例が図示されており、天然で既封鎖及び未封鎖のN末端ペプチドをポリペプチド試料から単離する方法が提示されている。図2aにはこの工程の第一工程が図示されており、二つのペプチドが立体障害のあるアルケニルスルフォンと反応する。ここでは、説明を解り易くするために、複合混合物ではなく、二つのペプチド、αメラノサイト刺激ホルモン(αMSH)及びβメラノサイト刺激ホルモン(βMSH)が示されている。これらのペプチドはそれぞれ既封鎖及び未封鎖のポリペプチドがプールされている状態を表わしており、天然試料に存在する筈である。ピリジニルプロペニルスルフォンは本発明において好ましいリジン選択性で立体障害のあるミカエル試薬である。この試薬はリジンのεアミノ基と高度に選択的でほぼ完璧に反応し、その反応は未封鎖のαアミノ基に優先する。
【0041】
図2bには本発明のこの実施例の第二工程が図示されており、既封鎖及び未封鎖のペプチドをN−ヒドロキシサクシニミド酢酸エステルと反応させる。この試薬はαアミノ基にもεアミノ基にも顕著な選択性を示さないが、εアミノ基は既に封鎖されているので、試料中に存在する天然で未封鎖のαアミノ基と反応する。図ではβMSHのN末端が未封鎖であり、この反応により防護される。図2bにはまた本発明のこの実施例の第三工程が図示されており、今や遊離アミノ基が全て防護されたポリペプチドが配列特異的な開裂試薬で開裂される。図ではこの工程は、これらの防護されたペプチドにおいてはアルギニンの位置でのみ切断するトリプシン、又はアルギニンの位置でのみ切断するArg-Cにより実行される。開裂反応により新たな遊離αアミノ基が各切断のC末端側に産生したペプチドに生成する。このことは、N末端ペプチドには新たに露出されるアミンはないが、他のペプチドには全て遊離アミノ基があることを意味している。
【0042】
図2cには本発明のこの実施例の第四工程が図示されており、前の開裂工程により露出したアミノ基を捕捉試薬と反応させる。図ではこの試薬はビオチンN−ヒドロキシサクシニミドエステルであり、これは公知の親和捕捉試薬であって、1級アミノ基と反応する。非N末端ペプチドには全て遊離1級アミノ基があるので、これらのペプチドはビオチン試薬と反応する。他方、N末端ペプチドはビオチニル化しない。図2cにはまた本発明のこの実施例の最終工程が図示されており、ビオチニル化反応の生産物をアビジンのアフィニティーカラムに通すことにより、封鎖N末端ペプチドをビオチニル化非N末端ペプチドから分離する。ビオチニル化非N末端ペプチドはカラムに付着するが、N末端ペプチドはカラムから流出して分析用に回収される。
【0043】
図3a及び3bには本発明の二番目の実施例が図示されており、既封鎖及び未封鎖種の混合物を含有するポリペプチド試料から天然で既封鎖のペプチドを単離する方法が提示される。図3aにはこの工程の第一工程が図示されており、二つのペプチドが立体障害のあるアルケニルスルフォンと反応する。ここでも、説明を解り易くするために、複合混合物ではなく、二つのペプチド、αMSH及びβMSHが示されている。これらのペプチドはそれぞれ既封鎖及び未封鎖ポリペプチドがプールしている状態を表わしており、天然試料に存在する筈である。立体障害のあるアルケニルスルフォンは、本発明において好ましいリジン選択性で立体障害のあるミカエル試薬である。この試薬はリジンのεアミノ基と高度に選択的でほぼ完璧に反応し、この反応は未封鎖のαアミノ基に優先する。
【0044】
図3bには本発明のこの実施例の第二工程が図示されており、今やリジンの遊離アミノ基が全て防護されたポリペプチドが配列特異的な開裂試薬で開裂される。図ではこの工程は、これらの防護されたペプチドにおいてはアルギニンの位置でのみ切断するトリプシン、又はアルギニンの位置でのみ切断するArg-Cにより実行される。開裂反応により新たな遊離αアミノ基が各切断のC末端側に産生したペプチドに生成する。このことは、天然で既封鎖N末端ペプチド、すなわちαMSHのN末端ペプチドには新たに露出されるアミンはないが、他のペプチドには全て遊離アミノ基があることを意味している。天然で未封鎖のN末端ペプチド、すなわちβMSHのN末端ペプチドにも遊離αアミノ基がある。
図3bにはまた本発明のこの実施例の第三工程が図示されており、遊離αアミノ基を全て捕捉試薬と反応させる。図ではこの試薬はビオチンN−ヒドロキシサクシニミドエステルであり、これは公知の親和捕捉試薬であって、1級アミノ基と反応する。天然で未封鎖のペプチド及び全ての非N末端ペプチドには遊離1級アミノ基があるので、これらのペプチドはビオチン試薬と反応する。αMSHの天然で既封鎖のN末端ペプチドはビオチニル化しない。図3bにはまた本発明のこの実施例の最終工程が図示されており、ビオチニル化反応の生産物をアビジンのアフィニティーカラムに通すことにより、天然で既封鎖のN末端ペプチドをビオチニル化非N末端ペプチド及び天然で未封鎖だったビオチニル化N末端ペプチドから分離する。ビオチニル化非N末端ペプチド及び天然で未封鎖だったビオチニル化N末端ペプチドはカラムに付着するが、天然で既封鎖のN末端ペプチド、すなわちαMSHのN末端ペプチドはカラムから流出して分析用に回収される。
【0045】
図4a及び4cには本発明の三番目の実施例が図示されており、既封鎖及び未封鎖種の混合物を含有するポリペプチド試料から天然で未封鎖のペプチドを単離する方法が提示される。図4aにはこの工程の第一工程が図示されており、二つのペプチドが立体障害のあるアルケニルスルフォンと反応する。ここでも、説明を解り易くするために、複合混合物ではなく二つのペプチド、αMSH及びβMSHが示されている。これらのペプチドはそれぞれ既封鎖及び未封鎖ポリペプチドがプールしている状態を表わしており、天然試料に存在する筈である。立体障害のあるアルケニルスルフォンは、本発明において好ましいリジン選択性で立体障害のあるミカエル試薬である。この試薬はリジンのεアミノ基と高度に選択的でほぼ完璧に反応し、この反応は未封鎖のαアミノ基に優先する。
【0046】
図4bには本発明のこの実施例の第二工程が図示されており、リジンのアミノ基が全て防護されたポリペプチドを捕捉試薬と反応させる。図ではこの試薬はビオチンN−ヒドロキシサクシニミドエステルであり、これは公知の親和捕捉試薬であって、1級アミノ基と反応する。天然で未封鎖のペプチド、すなわちβMSHのみに遊離1級アミノ基があるので、これらのペプチドはビオチン試薬と反応する。天然で既封鎖のN末端ペプチド、すなわちαMSHはビオチニル化しない。図4bにはまた本発明のこの実施例の第三工程が図示されており、防護されかつビオチニル化したペプチドが配列特異的な開裂試薬で開裂される。図ではこの工程は、これらの防護されたペプチドにおいてはアルギニンの位置でのみ切断するトリプシン、又はアルギニンの位置でのみ切断するArg-Cにより実行される。開裂反応により新たな遊離αアミノ基が各切断のC末端側に産生したペプチドに生成する。このことは、N末端ペプチドには新たに露出されるアミンはないが、他のペプチドには全て遊離アミノ基があることを意味している。
【0047】
図4cには本発明のこの実施例の最終工程が図示されており、ビオチニル化反応の生産物をアビジンのアフィニティーカラムに通すことにより、天然で未封鎖のN末端ペプチドであったビオチニル化ペプチドを非N末端ペプチド及び天然で既封鎖のN末端ペプチドから分離する。天然で未封鎖だった、すなわちβMSHのN末端ペプチドのビオチニル化N末端ペプチドはカラムに付着するが、天然で既封鎖のN末端ペプチド及び非N末端ペプチドはカラムから流出する。アビジンカラムを酸性化したり、変性化したり、過剰にビオチンを添加することにより、天然で未封鎖だったN末端ペプチドを分析用に回収することができる。あるいはビオチンの開裂可能形、例えばEZ-Link(商標)Sulfo-NHS-SS-Biotin(Pierce & Warriner UK Ltd, Chester,UK)を使用することができ、これはビオチンN−ヒドロキシサクシニミドエステル化合物であり、還元剤で開裂可能なジスルフィッド結合を有している。この試薬の有利な点は、ジスルフィッド結合の開裂に由来する遊離チオールを持ったペプチドが放出されることである。放出ペプチドに標識を導入したい場合にはそのための反応性基がこの遊離チオールによって提供される。そこで回収された天然で未封鎖のペプチドを分析することができる。天然で既封鎖及び非N末端のペプチドを分析したい場合にはそれも可能である。すなわち、このペプチドの集積したものを再びビオチニル化することができる。封鎖N末端ペプチドはビオチンと反応することができないから、ビオチニル化反応の生産物をアビジン化カラムに通せば封鎖N末端ペプチドだけが流出する。
【0048】
本発明方法で使用するリジン反応性(リジン選択性)試薬を更に詳細に説明する。
【0049】
当分野で公知のアミン選択性タンパク質反応性試薬は多数ある。これらの試薬にはある程度の識別力があり、高pHでリジンと反応するが、しかし、十分な識別力があってほぼ独占的にリジンを標識することができるものは多くない。多数のリジン選択性試薬が当分野で記述されており、これらは全て、特にその環状無水物は本発明での使用に適している。ピロメリト酸二無水物及びo−スルフォ安息香酸無水物はリジン選択性アシル化試薬であると報告されている(Bagreeら、FEBS Lett.120(2):275-277,1980)。同様にフタール酸無水物は構造、反応性がピロメリト酸無水物に類似しているのでリジン選択性があると期待される。フタール酸無水物は他のアミノ酸との副反応が少ないと報告されている(Palacian Eら、Mol Cell Biochem.97(2):101-111,1990)。しかし、リジンとの反応に広く使用される多くの試薬、特に活性エステル、例えばカルボン酸無水物、N−ヒドロキシサクシニミドエステル及びペンタフルオロフェニルエステルは高pHで安定でない。これらの試薬は大過剰に使用する必要があり、過剰の結果かえって反応の選択性が欠如する。
【0050】
ミカエル試薬にはタンパク質反応にとって魅力的な特性が多数あるので広く使用される(Friedman M & Wall J.S.、J.Org.Chem.31,2888-2894,「アミノ基とα−、β−不飽和化合物との反応速度論における線形自由エネルギーの相加的関係」1966; Morpurgo M & Veronese F.M.& Kachensky D & Harris J.M., Bioconjug. Chem.7(3)363-368、「ポリ(エチレングリコール)ビニルスルフォンの製造とキャラクテリゼーション」1996;Friedman M. & Finley J.M.,Int.J.Pept.Protein Res.7(6)481-486,「タンパク質とエチルビニルスルフォンの反応」1975;Masri M.S. & Friedman M., J.Protein Chem.7(1)49-54、「メチル及びエチルビニルスルフォンとタンパク質の反応」1988;Graham L. & Mechanic G.L.Anal.Biochem.153(2)354-358「[14C]アクリロニトリル:安定なトシル中間体を経由する製造及びコラーゲン中のアミン残基との定量的反応」1986;Esterbauer H. & Zollner H & Scholz N.,Z. Naturforsch[C]30(4)466-473,「グルタチオンと共役カルボニルの反応」1975)。
【0051】
多数のこれら試薬は水溶液で比較的に安定であり、反応性及び選択性の程度を各種用意するためにこれら化合物の構造を広い範囲に改変することができる。タンパク質の標識に使用される他の試薬は水中で安定ではなく、修飾は容易でない。特に、タンパク質中アミノ基との反応はしばしば活性エステルで行われるが、これらは加水分解を受けやすい。スルフォンに基づく試薬は、広汎に使用されている活性エステルに比較するとアミノ基の標識には便利で有効である。タンパク質と共に使用されているミカエル試薬には、例えばアクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルピリジン、メチルビニルスルフォン、メチルビニルケトン等の化合物が挙げられる。これら化合物の反応性を比較し(Friedman M & Wall J.S.上記)、これら構造的に類似の化合物の反応速度に直線関係があることが観察されている。直線関係があることから、このクラスの化合物の反応は、速度は異なるがメカニズムは同じであることが判る。スルフォンとケトンの化合物が最も反応的な試薬であるとその著者は見出した。ビニル化合物、すなわちアクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルピリジン、メチルビニルスルフォン、メチルビニルケトンは、基質ごとの相対的な反応速度はおおむね同じであるが、全体の反応速度は相互に異なる。これらに直線関係があることからすると、このクラスの化合物は同じメカニズムで反応し、かつクラス全部の化合物において、置換基の変化があると、特に反応性の二重結合のベータ位置で変化があると、同様な挙動をもって変化をすると考えるのが合理的である。例えば、アクリロニトリルを比較対照としたクロトノニトリルと一連の基質との反応の相対的な反応速度の変化は、メチルビニルスルフォンを比較対照としたメチルプロペニルスルフォンと一連の基質との反応の相対的な反応速度の変化と本質的には同じであると推測される。このことは、メチルプロペニルスルフォンの特性はクロトノニトリルと本質的に同じであり、スルフォンの方が反応速度は大きいというだけであることを意味する。
【0052】
本発明の目的に合うミカエル試薬の選択は、反応速度、ミカエル付加とは別の副反応の可能性、各種化合物の合成の難易に依る。例えば、ビニルケトンはミカエル付加以外の他の反応、特にミカエル付加後のケトンの求核攻撃を受けやすい。このケトンの官能基は各種求核剤、例えば通常の生化学的求核剤との更なる反応を受ける。同様に、ニトリル化合物はカルボン酸へのニトリル官能基が加水分解を受けやすい。ただし、ほとんどの生化学的測定の条件下ではこの加水分解は通常は起こらない。代表的な生化学的測定の条件下ではアルケニルスルフォンはミカエル付加以外の反応を受けない。一般に、アルケニルスルフォンは生化学的求核剤と急速に反応する。各種形態のアルケニルスルフォンの合成に関して文献は包括的である。これらの理由から、アルケニルスルフォンは本発明の生化学的測定で使用するミカエル試薬として好ましい。N−エチルマレイミド等のマレイミド化合物もミカエル付加によりタンパク質と急速に反応し、タンパク質を標的する条件下で適切に安定である。ただし、これらの試薬をポリマーに結合するとアルカリ加水分解が見られる。以上よりマレイミド化合物も本発明の生化学的測定で使用するミカエル試薬として好ましい。多くの場合、ニトリル試薬も、対応するスルフォンに比較すると反応が遅い傾向があるが試薬として好ましい。同様に、アクリルアミドの反応は更に遅い。これらが好ましいからといって、入手可能な他のミカエル試薬が本発明に不適であるという意味ではないが、これら試薬の反応が速いということは大部分の目的にとって好ましい。適切な条件下であればほぼ全てのミカエル試薬は本発明方法で使用できる筈である。
【0053】
本発明で使用するのに好ましいクラスのリジン選択性試薬は立体障害のあるアルケニルスルフォンであり、本発明の一実施例で提示した。適当に緩和な条件でこれら試薬を組み合わせれば、アミンを標識する反応の際にαアミノ基とリジンのεアミノ基との間の高いレベルの識別が可能になる。ビニルスルフォンは1級アミンと容易に反応してジアルキル化体を生成することが知られている。本発明者らが示していることであるが、これらの試薬は高pH(>9.0)でαアミノ基よりもεアミノ基の方に急速に反応し、他方、立体障害のないスルフォンは識別力が適切ではあるが特別に顕著ではない。立体障害が比較的大きいアルケニルスルフォン、例えばプロペニルスルフォン及びブテニルスルフォンは、ビニルスルフォンに比べてεアミノ基への識別力が大きく増大しており、したがって好ましい。更にこれらの立体障害のある試薬によってモノアルキル化体がほぼ独占的に生成する。更に、リジンのεアミノ基は、比較的に立体障害のあるスルフォンでモノアルキル化されると、他のアミン反応性試薬との更なる反応には抵抗する。これは本発明の好ましい試薬としての重要な特徴である。その理由は、本発明の大部分の態様では、εアミノ基が本発明の試薬で封鎖されてからαアミノ基がアミノ反応性捕捉試薬、例えばNHSビオチンと反応するからである。
【0054】
立体障害のあるスルフォンによりこの識別が可能ということは、緩和な水溶液条件下でεアミノ基はαアミノ基に優先して簡便安全な水溶性試薬で選択的に標識可能であるという意味である。リジン選択的捕捉試薬が必要な場合には、本発明の立体障害のあるアルケニルスルフォンの官能基を固相担体に結合できる。あるいは、本発明の立体障害のあるアルケニルスルフォンの官能基を例えばビオチン又はジゴキシゲニンに結合することによって親和捕捉試薬を形成することができる。
【0055】
図1に図示したフェニル及びピリジルスルフォン化合物は本発明での使用に特に好ましい。ピリジル誘導体は溶解性なので特に有用である(水溶解性が好ましい)。ピリジン環の窒素はスルフォン基に対しオルト、メタ又はパラ位置にあってもよいが、メタ(3-位)が好ましい。炭素二重結合に連結するR基の一つは前に説明のごとく水素ではなく、好ましい化合物ではR基はメチル又はトリフルオロメチルである。二番目のR基は水素でよいが、好ましくは同様にメチル又はトリフルオロメチルである。
【0056】
立体障害のあるアルケニルスルフォンの合成法は当分野で多数公知である。アルファ−、ベータ−不飽和スルフォンの合成に使用されている合成法を概観するには、Shimpkins N.,Tetrahedron 46, 6951-6984「ビニルスルフォンの化学」1990、Fuchs P.L.,Braish T.F. Chem.Rev.86,903-917「シクロアルケニルスルフォンへの多重収束合成と共役付加反応」1986、を参照。本発明の好ましい立体障害のあるアルケニルスルフォン化合物の式は以下である。
【化9】
【0057】
ただし、式中、R1は環状又は複素環状の芳香環又は縮合環である。環構造は電子吸引性であるのが好ましい。更に好ましくは、R1は小さな環又は縮合環、例えばフェニル、ピリジル、ナフチル又はキノリル環構造である。環構造を電子吸引性にするには、環を適当な電子吸引基、例えばフッ素等のハロゲン又はニトロ基で置換されているのが好ましい。ピリジル構造及びナフチル構造になると水溶性が増える傾向がある。
【0058】
R基の少なくとも1が水素ではなく、立体障害基であるとみなすことができる。少なくとも1のR基はアルキル基又は芳香族基、例えばメチル基又はフェニル基であってよい。更に好ましくは、R基の少なくとも1は電子吸引性であり、ハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基、例えばフルオロメチル、ジフルオロメチル又はトリフルオロメチル基、あるいはハロゲン又はニトロ基等の電子吸引性置換基を有するフェニル環であってよい。反対に、本発明での「立体障害のない」ミカエル試薬であるためにはR基は両方が水素となる。
【0059】
上の式でSub基は、このミカエル試薬がεアミノ基と反応可能であるかぎり、特に限定はない。本発明の好ましい実施例ではSubにはアルキル基又はアリール基等の炭化水素基、又はシアノ基(CN)、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、ハロゲン含有基等の電子吸引基が挙げられる。最も好ましい実施例ではSubには水素又はC1−C6アルキル基、例えばメチル基又はエチル基が挙げられる。特に好ましい化合物では、SubとRが共にHであり、R’がメチル基又はエチル基である。
【0060】
アルケニルスルフォンの合成に各種の点を工夫し、本発明での使用に適するような置換をした化合物を製造するのがよい。アルドール縮合型の反応を使用できる。メチルフェニルスルフォンは各種のケトン及びアルデヒドと反応して立体障害のあるアルケニルスルフォンを生成することができる(図1及び上記概観を参照)。適切なケトンにはアセトン、ヘキサフルオロアセトンがあげられる。アルデヒドにはベンツアルデヒド、フルオロベンツアルデヒド、ジフルオロベンツアルデヒド、トリフルオロメチルベンツアルデヒド、ニトロベンツアルデヒドが挙げられる。4−(メチルスルフォニル)安息香酸は、安息香酸を介して固相担体又は親和捕捉試薬に結合可能な立体障害のあるスルフォンを合成する出発点を提供する。アミノ導入ポリスチレンはSigma-Aldrich,UK等の各種の供給元から入手可能である。官能基のある安息香酸がカルボジイミド結合し固相担体にアミド架橋を形成すれば、適切なアルケニルスルフォンを導入した固相担体が作成される。アミノ官能化ビオチンの各種形態はPierce Chemical Company, IL,USAから入手可能である。これによれば各種アルケニルスルフォンを導入したビオチン化合物の合成が可能となる。
【0061】
フェニル−1−プロペニルスルフォン、ピリジン−1−プロペニルスルフォン、フェニル−1−イソブテニルスルフォン、ピリジン−1−イソブテニルスルフォンの製造用合成経路は後記実施例に記述される。1,1,1−トリフルオロ−3−フェニルスルフォニルプロペンの製造用合成経路は、Tsuge H.J.Chem.Soc.Perkin Trans、1:2761-2766,1995に開示されている。この試薬もAldrich(Sigma-Aldrich,Dorset,UK)から入手可能である。
【0062】
本発明で使用するのに好ましい第二のクラスの試薬はマレイミド化合物である。適当に緩和な条件でこれら試薬を組み合わせれば、アミンを標識する反応の際にαアミノ基とリジンのεアミノ基との間の高いレベルの識別が可能になる。マレイミド化合物は1級アミンと容易に反応してモノアルキル化体を生成することが知られている。本発明者らが示していることであるが、マレイミドを導入した固相担体(マレイミドブチラミドポリスチレン、Fluka)は塩基性条件下でαアミノ基よりもεアミノ基の方に急速に反応する。しかし、この試薬は水溶液条件では安定ではないので、ペプチドとこの担体との反応は無水の非プロトン性有機溶媒で実施する必要がある。
【0063】
立体障害の比較的に少ないミカエル試薬、例えばN−エチルマレイミド(NEM)及びプロペニルスルフォンはプロリンのαアミノ基と極めて急速に反応する。しかし本発明の大部分の態様ではこれは問題にならない。理由は、プロリンはありふれたものでなく、大部分のエンドプロテアーゼはプロリン結合部を開裂しないからである。トリプシンは、リジン−プロリン結合部又はアルギニン−プロリン結合部を開裂しないので、プロりんの遊離αアミノ基の生成を回避する目的で本発明の第一及び第二の実施例態様で使用可能である。N末端プロリンが唯一問題になるかも知れないのは、本発明の第三の実施例態様、すなわち未開裂タンパク質においてN末端αアミノ基とεアミノ基との識別によって未封鎖N末端ペプチドを単離する場合である。しかし、立体障害が比較的多いアルケニルスルフォン、例えばイソブテニルスルフォン、トリフルオロプロペニルスルフォン、ヘキサフルオロイソブテニルスルフォンではプロリンとリジンに対する識別力は増大している。したがって、プロリンに対する識別が必要な場合にはこれら試薬を使用するのが望ましい。固相担体に結合したマレイミドもプロリンを効果的に識別する。
【0064】
本発明の最初の実施例の第一態様にはN末端ペプチドを全てポリペプチドから単離する方法が記載されているが、ここでは立体障害のあるスルフォンの識別力を利用してεアミノ基を保護する。この反応の後に天然で未封鎖のαアミノ基を比較的選択性の低いアミン反応性試薬で封鎖する。この状況に好ましい試薬は活性エステルである。本発明者らの観察によると、アミノ基が依然存在するにもかかわらず、立体障害のある試薬で封鎖したεアミノ基は活性エステル及び立体障害のないアルキル化試薬に反応性がない。これら二つの工程の後においては、ポリペプチド又はポリペプチド混合物中のほぼ全ての1級アミノ基が封鎖されているのが望ましい。次にポリペプチドを配列特異的な開裂試薬で開裂することができる。この試薬としては酵素、例えばトリプシンあるいは化学物質、例えば臭化シアンを用いることができる。配列特異的な開裂試薬でポリペプチド混合物を開裂すると、新たなαアミノ基がN末端以外の全てのペプチドにおいて露出される。これらのαアミノ基は1級アミン反応性固相担体又は1級アミン反応性捕捉試薬と反応することができる。初期工程で反応しなかった全ての1級アミノ基、例えばεアミノ基には第二の反応チャンスであり、この捕捉工程で除去される。これは有利なことである。更に、εアミノ基は立体障害のある試薬で封鎖されているので、これらの試薬のいずれとも反応しない。各種の1級アミン反応性官能基が知られており、遊離1級アミノ基を持つペプチドを捕捉する目的で本発明で使用することができる。ただし、活性エステル、例えばN−ヒドロキシサクシニミドエステル又は立体障害のないアルキル化官能基物質、例えばビニルスルフォンを使用してもよい。N−ヒドロキシサクシニミドビオチンは市販品が入手可能であり(Pierce UK Ltd,、Chester UK、又はSigma-Aldrich,Poole,Dorset,UK)、判っている副反応が少ないので広く使用されている。したがって、この捕捉工程では全てのN末端ペプチドが溶液中に遊離状態でとどまる。次にこれらを標識し、適当な技法、特に質量分析法により分析してよい。
【0065】
本発明のこの実施例の第二の態様では、天然で既封鎖のポリペプチドの小集団を単離する方法が記述されるが、そこでは配列特異的な開裂試薬で開裂する前に立体障害のあるスルフォンの識別力を利用してεアミノ基を保護する。ここでは未封鎖のN末端αアミノ基は遊離のまま残る。他方、封鎖αアミノ基は天然で既封鎖のN末端ペプチドにのみ存在する。ペプチド混合物を配列特異的な開裂試薬で開裂すると、新たなαアミノ基が天然で既封鎖のN末端ペプチド以外のペプチドにおいて露出される。このことは、1級アミン反応性固相担体又は1級アミン反応性捕捉試薬、例えばN−ヒドロキシサクシニミドビオチン(Pierce UK Ltd,、Chester UK、又はSigma-Aldrich,Poole,Dorset,UKから入手可能)を使用することによりαアミノ基含有ペプチドを固相担体上に共有結合を介して直接に又は親和捕捉試薬を使用する場合は親和捕捉工程を経て捕捉することができることを意味する。更に、εアミノ基は立体障害のある試薬で封鎖されているので、これらの試薬のいずれとも反応しない。したがって天然で既封鎖のN末端ペプチドが溶液として放出される。
【0066】
本発明のこの実施例の第三の態様では、天然で未封鎖のポリペプチドの小集団を単離する方法が記述されるが、立体障害のあるスルフォンの識別力を利用してεアミノ基を保護する。この処理の後であれば、アミノ末端が未封鎖の全てのタンパク質上の遊離αアミノ基を1級アミン反応性試薬、例えばN−ヒドロキシサクシニミドビオチン(Pierce UK Ltd,、Chester UK、又はSigma-Aldrich,Poole,Dorset,UKから入手可能)でビオチニル化することができる。次にそのタンパク質を開裂すれば、αアミノ末端ペプチドをアビジンカラム上に単離することができる。
【0067】
本発明のいくつかの実施例では、N末端ペプチドを固相上に捕捉する。これは、例えばN末端アミノ酸のαアミノ基をビオチニル化した試薬と反応させて達成することができる。このビオチニル化した試薬はアビジン化固相上に捕捉することができ、他方混合物中の残余物は洗浄除去される。好ましい実施例では標識されたビオチン試薬を使用する。別の標識をした試薬を別の試料と反応させ、次にこれらの試料を集積し、一緒に分析する。この標識によりN末端残基が由来した元の試料を同定する。分析方法が質量分析法であり、標識のタイプが同位元素標識であるのが特に好ましい。したがって、重水素化の程度をいろいろ変えてビオチン試薬を使用すれば、複数の試料の同時分析が可能である。
【0068】
本発明の別の実施例では、ポリペプチド混合物の「発現プロファイル」を決定する方法、すなわち混合物中の各ポリペプチドを同定し、好ましくは定量もする方法が提示される。これらの方法には、本発明の最初の三つの態様に従ってペプチドを単離すること、任意の工程としてそのペプチドを質量マーカーで標識すること、及びそのペプチドを質量分析法で分析することが包含される。本発明で使用するのに好ましい標識はPCT/GB01/01122に開示されており、それには選択反応モニタリング法(SRM法)により分析される有機分子質量マーカーが開示されている。この出願には衝突によって開裂可能な基によって連結した二成分系質量マーカーが開示されている。数組のタグを合成するが、この場合に作成されるマーカーの全質量は二成分の質量の合計と同じになる。質量マーカーはそれらの被検体から開裂後に分析してもよいし、あるいは被検体に結合のまま探知してもよい。本発明では質量マーカーを同定中のペプチドに結合させたまま探知する。タンデム機器の第一質量分析装置がペプチドと結合する質量マーカーの質量を選定することにより、マーカーの付いたペプチドを背景から浮き上がらせることができる。第二工程の機器中でマーカーが衝突することにより、タグの二成分は互いに分離する。これら成分の中の1個のみが第三質量分析装置で探知される。これにより、第一質量分析装置で選定されたピークは質量マーカーを付けたペプチドであるとの確認が可能になる。このプロセス全体により、分析のSN比が大幅に引き上げられ、感度が向上する。質量マーカーをこのようにデザインすれば、多数の質量マーカーが形成する質量範囲の分布が圧縮される。更に、化学的に同一であり、質量も同一であるが質量分析法により解像可能なマーカーをデザインすることができる。これは分析技術、例えば液体クロマトグラフィー質量分析法(LC−MS)にとって必須である。すなわち、異なるマーカーが異なるペプチド試料の移動度に及ぼす影響を最小にする必要があり、そうすれば、各試料由来の対応ペプチドは質量分析計に一緒に流入され、対応ペプチドの比率を測定することができる。したがって、これらのマーカーは、高い選択性をもった探知能を利用しておりかつ構造が密接に関連しているので、本発明の目的には最も好ましい。ただし、他のマーカーも利用可能である。
【0069】
本発明の試薬は遊離チオールと反応性がある。本発明方法において遊離チオールによる妨害を防止し、ポリペプチドにおいてジスルフィッド架橋に関連する問題を回避するために、ジスルフィッド架橋を遊離チオールに還元し、かつ本発明方法を適用する前にチオール部分を防護するのが好ましい。チオールはタンパク質中の他の側鎖よりも反応性が非常に大きいので、この工程は高い選択性をもって達成することができる。
【0070】
ジスルフィッド結合の還元には各種の還元剤が使用されてきた。その試薬の選択は費用、反応効率、チオール防護に使用する試薬との相溶性に基づいて決定してよい(これら試薬及び使用に関する概説は、Jocelyn P.C. Methods Enzymol. 143、246-256、「ジスルフィッドの化学還元」1987参照)。
【0071】
代表的な防護剤には、N−エチルマレイミド、ヨードアセタミド、ビニルピリジン、4−ニトロスチレン、メチルビニルスルフォン、エチルビニルスルフォンが挙げられる(例えば、Krull L.H.& Gibbs D.E. & Friedman M., Anal Biochem. 40(1):80-85,「2-ビニルキノリン:タンパク質スルフヒドリル基の分光光度法測定試薬」1971;Masri M.S. & Windle J.J. & Friedman M.Biochem Biophys.Res.Commun.47(6):1408-1413「p-ニトロスチレン:還元可溶性タンパク質及びケラチン中スルフヒドリル基の新アルキル化剤」1972;Friedman M. & Zahnley J.C. & Wagner J.R., Anal. Biochem. 106(1):27-34「トリプシン阻害剤のジスルフィッド含量をS−ベータ−(2−ピリジルエチル)−L−システインとして測定」1980参照)。
【0072】
代表的な還元剤にはメルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、水素化ホウ素ナトリウム、フォスフィン、例えばトリブチルフォスフィン(Ruegg U.T. & Rudinger J., Methods Enzymol. 47, 111-116によるシステインジスルフィッドの還元的開裂」1977参照)及びトリス(カルボキシエチル)フォスフィン(Burns J.A.ら, J. Org. Chem. 56, 2648-2650「トリス(2−カルボキシエチル)フォスフィンによるジスルフィッドの選択的還元」1991)が挙げられる。メルカプトエタノール及びDTTは、これら自身がチオールを含有しているのでチオール反応性防護剤と使用するのに比較的好ましくない。
【0073】
本発明第二態様のεアミノ基標識工程では還元と(システイン基の)封鎖が同時に進行してもよいことは注目に価する。フォスフィンを基礎とする還元剤はビニルスルフォン試薬と相溶性がある(Masri M.S. & Friedman M., J. Protein Chem. 7(1),49-54「メチル及びエチルビニルスルフォンでのタンパク質反応」1988)。したがって、チオール基とεアミノ基は同一の試薬で封鎖してよい。しかし、チオール封鎖とεアミノ酸封鎖とは反応実施時のpHを変えることにより区別することができる。
【0074】
本発明の第一及び第二態様では配列特異的な開裂試薬が必要である。この態様でのポリペプチドをアルケニルスルフォン試薬で処理した場合には、この試薬はLys−Cによるこれら修飾残基での開裂を防止しているので、別の開裂試薬を使用するのが望ましい。トリプシンはこれら修飾ポリペプチドを開裂するが、アルギニン残基の位置だけを開裂する。広く入手可能なArg−C酵素も同様に適切である。この方法では化学開裂を利用してもよい。臭化シアン等の試薬はメチオニン残基で開裂するので適切である。化学開裂は有利と推測される。理由はポリペプチド試料をその生物起源から単離する際にプロテアーゼ阻害剤を使用してもよいからである。プロテアーゼ阻害剤を使用すると、内在するプロテアーゼによる試料の非特異的分解が減縮される。
【0075】
タンパク質とペプチドの分画
本発明方法を使用して多様に生成したタンパク質をプロファイルすることができる。或る種の特徴を基礎にしてタンパク質を仕分ける各種の分画技術がある。例えば、哺乳動物の組織から抽出したタンパク質は相当数の別個のタンパク質種を含有している。ヒトの平均的な細胞では10000個程度の遺伝子が発現すると考えられるので、同数のタンパク質が一つの組織に存在すると推測される。望ましくは本発明を実施する前にこれらタンパク質を分画する。本発明方法を使用してタンパク質から単離した末端ペプチドを分画し、そして次の操作又は分析をするのも望ましいと思われる。
【0076】
分画工程を使用すれば、タンパク質を多数の小集団に分割するのでタンパク質の複雑さを減少することができる。分割された小集団の大きさは均一であるのが望ましい。これは、広範で連続的な範囲に渉って変動するタンパク質の一般的な特性、例えばサイズとか表面電荷を基礎にして分離すれば最も容易に達成される。これらの特性は2-Dゲル電気泳動で最も効果的に利用されている特性である。この分離は液体クロマトグラフィーを利用すればゲル電気泳動よりも更に急速に達成可能である。液体クロマトグラフィー分離を繰り返すことによりタンパク質は任意の程度に分割することができる。ただし、多数の連続的クロマトグラフィー分離工程を経ると、タンパク質又はペプチドが様々なクロマトグラフィーのマトリックスに非特異的に付着するので試料損失や他の人口産物が生ずる結果となる。
【0077】
細胞分画
タンパク質は細胞内の区分で仕分けられている。細胞内区分を基礎にしてタンパク質を分画する技法は当分野で各種知られている。分画のプロトコールには細胞分解の各種技法、例えば超音波、界面活性剤あるいは物理手段による細胞分解及びこれらに続く分画技法、例えば遠心分離が包含される。膜タンパク質、細胞質ゾルタンパク質、及び主要な膜結合細胞区分、例えば核及びミトコンドリアに分離するのが標準的な手法である。したがって或るクラスのタンパク質は、効率的に無視すること、あるいはそれだけを分析することが可能である。特定タンパク質が多数の細胞内領域に存在する場合には、この形式の分画は極めて有用な情報を提供する。すなわちそのタンパク質の機能に関する情報はその所在から明らかになる可能性があるからである。
【0078】
抽出後のタンパク質全体の分画
タンパク質は高度に不均質な分子であるから、可能な分離技法は多数ある。サイズ、疎水性、表面電荷、及び/又は特定配位子への親和性によってタンパク質を分離することができる。分離は、各種の官能基を導入した各種の固相マトリックスによりなされるが、このマトリックスはその特性に基づいてカラムを流れるタンパク質を付着し、その流速を下げる。疎水性部分を導入したマトリックスを使用するとタンパク質をそれぞれの疎水性に基づいて分離することができ、また帯電樹脂を使用するとタンパク質をその電荷に基づいて分離することができる。代表的なクロマトグラフィー分離では、固相マトリックスへの付着を促進する緩衝液又は溶媒と共にこれら導入樹脂を充填したカラムに被検分子を注入する。続いて溶出を促進する第二の緩衝液又は溶媒でそれを少しずつ増量しながらカラムを洗浄する。マトリックスとの相互作用が最も弱いタンパク質が最初に溶出する。
【0079】
本発明方法を使用して末端ペプチドを単離した後に、得られたペプチドを分析するのが望ましい。本発明方法で生成した末端ペプチドを分画するのは任意であるが、多数のペプチドを含有する集団では分析的な分離工程を経ることにより探知と同定が大幅に容易になる。ペプチド分離には液体クロマトグラフィーの各種の技法が使用されてきた。好ましい技法は高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)であり、この技法は小容積の被検溶液の迅速な分離と極めて良好なペプチドの分解能を併せ持つ。HPLCではマトリックスは高度に非圧縮性にデザインしてあるので、極めて高圧でのクロマトグラフィー分離の実行が可能であり、このことは迅速かつ明瞭な分離に有利である。これらの特徴からHPLCは、ペプチドの探知技術として使用するのが好ましい質量分析法との使用にとって魅力的である。液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)は十分に開発された分野である。一線に連結したHPLCシステムと電子スプレー式質量分析法は広汎に使用されている。HPLCは本発明方法により生成したペプチド試料を分割する迅速かつ効果的な方法である。
【0080】
使用する質量分析法の構成によっては、質量分析の前に末端ペプチドの分析の一部として他の分画手順を使用してもよい。例えば、イオン交換クロマトグラフィーによりペプチドを分割することは有利である。短いペプチドであれば殆んどその配列に基づいて分離することができるからである。すなわちイオン化可能なアミノ酸のpKa値は既知であるから、ペプチドの特定pHでのカラム溶出に基づいてその配列中に特定アミノ酸が存在するか否かが判る。例えば、アスパラギン酸残基のpKaは3.9であり、グルタミン酸残基のそれは4.3である。pH4.3でペプチドが溶出すれば、そのペプチド中にグルタミン酸残基が存在することが判る。これらの効果は大きなタンパク質では時々埋没してしまうが、短いペプチドでは明確である。画分は、レーザー脱離分析(後記)による後続の分析用標的上に付けることにより分析可能である。あるいは、「オートサンプラー」を使用して、クロマトグラフィー分離からの画分を電子スプレー式イオン化質量分析法システムに注入することができる。
【0081】
アフィニティーによる分画
タンパク質はアフィニティー法により分画することができる。この種の分画法はタンパク質又はあるクラスのタンパク質と特定リガンドとの間の特異的相互作用に依存する。
【0082】
例えば、他のタンパク質との複合体として存在するタンパク質は多く、そのような複合体の分析はしばしば困難である。複合体の構成員と推定されるクローン化タンパク質を利用すると、そのクローン化タンパク質がアフィニティーリガンドとして機能するアフィニティーカラムを作成することができ、これによって他のタンパク質はこれに結合して捕捉される。本発明はこのように捕捉されたタンパク質複合体の分析に極めて適合している。
【0083】
翻訳後に修飾されたタンパク質の単離
特定の目的、例えば翻訳後に修飾されたタンパク質の単離のためのアフィニティーリガンドが多数市販品として入手可能である。多数のタグ付け手順も知られており、その手順によりビオチン等のアフィニティータグを翻訳後に修飾されたタンパク質に導入することができる。ビオチン−アビジンアフィニティークロマトグラフィーを使用すればそのタグによってそのタンパク質は捕捉可能となる。
【0084】
炭水化物修飾タンパク質の単離
炭水化物はタンパク質の翻訳後修飾体としてしばしば存在する。この種のタンパク質の単離のために各種のアフィニティークロマトグラフィーが知られている(概説のために、Gerard C., Methods Enzymol. 182, 529-539「糖タンパク質の精製」1990参照)。炭水化物に対する各種天然タンパク質受容体が知られている。受容体のこのクラスの構成員はレクチンとして知られており、特定の炭水化物官能基に対して高度の選択性がある。特定のレクチンを導入したアフィニティーカラムを使用すれば、特定の炭水化物で修飾されたタンパク質を単離することができる。他方、各種の異なるレクチンを含有するアフィニティーカラムを使用すれば、各種の異なる炭水化物で修飾されたタンパク質を単離することができる。シス−ジオール基を有する炭水化物は多数ある。シス−ジオールはボロン酸誘導体と反応して環状エステルを形成する。この反応は塩基性pHでは優勢であるが、酸性pHでは容易に逆転する。シス−ジオール含有炭水化物を有するタンパク質を親和捕捉するリガンドとして、樹脂に固定化されたフェニルボロン酸誘導体が使用されている。シス−ジオールはまた過ヨード酸塩で酸化するとカルボニル基に変換することができる。これらのカルボニル基にタグを付ければ、そのような修飾をしたタンパク質を探知又は単離することができる。ビオシチンヒドラジッド(Pierce & Warriner Ltd., Chester,UK)は過ヨード酸塩処理した炭水化物中のカルボニル基と反応する(E.A.Bayerら Anal.Biochem.170, 271-281「ビオシチンヒドラジッド−アビジンビオチン技法を利用する糖複合体中のシアール酸、ガラクトース及び他の糖のための選択的標識」1988)。したがって、シス−ジオール含有炭水化物修飾体を有する複合体混合物中タンパク質をビオチニル化することができる。ビオチニル化した、すなわち炭水化物が修飾されたタンパク質はアビジン化固相担体を使用して単離することができる。
【0085】
リン酸化タンパク質の単離
各種広汎のタンパク質に存在するリン酸チロシン残基に結合する抗体を産生することについて報告している研究グループは多い(例えば、A.R.Frackeltonら Method Enzymol.201, 79-92「抗リン酸チロシンモノクロナール抗体及びリン酸チロシン含有タンパク質のアフィニティー精製への利用」1991及びMethod Enzymol 同号中の他の論文参照)。このことは、翻訳後にチロシンがリン酸化修飾を受けたタンパク質のかなり多数のものは、これら抗体をアフィニティーカラムのリガンドとして使用するアフィニティークロマトグラフィーによって単離され得ることを意味する。
【0086】
リン酸チロシンに結合する抗体を本発明において使用すれば、リン酸チロシン残基を含有するタンパク質から末端ペプチドを単離することができる。複合体混合物中のチロシンリン酸化タンパク質は、抗リン酸チロシン抗体アフィニティーカラムを使用して単離することができる。したがって燐タンパク質の分画混合物由来のN末端ペプチドは本発明方法に従って単離することができる。
【0087】
リン酸セリン及びリン酸スレオニン含有ペプチドの分析技術も知られている。それらの方法のあるクラスはリン酸塩のベータ除去を行う公知反応を基礎にしている。その反応の結果、リン酸セリン及びリン酸スレオニンからデヒドロアラニン及びメチルデヒドロアラニンが形成され、それらは共にミカエル受容体でありチオールと反応する。これを利用してアフィニティークロマトグラフィー用の疎水基を導入している(例えば、Holmes C.F., FEBS Lett. 215(1),21-24「リン酸セリン含有ペプチドの選択的単離の新方法」1987参照)。またジチオールのリンカーも使用されており、これによりリン酸セリン及びリン酸スレオニン含有ペプチドにフルオレッセイン及びビオチンを導入している(Fadden P, Haystead TA, Anal. Biochem. 225(1), 81-8,「ペプチド及びタンパク質上のリン酸セリンを定量的及び選択的に発蛍光団標識する:キャピラリー電気泳動及びレーザー誘導蛍光によってアットモルの水準で特徴化」1995;Yoshida O. Nature Biotech 19, 379-382「リン酸プロテオームをプローブ化するツールとしてのリン酸化タンパク質の濃縮分析」2001)。セリン及びスレオニンでリン酸化したタンパク質をビオチンの使用によりアフィニティー濃縮すれば、これを本発明方法と共に利用することができ、それにより、末端ペプチドのみを分析すればよいことになる。同様に抗フルオレッセイン抗体が知られており、フルオレッセインをタグしたペプチドをこの抗体によるアフィニティークロマトグラフィーをもって単離することができる。末端ペプチドはその後に本発明方法に従って単離することができる。
【0088】
リンタンパク質を単離する化学手順も公開されている(Zhou H.ら、 Nature Biotech 19, 375-378「タンパク質リン酸化分析への系統的アプローチ」2001.)。この手順は、フォスフォールアミデートは酸性条件下で容易に加水分解するという事実に基づいている。この手順には、タンパク質混合物中の遊離アミンを全て防護し、次にアミン官能基を含有する防護剤で遊離リン酸基とカルボン酸基とを結合して封鎖し、それぞれフォスフォールアミデート及びアミドを形成することが包含される。次に封鎖タンパク質を酸で処理してリン酸基の封鎖を解除する。次に保護されたチオールを有する第二番目のアミン試薬でペプチドを処理する。この工程でリン酸基は再び封鎖される。保護チオールを脱保護し、チオール反応性樹脂上でリンペプチドを選択的に捕捉するのに使用する。樹脂を十分に洗浄後にこれらのペプチドを酸加水分解により溶出する。この手順はリン酸基全てに適用可能であるとされているが、リン酸チロシンは酸に不安定であるので、この方法はリン酸チロシンには適用できない可能性がある。
【0089】
その他のタンパク質翻訳後修飾
ユビキチン化、リポイル化及び他の翻訳後修飾によって修飾されたタンパク質もクロマトグラフィー技術 (Gibson J.C., Rubinstein A., Ginsberg H.N. & Brown W.V. Methods Enzymol 129, 186-198,「免疫アフィニティークロマトグラフィーによるアポリポタンパク質E含有リポタンパク質の単離」1986;Tadey T. & Purdy W.C. J.Chromatogr. B.Biomed. Appl. 671(1-2)237-253、「リポタンパク質を単離及び精製するクロマトグラフィー技術」1995)、又はアフィニティーリガンドを基礎とする技術、例えば免疫沈降(Hershko A. Bytan E. Ciechanover A. & Haas A. L.、 J.Biol.Chem. 257(23),13964-13970「生細胞でのユビキチン−タンパク質複合体代謝回転の免疫化学的分析」1982)により単離又は濃縮することができる.。これらの修飾をしたタンパク質は全て本発明方法により分析することができる。
【0090】
質量分析法を使用するペプチド分析を更に詳細に説明する。
【0091】
質量分析法の基本的な特徴は以下の通りである。
【0092】
導入系→イオン源→質量分析器→イオン探知器→データ捕捉系
【0093】
ペプチド分析の目的に好ましい導入系、イオン源及び質量分析器がある。
【0094】
導入系
本発明の全ての態様において質量分析法による分析を行う前にクロマトグラフィー又は電気泳動による分離法を利用して試料の複雑さを減少しておくのがよい。各種の質量分析法の技術は分離技術、特にキャピラリーゾーン電気泳動及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と両立する。ただし、分離が必要な場合にイオン化源の選択はある程度限定されることがある。理由は、MALDI及びFAB(下記記載)等のイオン化技術は固体表面から物質を蒸発させるのでクロマトグラフィー分離には比較的適さないからである。これらの技術の一つによりクロマトグラフィー分離と質量スペクトル分析とを一線に連結することは困難である。動的FAB及びスプレーを基礎とするイオン化技術、例えば電子スプレー、熱スプレー、APCIは全てインラインでのクロマトグラフィー分離と両立する。
【0095】
イオン化技術
質量分析法の生物学への応用には、いわゆる「ソフトな」イオン化技術を利用することが多い。それらの技術によりタンパク質及び核酸等の大型分子を本質的に原型のままイオン化することができる。液相技術を使用すれば大型の生物分子を緩和なpHの溶液状態でかつ低濃度で質量分析計に導入することができる。電子スプレーイオン化質量分析法(ESI−MS)、高速原子衝突イオン化法(FAB)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI−MS)、大気圧化学的イオン化質量分析法(APCI−MS)等の、しかもこれらに限定されない多数の技術が本発明と共に使用するのに適している。
【0096】
電子スプレーイオン化
電子スプレーイオン化においては、検体分子の希釈溶液は分析器中に「噴霧される」、すなわち微細なスプレー状態で注入される。例えば、溶液を帯電した針の先端から乾燥窒素の気流及び静電界に噴霧する。イオン化のメカニズムは十分に解明されていないが、次のように考えられている。窒素気流中に溶媒が気化する。小滴になると共に検体分子が濃縮される。大部分の生物分子には正味の電荷があるため、溶解した分子の静電的な反撥力が増大する。気化を続けるに従いその反撥力は最終的には滴の表面張力より大きくなるので、その滴は更に小さな滴に崩壊する。このプロセスは時々「クーロン破裂」と言われる。静電界により滴の表面張力は更に打破されて噴霧過程は支援される。更に小さな滴からの気化が続くと滴は破裂を繰り返し、遂には全ての溶媒と同様、生物分子は本質的に気相として存在することとなる。この技術は質量標識を使用する場合には特に重要である。すなわちこの技術では、イオン化の過程でイオンに付加されるエネルギー量が比較的に小さく、かつ群の中でのエネルギー分布の範囲が他の技術に比較すると狭い傾向にある。電極を適切に配置してセットアップした電界を使用するとイオン化チャンバからイオンが加速されて出てくる。電界の極性を変えて負又は正のイオンを抽出してもよい。電極間の電位差により、質量分析器を通過するイオンの正負が決まり、またイオンが質量分析計に入る際の運動エネルギーも決まる。このことは質量分析計でのイオンの分裂を考察する際に重要である。イオンに付加されるエネルギーが多いほど、検体分子が供給源に存在する緩衝気体との衝突を介して分裂が起こる可能性が大きくなる。イオン化チャンバからイオンを加速する電界を調節することで、イオンの分裂を制御することができる。これは、標識した生物分子からタグを除去する手段としてイオンの分裂を利用する場合には有利である。
【0097】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)
MALDIでは、生物分子の溶液を大過剰モルの光励起可能な「マトリックス」に埋設する必要がある。適切な振動数のレーザー光を当てると、マトリックスが励起し、次に閉じ込めた生物分子と一緒にマトリックスが迅速に気化する。酸性マトリックスから生物分子にプロトンが移動して生物分子のプロトン化形が生じ、これは陽イオン質量分析法により探知することができる。この技術ではかなりの量の並進エネルギーがイオンに付加されるが、過剰の分裂を誘導する傾向はない。しかし、この技術においても加速電圧を用いて分裂を制御することができる。
【0098】
高速原子衝突イオン化法
高速原子衝突イオン化法では、比較的に揮発しにくい分子を気化しイオン化する技術が多数記述されている。この技術の基本的な原理は、試料と加速された原子又はイオン、通常はキセノン原子又はセシウムイオンとの衝突により試料が表面から脱離することである。MALDIと同様に固体表面上に試料をコーティングしてもよいが、複雑なマトリックスを必要としない。これらの技術も液相導入システムと両立する。キャピラリー電気泳動導入システム又は高圧液体クロマトグラフィーシステムから溶出する液体が半溶ガラスを通過し、本質的にその半溶ガラスの表面を検体溶液がコートし、それを原子衝突によりその半溶ガラスの表面からイオン化する。
【0099】
質量分析器
大抵の場合に、各ペプチドが決定すれば、そのペプチドが由来したタンパク質を同定するには十分である。質量分析器の簡単な結合構造の一つ、例えば飛行時間、四重極及びイオントラップの装置を使用して全く経済的に質量測定を実行することができる。衝突誘導解離によるペプチド分裂を利用すれば、末端ペプチドの質量だけでは同定されないタンパク質を同定することができる。ペプチドに関し更なる情報が必要な場合には、質量分析器の更に複雑な結合構造が必要かもしれないが、イオントラップ装置はこの目的の場合にも十分なことがある。
【0100】
ペプチドのMS/MS及びMSn分析
タンデムの質量分析計によって、質量対電荷の比を予め決めてあるイオンが衝突誘導解離(CID)によって選択され分裂される。次に分裂断片を探知することにより、選択されたイオンに関する構造情報が得られる。タンデム質量分析計でCIDによりペプチドを分析すると、特徴的な開裂パターンが観察され、このパターンによってペプチドの配列を決定することができる。一般に天然ペプチドはペプチド骨格のアミド結合の位置で無作為に分裂し、そのペプチドに特徴的なイオンシリーズが得られる。イオンの電荷がイオンのN末端断片に保持される場合には、n番目のペプチド結合での開裂に対するCID断片シリーズはan、bn、cn、等と表示される。同様に、電荷がイオンのC末端断片に保持される場合には断片シリーズはxn、yn、zn、等と表示される。
【化10】
【0101】
トリプシンとトロンビンは、タンデム質量分析法にとって好ましい開裂剤である。理由は、これらは分子の両末端に塩基性基、すなわちN末端にαアミノ基、C末端にリジン又はアルギニン側鎖を持ったペプチドを産生するからである。これは二重荷電イオンの形成に有利であり、このイオンでは荷電中心が分子の両末端にある。CIDをすると、これら二重荷電イオンからC末端イオンシリーズ及びN末端イオンシリーズの両方が産生する。これを手がかりにしてペプチドの配列を決定する。一般的に言うと、所与のペプチドのCIDスペクトルには可能なイオンシリーズの唯1個又は2個が観察される。四重極装置に特徴的な低エネルギー衝突ではbシリーズのN末端断片又はyシリーズのC末端断片が優勢である。二重荷電イオンを分析する場合には両方のシリーズがしばしば探知される。一般に、yシリーズイオンはbシリーズより優勢である。
【0102】
タンデム質量分析計の代表的な結合構造は四重極の三連式であり、2個の四重極質量分析器が、これもまた四重極である衝突チャンバで分離されている。この衝突四重極は二つの質量分析器四重極の間のイオンガイドとして機能し、この衝突四重極の中にガスが導入されると第一の質量分析器からのイオン気流と衝突させることができる。第一の質量分析器によりイオンはその質量/電荷の比を基礎にして選択され、通過する衝突セルで分裂する。分裂の程度は、イオンを加速する電界を変えることによって、あるいは衝突セルのガスを変えることによって制御してよい。例えばヘリウムをネオンに置換することができる。断片イオンを第三の四重極で分離し探知する。タンデム質量分析計以外の結合構造で誘導開裂を実行してもよい。イオントラップ質量分析計では、ガスがトラップに導入される過程を通して分裂が促進される。すなわち、トラップで捕捉されたイオンは加速されて衝突することができる。イオントラップには通常は緩衝気体、例えばヘリウムが含有されているが、例えばネオンを追加すると分裂が促進される。同様に、フォトン誘導分裂を捕捉されたイオンに適用することができる。他の好ましい結合構造は四重極/直交飛行時間式タンデム装置であり、これでは高走査速度の四重極と高感度のレフレクトロンTOF質量分析器とを結合して分裂産生物を同定する。
【0103】
従来の「セクター」方式装置はタンデム質量分析法で普通に使用する結合構造である。セクター質量分析器は二つの別々の「セクター」を包含しており、電気セクターが供給源から放出されるイオンビームを電界を利用して同一の運動エネルギーのイオン流に収束する。磁気セクターはイオンをその質量に基づいて分離し探知器でスペクトルが形成される。タンデム質量分析法には、この種の二つのセクターからなる質量分析器を使用することができ、その分析器では電気セクターが第一質量分析器に、磁気セクターが第二質量分析器に、二つのセクター間に置かれる衝突セルを提供する。この結合構造は質量標識の付いた核酸から標識を開裂するのに極めて有効と思われる。衝突セルで分離された二つの完全セクターからなる質量分析器は質量標識した核酸の分析にも使用することができる。
【0104】
イオントラップ
イオントラップ質量分析計は四重極スペクトル計の親類である。一般にイオントラップには3個の電極からなる構造をしており、すなわち各端に「キャップ」電極があり、それらによって空洞が形成されている円筒状電極である。円筒状電極には交流高周波電位を与え、キャップ電極にはDC又はAC電位でバイアスを架ける。空洞に注入されたイオンは円筒状電極の振動電界によりトラップ内の安定な軌道に拘束される。しかし、ある振幅の振動電位に対してある種のイオンは不安定な軌道をとり、トラップから放出される。振動高周波電位を変化することによって、捕捉器に注入したイオン試料をそれらの質量/電荷比に応じてトラップから連続的に放出させることができる。次に放出されたイオンを探知することによって質量スペクトルが得られる。
【0105】
一般にイオントラップは、イオントラップの空洞に少量の「緩衝気体」、例えばヘリウムが存在する状態で操作される。これにより装置の解像度と感度の両方が増加する。その理由は、トラップに入ったイオンは本質的には緩衝気体との衝突を経て緩衝気体の環境温度にまで冷却されるからである。衝突すると、試料をトラップに導入した時のイオン化は増加するが、それと共にイオン軌道の振幅と速度は落着しイオン軌道は捕捉器の中央近傍に保持される。このことは、振動電位を変更することにより軌道が不安定になったイオンは落着している回流イオンに比べると急速にエネルギーを獲得し、緊密な束となって捕捉器から飛び出し、その結果、ピークが狭く大きくなる。
【0106】
イオントラップは、タンデム質量分析計の結合構造を模倣することができ、実際に複数の質量分析計の結合構造を模倣することにより、捕捉イオンの複雑な分析が可能になっている。試料から選定したある質量対電荷比の種を単一の種として捕捉器に保持し、その他の種は全て捕捉器から放出させることができる。保持した種は、第一振動周波の上に第二振動周波を重ね合わせることにより励起することができる。次に励起されたイオンは緩衝気体と衝突し、十分に励起されると分裂する。次に得られた断片は更に分析することができる。更なる分析をする断片イオンは、分析を所望しないイオンをトラップから排出することによって保持することができる。保持した断片を再び励起し、更なる分裂を誘導してもよい。十分な試料が存在する限りこのプロセスを反復することにより、更なる分析が可能になる。留意すべきこととして、これらの機器は一般に誘導分裂後の断片イオンを高い存在割合で保持する。これらの機器及びFTICR質量分析計(後記)は、線形質量分析計に存在する空間分解タンデム質量分析法というよりもむしろ時間分解タンデム質量分析法の形態を代表するものである。
【0107】
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FTICR MS)
FTICR質量分析計には、イオン試料が空洞内に保持されるという点でイオントラップと類似の特徴があるが、FTICR MSではイオンは交差電磁界により高真空チャンバに補足される。電界は箱の二つの側面を形成する一対の平板電極によって形成される。この箱は磁石の磁界に含まれる。この磁石は、電界を形成しかつ捕捉平板と呼ばれる二枚の平板と共に、捕捉平板の間にあってかつ架けた磁界に直交する安定な円形軌道に注入イオンを拘束する。箱の他の対向面を形成する二枚の「送信板」に高周波パルスを架けるとイオンはより広い軌道の中に励起される。イオンの円運動によりそれに対応する電界が、「受信板」を含む箱の残りの二つの対向面に発生する。励起パルスによりイオンはより大きな軌道に励起されるが、衝突を経てイオンのコヒーレントな運動が失われるに従いこの軌道は崩壊する。受信板が探知した対応シグナルはフーリエ変換解析により質量スペクトルに変換する。
【0108】
誘起分裂実験のために、これらの機器は、イオントラップと類似の方法、すなわち問題の単一種を除く全てのイオンが捕捉器から排出可能となるという方法で動作することができる。衝突ガスを捕捉器に導入して分裂を誘起することができる。その後に断片イオンを分析することができる。一般に分裂産生物と緩衝気体とが結合すると、「受信板」が探知したシグナルのFTによって分析する場合に分解能が不十分になる。しかし、断片イオンを空洞から放出させ、例えば四重極のあるタンデム構成の中で分析することができる。
【実施例1】
【0109】
プロペニル及びイソブテニルスルフォンの合成
フェニル−1−プロペニルスルフォンの合成
1−クロロ−2−プロパノールの合成:市販の1−クロロ−2−プロパノールは二つの異性体、すなわち1−クロロ−2−プロパノール及び2−クロロ−1−プロパノールの混合物としてのみ入手されることが判った。1−クロロ−2−プロパノール純品をStewart C.A., Calvin Van der Werf A., J. Amm. Chem. Soc.76, 1259-64(1954) により開示されている方法によって合成した。水素化リチウムアルミニウム(10g、0.256mol)を200mlの氷冷無水エーテルの入った丸底二頚フラスコに少しずつ撹拌しながら加えた。フラスコを冷却管及び分別ロートに連結した。66g(0.256mol)のクロロアセトンを90分かけて加えた。クロロアセトンを完全に加えた後に反応混合物を1時間撹拌した。続いて水で水素化物を分解した。次に4N硫酸100mlを加え、分離可能な混合物を得た。エーテル層を分離し、水層をエーテルで3回抽出した。エーテル抽出物を合し、水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ロータリーエバポレータにて室温でエーテルを除去した。残留油を水流ポンプで分留した。31℃(9mmHg)で集めた第一の留分は主にエーテルであった。38℃(5mmHg)で集めた第二の留分は1−クロロ−2−プロパノールであり、無色の油(収量32.4g、49%)として得た。1H NMRの分析から真正かつ純粋な異性体が得られたことを確認した。
【0110】
フェニル−2−(ヒドロキシプロピル)サルファイドの合成: 2−プロパノール50ml中のベンゼンチオール11g(0.1mol)及び1−クロロ−2−プロパノール9.45g(0.1mol)を1N水酸化カリウム/2−プロパノール溶液75mlに加えた。この溶液にNaBH4 7.2g(2×0.1mol)を撹拌しながら加えた。反応混合液を室温で24時間撹拌したが、TLCによるとほんの短時間後に生産物は形成したことが判った。不均質な反応混合物をエーテルで抽出し、水で洗浄し、乾燥した(硫酸ナトリウム)。溶媒を留去後、残渣をシリカカラムから酢酸エチル/n−ヘキサン(50/50 v/v)で溶出した。2−ヒドロキシプロピルフェニルサルファイドが無色油(収量15.45g、92%)として得られた。
【0111】
フェニル−2−(ヒドロキシプロピル)サルファイドのフェニル−2−(クロロプロピル)サルファイドへの変換: チオニルクロライド9.63g(0.081mol)を無水クロロフォルム70ml中のフェニル−2−(ヒドロキシプロピル)サルファイド9.1g(0.054mol)に滴下した。反応液を室温で24時間撹拌した。反応完了後、溶媒を留去し、残渣をシリカカラムから酢酸エチル/n−ヘキサン溶媒系(50/50 v/v)で溶出し、対応するフェニル−2−(クロロプロピル)サルファイドが無色の油(収量9.51g、95%)として得られた。
【0112】
フェニル−2−(クロロプロピル)サルファイドのフェニル−2−(クロロプロピル)スルフォンへの変換: フェニル−2−(クロロプロピル)サルファイド7.5g(0.04mol)を氷酢酸400mlと30%H2O2溶液50ml中で2時間加熱還流した。次に反応混合物を冷水(200ml)中に注いだが、冷却後生産物は結晶化しなかった。次に生産物をエーテルで抽出し、水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。留去後残渣をシリカゲルカラムから酢酸エチル/n−ヘキサン (50/50 v/v)で溶出し、フェニル−2−(クロロプロピル)スルフォンが無色油(収量7.9g、91%)として得られた。
【0113】
フェニル−2−(クロロプロピル)スルフォンのフェニル−1−プロペニルスルフォンへの変換: フェニル−2−(クロロプロピル)スルフォン5.6g(0.025mol)をTHF50mlに溶解し、次にトリエチルアミン4.06g(0.04mol)で処理した。反応液を室温で終夜撹拌した。溶媒を留去後、残渣をシリカゲルカラムから酢酸エチル/n−ヘキサン (50/50 v/v)で溶出し、フェニル−2−プロペニルスルフォンのシス−トランス型に対応する残留油(収量4.18g、92%)を得た。次に油状生産物をエーテル/石油エーテルから結晶化しフェニル−1−プロペニルスルフォンのトランス型2gを無色結晶として得た。
【0114】
フェニル−1−イソブテニルスルフォンの合成
1−クロロ−2−メチル−2−プロパノールの純粋な異性体はSigma-Aldrich, Dorset, UKから入手可能である。この異性体の純度を1H NMRで確認した。
【0115】
フェニル−2−メチル−2−(ヒドロキシプロピル)サルファイドの合成: 2−プロパノール100ml中のベンゼンチオール22g(0.2mol)及び1−クロロ−2−メチル−2−プロパノール18.9g(0.2mol)を1N水酸化カリウム/2−プロパノール溶液75mlに加えた。この溶液にNaBH4 14.2g(2×0.2mol)を撹拌しながら加えた。反応混合液を室温で24時間撹拌したが、TLCによるとほんの短時間後に生産物の形成が始まったことが判った。不均質な反応混合物をエーテルで抽出し、水で洗浄し、乾燥した(硫酸ナトリウム)。溶媒を留去後、残渣をシリカゲルカラムから酢酸エチル/n−ヘキサン(50/50 v/v)で溶出した。フェニル−2−メチル−2−ヒドロキシプロピルサルファイドが無色油として得られた(C10H14OS,Mr=182、収量32.75g、90%)。
【0116】
フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルサルファイドのフェニル−2−クロロ−2−メチルプロピルサルファイドへの変換:チオニルクロライド117.8g(0.15mol)を無水クロロフォルム75ml中のフェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルサルファイド13.5g(0.075mol)に滴下した。反応液を室温で24時間撹拌した。反応完了後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムから酢酸エチル/n−ヘキサン溶媒系(50/50 v/v)で溶出し、対応するフェニル−2−クロロ−2−メチルプロピルサルファイドが無色油(C10H13ClS、Mr=200.5、収量26.76g、89%)として得られた。
【0117】
フェニル−2−クロロ−2−メチルプロピル−サルファイドのフェニル−2−クロロ−2−メチルプロピルスルフォンへの変換:フェニル−2−クロロ−2−メチルプロピル−スルフォン15.5g(0.077mol)を氷酢酸40mlと30%H2O2溶液70ml中で2時間加熱還流した。次に反応混合物を冷水(200ml)中に注いだ。終夜冷却後生産物は結晶化しなかった。次に生産物をエーテルで抽出し、水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、粗フェニル−2−クロロ−2−メチルプロピル−スルフォンを無色油15.33g(C10H13ClO2S、分子質量=232.5)として得た。この粗生成物の0.7gを更なるクロマトグラフィー精製のために保存し、他を次のセクションに記載するようにフェニル−1−イソブテニルスルフォンに変換した。
【0118】
フェニル−2−クロロ−2−メチルプロピルスルフォンのフェニル−1−イソブテニルスルフォンへの変換:フェニル−2−クロロ−2−メチルプロピルスルフォン14.6g(0.062mol)をテトラヒドロフラン(THF)60mlに溶解し、次にトリエチルアミン12.52g(0.124mol)で処理した。反応液を室温で終夜撹拌しフェニル−1−イソブテニルスルフォンを得た。
【0119】
ピリジル−1−プロペニルスルフォンの合成
ピリジン−3−スルフォニルクロライドの製造:ピリジン−3−スルフォン酸(C5H5NSO3)3.18g(0.02mol)をPCl5 8.34g(0.04mol)と乾燥フラスコ中で混合した。フラスコを湿気から防護し、130〜140℃で加熱還流して2時間撹拌した。次に反応混合物を冷却した。冷却で固化した反応混合物をCHCl3で磨り潰してPCl5及びPOCl5を除去した。上澄液を除去した。新しいCHCl3を使用して磨り潰し工程を反復し、最終的には塩化水素で飽和したCHCl3で磨り潰した。この塩化水素は滴下ロートから濃硫酸(H2SO4)を丸底フラスコの塩化ナトリウムにゆっくり加えて調製し、丸底フラスコを磨り潰し反応容器にゴムチューブで連結した。白色粉末が形成され、ろ過し、CHCl3で洗浄し、最後は真空乾燥した。このプロセスにより、3−ピリジンスルフォニルクロライド塩酸塩(収量3.05g、85%)が得られた。C5H4NSO2Cl(融点141〜143℃)。以上の手順はReinhart F.E., J.Franklin.Ind. 236, 316-320(1943)により記述されている。
【0120】
ピリジン−3−(2−ヒドロキシプロピル)スルフォンの製造:水50ml中にNa2SO3 3.52g(0.028mol)及びNaHCO3 4.36g(0.052mol)の沸騰溶液に3−ピリジンスルフォニルクロライド塩酸塩2.828g(0.014mol)を少しずつ添加した。添加を完了後、更に5分間加熱し、ろ過し、ろ液を蒸留乾燥した。十分に粉末化した残渣を無水ジメチルフォルムアミド100mlに懸濁し、テトラブチルアンモニウムブロマイド1g(3mmol)(転移触媒として機能)及び上記のごとく調整した1−クロロ−2−プロパノール2.22g(0.028mol)と共に加熱した。反応混合物を24時間還流した。固体をろ過後、ろ液を蒸留乾燥し、残渣の油をシリカゲルカラムから酢酸エチル/メタノール(80/20 v/v)で溶出した。
【0121】
ピリジン−3−(2−ヒドロキシプロピル)スルフォンをメシル化し、メシル化水酸基を除去してピリジン−1−プロペニルスルフォンを得る:テトラヒドロフラン(THF)25ml中のピリジン−3−(2−ヒドロキシプロピル)スルフォン2.0g(0.00995mol)及びトリエチルアミン2.0g(0.0199mol)の混合物を0℃に冷却した。これにメタンスルフォニルクロライド2.23g(0.0149mol)を添加した。反応混合物を0℃で6時間撹拌し、室温で6時間撹拌した。トリエチルアンモニウムクロライドの沈殿をろ去し、溶媒を留去した。次に残渣油をトリエチルアミン1.5g(0.0149mol)で処理し、室温で48時間撹拌放置した。次にTHF25mlを加え、沈殿をろ去した。溶媒を留去後、残渣をシリカゲルカラムから酢酸エチル75%とn−ヘキサン25%を含有する溶媒で溶出し、無色の油を得た。これは冷却すると固化しピリジン−1−プロペニルスルフォン1.5g(収率83%)を得た。
【0122】
ピリジル−1−イソブテニルスルフォンの合成
ピリジン−3−(2−ヒドロキシイソブチル)スルフォンの製造:ピリジン−3−スルフォニルクロライドを上記のごとく製造した。水150ml中にNa2SO3 21.33g(0.169mol)及びNaHCO3 25.34g(0.3mol)の沸騰溶液にピリジン−3−スルフォニルクロライド塩酸塩23g(0.108mol)を少しずつ添加した。添加を完了後、反応液を更に1時間加熱し、ろ過し、ろ液を蒸留乾燥した。得られた十分に粉末化した残渣を無水乾燥DMF100mlに懸濁した。これにトリエチルアミン(TEA)10.9g(0.11mol)及び1−クロロ−2−イソブタノール11.7g(0.108mol)を加えた(TEAの添加は1−クロロ−2−イソブタノールから塩化物の除去を容易にするためである)。反応混合物を油浴中、100-110℃で約30分間加熱した。反応混合物をろ過後、ろ液を蒸留乾燥し、残渣をシリカゲルカラムから酢酸エチル90%とメタノール10%の溶媒混合液で溶出した。溶媒を留去後、残渣をエーテルから白色結晶として再結晶化した(収量12.07g、51%、融点122〜123℃)。
【0123】
ピリジン−3−(2−ヒドロキシイソブチル)スルフォンをメシル化し、メシル化水酸基を除去してピリジン−1−イソブテニルスルフォンを形成する: THF25ml中のピリジン−3−(2−ヒドロキシイソブチル)スルフォン1.4g(0.0065mol)及びトリエチルアミン1.81g(0.018mol)の混合物を0℃に冷却した。これにメタンスルフォニルクロライド1.52g(0.013mol)を添加した。反応混合物を0℃で24時間撹拌した。トリエチルアンモニウムクロライドの沈殿をろ去し、溶媒を留去した。次に残渣油をトリエチルアミン1.81g(0.018mol)、すなわち2モル当量で処理し、0℃で48時間撹拌した。トリエチルアミンを留去後、残渣をシリカゲルカラムから酢酸エチル75%とn−ヘキサン25%を含有する溶媒で溶出した。互いに接近した二つのスポットが単離され同定された。上側のスポットは所望しない異性体のピリジン−3−(2−イソブテニル)スルフォンに対応しており、エーテル/石油エーテルから微細白色結晶として90mg(収率7%)が得られた(融点82〜83℃)。第二のスポットは必要な異性体ピリジン−3−(1−イソブテニル)スルフォンに対応しており、エーテル/石油エーテルから1.013g(収率79%)が得られた(融点50〜51℃)。
(註:トリエチルアミンでメシル化する間の温度を約0℃に保持すると所望の異性体は良収率で取得できることが判った。この操作の間で温度が0℃を超えて上昇すると所望しない異性体の比率が大きくなる。)
【実施例2】
【0124】
ジペプチド及びペプチドとリジン選択性試薬の反応
タグの相対的な反応性及び選択性を決定するために、多数のジペプチド及びペプチドと各種タグとの反応を行った。特に、αアミノ基には抵抗しεアミノ基には選択的に反応する識別力をどのタグが最も示すかを決定するのを本シリーズの実験目的とした。
【0125】
反応条件
1. 全ての場合に標識付けはpH約9.5の0.1Mホウ酸緩衝液で行った。
2. 各種の標識時間を使用し、室温(RT)又は氷上(0℃)で行った。
3. 大部分の標識について、50:50アセトニトリル:ホウ酸塩緩衝液10μl中で標識2μmolと基質250nmolとを反応させた。これにより、標識は基質に対し8倍の過剰となるが、反応部位が二つある基質もあったので、それらの反応では標識は単に4倍過剰となった。
4. フェニルイソブテニルスルフォン及びフェニルスチリルスルフォンは上記溶媒混合液に可溶性ではなかった。更に10μlのアセトニトリルを加えてこれらのタグを溶解したので、これらの実験での最終容積は2倍であった。
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
分析
各場合に産生物は、取り込まれなかった標識から、ジエチルエーテルで展開した薄層クロマトグラフィー(TLC)により分離した。産生物はシリカから水及び50%アセトニトリルで抽出し、蒸発乾燥した。50%ACN:H2Oに再懸濁後に産生物をES−MSにより分析した。
【0130】
これら実験のスペクトルを全て列挙するのではなく、スペクトル中の鍵となるピークの高さを測定し、それを総和に対する比率として表現した。したがって、これらの結果では、元の質量スペクトルにおけるピークの高さが簡潔に表示されており、それによって重要な各種、すなわち無標識、1個、2個あるいは3個標識の種が表示されている。与えられた種に対する(M+Na)+ピークが相当に大きい場合には、これを(M+H)+種のピーク高さの一部に包含させた。大部分の場合にペプチド又は標識種に対応しないピークで有意なものはなかった。結果を以下の表に示す。
【0131】
結果
【0132】
【表5】
【0133】
【表6】
【0134】
【表7】
【0135】
本実験によって、N−エチルマレイミドはαアミノ基より優先してεアミノ基と選択的に反応するという事実が確認される。
N−フォルミルペプチドは可溶性が大ではなく、全てのテストタグにおいて時折沈殿した。したがってこのペプチドでの結果は全く変動している。
【0136】
【表8】
【0137】
【表9】
【0138】
【表10】
【0139】
【表11】
【0140】
【表12】
【0141】
【表13】
【0142】
【表14】
【0143】
フェニルプロペニルスルフォン及びピリジルプロペニルスルフォンはεアミノ基に同程度の選択性を示し、対応するフェニルイソブテニルスルフォン及びピリジルイソブテニルスルフォンはそれより大きな選択性を示すものと本発明者らは確信した。またフェニルトリフルオロプロペニルスルフォンは対応するプロペニルスルフォンよりも大きな選択性を示すものと本発明者らは予測した。理由は、これら各試薬においてトリフルオロメチル基はメチル基よりも僅かながら嵩高であるからである。同様に、フェニルプロペニルスルフォン及びピリジルプロペニルスルフォンはそれぞれ対応するイソブテニルスルフォンよりも反応性が大であると予想した。ピリジル化合物は対応するフェニル化合物よりも反応性があると予想した。これらの予想は上記の結果から証明される。トリフルオロプロペニル化合物の反応性は高いと予想され、ピリジルプロペニルスルフォンより大きくないとしても類似であり、見かけの選択性では遥かに大きいことが判った。マレイミドは選択性がピリジルプロペニルスルフォンと類似だが僅かに低く、反応性は僅かに大きい。これらの試薬の大部分は、N−エチルマレイミドとイソブテニル試薬を除いて、ヒスチジン残基と反応した。このことは標識ペプチドの分析において考慮しなければならない。これら試薬は全てグリシンのαアミノ基と有意な反応を示した。これは予想され得ることである。理由は、グリシンのαアミノ基は最も立体障害の少ないαアミノ基であり、ミカエル試薬の立体障害的な基による影響が最も少ないからである。それでも、グリシンのαアミノ基は本質的にリジンのεアミノ基よりも求核性が少ない。上記全ての試薬の識別力は、反応時間を注意深く制御し、比較的に高いpH、すなわち11を超えるpH(結果は示してない)を使用すれば向上させることができる。
【実施例3】
【0144】
反応物の直接注入分析を用いた実験
以下の結果が得られた実験において、PyIBSを除く全ての試料は、反応混合物を電子スプレー質量分析計に注入して直接に分析した。すなわちTLCによる清浄化操作がなく、したがって過剰の標識が存在したままで分析した。PyIBSインキュベーションでは、ジエチルエーテル中で展開したTLCにより産生物を取り込まれなかった標識から分離した。産生物はシリカから水及び50%アセトニトリルで抽出し、蒸発乾燥した。50%ACN:H2Oに再懸濁後に産生物をES−MSにより分析した。
【0145】
ここでも、これら実験の質量スペクトルを全て列挙するのではなく、質量スペクトルにおいて重要な種、すなわち無標識ペプチド、1個又は2個標識のペプチドの相対的なピークの高さを測定し、それを高さの総和に対する比率として表現した。これらの数値を以下の表に示す。 (M+Na)+ピークが相当に大きい場合には、これを(M+H)+種のピーク高さの一部に包含させた。反応しなかった標識のピークは無視した。
【0146】
反応条件
全ての場合に標識付けはpH約9.5の0.1Mホウ酸緩衝液で行った。
各種の標識時間を使用し、室温又は氷上(0℃)で行った。
【0147】
50:50アセトニトリル:ホウ酸塩緩衝液の全容積50μl中の標識20μmolに各ジペプチド625nmolを反応させた。これにより、ジペプチド1分子当たり標識は最小で32倍モルの過剰となる。標識可能な部位が二つある場合には1部位当たり標識は最小で16倍の過剰となる。N−フォルミルペプチドは分子量が4倍を超えるので、より少なく使用した。標識部位が唯1個(C末端リジン)であるため、この場合にはモル過剰は320倍となる。
【0148】
【表15】
【0149】
【表16】
【0150】
【表17】
【0151】
【表18】
【0152】
【表19】
【0153】
NAは分析せずの意味。GK及びVKの結果を考慮して、その他の試料は分析しなかった。註: ACNを増量したにもかかわらず白色塩の沈殿が見られた。
【0154】
上記実験結果は本実施例の第一実験の結果と大いに一致している。
【実施例4】
【0155】
リジンεアミノ基上にある1個の立体障害のあるミカエル試薬が第二標識の追加を防止するか否かを決定する
【0156】
以下に実施した実験では、1個の標識と反応したペプチドがその標識部位で第二のタグにより更に標識されることに抵抗することを確認した。
【0157】
反応条件
この実験では二つのペプチド、VK及びGKを使用し、250nmolのペプチドを大過剰の標識と反応させて消尽した。次に標識したペプチドを反応しなかった標識からTLCによって分離し、標識したペプチドをTLCプレートから回収した。
【0158】
回収した標識ペプチドを50:50アセトニトリル:ホウ酸塩緩衝液10μl中の標識2μmolと反応させた。この反応では標識は基質に対し4倍の過剰である。ただし、反応部位が二つある基質もあり、その場合はこれらの反応では標識は4倍過剰に過ぎなかったと思われる。
【0159】
結果
フェニルプロペニルスルフォン、フェニルブテニルスルフォン又はN−メチルマレイミド(NEM)で予め標識した各種試料を電子スプレー質量分析法(ESMS)で分析し、次にそれぞれに見合ったNEM又はPTでの標識に架けて再びESMSにより分析した。
【0160】
ジペプチドのグリシン−リジン(GK)をNEMで終夜室温にて標識した。最初のESMS分析によると産生物は100%GK(NEM)2から構成されていた。すなわち、このジペプチド上のアミノ基は共にNEMと完全に反応していた。
【0161】
PT標識後にESMS分析したところ、タンパク質は100%GK(NEM)2(PT)1であった。すなわち、ジペプチドは別の立体障害のないスルフォン試薬分子と完璧に反応した。以前に得た結果(示してないが)によると、αアミノ基はたとえ立体障害のない試薬で標識された場合であっても二度の標識には抵抗することが判っているので、PTタグは、NEMの1分子で既に標識されているεアミノ基と反応したと推定される。このことは、εアミノ基がNEMで標識されたペプチドは更なる反応を受けやすいことを意味する。
【0162】
同じジペプチド、GKもフェニルプロペニルスルフォン(PP)で標識された。ESMSによる最初の分析では、92%のGK(PP)2及び8%のGK(PP)から構成されていた。すなわち、PPの大部分は両方の遊離アミノ基でPPタグと反応した。PTで終夜標識後に更にESMSにより分析したところ、GK(PP)2種は72%のGK(PP)2と28%のGK(PP)2 (PT)から構成されていることが明らかとなった。このことは、PPで標識されたεアミノ基は立体障害のないアルケニルスルフォンとの更なる反応には強く抵抗することを意味する。
【0163】
ジペプチド、バリン−リジン(VK)はフェニルイソブテニルスルフォン(PBS)で標識された。この試薬の反応は比較的に緩徐であり、48時間後にESMS分析すると、43%の無標識と57%の1個標識から構成されていた。PT O/Nで標識すると、僅かな量のVK(PBS)(PT)が観察された。この結果から、PBSで標識されたεアミノ基はフェニルプロペニルスルフォンで標識されたアミノ基と比較すると更なる反応に対し遥かに抵抗することが判る。これは予想されることではある。理由は、嵩高で立体障害的な基の方がタグされたアミノ基に対する遮蔽効果が大きいからである。
【0164】
立体障害のあるアルケニルスルフォン、例えば1,1,1−トリフルオロ−3−フェニルスルフォニルプロペンあるいはフェニルヘキサフルオロイソブテニルスルフォンで標識されたεアミノ基は更なる反応に対し一層抵抗するであろうことは予測される。理由は、立体障害的なトリフルオロメチル基は対応するメチル基に比べ立体障害があるからである。しかも、トリフルオロメチル基の電子吸引効果により、その近隣のアミノ基は不活性化する。
【実施例5】
【0165】
チオール基及びεアミノ基標識のための標識条件
【0166】
一般に大部分のタンパク質には1以上のシステイン残基があり、それが架橋結合してジスルフィッド橋を形成可能であり、しかもシステインのチオール基はポリペプチドの中で最も反応性のある側鎖であるから、遊離εアミノ基と同様にこの官能基を封鎖するプロトコールを見出すことは重要である。本発明で使用する立体障害のあるミカエル試薬はεアミノ基と同様にチオール基とも容易に反応するので、1個の反応で両方の官能基を標識することができる。
【0167】
あるいはまた、εアミノ基を本発明の立体障害のあるミカエル試薬で標識する前にチオール基を別の試薬で標識してもよい。
【0168】
別々のタグでチオール基とεアミノ基を防護
本実施例では、2個のシステイン残基がジスルフィッド架橋になっているサケのカルシトニン(10nmol、Calbiochem)をpH7.5の10mM炭酸ナトリウム中に2M尿素と0.5Mチオウレアを含有するタンパク質変性用緩衝液に0.2μMトリス(カルボキシエチル)フォスフィン(TCEP)の存在下で溶解した。TCEPはジスルフィッド架橋を還元する。また反応混合液にはヨードアセタミド(チオール1部位当たり20当量、400nmol)が含有されているが、これは遊離チオールと容易に反応する。この反応液を室温で90分間放置した。次に水酸化ナトリウムを添加して緩衝液のpHを10と12の間に上昇させた。次にピリジルプロペニルスルフォンを反応液に添加しサケのカルシトニン中の遊離リジン残基を防護した。このペプチドにはリジン残基が二つある。次に反応液を脱塩(オアシス親水親油バランス抽出カートリッジ、Waters)し、MALDI TOF質量分析法により分析した。質量スペクトルを図5に示す。この質量スペクトルから見られるように、多数の異なる種がペプチドの異なる標識体に対応して質量スペクトルに出現している。二つの異なる標識によっていろいろな組み合わせの不完全反応が生ずる。
【0169】
一つのペプチド上のチオール基とεアミノ基を同一のタグで防護
本実施例では、ヒトのカルシトニン10nmolをpH7.5の10mM炭酸ナトリウム中に2M尿素と0.5Mチオウレアを含有するタンパク質変性用緩衝液に0.2μMトリス(カルボキシエチル)フォスフィン(TCEP)の存在下で溶解した。TCEPはジスルフィッド架橋を還元する。この反応液を30分間放置し、全てのジスルフィッド架橋を完全に還元した。還元反応後に、εアミノ基とチオール基を含むだけであると仮定した反応部位当たり40当量のピリジルプロペニルスルフォンを反応混合物に加えた。反応液をpH8で室温に90分間放置した。次に水酸化ナトリウムを添加して緩衝液のpHを11と12の間に上昇させた。反応液をこの高いpHで室温に4時間放置し、ペプチド中の遊離リジン残基を防護した。反応しなかったタグは過剰のリジンで消化した。次に反応液を脱塩(オアシス親水親油バランス抽出カートリッジ、Waters)し、MALDI TOF質量分析法により分析した。質量スペクトルを図6に示す。この質量スペクトルから見られるように、ペプチドの異なる標識体に対応して質量スペクトルに出現している異なる種の数は、チオール基とεアミノ基に二つの別々のタグを使用したプロトコールでの数よりも遥かに小さい。
【0170】
混合ペプチド上のチオール基とεアミノ基を同一のタグで防護
本実施例では、βメラニン細胞刺激ホルモン(βMSH)、αメラニン細胞刺激ホルモン(αMSH)、サケのカルシトニン及び残基数1〜24個の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH(1〜24))(全てSigma-Aldrich, Dorset, UKから入手)を含有する混合ペプチド(各10nmol)をpH7.5の10mMホウ酸ナトリウム中に2M尿素と0.5Mチオウレアを含有するタンパク質変性用緩衝液に0.2μMトリス(カルボキシエチル)フォスフィン(TCEP)の存在下で溶解した。この反応液を30分間放置し、全てのジスルフィッド架橋を完全に還元した。還元反応後に、εアミノ基とチオール基を含むだけであると仮定した反応部位当たり40当量のピリジルプロペニルスルフォンを反応混合物に加えた。反応液をpH8で室温に90分間放置した。次に水酸化ナトリウムを添加して緩衝液のpHを11と12の間に上昇させた。反応液をこの高いpHで室温に4時間放置し、ペプチド中の遊離リジン残基を防護した。反応しなかったタグは過剰のリジンで消化した。次に反応液を脱塩(オアシス親水親油バランス抽出カートリッジ、Waters)し、MALDI TOF質量分析法により分析した。質量スペクトルを図7に示す。この質量スペクトルから見られるように、ペプチドの異なる標識体に対応して質量スペクトルに出現している異なる種の数は、チオール基とεアミノ基に二つの別々のタグを使用したプロトコールでの数よりも遥かに小さい。
【0171】
未封鎖αアミノ基の防護
上記混合ペプチドの防護後に、未封鎖αアミノ基をN−ヒドロキシサクシニミド酢酸エステルで封鎖した。チオール基とεアミノ基が防護されたペプチドを、αアミノ基当たり40当量の活性エステル試薬にpH11で前に使用した同じホウ酸ナトリウム緩衝液中で室温2時間曝した。この反応の産生物のMALDI TOF質量スペクトルを図8に示す。図から見られるように、反応が予想されるペプチド、すなわちαMSHを除く四つのペプチド全部の各々とは唯1個のアセチル基が反応している。このことは、防護されたεアミノ基は活性エステル試薬との反応に抵抗することを意味する。
【実施例6】
【0172】
酵素的開裂を利用して小ポリペプチドの混合物からN末端ペプチドを単離
【0173】
本実施例では、βメラニン細胞刺激ホルモン(βMSH)、αメラニン細胞刺激ホルモン(αMSH)、サケのカルシトニン、ヒトのカルシトニン及び残基数1〜24個の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH(1〜24))(全てSigma-Aldrich, Dorset, UKから入手)を含有する混合ペプチド(各10nmol)を、前記実施例のプロトコールを利用してチオール基とεアミノ基についてピリジルプロペニルスルフォンで防護した。同様に、これらペプチドに存在するαアミノ基を前記実施例に記載のようにN−ヒドロキシサクシニミド酢酸エステルで防護した。反応しなかったタグは過剰のシステインで消化した。次に防護したペプチドをpH8の150mMホウ酸ナトリウム中にて濃度(ペプチド重量/酵素重量) が1/50のトリプシンで処理した。これによりこれらペプチドのアルギニン残基でのみ開裂が起こり、その結果、非N末端開裂ペプチドに新たなαアミノ基が露出した。
【0174】
次に、開裂混合物をDMSO中でN−ヒドロキシサクシニミジルビオチンで処理した。反応可能なアミノ基当たり50当量のビオチン試薬を使用した。次に、反応混合物をpH7.5のPBS緩衝液中でニュートラビジンアフィニティーカラム(Pierce Ltd)を通過させた(樹脂1ml当たり1mlのアフィニティー試薬を12〜15μMのアビジンと共に使用した)。ビオチン部分がストレプタビジンに結合するように反応混合物をアフィニティーカラムに30分間放置した。
【0175】
溶液相に残っているペプチドはN末端ペプチドの筈であり、脱塩(オアシス親水親油バランス抽出カートリッジ、Waters)し、MALDI TOF質量分析法により分析した。質量スペクトルを図9〜11に示す。図9はαMSH、βMSH及びACTH(1〜24)のN末端ペプチドに対する予想されたピークの存在するスペクトル領域を示す。ピリジルプロペニルスルフォン質量タグの数に対応するいろいろな種が各ペプチドについて見られ、ヒスチジン残基の標識が多少行われたと推測される。図10はカルシトニンS及びカルシトニンHのN末端ペプチドに対する予想されたピークの存在するスペクトル領域を示す。予想されたピーク及び多少異例な標識のピークが見られる。最後に図11は低質量のスペクトル領域を示し、もし悪影響を与える何らかのC末端ペプチドが混在している場合にはこの領域に見られる筈である。C末端ペプチドに対応する大きなピークは観察されなかった。スペクトルの関連領域を拡大すれば非常に低強度のピークをいくつか見ることができ、それらはC末端ペプチドの汚染の程度が非常に低いことを示すものと推測される(データは示していない)。
【実施例7】
【0176】
タンパク質試料のトリプシン消化後にペプチド混合物からN末端ペプチド断片をアミノ反応性固相担体により分離する操作
【0177】
本発明のN末端ペプチド単離手順において、タンパク質試料のアミノ基(N末端又はリジン)は全て封鎖し、防護されたタンパク質をトリプシン消化する。この消化プロセスにより新しいアミノ基が非N末端開裂断片のN末端に露出される。本実施例では、非N末端ペプチドを活性化したカルボキシ樹脂と反応させ、遊離アミノ基のないN末端ペプチドを溶液中に放出させることにより、非N末端ペプチドをN末端ペプチドから分離する。遊離アミノ基のないタンパク質の消化を模擬するために、合成ペプチド混合物を使用して捕捉体樹脂の挙動をテストした。
【0178】
使用したペプチド
N末端がアセチル化され、鎖の中にリジンがない(しかしアルギニンとヒスチジンはある)ペプチドを合成した。これは封鎖N末端を模擬している。
【0179】
(Ac−GSGRHDVDPGRQQDIAHG−NH2、M:1943) →Ac−ペプチド
【0180】
標識操作により側鎖アミノ基を封鎖した非N末端ペプチドを模擬するために、N末端に遊離アミノ基があり鎖の中にリジンがないペプチドを使用した。更にこれらペプチドの配列はほぼ同一であり、ただし各ペプチドはN末端アミノ酸のみが異なり、この残基が活性エステル成分とのビーズ上での反応に影響するか否かが判断される。
【0181】
H−HRDPYRFDRG−OH (M:1318) →H−ペプチド
H−FRDPYRFDRG−OH (M:1328) →F−ペプチド
H−YRDPYRFDRG−OH (M:1344) →Y−ペプチド
H−IRDPYRFDRG−OH (M:1294) →I−ペプチド
H−WRDPYRFDRG−OH (M:1367) →W−ペプチド
H−GRDPYRFDRG−OH (M:1238) →G−ペプチド
【0182】
全ての実験でペプチドのDMF貯蔵溶液(5mg/ml)を調製した。
【0183】
使用した樹脂
ポリスチレンAM COOH樹脂(PS樹脂)、装填 1.3mMol/g (Rapp Polymere, Tubingen, Germany)を採用した。
【0184】
樹脂を次のように活性化した。500〜600mgの量を洗浄し、DMF中で膨潤させ、次にDMF中に0.5M HOSu及び0.5M DICを含有する溶液3mlで室温3時間インキュベートした。その後、樹脂をDMF及びDCMで数回洗浄し、真空中で1時間乾燥した。
【0185】
結果
水相での化学反応に優れた特性を有し、カルボキシル誘導したTentagel(商標)(Rapp Polymer, Tubingen, Germany)型樹脂を使用して予備実験を行った。これらの樹脂には親水性ポリエチレングリコール(PEG)リンカーが含有されており、水性溶媒との親和性を高めている。この樹脂でインキュベーション後、反応液をMS測定したところこの樹脂から「溶離」したPEG部分に起因するかなり強い汚染が見られた。捕捉剤反応前に強烈に洗浄する工程を実施しても強いPEGシグナルは除去されなかった。
【0186】
PEG部分のないPS型樹脂を使用して更に検討したところ、質量分析の間に樹脂自体に由来する有意なシグナルはないことが判った。この検討のために樹脂を数回DMFで洗浄し、次に緩衝液/DMFだけでインキュベートした。数時間後インキュベート溶液のサンプルを採って濃縮しMS測定を行った。インキュベート溶液の質量スペクトルには、ペプチド混合物のMS分析に妨害となる有意なシグナルは観察されなかった。
【0187】
この型の固相担体には親水性リンカーがないので、水溶液での反応は遅い速度で進行すると考えられた。そこで次の実験ではH−ペプチド及びAc−ペプチドのみを使用して反応を速めるのに必要なDMFの量を決定した。PS樹脂を前記のごとく活性化した。以下の条件を使用してDMFの最適比を決定した。すなわち、pH7.5の100mMリン酸緩衝液、各種比のDMF(50ないし100%)を有し、出発時のペプチド濃度が約0.5mM(これは絶対量で0.25μmol)のペプチド溶液を50倍過剰のビーズ容量の活性化樹脂に加えた。膨潤ビーズの体積は混合物の全体積の約70%であった。激しく振とうして18時間反応を進行させた。本検討の結果、容認可能な速度のためには70%DMFの間が必要であることが判った(HPLCにより監視して見ると、捕捉反応は18時間後にほぼ完全である)。
【0188】
次に、全てのX−ペプチド及びAc−ペプチドを使用し、上記の新しいパラメータで反応を行った。最適のパラメータを得るために反応物を以下のように準備した。Ac−ペプチドの貯蔵溶液45μl+X−ペプチドの各貯蔵溶液55μl。この混合物の30μlを最初のHPLC分析用サンプルとし、20μlを最初の液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)用に取り、325μlを残した。200mMolリン酸緩衝液(pH7.5) 120μlを加え、この混合液を、活性化ビーズ(0.195mMol容量)150mg+DMF155μlを含有するキャップに収めた。3時間及び16時間後にサンプル55μlをHPLCコントロール用に採った。16時間後に別の50μlをLC−MSコントロール分析用に採った。3時間後に反応は約50%完了し、16時間後に反応は90%完了した(HPLCで検出)。LC−MS(図13参照)によると、出発時点ではAc−ペプチド由来のシグナルが他の全てのペプチドに対する質量ピークと共に存在するのが見られる。しかし、16時間後にはAc−ペプチドは最高強度のピークである。したがって、更に複雑なペプチド混合物では、このピークをMS/MS用に選択すべきであり、たとえ他のシグナルがこの保持時間でLC−MSスペクトルに生じた場合でも、このピークは明確に同定されるものでなければならない。
【0189】
実施例8
集団の中の各ペプチドから1種のN末端ペプチドを単離する方法を拡張して、集団の中の各ペプチドから数種のペプチドを単離することが可能である。これは、比較的珍しい切断をする配列特異的な開裂試薬、例えばメチオニン残基部位で切断する臭化シアンを使用してポリペプチドの出発集団を開裂することによって達成可能である。これにより、より小さなポリペプチドからなる第二のより大きな集団が効率的に生産される。次に、本出願に記載のN末端ペプチド単離プロセスを各開裂ペプチドに適用することによって、これらより小さな各ポリペプチドから1個のN末端ペプチドを単離することができる。この方式により、元の試料中の各ポリペプチドに対する数種のペプチドが単離される。
【0190】
更に具体的な実施例として、「親」ポリペプチドの集団を臭化シアンによりメチオニン部位で開裂することにより、「娘」ポリペプチドの集団を得ることができる。これら娘ポリペプチドを例えばピリジルプロペニルスルフォンと反応させることにより、娘ポリペプチド中の全εアミノ基及び全遊離システインのチオールを防護する。次に、1級アミノ基に反応する何かの試薬、例えばN−ヒドロキシサクシニミド酢酸エステルのような活性エステルでαアミノ基を標識する。次に、十分に防護された娘ポリペプチドをトリプシン、トロンビン又はArgCで開裂してペプチドの別の集団を得る。このペプチド集団において、娘ポリペプチドのN末端断片には遊離アミノ基がなく、他方この娘ポリペプチドの非N末端断片には全てエンドプロテアーゼでの開裂により露出した遊離αアミノ基が存在する。これら遊離αアミノ基をビオチンと反応させることにより、非N末端ペプチドをアビジン化した固相担体に捕捉し、娘ポリペプチド由来のN末端ペプチドを溶液中に遊離のままにすることができる。あるいはまた、非N末端ペプチドをアミノ反応性固相担体上に直接捕捉し、N末端ペプチドを溶液中に遊離のままにすることができる。
【0191】
臭化シアンでの開裂を利用するのは有利なことである。理由は、多くの疎水性タンパク質は単離操作の間に凝集するが、これら凝集体はCNBrでの開裂により簡単に分裂され、したがってこの凝集化タンパク質を可溶化することができるからである。更に、1タンパク質から1を超えるペプチドが単離されるので、ポリペプチド集団をCNBrで予め開裂すると、分析サンプルの複雑さが増すという犠牲はあるが、各ポリペプチドの同定における多重確認が多少得られる。この多重確認により、タンパク質がそれから単離された少なくとも1のペプチドによって特異に同定されるという可能性が増大する。
【0192】
酵母プロテオーム由来の6310個のタンパク質を生物情報的に分析すると、CNBrで開裂後に娘ポリペプチドからN末端ペプチドを単離することにより、長さがアミノ酸の数で3ないし40個のペプチドが6190個のタンパク質から総計48704個生ずることが判る。このことは、120個のタンパク質にはCNBrの開裂部位がないか又は長さが所望の範囲内にあるペプチドが産生しないことを意味する。質量スペクトル分析に適するペプチドの数を示す指標として長さ範囲が選択される。そこで、このプロセスによれば、1個のタンパク質から約8個のペプチドが産生している。更に分析すると、酵母タンパク質の92.7%には特異な配列を持ったペプチドが少なくとも1個あることが判る。これを、システインを有するトリプシンペプチドが捕捉されるICATプロセスと比較することができる。同一の長さ制限を付してこのプロセスを行うと、酵母タンパク質の84.9%に特異な配列を持ったペプチドが少なくとも1個あることになる。しかし、ICATプロセスでは、1個のタンパク質から平均4.7個のペプチドが産生するだけである。
【0193】
以上のデータから、タンパク質及びポリペプチドの試料を特徴分析するためのN末端ペプチドの単離における本発明の有用性が確認される。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】図1は、本発明と共に使用する立体障害のある好ましいアルケニルスルフォン試薬の選択例を示す。これらの中のいくつかの試薬を製造するための合成手順は実施例に記述されている。
【図2a】図2aは、αMSH及びβMSHを引例に使用して本発明の第一実施例を図示する第1頁である。
【図2b】図2bは、αMSH及びβMSHを引例に使用して本発明の第一実施例を図示する第2頁である。
【図2c】図2cは、αMSH及びβMSHを引例に使用して本発明の第一実施例を図示する第3頁である。
【図3a】図3aは、αMSH及びβMSHを引例に使用して本発明の第二実施例を図示する第1頁である。
【図3b】図3bは、αMSH及びβMSHを引例に使用して本発明の第二実施例を図示する第2頁である。
【図4a】図4aは、αMSH及びβMSHを引例に使用して本発明の第三実施例を図示する第1頁である。
【図4b】図4bは、αMSH及びβMSHを引例に使用して本発明の第三実施例を図示する第2頁である。
【図4c】図4cは、αMSH及びβMSHを引例に使用して本発明の第三実施例を図示する第3頁である。
【図5】図5は、ペプチドのチオールとεアミノ基の両方を標識するプロトコールの実施例における質量スペクトルを示す。この実施例でチオールはεアミノ基のとは別のタグで標識されている。
【図6】図6は、ペプチドのチオールとεアミノ基の両方を同一の標識をもって標識するプロトコールの実施例における質量スペクトルを示す。
【図7】図7は、ペプチド混合物のチオールとεアミノ基の両方を標識するプロトコールの実施例における質量スペクトルを示す。この実施例でチオールはεアミノ基のとは同一のタグで標識されている。
【図8】図8は、ペプチド混合物のαアミノ基を標識するプロトコールの実施例における質量スペクトルを示す。ペプチドのチオールとεアミノ基は共に同一の質量タグで既に封鎖してある。
【図9】図9は、トリプシンで酵素開裂した後に比較的大きなペプチドの小混合物からN末端ペプチドを単離した本発明第一態様の実施例における質量スペクトルを示す。この図にはMALDI TOFスペクトルの領域が示されており、αMSH、βMSH及びACTH(1〜24)のN末端ペプチドに対して予想したピークが見られる。
【図10】図10は、図9と同一の実験からのスペクトル領域を示し、カルシトニンS、カルシトニンHのN末端ペプチドに対して予想したピーク、すなわち予想したピークといくつかのその他の標識ピークが見られる。
【図11】図11は、図10と同一の実験からの低質量側のスペクトル領域を示し、悪影響を与える何らかのC末端ペプチドが混在するとすればそれが見られる筈である。
【図12】図12は、ヒトのカルシトニンを臭化シアンで化学開裂した後にN末端ペプチドを単離した本発明第一態様の実施例における質量スペクトルを示す。
【図13】図13は、1.捕捉ビーズと反応させる前のペプチド混合物、及び2.捕捉ビーズと16時間反応させた後のペプチド混合物の質量スペクトルからのベースピークのクロマトグラムを示す。
Claims (49)
- 1又は複数のポリペプチドの特徴を分析する方法であって、
(a)1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン反応剤に接触せしめてεアミノ基を防護する工程、
(b)任意の工程として該ポリペプチド試料をアミン反応試薬と反応させてαアミノ基を封鎖する工程、
(c)該ポリペプチド試料を開裂試薬で消化してペプチド断片を生成する工程、
(d)任意の工程として開裂試薬を不活性化する工程、
(e)アミノ基が未防護又は未封鎖であるペプチド断片を除去する工程、及び
(f)N末端のペプチド断片を回収する工程、
を包含するポリペプチドの特徴分析方法。 - ポリペプチドが1以上の天然に未封鎖のN末端アミノ基を含有し、該方法が工程(b)に従って該ポリペプチド試料をアミン反応試薬と反応させてαアミノ基を封鎖することを特徴とする請求項1に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- ポリペプチドが天然に既封鎖のN末端アミノ基を含有し、該方法が工程(b)における該ポリペプチド試料をアミン反応試薬と反応させてαアミノ基を封鎖する工程を含まないことを特徴とする請求項1に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 非N末端ペプチド及び/又は天然に未封鎖のN末端ペプチドが固相に捕捉されて除去され、N末端ペプチドが溶液に回収されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- ポリペプチドの特徴を分析する方法であって、
(a)1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン反応剤に接触せしめてεアミノ基を防護する工程、
(b)得られた既防護の該ポリペプチドを、該ポリペプチドのN末端の未封鎖αアミノ基と反応するアミン反応剤と接触させる工程、
(c)該ポリペプチド試料を開裂試薬で消化してペプチド断片を生成する工程、
(d)任意の工程として開裂試薬を不活性化する工程、及び
(e)アミン反応剤と反応したN末端ペプチドを回収する工程、
を包含するポリペプチドの特徴分析方法。 - N末端ペプチドは固相上に捕捉されて回収され、非N末端ペプチドは溶液中に除去されることを特徴とする請求項5に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- アミン反応剤又はリジン反応剤が固相に固着されることを特徴とする請求項6に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- アミン反応剤がビオチンを含み、固相がアビジン化固相であることを特徴とする請求項6又は7に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 2以上の試料を標識の異なるアミン反応剤と反応させ、次に該2以上の試料のプールと分析を同時に行うことを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 少なくとも1のアミン反応剤が重水素で標識されており、試料を質量分析法で分析することを特徴とする請求項9に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- ペプチド又はポリペプチドの反応可能な各εアミノ基に対し、リジン反応剤の1分子のみが反応することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- リジン反応剤が立体障害のあるミカエル試薬を含むことを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 立体障害のあるミカエル試薬が次の構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 一つのRがメチル基又はフェニル基を包含することを特徴とする請求項13に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 少なくとも1のRが電子吸引基を包含することを特徴とする請求項13又は14に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 少なくとも1のRが環状又は複素環状の芳香環又は縮合環を包含することを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- Xが官能基−SO2R1であり、ここでR1がアルキル基又は芳香族基、環状基、縮合環状基及び複素環状基を含むアリール基を包含していることを特徴とする請求項13から16のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- R1が電子吸引基を包含することを特徴とする請求項17に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 環がフェニル、ピリジル、ナフチルキノリル、ピラジン、ピリミジン、又はトリアジン環を包含することを特徴とする請求項17又は18に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- X基が電子吸引基で置換されていることを特徴とする請求項13から19のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 電子吸引基がフッ素、塩素、臭素又はヨウ素等のハロゲン、及びニトロ基及びニトリル基から選択されることを特徴とする請求項20に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- X基が水溶性を向上可能な構造を包含することを特徴とする請求項13から21のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 開裂試薬が配列特異的な開裂試薬を包含することを特徴とする請求項1から22のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 開裂試薬がペプチダーゼ、又は臭化シアンを包含することを特徴とする請求項1から23のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- ペプチダーゼがトリプシン、Lys-C、Arg-C、臭化シアン又はBNPS−スカトールを包含することを特徴とする請求項24に記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 工程(a)の試料が細胞画分(sub-cellular fraction)を包含することを特徴とする請求項1から25のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 液体クロマトグラフィーにより工程(a)の試料を調製することを更に含む、請求項1から26のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- テスト試料中の1以上の特定ポリペプチドを分析する方法であって、請求項1から27のいずれかに記載のポリペプチドの特徴分析方法を実行し、得られたN末端を既定のN末端アミノ酸残基配列について分析して該特定ポリペプチドの配列を決定することを特徴とする特定ポリペプチド分析方法。
- ポリペプチドの1以上の混合物の特徴を分析する方法であって、
(a)請求項1から27のいずれかに記載の1以上の方法を使用して該混合物から1以上のN末端ペプチドを回収する工程と
(b)該ペプチドを質量分析法により探知する工程
とを包含する特徴分析方法。 - 試料中の発現プロファイルを決定する方法であって、請求項26に記載の方法に従いポリペプチドの1以上の混合物の特徴を分析することを包含する発現プロファイル決定方法。
- 質量分析法により探知した各ペプチドを同定することを包含する請求項29又は30に記載の方法。
- 質量分析法により探知した各ペプチドの量を測定することを包含する請求項29から31のいずれかに記載の方法。
- 1又は複数のポリペプチドの特徴を分析する方法であって、1以上のポリペプチドを含有する試料をリジン反応剤と接触せしめてεアミノ基に該反応剤を付着させるにあたり、該リジン反応剤が立体障害のあるミカエル試薬を含むことを特徴とするポリペプチドの特徴分析方法。
- 立体障害のあるミカエル試薬が請求項13から22のいずれかに記載の化合物であることを特徴とする請求項33記載のポリペプチドの特徴分析方法。
- 次の構造を有する化合物。
- 少なくとも1のR基がメチル基又はフェニル基を包含することを特徴とする請求項35に記載の化合物。
- 少なくとも1のR基が電子吸引基を包含することを特徴とする請求項35又は36に記載の化合物。
- 少なくとも1のR基がハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、又は1以上の電子吸引基を有するフェニル基を包含することを特徴とする請求項37に記載の化合物。
- ポリペプチドの特徴を分析するキットであって、
(a)εアミノ基防護用のリジン反応剤、
(b)N末端ペプチドを回収又は単離する手段、
(c)任意の要素としてαアミノ基封鎖用のアミン反応剤、及び
(d)任意の要素としてペプチド断片生成用の開裂試薬、
を含有するキット。 - リジン反応剤が次の構造を有する化合物を包含する請求項39に記載のキット。
- リジン反応剤が請求項35項から38のいずれかに記載の化合物を包含することを特徴とする請求項40に記載のキット。
- N末端ペプチドを回収又は単離する手段が遊離αアミノ基含有ペプチドの捕捉に適合した固相を包含することを特徴とする請求項40又は41に記載のキット。
- ペプチド及びポリペプチドのεアミノ基を保護するための次の構造を有する化合物の使用。
- R1がピリジル環、キノリル環、ピラジン環、ピリミジン環又はトリアジン環構造を包含することを特徴とする請求項43に記載の使用。
- 少なくとも1のR基がメチル基又はフェニル基を包含することを特徴とする請求項43又は44に記載の使用。
- 少なくとも1のR基が電子吸引基を包含することを特徴とする請求項43から45のいずれかに記載の使用。
- 少なくとも1のR基がハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、又は1以上の電子吸引基を有するフェニル基を包含することを特徴とする請求項46に記載の使用。
- 保護が、エドマン試薬、捕捉剤及びαアミノ基と反応可能な試薬とεアミノ基の更なる反応からの保護であることを特徴とする請求項41から47のいずれかに記載の使用。
- エドマン試薬がイソチオシアネート又はイソシアネートを包含し、捕捉剤がN−ヒドロキシサクシニミジルビオチンを包含し、及びαアミノ基と反応可能な試薬がN−ヒドロキシサクシニミド酢酸エステルを包含することを特徴とする請求項48に記載の使用。
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