JP2004524827A - コリネバクテリウムの遺伝子 - Google Patents
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Abstract
グルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)由来の新規MPタンパク質をコードする、MP核酸分子と名付けた、単離された核酸分子を記載した。本発明はまた、アンチセンス核酸分子、MP核酸分子を含有する組換え発現ベクター、及び発現ベクターが導入されている宿主細胞も提供する。本発明はさらになお、単離されたMPタンパク質、突然変異したMPタンパク質、融合タンパク質、抗原性ペプチドを提供し、かつグルタミン酸菌(C. gutamicum)からの所望の化合物の生産をこの生物のMP遺伝子の遺伝子操作に基づいて改良する方法を提供する。
Description
【技術分野】
【0001】
グルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)由来の新規MPタンパク質をコードする、MP核酸分子と名付けた、単離された核酸分子について記載されている。本発明はまた、アンチセンス核酸分子、MP核酸分子を含有する組換え発現ベクター、及び発現ベクターが導入されている宿主細胞も提供する。本発明はさらにまた、単離されたMPタンパク質、突然変異したMPタンパク質、融合タンパク質、抗原性ペプチドを提供し、かつグルタミン酸菌(C. glutamicum)からの所望の化合物の生産をこの生物のMP遺伝子の遺伝子操作に基づいて改良する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
細胞内の天然代謝プロセスのある特定の産物及び副産物は、食品、飼料、化粧品、及び製薬産業を含む広い産業系列において用途がある。これらの分子はまとめて「ファインケミカル」と呼ばれ、有機酸、タンパク質原性及び非タンパク質原性の両方のアミノ酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、脂質及び脂肪酸、ジオール、炭水化物、芳香族化合物、ビタミン及び補因子、ならびに酵素が挙げられる。これらの生産は、大量のある特定の所望の分子を生産しかつ分泌するように開発された細菌の大規模培養を通して実施するのが最も好都合である。この目的のために特に有用な一生物は、グラム陽性で非病原性のグルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)である。株選択を通して、一連の所望の化合物を生産する複数の突然変異株が開発されている。しかし、ある特定の分子の生産が改良された株の選択は、時間のかかるかつ困難な方法である。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、様々な用途を有する新規の細菌核酸分子を提供する。これらの用途としては、ファインケミカルを生産するために利用しうる微生物の同定、グルタミン酸菌(C. glutamicum)もしくは関連細菌におけるファインケミカル生産のモジュレーション、グルタミン酸菌もしくは関連細菌のタイピングもしくは同定、グルタミン酸菌(C. glutamicum)ゲノムをマッピングするための基準点として及び形質転換のマーカーとしての用途が挙げられる。これらの新規核酸分子は、本明細書において代謝経路(MP)タンパク質と呼ぶタンパク質をコードする。
【0004】
グルタミン酸菌(C. glutamicum)はグラム陽性、好気性菌であって、通常、産業において様々なファインケミカルの大量生産用に利用され、そしてまた、炭化水素(石油漏れなど)の分解用及びテルペノイドの酸化用にも利用されている。本発明のMP核酸分子は、従って、例えば、発酵法によりファインケミカルを生産することができる微生物を同定するために利用してもよい。本発明のMP核酸分子の発現のモジュレーション、または本発明のMP核酸分子の配列の改変を利用して、微生物からの1以上のファインケミカルの生産をモジュレートすること(例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)種からの1以上のファインケミカルの収率または生産を改良すること)ができる。
【0005】
本発明のMP核酸分子を利用して、グルタミン酸菌(C. glutamicum)またはその近接関係種である生物を同定することも、または微生物の混合集団中のグルタミン酸菌(C. glutamicum)またはその近接関連種の存在を同定することもできる。本発明は複数のグルタミン酸菌(C. glutamicum)遺伝子の核酸配列を提供する;特有のまたは混合した微生物集団のある培養の抽出されたゲノムDNAを、ストリンジェントな条件下で、グルタミン酸菌(C. glutamicum)遺伝子の、この生物にとって特有である一領域に架かるプローブを用いて探索することにより、この生物が存在するかどうかを確かめることができる。グルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)それ自身は非病原性であるが、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)(ジフテリアの病原因子)などのヒトに病原性のある種と関係があり;かかる生物の検出は臨床上重要である。
【0006】
本発明のMP核酸分子はまた、グルタミン酸菌(C. glutamicum)ゲノムまたは関連生物のマッピング用基準点としても役立ちうる。同様に、これらの分子、または変種またはそれらの部分は、遺伝子組換えしたコリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム種に対するマーカーとして役立ちうる。
【0007】
本発明の新規核酸分子がコードするMPタンパク質は、例えば、ある特定のファインケミカルの代謝に関わる酵素ステップを実施することができ、前記ファインケミカルとしては、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースが挙げられる。Sinskeyら、米国特許第4,649,119号に開示されたグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)に使用するためのクローニングベクター、ならびにグルタミン酸菌(C. glutamicum)及び関係ブレビバクテリウム種(例えば、ラクトフェルメンタム(lactofermentum))を遺伝子操作する技術(Yoshihamaら, J. Bacteriol. 162:591-597 (1985);Katsumataら, J. Bacteriol. 159:306-311 (1984);及びSantamariaら, J. Gen. Microbiol. 130: 2237-2246 (1984))が利用可能であるので、本発明の核酸分子をこの生物の遺伝子操作に利用してこの生物を1以上のファインケミカルのさらに優れたさらに効率的な生産者にすることができる。
【0008】
ファインケミカルのこの生産または生産効率の改良は、本発明の遺伝子の操作による直接効果に因るものでも、またはそのような操作の間接効果に因るものであってもよい。特に、アミノ酸、ビタミン、補因子、ヌクレオチド、及びトレハロースのグルタミン酸菌(C. glutamicum)代謝経路の改変は、1以上のこれらの所望の化合物のこの生物からの総生産に直接影響を与えうる。例えば、トレハロースもしくはリシンもしくはメチオニン生合成経路タンパク質の活性の最適化またはトレハロースもしくはリシンもしくはメチオニン分解経路タンパク質の活性の低減は、かかる遺伝子操作した生物からのトレハロースもしくはリシンもしくはメチオニン生合成経路タンパク質の生産の収率及び/または効率の増加をもたらしうる。これらの代謝経路に関わるタンパク質の改変はまた、所望のファインケミカルの生産または生産効率に間接的影響も与えうる。例えば、所望の分子の生産に必要な中間物と競合する反応を排除するかまたは所望の化合物に対する特定の中間物の生産に必要な経路を最適化することができる。さらに、例えば、アミノ酸、ビタミン、またはヌクレオチドの生合成または分解のモジュレーションにより、微生物の高速で増殖しかつ分裂する全能力を増加し、かくして、培養中の微生物の数及び/または生産能力を増加し、それにより所望のファインケミカルの可能な収率を増加することができる。
【0009】
本発明の核酸及びタンパク質分子を利用して、1以上の所望のファインケミカルのグルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)からの生産または生産効率を直接改良することができる。当技術分野で周知の遺伝子組換え技術を用いて、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースに対する1以上の本発明の生合成または分解酵素を遺伝子操作してその機能をモジュレートすることができる。例えば、生合成酵素の効率を改良するか、またはそのアロステリック制御領域を破壊して該化合物の生産のフィードバック阻害を阻止することができる。同様に、分解酵素を欠失するかまたは置換、欠失、もしくは付加により改変して、細胞の生存可能性を損なうことなく、所望の化合物に対するその分解活性を低下させてもよい。それぞれの事例において、所望のファインケミカルの全収率または生産率(rate of production)を増加することができる。
【0010】
本発明のタンパク質及びヌクレオチド分子のかかる改変は、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースに加えて他のファインケミカルの生産を、間接的機構を通して改良することも可能である。いずれの1つの化合物の代謝も必然的に細胞内の他の生合成及び分解経路と関わり合っていて、ある経路の必要な補因子、中間物または基質は恐らく他のかかる経路により供給されるかまたは制限されうる。従って、1以上の本発明のタンパク質の活性をモジュレートすることにより、他のファインケミカル生合成または分解経路の生産もしくは活性効率は影響を受けうる。例えば、アミノ酸は全タンパク質の構造単位としての役割を果たすが、タンパク質合成を制限するレベルでしか細胞内に存在しないであろう;従って、細胞内の1以上のアミノ酸の生産効率もしくは収率を増加することにより、生合成または分解タンパク質などのタンパク質をさらに容易に合成することができる。同様に、特定の副反応がより有利にまたはより不利になる代謝経路酵素の改変により、所望のファインケミカルを生産するための中間物または基質として利用される1以上の化合物が過剰にまたは過小に生産される。
【0011】
本発明は、本明細書で代謝経路(MP)タンパク質と呼ぶタンパク質をコードする新規核酸分子を提供し、これらのタンパク質は例えば、細胞の正常な機能に重要なアミノ酸、ビタミン、補因子、ヌクレオチド及びヌクレオシド、またはトレハロースなどの分子の代謝に関わる酵素ステップを実施する能力がある。本明細書ではMPタンパク質をコードする核酸分子をMP核酸分子と呼ぶ。好ましい実施形態においては、MPタンパク質は、次の1以上の代謝に関係する酵素ステップを実施する:アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド及びヌクレオシド、またはトレハロース。かかるタンパク質の例は、表1に記載した遺伝子セットによりコードされるタンパク質が挙げられる。
【表1】
【0012】
従って、本発明の一態様は、MPタンパク質またはその生物学的活性部分をコードするヌクレオチド配列ならびにMPをコードする核酸(例えば、DNAまたはmRNA)の検出または増幅のためのプライマーまたはハイブリダイゼーションプローブとして適当な核酸断片を含んでなる、単離された核酸分子(例えば、cDNA、DNA、またはRNA)に関する。特に好ましい実施形態においては、その単離された核酸分子は、配列表に奇数配列番号(配列番号1、配列番号3)として記載したヌクレオチド配列の1つ、またはこれらのヌクレオチド配列の1つのコード領域もしくはその相補体を含んでなる。他の特に好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、配列表に偶数配列番号(配列番号2、配列番号4)として記載したタンパク質配列をコードするヌクレオチド配列、またはその部分とハイブリダイズするかまたは少なくとも約63%、好ましくは少なくとも約71%、より好ましくは少なくとも約75%、80%もしくは90%、そしてさらにより好ましくは95%、96%、97%、98%、99%以上相同的であるヌクレオチド配列を含んでなる。他の好ましい本発明の実施形態においては、単離された核酸分子は配列表に偶数配列番号(配列番号2、配列番号4)として記載したアミノ酸配列の1つをコードする。本発明の好ましいMPタンパク質はまた、好ましくは本明細書に記載のMP活性の少なくとも1つを有する。
【0013】
他の実施形態においては、単離された核酸分子がコードするタンパク質またはその部分は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号を有する配列)と十分に相同的であり、例えば、タンパク質またはその部分は本発明のアミノ酸配列と十分に相同的であるのでMP活性を維持する。好ましくは、核酸分子がコードするタンパク質またはその部分は、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を実施する能力を維持する。一実施形態においては、核酸分子がコードするタンパク質は、少なくとも約63%、好ましくは少なくとも約71%、そしてより好ましくは少なくとも約75%、80%、または90%そして最も好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%以上、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号を有する配列から選択される全アミノ酸配列)と相同的である。他の好ましい実施形態においては、タンパク質は全長グルタミン酸菌(C. gutamicum)タンパク質であって、配列表の対応する奇数配列番号に示すオープンリーディングフレームによりコードされる本発明の全アミノ酸配列(配列番号2、配列番号4)と実質的に相同的である。
【0014】
他の好ましい実施形態においては、単離された核酸分子は、グルタミン酸菌(C. gutamicum)から誘導され、本発明のアミノ酸配列の1つ(例えば、配列表の偶数配列番号の配列の1つ)と少なくとも約50%以上相同的でありかつアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの代謝経路の反応を触媒することができるか、または表1に記載の1以上の活性を有する生物学的に活性なドメインを含むタンパク質(例えば、MP融合タンパク質)をコードし、そしてまた異種ポリペプチドまたは調節領域をコードする異種核酸配列も含むものである。
【0015】
他の実施形態においては、単離された核酸分子は長さが少なくとも15ヌクレオチドでありかつストリンジェントな条件下で本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)を含んでなる核酸分子とハイブリダイズする。好ましくは、単離された核酸分子は天然の核酸分子と対応する。さらに好ましくは、単離された核酸分子は天然のグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPタンパク質またはその生物学的活性のあるタンパク質をコードする。
【0016】
本発明の他の態様は、ベクター、例えば、本発明の核酸分子を含有する組換え発現ベクター、及びかかるベクターを導入している宿主細胞に関する。一実施形態においては、かかる宿主細胞を利用して、宿主細胞を適当な培地で培養することによりMPタンパク質を生産する。次いでMPタンパク質を培地または宿主細胞から単離することができる。
【0017】
さらに本発明の他の態様は、遺伝子操作により改変された微生物であってMP遺伝子が導入されるかまたは改変されている前記微生物に関する。一実施形態においては、微生物のゲノムは、野生型または突然変異MP配列をコードする本発明の核酸分子をトランスジーンとして導入することにより改変されている。他の実施形態においては、微生物のゲノム内の内因性MP遺伝子は、例えば、改変したMP遺伝子との相同的組換えにより、機能的に破壊されている。他の実施形態においては、微生物中の内因性または導入されたMP遺伝子は、1以上の点突然変異、欠失、または逆位(inversion)によって改変されているが、それでも機能的MPタンパク質をコードする。さらに他の実施形態においては、微生物のMP遺伝子の調節領域(例えば、プロモーター、リプレッサー、またはインデューサー)は、(例えば、欠失、末端切断、逆位、または点突然変異により)MP遺伝子の発現をモジュレートするように改変されている。好ましい実施形態においては、微生物は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属し、グルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)が特に好ましい。好ましい実施形態においては、微生物はまた、トレハロースまたはアミノ酸などの所望の化合物の生産にも利用され、特にリシン及びメチオニンへの利用が好ましい。
【0018】
他の態様においては、本発明は、被験者におけるジフテリア菌(Cornyebacterium diphtheriae)の存在または活性を同定する方法を提供する。本方法は、1以上の本発明の核酸またはアミノ酸配列(例えば、配列表に配列番号1〜4として記載した配列)を検出し、それにより被験者におけるジフテリア菌(Cornyebacterium diphtheriae)の活性の存在を検出することを含んでなる。
【0019】
本発明のさらに他の態様は、単離されたMPタンパク質またはその一部分、例えば、生物学的活性のある部分に関する。好ましい実施形態においては、単離されたMPタンパク質またはその部分は、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの代謝の1以上の経路に関わる酵素反応を触媒することができる。他の好ましい実施形態においては、単離されたMPタンパク質またはその部分は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と十分相同的であるので、タンパク質またはその部分がアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの1以上の代謝経路に関わる酵素反応を触媒する能力を維持する。
【0020】
本発明はまた、単離されたMPタンパク質の調製物を提供する。好ましい実施形態においては、MPタンパク質は本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)を含んでなる。他の好ましい実施形態においては、本発明は、本発明の全アミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)(配列表の対応する奇数配列番号に記載のオープンリーディングフレームによりコードされた)と実質的に相同的である単離された全長タンパク質に関する。さらに他の実施形態においては、タンパク質は、少なくとも約63%、好ましくは少なくとも約71%以上、より好ましくは少なくとも約75%、80%、または90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%以上、本発明の配列の全アミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と相同的である。他の実施形態においては、単離されたMPタンパク質は、本発明の配列の全アミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と少なくとも約63%以上相同的でありかつアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの酵素反応を触媒することができるか、または表1に記載の1以上の活性を有するアミノ酸配列を含んでなる。
【0021】
あるいは、単離されたMPタンパク質が含有してもよいアミノ酸配列は、配列表に記載の偶数配列番号の1つのタンパク質をコードする核酸配列とハイブリダイズする(例えばストリンジェントな条件下でハイブリダイズする)かまたは少なくとも約63%、好ましくは少なくとも約71%、より好ましくは少なくとも約70%、80%、または90%、そしてさらにより好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%以上相同的であるヌクレオチド配列によりコードされる前記アミノ酸配列である。MPタンパク質の好ましい形態がまた1以上の本明細書に記載のMP生活性(bioactivities)を有することも好ましい。
【0022】
MPタンパク質またはその生物学的に活性な部分を非MPポリペプチドと機能しうる形で連結して融合タンパク質を形成することができる。好ましい実施形態においては、この融合タンパク質はMPタンパク質単独のそれと異なる活性を有する。他の好ましい実施形態においては、この融合タンパク質を、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬の代謝に対するグルタミン酸菌(C. gutamicum)経路中に導入すると、グルタミン酸菌(C. gutamicum)からの所望のファインケミカルの生産に対する収率及び/または効率の増加が得られる。特に好ましい実施形態においては、この融合タンパク質を、宿主細胞のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路中に組み込むと、細胞からの所望の化合物の生産がモジュレートされる。
【0023】
他の態様においては、本発明は、MPタンパク質の活性をモジュレートする分子をスクリーニングする方法であって、タンパク質それ自身またはMPタンパク質の基質または結合パートナーと相互作用させることによるか、または本発明のMP核酸分子の転写もしくは翻訳をモジュレートすることによる、前記方法を提供する。
【0024】
本発明の他の態様は、ファインケミカルを生産する方法に関する。この方法は、本発明のMP核酸分子の発現を指令するベクターを含有してファインケミカルを生産する細胞の培養に関わる。好ましい実施形態においては、この方法はさらに、かかるベクターを含有する細胞を得るステップであって、MP核酸の発現を指令するベクターを用いて細胞をトランスフェクトする前記ステップを含む。他の好ましい実施形態においては、本方法はさらに、ファインケミカルを培養から回収するステップを含んでなる。特に好ましい実施形態においては、細胞はコリネバクテリウム(Corynebacterium)またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)属由来であるかまたは表2に記載の株から選択される。
【表2】
【0025】
本発明の他の態様は、微生物からの分子の生産をモジュレートする方法に関する。かかる方法は、細胞にMPタンパク質活性またはMP核酸発現をモジュレートする薬剤を接触させて、細胞に関連する活性を薬剤非存在時の前記活性と比較して改変させることが挙げられる。好ましい実施形態においては、細胞を1以上のグルタミン酸菌(C. gutamicum)アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路についてモジュレートして、この微生物による所望のファインケミカルの収率または産生率(rate of production)を改良させる。MPタンパク質活性をモジュレートする薬剤は、MPタンパク質活性またはMP核酸発現を刺激する薬剤であってもよい。MPタンパク質活性またはMP核酸発現を刺激する薬剤の例は、細胞中に導入されている小分子、活性MPタンパク質及びMPタンパク質をコードする核酸が挙げられる。MP活性または発現を阻害する薬剤の例は小分子、及びアンチセンスMP核酸分子が挙げられる。
【0026】
本発明の他の態様は、細胞からの所望の化合物の収率をモジュレートする方法であって、野生型または突然変異MP遺伝子を細胞中に導入して別のプラスミド上に維持するかまたは宿主細胞のゲノム中に組み込むことに関わる。ゲノム中に組み込まれる場合、かかる組み込みは無作為であっても、または相同的組換えであってもよく、固有の遺伝子は導入されたコピーと置き換えられて、モジュレートされた細胞から所望の化合物の生産が起こる。好ましい実施形態においては、前記収率は増加する。他の好ましい実施形態においては、前記化学品はファインケミカルである。特に好ましい実施形態においては、前記ファインケミカルはトレハロースまたはアミノ酸である。特に好ましい実施形態においては、前記アミノ酸はL-リシン及びL-メチオニンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の詳細な説明
本発明は、グルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)におけるある特定のファインケミカルの代謝に関わるMP核酸及びタンパク質分子を提供し、前記ファインケミカルはアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースが挙げられる。本発明の分子は、グルタミン酸菌(C. gutamicum)などの微生物からのファインケミカルの生産をモジュレートするのに直接利用してもよいし(例えば、トレハロースまたはリシンまたはメチオニン生合成タンパク質の活性のモジュレーションが前記生物からのトレハロースまたはリシンまたはメチオニンの生産または生産効率に直接影響を与える場合)、または間接的影響を与えて所望の化合物の収率もしくは生産効率を増加させてもよい(例えば、ヌクレオチド生合成タンパク質の活性のモジュレーションが、恐らく増殖の改良または必要な補因子、エネルギー化合物もしくは前駆分子の補給の増加によって、細菌からの有機酸もしくは脂肪酸の生産に影響を与える場合)。さらに本発明の諸態様を以下に説明する。
【0028】
1.ファインケミカル
用語「ファインケミカル」は当技術分野では理解されている用語であり、生物により生産された分子を含み、限定されるものでないが、製薬、農業、及び化粧品産業などの様々な産業に応用される。かかる化合物としては、酒石酸、イタコン酸、及びジアミノピメリン酸などの有機酸、タンパク質原性及び非タンパク質原性(proteinogenic and non-proteinogenic)の両方のアミノ酸、プリン及びピリミジン塩基、ヌクレオシド、及びヌクレオチド(例えば、Kuninaka, A. (1996) 「ヌクレオチド及び関係化合物(Nucleotides and related compounds)」, p.561-612, in Biotechnology vol.6, Rehmら編, VCH: Weinheim、及びその参考文献に記載)、脂質、飽和及び不飽和両方の脂肪酸(例えば、アラキドン酸)、ジオール(例えば、プロパンジオール、及びブタンジオール)、炭水化物(例えば、ヒアルロン酸及びトレハロース)、芳香族化合物(例えば、芳香族アミン、バニリン、及びインジゴ)、ビタミン及び補因子(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A27, 「ビタミン(Vitamins)」, p.443-613 (1996) VCH: Weinheim、及びその参考文献;ならびにOng, A.S., Niki, E. & Packer, L. (1995) 「栄養、脂質、健康、及び疾病(Nutrition, Lipids, Health, and Disease)」, the UNESCO/Confederation of Scientific and Technological Associations in Malaysia, and the Society for Free Radical Research - Asia(1994年9月1-3日、マレーシア、ペナン市にて開催)予稿集, AOCS Press, (1995)に記載)、酵素、ポリケチド(Caneら, (1998) Science 282:63-68)、ならびにGutcho (1983) Chemicals by Fermentation, Noyes Data Corporation, ISBN: 0818805086とその参考文献に記載された全ての他の化学品が挙げられる。これらのファインケミカルの代謝及び用途をさらに以下に説明する。
【0029】
A.アミノ酸代謝と用途
アミノ酸は、全てのタンパク質の基本構造単位としての役割を果たし、従って全生物において細胞が正常に機能を達成する上で必須なものである。用語「アミノ酸」は当技術分野では理解されている。20種のタンパク質原性アミノ酸はタンパク質の構造単位となり、タンパク質中でペプチド結合により連結されているのに対して、非タンパク質原性アミノ酸(数百種が知られている)は通常、タンパク質中に見られない(Ulmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A2, p. 57-97 VCH: Weinheim (1985)を参照)。アミノ酸は、D-またはL-の光学コンフィギュレーションであってもよいが、一般的にはL-アミノ酸が天然タンパク質中に見出される型である。原核細胞及び真核細胞における20種のタンパク質原性アミノ酸のそれぞれの生合成と分解経路は特性はよく決定されている(例えば、Stryer, L. Biochemistry, 第3版, 578-590頁 (1988)を参照)。生合成が複雑であるので一般的に栄養要求のある「必須」アミノ酸と名づけられたアミノ酸(ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、及びバリン)は、簡単な生合成経路により、残りの11種の「非必須アミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、及びチロシン)」へ容易に転化される。高等動物はこれらのアミノ酸のいくつかを合成する能力を保持するが、通常のタンパク質合成が起こるために、必須アミノ酸を食事から補給しなければならない。
【0030】
タンパク質生合成におけるそれらの機能とは別に、これらのアミノ酸はそれ自身が重要な化学品であり、多くが食品、飼料、化学品、化粧品、農業、及び製薬産業に様々な用途を有することがわかっている。リシンは、ヒトだけでなく家禽及びブタなどの単胃動物の栄養上重要なアミノ酸である。グルタミン酸は、調味料(グルタミン酸モノナトリウム、MSG)として最も一般的に利用され、かつ食品産業全体でアスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、及びシステインと同様に広く利用されている。グリシン、L-メチオニン及びトリプトファンは全て製薬産業において利用されている。グルタミン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、アルギニン、プロリン、セリン及びアラニンは製薬及び化粧品産業の両方に用途がある。トレオニン、トリプトファン、及びD/L-メチオニンは一般的な食品添加物である(Leuchtenberger, W. (1996) 「アミノ酸-技術的生産と用途(Amino aids - technical production and use)」, p.466-502 in Rehmら (編) Biotechnology vol.6, chapter 14a, VCH: Weinheim)。さらに、これらのアミノ酸は、Ulmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A2, p. 57-97, VCH: Weinheim, 1985に記載のN-アセチルシステイン、S-カルボキシメチル-L-システイン、(S)-5-ヒドロキシトリプトファン、及びその他の合成アミノ酸及びタンパク質の合成用前駆体として有用であることがわかっている。
【0031】
これらを生産する能力のある細菌などの生物におけるこれらの自然アミノ酸の生合成は、特性がよく決定されている(細菌のアミノ酸生合成とそれらの調節の総説については、Umbarger, H.E.(1978) Ann. Rev. Biochem. 47: 533-606を参照)。グルタミン酸は、クエン酸サイクルの中間物であるα-ケトグルタル酸の還元アミノ化により合成される。次いでグルタミン、プロリン、及びアルギニンがそれぞれグルタミン酸から生産される。セリンの生合成は、3-ホスホグリセリン酸(解糖の中間物)に始まる3ステッププロセスであり、酸化、トランスアミノ化、及び加水分解ステップの後にこのアミノ酸を得る。システインとグリシンの両方はセリンから生産される;すなわち、前者はホモシステインのセリンとの縮合により、かつ後者はセリントランスヒドロキシメチラーゼが触媒する反応において側鎖α炭素原子のテトラヒドロ葉酸への転移によって生産される。フェニルアラニン及びチロシンは、解糖及びペントースリン酸経路の前駆体エリトロース4-リン酸及びホスホエノールピルビン酸から、プレフェネート(prephenate)合成後の最後の2ステップだけが異なる9ステップ生合成経路で合成される。トリプトファンもこれらの2分子から出発して生産されるが、その合成は11ステップ経路である。チロシンもフェニルアラニンから、フェニルアラニンヒドロキシラーゼが触媒する反応で合成することができる。アラニン、バリン、及びロイシンは全て、解糖最終産物であるピルビン酸の生合成産物である。アスパラギン酸は、クエン酸サイクルの中間物であるオキサロ酢酸から作られる。アスパラギン、メチオニン、トレオニン、及びリシンは、それぞれアスパラギン酸の転化により生産される。イソロイシンはトレオニンから作られる。多様な生物においてメチオニンに至る生合成経路が研究されているが、類似性とともに相違がある。第1ステップ、ホモセリンのアシル化は全ての生物で共通しているが、転移されるアシル基の供給源は異なる。アシルドナーとして、大腸菌(Escherichia coli)とその関係種はスクシニル-CoAを利用する(Michaeli, S.,及びRon, E. Z. (1981) 「大腸菌K12のmetA遺伝子を含有するプラスミドの構築と物理的マッピング(Construction and physical mapping of plasmids containing the metA gene of Escherichia coli K12)」, Mol. Gen. Genet. 182, 349-354)が、それに対して酵母(Saccharomyces cerevisiae)(Langin, T., Faugeron, G., Goyon, C., Nicolas, A.,及びRossignol, J. (1986) 「酵母のMET2遺伝子:分子クローニングとヌクレオチド配列(The MET2 gene of Saccharomyces cerevisiae: molecular cloning and nucleotide sequence)」 Gene 49, 283-293)、ブレビバクテリウム・フラブム(Brevibacterium flavum)(Miyajima, R, and Shiio, I. (1973) 「ブレビバクテリウム・フラブムにおけるアミノ酸生合成のアスパラギン酸ファミリーの調節:ホモセリンO-トランスアセチラーゼの特性(Regulation of aspartate family of amino acid biosynthesis in Brevibacterium flavum: properties of homoserine O-transacetylase)」 J. Biochem. 73, 1061-1068;Ozaki, H.,及びShiio, I. (1982) 「ブレビバクテリウム・フラブムにおけるメチオニン生合成:O-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼの特性と本質的な役割(Methionine biosynthesis in Brevibacterium flavum: properties and essential role of O-acetylhomoserine sulfhydrylase)」 J. Biochem. 91, 1163-1171)、グルタミン酸菌(C. gutamicum)(Park, S.-D., Lee, J.-Y., Kim, Y., Kim, J.-H.,及びLee, H.-S. (1998) 「metA、グルタミン酸菌のホモセリンアセチルトランスフェラーゼをコードするメチオニン生合成遺伝子の単離と分析(Isolation and analysis of metA, a methionine biosynthetic gene encoding homoserine acetyltransferase in Corynebacterium glutamicum)」 Mol. Cells 8, 286-294)、及びレプトスピラ・マイエリ(Leptospira meyeri)(Belfaiza, J., Martel, A., Maegarita. D.,及びSaint Girons, I. (1998) 「レプトスピラ・マイエリのメチオニン生合成のための直接スルフヒドリル化(Direct sulfhydrylation for methionine biosynthesis in Leptospira meyeri)」 J. Bacteriol. 180, 250-255;Bourhy, P., Martel, A., Margarita, D., Saint Girons, I.,及びBelfaiza, J. (1997) 「レプトスピラ・マイエリのメチオニン生合成経路に関わるホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼはフィードバック阻害されない(Homoserine O-acetyltransferase, involved in the Leptospira meyeri methionine biosynthetic pathway, is not feedback inhibited)」 J. Bacteriol. 179, 4396-4398)はアセチル-CoAを利用する。アシルホモセリンからのホモシステインの生成は、2つの異なる方法で起こり得る。大腸菌(E.coli)は、シスタチオンγ-シンターゼ(metBの産物)及びシスタチオンβ-リアーゼ(metCの産物)により触媒されるトランススルフレーション(transsulfuration)経路を利用する。酵母(S. cerevisiae)(Cherest, H.及びSurdin-Kerjan, Y. (1992) 「酵母にシステイン栄養要求性を与える新しい突然変異の遺伝子分析:硫黄代謝経路の更新(Genetic analysis of a new mutation conferring cysteine auxotrophy in Saccharomyces cerevisiae: updating of the sulfur metabolism pathway)」 Genetics 130, 51-58)、ブレビバクテリウム・フラブム(B. flavum)(Ozaki, H.及びShiio, I. (1982) 「ブレビバクテリウム・フラブムのメチオニン生合成:O-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼの特性と本質的役割(methionine biosynthesis in Brevibacterium flavum: properties and essential role of O-acetylhomoserine sulfhydrylase)」 J. Biochem. 91, 1163-1171)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(Foglino, M., Borne, F., Bally, M., Ball, G.,及びPatte, J. C. (1995) 「緑膿菌のメチオニン生合成には直接スルフヒドリル化経路が利用される(A direct sulfhydrylation pathway is used for methionine biosynthesis in Pseudomonas aeruginosa)」 Microbiology 141, 431-439)、及びレプトスピラ・マイエリ(L. meyeri)(Belfaiza, J., Martel, A., Maegarita. D.,及びSaint Girons, I. (1998) 「レプトスピラ・マイエリのメチオニン生合成のための直接スルフヒドリル化(Direct sulfhydrylation for methionine biosynthesis in Leptospira meyeri)」 J. Bacteriol. 180, 250-255)は、アシルホモセリンスルフヒドリラーゼにより触媒される直接スルフヒドリル化経路を利用する。直接スルフヒドリル化経路だけを利用する、密接な関係のあるブレビバクテリウム・フラブム(B. flavum)と異なり、グルタミン酸菌(C. gutamicum)細胞の抽出物にはトランススルフレーション経路の酵素活性が検出されていて、この経路がこの生物のメチオニン生合成経路用ルートであると提案されている(Hwang, B-J., Kim, Y., Kim, H.-B., Kim, J., Hwang, H.-J.,及びLee, H.-S. (1999) 「グルタミン酸菌メチオニン生合成経路の分析:シスタチオニンa-シンターゼをコードするmetBの単離と分析(Analysis of Corynebacterium glutamicum methionine biosynthetic pathway: Isolation and analysis of metB encoding cystathionine β-synthase)」 Mol. Cells 9, 300-308;Kase, H.及びNakayama, K. (1974) 「グルタミン酸菌における、メチオニン類似体耐性突然変異体によるO-アセチル-L-ホモセリンの生産及びホモセリン-O-トランスアセチラーゼの調節(Production of O-acetyl-L-homoserine by methionine analog resistant mutants and regulation of homoserine-O-transacetylase in Corynebacterium glutamicum)」 Agr. Biol. Chem. 38, 2021-2030;Park, S.-D., Lee, J.-Y., Kim, Y., Kim, J.-H.、及びLee, H.-S. (1998) 「グルタミン酸菌のmetA、ホモセリンアセチルトランスフェラーゼをコードするメチオニン生合成遺伝子の単離と分析(Isolation and analysis of metA, a methionine biosynthetic gene encoding homoserine acetyltransferase in Corynebacterium glutamicum)」 Mol. Cells 8, 286-294)。
【0032】
グルタミン酸菌(C. gutamicum)のメチオニン生合成に関わる複数の遺伝子が近年単離されているが、グルタミン酸菌(C. gutamicum)のメチオニン生合成についての情報はまだ限られたものである。metA及びmetB遺伝子はこの生物から単離されているしまたmetC及びmetZ遺伝子も既知である(表4)、しかし生合成の最終ステップは未だ明らかになっていない。本発明においては、グルタミン酸菌(C. gutamicum)におけるメチオニンに至る生合成経路の全体を解明し、そして生合成の最終ステップに関わる生合成遺伝子を、酵素メチオニンシンターゼをコードするmetH遺伝子と規定した。
【0033】
複雑な9ステップ経路により、活性化糖である5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸からヒスチジンの生産が行われる。
【0034】
細胞のタンパク質合成必要量を超えるアミノ酸は貯蔵できないので、その代わりに分解して細胞の主要代謝経路用の中間物を提供する(総説は、Stryer, L. Biochemistry 3rd ed. Ch. 21 「アミノ酸分解と尿素サイクル(Amino Acid Degradation and the Urea Cycle)」p. 495-516 (1988)を参照)。細胞は望ましくないアミノ酸を有用な代謝中間物に転化することはできるが、アミノ酸生産はエネルギー、前駆体分子、及びそれらを合成する酵素を消費する。従って、特定のアミノ酸の存在がそれ自身の生産を遅くするかまたは全体を停止するように作用して、フィードバック阻害によりアミノ酸合成を調節することは驚くに当たらない(アミノ酸生合成経路におけるフィードバック機構の総説はStryer, L. Biochemistry, 3rd ed. Ch. 24: 「アミノ酸の生合成とヘム(Biosynthesis of Amino Acids and Heme)」 p. 575-600 (1988)を参照)。従って、任意の特定のアミノ酸の産出量は細胞内に存在するアミノ酸の量によって制限される。
【0035】
2.1.ビタミン、補因子、及び栄養薬代謝及び利用
ビタミン、補因子、及び栄養薬には、高等動物が合成する能力を失っているので摂取しなければならない他の分子グループがあるが、これらは細菌などの他の生物により容易に合成される。これらの分子は、それ自身が生物活性物質であるか、または様々な代謝経路で電子担体もしくは中間物として役立ちうる生物学的に活性な物質の前駆体である。それらの栄養価とは別に、これらの化合物はまた、着色剤、酸化防止剤、及び触媒または他の加工補助剤として重要な産業上の価値がある(これらの化合物の構造、活性、及び産業的応用の概観は、例えば、Ullman's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 「ビタミン(Vitamins)」 vol. A27, p. 443-613, VCH: Weinheim, 1996を参照)。用語「ビタミン」は当技術分野では理解されていて、生物が通常機能を果たすのに必要であるが、前記生物が自分自身で合成できない栄養分が挙げられる。ビタミンのグループは補因子及び栄養薬化合物を包含しうる。用語「補因子(cofactor)」は、通常の酵素活性が起こるために必要な非タンパク質化合物が挙げられる。かかる化合物は有機物であってもまたは無機物であってもよい;本発明の補因子分子は好ましくは有機物である。用語「栄養薬(nutraceutical)」は、植物及び動物、特にヒトにおいて健康上有益である食品補充物が挙げられる。かかる分子の例は、ビタミン、抗酸化剤、及びまたある特定の脂質(例えば、ポリ不飽和脂肪酸)である。
【0036】
これらを生産しうる細菌などの生物におけるこれらの分子の生合成は、ほとんど特性が決定されている(Ullman's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 「ビタミン(Vitamins)」 vol. A27, p.443-613, VCH: Weinheim, 1996;Michal, G. (1999) Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John Wiley & Sons;Ong, A.S., Niki, E. & Packer, L. (1995) 「栄養、脂質、健康、及び疾病(Nutrition, Lipids, Health, and Disease)」, the UNESCO/Confederation of Scientific and Technological Associations in Malaysia, and the Society for Free Radical Research - Asia(1994年9月1-3日、マレーシア、ペナン市にて開催)予稿集, AOCS Press: Champaign, IL X, 374 S)。
【0037】
チアミン(ビタミンB1)はピリミジンとチアゾール部分の化学的カップリングにより生産される。リボフラビン(ビタミンB2)はグアノシン-5'-三リン酸(GTP)及びリボース-5'-リン酸から合成される。リボフラビンは、順に、フラビンモノヌクレオチド(FMN)及びフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の合成に利用される。「ビタミンB6」とまとめて名付けられた化合物のファミリー(例えば、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサ-5'-リン酸、及び市販されるピリドキシン塩酸塩)は全て、共通の構造単位、5-ヒドロキシ-6-メチルピリジンの誘導体である。パントテネート(パントテン酸、(R)-(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチル-1-オキソブチル)-β-アラニン)は、化学合成によるかまたは発酵よって生産することができる。パントテネート生合成の最終ステップはβ-アラニンとパントイン酸のATP駆動による縮合からなる。パントイン酸への転化、β-アラニンへの転化、及びパントテン酸への縮合の生合成ステップに関わる酵素は既知である。パントテネートの代謝活性型は補酵素Aであり、その生合成は5つの酵素ステップで進行する。パントテネーアト、ピリドキサール-5'-リン酸、システイン及びATPが補酵素Aの前駆体である。これらの酵素はパントテネートの形成だけでなく、(R)-パントイン酸、(R)-パントラクトン、(R)-パンテノール(プロビタミンB5)、パンテテイン(及びその誘導体)及び補酵素Aの生産も触媒する。
【0038】
微生物中の前駆体分子ピメロイル-CoAからのビオチン生合成は詳細に研究されていて、これに関わる複数の遺伝子が同定されている。対応するタンパク質の多くはFe-クラスター合成にも関わることがわかっていて、タンパク質のnifSクラスのメンバーである。リポ酸はオクタン酸から誘導され、エネルギー代謝における補酵素として役立ち、その際、これはピルビンデヒドロゲナーゼ複合体及びα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の一部分になる。フォレート(folate)類は全て葉酸の誘導体である物質グループであって、葉酸は、順にL-グルタミン酸、p-アミノ安息香酸及び6-メチルプテリンから誘導される。代謝中間物グアノシン-5'-三リン酸(GTP)、L-グルタミン酸及びp-アミノ安息香酸から出発する葉酸及びその誘導体の生合成は、ある特定の微生物については詳細に研究されている。
【0039】
コリノイド(コバラミン及び特にビタミンB12など)及びポルフィリンはテトラピロール環系を特徴とする化学品グループに属する。ビタミンB12の生合成は非常に複雑であるのでまだ完全に特性は決定されていないが、関わりのある多くの酵素と基質が現在知られている。ニコチン酸(ニコチネート)及びニコチンアミドはピリジン誘導体であり、「ナイアシン(niacin)」とも呼ばれる。ナイアシンは重要な補酵素であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)及びNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)ならびにそれらの還元型の前駆体である。
【0040】
これらの化合物の大量生産は、ほとんど、細胞に無関係な化学合成に依存してきたが、リボフラビン、ビタミンB6、パントテネート、及びビオチンなどの複数のこれらの化学品は微生物の大規模培養によっても生産されている。ただビタミンB12だけは合成が複雑であるため、発酵により生産されている。in vitro手法は際立った材料の投入と時間を要し、しばしば大きな費用がかかる。
【0041】
C.プリン、ピリミジン、ヌクレオシド及びヌクレオチド代謝と用途
プリン及びピリミジン代謝遺伝子ならびにそれらの対応するタンパク質は、腫瘍疾患とウイルス感染症の治療にとって重要な標的である。用語「プリン」または「ピリミジン」は、核酸、補酵素、及びヌクレオチドの構成要素である窒素原性塩基を含む。用語「ヌクレオチド」は、窒素原性塩基、ペントース糖類(RNAの場合、糖はリボースであり;DNAの場合、糖はD-デオキシリボースである)、及びリン酸からなる核酸分子の塩基構造単位を含む。用語「ヌクレオシド」はヌクレオチドの前駆体となる分子であるが、ヌクレオチドが有するリン酸部分を欠く。これらの分子の生合成、またはそれらを動員して核酸分子を形成するのを阻害することにより、RNA及びDNA合成を阻害することが可能であり;癌細胞を標的としてこの活性を阻害することにより、腫瘍細胞の分裂しかつ複製する能力を阻害することができる。さらに、核酸分子を形成しないでむしろエネルギー貯蔵(すなわち、AMP)としてまたは補酵素(すなわちFAD及びNAD)として作用するヌクレオチドが存在する。
【0042】
複数の文献は、プリン及び/またはピリミジン代謝に影響を与えることによるこれら化学品の医療用の利用を記載している(例えば、Christopherson, R.I.及びLyons, S.D. (1990) 「化学治療剤としてのde novoピリジン及びプリン生合成の強力インヒビター(Potent inhibitors of de novo pyrimidine and purine biosynthesis as chemotherapeutic agents)」 Med. Res. Reviews 10:505-548)。プリン及びピリミジン代謝に関わる酵素の研究は、例えば、免疫阻害剤または抗増殖剤として使用しうる新薬の開発に重点が置かれてきた(Smith, J.L., (1995) 「ヌクレオチド合成の酵素(Enzymes in nucleotide synthesis)」 Curr. Opin. Struct. Biol. 5:752-757;(1995) Biochem Soc. Transact. 23:877-902)。しかし、プリンとピリミジン塩基、ヌクレオシドとヌクレオチドは他の用途もある:すなわち、複数のファインケミカルの生合成における中間物(例えば、チアミン、S-アデノシル-メチオニン、フォレート、またはリボフラビン)として、細胞用エネルギー担体(例えば、ATPまたはGTP)として、ならびに化学品それ自身で通常使われる風味(flavor)増進剤(例えば、IMPまたはGMP)としてまたは複数の医療用(例えば、Kuninaka, A. (1996) 「ヌクレオチドと関係化合物(Nucleotides and Related Compounds)」 in Biotechnology vol. 6, Rehmら, 編. VCH: Weinheim, p. 561-612を参照)としてである。また、プリン、ピリミジン、ヌクレオシド、またはヌクレオチド代謝に関わる酵素は、殺菌剤、除草剤及び防虫剤を含む作物保護用化学品を開発する際の標的として、ますます役立っている。
【0043】
細菌におけるこれらの化合物の代謝の特性は決定されている(総説については例えば、Zalkin, H.及びDixon, J.E. (1992) 「de novoプリンヌクレオチド生合成(de novo purine nucleotide biosynthesis)」, in Progress in Nucleic Acid Research and Molecular Biology, vol.42, Academic Press:, p.259-287;及びMichal, G. (1999) 「ヌクレオチド及びヌクレオシド(Nucleotides and Nucleosides)」 Chapter 8 in: Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, Wiley: New Yorkを参照)。プリン代謝は重点研究の対象となっていて、細胞の正常な機能達成にとって本質的なものである。高等動物におけるプリン代謝の障害は、痛風などの重篤な疾患を引き起こしうる。プリンヌクレオチドはリボース-5-リン酸から、中間物化合物イノシン-5'-リン酸(IMP)を経由する一連のステップで合成されて、グアノシン-5'-一リン酸(GMP)またはアデノシン-5'-一リン酸(AMP)の生産が得られ、それらからヌクレオチドとして利用される三リン酸型が容易に形成される。これらの化合物はエネルギー貯蔵としても利用され、その分解は細胞内の多くの異なる生化学プロセスに対するエネルギーを提供する。ピリミジン生合成は、リボース-5-リン酸からウリジン-5'-一リン酸(UMP)の形成により進行する。UMPは、次に、シチジン-5'-三燐酸(CTP)に転化される。これらの全てのヌクレオチドのデオキシ型は、ヌクレオチドの二リン酸リボース型からヌクレオチドの二リン酸デオキシリボース型への1ステップ還元反応で生産される。リン酸エステル化すると、これらの分子はDNA合成に加わることができる。
【0044】
D.トレハロース代謝と用途
トレハロースは、α,α-1,1連鎖で結合された2つのグルコース分子からなる。通常、食品産業において、甘味剤、乾燥もしくは凍結食品用添加剤として、及び飲料中に利用される。しかし、これはまた、製薬、化粧品及びバイオ技術産業においても応用される(例えば、Nishimotoら, (1998) 米国特許第5,759,610号;Singer, M.A.及びLindquist, S. (1998) Trends Biotech. 16:460-467;Paiva, C.L.A.及びPanek, A.D. (1996) Biotech. Ann. Rev. 2:293-314;ならびにShiosaka, M. (1997) J. Japan 172:97-102を参照)。トレハロースは多数の微生物由来の酵素により生産され、自然において周辺媒質中に放出されており、それから当技術分野で既知の方法を用いて採集することができる。
【0045】
II.本発明の要素と方法
本発明は、少なくとも一部分は、本明細書でMP核酸及びタンパク質分子と呼ぶ、1以上の細胞代謝経路において役割または機能を果たす新規分子の発見に基づく。一実施形態においては、MP分子は、1以上のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路に関与する酵素反応を触媒する。好ましい実施形態においては、グルタミン酸菌(C. gutamicum)のもつ1以上のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における本発明のMP分子の活性が、この生物による所望のファインケミカルの生産に影響を与える。ある特に好ましい実施形態においては、本発明のMPタンパク質が関わるグルタミン酸菌(C. gutamicum)代謝経路の効率または算出結果がモジュレートされるように本発明のMP分子の活性をモジュレートして、それにより直接または間接にグルタミン酸菌(C. gutamicum)による所望のファインケミカルの生産または生産効率をモジュレートする。MP分子を、同じまたは異なる代謝経路の他のMP分子と組み合わせて、所望のファインケミカル、好ましくはトレハロースまたはアミノ酸、さらに好ましくはリシンまたはメチオニンの収率を増加させることができる。代わりにまたはさらに、MP分子または他の代謝分子の破壊を組み合わせることにより、望ましくない副産物を低減してもよい。同じまたは異なる経路の他のMP分子と組み合わせて用いるMP分子のヌクレオチド及び対応するアミノ酸配列を改変し、それらの活性が生理学的条件のもとで改変されて所望のファインケミカルの生産性及び/または収率が増加するようにしてもよい。さらなる実施形態においては、元々のまたは上記の改変された型のMP分子を、ヌクレオチド配列が改変された同じまたは異なる経路の他のMP分子と組み合わせて、それらの活性が生理学的条件のもとで改変されて所望のファインケミカルの生産性及び/または収率が増加するようにしてもよい。好ましい組み合わせは、表1のMP分子の1つもしくは両方と、表4及び5のMPタンパク質または同じ代謝経路(メチオニン生合成またはトレハロース/ホスホエノールピルビン酸経路)のそれぞれの報告されているMP分子の1種以上の単もしくは多コピーとの組み合わせである。
【0046】
用語「MPタンパク質」または「MPポリペプチド」は、1以上のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路において役割を果たすタンパク質、例えば該代謝経路において酵素反応を触媒するタンパク質を含む。MPタンパク質の例は、表1に奇数配列番号により記載したMP遺伝子によりコードされるタンパク質が挙げられる。用語「MP遺伝子」または「MP核酸配列」は、MPタンパク質をコードする核酸配列であって、コード領域と共に対応する非翻訳5'及び3'配列領域から成る前記核酸配列を含む。MP遺伝子の例は表1に記載した遺伝子が挙げられる。用語「生産」または「生産性」は当技術分野では理解されていて、所与の時間と所与の発酵体積内で生成する発酵産物(例えば、所望のファインケミカル)の濃度(例えば、1時間1リットル当たりの産物kg)が挙げられる。用語「生産効率」としては、特定のレベルの生産を達成するために必要な時間(例えば、細胞がファインケミカルのある特定の生産速度を達成するのに要する時間)が挙げられる。用語「収率」または「産物/炭素収率」は当技術分野では理解されていて、産物(すなわち、ファインケミカル)への炭素源の転化効率が挙げられる。これは一般的に例えば、産物kg/炭素源kgで記載する。化合物の収率または生産を増加させることにより、所与の時間にわたる所与の量の培養中の回収分子、すなわちその化合物の有用な回収分子の量が増加する。用語「生合成」または「生合成経路」は当技術分野では理解されていて、細胞による複数ステップでかつ高度に調節されたプロセスで行われうる、中間体化合物からの化合物、好ましくは有機化合物の合成が挙げられる。用語「分解」または「分解経路」は、当技術分野で理解されていて、細胞による複数ステップでかつ高度に調節されたプロセスで行われうる、化合物、好ましくは有機化合物の分解産物(一般的にいえば、より小さいまたはより簡単な分子)への分解が挙げられる。用語「代謝」は当技術分野で理解されていて、生物内で起こる生化学反応の全体が挙げられる。従って、ある特定の化合物の代謝(例えば、グリシンなどのアミノ酸の代謝)は、この化合物に関係する細胞内での生合成経路、修飾経路、及び分解経路の全体を含んでなる。
【0047】
他の実施形態においては、本発明のMP分子は、グルタミン酸菌(C. gutamicum)などの微生物中の、ファインケミカルなどの所望の分子の生産をモジュレートすることができる。遺伝子組換え技術を用いて、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースに対する本発明の1以上の生合成酵素または分解酵素を操作してその機能をモジュレートすることができる。例えば、生合成酵素の効率を改良するかまたはアロステリック制御領域を破壊してその化合物の生産のフィードバック阻害を阻止することができる。同様に、分解酵素を置換、欠失、もしくは付加により欠損させるかまたは改変して、所望の化合物に対するその分解活性を、細胞の生存性を損なうことなく低減することができる。それぞれの事例において、これらの所望のファインケミカルの1つの収率または生産速度の全体を増加させることができる。
【0048】
本発明のタンパク質及びヌクレオチド分子のかかる改変により、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースに加えて、他のファインケミカルの生産を改良することもできる。いかなる1つの化合物の代謝も必然的に細胞内の他の生合成及び分解経路と関係し合っているので、1つの経路に必要な補因子、中間体、または基質が他のそのような経路により供給されるかまたは制限されていることがありうる。従って、本発明の1以上のタンパク質の活性をモジュレートすることにより、他のファインケミカル生合成または分解経路の生産または活性効率に影響を与えうる。例えば、アミノ酸は全てのタンパク質の構造単位としての役割を果たしており、タンパク質合成を制限するレベルで細胞内に存在しうる。従って、細胞内の1以上のアミノ酸の生産効率または収率を増加することにより、生合成タンパク質または分解タンパク質などのタンパク質がさらに容易に合成されうる。同様に、特定の副反応がより好ましいものとなるかまたはより好ましくないものとなるように代謝経路酵素を改変することにより、所望のファインケミカルを生産するための中間体または基質として利用される1以上の化合物を過剰または過小に生産することができる。
【0049】
本発明の単離された核酸配列は、American Type Culture Collectionを通じて入手しうる識別番号ATCC 13032が付与されたグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)株のゲノム内に含有される。単離されたグルタミン酸菌(C. gutamicum)MP DNAのヌクレオチド配列、及びグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPタンパク質の予想アミノ酸配列を、配列表においてそれぞれ奇数配列番号及び偶数配列番号で示す。コンピュータ解析を実施して、これらのヌクレオチド配列を代謝経路タンパク質をコードする配列として分類及び/または同定した。
【0050】
本発明はまた、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と実質的に相同的であるアミノ酸配列を有するタンパク質に関する。本明細書に使用される意味では、選択されたアミノ酸配列と実質的に相同的であるアミノ酸配列を有するタンパク質は、選択されたアミノ酸配列、例えば、選択されたアミノ酸配列の全体と、少なくとも約50%相同的である。選択されたアミノ酸配列と実質的に相同的であるアミノ酸配列を有するタンパク質はまた、選択されたアミノ酸配列に対して、少なくとも約50〜60%、好ましくは少なくとも約60〜70%、そしてさらに好ましくは少なくとも約70〜80%、80〜90%、または90〜95%、そして最も好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%以上、相同的であってもよい。
【0051】
本発明のMPタンパク質またはその生物学的に活性な部分もしくは断片は、1以上のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を触媒するかまたは表1に記載の活性の1種以上を有しうる。
【0052】
本発明の様々な態様をさらに詳細に以下の節で説明する。
【0053】
A.単離された核酸分子
本発明の一態様は、MPポリペプチドまたはその生物学的活性部分をコードする単離された核酸分子、ならびにMPをコードする核酸(例えば、MP DNA)の同定または増幅用のハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーとして十分使用しうる核酸断片に関する。本明細書に使用される用語「核酸分子」は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)及びRNA分子(例えば、mRNA)ならびにヌクレオチド類似体を用いて作製したDNAまたはRNAの類似体を含むことを意図する。この用語はまた、遺伝子のコード領域の3'及び5'末端の両方に位置する非翻訳配列、すなわちコード領域の5'末端から上流の少なくとも約100ヌクレオチドの配列、及びコード領域の3'末端から下流の少なくとも約20ヌクレオチドの配列も包含する。核酸分子は1本鎖または2本鎖であってもよいが、好ましくは2本鎖DNAである。「単離された」核酸分子は、核酸分子の天然供給源に存在する他の核酸分子から単離された核酸分子である。好ましくは、「単離された」核酸は、該核酸が由来する生物のゲノムDNA中で該核酸に天然にフランキングする配列(すなわち、該核酸の5'及び3'末端に位置する配列)を含まない。例えば、様々な実施形態においては、単離されたMP核酸分子は、該核酸が由来する細胞(例えば、グルタミン酸菌(C. gutamicum)細胞)のゲノムDNA中で該核酸分子に天然にフランキングする約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満のヌクレオチド配列を含有するものであってもよい。さらに、DNA分子などの「単離された」核酸分子は、組換え技術により生産される場合には他の細胞物質もしくは培地を、または化学的に合成される場合には他の化学的前駆体もしくは他の化学品を実質的に含まないものでありうる。
【0054】
本発明の核酸分子、例えば、配列表の奇数配列番号のヌクレオチド配列を有する核酸分子、またはその部分は、標準の分子生物学技術と本明細書に提供した配列情報とを用いて単離することができる。例えば、グルタミン酸菌(C. gutamicum)MP DNAは、配列表に記載された奇数配列番号のうちの1つの配列の全体または部分をハイブリダイゼーションプローブとして用いかつ標準ハイブリダイゼーション技術(例えば、Sambrook, J., Fritsh, E. F.,及びManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載)を利用して、グルタミン酸菌(C. gutamicum)ライブラリーから単離することができる。さらに、本発明の核酸配列(例えば奇数配列番号)のうちの1つの全体または部分を含む核酸分子は、その配列に基づいて設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応により単離することができる。(例えば、本発明の核酸配列のうちの1つ(例えば、配列表の奇数配列番号のもの)の全体または部分を含む核酸分子をこの同じ配列に基づいて設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応により単離することができる。)例えば、mRNAを正常な内皮細胞から単離し(例えば、Chirgwinら (1979) Biochemistry 18:5294-5299に記載のチオシアン酸グアニジニウム抽出法によって)、そしてDNAを逆転写酵素(例えば、Gibco/BRL, Bethesda, MDから入手しうるモロニーMLV逆転写酵素;またはSeikagaku America, Inc., St. Petersburg, FLから入手しうるAMV逆転写酵素)を用いて製造することができる。ポリメラーゼ連鎖反応増幅用の合成オリゴヌクレオチドプライマーは、配列表に示したヌクレオチド配列のうちの1つに基づいて設計することができる。本発明の核酸は、テンプレートとしてcDNAまたはその代わりにゲノムDNA、及び適当なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、標準のPCR増幅技術によって増幅することができる。こうして増幅した核酸を適当なベクター中にクローニングし、DNA配列分析により特性決定することができる。さらに、MPヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドを標準合成技術、例えば自動DNA合成機により製造することができる。
【0055】
好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、配列表に示したヌクレオチド配列の1つを含んでなる。配列表に記載した本発明の核酸配列は、本発明のグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)MP DNAに対応する。このDNAは、MPタンパク質をコードする配列(すなわち、配列表の奇数配列番号の各配列に示した「コード領域」)ならびに配列表のそれぞれの奇数配列番号に同様に示した5'非翻訳配列及び3'非翻訳配列を含んでなる。あるいは、核酸分子は、配列表のいずれかの核酸配列のコード領域だけを含んでいてもよい。
【0056】
他の好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)またはその部分の1つの相補体である核酸分子を含んでなる。本発明のヌクレオチド配列の1つと相補的である核酸分子は、配列表(例えば、奇数配列番号の配列)に記載のヌクレオチド配列の1つと十分に相補的であるので、本発明のヌクレオチド配列の1つとハイブリダイズして安定な2本鎖を形成することができる。
【0057】
さらに他の好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)、またはその部分に対して少なくとも約63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上相同的であるヌクレオチド配列を含んでなる。上記の範囲の中間にある範囲及び同一性の値(例えば、70〜90%の同一性または80〜95%の同一性)も本発明に包含されると意図する。例えば、上記の値のいずれの組合せを上限及び/または下限とする同一性の値の範囲も含まれると意図する。さらなる好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、例えばストリンジェントな条件下で本発明のヌクレオチド配列の1つ、またはその部分とハイブリダイズする核酸配列を含んでなる。
【0058】
さらに、本発明の核酸分子は、配列表の奇数配列番号の1つの配列のコード領域の一部分のみ、例えば、プローブまたはプライマーとして利用しうる断片、またはMPタンパク質の生物学的に活性な部分をコードする断片を含んでいてもよい。グルタミン酸菌(C. gutamicum)由来のMP遺伝子のクローニングから決定したヌクレオチド配列により、他の細胞型及び生物のMP相同体、ならびに他のコリネバクテリア(Corynebacteria)または近縁種由来のMP相同体を同定及び/またはクローニングするのに利用するために設計されたプローブ及びプライマーの作製が可能になる。プローブ/プライマーは典型的には、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含んでなる。該オリゴヌクレオチドは、典型的にはストリンジェントな条件下で、本発明のヌクレオチド配列の1つ(例えば、配列表の奇数配列番号の配列の1つ)のセンス鎖、これらの配列の1つのアンチセンス配列、またはそれらの天然突然変異体上の少なくとも約12、好ましくは約25、さらに好ましくは約40、50または75の連続ヌクレオチドとハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含んでなる。本発明のヌクレオチド配列に基づくプライマーをPCR反応に利用してMP相同体をクローニングすることができる。MPヌクレオチド配列に基づくプローブを利用して、同一タンパク質または相同タンパク質をコードする転写物またはゲノム配列を検出することができる。好ましい実施形態においては、プローブはさらにそれに結合したラベル基を含んでなり、例えば、ラベル基は放射性同位体、蛍光化合物、酵素、または酵素補因子であってもよい。かかるプローブを、MPタンパク質を誤発現する細胞を同定するための診断試験キットの一部として利用することができ、その同定は被験者由来の細胞サンプル中のMPをコードする核酸のレベルを測定することにより、例えばMP mRNAレベルを検出するかまたはゲノムMP遺伝子が突然変異もしくは欠失しているかどうかを決定することにより行うことができる。
【0059】
一実施形態においては、本発明の核酸分子がコードするタンパク質またはその部分は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と十分に相同的であって、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒する能力を維持するものである。本明細書に使用される表現「十分に相同的である」は、タンパク質またはその部分が、本発明のアミノ酸配列に対して同一または同等なアミノ酸残基(例えば、配列表の偶数配列番号の1つの配列中のアミノ酸残基と類似の側鎖を有するアミノ酸残基)を最小数で含むアミノ酸配列を有し、そのためグルタミン酸菌(C. gutamicum)のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒することができることを意味する。本明細書に記載した、かかる代謝経路のタンパク質メンバーは、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの1以上の生合成または分解を触媒する機能を果たす。かかる活性の例も本明細書に記載されている。従って、「MPタンパク質の機能」は、1以上のかかる代謝経路の全体の機能性に寄与して、直接または間接に、1以上のファインケミカルの収率、生産、及び/または生産効率に寄与する。MPタンパク質の活性の例を表1に記載した。
【0060】
他の実施形態においては、本発明のタンパク質は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)の全体に対して、少なくとも約50〜60%、好ましくは少なくとも約60〜70%、そしてさらに好ましくは少なくとも約70〜80%、80〜90%、90〜95%、そして最も好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%以上相同的である。
【0061】
本発明のMP核酸分子がコードするタンパク質の部分は、好ましくは1つのMPタンパク質の生物学的活性部分である。本明細書に使用される用語「MPタンパク質の生物学的物性学的活性部分」は、ある部分、例えば、1以上のグルタミン酸菌(C. gutamicum)のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒するかまたは表1に記載の活性を有するMPタンパク質のドメイン/モチーフを含むことを意図する。MPタンパク質またはその生物学的活性部分がアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒しうるかどうかを決定するために、酵素活性のアッセイを実施してもよい。かかるアッセイ方法は当業者には周知であり、実施例8に詳述した。
【0062】
MPタンパク質の生物学的活性をコードするさらなる核酸断片は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)のうちの1つの一部分を単離し、そのコードされたMPタンパク質またはペプチドの部分を(例えば、in vitroでの組換え発現により)発現させて、コードされたMPタンパク質またはペプチドの部分の活性を評価することによって、調製することができる。
【0063】
本発明はさらに、遺伝子コードの縮重によって、本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)(及びその部分)のうちの1つとは異なるが、本発明のヌクレオチド配列がコードするのと同じMPタンパク質をコードする核酸分子を包含する。他の実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、配列表に記載のアミノ酸配列(例えば、偶数の配列番号)を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する。なおさらなる実施形態においては、本発明の核酸分子は、本発明のアミノ酸配列(配列表の奇数配列番号に示されたオープンリーディングフレームにコードされる)と実質的に相同的であるグルタミン酸菌(C. gutamicum)全長タンパク質をコードする。
【0064】
当業者であれば、一実施形態において、本発明の配列が、本発明に先行して利用し得た表3に記載のGenbank配列などの先行技術の配列を包含することを意味しないのは理解するであろう。一実施形態においては、本発明は、本発明のヌクレオチドまたはアミノ酸配列に対して、先行技術の配列よりも大きい同一性パーセントを有するヌクレオチド及びアミノ酸配列を包含する。すなわち、本発明は、配列番号2と名付けたタンパク質配列と少なくとも71%及び/またはそれ以上の同一性を有するタンパク質配列をコードするヌクレオチド配列及び/または配列番号4と名付けたタンパク質配列と少なくとも63%及び/またはそれ以上の同一性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を包含する。
【表3】
相同性: CLUSTALで計算した同一性パーセント(アミノ酸配列に翻訳される、ゲノム由来のオープンリーディングフレーム)
【0065】
当業者であれば、所与の配列に対する上位3つのヒットのそれぞれについて、表3に記載のCLUSTALで計算した同一性パーセントスコアを調べることにより、本発明の任意の所与の配列に対する同一性パーセントの下方閾値を計算できるであろう。当業者であればまた、そのようにして計算した下方閾値より大きい同一性パーセント(例えば、好ましくは少なくとも約63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上同一である)を有する核酸及びアミノ酸配列も、本発明に包含されることを理解するであろう。
【0066】
配列表に奇数配列番号として記載したグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPヌクレオチド配列に加えて、MPタンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらすDNA配列多型が集団(例えば、グルタミン酸菌(C. gutamicum)集団)内に存在しうることを、当業者であれば理解するであろう。MP遺伝子のかかる遺伝的多型が自然的変異によって集団内の個体間に存在しうる。本明細書に使用される用語「遺伝子」及び「組換え遺伝子」は、MPタンパク質、好ましくはグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む核酸分子を意味する。かかる自然的変異は、典型的にはMP遺伝子のヌクレオチド配列において1〜5%の相違を生じうる。自然的変異の結果であってMPタンパク質の機能的活性を改変しないようなMPにおける任意の及び全てのかかるヌクレオチド変異とその結果生じるアミノ酸多型とは、本発明の範囲内であることが意図される。
【0067】
本発明のグルタミン酸菌(C. gutamicum)MP DNAの自然変異体及び非グルタミン酸菌(C. gutamicum)相同体に対応する核酸分子は、本明細書に開示したグルタミン酸菌(C. gutamicum)MP核酸との相同性に基づき、標準技術に従い、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でグルタミン酸菌(C. gutamicum)DNAまたはその部分をハイブリダイゼーションプローブとして使用することによって、単離することができる。従って、他の実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、少なくとも15ヌクレオチドの長さであって配列表の奇数配列番号のヌクレオチド配列を含んでなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものである。他の実施形態においては、本発明の核酸は少なくとも30、50、100、250またはそれ以上のヌクレオチド長である。本明細書に使用される用語「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」は、お互いに少なくとも60%相同的なヌクレオチド配列が通常はお互いにハイブリダイズしたままの状態となるハイブリダイゼーション条件及び洗浄条件を説明することを意図する。好ましくは、その条件はお互いに少なくとも約65%、さらに好ましくは少なくとも約70%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約75%またはそれ以上相同的な配列が通常はお互いにハイブリダイズしたままの状態となる条件である。そのようなストリンジェントな条件は当業者には周知であって、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に見られる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい例は、限定されるものでないが、6 X 塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で約45℃でのハイブリダイゼーション、そして次いで0.2 × SSC、0.1% SDS、50〜65℃での1回以上の洗浄である。好ましくは、本発明のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする本発明の単離された核酸分子は、天然の核酸分子に相当する。本明細書に使用される「天然の」核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド配列(例えば、天然のタンパク質をコードする)を有するRNAまたはDNA分子を意味する。一実施形態においては、核酸は自然のグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPタンパク質をコードする。
【0068】
集団中に存在しうるMP配列の天然変異体に加えて、突然変異により本発明のヌクレオチド配列中に変化を導入して、それにより、MPタンパク質の機能活性を改変することなく、コードされたMPタンパク質のアミノ酸配列に変化を与えうることも、当業者であればさらに理解するであろう。例えば、「非本質的な」アミノ酸残基においてアミノ酸置換を起こすヌクレオチド置換を本発明のヌクレオチド配列について行ってもよい。「非本質的な」アミノ酸残基は、MPタンパク質の活性を改変すること無しに前記MPタンパク質(例えば、配列表の偶数配列番号)の1つの野生型配列から改変することができる残基である。それに対して「本質的な」アミノ酸残基はMPタンパク質活性に必要である。しかし、その他のアミノ酸残基(例えば、MP活性を有するドメインにおいて保存的であるかまたは半保存的である残基)は活性にとって本質的でなく、従って恐らくMP活性を改変することなく改変が許されるであろう。
【0069】
従って、本発明の他の態様は、MP活性にとって本質的でないアミノ酸残基の変化を含有するMPタンパク質をコードする核酸分子に関する。かかるMPタンパク質は、アミノ酸配列が配列表の偶数配列番号の配列とは異なるが、それでもなお本明細書に記載のMP活性の少なくとも1つを保持する。一実施形態においては、単離された核酸分子はタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、そのタンパク質は本発明のアミノ酸配列と少なくとも約50%相同的なアミノ酸配列を含んでなり、かつ、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒することができるかまたは表1に記載の活性の1種以上を有する。好ましくは、核酸分子がコードするタンパク質は、少なくとも配列表の奇数配列番号の1つのアミノ酸配列と少なくとも約50〜60%相同的、さらに好ましくはこれらの配列の1つと少なくとも約60〜70%相同的、なおさらに好ましくはこれらの配列の1つと少なくとも約70〜80%、80〜90%、90〜95%相同的、そして最も好ましくは本発明のアミノ酸配列の1つと少なくとも約96%、97%、98%、または99%相同的である。
【0070】
2つのアミノ酸配列(例えば、本発明のアミノ酸配列の1つ及びその突然変異型)または2つの核酸の相同性パーセントを決定するためには、両配列を最適に比較しうるようにアラインする(例えば、ギャップをタンパク質または核酸の配列に導入して他方のタンパク質または核酸と最適なアラインメントになるようにしてもよい)。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。1つの配列(例えば、本発明のアミノ酸配列の1つ)中のある位置を、他の配列(例えば、そのアミノ酸配列の突然変異型)の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドが占めるときは、両分子はその位置で相同的である(すなわち、本明細書に使用されるアミノ酸または核酸の「相同性」はアミノ酸または核酸の「同一性」と同じ意味である)。両配列間の相同性パーセントは、それらの配列が共有する同一である位置の数の関数である(すなわち、相同性% = 同一である位置の数/位置の合計数 × 100)。
【0071】
本発明のタンパク質配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と相同的なMPタンパク質をコードする単離された核酸分子は、本発明のヌクレオチド配列中に1以上のヌクレオチド置換、付加または欠失を導入してその結果、コードされるタンパク質中に1以上のアミノ酸置換、付加または欠失が導入されるようにすることによって作製することができる。突然変異は、本発明のヌクレオチド配列の1つに、位置指定突然変異誘発及びPCRを介する突然変異誘発などの標準技術により導入することができる。好ましくは、保存的アミノ酸置換を1以上の予想される非本質的アミノ酸残基について行う。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基を類似の側鎖を有するアミノ酸残基と置き換える置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で規定されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)をもつアミノ酸が含まれる。従って、MPタンパク質の予想される非本質的アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基を用いて置き換えることが好ましい。あるいは、他の実施形態においては、突然変異を、飽和突然変異誘発などにより、MPコード配列の全体または部分に沿って無作為に導入し、得られる突然変異体を本明細書に記載のMP活性についてスクリーニングしてMP活性を保持する突然変異体を同定することができる。配列表の奇数配列番号の1つのヌクレオチド配列の突然変異誘発後に、コードされたタンパク質を組換え法により発現させ、該タンパク質の活性を、例えば本明細書に記載のアッセイ(実施例8を参照)を用いて測定することができる。
【0072】
以上記載したMPタンパク質をコードする核酸分子に加えて、本発明の他の態様は、前記核酸分子に対してアンチセンスである単離された核酸分子に関する。「アンチセンス」核酸は、タンパク質をコードする「センス」核酸と相補的(例えば、2本鎖DNA分子のコード鎖と相補的かまたはmRNA配列と相補的)であるヌクレオチド配列を含んでなる。従って、アンチセンス核酸はセンス核酸と水素結合することができる。アンチセンス核酸は、MPコード鎖全体、またはその一部分だけと相補的であってもよい。一実施形態においては、アンチセンス核酸分子は、MPタンパク質をコードするヌクレオチド配列のコード鎖の「コード領域」に対してアンチセンスである。用語「コード領域」は、アミノ酸残基に翻訳されるコドンを含有するヌクレオチド配列の領域を意味する。他の実施形態においては、アンチセンス核酸分子は、MPをコードするヌクレオチド配列のコード鎖の「非コード領域」に対してアンチセンスである。用語「非コード領域」は、コード領域にフランキングする、アミノ酸に翻訳されない5'及び3'配列(すなわち、5'及び3'非翻訳領域とも呼ばれる)を意味する。
【0073】
本明細書に開示したMPをコードするコード鎖配列(例えば、配列表中の奇数配列番号として記載した配列)が与えられると、本発明のアンチセンス核酸は、ワトソン・クリックの塩基対合規則に従って設計することができる。アンチセンス核酸分子は、MP mRNAのコード領域全体と相補的であってもよいが、さらに好ましくはMP mRNAのコード領域または非コード領域の一部分に対してだけアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、MP mRNAの翻訳開始部位の周辺領域と相補的であってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ヌクレオチドの長さであってもよい。本発明のアンチセンス核酸は、化学合成及び酵素ライゲーション反応を利用し、当技術分野で周知の方法を使って構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然のヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を増加するかもしくはアンチセンス核酸とセンス核酸の間で形成される2本鎖の物理的安定性を増加するように設計した様々な修飾ヌクレオチドを用いて、化学合成することができ、例えば、ホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチドを利用することができる。アンチセンス核酸を作製するために利用しうる修飾ヌクレオチドの例は、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β-D-ガラクトシルキューオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、及び2,6-ジアミノプリンが挙げられる。あるいは、アンチセンス核酸は、核酸をアンチセンス方向にサブクローニングした発現ベクター(すなわち、挿入された核酸から転写されるRNAが目的の標的核酸に対してアンチセンス方向であり、これはさらに次のサブセクションで説明する)を利用して生物学的に生産することができる。
【0074】
本発明のアンチセンス核酸分子は、典型的には、細胞に投与するかまたはin situで生成させてそれらをMPタンパク質をコードする細胞mRNA及び/またはゲノムDNAとハイブリダイズさせるか結合させ、それにより、例えば転写及び/または翻訳を阻害することによりタンパク質の発現を阻害するようにする。ハイブリダイゼーションは、安定な2本鎖を形成する従来のヌクレオチド相補性によるものであるか、または、例えば、DNA2本鎖と結合するアンチセンス核酸分子の場合には、二重らせんの主溝における特異的相互作用によるものでありうる。アンチセンス分子を改変して、例えば、アンチセンス核酸分子を細胞表面受容体または抗原と結合するペプチドまたは抗体に連結することにより、選択した細胞表面上に発現される受容体または抗原と特異的に結合するようにしてもよい。アンチセンス核酸分子はまた、本明細書に記載したベクターを用いて細胞に送達することもできる。アンチセンス分子が十分な細胞内濃度となるようにするためには、アンチセンス核酸分子が強力な原核生物、ウイルス、または真核生物プロモーターの制御下に置かれているベクター構築物が、好ましい。
【0075】
さらに他の実施形態においては、本発明のアンチセンス核酸分子は、α-アノマー核酸分子である。α-アノマー核酸分子は相補的RNAと特有の2本鎖ハイブリッドを形成するが、この2本鎖ハイブリッドにおいては、通常のβユニットとは逆に、両鎖がお互いに平行に並ぶ(Gaultierら (1987) Nucleic Acids. Res. 15:6625-6641)。アンチセンス核酸分子はまた、2'-o-メチルリボヌクレオチド(Inoueら (1987) Nucleic Acids Res. 15:6131-6148)またはキメラRNA-DNA類似体(Inoueら (1987) FEBS Lett. 215:327-330)を含んでいてもよい。
【0076】
さらに他の実施形態においては、本発明のアンチセンス核酸はリボザイムである。リボザイムは、そのリボザイムに対する相補性領域をもつmRNAなどの1本鎖核酸を切断できるリボヌクレアーゼ活性をもつ触媒RNA分子である。従って、リボザイム(例えば、ハンマーヘッド・リボザイム(Haselhoff及びGerlach (1988) Nature 334:585-591に記載))を用いてMP mRNA転写物を触媒作用により切断し、それによりMP mRNAの翻訳を阻止することができる。MPをコードする核酸に対して特異性を有するリボザイムは、本明細書に開示したMP DNA(すなわち、配列番号1(RXA02229))のヌクレオチド配列に基づいて設計することができる。例えば、その活性部位のヌクレオチド配列がMPをコードするmRNAの切断すべきヌクレオチド配列と相補的である、テトラヒメナ(Tetrahymena)L-19 IVS RNAの誘導体を構築することができる。例えば、Cechら、米国特許第4,987,071号及びCechら、米国特許第5,116,742号を参照。あるいは、MP mRNAを用いてRNA分子のプールから特定のリボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNAを選択することができる。例えば、Bartel, D.及びSzostak, J.W. (1993) Science 261:1411-1418を参照。
【0077】
あるいは、MP遺伝子発現の阻害には、MPヌクレオチド配列の調節領域(例えば、MPプロモーター及び/またはエンハンサー)と相補的なヌクレオチド配列を標的として、標的細胞中のMP遺伝子の転写を阻止する三重らせん構造を形成させる方法によって行うことができる。例えば、一般的に、Helene, C. (1991) Anticancer Drug Des. 6(6):569-84;Helene, C.ら, (1992) Ann. N.Y. Acad. Sci. 660:27-36;及びMaher, L.J. (1992) Bioassays 14(12):807-15を参照。
【0078】
本発明の他の態様は、メチオニン及び/またはリシン代謝における遺伝子の組合せに関する。好ましい組合せは、metZと、metC、metB(シスタチオニンシンターゼをコードする)、metA(ホモセリン-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする)、metE(メチオニンシンターゼをコードする)、metH(メチオニンシンターゼをコードする;本明細書で配列番号1として記載)、hom(ホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする)、asd(アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする)、ask(アスパルトキナーゼをコードする)及びrxa00657(表4)との組合せである。
【表4】
【0079】
それらの遺伝子の全てを宿主株中で発現させてもよい。しかしまた、上記の遺伝子の一部だけ、例えば、metZとmetA、またはmetZ、metA、metH及びhom、あるいはいずれかの他の可能な組合せを選ぶことも可能である。それら遺伝子のヌクレオチド及びその対応するアミノ酸配列を改変して誘導体を得て、その活性が生理学的条件下で改変されることにより所望のファインケミカルの生産性及び/または収率が増加するようにすることができる。アスパルトキナーゼをコードするask遺伝子のヌクレオチド配列に対する、かかる改変の1つの種類または誘導体は周知である。これらの改変は、アミノ酸リシン及びトレオニンによるフィードバック阻害を排除し、続いてリシンの過剰生産を起こす。好ましい実施形態においては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株において、metH遺伝子またはmetH遺伝子の改変型をask、hom、metA及びmetZまたはこれらの遺伝子の誘導体と組み合わせて用いる。他の好ましい実施形態においては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株において、metHまたはmetH遺伝子の改変型をask、hom、metA、metZ及びmetEまたはこれらの遺伝子の誘導体と組み合わせて用いる。さらに好ましい遺伝子の組合せの実施形態においては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株において、metH遺伝子またはmetH遺伝子の改変型をask、hom、metA及びmetZまたはこれらの遺伝子の誘導体と組合わせるか、あるいはmetHをask、hom、metA、metZ及びmetEまたはこれらの遺伝子の誘導体と組合わせて、さらに硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩などの硫黄供給源およびH2S及び硫化物ならびに誘導体のようなより還元型の硫黄供給源を増殖培地に使用する。またメチルメルカプタン、メタンスルホン酸、チオグリコール酸塩、チオシアン酸塩、チオ尿素、さらにシステインなどの硫黄を含有するアミノ酸、ならびに他の硫黄を含有する化合物のような硫黄供給源を加えることもできる。本発明の他の態様は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株における上記の遺伝子の組合わせの使用であって、前記コリネバクテリウム(Corynebacterium)株が、遺伝子の導入前または導入後に、照射によるかまたは周知の変異原性化学物質により突然変異誘発されて、さらに、高濃度の目的のファインケミカル、例えばリシンまたはメチオニンあるいはメチオニン類似体であるエチオニンもしくはメチルメチオニンなどの所望のファインケミカルの類似体、に対する耐性について選択されたものである、前記使用に関する。他の実施形態においては、上述の遺伝子の組合わせを、特定の遺伝子が破壊されているコリネバクテリウム(Corynebacterium)株で発現させることができる。望ましくない代謝物への炭素流入をもたらすタンパク質をコードする遺伝子の破壊が好ましい。メチオニンが所望のファインケミカルである場合、リシンの生成は都合が悪い。このような場合には、上述の遺伝子の組合わせは、lysA遺伝子(ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼをコードする)またはddh遺伝子(テトラヒドロピコリン酸のメソ-ジアミノピメリン酸への転化を触媒するメソ-ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする)の遺伝子破壊を有するコリネバクテリウム(Corynebacterium)株において扱うべきである。好ましい実施形態においては、上述の遺伝子の有利な組合わせは、それらの遺伝子産物が、所望のファインケミカルをもたらす生合成経路の最終産物または代謝物によりフィードバック阻害されないように、全て改変する。所望のファインケミカルがメチオニンである場合、遺伝子の組合わせを、予め突然変異誘発物質または照射を用いて処理してから上記の耐性について選択された株において発現させることができる。さらに、その株は上記の硫黄供給源の1以上を含有する増殖培地で増殖させるべきである。
【0080】
本発明の他の態様は、トレハロースの代謝に関わる遺伝子の組合わせ、及びトレハロースと他の単糖類、オリゴ糖類または多糖類の代謝に関わる遺伝子の組合わせに関する。トレハロースシンターゼの遺伝子(本明細書で配列番号3と名付けられた)と表5に開示した遺伝子との組合わせが好ましい。
【0081】
本発明の他の態様は、トレハロースシンターゼの遺伝子と、糖輸送に関わる遺伝子(例えばPTS系の遺伝子(表5に開示した)、他の糖輸送系の遺伝子、または細胞から周辺環境中への糖流出を促進するタンパク質の遺伝子など)との組み合わせである。
【表5】
【0082】
本発明の他の態様は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株における上記遺伝子組み合わせの使用であって、そのコリネバクテリウム(Corynebacterium)株が、遺伝子の導入前または導入後に、照射によるかまたは周知の変異原性化学物質により突然変異誘発されて、さらに高濃度の原料(例えばグルコースもしくは他の糖類)または目的のファインケミカル、例えばトレハロースもしくは他の糖類に対する耐性について選択されたものである、前記使用に関する。
【0083】
他の実施形態においては、上記の遺伝子組み合わせを、特定の遺伝子破壊または遺伝子減弱化(すなわち、正常レベルと比較して生物学的活性が低下している遺伝子)を有するコリネバクテリウム(Corynebacterium)株において発現させてもよい。所望のファインケミカルを生成しない代謝経路への炭素流入をもたらすタンパク質をコードする遺伝子の破壊または減弱化が好ましい。トレハロースが所望のファインケミカルである場合、かかる望ましくない代謝経路は例えば解糖系またはペントースリン酸サイクルであってもよい。
【0084】
B. 組換え発現ベクターと宿主細胞
本発明の他の態様は、MPタンパク質(またはその一部分)をコードする核酸または少なくとも1つの遺伝子がMPタンパク質をコードする遺伝子の組み合わせを含有するベクター、好ましくは発現ベクターに関する。本明細書に使用される用語「ベクター」は、連結している別の核酸分子を輸送することができる核酸分子を意味する。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメントをその中に連結できる環状2本鎖DNAループを意味する。ベクターの他のタイプはウイルスベクターであり、この場合、追加のDNAセグメントをウイルスゲノム中にライゲートすることができる。ある種のベクターは、導入された宿主細胞内での自律複製能を有する(例えば、細菌性複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム性哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳類ベクター)は、宿主細胞導入時に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、それが機能しうる形で連結された遺伝子の発現を指令することができる。本明細書においては、かかるベクターを「発現ベクター」と呼ぶ。一般的に、組換えDNA技術において利用される発現ベクターは、しばしばプラスミドの形態である。プラスミドがベクターの形態で最も普通に使用されるので、本明細書においては「プラスミド」と「ベクター」を互換的に使用することができる。しかし、本発明は、同等の機能を果たす他の形態の発現ベクター、例えばウイルスベクター(例えば、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)などを含むことを意図する。
【0085】
本発明の組換え発現ベクターは、本発明の核酸を宿主細胞における核酸の発現に適した形態で含むものであり、すなわち、組換え発現ベクターは、発現に使用する宿主細胞に基づいて選択される1以上の調節配列を、発現される核酸配列と機能しうる形で連結して含むことを意味する。組換え発現ベクター内で「機能しうる形で連結された」は、目的のヌクレオチド配列が(例えば、in vitro転写/翻訳系において、またはベクターが宿主細胞中に導入されたときは宿主細胞において)ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で調節配列と連結されていることを意味することを意図する。用語「調節配列」は、プロモーター、リプレッサー結合部位、アクチベーター結合部位、エンハンサー及び他の発現制御エレメント(例えば、ターミネーター、ポリアデニル化シグナル、またはmRNA二次構造の他のエレメント)を含むことを意図する。そのような調節配列は、例えば、Goeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。調節配列は、多くのタイプの宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を指令する調節配列、及びある特定の宿主細胞においてだけヌクレオチド配列の発現を指令する調節配列を含む。好ましい調節配列は、例えば、cos-、tac-、trp-、tet-、trp-tet-、lpp-、lac-、lpp-lac-、lacIq-、T7-、T5-、T3-、gal-、trc-、ara-、SP6-、arny、SPO2、λ-PR-またはλPL、などのプロモーターであって、これらは細菌において使用するのが好ましい。さらなる調節配列は、例えば、ADC1、MFα、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADHなどの酵母及び真菌由来のプロモーター、CaMV/35S、SSU、OCS、lib4、usp、STLS1、B33、nosまたはユビキチン-もしくはファゼオリン-プロモーターなどの植物からのプロモーターである。人工プロモーターを使用することも可能である。当業者であれば、発現ベクターの設計は、形質転換する宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの因子に依存しうることを理解するであろう。本発明の発現ベクターを宿主細胞中に導入し、それにより本明細書に記載の核酸によりコードされるタンパク質またはペプチド(融合タンパク質またはペプチドを含む)(例えば、MPタンパク質、MPタンパク質の突然変異型、融合タンパク質など)を生産することができる。
【0086】
本発明の組換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞においてMPタンパク質を発現するように設計することができる。例えば、MP遺伝子を、グルタミン酸菌(C. gutamicum)などの細菌細胞において、昆虫細胞において(バキュロウイルス発現ベクターを用いて)、酵母及び他の真菌細胞において(Romanos, M.A.ら (1992) 「酵母における外来遺伝子発現:総説(Foreign gene expression in yeast: a review)」, Yeast 8:423-488;van den Hondel, C.A.M.J.J.ら (1991) 「糸状菌における異種遺伝子発現(Heterologous gene expression in filamentous fungi)」 More Gene Manipulations in Fungi, J.W. Bennet & L.L. Lasure編, p.396-428: Academic Press: San Diego;及びvan den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J. (1991) 「糸状菌用の遺伝子導入系及びベクター開発(Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi)」, Applied Molecular Genetics of Fungi, Peberdy, J.F.ら編, p. 1-28, Cambridge University Press: Cambridgeを参照)、藻類及び多細胞植物細胞において(Schmidt, R.及びWillmitzer, L. (1988) 「高効率のアグロバクテリウム・ツメファシエンス菌を介するシロイヌナズナ葉及び子葉外植片の形質転換(High efficiency Agrobacterium tumefaciens-mediated transformation of Arabidopsis thaliana leaf and cotyledon explants)」 Plant Cell Rep.: 583-586を参照)、または哺乳類細胞において発現させることができる。適当な宿主細胞はさらに、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)にて考察されている。あるいは、組換え発現ベクターからは、例えばT7プロモーター調節配列及びT7ポリメラーゼを用いることにより、in vitroで転写及び翻訳することができる。
【0087】
原核生物におけるタンパク質の発現は、ほとんどの場合、融合または非融合タンパク質の発現を指令する構成性または誘導プロモーターを含有するベクターを用いて行われる。融合ベクターは、その中にコードされているタンパク質に、ある数のアミノ酸を、通常は組換えタンパク質のアミノ末端に(しかし場合によってはC末端にも)付加するかまたは前記タンパク質の適当な領域内に融合させて加える。かかる融合ベクターは、典型的には次の3つの目的を果たす:1)組換えタンパク質の発現を増加すること;2)組換えタンパク質の可溶性を高めること;及び3)アフィニティ精製におけるリガンドとして働くことにより組換えタンパク質の精製を助けること。しばしば、融合発現ベクターにおいては、融合部分と組換えタンパク質との連結部にタンパク質加水分解切断部位を導入し、融合タンパク質の精製に続いて融合部分から組換えタンパク質を分離することを可能にする。かかる酵素及びそれらのコグネイト(cognate)認識配列としては、Xa因子、トロンビン及びエンテロキナーゼが挙げられる。
【0088】
典型的な融合発現ベクターとしては、pGEX(Pharmacia Biotech Inc; Smith, D.B.及びJohnson, K.S. (1988) Gene 67:31-40)、pMAL(New England Biolabs, Beverly, MA)及びpRIT5(Pharmacia, Piscataway, NJ)が挙げられ、それぞれ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはプロテインAを標的組換えタンパク質と融合させる。一実施形態においては、MPタンパク質のコード配列をpGEX発現ベクター中にクローニングして、GST-トロンビン切断部位-Xタンパク質(N末端からC末端へ向かって)を含んでなる融合タンパク質をコードするベクターを作製する。該融合タンパク質はアフィニティクロマトグラフィによりグルタチオン-アガロース樹脂を用いて精製することができる。GSTと融合していない組換えMPタンパク質はトロンビンを用いた融合タンパク質の切断により回収することができる。
【0089】
適当な誘導性の非融合大腸菌(E.coli)発現ベクターの例としては、pTrc(Amannら, (1988) Gene 69:301-315)pLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11、pBdCl、及びpET 11d(Studierら, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 60-89;及びPouwelsら編 (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York IBSN 0 444 904018)が挙げられる。pTrcベクターからの標的遺伝子発現はハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存する。pET 11dベクターからの標的遺伝子発現はT7 gn10-lac融合プロモーターからの転写に依存し、同時発現されるウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)により媒介される。このウイルスポリメラーゼは、lacUV 5プロモーターの転写制御下のT7 gn1遺伝子を有する常在性λプロファージから宿主株BL21(DE3)またはHMS174(DE3)により供給される。他の様々な細菌の形質転換については、適当なベクターを選択することができる。例えば、プラスミドpIJ101、pIJ364、pIJ702及びpIJ361がストレプトマイセス(Streptomyces)属を形質転換するのに有用であるのに対して、プラスミドpUB110、pC194、またはpBD214はバシラス(Bacillus)菌種の形質転換に適当であることが知られている。コリネバクテリウム(Corynebacterium)属中への遺伝子情報の導入に使用されるいくつかのプラスミドとしては、pHM1519、pBL1、pSA77、またはpAJ667が挙げられる(Pouwelsら編. (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York IBSN 0 444 904018)。
【0090】
組換えタンパク質発現を最大化する1つの方法は、組換えタンパク質をタンパク質加水分解して切断する能力の損なわれた宿主細菌において、タンパク質を発現させることである(Gottesman, S., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 119-128)。他の方法は、発現ベクター中に挿入する核酸の核酸配列を改変して、それぞれのアミノ酸に対する個々のコドンが、発現用に選んだグルタミン酸菌(C. gutamicum)などの細菌において優先的に利用されるコドンになるようにすることである(Wadaら (1992) Nucleic Acids Res. 20:2111-2118)。本発明の核酸配列のかかる改変は、標準のDNA合成技術により実施することができる。
【0091】
他の実施形態においては、MPタンパク質発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母S.セレビシエ(S. cerevisiae)での発現用のベクターの例としては、pYepSec1(Baldariら, (1987) Embo J. 6:229-234)、2μ、pAG-1、Yep6、Yep13、pEMBLYe23、pMFa(Kurjan及びHerskowitz, (1982) Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultzら, (1987) Gene 54:113-123)、及びpYES2(Invitrogen Corporation, San Diego, CA)が挙げられる。糸状真菌などの他の真菌において使用するのに適当なベクター及びそのベクターを構築する方法としては、van den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J. (1991) 「糸状菌用の遺伝子導入系及びベクター開発(Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi)」, Applied Molecular Genetics of Fungi, J.F. Peberdy,ら編, p.1-28, Cambridge University Press: Cambridge、ならびにPouwelsら編. (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York (IBSN 0 444 904018)に詳述されているものが挙げられる。
【0092】
あるいは、本発明のMPタンパク質は、バキュロウイルス発現ベクターを利用して昆虫細胞にて発現させることができる。培養昆虫細胞(例えば、Sf 9細胞)におけるタンパク質の発現に利用しうるバキュロウイルスベクターとしては、pAcシリーズ(Smithら (1983) Mol. Cell Biol. 3:2156-2165)及びpVLシリーズ(Lucklow及びSummers (1989) Virology 170:31-39)が挙げられる。
【0093】
他の実施形態においては、本発明のMPタンパク質を単細胞の植物細胞(藻類など)においてまたは高等植物由来の植物細胞(例えば、作物植物などの種子植物)において発現させることができる。植物発現ベクターの例としては、Becker, D., Kemper, E., Schell, J.及びMasterson, R. (1992) 「左側境界配列の近位に位置した選択マーカーをもつ新しい植物バイナリーベクター(New plant binary vectors with selectable markers located proximal to the left border)」, Plant Mol. Biol. 20:1195-1197;及びBevan, M.W. (1984) 「植物形質転換用のバイナリーアグロバクテリウム・ベクター(Binary Agrobacterium vectors for plant transformation)」, Nucl. Acid. Res. 12:8711-8721、に詳述されているものが挙げられ、pLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004、及びpDH51(Pouwelsら編 (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York IBSN 0 444 904018)が挙げられる。
【0094】
さらに他の実施形態においては、本発明の核酸は、哺乳類発現ベクターを利用して哺乳類細胞にて発現される。哺乳類発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed, B. (1987) Nature 329:840)及びpMT2PC(Kaufmanら (1987) EMBO J. 6:187-195)が挙げられる。哺乳類細胞にて使用する場合、発現ベクターの制御機能はしばしばウイルス調節エレメントにより提供される。例えば、一般的に使用されるプロモーターは、ポリオーマウイルス、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス及びサルウイルス40に由来するものである。原核細胞及び真核細胞の両方に対する他の適当な発現系については、Sambrook, J., Fritsh, E.F.,及びManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989の第16章及び第17章を参照すること。
【0095】
他の実施形態においては、組換え哺乳類発現ベクターは、特定の細胞型において優先的に、核酸配列の発現を指令することができる(例えば、組織特異的調節エレメントを用いて核酸を発現させる)。組織特異的調節エレメントは当技術分野では周知である。好適な組織特異的プロモーターの例としては、限定されるものでないが、アルブミンプロモーター(肝特異的;Pinkertら (1987) Genes Dev. 1:268-277)、リンパ系特異的プロモーター(Calame及びEaton (1988) Adv. Immunol. 43:235-275)、特に、T細胞受容体のプロモーター(Winoto及びBaltimore (1989) EMBO J. 8:729-733)及び免疫グロブリン(Banerjiら (1983) Cell 33:729-740;Queen及びBaltimore (1983) Cell 33:741-748)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経フィラメントプロモーター;Byrne及びRuddle (1989) PNAS 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlundら (1985) Science 230:912-916)、及び乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター; 米国特許第4,873,316号及び欧州出願公開第264,166号)が挙げられる。発生的に調節されるプロモーター、例えば、マウスhoxプロモーター(Kessel及びGruss (1990) Science 249:374-379)及びα-フェトプロテインプロモーター(Campes及びTilghman (1989) Genes Dev. 3:537-546)も包含される。
【0096】
本発明はさらに、発現ベクター中にアンチセンス方向にクローニングされた本発明のDNA分子を含んでなる組換え発現ベクターを提供する。すなわち、そのDNA分子は、MP mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子の発現が(DNA分子の転写により)可能になる様式で、調節配列と機能しうる形で連結される。アンチセンス方向にクローニングされた核酸と機能しうる形で連結されて、様々な細胞型においてアンチセンスRNA分子の連続的発現を指令することができる調節配列、例えばウイルスプロモーター及び/またはエンハンサーを選んでもよいし、またはアンチセンスRNAの構成的、組織特異的または細胞型特異的発現を指令する調節配列を選んでもよい。アンチセンス発現ベクターは組換えプラスミド、ファージミドまたは弱毒化ウイルスの形態であってもよく、その場合、その中に含まれるアンチセンス核酸は高効率の調節領域の制御下で生産され、その活性はベクターが導入される細胞型により測定することができる。アンチセンス遺伝子を利用する遺伝子発現の調節についての考察は、Weintraub, H.ら, 「遺伝子分析用の分子ツールとしてのアンチセンスRNA、総説(Antisense RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews)」 - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986を参照すること。
【0097】
本発明の他の態様は、本発明の組換え発現ベクターが導入されている宿主細胞に関する。本明細書では用語「宿主細胞」と「組換え宿主細胞」を互換的に使用する。かかる用語は特定の対象細胞だけでなく、かかる細胞の子孫または潜在的子孫も意味すると理解される。後続世代においては、突然変異または環境影響により何らかの改変が起こりうるので、かかる子孫は、実際には親細胞と同一ではないかもしれないが、それでもなお本明細書で使用されるこの用語の範囲内に含まれる。
【0098】
宿主細胞はいずれの原核細胞または真核細胞であってもよい。例えば、MPタンパク質をグルタミン酸菌(C. gutamicum)などの細菌細胞、昆虫細胞、酵母または哺乳類細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞など)において発現させることができる。他の適当な宿主細胞は当業者には周知である。本発明の核酸及びタンパク質分子のための宿主細胞として好都合に利用しうるグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)に近縁な微生物が表2に記載されている。
【0099】
ベクターDNAは、従来の形質転換またはトランスフェクション技術によって原核細胞または真核細胞中に導入することができる。本明細書に使用される用語「形質転換」及び「トランスフェクション」、「コンジュゲーション」及び「形質導入」は、外来核酸(例えば、(線状DNAまたはRNA(例えば、線状化ベクターまたはベクターなしの単独の遺伝子構築物)またはベクターの形態の核酸(例えば、プラスミド、ファージ、ファスミド、ファージミド、トランスポゾンまたは他のDNA))を宿主細胞中へ導入するための当技術分野で認識されている様々な技術を意味することを意図し、それらの技術としては、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、天然コンピテント性(natural competence)、化学物質媒介導入、またはエレクトロポレーションが挙げられる。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトする適当な方法は、Sambrook,ら, (Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)、及び他の実験室マニュアルに記載されている。
【0100】
哺乳類細胞の安定なトランスフェクションについては、使用する発現ベクターとトランスフェクション技術に依存して、ごく少量の細胞だけがそのゲノム中に外来遺伝子を組み込みうることが知られている。これらの組み込み体を同定しかつ選択するために、一般的に、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性)をコードする遺伝子を、目的の遺伝子とともに宿主細胞に導入する。好ましい選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシン及びメトトレキセートなどの薬物に対する耐性を付与するものが挙げられる。選択マーカーをコードする核酸を、MPタンパク質をコードするのと同じベクターに載せて宿主細胞中に導入してもよいしまたは別のベクターに載せて導入してもよい。導入した核酸を用いて安定的にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択(例えば、選択マーカー遺伝子を組み込んでいる細胞は生存するが、その他の細胞は死滅する)により確認することができる。
【0101】
相同的組換え微生物を作製するために、MP遺伝子を改変する(例えば、機能を破壊する)目的で欠失、付加または置換を導入しておいたMP遺伝子の少なくとも一部分を含有するベクターを調製する。
【0102】
好ましくは、このMP遺伝子はグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)MP遺伝子であるが、近縁の細菌またはさらに哺乳類、酵母または昆虫起源由来の相同体であってもよい。好ましい実施形態においては、このベクターを、相同的組換えによって内因性MP遺伝子が機能的に破壊されるように、設計する(すなわち、機能的タンパク質をもはやコードしない;「ノックアウト」ベクターとも呼ばれる)。あるいは、ベクターを、相同的組換えによって内因性MP遺伝子が突然変異しているかさもなくば改変されているが、なお機能的タンパク質をコードするように設計してもよい(例えば、上流調節領域を改変してそれにより内因性MPタンパク質の発現を改変してもよい)。相同的組換えベクターにおいては、MP遺伝子の改変部分はその5'及び3'末端でMP遺伝子の追加の核酸にフランキングしており、ベクターが担持する外因性MP遺伝子と微生物中の内因性MP遺伝子との間の相同的組換えが起こることを可能にしている。追加のフランキングMP核酸は、内因性遺伝子との相同的組換えを成功させるために十分な長さのものである。典型的には、数キロベースのフランキングDNA(5'及び3'末端の両方について)がベクターに含まれる(例えば、相同的組換えベクターの解説については、Thomas, K.R.,及びCapecchi, M.R. (1987) Cell 51:503を参照)。ベクターを微生物中に導入し(例えば、エレクトロポレーションにより)、そして導入したMP遺伝子が内因性MP遺伝子と相同的に組換えられた細胞を、当技術分野で周知の技術を用いて選択する。
【0103】
他の実施形態においては、導入した遺伝子の発現の調節を可能にする選択された系を含有する組換え微生物を作製することができる。例えば、MP遺伝子をlacオペロンの制御下におくようにしてベクターに組み込むと、IPTGの存在下でのみMP遺伝子の発現が可能になる。かかる調節系は当技術分野では周知である。
【0104】
他の実施形態においては、宿主細胞中の内因性MP遺伝子を破壊して(例えば、相同的組換えまたは当技術分野で周知の他の遺伝子操作手法により)、そのタンパク質産物の発現が起こらないようにする。他の実施形態においては、宿主細胞中の内因性または導入されたMP遺伝子は、1以上の点突然変異、欠失、または逆位により改変されているが、なお機能的MPタンパク質をコードするものである。さらなる他の実施形態においては、微生物中のMP遺伝子の1以上の調節領域(例えば、プロモーター、リプレッサー、またはインデューサー)を改変して(例えば、欠失、末端切断、逆位、または点突然変異により)、MP遺伝子の発現がモジュレートされるようにする。当業者であれば、記載したMP遺伝子及びタンパク質改変を2以上含有する宿主細胞は、本発明の方法を用いて容易に作製することができ、かつ本発明に包含されるものと意味されることは理解するであろう。
【0105】
培養中の原核または真核宿主細胞などの、本発明の宿主細胞を用いて、MPタンパク質を生産する(すなわち、発現させる)ことができる。従って、本発明はさらに、本発明の宿主細胞を用いてMPタンパク質を生産する方法を提供する。一実施形態においては、本方法は、本発明の宿主細胞(MPタンパク質をコードする組換え発現ベクターが導入されているか、またはそのゲノム中に野生型または改変されたMPタンパク質をコードする遺伝子が導入されている)を、適当な培地中でMPタンパク質が生産されるまで培養することを含む。他の実施形態においては、本方法はさらにMPタンパク質を培地または宿主細胞から単離することを含む。
【0106】
C. 単離された MP タンパク質
本発明の他の態様は、単離されたMPタンパク質、及びその生物学的活性部分に関する。「単離された」もしくは「精製された」タンパク質またはその生物学的活性部分は、組換えDNA技術により生産したときは細胞物質を実質的に含まないし、または化学的に合成したときは化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。「細胞物質を実質的に含まない」という用語は、タンパク質が天然でまたは組換えによって生産された細胞の細胞構成成分から分離されたMPタンパク質の調製物を含む。一実施形態においては、「細胞物質を実質的に含まない」という用語は、約30%未満(乾燥重量で)の非MPタンパク質(本明細書においては「汚染タンパク質」とも呼ぶ)、さらに好ましくは約20%未満の非MPタンパク質、なおさらに好ましくは約10%未満の非MPタンパク質、そして最も好ましくは約5%未満の非MPタンパク質を有するMPタンパク質の調製物を含む。MPタンパク質またはその生物学的活性部分を組換えで生産するときに、培地を実質的に含まないことも好ましく、すなわち、培地がタンパク質調製物の容積の約20%未満、さらに好ましくは約10%未満、そしても最も好ましくは約5%未満に相当する。「化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という用語は、タンパク質がタンパク質合成に関わる化学前駆体または他の化学物質から分離されたMPタンパク質の調製物を含む。一実施形態においては、「化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という用語は、約30%未満(乾燥重量で)の化学前駆体または非MP化学物質、さらに好ましくは約20%未満の化学前駆体または非MP化学物質、なおさらに好ましくは約10%未満の化学前駆体または非MP化学物質、そして最も好ましくは約5%未満の化学前駆体または非MP化学物質を有するMPタンパク質の調製物を含む。好ましい実施形態においては、単離されたタンパク質またはその生物学的活性部分は、MPタンパク質を誘導した同じ生物由来の汚染タンパク質を欠如する。典型的には、かかるタンパク質は例えば、グルタミン酸菌(C. glutamicum)などの微生物において、グルタミン酸菌MPタンパク質の組換え発現により生産する。
【0107】
本発明の単離されたMPタンパク質またはその一部分は、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬(nutraceutical)、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を触媒することができるか、または表1に記載の活性の1以上を有する。好ましい実施形態においては、タンパク質またはその部分は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と十分に相同的であるアミノ酸配列を含んでなり、該タンパク質またはその部分はアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を触媒する能力を維持する。タンパク質の部分は好ましくは本明細書に記載した生物学的活性部分である。他の好ましい実施形態においては、本発明のMPタンパク質は、配列表の偶数配列番号に記載したアミノ酸配列を有する。さらに他の好ましい実施形態においては、MPタンパク質は、例えばストリンジェントな条件下で、本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)とハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有する。さらなる他の好ましい実施形態においては、MPタンパク質は、本発明の核酸配列またはその一部分の1つと好ましくは少なくとも約63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上相同的であるヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有する。上記値の中間にある範囲及び同一性値(例えば、70〜90%同一または80〜95%同一)も本発明により包含されると意図する。例えば、上記の値のいずれの組合せを上限及び/または下限として用いる同一性値の範囲は含まれることが意図される。本発明の好ましいMPタンパク質はまた、好ましくは本明細書に記載のMP活性の少なくとも1つを持つ。例えば、好ましい本発明のMPタンパク質は、例えば、ストリンジェントな条件下で本発明のヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされ、かつアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を触媒することができるか、または表1に記載の活性の1以上を有するアミノ酸配列を包含する。
【0108】
他の実施形態においては、MPタンパク質は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と実質的に相同的であり、本発明のアミノ酸配列の1つのタンパク質の機能的活性を保持するが、先のサブセクションIで詳細に説明したように、自然変異または突然変異誘発によりアミノ酸配列が異なる。従って、他の実施形態においては、該MPタンパク質は、本発明の全アミノ酸配列と好ましくは少なくとも約63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上相同的であるアミノ酸配列を含んでなり、かつ本明細書に記載のMP活性の少なくとも1つを有するタンパク質である。上記値の中間にある範囲及び同一性値(例えば、70〜90%同一または80〜95%同一)も本発明により包含されると意図する。例えば、上記の値のいずれの組合せを上限及び/または下限として用いる同一性値の範囲は含まれることが意図される。他の実施形態においては、本発明は、本発明の全アミノ酸配列と実質的に相同的である全長グルタミン酸菌タンパク質に関する。
【0109】
MPタンパク質の生物学的活性部分は、MPタンパク質のアミノ酸配列、例えば、配列表の偶数配列番号のアミノ酸配列から誘導されるアミノ酸配列、または全長MPタンパク質より少ないアミノ酸を含むかもしくはMPタンパク質と相同的である全長タンパク質を含むMPタンパク質と相同的なタンパク質のアミノ酸配列を含んでなるペプチドを含有し、かつMPタンパク質の少なくとも1つの活性を示す。典型的には、生物学的活性部分(ペプチド、例えば、長さが例えば、5、10、15、20、30、35、36、37、38、39、40、50、100またはそれ以上のアミノ酸であるペプチド)は、MPタンパク質の少なくとも1つの活性をもつドメインまたはモチーフを含んでなる。さらに、タンパク質の他の領域が欠失した他の生物学的活性部分を組換え技術により調製し、本明細書に記載の1以上の活性について評価することができる。好ましくは、MPタンパク質の生物学的活性部分は、1以上の選択された生物学的活性を有するドメイン/モチーフまたはその部分を含む。
【0110】
MPタンパク質は、好ましくは、組換えDNA技術により生産する。例えば、該タンパク質をコードする核酸分子を発現ベクター(前記)中にクローニングし、その発現ベクターを宿主細胞(前記)中に導入し、MPタンパク質を宿主細胞に発現させる。次いで、MPタンパク質を細胞から適当な精製スキームにより標準のタンパク質精製技術を利用して単離することができる。組換え発現の代わりに、MPタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを、標準のペプチド合成技術を利用して化学的に合成することができる。さらに、天然のMPタンパク質を細胞(例えば、内皮細胞)から、例えば、抗MP抗体を用いて単離してもよく、前記抗体は標準技術により本発明のMPタンパク質またはその断片を利用して生産することができる。
【0111】
本発明はまた、MPキメラまたは融合タンパク質も提供する。本明細書に使用されるMP「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、非MPポリペプチドと機能的に連結されたMPポリペプチドを含んでなる。「MPポリペプチド」は、MPに対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味するのに対して、「非MPポリペプチド」は、MPタンパク質と実質的に相同的でないタンパク質、例えば、MPタンパク質と異なっていてかつ同じまたは異なる生物から誘導されるタンパク質に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。融合タンパク質内で、「機能的に連結された」という用語は、MPポリペプチド及び非MPポリペプチドがインフレームで(in frame)お互いと融合していることを示すことを意図する。非MPポリペプチドをMPポリペプチドのN末端またはC末端に融合させることができる。例えば、一実施形態においては、融合タンパク質は、MP配列がGST配列のC末端に融合しているGST-MP融合タンパク質である。かかる融合タンパク質は、組換えMPタンパク質の精製を容易にすることができる。他の実施形態においては、融合タンパク質は、そのN末端に異種シグナル配列を含有するMPタンパク質である。ある特定の宿主細胞(例えば、哺乳類宿主細胞)においては、MPタンパク質の発現及び/または分泌は、異種シグナル配列の利用を通じて増加することができる。
【0112】
好ましくは、本発明のMPキメラまたは融合タンパク質は、標準の組換えDNA技術により生産する。例えば、従来の技術により、例えば、ライゲーション用の平滑末端化末端または付着末端化(stagger-ended)末端、適当な末端を提供するための制限酵素消化、適当な場合には付着末端のフィリングイン(filling-in)、望ましくない接合を避けるためのアルカリホスファターゼ処理、及び酵素ライゲーションを用いることにより、様々なポリペプチド配列をコードするDNA断片をインフレームで一緒にライゲートする。他の実施形態においては、自動DNA合成機を含む従来の技術により融合遺伝子を合成することができる。あるいは、2つの連続的遺伝子断片間に相補的オーバーハングを生じるアンカープライマーを用いて遺伝子断片のPCR増幅を実施し、次いでこれらをアニーリングしかつ再増幅してキメラ遺伝子配列を生成することができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology, 編. Ausubelら John Wiley & Sons: 1992を参照)。さらに、融合部分を既にコードした発現ベクター(例えば、GSTポリペプチド)が多数市販されている。MPをコードする核酸をかかる発現ベクター中にクローニングして、融合部分をインフレームでMPタンパク質に連結することができる。
【0113】
MPタンパク質の相同体は、突然変異誘発、例えば別々の点突然変異またはMPタンパク質の末端切断により生成することができる。本明細書に使用される「相同体」という用語は、MPタンパク質の活性のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用するMPタンパク質の変異型を意味する。MPタンパク質のアゴニストは、MPタンパク質の実質的に同じまたはサブセットの生物学的活性を保持することができる。MPタンパク質のアンタゴニストは、例えば、MPタンパク質を含むMPカスケードの下流または上流メンバーと競争して結合することにより、MPタンパク質の天然型の1以上の活性を阻害することができる。このように、本発明のグルタミン酸菌MPタンパク質およびその相同体は、この微生物においてMPタンパク質が役割を果たす1以上の代謝経路の活性をモジュレートすることができる。
【0114】
代わりの実施形態においては、MPタンパク質の相同体は、MPタンパク質の突然変異体、例えば末端切断突然変異体のコンビナトリアルライブラリーをMPタンパク質アゴニストまたはアンタゴニスト活性についてスクリーニングすることにより、同定することができる。一実施形態においては、MP変異体の多様な(variegated)ライブラリーをコンビナトリアル突然変異誘発により核酸レベルで生成し、多様な遺伝子ライブラリーによりコードする。例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素を使って遺伝子配列中にライゲートして、潜在MP配列の縮重セットを個々のポリペプチドとしてあるいはMP配列のセットを含有するさらに大きい融合タンパク質のセット(例えば、ファージディスプレイ用)として発現しうるようにすることにより、MP変異体の多様なライブラリーを生産することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から潜在MP相同体のライブラリーを生産するためには、様々な方法を利用しうる。縮重遺伝子配列の化学合成は、自動DNA合成機で実施し、次いで合成遺伝子を適当な発現ベクター中にライゲートすることができる。遺伝子の縮重セットを利用すると、一混合物で、所望の潜在MP配列のセットをコードする配列の全てを供給することが可能になる。縮重オリゴヌクレオチドを合成する方法は当技術分野では公知である(例えば、Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3;Itakuraら (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323;Itakuraら (1984) Science 198:1056;Ikeら (1983) Nucleic Acid Res. 11:477を参照)。
【0115】
さらに、MPタンパク質コーディングの断片のライブラリーを利用してMP断片の多様な集団を生成し、MPタンパク質の相同体のスクリーニングと続いての選択をすることができる。一実施形態においては、コード配列断片のライブラリーを次の方法で生成することができる;すなわち、MPコード配列の2本鎖PCR断片をヌクレアーゼを用いて1分子当たり約1回だけニッキングが起こる条件下で処理し、2本鎖DNAを変性し、DNAを再生して様々なニック入り(nicked)産物からのセンス/アンチセンス対を含みうる2本鎖DNAを形成し、リフォームした二重らせんからS1ヌクレアーゼを用いる処理により1本鎖部分を除去し、そして得られる断片ライブラリーを発現ベクター中にライゲートする。この方法によって、MPタンパク質の様々なサイズのN末端、C末端及び内部断片をコードする発現ベクターを誘導することができる。
【0116】
当技術分野では、点突然変異または末端切断により作製したコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングする及び選択された特性を有する遺伝子産物用のcDNAライブラリーをスクリーニングする複数の技術が知られている。このような技術を、MP相同体のコンビナトリアル突然変異誘発により生成した遺伝子ライブラリーの迅速スクリーニングに適応することができる。大きな遺伝子ライブラリーをスクリーニングするハイスループット分析に受け入れられる最も広く使われる技術は、典型的には遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクター中にクローニングし、得られるベクターのライブラリーを用いて適当な細胞を形質転換し、そして、所望の活性の検出によってその産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離が容易になる条件下で、コンビナトリアル遺伝子を発現することが挙げられる。ライブラリー中の機能突然変異体の出現度を増大する新技術である再帰アンサンブル突然変異誘発(REM)を、スクリーニングアッセイと一緒に利用してMP相同体を同定することができる(Arkin及びYourvan (1992) PNAS 89:7811-7815;Delgraveら (1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0117】
他の実施形態においては、当技術分野で周知の方法を利用し、細胞に基づくアッセイを使用して多様なMPライブラリーを分析することができる。
【0118】
D. 本発明の用途と方法
本明細書に記載の核酸分子、タンパク質、タンパク質相同体、融合タンパク質、プライマー、ベクター、及び宿主細胞を次の方法の1以上に利用することができる:グルタミン酸菌および関係生物の同定;グルタミン酸菌に関係する生物のゲノムのマッピング;目的のグルタミン酸菌配列の同定及び局在;進化研究;機能のために必要なMPタンパク質領域の決定;MPタンパク質活性のモジュレーション;MP経路の活性のモジュレーション;及びファインケミカルなどの所望の化合物の細胞生産のモジュレーション。本発明のMP核酸分子は、様々な用途を有する。第一に、これらを利用してグルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)またはその近接関係種である生物を同定することができる。また、これらを利用して、微生物の混合集団中のグルタミン酸菌またはその関係種の存在を同定することができる。本発明は、多数のグルタミン酸菌遺伝子の核酸配列を提供し;グルタミン酸菌のこの生物にユニークな領域にまたがるプローブを用いて、単一または混合集団の培養物の抽出されたゲノムDNAを、ストリンジェントな条件下で探索することにより、この生物が存在するかどうかを確認することができる。グルタミン酸菌それ自身はヒトに対して病原性はないが、この菌は、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)などのヒト病原体である種と関係がある。ジフテリア菌は、急速に発症し急性、発熱性の感染症で、局部及び全身病理の双方に関わるジフテリアの原因となる菌である。この疾患においては、局部病変は上気道に発症しかつ上皮細胞の壊死障害に関わる;この桿菌は毒素を分泌し、毒素はこの病変部を通して身体の遠隔の感受性組織まで播種される。タンパク質合成の阻害により、心臓、筋肉、末梢神経、副腎、腎臓、肝臓及び脾臓を含むこれらの組織において退行性変化が起こり、疾患の全身病理をもたらす。ジフテリアは、アフリカ、アジア、東欧及び旧ソビエト連邦の独立国を含む世界の多くの部分で高い発生率をもち続けている。後者2領域においては、進行中のジフテリアの流行により、1990年以後少なくとも5000人の死者が出ている。
【0119】
一実施形態においては、本発明は、被験者におけるジフテリア菌の存在または活性を同定する方法を提供する。この方法は、被験者における本発明の核酸またはアミノ酸配列(例えば、配列表のそれぞれ奇数または偶数配列番号に記載の配列)の1以上を検出し、それにより被験者におけるジフテリア菌の存在または活性を検出することを含む。グルタミン酸菌とジフテリア菌は関係のある細菌であり、グルタミン酸菌の核酸及びタンパク質分子の多くはジフテリア菌核酸及びタンパク質分子と相同的であり、従って、被験者におけるジフテリア菌を検出するために利用することができる。
【0120】
本発明の核酸及びタンパク質分子はまた、ゲノムの特定領域に対するマーカーとしても役立ちうる。これはゲノムのマッピングにだけでなく、グルタミン酸菌タンパク質の機能研究にも利用しうる。例えば、特定のグルタミン酸菌DNA結合タンパク質が結合するゲノム領域を同定するためには、グルタミン酸菌ゲノムを消化し、その断片をDNA結合タンパク質とともにインキュベートしてもよい。タンパク質と結合する断片をさらに本発明の核酸分子、好ましくは容易に検出しうる標識をもつ本発明の核酸分子を用いて探索してもよい;かかる核酸分子のゲノム断片との結合は、グルタミン酸菌のゲノムマップに対する断片の局在を可能にし、かつ異なる酵素を用いて複数回実施すると、タンパク質が結合する核酸配列の迅速な決定が容易になる。さらに、本発明の核酸分子は、関係種の配列と十分に相同的であるので、これらの核酸分子はブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum)などの関係細菌のゲノムマップ構築用マーカーとして役立ちうる。
【0121】
本発明のMP核酸分子はまた、進化及びタンパク質構造研究に有用である。本発明の分子が関与する代謝プロセスは、広範囲の原核及び真核細胞により利用される;本発明の核酸分子の配列を他の生物由来の類似酵素をコードする配列と比較することにより、該生物の進化の関連性を評価することができる。同様に、かかる比較は、配列のどの領域が保存されるか及びどれが保存されないかの評価を可能にして、酵素の機能にとって本質的であるタンパク質の領域を決定するのを助けることができる。この決定形式は、タンパク質工学研究にとって価値あるものであり、タンパク質が機能を失うことなく突然変異誘発を許容し得る指標を与えうる。
【0122】
本発明のMP核酸分子の操作により、野生型MPタンパク質と機能差を有するMPタンパク質を生産することができる。これらのタンパク質は効率または活性が改良されていてよく、細胞中に通常よりも多数存在してもよく、あるいは効率または活性が低下していてもよい。
【0123】
本発明はまた、MPタンパク質の活性をモジュレートする分子をスクリーニングする方法であって、MPタンパク質のタンパク質それ自身または基質もしくは結合パートナーと相互作用させることによるか、または本発明のMP核酸分子の転写もしくは翻訳をモジュレートすることによる前記方法も提供する。かかる方法においては、1以上の本発明のMPタンパク質を発現する微生物を1以上の試験化合物と接触させ、そしてMPタンパク質の活性もしくは発現レベルに対するそれぞれの試験化合物の影響を評価する。
【0124】
グルタミン酸菌の大規模発酵培養から単離しようとする所望のファインケミカルがアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースであるとき、組換え遺伝的機構による本発明の1以上のタンパク質の活性または活性の効率のモジュレーションは、これらのファインケミカルの1つの生産に直接影響を与えうる。例えば、所望のアミノ酸の生合成経路における酵素の場合、酵素の効率または活性の改良(遺伝子の多重コピーの存在を含む)は、所望のアミノ酸の生産または生産効率を増加するに違いない。その合成が所望のアミノ酸の合成と競合するアミノ酸の生合成経路における酵素の場合、この酵素の効率または活性のなんらかの減少(遺伝子の欠失を含めて)は、中間化合物及び/またはエネルギーの競合が減少することによって所望のアミノ酸の生産または生産効率を増加するに違いない。所望のアミノ酸の分解経路の酵素の場合、酵素の効率または活性のいかなる減少もその分解の減少によって所望のアミノ酸の収率または生産効率をより高めるに違いない。最後に、所望のアミノ酸の生合成に関わる酵素がこの酵素がもはやフィードバック阻害の能力がなくなるように突然変異誘発すると、所望のアミノ酸の収率または生産効率が増加するに違いない。同じことは、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースの代謝に関わる本発明の生合成及び分解酵素に適用されるに違いない。
【0125】
同様に、所望のファインケミカルが上記の化合物の1つでないときであっても、本発明のタンパク質の1つの活性のモジュレーションは、グルタミン酸菌の大規模培養からの化合物の生産の収率及び/または効率にさらに影響を与えうる。いずれの生物であってもその代謝経路は密接に相互関係している;1つの経路により使われる中間物はしばしば異なる経路により補給される。酵素発現と機能は異なる代謝プロセスからの化合物の細胞レベルに基づいて調節されうるのであって、アミノ酸及びヌクレオチドなどの基礎成長に必要な分子の細胞レベルは大規模培養の微生物の生存可能性に決定的な影響を与えうる。従って、例えば、もはやフィードバック阻害に反応しないようにするかまたは効率もしくは代謝回転を改良するようなアミノ酸生合成酵素のモジュレーションは、1以上のアミノ酸の細胞レベルの増加をもたらしうる。順次、このアミノ酸プールの増加は、タンパク質合成に必要な分子だけでなく、多数の他の生合成経路に中間物及び前駆体として利用される分子の補給の増加を提供する。もしある特定のアミノ酸が細胞内で限られているのであれば、その生産の増加は、細胞の多数の他の代謝反応を実施する能力を増加するとともにその細胞が全ての種類のタンパク質をさらに効率よく生産できるようにし、恐らく大規模培養における細胞の全体の増殖率または生存能力を増加しうる。生存可能性の増加は発酵培養における所望のファインケミカルを生産することができる細胞数を改良し、それによりこの化合物の収率を増加する。同様な方法は本発明の分解酵素の活性モジュレーションによっても、例えば、分解酵素が、所望の化合物の生合成に重要であるかまたは大規模培養で細胞をより効率的に増殖し再生するであろう細胞化合物の分解を触媒しないかまたはより低効率でしか触媒しないようにすることによっても可能である。本発明のある特定の分子の分解活性を最適化するかまたは生合成活性を低下させることも、グルタミン酸菌からのある特定のファインケミカルの生産に対して有利な影響を有し得ることは強調されるべきである。例えば、1以上の中間物に対して、所望の化合物の生合成経路と競合するある経路の生合成酵素の活性効率を減少することにより、これらの中間物のより多い量を所望の産物の転化に利用しうるに違いない。同様な状況は、本発明の1以上のタンパク質の分解能力または効率の改良にも言えることであろう。
【0126】
所望の化合物の収率増加を得るMPタンパク質に対する突然変異誘発ストラテジーのこの上記のリストは、限定されるものでなく;これらの突然変異誘発ストラテジーの変法は当業者には容易に明らかであろう。これらの機構により、本発明の核酸及びタンパク質分子を利用して、突然変異MP核酸及びタンパク質分子を発現するグルタミン酸菌または関係細菌株を生成し、所望の化合物の収率、生産、及び/または生産効率を改良することができる。この所望の化合物は、グルタミン酸菌のいずれの天然産物であってもよく、生合成経路の最終産物及び天然の代謝経路の中間物、ならびに天然ではグルタミン酸菌の代謝に存在しないが、本発明のグルタミン酸菌株により生産される分子が挙げられる。グルタミン酸菌株により生産される好ましい化合物はトレハロース及び/またはアミノ酸L-リシン及びL-メチオニンである。
【0127】
一実施形態においては、メチオニン生合成経路の第3酵素であるシスタチオニンβ-リアーゼをコードするmetC遺伝子をグルタミン酸菌から単離した。遺伝子の翻訳産物は他の生物由来のmetC遺伝子の翻訳産物と有意な相同性を示さなかった。そのmetC遺伝子を含有するプラスミドをグルタミン酸菌中へ導入すると、シスタチオニンβ-リアーゼの活性が5倍増加した。今回MetCと名づけた、35,574ダルトンのタンパク質産物をコードし325個のアミノ酸からなるタンパク質産物は、先に報じられたaecDと2つの異なるアミノ酸が存在することを除くと同一であった。aecD遺伝子のように、複数コピーが存在すると、metC遺伝子は毒性のリシン類似体であるS-(β-アミノエチル)-システインに対する耐性を付与した。しかし、遺伝的及び生化学的確証は、metC遺伝子産物の自然活性はグルタミン酸菌のメチオニン生合成を媒介することを示唆する。metCの突然変異体株を構築すると、その株はメチオニン原栄養性を示した。突然変異体株はS-(β-アミノエチル)-システインに対する耐性を示す能力を完全に喪失した。これらの結果は、グルタミン酸菌において、トランス硫化(transsulfuration)に加えて、他の生合成経路である直接スルフヒドリル化(sulfhydrylation)経路がメチオニンの平行な生合成経路として機能することを示す。
【0128】
さらに他の実施形態においては、このさらなるスルフヒドリル化経路はO-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼにより触媒されることも示される。この経路の存在は、対応するmetZ(またはmetY)遺伝子と酵素の単離により実証される。真核生物の中で、真菌及び酵母種は、トランス硫化と直接スルフヒドリル化経路の両方を有することが報じられている(Marzluf, 1997)。今までのところ、両方の経路を持つ原核生物は見出されてない。単一のリシンへの生合成経路しか持たない大腸菌(E.coli)と異なり、グルタミン酸菌はこのアミノ酸に対して2つの平行な生合成経路を持つ。その態様では、グルタミン酸菌のメチオニンへの生合成経路はリシンへの生合成経路と類似している。
【0129】
遺伝子metZを見出したが、それはこの遺伝子がmetAの上流領域に位置していたからである。本発明者らは、メチオニン生合成の第1ステップを触媒する酵素をコードする遺伝子であるmetA(Park, S.-D., Lee, J.-Y., Kim, Y., Kim, J.-H.,及びLee, H.-S. (1998) 「グルタミン酸菌のホモセリンアセチルトランスフェラーゼをコードするメチオニン生合成遺伝子metAの単離と分析(Isolation and analysis of metA, a methionine biosynthetic gene encoding homoserine acetyltransferase in Corynebacterium glutamicum)」. Mol. Cells 8, 286-294)の上流及び下流領域の配列を決定して、可能性のある他のmet遺伝子を見出した。metZとmetAはオペロンを形成するようである。MetAとMetZをコードする遺伝子の発現は対応するポリペプチドの過剰生産を導き、これはゲル電気泳動により示すことができる。
【0130】
驚くべきことに、metZクローンはメチオニン栄養要求性大腸菌(Escherichia coli)metB突然変異体株を補完することができる。これは、metZのタンパク質産物が、metBのタンパク質産物により触媒されるステップをバイパスできるステップを触媒することを示す。
【0131】
MetZも破壊すると、突然変異体株はメチオニン原栄養性を示した。グルタミン酸菌metB及びmetZ二重突然変異体も構築した。二重突然変異体はメチオニン栄養要求性である。従って、metZは、メチオニン生合成のスルフヒドリル化経路の1ステップであるO-アセチル-ホモセリンからホモシステインへの反応を触媒するタンパク質をコードする。グルタミン酸菌は、メチオニン生合成のトランス硫化とスルフヒドリル化経路の両方を含有する。
【0132】
metZをグルタミン酸菌中へ導入すると、47,000ダルトンのタンパク質の発現を得た。metZとmetAをグルタミン酸菌に組み合わせて導入すると、metAとmetZタンパク質の出現がゲル電気泳動で示された。もしコリネバクテリウム(Corynebacterium)株がリシン過剰生産体であれば、metZとmetAを含有するプラスミドの導入はより低いリシン力価をもたらしたがホモシステインとメチオニンの蓄積が検出される。
【0133】
他の実施形態においては、metZとmetAを、アスパラギン酸セミアルデヒドからホモセリンへの転化を触媒するホモセリンデヒドロゲナーゼをコードするhom遺伝子と一緒に、グルタミン酸菌株中に導入した。異なる生物由来の異なるhom遺伝子をこの実験に選んだ。グルタミン酸菌hom遺伝子、ならびに大腸菌(E.coli)もしくは枯草菌(Bacillus subtilis)などの他の原核生物由来のhom遺伝子、または、さらにサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)、アシュビア・ゴシピイ(Ashbya gossypii)または藻類、高等植物または動物などの真核生物のhom遺伝子を利用してもよい。hom遺伝子は、アスパラギン酸などのアスパラギン酸ファミリー、リシン、トレオニンまたはメチオニンのアミノ酸の生合成経路に存在するいずれの代謝物が媒介するフィードバック阻害に対しても、非感受性であるのがよい。かかる代謝物は、例えば、アスパルテート、リシン、メチオニン、トレオニン、アスパルチルリン酸、アスパラギン酸セミアルデヒド、ホモセリン、シスタチオニン、ホモシステインまたはこの生合成経路に存在するいずれかの他の代謝物である。代謝物に加えて、ホモセリンデヒドロゲナーゼは、全てのこれらの代謝物の類似体による阻害に対してまたはさらに、この代謝に関わる他の化合物、例えば、システインなどの他のアミノ酸またはビタミンB12とその全ての誘導体ならびにS-アデノシルメチオニンとその代謝物及び誘導体及び類似体(anologon)などの補因子に対して非感受性であるのがよい。ホモセリンデヒドロゲナーゼのこれらの全て、これらの一部またはこれらの化合物の1つだけに対する非感受性は、自然の性質であるかまたは化学物質または照射または他の突然変異誘発物質を用いる古典的突然変異及び選択から生じた1以上の突然変異からの結果でありうる。hom遺伝子中への突然変異はまた、遺伝子技術、例えば部位特異的点突然変異の導入を用いてまたはMPまたはMPをコードするDNA配列について先に記載したいずれかの方法により、導入してもよい。
【0134】
hom遺伝子をmetZ及びmetA遺伝子と組み合わせて、リシン過剰生産体であるグルタミン酸菌株中に導入すると、リシン蓄積が減少しホモシステイン及びメチオニン蓄積が増進した。もしリシンを過剰生産するグルタミン酸菌株を用いかつddh遺伝子またはlysA遺伝子の破壊を導入して後にhom遺伝子並びにmetZ及びmetAを一緒に含有するDNAを用いて形質転換すると、さらなるホモシステインとメチオニン濃度の増進を達成できる。ホモシステインとメチオニンの過剰生産は様々な硫黄供給源を用いて可能であった。硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びまたさらにH2S及び硫化物と誘導体のような還元硫黄供給源を利用することもできた。またメチルメルカプタン、チオグリコレート、チオシアネート、チオ尿素、システインなどの含硫アミノ酸、及び他の含硫化合物などの有機硫黄供給源を利用してホモシステインとメチオニン過剰生産を達成することもできる。
【0135】
他の実施形態においては、metC遺伝子をグルタミン酸菌株中に先に記載した方法を用いて導入した。metC遺伝子をmetB、metA及びmetAなどの他の遺伝子と一緒に株中に形質転換してもよい。さらにhom遺伝子を加えてもよい。もしhom遺伝子、metC、metA及びmetB遺伝子をベクター上で組み合わせてグルタミン酸菌株中に導入すると、ホモシステインとメチオニンの過剰生産を達成した。ホモシステインとメチオニンの過剰生産は、様々な硫黄供給源を利用することが可能であった。硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びまたさらにH2S及び硫化物と誘導体などの還元硫黄供給源を利用することもできた。またメチルメルカプタン、チオグリコレート、チオシアネート、チオ尿素、システインなどの含硫アミノ酸、及び他の含硫化合物などの有機硫黄供給源を利用してホモシステインとメチオニン過剰生産を達成することもできる。
【0136】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、これらは限定するものであるとして解釈すべきでない。本出願の全体にわたって引用した全ての参考文献、特許出願、特許、公開特許出願、表、及び配列表の内容は本明細書に参照により組み入れられる。
【実施例】
【0137】
実施例1:グルタミン酸菌 ATCC 13032 の全ゲノム DNA の調製
グルタミン酸菌(ATCC 13032)の培養物をBHI培地(Difco)中で激しく振とうしつつ一夜30℃にて増殖した。細胞を遠心分離により収穫し、上清を捨て、細胞を5mlバッファーI(元来の培養容積の5%、示した容積は全て培養容積100mlに対して計算した)に再懸濁した。バッファーIの組成:140.34 g/l スクロース、2.46 g/l MgSO4 x 7H2O、10 ml/l KH2PO4溶液(100 g/l、KOHを用いてpH 6.7に調整)、50 ml/l M12濃縮物、10 g/l (NH4)2SO4、1 g/l NaCl、2 g/l MgSO4 x 7H2O、0.2 g/l CaCl2、0.5 g/l 酵母抽出物(Difco), 10 ml/l 微量元素混合物(200 mg/l FeSO4 x H2O、10 mg/l ZnSO4 x 7 H2O、3 mg/l MnCl2 x 4 H2O、30 mg/l H3BO3、20 mg/l CoCl2 x 6 H2O、1 mg/l NiCl2 x 6 H2O、3 mg/l Na2MoO4 x 2 H2O)、500 mg/l 錯化剤(EDTAまたはクエン酸)、100 ml/l ビタミン混合物(0.2 mg/l ビオチン、0.2 mg/l 葉酸、20 mg/l p-アミノ安息香酸、20 mg/l リボフラビン、40 mg/l パントテン酸Ca、140 mg/l ニコチン酸、40 mg/l ピリドキソール塩酸塩、200 mg/l myo-イノシトール)。リゾチームを懸濁液に加えて最終濃度2.5 mg/mlとした。ほぼ4時間37℃でインキュベーション後、細胞壁を分解し、得られるプロトプラストを遠心分離により収穫する。ペレットを5ml バッファーIを用いて1回及び5ml TEバッファー(10 mM Tris-HCl、1 mM EDTA, pH 8)を用いて1回洗浄した。ペレットを4ml TEバッファーに再懸濁し、0.5 ml SDS溶液(10%)及び0.5 ml NaCl溶液(5 M)を加えた。プロテイナーゼKを最終濃度200μg/mlまで加えた後、懸濁液を37℃にて約18時間インキュベートする。DNAを、標準的方法を用いてフェノール、フェノール-クロロホルム-イソアミルアルコール及びクロロホルム-イソアミルアルコールにより抽出して精製した。次いでDNAを1/50容積の3 M 酢酸ナトリウム及び2容積のエタノールを加えて沈降させ、次いで-20℃にて30分間インキュベーションを行い、そしてSS34ローター(Sorvall)を用いて高速遠心分離機で12,000 rpmにて遠心分離を30分間行った。DNAを20 μg/ml RNアーゼAを含有する1 ml TEバッファーに溶解し、そして4℃にて1000 ml TEバッファーに対して少なくとも3時間透析した。この時間の間、バッファーを3回交換した。透析したDNA溶液の0.4 mlのアリコートに、0.4 mlの2 M LiCl及び0.8 mlのエタノールを加える。-20℃にて30分間インキュベーションの後、DNAを遠心分離(13,000 rpm、Biofuge Fresco, Heraeus, Hanau, Germany)により採集した。DNAペレットをTEバッファー中に溶解した。この方法により調製したDNAは、サザンブロッティングまたはゲノムライブラリーの構築を含むあらゆる目的に利用できた。
【0138】
実施例2:大腸菌における、グルタミン酸菌 ATCC13032 のゲノムライブラリーの構築
実施例1に記載のとおり調製したDNAを用いて、既知の十分確立された方法(例えば、Sambrook, J.ら (1989) 「分子クローニング:研究室マニュアル(Molecular Cloning : A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory Press、またはAusubel, F.M.ら (1994) 「分子生物学の現行プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, John Wiley & Sons、を参照)に従って、コスミド及びプラスミドライブラリーを構築した。
【0139】
いずれのプラスミドまたはコスミドを利用できた。特に利用されるのは、プラスミドpBR322(Sutcliffe, J.G. (1979) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75:3737-3741);pACYC177(Change & Cohen (1978) J. Bacteriol 134:1141-1156)、pBSシリーズのプラスミド(pBSSK+、pBSSK-及びその他;Stratagene, LaJolla, USA)、またはSuperCos1(Stratagene, LaJolla, USA)またはLorist6(Gibson, T.J., Rosenthal A.及びWaterson, R.H. (1987) Gene 53:283-286)などのコスミドであった。特にグルタミン酸菌に利用する遺伝子ライブラリーは、プラスミドpSL109を用いて構築することができる(Lee, H.-S.及びA. J. Sinskey (1994) J. Microbiol. Biotechnol. 4: 256-263)。
【0140】
実施例3: DNA 配列決定とコンピュータ使用の機能解析
実施例2に記載のゲノムライブラリーを利用し、標準的方法、特にABI377配列決定機を用いる連鎖終結法(例えば、Fleischman, R.D.ら (1995) 「インフルエンザRd.菌の全ゲノム無作為配列決定とアセンブリー(Whole-genome Random Sequencing and Assembly of Haemophilus Influenzae Rd.)」, Science, 269:496-512を参照)によりDNA配列決定を行った。次のヌクレオチド配列をもつ配列決定プライマーを使用した:5'-GGAAACAGTATGACCATG-3'または5'-GTAAAACGACGGCCAGT-3'。
【0141】
実施例4: in vivo 突然変異誘発
グルタミン酸菌のin vivo突然変異誘発は、その遺伝情報の完全性を維持する能力が損なわれた大腸菌または他の微生物(例えば、桿菌種(Bacillus spp.)またはサッカロミセス・セレビシアエなどの酵母)を介するプラスミド(または他のベクター)DNAの継代により実施することができる。典型的な突然変異誘発遺伝子株は、DNA修復系の遺伝子(例えば、mutHLS、mutD、mutT、他;参照としてRupp, W.D. (1996) 「DNA修復機構(DNA repair mechanisms)」, in: Escherichia coli and Salmonella, p. 2277-2294, ASM: Washingtonを参照)に突然変異を有する。かかる株は当業者に周知されている。かかる株の利用は、例えば、Greener, A.及びCallahan, M. (1994) Strategies 7: 32-34に説明されている。
【0142】
実施例5:大腸菌とグルタミン酸菌との間の DNA 導入
複数のコリネバクテリウムとブレビバクテリウム(Brevibacterium)種は、自律的に複製する内因性プラスミド(例えば、pHM1519またはpBL1など)を含有する(総説については、例えば、Martin, J.F.ら (1987) Biotechnology, 5:137-146を参照)。大腸菌とグルタミン酸菌についてのシャトルベクターは、大腸菌に対する標準ベクター(Sambrook, J.ら (1989), 「分子クローニング:研究室マニュアル(Molecular Cloning : A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory PressまたはAusubel, F.M.ら(1994) 「分子生物学の現行プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, John Wiley & Sons)を利用し、それにグルタミン酸菌に対する複製起点及びグルタミン酸菌由来の好適なマーカーを加えることにより容易に構築することができる。かかる複製起点は好ましくは、コリネバクテリウム及びブレビバクテリウム種から単離された内因性プラスミドから取得する。これらの種の形質転換マーカーとして特に利用されるのは、カナマイシン耐性(Tn5またはTn903トランスポゾンから誘導されるものなど)またはクロラムフェニコール(Winnacker, E.L. (1987) 「遺伝子からクローンへ:遺伝子技術入門(From Genes to Clones - Introduction to Gene Technology)」, VCH, Weinheim)に対する遺伝子である。大腸菌とグルタミン酸菌の両方で複製し、遺伝子過剰発現を含めた複数の目的に使用できる多様なシャトルベクター構築の数多くの例が文献にみられる(参考として、例えば、Yoshihama, M.ら (1985) J. Bacteriol. 162:591-597、Martin J.F.ら (1987) Biotechnology, 5:137-146及びEikmanns, B.J.ら (1991) Gene, 102:93-98を参照)。
【0143】
標準の方法を用いて目的の遺伝子を上記シャトルベクターの1つにクローニングし、かかるハイブリッドベクターをグルタミン酸菌の株中に導入することが可能である。グルタミン酸菌の形質転換は、プロトプラスト形質転換(Kastsumata, R.ら (1984) J. Bacteriol. 159306-311)、エレクトロポレーション(Liebl, E.ら (1989) FEMS Microbiol. Letters, 53:399-303)及び特殊なベクターを利用する場合には、コンジュゲーション(例えば、Schafer, Aら (1990) J. Bacteriol. 172:1663-1666に記載)によっても達成することができる。プラスミドDNAをグルタミン酸菌から調製し(当技術分野で周知の標準の方法を用いて)、それを大腸菌中に形質転換することにより、グルタミン酸菌に対するシャトルベクターを大腸菌へ導入することも可能である。この形質転換ステップは標準の方法を用いて実施しうるが、NM522などのMcr欠失大腸菌株を利用するのが有利である(Gough & Murray (1983) J. Mol. Biol. 166:1-19)。
【0144】
遺伝子を、pCG1(米国特許第4,617,267号)もしくはその断片、場合によってはTN903からのカナマイシン耐性遺伝子を含んでなるプラスミドを用いて、グルタミン酸菌株に過剰発現させることができる(Grindley, N.D.及びJoyce, C.M. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77(12):7176-7180)。さらに、遺伝子を、プラスミドpSL109を用いて、グルタミン酸菌株に過剰発現させることができる(Lee, H.-S.及びA. J. Sinskey (1994) J. Microbiol. Biotechnol. 4:256-263)。
【0145】
複製可能なプラスミドの利用とは別に、遺伝子過剰発現はまた、ゲノム中への組み込みにより達成することもできる。グルタミン酸菌または他のコリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム種におけるゲノム組み込みは、ゲノム領域との相同的組換え、制限エンドヌクレアーゼを介する組み込み(REMI)(例えば、ドイツ特許第19823834号を参照)、またはトランスポゾンの利用を通じてなどの周知の方法により達成することができる。目的の遺伝子の活性をモジュレートすることも可能であって、位置指向性方法(相同的組換えなど)または無作為事象に基づく方法(トランスポゾン突然変異誘発またはREMIなど)を利用する配列改変、挿入、または欠失によって調節領域(例えば、プロモーター、リプレッサー、及び/またはエンハンサー)を改変することにより前記活性をモジュレートする。転写ターミネーターとして機能する核酸配列をまた、1以上の本発明の遺伝子のコード領域に対して3'に挿入することもできる;かかるターミネーターは当技術分野では周知であり、例えば、Winnacker, E.L. (1987) From Genes to Clones - Introduction to Gene Technology VCH: Weinheimに記載されている。
【0146】
実施例6:突然変異体タンパク質の発現の評価
形質転換した宿主細胞中の突然変異タンパク質の活性の観察は、突然変異体タンパク質が野生型タンパク質と類似の様式でかつ類似の量で発現されるという事実による。突然変異体遺伝子の転写レベル(遺伝子産物への翻訳に利用しうるmRNAの量の指標)を確認する有用な方法は、ノーザンブロット(参考のために、例えば、Ausubelら (1988) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley: New Yorkを参照)を実施することであって、この場合、目的の遺伝子と結合するように設計したプライマーを検出可能なタグ(通常は放射性または化学発光性)で標識し、生物の培養物の全RNAを抽出してゲル上に泳動し安定なマトリックスへ転写しそしてこのプローブとともにインキュベートしたときに、プローブの結合と結合量がこの遺伝子に対するmRNAの存在とまた量を示す。この情報は突然変異体遺伝子の転写度の確証となる。全細胞RNAは、グルタミン酸菌から、Bormann, E.R.ら (1992) Mol. Microbiol. 6: 317-326に記載のような当技術分野で周知の複数の方法により調製することができる。
【0147】
このmRNAから翻訳されたタンパク質の存在または相対量を評価するために、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びウェスタンブロットなどの標準技術を利用することができる(例えば、Ausubelら (1988) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley: New Yorkを参照)。この方法においては、全細胞タンパク質を抽出し、ゲル電気泳動により分離し、ニトロセルロースなどのマトリックスへ転写し、そして所望のタンパク質と特異的に結合する抗体などのプローブとともにインキュベートする。このプローブは一般的に化学発光または比色用標識を用いてタグ付けされていて、容易に検出することができる。観察される標識の存在と量は、細胞中に存在する所望の突然変異体タンパク質の存在と量を示す。
【0148】
実施例7:大腸菌及び遺伝的に改変したグルタミン酸菌の増殖 - 培地と培養条件
大腸菌株は慣例的にMB及びLBブロス中でそれぞれ増殖される(Follettie, M.T., Peoples, O., Agoropoulou, C.,及びSinskey, A J. (1993) 「コリネバクテリウム・フラブムN13 ask-asdオペロンの遺伝子構造と発現(Gene structure and expression of the Corynebacterium flavum N13 ask-asd operon)」. J. Bacteriol. 175, 4096-4103)。大腸菌に対する最小培地は、それぞれM9及び改変MCGCである(Yoshihama, M., Higashiro, K., Rao, E.A., Akedo, M., Shanabruch, W G., Follettie, M.T., Walker, G.C.,及びSinskey, A.J. (1985) 「グルタミン酸菌用のクローニングベクター系(Cloning vector system for Corynebacterium glutamicum)」. J. Bacteriol. 162, 591-507)。グルコースを加えて最終濃度1%にした。抗生物質を次の量(1ミリリットル当たりマイクログラム):アンピシリン、50;カナマイシン、25;ナリジクス酸、25加えた。アミノ酸、ビタミン、及び他の補充剤を次の量:メチオニン、9.3 mM;アルギニン、9.3 mM;ヒスチジン、9.3 mM;チアミン、0.05 mM加えた。大腸菌を慣例的に37℃にてそれぞれ増殖した。
【0149】
遺伝的に改変したコリネバクテリウムを合成または天然増殖培地中で培養した。両方とも多数の異なるコリネバクテリウム用の増殖培地が周知であり、容易に利用しうる(Liebら (1989) Appl. Microbiol. Biotechnol., 32:205-210;von der Ostenら (1998) Biotechnology Letters, 11:11-16;ドイツ特許第4,120,867号;Liebl (1992) 「コリネバクテリウム属(The Genus Corynebacterium)」, in: The Procaryotes, Volume II, Balows, A.ら, 編 Springer-Verlag)。これらの培地は1以上の炭素供給源、窒素供給源、無機塩、ビタミン及び微量元素から成る。好ましい炭素供給源は単糖、二糖、または多糖などの糖類である。例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デンプンまたはセルロースは非常に良い炭素供給源として役立つ。糖を培地に糖蜜または他の糖精製からの副産物などの複雑な化合物を介して補給することも可能である。異なる炭素供給源の混合物を補給することも有利でありうる。他の可能な炭素供給源はメタノール、エタノール、酢酸または乳酸などのアルコール及び有機酸である。窒素供給源は通常有機または無機窒素化合物、またはこれらの化合物を含有する物質である。窒素供給源の例としては、アンモニアガス、NH4Clもしくは(NH4)2SO4などのアンモニア塩、NH4OH、硝酸塩、尿素、アミノ酸、またはコーンスチープリカー、ダイズ粉、ダイズタンパク質、酵母抽出物、肉エキス及びその他などの複雑な窒素供給源が挙げられる。
【0150】
ホモシステインとメチオニンなどの含硫アミノ酸の過剰生産は、様々な硫黄供給源を利用することが可能であった。硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩およびまたさらにH2S及び硫化物などの還元硫黄供給源ならびに誘導体を利用することができる。またメチルメルカプタン、チオグリコレート、チオシアネート、チオ尿素、システインなどの含硫アミノ酸、及び他の含硫化合物などの有機硫黄供給源を利用してホモシステインとメチオニン過剰生産を達成することもできる。
【0151】
培地に含まれうる無機塩化合物としては、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅及び鉄の塩化物、亜リン酸塩または硫酸塩が挙げられる。キレート化合物を培地に加えて溶液中に金属イオンを保持することができる。特に有用なキレート化合物としては、カテコールもしくはプロトカキン酸塩などのジヒドロキシフェノール、またはクエン酸などの有機酸が挙げられる。典型的な培地は、ビタミンまたは増殖促進剤などの他の増殖因子も含有し、例えば、ビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテネート及びピリドキシンが挙げられる。増殖因子及び塩は、しばしば酵母抽出物、糖蜜、コーンスチープリカー、その他などの複雑な培地成分に由来する。培地化合物の正確な組成は、直接、実験に強く依存するものであり、それぞれの特定の事例に対して個々に決定される。培地最適化についての情報は、教科書「応用微生物生理学、実用的手法(Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach)」(編 P.M. Rhodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) pp.53-73, ISBN 0 19 963577 3)において入手可能である。標準1(Merck)またはBHI(grain heart infusion)(DIFCO)などの市販の増殖培地を選択することも可能である。
【0152】
全ての培地成分を、熱(1.5 bar、121℃にて20分間)によるかまたはた滅菌濾過により滅菌する。成分は、一緒に滅菌するかまたは、必要であれば、別々に滅菌することができる。全ての培地成分が増殖開始時に存在してもよいしまたは任意に連続的または回分式に加えてもよい。
【0153】
培養条件はそれぞれの実験に対して別々に規定する。温度は15℃〜45℃の間の範囲にすべきである。温度は一定に保持してもまたは実験中に変更してもよい。培地のpHは、5〜8.5の範囲、好ましくはほぼ7.0とすべきであり、バッファーを培地に加えて維持することができる。この目的のためのバッファーの例は、燐酸カリウムバッファーである。MOPS、HEPES、ACESその他などの合成バッファーを、代わりにまたは同時に使用してもよい。増殖中にNaOHまたはNH4OHを加えて、一定の培養pHを維持することも可能である。酵母抽出物などの複雑な培地成分を利用するのであれば、多数の複雑な化合物は高いバッファー能力を有するので、追加のバッファーの必要性は低下しうる。もし微生物を培養するのに発酵槽を利用すれば、pHは気体アンモニアを用いて制御することもできる。
【0154】
インキュベーション時間は通常数時間〜数日の範囲である。この時間は、ブロス中に蓄積される産物量が最大となるように選択する。開示した増殖実験は、マイクロタイタープレート、ガラス管、ガラスフラスコ、または異なるサイズのガラスもしくは金属発酵槽などの様々な容器で実施することができる。多数のクローンをスクリーニングするには、微生物を、マイクロタイタープレート、ガラス管、またはバッフルの有るまたは無い振とうフラスコ中で培養すべきである。好ましくは100mlの振とうフラスコを使用し、所要の増殖培地を10%(容積で)で満たす。フラスコは、回転振とう器(振幅25mm)上で、100〜300 rpmの速度範囲を用いて振とうすべきである。蒸発損失は、湿めり大気を維持することにより減少させうる;あるいは、蒸発損失の数学的補正を実施すべきである。
【0155】
もし遺伝的に改変されたクローンを試験するのであれば、非改変対照クローンまたはいずれのインサートも含まない基礎プラスミドを含有する対照クローンも試験すべきである。30℃にてインキュベートしておいた、CMプレート(10 g/l グルコース、2.5 g/l NaCl、2 g/l 尿素、10 g/l ポリペプトン、5 g/l 酵母抽出物、5 g/l 肉エキス、22 g/l NaCl、2 g/l 尿素、10 g/l ポリペプトン、5 g/l 酵母抽出物、5 g/l 肉エキス、22 g/l 寒天、2M NaOHによりpH 6.8)などの寒天プレート上で増殖した細胞を用いて、培地にO.5〜1.5のOD600まで接種する。培地の接種は、CMプレートからのグルタミン酸菌細胞の生理食塩水懸濁液の導入かまたはこの細菌の液状前培養の添加により実施する。
【0156】
実施例8:突然変異体タンパク質の機能の in vitro 分析
酵素の活性及び反応速度論的パラメーターの決定は、当技術分野において十分確立されている。いずれの所与の改変された酵素の活性を決定する実験であっても、野生型酵素の特異的活性に対して仕立てなければならないが、それは十分、当業者の能力内のことである。酵素についての一般的な総説、ならびに、構造、反応速度論、原理、方法、適用に関する特定の詳細及び多くの酵素活性の決定例は、例えば、次の参考文献に見出すことができる:Dixon, M.及びWebb, E.C., (1979) Enzymes. Longmans: London;Fersht, (1985) Enzyme Structure and Mechanism. Freeman: New York;Walsh, (1979) Enzymatic Reaction Mechanisms. Freeman: San Francisco;Price, N.C., Stevens, L. (1982) Fundamentals of Enzymology. Oxford Univ. Press: Oxford;Boyer, P.D.編 (1983) The Enzymes, 第3版 Academic Press: New York;Bisswanger, H., (1994) Enzymkinetik, 第2版 VCH: Weinheim (ISBN 3527300325);Bergmeyer, H.U., Bergmeyer, J., Grassl, M.編 (1983-1986) Methods of Enzymatic Analysis, 第3版, vol. I-XII, Verlag Chemie: Weinheim;及びUllmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry (1987) vol. A9, 「酵素(Enzymes)」. VCH: Weinheim, p. 352-363。
【0157】
DNAと結合するタンパク質の活性は、DNAバンドシフトアッセイ(ゲル遅延アッセイ(gel retardation assays)とも呼ぶ)などの複数の十分確立された方法により測定することができる。かかるタンパク質の他の分子の発現に与える効果は、レポーター遺伝子アッセイ(Kolmar, H.ら (1995) EMBO J. 14: 3895-3904及びその引用文献に記載のものなど)を用いて測定することができる。レポーター遺伝子試験系は周知であり、原核及び真核細胞の両方における適用に対してβ-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質、及び複数の他の酵素などの酵素を用いて確立されている。
【0158】
膜輸送タンパク質の活性の決定は、Gennis, R.B. (1989) 「細孔、チャネル及び輸送体(Pores, Channels and Transporters)」, in Biomembranes, Molecular Structure and Function, Springer: Heidelberg, p.85-137; 199-234;及び270-322、に記載のものなどの技術により実施することができる。
【0159】
実施例9:所望の産物の生産に対する突然変異体タンパク質の影響の分析
所望の化合物(アミノ酸など)の生産に対するグルタミン酸菌の遺伝子改変の効果は、改変した微生物を好適な条件(例えば、先に記載した条件)下で増殖し、所望の産物(すなわちアミノ酸)の生産の増加について培地及び/または細胞成分を分析することにより、評価することができる。かかる分析技術は当業者には周知であり、分光分析、薄層クロマトグラフィ、様々な種類の染色法、酵素的及び微生物学的方法、及び高性能液体クロマトグラフィなどの分析クロマトグラフィが挙げられる(例えば、Ullman, Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A2, p.89-90及びp.443-613, VCH: Weinheim (1985);Fallon, A.ら, (1987) 「生化学におけるHPLCの応用(Applications of HPLC in Biochemistry)」 in: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, vol. 17;Rehmら (1993) Biotechnology, vol. 3, Chapter III: 「産物回収と精製(Product recovery and purification)」, p. 469-714, VCH: Weinheim;Belter, P.A.ら (1988) Bioseparations: downstream processing for biotechnology, John Wiley and Sons;Kennedy, J.F.及びCabral, J.M.S. (1992) Recovery processes for biological materials, John Wiley and Sons;Shaeiwitz, J.A.及びHenry, J.D. (1988) 「生化学的分離(Biochemical separations)」 in: Ulmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. B3, Chapter 11, p. 1-27, VCH: Weinheim;ならびにDechow, F.J. (1989) Separation and purification techniques in biotechnology, Noyes Publications、を参照)。
【0160】
発酵の最終産物の測定に加えて、中間物及び副産物などの所望の化合物の生産に利用される代謝経路の他成分を分析して、化合物の生産の全効率を決定することも可能である。分析方法としては、培地の栄養レベル(例えば、糖類、炭水化物、窒素供給源、リン酸塩、及び他のイオン)の測定、バイオマス組成及び増殖の測定、生合成経路の共通代謝物の生産の分析、ならびに発酵中に生産されるガスの測定が挙げられる。これらの測定の標準的な方法は、Applied Microbial Physiology, A Practical Approach, P.M. Rhodes及びP.F. Stanbury, 編, IRL Press, p.103-129; 131-163;及び165-192 (ISBN: 0199635773) ならびにそれに引用された参考文献に概説されている。
【0161】
実施例10:グルタミン酸菌培養物からの所望の産物の精製
グルタミン酸菌細胞または上記の培養物の上清からの所望の産物の回収は、当技術分野で周知の様々な方法により実施することができる。所望の産物が細胞から分泌されないのであれば、細胞を低速遠心分離により培養物から収穫し、細胞を、機械力または音波処理などの標準技術により溶解してもよい。細胞デブリを遠心分離により除去しかつ可溶性タンパク質を含有する上清画分を保持して、所望の化合物をさらに精製する。もし産物がグルタミン酸菌細胞から分泌されるのであれば、細胞を低速遠心分離により培養物から除去しかつ上清画分を保持して、さらに精製する。
【0162】
いずれの精製方法からの上清画分も好適な樹脂を用いたクロマトグラフィに供し、その際、所望の分子はクロマトグラフィ樹脂上に保持されるのに対してサンプル中の多くの不純物が保持されないか、または不純物は樹脂により保持されるのに対してサンプルが保持されない。かかるクロマトグラフィステップを、同じまたは異なるクロマトグラフィ樹脂を用いて必要であれば繰り返すことができる。当業者であれば、精製する特定の分子に対して適当なクロマトグラフィ樹脂の選択及びそれらの最も有効な適用に十分精通しているであろう。精製産物は濾過または限外濾過により濃縮することができ、産物の安定性が最高となる温度で貯蔵できる。
【0163】
当技術分野で公知である様々な多数の精製法があり、前述の精製法に限定されるものでない。かかる精製技術は、例えば、Bailey, J.E. & Ollis, D.F. Biochemical Engineering Fundamentals, McGraw-Hill: New York (1986)に記載されている。
【0164】
単離された化合物の同一性と純度は、当技術分野の標準技術により評価することができる。これらの技術としては、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)、分光分析法、染色法、薄層クロマトグラフィ、NIRS、酵素アッセイ、または微生物学的方法が挙げられる。かかる分析法は、Patekら (1994) Appl. Environ. Microbiol. 60:133-140;Malakhovaら (1996) Biotekhnologiya 11:27-32;およびSchmidtら (1998) Bioprocess Engineer. 19:67-70;Ulmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, (1996) vol. A27, VCH: Weinheim, p.89-90, p.521-540, p.540-547, p.559-566, p.575-581及びp.581-587;Michal, G. (1999) Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John Wiley and Sons;Fallon, A.ら (1987) 「生化学におけるHPLCの応用(Applications of HPLC in Biochemistry)」 in: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, vol. 17、に総括されている。
【0165】
実施例11:本発明の遺伝子配列の分析
2つの配列間の配列比較と相同性パーセント決定は当技術分野では公知の技術であって、Karlin及びAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68のアルゴリズムであって、Karlin及びAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77で改変されたものなどの数学アルゴリズムを利用して実施することができる。かかるアルゴリズムを、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込む。BLASTヌクレオチド検索をNBLASTプログラム、スコア=100、ワード長(wordlength)=12を用いて実施し、本発明のMP核酸分子と相同的なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索をXBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施し、本発明のMPタンパク質分子と相同的なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的でギャップ付き(gapped)アラインメントを得るために、Altschulら, (1997) Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402に記載のギャップ付きBLASTを利用してもよい。BLAST及びギャップ付きBLASTプログラムを利用するときに、当業者であれば、分析される特定の配列に対して、プログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のパラメーターを最適化する方法を知っているであろう。
【0166】
配列の比較に利用される数学アルゴリズムの他の例は、Meyers及びMiller ((1988) Comput. Appl. Biosci. 4:11-17)のアルゴリズムである。かかるアルゴリズムを、GCG配列アラインメントソフトウエアパッケージの一部分であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込む。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用するとき、PAM120重み剰余表(weight residue table)、12のギャップ長ペナルティ、及び4のギャップペナルティを利用することができる。配列分析のためのさらなるアルゴリズムが当技術分野では公知であり、Torelli及びRobotti (1994) Comput. Appl. Biosci. 10:3-5に記載のADVANCE及びADAM.;ならびにPearson及びLipman (1988) P.N.A.S. 85:2444-8に記載のFASTAが挙げられる。
【0167】
2つのアミノ酸配列間の相同性パーセントはまた、GCGソフトウエアパッケージ(http://www.gcg.comで入手しうる)のGAPプログラムを利用し、Blosum 62マトリックスまたはPAM250マトリックス、ならびに12、10、8、6、または4のギャップ重み(gap weight)、及び2、3、または4の長さ重み(length weight)を用いて実施することもできる。2つの核酸配列の間の相同性パーセントは、GCGソフトウエアパッケージのGAPプログラムを利用し、50のギャップ重み及び3の長さ重みなどの標準パラメーターを用いて実施することができる。
【0168】
本発明の遺伝子配列とGenbankに存在する遺伝子配列との比較分析を、当技術分野で公知の技術(例えば、Bexevanis及びOuellette編 (1998) Bioinformatics: A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins. John Wiley and Sons: New Yorkを参照)を利用して実施した。
【0169】
本発明の遺伝子配列をアミノ酸配列に基づいて既知の遺伝子と比較した;この際、利用したプログラムはCLUSTAL(Higginsら (1996) 「多重配列アラインメントに対するCLUSTALの利用(Using CLUSTAL for multiple sequence alignments)」, Methods in Enzymology 266, 383-402)であり、標準パラメーター(ペアワイズ・アラインメントパラメーター(PAIRWISE ALIGNMENT PARAMETERS):ギャップペナルティー=3、K-タップル(K-tuple)(ワード)サイズ=1、トップ・ダイアゴナル(top diagonal)数=5、ウインドウサイズ=5;マルチプル・アラインメントパラメーター(MULTIPLE ALIGNMENT PARAMETERS):ギャップオープニングペナルティ(Gap Opening Penalty)=10.00、ギャップエクステンションペナルティ(Gap Extension Penalty)=0.05、タンパク質重みマトリックス=PAM250)を使用した。2配列の間の相同性は、全配列における同一位置の数の関数である(すなわち、相同性%=同一位置の数/全位置の数 x 100)。
【0170】
この分析の結果を表3に記載する。
【0171】
実施例12: DNA マイクロアレイの構築と操作
本発明の配列はさらに、DNAマイクロアレイの構築と適用に利用しうる(DNAアレイの設計、方法論、及び用途は、当技術分野では周知であり、例えば、Schena, M.ら (1995) Science 270:467-470;Wodicka, L.ら (1997) Nature Biotechnology 15:1359-1367;DeSaizieu, A.ら (1998) Nature Biotechnology 16:45-48;及びDeRisi, J.L.ら (1997) Science 278: 680-686に記載されている)。
【0172】
DNAマイクロアレイは、ニトロセルロース、ナイロン、ガラス、シリコーン、または他の材料からなる固体のまたはフレキシブルな支持体である。核酸分子を順序に従ってその表面に付着させることができる。適当な標識を付した後、他の核酸または核酸混合物を、固定した核酸分子とハイブリダイズさせ、標識を利用して規定された領域にハイブリダイズした分子の個々のシグナル強度をモニターしかつ測定することができる。この方法論により、適用した核酸サンプルまたは混合物中の全てもしくは選択した核酸の相対的もしくは絶対的量の同時定量が可能になる。従って、DNAマイクロアレイにより、平行して多数の(6800個以上の)核酸の発現の分析が可能となる(例えば、Schena, M. (1996) BioEssays 18(5): 427-431を参照)。
【0173】
本発明の配列を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応などの核酸増幅反応により、1以上のグルタミン酸菌遺伝子の規定した領域を増幅できるオリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。5’または3’オリゴヌクレオチドプライマーのまたは適当なリンカーの選択と設計により、得られるPCR産物と前記の(及びまた、例えば、Schena, M.ら (1995) Science 270:467-470に記載の)支持媒質の表面との共有結合が可能になる。
【0174】
核酸マイクロアレイはまた、Wodicka, L.ら (1997) Nature Biotechnology 15:1359-1367に記載のin situオリゴヌクレオチド合成により構築することもできる。フォトリソグラフィー方法により、マトリックスの正確に規定した領域を光に露出させる。光分解性(photolabile)である保護基はそれにより活性化されてヌクレオチド付加を受けるが、光からマスクされた領域はいずれの改変も受けない。続いて保護と光活性化のサイクルにより、規定した位置に異なるオリゴヌクレオチドの合成が可能になる。固相オリゴヌクレオチド合成により、本発明の遺伝子の小さい規定した領域をマイクロアレイ上に合成することができる。
【0175】
サンプルまたはヌクレオチドの混合物中に存在する本発明の核酸分子をマイクロアレイとハイブリダイズさせてもよい。これらの核酸分子を標準方法により標識することができる。簡単に説明すると、核酸分子(例えばmRNA分子またはDNA分子)を、例えば、逆転写またはDNA合成中に、同位元素的にまたは蛍光標識したヌクレオチドを組み込むことにより標識する。標識した核酸とマイクロアレイとのハイブリダイゼーションは記載されている(例えば、Schena, M.ら (1995)、前掲;Wodicka, L.ら (1997)、前掲;及びDeSaizieu A.ら (1998)、前掲)。ハイブリダイズした分子の検出と定量は、特定の組み込まれた標識によって合わせる。放射性標識は、例えば、Schena, M.ら((1995) 前掲)、に記載のように検出することができるし、蛍光標識は、例えば、Shalonら((1996) Genome Research 6:639-645)の方法により検出することができる。
【0176】
本発明の配列をDNAマイクロアレイ技術に適用すると、上記のとおり、グルタミン酸菌または他のコリネバクテリア(Corynebacteria)の異なる株の比較分析が可能になる。例えば、個々の転写物プロフィールに基づく鎖間変動の研究、ならびに病原性、生産性及びストレス耐性などの特定の及び/または所望の株特性にとって重要である遺伝子の同定が、核酸アレイ方法論により容易になる。また、発酵反応の過程における本発明の遺伝子の発現プロフィールの比較が、核酸アレイ技術を利用して可能である。
【0177】
実施例13:細胞タンパク質集団の動力学の分析(プロテオミクス( Proteomics ))
本発明の遺伝子、組成物、及び方法を適用して、「プロテオミクス」と名付けられた、タンパク質集団の相互作用及び動力学を研究することができる。目的のタンパク質集団としては、限定されるものでないが、グルタミン酸菌の全タンパク質集団(例えば、他の生物のタンパク質集団と比較して)、特定の環境または代謝条件下で(例えば、発酵中、高温もしくは低温で、または高pHもしくは低pHで)活性のあるタンパク質、または増殖及び発生の特定相の間に活性があるタンパク質が挙げられる。
【0178】
タンパク質集団は、ゲル電気泳動などの様々な周知の技術により分析することができる。細胞タンパク質は、例えば、溶解または抽出により得ることができるし、かつ様々な電気泳動技術を用いてお互いに分離することができる。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は、タンパク質を主にそれらの分子量に基づいて分離する。等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動(IEF-PAGE)はタンパク質をそれらの等電点(アミノ酸配列だけでなく、タンパク質の翻訳後修飾も反映する)により分離する。タンパク質分析のさらに好ましい他の方法は2-Dゲル電気泳動として知られる、IEF-PAGEとSDS-PAGEの両方の連続的組み合わせである(例えば、Hermannら (1998) Electrophoresis 19:3217-3221;Fountoulakisら (1998) Electrophoresis 19:1193-1202;Langenら (1997) Electrophoresis 18:1184-1192;Antelmannら (1997) Electrophoresis 18:1451-1463に記載)。またキャピラリーゲル電気泳動などの他の分離技術をタンパク質分離に利用してもよく、かかる技術は当技術分野で周知である。
【0179】
これらの方法論により分離したタンパク質を、染色または標識などの標準技術により可視化することができる。好適な染色は当技術分野で公知であり、クーマシーブリリアントブルー、銀染色、またはシプロルビー(Sypro Ruby)(Molecular Probes)などの蛍光色素が挙げられる。放射性標識したアミノ酸または他のタンパク質前駆体(例えば、35S-メチオニン、35S-システイン、14C-標識アミノ酸、15N-アミノ酸、15NO3 または15NH4 +または13C-標識アミノ酸)をグルタミン酸菌の培地中に含ませると、これらの細胞由来のタンパク質の標識が、それらの分離前に可能となる。同様に、蛍光標識を使用することができる。これらの標識したタンパク質は、先に記載した技術に従って、抽出し、単離し、そして分離することができる。
【0180】
これらの技術によって可視化したタンパク質は、使用した色素または標識の量を測定することによりさらに分析することができる。所与のタンパク質の量を、例えば、光学的方法を用いて定量的に測定することができるし、かつ同じゲル中のまたは他のゲル中の他のタンパク質の量と比較することができる。ゲル上のタンパク質の比較は、例えば、光学的比較により、分光法により、画像走査により及びゲルの分析により、または写真フィルム及びスクリーンを使用して行なうことができる。かかる技術は当技術分野で周知である。
【0181】
いずれの所与のタンパク質の同一性を決定するために、直接配列決定または他の標準技術を使用することができる。例えば、N及び/またはC末端アミノ酸配列決定(エドマン分解など)を用いてもよく、質量分析(特に、MALDIまたはESI技術(例えば、Langenら (1997) Electrophoresis 18: 1184-1192)を参照))を用いてもよい。本明細書で提供したタンパク質配列は、これらの技術によるグルタミン酸菌タンパク質の同定に利用することができる。
【0182】
これらの方法により得た情報を用いて、様々な生物学的条件(とりわけ、例えば、異なる生物、発酵の時点、培地条件、または異なる生息場所)由来の異なるサンプル間のタンパク質存在、活性、または改変のパターンを比較することができる。かかる実験のみから、または他の技術と組み合わせて得られるデータを、所与(例えば、代謝)の状況において、ファインケミカルを生産する株の生産性を増加するかまたはファインケミカルの生産効率を増加する様々な生物の挙動を比較するなどの様々な適用に利用することができる。
【0183】
均等物
当業者であれば、本明細書に記載した本発明の特定の実施形態の多くの均等物を理解しうるし、または慣例的な程度の実験を用いて確かめることができるであろう。かかる均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるものであると意図する。
【0001】
グルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)由来の新規MPタンパク質をコードする、MP核酸分子と名付けた、単離された核酸分子について記載されている。本発明はまた、アンチセンス核酸分子、MP核酸分子を含有する組換え発現ベクター、及び発現ベクターが導入されている宿主細胞も提供する。本発明はさらにまた、単離されたMPタンパク質、突然変異したMPタンパク質、融合タンパク質、抗原性ペプチドを提供し、かつグルタミン酸菌(C. glutamicum)からの所望の化合物の生産をこの生物のMP遺伝子の遺伝子操作に基づいて改良する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
細胞内の天然代謝プロセスのある特定の産物及び副産物は、食品、飼料、化粧品、及び製薬産業を含む広い産業系列において用途がある。これらの分子はまとめて「ファインケミカル」と呼ばれ、有機酸、タンパク質原性及び非タンパク質原性の両方のアミノ酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、脂質及び脂肪酸、ジオール、炭水化物、芳香族化合物、ビタミン及び補因子、ならびに酵素が挙げられる。これらの生産は、大量のある特定の所望の分子を生産しかつ分泌するように開発された細菌の大規模培養を通して実施するのが最も好都合である。この目的のために特に有用な一生物は、グラム陽性で非病原性のグルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)である。株選択を通して、一連の所望の化合物を生産する複数の突然変異株が開発されている。しかし、ある特定の分子の生産が改良された株の選択は、時間のかかるかつ困難な方法である。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、様々な用途を有する新規の細菌核酸分子を提供する。これらの用途としては、ファインケミカルを生産するために利用しうる微生物の同定、グルタミン酸菌(C. glutamicum)もしくは関連細菌におけるファインケミカル生産のモジュレーション、グルタミン酸菌もしくは関連細菌のタイピングもしくは同定、グルタミン酸菌(C. glutamicum)ゲノムをマッピングするための基準点として及び形質転換のマーカーとしての用途が挙げられる。これらの新規核酸分子は、本明細書において代謝経路(MP)タンパク質と呼ぶタンパク質をコードする。
【0004】
グルタミン酸菌(C. glutamicum)はグラム陽性、好気性菌であって、通常、産業において様々なファインケミカルの大量生産用に利用され、そしてまた、炭化水素(石油漏れなど)の分解用及びテルペノイドの酸化用にも利用されている。本発明のMP核酸分子は、従って、例えば、発酵法によりファインケミカルを生産することができる微生物を同定するために利用してもよい。本発明のMP核酸分子の発現のモジュレーション、または本発明のMP核酸分子の配列の改変を利用して、微生物からの1以上のファインケミカルの生産をモジュレートすること(例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)種からの1以上のファインケミカルの収率または生産を改良すること)ができる。
【0005】
本発明のMP核酸分子を利用して、グルタミン酸菌(C. glutamicum)またはその近接関係種である生物を同定することも、または微生物の混合集団中のグルタミン酸菌(C. glutamicum)またはその近接関連種の存在を同定することもできる。本発明は複数のグルタミン酸菌(C. glutamicum)遺伝子の核酸配列を提供する;特有のまたは混合した微生物集団のある培養の抽出されたゲノムDNAを、ストリンジェントな条件下で、グルタミン酸菌(C. glutamicum)遺伝子の、この生物にとって特有である一領域に架かるプローブを用いて探索することにより、この生物が存在するかどうかを確かめることができる。グルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)それ自身は非病原性であるが、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)(ジフテリアの病原因子)などのヒトに病原性のある種と関係があり;かかる生物の検出は臨床上重要である。
【0006】
本発明のMP核酸分子はまた、グルタミン酸菌(C. glutamicum)ゲノムまたは関連生物のマッピング用基準点としても役立ちうる。同様に、これらの分子、または変種またはそれらの部分は、遺伝子組換えしたコリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム種に対するマーカーとして役立ちうる。
【0007】
本発明の新規核酸分子がコードするMPタンパク質は、例えば、ある特定のファインケミカルの代謝に関わる酵素ステップを実施することができ、前記ファインケミカルとしては、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースが挙げられる。Sinskeyら、米国特許第4,649,119号に開示されたグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)に使用するためのクローニングベクター、ならびにグルタミン酸菌(C. glutamicum)及び関係ブレビバクテリウム種(例えば、ラクトフェルメンタム(lactofermentum))を遺伝子操作する技術(Yoshihamaら, J. Bacteriol. 162:591-597 (1985);Katsumataら, J. Bacteriol. 159:306-311 (1984);及びSantamariaら, J. Gen. Microbiol. 130: 2237-2246 (1984))が利用可能であるので、本発明の核酸分子をこの生物の遺伝子操作に利用してこの生物を1以上のファインケミカルのさらに優れたさらに効率的な生産者にすることができる。
【0008】
ファインケミカルのこの生産または生産効率の改良は、本発明の遺伝子の操作による直接効果に因るものでも、またはそのような操作の間接効果に因るものであってもよい。特に、アミノ酸、ビタミン、補因子、ヌクレオチド、及びトレハロースのグルタミン酸菌(C. glutamicum)代謝経路の改変は、1以上のこれらの所望の化合物のこの生物からの総生産に直接影響を与えうる。例えば、トレハロースもしくはリシンもしくはメチオニン生合成経路タンパク質の活性の最適化またはトレハロースもしくはリシンもしくはメチオニン分解経路タンパク質の活性の低減は、かかる遺伝子操作した生物からのトレハロースもしくはリシンもしくはメチオニン生合成経路タンパク質の生産の収率及び/または効率の増加をもたらしうる。これらの代謝経路に関わるタンパク質の改変はまた、所望のファインケミカルの生産または生産効率に間接的影響も与えうる。例えば、所望の分子の生産に必要な中間物と競合する反応を排除するかまたは所望の化合物に対する特定の中間物の生産に必要な経路を最適化することができる。さらに、例えば、アミノ酸、ビタミン、またはヌクレオチドの生合成または分解のモジュレーションにより、微生物の高速で増殖しかつ分裂する全能力を増加し、かくして、培養中の微生物の数及び/または生産能力を増加し、それにより所望のファインケミカルの可能な収率を増加することができる。
【0009】
本発明の核酸及びタンパク質分子を利用して、1以上の所望のファインケミカルのグルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)からの生産または生産効率を直接改良することができる。当技術分野で周知の遺伝子組換え技術を用いて、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースに対する1以上の本発明の生合成または分解酵素を遺伝子操作してその機能をモジュレートすることができる。例えば、生合成酵素の効率を改良するか、またはそのアロステリック制御領域を破壊して該化合物の生産のフィードバック阻害を阻止することができる。同様に、分解酵素を欠失するかまたは置換、欠失、もしくは付加により改変して、細胞の生存可能性を損なうことなく、所望の化合物に対するその分解活性を低下させてもよい。それぞれの事例において、所望のファインケミカルの全収率または生産率(rate of production)を増加することができる。
【0010】
本発明のタンパク質及びヌクレオチド分子のかかる改変は、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースに加えて他のファインケミカルの生産を、間接的機構を通して改良することも可能である。いずれの1つの化合物の代謝も必然的に細胞内の他の生合成及び分解経路と関わり合っていて、ある経路の必要な補因子、中間物または基質は恐らく他のかかる経路により供給されるかまたは制限されうる。従って、1以上の本発明のタンパク質の活性をモジュレートすることにより、他のファインケミカル生合成または分解経路の生産もしくは活性効率は影響を受けうる。例えば、アミノ酸は全タンパク質の構造単位としての役割を果たすが、タンパク質合成を制限するレベルでしか細胞内に存在しないであろう;従って、細胞内の1以上のアミノ酸の生産効率もしくは収率を増加することにより、生合成または分解タンパク質などのタンパク質をさらに容易に合成することができる。同様に、特定の副反応がより有利にまたはより不利になる代謝経路酵素の改変により、所望のファインケミカルを生産するための中間物または基質として利用される1以上の化合物が過剰にまたは過小に生産される。
【0011】
本発明は、本明細書で代謝経路(MP)タンパク質と呼ぶタンパク質をコードする新規核酸分子を提供し、これらのタンパク質は例えば、細胞の正常な機能に重要なアミノ酸、ビタミン、補因子、ヌクレオチド及びヌクレオシド、またはトレハロースなどの分子の代謝に関わる酵素ステップを実施する能力がある。本明細書ではMPタンパク質をコードする核酸分子をMP核酸分子と呼ぶ。好ましい実施形態においては、MPタンパク質は、次の1以上の代謝に関係する酵素ステップを実施する:アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド及びヌクレオシド、またはトレハロース。かかるタンパク質の例は、表1に記載した遺伝子セットによりコードされるタンパク質が挙げられる。
【表1】
【0012】
従って、本発明の一態様は、MPタンパク質またはその生物学的活性部分をコードするヌクレオチド配列ならびにMPをコードする核酸(例えば、DNAまたはmRNA)の検出または増幅のためのプライマーまたはハイブリダイゼーションプローブとして適当な核酸断片を含んでなる、単離された核酸分子(例えば、cDNA、DNA、またはRNA)に関する。特に好ましい実施形態においては、その単離された核酸分子は、配列表に奇数配列番号(配列番号1、配列番号3)として記載したヌクレオチド配列の1つ、またはこれらのヌクレオチド配列の1つのコード領域もしくはその相補体を含んでなる。他の特に好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、配列表に偶数配列番号(配列番号2、配列番号4)として記載したタンパク質配列をコードするヌクレオチド配列、またはその部分とハイブリダイズするかまたは少なくとも約63%、好ましくは少なくとも約71%、より好ましくは少なくとも約75%、80%もしくは90%、そしてさらにより好ましくは95%、96%、97%、98%、99%以上相同的であるヌクレオチド配列を含んでなる。他の好ましい本発明の実施形態においては、単離された核酸分子は配列表に偶数配列番号(配列番号2、配列番号4)として記載したアミノ酸配列の1つをコードする。本発明の好ましいMPタンパク質はまた、好ましくは本明細書に記載のMP活性の少なくとも1つを有する。
【0013】
他の実施形態においては、単離された核酸分子がコードするタンパク質またはその部分は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号を有する配列)と十分に相同的であり、例えば、タンパク質またはその部分は本発明のアミノ酸配列と十分に相同的であるのでMP活性を維持する。好ましくは、核酸分子がコードするタンパク質またはその部分は、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を実施する能力を維持する。一実施形態においては、核酸分子がコードするタンパク質は、少なくとも約63%、好ましくは少なくとも約71%、そしてより好ましくは少なくとも約75%、80%、または90%そして最も好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%以上、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号を有する配列から選択される全アミノ酸配列)と相同的である。他の好ましい実施形態においては、タンパク質は全長グルタミン酸菌(C. gutamicum)タンパク質であって、配列表の対応する奇数配列番号に示すオープンリーディングフレームによりコードされる本発明の全アミノ酸配列(配列番号2、配列番号4)と実質的に相同的である。
【0014】
他の好ましい実施形態においては、単離された核酸分子は、グルタミン酸菌(C. gutamicum)から誘導され、本発明のアミノ酸配列の1つ(例えば、配列表の偶数配列番号の配列の1つ)と少なくとも約50%以上相同的でありかつアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの代謝経路の反応を触媒することができるか、または表1に記載の1以上の活性を有する生物学的に活性なドメインを含むタンパク質(例えば、MP融合タンパク質)をコードし、そしてまた異種ポリペプチドまたは調節領域をコードする異種核酸配列も含むものである。
【0015】
他の実施形態においては、単離された核酸分子は長さが少なくとも15ヌクレオチドでありかつストリンジェントな条件下で本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)を含んでなる核酸分子とハイブリダイズする。好ましくは、単離された核酸分子は天然の核酸分子と対応する。さらに好ましくは、単離された核酸分子は天然のグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPタンパク質またはその生物学的活性のあるタンパク質をコードする。
【0016】
本発明の他の態様は、ベクター、例えば、本発明の核酸分子を含有する組換え発現ベクター、及びかかるベクターを導入している宿主細胞に関する。一実施形態においては、かかる宿主細胞を利用して、宿主細胞を適当な培地で培養することによりMPタンパク質を生産する。次いでMPタンパク質を培地または宿主細胞から単離することができる。
【0017】
さらに本発明の他の態様は、遺伝子操作により改変された微生物であってMP遺伝子が導入されるかまたは改変されている前記微生物に関する。一実施形態においては、微生物のゲノムは、野生型または突然変異MP配列をコードする本発明の核酸分子をトランスジーンとして導入することにより改変されている。他の実施形態においては、微生物のゲノム内の内因性MP遺伝子は、例えば、改変したMP遺伝子との相同的組換えにより、機能的に破壊されている。他の実施形態においては、微生物中の内因性または導入されたMP遺伝子は、1以上の点突然変異、欠失、または逆位(inversion)によって改変されているが、それでも機能的MPタンパク質をコードする。さらに他の実施形態においては、微生物のMP遺伝子の調節領域(例えば、プロモーター、リプレッサー、またはインデューサー)は、(例えば、欠失、末端切断、逆位、または点突然変異により)MP遺伝子の発現をモジュレートするように改変されている。好ましい実施形態においては、微生物は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属し、グルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)が特に好ましい。好ましい実施形態においては、微生物はまた、トレハロースまたはアミノ酸などの所望の化合物の生産にも利用され、特にリシン及びメチオニンへの利用が好ましい。
【0018】
他の態様においては、本発明は、被験者におけるジフテリア菌(Cornyebacterium diphtheriae)の存在または活性を同定する方法を提供する。本方法は、1以上の本発明の核酸またはアミノ酸配列(例えば、配列表に配列番号1〜4として記載した配列)を検出し、それにより被験者におけるジフテリア菌(Cornyebacterium diphtheriae)の活性の存在を検出することを含んでなる。
【0019】
本発明のさらに他の態様は、単離されたMPタンパク質またはその一部分、例えば、生物学的活性のある部分に関する。好ましい実施形態においては、単離されたMPタンパク質またはその部分は、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの代謝の1以上の経路に関わる酵素反応を触媒することができる。他の好ましい実施形態においては、単離されたMPタンパク質またはその部分は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と十分相同的であるので、タンパク質またはその部分がアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの1以上の代謝経路に関わる酵素反応を触媒する能力を維持する。
【0020】
本発明はまた、単離されたMPタンパク質の調製物を提供する。好ましい実施形態においては、MPタンパク質は本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)を含んでなる。他の好ましい実施形態においては、本発明は、本発明の全アミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)(配列表の対応する奇数配列番号に記載のオープンリーディングフレームによりコードされた)と実質的に相同的である単離された全長タンパク質に関する。さらに他の実施形態においては、タンパク質は、少なくとも約63%、好ましくは少なくとも約71%以上、より好ましくは少なくとも約75%、80%、または90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%以上、本発明の配列の全アミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と相同的である。他の実施形態においては、単離されたMPタンパク質は、本発明の配列の全アミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と少なくとも約63%以上相同的でありかつアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの酵素反応を触媒することができるか、または表1に記載の1以上の活性を有するアミノ酸配列を含んでなる。
【0021】
あるいは、単離されたMPタンパク質が含有してもよいアミノ酸配列は、配列表に記載の偶数配列番号の1つのタンパク質をコードする核酸配列とハイブリダイズする(例えばストリンジェントな条件下でハイブリダイズする)かまたは少なくとも約63%、好ましくは少なくとも約71%、より好ましくは少なくとも約70%、80%、または90%、そしてさらにより好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%以上相同的であるヌクレオチド配列によりコードされる前記アミノ酸配列である。MPタンパク質の好ましい形態がまた1以上の本明細書に記載のMP生活性(bioactivities)を有することも好ましい。
【0022】
MPタンパク質またはその生物学的に活性な部分を非MPポリペプチドと機能しうる形で連結して融合タンパク質を形成することができる。好ましい実施形態においては、この融合タンパク質はMPタンパク質単独のそれと異なる活性を有する。他の好ましい実施形態においては、この融合タンパク質を、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬の代謝に対するグルタミン酸菌(C. gutamicum)経路中に導入すると、グルタミン酸菌(C. gutamicum)からの所望のファインケミカルの生産に対する収率及び/または効率の増加が得られる。特に好ましい実施形態においては、この融合タンパク質を、宿主細胞のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路中に組み込むと、細胞からの所望の化合物の生産がモジュレートされる。
【0023】
他の態様においては、本発明は、MPタンパク質の活性をモジュレートする分子をスクリーニングする方法であって、タンパク質それ自身またはMPタンパク質の基質または結合パートナーと相互作用させることによるか、または本発明のMP核酸分子の転写もしくは翻訳をモジュレートすることによる、前記方法を提供する。
【0024】
本発明の他の態様は、ファインケミカルを生産する方法に関する。この方法は、本発明のMP核酸分子の発現を指令するベクターを含有してファインケミカルを生産する細胞の培養に関わる。好ましい実施形態においては、この方法はさらに、かかるベクターを含有する細胞を得るステップであって、MP核酸の発現を指令するベクターを用いて細胞をトランスフェクトする前記ステップを含む。他の好ましい実施形態においては、本方法はさらに、ファインケミカルを培養から回収するステップを含んでなる。特に好ましい実施形態においては、細胞はコリネバクテリウム(Corynebacterium)またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)属由来であるかまたは表2に記載の株から選択される。
【表2】
【0025】
本発明の他の態様は、微生物からの分子の生産をモジュレートする方法に関する。かかる方法は、細胞にMPタンパク質活性またはMP核酸発現をモジュレートする薬剤を接触させて、細胞に関連する活性を薬剤非存在時の前記活性と比較して改変させることが挙げられる。好ましい実施形態においては、細胞を1以上のグルタミン酸菌(C. gutamicum)アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路についてモジュレートして、この微生物による所望のファインケミカルの収率または産生率(rate of production)を改良させる。MPタンパク質活性をモジュレートする薬剤は、MPタンパク質活性またはMP核酸発現を刺激する薬剤であってもよい。MPタンパク質活性またはMP核酸発現を刺激する薬剤の例は、細胞中に導入されている小分子、活性MPタンパク質及びMPタンパク質をコードする核酸が挙げられる。MP活性または発現を阻害する薬剤の例は小分子、及びアンチセンスMP核酸分子が挙げられる。
【0026】
本発明の他の態様は、細胞からの所望の化合物の収率をモジュレートする方法であって、野生型または突然変異MP遺伝子を細胞中に導入して別のプラスミド上に維持するかまたは宿主細胞のゲノム中に組み込むことに関わる。ゲノム中に組み込まれる場合、かかる組み込みは無作為であっても、または相同的組換えであってもよく、固有の遺伝子は導入されたコピーと置き換えられて、モジュレートされた細胞から所望の化合物の生産が起こる。好ましい実施形態においては、前記収率は増加する。他の好ましい実施形態においては、前記化学品はファインケミカルである。特に好ましい実施形態においては、前記ファインケミカルはトレハロースまたはアミノ酸である。特に好ましい実施形態においては、前記アミノ酸はL-リシン及びL-メチオニンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の詳細な説明
本発明は、グルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)におけるある特定のファインケミカルの代謝に関わるMP核酸及びタンパク質分子を提供し、前記ファインケミカルはアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースが挙げられる。本発明の分子は、グルタミン酸菌(C. gutamicum)などの微生物からのファインケミカルの生産をモジュレートするのに直接利用してもよいし(例えば、トレハロースまたはリシンまたはメチオニン生合成タンパク質の活性のモジュレーションが前記生物からのトレハロースまたはリシンまたはメチオニンの生産または生産効率に直接影響を与える場合)、または間接的影響を与えて所望の化合物の収率もしくは生産効率を増加させてもよい(例えば、ヌクレオチド生合成タンパク質の活性のモジュレーションが、恐らく増殖の改良または必要な補因子、エネルギー化合物もしくは前駆分子の補給の増加によって、細菌からの有機酸もしくは脂肪酸の生産に影響を与える場合)。さらに本発明の諸態様を以下に説明する。
【0028】
1.ファインケミカル
用語「ファインケミカル」は当技術分野では理解されている用語であり、生物により生産された分子を含み、限定されるものでないが、製薬、農業、及び化粧品産業などの様々な産業に応用される。かかる化合物としては、酒石酸、イタコン酸、及びジアミノピメリン酸などの有機酸、タンパク質原性及び非タンパク質原性(proteinogenic and non-proteinogenic)の両方のアミノ酸、プリン及びピリミジン塩基、ヌクレオシド、及びヌクレオチド(例えば、Kuninaka, A. (1996) 「ヌクレオチド及び関係化合物(Nucleotides and related compounds)」, p.561-612, in Biotechnology vol.6, Rehmら編, VCH: Weinheim、及びその参考文献に記載)、脂質、飽和及び不飽和両方の脂肪酸(例えば、アラキドン酸)、ジオール(例えば、プロパンジオール、及びブタンジオール)、炭水化物(例えば、ヒアルロン酸及びトレハロース)、芳香族化合物(例えば、芳香族アミン、バニリン、及びインジゴ)、ビタミン及び補因子(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A27, 「ビタミン(Vitamins)」, p.443-613 (1996) VCH: Weinheim、及びその参考文献;ならびにOng, A.S., Niki, E. & Packer, L. (1995) 「栄養、脂質、健康、及び疾病(Nutrition, Lipids, Health, and Disease)」, the UNESCO/Confederation of Scientific and Technological Associations in Malaysia, and the Society for Free Radical Research - Asia(1994年9月1-3日、マレーシア、ペナン市にて開催)予稿集, AOCS Press, (1995)に記載)、酵素、ポリケチド(Caneら, (1998) Science 282:63-68)、ならびにGutcho (1983) Chemicals by Fermentation, Noyes Data Corporation, ISBN: 0818805086とその参考文献に記載された全ての他の化学品が挙げられる。これらのファインケミカルの代謝及び用途をさらに以下に説明する。
【0029】
A.アミノ酸代謝と用途
アミノ酸は、全てのタンパク質の基本構造単位としての役割を果たし、従って全生物において細胞が正常に機能を達成する上で必須なものである。用語「アミノ酸」は当技術分野では理解されている。20種のタンパク質原性アミノ酸はタンパク質の構造単位となり、タンパク質中でペプチド結合により連結されているのに対して、非タンパク質原性アミノ酸(数百種が知られている)は通常、タンパク質中に見られない(Ulmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A2, p. 57-97 VCH: Weinheim (1985)を参照)。アミノ酸は、D-またはL-の光学コンフィギュレーションであってもよいが、一般的にはL-アミノ酸が天然タンパク質中に見出される型である。原核細胞及び真核細胞における20種のタンパク質原性アミノ酸のそれぞれの生合成と分解経路は特性はよく決定されている(例えば、Stryer, L. Biochemistry, 第3版, 578-590頁 (1988)を参照)。生合成が複雑であるので一般的に栄養要求のある「必須」アミノ酸と名づけられたアミノ酸(ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、及びバリン)は、簡単な生合成経路により、残りの11種の「非必須アミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、及びチロシン)」へ容易に転化される。高等動物はこれらのアミノ酸のいくつかを合成する能力を保持するが、通常のタンパク質合成が起こるために、必須アミノ酸を食事から補給しなければならない。
【0030】
タンパク質生合成におけるそれらの機能とは別に、これらのアミノ酸はそれ自身が重要な化学品であり、多くが食品、飼料、化学品、化粧品、農業、及び製薬産業に様々な用途を有することがわかっている。リシンは、ヒトだけでなく家禽及びブタなどの単胃動物の栄養上重要なアミノ酸である。グルタミン酸は、調味料(グルタミン酸モノナトリウム、MSG)として最も一般的に利用され、かつ食品産業全体でアスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、及びシステインと同様に広く利用されている。グリシン、L-メチオニン及びトリプトファンは全て製薬産業において利用されている。グルタミン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、アルギニン、プロリン、セリン及びアラニンは製薬及び化粧品産業の両方に用途がある。トレオニン、トリプトファン、及びD/L-メチオニンは一般的な食品添加物である(Leuchtenberger, W. (1996) 「アミノ酸-技術的生産と用途(Amino aids - technical production and use)」, p.466-502 in Rehmら (編) Biotechnology vol.6, chapter 14a, VCH: Weinheim)。さらに、これらのアミノ酸は、Ulmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A2, p. 57-97, VCH: Weinheim, 1985に記載のN-アセチルシステイン、S-カルボキシメチル-L-システイン、(S)-5-ヒドロキシトリプトファン、及びその他の合成アミノ酸及びタンパク質の合成用前駆体として有用であることがわかっている。
【0031】
これらを生産する能力のある細菌などの生物におけるこれらの自然アミノ酸の生合成は、特性がよく決定されている(細菌のアミノ酸生合成とそれらの調節の総説については、Umbarger, H.E.(1978) Ann. Rev. Biochem. 47: 533-606を参照)。グルタミン酸は、クエン酸サイクルの中間物であるα-ケトグルタル酸の還元アミノ化により合成される。次いでグルタミン、プロリン、及びアルギニンがそれぞれグルタミン酸から生産される。セリンの生合成は、3-ホスホグリセリン酸(解糖の中間物)に始まる3ステッププロセスであり、酸化、トランスアミノ化、及び加水分解ステップの後にこのアミノ酸を得る。システインとグリシンの両方はセリンから生産される;すなわち、前者はホモシステインのセリンとの縮合により、かつ後者はセリントランスヒドロキシメチラーゼが触媒する反応において側鎖α炭素原子のテトラヒドロ葉酸への転移によって生産される。フェニルアラニン及びチロシンは、解糖及びペントースリン酸経路の前駆体エリトロース4-リン酸及びホスホエノールピルビン酸から、プレフェネート(prephenate)合成後の最後の2ステップだけが異なる9ステップ生合成経路で合成される。トリプトファンもこれらの2分子から出発して生産されるが、その合成は11ステップ経路である。チロシンもフェニルアラニンから、フェニルアラニンヒドロキシラーゼが触媒する反応で合成することができる。アラニン、バリン、及びロイシンは全て、解糖最終産物であるピルビン酸の生合成産物である。アスパラギン酸は、クエン酸サイクルの中間物であるオキサロ酢酸から作られる。アスパラギン、メチオニン、トレオニン、及びリシンは、それぞれアスパラギン酸の転化により生産される。イソロイシンはトレオニンから作られる。多様な生物においてメチオニンに至る生合成経路が研究されているが、類似性とともに相違がある。第1ステップ、ホモセリンのアシル化は全ての生物で共通しているが、転移されるアシル基の供給源は異なる。アシルドナーとして、大腸菌(Escherichia coli)とその関係種はスクシニル-CoAを利用する(Michaeli, S.,及びRon, E. Z. (1981) 「大腸菌K12のmetA遺伝子を含有するプラスミドの構築と物理的マッピング(Construction and physical mapping of plasmids containing the metA gene of Escherichia coli K12)」, Mol. Gen. Genet. 182, 349-354)が、それに対して酵母(Saccharomyces cerevisiae)(Langin, T., Faugeron, G., Goyon, C., Nicolas, A.,及びRossignol, J. (1986) 「酵母のMET2遺伝子:分子クローニングとヌクレオチド配列(The MET2 gene of Saccharomyces cerevisiae: molecular cloning and nucleotide sequence)」 Gene 49, 283-293)、ブレビバクテリウム・フラブム(Brevibacterium flavum)(Miyajima, R, and Shiio, I. (1973) 「ブレビバクテリウム・フラブムにおけるアミノ酸生合成のアスパラギン酸ファミリーの調節:ホモセリンO-トランスアセチラーゼの特性(Regulation of aspartate family of amino acid biosynthesis in Brevibacterium flavum: properties of homoserine O-transacetylase)」 J. Biochem. 73, 1061-1068;Ozaki, H.,及びShiio, I. (1982) 「ブレビバクテリウム・フラブムにおけるメチオニン生合成:O-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼの特性と本質的な役割(Methionine biosynthesis in Brevibacterium flavum: properties and essential role of O-acetylhomoserine sulfhydrylase)」 J. Biochem. 91, 1163-1171)、グルタミン酸菌(C. gutamicum)(Park, S.-D., Lee, J.-Y., Kim, Y., Kim, J.-H.,及びLee, H.-S. (1998) 「metA、グルタミン酸菌のホモセリンアセチルトランスフェラーゼをコードするメチオニン生合成遺伝子の単離と分析(Isolation and analysis of metA, a methionine biosynthetic gene encoding homoserine acetyltransferase in Corynebacterium glutamicum)」 Mol. Cells 8, 286-294)、及びレプトスピラ・マイエリ(Leptospira meyeri)(Belfaiza, J., Martel, A., Maegarita. D.,及びSaint Girons, I. (1998) 「レプトスピラ・マイエリのメチオニン生合成のための直接スルフヒドリル化(Direct sulfhydrylation for methionine biosynthesis in Leptospira meyeri)」 J. Bacteriol. 180, 250-255;Bourhy, P., Martel, A., Margarita, D., Saint Girons, I.,及びBelfaiza, J. (1997) 「レプトスピラ・マイエリのメチオニン生合成経路に関わるホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼはフィードバック阻害されない(Homoserine O-acetyltransferase, involved in the Leptospira meyeri methionine biosynthetic pathway, is not feedback inhibited)」 J. Bacteriol. 179, 4396-4398)はアセチル-CoAを利用する。アシルホモセリンからのホモシステインの生成は、2つの異なる方法で起こり得る。大腸菌(E.coli)は、シスタチオンγ-シンターゼ(metBの産物)及びシスタチオンβ-リアーゼ(metCの産物)により触媒されるトランススルフレーション(transsulfuration)経路を利用する。酵母(S. cerevisiae)(Cherest, H.及びSurdin-Kerjan, Y. (1992) 「酵母にシステイン栄養要求性を与える新しい突然変異の遺伝子分析:硫黄代謝経路の更新(Genetic analysis of a new mutation conferring cysteine auxotrophy in Saccharomyces cerevisiae: updating of the sulfur metabolism pathway)」 Genetics 130, 51-58)、ブレビバクテリウム・フラブム(B. flavum)(Ozaki, H.及びShiio, I. (1982) 「ブレビバクテリウム・フラブムのメチオニン生合成:O-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼの特性と本質的役割(methionine biosynthesis in Brevibacterium flavum: properties and essential role of O-acetylhomoserine sulfhydrylase)」 J. Biochem. 91, 1163-1171)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(Foglino, M., Borne, F., Bally, M., Ball, G.,及びPatte, J. C. (1995) 「緑膿菌のメチオニン生合成には直接スルフヒドリル化経路が利用される(A direct sulfhydrylation pathway is used for methionine biosynthesis in Pseudomonas aeruginosa)」 Microbiology 141, 431-439)、及びレプトスピラ・マイエリ(L. meyeri)(Belfaiza, J., Martel, A., Maegarita. D.,及びSaint Girons, I. (1998) 「レプトスピラ・マイエリのメチオニン生合成のための直接スルフヒドリル化(Direct sulfhydrylation for methionine biosynthesis in Leptospira meyeri)」 J. Bacteriol. 180, 250-255)は、アシルホモセリンスルフヒドリラーゼにより触媒される直接スルフヒドリル化経路を利用する。直接スルフヒドリル化経路だけを利用する、密接な関係のあるブレビバクテリウム・フラブム(B. flavum)と異なり、グルタミン酸菌(C. gutamicum)細胞の抽出物にはトランススルフレーション経路の酵素活性が検出されていて、この経路がこの生物のメチオニン生合成経路用ルートであると提案されている(Hwang, B-J., Kim, Y., Kim, H.-B., Kim, J., Hwang, H.-J.,及びLee, H.-S. (1999) 「グルタミン酸菌メチオニン生合成経路の分析:シスタチオニンa-シンターゼをコードするmetBの単離と分析(Analysis of Corynebacterium glutamicum methionine biosynthetic pathway: Isolation and analysis of metB encoding cystathionine β-synthase)」 Mol. Cells 9, 300-308;Kase, H.及びNakayama, K. (1974) 「グルタミン酸菌における、メチオニン類似体耐性突然変異体によるO-アセチル-L-ホモセリンの生産及びホモセリン-O-トランスアセチラーゼの調節(Production of O-acetyl-L-homoserine by methionine analog resistant mutants and regulation of homoserine-O-transacetylase in Corynebacterium glutamicum)」 Agr. Biol. Chem. 38, 2021-2030;Park, S.-D., Lee, J.-Y., Kim, Y., Kim, J.-H.、及びLee, H.-S. (1998) 「グルタミン酸菌のmetA、ホモセリンアセチルトランスフェラーゼをコードするメチオニン生合成遺伝子の単離と分析(Isolation and analysis of metA, a methionine biosynthetic gene encoding homoserine acetyltransferase in Corynebacterium glutamicum)」 Mol. Cells 8, 286-294)。
【0032】
グルタミン酸菌(C. gutamicum)のメチオニン生合成に関わる複数の遺伝子が近年単離されているが、グルタミン酸菌(C. gutamicum)のメチオニン生合成についての情報はまだ限られたものである。metA及びmetB遺伝子はこの生物から単離されているしまたmetC及びmetZ遺伝子も既知である(表4)、しかし生合成の最終ステップは未だ明らかになっていない。本発明においては、グルタミン酸菌(C. gutamicum)におけるメチオニンに至る生合成経路の全体を解明し、そして生合成の最終ステップに関わる生合成遺伝子を、酵素メチオニンシンターゼをコードするmetH遺伝子と規定した。
【0033】
複雑な9ステップ経路により、活性化糖である5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸からヒスチジンの生産が行われる。
【0034】
細胞のタンパク質合成必要量を超えるアミノ酸は貯蔵できないので、その代わりに分解して細胞の主要代謝経路用の中間物を提供する(総説は、Stryer, L. Biochemistry 3rd ed. Ch. 21 「アミノ酸分解と尿素サイクル(Amino Acid Degradation and the Urea Cycle)」p. 495-516 (1988)を参照)。細胞は望ましくないアミノ酸を有用な代謝中間物に転化することはできるが、アミノ酸生産はエネルギー、前駆体分子、及びそれらを合成する酵素を消費する。従って、特定のアミノ酸の存在がそれ自身の生産を遅くするかまたは全体を停止するように作用して、フィードバック阻害によりアミノ酸合成を調節することは驚くに当たらない(アミノ酸生合成経路におけるフィードバック機構の総説はStryer, L. Biochemistry, 3rd ed. Ch. 24: 「アミノ酸の生合成とヘム(Biosynthesis of Amino Acids and Heme)」 p. 575-600 (1988)を参照)。従って、任意の特定のアミノ酸の産出量は細胞内に存在するアミノ酸の量によって制限される。
【0035】
2.1.ビタミン、補因子、及び栄養薬代謝及び利用
ビタミン、補因子、及び栄養薬には、高等動物が合成する能力を失っているので摂取しなければならない他の分子グループがあるが、これらは細菌などの他の生物により容易に合成される。これらの分子は、それ自身が生物活性物質であるか、または様々な代謝経路で電子担体もしくは中間物として役立ちうる生物学的に活性な物質の前駆体である。それらの栄養価とは別に、これらの化合物はまた、着色剤、酸化防止剤、及び触媒または他の加工補助剤として重要な産業上の価値がある(これらの化合物の構造、活性、及び産業的応用の概観は、例えば、Ullman's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 「ビタミン(Vitamins)」 vol. A27, p. 443-613, VCH: Weinheim, 1996を参照)。用語「ビタミン」は当技術分野では理解されていて、生物が通常機能を果たすのに必要であるが、前記生物が自分自身で合成できない栄養分が挙げられる。ビタミンのグループは補因子及び栄養薬化合物を包含しうる。用語「補因子(cofactor)」は、通常の酵素活性が起こるために必要な非タンパク質化合物が挙げられる。かかる化合物は有機物であってもまたは無機物であってもよい;本発明の補因子分子は好ましくは有機物である。用語「栄養薬(nutraceutical)」は、植物及び動物、特にヒトにおいて健康上有益である食品補充物が挙げられる。かかる分子の例は、ビタミン、抗酸化剤、及びまたある特定の脂質(例えば、ポリ不飽和脂肪酸)である。
【0036】
これらを生産しうる細菌などの生物におけるこれらの分子の生合成は、ほとんど特性が決定されている(Ullman's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 「ビタミン(Vitamins)」 vol. A27, p.443-613, VCH: Weinheim, 1996;Michal, G. (1999) Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John Wiley & Sons;Ong, A.S., Niki, E. & Packer, L. (1995) 「栄養、脂質、健康、及び疾病(Nutrition, Lipids, Health, and Disease)」, the UNESCO/Confederation of Scientific and Technological Associations in Malaysia, and the Society for Free Radical Research - Asia(1994年9月1-3日、マレーシア、ペナン市にて開催)予稿集, AOCS Press: Champaign, IL X, 374 S)。
【0037】
チアミン(ビタミンB1)はピリミジンとチアゾール部分の化学的カップリングにより生産される。リボフラビン(ビタミンB2)はグアノシン-5'-三リン酸(GTP)及びリボース-5'-リン酸から合成される。リボフラビンは、順に、フラビンモノヌクレオチド(FMN)及びフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の合成に利用される。「ビタミンB6」とまとめて名付けられた化合物のファミリー(例えば、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサ-5'-リン酸、及び市販されるピリドキシン塩酸塩)は全て、共通の構造単位、5-ヒドロキシ-6-メチルピリジンの誘導体である。パントテネート(パントテン酸、(R)-(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチル-1-オキソブチル)-β-アラニン)は、化学合成によるかまたは発酵よって生産することができる。パントテネート生合成の最終ステップはβ-アラニンとパントイン酸のATP駆動による縮合からなる。パントイン酸への転化、β-アラニンへの転化、及びパントテン酸への縮合の生合成ステップに関わる酵素は既知である。パントテネートの代謝活性型は補酵素Aであり、その生合成は5つの酵素ステップで進行する。パントテネーアト、ピリドキサール-5'-リン酸、システイン及びATPが補酵素Aの前駆体である。これらの酵素はパントテネートの形成だけでなく、(R)-パントイン酸、(R)-パントラクトン、(R)-パンテノール(プロビタミンB5)、パンテテイン(及びその誘導体)及び補酵素Aの生産も触媒する。
【0038】
微生物中の前駆体分子ピメロイル-CoAからのビオチン生合成は詳細に研究されていて、これに関わる複数の遺伝子が同定されている。対応するタンパク質の多くはFe-クラスター合成にも関わることがわかっていて、タンパク質のnifSクラスのメンバーである。リポ酸はオクタン酸から誘導され、エネルギー代謝における補酵素として役立ち、その際、これはピルビンデヒドロゲナーゼ複合体及びα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の一部分になる。フォレート(folate)類は全て葉酸の誘導体である物質グループであって、葉酸は、順にL-グルタミン酸、p-アミノ安息香酸及び6-メチルプテリンから誘導される。代謝中間物グアノシン-5'-三リン酸(GTP)、L-グルタミン酸及びp-アミノ安息香酸から出発する葉酸及びその誘導体の生合成は、ある特定の微生物については詳細に研究されている。
【0039】
コリノイド(コバラミン及び特にビタミンB12など)及びポルフィリンはテトラピロール環系を特徴とする化学品グループに属する。ビタミンB12の生合成は非常に複雑であるのでまだ完全に特性は決定されていないが、関わりのある多くの酵素と基質が現在知られている。ニコチン酸(ニコチネート)及びニコチンアミドはピリジン誘導体であり、「ナイアシン(niacin)」とも呼ばれる。ナイアシンは重要な補酵素であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)及びNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)ならびにそれらの還元型の前駆体である。
【0040】
これらの化合物の大量生産は、ほとんど、細胞に無関係な化学合成に依存してきたが、リボフラビン、ビタミンB6、パントテネート、及びビオチンなどの複数のこれらの化学品は微生物の大規模培養によっても生産されている。ただビタミンB12だけは合成が複雑であるため、発酵により生産されている。in vitro手法は際立った材料の投入と時間を要し、しばしば大きな費用がかかる。
【0041】
C.プリン、ピリミジン、ヌクレオシド及びヌクレオチド代謝と用途
プリン及びピリミジン代謝遺伝子ならびにそれらの対応するタンパク質は、腫瘍疾患とウイルス感染症の治療にとって重要な標的である。用語「プリン」または「ピリミジン」は、核酸、補酵素、及びヌクレオチドの構成要素である窒素原性塩基を含む。用語「ヌクレオチド」は、窒素原性塩基、ペントース糖類(RNAの場合、糖はリボースであり;DNAの場合、糖はD-デオキシリボースである)、及びリン酸からなる核酸分子の塩基構造単位を含む。用語「ヌクレオシド」はヌクレオチドの前駆体となる分子であるが、ヌクレオチドが有するリン酸部分を欠く。これらの分子の生合成、またはそれらを動員して核酸分子を形成するのを阻害することにより、RNA及びDNA合成を阻害することが可能であり;癌細胞を標的としてこの活性を阻害することにより、腫瘍細胞の分裂しかつ複製する能力を阻害することができる。さらに、核酸分子を形成しないでむしろエネルギー貯蔵(すなわち、AMP)としてまたは補酵素(すなわちFAD及びNAD)として作用するヌクレオチドが存在する。
【0042】
複数の文献は、プリン及び/またはピリミジン代謝に影響を与えることによるこれら化学品の医療用の利用を記載している(例えば、Christopherson, R.I.及びLyons, S.D. (1990) 「化学治療剤としてのde novoピリジン及びプリン生合成の強力インヒビター(Potent inhibitors of de novo pyrimidine and purine biosynthesis as chemotherapeutic agents)」 Med. Res. Reviews 10:505-548)。プリン及びピリミジン代謝に関わる酵素の研究は、例えば、免疫阻害剤または抗増殖剤として使用しうる新薬の開発に重点が置かれてきた(Smith, J.L., (1995) 「ヌクレオチド合成の酵素(Enzymes in nucleotide synthesis)」 Curr. Opin. Struct. Biol. 5:752-757;(1995) Biochem Soc. Transact. 23:877-902)。しかし、プリンとピリミジン塩基、ヌクレオシドとヌクレオチドは他の用途もある:すなわち、複数のファインケミカルの生合成における中間物(例えば、チアミン、S-アデノシル-メチオニン、フォレート、またはリボフラビン)として、細胞用エネルギー担体(例えば、ATPまたはGTP)として、ならびに化学品それ自身で通常使われる風味(flavor)増進剤(例えば、IMPまたはGMP)としてまたは複数の医療用(例えば、Kuninaka, A. (1996) 「ヌクレオチドと関係化合物(Nucleotides and Related Compounds)」 in Biotechnology vol. 6, Rehmら, 編. VCH: Weinheim, p. 561-612を参照)としてである。また、プリン、ピリミジン、ヌクレオシド、またはヌクレオチド代謝に関わる酵素は、殺菌剤、除草剤及び防虫剤を含む作物保護用化学品を開発する際の標的として、ますます役立っている。
【0043】
細菌におけるこれらの化合物の代謝の特性は決定されている(総説については例えば、Zalkin, H.及びDixon, J.E. (1992) 「de novoプリンヌクレオチド生合成(de novo purine nucleotide biosynthesis)」, in Progress in Nucleic Acid Research and Molecular Biology, vol.42, Academic Press:, p.259-287;及びMichal, G. (1999) 「ヌクレオチド及びヌクレオシド(Nucleotides and Nucleosides)」 Chapter 8 in: Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, Wiley: New Yorkを参照)。プリン代謝は重点研究の対象となっていて、細胞の正常な機能達成にとって本質的なものである。高等動物におけるプリン代謝の障害は、痛風などの重篤な疾患を引き起こしうる。プリンヌクレオチドはリボース-5-リン酸から、中間物化合物イノシン-5'-リン酸(IMP)を経由する一連のステップで合成されて、グアノシン-5'-一リン酸(GMP)またはアデノシン-5'-一リン酸(AMP)の生産が得られ、それらからヌクレオチドとして利用される三リン酸型が容易に形成される。これらの化合物はエネルギー貯蔵としても利用され、その分解は細胞内の多くの異なる生化学プロセスに対するエネルギーを提供する。ピリミジン生合成は、リボース-5-リン酸からウリジン-5'-一リン酸(UMP)の形成により進行する。UMPは、次に、シチジン-5'-三燐酸(CTP)に転化される。これらの全てのヌクレオチドのデオキシ型は、ヌクレオチドの二リン酸リボース型からヌクレオチドの二リン酸デオキシリボース型への1ステップ還元反応で生産される。リン酸エステル化すると、これらの分子はDNA合成に加わることができる。
【0044】
D.トレハロース代謝と用途
トレハロースは、α,α-1,1連鎖で結合された2つのグルコース分子からなる。通常、食品産業において、甘味剤、乾燥もしくは凍結食品用添加剤として、及び飲料中に利用される。しかし、これはまた、製薬、化粧品及びバイオ技術産業においても応用される(例えば、Nishimotoら, (1998) 米国特許第5,759,610号;Singer, M.A.及びLindquist, S. (1998) Trends Biotech. 16:460-467;Paiva, C.L.A.及びPanek, A.D. (1996) Biotech. Ann. Rev. 2:293-314;ならびにShiosaka, M. (1997) J. Japan 172:97-102を参照)。トレハロースは多数の微生物由来の酵素により生産され、自然において周辺媒質中に放出されており、それから当技術分野で既知の方法を用いて採集することができる。
【0045】
II.本発明の要素と方法
本発明は、少なくとも一部分は、本明細書でMP核酸及びタンパク質分子と呼ぶ、1以上の細胞代謝経路において役割または機能を果たす新規分子の発見に基づく。一実施形態においては、MP分子は、1以上のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路に関与する酵素反応を触媒する。好ましい実施形態においては、グルタミン酸菌(C. gutamicum)のもつ1以上のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における本発明のMP分子の活性が、この生物による所望のファインケミカルの生産に影響を与える。ある特に好ましい実施形態においては、本発明のMPタンパク質が関わるグルタミン酸菌(C. gutamicum)代謝経路の効率または算出結果がモジュレートされるように本発明のMP分子の活性をモジュレートして、それにより直接または間接にグルタミン酸菌(C. gutamicum)による所望のファインケミカルの生産または生産効率をモジュレートする。MP分子を、同じまたは異なる代謝経路の他のMP分子と組み合わせて、所望のファインケミカル、好ましくはトレハロースまたはアミノ酸、さらに好ましくはリシンまたはメチオニンの収率を増加させることができる。代わりにまたはさらに、MP分子または他の代謝分子の破壊を組み合わせることにより、望ましくない副産物を低減してもよい。同じまたは異なる経路の他のMP分子と組み合わせて用いるMP分子のヌクレオチド及び対応するアミノ酸配列を改変し、それらの活性が生理学的条件のもとで改変されて所望のファインケミカルの生産性及び/または収率が増加するようにしてもよい。さらなる実施形態においては、元々のまたは上記の改変された型のMP分子を、ヌクレオチド配列が改変された同じまたは異なる経路の他のMP分子と組み合わせて、それらの活性が生理学的条件のもとで改変されて所望のファインケミカルの生産性及び/または収率が増加するようにしてもよい。好ましい組み合わせは、表1のMP分子の1つもしくは両方と、表4及び5のMPタンパク質または同じ代謝経路(メチオニン生合成またはトレハロース/ホスホエノールピルビン酸経路)のそれぞれの報告されているMP分子の1種以上の単もしくは多コピーとの組み合わせである。
【0046】
用語「MPタンパク質」または「MPポリペプチド」は、1以上のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路において役割を果たすタンパク質、例えば該代謝経路において酵素反応を触媒するタンパク質を含む。MPタンパク質の例は、表1に奇数配列番号により記載したMP遺伝子によりコードされるタンパク質が挙げられる。用語「MP遺伝子」または「MP核酸配列」は、MPタンパク質をコードする核酸配列であって、コード領域と共に対応する非翻訳5'及び3'配列領域から成る前記核酸配列を含む。MP遺伝子の例は表1に記載した遺伝子が挙げられる。用語「生産」または「生産性」は当技術分野では理解されていて、所与の時間と所与の発酵体積内で生成する発酵産物(例えば、所望のファインケミカル)の濃度(例えば、1時間1リットル当たりの産物kg)が挙げられる。用語「生産効率」としては、特定のレベルの生産を達成するために必要な時間(例えば、細胞がファインケミカルのある特定の生産速度を達成するのに要する時間)が挙げられる。用語「収率」または「産物/炭素収率」は当技術分野では理解されていて、産物(すなわち、ファインケミカル)への炭素源の転化効率が挙げられる。これは一般的に例えば、産物kg/炭素源kgで記載する。化合物の収率または生産を増加させることにより、所与の時間にわたる所与の量の培養中の回収分子、すなわちその化合物の有用な回収分子の量が増加する。用語「生合成」または「生合成経路」は当技術分野では理解されていて、細胞による複数ステップでかつ高度に調節されたプロセスで行われうる、中間体化合物からの化合物、好ましくは有機化合物の合成が挙げられる。用語「分解」または「分解経路」は、当技術分野で理解されていて、細胞による複数ステップでかつ高度に調節されたプロセスで行われうる、化合物、好ましくは有機化合物の分解産物(一般的にいえば、より小さいまたはより簡単な分子)への分解が挙げられる。用語「代謝」は当技術分野で理解されていて、生物内で起こる生化学反応の全体が挙げられる。従って、ある特定の化合物の代謝(例えば、グリシンなどのアミノ酸の代謝)は、この化合物に関係する細胞内での生合成経路、修飾経路、及び分解経路の全体を含んでなる。
【0047】
他の実施形態においては、本発明のMP分子は、グルタミン酸菌(C. gutamicum)などの微生物中の、ファインケミカルなどの所望の分子の生産をモジュレートすることができる。遺伝子組換え技術を用いて、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースに対する本発明の1以上の生合成酵素または分解酵素を操作してその機能をモジュレートすることができる。例えば、生合成酵素の効率を改良するかまたはアロステリック制御領域を破壊してその化合物の生産のフィードバック阻害を阻止することができる。同様に、分解酵素を置換、欠失、もしくは付加により欠損させるかまたは改変して、所望の化合物に対するその分解活性を、細胞の生存性を損なうことなく低減することができる。それぞれの事例において、これらの所望のファインケミカルの1つの収率または生産速度の全体を増加させることができる。
【0048】
本発明のタンパク質及びヌクレオチド分子のかかる改変により、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースに加えて、他のファインケミカルの生産を改良することもできる。いかなる1つの化合物の代謝も必然的に細胞内の他の生合成及び分解経路と関係し合っているので、1つの経路に必要な補因子、中間体、または基質が他のそのような経路により供給されるかまたは制限されていることがありうる。従って、本発明の1以上のタンパク質の活性をモジュレートすることにより、他のファインケミカル生合成または分解経路の生産または活性効率に影響を与えうる。例えば、アミノ酸は全てのタンパク質の構造単位としての役割を果たしており、タンパク質合成を制限するレベルで細胞内に存在しうる。従って、細胞内の1以上のアミノ酸の生産効率または収率を増加することにより、生合成タンパク質または分解タンパク質などのタンパク質がさらに容易に合成されうる。同様に、特定の副反応がより好ましいものとなるかまたはより好ましくないものとなるように代謝経路酵素を改変することにより、所望のファインケミカルを生産するための中間体または基質として利用される1以上の化合物を過剰または過小に生産することができる。
【0049】
本発明の単離された核酸配列は、American Type Culture Collectionを通じて入手しうる識別番号ATCC 13032が付与されたグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)株のゲノム内に含有される。単離されたグルタミン酸菌(C. gutamicum)MP DNAのヌクレオチド配列、及びグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPタンパク質の予想アミノ酸配列を、配列表においてそれぞれ奇数配列番号及び偶数配列番号で示す。コンピュータ解析を実施して、これらのヌクレオチド配列を代謝経路タンパク質をコードする配列として分類及び/または同定した。
【0050】
本発明はまた、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と実質的に相同的であるアミノ酸配列を有するタンパク質に関する。本明細書に使用される意味では、選択されたアミノ酸配列と実質的に相同的であるアミノ酸配列を有するタンパク質は、選択されたアミノ酸配列、例えば、選択されたアミノ酸配列の全体と、少なくとも約50%相同的である。選択されたアミノ酸配列と実質的に相同的であるアミノ酸配列を有するタンパク質はまた、選択されたアミノ酸配列に対して、少なくとも約50〜60%、好ましくは少なくとも約60〜70%、そしてさらに好ましくは少なくとも約70〜80%、80〜90%、または90〜95%、そして最も好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%以上、相同的であってもよい。
【0051】
本発明のMPタンパク質またはその生物学的に活性な部分もしくは断片は、1以上のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を触媒するかまたは表1に記載の活性の1種以上を有しうる。
【0052】
本発明の様々な態様をさらに詳細に以下の節で説明する。
【0053】
A.単離された核酸分子
本発明の一態様は、MPポリペプチドまたはその生物学的活性部分をコードする単離された核酸分子、ならびにMPをコードする核酸(例えば、MP DNA)の同定または増幅用のハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーとして十分使用しうる核酸断片に関する。本明細書に使用される用語「核酸分子」は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)及びRNA分子(例えば、mRNA)ならびにヌクレオチド類似体を用いて作製したDNAまたはRNAの類似体を含むことを意図する。この用語はまた、遺伝子のコード領域の3'及び5'末端の両方に位置する非翻訳配列、すなわちコード領域の5'末端から上流の少なくとも約100ヌクレオチドの配列、及びコード領域の3'末端から下流の少なくとも約20ヌクレオチドの配列も包含する。核酸分子は1本鎖または2本鎖であってもよいが、好ましくは2本鎖DNAである。「単離された」核酸分子は、核酸分子の天然供給源に存在する他の核酸分子から単離された核酸分子である。好ましくは、「単離された」核酸は、該核酸が由来する生物のゲノムDNA中で該核酸に天然にフランキングする配列(すなわち、該核酸の5'及び3'末端に位置する配列)を含まない。例えば、様々な実施形態においては、単離されたMP核酸分子は、該核酸が由来する細胞(例えば、グルタミン酸菌(C. gutamicum)細胞)のゲノムDNA中で該核酸分子に天然にフランキングする約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満のヌクレオチド配列を含有するものであってもよい。さらに、DNA分子などの「単離された」核酸分子は、組換え技術により生産される場合には他の細胞物質もしくは培地を、または化学的に合成される場合には他の化学的前駆体もしくは他の化学品を実質的に含まないものでありうる。
【0054】
本発明の核酸分子、例えば、配列表の奇数配列番号のヌクレオチド配列を有する核酸分子、またはその部分は、標準の分子生物学技術と本明細書に提供した配列情報とを用いて単離することができる。例えば、グルタミン酸菌(C. gutamicum)MP DNAは、配列表に記載された奇数配列番号のうちの1つの配列の全体または部分をハイブリダイゼーションプローブとして用いかつ標準ハイブリダイゼーション技術(例えば、Sambrook, J., Fritsh, E. F.,及びManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載)を利用して、グルタミン酸菌(C. gutamicum)ライブラリーから単離することができる。さらに、本発明の核酸配列(例えば奇数配列番号)のうちの1つの全体または部分を含む核酸分子は、その配列に基づいて設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応により単離することができる。(例えば、本発明の核酸配列のうちの1つ(例えば、配列表の奇数配列番号のもの)の全体または部分を含む核酸分子をこの同じ配列に基づいて設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応により単離することができる。)例えば、mRNAを正常な内皮細胞から単離し(例えば、Chirgwinら (1979) Biochemistry 18:5294-5299に記載のチオシアン酸グアニジニウム抽出法によって)、そしてDNAを逆転写酵素(例えば、Gibco/BRL, Bethesda, MDから入手しうるモロニーMLV逆転写酵素;またはSeikagaku America, Inc., St. Petersburg, FLから入手しうるAMV逆転写酵素)を用いて製造することができる。ポリメラーゼ連鎖反応増幅用の合成オリゴヌクレオチドプライマーは、配列表に示したヌクレオチド配列のうちの1つに基づいて設計することができる。本発明の核酸は、テンプレートとしてcDNAまたはその代わりにゲノムDNA、及び適当なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、標準のPCR増幅技術によって増幅することができる。こうして増幅した核酸を適当なベクター中にクローニングし、DNA配列分析により特性決定することができる。さらに、MPヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドを標準合成技術、例えば自動DNA合成機により製造することができる。
【0055】
好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、配列表に示したヌクレオチド配列の1つを含んでなる。配列表に記載した本発明の核酸配列は、本発明のグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)MP DNAに対応する。このDNAは、MPタンパク質をコードする配列(すなわち、配列表の奇数配列番号の各配列に示した「コード領域」)ならびに配列表のそれぞれの奇数配列番号に同様に示した5'非翻訳配列及び3'非翻訳配列を含んでなる。あるいは、核酸分子は、配列表のいずれかの核酸配列のコード領域だけを含んでいてもよい。
【0056】
他の好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)またはその部分の1つの相補体である核酸分子を含んでなる。本発明のヌクレオチド配列の1つと相補的である核酸分子は、配列表(例えば、奇数配列番号の配列)に記載のヌクレオチド配列の1つと十分に相補的であるので、本発明のヌクレオチド配列の1つとハイブリダイズして安定な2本鎖を形成することができる。
【0057】
さらに他の好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)、またはその部分に対して少なくとも約63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上相同的であるヌクレオチド配列を含んでなる。上記の範囲の中間にある範囲及び同一性の値(例えば、70〜90%の同一性または80〜95%の同一性)も本発明に包含されると意図する。例えば、上記の値のいずれの組合せを上限及び/または下限とする同一性の値の範囲も含まれると意図する。さらなる好ましい実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、例えばストリンジェントな条件下で本発明のヌクレオチド配列の1つ、またはその部分とハイブリダイズする核酸配列を含んでなる。
【0058】
さらに、本発明の核酸分子は、配列表の奇数配列番号の1つの配列のコード領域の一部分のみ、例えば、プローブまたはプライマーとして利用しうる断片、またはMPタンパク質の生物学的に活性な部分をコードする断片を含んでいてもよい。グルタミン酸菌(C. gutamicum)由来のMP遺伝子のクローニングから決定したヌクレオチド配列により、他の細胞型及び生物のMP相同体、ならびに他のコリネバクテリア(Corynebacteria)または近縁種由来のMP相同体を同定及び/またはクローニングするのに利用するために設計されたプローブ及びプライマーの作製が可能になる。プローブ/プライマーは典型的には、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含んでなる。該オリゴヌクレオチドは、典型的にはストリンジェントな条件下で、本発明のヌクレオチド配列の1つ(例えば、配列表の奇数配列番号の配列の1つ)のセンス鎖、これらの配列の1つのアンチセンス配列、またはそれらの天然突然変異体上の少なくとも約12、好ましくは約25、さらに好ましくは約40、50または75の連続ヌクレオチドとハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含んでなる。本発明のヌクレオチド配列に基づくプライマーをPCR反応に利用してMP相同体をクローニングすることができる。MPヌクレオチド配列に基づくプローブを利用して、同一タンパク質または相同タンパク質をコードする転写物またはゲノム配列を検出することができる。好ましい実施形態においては、プローブはさらにそれに結合したラベル基を含んでなり、例えば、ラベル基は放射性同位体、蛍光化合物、酵素、または酵素補因子であってもよい。かかるプローブを、MPタンパク質を誤発現する細胞を同定するための診断試験キットの一部として利用することができ、その同定は被験者由来の細胞サンプル中のMPをコードする核酸のレベルを測定することにより、例えばMP mRNAレベルを検出するかまたはゲノムMP遺伝子が突然変異もしくは欠失しているかどうかを決定することにより行うことができる。
【0059】
一実施形態においては、本発明の核酸分子がコードするタンパク質またはその部分は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と十分に相同的であって、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒する能力を維持するものである。本明細書に使用される表現「十分に相同的である」は、タンパク質またはその部分が、本発明のアミノ酸配列に対して同一または同等なアミノ酸残基(例えば、配列表の偶数配列番号の1つの配列中のアミノ酸残基と類似の側鎖を有するアミノ酸残基)を最小数で含むアミノ酸配列を有し、そのためグルタミン酸菌(C. gutamicum)のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒することができることを意味する。本明細書に記載した、かかる代謝経路のタンパク質メンバーは、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースの1以上の生合成または分解を触媒する機能を果たす。かかる活性の例も本明細書に記載されている。従って、「MPタンパク質の機能」は、1以上のかかる代謝経路の全体の機能性に寄与して、直接または間接に、1以上のファインケミカルの収率、生産、及び/または生産効率に寄与する。MPタンパク質の活性の例を表1に記載した。
【0060】
他の実施形態においては、本発明のタンパク質は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)の全体に対して、少なくとも約50〜60%、好ましくは少なくとも約60〜70%、そしてさらに好ましくは少なくとも約70〜80%、80〜90%、90〜95%、そして最も好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%以上相同的である。
【0061】
本発明のMP核酸分子がコードするタンパク質の部分は、好ましくは1つのMPタンパク質の生物学的活性部分である。本明細書に使用される用語「MPタンパク質の生物学的物性学的活性部分」は、ある部分、例えば、1以上のグルタミン酸菌(C. gutamicum)のアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒するかまたは表1に記載の活性を有するMPタンパク質のドメイン/モチーフを含むことを意図する。MPタンパク質またはその生物学的活性部分がアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒しうるかどうかを決定するために、酵素活性のアッセイを実施してもよい。かかるアッセイ方法は当業者には周知であり、実施例8に詳述した。
【0062】
MPタンパク質の生物学的活性をコードするさらなる核酸断片は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)のうちの1つの一部分を単離し、そのコードされたMPタンパク質またはペプチドの部分を(例えば、in vitroでの組換え発現により)発現させて、コードされたMPタンパク質またはペプチドの部分の活性を評価することによって、調製することができる。
【0063】
本発明はさらに、遺伝子コードの縮重によって、本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)(及びその部分)のうちの1つとは異なるが、本発明のヌクレオチド配列がコードするのと同じMPタンパク質をコードする核酸分子を包含する。他の実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、配列表に記載のアミノ酸配列(例えば、偶数の配列番号)を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する。なおさらなる実施形態においては、本発明の核酸分子は、本発明のアミノ酸配列(配列表の奇数配列番号に示されたオープンリーディングフレームにコードされる)と実質的に相同的であるグルタミン酸菌(C. gutamicum)全長タンパク質をコードする。
【0064】
当業者であれば、一実施形態において、本発明の配列が、本発明に先行して利用し得た表3に記載のGenbank配列などの先行技術の配列を包含することを意味しないのは理解するであろう。一実施形態においては、本発明は、本発明のヌクレオチドまたはアミノ酸配列に対して、先行技術の配列よりも大きい同一性パーセントを有するヌクレオチド及びアミノ酸配列を包含する。すなわち、本発明は、配列番号2と名付けたタンパク質配列と少なくとも71%及び/またはそれ以上の同一性を有するタンパク質配列をコードするヌクレオチド配列及び/または配列番号4と名付けたタンパク質配列と少なくとも63%及び/またはそれ以上の同一性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を包含する。
【表3】
相同性: CLUSTALで計算した同一性パーセント(アミノ酸配列に翻訳される、ゲノム由来のオープンリーディングフレーム)
【0065】
当業者であれば、所与の配列に対する上位3つのヒットのそれぞれについて、表3に記載のCLUSTALで計算した同一性パーセントスコアを調べることにより、本発明の任意の所与の配列に対する同一性パーセントの下方閾値を計算できるであろう。当業者であればまた、そのようにして計算した下方閾値より大きい同一性パーセント(例えば、好ましくは少なくとも約63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上同一である)を有する核酸及びアミノ酸配列も、本発明に包含されることを理解するであろう。
【0066】
配列表に奇数配列番号として記載したグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPヌクレオチド配列に加えて、MPタンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらすDNA配列多型が集団(例えば、グルタミン酸菌(C. gutamicum)集団)内に存在しうることを、当業者であれば理解するであろう。MP遺伝子のかかる遺伝的多型が自然的変異によって集団内の個体間に存在しうる。本明細書に使用される用語「遺伝子」及び「組換え遺伝子」は、MPタンパク質、好ましくはグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む核酸分子を意味する。かかる自然的変異は、典型的にはMP遺伝子のヌクレオチド配列において1〜5%の相違を生じうる。自然的変異の結果であってMPタンパク質の機能的活性を改変しないようなMPにおける任意の及び全てのかかるヌクレオチド変異とその結果生じるアミノ酸多型とは、本発明の範囲内であることが意図される。
【0067】
本発明のグルタミン酸菌(C. gutamicum)MP DNAの自然変異体及び非グルタミン酸菌(C. gutamicum)相同体に対応する核酸分子は、本明細書に開示したグルタミン酸菌(C. gutamicum)MP核酸との相同性に基づき、標準技術に従い、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でグルタミン酸菌(C. gutamicum)DNAまたはその部分をハイブリダイゼーションプローブとして使用することによって、単離することができる。従って、他の実施形態においては、本発明の単離された核酸分子は、少なくとも15ヌクレオチドの長さであって配列表の奇数配列番号のヌクレオチド配列を含んでなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものである。他の実施形態においては、本発明の核酸は少なくとも30、50、100、250またはそれ以上のヌクレオチド長である。本明細書に使用される用語「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」は、お互いに少なくとも60%相同的なヌクレオチド配列が通常はお互いにハイブリダイズしたままの状態となるハイブリダイゼーション条件及び洗浄条件を説明することを意図する。好ましくは、その条件はお互いに少なくとも約65%、さらに好ましくは少なくとも約70%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約75%またはそれ以上相同的な配列が通常はお互いにハイブリダイズしたままの状態となる条件である。そのようなストリンジェントな条件は当業者には周知であって、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に見られる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい例は、限定されるものでないが、6 X 塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で約45℃でのハイブリダイゼーション、そして次いで0.2 × SSC、0.1% SDS、50〜65℃での1回以上の洗浄である。好ましくは、本発明のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする本発明の単離された核酸分子は、天然の核酸分子に相当する。本明細書に使用される「天然の」核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド配列(例えば、天然のタンパク質をコードする)を有するRNAまたはDNA分子を意味する。一実施形態においては、核酸は自然のグルタミン酸菌(C. gutamicum)MPタンパク質をコードする。
【0068】
集団中に存在しうるMP配列の天然変異体に加えて、突然変異により本発明のヌクレオチド配列中に変化を導入して、それにより、MPタンパク質の機能活性を改変することなく、コードされたMPタンパク質のアミノ酸配列に変化を与えうることも、当業者であればさらに理解するであろう。例えば、「非本質的な」アミノ酸残基においてアミノ酸置換を起こすヌクレオチド置換を本発明のヌクレオチド配列について行ってもよい。「非本質的な」アミノ酸残基は、MPタンパク質の活性を改変すること無しに前記MPタンパク質(例えば、配列表の偶数配列番号)の1つの野生型配列から改変することができる残基である。それに対して「本質的な」アミノ酸残基はMPタンパク質活性に必要である。しかし、その他のアミノ酸残基(例えば、MP活性を有するドメインにおいて保存的であるかまたは半保存的である残基)は活性にとって本質的でなく、従って恐らくMP活性を改変することなく改変が許されるであろう。
【0069】
従って、本発明の他の態様は、MP活性にとって本質的でないアミノ酸残基の変化を含有するMPタンパク質をコードする核酸分子に関する。かかるMPタンパク質は、アミノ酸配列が配列表の偶数配列番号の配列とは異なるが、それでもなお本明細書に記載のMP活性の少なくとも1つを保持する。一実施形態においては、単離された核酸分子はタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、そのタンパク質は本発明のアミノ酸配列と少なくとも約50%相同的なアミノ酸配列を含んでなり、かつ、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路における酵素反応を触媒することができるかまたは表1に記載の活性の1種以上を有する。好ましくは、核酸分子がコードするタンパク質は、少なくとも配列表の奇数配列番号の1つのアミノ酸配列と少なくとも約50〜60%相同的、さらに好ましくはこれらの配列の1つと少なくとも約60〜70%相同的、なおさらに好ましくはこれらの配列の1つと少なくとも約70〜80%、80〜90%、90〜95%相同的、そして最も好ましくは本発明のアミノ酸配列の1つと少なくとも約96%、97%、98%、または99%相同的である。
【0070】
2つのアミノ酸配列(例えば、本発明のアミノ酸配列の1つ及びその突然変異型)または2つの核酸の相同性パーセントを決定するためには、両配列を最適に比較しうるようにアラインする(例えば、ギャップをタンパク質または核酸の配列に導入して他方のタンパク質または核酸と最適なアラインメントになるようにしてもよい)。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。1つの配列(例えば、本発明のアミノ酸配列の1つ)中のある位置を、他の配列(例えば、そのアミノ酸配列の突然変異型)の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドが占めるときは、両分子はその位置で相同的である(すなわち、本明細書に使用されるアミノ酸または核酸の「相同性」はアミノ酸または核酸の「同一性」と同じ意味である)。両配列間の相同性パーセントは、それらの配列が共有する同一である位置の数の関数である(すなわち、相同性% = 同一である位置の数/位置の合計数 × 100)。
【0071】
本発明のタンパク質配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と相同的なMPタンパク質をコードする単離された核酸分子は、本発明のヌクレオチド配列中に1以上のヌクレオチド置換、付加または欠失を導入してその結果、コードされるタンパク質中に1以上のアミノ酸置換、付加または欠失が導入されるようにすることによって作製することができる。突然変異は、本発明のヌクレオチド配列の1つに、位置指定突然変異誘発及びPCRを介する突然変異誘発などの標準技術により導入することができる。好ましくは、保存的アミノ酸置換を1以上の予想される非本質的アミノ酸残基について行う。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基を類似の側鎖を有するアミノ酸残基と置き換える置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で規定されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)をもつアミノ酸が含まれる。従って、MPタンパク質の予想される非本質的アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基を用いて置き換えることが好ましい。あるいは、他の実施形態においては、突然変異を、飽和突然変異誘発などにより、MPコード配列の全体または部分に沿って無作為に導入し、得られる突然変異体を本明細書に記載のMP活性についてスクリーニングしてMP活性を保持する突然変異体を同定することができる。配列表の奇数配列番号の1つのヌクレオチド配列の突然変異誘発後に、コードされたタンパク質を組換え法により発現させ、該タンパク質の活性を、例えば本明細書に記載のアッセイ(実施例8を参照)を用いて測定することができる。
【0072】
以上記載したMPタンパク質をコードする核酸分子に加えて、本発明の他の態様は、前記核酸分子に対してアンチセンスである単離された核酸分子に関する。「アンチセンス」核酸は、タンパク質をコードする「センス」核酸と相補的(例えば、2本鎖DNA分子のコード鎖と相補的かまたはmRNA配列と相補的)であるヌクレオチド配列を含んでなる。従って、アンチセンス核酸はセンス核酸と水素結合することができる。アンチセンス核酸は、MPコード鎖全体、またはその一部分だけと相補的であってもよい。一実施形態においては、アンチセンス核酸分子は、MPタンパク質をコードするヌクレオチド配列のコード鎖の「コード領域」に対してアンチセンスである。用語「コード領域」は、アミノ酸残基に翻訳されるコドンを含有するヌクレオチド配列の領域を意味する。他の実施形態においては、アンチセンス核酸分子は、MPをコードするヌクレオチド配列のコード鎖の「非コード領域」に対してアンチセンスである。用語「非コード領域」は、コード領域にフランキングする、アミノ酸に翻訳されない5'及び3'配列(すなわち、5'及び3'非翻訳領域とも呼ばれる)を意味する。
【0073】
本明細書に開示したMPをコードするコード鎖配列(例えば、配列表中の奇数配列番号として記載した配列)が与えられると、本発明のアンチセンス核酸は、ワトソン・クリックの塩基対合規則に従って設計することができる。アンチセンス核酸分子は、MP mRNAのコード領域全体と相補的であってもよいが、さらに好ましくはMP mRNAのコード領域または非コード領域の一部分に対してだけアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、MP mRNAの翻訳開始部位の周辺領域と相補的であってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ヌクレオチドの長さであってもよい。本発明のアンチセンス核酸は、化学合成及び酵素ライゲーション反応を利用し、当技術分野で周知の方法を使って構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然のヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を増加するかもしくはアンチセンス核酸とセンス核酸の間で形成される2本鎖の物理的安定性を増加するように設計した様々な修飾ヌクレオチドを用いて、化学合成することができ、例えば、ホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチドを利用することができる。アンチセンス核酸を作製するために利用しうる修飾ヌクレオチドの例は、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β-D-ガラクトシルキューオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、及び2,6-ジアミノプリンが挙げられる。あるいは、アンチセンス核酸は、核酸をアンチセンス方向にサブクローニングした発現ベクター(すなわち、挿入された核酸から転写されるRNAが目的の標的核酸に対してアンチセンス方向であり、これはさらに次のサブセクションで説明する)を利用して生物学的に生産することができる。
【0074】
本発明のアンチセンス核酸分子は、典型的には、細胞に投与するかまたはin situで生成させてそれらをMPタンパク質をコードする細胞mRNA及び/またはゲノムDNAとハイブリダイズさせるか結合させ、それにより、例えば転写及び/または翻訳を阻害することによりタンパク質の発現を阻害するようにする。ハイブリダイゼーションは、安定な2本鎖を形成する従来のヌクレオチド相補性によるものであるか、または、例えば、DNA2本鎖と結合するアンチセンス核酸分子の場合には、二重らせんの主溝における特異的相互作用によるものでありうる。アンチセンス分子を改変して、例えば、アンチセンス核酸分子を細胞表面受容体または抗原と結合するペプチドまたは抗体に連結することにより、選択した細胞表面上に発現される受容体または抗原と特異的に結合するようにしてもよい。アンチセンス核酸分子はまた、本明細書に記載したベクターを用いて細胞に送達することもできる。アンチセンス分子が十分な細胞内濃度となるようにするためには、アンチセンス核酸分子が強力な原核生物、ウイルス、または真核生物プロモーターの制御下に置かれているベクター構築物が、好ましい。
【0075】
さらに他の実施形態においては、本発明のアンチセンス核酸分子は、α-アノマー核酸分子である。α-アノマー核酸分子は相補的RNAと特有の2本鎖ハイブリッドを形成するが、この2本鎖ハイブリッドにおいては、通常のβユニットとは逆に、両鎖がお互いに平行に並ぶ(Gaultierら (1987) Nucleic Acids. Res. 15:6625-6641)。アンチセンス核酸分子はまた、2'-o-メチルリボヌクレオチド(Inoueら (1987) Nucleic Acids Res. 15:6131-6148)またはキメラRNA-DNA類似体(Inoueら (1987) FEBS Lett. 215:327-330)を含んでいてもよい。
【0076】
さらに他の実施形態においては、本発明のアンチセンス核酸はリボザイムである。リボザイムは、そのリボザイムに対する相補性領域をもつmRNAなどの1本鎖核酸を切断できるリボヌクレアーゼ活性をもつ触媒RNA分子である。従って、リボザイム(例えば、ハンマーヘッド・リボザイム(Haselhoff及びGerlach (1988) Nature 334:585-591に記載))を用いてMP mRNA転写物を触媒作用により切断し、それによりMP mRNAの翻訳を阻止することができる。MPをコードする核酸に対して特異性を有するリボザイムは、本明細書に開示したMP DNA(すなわち、配列番号1(RXA02229))のヌクレオチド配列に基づいて設計することができる。例えば、その活性部位のヌクレオチド配列がMPをコードするmRNAの切断すべきヌクレオチド配列と相補的である、テトラヒメナ(Tetrahymena)L-19 IVS RNAの誘導体を構築することができる。例えば、Cechら、米国特許第4,987,071号及びCechら、米国特許第5,116,742号を参照。あるいは、MP mRNAを用いてRNA分子のプールから特定のリボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNAを選択することができる。例えば、Bartel, D.及びSzostak, J.W. (1993) Science 261:1411-1418を参照。
【0077】
あるいは、MP遺伝子発現の阻害には、MPヌクレオチド配列の調節領域(例えば、MPプロモーター及び/またはエンハンサー)と相補的なヌクレオチド配列を標的として、標的細胞中のMP遺伝子の転写を阻止する三重らせん構造を形成させる方法によって行うことができる。例えば、一般的に、Helene, C. (1991) Anticancer Drug Des. 6(6):569-84;Helene, C.ら, (1992) Ann. N.Y. Acad. Sci. 660:27-36;及びMaher, L.J. (1992) Bioassays 14(12):807-15を参照。
【0078】
本発明の他の態様は、メチオニン及び/またはリシン代謝における遺伝子の組合せに関する。好ましい組合せは、metZと、metC、metB(シスタチオニンシンターゼをコードする)、metA(ホモセリン-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする)、metE(メチオニンシンターゼをコードする)、metH(メチオニンシンターゼをコードする;本明細書で配列番号1として記載)、hom(ホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする)、asd(アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする)、ask(アスパルトキナーゼをコードする)及びrxa00657(表4)との組合せである。
【表4】
【0079】
それらの遺伝子の全てを宿主株中で発現させてもよい。しかしまた、上記の遺伝子の一部だけ、例えば、metZとmetA、またはmetZ、metA、metH及びhom、あるいはいずれかの他の可能な組合せを選ぶことも可能である。それら遺伝子のヌクレオチド及びその対応するアミノ酸配列を改変して誘導体を得て、その活性が生理学的条件下で改変されることにより所望のファインケミカルの生産性及び/または収率が増加するようにすることができる。アスパルトキナーゼをコードするask遺伝子のヌクレオチド配列に対する、かかる改変の1つの種類または誘導体は周知である。これらの改変は、アミノ酸リシン及びトレオニンによるフィードバック阻害を排除し、続いてリシンの過剰生産を起こす。好ましい実施形態においては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株において、metH遺伝子またはmetH遺伝子の改変型をask、hom、metA及びmetZまたはこれらの遺伝子の誘導体と組み合わせて用いる。他の好ましい実施形態においては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株において、metHまたはmetH遺伝子の改変型をask、hom、metA、metZ及びmetEまたはこれらの遺伝子の誘導体と組み合わせて用いる。さらに好ましい遺伝子の組合せの実施形態においては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株において、metH遺伝子またはmetH遺伝子の改変型をask、hom、metA及びmetZまたはこれらの遺伝子の誘導体と組合わせるか、あるいはmetHをask、hom、metA、metZ及びmetEまたはこれらの遺伝子の誘導体と組合わせて、さらに硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩などの硫黄供給源およびH2S及び硫化物ならびに誘導体のようなより還元型の硫黄供給源を増殖培地に使用する。またメチルメルカプタン、メタンスルホン酸、チオグリコール酸塩、チオシアン酸塩、チオ尿素、さらにシステインなどの硫黄を含有するアミノ酸、ならびに他の硫黄を含有する化合物のような硫黄供給源を加えることもできる。本発明の他の態様は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株における上記の遺伝子の組合わせの使用であって、前記コリネバクテリウム(Corynebacterium)株が、遺伝子の導入前または導入後に、照射によるかまたは周知の変異原性化学物質により突然変異誘発されて、さらに、高濃度の目的のファインケミカル、例えばリシンまたはメチオニンあるいはメチオニン類似体であるエチオニンもしくはメチルメチオニンなどの所望のファインケミカルの類似体、に対する耐性について選択されたものである、前記使用に関する。他の実施形態においては、上述の遺伝子の組合わせを、特定の遺伝子が破壊されているコリネバクテリウム(Corynebacterium)株で発現させることができる。望ましくない代謝物への炭素流入をもたらすタンパク質をコードする遺伝子の破壊が好ましい。メチオニンが所望のファインケミカルである場合、リシンの生成は都合が悪い。このような場合には、上述の遺伝子の組合わせは、lysA遺伝子(ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼをコードする)またはddh遺伝子(テトラヒドロピコリン酸のメソ-ジアミノピメリン酸への転化を触媒するメソ-ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする)の遺伝子破壊を有するコリネバクテリウム(Corynebacterium)株において扱うべきである。好ましい実施形態においては、上述の遺伝子の有利な組合わせは、それらの遺伝子産物が、所望のファインケミカルをもたらす生合成経路の最終産物または代謝物によりフィードバック阻害されないように、全て改変する。所望のファインケミカルがメチオニンである場合、遺伝子の組合わせを、予め突然変異誘発物質または照射を用いて処理してから上記の耐性について選択された株において発現させることができる。さらに、その株は上記の硫黄供給源の1以上を含有する増殖培地で増殖させるべきである。
【0080】
本発明の他の態様は、トレハロースの代謝に関わる遺伝子の組合わせ、及びトレハロースと他の単糖類、オリゴ糖類または多糖類の代謝に関わる遺伝子の組合わせに関する。トレハロースシンターゼの遺伝子(本明細書で配列番号3と名付けられた)と表5に開示した遺伝子との組合わせが好ましい。
【0081】
本発明の他の態様は、トレハロースシンターゼの遺伝子と、糖輸送に関わる遺伝子(例えばPTS系の遺伝子(表5に開示した)、他の糖輸送系の遺伝子、または細胞から周辺環境中への糖流出を促進するタンパク質の遺伝子など)との組み合わせである。
【表5】
【0082】
本発明の他の態様は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)株における上記遺伝子組み合わせの使用であって、そのコリネバクテリウム(Corynebacterium)株が、遺伝子の導入前または導入後に、照射によるかまたは周知の変異原性化学物質により突然変異誘発されて、さらに高濃度の原料(例えばグルコースもしくは他の糖類)または目的のファインケミカル、例えばトレハロースもしくは他の糖類に対する耐性について選択されたものである、前記使用に関する。
【0083】
他の実施形態においては、上記の遺伝子組み合わせを、特定の遺伝子破壊または遺伝子減弱化(すなわち、正常レベルと比較して生物学的活性が低下している遺伝子)を有するコリネバクテリウム(Corynebacterium)株において発現させてもよい。所望のファインケミカルを生成しない代謝経路への炭素流入をもたらすタンパク質をコードする遺伝子の破壊または減弱化が好ましい。トレハロースが所望のファインケミカルである場合、かかる望ましくない代謝経路は例えば解糖系またはペントースリン酸サイクルであってもよい。
【0084】
B. 組換え発現ベクターと宿主細胞
本発明の他の態様は、MPタンパク質(またはその一部分)をコードする核酸または少なくとも1つの遺伝子がMPタンパク質をコードする遺伝子の組み合わせを含有するベクター、好ましくは発現ベクターに関する。本明細書に使用される用語「ベクター」は、連結している別の核酸分子を輸送することができる核酸分子を意味する。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメントをその中に連結できる環状2本鎖DNAループを意味する。ベクターの他のタイプはウイルスベクターであり、この場合、追加のDNAセグメントをウイルスゲノム中にライゲートすることができる。ある種のベクターは、導入された宿主細胞内での自律複製能を有する(例えば、細菌性複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム性哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳類ベクター)は、宿主細胞導入時に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、それが機能しうる形で連結された遺伝子の発現を指令することができる。本明細書においては、かかるベクターを「発現ベクター」と呼ぶ。一般的に、組換えDNA技術において利用される発現ベクターは、しばしばプラスミドの形態である。プラスミドがベクターの形態で最も普通に使用されるので、本明細書においては「プラスミド」と「ベクター」を互換的に使用することができる。しかし、本発明は、同等の機能を果たす他の形態の発現ベクター、例えばウイルスベクター(例えば、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)などを含むことを意図する。
【0085】
本発明の組換え発現ベクターは、本発明の核酸を宿主細胞における核酸の発現に適した形態で含むものであり、すなわち、組換え発現ベクターは、発現に使用する宿主細胞に基づいて選択される1以上の調節配列を、発現される核酸配列と機能しうる形で連結して含むことを意味する。組換え発現ベクター内で「機能しうる形で連結された」は、目的のヌクレオチド配列が(例えば、in vitro転写/翻訳系において、またはベクターが宿主細胞中に導入されたときは宿主細胞において)ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で調節配列と連結されていることを意味することを意図する。用語「調節配列」は、プロモーター、リプレッサー結合部位、アクチベーター結合部位、エンハンサー及び他の発現制御エレメント(例えば、ターミネーター、ポリアデニル化シグナル、またはmRNA二次構造の他のエレメント)を含むことを意図する。そのような調節配列は、例えば、Goeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。調節配列は、多くのタイプの宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を指令する調節配列、及びある特定の宿主細胞においてだけヌクレオチド配列の発現を指令する調節配列を含む。好ましい調節配列は、例えば、cos-、tac-、trp-、tet-、trp-tet-、lpp-、lac-、lpp-lac-、lacIq-、T7-、T5-、T3-、gal-、trc-、ara-、SP6-、arny、SPO2、λ-PR-またはλPL、などのプロモーターであって、これらは細菌において使用するのが好ましい。さらなる調節配列は、例えば、ADC1、MFα、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADHなどの酵母及び真菌由来のプロモーター、CaMV/35S、SSU、OCS、lib4、usp、STLS1、B33、nosまたはユビキチン-もしくはファゼオリン-プロモーターなどの植物からのプロモーターである。人工プロモーターを使用することも可能である。当業者であれば、発現ベクターの設計は、形質転換する宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの因子に依存しうることを理解するであろう。本発明の発現ベクターを宿主細胞中に導入し、それにより本明細書に記載の核酸によりコードされるタンパク質またはペプチド(融合タンパク質またはペプチドを含む)(例えば、MPタンパク質、MPタンパク質の突然変異型、融合タンパク質など)を生産することができる。
【0086】
本発明の組換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞においてMPタンパク質を発現するように設計することができる。例えば、MP遺伝子を、グルタミン酸菌(C. gutamicum)などの細菌細胞において、昆虫細胞において(バキュロウイルス発現ベクターを用いて)、酵母及び他の真菌細胞において(Romanos, M.A.ら (1992) 「酵母における外来遺伝子発現:総説(Foreign gene expression in yeast: a review)」, Yeast 8:423-488;van den Hondel, C.A.M.J.J.ら (1991) 「糸状菌における異種遺伝子発現(Heterologous gene expression in filamentous fungi)」 More Gene Manipulations in Fungi, J.W. Bennet & L.L. Lasure編, p.396-428: Academic Press: San Diego;及びvan den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J. (1991) 「糸状菌用の遺伝子導入系及びベクター開発(Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi)」, Applied Molecular Genetics of Fungi, Peberdy, J.F.ら編, p. 1-28, Cambridge University Press: Cambridgeを参照)、藻類及び多細胞植物細胞において(Schmidt, R.及びWillmitzer, L. (1988) 「高効率のアグロバクテリウム・ツメファシエンス菌を介するシロイヌナズナ葉及び子葉外植片の形質転換(High efficiency Agrobacterium tumefaciens-mediated transformation of Arabidopsis thaliana leaf and cotyledon explants)」 Plant Cell Rep.: 583-586を参照)、または哺乳類細胞において発現させることができる。適当な宿主細胞はさらに、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)にて考察されている。あるいは、組換え発現ベクターからは、例えばT7プロモーター調節配列及びT7ポリメラーゼを用いることにより、in vitroで転写及び翻訳することができる。
【0087】
原核生物におけるタンパク質の発現は、ほとんどの場合、融合または非融合タンパク質の発現を指令する構成性または誘導プロモーターを含有するベクターを用いて行われる。融合ベクターは、その中にコードされているタンパク質に、ある数のアミノ酸を、通常は組換えタンパク質のアミノ末端に(しかし場合によってはC末端にも)付加するかまたは前記タンパク質の適当な領域内に融合させて加える。かかる融合ベクターは、典型的には次の3つの目的を果たす:1)組換えタンパク質の発現を増加すること;2)組換えタンパク質の可溶性を高めること;及び3)アフィニティ精製におけるリガンドとして働くことにより組換えタンパク質の精製を助けること。しばしば、融合発現ベクターにおいては、融合部分と組換えタンパク質との連結部にタンパク質加水分解切断部位を導入し、融合タンパク質の精製に続いて融合部分から組換えタンパク質を分離することを可能にする。かかる酵素及びそれらのコグネイト(cognate)認識配列としては、Xa因子、トロンビン及びエンテロキナーゼが挙げられる。
【0088】
典型的な融合発現ベクターとしては、pGEX(Pharmacia Biotech Inc; Smith, D.B.及びJohnson, K.S. (1988) Gene 67:31-40)、pMAL(New England Biolabs, Beverly, MA)及びpRIT5(Pharmacia, Piscataway, NJ)が挙げられ、それぞれ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはプロテインAを標的組換えタンパク質と融合させる。一実施形態においては、MPタンパク質のコード配列をpGEX発現ベクター中にクローニングして、GST-トロンビン切断部位-Xタンパク質(N末端からC末端へ向かって)を含んでなる融合タンパク質をコードするベクターを作製する。該融合タンパク質はアフィニティクロマトグラフィによりグルタチオン-アガロース樹脂を用いて精製することができる。GSTと融合していない組換えMPタンパク質はトロンビンを用いた融合タンパク質の切断により回収することができる。
【0089】
適当な誘導性の非融合大腸菌(E.coli)発現ベクターの例としては、pTrc(Amannら, (1988) Gene 69:301-315)pLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11、pBdCl、及びpET 11d(Studierら, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 60-89;及びPouwelsら編 (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York IBSN 0 444 904018)が挙げられる。pTrcベクターからの標的遺伝子発現はハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存する。pET 11dベクターからの標的遺伝子発現はT7 gn10-lac融合プロモーターからの転写に依存し、同時発現されるウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)により媒介される。このウイルスポリメラーゼは、lacUV 5プロモーターの転写制御下のT7 gn1遺伝子を有する常在性λプロファージから宿主株BL21(DE3)またはHMS174(DE3)により供給される。他の様々な細菌の形質転換については、適当なベクターを選択することができる。例えば、プラスミドpIJ101、pIJ364、pIJ702及びpIJ361がストレプトマイセス(Streptomyces)属を形質転換するのに有用であるのに対して、プラスミドpUB110、pC194、またはpBD214はバシラス(Bacillus)菌種の形質転換に適当であることが知られている。コリネバクテリウム(Corynebacterium)属中への遺伝子情報の導入に使用されるいくつかのプラスミドとしては、pHM1519、pBL1、pSA77、またはpAJ667が挙げられる(Pouwelsら編. (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York IBSN 0 444 904018)。
【0090】
組換えタンパク質発現を最大化する1つの方法は、組換えタンパク質をタンパク質加水分解して切断する能力の損なわれた宿主細菌において、タンパク質を発現させることである(Gottesman, S., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 119-128)。他の方法は、発現ベクター中に挿入する核酸の核酸配列を改変して、それぞれのアミノ酸に対する個々のコドンが、発現用に選んだグルタミン酸菌(C. gutamicum)などの細菌において優先的に利用されるコドンになるようにすることである(Wadaら (1992) Nucleic Acids Res. 20:2111-2118)。本発明の核酸配列のかかる改変は、標準のDNA合成技術により実施することができる。
【0091】
他の実施形態においては、MPタンパク質発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母S.セレビシエ(S. cerevisiae)での発現用のベクターの例としては、pYepSec1(Baldariら, (1987) Embo J. 6:229-234)、2μ、pAG-1、Yep6、Yep13、pEMBLYe23、pMFa(Kurjan及びHerskowitz, (1982) Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultzら, (1987) Gene 54:113-123)、及びpYES2(Invitrogen Corporation, San Diego, CA)が挙げられる。糸状真菌などの他の真菌において使用するのに適当なベクター及びそのベクターを構築する方法としては、van den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J. (1991) 「糸状菌用の遺伝子導入系及びベクター開発(Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi)」, Applied Molecular Genetics of Fungi, J.F. Peberdy,ら編, p.1-28, Cambridge University Press: Cambridge、ならびにPouwelsら編. (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York (IBSN 0 444 904018)に詳述されているものが挙げられる。
【0092】
あるいは、本発明のMPタンパク質は、バキュロウイルス発現ベクターを利用して昆虫細胞にて発現させることができる。培養昆虫細胞(例えば、Sf 9細胞)におけるタンパク質の発現に利用しうるバキュロウイルスベクターとしては、pAcシリーズ(Smithら (1983) Mol. Cell Biol. 3:2156-2165)及びpVLシリーズ(Lucklow及びSummers (1989) Virology 170:31-39)が挙げられる。
【0093】
他の実施形態においては、本発明のMPタンパク質を単細胞の植物細胞(藻類など)においてまたは高等植物由来の植物細胞(例えば、作物植物などの種子植物)において発現させることができる。植物発現ベクターの例としては、Becker, D., Kemper, E., Schell, J.及びMasterson, R. (1992) 「左側境界配列の近位に位置した選択マーカーをもつ新しい植物バイナリーベクター(New plant binary vectors with selectable markers located proximal to the left border)」, Plant Mol. Biol. 20:1195-1197;及びBevan, M.W. (1984) 「植物形質転換用のバイナリーアグロバクテリウム・ベクター(Binary Agrobacterium vectors for plant transformation)」, Nucl. Acid. Res. 12:8711-8721、に詳述されているものが挙げられ、pLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004、及びpDH51(Pouwelsら編 (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York IBSN 0 444 904018)が挙げられる。
【0094】
さらに他の実施形態においては、本発明の核酸は、哺乳類発現ベクターを利用して哺乳類細胞にて発現される。哺乳類発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed, B. (1987) Nature 329:840)及びpMT2PC(Kaufmanら (1987) EMBO J. 6:187-195)が挙げられる。哺乳類細胞にて使用する場合、発現ベクターの制御機能はしばしばウイルス調節エレメントにより提供される。例えば、一般的に使用されるプロモーターは、ポリオーマウイルス、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス及びサルウイルス40に由来するものである。原核細胞及び真核細胞の両方に対する他の適当な発現系については、Sambrook, J., Fritsh, E.F.,及びManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989の第16章及び第17章を参照すること。
【0095】
他の実施形態においては、組換え哺乳類発現ベクターは、特定の細胞型において優先的に、核酸配列の発現を指令することができる(例えば、組織特異的調節エレメントを用いて核酸を発現させる)。組織特異的調節エレメントは当技術分野では周知である。好適な組織特異的プロモーターの例としては、限定されるものでないが、アルブミンプロモーター(肝特異的;Pinkertら (1987) Genes Dev. 1:268-277)、リンパ系特異的プロモーター(Calame及びEaton (1988) Adv. Immunol. 43:235-275)、特に、T細胞受容体のプロモーター(Winoto及びBaltimore (1989) EMBO J. 8:729-733)及び免疫グロブリン(Banerjiら (1983) Cell 33:729-740;Queen及びBaltimore (1983) Cell 33:741-748)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経フィラメントプロモーター;Byrne及びRuddle (1989) PNAS 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlundら (1985) Science 230:912-916)、及び乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター; 米国特許第4,873,316号及び欧州出願公開第264,166号)が挙げられる。発生的に調節されるプロモーター、例えば、マウスhoxプロモーター(Kessel及びGruss (1990) Science 249:374-379)及びα-フェトプロテインプロモーター(Campes及びTilghman (1989) Genes Dev. 3:537-546)も包含される。
【0096】
本発明はさらに、発現ベクター中にアンチセンス方向にクローニングされた本発明のDNA分子を含んでなる組換え発現ベクターを提供する。すなわち、そのDNA分子は、MP mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子の発現が(DNA分子の転写により)可能になる様式で、調節配列と機能しうる形で連結される。アンチセンス方向にクローニングされた核酸と機能しうる形で連結されて、様々な細胞型においてアンチセンスRNA分子の連続的発現を指令することができる調節配列、例えばウイルスプロモーター及び/またはエンハンサーを選んでもよいし、またはアンチセンスRNAの構成的、組織特異的または細胞型特異的発現を指令する調節配列を選んでもよい。アンチセンス発現ベクターは組換えプラスミド、ファージミドまたは弱毒化ウイルスの形態であってもよく、その場合、その中に含まれるアンチセンス核酸は高効率の調節領域の制御下で生産され、その活性はベクターが導入される細胞型により測定することができる。アンチセンス遺伝子を利用する遺伝子発現の調節についての考察は、Weintraub, H.ら, 「遺伝子分析用の分子ツールとしてのアンチセンスRNA、総説(Antisense RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews)」 - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986を参照すること。
【0097】
本発明の他の態様は、本発明の組換え発現ベクターが導入されている宿主細胞に関する。本明細書では用語「宿主細胞」と「組換え宿主細胞」を互換的に使用する。かかる用語は特定の対象細胞だけでなく、かかる細胞の子孫または潜在的子孫も意味すると理解される。後続世代においては、突然変異または環境影響により何らかの改変が起こりうるので、かかる子孫は、実際には親細胞と同一ではないかもしれないが、それでもなお本明細書で使用されるこの用語の範囲内に含まれる。
【0098】
宿主細胞はいずれの原核細胞または真核細胞であってもよい。例えば、MPタンパク質をグルタミン酸菌(C. gutamicum)などの細菌細胞、昆虫細胞、酵母または哺乳類細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞など)において発現させることができる。他の適当な宿主細胞は当業者には周知である。本発明の核酸及びタンパク質分子のための宿主細胞として好都合に利用しうるグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)に近縁な微生物が表2に記載されている。
【0099】
ベクターDNAは、従来の形質転換またはトランスフェクション技術によって原核細胞または真核細胞中に導入することができる。本明細書に使用される用語「形質転換」及び「トランスフェクション」、「コンジュゲーション」及び「形質導入」は、外来核酸(例えば、(線状DNAまたはRNA(例えば、線状化ベクターまたはベクターなしの単独の遺伝子構築物)またはベクターの形態の核酸(例えば、プラスミド、ファージ、ファスミド、ファージミド、トランスポゾンまたは他のDNA))を宿主細胞中へ導入するための当技術分野で認識されている様々な技術を意味することを意図し、それらの技術としては、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、天然コンピテント性(natural competence)、化学物質媒介導入、またはエレクトロポレーションが挙げられる。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトする適当な方法は、Sambrook,ら, (Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)、及び他の実験室マニュアルに記載されている。
【0100】
哺乳類細胞の安定なトランスフェクションについては、使用する発現ベクターとトランスフェクション技術に依存して、ごく少量の細胞だけがそのゲノム中に外来遺伝子を組み込みうることが知られている。これらの組み込み体を同定しかつ選択するために、一般的に、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性)をコードする遺伝子を、目的の遺伝子とともに宿主細胞に導入する。好ましい選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシン及びメトトレキセートなどの薬物に対する耐性を付与するものが挙げられる。選択マーカーをコードする核酸を、MPタンパク質をコードするのと同じベクターに載せて宿主細胞中に導入してもよいしまたは別のベクターに載せて導入してもよい。導入した核酸を用いて安定的にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択(例えば、選択マーカー遺伝子を組み込んでいる細胞は生存するが、その他の細胞は死滅する)により確認することができる。
【0101】
相同的組換え微生物を作製するために、MP遺伝子を改変する(例えば、機能を破壊する)目的で欠失、付加または置換を導入しておいたMP遺伝子の少なくとも一部分を含有するベクターを調製する。
【0102】
好ましくは、このMP遺伝子はグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)MP遺伝子であるが、近縁の細菌またはさらに哺乳類、酵母または昆虫起源由来の相同体であってもよい。好ましい実施形態においては、このベクターを、相同的組換えによって内因性MP遺伝子が機能的に破壊されるように、設計する(すなわち、機能的タンパク質をもはやコードしない;「ノックアウト」ベクターとも呼ばれる)。あるいは、ベクターを、相同的組換えによって内因性MP遺伝子が突然変異しているかさもなくば改変されているが、なお機能的タンパク質をコードするように設計してもよい(例えば、上流調節領域を改変してそれにより内因性MPタンパク質の発現を改変してもよい)。相同的組換えベクターにおいては、MP遺伝子の改変部分はその5'及び3'末端でMP遺伝子の追加の核酸にフランキングしており、ベクターが担持する外因性MP遺伝子と微生物中の内因性MP遺伝子との間の相同的組換えが起こることを可能にしている。追加のフランキングMP核酸は、内因性遺伝子との相同的組換えを成功させるために十分な長さのものである。典型的には、数キロベースのフランキングDNA(5'及び3'末端の両方について)がベクターに含まれる(例えば、相同的組換えベクターの解説については、Thomas, K.R.,及びCapecchi, M.R. (1987) Cell 51:503を参照)。ベクターを微生物中に導入し(例えば、エレクトロポレーションにより)、そして導入したMP遺伝子が内因性MP遺伝子と相同的に組換えられた細胞を、当技術分野で周知の技術を用いて選択する。
【0103】
他の実施形態においては、導入した遺伝子の発現の調節を可能にする選択された系を含有する組換え微生物を作製することができる。例えば、MP遺伝子をlacオペロンの制御下におくようにしてベクターに組み込むと、IPTGの存在下でのみMP遺伝子の発現が可能になる。かかる調節系は当技術分野では周知である。
【0104】
他の実施形態においては、宿主細胞中の内因性MP遺伝子を破壊して(例えば、相同的組換えまたは当技術分野で周知の他の遺伝子操作手法により)、そのタンパク質産物の発現が起こらないようにする。他の実施形態においては、宿主細胞中の内因性または導入されたMP遺伝子は、1以上の点突然変異、欠失、または逆位により改変されているが、なお機能的MPタンパク質をコードするものである。さらなる他の実施形態においては、微生物中のMP遺伝子の1以上の調節領域(例えば、プロモーター、リプレッサー、またはインデューサー)を改変して(例えば、欠失、末端切断、逆位、または点突然変異により)、MP遺伝子の発現がモジュレートされるようにする。当業者であれば、記載したMP遺伝子及びタンパク質改変を2以上含有する宿主細胞は、本発明の方法を用いて容易に作製することができ、かつ本発明に包含されるものと意味されることは理解するであろう。
【0105】
培養中の原核または真核宿主細胞などの、本発明の宿主細胞を用いて、MPタンパク質を生産する(すなわち、発現させる)ことができる。従って、本発明はさらに、本発明の宿主細胞を用いてMPタンパク質を生産する方法を提供する。一実施形態においては、本方法は、本発明の宿主細胞(MPタンパク質をコードする組換え発現ベクターが導入されているか、またはそのゲノム中に野生型または改変されたMPタンパク質をコードする遺伝子が導入されている)を、適当な培地中でMPタンパク質が生産されるまで培養することを含む。他の実施形態においては、本方法はさらにMPタンパク質を培地または宿主細胞から単離することを含む。
【0106】
C. 単離された MP タンパク質
本発明の他の態様は、単離されたMPタンパク質、及びその生物学的活性部分に関する。「単離された」もしくは「精製された」タンパク質またはその生物学的活性部分は、組換えDNA技術により生産したときは細胞物質を実質的に含まないし、または化学的に合成したときは化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。「細胞物質を実質的に含まない」という用語は、タンパク質が天然でまたは組換えによって生産された細胞の細胞構成成分から分離されたMPタンパク質の調製物を含む。一実施形態においては、「細胞物質を実質的に含まない」という用語は、約30%未満(乾燥重量で)の非MPタンパク質(本明細書においては「汚染タンパク質」とも呼ぶ)、さらに好ましくは約20%未満の非MPタンパク質、なおさらに好ましくは約10%未満の非MPタンパク質、そして最も好ましくは約5%未満の非MPタンパク質を有するMPタンパク質の調製物を含む。MPタンパク質またはその生物学的活性部分を組換えで生産するときに、培地を実質的に含まないことも好ましく、すなわち、培地がタンパク質調製物の容積の約20%未満、さらに好ましくは約10%未満、そしても最も好ましくは約5%未満に相当する。「化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という用語は、タンパク質がタンパク質合成に関わる化学前駆体または他の化学物質から分離されたMPタンパク質の調製物を含む。一実施形態においては、「化学前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という用語は、約30%未満(乾燥重量で)の化学前駆体または非MP化学物質、さらに好ましくは約20%未満の化学前駆体または非MP化学物質、なおさらに好ましくは約10%未満の化学前駆体または非MP化学物質、そして最も好ましくは約5%未満の化学前駆体または非MP化学物質を有するMPタンパク質の調製物を含む。好ましい実施形態においては、単離されたタンパク質またはその生物学的活性部分は、MPタンパク質を誘導した同じ生物由来の汚染タンパク質を欠如する。典型的には、かかるタンパク質は例えば、グルタミン酸菌(C. glutamicum)などの微生物において、グルタミン酸菌MPタンパク質の組換え発現により生産する。
【0107】
本発明の単離されたMPタンパク質またはその一部分は、アミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬(nutraceutical)、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を触媒することができるか、または表1に記載の活性の1以上を有する。好ましい実施形態においては、タンパク質またはその部分は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と十分に相同的であるアミノ酸配列を含んでなり、該タンパク質またはその部分はアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を触媒する能力を維持する。タンパク質の部分は好ましくは本明細書に記載した生物学的活性部分である。他の好ましい実施形態においては、本発明のMPタンパク質は、配列表の偶数配列番号に記載したアミノ酸配列を有する。さらに他の好ましい実施形態においては、MPタンパク質は、例えばストリンジェントな条件下で、本発明のヌクレオチド配列(例えば、配列表の奇数配列番号の配列)とハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有する。さらなる他の好ましい実施形態においては、MPタンパク質は、本発明の核酸配列またはその一部分の1つと好ましくは少なくとも約63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上相同的であるヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列を有する。上記値の中間にある範囲及び同一性値(例えば、70〜90%同一または80〜95%同一)も本発明により包含されると意図する。例えば、上記の値のいずれの組合せを上限及び/または下限として用いる同一性値の範囲は含まれることが意図される。本発明の好ましいMPタンパク質はまた、好ましくは本明細書に記載のMP活性の少なくとも1つを持つ。例えば、好ましい本発明のMPタンパク質は、例えば、ストリンジェントな条件下で本発明のヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされ、かつアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロース代謝経路の酵素反応を触媒することができるか、または表1に記載の活性の1以上を有するアミノ酸配列を包含する。
【0108】
他の実施形態においては、MPタンパク質は、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列表の偶数配列番号の配列)と実質的に相同的であり、本発明のアミノ酸配列の1つのタンパク質の機能的活性を保持するが、先のサブセクションIで詳細に説明したように、自然変異または突然変異誘発によりアミノ酸配列が異なる。従って、他の実施形態においては、該MPタンパク質は、本発明の全アミノ酸配列と好ましくは少なくとも約63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、もしくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、もしくは90%、または91%、92%、93%、94%、そしてなおさらに好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%以上相同的であるアミノ酸配列を含んでなり、かつ本明細書に記載のMP活性の少なくとも1つを有するタンパク質である。上記値の中間にある範囲及び同一性値(例えば、70〜90%同一または80〜95%同一)も本発明により包含されると意図する。例えば、上記の値のいずれの組合せを上限及び/または下限として用いる同一性値の範囲は含まれることが意図される。他の実施形態においては、本発明は、本発明の全アミノ酸配列と実質的に相同的である全長グルタミン酸菌タンパク質に関する。
【0109】
MPタンパク質の生物学的活性部分は、MPタンパク質のアミノ酸配列、例えば、配列表の偶数配列番号のアミノ酸配列から誘導されるアミノ酸配列、または全長MPタンパク質より少ないアミノ酸を含むかもしくはMPタンパク質と相同的である全長タンパク質を含むMPタンパク質と相同的なタンパク質のアミノ酸配列を含んでなるペプチドを含有し、かつMPタンパク質の少なくとも1つの活性を示す。典型的には、生物学的活性部分(ペプチド、例えば、長さが例えば、5、10、15、20、30、35、36、37、38、39、40、50、100またはそれ以上のアミノ酸であるペプチド)は、MPタンパク質の少なくとも1つの活性をもつドメインまたはモチーフを含んでなる。さらに、タンパク質の他の領域が欠失した他の生物学的活性部分を組換え技術により調製し、本明細書に記載の1以上の活性について評価することができる。好ましくは、MPタンパク質の生物学的活性部分は、1以上の選択された生物学的活性を有するドメイン/モチーフまたはその部分を含む。
【0110】
MPタンパク質は、好ましくは、組換えDNA技術により生産する。例えば、該タンパク質をコードする核酸分子を発現ベクター(前記)中にクローニングし、その発現ベクターを宿主細胞(前記)中に導入し、MPタンパク質を宿主細胞に発現させる。次いで、MPタンパク質を細胞から適当な精製スキームにより標準のタンパク質精製技術を利用して単離することができる。組換え発現の代わりに、MPタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを、標準のペプチド合成技術を利用して化学的に合成することができる。さらに、天然のMPタンパク質を細胞(例えば、内皮細胞)から、例えば、抗MP抗体を用いて単離してもよく、前記抗体は標準技術により本発明のMPタンパク質またはその断片を利用して生産することができる。
【0111】
本発明はまた、MPキメラまたは融合タンパク質も提供する。本明細書に使用されるMP「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、非MPポリペプチドと機能的に連結されたMPポリペプチドを含んでなる。「MPポリペプチド」は、MPに対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味するのに対して、「非MPポリペプチド」は、MPタンパク質と実質的に相同的でないタンパク質、例えば、MPタンパク質と異なっていてかつ同じまたは異なる生物から誘導されるタンパク質に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。融合タンパク質内で、「機能的に連結された」という用語は、MPポリペプチド及び非MPポリペプチドがインフレームで(in frame)お互いと融合していることを示すことを意図する。非MPポリペプチドをMPポリペプチドのN末端またはC末端に融合させることができる。例えば、一実施形態においては、融合タンパク質は、MP配列がGST配列のC末端に融合しているGST-MP融合タンパク質である。かかる融合タンパク質は、組換えMPタンパク質の精製を容易にすることができる。他の実施形態においては、融合タンパク質は、そのN末端に異種シグナル配列を含有するMPタンパク質である。ある特定の宿主細胞(例えば、哺乳類宿主細胞)においては、MPタンパク質の発現及び/または分泌は、異種シグナル配列の利用を通じて増加することができる。
【0112】
好ましくは、本発明のMPキメラまたは融合タンパク質は、標準の組換えDNA技術により生産する。例えば、従来の技術により、例えば、ライゲーション用の平滑末端化末端または付着末端化(stagger-ended)末端、適当な末端を提供するための制限酵素消化、適当な場合には付着末端のフィリングイン(filling-in)、望ましくない接合を避けるためのアルカリホスファターゼ処理、及び酵素ライゲーションを用いることにより、様々なポリペプチド配列をコードするDNA断片をインフレームで一緒にライゲートする。他の実施形態においては、自動DNA合成機を含む従来の技術により融合遺伝子を合成することができる。あるいは、2つの連続的遺伝子断片間に相補的オーバーハングを生じるアンカープライマーを用いて遺伝子断片のPCR増幅を実施し、次いでこれらをアニーリングしかつ再増幅してキメラ遺伝子配列を生成することができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology, 編. Ausubelら John Wiley & Sons: 1992を参照)。さらに、融合部分を既にコードした発現ベクター(例えば、GSTポリペプチド)が多数市販されている。MPをコードする核酸をかかる発現ベクター中にクローニングして、融合部分をインフレームでMPタンパク質に連結することができる。
【0113】
MPタンパク質の相同体は、突然変異誘発、例えば別々の点突然変異またはMPタンパク質の末端切断により生成することができる。本明細書に使用される「相同体」という用語は、MPタンパク質の活性のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用するMPタンパク質の変異型を意味する。MPタンパク質のアゴニストは、MPタンパク質の実質的に同じまたはサブセットの生物学的活性を保持することができる。MPタンパク質のアンタゴニストは、例えば、MPタンパク質を含むMPカスケードの下流または上流メンバーと競争して結合することにより、MPタンパク質の天然型の1以上の活性を阻害することができる。このように、本発明のグルタミン酸菌MPタンパク質およびその相同体は、この微生物においてMPタンパク質が役割を果たす1以上の代謝経路の活性をモジュレートすることができる。
【0114】
代わりの実施形態においては、MPタンパク質の相同体は、MPタンパク質の突然変異体、例えば末端切断突然変異体のコンビナトリアルライブラリーをMPタンパク質アゴニストまたはアンタゴニスト活性についてスクリーニングすることにより、同定することができる。一実施形態においては、MP変異体の多様な(variegated)ライブラリーをコンビナトリアル突然変異誘発により核酸レベルで生成し、多様な遺伝子ライブラリーによりコードする。例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素を使って遺伝子配列中にライゲートして、潜在MP配列の縮重セットを個々のポリペプチドとしてあるいはMP配列のセットを含有するさらに大きい融合タンパク質のセット(例えば、ファージディスプレイ用)として発現しうるようにすることにより、MP変異体の多様なライブラリーを生産することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から潜在MP相同体のライブラリーを生産するためには、様々な方法を利用しうる。縮重遺伝子配列の化学合成は、自動DNA合成機で実施し、次いで合成遺伝子を適当な発現ベクター中にライゲートすることができる。遺伝子の縮重セットを利用すると、一混合物で、所望の潜在MP配列のセットをコードする配列の全てを供給することが可能になる。縮重オリゴヌクレオチドを合成する方法は当技術分野では公知である(例えば、Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3;Itakuraら (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323;Itakuraら (1984) Science 198:1056;Ikeら (1983) Nucleic Acid Res. 11:477を参照)。
【0115】
さらに、MPタンパク質コーディングの断片のライブラリーを利用してMP断片の多様な集団を生成し、MPタンパク質の相同体のスクリーニングと続いての選択をすることができる。一実施形態においては、コード配列断片のライブラリーを次の方法で生成することができる;すなわち、MPコード配列の2本鎖PCR断片をヌクレアーゼを用いて1分子当たり約1回だけニッキングが起こる条件下で処理し、2本鎖DNAを変性し、DNAを再生して様々なニック入り(nicked)産物からのセンス/アンチセンス対を含みうる2本鎖DNAを形成し、リフォームした二重らせんからS1ヌクレアーゼを用いる処理により1本鎖部分を除去し、そして得られる断片ライブラリーを発現ベクター中にライゲートする。この方法によって、MPタンパク質の様々なサイズのN末端、C末端及び内部断片をコードする発現ベクターを誘導することができる。
【0116】
当技術分野では、点突然変異または末端切断により作製したコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングする及び選択された特性を有する遺伝子産物用のcDNAライブラリーをスクリーニングする複数の技術が知られている。このような技術を、MP相同体のコンビナトリアル突然変異誘発により生成した遺伝子ライブラリーの迅速スクリーニングに適応することができる。大きな遺伝子ライブラリーをスクリーニングするハイスループット分析に受け入れられる最も広く使われる技術は、典型的には遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクター中にクローニングし、得られるベクターのライブラリーを用いて適当な細胞を形質転換し、そして、所望の活性の検出によってその産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離が容易になる条件下で、コンビナトリアル遺伝子を発現することが挙げられる。ライブラリー中の機能突然変異体の出現度を増大する新技術である再帰アンサンブル突然変異誘発(REM)を、スクリーニングアッセイと一緒に利用してMP相同体を同定することができる(Arkin及びYourvan (1992) PNAS 89:7811-7815;Delgraveら (1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0117】
他の実施形態においては、当技術分野で周知の方法を利用し、細胞に基づくアッセイを使用して多様なMPライブラリーを分析することができる。
【0118】
D. 本発明の用途と方法
本明細書に記載の核酸分子、タンパク質、タンパク質相同体、融合タンパク質、プライマー、ベクター、及び宿主細胞を次の方法の1以上に利用することができる:グルタミン酸菌および関係生物の同定;グルタミン酸菌に関係する生物のゲノムのマッピング;目的のグルタミン酸菌配列の同定及び局在;進化研究;機能のために必要なMPタンパク質領域の決定;MPタンパク質活性のモジュレーション;MP経路の活性のモジュレーション;及びファインケミカルなどの所望の化合物の細胞生産のモジュレーション。本発明のMP核酸分子は、様々な用途を有する。第一に、これらを利用してグルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)またはその近接関係種である生物を同定することができる。また、これらを利用して、微生物の混合集団中のグルタミン酸菌またはその関係種の存在を同定することができる。本発明は、多数のグルタミン酸菌遺伝子の核酸配列を提供し;グルタミン酸菌のこの生物にユニークな領域にまたがるプローブを用いて、単一または混合集団の培養物の抽出されたゲノムDNAを、ストリンジェントな条件下で探索することにより、この生物が存在するかどうかを確認することができる。グルタミン酸菌それ自身はヒトに対して病原性はないが、この菌は、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)などのヒト病原体である種と関係がある。ジフテリア菌は、急速に発症し急性、発熱性の感染症で、局部及び全身病理の双方に関わるジフテリアの原因となる菌である。この疾患においては、局部病変は上気道に発症しかつ上皮細胞の壊死障害に関わる;この桿菌は毒素を分泌し、毒素はこの病変部を通して身体の遠隔の感受性組織まで播種される。タンパク質合成の阻害により、心臓、筋肉、末梢神経、副腎、腎臓、肝臓及び脾臓を含むこれらの組織において退行性変化が起こり、疾患の全身病理をもたらす。ジフテリアは、アフリカ、アジア、東欧及び旧ソビエト連邦の独立国を含む世界の多くの部分で高い発生率をもち続けている。後者2領域においては、進行中のジフテリアの流行により、1990年以後少なくとも5000人の死者が出ている。
【0119】
一実施形態においては、本発明は、被験者におけるジフテリア菌の存在または活性を同定する方法を提供する。この方法は、被験者における本発明の核酸またはアミノ酸配列(例えば、配列表のそれぞれ奇数または偶数配列番号に記載の配列)の1以上を検出し、それにより被験者におけるジフテリア菌の存在または活性を検出することを含む。グルタミン酸菌とジフテリア菌は関係のある細菌であり、グルタミン酸菌の核酸及びタンパク質分子の多くはジフテリア菌核酸及びタンパク質分子と相同的であり、従って、被験者におけるジフテリア菌を検出するために利用することができる。
【0120】
本発明の核酸及びタンパク質分子はまた、ゲノムの特定領域に対するマーカーとしても役立ちうる。これはゲノムのマッピングにだけでなく、グルタミン酸菌タンパク質の機能研究にも利用しうる。例えば、特定のグルタミン酸菌DNA結合タンパク質が結合するゲノム領域を同定するためには、グルタミン酸菌ゲノムを消化し、その断片をDNA結合タンパク質とともにインキュベートしてもよい。タンパク質と結合する断片をさらに本発明の核酸分子、好ましくは容易に検出しうる標識をもつ本発明の核酸分子を用いて探索してもよい;かかる核酸分子のゲノム断片との結合は、グルタミン酸菌のゲノムマップに対する断片の局在を可能にし、かつ異なる酵素を用いて複数回実施すると、タンパク質が結合する核酸配列の迅速な決定が容易になる。さらに、本発明の核酸分子は、関係種の配列と十分に相同的であるので、これらの核酸分子はブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum)などの関係細菌のゲノムマップ構築用マーカーとして役立ちうる。
【0121】
本発明のMP核酸分子はまた、進化及びタンパク質構造研究に有用である。本発明の分子が関与する代謝プロセスは、広範囲の原核及び真核細胞により利用される;本発明の核酸分子の配列を他の生物由来の類似酵素をコードする配列と比較することにより、該生物の進化の関連性を評価することができる。同様に、かかる比較は、配列のどの領域が保存されるか及びどれが保存されないかの評価を可能にして、酵素の機能にとって本質的であるタンパク質の領域を決定するのを助けることができる。この決定形式は、タンパク質工学研究にとって価値あるものであり、タンパク質が機能を失うことなく突然変異誘発を許容し得る指標を与えうる。
【0122】
本発明のMP核酸分子の操作により、野生型MPタンパク質と機能差を有するMPタンパク質を生産することができる。これらのタンパク質は効率または活性が改良されていてよく、細胞中に通常よりも多数存在してもよく、あるいは効率または活性が低下していてもよい。
【0123】
本発明はまた、MPタンパク質の活性をモジュレートする分子をスクリーニングする方法であって、MPタンパク質のタンパク質それ自身または基質もしくは結合パートナーと相互作用させることによるか、または本発明のMP核酸分子の転写もしくは翻訳をモジュレートすることによる前記方法も提供する。かかる方法においては、1以上の本発明のMPタンパク質を発現する微生物を1以上の試験化合物と接触させ、そしてMPタンパク質の活性もしくは発現レベルに対するそれぞれの試験化合物の影響を評価する。
【0124】
グルタミン酸菌の大規模発酵培養から単離しようとする所望のファインケミカルがアミノ酸、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、またはトレハロースであるとき、組換え遺伝的機構による本発明の1以上のタンパク質の活性または活性の効率のモジュレーションは、これらのファインケミカルの1つの生産に直接影響を与えうる。例えば、所望のアミノ酸の生合成経路における酵素の場合、酵素の効率または活性の改良(遺伝子の多重コピーの存在を含む)は、所望のアミノ酸の生産または生産効率を増加するに違いない。その合成が所望のアミノ酸の合成と競合するアミノ酸の生合成経路における酵素の場合、この酵素の効率または活性のなんらかの減少(遺伝子の欠失を含めて)は、中間化合物及び/またはエネルギーの競合が減少することによって所望のアミノ酸の生産または生産効率を増加するに違いない。所望のアミノ酸の分解経路の酵素の場合、酵素の効率または活性のいかなる減少もその分解の減少によって所望のアミノ酸の収率または生産効率をより高めるに違いない。最後に、所望のアミノ酸の生合成に関わる酵素がこの酵素がもはやフィードバック阻害の能力がなくなるように突然変異誘発すると、所望のアミノ酸の収率または生産効率が増加するに違いない。同じことは、ビタミン、補因子、栄養薬、ヌクレオチド、ヌクレオシド、及びトレハロースの代謝に関わる本発明の生合成及び分解酵素に適用されるに違いない。
【0125】
同様に、所望のファインケミカルが上記の化合物の1つでないときであっても、本発明のタンパク質の1つの活性のモジュレーションは、グルタミン酸菌の大規模培養からの化合物の生産の収率及び/または効率にさらに影響を与えうる。いずれの生物であってもその代謝経路は密接に相互関係している;1つの経路により使われる中間物はしばしば異なる経路により補給される。酵素発現と機能は異なる代謝プロセスからの化合物の細胞レベルに基づいて調節されうるのであって、アミノ酸及びヌクレオチドなどの基礎成長に必要な分子の細胞レベルは大規模培養の微生物の生存可能性に決定的な影響を与えうる。従って、例えば、もはやフィードバック阻害に反応しないようにするかまたは効率もしくは代謝回転を改良するようなアミノ酸生合成酵素のモジュレーションは、1以上のアミノ酸の細胞レベルの増加をもたらしうる。順次、このアミノ酸プールの増加は、タンパク質合成に必要な分子だけでなく、多数の他の生合成経路に中間物及び前駆体として利用される分子の補給の増加を提供する。もしある特定のアミノ酸が細胞内で限られているのであれば、その生産の増加は、細胞の多数の他の代謝反応を実施する能力を増加するとともにその細胞が全ての種類のタンパク質をさらに効率よく生産できるようにし、恐らく大規模培養における細胞の全体の増殖率または生存能力を増加しうる。生存可能性の増加は発酵培養における所望のファインケミカルを生産することができる細胞数を改良し、それによりこの化合物の収率を増加する。同様な方法は本発明の分解酵素の活性モジュレーションによっても、例えば、分解酵素が、所望の化合物の生合成に重要であるかまたは大規模培養で細胞をより効率的に増殖し再生するであろう細胞化合物の分解を触媒しないかまたはより低効率でしか触媒しないようにすることによっても可能である。本発明のある特定の分子の分解活性を最適化するかまたは生合成活性を低下させることも、グルタミン酸菌からのある特定のファインケミカルの生産に対して有利な影響を有し得ることは強調されるべきである。例えば、1以上の中間物に対して、所望の化合物の生合成経路と競合するある経路の生合成酵素の活性効率を減少することにより、これらの中間物のより多い量を所望の産物の転化に利用しうるに違いない。同様な状況は、本発明の1以上のタンパク質の分解能力または効率の改良にも言えることであろう。
【0126】
所望の化合物の収率増加を得るMPタンパク質に対する突然変異誘発ストラテジーのこの上記のリストは、限定されるものでなく;これらの突然変異誘発ストラテジーの変法は当業者には容易に明らかであろう。これらの機構により、本発明の核酸及びタンパク質分子を利用して、突然変異MP核酸及びタンパク質分子を発現するグルタミン酸菌または関係細菌株を生成し、所望の化合物の収率、生産、及び/または生産効率を改良することができる。この所望の化合物は、グルタミン酸菌のいずれの天然産物であってもよく、生合成経路の最終産物及び天然の代謝経路の中間物、ならびに天然ではグルタミン酸菌の代謝に存在しないが、本発明のグルタミン酸菌株により生産される分子が挙げられる。グルタミン酸菌株により生産される好ましい化合物はトレハロース及び/またはアミノ酸L-リシン及びL-メチオニンである。
【0127】
一実施形態においては、メチオニン生合成経路の第3酵素であるシスタチオニンβ-リアーゼをコードするmetC遺伝子をグルタミン酸菌から単離した。遺伝子の翻訳産物は他の生物由来のmetC遺伝子の翻訳産物と有意な相同性を示さなかった。そのmetC遺伝子を含有するプラスミドをグルタミン酸菌中へ導入すると、シスタチオニンβ-リアーゼの活性が5倍増加した。今回MetCと名づけた、35,574ダルトンのタンパク質産物をコードし325個のアミノ酸からなるタンパク質産物は、先に報じられたaecDと2つの異なるアミノ酸が存在することを除くと同一であった。aecD遺伝子のように、複数コピーが存在すると、metC遺伝子は毒性のリシン類似体であるS-(β-アミノエチル)-システインに対する耐性を付与した。しかし、遺伝的及び生化学的確証は、metC遺伝子産物の自然活性はグルタミン酸菌のメチオニン生合成を媒介することを示唆する。metCの突然変異体株を構築すると、その株はメチオニン原栄養性を示した。突然変異体株はS-(β-アミノエチル)-システインに対する耐性を示す能力を完全に喪失した。これらの結果は、グルタミン酸菌において、トランス硫化(transsulfuration)に加えて、他の生合成経路である直接スルフヒドリル化(sulfhydrylation)経路がメチオニンの平行な生合成経路として機能することを示す。
【0128】
さらに他の実施形態においては、このさらなるスルフヒドリル化経路はO-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼにより触媒されることも示される。この経路の存在は、対応するmetZ(またはmetY)遺伝子と酵素の単離により実証される。真核生物の中で、真菌及び酵母種は、トランス硫化と直接スルフヒドリル化経路の両方を有することが報じられている(Marzluf, 1997)。今までのところ、両方の経路を持つ原核生物は見出されてない。単一のリシンへの生合成経路しか持たない大腸菌(E.coli)と異なり、グルタミン酸菌はこのアミノ酸に対して2つの平行な生合成経路を持つ。その態様では、グルタミン酸菌のメチオニンへの生合成経路はリシンへの生合成経路と類似している。
【0129】
遺伝子metZを見出したが、それはこの遺伝子がmetAの上流領域に位置していたからである。本発明者らは、メチオニン生合成の第1ステップを触媒する酵素をコードする遺伝子であるmetA(Park, S.-D., Lee, J.-Y., Kim, Y., Kim, J.-H.,及びLee, H.-S. (1998) 「グルタミン酸菌のホモセリンアセチルトランスフェラーゼをコードするメチオニン生合成遺伝子metAの単離と分析(Isolation and analysis of metA, a methionine biosynthetic gene encoding homoserine acetyltransferase in Corynebacterium glutamicum)」. Mol. Cells 8, 286-294)の上流及び下流領域の配列を決定して、可能性のある他のmet遺伝子を見出した。metZとmetAはオペロンを形成するようである。MetAとMetZをコードする遺伝子の発現は対応するポリペプチドの過剰生産を導き、これはゲル電気泳動により示すことができる。
【0130】
驚くべきことに、metZクローンはメチオニン栄養要求性大腸菌(Escherichia coli)metB突然変異体株を補完することができる。これは、metZのタンパク質産物が、metBのタンパク質産物により触媒されるステップをバイパスできるステップを触媒することを示す。
【0131】
MetZも破壊すると、突然変異体株はメチオニン原栄養性を示した。グルタミン酸菌metB及びmetZ二重突然変異体も構築した。二重突然変異体はメチオニン栄養要求性である。従って、metZは、メチオニン生合成のスルフヒドリル化経路の1ステップであるO-アセチル-ホモセリンからホモシステインへの反応を触媒するタンパク質をコードする。グルタミン酸菌は、メチオニン生合成のトランス硫化とスルフヒドリル化経路の両方を含有する。
【0132】
metZをグルタミン酸菌中へ導入すると、47,000ダルトンのタンパク質の発現を得た。metZとmetAをグルタミン酸菌に組み合わせて導入すると、metAとmetZタンパク質の出現がゲル電気泳動で示された。もしコリネバクテリウム(Corynebacterium)株がリシン過剰生産体であれば、metZとmetAを含有するプラスミドの導入はより低いリシン力価をもたらしたがホモシステインとメチオニンの蓄積が検出される。
【0133】
他の実施形態においては、metZとmetAを、アスパラギン酸セミアルデヒドからホモセリンへの転化を触媒するホモセリンデヒドロゲナーゼをコードするhom遺伝子と一緒に、グルタミン酸菌株中に導入した。異なる生物由来の異なるhom遺伝子をこの実験に選んだ。グルタミン酸菌hom遺伝子、ならびに大腸菌(E.coli)もしくは枯草菌(Bacillus subtilis)などの他の原核生物由来のhom遺伝子、または、さらにサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)、アシュビア・ゴシピイ(Ashbya gossypii)または藻類、高等植物または動物などの真核生物のhom遺伝子を利用してもよい。hom遺伝子は、アスパラギン酸などのアスパラギン酸ファミリー、リシン、トレオニンまたはメチオニンのアミノ酸の生合成経路に存在するいずれの代謝物が媒介するフィードバック阻害に対しても、非感受性であるのがよい。かかる代謝物は、例えば、アスパルテート、リシン、メチオニン、トレオニン、アスパルチルリン酸、アスパラギン酸セミアルデヒド、ホモセリン、シスタチオニン、ホモシステインまたはこの生合成経路に存在するいずれかの他の代謝物である。代謝物に加えて、ホモセリンデヒドロゲナーゼは、全てのこれらの代謝物の類似体による阻害に対してまたはさらに、この代謝に関わる他の化合物、例えば、システインなどの他のアミノ酸またはビタミンB12とその全ての誘導体ならびにS-アデノシルメチオニンとその代謝物及び誘導体及び類似体(anologon)などの補因子に対して非感受性であるのがよい。ホモセリンデヒドロゲナーゼのこれらの全て、これらの一部またはこれらの化合物の1つだけに対する非感受性は、自然の性質であるかまたは化学物質または照射または他の突然変異誘発物質を用いる古典的突然変異及び選択から生じた1以上の突然変異からの結果でありうる。hom遺伝子中への突然変異はまた、遺伝子技術、例えば部位特異的点突然変異の導入を用いてまたはMPまたはMPをコードするDNA配列について先に記載したいずれかの方法により、導入してもよい。
【0134】
hom遺伝子をmetZ及びmetA遺伝子と組み合わせて、リシン過剰生産体であるグルタミン酸菌株中に導入すると、リシン蓄積が減少しホモシステイン及びメチオニン蓄積が増進した。もしリシンを過剰生産するグルタミン酸菌株を用いかつddh遺伝子またはlysA遺伝子の破壊を導入して後にhom遺伝子並びにmetZ及びmetAを一緒に含有するDNAを用いて形質転換すると、さらなるホモシステインとメチオニン濃度の増進を達成できる。ホモシステインとメチオニンの過剰生産は様々な硫黄供給源を用いて可能であった。硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びまたさらにH2S及び硫化物と誘導体のような還元硫黄供給源を利用することもできた。またメチルメルカプタン、チオグリコレート、チオシアネート、チオ尿素、システインなどの含硫アミノ酸、及び他の含硫化合物などの有機硫黄供給源を利用してホモシステインとメチオニン過剰生産を達成することもできる。
【0135】
他の実施形態においては、metC遺伝子をグルタミン酸菌株中に先に記載した方法を用いて導入した。metC遺伝子をmetB、metA及びmetAなどの他の遺伝子と一緒に株中に形質転換してもよい。さらにhom遺伝子を加えてもよい。もしhom遺伝子、metC、metA及びmetB遺伝子をベクター上で組み合わせてグルタミン酸菌株中に導入すると、ホモシステインとメチオニンの過剰生産を達成した。ホモシステインとメチオニンの過剰生産は、様々な硫黄供給源を利用することが可能であった。硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びまたさらにH2S及び硫化物と誘導体などの還元硫黄供給源を利用することもできた。またメチルメルカプタン、チオグリコレート、チオシアネート、チオ尿素、システインなどの含硫アミノ酸、及び他の含硫化合物などの有機硫黄供給源を利用してホモシステインとメチオニン過剰生産を達成することもできる。
【0136】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、これらは限定するものであるとして解釈すべきでない。本出願の全体にわたって引用した全ての参考文献、特許出願、特許、公開特許出願、表、及び配列表の内容は本明細書に参照により組み入れられる。
【実施例】
【0137】
実施例1:グルタミン酸菌 ATCC 13032 の全ゲノム DNA の調製
グルタミン酸菌(ATCC 13032)の培養物をBHI培地(Difco)中で激しく振とうしつつ一夜30℃にて増殖した。細胞を遠心分離により収穫し、上清を捨て、細胞を5mlバッファーI(元来の培養容積の5%、示した容積は全て培養容積100mlに対して計算した)に再懸濁した。バッファーIの組成:140.34 g/l スクロース、2.46 g/l MgSO4 x 7H2O、10 ml/l KH2PO4溶液(100 g/l、KOHを用いてpH 6.7に調整)、50 ml/l M12濃縮物、10 g/l (NH4)2SO4、1 g/l NaCl、2 g/l MgSO4 x 7H2O、0.2 g/l CaCl2、0.5 g/l 酵母抽出物(Difco), 10 ml/l 微量元素混合物(200 mg/l FeSO4 x H2O、10 mg/l ZnSO4 x 7 H2O、3 mg/l MnCl2 x 4 H2O、30 mg/l H3BO3、20 mg/l CoCl2 x 6 H2O、1 mg/l NiCl2 x 6 H2O、3 mg/l Na2MoO4 x 2 H2O)、500 mg/l 錯化剤(EDTAまたはクエン酸)、100 ml/l ビタミン混合物(0.2 mg/l ビオチン、0.2 mg/l 葉酸、20 mg/l p-アミノ安息香酸、20 mg/l リボフラビン、40 mg/l パントテン酸Ca、140 mg/l ニコチン酸、40 mg/l ピリドキソール塩酸塩、200 mg/l myo-イノシトール)。リゾチームを懸濁液に加えて最終濃度2.5 mg/mlとした。ほぼ4時間37℃でインキュベーション後、細胞壁を分解し、得られるプロトプラストを遠心分離により収穫する。ペレットを5ml バッファーIを用いて1回及び5ml TEバッファー(10 mM Tris-HCl、1 mM EDTA, pH 8)を用いて1回洗浄した。ペレットを4ml TEバッファーに再懸濁し、0.5 ml SDS溶液(10%)及び0.5 ml NaCl溶液(5 M)を加えた。プロテイナーゼKを最終濃度200μg/mlまで加えた後、懸濁液を37℃にて約18時間インキュベートする。DNAを、標準的方法を用いてフェノール、フェノール-クロロホルム-イソアミルアルコール及びクロロホルム-イソアミルアルコールにより抽出して精製した。次いでDNAを1/50容積の3 M 酢酸ナトリウム及び2容積のエタノールを加えて沈降させ、次いで-20℃にて30分間インキュベーションを行い、そしてSS34ローター(Sorvall)を用いて高速遠心分離機で12,000 rpmにて遠心分離を30分間行った。DNAを20 μg/ml RNアーゼAを含有する1 ml TEバッファーに溶解し、そして4℃にて1000 ml TEバッファーに対して少なくとも3時間透析した。この時間の間、バッファーを3回交換した。透析したDNA溶液の0.4 mlのアリコートに、0.4 mlの2 M LiCl及び0.8 mlのエタノールを加える。-20℃にて30分間インキュベーションの後、DNAを遠心分離(13,000 rpm、Biofuge Fresco, Heraeus, Hanau, Germany)により採集した。DNAペレットをTEバッファー中に溶解した。この方法により調製したDNAは、サザンブロッティングまたはゲノムライブラリーの構築を含むあらゆる目的に利用できた。
【0138】
実施例2:大腸菌における、グルタミン酸菌 ATCC13032 のゲノムライブラリーの構築
実施例1に記載のとおり調製したDNAを用いて、既知の十分確立された方法(例えば、Sambrook, J.ら (1989) 「分子クローニング:研究室マニュアル(Molecular Cloning : A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory Press、またはAusubel, F.M.ら (1994) 「分子生物学の現行プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, John Wiley & Sons、を参照)に従って、コスミド及びプラスミドライブラリーを構築した。
【0139】
いずれのプラスミドまたはコスミドを利用できた。特に利用されるのは、プラスミドpBR322(Sutcliffe, J.G. (1979) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75:3737-3741);pACYC177(Change & Cohen (1978) J. Bacteriol 134:1141-1156)、pBSシリーズのプラスミド(pBSSK+、pBSSK-及びその他;Stratagene, LaJolla, USA)、またはSuperCos1(Stratagene, LaJolla, USA)またはLorist6(Gibson, T.J., Rosenthal A.及びWaterson, R.H. (1987) Gene 53:283-286)などのコスミドであった。特にグルタミン酸菌に利用する遺伝子ライブラリーは、プラスミドpSL109を用いて構築することができる(Lee, H.-S.及びA. J. Sinskey (1994) J. Microbiol. Biotechnol. 4: 256-263)。
【0140】
実施例3: DNA 配列決定とコンピュータ使用の機能解析
実施例2に記載のゲノムライブラリーを利用し、標準的方法、特にABI377配列決定機を用いる連鎖終結法(例えば、Fleischman, R.D.ら (1995) 「インフルエンザRd.菌の全ゲノム無作為配列決定とアセンブリー(Whole-genome Random Sequencing and Assembly of Haemophilus Influenzae Rd.)」, Science, 269:496-512を参照)によりDNA配列決定を行った。次のヌクレオチド配列をもつ配列決定プライマーを使用した:5'-GGAAACAGTATGACCATG-3'または5'-GTAAAACGACGGCCAGT-3'。
【0141】
実施例4: in vivo 突然変異誘発
グルタミン酸菌のin vivo突然変異誘発は、その遺伝情報の完全性を維持する能力が損なわれた大腸菌または他の微生物(例えば、桿菌種(Bacillus spp.)またはサッカロミセス・セレビシアエなどの酵母)を介するプラスミド(または他のベクター)DNAの継代により実施することができる。典型的な突然変異誘発遺伝子株は、DNA修復系の遺伝子(例えば、mutHLS、mutD、mutT、他;参照としてRupp, W.D. (1996) 「DNA修復機構(DNA repair mechanisms)」, in: Escherichia coli and Salmonella, p. 2277-2294, ASM: Washingtonを参照)に突然変異を有する。かかる株は当業者に周知されている。かかる株の利用は、例えば、Greener, A.及びCallahan, M. (1994) Strategies 7: 32-34に説明されている。
【0142】
実施例5:大腸菌とグルタミン酸菌との間の DNA 導入
複数のコリネバクテリウムとブレビバクテリウム(Brevibacterium)種は、自律的に複製する内因性プラスミド(例えば、pHM1519またはpBL1など)を含有する(総説については、例えば、Martin, J.F.ら (1987) Biotechnology, 5:137-146を参照)。大腸菌とグルタミン酸菌についてのシャトルベクターは、大腸菌に対する標準ベクター(Sambrook, J.ら (1989), 「分子クローニング:研究室マニュアル(Molecular Cloning : A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory PressまたはAusubel, F.M.ら(1994) 「分子生物学の現行プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」, John Wiley & Sons)を利用し、それにグルタミン酸菌に対する複製起点及びグルタミン酸菌由来の好適なマーカーを加えることにより容易に構築することができる。かかる複製起点は好ましくは、コリネバクテリウム及びブレビバクテリウム種から単離された内因性プラスミドから取得する。これらの種の形質転換マーカーとして特に利用されるのは、カナマイシン耐性(Tn5またはTn903トランスポゾンから誘導されるものなど)またはクロラムフェニコール(Winnacker, E.L. (1987) 「遺伝子からクローンへ:遺伝子技術入門(From Genes to Clones - Introduction to Gene Technology)」, VCH, Weinheim)に対する遺伝子である。大腸菌とグルタミン酸菌の両方で複製し、遺伝子過剰発現を含めた複数の目的に使用できる多様なシャトルベクター構築の数多くの例が文献にみられる(参考として、例えば、Yoshihama, M.ら (1985) J. Bacteriol. 162:591-597、Martin J.F.ら (1987) Biotechnology, 5:137-146及びEikmanns, B.J.ら (1991) Gene, 102:93-98を参照)。
【0143】
標準の方法を用いて目的の遺伝子を上記シャトルベクターの1つにクローニングし、かかるハイブリッドベクターをグルタミン酸菌の株中に導入することが可能である。グルタミン酸菌の形質転換は、プロトプラスト形質転換(Kastsumata, R.ら (1984) J. Bacteriol. 159306-311)、エレクトロポレーション(Liebl, E.ら (1989) FEMS Microbiol. Letters, 53:399-303)及び特殊なベクターを利用する場合には、コンジュゲーション(例えば、Schafer, Aら (1990) J. Bacteriol. 172:1663-1666に記載)によっても達成することができる。プラスミドDNAをグルタミン酸菌から調製し(当技術分野で周知の標準の方法を用いて)、それを大腸菌中に形質転換することにより、グルタミン酸菌に対するシャトルベクターを大腸菌へ導入することも可能である。この形質転換ステップは標準の方法を用いて実施しうるが、NM522などのMcr欠失大腸菌株を利用するのが有利である(Gough & Murray (1983) J. Mol. Biol. 166:1-19)。
【0144】
遺伝子を、pCG1(米国特許第4,617,267号)もしくはその断片、場合によってはTN903からのカナマイシン耐性遺伝子を含んでなるプラスミドを用いて、グルタミン酸菌株に過剰発現させることができる(Grindley, N.D.及びJoyce, C.M. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77(12):7176-7180)。さらに、遺伝子を、プラスミドpSL109を用いて、グルタミン酸菌株に過剰発現させることができる(Lee, H.-S.及びA. J. Sinskey (1994) J. Microbiol. Biotechnol. 4:256-263)。
【0145】
複製可能なプラスミドの利用とは別に、遺伝子過剰発現はまた、ゲノム中への組み込みにより達成することもできる。グルタミン酸菌または他のコリネバクテリウムまたはブレビバクテリウム種におけるゲノム組み込みは、ゲノム領域との相同的組換え、制限エンドヌクレアーゼを介する組み込み(REMI)(例えば、ドイツ特許第19823834号を参照)、またはトランスポゾンの利用を通じてなどの周知の方法により達成することができる。目的の遺伝子の活性をモジュレートすることも可能であって、位置指向性方法(相同的組換えなど)または無作為事象に基づく方法(トランスポゾン突然変異誘発またはREMIなど)を利用する配列改変、挿入、または欠失によって調節領域(例えば、プロモーター、リプレッサー、及び/またはエンハンサー)を改変することにより前記活性をモジュレートする。転写ターミネーターとして機能する核酸配列をまた、1以上の本発明の遺伝子のコード領域に対して3'に挿入することもできる;かかるターミネーターは当技術分野では周知であり、例えば、Winnacker, E.L. (1987) From Genes to Clones - Introduction to Gene Technology VCH: Weinheimに記載されている。
【0146】
実施例6:突然変異体タンパク質の発現の評価
形質転換した宿主細胞中の突然変異タンパク質の活性の観察は、突然変異体タンパク質が野生型タンパク質と類似の様式でかつ類似の量で発現されるという事実による。突然変異体遺伝子の転写レベル(遺伝子産物への翻訳に利用しうるmRNAの量の指標)を確認する有用な方法は、ノーザンブロット(参考のために、例えば、Ausubelら (1988) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley: New Yorkを参照)を実施することであって、この場合、目的の遺伝子と結合するように設計したプライマーを検出可能なタグ(通常は放射性または化学発光性)で標識し、生物の培養物の全RNAを抽出してゲル上に泳動し安定なマトリックスへ転写しそしてこのプローブとともにインキュベートしたときに、プローブの結合と結合量がこの遺伝子に対するmRNAの存在とまた量を示す。この情報は突然変異体遺伝子の転写度の確証となる。全細胞RNAは、グルタミン酸菌から、Bormann, E.R.ら (1992) Mol. Microbiol. 6: 317-326に記載のような当技術分野で周知の複数の方法により調製することができる。
【0147】
このmRNAから翻訳されたタンパク質の存在または相対量を評価するために、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びウェスタンブロットなどの標準技術を利用することができる(例えば、Ausubelら (1988) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley: New Yorkを参照)。この方法においては、全細胞タンパク質を抽出し、ゲル電気泳動により分離し、ニトロセルロースなどのマトリックスへ転写し、そして所望のタンパク質と特異的に結合する抗体などのプローブとともにインキュベートする。このプローブは一般的に化学発光または比色用標識を用いてタグ付けされていて、容易に検出することができる。観察される標識の存在と量は、細胞中に存在する所望の突然変異体タンパク質の存在と量を示す。
【0148】
実施例7:大腸菌及び遺伝的に改変したグルタミン酸菌の増殖 - 培地と培養条件
大腸菌株は慣例的にMB及びLBブロス中でそれぞれ増殖される(Follettie, M.T., Peoples, O., Agoropoulou, C.,及びSinskey, A J. (1993) 「コリネバクテリウム・フラブムN13 ask-asdオペロンの遺伝子構造と発現(Gene structure and expression of the Corynebacterium flavum N13 ask-asd operon)」. J. Bacteriol. 175, 4096-4103)。大腸菌に対する最小培地は、それぞれM9及び改変MCGCである(Yoshihama, M., Higashiro, K., Rao, E.A., Akedo, M., Shanabruch, W G., Follettie, M.T., Walker, G.C.,及びSinskey, A.J. (1985) 「グルタミン酸菌用のクローニングベクター系(Cloning vector system for Corynebacterium glutamicum)」. J. Bacteriol. 162, 591-507)。グルコースを加えて最終濃度1%にした。抗生物質を次の量(1ミリリットル当たりマイクログラム):アンピシリン、50;カナマイシン、25;ナリジクス酸、25加えた。アミノ酸、ビタミン、及び他の補充剤を次の量:メチオニン、9.3 mM;アルギニン、9.3 mM;ヒスチジン、9.3 mM;チアミン、0.05 mM加えた。大腸菌を慣例的に37℃にてそれぞれ増殖した。
【0149】
遺伝的に改変したコリネバクテリウムを合成または天然増殖培地中で培養した。両方とも多数の異なるコリネバクテリウム用の増殖培地が周知であり、容易に利用しうる(Liebら (1989) Appl. Microbiol. Biotechnol., 32:205-210;von der Ostenら (1998) Biotechnology Letters, 11:11-16;ドイツ特許第4,120,867号;Liebl (1992) 「コリネバクテリウム属(The Genus Corynebacterium)」, in: The Procaryotes, Volume II, Balows, A.ら, 編 Springer-Verlag)。これらの培地は1以上の炭素供給源、窒素供給源、無機塩、ビタミン及び微量元素から成る。好ましい炭素供給源は単糖、二糖、または多糖などの糖類である。例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デンプンまたはセルロースは非常に良い炭素供給源として役立つ。糖を培地に糖蜜または他の糖精製からの副産物などの複雑な化合物を介して補給することも可能である。異なる炭素供給源の混合物を補給することも有利でありうる。他の可能な炭素供給源はメタノール、エタノール、酢酸または乳酸などのアルコール及び有機酸である。窒素供給源は通常有機または無機窒素化合物、またはこれらの化合物を含有する物質である。窒素供給源の例としては、アンモニアガス、NH4Clもしくは(NH4)2SO4などのアンモニア塩、NH4OH、硝酸塩、尿素、アミノ酸、またはコーンスチープリカー、ダイズ粉、ダイズタンパク質、酵母抽出物、肉エキス及びその他などの複雑な窒素供給源が挙げられる。
【0150】
ホモシステインとメチオニンなどの含硫アミノ酸の過剰生産は、様々な硫黄供給源を利用することが可能であった。硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩およびまたさらにH2S及び硫化物などの還元硫黄供給源ならびに誘導体を利用することができる。またメチルメルカプタン、チオグリコレート、チオシアネート、チオ尿素、システインなどの含硫アミノ酸、及び他の含硫化合物などの有機硫黄供給源を利用してホモシステインとメチオニン過剰生産を達成することもできる。
【0151】
培地に含まれうる無機塩化合物としては、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅及び鉄の塩化物、亜リン酸塩または硫酸塩が挙げられる。キレート化合物を培地に加えて溶液中に金属イオンを保持することができる。特に有用なキレート化合物としては、カテコールもしくはプロトカキン酸塩などのジヒドロキシフェノール、またはクエン酸などの有機酸が挙げられる。典型的な培地は、ビタミンまたは増殖促進剤などの他の増殖因子も含有し、例えば、ビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテネート及びピリドキシンが挙げられる。増殖因子及び塩は、しばしば酵母抽出物、糖蜜、コーンスチープリカー、その他などの複雑な培地成分に由来する。培地化合物の正確な組成は、直接、実験に強く依存するものであり、それぞれの特定の事例に対して個々に決定される。培地最適化についての情報は、教科書「応用微生物生理学、実用的手法(Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach)」(編 P.M. Rhodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) pp.53-73, ISBN 0 19 963577 3)において入手可能である。標準1(Merck)またはBHI(grain heart infusion)(DIFCO)などの市販の増殖培地を選択することも可能である。
【0152】
全ての培地成分を、熱(1.5 bar、121℃にて20分間)によるかまたはた滅菌濾過により滅菌する。成分は、一緒に滅菌するかまたは、必要であれば、別々に滅菌することができる。全ての培地成分が増殖開始時に存在してもよいしまたは任意に連続的または回分式に加えてもよい。
【0153】
培養条件はそれぞれの実験に対して別々に規定する。温度は15℃〜45℃の間の範囲にすべきである。温度は一定に保持してもまたは実験中に変更してもよい。培地のpHは、5〜8.5の範囲、好ましくはほぼ7.0とすべきであり、バッファーを培地に加えて維持することができる。この目的のためのバッファーの例は、燐酸カリウムバッファーである。MOPS、HEPES、ACESその他などの合成バッファーを、代わりにまたは同時に使用してもよい。増殖中にNaOHまたはNH4OHを加えて、一定の培養pHを維持することも可能である。酵母抽出物などの複雑な培地成分を利用するのであれば、多数の複雑な化合物は高いバッファー能力を有するので、追加のバッファーの必要性は低下しうる。もし微生物を培養するのに発酵槽を利用すれば、pHは気体アンモニアを用いて制御することもできる。
【0154】
インキュベーション時間は通常数時間〜数日の範囲である。この時間は、ブロス中に蓄積される産物量が最大となるように選択する。開示した増殖実験は、マイクロタイタープレート、ガラス管、ガラスフラスコ、または異なるサイズのガラスもしくは金属発酵槽などの様々な容器で実施することができる。多数のクローンをスクリーニングするには、微生物を、マイクロタイタープレート、ガラス管、またはバッフルの有るまたは無い振とうフラスコ中で培養すべきである。好ましくは100mlの振とうフラスコを使用し、所要の増殖培地を10%(容積で)で満たす。フラスコは、回転振とう器(振幅25mm)上で、100〜300 rpmの速度範囲を用いて振とうすべきである。蒸発損失は、湿めり大気を維持することにより減少させうる;あるいは、蒸発損失の数学的補正を実施すべきである。
【0155】
もし遺伝的に改変されたクローンを試験するのであれば、非改変対照クローンまたはいずれのインサートも含まない基礎プラスミドを含有する対照クローンも試験すべきである。30℃にてインキュベートしておいた、CMプレート(10 g/l グルコース、2.5 g/l NaCl、2 g/l 尿素、10 g/l ポリペプトン、5 g/l 酵母抽出物、5 g/l 肉エキス、22 g/l NaCl、2 g/l 尿素、10 g/l ポリペプトン、5 g/l 酵母抽出物、5 g/l 肉エキス、22 g/l 寒天、2M NaOHによりpH 6.8)などの寒天プレート上で増殖した細胞を用いて、培地にO.5〜1.5のOD600まで接種する。培地の接種は、CMプレートからのグルタミン酸菌細胞の生理食塩水懸濁液の導入かまたはこの細菌の液状前培養の添加により実施する。
【0156】
実施例8:突然変異体タンパク質の機能の in vitro 分析
酵素の活性及び反応速度論的パラメーターの決定は、当技術分野において十分確立されている。いずれの所与の改変された酵素の活性を決定する実験であっても、野生型酵素の特異的活性に対して仕立てなければならないが、それは十分、当業者の能力内のことである。酵素についての一般的な総説、ならびに、構造、反応速度論、原理、方法、適用に関する特定の詳細及び多くの酵素活性の決定例は、例えば、次の参考文献に見出すことができる:Dixon, M.及びWebb, E.C., (1979) Enzymes. Longmans: London;Fersht, (1985) Enzyme Structure and Mechanism. Freeman: New York;Walsh, (1979) Enzymatic Reaction Mechanisms. Freeman: San Francisco;Price, N.C., Stevens, L. (1982) Fundamentals of Enzymology. Oxford Univ. Press: Oxford;Boyer, P.D.編 (1983) The Enzymes, 第3版 Academic Press: New York;Bisswanger, H., (1994) Enzymkinetik, 第2版 VCH: Weinheim (ISBN 3527300325);Bergmeyer, H.U., Bergmeyer, J., Grassl, M.編 (1983-1986) Methods of Enzymatic Analysis, 第3版, vol. I-XII, Verlag Chemie: Weinheim;及びUllmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry (1987) vol. A9, 「酵素(Enzymes)」. VCH: Weinheim, p. 352-363。
【0157】
DNAと結合するタンパク質の活性は、DNAバンドシフトアッセイ(ゲル遅延アッセイ(gel retardation assays)とも呼ぶ)などの複数の十分確立された方法により測定することができる。かかるタンパク質の他の分子の発現に与える効果は、レポーター遺伝子アッセイ(Kolmar, H.ら (1995) EMBO J. 14: 3895-3904及びその引用文献に記載のものなど)を用いて測定することができる。レポーター遺伝子試験系は周知であり、原核及び真核細胞の両方における適用に対してβ-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質、及び複数の他の酵素などの酵素を用いて確立されている。
【0158】
膜輸送タンパク質の活性の決定は、Gennis, R.B. (1989) 「細孔、チャネル及び輸送体(Pores, Channels and Transporters)」, in Biomembranes, Molecular Structure and Function, Springer: Heidelberg, p.85-137; 199-234;及び270-322、に記載のものなどの技術により実施することができる。
【0159】
実施例9:所望の産物の生産に対する突然変異体タンパク質の影響の分析
所望の化合物(アミノ酸など)の生産に対するグルタミン酸菌の遺伝子改変の効果は、改変した微生物を好適な条件(例えば、先に記載した条件)下で増殖し、所望の産物(すなわちアミノ酸)の生産の増加について培地及び/または細胞成分を分析することにより、評価することができる。かかる分析技術は当業者には周知であり、分光分析、薄層クロマトグラフィ、様々な種類の染色法、酵素的及び微生物学的方法、及び高性能液体クロマトグラフィなどの分析クロマトグラフィが挙げられる(例えば、Ullman, Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. A2, p.89-90及びp.443-613, VCH: Weinheim (1985);Fallon, A.ら, (1987) 「生化学におけるHPLCの応用(Applications of HPLC in Biochemistry)」 in: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, vol. 17;Rehmら (1993) Biotechnology, vol. 3, Chapter III: 「産物回収と精製(Product recovery and purification)」, p. 469-714, VCH: Weinheim;Belter, P.A.ら (1988) Bioseparations: downstream processing for biotechnology, John Wiley and Sons;Kennedy, J.F.及びCabral, J.M.S. (1992) Recovery processes for biological materials, John Wiley and Sons;Shaeiwitz, J.A.及びHenry, J.D. (1988) 「生化学的分離(Biochemical separations)」 in: Ulmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, vol. B3, Chapter 11, p. 1-27, VCH: Weinheim;ならびにDechow, F.J. (1989) Separation and purification techniques in biotechnology, Noyes Publications、を参照)。
【0160】
発酵の最終産物の測定に加えて、中間物及び副産物などの所望の化合物の生産に利用される代謝経路の他成分を分析して、化合物の生産の全効率を決定することも可能である。分析方法としては、培地の栄養レベル(例えば、糖類、炭水化物、窒素供給源、リン酸塩、及び他のイオン)の測定、バイオマス組成及び増殖の測定、生合成経路の共通代謝物の生産の分析、ならびに発酵中に生産されるガスの測定が挙げられる。これらの測定の標準的な方法は、Applied Microbial Physiology, A Practical Approach, P.M. Rhodes及びP.F. Stanbury, 編, IRL Press, p.103-129; 131-163;及び165-192 (ISBN: 0199635773) ならびにそれに引用された参考文献に概説されている。
【0161】
実施例10:グルタミン酸菌培養物からの所望の産物の精製
グルタミン酸菌細胞または上記の培養物の上清からの所望の産物の回収は、当技術分野で周知の様々な方法により実施することができる。所望の産物が細胞から分泌されないのであれば、細胞を低速遠心分離により培養物から収穫し、細胞を、機械力または音波処理などの標準技術により溶解してもよい。細胞デブリを遠心分離により除去しかつ可溶性タンパク質を含有する上清画分を保持して、所望の化合物をさらに精製する。もし産物がグルタミン酸菌細胞から分泌されるのであれば、細胞を低速遠心分離により培養物から除去しかつ上清画分を保持して、さらに精製する。
【0162】
いずれの精製方法からの上清画分も好適な樹脂を用いたクロマトグラフィに供し、その際、所望の分子はクロマトグラフィ樹脂上に保持されるのに対してサンプル中の多くの不純物が保持されないか、または不純物は樹脂により保持されるのに対してサンプルが保持されない。かかるクロマトグラフィステップを、同じまたは異なるクロマトグラフィ樹脂を用いて必要であれば繰り返すことができる。当業者であれば、精製する特定の分子に対して適当なクロマトグラフィ樹脂の選択及びそれらの最も有効な適用に十分精通しているであろう。精製産物は濾過または限外濾過により濃縮することができ、産物の安定性が最高となる温度で貯蔵できる。
【0163】
当技術分野で公知である様々な多数の精製法があり、前述の精製法に限定されるものでない。かかる精製技術は、例えば、Bailey, J.E. & Ollis, D.F. Biochemical Engineering Fundamentals, McGraw-Hill: New York (1986)に記載されている。
【0164】
単離された化合物の同一性と純度は、当技術分野の標準技術により評価することができる。これらの技術としては、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)、分光分析法、染色法、薄層クロマトグラフィ、NIRS、酵素アッセイ、または微生物学的方法が挙げられる。かかる分析法は、Patekら (1994) Appl. Environ. Microbiol. 60:133-140;Malakhovaら (1996) Biotekhnologiya 11:27-32;およびSchmidtら (1998) Bioprocess Engineer. 19:67-70;Ulmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, (1996) vol. A27, VCH: Weinheim, p.89-90, p.521-540, p.540-547, p.559-566, p.575-581及びp.581-587;Michal, G. (1999) Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John Wiley and Sons;Fallon, A.ら (1987) 「生化学におけるHPLCの応用(Applications of HPLC in Biochemistry)」 in: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, vol. 17、に総括されている。
【0165】
実施例11:本発明の遺伝子配列の分析
2つの配列間の配列比較と相同性パーセント決定は当技術分野では公知の技術であって、Karlin及びAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68のアルゴリズムであって、Karlin及びAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77で改変されたものなどの数学アルゴリズムを利用して実施することができる。かかるアルゴリズムを、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込む。BLASTヌクレオチド検索をNBLASTプログラム、スコア=100、ワード長(wordlength)=12を用いて実施し、本発明のMP核酸分子と相同的なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索をXBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施し、本発明のMPタンパク質分子と相同的なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的でギャップ付き(gapped)アラインメントを得るために、Altschulら, (1997) Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402に記載のギャップ付きBLASTを利用してもよい。BLAST及びギャップ付きBLASTプログラムを利用するときに、当業者であれば、分析される特定の配列に対して、プログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のパラメーターを最適化する方法を知っているであろう。
【0166】
配列の比較に利用される数学アルゴリズムの他の例は、Meyers及びMiller ((1988) Comput. Appl. Biosci. 4:11-17)のアルゴリズムである。かかるアルゴリズムを、GCG配列アラインメントソフトウエアパッケージの一部分であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込む。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用するとき、PAM120重み剰余表(weight residue table)、12のギャップ長ペナルティ、及び4のギャップペナルティを利用することができる。配列分析のためのさらなるアルゴリズムが当技術分野では公知であり、Torelli及びRobotti (1994) Comput. Appl. Biosci. 10:3-5に記載のADVANCE及びADAM.;ならびにPearson及びLipman (1988) P.N.A.S. 85:2444-8に記載のFASTAが挙げられる。
【0167】
2つのアミノ酸配列間の相同性パーセントはまた、GCGソフトウエアパッケージ(http://www.gcg.comで入手しうる)のGAPプログラムを利用し、Blosum 62マトリックスまたはPAM250マトリックス、ならびに12、10、8、6、または4のギャップ重み(gap weight)、及び2、3、または4の長さ重み(length weight)を用いて実施することもできる。2つの核酸配列の間の相同性パーセントは、GCGソフトウエアパッケージのGAPプログラムを利用し、50のギャップ重み及び3の長さ重みなどの標準パラメーターを用いて実施することができる。
【0168】
本発明の遺伝子配列とGenbankに存在する遺伝子配列との比較分析を、当技術分野で公知の技術(例えば、Bexevanis及びOuellette編 (1998) Bioinformatics: A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins. John Wiley and Sons: New Yorkを参照)を利用して実施した。
【0169】
本発明の遺伝子配列をアミノ酸配列に基づいて既知の遺伝子と比較した;この際、利用したプログラムはCLUSTAL(Higginsら (1996) 「多重配列アラインメントに対するCLUSTALの利用(Using CLUSTAL for multiple sequence alignments)」, Methods in Enzymology 266, 383-402)であり、標準パラメーター(ペアワイズ・アラインメントパラメーター(PAIRWISE ALIGNMENT PARAMETERS):ギャップペナルティー=3、K-タップル(K-tuple)(ワード)サイズ=1、トップ・ダイアゴナル(top diagonal)数=5、ウインドウサイズ=5;マルチプル・アラインメントパラメーター(MULTIPLE ALIGNMENT PARAMETERS):ギャップオープニングペナルティ(Gap Opening Penalty)=10.00、ギャップエクステンションペナルティ(Gap Extension Penalty)=0.05、タンパク質重みマトリックス=PAM250)を使用した。2配列の間の相同性は、全配列における同一位置の数の関数である(すなわち、相同性%=同一位置の数/全位置の数 x 100)。
【0170】
この分析の結果を表3に記載する。
【0171】
実施例12: DNA マイクロアレイの構築と操作
本発明の配列はさらに、DNAマイクロアレイの構築と適用に利用しうる(DNAアレイの設計、方法論、及び用途は、当技術分野では周知であり、例えば、Schena, M.ら (1995) Science 270:467-470;Wodicka, L.ら (1997) Nature Biotechnology 15:1359-1367;DeSaizieu, A.ら (1998) Nature Biotechnology 16:45-48;及びDeRisi, J.L.ら (1997) Science 278: 680-686に記載されている)。
【0172】
DNAマイクロアレイは、ニトロセルロース、ナイロン、ガラス、シリコーン、または他の材料からなる固体のまたはフレキシブルな支持体である。核酸分子を順序に従ってその表面に付着させることができる。適当な標識を付した後、他の核酸または核酸混合物を、固定した核酸分子とハイブリダイズさせ、標識を利用して規定された領域にハイブリダイズした分子の個々のシグナル強度をモニターしかつ測定することができる。この方法論により、適用した核酸サンプルまたは混合物中の全てもしくは選択した核酸の相対的もしくは絶対的量の同時定量が可能になる。従って、DNAマイクロアレイにより、平行して多数の(6800個以上の)核酸の発現の分析が可能となる(例えば、Schena, M. (1996) BioEssays 18(5): 427-431を参照)。
【0173】
本発明の配列を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応などの核酸増幅反応により、1以上のグルタミン酸菌遺伝子の規定した領域を増幅できるオリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。5’または3’オリゴヌクレオチドプライマーのまたは適当なリンカーの選択と設計により、得られるPCR産物と前記の(及びまた、例えば、Schena, M.ら (1995) Science 270:467-470に記載の)支持媒質の表面との共有結合が可能になる。
【0174】
核酸マイクロアレイはまた、Wodicka, L.ら (1997) Nature Biotechnology 15:1359-1367に記載のin situオリゴヌクレオチド合成により構築することもできる。フォトリソグラフィー方法により、マトリックスの正確に規定した領域を光に露出させる。光分解性(photolabile)である保護基はそれにより活性化されてヌクレオチド付加を受けるが、光からマスクされた領域はいずれの改変も受けない。続いて保護と光活性化のサイクルにより、規定した位置に異なるオリゴヌクレオチドの合成が可能になる。固相オリゴヌクレオチド合成により、本発明の遺伝子の小さい規定した領域をマイクロアレイ上に合成することができる。
【0175】
サンプルまたはヌクレオチドの混合物中に存在する本発明の核酸分子をマイクロアレイとハイブリダイズさせてもよい。これらの核酸分子を標準方法により標識することができる。簡単に説明すると、核酸分子(例えばmRNA分子またはDNA分子)を、例えば、逆転写またはDNA合成中に、同位元素的にまたは蛍光標識したヌクレオチドを組み込むことにより標識する。標識した核酸とマイクロアレイとのハイブリダイゼーションは記載されている(例えば、Schena, M.ら (1995)、前掲;Wodicka, L.ら (1997)、前掲;及びDeSaizieu A.ら (1998)、前掲)。ハイブリダイズした分子の検出と定量は、特定の組み込まれた標識によって合わせる。放射性標識は、例えば、Schena, M.ら((1995) 前掲)、に記載のように検出することができるし、蛍光標識は、例えば、Shalonら((1996) Genome Research 6:639-645)の方法により検出することができる。
【0176】
本発明の配列をDNAマイクロアレイ技術に適用すると、上記のとおり、グルタミン酸菌または他のコリネバクテリア(Corynebacteria)の異なる株の比較分析が可能になる。例えば、個々の転写物プロフィールに基づく鎖間変動の研究、ならびに病原性、生産性及びストレス耐性などの特定の及び/または所望の株特性にとって重要である遺伝子の同定が、核酸アレイ方法論により容易になる。また、発酵反応の過程における本発明の遺伝子の発現プロフィールの比較が、核酸アレイ技術を利用して可能である。
【0177】
実施例13:細胞タンパク質集団の動力学の分析(プロテオミクス( Proteomics ))
本発明の遺伝子、組成物、及び方法を適用して、「プロテオミクス」と名付けられた、タンパク質集団の相互作用及び動力学を研究することができる。目的のタンパク質集団としては、限定されるものでないが、グルタミン酸菌の全タンパク質集団(例えば、他の生物のタンパク質集団と比較して)、特定の環境または代謝条件下で(例えば、発酵中、高温もしくは低温で、または高pHもしくは低pHで)活性のあるタンパク質、または増殖及び発生の特定相の間に活性があるタンパク質が挙げられる。
【0178】
タンパク質集団は、ゲル電気泳動などの様々な周知の技術により分析することができる。細胞タンパク質は、例えば、溶解または抽出により得ることができるし、かつ様々な電気泳動技術を用いてお互いに分離することができる。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は、タンパク質を主にそれらの分子量に基づいて分離する。等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動(IEF-PAGE)はタンパク質をそれらの等電点(アミノ酸配列だけでなく、タンパク質の翻訳後修飾も反映する)により分離する。タンパク質分析のさらに好ましい他の方法は2-Dゲル電気泳動として知られる、IEF-PAGEとSDS-PAGEの両方の連続的組み合わせである(例えば、Hermannら (1998) Electrophoresis 19:3217-3221;Fountoulakisら (1998) Electrophoresis 19:1193-1202;Langenら (1997) Electrophoresis 18:1184-1192;Antelmannら (1997) Electrophoresis 18:1451-1463に記載)。またキャピラリーゲル電気泳動などの他の分離技術をタンパク質分離に利用してもよく、かかる技術は当技術分野で周知である。
【0179】
これらの方法論により分離したタンパク質を、染色または標識などの標準技術により可視化することができる。好適な染色は当技術分野で公知であり、クーマシーブリリアントブルー、銀染色、またはシプロルビー(Sypro Ruby)(Molecular Probes)などの蛍光色素が挙げられる。放射性標識したアミノ酸または他のタンパク質前駆体(例えば、35S-メチオニン、35S-システイン、14C-標識アミノ酸、15N-アミノ酸、15NO3 または15NH4 +または13C-標識アミノ酸)をグルタミン酸菌の培地中に含ませると、これらの細胞由来のタンパク質の標識が、それらの分離前に可能となる。同様に、蛍光標識を使用することができる。これらの標識したタンパク質は、先に記載した技術に従って、抽出し、単離し、そして分離することができる。
【0180】
これらの技術によって可視化したタンパク質は、使用した色素または標識の量を測定することによりさらに分析することができる。所与のタンパク質の量を、例えば、光学的方法を用いて定量的に測定することができるし、かつ同じゲル中のまたは他のゲル中の他のタンパク質の量と比較することができる。ゲル上のタンパク質の比較は、例えば、光学的比較により、分光法により、画像走査により及びゲルの分析により、または写真フィルム及びスクリーンを使用して行なうことができる。かかる技術は当技術分野で周知である。
【0181】
いずれの所与のタンパク質の同一性を決定するために、直接配列決定または他の標準技術を使用することができる。例えば、N及び/またはC末端アミノ酸配列決定(エドマン分解など)を用いてもよく、質量分析(特に、MALDIまたはESI技術(例えば、Langenら (1997) Electrophoresis 18: 1184-1192)を参照))を用いてもよい。本明細書で提供したタンパク質配列は、これらの技術によるグルタミン酸菌タンパク質の同定に利用することができる。
【0182】
これらの方法により得た情報を用いて、様々な生物学的条件(とりわけ、例えば、異なる生物、発酵の時点、培地条件、または異なる生息場所)由来の異なるサンプル間のタンパク質存在、活性、または改変のパターンを比較することができる。かかる実験のみから、または他の技術と組み合わせて得られるデータを、所与(例えば、代謝)の状況において、ファインケミカルを生産する株の生産性を増加するかまたはファインケミカルの生産効率を増加する様々な生物の挙動を比較するなどの様々な適用に利用することができる。
【0183】
均等物
当業者であれば、本明細書に記載した本発明の特定の実施形態の多くの均等物を理解しうるし、または慣例的な程度の実験を用いて確かめることができるであろう。かかる均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるものであると意図する。
Claims (37)
- 表1に記載した配列表の奇数配列番号に記載の配列またはその一部分からなる群から選択される、単離されたグルタミン酸菌(Corynebacterium gutamicum)核酸分子。
- 表1に記載した配列表の偶数配列番号に記載の配列からなる群から選択されるポリペプチド配列をコードする、単離された核酸分子。
- 表1に記載した配列表の偶数配列番号に記載の配列からなるアミノ酸配列の群から選択されるポリペプチドの天然対立遺伝子変異体をコードする、単離された核酸分子。
- 配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列もしくはその一部分をコードする配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列に対してそのアミノ酸配列に基づいて少なくとも63%相同的であるヌクレオチド配列、または配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列もしくはその一部分をコードする配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列に対してそのアミノ酸配列に基づいて少なくとも71%相同的である配列を含んでなる、単離された核酸分子。
- 表1に記載した配列表の奇数配列番号に記載の配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含んでなる核酸の少なくとも15個のヌクレオチドの断片を含有する、単離された核酸分子。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、単離された核酸分子。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸分子またはその部分と異種ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列とを含んでなる、単離された核酸分子。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の核酸分子と調節配列とを含んでなるDNA構築物。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の核酸分子を含んでなるベクター。
- さらに核酸分子がメチオニンに関する場合表4の、または核酸分子がトレハロースに関する場合表5の、同じかまたは異なる核酸分子の1以上のコピーを含んでなる、請求項9に記載のベクター。
- 発現ベクターである、請求項9または10のいずれか1項に記載のベクター。
- 請求項11に記載の発現ベクターを用いてトランスフェクトした宿主細胞。
- 宿主細胞が微生物である、請求項12に記載の宿主細胞。
- 宿主細胞がコリネバクテリウム(Corynebacterium)またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する、請求項13に記載の宿主細胞。
- 核酸分子の発現により、細胞からのファインケミカルの生産のモジュレーションが達成される、請求項12に記載の宿主細胞。
- ファインケミカルが、有機酸、非タンパク質原性アミノ酸、プリン及びピリミジン塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、脂質、飽和及び不飽和脂肪酸、ジオール、炭水化物、芳香族化合物、ビタミン、補因子、ポリケチド、ならびに酵素からなる群から選択される、請求項15に記載の宿主細胞。
- 請求項12に記載の宿主細胞を適当な培地で培養して、それにより、ポリペプチドを生産することを含んでなる、ポリペプチドを生産する方法。
- 表1に記載した配列表の偶数配列番号に記載の配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなる、単離されたポリペプチド。
- 表1に記載した配列表の偶数配列番号に記載の配列またはその一部分からなる群から選択されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドの天然対立遺伝子変異体を含んでなる、単離されたポリペプチド。
- さらに異種アミノ酸配列を含んでなる請求項18または19のいずれか1項に記載の単離されたポリペプチド。
- 表1に記載した配列表の奇数配列番号に記載の配列からなる群から選択される核酸に対して少なくとも63%相同的であるヌクレオチド配列を含んでなる核酸分子によりコードされる、単離されたポリペプチド。
- 表1に記載した配列表の偶数配列番号に記載の配列からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも63%相同的であるアミノ酸配列を含んでなる、単離されたポリペプチド。
- 請求項11に記載のベクターを含有する細胞を培養してファインケミカルを生産することを含んでなる、ファインケミカルを生産する方法。
- さらに前記細胞からファインケミカルを回収するステップを含んでなる、請求項23に記載の方法。
- さらに前記細胞を請求項11に記載のベクターを用いてトランスフェクトして前記ベクターを含有する細胞を得るステップを含んでなる、請求項23に記載の方法。
- 細胞がコリネバクテリウム(Corynebacterium)またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する、請求項23に記載の方法。
- 前記細胞が、グルタミン酸菌(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・ヘルキュリス(Corynebacterium herculis)、コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)、コリネバクテリウム・アセトアシドフィルム(Corynebacterium acetoacidophilum)、コリネバクテリウム・アセトグルタミクム(Corynebacterium acetoglutamicum)、コリネバクテリウム・アセトフィルム(Corynebacterium acetophilum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・フジオケンス(Corynebacterium fujiokense)、コリネバクテリウム・ニトリロフィルス(Corynebacterium nitrilophilus)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲンス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ブタニクム(Brevibacterium butanicum)、ブレビバクテリウム・ジバリカツム(Brevibacterium divaricatum)、ブレビバクテリウム・フラブム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ヘアリイ(Brevibacterium healii)、ブレビバクテリウム・ケトグルタミクム(Brevibacterium ketoglutamicum)、ブレビバクテリウム・ケトソレヅクツム(Brevibacterium ketosoreductum)、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンツム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)、ブレビバクテリウム・パラフィノリチクム(Brevibacterium paraffinolyticum)、及び表2に記載の株から選択される、請求項23に記載の方法。
- ベクターからの核酸分子の発現により、ファインケミカルの生産のモジュレーションが達成される、請求項23に記載の方法。
- ファインケミカルが有機酸、非タンパク質原性のアミノ酸、プリン及びピリミジン塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、脂質、飽和及び不飽和脂肪酸、ジオール、炭水化物、芳香族化合物、ビタミン、補因子、ポリケチド、ならびに酵素からなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
- ファインケミカルがアミノ酸または炭水化物である、請求項23に記載の方法。
- アミノ酸または炭水化物がメチオニンまたはトレハロースからなる群から選択される請求項30に記載の方法。
- ゲノムDNAが請求項1〜7のいずれか1項に記載の核酸分子を封入することにより改変されている細胞を培養することを含んでなる、ファインケミカルを生産する方法。
- 核酸分子がメチオニンに関係する場合表4の、または核酸分子がトレハロースに関係する場合表5の、同じかまたは異なる核酸分子の1以上のコピーをさらに含んでなる、請求項32に記載のファインケミカルを生産する方法。
- 被験者におけるジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の存在または活性を診断する方法であって、被験者における配列表の配列番号1〜4の1以上の存在を検出し、それにより被験者におけるジフテリア菌の存在または活性を診断することを含んでなる前記方法。
- 配列表の奇数配列番号に記載の核酸分子からなる群から選択される核酸分子を含んでなる宿主細胞であって、前記核酸分子が破壊されていることを特徴とする前記宿主細胞。
- 配列表の奇数配列番号に記載の核酸分子からなる群から選択される核酸分子を含んでなる宿主細胞であって、前記核酸分子の1以上の核酸が配列表の奇数配列番号に記載の配列から改変されていることを特徴とする前記宿主細胞。
- 配列表の奇数配列番号に記載の核酸分子からなる群から選択される核酸分子を含んでなる宿主細胞であって、前記核酸分子の調節領域がその分子の野生型調節領域と比較して改変されていることを特徴とする前記宿主細胞。
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